説明

空気入りタイヤの製造方法

【課題】インナーライナーとブラダーとの粘着を防止して、インナーライナーとカーカスとの間にエアーイン現象を生じさせない空気入りタイヤの製造方法を提供する。
【解決手段】スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体からなる厚さが0.05mm〜0.6mmの第1層と、エポキシ化スチレン−ブタジエン−スチレントリブロック共重合体からなる厚さが0.01mm〜0.3mmの第2層とからなるポリマー積層体を準備する工程と、前記ポリマー積層体をタイヤ内側にインナーライナーとして貼設した生タイヤを成形する工程と、前記生タイヤを金型に配置し、ブラダーで加圧しつつタイヤを加硫する工程と、加硫されたタイヤを50〜120℃で10〜300秒間冷却する工程とを含む空気入りタイヤの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は空気入りタイヤの製造方法に関し、特にポリマー積層体をインナーライナーに用いた空気入りタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車の低燃費化に対する強い社会的要請からタイヤの軽量化が図られている。タイヤ部材のなかでも、空気入りタイヤ内部から外部への空気の漏れの量を低減するためにタイヤ半径方向の内側に配置されるインナーライナーにおいても軽量化が要請されている。
【0003】
現在、インナーライナー用ゴム組成物として、ブチルゴム70〜100質量%および天然ゴム30〜0質量%を含むブチル系ゴムを使用することで、タイヤの耐空気透過性を向上させることが行われている。また、ブチル系ゴムはブチレン以外に約1質量%のイソプレンを含み、これが硫黄・加硫促進剤・亜鉛華と相まって、隣接ゴムとの共架橋を可能にしている。上記ブチル系ゴムは、通常の配合では乗用車用タイヤでは0.6〜1.0mm、トラック・バス用タイヤでは1.0〜2.0mm程度の厚みが必要となる。
【0004】
そこで、タイヤの軽量化を図るために、ブチル系ゴムより耐空気透過性に優れ、インナーライナー層の厚みを薄くすることができる熱可塑性エラストマーを、インナーライナーに用いることが提案されている。しかし、ブチル系ゴムよりも薄い厚みで、高い耐空気透過性を示す熱可塑性エラストマーは、インナーライナーに隣接するインスレーションゴムやカーカスゴムとの加硫接着力が、ブチル系ゴムよりも劣っている。インナーライナーの加硫接着力が低いと、インナーライナーとインスレーションまたはカーカスとの間に空気が混入して小さな気泡が多数現れる、エアーイン現象が生じる。この現象はタイヤの内側に小さな斑模様があることでユーザーに外観が悪いという印象を与えてしまうという問題がある。さらに、走行中にエアーが起点となりインナーライナーとインスレーションまたはカーカスとが剥離するため、インナーライナーに亀裂が生じてタイヤ内圧が低下することがある。そして最悪な場合はタイヤがバーストしてしまう恐れがある。
【0005】
特許文献1(特開平9−165469号公報)には、空気透過率の低いナイロンを用いてインナーライナー層を形成することで、インナーライナーとタイヤ内部またはカーカス層を形成するゴム組成物との接着性を向上させることのできる空気入りタイヤが提案されている。しかし、特許文献1の技術においては、ナイロンフィルム層を形成するために、ナイロンフィルムをRFL処理した後、ゴム組成物から成るゴム糊を接着する必要があり、工程が複雑化するという問題がある。さらに、加硫工程では一般に、金型内に収容した未加硫タイヤ内にブラダー本体を挿入し、ブラダー本体を膨張させて未加硫タイヤの内側から金型内面に押し付けて加硫成形を行うタイヤ加硫方法が採用されているが、特許文献1のインナーライナー層では、ナイロンフィルム層からなるインナーライナー層とブラダーとが加熱状態で接触することになり、インナーライナー層がブラダーに粘着、接着してしまう。すると加硫後タイヤを金型から取り出す時に、ブラダーに接着したインナーライナー層がブラダー側にとられ、インナーライナー層とインスレーションまたはカーカスの間にエアーイン現象が生じるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−165469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は厚みが薄く耐空気透過性に優れたポリマー積層体をインナーライナーに用いた空気入りタイヤの製造方法であって、インナーライナーとブラダーとの粘着を防止して、インナーライナーとカーカスとの間にエアーイン現象を生じさせない空気入りタイヤの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体からなる厚さが0.05mm〜0.6mmの第1層と、エポキシ化スチレン−ブタジエン−スチレントリブロック共重合体からなる厚さが0.01mm〜0.3mmの第2層とからなるポリマー積層体を準備する工程と、前記ポリマー積層体をタイヤ内側にインナーライナーとして貼設した生タイヤを成形する工程と、前記生タイヤを金型に配置し、ブラダーで加圧しつつタイヤを加硫する工程と、加硫されたタイヤを50〜120℃で10〜300秒間冷却する工程とを含む空気入りタイヤの製造方法に関する。
【0009】
前記加硫したタイヤを冷却する工程は、ブラダー内を冷却して行うことが望ましい。また前記加硫タイヤを冷却する工程は、冷却媒体として、空気、水蒸気、水およびオイルよりなる群から選択される1種以上を用いることが望ましい。
【0010】
本発明の空気入りタイヤの製造方法は、前記ポリマー積層体の第1層が、前記生タイヤの半径方向の最も内側に配置され、さらに前記ポリマー積層体の第2層が、前記生タイヤのカーカス層に接して配置されることが望ましい。
【0011】
前記第1層に用いるスチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体は重量平均分子量が5万〜40万であり、かつスチレン単位含有量が10〜30質量%であることが望ましい。また前記第2層に用いるエポキシ化スチレン−ブタジエン−スチレントリブロック共重合体は、重量平均分子量が1万〜40万であり、かつスチレン単位含有量が10〜30質量%であり、エポキシ当量が50〜1000であることが望ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に基づけば、厚みが薄く、耐空気透過性に優れたポリマー積層体をインナーライナーに用いた空気入りタイヤの製造方法であって、インナーライナーとブラダーとの粘着を防止して、インナーライナーとカーカスとの間にエアーイン現象を生じさせない空気入りタイヤの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の空気入りタイヤの右半分を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<空気入りタイヤ>
本発明の一実施の形態における空気入りタイヤの製造方法を用いて製造される空気入りタイヤの構造について図1を用いて説明する。
【0015】
空気入りタイヤ1は、乗用車用、トラック・バス用、重機用等として用いることができる。空気入りタイヤ1は、トレッド部2とサイドウォール部3とビード部4とを有している。さらに、ビード部4にはビードコア5が埋設される。また、一方のビード部4から他方のビード部にわたって設けられ、両端を折り返してビードコア5を係止するカーカス6と、該カーカス6のクラウン部外側に2枚のプライよりなるベルト層7とが配置されている。カーカス6のタイヤ半径方向内側には一方のビード部4から他方のビード部4に亘るインナーライナー9が配置されている。ベルト層7は、スチールコードまたはアラミド繊維等のコードよりなる2枚のプライを、タイヤ周方向に対してコードが通常5〜30°の角度になるようにプライ間で相互に交差するように配置される。またカーカスはポリエステル、ナイロン、アラミド等の有機繊維コードがタイヤ周方向にほぼ90°に配列されており、カーカスとその折り返し部に囲まれる領域には、ビードコア5の上端からサイドウォール方向に延びるビードエーペックス8が配置される。なお、インナーライナー9とカーカス6との間に、インスレーションが配置されていてもよい。
【0016】
<タイヤの製造方法>
本発明の空気入りタイヤの製造方法は、(1)ポリマー積層体を準備する工程、(2)前記ポリマー積層体をタイヤ内側にインナーライナーとして貼設した生タイヤを成形する工程、(3)前記生タイヤを金型に配置し、ブラダーで加圧しつつタイヤを加硫する工程、(4)加硫されたタイヤを50〜120℃で10〜300秒間冷却する工程を含む。
【0017】
以下、本発明の製造方法における各工程を説明する。
(1)ポリマー積層体を準備する工程
前記ポリマー積層体は、スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体からなる第1層と、エポキシ化スチレン−ブタジエン−スチレントリブロック共重合体からなる第2層とからなる。
【0018】
第1層に用いられる、スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体(以下、「SIBS」ともいう。)は、そのイソブチレンブロック由来により、SIBSからなるポリマーフィルムは優れた耐空気透過性を有する。さらに、SIBSは芳香族以外の分子構造が完全飽和であることにより、劣化硬化が抑制され、優れた耐久性を有する。
【0019】
SIBSからなるポリマーフィルムは耐空気透過性に優れるため、従来から汎用されてきた高比重のハロゲン化ゴムの配合量を減少することができる。
【0020】
ここで、SIBSの分子量は流動性、成形化工程、ゴム弾性などの観点から、GPC測定による重量平均分子量が5万〜40万であることが好ましい。重量平均分子量が5万未満であると引張強度、引張伸びが低下するおそれがあり、40万を超えると押出加工性が悪くなるおそれがあるため好ましくない。
【0021】
SIBSは一般的にスチレン単位を10〜40質量%含む。耐空気透過性と耐久性がより良好になる点で、SIBS中のスチレン単位の含有量は10〜30質量%であることが好ましい。
【0022】
該SIBSは、イソブチレン単位とスチレン単位のモル比(イソブチレン単位/スチレン単位)が、該共重合体のゴム弾性の点から40/60〜95/5であることが好ましい。SIBSにおいて、各ブロックの重合度は、ゴム弾性および作業性の観点からイソブチレンブロックは10,000〜150,000程度、またスチレンブロックは5,000〜30,000程度であることが好ましい。
【0023】
SIBSは、一般的なビニル系化合物の重合法により得ることができる。たとえば、リビングカチオン重合法により得ることができる(特開昭62−48704号公報参照)。
【0024】
該SIBSは分子内に芳香族以外の二重結合を有していないために、たとえばポリブタジエンなどの分子内に二重結合を有している重合体に比べて紫外線に対する安定性が高く、耐候性が良好である。
【0025】
第1層の厚みは、0.05〜0.6mmである。第1層の厚みが0.05mm未満であると、ポリマー積層体をインナーライナーに適用した生タイヤの加硫時に、第1層がプレス圧力で破れてしまい、得られたタイヤにおいてエアーリーク現象が生じるおそれがある。一方、第1層の厚みが0.6mmを超えると、タイヤ重量が増加して低燃費性能が低下する。第1層の厚みは、さらに0.05〜0.4mmであることが好ましい。
【0026】
第1層は、SIBSを押出成形、カレンダー成形といった熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーをフィルム化する通常の方法によってフィルム化して得ることができる。
【0027】
第2層に用いられる、エポキシ化SBSは、ハードセグメントがポリスチレンブロック、ソフトセグメントがブタジエンブロックであり、ブタジエンブロックに含まれる不飽和二重結合部分をエポキシ化した熱可塑性エラストマーである。本明細書において、「エポキシ化SBS層」とはエポキシ化SBSからなるポリマーシートを意味する。
【0028】
エポキシ化SBSはスチレンブロックを有するため、同様にスチレンブロックを有するSIBSとの溶融接着性に優れている。したがって、SIBS層とエポキシ化SBS層とを隣接して配置して加硫すると、SIBS層とエポキシ化SBS層とが良好に接着したポリマー積層体を得ることができる。
【0029】
エポキシ化SBSはブタジエンブロックからなるソフトセグメントを有するため、ゴム成分と加硫接着しやすい。したがって、エポキシ化SBS層を、たとえばカーカスやインスレーションを形成するゴム層と隣接して配置して加硫すると、エポキシ化SBS層とゴム層とが良好に接着することができる。したがって、エポキシ化SBS層を含むポリマー積層体をインナーライナーに用いた場合、ポリマー積層体と隣接ゴム層との接着性を向上させることができる。
【0030】
エポキシ化SBSの分子量は特に制限はないが、ゴム弾性および成形性の観点から、GPC法による重量平均分子量が1万以上40万以下であることが好ましい。重量平均分子量が1万未満であると柔らかすぎて寸法が安定しないおそれがあり、40万を超えると硬すぎて薄く押出しできない虞がある。
【0031】
エポキシ化SBS中のスチレン単位の含有量は、粘着性、接着性およびゴム弾性の観点から10質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
【0032】
エポキシ化SBSは、ブタジエン単位とスチレン単位のモル比(ブタジエン単位/スチ
レン単位)が、90/10〜70/30であることが好ましい。エポキシ化SBSにおいて、各ブロックの重合度は、ゴム弾性と取り扱いの観点からブタジエンブロックでは500〜5,000程度、またスチレンブロックでは50〜1,500程度であることが好ましい。エポキシ化SBSのエポキシ当量は、接着性の観点から50以上1,000以下が好ましい。
【0033】
第2層の厚みは0.01mm以上0.3mm以下である。第2層として用いられるエポキシ化SBS層の厚みが0.01mm未満であると、エポキシ化SBS層を含むポリマー積層体をインナーライナーに適用した生タイヤの加硫時に、エポキシ化SBS層がプレス圧力で破れてしまい、SIBS層および隣接ゴム層との加硫接着力が低下するおそれがある。一方、エポキシ化SBS層の厚みが0.3mmを超えると、タイヤ重量が増加して低燃費性能が低下するおそれがある。エポキシ化SBS層の厚みは、0.05mm以上0.2mm以下であることが好ましい。エポキシ化SBS層は、押出成形、カレンダー成形といった熱可塑性エラストマーをシート化する通常の方法によって得ることができる。
【0034】
インナーライナー用ポリマー積層体は、たとえば以下の方法で製造することができる。押出成形やカレンダー成形などによってSIBSまたはエポキシ化SBSをシート化して、SIBS層およびエポキシ化SBS層を作製する。SIS層とエポキシ化SBS層とを貼り合わせてポリマー積層体を作製する。また、SIBSまたはエポキシ化SBSのそれぞれのペレットをラミネート押出や共押出などの積層押出をして作製することもできる。
【0035】
(2)生タイヤを準備する工程
本発明の一実施の形態において、ポリマー積層体は生タイヤのインナーライナー部に配
置される。ポリマー積層体を生タイヤに配置する際は、ポリマー積層体の第2層を、カーカス6に接するようにタイヤ半径方向外側に向けて配置する。このように配置するとタイヤ加硫工程において、第2層とカーカス6とが加硫接着することができる。したがって得られた空気入りタイヤ1は、インナーライナー9とカーカス6のゴム層とが良好に接着して優れた耐空気透過性および耐久性を有することができる。
【0036】
また、インナーライナー9とカーカス6との間に、インスレーションが配置されている場合も、ポリマー積層体の第2層がインスレーションに接するようにタイヤ半径方向外側に向けて配置することにより、インナーライナー9とインスレーションとの接着強度を高めることができる。
【0037】
(3)タイヤの加硫工程
次に、得られた生タイヤを金型に装着し、かつブラダーにより加圧しつつ加硫する。ブラダーは加硫金型に収容されている。タイヤの加硫工程では生タイヤが開かれた金型内に投入される。生タイヤを金型に投入し配置した際には、ブラダーは生タイヤの内側に位置し、かつ収縮した状態である。ブラダーはガスの充填により膨張し、この膨張により生タイヤは、内側から金型方向に押し圧されて変形する。この変形はシェーピングと称されている。
【0038】
次に金型が締められブラダーの内圧が高められる。生タイヤは金型のキャビティ面とブラダーの外側表面とに挟まれて加圧される。さらに生タイヤは金型およびブラダーからの熱伝導により加熱される。加圧と加熱とにより、生タイヤのゴム組成物が流動状態となり、モールド内のエアーが移動してモールドから排出される。加熱によりゴムが加硫反応を起こし加硫タイヤが得られる。加硫は、たとえば150℃〜180℃の温度で3〜50分間行なわれる。
【0039】
(4)加硫タイヤを冷却する工程
次に、本発明において加硫タイヤを50℃〜120℃の温度で、10〜300秒間冷却する。本発明の空気入りタイヤにおいてインナーライナーに、第1層のSIBS層と第2層のエポキシ化SBS層のポリマー積層体を用いている。該ポリマー積層体を構成するSIBSおよびエポキシ化SBSは熱可塑性エラストマーであるため、加硫タイヤを得る工程において、たとえば150〜180℃に加熱されると、金型内で軟化または流動状態となる。軟化または流動状態の熱可塑性エラストマーは隣接部材と融着しやすい。すなわち、膨張したブラダーの外側表面と接するインナーライナーは、加熱により軟化・流動してブラダーに融着してしまう。
【0040】
インナーライナーとブラダーの外側表面が融着した状態で加硫タイヤを金型から取り出そうとすると、インナーライナーが、隣接するインスレーションやカーカスから剥離してしまい、エアーイン現象が生じてしまう。また、タイヤの形状自体が変形してしまう場合もある。
【0041】
本発明は、タイヤを加硫した後に金型を開けずにブラダーの内圧が高い状態のまま、直ちに120℃以下で10秒以上急冷する。これにより、インナーライナーに用いられている熱可塑性エラストマーを固化させることができる。熱可塑性エラストマーが固化すると、インナーライナーとブラダーとの融着が解消し、加硫タイヤを金型から取り出す際の離型性が向上する。
【0042】
冷却温度は50℃〜120℃である。冷却温度が50℃より低いと、特別な冷却媒体を準備する必要があり、生産性を悪化させるおそれがある。冷却温度が120℃を超えると、熱可塑性エラストマーが十分に冷却されず、金型開放時にインナーライナーがブラダーに融着したままとなり、エアーイン現象が発生するおそれがある。冷却温度は、熱可塑性エラストマーの軟化点以下で固化させるという観点から、70〜100℃であることが好ましい。
【0043】
冷却時間は10〜300秒間である。冷却時間が10秒より短いと熱可塑性エラストマーが十分に冷却されず、金型開放時にインナーライナーがブラダーに融着したままとなり、エアーイン現象が発生する恐れがある。冷却時間が300秒を超えると生産性が悪くなる。冷却時間は、熱可塑性エラストマーの固化と生産性の両立の観点から、30〜180秒であることが好ましい。
【0044】
加硫タイヤを冷却する工程は、ブラダー内を冷却して行うことが好ましい。ブラダー内は空洞であるため、加硫工程終了後にブラダー内に前記冷却温度に調整された冷却媒体を導入することができる。また加硫タイヤを冷却する工程は、ブラダー内を冷却することと併せて、金型に冷却構造を設置して実施することも可能である。
【0045】
冷却工程において使用される冷却媒体としては、空気、水蒸気、水およびオイルよりなる群から選択される1種以上を用いることが好ましい。なかでも、冷却効率に優れている水を用いることが好ましい。
【実施例】
【0046】
本発明を、以下実施例に基づき説明する。
実施例1〜8、比較例1〜5
<ポリマー積層体を準備する工程>
SIBSとして、カネカ(株)社製の「シブスターSIBSTAR 102T」(スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体、重量平均分子量100,000、スチレン単位含有量25質量%、ショアA硬度25)を準備した。
【0047】
エポキシ化SBSとして、ダイセル化学工業(株)社製の「エポフレンド A1020」(エポキシ化スチレン−ブタジエン−スチレントリブロック共重合体、重量平均分子量100,000、エポキシ当量500)を準備した。
【0048】
上記のSIBSおよびエポキシ化SBSをそれぞれ、2軸押出機(スクリュ径:φ50mm、L/D:30、シリンダ温度:220℃)にてペレット化した。得られたペレットを、Tダイ押出機(スクリュ径:φ80mm、L/D:50、ダイグリップ幅:500mm、シリンダ温度:220℃)を用いて共押出しを行い、第1層、第2層とし、表1に示す厚さを有するポリマー積層体を作製した。
【0049】
なお、比較例1は、クロロブチル(エクソンモービル(株)社製の「エクソンクロロブチル 1068」)90質量部、天然ゴム(NR、TSR20)10質量部およびフィラー(東海カーボン(株)社製の「シーストV」(N660、窒素吸着比表面積:27m2/g)50質量部をバンバリーミキサーで混合し、カレンダーロールにてシート化して得られた、厚さ1.0mmのポリマーフィルム(表2中、IIR/NR/フィラー層と示す)である。
【0050】
<生タイヤの成形工程>
得られたポリマー積層体をタイヤのインナーライナー部分に適用して生タイヤを準備した。なお、ポリマー積層体の第1層であるSIBS層を生タイヤの半径方向の最も内側に配置し、第2層であるエポキシ化SBS層を生タイヤのカーカス層に接するように、ポリマー積層体を配置した。
【0051】
<タイヤを加硫する工程>
該生タイヤを金型に配置し、170℃で20分間プレス成形して195/65R15サイズの加硫タイヤを製造した。
【0052】
<タイヤ冷却する工程>
前記加硫タイヤを100℃で3分間、金型内で冷却した後、加硫タイヤを金型から取り出した。その後、ブラダー内に表2に示す冷却温度に水温を調節した水を導入して加硫タイヤを冷却した。表2に示す冷却時間の経過後、加硫タイヤを金型から取り出した。
【0053】
<性能評価>
得られた空気入りタイヤについて以下の評価を行った。
【0054】
<タイヤ生産性>
タイヤ生産性とは、時間当たりのタイヤ生産本数に基づく生産効率を意味し、以下の基準で評価した。
【0055】
A:通常の生産性と同等レベル。
B:通常の生産性より劣るが、生産効率の低下が5%以内。
【0056】
C:通常の生産性より劣り、生産効率の低下が5%を超える。
<エアーイン有無>
加硫および冷却工程後のタイヤの内側を検査し、以下の基準で評価した。
【0057】
A:外観上、タイヤ1本あたり、直径5mm以下のエアーインの数が0個、かつ直径5mmを超えるエアーインの数が0個。
【0058】
B:外観上、タイヤ1本あたり、直径5mm以下のエアーインの数が1〜3個、かつ直径5mmを超えるエアーインの数が0個。
【0059】
C:外観上、タイヤ1本あたり、直径5mm以下のエアーインの数が4個以上、または直径5mmを超えるエアーインの数が1個以上。
【0060】
<屈曲亀裂成長性>
タイヤの耐久走行試験にて、インナーライナーが割れたり剥がれたりするかを評価した。製造した195/65R15サイズの空気入りタイヤを、JIS規格リム15×6JJに組み付け、タイヤ内圧を通常よりも低内圧である150KPa、荷重600kg、速度100km/時間とし、走行距離20,000kmの時のタイヤ内側を観察し、亀裂剥離
の数を測定した。比較例1の数値を基準(100)として、例えば実施例1の屈曲亀裂成長性について、下記式により指数表示した。数値が大きいほど耐屈曲亀裂成長性が優れていることを示す。実施例2〜8及び比較例2〜5も同様にして求めた。
【0061】
(屈曲亀裂成長性指数)=(比較例1の亀裂剥離の数)/(実施例1の亀裂剥離の数)×100
<転がり抵抗>
(株)神戸製鋼所製の転がり抵抗試験機を用い、製造した195/65R15サイズの空気入りタイヤをJIS規格リム15×6JJに組み付け、荷重3.4kN、空気圧230kPa、速度80km/時間の条件下で、室温(38℃)にて走行させて、転がり抵抗を測定した。比較例1の数値を基準(100)として、例えば実施例1の転がり抵抗について、下記式により指数表示した。数値が大きいほど転がり抵抗が低減されている。実施例2〜8及び比較例2〜5も同様にして求めた。
【0062】
(転がり抵抗指数)=(比較例1の転がり抵抗)/(実施例1の転がり抵抗)×100
<静的空気圧低下率>
製造した195/65R15サイズのタイヤをJIS規格リム15×6JJに組み付け、初期空気圧300Kpaを封入し、90日間室温で放置し空気圧の低下率を計算した。
【0063】
<総合判定>
総合判定の判定基準は表1の通りである。
【0064】
【表1】

【0065】
試験結果を表2に示す。
【0066】
【表2】

【0067】
実施例1と2、実施例3と4、実施例5と6、実施例7と8の組合せは、いずれも冷却時間を10秒と300秒とした場合の組合せである。そして、ポリマー積層体の第1層と第2層の厚さが異なる4つの組合せを実施した例である。
【0068】
比較例1は、インナーライナーにクロロブチルを用いた例であり、比較例2,3は、インナーライナーが第1層のみの例である。比較例4はポリマー積層体の第1層の厚さが、0.04mmと薄い場合であり、比較例5はタイヤの冷却温度が130℃と高い場合である。
【0069】
本発明の実施例は、比較例1〜5に較べ、タイヤの生産性、エアーインの有無、耐屈曲亀裂成長性、転がり抵抗および耐静的空気圧低下率に関して総合的に優れている。
【符号の説明】
【0070】
1 空気入りタイヤ、2 トレッド部、3 サイドウォール部、4 ビード部、5 ビードコア、6 カーカス、7 ベルト層、8 ビードエーペックス、9 インナーライナー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体からなる厚さが0.05mm〜0.6mmの第1層と、エポキシ化スチレン−ブタジエン−スチレントリブロック共重合体からなる厚さが0.01mm〜0.3mmの第2層とからなるポリマー積層体を準備する工程と、
前記ポリマー積層体をタイヤ内側にインナーライナーとして貼設した生タイヤを成形する工程と、
前記生タイヤを金型に配置し、ブラダーで加圧しつつタイヤを加硫する工程と、
加硫されたタイヤを50〜120℃で10〜300秒間冷却する工程と、
を含む空気入りタイヤの製造方法。
【請求項2】
前記加硫したタイヤを冷却する工程は、ブラダー内を冷却して行う、請求項1記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項3】
前記加硫タイヤを冷却する工程は、冷却媒体として、空気、水蒸気、水およびオイルよりなる群から選択される1種以上を用いる、請求項1または2に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項4】
前記ポリマー積層体の第1層が、前記生タイヤの半径方向の最も内側に配置される、請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項5】
前記ポリマー積層体の第2層が、前記生タイヤのカーカス層に接して配置される、請求項1〜4のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項6】
前記スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体は重量平均分子量が5万〜40万であり、かつスチレン単位含有量が10〜30質量%である、請求項1〜5のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項7】
エポキシ化スチレン−ブタジエン−スチレントリブロック共重合体は、重量平均分子量が1万〜40万であり、かつスチレン単位含有量が10〜30質量%であり、エポキシ当量が50〜1000である請求項1に記載の空気入りタイヤの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−236388(P2012−236388A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108481(P2011−108481)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【特許番号】特許第5068875号(P5068875)
【特許公報発行日】平成24年11月7日(2012.11.7)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】