説明

窒化物半導体素子および窒化物半導体パッケージ

【課題】トランジスタ動作のオフ時におけるリーク電流を低減することができる窒化物半導体素子、およびリーク電流が少なく、信頼性に優れる窒化物半導体素子パッケージを提供すること。
【解決手段】基板41上に、AlN層47、第1AlGaN層48(平均Al組成50%)および第2AlGaN層49(平均Al組成20%)からなるバッファ層44を形成する。バッファ層44上には、GaN電子走行層45およびAlGaN電子供給層46からなる素子動作層を形成する。これにより、HEMT素子3を構成する。このHEMT素子3において、GaN電子走行層45の厚さ方向途中部に、BNとGaNとの混晶からなるBGaN部50を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物半導体を用いた窒化物半導体素子および当該素子の半導体パッケージに関する。
【背景技術】
【0002】
III族窒化物半導体とは、III-V族半導体においてV族元素として窒素を用いた半導体である。窒化アルミニウム(AlN)、窒化ガリウム(GaN)、窒化インジウム(InN)が代表例である。一般には、AlInGa1−x−yN(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦x+y≦1)と表わすことができる。
このようなIII族窒化物半導体は、高温・高出力デバイス、高周波デバイスに適した物性を有している。かかる物性に鑑みて、III族窒化物半導体は、HEMT(High Electron Mobility Transistor:高電子移動度トランジスタ)などのデバイスを構成する半導体として使用されている。
【0003】
たとえば、Si基板と、Si基板上にエピタキシャル成長によって順に積層された、AlN層、AlGaN層(Al組成が0.3以上かつ0.6以下)、GaN層およびAlGaN電子供給層と、AlGaN電子供給層上に間隔を空けて設けられたソース電極およびドレイン電極と、ソース電極とドレイン電極との間に設けられたゲート電極とを備えるHEMTが提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0004】
このHEMTでは、GaN層におけるAlGaN電子供給層との界面近傍に2次元電子ガスが生成され、その2次元電子ガスがソース電極とドレイン電極との間を導通させるチャネルとして機能することにより、トランジスタ動作が行なわれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−166349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のHEMTでは、トランジスタ動作のオフ時(2次元電子ガスのピンチオフ時)にも関わらず、ソース電極からSi基板を経由してドレイン電極に至る縦方向(各層を厚さ方向に貫通する方向)の電流路が形成され、ソース−ドレイン間にリーク電流が流れる場合がある。
そこで、本発明の目的は、トランジスタ動作のオフ時におけるリーク電流を低減することができる窒化物半導体素子を提供することである。
【0007】
また、本発明の他の目的は、リーク電流が少なく、信頼性に優れる窒化物半導体素子パッケージを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための請求項1記載の発明は、半導体基板と、前記半導体基板上に形成されたGaN電子走行層と、前記GaN電子走行層の厚さ方向途中部において、当該厚さ方向に直交する方向に沿って層状に形成されたBGaN部と、前記GaN電子走行層上に形成されたAlGaN電子供給層と、前記AlGaN電子供給層上において、互いに間隔を空けて形成されたソース電極およびドレイン電極と、前記AlGaN電子供給層上において、前記ソース電極と前記ドレイン電極との間に形成されたゲート電極とを含む、窒化物半導体素子である。
【0009】
この構成によれば、GaN電子走行層の途中部にBGaN部が形成されている。BGaNは、BN(窒化ホウ素)とGaN(窒化ガリウム)との混晶である。GaN電子走行層の途中部に、高い絶縁性を有するBNがGaNとの混晶として含まれているので、GaN電子走行層において、BGaN部に対して厚さ方向AlGaN電子供給層側と半導体基板側との間の導電性を小さくすることができる。これにより、ソース電極とドレイン電極との間がオフになっているとき、ソース電極から半導体基板へ向かう縦方向の電流路の発生を防止することができるか、または、発生しても当該電流路に流れる電流を小さくすることができる。その結果、トランジスタ動作のオフ時におけるリーク電流を低減することができる。
【0010】
たとえば、特許文献1の発明のように、GaN電子走行層と半導体基板との間に、GaNよりも高い絶縁性を有する窒化物半導体層(特許文献1では、AlGaN層およびAlN層)が介在されている場合、当該窒化物半導体層を厚くすることにより、当該層の直列抵抗を増やせば、リーク電流を低減できるかもしれない。しかしながら、これらの窒化物半導体層を厚くしすぎると、ウエハにクラックが発生するおそれがあるため、実用上不向きである。
【0011】
そこで、本発明では、GaN電子走行層中に、GaNとの混晶として存在できるBGaN部を設けることにより、リーク電流を低減することができ、同時に、ウエハにおけるクラックの発生も防止することができる。
また、前記BGaN部のBGaNは、請求項2記載のように、ウルツ鉱型結晶構造を有していることが好ましい。
【0012】
BGaN部のBGaNがウルツ鉱型結晶構造であれば、BGaN部とGaN電子走行層との結晶構造を同種(ウルツ鉱型結晶構造)に揃えることができるので、刃状転位の伝播を抑制することができる。そのため、刃状転位密度を低減することができる。その結果、品質のよいデバイスを得ることができる。
そして、ウルツ鉱型結晶構造を有するBGaNを得るためには、具体的には、請求項3記載のように、BGaN部のBGaNが、BGa1−xN(0.0<x<0.02)で表される組成を有していることが好ましい。
【0013】
BNの結晶構造としては、一般的に、常圧安定相の六方晶(hBN)と菱面体晶(rBN)、高温高圧安定相の立方晶閃亜鉛鉱型(cBN)と六方晶ウルツ鉱型(wBN)の4つの結晶構造が知られている。
BGaNが、BGa1−xN(0.0<x<0.02)で表される組成を有していれば、六方晶ウルツ鉱型(wBN)単結晶構造を有するBNを良好に得ることができる。その結果、ウルツ鉱型結晶構造を有するBGaN部を良好に得ることができる。
【0014】
たとえば、BNの結晶構造が立方晶閃亜鉛鉱型(cBN)単結晶構造であると、その結晶構造が、BGaN部に対してAlGaN電子供給層側のGaNに引き継がれてしまい、GaNが本来有するウルツ鉱型結晶構造を維持できなくなるので、好ましくない。
また、BGaNのB組成xは、請求項4記載のように、0.0<x<0.005であることが好ましい。B組成xが上記した範囲であれば、BGaN部の平坦性を維持することができ、GaN電子走行層の品質(膜質)を良好にすることができる。
【0015】
また、BGaN部の厚さは、請求項5記載のように、5nm以下であることが好ましい。BGaN部の厚さが上記した範囲であれば、BGaN部の平坦性を維持することができ、GaN電子走行層の品質(膜質)を良好にすることができる。
また、BGaN部は、請求項6記載のように、前記GaN電子走行層の厚さ方向中央位置よりも前記半導体基板側に形成されていることが好ましい。具体的には、請求項7記載のように、前記GaN電子走行層が500nm〜1500nmの厚さを有している場合、前記BGaN部は、前記GaN電子走行層の下端から100nm〜300nmの高さ位置に形成されていることが好ましい。
【0016】
また、前記GaN電子走行層と前記半導体基板との間には、請求項8記載のように、バッファ層が介在されていることが好ましい。
これにより、たとえば、請求項9記載のように、半導体基板が、窒化物半導体基板とは異なる異種基板(Si基板)である場合でも、GaN電子走行層の結晶状態を良好に維持することができる。
【0017】
半導体基板がSi基板である場合、前記バッファ層は、請求項10記載のように、前記半導体基板上に形成されたAlN層と、当該AlN層上に形成され、複数のAlGaN層を積層して形成されたAlGaN積層構造とを含み、前記AlGaN積層構造では、或る基準AlGaN層のAl組成が、当該基準AlGaN層よりも前記AlN層に近い側のAlGaN層のAl組成よりも小さいことが好ましい。換言すれば、複数のAlGaN層は、第1AlGaN層と、当該第1AlGaN層に対して前記AlN層とは反対側(GaN電子走行層側)に配置され、当該第1AlGaN層よりもAl組成の小さな第2AlGaN層とを含むことが好ましい。
【0018】
たとえば、AlN層とGaN電子走行層との間にAlGaN層単層を単に設けるだけでは、AlGaNとGaNとの格子定数の差が大きいので、大きな厚さを有するGaN電子走行層が積層されると、GaNの格子緩和が起こってしまう。そのため、HEMTに十分な耐圧を付与することが困難になる。その結果、GaN電子走行層の厚さが制限され、デバイス設計の自由度が小さい。
【0019】
そこで、請求項10に記載の構成によれば、複数のAlGaN層は、GaN電子走行層に近い層ほど、Al組成が小さくなるように、それぞれの組成が定められている。これにより、AlGaN層の格子定数を、AlNの格子定数に近い値から、GaNの格子定数に近い値にまで段階的に大きくすることができる。そのため、GaN電子走行層と、当該GaN電子走行層に接する最上層のAlGaN層との格子定数の差を小さくすることができる。その結果、GaN電子走行層の厚さを自由に設計することができる。よって、GaN電子走行層を厚く設計することにより、素子耐圧を向上させることができる。
【0020】
ところで、GaN結晶が、たとえば、エピタキシャル成長によってSi基板上に積層される場合、エピタキシャル成長後の冷却中または冷却後に、Si基板とGaN層との線膨張係数の差(つまり、降温時の収縮率の差)に起因してGaN層に大きな引張り応力が発生することがある。その結果、GaN層のひび割れ(クラック)およびSi基板の反りが発生する場合がある。
【0021】
請求項10記載の発明によれば、Si基板上にAlN層が形成され、当該AlN層とGaN電子走行層との間にAlGaN積層構造が設けられている。また、AlGaN積層構造においては、複数のAlGaN層は、GaN電子走行層に近い層ほど、Al組成が小さくなるように、それぞれの組成が定められている。そのため、AlN層と最下層のAlGaN層との格子定数差に起因して当該AlGaN層に加わる圧縮応力(歪み)を、最上層のAlGaN層にまで伝播させることができる。その結果、GaN電子走行層に引張り応力が生じても、その引張り応力を、AlN層およびAlGaNバッファ層からGaN電子走行層に加えられる圧縮応力によって緩和することができる。よって、GaN電子走行層のクラックおよびSi基板の反りを軽減することができる。
【0022】
また、前記AlGaN積層構造では、請求項11に記載のように、前記基準AlGaN層のAl組成(%)と、当該基準AlGaN層の前記AlN層側の面に接して配置されたAlGaN層のAl組成(%)との差が10%以上であることが好ましい。
これにより、基準AlGaN層と、当該基準AlGaN層に接するAlGaN層との間に、格子定数差を確実に発生させることができる。
【0023】
たとえば、基準AlGaN層のAl組成(%)と、当該基準AlGaN層のAlN層側の面に接して配置されたAlGaN層のAl組成(%)との差が1%程度であると、基準AlGaN層の格子定数が、それに接するAlGaN層の格子定数に揃ってしまう場合がある。そのため、最上層のAlGaN層とGaN電子走行層との格子定数の差が大きくなり、完全な格子緩和が発生するため、バッファ層からGaN電子走行層に対して圧縮応力(歪み)を伝達することが困難になる。
【0024】
そこで、請求項11に係る発明の構成であれば、そのように格子定数が揃う箇所が生じる場合よりも、GaN電子走行層と最上層のAlGaN層との格子定数の差を小さくできる。よって、バッファ層からGaN電子走行層に対して圧縮応力(歪み)を良好に伝達することができ、結果、GaN電子走行層のクラックおよびSi基板の反りを良好に軽減することができる。
【0025】
たとえば、前記AlGaN積層構造は、請求項12記載のように、前記AlN層から順に、Al組成が50%の第1AlGaN層およびAl組成が20%の第2AlGaN層が積層された構造からなっていてもよい。
また、請求項13載の発明は、前記バッファ層の主面の面方位がc面であり、前記AlGaN積層構造では、前記基準AlGaN層のa軸平均格子定数が、当該基準AlGaN層の前記AlN層側の面に接して配置されたAlGaN層のa軸面内格子定数よりも大きく、当該基準AlGaN層が本来有するa軸平均格子定数よりも小さい、請求項10〜12のいずれか一項に記載の窒化物半導体素子である。
【0026】
この構成によれば、基準AlGaN層のa軸平均格子定数が、当該基準AlGaN層に接するAlGaN層のa軸面内格子定数よりも大きく、当該基準AlGaN層が本来有するa軸平均格子定数(無歪みの状態でのa軸格子定数)よりも小さい。これにより、基準AlGaN層には、当該基準AlGaN層のAlN層側の面に接して配置されたAlGaN層のa軸格子定数に揃わない程度のa軸圧縮応力が加わっている。そして、このa軸圧縮応力を、最上層のAlGaN層にまで伝播させることができる。そのため、GaN電子走行層にa軸引張り応力が生じても、そのa軸引張り応力を、AlN層およびAlGaNバッファ層からGaN電子走行層に加えられるa軸圧縮応力によって緩和することができる。
【0027】
なお、面内格子定数とは、基準AlGaN層のAlN層側の面に接するAlGaN層における、基準AlGaN層との界面の格子定数のことである。
また、Si基板の主面は、請求項14記載のように、(111)面であってもよい。
また、GaN電子走行層のc軸格子定数の歪み度は、請求項15記載のように、−0.07%以上であることが好ましい。
【0028】
これにより、GaN電子走行層のクラックの発生を確実に防止することができる。
また、前記バッファ層は、請求項16記載のように、前記半導体基板上に形成されたAlN層の単一層からなっていてもよい。また、請求項17記載のように、AlN層およびAlGaN層を複数対交互に積層した超格子構造からなっていてもよい。また、請求項18記載のように、AlGaN層およびGaN層を複数対交互に積層した超格子構造からなっていてもよい。
【0029】
また、請求項19記載の発明は、請求項1〜18のいずれか一項に記載の窒化物半導体素子と、前記窒化物半導体素子を覆うように形成された樹脂パッケージとを含む、窒化物半導体パッケージである。
この構成によれば、本発明の窒化物半導体素子が用いられており、トランジスタ動作のオフ時におけるリーク電流を低減することができるので、信頼性の高いパッケージを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態に係るHEMTパッケージの模式的な全体図である。
【図2】図1に示すHEMTパッケージの内部を透視して示す図である。
【図3】図2の破線Aで囲まれた部分の拡大図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るHEMT素子の模式断面図であって、図3のB−B切断面における断面を示す。
【図5】窒化物半導体層に生じる残留応力のイメージ図である。
【図6】III族窒化物半導体積層構造を構成する各層を成長させるための処理装置の構成を説明するための図解図である。
【図7】図4のバッファ層の第1変形例を説明するための図である。
【図8】図4のバッファ層の第2変形例を説明するための図である。
【図9】図4のバッファ層の第3変形例を説明するための図である。
【図10】実施例のHEMT素子の構成を示す模式断面図である。
【図11】リーク電流および刃状転位密度の低減効果を証明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下では、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るHEMTパッケージの模式的な全体図である。図2は、図1に示すHEMTパッケージの内部を透視して示す図である。図3は、図2の破線Aで囲まれた部分の拡大図である。
【0032】
本発明の窒化物半導体パッケージの一例としてのHEMTパッケージ1は、端子フレーム2と、HEMT素子3(チップ)と、樹脂パッケージ4とを含んでいる。
端子フレーム2は、金属製の板状に形成されている。端子フレーム2は、平面視において四角形状を有し、HEMTパッケージ1を支持するベース部5と、当該ベース部5と一体的に形成されたソース端子6と、当該ベース部5に対して離間して形成されたドレイン端子7およびゲート端子8とを含んでいる。
【0033】
ソース端子6、ドレイン端子7およびゲート端子8は、それぞれ一端および他端を有する平面視直線状に形成され、ソース端子6、ドレイン端子7およびゲート端子8の順に互いに平行に並べて配置されている。これらの端子6〜8のうち、ベース部5と一体的なソース端子6の一端のみが、ベース部5の一角部に接続されている。残りの端子7〜8のうち、ゲート端子8は、その一端が、ソース端子6が接続された角部と隣り合うベース部5の他の角部に対向するように配置されており、ドレイン端子7は、ゲート端子8とソース端子6との間に配置されている。
【0034】
HEMT素子3は、本発明の窒化物半導体素子の一例であり、ドレインパッド9、ソースパッド10およびゲートパッド11を有している。これらドレインパッド9、ソースパッド10およびゲートパッド11は、金属製の板状に形成されており、互いに離間して配置されている。
ドレインパッド9は、ボンディング部12D、アーム部13Dおよび電極部14Dを一体的に有している。
【0035】
ドレインパッド9のボンディング部12Dは、一端および他端を有し、端子フレーム2の各端子6〜8を横切る方向に延びる平面視直線状に形成されている。ボンディング部12Dは、ボンディングワイヤ15D(図2では、3本のワイヤ)を用いて、ドレイン端子7に電気的に接続されている。
ドレインパッド9のアーム部13Dは、当該ボンディング部12Dの一端および他端から、端子6〜8から離れる方向へ延びる互いに平行な平面視直線状に一対形成されている。ドレインパッド9は、ボンディング部12Dおよび一対のアーム部13Dにより、アーム部13Dの遊端(他端)側が開放された平面視凹状(コ字状)に取り囲まれる素子領域16を区画している。
【0036】
ドレインパッド9の電極部14Dは、素子領域16内に設けられ、各アーム部13Dから他方のアーム部13Dへ向かって延びるストライプ状に多数形成されている。一方のアーム部13Dに接続された電極部14Dの先端と、他方のアーム部13Dに接続された電極部14Dの先端との間には、所定幅を有する隙間17が設けられている。ドレインパッド9の電極部14Dは、本発明のドレイン電極の一例である。
【0037】
ソースパッド10は、ボンディング部18S、アーム部19Sおよび電極部20Sを一体的に有している。
ソースパッド10のボンディング部18Sは、素子領域16の開放端において、ドレインパッド9のボンディング部12Dに平行に延びる平面視直線状に形成されている。ボンディング部18Sは、ボンディングワイヤ21S(図2では、2本のワイヤ)を用いて、ベース部5に電気的に接続されている。これにより、ソースパッド10のボンディング部18Sは、ベース部5と一体的なソース端子6に電気的に接続される。
【0038】
ソースパッド10のアーム部19Sは、ドレインパッド9の電極部14Dの隙間17を、ドレインパッド9の電極部14Dを横切る方向に延びるように1本形成されている。
ソースパッド10の電極部20Sは、アーム部19Sから、ドレインパッド9の各アーム部13Dへ向かう両方向へ延びるストライプ状に多数形成されている。電極部20Sは、本発明のソース電極の一例であり、ドレインパッド9の電極部14Dの各間に1本ずつ設けられている。
【0039】
ゲートパッド11は、ボンディング部22G、第1アーム部23G、第2アーム部24Gおよび電極部25Gを一体的に有している。
ゲートパッド11のボンディング部22Gは、平面視四角形状に形成され、ドレインパッド9の一方のアーム部13Dの遊端部近傍に配置されている。ボンディング部22Gは、ボンディングワイヤ26G(図2では、1本のワイヤ)を用いて、ゲート端子8に電気的に接続されている。
【0040】
ゲートパッド11の第1アーム部23Gは、ボンディング部22Gの角部からドレインパッド9の他方のアーム部13Dの遊端部まで、ソースパッド10のボンディング部18Sに対して素子領域16に近い側をドレインパッド9のボンディング部12Dに対して平行に延びる平面視直線状に形成されている。
ゲートパッド11の第2アーム部24Gは、第1アーム部23Gからドレインパッド9の電極部14Dの隙間17を、ドレインパッド9の電極部14Dを横切る方向に延びるように、ソースパッド10のアーム部19Sの両側に1本ずつ形成されている。
【0041】
ゲートパッド11の電極部25Gは、各第2アーム部24Gから、ドレインパッド9の各アーム部13Dへ向かう両方向へ延びるストライプ状に多数形成されている。電極部25Gは、本発明のゲート電極の一例であり、ドレインパッド9の電極部14Dとソースパッド10の電極部20Sとの各間に1本ずつ設けられている。また、当該電極部25Gと電極部14Dとの間隔GDは、電極部25Gと電極部20Sとの間隔GSよりも広くされている。つまり、電極部25Gは、電極部14Dと電極部20Sとの中間位置に対して電極部20Sに近い側に配置されている。これにより、ドレイン側の電極部14Dに正の電圧が印加され、ゲート側の電極部25Gに0(ゼロ)V以下の電圧が印加されたときに、ドレイン−ゲート間において十分な電圧降下を図ることができる。その結果、電極部25Gに対する電界集中を防止することができる。
【0042】
樹脂パッケージ4は、HEMTパッケージ1の外形をなし、略直方体状に形成されている。樹脂パッケージ4は、たとえば、エポキシ樹脂など公知のモールド樹脂からなり、HEMT素子3とともに端子フレーム2のベース部5およびボンディングワイヤ15D,21S,26Gを覆い、3本の端子(ソース端子6、ドレイン端子7およびゲート端子8)を露出させるように、HEMT素子3を封止している。
【0043】
図4は、本発明の一実施形態に係るHEMT素子の模式断面図であって、図3のB−B切断面における断面を示す。
次いで、図4を参照して、HEMT素子の内部構造を詳細に説明する。
HEMT素子3は、半導体基板としての基板41と、基板41上にエピタキシャル成長(結晶成長)によって形成されたIII族窒化物半導体積層構造42とを備えている。
【0044】
基板41は、この実施形態では、Si単結晶基板(線膨張係数α1が、たとえば、2.5×10−6〜3.5×10−6(293K))で構成されている。この基板41は、(111)面を主面43としたオフ角が0°のジャスト(111)面Si基板である。
基板41のa軸平均格子定数LC1(基板41の主面43に沿う方向の窒化物半導体を構成する原子と結合するSi原子の格子間距離)は、たとえば、0.768nm〜0.769nmである。そして、この主面43上における結晶成長によって、III族窒化物半導体積層構造42が形成されている。III族窒化物半導体積層構造42は、たとえば、c面((0001)面))を結晶成長主面とするIII族窒化物半導体からなる。
【0045】
III族窒化物半導体積層構造42を形成する各層と、下地層との格子不整合は、結晶成長される層の格子の歪みによって吸収され、下地層との界面での格子の連続性が保たれる。たとえば、GaN層のc面((0001)面))からInGaN層およびAlGaN層をそれぞれ成長させる場合、無歪みの状態でのInGaNのa軸方向の平均格子定数(a軸平均格子定数)はGaNのa軸平均格子定数よりも大きいので、InGaN層にはa軸方向への圧縮応力(圧縮歪み)が生じる。これに対して、無歪みの状態でのAlGaNのa軸平均格子定数はGaNのa軸平均格子定数よりも小さいので、AlGaN層にはa軸方向への引張り応力(引張り歪み)が生じる。
【0046】
III族窒化物半導体積層構造42は、基板41側から順に、バッファ層44と、GaN電子走行層45と、AlGaN電子供給層46とを積層して構成されている。
バッファ層44は、AlN層47と、第1AlGaN層48と、第2AlGaN層49とを積層して構成されている。この実施形態では、第1AlGaN層48と第2AlGaN層49との積層構造が、本発明のAlGaN積層構造の一例である。また、第2AlGaN層49が、本発明の基準AlGaN層の一例であり、第1AlGaN層48が、基準AlGaN層のAlN層側の面に接して配置されたAlGaN層の一例である。
【0047】
AlN層47の厚さは、50nm〜200nm、たとえば、120nmである。また、AlN層47のa軸平均格子定数LC2は、たとえば、0.311nm〜0.312nmであり、線膨張係数α2は、たとえば、4.1×10−6〜4.2×10−6(293K)である。
第1AlGaN層48は、この実施形態では、不純物が意図的に添加されていないアンドープAlGaN層として構成されている。ただし、第1AlGaN層48には、意図しない微量の不純物が含まれている場合がある。第1AlGaN層48の厚さは、100nm〜500nm、たとえば、140nmである。また、第1AlGaN層48の平均Al組成は、40〜60%(たとえば、50%)である。また、第1AlGaN層48のa軸平均格子定数LC3は、たとえば、0.314nm〜0.316nmであり、線膨張係数α3は、たとえば、4.6×10−6〜5.0×10−6(293K)である。
【0048】
また、第1AlGaN層48の上面(第2AlGaN層49との界面)のa軸面内格子定数LC3´は、たとえば、0.312nm〜0.314nmである。
第2AlGaN層49は、この実施形態では、不純物が意図的に添加されていないアンドープAlGaN層として構成されている。ただし、第2AlGaN層49には、意図しない微量の不純物が含まれている場合がある。第2AlGaN層49の厚さは、100nm〜500nm、たとえば、140nmである。また、第2AlGaN層49の平均Al組成は、第1AlGaN層48よりも10%以上小さく、具体的には、10〜30%(たとえば、20%)である。また、第2AlGaN層49のa軸平均格子定数LC4は、第1AlGaN層48の上面(第2AlGaN層49との界面)のa軸面内格子定数LC3´よりも大きく、AlGaNが本来有するa軸平均格子定数(0.316nm〜0.318nm)よりも小さく、たとえば、0.314nm〜0.316nmである。また、第2AlGaN層49の線膨張係数α4は、たとえば、5.0×10−6〜5.4×10−6(293K)である。
【0049】
GaN電子走行層45は、この実施形態では、不純物が意図的に添加されていないアンドープGaN層として構成されている。ただし、GaN電子走行層45には、意図しない微量の不純物が含まれている場合がある。GaN電子走行層45のa軸平均格子定数LC5は、たとえば、0.318nm〜0.319nmであり、線膨張係数α5は、たとえば、5.5×10−6〜5.6×10−6(293K)である。
【0050】
また、GaN電子走行層45のc軸格子定数の歪み度は、たとえば、−0.07%以上0(ゼロ)以下である。このc軸格子定数の歪み度は、たとえば、X線回折測定によってGaN電子走行層45のc軸格子定数を測定し、GaNが本来有するc軸格子定数と比較することにより得ることができる。GaN電子走行層45のc軸格子定数の歪み度が上記した範囲であれば、GaN電子走行層45に加わるc軸圧縮応力が抑制されており、クラックの発生を防ぐことができる。
【0051】
c軸およびa軸は、互いに直交する関係にある。そのため、これらの各方向に沿う圧縮応力および引張り応力は、図5に示すように、一方の方向(たとえばc軸方向)に圧縮応力が加わっているとき、他方の方向(たとえばa軸方向)に引張り応力が加わるというように、相反する関係にある。
したがって、上記のように、GaN電子走行層45のc軸格子定数の歪み度が−0.07%以上0(ゼロ)以下であるということは、GaN電子走行層45に加わるc軸圧縮応力が抑制されており、クラックの発生を防ぐことができるということである。
【0052】
GaN電子走行層45の厚さ方向途中部には、a軸方向に沿って層状に形成されたBGaN部50が形成されている。
BGaN部50は、BN(窒化ホウ素)とGaN(窒化ガリウム)との混晶であり、ウルツ鉱型結晶構造を有している。BGaN部50のBGaNがウルツ鉱型結晶構造であれば、BGaN部50とGaN電子走行層45との結晶構造を同種(ウルツ鉱型結晶構造)に揃えることができる。すなわち、BGaN部50は、刃状転位の伝播を抑制するバッファ層として働くことができる。その結果、品質のよいデバイスを得ることができる。
【0053】
そして、ウルツ鉱型結晶構造を有するBGaN部50は、具体的には、BGaNが、BGa1−xN(0.0<x<0.02)で表される組成を有していることが好ましい。
BNの結晶構造としては、一般的に、常圧安定相の六方晶(hBN)と菱面体晶(rBN)、高温高圧安定相の立方晶閃亜鉛鉱型(cBN)と六方晶ウルツ鉱型(wBN)の4つの結晶構造が知られている。
【0054】
BGaNが、BGa1−xN(0.0<x<0.02)で表される組成を有していれば、六方晶ウルツ鉱型(wBN)単結晶構造を有するBNを良好に得ることができる。その結果、ウルツ鉱型結晶構造を有するBGaN部50を良好に得ることができる。
たとえば、BNの結晶構造が立方晶閃亜鉛鉱型(cBN)単結晶構造であると、その結晶構造が、BGaN部50に対してAlGaN電子供給層46側のGaNに引き継がれてしまい、GaNが本来有するウルツ鉱型結晶構造を維持できなくなるので、好ましくない。
【0055】
また、BGaN部50のBGaNのB組成xは、0.0<x<0.005であることが好ましい。B組成xが上記した範囲であれば、BGaN部50の平坦性を維持することができ、GaN電子走行層45の品質(膜質)を良好にすることができる。
また、層状のBGaN部50とは、GaN電子走行層45を構成するGaNとの間に明確な界面を形成する層として形成されているものではなく、GaN電子走行層45中において、GaNよりも密度が濃いBNが層状に存在する部分のことである。
【0056】
このような層状のBGaN部50の厚さは、たとえば、5nm以下であり、好ましくは、2nm〜5nmである。BGaN部50の厚さが上記した範囲であれば、BGaN部50の平坦性を維持することができ、GaN電子走行層45の品質(膜質)を良好にすることができる。
また、BGaN部50は、GaN電子走行層45の厚さ方向中央位置よりも基板41側に形成されていることが好ましい。具体的には、BGaN部50は、GaN電子走行層45の下端から100nm〜300nm(たとえば、200nm)の高さ位置に形成されていることが好ましい。
【0057】
AlGaN電子供給層46は、この実施形態では、不純物が意図的に添加されていないアンドープAlGaN層として構成されている。ただし、AlGaN電子供給層46には、意図しない微量の不純物が含まれている場合がある。AlGaN電子供給層46のa軸平均格子定数LC6は、たとえば、0.318nm〜0.319nmである。また、AlGaN電子供給層46の平均Al組成は、20〜30%(たとえば、25%)である。また、AlGaN電子供給層46の線膨張係数α6は、たとえば、5.0×10−6〜5.2×10−6(293K)である。
【0058】
このように、互いに組成の異なるGaN電子走行層45とAlGaN電子供給層46との接合がヘテロ接合となることから、GaN電子走行層45には、AlGaN電子供給層46との接合界面近傍において、2次元電子ガス(2DEG)が生じている。2次元電子ガスは、GaN電子走行層45におけるAlGaN電子供給層46との接合界面近傍のほぼ全域に存在しており、その濃度は、たとえば、8×1012cm−2〜2×1013cm−2である。HEMT素子3では、この2次元電子ガスを利用してソース−ドレイン間に電流を流すことによって素子動作が実行される。
【0059】
AlGaN電子供給層46上には、このAlGaN電子供給層46に接するように、前述したゲートパッド11の電極部25G、ソースパッド10の電極部20Sおよびドレインパッド9の電極部14Dが互いに間隔を空けて設けられている。
ゲートパッド11の電極部25G(以下、ゲート電極25G)は、AlGaN電子供給層46との間でショットキー接合を形成できる電極材料、たとえば、Ni/Au(ニッケル/金の合金)などで構成することができる。
【0060】
ソースパッド10の電極部20S(以下、ソース電極20S)およびドレインパッド9の電極部14D(以下、ドレイン電極14D)はいずれも、AlGaN電子供給層46に対してオーミック接触することができる電極材料、たとえば、Ti/Al(チタン/アルミニウムの合金)、Ti/Al/Ni/Au(チタン/アルミニウム/ニッケル/金の合金)、Ti/Al/Nb/Au(チタン/アルミニウム/ニオブ/金の合金)、Ti/Al/Mo/Au(チタン/アルミニウム/モリブデン/金の合金)などで構成することができる。
【0061】
また、基板41の裏面には、裏面電極51が形成されている。この裏面電極51は、端子フレーム2のベース部5に接続されることにより、基板41の電位を接地(グランド)電位にする。なお、基板41の電位をソース電極20Sと同一の電位にすることにより、ソース電極20Sを接地電位にしてもよい。
図6は、III族窒化物半導体積層構造を構成する各層を成長させるための処理装置の構成を説明するための図解図である。
【0062】
次いで、図6を参照して、III族窒化物半導体積層構造の作製方法を詳細に説明する。
処理室60内に、ヒータ61を内蔵したサセプタ62が配置されている。サセプタ62は、回転軸63に結合されており、この回転軸63は、処理室60外に配置された回転駆動機構64によって回転されるようになっている。これにより、サセプタ62に処理対象のウエハ65を保持させることにより、処理室60内でウエハ65を所定温度に昇温することができ、かつ、回転させることができる。ウエハ65は、前述のSi単結晶基板41を構成するSi単結晶ウエハである。
【0063】
処理室60には、排気配管66が接続されている。排気配管66はロータリポンプ等の排気設備に接続されている。これにより、処理室60内の圧力は、1/10気圧〜常圧とされ、処理室60内の雰囲気は常時排気されている。
一方、処理室60には、サセプタ62に保持されたウエハ65の表面に向けて原料ガスを供給するための原料ガス供給路70が導入されている。この原料ガス供給路70には、窒素原料ガスとしてのアンモニアを供給する窒素原料配管71と、ガリウム原料ガスとしてのトリメチルガリウム(TMG)を供給するガリウム原料配管72と、アルミニウム原料ガスとしてのトリメチルアルミニウム(TMAl)を供給するアルミニウム原料配管73と、ホウ素原料ガスとしてのトリエチルホウ素(TEB)を供給するホウ素原料配管74と、マグネシウム原料ガスとしてのエチルシクロペンタジエニルマグネシウム(EtCpMg)を供給するマグネシウム原料配管75と、シリコンの原料ガスとしてのシラン(SiH)を供給するシリコン原料配管76と、キャリヤガスを供給するキャリヤガス配管77とが接続されている。これらの原料配管71〜77には、それぞれバルブ81〜87が介装されている。各原料ガスは、いずれも水素もしくは窒素またはこれらの両方からなるキャリヤガスとともに供給されるようになっている。
【0064】
たとえば、(111)面を主面とするSi単結晶ウエハをウエハ65としてサセプタ62に保持させる。この状態で、バルブ81〜86は閉じておき、キャリヤガスバルブ87を開いて、処理室60内に、キャリヤガスが供給される。さらに、ヒータ61への通電が行われ、ウエハ温度が1000℃〜1100℃(たとえば、1050℃)まで昇温される。これにより、表面の荒れを生じさせることなくIII族窒化物半導体を成長させることができるようになる。
【0065】
ウエハ温度が1000℃〜1100℃に達するまで待機した後、窒素原料バルブ81およびアルミニウム原料バルブ83が開かれる。これにより、原料ガス供給路70から、キャリヤガスとともに、アンモニアおよびトリメチルアルミニウムが供給される。その結果、ウエハ65の表面に、AlN層47がエピタキシャル成長させられる。
次いで、第1AlGaN層48が形成される。すなわち、窒素原料バルブ81、ガリウム原料バルブ82およびアルミニウム原料バルブ83が開かれ、他のバルブ84〜86が閉じられる。これにより、ウエハ65に向けて、アンモニア、トリメチルガリウムおよびトリメチルアルミニウムが供給され、AlGaNからなる第1AlGaN層48が形成されることになる。この第1AlGaN層48の形成時には、ウエハ65の温度は、1000℃〜1100℃(たとえば1050℃)とされることが好ましい。
【0066】
次いで、第2AlGaN層49が形成される。すなわち、窒素原料バルブ81、ガリウム原料バルブ82およびアルミニウム原料バルブ83が開かれ、他のバルブ84〜86が閉じられる。これにより、ウエハ65に向けて、アンモニア、トリメチルガリウムおよびトリメチルアルミニウムが供給され、AlGaNからなる第2AlGaN層49が形成されることになる。この第2AlGaN層49の形成時には、ウエハ65の温度は、1000℃〜1100℃(たとえば1050℃)とされることが好ましい。
【0067】
次いで、GaN電子走行層45が形成される。GaN電子走行層45の形成に際しては、窒素原料バルブ81およびガリウム原料バルブ82を開いてアンモニアおよびトリメチルガリウムをウエハ65へと供給することによりGaN層を成長させる。そして、第2AlGaN層49上に所定の厚さのGaN層が成長した時点で、バルブ81,82を開いたまま、ホウ素原料バルブ84を開いてトリエチルホウ素をウエハ65へと供給する。これにより、GaN電子走行層45の厚さ方向途中部にBGaN部50を形成する。所定の厚さのBGaN部50の形成後、バルブ81,82を開いたまま、ホウ素原料バルブ84を閉じて、トリエチルホウ素の供給を停止する一方、GaN層の成長を継続する。これにより、BGaN部50が形成されたGaN電子走行層45を形成する。GaN電子走行層45の形成時には、ウエハ65の温度は、たとえば、1000℃〜1100℃(たとえば1050℃)とされることが好ましく、また、BGaN部50の形成時には、ウエハ65の温度は、たとえば、1000℃〜1100℃(たとえば1050℃)とされることが好ましい。
【0068】
次いで、AlGaN電子供給層46が形成される。すなわち、窒素原料バルブ81、ガリウム原料バルブ82およびアルミニウム原料バルブ83が開かれ、他のバルブ84,85が閉じられる。これにより、ウエハ65に向けて、アンモニア、トリメチルガリウムおよびトリメチルアルミニウムが供給され、AlGaN電子供給層46が形成されることになる。このAlGaN電子供給層46の形成時には、ウエハ65の温度は、1000℃〜1100℃(たとえば1050℃)とされることが好ましい。
【0069】
その後、ウエハ65が、常温で20分〜60分間放置され、冷却される。こうしてIII族窒化物半導体積層構造42が形成される。
以上のように、この実施形態によれば、GaN電子走行層45の途中部に層状のBGaN部50が形成されている。当該BGaN部50のBGaNとは、BN(窒化ホウ素)とGaN(窒化ガリウム)との混晶である。
【0070】
GaN電子走行層45の途中部に、高い絶縁性を有するBNがGaNとの混晶として含まれているので、GaN電子走行層45において、BGaN部50に対して厚さ方向AlGaN電子供給層46側と基板41側との間の導電性を小さくすることができる。これにより、ソース電極20Sとドレイン電極14Dとの間がオフになっているとき、ソース電極20Sから基板41へ向かうIII族窒化物半導体積層構造42の積層方向(縦方向)の電流路の発生を防止することができるか、または、発生しても当該電流路に流れる電流を小さくすることができる。その結果、HEMT素子3のオフ時におけるリーク電流を低減することができる。
【0071】
一方、バッファ層44のAlN層47、第1AlGaN層48および/または第2AlGaN層49は、GaNよりも高い絶縁性を有する窒化物半導体である。そのため、これらの窒化物半導体層47〜49を厚くすることにより、当該窒化物半導体層47〜49の直列抵抗を増やせば、リーク電流を低減できるかもしれない。しかしながら、これらの窒化物半導体層47〜49を厚くしすぎると、ウエハにクラックが発生するおそれがあるため、実用上不向きである。
【0072】
そこで、この実施形態では、GaN電子走行層45中に、GaNとの混晶として存在できるBGaN部50を設けることにより、リーク電流を低減することができ、同時に、窒化物半導体層47〜49の厚さを、それぞれ120nm(AlN層47)、140nm(第1AlGaN層48)、140nm(第2AlGaN層49)程度に留めることができる。その結果、ウエハにおけるクラックの発生も防止することができる。
【0073】
また、BGaN部50が、GaN電子走行層45におけるバッファ層44(第2AlGaN層49)との界面ではなく、GaN電子走行層45の途中においてその厚さ方向両側からGaN層によって挟まれている。そのため、ホウ素原子(B)と、ガリウム原子(Ga)および窒素原子(N)によって、ウルツ鉱型結晶構造を有する3元混晶のBGaNを精度よく形成することができる。一方、BGaN部50が、GaN電子走行層45における第2AlGaN層49との界面を形成するように設けられていると、BGaN結晶の不完全性に起因して、AlGaNバッファ層48,49からGaN電子走行層45へと伝達する圧縮応力が弱められてしまい好ましくない。圧縮応力が弱いと、クラックが発生する場合がある。
【0074】
そして、HEMT素子3を備えるHEMTパッケージ1は、HEMT素子3のトランジスタ動作のオフ時におけるリーク電流を低減することができるので、信頼性の高いパッケージを提供することができる。
また、この実施形態では、Si単結晶基板41上に、AlN層47、第1AlGaN層48(Al平均組成50%)および第2AlGaN層49(Al平均組成20%)をこの順で積層してなるバッファ層44が設けられており、GaN電子走行層45は、第2AlGaN層49の主面(c面)に接して形成されている。
【0075】
これにより、AlN層47からGaN電子走行層45までのa軸平均格子定数を、LC2(0.311nm)、LC3(0.314nm)およびLC4(0.316nm)とGaN電子走行層のa軸平均格子定数LC5(0.318nm)に近い値にまで段階的に大きくすることができる。そのため、GaN電子走行層45と、当該GaN電子走行層45に接する第2AlGaN層49とのa軸平均格子定数の差(LC5−LC4)を小さくすることができる。その結果、GaN電子走行層45の厚さを自由に設計することができる。よって、GaN電子走行層45を厚く設計することにより、HEMT素子3の耐圧を向上させることができる。
【0076】
また、AlN層47と第1AlGaN層48とのa軸平均格子定数差(LC3−LC2)に起因して第1AlGaN層48に加わる圧縮応力を、第2AlGaN層49にまで伝播させることができる。これにより、第2AlGaN層49のa軸平均格子定数LC4が、第2AlGaN層49に接する第1AlGaN層48のa軸面内格子定数LC3´よりも大きく、第2AlGaN層49が本来有するa軸平均格子定数よりも小さくなっている。つまり、第2AlGaN層49には、第1AlGaN層48のa軸面内格子定数LC3´に揃わない程度のa軸圧縮応力が加わっている。そして、このa軸圧縮応力を、GaN電子走行層45に加えることができる。
【0077】
そのため、III族窒化物半導体積層構造42の形成後の冷却中また冷却後に、基板41とGaN電子走行層45との線膨張係数の差(α5−α1)に起因する引張り応力がGaN電子走行層45に生じても、その引張り応力を、第2AlGaN層49からGaN電子走行層45に加えられる圧縮応力によって緩和することができる。
その結果、上記のように、GaN電子走行層45のc軸格子定数の歪み度を−0.07%以上0(ゼロ)以下にすることができ、すなわち、GaN電子走行層45を、クラックが発生しない程度のa軸引張り応力が加わった状態に保持することができる。よって、GaN電子走行層45のクラックおよび基板41の反りを軽減することができる。
【0078】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はさらに他の形態で実施することもできる。
たとえば、BGaNの組成は、HEMT素子3のリーク電流を低減できるのであれば、BGa1−xN(0.0<x<0.02)に限られない。また、BGaN部50の厚さも同様に、HEMT素子3のリーク電流を低減できるのであれば、5nmを超えていてもよい。
【0079】
また、基板41は、Si単結晶基板に代えて、GaN基板(たとえば、c面を主面とするGaN基板)、SiC基板(たとえば、c面を主面とするSiC基板)やサファイア基板(たとえば、c面を主面とするサファイア基板)で構成することもできる。基板41がGaN基板である場合、バッファ層44を省略することができる。
また、バッファ層44のAlGaN積層構造は、互いにAl組成の異なる2つのAlGaN層48,49で構成されている必要はなく、たとえば、AlN層47側から順に、第1AlGaN層(平均Al組成が、たとえば80%)、第2AlGaN層(平均Al組成が、たとえば60%)、第3AlGaN層(平均Al組成が、たとえば40%)および第4AlGaN層(平均Al組成が、たとえば20%)を積層して構成されていてもよい。また、互いにAl組成が異なる3つのAlGaN層、5つのAlGaN層、およびそれ以上の数のAlGaN層を積層して構成されていてもよい。
【0080】
また、バッファ層44は、図7に示すように、AlN層52の単一層からなっていてもよい。また、図8に示すように、AlN層53およびAlGaN層54が複数対交互に積層されたAlN/AlGaN超格子層55からなっていてもよい。また、図9に示すように、AlGaN層56およびGaN層57が複数対交互に積層されたAlGaN/GaN超格子層58からなっていてもよい。
【0081】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【実施例】
【0082】
次に、本発明を実施例および比較例に基づいて説明するが、この発明は下記の実施例によって限定されるものではない。
<実施例および比較例>
実施例および比較例は、本発明によるリーク電流および刃状転位密度の低減効果を証明するために行ったものである。
(1)実施例
まず、(111)面を主面とするSi単結晶基板の表面に、AlN層(120nm厚)をエピタキシャル成長させた。次いで、第1AlGaN層(平均Al組成50% 140nm厚)および第2AlGaN層(平均Al組成20% 140nm厚)を順にエピタキシャル成長させた。これにより、バッファ層を形成した。
【0083】
次いで、第2AlGaN層上に、GaN電子走行層(1000nm厚)およびAlGaN電子供給層を順に形成することにより、図10に示すIII族窒化物半導体積層構造を作製した。GaN電子走行層の成長の際、GaN電子走行層における第2AlGaN層との面から200nmの位置に、BGaN部(B組成0.5% 5nm厚)を形成した。
その後、AlGaN電子供給層上にソース電極およびドレイン電極を形成した。
【0084】
また、10nmの厚さを有するBGaN部および15nmの厚さを有するBGaN部が設けられたIII族窒化物半導体積層構造を、同様に作製した。
(2)比較例
BGaN部を形成しなかったこと(BGaN厚が0nm)以外は、実施例と同様の方法により、III族窒化物半導体積層構造を作製した。
<評価>
(1)リーク電流の測定
まず、ソース電極とドレイン電極との間において、AlGaN電子供給層の表面からGaN電子走行層の途中部(BGaN部の上方)までエッチングした。これにより、図10に示すように、2次元電子ガスをピンチオフした状態を発生させ、擬似的なオフ状態を形成した。
【0085】
そして、実施例(BGaN厚5nmの構造のみ)および比較例で得られたIII族窒化物半導体積層構造のソース−ドレイン間に電圧(100V)を印加したときのリーク電流を図11に示す。
図11により、GaN電子走行層にBGaN部が設けられた実施例の構造では、比較例の構造に比べて、リーク電流の大きさが約1桁減少していることがわかった(図11の黒い丸のプロット参照)。
(2)ロッキングカーブ測定
実施例および比較例で得られたIII族窒化物半導体積層構造のGaN電子走行層に対して、(1000)面のωスキャンによるX線ロッキングカーブ測定を行なった。測定により得られた半値幅を図11に示す。
【0086】
図11により、GaN電子走行層にBGaN部が設けられた実施例の構造では、比較例の構造に比べて半値幅(arcsec.:秒)が減少していることがわかった。これにより、GaN電子走行層の刃状転位密度を低減できることが確認された(図11の黒い三角のプロット参照)。
【符号の説明】
【0087】
1 HEMTパッケージ
3 HEMT素子
4 樹脂パッケージ
14D (ドレインパッドの)電極部
20S (ソースパッドの)電極部
25G (ゲートパッドの)電極部
41 基板
43 (基板の)主面
44 バッファ層
45 GaN電子走行層
46 AlGaN電子供給層
47 AlN層
48 第1AlGaN層
49 第2AlGaN層
50 BGaN部
52 AlN層
53 AlN層
54 AlGaN層
55 AlN/AlGaN超格子層
56 AlGaN層
57 GaN層
58 AlGaN/GaN超格子層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板と、
前記半導体基板上に形成されたGaN電子走行層と、
前記GaN電子走行層の厚さ方向途中部において、当該厚さ方向に直交する方向に沿って層状に形成されたBGaN部と、
前記GaN電子走行層上に形成されたAlGaN電子供給層と、
前記AlGaN電子供給層上において、互いに間隔を空けて形成されたソース電極およびドレイン電極と、
前記AlGaN電子供給層上において、前記ソース電極と前記ドレイン電極との間に形成されたゲート電極とを含む、窒化物半導体素子。
【請求項2】
前記BGaN部のBGaNが、ウルツ鉱型結晶構造を有している、請求項1に記載の窒化物半導体素子。
【請求項3】
前記BGaN部のBGaNが、BGa1−xN(0.0<x<0.02)で表される組成を有している、請求項1または2に記載の窒化物半導体素子。
【請求項4】
BGaNのB組成xが、0.0<x<0.005である、請求項3に記載の窒化物半導体素子。
【請求項5】
前記BGaN部の厚さが、5nm以下である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の窒化物半導体素子。
【請求項6】
前記BGaN部が、前記GaN電子走行層の厚さ方向中央位置よりも前記半導体基板側に形成されている、請求項1〜5のいずれか一項に記載の窒化物半導体素子。
【請求項7】
前記GaN電子走行層が500nm〜1500nmの厚さを有しており、
前記BGaN部が、前記GaN電子走行層の下端から100nm〜300nmの高さ位置に形成されている、請求項6に記載の窒化物半導体素子。
【請求項8】
前記GaN電子走行層と前記半導体基板との間に介在されたバッファ層をさらに含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の窒化物半導体素子。
【請求項9】
前記半導体基板が、Si基板である、請求項8に記載の窒化物半導体素子。
【請求項10】
前記バッファ層が、前記半導体基板上に形成されたAlN層と、当該AlN層上に形成され、複数のAlGaN層を積層して形成されたAlGaN積層構造とを含み、
前記AlGaN積層構造では、或る基準AlGaN層のAl組成が、当該基準AlGaN層よりも前記AlN層に近い側のAlGaN層のAl組成よりも小さい、請求項9に記載の窒化物半導体素子。
【請求項11】
前記AlGaN積層構造では、前記基準AlGaN層のAl組成(%)と、当該基準AlGaN層の前記AlN層側の面に接して配置されたAlGaN層のAl組成(%)との差が10%以上である、請求項10に記載の窒化物半導体素子。
【請求項12】
前記AlGaN積層構造が、前記AlN層から順に、Al組成が50%の第1AlGaN層およびAl組成が20%の第2AlGaN層が積層された構造からなる、請求項10または11に記載の窒化物半導体素子。
【請求項13】
前記バッファ層の主面の面方位がc面であり、
前記AlGaN積層構造では、前記基準AlGaN層のa軸平均格子定数が、当該基準AlGaN層の前記AlN層側の面に接して配置されたAlGaN層のa軸面内格子定数よりも大きく、当該基準AlGaN層が本来有するa軸平均格子定数よりも小さい、請求項10〜12のいずれか一項に記載の窒化物半導体素子。
【請求項14】
前記Si基板の前記主面が(111)面である、請求項9〜13のいずれか一項に記載の窒化物半導体素子。
【請求項15】
前記GaN電子走行層のc軸格子定数の歪み度が、−0.07%以上である、請求項14に記載の窒化物半導体素子。
【請求項16】
前記バッファ層が、前記半導体基板上に形成されたAlN層の単一層からなる、請求項8または9に記載の窒化物半導体素子。
【請求項17】
前記バッファ層が、AlN層およびAlGaN層を複数対交互に積層した超格子構造からなる、請求項8または9に記載の窒化物半導体素子。
【請求項18】
前記バッファ層が、AlGaN層およびGaN層を複数対交互に積層した超格子構造からなる、請求項8または9に記載の窒化物半導体素子。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれか一項に記載の窒化物半導体素子と、
前記窒化物半導体素子を覆うように形成された樹脂パッケージとを含む、窒化物半導体パッケージ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−109344(P2012−109344A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−255911(P2010−255911)
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】