説明

粘着シート及び電子部品の製造方法

【課題】ダイシング工程で粘着剤が引き伸ばされることによるダイアタッチフィルムと粘着剤との密着を、粘着剤のダイシング性を向上させることで改善し、ピックアップ性を向上することのできる粘着シートを提供する。
【解決手段】粘着剤層3を形成する粘着剤が(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)と紫外線重合性成分(B)と光重合開始剤(C)と硬化剤(D)を含有したものであり、(A)が2−エチルへキシルアクリレート90〜99%と水酸基含有(メタ)アクリレート10〜1%を含んで重量平均分子量が20〜70万であり、(B)がアクリロイル基を10個以上有する多官能ウレタン(メタ)アクリレートと多官能(メタ)アクリレートであり、(C)が水酸基を有し、(D)が3個以上のイソシアネート基を有するものであり、(D)のイソシアネート基mol量/((A)+(C)の水酸基mol量)=0.6〜1.2である粘着シート1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着シート及び、粘着シートを用いた電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
IC等の電子部品の製造方法として、シリコン、ガリウム−ヒ素等の半導体ウエハや絶縁物基板上に回路パターンを形成して電子部品集合体とし、この電子部品集合体を粘着シートに貼付け、更にリングフレームに固定してから個々のチップに切断分離(ダイシング)する。その後、必要に応じて粘着シートを引き延ばし(エキスパンド)、切断分離したチップをピックアップし、ピックアップしたチップに接着剤を塗布してリードフレーム等に固定するという方法が広く行われている(非特許文献1等参照)。
【0003】
ここで、チップに接着剤を塗布する工程を省略するために、ダイシング用の粘着シートと、チップをリードフレーム等に固定する接着剤の機能を兼ね備えた粘着シート(ダイアタッチフィルム一体型シート)を用いる方法が提案されている。
ダイアタッチフィルム一体型シートは、粘着シートとダイアタッチフィルムを一体化した粘着シートである。
【0004】
ダイアタッチフィルム一体型シートは、接着剤を用いる方法に比べ、接着剤部分の厚み制御やはみ出し抑制ができるという利点がある。ダイアタッチフィルム一体型シートは、チップサイズパッケージ、スタックパッケージ、及びシステムインパッケージ等の半導体パッケージの製造に使用されている(特許文献1〜3等参照)。
【0005】
電子部品集合体をダイシングする際に用いられる粘着シートの粘着剤として、(メタ)アクリル酸エステルと水酸基含有重合性単量体の共重合体に、不飽和結合を2個以上有する放射線重合性化合物を使用する方法が知られている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平02−248064号公報
【特許文献2】特開平08−053655号公報
【特許文献3】特開2004−186429号公報
【特許文献4】特許第3410202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ダイシング工程でダイシングブレードにより粘着剤が引き伸ばされることによってダイアタッチフィルムと粘着剤が密着し、ピックアップ性に影響を及ぼす場合がある。
【0008】
本発明は、ダイシング時の粘着剤のダイシング性を向上させることで、ピックアップ性を向上することのできると共に、反応残渣による微小な粘着剤残りによる汚染を防止することのできる粘着シート、及び粘着シートを用いた電子部品の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)と紫外線重合性成分(B)と光重合開始剤(C)と硬化剤(D)を含有したものであり、(A)が2−エチルへキシルアクリレート90〜99%と水酸基含有(メタ)アクリレート10〜1%を含んで重量平均分子量が20〜70万であり、(B)がアクリロイル基を10個以上有する多官能ウレタン(メタ)アクリレートと多官能(メタ)アクリレートであり、(C)が水酸基を有し、(D)が3個以上のイソシアネート基を有するものであり、(D)のイソシアネート基mol量/((A)+(C)の水酸基mol量)=0.6〜1.2である粘着シート。
【0010】
紫外線重合性成分(B)が多官能ウレタン(メタ)アクリレート50〜90%以上と多官能(メタ)アクリレート50〜10%以下含むことが好ましく、光重合開始剤(C)が水酸基を2個以上有することが好ましい。この粘着剤は、基材フィルムの一方の面に積層させて粘着シートとすることができる。さらに、基材フィルムの一方の面に粘着剤を積層させ、この粘着剤の基材フィルムと接触していない面にダイアタッチフィルムを積層させることで、粘着シートとすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、ダイシング工程の粘着剤のダイシング性を向上させることで、ダイアタッチフィルムと粘着剤との密着を防ぎ、ピックアップ性を向上することのできると共に、反応残渣による微小な粘着剤残りによる汚染を防止することのできる粘着シート、及び粘着シートを用いた電子部品の製造方法を提供することを課題とする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の粘着シート、及び、粘着シートを用いた電子部品の製造方法を模式的に示した断面図であり、貼合工程後の状態を示した図である。
【図2】図1の貼合工程後に行われたダイシング工程後の状態を示した図である。
【図3】図2のダイシング工程後に行われるピックアップ工程時の状態を示した図である。
【図4】ピックアップ工程後の状態を示した図である。
【符号の説明】
【0013】
1 粘着シート
2 基材フィルム
3 粘着剤層
4 ダイアタッチフィルム
5 シリコンウエハ
51 ダイチップ
6 リングフレーム
7 ダイシングブレード
71 切り込み
8 リードフレーム
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、共通する構成要素には同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0015】
<用語の説明>
本明細書において、部及び%は、特に記載がない限り質量基準とする。本明細書において(メタ)アクリロイル基とはアクリロイル基及びメタアクリロイル基の総称である。本明細書において(メタ)アクリル酸とはアクリル酸及びメタクリル酸の総称である。
【0016】
<実施形態の概要>
図1乃至図4は、本発明の粘着シートの使用方法を模式的に示した断面図である。
本実施形態の粘着シートは、図1に示すように、基材フィルム2と、基材フィルム2の一方の面に積層した粘着剤層3と、粘着剤層3の露出面に積層されたダイアタッチフィルム4を備えた粘着シート1である。
【0017】
<粘着剤層>
粘着剤層を形成する粘着剤は、(メタ)アクリル酸エステル重合体、紫外線重合性成分、光重合開始剤、及び、硬化剤を含有したものである。
【0018】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、(メタ)アクリル酸エステル重合体のうち、2−エチルへキシルアクリレートと水酸基含有(メタ)アクリレートを含むものであり、水酸基含有(メタ)アクリレートとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、及び2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0019】
(メタ)アクリル酸エステル重合体は、その他に(メタ)アクリル酸エステルの単量体を含んでもよい。(メタ)アクリル酸エステルの単量体としては、ブチル(メタ)アクリレート、2−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシメチル(メタ)アクリレート、及びエトキシ−n−プロピル(メタ)アクリレートがあり、これら以外のビニル化合物単量体としては、酢酸ビニル、ビニルアルコール、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、アクリルアミドN−グリコール酸、及び、ケイ皮酸がある。
【0020】
紫外線重合性成分(B)は、多官能ウレタン(メタ)アクリレートと多官能(メタ)アクリレートを両方含むものであり、多官能ウレタンアクリレートが少なくともアクリロイル基を10個以上有することがより好ましい。
【0021】
紫外線重合性成分(B)は、少なくとも多官能ウレタン(メタ)アクリレートを40〜90%以上、多官能(メタ)アクリレート60〜10%以下であることが好ましく、多官能ウレタンアクリレート50〜90%以上、多官能アクリレート50〜10%以下であることがより好ましい。
【0022】
多官能ウレタン(メタ)アクリレートはポリエステル型またはポリエーテル型などのポリオール化合物と、多価イソシアネート化合物、例えば2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、1,3−キシレンジイソシアネート、1,4−キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタン4,4−ジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどを反応させて得られる末端イソシアネートウレタンプレポリマに、ヒドロキシ基を有するアクリレート、例えば2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、グリシドールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレートなどを反応させて得られる。
【0023】
紫外線重合性成分(B)が多官能ウレタン(メタ)アクリレートを50〜90%以上含むこと、および多官能ウレタン(メタ)アクリレートがアクリロイル基を10個以上有することで、放射線照射後にダイアタッチフィルム4と粘着剤層3との剥離が容易になり、ダイチップ51のピックアップ性を向上させることができる。なお、アクリロイル基の数の上限については特に限定するものではない。
【0024】
多官能(メタ)アクリレートは例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート、ヒドロキシプロピル化トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキシアクリレート、ビス(ペンタエリスリトール)テトラアクリレート、テトラメチロールメタン−トリアクリレート、グリシドール−ジアクリレートや、これらのアクリレート基の一部又は全部をメタアクリレート基とした化合物がある。
【0025】
紫外線重合性成分(B)の配合量は、後述する(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部に対して20質量部以上200質量部以下とすることが好ましい。紫外線重合性成分(B)の配合量は、少な過ぎると後述するピックアップ工程での粘着シートとダイアタッチフィルムとの剥離性が低下する傾向にあり、多過ぎるとダイシング工程時に粘着剤の掻き上げが生じ、掻き上げられた粘着剤がピックアップ工程での精度低下を引き起こす傾向にある。
【0026】
光重合開始剤(C)は、少なくとも1個の水酸基を有するものである。1個の水酸基を有する光重合開始剤としては、2−ヒドロキシ−メチルー1−フェニル−プロパン−1−オン(チバ・ジャパン社製、製品名Darocur1173)、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(チバ・ジャパン社製、製品名Irgacure184)等が挙げられ、2個以上の水酸基を有する光重合開始剤としては、1−[4−(ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2メチル−1−プロパン−1−オン(チバ・ジャパン社製、製品名Irgacure2959)、2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]−フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン(チバ・ジャパン社製、製品名Irgacure127)等が挙げられる。光重合開始剤(C)の水酸基の数は、2個以上が好ましい。2個以上有することで、放射線照射後に開裂した光開始剤が(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)のアクリロイル基の反応系に取り込むことができるため、ダイアタッチフィルム4へのマイグレーションが抑制できるためである。なお、水酸基の数の上限については特に限定するものではない。
【0027】
光重合開始剤の配合量は、少な過ぎるとピックアップ工程での粘着シートとダイアタッチフィルムとの剥離性が低下する傾向にあり、多過ぎるとピックアップ工程時にピンの突き上げにより粘着剤が割れ、被着体への糊残りを引き起こす傾向にある。
【0028】
硬化剤(D)は、例えば芳香族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート、及び脂肪族ジイソシアネート等の三量体が挙げられる。
【0029】
芳香族ジイソシアネートとしては、例えばトリレンジイソシアネート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、及びキシリレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0030】
脂環族ジイソシアネートとしては、例えばイソホロンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)などが挙げられる。
【0031】
脂肪族ジイソシアネートとしては、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0032】
また上記ジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、水と反応したビュウレット体、イソシアヌレート環を有する三量体等も好適に用いられる。
【0033】
イソシアネートの配合量は「(メタ)アクリル酸エステル重合体、及び、光重合開始剤の全ての配合比」に応じて決定されず、mol量に基づいて決定される。イソシアネート基mol量が「(メタ)アクリル酸エステル重合体、及び、光重合開始剤の全てのmol量」に比べてあまりに少ないと未反応の水酸基を有する成分がダイアタッチフィルムへ移行し、ダイアタッチフィルムの特性低下を引き起こす場合があり、あまりに多いと、テープとして保管した時に経時変化が生じ、品質安定性に問題が発生する場合があるため、イソシアネートのイソシアネート基mol量は、「(メタ)アクリル酸エステル重合体、多官能(メタ)アクリレート、及び、光重合開始剤の全ての水酸基mol量」の0.6倍乃至1.2倍であることが好ましく、0.8倍乃至1.0倍であることがより好ましい。
【0034】
粘着剤には、例えば、粘着付与剤、剥離付与剤、軟化剤、老化防止剤、充填剤、紫外線吸収剤、及び光安定剤等の各種添加剤を添加してもよい。
【0035】
粘着剤層の厚さの下限は、あまりに薄いと、粘着力の低下によってダイシング時のチップ保持性が低下する傾向にあり、リングフレームと粘着シートとの間の剥離が生じなくなる傾向にあるので、好ましくは1μm、より好ましくは2μmである。粘着剤層の厚さの上限は、あまりに厚いと、粘着力が高くなり過ぎ、ピックアップ不良が発生する傾向にあるので、好ましくは100μm、より好ましく40μmである。
【0036】
<粘着シート>
粘着シート1は、図1に示すように、基材フィルム2と、基材フィルム2上に塗布された上述の粘着剤で形成された粘着剤層3と、粘着剤層3に積層されたダイアタッチフィルム4で形成されたものである。
【0037】
基材フィルム2の素材は、例えばポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸−アクリル酸エステルフィルム、エチレン−エチルアクリレート共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−アクリル酸共重合体、及び、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体やエチレン−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体等を金属イオンで架橋してなるアイオノマ樹脂の単体又はこれらの樹脂の混合物、共重合体があり、さらに、これら素材の多層体がある。
【0038】
基材フィルム2はプロピレン系共重合体が好ましい。このプロピレン系共重合体を採用することにより、半導体ウエハを切断する際に発生する切り屑を抑制することができるためである。このプロピレン系共重合体としては、例えばプロピレンと他成分とのランダム共重合体、プロピレンと他成分とのブロック共重合体、プロピレンと他成分の交互共重合体がある。他成分としては、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン等のα−オレフィン、少なくとも2種以上のα−オレフィンからなる共重合体、スチレン−ジエン共重合体等が挙げられる。これらの中でも1−ブテンが好ましい。
【0039】
プロピレン系共重合体を重合する方法としては、例えば溶媒重合法、バルク重合法、気相重合法、逐次重合方法等が挙げられるが、一段目でプロピレン単独重合体またはプロピレンと少量のエチレンおよび/またはα−オレフィンとのランダム共重合体を製造後、二段目以降でα−オレフィンの単独重合体またはプロピレンと少量のエチレンおよび/またはα−オレフィンとのランダム共重合体を製造する、少なくとも二段以上の逐次重合方法が好ましい。
【0040】
基材フィルム2には、帯電防止処理を施すのが好ましい。帯電防止処理をすることによって、ダイアタッチフィルム剥離時における帯電を防止することができる。帯電防止処理としては、(1)基材フィルム2を構成する組成物に帯電防止剤を配合する処理、(2)基材フィルム2のダイアタッチフィルム積層側の面に帯電防止剤を塗布する処理、(3)コロナ放電による帯電処理がある。帯電防止剤としては、四級アミン塩単量体等がある。
【0041】
四級アミン塩単量体としては、例えばジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート四級塩化物、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート四級塩化物、メチルエチルアミノエチル(メタ)アクリレート四級塩化物、p−ジメチルアミノスチレン四級塩化物、及びp−ジエチルアミノスチレン四級塩化物があり、ジメチルアミノエチルメタクリレート四級塩化物が好ましい。
【0042】
<ダイアタッチフィルム>
粘着シートに用いられるダイアタッチフィルムは、接着剤をフィルム状に成形したものである。ダイアタッチフィルムの具体的な組成物としては、アクリル酸エステル共重合体、ポリアミド、ポリエチレン、ポリスルホン、エポキシ、ポリイミド、ポリアミド酸、シリコーン、フェノール、ゴム、フッ素ゴム及びフッ素樹脂の単体又はこれらの混合物、共重合体及び積層体があり、組成物としてはチップとチップの接着信頼性の面からアクリル酸エステル共重合体を含むことが好ましい。この組成物には、光重合開始剤、帯電防止剤、架橋剤、架橋促進剤、フィラーなどを添加してもよい。
【0043】
<電子部品の製造方法>
他の発明である電子部品の製造方法について、図を参照しつつ、詳細に説明する。
この発明は、上述の粘着シートのうちのいずれかの粘着シート1のダイアタッチフィルム4の表面にシリコンウエハ5を貼り合わせる貼合工程と、貼合工程後のシリコンウエハ5のダイシングを行うダイシング工程と、ダイシング工程後にシリコンウエハ5及びダイアタッチフィルム4とを併せて粘着剤層3からピックアップするピックアップ工程を有する電子部品の製造方法である。
【0044】
<貼合工程>
貼合工程は、上述の粘着シートのうちのいずれかの粘着シート1のダイアタッチフィルム4の表面にシリコンウエハ5を貼り合わせる工程であり、具体的には、シリコンウエハ5を粘着シート1に貼付けて固定し、粘着シート1をリングフレーム6に固定する工程である。図1に、貼合工程後の状態を示す。
【0045】
<ダイシング工程>
ダイシング工程は、貼合工程後のシリコンウエハ5のダイシングを行う工程であり、ダイシング工程後の状態を図2に示す。ダイシングにあっては、ダイシングブレード7でシリコンウエハ5をダイシングする。図2の符号71は、切れ込みである。
【0046】
<ピックアップ工程>
ピックアップ工程は、ダイシング工程後にシリコンウエハ5及びダイアタッチフィルム4とを併せて粘着剤層3からピックアップする工程であり、ピックアップ工程の際の状態を図3に示す。また、図4に、ピックアップ工程後のダイチップ51の状態を示す。ピックアップ工程は、具体的には、次の工程である。
【0047】
粘着シート1の基材フィルム2側から紫外線又は放射線の一方又は双方を照射し、次いで、粘着シート1を放射状に拡大してダイチップ51間隔を広げた後、ダイチップ51をニードル等(不図示)で突き上げる。その後、真空コレット又はエアピンセット等(不図示)でダイチップ51を吸着し、粘着シート1とダイアタッチフィルム4との間で剥離し、ダイアタッチフィルム4が付着したダイチップ51をピックアップする。
【0048】
ピックアップされたダイチップ51は、ダイアタッチフィルム4と共にリードフレーム8に搭載される。この搭載にあっては、ダイアタッチフィルム4の粘着力により、安定的に固定される。搭載後、ダイアタッチフィルム4を加熱し、ダイチップ51とリードフレーム8とを加熱接着する。最後に、リードフレーム8に搭載したダイチップ51を樹脂(不図示)でモールドする。
【0049】
上述の工程を有する製造方法を行っても、ダイシング工程での良好なダイシング性によるピックアップ性と、反応残渣による微小な粘着剤残りによる汚染防止性に優れた製造方法を得ることができた。
【0050】
図4では、リードフレーム8を示したが、リードフレーム8の代わりに回路パターンを形成した回路基板であってもよい。
【0051】
紫外線又は放射線の一方又は双方を照射することは、粘着剤層3を構成する化合物分子内のビニル基を三次元網状化させて、粘着剤層3の粘着力を低下させるためである。これにより、照射前には、高い初期粘着力を有する粘着剤層3によって優れたチップ保持性を与え、照射によって粘着剤層3の粘着力を低下させてダイアタッチフィルム4と粘着剤層3との間の剥離が容易にして、ダイチップ51のピックアップ性を与えている。
【0052】
紫外線の光源としては、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプがあり、放射線の光源としては、電子線、α線、β線、γ線がある。
【0053】
本発明に係る粘着シートによれば、ダイアタッチフィルム4に対する粘着剤成分の移行マが少ないため、図4に示すようにダイアタッチフィルム4が付着したダイチップ51をリードフレーム8上にマウントさせ加温することによって接着しても、汚染による接着不良の発生が少ない。
【0054】
<シリコンウエハ>
本発明の電子部品の製造方法は、シリコンウエハを対象としたが、他のウエハ、例えガリウムナイトライドウエハ、炭化ケイ素ウエハ、サファイアウエハを用いてもよい。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を、表1を用いて説明する。表1の粘着剤の実施例、比較例における値は質量部である。
【0056】
【表1】



【0057】
<実験材料の調製>
実施例に係る粘着剤、粘着シート、及び粘着シートなどの各種実験材料は下記の処方で製造した。
【0058】
表1中に記載した各化合物は、以下のものである。
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)−1: 2−エチルヘキシルアクリレート95%、2−ヒドロキシエチルアクリレート3%、酢酸ビニル2%、重量平均分子量20万の共重合体からなり、溶液重合により得られる自社重合品。
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)−2:2−エチルヘキシルアクリレート95%、2−ヒドロキシエチルアクリレート3%、酢酸ビニル2%、重量平均分子量60万の共重合体からなり、溶液重合により得られる市販品(綜研化学社製、製品名SKダイン1496)。
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)−3:2−エチルヘキシルアクリレート95%、2−ヒドロキシエチルアクリレート3%、酢酸ビニル2%、重量平均分子量70万の共重合体からなり、溶液重合により得られる自社重合品。
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)−4:2−エチルヘキシルアクリレート95%、2−ヒドロキシエチルアクリレート5%、重量平均分子量60万の共重合体からなり、溶液重合により得られる自社重合品。
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)−5:2−エチルヘキシルアクリレート95%、2−ヒドロキシエチルアクリレート3%、酢酸ビニル2%、重量平均分子量10万の共重合体からなり、溶液重合により得られる自社重合品。
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)−6:2−エチルヘキシルアクリレート95%、2−ヒドロキシエチルアクリレート3%、酢酸ビニル2%、重量平均分子量100万の共重合体からなり、溶液重合により得られる自社重合品。
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)−7:2−エチルヘキシルアクリレート80%、2−ヒドロキシエチルアクリレート18%、酢酸ビニル2%、重量平均分子量60万の共重合体からなり、溶液重合により得られる自社重合品。
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)−8:2−エチルヘキシルアクリレート100%、重量平均分子量60万の共重合体からなり、溶液重合により得られる自社重合品。
紫外線重合性成分(B)−1:ポリ(プロピレンオキサイド)ジオールの末端にイソホロンジイソシアネートの三量体を反応させてなる末端イソシアネートオリゴマに、更にジペタエリスリトールペンタアクリレートを反応させてなる末端アクリレートオリゴマであって、アクリレート官能基数15個のウレタンアクリレート60%とジペンタエリスリトールヘキサアクリレート40%から成る市販品。
紫外線重合性成分(B)−2:ポリ(プロピレンオキサイド)ジオールの末端にイソホロンジイソシアネートの三量体を反応させてなる末端イソシアネートオリゴマに、更にジペタエリスリトールペンタアクリレートを反応させてなる末端アクリレートオリゴマであって、アクリレート官能基数15個のウレタンアクリレート80%とジペンタエリスリトールヘキサアクリレート20%から成る市販品。
紫外線重合性成分(B)−3:ポリ(プロピレンオキサイド)ジオールの末端にイソホロンジイソシアネートの三量体を反応させてなる末端イソシアネートオリゴマに、更にジペタエリスリトールペンタアクリレートを反応させてなる末端アクリレートオリゴマであって、アクリレート官能基数15個のウレタンアクリレート55%とジペンタエリスリトールヘキサアクリレート45%から成る市販品(根上工業社製、製品名UN−3320HS)。
紫外線重合性成分(B)−4:ポリ(プロピレンオキサイド)ジオールの末端にヘキサメチレンジイソシアネートを反応させてなる末端イソシアネートオリゴマに、更にジペタエリスリトールペンタアクリレートを反応させてなる末端アクリレートオリゴマであって、アクリレート官能基数10個のウレタンアクリレート80%とジペンタエリスリトールヘキサアクリレート20%から成る市販品(根上工業社製、製品名UN−904M)。
紫外線重合性成分(B)−5:ポリ(プロピレンオキサイド)ジオールの末端にイソホロンジイソシアネートの三量体を反応させてなる末端イソシアネートオリゴマに、更にジペタエリスリトールペンタアクリレートを反応させてなる末端アクリレートオリゴマであって、アクリレート官能基数15個のウレタンアクリレート40%とジペンタエリスリトールヘキサアクリレート60%から成る市販品。
紫外線重合性成分(B)−6:ポリ(プロピレンオキサイド)ジオールの末端にイソホロンジイソシアネートの三量体を反応させてなる末端イソシアネートオリゴマに、更にジペタエリスリトールペンタアクリレートを反応させてなる末端アクリレートオリゴマであって、アクリレート官能基数15個のウレタンアクリレート100%から成る市販品。
紫外線重合性成分(B)−7:ポリ(プロピレンオキサイド)ジオールの末端にイソホロンジイソシアネートの三量体を反応させてなる末端イソシアネートオリゴマに、更にペタエリスリトールトリアクリレートを反応させてなる末端アクリレートオリゴマであって、アクリレート官能基数9個のウレタンアクリレート80%とペンタエリスリトールテトラアクリレート20%から成る市販品。
光重合開始剤(C)−1:2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]−フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン(チバ・ジャパン社製、製品名Irgacure127)
光重合開始剤(C)−2:1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(チバ・ジャパン社製、製品名Irgacure184)。
光重合開始剤(C)−3:ベンジルジメチルケタール(チバ・ジャパン社製、製品名Irgacure651)。
硬化剤(D):トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体(日本ポリウレタン社製、製品名コロネートL−45E)。
【0059】
各実施例及び比較例に対応する粘着剤の主な成分とその配合量は、表1に示すとおりである。各粘着剤の調製にあたっては、これらの表1に示した成分に加えたものである。
【0060】
次いで、得られた粘着剤をポリエチレンテレフタレート製セパレーターフィルム上に塗布し、乾燥後の粘着剤層の厚みが10μmとなるように塗工し、100μmの基材フィルムに積層し粘着シートを得た。30μm厚さのダイアタッチフィルムを、粘着シートの粘着剤層上にラミネートして粘着シートとした。
【0061】
基材フィルムは、表1には記載しなかったが、実施例・比較例の全てにおいて、サンアロマー社製プロピレン系共重合体(品番X500F)を用いた。MFR(メルトフローレート)値が7.5g/10分、密度0.89g/cmの、厚さ80μmのものである。
【0062】
2.ダイアタッチフィルムとして、以下のものを揃えた。
ダイアタッチフィルム1:エポキシ系接着剤を主体とし、厚さ30μm
ダイアタッチフィルム2:アクリル系接着剤を主体とし、厚さ30μm
【0063】
3.電子部品集合体として、以下のものを揃えた。
電子部品の製造には、ダミーの回路パターンを形成した直径8インチ×厚さ0.1mmのシリコンウエハを用いた。
【0064】
<ダイシング工程>
粘着シートへの切り込み量は30μmとした。ダイシングは10mm×10mmのチップサイズで行った。
ダイシング装置はDISCO社製 DAD341を用いた。ダイシングブレードはDISCO社製NBC−ZH205O−27HEEEを用いた。
ダイシングブレード形状:外径55.56mm、刃幅35μm、内径19.05mm。
ダイシングブレード回転数:40,000rpm。
ダイシングブレード送り速度:80mm/秒。
切削水温度:25℃。
切削水量 :1.0L/分。
【0065】
ピックアップはニードルピンで突き上げた後、真空コレットでチップを吸着し、粘着シートとダイアタッチフィルムとの間で剥離し、ダイアタッチフィルムが付着したチップを得た。ピックアップ装置はキャノンマシナリー社製 CAP−300IIを用いた。
ニードルピン形状:250μmR
ニードルピンの数:5
ニードルピン突き上げ高さ:0.5mm
エキスパンド量 :8mm
【0066】
<実験結果の評価>
1.ダイシング性:シリコンウエハを前記条件にてダイシング、ピックアップした後に、ダイシングラインを20ライン確認し、ダイアタッチフィルムの一部が付着している程度を目視で評価した。
◎(優):ダイアタッチフィルムがダイシングラインに残っていなかった。
○(良):ダイアタッチフィルムの一部がダイシングラインに1〜3本残っていた。
×(不可):ダイアタッチフィルムの一部がダイシングラインに4本以上残っていた。
【0067】
2.ピックアップ性:シリコンウエハを前記条件にてダイシング後、図3に示すように、ダイアタッチフィルムが付着した状態でチップをピックアップできた数を評価した。
◎(優):95%以上のチップがピックアップできた。
○(良):80%以上95%未満のチップがピックアップできた。
×(不可):80%未満のチップがピックアップできた。
【0068】
3.汚染防止性:粘着シートの粘着剤面をダイアタッチフィルムに貼り付けて、1週間保管後、高圧水銀灯で紫外線を500mJ/cm照射した後、1週間保管後、又は4週間保管後に粘着シートを剥離した。剥離したダイアタッチフィルムのGC−MS分析を行い、光重合性開始剤由来のピークを確認した。
◎(優):紫外線を照射した後、1週間保管後、及び4週間保管後に粘着シートを剥離したダイアタッチフィルムから光重合性開始剤由来のピークなし。
○(良):紫外線を照射した後、1週間保管後に粘着シートを剥離したダイアタッチフィルムから光重合性開始剤由来のピークなし。及び、紫外線を照射した後、4週間保管後に粘着シートを剥離したダイアタッチフィルムから光重合性開始剤由来のピークあり。
×(不可):紫外線を照射した後、1週間保管後、及び4週間保管後に粘着シートを剥離したダイアタッチフィルムから光重合性開始剤由来のピークあり。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明に用いる粘着シートは、ダイシング時のチップ保持に優れ、ピックアップ作業時にチップの剥離が容易であり、微少な糊残りによる汚染防止性も高いという効果を奏するため、ダイシング後にチップ裏面にダイアタッチフィルム層を付けた状態でピックアップし、リードフレーム等にマウントして接着させる電子部品の製造方法に好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムと、基材フィルムの一方の面に積層した粘着剤層と、粘着剤層の露出面に積層されたダイアタッチフィルムを備え、粘着剤層を形成する粘着剤が(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)と紫外線重合性成分(B)と光重合開始剤(C)と硬化剤(D)を含有したものであり、(A)が2−エチルへキシルアクリレート90〜99%と水酸基含有(メタ)アクリレート10〜1%を含んで重量平均分子量が20〜70万であり、(B)がアクリロイル基を10個以上有する多官能ウレタン(メタ)アクリレートと多官能(メタ)アクリレートであり、(C)が水酸基を有し、(D)が3個以上のイソシアネート基を有するものであり、(D)のイソシアネート基mol量/((A)+(C)の水酸基mol量)=0.6〜1.2である粘着シート。
【請求項2】
光重合開始剤(C)が水酸基を2個以上有する請求項1に記載の粘着シート。
【請求項3】
紫外線重合性成分(B)が多官能ウレタン(メタ)アクリレート50〜90%以上と多官能(メタ)アクリレート50〜10%以下である請求項1乃至2に記載の粘着シート。
【請求項4】
ダイアタッチフィルムを構成する組成物がエポキシ樹脂を有する請求項1乃至3に記載の粘着シート。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項記載の粘着シートのダイアタッチフィルム表面にシリコンウエハを貼り合わせる貼合工程と、貼合工程後のシリコンウエハのダイシングを行うダイシング工程と、ダイシング工程後にシリコンウエハ及びダイアタッチフィルムとを併せて粘着剤層からピックアップするピックアップ工程を有する電子部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−233632(P2011−233632A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−101105(P2010−101105)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】