説明

窒化物薄膜成膜装置

【課題】常圧下で窒化源を用いたIII−V族半導体薄膜の結晶成長を行う窒化物薄膜成膜装置において、ガスの流量を維持しつつ、成膜されるシリコン窒化膜の膜厚を均一にすることができる窒化物薄膜成膜装置を提供する
【解決手段】基板10の表面に、常圧下において窒化源を用いてIII−V族窒化物半導体薄膜を成膜するためのシランガスとアンモニアガスとを含むガスを供給源としてシリコン窒化膜を成膜する窒化物薄膜成膜装置100であって、基板が載置されるサセプタ12aと、サセプタを下面から加熱するヒータ13と、サセプタの上面の前記ヒータによる均熱領域内に、基板の上流側に設けた基板の上面より高さが高い石英製のリング(障壁部材)11とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化源を用いたIII−V族半導体薄膜の結晶成長を行う窒化物薄膜成膜装置において、シリコン窒化膜を形成させることが可能な窒化物薄膜成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
GaN系窒化物半導体は、高周波・高出力HEMT(High Electron Mobility Transistor)等の電子デバイスや、白色LED(Light Emitting Diode)や青色LD(Laser Diode)等の光デバイスへの応用が成功して以来、盛んに研究されている。
【0003】
これら、デバイスとして、HEMT、LED、LD等の素子作製のための結晶薄膜成膜方法として、主に有機金属化学気相成長(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition 以後、MOCVDと称す。)法が採用されている。
【0004】
MOCVD法により窒化物薄膜を基板上に成膜させるためには、III族である有機金属原料(TMG:トリメチルガリウム、TMA:トリメチルアルミニウム、TMI:トリメチルインジウム)、V族である窒素(N)原料であるアンモニア(NH)ガス、不純物濃度を制御するためのドーパント原料(n型ドーパント原料としてSiH:シランガス、p型ドーパント原料としてビスシクロペンタジエチルマグネシウム:CpMg)、及び、キャリアガス(H:水素、N:窒素)を薄膜成膜装置の反応室に導入し、加熱されたサセプタ上に載置された基板の表面に窒化物薄膜を気相成長させる(例えば、特許文献1及び非特許文献1を参照)。
【0005】
この、MOCVD法により窒化物薄膜を成長させるための条件として、
1)大量のアンモニアガスが導入されること、
2)常圧下での成長であること、
3)原料ガスを基板の表面に導入するまでの間で、III族有機金属原料とV族原料との反応を回避させるために、高いガス導入速度や各原料ガス間を分離して基板まで導入させること、等が挙げられる。
【0006】
これらの結晶成膜条件は、GaAs系やInP系のIII−V族半導体薄膜等の結晶成長条件とは大きく異なるもので、窒化物薄膜成膜装置の要件となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−100726号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】阿久津、徳永、脇、山口、松本;“横型三層流GaN-MOCVD装置(SR-2000)による窒化物半導体薄膜の成長” 日本酸素枝報N0.16(1997)pp.18-25
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
また、このような窒化物薄膜成膜装置は、GaN系窒化物半導体のみならず、前記したドーパント原料のシラン(例えば、モノシランやジシラン等)ガスとV族の原料であるアンモニアガスとを反応させて、シリコン窒化膜をCVD成膜させることも考えられる。
【0010】
シリコン窒化膜は、光デバイスや電子デバイスを作製するための重要な絶縁膜の一つであり、ゲート絶縁膜、層間絶縁膜、さらに、パッシベーション膜等に利用されていることは周知である。
【0011】
しかしながら、前記の窒化物薄膜成膜装置は、GaN、AlGaNやInGaN等のGaN系窒化物半導体の結晶成長のみを目的に装置設計されている。つまり、前記窒化物薄膜成膜装置でのGaN系窒化物半導体成長を行う条件は、シランガスを導入した場合のシリコン窒化膜の成膜条件としては問題がある。
【0012】
例えば、非特許文献1に開示されている窒化物薄膜成膜装置について、図2(a)及び図2(b)を参照して説明する。図2(a)は、窒化物薄膜成膜装置200の縦断面図であり、図2(b)は、窒化物薄膜成膜装置200の平面図である。
【0013】
窒化物薄膜成膜装置200は、装置全体をカバーするチャンバ19と、石英製の反応管18とを備えて構成されている。この反応管18は、ガス供給側に上下2つの流路が仕切板14によって分離されており、上部流路15は、前記した有機金属原料であるTMG、TMA、TMI、及び、ドーパント原料とキャリアガス等とが矢印方向に流れるIII族ラインAであり、下部流路16は、アンモニアやキャリアガス等が矢印方向に流れるV族ラインBである。そして、各流路の下流には、サセプタ12上に載置された基板(例えば、サファイア基板、SiC基板、シリコン基板等である。)10を加熱するヒータ13が配設されている。GaN系窒化物半導体の結晶成長は、2つの流路からの供給ガスとヒータ13によってサセプタ12上の基板10が昇温加熱されることとにより行われる。そして、反応管18の排気流路17から排気ラインCとして矢印方向に排気される。
【0014】
一般に、GaN系窒化物半導体の成長条件は、V/III比(III族である有機金属原料とV族であるアンモニアのモル比)が大きく、大量のアンモニアガスを必要とする。そのために、常圧下での結晶成長において大量のガスを導入した場合、導入したガスによって基板の周辺部が冷却されるために基板の表面温度分布が不均一となる。
【0015】
このように、基板の表面内に極端な温度分布が生ずると、窒化物薄膜の成膜レートに差が生じ、結果として成長膜厚が不均一となる。これらの問題を解決するため、ガスの総導入量を減少させることも考えられるが、ガスの流速が低下してしまう。さらに、ガス流速の低下により主に基板の上流側で反応が促進され、下流まで十分にソースが供給されず、やはり成長膜厚が不均一となってしまう。
【0016】
さらに、窒化物薄膜の成長温度は、1000℃乃至1100℃であり、他の化合物半導体(GaAs、InP)の成長温度の900℃乃至1000℃と比較して高いため、ガス流速が低い場合には、上昇気流により、さらに成長膜厚の不均一が発生する等の問題も生じる。もちろん、反応管を再設計する、例えば、反応管の断面積を小さくする等して、ガスの総導入量を抑えて流速を保つことも可能であるが、この場合には、前記のGaN系窒化物半導体の窒化物薄膜の最適成長条件を維持することが困難となってしまう。
【0017】
本発明は、前記問題点を解決するために創案されたものであり、常圧下において窒化源を用いたIII−V族半導体薄膜の結晶成長を行う窒化物薄膜成膜装置において、ガスの流量を維持しつつ、成膜されるシリコン窒化膜の膜厚を均一にすることができる窒化物薄膜成膜装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記目的を達成するために、本発明の窒化物薄膜成膜装置は、基板の表面に、常圧下において窒化源を用いてIII−V族窒化物半導体薄膜を成膜するためのシランガスとアンモニアガスとを含むガスを供給源としてシリコン窒化膜を成膜する窒化物薄膜成膜装置であって、前記基板が載置されるサセプタと、前記サセプタを下面から加熱するヒータと、前記サセプタの上面の前記ヒータによる均熱領域内に、前記基板の上流側に設けた前記基板の上面より高さが高い石英製の障壁部材とを備えることを特徴とする。
前記シランガスとアンモニアガスはそれぞれの流路を上下に分ける仕切板により個別に供給され、前記障壁部材の高さは、前記仕切板の位置と同程度、好ましくは前記仕切板の位置より高くすることが好ましい。
【0019】
このようにすることで、常圧下において窒化源を用いてIII−V族窒化物半導体薄膜の成膜する窒化物薄膜成膜装置において、大量のガス流量条件を維持しつつも、石英製の障壁部材を配設することにより、大量のガスが直接基板表面に触れることなくシリコン窒化膜を成膜することができる。
【0020】
また、本発明の窒化物薄膜成膜装置において、前記障壁部材は、下側が前記サセプタの上面に着脱可能に嵌入されていることが好ましい。このようにすることで、障壁部材の交換や洗浄等の保守作業を容易に行うことができる。
【0021】
そして、本発明の窒化物薄膜成膜装置において、前記基板は、円形であり、前記障壁部材は、前記基板よりも径が大きなリング形状であることが好ましい。このようにすることで、取扱い容易でかつ強固な障壁部材とすることができる。また、基板を自転させて成膜する場合には、リング状とすることでさらに効果を奏する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、常圧下において窒化源を用いたIII−V族半導体薄膜の結晶成長を行う窒化物薄膜成膜装置において、ガスの流量を維持しつつ、成膜されるシリコン窒化膜の膜厚を均一にすることができる窒化物薄膜成膜装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態の窒化物薄膜成膜装置を説明するための図であり、(a)は、縦断面図であり(b)は平面図である。
【図2】背景技術の窒化物薄膜成膜装置を説明するための図であり、(a)は、縦断面図であり、(b)は、平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(実施形態)
本発明の実施形態について図1を参照して説明する。図は、本発明の特徴が明確になるように記載されており、寸法関係等は、必ずしも実際のものに忠実に描いていないため、本発明を何ら制約するものではない。図1(a)及び図1(b)は、本実施形態の窒化物薄膜成膜装置100を説明するためのもので、(a)は、縦断面図であり(b)は平面図である。図中、背景技術の説明で参照した図2において、同様の機能効果を有する部位については、同様の符号を付してある。
【0025】
本発明の実施形態の窒化物薄膜成膜装置100は、前記背景技術において説明した窒化物薄膜成膜装置200と異なる点は、サセプタ12aに石英製のリング11を付加した構成となっている。
【0026】
具体的には、サセプタ12aに載置する基板10の外局部に浅く溝を掘り、この溝に石英製のリング11を嵌め込んでいる。基板10の加熱方法は、高周波誘導加熱でもヒータ13による抵抗加熱のどちらでもよい。リング11の材質は、基板加熱方法が誘導加熱である場合や、薄膜への不純物混入を避ける意味でも金属ではなく高純度の石英が望ましい。
【0027】
このリング11は、シランガスとアンモニアガスとを導入したシリコン窒化膜を成膜するときには、サセプタ12aに嵌入して使用されるが、GaN系窒化物半導体を結晶成長するときには、取り外してサセプタ12aのみを使用してGaN系窒化物半導体を結晶成長する。
【0028】
また、リング11の大きさは、総ガス流量によるので、ここでは特定しないが、具体例を一つ挙げるならば、ガスの流れる上下のギャップ、すなわち、基板10の表面と反応管18の対面との距離が7.5mmのとき、リング11の高さを4mmとした。本実施形態においては、このリング11の外径はヒータ13の外径よりも短く、かつ、サセプタ12aの上部に設置することによりサセプタ12aと同様に昇温することを特徴とする。
【0029】
図1(a)に示すように、本実施形態の窒化物薄膜成膜装置100は、装置全体をカバーするチャンバ19と、石英製の反応管18とを備えて構成されている。この反応管18は、ガス供給側に上下2つの流路が仕切板14によって分離されており、上部流路15は、III族の有機金属原料であるTMG、TMA、TMI、及び、ドーパント原料とキャリアガス等とが矢印方向に流れるラインAであり、下部流路16は、アンモニアやキャリアガス等が矢印方向に流れるV族ラインBとなっている。そして、反応管18の排気流路17から排気ラインCとして矢印方向に排気される。本実施形態においては、III族ラインAとV族ラインBとを入れ替えた構成でも構わない。
【0030】
また、窒化物薄膜成膜装置100は、下部流路16からサセプタ12a配設された基板10に向けてV族ガスが導入される際には、リング11によって、V族ガスの一部が上方向に流れを換えられるため、V族ガスが直接基板10には接触しない。しかもリング11は、ヒータ13により昇温されたサセプタ12aの上面に配設してあるため、V族ガスは、このリング11に当たることにより昇温する。これにより、大量のガスが直接基板に触れることによる基板周辺部の温度低下による表面温度分布の不均一性と、この表面温度分布の不均一性による成膜レートの差異の発生に起因する膜厚の不均一化の発生とが回避されることになる。
【0031】
表1には、本実施形態の窒化物薄膜成膜装置100において、標準成長条件として、シラン0.7%を100sccm、アンモニア99.999%を4SLM、基板温度は800℃としたときの、リング11がある場合と、リングを取り外した場合とにおいて、成膜したシリコン窒化膜の、それぞれの窒化シリコン膜の屈折率及び膜厚の均一性の測定結果を比較するために示した。ここで、均一性(Uniformity)とは、測定値の標準偏差(σ)を平均値(M)で除してパーセント表示((σ/M)×100:%)にしたものである。
【0032】
【表1】

【0033】
表1に示すように、リング11を使用した場合の標準条件でのシリコン窒化膜の成膜では、屈折率の均一性が0.63%、膜厚の均一性が2.28%であったのに対し、リング11が無い場合の標準条件での窒化シリコンの成膜では、屈折率の均一性が2.35%、膜厚の均一性が2.46%であった
【0034】
石英製のリング11を設置してシリコン窒化膜を成膜することにより、膜厚の均一性を保持又は10%程度改善しながら、屈折率の均一性を1/4に大幅に改善することが確かめられ、本実施形態の有効性を実験的に確かめることができた。
【0035】
本実施形態の窒化物薄膜成膜装置100によれば、均一性に優れたシリコン窒化膜およびGaN系窒化物半導体を同一の装置で成長可能な方法を提供できる。さらに石英リングのような加工が簡単で安価な耐久性を有する治具を用いるため、窒化物薄膜成膜装置100の取扱いは極めて簡便になる。
【0036】
また、石英製のリング11は、サセプタ12aと一体になっている構造では無いことにより、リング11の形状効果の実験や、成膜工程の繰り返しによりリング11に薄膜が堆積した場合など、フレークが発生する前に交換することで容易にメンテナンスができる。
【0037】
本実施形態の窒化物薄膜成膜装置100は、主に窒化物半導体、特に高周波・高出力HEMTや白色LED、青色LDに用いられるGaN、AlGaN、InGaN及びこれら薄膜上に積層する絶縁膜としてのシリコン窒化膜の成膜装置として好適である。
【符号の説明】
【0038】
10 基板
11 リング(石英製の障壁部材)
12、12a サセプタ
13 ヒータ
14 仕切板
15 上部流路
16 下部流路
17 排気流路
18 反応管
19 チャンバ
100、200 窒化物薄膜成膜装置
A III族ライン
B V族ライン
C 排気ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面に、常圧下において窒化源を用いてIII−V族窒化物半導体薄膜を成膜するためのシランガスとアンモニアガスとを含むガスを供給源としてシリコン窒化膜を成膜する窒化物薄膜成膜装置であって、
前記基板が載置されるサセプタと、
前記サセプタを下面から加熱するヒータと、
前記サセプタの上面の前記ヒータによる均熱領域内に、前記基板の上流側に設けた前記基板の上面より高さが高い石英製の障壁部材と
を備えることを特徴とする窒化物薄膜成膜装置。
【請求項2】
前記障壁部材は、下側が前記サセプタの上面に着脱可能に嵌入されている
ことを特徴とする請求項1に記載の窒化物薄膜成膜装置。
【請求項3】
前記基板は、円形であり、
前記障壁部材は、前記基板よりも径が大きなリング形状である
ことを特徴とする請求項1に記載の窒化物薄膜成膜装置。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−77315(P2011−77315A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−227588(P2009−227588)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【Fターム(参考)】