説明

精製両親媒性ペプチド組成物およびその使用

【課題】精製両親媒性ペプチド組成物およびその使用を提供すること。
【解決手段】1つの局面において、本発明は相補的であり構造的に適合し、そして自己組立によりβ−シート巨視的スカホールドとなる、交互する親水性アミノ酸及び疎水性アミノ酸を有する両親媒性のペプチド鎖を含む組成物である。ペプチド鎖は少なくとも8アミノ酸を含有し、そしてペプチド鎖の少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%又は少なくとも約99%が同じ配列を有する。別の局面において、本発明はペプチド鎖を含む水溶液である。溶液は機械的攪拌に対して安定であるヒドロゲルを形成してよい。溶液は注入可能であり得、約4.5〜約8.5の間のpHを有し得る。ペプチドは自己組立により溶液中でマトリックスとなってよい。自己組立は機械的攪拌に対して安定である必要はない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(技術分野)
本発明は高純度の両親媒性ペプチド組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
一般的に、身体は傷害を受けた組織を再生してもとの組織と同様の特性を有する新しい組織を形成することができる。例えば小型の切り傷は永久的な瘢痕を形成することなく治癒し、そして、骨の簡潔な骨折は骨の2つの切片を結合する新しい骨の形成により治癒する。しかしながら結合組織の細胞及び他の臓器の細胞は足場依存性であり、それらは正常な生理学的挙動を示すためにはスカホールドを必要とする。組織の損傷が広範であるか、又は大型の間隙が存在する場合は、創傷内に遊走した細胞は適切な足場を発見できず、創傷の両端の健常な組織の間の間隙を架橋する瘢痕組織を形成する。瘢痕組織は元の組織と同じ機械的及び生物学的特性を有していない。例えば皮膚の瘢痕組織は元の組織ほど柔軟性を有していない。骨の瘢痕組織は未傷害の骨ほど強度がなく、骨が再度破断しやすい弱点箇所を与える場合が多い。関節の軟骨のような一部の組織は自然に再生せず、そして治癒は瘢痕組織の形成により進行するのみである。
【0003】
今日まで、種々の組織を置き換えるか再生を支援するための材料を開発するためにかなりの研究が継続されてきた。これらの材料は、瘢痕形成により大型の創傷が治癒するような組織において、小型の創傷が再生により治癒する能力を利用する場合がある。即ち、創傷の両端の間の間隙の架橋を支援する材料を創傷部位に充填し、組織再生が進行する前に瘢痕が形成することを防止する試みがなされている。種々の合成及び天然に由来する材料が組織再生のために開発されているが、これらの材料は免疫非適合性及び不適切な応力分布という難点を有している場合がある。更に又、動物由来の材料、例えばウシの皮膚又はブタもしくはサメの軟骨の使用はプリオンのような感染性物質による汚染の可能性という懸念を呈する。即ち、向上した適合性を有し、汚染の危険性を低減し、そして組織修復のための適切な生物機械的特性を与える生物学的起源の向上した材料が望ましい。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
(定義)
「スカホールド」とは、細胞を支持することができる三次元構造を意味する。細胞はスカホールドによりカプセル化されるか、又はスカホールドの表面上の層内に配置させてよい。スカホールドのβ−シート二次構造は標準的な円偏光二色性を用いて、約218nmにおける最小吸光度及び約195nmにおける最大吸光度を検出することを確認し得る。スカホールドはペプチドの自己組立により形成され、L−アミノ酸、D−アミノ酸、天然アミノ酸、非天然アミノ酸又はこれらの組み合わせを包含し得る。L−アミノ酸がスカホールド内に存在する場合は、スカホールドの分解により宿主組織により再利用されるアミノ酸が生じる。ペプチドは化学誘引物質又は治療活性化合物のような化合物に共有結合され得る。ペプチドは天然又は組み換えの原料から化学合成又は精製してよく、ペプチドのアミノ末端及びカルボキシ末端は保護されていても保護されていなくてもよい。ペプチドスカホールドは相互に相補であり構造的に適合性のあるペプチドの異なる分子種1つ以上から形成されてよい。隣接するペプチド由来の2つの同様に荷電した残基の反発性の対形成のようなミスマッチペアを含有するペプチドもまた、ペプチド間の安定化相互作用が破壊的な力より優位となる場合はスカホールドを形成する。スカホールドは本明細書においてはペプチド構造、ペプチドヒドロゲル構造、ペプチドゲル構造又はヒドロゲル構造とも称する。
【0005】
用語「相補的」とは、図1に示す通り、スカホールド内の隣接するペプチドに由来する親水性残基の間でイオン結合又は水素結合の相互作用を生じさせることができることを意味しており、ペプチド内の各親水性残基は隣接するペプチド上の親水性の残基と水素結合するかイオン対形成し、或いは、溶媒に曝露される。
【0006】
用語「構造的に適合する」とはスカホールド形成を可能とするのに十分な一定のペプチド内距離を維持することができることを意味する。本発明の特定の実施形態においては、ペプチド内距離の変動は4オングストローム未満、3オングストローム未満、2オングストローム未満又は1オングストローム未満である。また、ペプチド内距離のより大きな変動は、十分な安定化力が存在すればスカホールド形成を妨げないものとする。この距離は分子モデリングに基づくか、又は、既に報告されている(米国特許第5,670,483号)単純化操作法に基づいて計算してよい。この方法においては、ペプチド内距離は対になった各アミノ酸の側鎖上の分枝していない鎖の原子数の合計をとることにより計算される。例えば、リジン−グルタミン酸のイオン対のペプチド内距離は5+4=9原子であり、そしてグルタミン−グルタミン水素結合対の距離は4+4=8原子である。3オングストロームの変換因数を用いれば、リジン−グルタミン酸の対及びグルタミン−グルタミンの対を有するペプチドのペプチド内距離の変動(例えば9原子 対 8原子)は3オングストロームである。
【0007】
用語「純粋」とは、本明細書に記載したペプチドが対象となるペプチドの欠失付加物及び異なる長さのペプチドが挙げられる、他の化学種を含有しない程度を示すために使用される。
【0008】
用語「生物学的に活性な物質」は生物学的又は生化学的な事象を改変、抑制、活性化するか又は他の態様で影響を及ぼす物質、化合物又は実体を指すために使用される。このような物質は、天然由来又は合成であってよい。生物学的に活性な物質は細胞及び組織内に共通して見出される分子クラス(例えばタンパク質、アミノ酸、ペプチド、ポリヌクレオチド、ヌクレオチド、炭水化物、糖、脂質、核タンパク質、糖タンパク質、リポタンパク質、ステロイド、成長因子、化学誘引物質等)が挙げられ、分子自体は天然に存在するか人工的に作製された(例えば合成又は組み換え法による)かに関わらない。生物学的に活性な物質としてはまた、薬剤、例えば抗癌物質、鎮痛剤及びオピオイドが挙げられる。好ましくは、必須ではないが、薬剤は適切な政府当局等により使用に関してすでに安全および有効であると見なされているものである。例えば参照により本明細書に組み込まれる21C.F.R.§§330.5、331〜361及び440〜460の下でFDAにより記載されているヒトにおける使用のための薬剤;21CFR§§500〜589の下にDAにより記載されている家畜用途のための薬剤は、全て本発明に従う使用に許容されるとみなされる。さらなる例示の生物学的に活性な物質は、抗エイズ薬、抗癌物質、免疫抑制剤、(例えばシクロスポリン)、抗ウィルス剤、酵素阻害剤、神経毒、催眠剤、抗ヒスタミン、潤滑剤、精神安定剤、鎮痙剤、筋肉弛緩剤及び抗パーキンソン病剤、抗痙攣剤及び筋肉収縮剤(例えば、チャンネルブロッカー、縮瞳剤及び抗コリン作用剤)、抗緑内障化合物、抗寄生虫剤、抗原虫及び/又は抗真菌化合物、細胞−細胞外マトリックス相互作用のモジュレーター(例えば、細胞成長抑制剤及び抗接着分子)、血管拡張剤、DNA、RNA又はタンパク質合成の抑制剤、抗高血圧剤、解熱剤、ステロイド及び非ステロイド性の抗炎症剤、抗血管形成因子、抗分泌因子、抗凝固剤及び/又は抗血栓剤、局所麻酔剤、眼科用薬剤、プロスタグランジン、ターゲティング剤、神経伝達物質、タンパク質、細胞応答モディファイアー及びワクチンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0009】
本明細書においては、ペプチドヒドロゲルのようなヒドロゲルは、機械的攪拌に付された場合にそれが物理的攪拌前のヒドロゲルを特徴付ける物理的特性(例えば弾性、粘度等)を実質的に保持する場合に、「機械的又は物理的攪拌に対して安定」といえる。ヒドロゲルは機械的攪拌に付された場合にその形状又は大きさを維持する必要はなく、そして切片化してより小さい小片となってもよいが、機械的又は物理的攪拌に対してなお安定と見なされる。「安定」という用語はこの語句において用いる場合を除き、上記の意味は有さない。
【0010】
本明細書においては、「ナノ繊維」という用語はナノスケールの寸法の直径を有する繊維を指す。典型的にはナノスケールの繊維は500nm以下の直径を有する。本発明の特定の実施形態によれば、ナノ繊維は100nm未満の直径を有する。本発明の別の実施形態によれば、ナノ繊維は50nm未満の直径を有する。本発明の特定の別の実施形態によれば、ナノ繊維は20nm未満の直径を有する。本発明の特定の他の実施形態によれば、ナノ繊維は10〜20nmの直径を有する。本発明の特定の他の実施形態によれば、ナノ繊維は5〜10nmの直径を有する。本発明の特定の他の実施形態によれば、ナノ繊維は5nm未満の直径を有する。
【0011】
「ナノスケール環境スカホールド」という用語はナノ繊維を含むスカホールドを指す。本発明の特定の実施形態によれば、スカホールドを含む繊維の少なくとも50%がナノ繊維である。本発明の特定の実施形態によれば、スカホールドを含む繊維の少なくとも75%がナノ繊維である。本発明の特定の実施形態によれば、スカホールドを含む繊維の少なくとも90%がナノ繊維である。本発明の特定の実施形態によれば、スカホールドを含む繊維の少なくとも95%がナノ繊維である。本発明の特定の実施形態によれば、スカホールドを含む繊維の少なくとも99%がナノ繊維である。当然ながらスカホールドは非繊維の成分、例えば水、イオン、増殖及び/又は分化を誘導する物質、例えば成長因子、治療薬又は他の化合物を含んでもよく、これらはスカホールド内の溶液として存在してもよいし、そして/又はスカホールドに結合されてもよい。
【0012】
(発明の要旨)
1つの局面において、本発明は相補的であり構造的に適合し、そして自己組立によりβ−シート巨視的スカホールドとなる、交互する親水性アミノ酸及び疎水性アミノ酸を有する両親媒性のペプチド鎖を含む組成物である。ペプチド鎖は少なくとも8アミノ酸を含有し、そしてペプチド鎖の少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%又は少なくとも約99%が同じ配列を有する。
【0013】
別の局面において、本発明はペプチド鎖を含む水溶液である。溶液は機械的攪拌に対して安定であるヒドロゲルを形成してよい。溶液は注入可能であり得、約4.5〜約8.5の間のpHを有し得る。ペプチドは自己組立により溶液中でマトリックスとなってよい。自己組立は機械的攪拌に対して安定である必要はない。溶液は少なくとも0.1mMの電解質を含有してよい。
【0014】
電解質を有する溶液は注入可能であってよい。ペプチドは注入後に自己組立可能であるように適合され、構築され得る。水溶液中のペプチド鎖の濃度は、少なくとも約1重量%、少なくとも約2重量%、少なくとも約3重量%、少なくとも約4重量%、少なくとも約5重量%、少なくとも約6重量%、少なくとも約7重量%、少なくとも約8重量%であってよい。水溶液又はペプチド鎖のいずれかは、更に1つ以上の生物学的に活性な物質を含んでよい。
【0015】
別の局面において、本発明はペプチド鎖の調製方法である。この方法は、保護基に連結する側鎖内の基を含むアミノ酸を準備する工程、アミノ酸を組み立てて両親媒性のペプチド鎖とする工程、ペプチド鎖を酸と反応させることにより保護基を除去する工程、及び、酸を非フッ素化アセテート塩と交換する工程を含む。非フッ素化アセテート塩は、酢酸ナトリウム及び酢酸カリウムから選択してよい。酸はトリフルオロ酢酸であってよい。
【0016】
別の局面において、本発明は、ペプチド鎖各々が少なくとも8アミノ酸の両親媒性ペプチド鎖の2%超の水溶液を含み、交互する親水性アミノ酸及び疎水性のアミノ酸を有する組成物である。この溶液は、ペプチドの自己組立に対して機械的に安定であってよいが、それが必須ではない。
【0017】
本発明は別の局面において、両親媒性ペプチド鎖を含む巨視的スカホールドであって、ここでペプチド鎖は交互する親水性アミノ酸及び疎水性アミノ酸を有し、相補的であり構造的に適合性であり、そして、自己組立によりβ−シートの巨視的スカホールドとなり、そしてここで両親媒性ペプチド鎖は水溶液中にあり、そしてここでペプチド鎖の少なくとも約75%が同じ配列を有する。巨視的スカホールドは、物理的攪拌に対して機械的に安定である必要はない。両親媒性ペプチド鎖は電解質を含有する水溶液中にあってよく、そしてこの実施形態において、このスカホールドは物理的攪拌に対して機械的に安定であってよい。このペプチド鎖は、注入後に自己組立可能であるように適合され得、構築され得る。生物学的に活性な物質はスカホールド内にカプセル化してよい。
【0018】
別の局面において、本発明は、患者に生物学的に活性な物質を送達する方法であり、この方法は、両親媒性ペプチドの水溶液を準備する工程、この水溶液に生物学的に活性な物質の所定量を添加する工程、及び、水溶液に電解質の所定量を添加する工程を含み、ここで所定量を添加した後に、水溶液がヒドロゲルを形成する。生物学的に活性な物質及び電解質は単一の水溶液中で組み合わせ、そして同時に両親媒性のペプチドの水溶液に添加してよい。生物学的に活性な物質は抗炎症剤、抗生物質、抗癌剤、鎮痛剤、オピオイド、薬剤、成長因子、タンパク質、アミノ酸、ペプチド、ポリヌクレオチド、ヌクレオチド、炭水化物、糖、脂質、多糖類、核タンパク質、糖タンパク質、リポタンパク質、ステロイド、化学誘引剤及びこれらの何れかの組み合わせから選択してよい。この方法は更に、患者の所定部位にヒドロゲルを注入する工程を含んでよい。例えばこの方法は、電解質の所定量を添加する前、そして、該生物学的に活性な物質の所定量を添加した後に患者に水溶液を注入する工程を含み、ここで電解質の所定量を添加することが、周囲組織から、注入された溶液内にイオンを移動させることを含んでよい。別の例においては、この方法は電解質の所定量を添加する前、そして、該生物学的に活性な物質の所定量を添加した後に患者の所定部位内に水溶液を注入する工程を含んでよく、ここで注入された水溶液は、所定部位からの移動に関して安定である。
【0019】
別の局面において、本発明は患者にペプチド組成物を送達するためのキットを提供する。キットは水溶液の形態であってよい精製されたペプチド組成物、及び、電解質、緩衝剤、送達装置、他の薬剤1つ以上とペプチド組成物を混合するために適する容器から選択される物品少なくとも1つを備える。送達装置は例えばカテーテル、針、シリンジ又はこれらの何れかの組み合わせであってよい。キットは更に、使用のため、例えばペプチド組成物を調製するため、他の物質と組成物を混合するため、及び、対象内に組成物を導入するため等の説明書を含んでよい。
【0020】
別の局面において、本発明は患者に生物学的に活性な物質を送達するためのキットを提供する。このキットは、両親媒性ペプチド及びペプチドと予め混合して提供され得るか、または個別に提供され得る、生物学的に活性な物質を含む水溶液の形態であってよい、精製されたペプチド組成物を含む。キットは更に、電解質、緩衝剤、送達装置、説明書等を含んでよい。生物学的に活性な物質はナノスフェア、マイクロスフェア等(ナノカプセル、マイクロカプセル等とも称する)として存在してよい。このような球状物、カプセル等の作製、生物学的に活性な物質のカプセル化のための多くの方法及び試薬が、当該分野で知られている。例えば、持続放出及び/又はpH抵抗性の薬剤処方を作製するための標準的なポリマー及び方法を、使用できる。
【0021】
1つの局面において、本発明は患者に細胞を送達するためのキットを提供する。このキットはペプチドを含む水溶液の形態であってよい精製されたペプチド組成物を備える。このキットは更に細胞を含んでよい。このキットは、上記キットの説明において列挙した物品の何れかを含んでよい。このキットは更に、このキットを使用しながら送達されるべき細胞を調製するための説明書を包含する。例えば説明書は細胞の培養方法、対象から細胞を回収する方法、ペプチドと細胞を混合する方法、使用に適する細胞の型等を説明するものであってよい。本発明のキットのいずれにおいても、水溶液は所定の条件下において少なくとも9週間の貯蔵寿命を有してよい。水溶液は更に電解質を含んでよい。
本発明は、例えば以下の項目を提供する。
(項目1)
交互する親水性アミノ酸及び疎水性のアミノ酸を各々が有する複数の両親媒性ペプチドを含む組成物であって、ここで、該ペプチド鎖は各々少なくとも8アミノ酸を含有し、相補的であり、構造的に適合し、そして、自己組立によりβ−シートの巨視的スカホールドとなり、そしてここで該ペプチド鎖の少なくとも約75%が同じ配列を有する、組成物。
(項目2)
前記ペプチド鎖の少なくとも約80%が同じ配列を有する、項目1に記載の組成物。
(項目3)
前記ペプチド鎖の少なくとも約85%が同じ配列を有する、項目1に記載の組成物。
(項目4)
前記ペプチド鎖の少なくとも約90%が同じ配列を有する、項目1に記載の組成物。
(項目5)
前記ペプチド鎖の少なくとも約95%が同じ配列を有する、項目1に記載の組成物。
(項目6)
前記ペプチド鎖の少なくとも約99%が同じ配列を有する、項目1に記載の組成物。
(項目7)
前記ペプチドが、以下:
【化1】


から選択される配列を有する、項目1に記載の組成物。
(項目8)
前記ペプチドが、以下:
【化2】


から選択される配列を有する、項目1に記載の組成物。
(項目9)
前記ペプチドが、以下:
【化3】


から選択される配列を有する、項目1に記載の組成物。
(項目10)
前記ペプチドが、以下:
【化4】


から選択される配列を有する、項目1に記載の組成物。
(項目11)
前記ペプチドの配列が、以下:
【化5】


の配列を有する、項目1に記載の組成物。
(項目12)
項目1に記載の組成物を含む、水溶液。
(項目13)
前記溶液が機械的攪拌に対して安定であるヒドロゲルを形成する、項目12に記載の水溶液。
(項目14)
前記溶液が注入可能である、項目12に記載の水溶液。
(項目15)
前記水溶液のpHが約4.5〜約8.5の間である、項目12に記載の水溶液。
(項目16)
前記ペプチドが自己組立を起こして前記溶液中でマトリックスとなる、項目12に記載の水溶液。
(項目17)
前記自己組立が機械的攪拌に対して安定ではない、項目16に記載の水溶液。
(項目18)
少なくとも約0.1mMの電解質を更に含む、項目16に記載の水溶液。
(項目19)
前記溶液が注入可能である、項目18に記載の水溶液。
(項目20)
前記ペプチド鎖が注入後に自己組立可能である、項目14又は19のいずれか1項に記載の水溶液。
(項目21)
緩衝剤を更に含む、項目12に記載の水溶液。
(項目22)
前記水溶液中の前記ペプチド鎖の濃度が少なくとも約1重量%である、項目12に記載の水溶液。
(項目23)
前記水溶液中の前記ペプチド鎖の濃度が少なくとも約2重量%である、項目12に記載の水溶液。
(項目24)
前記水溶液中の前記ペプチド鎖の濃度が少なくとも約3重量%である、項目12に記載の水溶液。
(項目25)
前記水溶液中の前記ペプチド鎖の濃度が少なくとも約4重量%である、項目12に記載の水溶液。
(項目26)
前記水溶液中の前記ペプチド鎖の濃度が少なくとも約5重量%である、項目12に記載の水溶液。
(項目27)
前記水溶液中の前記ペプチド鎖の濃度が少なくとも約6重量%である、項目12に記載の水溶液。
(項目28)
前記水溶液中の前記ペプチド鎖の濃度が少なくとも約7重量%である、項目12に記載の水溶液。
(項目29)
前記水溶液中の前記ペプチド鎖の濃度が少なくとも約8重量%である、項目12に記載の水溶液。
(項目30)
1つ以上の生物学的に活性な物質を更に含む、項目1又は12のいずれか1項に記載の水溶液。
(項目31)
以下の工程:
保護基に連結する側鎖内の基を含むアミノ酸を準備する工程;
該アミノ酸を組み立てて両親媒性のペプチド鎖とする工程;
該ペプチド鎖を酸と反応させることにより該保護基を除去する工程;および、
該酸を非フッ素化アセテート塩と交換する工程;
を含む、ペプチド鎖の調製方法。
(項目32)
前記非フッ素化アセテート塩が酢酸ナトリウム及び酢酸カリウムから選択される、項目31に記載の方法。
(項目33)
前記方法は、少なくとも約75%が同じ配列番号を有する複数のペプチド鎖を調製する工程を更に含んでいる、項目31に記載の方法。
(項目34)
前記方法は、少なくとも約80%が同じ配列番号を有する複数のペプチド鎖を調製することを更に含んでいる、項目31に記載の方法。
(項目35)
前記方法は、少なくとも約85%が同じ配列番号を有する複数のペプチド鎖を調製することを更に含んでいる、項目31に記載の方法。
(項目36)
前記方法は、少なくとも約90%が同じ配列番号を有する複数のペプチド鎖を調製することを更に含んでいる、項目31に記載の方法。
(項目37)
前記方法は、少なくとも約95%が同じ配列番号を有する複数のペプチド鎖を調製することを更に含んでいる、項目31に記載の方法。
(項目38)
前記方法は、少なくとも約99%が同じ配列番号を有する複数のペプチド鎖を調製することを更に含んでいる、項目31に記載の方法。
(項目39)
前記酸がトリフルオロ酢酸である、項目31に記載の方法。
(項目40)
交互する親水性アミノ酸及び疎水性のアミノ酸を有する両親媒性ペプチド鎖の2%超の水溶液であって、該ペプチド鎖各々が少なくとも8アミノ酸を含有する、水溶液
を含む組成物。
(項目41)
前記ペプチド鎖が機械的攪拌に対して安定であるヒドロゲルを形成する、項目40に記載の水溶液。
(項目42)
前記溶液が注入可能である、項目40に記載の組成物。
(項目43)
前記ペプチド鎖が自己組立を起こして前記溶液中でマトリックスとなる、項目40に記載の組成物。
(項目44)
前記自己組立が機械的攪拌に対して安定ではない、項目43に記載の組成物。
(項目45)
前記溶液が少なくとも約0.1mMの電解質を含有する、項目43に記載の組成物。
(項目46)
前記溶液が注入可能である、項目45に記載の組成物。
(項目47)
前記ペプチド鎖が注入後に自己組立可能である、項目42又は46のいずれか1項に記
載の組成物。
(項目48)
生物学的に活性な1つ以上の物質を更に含む、項目40に記載の組成物。
(項目49)
前記水溶液中のペプチド鎖の濃度が少なくとも約3重量%である、項目40に記載の組成物。
(項目50)
前記水溶液中のペプチド鎖の濃度が少なくとも約4重量%である、項目40に記載の組成物。
(項目51)
前記水溶液中のペプチド鎖の濃度が少なくとも約5重量%である、項目40に記載の組成物。
(項目52)
前記水溶液中のペプチド鎖の濃度が少なくとも約6重量%である、項目40に記載の組成物。
(項目53)
前記水溶液中のペプチド鎖の濃度が少なくとも約7重量%である、項目40に記載の組成物。
(項目54)
前記水溶液中のペプチド鎖の濃度が少なくとも約8重量%である、項目40に記載の組成物。
(項目55)
両親媒性ペプチド鎖を含む巨視的スカホールドであって、ここで該ペプチド鎖は、交互する親水性アミノ酸及び疎水性のアミノ酸を有し、相補的であり構造的に適合し、そして、自己組立によりβ−シート巨視的スカホールドとなり、そしてここで両親媒性ペプチド鎖は水溶液中にあり、そしてここで該ペプチド鎖の少なくとも約75%が同じ配列を有する、巨視的スカホールド。
(項目56)
前記ペプチド鎖の少なくとも約80%が同じ配列を有する、項目55に記載の巨視的スカホールド。
(項目57)
前記ペプチド鎖の少なくとも約85%が同じ配列を有する、項目55に記載の巨視的スカホールド。
(項目58)
前記ペプチド鎖の少なくとも約90%が同じ配列を有する、項目55に記載の巨視的スカホールド。
(項目59)
前記ペプチド鎖の少なくとも約95%が同じ配列を有する、項目55に記載の巨視的スカホールド。
(項目60)
前記ペプチド鎖の少なくとも約99%が同じ配列を有する、項目55に記載の巨視的スカホールド。
(項目61)
前記水溶液中の前記ペプチド鎖の濃度が少なくとも約1重量%である、項目55に記載の巨視的スカホールド。
(項目62)
前記水溶液中の前記ペプチド鎖の濃度が少なくとも約2重量%である、項目55に記載の巨視的スカホールド。
(項目63)
前記水溶液中の前記ペプチド鎖の濃度が少なくとも約3重量%である、項目55に記載の巨視的スカホールド。
(項目64)
前記水溶液中の前記ペプチド鎖の濃度が少なくとも約4重量%である、項目55に記載の巨視的スカホールド。
(項目65)
前記水溶液中の前記ペプチド鎖の濃度が少なくとも約5重量%である、項目55に記載の巨視的スカホールド。
(項目66)
前記水溶液中の前記ペプチド鎖の濃度が少なくとも約6重量%である、項目55に記載の巨視的スカホールド。
(項目67)
前記水溶液中の前記ペプチド鎖の濃度が少なくとも約7重量%である、項目55に記載の巨視的スカホールド。
(項目68)
前記水溶液中の前記ペプチド鎖の濃度が少なくとも約8重量%である、項目55に記載の巨視的スカホールド。
(項目69)
前記スカホールドが物理的攪拌に対して安定である、項目55に記載の巨視的スカホールド。
(項目70)
前記両親媒性ペプチドを含有する水溶液が注入可能である、項目69に記載の巨視的スカホールド。
(項目71)
前記スカホールドが物理的攪拌に対して安定ではない項目55に記載の巨視的スカホールド。
(項目72)
前記ペプチド鎖が注入後に自己組立可能である、項目70に記載の巨視的スカホールド。
(項目73)
前記両親媒性ペプチドが電解質を含有する水溶液中にあり、そして前記スカホールドが物理的攪拌に対して安定である、項目55に記載の巨視的スカホールド。
(項目74)
前記両親媒性ペプチド鎖を含有する水溶液が注入可能である、項目73に記載の巨視的スカホールド。
(項目75)
前記スカホールド内にカプセル化された生物学的に活性な物質を更に含む、項目55に記載の巨視的スカホールド。
(項目76)
生物学的に活性な物質を患者に送達する方法であって、以下の工程:
項目12に記載の水溶液を準備する工程;
該水溶液に所定量の生物学的に活性な物質を添加する工程;及び、
該水溶液に電解質の所定量を添加する工程、
を包含し、ここで該所定量を添加した後に、該水溶液がヒドロゲルを形成する、方法。
(項目77)
前記生物学的に活性な物質及び前記電解質を単一の水溶液中で組み合わせ、そして同時に前記両親媒性のペプチドの水溶液に添加する、項目76に記載の方法。
(項目78)
前記生物学的に活性な物質が抗炎症剤、抗生物質、抗癌剤、鎮痛剤、オピオイド、薬剤、成長因子、タンパク質、アミノ酸、ペプチド、ポリヌクレオチド、ヌクレオチド、炭水化物、糖、脂質、多糖類、核タンパク質、糖タンパク質、リポタンパク質、ステロイド、化学誘引剤及びこれらの何れかの組み合わせから選択される、項目76に記載の方法。
(項目79)
患者の所定部位に前記ヒドロゲルを注入することを更に含む、項目76に記載の方法。
(項目80)
電解質の所定量を添加する工程の前、かつ生物学的に活性な物質の所定量を添加する工程の後に患者に水溶液を注入する工程を更に含み、ここで該電解質の所定量を添加する工程が、周囲組織から、注入された溶液内にイオンを移動させることを含む、項目76に記載の方法。
(項目81)
電解質の所定量を添加する工程の前、かつ生物学的に活性な物質の所定量を添加する工程の後に患者の所定部位内に水溶液を注入する工程を更に含み、ここで該注入された水溶液は所定部位からの移動に関して安定である、項目76に記載の方法。
(項目82)
以下要素:
項目1に記載の組成物;及び、
1つ以上の電解質、緩衝剤、送達装置、他の薬剤1つ以上と該組成物とを混合するために適する容器、使用のための組成物を調製するための説明書、他の物質と組成物とを混合するための説明書、および、対象内に該組成物を導入するための説明書、
を備える、患者に物質を送達するためのキット。
(項目83)
前記組成物が乾燥形態又は水溶液である、項目82に記載のキット。
(項目84)
前記水溶液が所定の条件下で少なくとも9週間の貯蔵寿命を有する、項目83に記載のキット。
(項目85)
前記水溶液が更に電解質を含む、項目83に記載のキット。
(項目86)
前記送達装置が1つ以上のカテーテル、針及びシリンジを含む、項目82に記載のキット。
(項目87)
生物学的に活性な物質を更に含む、項目82に記載のキット。
(項目88)
前記生物学的に活性な物質が前記組成物と予備混合される、項目87に記載のキット。
(項目89)
前記生物学的に活性な物質がナノスフェア又はマイクロスフェアの形態である、項目87に記載のキット。
(項目90)
前記キットを用いて送達されるべき細胞の調製に関する説明書を更に含む、項目82に記載のキット。
【図面の簡単な説明】
【0022】
以下の図面の幾つかの説明図を参照しながら本発明を記載する。
【図1】図1は、ペプチドスカホールドにおけるペプチド間の相互作用の模式図である。交互する疎水性残基及び親水性残基のアミノ酸配列を有する種々のペプチドは、生理学的に等価な電解質溶液に曝露されると、自己組立を起こしてβ−シートの安定なスカホールドを形成する(米国特許第5,955,343号及び同第5,670,483号)。ペプチドスカホールドはペプチド間の多くの相互作用により安定化される。例えば、隣接するペプチドに由来する正荷電及び負荷電のアミノ酸側鎖は相補イオン対を形成し、他の親水性残基(例えば、アスパラギン及びグルタミン)は水素結合の相互作用に関与する。隣接ペプチド上の疎水性の基はファンデルワールス相互作用に関与する。ペプチド骨格上のアミノ基及びカルボニル基も分子間の水素結合相互作用に関与する。
【図2】図2は、投与後28日のラット頭蓋冠欠損に関して、A)正常(未傷害)組織、B)対照(未処置)頭蓋冠欠損、C)本発明の実施形態による、組立られていないペプチド鎖の3%溶液の処置、D)COLLAPLUGTMの処置、E)本発明の実施形態による、NaClの存在下で組立てたペプチド鎖の3%溶液の処置、F)本発明の実施形態による、媒体中で組立てたペプチド鎖の3%溶液の処置、G)本発明の実施形態による、1:1の比で血液と組み合わせた組立られていないペプチド鎖の3%溶液の処置、H)COLLAGRAFTTMと血液の組み合わせの処置、I)本発明の実施形態による、リン酸3カルシウムと約1:1(溶液の容量/TCPの重量)の比で組み合わせた組立ペプチド鎖の3%溶液の処置、J)リン酸3カルシウムと血液(1:1)の組み合わせの処置、及びK)本発明の実施形態による、媒体中の組立ペプチド鎖の1%溶液の処置、を示す一連の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(特定の好ましい実施形態の詳細な説明)
本明細書に記載した本発明の組成物は12〜16アミノ酸を有する精製された両親媒性ペプチドを包含する。ペプチドは少なくとも75%の純度である。1つの実施形態において、ペプチドは保護基に連結する側鎖内の基を含むアミノ酸を準備すること、アミノ酸を組み立てて両親媒性のペプチド鎖とすること、及び、トリフルオロ酢酸又はその塩の何れかの非存在下にアセテート塩にペプチドを反応させることにより保護基を除去することにより調製してよい。
(自己組立ペプチド)
本発明の使用に適切であるペプチド配列は、参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第5,670,483号及び同第5,955,343号及び米国特許出願第09/778,220号に報告されているものを包含する。これらのペプチド鎖は、1価のカチオンのような電解質の存在下で自己組立して非常に安定なβ−シートの巨視的構造を形成することができる、交互する親水性アミノ酸及び疎水性アミノ酸からなる。ペプチド鎖は相補的であり、構造的に適合している。構造内のペプチド鎖の側鎖は、2つの面、即ち、荷電したイオン性側鎖を有する極性の面及びアラニン又は他の疎水性の基を有する非極性の面に分割される。これらのイオン性の側鎖は、正荷電のアミノ酸残基及び負荷電のアミノ酸残基が相補性のイオン対を形成できるという点において、相互に自己相補的である。従ってこれらのペプチド鎖はイオン性自己相補性ペプチド、又はI型自己組立ペプチドと称する。イオン性残基が1つの正荷電残基と1つの負荷電残基とで交互である場合(−+−+−+−+)、このペプチド鎖は「モジュラスI」と記載され;イオン性残基が2つの正荷電残基と2つの負荷電残基とで交互である場合(−−++−−++)は、このペプチド鎖は「モジュラスII」と記載される。本発明で使用するための例示されるペプチド配列は、表1に列挙するものを包含する。一部の実施形態においては、本発明で使用するペプチド配列は少なくとも12又は18アミノ酸残基を有する。D型及びL型の両方のアミノ酸をペプチド鎖の作製に使用してよい。それらは同じ鎖内で混合されていてよく、或いは、自身がD型及びL型のアミノ酸のみを含んでいる個々の鎖の混合物を有するペプチド組成物を調製してよい。
【0024】
【表1】

N/Aは非適応
*これらのペプチドはNaClを含有する溶液中でインキュベートすればβ−シートを形成するが、自己組立して巨視的スカホールドを形成することは観察されていない。
【0025】
多くのモジュラスI及びIIの自己相補性のペプチド配列、例えばEAK16、KAE16、RAD16、RAE16及びKAD16が以前に分析されている(表1)。16アミノ酸を含有するモジュラスIVイオン性自己相補性ペプチド配列(例えば、EAK16−IV、KAE16−IV、DAR16−IV及びRAD16−IV)もまた研究されている。これらの自己組立ペプチド鎖内の荷電残基が置換された場合(すなわち正荷電リジンが正荷電アルギニンで置き換えられ、負荷電グルタミン酸が負荷電アスパラギン酸で置き換えられる場合)、自己組立過程に対する有意な作用は本質的には生じない。しかしながら、正荷電残基のリジン及びアルギニンが、負荷電残基のアスパラギン酸及びグルタミン酸で置き換えられると、ペプチド鎖はもはや自己組立して巨視的スカホールドを形成できなくなるが、それらはなお塩の存在下にβ−シート構造を形成できる。水素結合を形成できる他の親水性残基(例えば、アスパラギン及びグルタミン)を荷電残基に代えて、又はそれに追加してペプチド鎖に組み込んでよい。ペプチド鎖内のアラニンをより疎水性の残基、例えばロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン又はチロシンに変更されれば、これらのペプチドはより大きい自己組立傾向を有し、増強された強度を有するペプチドマトリックスを形成する。上記したペプチド鎖と同様の組成及び長さを有する一部のペプチドはβ−シートよりはむしろαヘリックス及びランダムコイルを形成し、巨視的構造は形成しない。即ち、自己相補性に加えて、他の要因、例えば鎖の長さ、分子間相互作用及びねじれ型アレイを形成する能力が、巨視的スカホールドの形成のために重要であると考えられる。
【0026】
他の自己組立ペプチド鎖は、単一のアミノ酸残基又は複数のアミノ酸残基によって何れかの自己組立ペプチド鎖のアミノ酸配列の変更により形成してよい。更に、ペプチドスカホールドへの特定の細胞認識リガンド(例えば、RGD又はRAD)の組込みは、カプセル化された細胞の増殖を誘発し得る。インビボにおいては、これらのリガンドはまた、スカホールドの外からスカホールドへと細胞を誘引し得、そこでそれら細胞はスカホールド中へと進入してもよいし、それ以外にカプセル化された細胞と相互作用してもよい。得られるスカホールドの機械的強度を増大させるため、システインをペプチド鎖に取り込むことによりジスルフィド結合の形成を可能とするか、又は、芳香族環を有する残基を取り込んでUV光への曝露により架橋され得る。スカホールドのインビボの半減期は、スカホールド内にプロテアーゼ切断部位を組み込むことによってスカホールドが酵素的に分解できるようにすることにより調節され得る。上記した改変の何れかの組み合わせもまた、同じペプチドスカホールドに対して行ってよい。
【0027】
自己組立ナノスケール構造は、種々の程度の硬直性又は弾性を有するように形成できる。何れの理論にも制約されないが、低い弾性は、細胞をスカホールド内に遊走させ、スカホールド内に滞留後は相互に連絡させる、重要な因子であり得る。本明細書に記載したペプチドスカホールドは典型的には、標準的なコーン−プレートレオメーターで測定した場合に1〜10kPaの範囲の低弾性率を有する。このような低い値は、細胞の収縮の結果としてスカホールドの変形を可能にし、この変形が細胞−細胞の連絡のための手段を提供する。更に、このようなモジュラスは、スカホールドがその内部に遊走している細胞に対して生理学的応力を伝達できるようにするものであり、瘢痕よりも本来の組織により近い微細構造で組織を形成するように細胞を刺激する。スカホールドの硬直性は、ペプチド配列の変更、ペプチド濃度の変更及びペプチド長の変更が挙げられる、種々の手段により制御できる。硬直性を増大させる他の方法、例えばペプチド鎖のアミノ末端もしくはカルボキシ末端、またはアミノ末端とカルボキシ末端との間にビオチン分子を結合させて、それから架橋することによる等も、使用できる。
【0028】
架橋可能なペプチド鎖は、標準的なf−moc化学を用いて合成し、高速液体クロマトグラフィーを用いて精製してよい(表2)。ペプチドスカホールドの形成は、本明細書に記載する通り電解質を添加することにより開始してよい。芳香族側鎖を有する疎水性の残基は、UV照射への曝露により架橋させてよい。架橋の程度は、UV光への曝露の所定の長さ及び所定のペプチド鎖濃度により、厳密に制御してよい。架橋の程度は、標準的な方法を用いた光散乱、ゲル濾過又は走査電子顕微鏡検査により測定してよい。更に、架橋の程度は、マトリックスメタロプロテイナーゼのようなプロテアーゼによる消化後、スカホールドのHPLC分析又は質量スペクトル分析により調べてもよい。スカホールドの材料強度は、本明細書に記載する通り架橋の前後に測定してよい。
【0029】
【表2】

表3において下線を付したもののようなアグリカン(Aggrecan)プロセシング部位を、場合によってペプチドのアミノ末端もしくはカルボキシ末端、またはアミノ末端とカルボキシ末端との間に付加してよい。同様に、他のマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)切断部位(例えば、コラゲナーゼに対する切断部位)も、同様の様式で導入してよい。これらのペプチド鎖から形成されたペプチドスカホールドは、単独又は架橋可能なペプチドとの組み合わせにおいて、種々の時間の間、種々のプロテアーゼ及び種々のペプチド濃度の種々のプロテアーゼに曝露してよい。スカホールドの分解速度は、種々の時点において、上清中に放出された消化ペプチド鎖のHPLC分析、質量スペクトル分析又はNMR分析により測定してよい。或いは、放射標識ペプチド鎖をスカホールド形成のために使用する場合、上清中に放出された放射標識物質の量をシンチレーション計数により測定してよい。一部の実施形態については、組立てられたペプチド鎖のβ−シート構造は、ペプチド鎖に切断部位を必ずしも取り込まない程度に十分速やかに分解する。
【0030】
【表3】

所望により、所定の形状又は容量を有するペプチドスカホールドを形成してよい。所望の幾何学的特徴又は寸法を有するスカホールドを形成するため、本明細書に記載するように、ペプチドの水溶液を予め形付けられた鋳造用金型に添加し、電解質を添加することによりスカホールドへと自己組立するようにペプチド鎖を誘導する。得られる巨視的ペプチドスカホールドの幾何学的特徴及び寸法は、適用されるペプチド溶液の濃度及び量、スカホールドの組立を誘導するために使用される電解質の濃度、及び鋳造装置の寸法により決定される。
【0031】
所望により、ペプチドスカホールドは種々の生物物理学的光学装置、例えば円偏光二色性(CD)、動的光散乱、フーリエ変換赤外(FTIR)、原子力顕微鏡(ATM)、走査電子顕微鏡(SEM)及び透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて特徴付けしてよい。例えば、生物物理学的方法を用いて、ペプチドスカホールド内のβ−シート二次構造の程度を調べてよい。更に、走査透過型電子顕微鏡の量子画像分析を用いて、フィラメント及び細孔の大きさ、繊維の直径、長さ、弾性及び容量画分を測定してよい。スカホールドはまた、膨潤の程度、スカホールド形成に対するpH及び電解質濃度の作用、種々の条件下での水和の程度、及び引っ張り強度を測定するため、数種の標準的な機械的試験手法を用いて調べてもよい。
【0032】
(ペプチドの作製)
本発明で使用するためのペプチド鎖は、溶液相合成および固相合成を包含する、当該分野でよく知られた手法を用いて作製してよい。これらの手法は、驚くべき特性(貯蔵寿命、分解速度、溶解度及び機械的特性が挙げられるが、これらに限定されない)を最終組成物に与える純度レベルにおいて、本明細書に記載したペプチド鎖を作製するために最適化されてもよい。
【0033】
1つの実施形態において、本発明で使用するためのペプチド鎖は、固相ペプチド合成手法を用いて作製される。合成は、例えば底部が粗い多孔性である粗多孔性ガラスフリットディスクを有する、ガラス反応容器中において室温で行ってよい。反応器は反応において使用されるアミノ酸誘導体、溶媒及び試薬の添加を容易にする。当業者の知る通り、反応器の大きさは合成に使用する樹脂の量による。反応容器はメカニカルスターラーを装着するかまたはプラットホーム振とう器上に置くことにより、ペプチド−樹脂複合体と反応溶液との効率的な混合を行ってよい。
【0034】
ペプチド鎖が合成される際にそのペプチド鎖を支持するために使用してよい種々の樹脂は、当業者の知る通りである。本発明の手法で使用するための例示される樹脂は、Glycopep Chemicals,Inc.(Chicago,IL)より入手できるRink Amide MBHA樹脂である。MBHA樹脂は、0.4〜0.8ミリモル/グラムの以下:
【0035】
【化6】

[式中FmocはN−α−(9−フルオレニルメチルオキシカルボニル)であり、Nleはノルロイシンである]で誘導された1%ジビニルベンゼン(DVB)架橋ポリスチレン樹脂であり、これは、樹脂中の置換の程度を調べるためのマーカーとして使用される。ポリマーの置換の程度は生成物の品質に大きく影響しないが、製造時間と費用に大きく影響する。置換程度が高度であるほどカップリング時間が長くなり、置換程度が低いほど反応を実施するために必要な樹脂の量及び洗浄工程のために必要な溶媒の容量が増大する。別の樹脂は、例えばクロロメチルポリスチレン(CMS)樹脂、4−ヒドロキシフェノキシメチルポリスチレン樹脂、Risk Amide AMS樹脂
【0036】
【化7】

、及びサルコシンジメチルアクリルアミド樹脂
【0037】
【化8】

であり、これらはすべてPolymer Laboratoriesより入手可能である。これらの樹脂は、特定のアミノ酸が樹脂に既に結合して、購入され得る。
【0038】
ペプチド鎖はC末端から合成されるが、アミノ酸の反応性側鎖およびαアミノ基の両方がペプチド鎖に付加されることを保護しなければならない。Fmocのような不安定な保護基を用いてαアミノ基をブロックし得、安定な保護基を用いて反応性側鎖をブロックし得る。1つの実施形態においては、後述する通り、不安定な保護基はピペリジンにより除去され、安定な保護基は強酸を用いて除去される。アミノ酸側鎖のための例示される保護基としては、2,2,4,6,7−ペンタメチルジヒドロベンゾフラン(Pbf)、t−ブトキシ(OtBu)、トリチル(Trt)、tert−ブチル(tBu)及びBoc(tert−ブトキシカルボニル)が挙げられるが、これらに限定されない。どの保護基が特定のアミノ酸に対して適切であるかは、当業者の知る通りである。保護基が既に配置されたアミノ酸は、例えば、Advanced ChemTech,Louisville,KYより販売されている。
【0039】
成長中のペプチド鎖にアミノ酸を付加するため、樹脂で末端終結された鎖の末端にあるαアミノ基は、次に活性化されたアミノ酸がペプチド鎖に付加されることによって、アシル化される。1つの実施形態において、保護されたアミノ酸及び2−(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HBTU)を、DMFに溶解する。N−メチルモルホリン(NMM)を溶液に添加し、次にこれを樹脂に添加する。一般的に、アシル化のための試薬は、反応条件を最適化するように、そしてカップリング後の除去が容易であるように選択される。
【0040】
HBTU/NMM/樹脂の混合物を適切な間隔、例えば少なくとも1時間反応させ、その後、反応の範囲を、TNBS試験(Hancock,et al.,Anal.Biochem.,1976,71,260)及び/又はニンヒドリン試験(例えば、試料とニンヒドリンとの反応、アミンを比色法により同定)を用いて測定してよい。残存アミノ基が検出された場合は、最初のカップリング反応に必要であった試薬の量の半分を用いてカップリング反応を反復してよい。反応の反復後になお存在する未反応のαアミノ酸はでキャッピングすることにより後のサイクルにおける欠陥配列を回避してよい。
【0041】
各アミノ酸を添加した後、不安定なFmoc保護基は、DMF又はDMFと水の混合物中のピペリジンの20%溶液で2回樹脂を処理することにより、成長中のペプチド上のN末端アミノ酸のαアミノ官能基から脱離させる。この実施形態において、安定な保護基はこれらの条件下の除去に対して抵抗性であり、アミノ酸に結合したまま残存する。
【0042】
カップリング反応及び脱保護反応の両方の後、樹脂をDMFで洗浄することにより過剰な試薬を排除する。DMFはカップリング工程において使用される試薬に対する優れた溶媒であり、優れた膨潤特性も有している。代替となる溶媒を用いて本発明で使用するペプチド鎖を作製してもよい。このような溶媒は副反応の危険性を最小限とし、反応混合物から過剰な試薬を効率的に抽出するように選択しなければならない。リンスの回数は、ペプチド−樹脂の溶媒との十分な接触、及び試薬の抽出を可能とするほど十分でなければならない。洗浄工程は反復してよいが、反復して洗浄することは製造コストを増大することは、当業者の知る通りである。
【0043】
配列の最後のアミノ酸が付加された後に、ペプチドのN末端を無水酢酸でキャッピングし、完成した鎖を樹脂から脱着させる。次に何れの側鎖保護基も脱離させる。これはスカベンジャー、例えば水、フェノール及び/又はトリイソプロピルシランの存在下にトリフルオロ酢酸でペプチド−樹脂複合体を処理することにより達成してよい。スカベンジャーは脱離中に反応性カチオンを捕獲し、反応性側鎖のアルキル化を防止する。
【0044】
別の実施形態においては、ペプチド鎖は溶液相の手法を用いて合成する。溶液相の合成は成長中のペプチド鎖への保護されたアミノ酸の段階的な付加に基づく。この方法はRAD16のような繰り返し単位を有するペプチド鎖のための固相法よりも迅速である。例えば4量体のRADAは数個の反応容器中で作製してよい。反応容器の1つにおいて、C末端アミノ酸を脱保護し、N末端の酸を保護する。C末端未保護4量体の第2の反応容器への添加により単一の反応工程においてペプチドの長さが二倍になる。工程は12量体が
形成されるまで反復する。当業者の知る通り、4量体同士の幾つかの組み合わせは16量体の迅速な形成をもたらす。
【0045】
完成したペプチドは標準的なペプチド精製手法、例えばゲル濾過及びイオン交換高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて精製してよい。1つの実施形態において、ペプチド鎖はPLRP−S、即ちPolymer Laboratories,Inc.,Amherst,MAより入手可能なDVB−架橋ポリスチレンを用いた逆相HPLCを用いて精製する。分離はペプチド鎖とポリマーの間の疎水相互作用に基づく。ペプチド鎖と樹脂との相互作用は同様の構造のペプチド鎖が樹脂支持体を用いて容易に分離される程度に十分特異的である。一般的にカラムは水性の酢酸で洗浄してそれと平衡化させる。組成のペプチドをカラムにロードし、酢酸/水及びアセトニトリル/酢酸/水の勾配を用いて溶離させる。1つの実施形態において、0.1%酢酸及び80%アセトニトリルを使用するが、当業者の知る通り、処理時間及び所望のペプチド及び種々の不純物の間の分離を旨適化するために比率は調節してよい。同様に、勾配は分当たり0.5%〜1.0%(例えばアセトニトリル溶液増量)であってよいが、反応産物と不純物の間の分離を旨適化するために調節してよい。精製方法はまたアセテートとトリフルオロ酢酸塩を交換し、ペプチドをアセテート塩の形態に変換する。アセテート交換産物はフッ素化産物よりも生体適合性が高い。意外にも、酢酸ナトリウムの使用が欠失付加物が少なくより高度に精製された生成物をもたらす。
【0046】
画分を収集する際には、画分の含有量は水性アセトニトリル中0.1%TFAで溶離する分析逆相HPLCによりモニタリングしてよい。ペプチド産物を精製するために使用される何れかの逆相HPLC支持体も溶出画分の品質を分析するために使用してよい。1つの実施形態において。C18カラム(例えばC18鎖で誘導体化されたシリカを使用)を使用してよい。所望の純度仕様に合致した精製カラムから得られた画分を合わせて凍結乾燥してよい。より低値の純度を有する画分は再処理してよい。より高い純度の物質を得るために再処理できない画分は廃棄してよい。
【0047】
精製工程により数種の型の副生成物から所望の配列を有するペプチド鎖を分離する。第1は過剰な試薬であり、これより所望のペプチド配列が容易に分離できる理由は、それが異なる化学構造及びより高い分子量を有するためである。第2には欠失付加物、即ち所望のペプチドと配列においては同様であるが消失アミノ酸1つ以上を有するペプチド鎖を包含する。本発明者等は意外にも欠失付加物の増強された除去が水性媒体中の所望のペプチドの溶解度を増大させ、自己組立スカホールドの種々の特性を変えることを発見した。一部の実施形態においては、最終産物は少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%又は少なくとも99%純粋である。一部の実施形態においては、最終ペプチド産物中の個々のペプチド鎖の少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%又は少なくとも99%が長さ及び配列が同一である。
【0048】
(ペプチド溶液の作製及びその特性)
精製された生成物は粉末状態で保存するか、又は水溶液中に再溶解してよい。ペプチド産物は以前の製剤よりも水溶性が有意に高値であり、そして2%又は3%超の濃度が達成される。例えば超音波又は振とうテーブルによる攪拌を行えばペプチド鎖が溶液となり易い。溶液中のペプチドの濃度は所望の用途に応じて変動してよい。1つの実施形態において、水中のペプチド鎖の濃度は約0.25%〜約7%、例えば約0.5%、約1%、約2%、約3%、約4%、約5%又は約6%であってよい(全濃度は特段の記載が無い限り、重量%である)。別の実施形態においては、ペプチド鎖の濃度はむしろより高値となり、例えば約7%〜約10%、例えば約8%又は約9%であってよい。
【0049】
溶液中のペプチド鎖は静電的相互作用を介して自発的に自己組立してスカホールドとなる。自己組立ペプチド鎖は適切な刺激の適用時に延性及び流動し易さを保持しているヒドロゲルを形成する。一部の実施形態においては、例えば回転混合、超音波処理又は単にゲルの入った容器を急激に殴打すること等によりヒドロゲル/溶液を物理的に攪拌することにより自己組立を中断してよい。
【0050】
ペプチド溶液は電解質の存在下又は非存在下において少なくとも1年の貯蔵寿命を有してよい(後述参照)。
【0051】
ペプチド溶液は所望により放射線滅菌してよい。1つの実施形態において、ペプチド溶液は約35Kgreyのガンマ線照射への曝露に対して安定である。より低線量、例えば約25Kgreyも十分であれば滅菌に使用してよい。本明細書に記載した手法を用いて作製されたペプチド溶液は放射線照射への曝露に関して安定であり、滅菌照射への曝露により構造的改変を起こさない。当然ながら、ペプチド溶液は又0.45ミクロンのフィルターを通して注入することにより滅菌してよい。
【0052】
(自己組立ペプチドスカホールドの形成及びその特性)
ペプチド溶液を1価の塩の溶液に曝露することにより安定なスカホールドを形成してよい。十分な電解質を溶液に添加することにより、ペプチドからβ−シート巨視的構造への自己組立が開始される。本発明の特定の実施形態においては、添加される電解質の濃度は少なくとも5、10、20又は50mMである。より低濃度、例えば0.1〜1mm又はより高濃度も使用してよい。濃度の選択は部分的にはペプチドゲルの所望のイオン強度に依存しており、そしてゲル化の速度にも影響する。適当な電解質は例えばLi、Na、K及びCsを包含するがこれらに限定されない。電解質はペプチド鎖を自己組立させて機械的攪拌に対して安定なスカホールドとする。
【0053】
低濃度においては、ペプチド溶液への電解質の添加は限定的な液体流動及び高い可撓性を示す寒天様のゲルをもたらす。低ペプチド濃度のヒドロゲルの機械的挙動はゼラチンと類似している。高度に可撓性であるが、ヒドロゲルは脆くもある。可塑的に変形されるよりはむしろ、ゲルは破断して別個の小片又は破砕片となる。本発明者等はこれらの特性は高濃度で倍加されることはないことを発見した。むしろ、より高濃度のゲルは延性及び一体性を維持し、可塑的変形に適している。長鎖ヒアルロン酸のコンシステンシーと類似しているため、30ゲージの針を通して注入してよい。
【0054】
より高濃度において、ペプチド鎖の溶液は非ニュートン液体として挙動する。更に又、溶液は経時的に高粘度化する。例えば、3%溶液は混合後約1時間で20〜30Paの降伏応力及び40cP未満の粘度を示し、5〜6時間では降伏応力は50〜65Paに増大した。2週間後には降伏応力は100〜160Paに増大し、粘度は200cP未満まで増大した。
【0055】
延性のゲルは射出成型材料として挙動する。針を通過してペプチドヒドロゲルは縺れた糸の集積物というよりはむしろ単一の一体性のある塊状物として所望の空間を充填する。即ち、材料は個々のペプチド鎖の尺度及びゲルとしての巨視的尺度の両方において組立てられる。投与が容易になるような注入可能な物質及び細胞の内生と増殖を促進する連続した繊維性のネットワークの両方をもたらす。
【0056】
本発明者等は又、高純度(例えば鎖の組成に関して)のペプチドゲルがより低い純度のゲルと比較して加速した分解を示すことを発見した。実際、本発明の手法を用いて作製したゲルはコラーゲン又はヒアルロン酸よりもインビボの分解がより高速である。例えば、本発明の手法を用いて作製しインビボに移植した1%RAD16の200μl瞬時投与では28日以内に分解し、排出された。1%RAD16の70μl瞬時投与の90%超が14日以内に分解し、排出された。より高濃度のゲルはより長い分解時間を示す。
【0057】
本発明の特定の実施形態においては、高純度ゲルはまた生理学的pHにおいても安定である。ゲルは緩衝溶液でそれを平衡化させることにより生理学的pHとしてよい。例えば所望のpHを有する緩衝溶液の層を本発明の手法を用いて作製されたペプチドゲルの層の上又は下に充填してよい。この方法は例えば細胞を培養するためにスカホールドを使用するより前にリン酸塩緩衝食塩水又は組織培養用培地でペプチドスカホールドを平衡化させるために使用されている。ゲル及び緩衝溶液を所定時間平衡化させた後、ゲルのpHは溶液を除去してpH試験紙をゲル内又はゲル上に置くことにより容易に調べられる。当業者の知る通り、ゲルを所望のpHとするには工程を数回反復する必要がある場合もある。或いは、又はこれに加えて、過剰量の緩衝液を使用してもよい。緩衝液及びゲルの平衡化を迅速化するためにロッカーを使用してもよい。生理学的pHのゲルはより低いpHにおいて有していた物理的特性を維持している場合がある。それらはなお注入又は細胞と混合してよい。当然ながら、このようなゲルの生理学的組織及び細胞との適合性はpH2〜3よりも生理学的pHにおいて遥かに高くなる。
【0058】
本発明の特定の実施形態においては、ペプチド溶液のpHを調節することが望ましく、例えばペプチド溶液を対象(後述)に導入するか細胞をカプセル化する前にpHを〜7〜8.5の生理学的pHまで上昇させる。pH調節ペプチド溶液は他の目的、例えば組織培養又は生物学的に活性な物質のカプセル化のためにも使用してよい。比較的急速な態様において、例えば緩衝溶液による長時間の平衡化及び/又は緩衝溶液の複数回の交換を必要とすることなくpH調節を行うことが望ましい。
【0059】
多くの異なる緩衝液のペプチド1%水溶液のpHを上昇させる能力を調べるためにこれらを試験した。RAD16−Iペプチドをこの検討のために使用し、以下の緩衝液を試験した。
1.酢酸アンモニウム(実験室調製)
2.クエン酸ナトリウム(実験室調製)
3.酢酸ナトリウム(実験室調製)
4.炭酸水素ナトリウム(Abbott,Inc.作製の臨床用等級)
5.HEPES(Stem Cell Technologies,Inc.作製の研究用等級)
6.Tris−HCl(実験室調製)
7.トロメタミン、別名THAM(Abbott,Inc.作製の臨床用等級)
8.Ca及びMg非含有のリン酸塩緩衝食塩水(Gibc−BRL)。
【0060】
これらの緩衝液は全て、電解質添加の前後のいずれにおいても、スカホールドに組立てられるペプチド鎖の能力を破壊することなく、ペプチド溶液のpHを上昇させることができた。組立てられたスカホールドはまたpHを上昇させるために緩衝液で平衡化することができる。表4及び5はこれらの実験で得られた結果を総括するものである。表中、「事前の塩」とは電解質をペプチド組成物に添加した後に緩衝溶液を添加した実験を指し、「事後の塩」とは緩衝溶液の添加の後に電解質をペプチド組成物に添加した実験を指す。「事前の塩」及び「事後の塩」のコラムは最終緩衝液濃度及びペプチド溶液のpHを示す。記載した緩衝剤はペプチドゲルが4.5〜8.5のpHを達成することを可能としている。得られたペプチドゲルは機械的攪拌に対して安定ではなかった。例えば組立てられたゲルに緩衝剤を添加した場合、ペプチド構造は脱組立を起こし、流出性で水分過多となった。未緩衝の溶液に電解質を攪拌投入した場合も同様の現象が観察された。このようなpH値はpH値間、例えば6.0、6.5、7.0、7.5、8.0等の間で変動するため、ペプチド溶液及びヒドロゲルのインビボの仕様と合致している。
【0061】
実験の両方のセットにおいて、ペプチド溶液及びゲルのpHはペプチド溶液又は組立ペプチドスカホールドを標準的pHカリブレーション溶液でカリブレーションしてあるpH試験紙と接触させることにより測定した。ペプチド溶液はそれを含有する容器から取り出してピペットを用いながらpH試験紙に吹きかけるか、又は、緩衝溶液の存在下で組立状態を維持しているペプチドゲルの場合は、緩衝溶液をまず取り出し、次にペプチドゲルを容器からスパーテルを用いて取り出し、pH試験紙に接触させた。
【0062】
本明細書において報告している実験データは例示目的であり、本発明を限定しない。他の緩衝剤、他の緩衝剤濃度等も本発明の範囲に包含される。
【0063】
【表4】

【0064】
【表5】

(組織充填剤としての自己組立ペプチドスカホールドの使用)
本明細書に記載したペプチドゲルは、それに細胞が結合し、その上で創傷部位の内部に遊走するマトリックスを提供する。本明細書に開示したペプチドスカホールドは固体マトリックスというよりはむしろ介入する空間を有するナノ繊維のネットワークを含む。そのような構造は、他の培養手法及び材料により可能となるものよりも身体内の細胞の環境により近似した態様において、細胞の浸潤及び細胞−細胞の相互作用を可能にする。端部から単に治癒する代わりに、細胞がスカホールドの中心にまで遊走するに従って創傷の全領域が同時に再生されるのである。
【0065】
本発明の実施形態による高純度ゲルは創傷治癒を促進するために創傷部位内に直接注入してよい。例えば、腫瘍の摘出により形成された生検部位又は創傷部位に注入してよい。ゲルは又皮膚患部及び糖尿病性潰瘍のような慢性的な創傷において治癒を促進するために使用してよい。神経組織において治癒を促進するためのペプチドヒドロゲルの使用は米国特許出願10/968,790において論じられている。当然ながらペプチドゲルは非外科的に形成された創傷部位における組織再生を促進するために使用してよい。ゲルは注入してよいため、罹患組織を摘出するために本来必要とされた程度を超えて創傷部位を拡張する必要がない。更に又、ゲルは創傷部位になじむように形状化する必要がない。むしろそれは、例えば液体が注がれた容器に充填されるように、単純に創傷部位を充填するのみである。注入されたゲルは個々の線状物又は糸状物ではなくむしろ一体化した塊状物を形成するため、粗放な形状の創傷の端縁に存在する空隙部や亀裂部にも容易に侵入する。
【0066】
或いは、又は上記に加えて、ペプチドゲルは増量剤として使用してよい。例えば、ペプチドゲル又は溶液は瘢痕形成に起因する組織の陥没部内に充填するために皮下注入してよい。それらは又弛緩した皮膚に充填膨張させるため及び皺部内に充填するためのコラーゲン又はヒアルロン酸の変わりに使用してよい。大型の陥没は大型の皮下創傷、例えば頭蓋骨又は顎の重度の傷害に起因する場合がある。ペプチドゲルはそのような陥没に充填膨張させるために使用してよく、ゲルが本来の組織又は繊維性の組織被膜にリモデリングすることが望ましいか否かに関わらない。例えばペプチドゲルは豊胸のために使用してよい。この実施形態においては、ゲルが乳房組織にリモデリングする必要はない。別の実施形態においては、ゲルを皮下に注入して皮膚を伸展させてよい。例えば皮膚片が手術のために必要である場合、手術部位の近傍又は身体の別の部分の皮下にゲルの塊を注入することにより皮膚を自家生産させてよい。ゲル塊から生じる圧力は既存の皮膚を伸展させる。圧力を緩解するために、身体は塊状物の領域において、あたかも妊娠に適合するために身体が新しい皮膚を生産するほど旺盛に、より多くの皮膚を生産する。追加ゲルを経時的に添加することにより塊状物の大きさを増大させてよい。
【0067】
内部組織もまたペプチドゲルを用いて強化してよい。例えば、ゲルを尿管内に注入し還流を防止又は失禁を補正してよい。関連する用途において、本明細書に記載したゲルは塞栓のために使用してよい。例えばゲルを腫瘍周囲の血管又は手術中に切断した血管内に注入して血流を停止させてよい。止血剤としてのペプチドゲルの使用は参照により全体が本明細書に組み込まれる米国特許出願60/674,612に記載されている。或いは、又は上記に加えて、ゲルは癒着を防止するために特に手術後に組織間に注入してよい。開放創傷に注入されたゲルは包帯の下部組織への癒着を防止するために有効である。或いはゲルを腹部骨膜下に注入することにより腹部手術後の癒着部形成を防止してよい。
【0068】
ゲルは又、参照により本明細書に組み込まれる米国特許2004−0242469に記載されるとおり、薄膜化する心臓壁において筋肉の生産を刺激するために心筋に注入してもよい。特定の理論に制約されないが、特定の組織部位に注入されたペプチドゲルは細胞の内生及び組織の発達のための許容性の空洞を創生すると考えられる。ゲルのpHは細胞の内生及び細胞外マトリックスの生産を更に促進するために調節してよく、或いは、ペプチドゲルに成長因子を添加して特定の細胞挙動を促進してよい。
【0069】
本発明の手法は整形外科的な欠陥を治癒するためにも使用してよい。例えば、本明細書に記載した手法を用いて作製されたゲルを歯科用インプラントの周囲に配置してインプラントと周囲組織の間の空隙を架橋し、又はインプラントへの内生を促進させてよい。ゲルは瘢痕の形成をぼうしするために軟骨欠陥又は骨軟骨欠陥内に注入してよい。ゲルは又セラミックスカホールドの内部表面をコーティングするため、又は細孔を充填するために使用してよい。例えば、リン酸カルシウム又はヒドロキシアパタイトの三次元ブロックをゲル化の前後にペプチド溶液と共に灌注してよい。灌注はペプチド溶液を加圧するか、真空を使用して浸潤を促進することにより支援してよい。或いは、又はこれに加えて、セラミックの粒子、特に結晶性、半結晶性または不定形のリン酸カルシウム物質をペプチド溶液と組み合わせて注射可能な組成物を形成してよい。図2は本発明の実施形態により作製したペプチド鎖のリン酸塩緩衝(PBS)1%及び3%溶液を充填した頭蓋冠骨欠陥の顕微鏡写真を示す。両方のペプチド濃度ともCOLLAGRAFTTM、即ちコラーゲン/リン酸3カルシウム製品又はCOLLAPLUGTM、即ち吸収性コラーゲン製品より優れて骨治癒を促進した。ペプチド溶液は骨組織の発達を促進し、欠陥部位の空隙は殆ど、又は全く無かったのに対し、COLLAGRAFTTMは未投与の対照欠陥と同様の繊維性の瘢痕組織を形成した。より高い濃度、ペプチドゲル及びリン酸3カルシウムの組み合わせ及び電解質を用いたゲルの組立により、更に良好な結果が達成された。未投与の対照は極めて低値の治癒及び最小限の新骨を示していた(図2B)。3%未組立ペプチド鎖溶液は未充填の対照の約半分の大きさの空隙をもたらしており、より骨様の良好な血管化を有し、炎症反応は無かった(図2C)。Collaplugの投与では、骨の非連続的な島状態及び繊維性の瘢痕の形成がもたらされた(図2D)。NaCl中で組立てられた3%ペプチド鎖溶液の投与では、連続的なより肥厚した骨(図2E)が形成されたのに対し、媒体中組立てられた同じ溶液の投与では非連続の骨及び繊維性組織の形成がもたらされた(図2F)。血液と組み合わせた未組立3%溶液を用いた場合、欠陥部位は検出可能であったが、元の欠陥より遥かに小型化していた(図2G)。Collagraftと血液の組み合わせは繊維性の組織と極めて薄弱化した骨の形成をもたらした。インプラントは極めて緩徐に吸収された(図2H)。媒体中組立てられ、リン酸3カルシウムと組み合わせられたペプチド鎖の3%溶液は欠陥部位の持続的で完全な治癒を促進した(図2I)。TCPと血液の1:1混合物は非連続的な治癒をもたらし;破砕片は骨芽により包囲されたが緩徐に吸収された(図2J)。媒体中で組立てられたペプチド鎖の1%溶液は流出性であり、移植や他の材料との組み合わせのためには理想的ではなかったが;骨はより高濃度の溶液を投与した後ほどは肥厚していなかったものの、欠陥部位における連続的骨発達を促進した(図2K)。
【0070】
本明細書に記載したゲルは眼科用の用途においても利用性を有している。例えば、ゲルは網膜剥離の短期又は長期の修復のために使用してよい。ゲルを眼球に注入し、その際、付加的な圧力が網膜を眼壁部に対して圧着させる。ゲルは透明であるため、後日網膜を定置に永久的に固定するためになおレーザーを使用することが可能である。従来の治療手法においては、患者は網膜に対抗して気泡を定位置に保持するために不便な姿勢に自身の頭部を維持しなければならない場合が多かった。本発明のゲルは一定の静水力学的な圧力を生じさせる。その結果、本発明者等は、網膜の特定の位置に対抗して気泡を配置させることを従来技術の治療法が必要としていた用途において、圧縮されないゲルで気泡を置き換えることは、網膜手術の後の回復期の難題の少なくとも一部が緩和されると考える。或いは、又はこれに加えて、ペプチドゲルは強膜折込み処置のために使用してよい。ゲルを眼の外面に対抗して配置させ、強膜を眼中央に向けて押し付ける。
【0071】
上記した用途の何れかにおいて、ペプチド溶液はゲル化の前に注入してよい。実際、ペプチド溶液は、周囲組織から、ペプチド溶液にイオンが移動してこれをゲル化させることができるような如何なる用途においても、ゲル化の前に注入してよい。例えば、狭小なゲージの針が必要な場合、又は、創傷部位の端部において緻密な組織に浸潤することがゲルにとって好都合である場合には、前ゲル化注入は注入中の逆圧力を小さくし、緻密な繊維性組織内及び鉱物化した骨原線維の間に侵入できるより流動性の物質を与える。創傷側から流出するよりはむしろ、流体は電解質への曝露の前であっても一部で自己組立を起こす。本発明者等は5%もの高値のペプチド鎖濃度を有する溶液中でペプチド鎖が自発的に自己組立することを観察している。これは被覆又は組織片を必要とすることなく材料を保持する。当然ながら、注入部位の流体のイオン強度が不十分であれば、ペプチド溶液はゲル化後に注入してよく、又は、後に電解質溶液を添加してよい。
【0072】
場合により、生物学的に活性な物質1つ以上、例えば治療活性化合物又は化学誘引剤をペプチドゲルに添加してよい。このような化合物の例は合成の有機分子、天然に存在する有機分子、核酸分子、生合成タンパク質、例えばケモカイン及び修飾された天然に存在するタンパク質を包含する。成長因子もまた単独又は他の生物学的に活性な物質と組み合わせて、本発明のこの実施形態における使用に関して意図される。例示される成長因子はサイトカイン、表皮成長因子、神経成長因子、トランスフォーミング増殖因子−アルファ及びベータ、血小板誘導成長因子、インスリン様成長因子、血管内皮成長因子、造血細胞成長因子、ヘパリン結合成長因子、酸性線維芽細胞成長因子、塩基性線維芽細胞成長因子、肝細胞成長因子、脳誘導神経栄養因子、ケラチノサイト成長因子、骨形態発生タンパク質又は軟骨誘導成長因子を包含するがこれらに限定されない。
【0073】
例えば生物学的に活性な物質は、創傷部位に細胞をリクルーティングするために、又は、細胞外マトリックスの生産又は血管形成を促進するために、ゲルに添加してよい。ゲルは又移植後の炎症を低減するため、又は疼痛を管理するために選択された化合物を包含してよい。本明細書に記載したゲルは比較的急速に分解するため、例えば、痛み止めが数ヶ月総称部位に持続的に送達されることを危惧することなく鎮痛剤を配合できる。更に又、強力な痛み止めを全身送達する必要なく創傷部位に局所的に送達してよい。全身送達は患者に倦怠感を与え、アヘン剤の長期投与は将来の薬物依存の危険性を増大させる。局所投与は患者に警戒力を与え、より長期間持続することができる。
【0074】
ゲルは注入可能であるため、反復局所薬剤送達のために使用してよい。例えば、抗がん剤を長期治療のために患者に送達するために使用してよい。伝統的な化学療法の手法は毒性の薬剤を患者の身体全体に渡って分布させる。本発明の手法は化学療法剤を特定の部位に送達し、それを数日間又は数週間の期間に渡って迅速に放出するために使用してよい。反復全身投与の代わりに所望の薬剤を含有するゲルを所望の部位に直接周期的に送達してよい。或いは、又はこれに加えて、抗癌剤は腫瘍を摘出した直後の部位に局所的に送達してよい。ペプチドゲルは薬剤を格納し、長時間に渡ってこれを放出する薬剤貯蔵物として使用してよい。タンパク質のような生物学的物質であってもペプチドスカホールドにより安定化され、数日間、数週間又は数ヶ月間の期間に渡ってその力価を失うことなく放出される。
【0075】
ペプチドゲルはカプセル化された生物学的に活性な物質と共に作製し、長期間保存してよい。即ち、添加された薬剤とペプチドを別個に保存して送達前に混合する必要はない。薬剤自身がイオン性であるか、又は、イオン性の媒体中に共通して保存される場合は、生物学的に活性な物質のペプチド溶液への添加により溶液がゲル化して薬剤を捕獲する。或いは、薬剤はイオン性の溶液と混合してペプチド溶液に添加してよい。本発明者等は未ゲル化ペプチド溶液に添加された抗体は少なくとも9週間ゲル外部に拡散することなく、ペプチド溶液をゲル化させながら安定に存続することを発見した。ゲル−薬剤混合物の延長された貯蔵寿命は医療従事者に好都合であり、材料の混合又はバイアルからバイアルへの材料の移し変えに起因する汚染及び感染の危険性を低減する。場合により、患者自身が注入できるように訓練することが可能である。長期間に渡る反復投与の適応症の場合は、自己投与は患者の通院回数の低減に寄与する。別の実施形態においては、ペプチド溶液及び添加される薬剤は電解質を添加することなく混合される。注入後に、周囲の組織から溶液にイオンが移動し、ペプチド溶液をゲル化させ、薬剤をカプセル化する。
【0076】
別の実施形態においては、生物学的に活性な物質はペプチド鎖に直接係留してよい。例えば、そのような物質はペプチド合成の間にペプチド鎖の末端に係留してよい。或いは、またはこれに加えて、それらは表3に関して記載したもののようなアグリカンプロセシング部位を介して連結してよい。ペプチド鎖の自己組立を妨害するのに十分大型の物質も存在するが、本発明の組成物と共に使用するのに不適切であるとは限らない。むしろ、物質は単に組立てられたペプチド鎖のβ−シート構造内の中核を構成するのみとなる。
【0077】
本明細書に記載したゲルと組み合わせる材料の濃度又は組成は変動してよい。例えば、所定の濃度で特定の分子を含有するゲルカプセルを作製してよい。そのカプセル自体をより大きいカプセル内部に、又は、多くの同様のカプセルを含有しているマトリックス内にカプセル化してよい。より大きいカプセル又はマトリックスは異なる分子、例えば別の生物学的に活性な物質、又は異なる濃度の同じ物質を含有してよい。
【0078】
細胞は又、共に参照により本明細書に組み込まれる2001年2月6日出願の「組織細胞のペプチドスカホールドカプセル化及びその使用」と題された同時係争中の米国特許出願09/778,200及び2004年6月25日出願の「修飾部を組み込んだ自己組立ペプチド」と題された米国特許出願10/877,068に記載する通りスカホールド内にカプセル化してよい。本明細書と組み込まれる参考文献との間に矛盾がある場合は、本明細書が優先する。
【0079】
別の実施形態において、精製されたペプチド産物はキットの一部として提供してよい。キットは乾燥形態又は溶液の何れかの精製されたペプチド、及び、1つ以上の電解質、緩衝液、送達装置、他の薬剤1つ以上とペプチド組成物を混合するために適する容器、使用のためのペプチド組成物を作製するための説明書、他の物質とペプチド組成物を混合するための説明書、及び、対象内にペプチド組成物を導入するための説明書を包含する。送達装置は例えばカテーテル、針、シリンジ又はこれらの何れかの組み合わせであってよい。キットがペプチド鎖の水溶液とともに提供される場合は、溶液は所定の条件下で少なくとも9週間の貯蔵寿命を有し、そして電解質を含んでよい。
【0080】
そのようなキットは精製されたペプチド組成物に加えて生物学的に活性な物質を送達してよい。生物学的に活性な物質はペプチド組成物と予備混合して、又は、個別に提供されてよい。生物学的に活性な物質はナノスフェア、マイクロスフェア等(ナノカプセル、マイクロカプセル等とも称する)として存在してよい。このような球状物、カプセル等の作製、生物学的に活性な物質のカプセル化のための多くの方法及び試薬が当該分野で知られている。例えば持続放出及び/又はpH抵抗性の薬剤処方を作製するための標準的なポリマー及び方法を使用できる。
【0081】
同様に、キットは患者に細胞を送達するために使用してよい。キットはキットを用いて送達されるべき細胞の調製に関する説明書を更に含んでよい。例えば、説明書は細胞の培養方法、細胞を対象から回収する方法、細胞をペプチドと混合する方法、使用に適する細胞の型等を説明してよい。
【0082】
本発明の他の実施形態は明細書の検討及び本明細書に開示した本発明の実施により当業者には明らかにされる。明細書及び実施例は単なる例示であり、本発明の真の範囲及び精神は添付する請求項に示す通りである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−250988(P2012−250988A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−186897(P2012−186897)
【出願日】平成24年8月27日(2012.8.27)
【分割の表示】特願2007−520521(P2007−520521)の分割
【原出願日】平成17年7月6日(2005.7.6)
【出願人】(507007485)スリーディー マトリックス, インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】