説明

紫外線活性の抗菌表面

本発明は、高粘着性抗菌フィルムでポリマ表面をコーティングするように適合されたイオンプラズマ蒸着(IPD)法に関する。制御されたイオンプラズマ蒸着(IPD)プロセスが、選択された金属/金属酸化物で金属またはポリマをコーティングするために使用される。コーティングされた表面を紫外線に露出させることが、堆積されたコーティングの抗菌特性をかなり改善する。本発明は以下の方法を提供する。該方法は、高粘着性抗菌コーティングを生成する方法であって、第1の実質的にマクロ粒子のない金属コーティングを、選択された基板に堆積させることと、該第1のコーティング上に表面層を形成するために、第2のマクロ粒子が密集した金属コーティングを堆積させることと、該表面層を120nm〜400nmの範囲内の紫外光に露出させることとを包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2006年10月3日出願の米国特許出願第11/542,531号に対する優先権を主張し、該米国特許出願第11/542,531号は、2006年2月25日出願の米国仮特許出願第60/776,537号に対する利益を主張するものであり、米国特許出願第11/542,531号と米国仮特許出願第60/776,537号との両方が、本明細書においてその全体が援用される。
【0002】
(技術分野)
本発明は、金属コーティング表面の光誘起活性に関し、さらに詳細には、選択された金属コーティング表面/金属酸化物コーティング表面の抗菌特性の強化に関する。
【背景技術】
【0003】
金属の銀、酸化銀、銀塩は、創傷の部位においてバクテリアおよびウイルスを殺すことによって感染を制御する非常に有効な抗菌剤である。銀イオンが、細胞壁の中に不溶性化合物を形成し、呼吸鎖を遮断し、バクテリアのDNAに結合し、変性させ、それにより複製を妨げることによって感染を防ぐ。銀ベースの殺生物剤は、真菌、一部の一般的なカビに対しても活性を示し、そして、昆虫の腸内の細菌による干渉により、一部の昆虫に対しても活性を示した(非特許文献1)。
【0004】
イオン化した銀は、約0.1μg/Lのレベルにおいて有効な殺菌剤と認識され、一方、殺真菌性の活性は、約1.9μg/Lのレベルを必要とする(非特許文献2)。銀イオンは、微生物の細胞壁を崩壊させ、代謝に影響のない化合物を細胞経路に結合することによって、細胞の受容体を損傷させ得る。バクテリアの成長に対する有効性を維持するために、銀イオンは、これらの結合の相互作用による、有効な濃度の低下を補償するために、有効なレベルにおいて継続的に放出されなければならない。一方、非常に高い濃度の銀の放出は、健康な哺乳類の細胞を傷つけ得るので、抗菌コーティングが製造されるときには、放出プロフィールが考慮される必要がある。
【0005】
銀は、ほとんどの病原体に対して抗菌活性を示し、患者によるアレルギー反応の報告は全くないようである(非特許文献3)。従って、銀ベースのコーティングは、深刻な感染を隠すインビボのデバイスの傾向を鑑みると、移植される医療デバイスの表面における使用の候補となるようである。銀/酸化銀のコーティングの塗布は、銀化合物を用いて埋め込まれたヒドロゲル、銀塩と抗菌化合物とを使用した湿式化学物質、ならびに銀、鋳造銀、および低温で塗布された銀のプラズマ堆積表面を含む。
【0006】
残念ながら、医療デバイスおよびインプラントは、主要なバクテリアの付着およびバイオフィルムの形成に対する理想的な表面となる。例えば、弁およびカテーテルが、暖かく湿った栄養豊富な環境において、硬い表面を提供する。バイオフィルムは、形成されると、根絶するのが非常に困難である。自由に浮遊した形態または浮遊生物の形態のバクテリアの処理に必要とされる量と比較して、1500倍を超える濃度の抗菌因子が、バイオフィルム内に定着したバクテリアを殺すために必要とされ得る。
【0007】
耐抗生物質バクテリアの近年の激増が、再び、銀および酸化銀の抗菌特性に注意を集めた。一部の研究は、医療デバイスおよびインプラント上の銀で保護された表面は、感染と戦う好適な方法であり得るということを提案するが、実用的かつ長期に渡り有効なコーティング方法は、まだ開発されていない(非特許文献4)。
【0008】
院内で獲得されたほとんどの血流感染は、血管内デバイス、例えば、中心静脈カテーテルの使用に関連している。カテーテルに関連する血流感染は、病棟の患者よりも集中治療室(ICU)の患者に生じる場合が多い。外科ICUにおける血流感染が原因と考えられる死亡率は、35%の高さであることが推定されている。ICUで獲得された血流感染は、生存者一人当たり、推定で$40,000の費用の増加の原因となり、推定で$6,000の病院の費用の増加の原因となる(非特許文献5)。
【0009】
医療インプラントにおける使用のための抗菌コーティングを開発する際に、少なくとも2つの重要な考慮すべき事項が存在する。銀ベースのコーティングに関して頻発する問題は、コーティングされた基板の表面からの銀のフレーキング、ピーリング、またはスローイング(sloughing)である。長期間の高レベルの銀イオンの放出は、局所的な細胞の死または壊死をもたらし得る。例えば、この特定の問題が、縫込み銀の心臓弁カフは弁カフにおける銀/酸化銀のコーティングが適切な治癒を妨げるということを明らかにした2001年に、St. Jude Medicalに、縫込みの銀の心臓弁カフを市場から回収させた[非特許文献6]。
【0010】
医療デバイス上の銀ベースのコーティングが、細胞の損傷をもたらすことを回避するために充分な粘着性があるときでさえ、抗菌効果は弱くなり得、かつ/または短い時間しか持続されなくなり得る。例えば、医療インプラントは、感染に焦点を合わせる傾向にあり、従って、正常な細胞に対する毒性を有することなく、長い期間、活性を維持する抗菌コーティングから利益を得る。
【0011】
医療デバイス上に医療的に許容可能な抗菌コーティングを生成する取り組みがなされてきた。最も一般的に使用されるコーティングプロセスは、スパッタリング、イオンビーム支援蒸着(IBAD)、および浸漬プロセスである。他のあまり一般的には利用されない技術が存在するが、これらの商業的に使用されている方法のどれも、比較的長期間に渡って、安定性と抗菌的耐性との両方があるコーティングを提供していない。これらのプロセスの不利な点が、簡潔に要約される。
【0012】
スパッタリング法とIBAD法とは似ているが、IBADが、より高密度のコーティングを提供するイオンビームを追加的に利用するという点で異なる。IBADプロセスにおいて、イオンは、銀などの抗菌材料の標的に向けて加速させられる。イオンが標的に当たったときに、個々の銀原子が「ノックオフ」される。銀原子は、プラズマ内で酸素と反応し、基板に導かれ、堆積される。この技術に関する問題は、AgO(銀の抗菌活性の形態)を形成するように反応させられる割合を制御することと、スケーラビリティと、最大の懸念の良好な粘着性の欠如とを含む。
【0013】
コーティングがスパッタリングによって生成されるときには、一貫した良好な粘着が、より頻繁に遭遇する問題の1つとなる。スパッタリングは、イオンプラズマ蒸着などの他の方法と比較して、低エネルギーのプロセスである。このため、入射するイオンは、表面にしっかり注入するために充分なエネルギーを有していない。この課題を解決する試みにおいて、抗菌コーティングのスパッタリングは、通常、均一な適度の粘着を達成するために、基板表面上にシード層を必要とする。静止した条件の下で、スパッタリングは、許容可能に粘着性のあるフィルムを生成し得るが、軟組織治療デバイスと遭遇したときに、基板が、捻られたり、曲げられたり、インビボでバクテリアに露出されたりした場合には、コーティングは、層間剥離し、次に、体内へ金属粒子を放出する高い可能性を有する。銀の粒子は、深刻な問題となる。なぜならば、1つのエリアに蓄積された多量の銀は、壊死をもたらし得るからである。
【0014】
AgOの実際の割合を制御することもまた、スパッタリング法に関して明らかな問題を提示する。なぜならば、有効な抗菌剤として働くために、コーティングは、AgOに対して大きな割合のAgOから成る必要があるからである。一重項の酸素の生成もまた、重要であると考えられ、長い間、遊離基の性質により抗菌活性を提供することで知られている(非特許文献7)。
【0015】
商業に見合う量のコーティングされたデバイスが製造されたときには、スケーラビリティもまた、スパッタリングプロセスに関して考慮する事項となる。粘着性があまり考慮すべき事項でないときであっても、コストの削減は、スケーラビリティによってのみ充分に理解され得る。スパッタリングプロセスは、それ自体を、複雑な固定具、わずかな均一電着性を必要とする大規模な生産に適合させない。なぜならば、部品が、標的に緊密に近接している必要があり、かつ、標的のサイズに制限があるからである。スパッタリングは、1分当たり数オングストロームの代表的な堆積速度を有する非常にゆっくりとしたプロセスである。これが、非反応性のAgOをAgOに転換するために必要なポスト処理に加えて、堆積サイクル毎に長い処理時間をもたらす。任意の1回において処理され得るエリアは、一般的に、20平方インチ〜100平方インチに限定される。この理由のために、スパッタリングプロセスをスケールアップすることを経済的に妨げるだけでなく、実際問題として物理的に不可能にしている。
【0016】
浸漬処理は、銀ベースであろうと、非銀ベースであろうと、抗菌剤を医療デバイスの表面上に堆積させる別の方法である。液体ベースのコーティングを基板上に堆積させるプロセスは、複雑である。この技術に関する主な問題は、長期間続く活性を有する可溶性抗菌薬剤の識別、および基板に対する薬剤の不均一な粘着の回避である。
【0017】
基板表面上への不均一なコーティングは、概して、許容できない。浸漬プロセスを用いると、表面の湿潤は無秩序であり、せいぜい斑点状である。これが、抗菌コーティングがなく、感染およびバイオフィルムの形成の温床となるエリアをもたらす。
【0018】
一部の注意が、抗菌活性を増加させることを希望して、抗菌コーティングの表面を改変することに向けられている。イオンビームが、インプラント、水頭症シャント(hydrocephalic shunts)、経皮連結子、および整形外科的プロテーゼにおける表面にテクスチャーを刻むために使用されている。パターンは、1μmほどの小さな穴、円柱、円錐、または四角錐であり得る。これらの追加パターンは、特許文献1に示唆されているように、デバイスの表面積を20倍増加させ、従って、堆積されたコーティングの抗菌活性を増加させると記述されている。
【特許文献1】米国特許第5,383,934号明細書
【非特許文献1】Dorau,B.、Arango,R.およびGreen,F.III、the Woodframe Housing Durability and Disasters Issues Conferenceからの会報における”An investigation into the potential of ionic silver as a wood presevative”、2004年10月4日〜6日、Las Vegas、Nevada
【非特許文献2】Joyce−Wohrmann,R.M.およびMustedt,H. 「Determination of the silver ion release from polyurethanes enriched with silver」、Infection 27 Supp.1,46〜48(1999)
【非特許文献3】A.D.Russell、W.B.Hugo、「Antimicrobial Activity and Action of Silver」、Medical Chemistryにおける会報、Vol.3、G.P.EllisおよびD.K.Luscombe編、Elsevier Science B.V.、(1994年)
【非特許文献4】D.Tobler、L.Warner、「Nanotech Silver Fights Microbes in Medical Devices」、Medical Device & Diagnostic Industry Magazine、2005年5月
【非特許文献5】CDC Publication、「Cost−Effective Infection Control Success Story:A Case Presentation」、2001年3月〜4月
【非特許文献6】FDA Enforcement Report 000635、2000年3月29日
【非特許文献7】KUMAR,R.S.、SIVAKUMAR,T.、SUMDERAM,R.S.ら、「Antioxidant and antimicrobial activities of Bauhinia racemosa L. stem bark.Braz J Med Biol Res」、2005年7月、vol.38、no.7、p1015〜1024
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
抗菌材料の堆積は、一般的に、銀および酸化銀のコーティングを生成するほんのわずかな方法に限られている。これらの方法のそれぞれが、深刻な不利な点を有し、これらの方法のどれも、医療デバイスおよび医療器具の表面における使用のために必要とされる、粘着性が高く、かつ、均一に分布された抗菌フィルムを効果的に生成するように開発されていない。当該分野のプロセス、例えば、スパッタリング、浸漬、およびイオンビーム支援蒸着(IBAD)の現在の状況は、限られた粘着性を有するコーティングを可撓性基板に生成する。粘着性を提供するために追加されるベースコーティングの複数の層が、処理時間と費用とを増加させるだけでなく、望ましくないこともあり得る厚さを増加させる。
【0020】
医療デバイスの市場において、抗菌コーティングに対する必要性は、充分に理解されており、特に、比較的長期にわたって広範囲の活性を有する抗菌フィルムに対する必要性が、充分に理解されている。医療デバイスが使用される場合には、コーティングは、インビボでの使用に対する安全基準をも満たさねばならない。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、特に、抗菌コーティングにおける低活性の問題と、非効率的なコーティングプロセスと抗菌コーティングの不充分な基板粘着性とに関する関連問題とを扱う。基板表面からのフレーキングおよびピーリングに耐える高抗菌活性コーティングは、本開示のプロセスによって生成され得、該本開示のプロセスは、イオンプラズマ蒸着(IPD)を、紫外(UV)光と組み合わせて利用する。
【0022】
驚くほどに改善された抗菌活性を有するコーティングが、制御されたIPD蒸着された金属コーティングの表面を紫外光に露出することによって獲得された。いくつかの全く予期していなかった発見は、最初は、ほとんど抗菌活性を示さなかったか、または全く抗菌活性を示さなかったいくつかの高粘着性金属コーティングが、200nm〜400nmの範囲内の紫外光に露出したときに活性され得、一部の場合においては、紫外光への露出後だけに抗菌活性を示したということである。
【0023】
本発明は、部分的には、IPDベースの方法の開発に基づいており、該IPDベースの方法は、優れた粘着性を有する予想可能なコーティング構造を生成し、これらのコーティングをインプラントされる医療デバイスにおける使用に特に望ましいものにする。方法は、弁および内在カテーテルなどのインプラントにおける使用のために、金属基板および非金属基板上に、抗菌剤または抗菌活性材料の複数の層において堆積され得る抗菌コーティングを提供する。層は、例えば、100nmの範囲内の比較的に薄いものであり得るので、所望の抗菌活性を犠牲にすることなく、生成費用が削減される。
【0024】
改変されたIPD/UV法が、かなり強化された抗菌活性を有する抗菌性金属コーティングを調製するために開発された。上記コーティングは、医療の用途において使用されるデバイスおよび材料における使用に特に適用可能である。コーティングは、電気メッキまたはマグネトロンスパッタリングによって生成されるコーティングに関しては一般的であるようには、フレーキングしたり、ピーリングしたりはしない。抗菌活性は、ポリマおよび様々な金属に適用されるコーティング上で維持される。なぜならば、フレーキングおよびピーリングは問題ではないからである。さらに、コーティングは、現在利用可能な抗菌コーティングと比較して、かなり改善された抗菌活性を示す。
【0025】
本発明の抗菌コーティングは、カテーテル、ステント、およびプラスチックのインプラントなどの医療デバイスのための好適な材料である金属およびポリマに塗布され得る。
【0026】
本発明は、人体または獣医の用途における使用のための医療デバイスにおける使用に無類に適しているコーティングを提供する。コーティングを生成するIPD/UV法は、経済的であり、高品質のコーティングを提供する。
【0027】
(定義)
PVDは、気相における薄いフィルムの堆積プロセスであり、該気相においては、ソース材料が、いかなる化学反応が含まれることなしに、真空状態で、基板に物理的に転移される。このタイプの堆積は、熱蒸発電子ビーム蒸着(thermal evaporation Electron−beam deposition)、およびスパッタリング蒸着を含む。IPDプロセスは、物理的蒸着のサブセグメントである。
【0028】
マクロおよびマクロ粒子は、単一のイオンよりも大きい粒子を指す。小さいマクロ粒子(あるいは、ナノ粒子)は、2原子から約100ナノメートルまでの粒子を指す。中間のマクロ粒子は、100ナノメートルから約1ミクロンまでの粒子を指す。大きいマクロ粒子は、1ミクロンよりも大きい粒子を指す。
【0029】
抗菌は、微生物を破壊したり、微生物の成長を妨げたり、微生物の病原性の行動を抑制したりする、化合物の能力を指し、本明細書において使用される場合、バクテリア、イースト、および他の菌類に適用されることを意図している。
【0030】
本明細書に記述された実験および方法に関して使用される場合、IPDは、イオンプラズマ蒸着プロセスを指し、該イオンプラズマ蒸着プロセスは、改変された制御されたカソードのアーク放電を標的材料において使用することにより、高エネルギーを与えられたプラズマを作成する。IPDは、他の明細書によって記述された通常のカソードのアークプロセスと、粒子サイズの堆積が非常に制御されているという点で異なる。
【0031】
本明細書において使用されているような用語は、明記された数は、必ずしも正確ではなく、使用される特定の手順または方法によって決定されるように、10%の範囲内でより高くなったり、より低くなったりすることがあり得るということを示すように意図されている。
【0032】
特許請求の範囲において使用される場合、用語「1つの」は、1つの種類に限定されることを意図していない。
【0033】
本明細書において使用される場合、「実質的にない」は、必ずしも、完全にないということを意味するわけではなく、むしろ、存在する材料の量が、材料の不在に対して請求された特性に実質的に影響しないということを意味する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
本発明は、安定した高抗菌物質でコーティングされた基板を達成するための、非常に制御されたIPD条件と組み合わせた紫外線照射の使用に関する。本発明の独自の局面を提供するものは、マクロ粒子の堆積のためのIPD法と紫外(UV)光の特定の波長の使用の発見との組み合わせである。表面コーティングの抗菌活性のかなりの改善は、堆積された材料の構造特徴と、IPDが制御される方法と、コーティング面の紫外光活性とに基づく。
【0035】
新たな方法によって調製された抗菌コーティングは、多数の金属の任意のもの、またはイオン蒸着に適した金属の組み合わせから堆積され得る。元素は、21よりも大きい原子番号を有し、かつ、4.5g/cmよりも大きい密度を有する元素を含み、例えば、Ti、Zr、Cr、Co、Ni、Mo、Pd、Ag、Hf、Ta、W、Ir、Pt、Sn、Bi、Zn、Au、ならびにこれらの金属の合金および化合物を含む。商業的な生物学的な用途に対して、銀、銅、金、チタン、およびハフニウムの使用が、好適な金属である。標的材料は、AgO、TiO、TiO、CuO、HfN、ならびに銀、銅、およびチタンのより高い酸化の形態も含み得、これらは、一部の場合において、これらの金属のより低い酸化物と比較して、より高い抗菌物質となり得る。本開示のIPD−UVプロセスは、一般的に医療の用途において必要とされる調整可能な制御を使用して、非常に適合された、薄い粘着性高抗菌コーティングを提供する。
【0036】
一部の堆積された金属、例えば、二酸化チタン(TiO)を堆積された表面フィルムは、従来の堆積または標準的なプラズマアーク蒸着によって堆積されたときには、抗菌活性を示さない。本明細書において記述される堆積/表面の活性方法は、IPD/UVプロセスを使用した実施例において示されているように、抗菌活性表面を提供する。抗菌不活性TiO表面は、最初は、抗菌不活性TiOフィルムである。
【0037】
高粘着性抗菌コーティングは、改変されたイオン蒸着法を使用して生成される。プロセスは、紫外(UV)光に対する基板の露出と組み合わせて、制御された堆積システムを利用する。
【0038】
本開示の改変されたIPD自体は、酸素がシステム内に存在するときには、かなりのレベルのUV光子と、高エネルギーのイオンとを生成する。ソース(標的)から放出されるUVエネルギーのスペクトルプロフィールは、使用される特定の金属または合金によって決定される。高エネルギーのクーロン爆発は、広範囲のUVエネルギーを用いてチャンバの中に注入される2原子の酸素(O)ガスを励起し、基底状態の酸素の2つの酸素原子に解離させ、一重項の酸素を生じさせる。基底状態の酸素は、三重項であり、三重項においては、少なくとも2つの電子の軌道が、対になっておらず、平行になっている(Foote、1995年)。一重項の酸素は、酸素原子における全ての電子を対にするために電子スピン転換を受ける一重項の分子(O)である。三重項の酸素は常磁性であるが、一重項の酸素はわずかに磁気を帯びているので、結合特性の差の一部が生じる。
【0039】
最も外側の電子の対が↑↑によって表される平行のスピンを有する分子は、「三重項」の状態であり、最も外側の電子の対が↑↓によって表される逆平行のスピンを有する分子は、「一重項」の状態にある。基底状態の酸素は、において上付きにされた「3」によって示される三重項の状態にあり、2つの対にされていない電子は、平行なスピンを有し、すなわち、物理化学の法則に従って、2つの対にされていない電子は、ほとんどの分子と反応することを可能にしないという特性を有する。従って、基底状態、すなわち、三重項の酸素は、あまり反応性がない。しかしながら、三重項の酸素は、エネルギーの追加によって活性させられ、反応性の酸素種に変換される。
【0040】
任意の成分に対して観察されたスペクトル線の相対強度は、光源の条件と励起の条件とに依存する。従って、特定の実験において観察された相対強度が、分光器および検出器の感度に依存して、波長を補正するために調節される場合であっても、強度は、概して、先の観察とは異なる相対強度であり、すなわち、表1〜表3に例示されたような収集資料で表にされ得る。
【0041】
242nmよりも短い波長の紫外線照射は、酸素分子を酸素原子に分ける。活発に励起された個々の酸素原子が、酸素分子に遭遇したときには、オゾン(O)が、3つの酸素分子の結合から形成され得る。UVの範囲における短い波長が、いくつかのレベルの一重項の酸素の励起に適合し、電子の軌道の構造に独自の改変をもたらす。より高いエネルギーレベルにおいて、電子を酸素の軌道関数からより高いレベルに励起し、180nm〜200nmの範囲、すなわち「Schumann−Runge帯域」における効率的な吸収をもたらすことも可能である(http://earthobservatory.nasa.gov/Library/ChemistrySunlight/)。
【0042】
IPDプロセスにおいて使用される各標的は、自身のスペクトル吸収および放出のプロファイルを有し、一重項の酸素形成のために必要とされるエネルギーを提供するために、UVの範囲内でエネルギーを生成することが可能である。以下に列挙されるものは、耐熱金属の代表的な群と関連している代表的な真空放出スペクトル線である。示されているように、銀のアークおよび銅のアークは、Schumann−Runge帯域においてUVを生じさせるが、チタンは、一重項の酸素を生じさせるにはまだ充分であるより高いUVの範囲を有する。示された周波数は、原子の第1の励起レベルから選択され、相対強度として示されている。あまり目立たない波長は、列挙されておらず、相対強度は、160nm〜140nmの近UVの範囲におけるより強い放出を示すためだけに示されている(http://physics.nist.gov/cgi−bin/AtData/main_asd)。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

一重項の酸素の活性は、含まれる高いエネルギーによって、IPDプロセスにおいて固有のものとなる。酸化銀などの一部の材料に対して、これは、抗菌活性酸化物(AgO)の量を増加させることによって、限られた抗菌活性を伝えるためには充分である。CuO、TiOまたはTiOなどの他の堆積された表面に対して、一重項の形態を活性させる別のモードが、抗菌活性を獲得するために使用され得る。UV光の選択された波長を使用することが、これらの金属および金属酸化物を励起するということが発見され、このことが、酸素を一重項の状態に高め、それにより、新たなまたは強化された抗菌特性を有するコーティングされた表面を作成する。
【0046】
IPD/UVプロセスは、従来のIPD蒸着と比較して、少なくとも20%までより多くの2原子の酸素または窒素をコーティング表面に含み得る。酸素または窒素の包含は、紫外光をプラズマの中に導入する前に、最初に、酸素または窒素の豊富なプラズマを作成することによって強化される。これが、2原子の酸素または窒素を、安定した形態で基板表面に組み込ませる。これが、2原子の酸素または窒素の解離によって生成される一重項の酸素または窒素の存在によって、強化された抗菌特性をもたらす。
【0047】
IPDプロセスが、コーティングプロセスのために一般的に使用される他の方法を上回る多数の利点を提供するために改変され得るということが認識される。プラズマアークプロセスのいくつかの基本特徴が、改変され、IPD/UVプロセスを進展させる際に利用されている。ここで、独自のコーティングが調製され、該独自のコーティングは、粒子サイズの制御と抗菌活性のかなりの増加とにより、表面積を増加させる。銀/酸化銀に加えて、金属/金属酸化物でコーティングされた基板が、新たなまたは強化された抗菌特性を有するように、調製され実証された。
【0048】
プラズマ蒸着プロセスは、様々なサイズのクラスタおよび個々の原子として標的表面に堆積している分子を標的から解放する。コーティングプロセスにおける支配的な傾向は、よりきれいでより均一なフィルムを生成するために、マクロ粒子蒸着の密度および数を減少させるように条件を調節することである。業界における従来の通念は、マクロ粒子は、概して、堆積されたフィルムの質に有害であるということである。対照的に、本発明は、抗菌活性を強化するために照らされる表面となり得る粘着性フィルムを獲得するために、金属基板におけるマクロ粒子の堆積だけでなく、プラスチック基板におけるマクロ粒子の堆積も増加させる利点を明確に例示している。概して、より速いマクロ粒子の堆積速度は、より低い温度の堆積をもたらすが、より遅い堆積速度は、より高い温度の堆積をもたらすということも分かった。従って、より速い堆積速度が、特定のプラスチックなどの感熱材料をコーティングする際に有利である。
【0049】
IPDプロセスにおけるアーク制御は、センサまたはフィルタを使用することなく、より少なくかつより密度の低いマクロ粒子のアレイを作成するより速い動きに対して使用され得るか、またはより多くの数のより高密度に詰め込まれたマクロ粒子を作成するより遅い動きに対して使用され得る。このタイプの制御はまた、適切な量のマクロ粒子を作成するか、またはマクロの密度の高いコーティングが続くほぼマクロのないコーティングを作成する2つのモードを混合するオプションを提供する。マクロ粒子の量は、AgOを形成するために化合させられ、それによりコーティングの有効性の持続期間を調節する能力を支援する利用可能な銀の量に直接的に関連し得る。
【0050】
IPD、電気メッキ、または電気ではないメッキ以外の気相蒸着プロセスを使用した、プラスチック上への金属の粘着は、多くの場合に、元々の基板の一部の電気特性の喪失をもたらす。これらのプロセスによって堆積されたほとんどの金属に関して、粘着は、チタンまたはクロムのストライク層に依存し、その場合でさえ、基板が曲げられたり、捻られたり、伸ばされたりした場合には、層間剥離する傾向にある。IPDコーティングプロセスは、記述された条件の下で、基板の中に埋め込むので、粘着は、続く基板の機械的圧力によっては影響されない。
【0051】
制御された堆積速度を使用して、IPDは、予熱とグロー放電とを必要とするほとんどの気相蒸着プロセスよりも低い温度で行われ得、この対が、通常、200℃を超える温度をもたらす。ほとんどのプラスチックが、この温度よりも低い温度で充分に溶ける。IPDプロセスは、ずっと低い温度で行われ得、融点の低いプラスチップが、元々の基板の仕様に悪影響をもたらすことなく、効果的にコーティングされることを可能にする。かかる低い温度の堆積は、金属が酸素と反応する速度を制御することによって達成される。酸素分子またはオゾンを投入することによって、より多くの酸素を、システムにおける反応に利用可能にすることが、伝導性の冷却によりデバイスを冷たいままにすることを可能にし、かつ、衝突によりイオンの速度を落とすことを可能にする。
【0052】
IPDは、他のプラズマ蒸着および浸漬プロセスと比較して、30倍までスループットを増加させ、同時に、高密度と好ましい抗菌活性とを達成する。抗菌コーティングを堆積するための、本開示の改変されたIPDプロセスは、従来のカソードアークよりも10倍まで大きいスループットを有する。
【0053】
従来のPVDおよび浸漬プロセスとは異なり、IPD抗菌コーティングは、商業的な動作に必要なコーティングの質および経済性を維持しながら、必要な大きさにサイズを合わされ、それでもより高スループットを達成し得る。
【0054】
IPDプロセスは、IPDプロセスでなければ、従来のPVDによっては容易に生成されないか、または一部場合においては可能でもある抗菌コーティングを提供する。限定することを意図していない一部の例は、酸化銀、酸化銅、窒化ハフニウムを含む。銀/酸化銀のコーティングは、IPD法によって生成されたときには、より高価なプロセスから獲得される比較的に活性があるがより厚いコーティングよりも高い抗菌活性を有し、例えば、Burrellら(1995年)によって記述されたマグネトロンスパッタリングされたコーティングよりも高い抗菌活性を有する。少なくとも、より厚いフィルムと同じ抗菌活性を達成するために、本開示のIPD法を使用して、より薄いコーティングが適用され、従って、より短い処理時間が適用され得る。
【0055】
一般的なPVDと電気メッキとは、照準線(ling of sight)の堆積方法である。このため、複雑な備品を用いることなく、複雑かつ変わった形のデバイスをコーティングすることが困難であり、正しい備品を用いても、デバイスを均一にコーティングすることが可能でないことがあり得る。改変されたIPDプロセスは、照準線以外のコーティングを提供するが、それでもやはり複雑な備品を使用することなく、コーティングの抗菌品質を維持する。なぜならば、コーティングが、その部分に容易に適合するからである。
【0056】
IPDコーティングの速度は、非常に速い。プラズマ内で比較的に短い時間で、望ましい抗菌コーティングを達成すると、基板の温度は、あまり速くまたはあまり高く上昇しない。これが、同じ抗菌特性を達成するために冷却ステップまたは長い堆積サイクルを必要とする他のコーティング方法を上回る利点を与える。この速いコーティング速度もまた、商業的に魅力的である。なぜならば、スパッタリング、電気メッキ、またはIBADプロセスよりも10倍まで高い製造スループットが可能であるからである。
【0057】
新たなIPD/UV法および新たなIPD/UVコーティングは、既存の技術に対していくつかの改善点を導入し、該いくつかの改善点は、抗菌コーティングの活性の持続期間を制御するより多い/より少ないマクロ粒子の使用と、不活性酸化銀に対する活性酸化銀(AgO/AgO)の割合を増加させるためのより多くの反応性酸素の使用と、一重項の酸素を活性させるための、堆積の間のUV光の選択された波長の使用と、同等な抗菌特性を維持しながら、従来技術が可能であったよりも薄いコーティングを固着させる能力とを含む。
【実施例】
【0058】
以下の実施例は、本発明を例示すること、および/または背景を提供することを意図しており、限定することを意図していない。
【0059】
(方法)
堆積されたコーティングの抗菌活性が、阻止帯テスト(ZOI)を使用してテストした。Mueller Hintonアガーをペトリ皿に計量分配した。アガープレートを、Staphylococcus aureus ATCC#25923の菌叢で植え付ける前に、表面を乾燥させることを可能にした。接種剤をBactrol Discs(Difco M.)から調製して、Bactrol Discsは、製造者の指示によって再構成した。接種の直後、テストされるコーティングされた材料を、アガーの表面に配置した。皿を、24時間、37℃でインキュベートした。インキュベート期間の後、ZOIを測定して、補正されたZOIを次式、(補正されたZOI=ZOI−アガーと接触しているテスト材料の直径)として計算した。
【0060】
実施例1〜実施例3を、他の明細書によって先に報告されたように調製された抗菌コーティングに対する背景の比較として提供した。本発明の堆積方法(下記の実施例4を参照されたい)は、改変されたIPDプロセスに基づいているが、実施例1〜実施例3における先に公開された類似の手順は、スパッタリング蒸着を利用する。
【0061】
(実施例1.ラテックス上にスパッタリングされた銀コーティングの抗菌活性)
この実施例は、米国特許第5,454,886号(’886号特許)において記述されたコーティングおよびテストの手順に従って行われた。方法およびテストは、’886号特許の実施例6において述べられた手順に従って行われた。
【0062】
銀金属が、マグネトロンスパッタリング施設を使用して、ラテックスFoleyカテーテルの2.5cmの部分に堆積された。動作条件は、以下の通りである。堆積速度は、毎分200Åであり、アルゴンの作用ガス圧は、30mトルであり、コーティングの金属銀の融点に対する基板の温度の割合、T/Tmは0.30であった。この実施例において、入射角は変動した。なぜならば、基板が丸く粗かったからである。それが、周囲付近で変動される入射角であり、より細かなスケールでは、様々な表面特徴の側面および上面に渡って変動される入射角である。抗菌効果が、テスト生物としてS.aureus ATCC登録番号25923を用いて、’886号特許の実施例1に記述されたテストと同一な阻止帯テストによってテストした。
【0063】
阻止帯(ZOI)は、’886号特許において報告された16mmのZOIとは対照的に、カテーテルチューブの周囲で1mmを下回った。
【0064】
(実施例2.ラテックス上のテフロン(登録商標)の上のスパッタリングされた銀コーティングの抗菌活性)
この実施例は、米国特許第5,454,886号における実施例7に従ってDCマグネトロンスパッタリングによってコーティングされたテフロン(登録商標)コーティングされたラテクスカテーテルを調製するために報告された手順に従う。抗菌テストは、記述されたようにS.Aureusを用いて準備された。
【0065】
テフロン(登録商標)コーティングされたラテックスFoleyカテーテルは、次の条件:0.5kWの電力、40mトルのAr/O、20℃の初期基板温度、100mmのカソード/アノードの距離、および300mmの最終的なフィルム厚の下で、表面に99.99%の純銀をDCマグネトロンスパッタリングすることによってコーティングした。作用ガスは、商業的なArであり、99/1wt%のAr/Oであった。
【0066】
コーティングの抗菌効果を、’886号特許の実施例7に記述されたようなZOIによってテストした。Muller Hintonアガーを、ペトリ皿に計量分配した。アガープレートを、Staphylococcus aureus ATCC#25923の菌叢で植え付けられる前に、表面を乾燥させることを可能にした。接種物をBactrol Discs(Difco M.)から調製し、Bactrol Discsを、製造者の指示によって再構成した。接種の直後、テストされるコーティングされた材料を、アガーの表面に配置した。皿を、24時間、37℃でインキュベートした。インキュベート期間の後、阻止帯を測定して、補正された阻止帯を計算した(補正された阻止帯=阻止帯−アガーと接触しているテスト材料の直径)。
【0067】
コーティングされていないサンプルは、阻止帯を示さなかった。コーティングされたサンプルは、40mトルの作用ガス圧を使用して、99/1wt%のArOにおいてスパッタリングされたカテーテルに対して、’866号特許の実施例7において報告された11mmの補正されたZOIとは対照的に、1mmを下回るZOIを示した。
【0068】
(実施例3.スパッタリングされた抗菌銀コーティング)
この実施例は、’866号特許における実施例11に記述された手順に従って行われた。この実施例に対して使用された条件は、0.5kWのRFマグネトロン電力、40mトルの圧力、100nmのアノード/カソードの距離、および20℃を含んだ。
【0069】
アルゴンと20wt%の酸素との作用ガスが、上に列挙された条件の下で抗菌コーティングをスパッタリングするために使用されたときに、阻止帯は、’866号特許の実施例11において報告された6mm〜12mmのZOIとは対照的に、0〜2mmの範囲内であった。
【0070】
(実施例4.IPDコーティングにおけるマクロ粒子密度の制御)
IPD手順における距離/電流の関係の制御は、堆積されたマクロ粒子の量およびサイズを決定する。基板がソース(標的)に近づけば近づくほど、より多くのマクロ粒子が、基板上に存在するようになる。マクロ粒子を標的から排出すると、マクロ粒子は蒸発する。従って、飛行時間が長ければ長いほど、より多くの材料が粒子から蒸発する。マクロ粒子の密度もまた、電流によって制御し得る。なぜならば、より高い電流、またはアーク分割の直前に生じるレベルに電流を限定することのいずれかが、より多くかつより大きいマクロ粒子をもたらす傾向にあるからである。
【0071】
標的(カソード)の近くに、および標的(カソード)から離れるように基板を動かすことが可能な電動ユニットを、実質的にマクロのないフィルムを最初に堆積させるために使用した。これが、ベースコートに優れた粘着特性を提供する。次に、より多くのマクロ粒子が密集したフィルムを、基板を標的の近くに配置することによって堆積する。マクロが密集した表面は、比較的にマクロ粒子がない表面を有するフィルムと比較して、強化された抗菌活性を有する。図1は、どのように、標的に対する基板の配置が動かされ得るかを示すIPD装置を例示する。IPDを酸素環境において実施した。
【0072】
マクロ粒子はまた、可変IPD電源の使用によって制御され得、該可変IPD電源は、アークの速度を充分に遅くする(または加速する)ように構成され得る。アークの移動速度は、生成されるマクロ粒子の量に直接的に関連している。本来、標的(カソード)の表面におけるアークの速度を遅くすることは、標的により多くのマクロ粒子を生成させ、このことを、マクロ粒子の密度を増加させるために使用し得る。逆に、カソードにおけるアーク速度を増加させることは、マクロ粒子の生成を減少させ、それにより、良好な粘着を生成するために基板の表面に埋め込まれ得るより高エネルギーのイオンを提供する。図2は、アークの速度の制御と、標的に対する基板の位置の制御とによって設定されたIPD装置を示す。
【0073】
アークの移動速度の増加および減少は、米国特許第6,936,145号に記述された機械スイッチなどの適切なデバイスによって制御され得る。スイッチは、標的上の2つ以上の地点に電流をトグルさせるものであり、そして、他の制御方法が使用され得るが、速度制御の1つの方法の例となる。アーク速度の増加および減少が、粘着のための実質的にマクロのないフィルムの(内部の動きのない)堆積を可能にし、該実質的にマクロのないフィルムに、アーク速度の操作によるマクロが密集したフィルムが直接的に続く。
【0074】
(実施例5.抗菌フィルムにおいてAgOを増加させること)
IPD/UVの組み合わされた方法の利点は、IPDプロセス自体が調節され得、それにより、より多くの酸素と金属イオンとを、抗菌フィルムを形成する際の組み合わせに利用可能にし得る。紫外光によって活性されたときに、IPDフィルムは、かなり強化された抗菌活性を有する。IPDが酸素環境において実施されるときには、プラズマのアーク速度を制御すること(図2を参照)が、実質的に100%イオン化された酸素プラズマを提供し得る。プラズマ内の一重項の酸素の存在により、さらに、2原子の酸素の代わりにオゾンをシステムに注入することによって強化し得る。非常にイオン化された金属の流れを標的から作成するIPDの能力に加えて、酸素の存在は、他の方法よりも多くのAgOがフィルムに作成され、そして、堆積された表面をUV光に露出することと組み合わせて、金属/金属酸化物でコーティングされた表面の抗菌特性のかなりの強化をもたらすということを意味する。
【0075】
(実施例6.IPD蒸着されたAg、Ti、およびCuのコーティングの紫外線活性)
堆積中または堆積後のUV光の追加的な使用が、銀/酸化銀を堆積されたコーティングにおける一重項の酸素を活性させる。酸化銀は、AgO、すなわち、酸化銀のより安定した形態に弛緩する傾向にある。UV光を、Ti/TiOおよびCu/CuOのコーティングを活性させるためにも使用し得る。銀ベースの表面に対して、UV光がシステムの中に導かれることにより、堆積されたAgOをAgOに転換した。UV光は、真空チャンバ(図3)の中のソースから供給され得るか、またはコーティングされた基板がチャンバから取り除かれた後に外部ソースから供給され得る。
【0076】
ガラス基板を、実施例4において記述されたIPDプロセスを使用して、100nmのAgとAgOとAgOとの組み合わせでコーティングした。サンプルを、トリプシンのダイズアガーにおいてS.aureusを用いた阻止帯(ZOI)テストによってテストした。コーティングされたサンプルの半分を、光に露出されることなく37℃でインキュベートして、他方の半分を、200nm〜400nmの範囲内でUV光に露出された後、37℃でインキュベートした。24時間のインキュベート後、UVに露出されていないサンプルは、6mmまでのZOIを示した。UV光に露出されたサンプルは、12mmまでの阻止帯を示した。表4を参照されたい。
【0077】
ガラス基板を、実施例4において記述されたIPDプロセスを使用して、100nmのTiとTiOとTiOとの組み合わせでコーティングした。コーティングされたサンプルの抗菌特性が、トリプシンのダイズアガーにおいてS.aureusを用いた阻止帯テストを使用してテストされた。サンプルの半分を、光に露出することなく37℃でインキュベートして、他方の半分を、300nm〜400nmの範囲内の波長でBlack Light Blue(BLB)に露出した後、37℃でインキュベートした。24時間のインキュベート後、BLBに露出していないサンプルは、ZOIを示さなかった。BLBに露出したサンプルは、12mmまでの阻止帯を示した。表4を参照されたい。
【0078】
ガラス基板を、IPDプロセスを使用して、100nmのCuとCuOとCuOとの組み合わせでコーティングした。サンプルを、トリプシンのダイズアガーにおいてS.aureusを用いたZOIによってテストした。サンプルの半分を、光に露出されることなく37℃でインキュベートし、他方の半分を、200nm〜400nmの範囲内でUV光に露出した後、37℃でインキュベートした。24時間のインキュベート後、UVに露出していないサンプルは、ZOIを示さなかった。UVに露出したサンプルは、全てZOIを示した。ZOIは、Agベースのコーティングに対して2倍に強化された。TiおよびCuベースのコーティングにおけるUV処理は、Agベースのコーティングと同様な抗菌活性を生成しており、この場合、銀のコーティングとは異なり、UV処理前には、活性が観察されなかった。表4を参照されたい。
【0079】
【表4】

ZOIを上に示されたように計算した。この補正されたZOIは、Burrellら(1995年)において報告された計算されたZOIデータと類似していない。Burrellら(1995年)において報告された計算されたZOIデータは、観察された阻止帯の寸法から基板の寸法を減算することによって測定された。
【0080】
【表5】

【0081】
【表6】

【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】図1は、IPD装置の図である。標的材料(1)、コーティングされた基板(2)、標的に基板を近づけるように動かしたり、標的から基板を離すように動かしたりする機構(3)、真空チャンバ(4)、標的に対する電源(5)。
【図2】図2は、IPD装置の別の実施形態である。標的材料(1)、コーティングされた基板(2)、標的に基板を近づけるように動かしたり、標的から基板を離すように動かしたりする機構(3)、真空チャンバ(4)、標的に対する電源(5)、アーク速度を制御するデバイス(6)。
【図3】図3は、粘着性高抗菌コーティングを基板に堆積する改変されたIPD/UV装置の設定の例である。装置は、図1および/または図2の特徴を、選択された波長において紫外線を投入するソース(7)と共に組み込む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高粘着性抗菌コーティングを生成する方法であって、
第1の実質的にマクロ粒子のない金属コーティングを、選択された基板に堆積させることと、
該第1のコーティング上に表面層を形成するために、第2のマクロ粒子が密集した金属コーティングを堆積させることと、
該表面層を120nm〜400nmの範囲内の紫外光に露出させることと
を包含し、
該金属コーティングは、該第1の層および該第2の層においてマクロ粒子の密度を調節するように制御された酸素雰囲気の存在において、イオンプラズマ蒸着によって堆積されている、方法。
【請求項2】
前記コーティング金属は、銀、金、白金、銅、タンタル、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、および亜鉛から成る群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
基板上への前記金属の堆積は、カソードのアークの標的から該基板のホルダまでの距離を調節することによって制御される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記金属の堆積は、前記標的の表面における前記アークの速度を変化させることによって制御される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記コーティング金属は、銀、銅、またはチタンである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
200nm〜400nmの範囲内の紫外光の周波数が、前記コーティング金属から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記基板は、ポリプロピレン、ポリウレタン、PTFE、ポリイミド、ポリエステル、PEEK、UHMWPE、およびナイロンから成る群から選択されるポリマである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記基板は、タンタル、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、珪素、鉄、コバルト、クロム、亜鉛、合金、およびそれらの組み合わせから成る群から選択される金属である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記基板は、ガラスである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記イオンプラズマ蒸着の間にオゾンを提供することをさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
コーティングの厚さは、約100nmと約1ミクロンとの間である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記金属コーティングを紫外光に露出させることは、堆積の間に行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記金属コーティングを紫外光に露出させることは、堆積の後に行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記コーティングは、Ti、TiO、およびTiOを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記コーティングは、Cu、CuO、およびCuOを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記コーティングは、Ag、AgO、およびAgOを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
抗菌活性の金属/金属酸化物をイオンプラズマ蒸着された層でコーティングされた医療デバイスであって、該層は、埋め込まれた実質的にマクロ粒子のない基層と、紫外線活性化されたマクロ粒子が密集した層を堆積された表面とを備えている、医療デバイス。
【請求項16】
ステント、カテーテル、弁、およびインプラントから成る群から選択される、請求項15に記載の医療デバイス。
【請求項17】
ポリマ材料を含む、請求項15に記載の医療デバイス。
【請求項18】
金属を含む、請求項15に記載の医療デバイス。
【請求項19】
コーティングの厚さは、約30ミクロンまでである、請求項15に記載の医療デバイス。
【請求項20】
前記コーティングは、Ag/AgO/AgO、Cu/CuO/CuO、Ti/TiO/TiO、およびそれらの組み合わせから成る群から選択される金属/金属酸化物を含む、請求項15に記載の医療デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−528082(P2009−528082A)
【公表日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−556305(P2008−556305)
【出願日】平成18年11月6日(2006.11.6)
【国際出願番号】PCT/US2006/043295
【国際公開番号】WO2007/097790
【国際公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(508225037)カメレオン サイエンティフィック コーポレイション (4)
【Fターム(参考)】