説明

立体構造物のコーティング装置およびコーティング方法

【課題】立体構造物に均一なコーティング剤の皮膜を形成する立体構造物のコーティング装置およびコーティング方法を提供する。
【解決手段】収容室21にコーティング剤を供給して半導体装置40を浸漬した後、収容室21からコーティング剤を回収して半導体装置40コーティング剤を塗布する。その後、回転駆動部38によりコーティング剤を塗布した半導体装置40を所望のコーティング剤の膜厚ごとに予め設定されている回転数で収容タンク11とともに回転駆動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は立体構造物に流動性のコーティング剤の皮膜を形成するコーティング装置およびコーティング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、対象物を収容タンク内に収容してコーティング剤に浸漬することにより、対象物にコーティング剤の皮膜を形成するコーティング装置が公知である。例えば特許文献1に記載されているコーティング装置は、対象物をコーティング剤に浸漬し、立体構造の内側にコーティング剤を添付している。そして、このコーティング装置は、重力および空気の吹き出しによってコーティング剤の液切りを行う。その結果、対象物は、コーティング剤の皮膜が形成される。
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載されたコーティング装置は、重力によってコーティング剤が対象物の下端側溜まる。このため、コーティング剤の皮膜は、対象物の上端側と下端側とで膜厚が異なる。また、このコーティング装置は、空気が直接吹き付けられる部位の膜厚が直接吹き付けられない部位の膜厚よりも薄くなる。つまり、このようなコーティング装置は、対象物に均一なコーティング剤の皮膜を形成することが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−91082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的は、立体構造物に均一なコーティング剤の皮膜を形成する立体構造物のコーティング装置およびコーティング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明では、対象物(40)は、収容室(21、102)に供給されたコーティング剤に浸漬される。このとき、立体的な構造を有する対象物(40)は、その立体構造の内側までコーティング剤が塗布される。続いて、回転駆動部(38)は、収容室(21、102)から余剰なコーティング剤が回収された後、コーティング剤が塗布された対象物(40)を所望のコーティング剤の膜厚ごとに予め設定されている回転数で回転駆動する。このとき、対象物(40)に塗布されたコーティング剤は、回転駆動時に働く遠心力によって余剰分が対象物から除去される。また、対象物(40)に塗布されたコーティング剤は、遠心力によって拡散して膜厚が均一になる。したがって、立体的な構造を有する対象物(40)である立体構造物にコーティング剤の均一な皮膜を形成することができる。
【0007】
請求項2の発明では、収容室(21、102)は、第一型部材(15、103)と第二型部材(16、104)とにより形成されている。そして、回転駆動部(38)は、収容タンク(11、101)を回転駆動する場合、第一型部材(15、103)と第二型部材(16、104)とを組み合わせた状態で回転駆動する。つまり、回転駆動部(38)は、コーティング剤を塗布された対象物(40)を収容室(21、102)に収容した状態で収容タンク(11、101)を回転駆動する。この場合、対象物(40)に塗布されたコーティング剤は、収容室(21、102)の外部に飛散することがない。したがって、飛散したコーティング剤で収容タンク(11、101)の設置場所や周囲の環境を汚染することがない。また、対象物(40)から飛散した余剰のコーティング剤は収容室(21、102)内に留まる。したがって、コーティング剤を次回の塗布時に再利用することができる。
【0008】
請求項3の発明では、コーティング剤供給部(39)は、コーティング剤のうち少なくとも一部を収容室(21、102)内または配管部材(13)内に残存した状態で余剰のコーティング剤を回収する。この場合、残存したコーティング剤は、次回の塗布時に、再び収容室(21、102)に供給される。したがって、コーティング剤を再利用することができる。また、コーティング剤が収容室(21、102)内または配管部材(13)内に残存していることから、収容室(21、102)内の空気が貯留タンク(14)に流入することがない。これにより、貯留タンク(14)内のコーティング剤は、余分な空気に接触することが抑制される。したがって、コーティング剤の劣化や特性の変化を抑制することができる。
【0009】
請求項4の発明では、対象物(40)がコーティング剤に露出することを抑制する封止部材(53、531、532)を設けている。このため、対象物(40)のうち封止部材(53、531、532)が設けられている部位は、コーティング剤に接触することがない。したがって、対象物(40)のうちコーティング剤の塗布が不要あるいは禁止されている部位へのコーティング剤の塗布を選択的に抑制することができる。
【0010】
請求項5の発明では、収容タンク(11、101)は、複数の収容室(21、102)を有している。これにより、複数の対象物(40)へのコーティング剤の塗布および膜厚の調整が一度に行われる。したがって、コーティング処理時の作業効率を向上させることができる。
【0011】
請求項6の発明では、収容室(21、102)内を減圧する減圧部(105)を備えている。コーティング剤は、空気に接触すると特性が変化したり性能が劣化したりするおそれがある。そして、コーティング剤を回収した場合、対象物(40)に形成された皮膜は空気に接触してしまう。そのため、収容室(21、102)内を脱気して減圧状態にすることにより、コーティング剤の皮膜が空気に接触することを抑制する。これにより、コーティング剤の特性の変化や性能の劣化を抑制することができる。
【0012】
請求項7の発明では、収容工程で対象物(40)を収容タンク(11、101)の収容室(21、102)に収容した後、塗布工程で収容室にコーティング剤を供給して対象物(40)にコーティング剤を塗布する。続いて、膜厚調整工程でコーティング剤の余剰分を回収した後、対象物(40)を収容している収容タンク(11、101)を回転駆動する。このとき、回転駆動時に生じる遠心力により、コーティング剤の膜厚が調整される。したがって、対象物(40)にコーティング剤の皮膜を均一な厚みで形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1実施形態によるコーティング装置の構成を概略的に示す図
【図2】第1実施形態の半導体装置を概略的に示す斜視図
【図3】第1実施形態によるコーティング方法の手順を示す図
【図4】第1実施形態の半導体装置の塗布禁止領域を模式的に示す図
【図5】第1実施形態によるコーティング装置を概略的に示す平面図
【図6】第1実施形態の回転数とコーティング剤の膜厚との関係を示す図
【図7】第1実施形態のコーティング剤の膜厚と密着強度との関係を示す図
【図8】第2実施形態によるコーティング装置の構成を概略的に示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、立体構造物のコーティング装置の実施形態について図面を参照しながら説明する。以下に説明する複数の実施形態では実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0015】
(第1実施形態)
第1実施形態による立体構造物のコーティング装置およびコーティング方法を図1から図7を参照して説明する。以下、立体構造物のコーティング装置を単にコーティング装置と称する。
【0016】
図1に示すように、コーティング装置10は、収容タンク11、回転軸部材12、配管部材13および貯留タンク14を備えている。以下、図1に示すように、天地方向を上下として説明する。収容タンク11は、金属材料などにより形成されている。金属材料は、例えばステンレス鋼やアルミニウムなどである。なお、収容タンク11は、樹脂材料などの他の材料で形成してもよい。収容タンク11は、上下方向の中央部付近で分割され。収容タンク11は、分割されたときに上側の第一型部材15および下側の第二型部材16を有している。第一型部材15は、その下面に、第一型部材15の内側即ち下面から上方向に窪んだ第一凹部17を有している。また、第一型部材15は、その上面に空気孔18および確認孔19が形成されている。空気孔18および確認孔19は、それぞれ第一型部材15の外壁と内壁とを接続している。一方、第二型部材16は、その上面に、第二型部材の内側即ち上面から下方に窪んだ第二凹部20を有している。これら第一型部材15および第二型部材16は、互いに組み合わされることにより、収容タンク11内に収容室21を形成している。この場合、第一型部材15の第一凹部17は、収容室21の蓋部22および上端側壁部23を形成している。また、第二型部材16の第二凹部20は、収容室21の底部24および下端側壁部25を形成している。
【0017】
第一型部材15の空気孔18および確認孔19は、収容タンク11の上部側において、収容室21と収容タンク11の外部とを接続している。空気孔18は、収容室21に貯留タンク14からコーティング剤が供給されたとき、収容室21内の空気を排出する。確認孔19の上方には、供給量検知部26が設けられている。供給量検知部26は、確認孔19を通して収容室21の内部に供給されたコーティング剤の供給量を検知する。供給量検知部26は、例えば光学式変位計や周知の水位計など任意の方式により、コーティング液の供給量を検知する。この供給量検知部26は、検知した供給量に対応した電気信号などを出力する。
【0018】
また、第一型部材15は、上面に、径方向の中心部から上方に延びる第一突起部27を有している。第一突起部27は、摺動部材28を介して固定軸部材29に接続している。摺動部材28は、本実施形態ではベアリングを用いている。摺動部材28は、固定軸部材29と収容タンク11との間で相対的な回転を許容する。固定軸部材29は、コーティング装置10を設置する図示しない構造物に固定されている。
【0019】
第二型部材16は、下面側の径方向中心部に下部開口30が形成されている。また、第二型部材16は、収容室21の底部24に相当する第二凹部20に複数の上部開口31が形成されている。図1では、簡略化のため2個の上部開口31を示している。これら下部開口30および上部開口31は、第二型部材16の内部に設けられている内部配管32で接続されている。つまり、内部配管32は、収容室21と収容タンク11の外部とを接続している。また、内部配管32は、下部開口30から各上部開口31までの配管長が同じになるように形成されている。
【0020】
回転軸部材12は、第二型部材16の下面即ち収容タンク11の下面に設けられている。回転軸部材12は、図示しないねじなどの取り付け治具により第二型部材16に固定されている。回転軸部材12は、第二型部材16の下部開口30を覆うように設けられている。回転軸部材12は、図示しないモータなどの駆動手段から供給される駆動力により回転する。この回転軸部材12は、下部開口30と同軸、且つ、固定軸部材29と同軸に設けられている。そのため、回転軸部材12は、自身の回転軸と、固定軸部材29および下部開口30の中心軸とが一致した状態で回転する。
【0021】
また、回転軸部材12は、下部開口30に対応する位置に、回転軸配管33を有している。回転軸配管33は、下部開口30に対応する位置において、回転軸部材12の上面と下面とを接続している。この回転軸配管33は、第一パッキン34および第二パッキン35を挟んで配管部材13に接続している。第一パッキン34は、回転軸部材12に固定されている。一方、第二パッキン35は、配管部材13に固定されている。これら第一パッキン34および第二パッキン35は、互いに液密且つ摺動可能に設けられている。このため、収容タンク11は、配管部材13に対して相対的に回転する。これら回転軸配管33および配管部材13は、互いに同軸に設けられている。つまり、配管部材13は、天地方向即ち上下方向に延びている。
【0022】
このように、収容タンク11は、上方から固定軸部材29により押さえられ、下方から配管部材13に支持された状態で、固定軸部材29および配管部材13に対して相対的に回転する。この場合、収容タンク11は、回転軸部材12、回転軸配管33および配管部材13のそれぞれに対して同軸に、地面に対して水平に回転する。ここで、水平とは、大地に対して概ね水平であればよく、若干傾いた状態をも含んでいる。
【0023】
配管部材13は、回転軸部材12と反対側の端部が貯留タンク14に接続している。貯留タンク14は、対象物に塗布するコーティング剤を貯留している。本実施形態の場合、コーティング剤は、粘度が比較的小さく流動性の高い液状のポリアミド樹脂系を用いている。また、配管部材13は、回転軸部材12と貯留タンク14との間にポンプ36を有している。ポンプ36は、貯留タンク14に貯留されているコーティング剤を収容タンク11の収容室21に供給する。コーティング剤の供給時には、収容室21内の空気は、コーティング剤が供給されるに伴って空気孔18から収容室21の外部に排出される。また、ポンプ36は、収容室21に供給されたコーティング剤を貯留タンク14に回収する。
【0024】
回転軸部材12、供給量検知部26およびポンプ36は、制御部37に接続している。制御部37は、図示しないCPU、ROMおよびRAMなどを有するマイクロコンピュータにより構成されている。制御部37は、ROMなどに記憶されているコンピュータプログラムに従って回転軸部材12およびポンプ36の作動を制御する。具体的には、制御部37は、回転軸部材12の図示しないモータに駆動信号を出力することにより、回転軸部材12を回転駆動する。つまり、制御部37は、回転軸部材12とともに、特許請求の範囲に記載した回転駆動部38を構成している。また、制御部37は、ポンプ36に対して駆動信号を出力することにより、コーティング剤の供給および回収を制御する。つまり、制御部37は、ポンプ36とともに、特許請求の範囲に記載したコーティング剤供給部39を構成している。制御部37は、コーティング剤を供給するとき、供給量検知部26で検知したコーティング剤の供給量に基づいてポンプ36の駆動を制御する。
【0025】
収容室21には、コーティング剤を塗布する対象物が収容される。対象物は、本実施形態では、一例として半導体装置40を想定する。対象物としての半導体装置40は、図2に示すように、半導体チップ41を2枚のヒートシンク42およびヒートシンク43によって挟んだ構成になっている。半導体チップ41は、一方のヒートシンク42にはんだ付けされている。また、半導体チップ41は、最終的に、ヒートシンク43にもはんだ付けされる。ヒートシンク42は、長方形形状に形成されたアイランド44と、アイランド44から外側に延びるリードフレーム45、アイランド44のリードフレーム45と反対側から延びる端子46を有している。また、リードフレーム45は、複数のリード47を有している。各リード47は、タイバー48によってリードフレーム45に繋がれている。半導体チップ41と各リード47とは、ボンディングワイヤ49によって接続される。一方、ヒートシンク43は、長方形形状に形成されたアイランド50と、アイランド50から端子46と同じ方向に延びる端子51を有している。
【0026】
ヒートシンク42のリードフレーム45および端子46は、アイランド44側の端部付近に折り曲げ部52を有している。また、ヒートシンク43の端子51も、アイランド50側の端部付近に折り曲げ部52を有している。このため、半導体チップ41と各ヒートシンク42、43とを半田付けした状態では、半導体チップ41、リードフレーム45、端子46、リード47および端子51は、概ね同一平面上に位置する。つまり、半導体装置40は、立体的な構造を有する立体構造物であり、その立体構造の内側に半導体チップ41が設けられている。換言すると、半導体装置40は、ヒートシンク42とヒートシンク43との間に隙間を有した平板状に形成されている。このような半導体装置40は、コーティング剤が塗布された後、樹脂封止が行われる。本実施形態の場合、半導体装置40は、電源回路などに用いられる自己発熱が比較的大きいものを想定している。
【0027】
次に上記したコーティング装置10の細部の詳細を説明するとともに、コーティング装置10を用いたコーティング方法について説明する。具体的には、半導体装置40にコーティング剤を塗布するコーティング処理の流れとともに説明する。
コーティング処理は、図4に示すように、ステップS1としてまず収容工程が行われる。収容工程は、収容タンク11に対象物としての半導体装置40を収容する工程である。この収容工程では、半導体装置40は、上下に分離した収容タンク11の第二型部材16に設置された後、上方から第一型部材15により挟み込まれる。
【0028】
ところで、半導体装置40には、図3(A)〜(C)に示すように、コーティング剤の塗布が必要な塗布必要領域と、コーティング剤を塗布しない塗布禁止領域とが設けられている。図3(A)〜(C)は、塗布禁止領域を模式的にハッチングにより示している。ここで、図3(A)に示す上面は、半導体装置40においてアイランド44の半導体チップ41と反対側の面である。また、図3(C)に示す下面は、半導体装置40においてアイランド50の半導体チップ41と反対側の面である。半導体装置40は、概ね折り曲げ部52よりも若干外側に位置する仮想的な線である仮想線L1および仮想線L2よりも外側の部位が塗布禁止領域に設定されている。また、半導体装置40は、アイランド44およびアイランド50の半導体チップ41と反対側の面が塗布禁止領域になっている。一方、半導体装置40は、仮想線L1、L2よりも内側の領域、および各アイランドの半導体チップ41が半田付けされている側の面が塗布必要領域になっている。
【0029】
そこで、収容工程では、図1に示すように、封止部材としてのシール部材53を設けている。シール部材53は、収容室21の図示左方の最外縁において仮想線L1に相当する位置、および収容室21の図示右方の最外縁側において仮想線L2に相当する位置に設けられている。シール部材53、半導体装置40のリードフレーム45と端子46、51とを上下から封止する。具体的には、シール部材53は、下面側の下部シール部材531と上面側の上部シール部材532とを有している。リードフレーム45および端子46、51は、それぞれ、下面側が下部シール部材531により封止され、上面側が上部シール部材532により封止される。これにより、収容室21にコーティング剤が供給された場合であっても、塗布禁止領域はコーティング剤に接触することがない。
【0030】
さて、この収容工程において半導体装置40を設置する位置がずれると、シール部材53により封止される塗布禁止領域の位置がずれるおそれがある。そこで、コーティング装置10は、第二型部材16に位置決め用の凸部54を設けている。この凸部54は、第二型部材16の上面から上方に突出している。半導体装置40は、図5に示すように、リードフレーム45のタイバー48が凸部54と当接することにより図示左右方向の位置が位置決めされる。また、半導体装置40は、第二型部材16に設けられている図示しない移動制限部によって、図示上下方向の位置も位置決めされている。なお、位置決め用の凸部54や移動制限部は、第一型部材15に設けてもよい。また、凸部54は複数設けてもよい。
【0031】
続いて、半導体装置40が設置された第二型部材16は、上方から第一型部材15が取り付けられる。このとき、第一型部材15は、図示しないねじなどの取り付け治具により第二型部材16に固定される。その結果、半導体装置40は、収容室21に収容される。その後、収容タンク11の第一突起部27は、摺動部材28を介して固定軸部材29が上方から接続される。半導体装置40は、収容室21に収容される。このとき、半導体装置40は、その上面が第一型部材15の第一凹部17に密着する。ここで、上面は、アイランド44の半導体チップ41と反対側の面である。また、半導体装置40は、その底面がアイランド50の外周を囲って形成されている支持部55によって支持される。ここで、下面は、アイランド50の半導体チップ41と反対側の面である。これにより、半導体装置40の上面および底面は、コーティング剤との接触が抑制されている。つまり、半導体装置40は、上面が第一凹部17により封止され、底面が支持部55により封止されている。この場合、収容室11の蓋部22の半導体装置40の上面に対応する位置にシール部材を設け、半導体装置40の上面と蓋部22との接触を密にしてもよい。また、支持部55にも半導体装置40の下面側との接触を密にするシール部材を設けてもよい。
【0032】
このように、半導体装置40は、上面および底面と回転軸部材12の回転軸とが垂直になった状態で収容室21内に収容される。このとき、半導体装置40は、第二型部材16により下方から支持される。また、半導体装置40は、リードフレーム45および端子46がシール部材53を介して第一型部材15および第二型部材16により狭持されている。つまり、半導体装置40は、コーティング剤を塗布する塗布必要領域以外の部位が第一型部材15および第二型部材16により支持されている。換言すると、塗布必要領域は、その全体が収容室21に露出している。このとき、収容タンク11の回転軸は、概ね半導体装置40のアイランド44、50の中央付近に位置している。また、収容室21は、内部配管32および回転軸配管33を介して配管部材13ひいては貯留タンク14に接続されている。
【0033】
続いて、図3に示すステップS2の塗布工程が行われる。この塗布工程において、制御部37は、ポンプ36を駆動して貯留タンク14に貯留されているコーティング剤を収容室21に供給する。この場合、コーティング剤は、配管部材13、回転軸配管33、第二型部材16の下部開口30および内部配管32により形成される供給経路を流れて図1に矢印Xで示すように収容室21側の各上部開口31から収容室21に供給される。上記したように、第二型部材16内の内部配管32は下部開口30から上部開口31までの配管長が同じである。そのため、コーティング剤は、各上部開口31から均等な流量且つ同じタイミングで収容室21に供給される。
【0034】
そして、制御部37は、供給量検知部26で検知した収容室21内のコーティング剤の量が予め設定されている量になると、ポンプ36の駆動を停止する。この場合、制御部37は、半導体装置40を浸漬するのに十分な量のコーティング液が収容室21内に供給されるとポンプ36の駆動を停止する。これにより、半導体装置40は、コーティング剤に浸漬される。このとき、半導体装置40は、シール部材53などにより封止されている塗布禁止領域以外の部位がコーティング剤に接触する。また、上記したように、コーティング剤は、半導体装置40の内側にも流入する。このため、半導体装置40は、ヒートシンク42とヒートシンク42が対向する面側、即ち、半導体チップ41が設けられている側の面もコーティング剤に接触する。
【0035】
続いて、制御部37は、半導体装置40を所定の浸漬時間になるまで浸漬する。その後、制御部37は、ポンプ36を駆動して収容室21内のコーティング剤を回収する。この場合、制御部37は、供給時とは逆方向にコーティング剤が流れるようにポンプ36を駆動する。これにより、余剰分のコーティング剤は、図1に矢印Yで示すように収容室21から貯留タンク14に回収される。このとき、制御部37は、コーティング剤の一部を収容室21および配管部材13の少なくとも一方に残存した状態で回収する。具体的には、制御部37は、コーティング剤を、収容室21、第二型部材16の内部配管32、回転軸配管33あるいは配管部材13に残存させた状態でポンプ36の駆動を停止する。ここで、収容室21内にコーティング剤を残存する場合には、コーティング剤は、半導体装置40に接触しない程度の量が残存する。この場合、供給量検知部26で検知したコーティング剤の残量などに基づいて、コーティング剤を回収するためのポンプ36の駆動を制御する。
【0036】
コーティング剤が回収されると、半導体装置40は、塗布必要領域にコーティング剤が塗布された状態になる。このように、コーティング装置10は、収容室21にコーティング剤を供給し、半導体装置40を浸漬した後、余剰のコーティング剤を回収することにより、半導体装置40にコーティング剤の皮膜を形成する。
【0037】
続いて、図3に示すステップS3の膜厚調整工程が行われる。この膜厚調整工程は、収容タンク11を回転駆動することにより、コーティング剤の皮膜の膜厚を調整する工程である。この場合、制御部37は、半導体装置40に形成するコーティング剤の皮膜の膜厚ごとに予め設定されている回転数で収容タンク11を回転駆動する。ここで、コーティング剤の皮膜の膜厚と回転数との関係について説明する。図6に示すように、コーティング剤の皮膜の膜厚は、回転数が大きくなるにつれて薄くなる。換言すると、コーティング剤の皮膜の膜厚は、回転数を制御することにより調整が可能である。
【0038】
ところで、コーティング剤は、半導体装置40と樹脂封止との接着機能を有している。その場合、半導体装置40と樹脂封止とは、所定の密着強度が求められる。そして、密着強度は、コーティング剤の膜厚と相関関係を有している。コーティング剤の膜厚は、図7に示すように、膜厚が薄くなると急激に低下する一方、膜厚が厚くなった場合にも徐々に低下する。つまり、コーティング剤の膜厚は、必要な密着強度に適した最適範囲が存在する。本実施形態の半導体装置40の場合、密着強度は、コーティング剤の膜厚が概ね5μmで最高になり、膜厚が5μmから離れるにつれて低下する。このため、制御部37は、密着強度が最適範囲になるように、1000rpm程度で収容タンク11を回転駆動する。この最適範囲および対応する回転数は、半導体装置40ごとに予め設定されてROMなどに記憶されている。なお、必要とされる密着強度は対象物の種類や形状によって変化する。そのため、最適範囲および対応する回転数は、対象物に応じて適宜設定すればよい。例えば、必要な密着強度以上になる膜厚の範囲を最適範囲と設定してもよいし、密着強度の最高値から数%低下した下限値までに相当する膜厚の範囲を最適範囲と設定してもよい。
【0039】
制御部37は、設定されている最適範囲に対応する回転数となるように駆動信号を出力する。本実施形態の場合、制御部37は、密着強度が最高になる5μmの膜厚を形成するためにおよそ1000rpmの回転数を選択する。そして、制御部37は、回転軸部材12に1000rpmに対応する駆動信号を出力する。これにより、半導体装置40は、収容タンク11とともに回転駆動される。このとき、半導体装置40の塗布されたコーティング剤は、遠心力により余剰分が飛散する。また、半導体装置40の塗布されたコーティング剤は、遠心力により水平方向に拡散する。その結果、半導体装置40は、所定且つ均一な膜厚のコーティング剤の皮膜が形成される。この場合、回転軸部材12を回転駆動する時間は予め設定されている。
【0040】
このようにコーティング処理が終了すると、半導体装置40は、図示しない樹脂封止工程に送られる。樹脂封止工程では、半導体装置40は、各アイランド44、50の外側即ち半導体チップ41と反対側の面を露出した状態で樹脂封止される。その後、リードフレーム45およびリードフレーム45の余剰部位を切断することにより、樹脂封止からリード47、端子46および端子46が露出した樹脂封止型の半導体装置が完成する。
【0041】
以上説明した本実施形態のコーティング装置10によれば、次のような効果を得ることができる。
コーティング装置10は、対象物を収容した収容室21にコーティング剤を供給することにより、対象物をコーティング剤に浸漬する。このとき、比較的流動性の高いコーティング剤を用いていることから、対象物は、立体的な構造を有する場合であってもその立体構造の内側までコーティング剤が塗布される。収容室21から余剰なコーティング剤を回収した後、回転駆動部38は、コーティング剤を塗布した対象物を所望のコーティング剤の膜厚ごとに予め設定されている回転数で回転駆動する。対象物に塗布されたコーティング剤は、回転駆動時に働く遠心力によって余剰分が対象物から除去される。つまり、コーティング装置10は、収容タンク11を対象物ごと回転駆動することにより、余分なコーティング剤の液切りを行っている。また、回転駆動時の遠心力によって、対象物に塗布されたコーティング剤は、水平方向に拡散する。これにより、コーティング剤は、半導体装置40の表面に膜厚が均一な皮膜を形成する。したがって、立体的な構造を有する対象物である立体構造物に、コーティング剤の均一な皮膜を形成することができる。
【0042】
コーティング装置10は、収容室21を形成する第一型部材15と第二型部材16とを有している。そして、対象物である半導体装置40を収容室21に収容する場合、第一型部材15と第二型部材16とは分離した状態で半導体装置40を収容する。したがって、半導体装置40を容易に収容することができる。
コーティング装置10は、シール部材53によって半導体装置40の塗布禁止領域を封止している。これにより、半導体装置40のシール部材53が設けられている部位は、コーティング剤に接触することがない。したがって、半導体装置40のうちコーティング剤の塗布が不要あるいは禁止されている部位へのコーティング剤の塗布を選択的に抑制することができる。
【0043】
コーティング装置10は、余剰のコーティング剤を貯留タンク14に回収する。回収されたコーティング剤は、次回の塗布時に、再び収容室21に供給される。したがって、コーティング剤を再利用することができる。
コーティング装置10は、コーティング剤を回収するとき、コーティング剤の少なくとも一部を収容室21内または配管部材13内に残存した状態で回収する。この場合、コーティング剤は、収容室21または配管部材13側、即ち、塗布タンクよりも収容室21に近い側に残存する。このため、次回のコーティング処理時におけるコーティング剤の供給時間は、貯留タンク14からコーティング剤を供給する場合に比べて短縮される。したがって、作業効率を向上させることができる。
【0044】
また、コーティング剤を収容室21内または配管部材13内に残存することにより、収容室21内の空気は、貯留タンク14に流入することがない。このため、貯留タンク14内のコーティング剤は、余分な空気に接触することがない。したがって、空気に接触した場合に起こりえるコーティング剤の劣化や特性の変化を抑制することができる。
【0045】
コーティング装置10は、収容タンク11を回転駆動する場合、第一型部材15と第二型部材16とを組み合わせた状態で回転駆動する。つまり、回転駆動部38は、コーティング剤を塗布された対象物を収容室21に収容した状態で収容タンク11を回転駆動する。この場合、対象物に塗布されたコーティング剤は、収容室21に留まり、収容室21の外部に飛散することがない。したがって、コーティング装置10の設置場所を飛散したコーティング剤で汚染することがない。このとき、対象物から飛散した余剰のコーティング剤は、収容室21内に留まることから、次回のコーティング処理時に再利用することができる。
【0046】
上記した収容工程、塗布工程および膜厚調整工程を含むコーティング処理によりコーティング剤を塗布することにより、対象物にコーティング剤の皮膜を均一な厚みで形成することができる。
【0047】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態によるコーティング装置を図8を参照して説明する。第2実施形態におけるコーティング方法は、第1実施形態と同様であるので、図4も参照して説明する。また、第2実施形態でも、対象物として半導体装置を想定している。
図8に示すように、第2実施形態のコーティング装置100は、収容タンク101内に複数の収容室102を有している。これらの収容室102は、第一型部材103に設けられている複数の第一凹部17と、第二型部材104に設けられている複数の第二凹部20により形成されている。また、第二型部材104の内部配管32は、それぞれの収容室102に接続している。この場合、第二型部材104の下部開口30と各収容室21の上部開口31との配管長は、同じになるように形成されている。
【0048】
コーティング装置100は、第1実施形態と同様に、図4に示すコーティング処理を行う。具体的には、コーティング装置100は、収容工程では半導体装置40の位置決めやシール部材53による封止が行われる。また、コーティング装置100は、塗布工程では供給したコーティング剤への半導体装置40の浸漬や余剰のコーティング液の回収が行われ、コーティング剤を半導体装置40に塗布する。続いて、コーティング装置100は、膜厚調整工程ではコーティング剤を塗布した半導体装置40を収容タンク101ごと回転駆動することにより、半導体装置40にコーティング液の均一な膜厚の皮膜を形成する。このように、第2実施形態によるコーティング装置10は、第1実施形態と同様に、立体的な構造を有する対象物である立体構造物に、コーティング剤の均一な皮膜を形成することができる。特に、第2実施形態のコーティング装置100は、一度に複数の半導体装置40へのコーティングができ、作業効率を向上させることができる。この場合、図8では2個の収容室102を設けたコーティング装置10を例示したが、3個以上の収容室102を設けてももちろんよい。
【0049】
また、コーティング装置100は、収容室102内を脱気して減圧する減圧部105を備えている。本実施形態では、減圧部105は、固定軸29および第一突起部27の内部に形成されている図示しない排気管部経由して収容室102に接続している。減圧部105を駆動するときには、空気孔18および確認孔19は、図示しない栓部材により閉鎖されている。コーティング剤は、空気に接触すると特性が変化したり性能が劣化したりするおそれがある。そして、上記した塗布工程においてコーティング剤を回収したあとの状態では、半導体装置40に形成されたコーティング剤の皮膜は、空気に接触するおそれがある。そのため、本実施形態では、膜厚調整公邸の前に減圧部105で収容室102内を脱気する脱気工程を行うことにより、半導体装置40に形成されたコーティング剤の皮膜が空気に接触することを抑制している。これにより、コーティング剤の特性の変化や性能の劣化を抑制することができる。なお、脱気工程を実施する場合には、配管部材13などに残存しているコーティング剤が収容室102に逆流しないように弁部材などを設けることが望ましい。
【0050】
(その他の実施形態)
本発明は、上述した各実施形態にのみ限定されるものではなく、以下のように変形または拡張することができる。
【0051】
対象物は半導体装置40に限定されず、他の立体構造物を対象としてもよい。
半導体装置40の形状や構成は一例であり、複数の半導体チップや周辺部品を設けた半導体装置であってもよい。
コーティング剤は、ポリアミド樹脂系以外のものを用いてもよい。この場合、収容タンク11を回転駆動することから、多少粘度が高いコーティング剤であっても遠心力により対象物に塗布することができる。
【0052】
空気孔18や確認孔19の位置、あるいは上部開口31の数などは例示であり、各実施形態に示したものに限定されない。
減圧部105は、第1実施形態のコーティング装置100に適用してもよい。また、減圧部105を接続する位置は、図8に示す位置に限定されない。
【符号の説明】
【0053】
図面中、10、100はコーティング装置、11、101は収容タンク、12は回転軸部材、13は配管部材、14は貯留タンク、15、103は第一型部材、16、104は第二型部材、17は第一凹部、20は第二凹部、21、102は収容室、22は蓋部、23は上端側壁部(壁部)、24は底部、25は下端側壁部(壁部)、36はポンプ(コーティング液供給部)、38は回転駆動部、39はコーティング剤供給部、40は半導体装置(対象物)、53はシール部材(封止部材)、105は減圧部、531は下部シール部材(封止部材)、532は上部シール部材(封止部材)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物(40)を収容する収容室(21、102)を有する収容タンク(11、101)と、
前記収容室(21、102)に収容された前記対象物(40)に塗布する流動性のコーティング剤を貯留する貯留タンク(14)と、
前記貯留タンク(14)および前記収容タンク(11、101)の前記収容室(21、102)を接続する天地方向に延びる配管部材(13)と、
前記配管部材(13)を通して前記コーティング剤を前記貯留タンク(14)から前記収容室(21、102)へ供給して前記対象物(40)に塗布し、余剰の前記コーティング剤を前記貯留タンク(14)に回収するコーティング剤供給部(39)と、
前記配管部材(13)と同軸に設けられ前記収容タンク(11、101)に接続された回転軸部材(12)を有し、前記対象物(40)に形成する前記コーティング剤の皮膜の膜厚ごとに予め設定されている回転数で前記コーティング剤を塗布した前記対象物(40)を回転駆動する回転駆動部(38)と、
を備えたことを特徴とする立体構造物のコーティング装置。
【請求項2】
前記収容タンク(11、101)は、前記収容室(21、102)の壁部(23、25)および蓋部(22)を形成する第一凹部(17)を有する第一型部材(15、103)と、前記第一型部材(15、103)に組み合わされて前記収容室(21、102)の壁部(23、25)および底部(24)を形成する第二凹部(20)を有する第二型部材(16、104)とを有し、
前記回転駆動部(38)は、前記第一型部材(15、103)と前記第二型部材(16、104)とが組み合わされた状態で前記収容タンク(11、101)を回転駆動することを特徴とする請求項1に記載の立体構造物のコーティング装置。
【請求項3】
前記配管部材(13)は、前記収容室(21、102)に天地方向の下側から接続され、
前記コーティング剤供給部(39)は、余剰の前記コーティング剤のうち少なくとも一部を前記収容室(21、102)内または前記配管部材(13)内に残存することを特徴とする請求項1または2に記載の立体構造物のコーティング装置。
【請求項4】
前記対象物(40)の少なくとも一部を封止しコーティング剤への露出を抑制する封止部材(53、531、532)をさらに備えたことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の立体構造物のコーティング装置。
【請求項5】
前記収容タンク(11、101)は、前記回転駆動部(38)によって駆動される複数の前記収容室(21、102)を有していることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の立体構造物のコーティング装置。
【請求項6】
前記収容室(21、102)内を減圧する減圧部(105)をさらに備えたことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項記載の立体構造物のコーティング装置。
【請求項7】
対象物(40)を収容タンク(11、101)の収容室(21、102)に収容する収容工程と、
前記収容工程で前記収容室(21、102)に収容した前記対象物(40)を流動性のコーティング剤に浸漬し、前記対象物に前記コーティング剤を塗布する塗布工程と、
前記塗布工程で塗布したコーティング剤の余剰分を回収した後、前記対象物(40)を収容している前記収容タンク(11、101)を回転駆動して前記コーティング剤の膜厚を調整する膜厚調整工程と、
を行うことを特徴とする立体構造物のコーティング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−152682(P2012−152682A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−12904(P2011−12904)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】