説明

組成物およびカーボンナノチューブ含有膜

【課題】カーボンナノチューブが分散媒体中に均一に分散されており、成膜性および成形性に優れ、かつ、簡便な方法で基板に塗工することができる組成物、ならびに該組成物から形成されたカーボンナノチューブ含有膜を提供する。
【解決手段】本発明に係る組成物は(A)カーボンナノチューブと、(B)金属塩およびオニウム塩から選ばれる少なくとも一種と、を含有する組成物であって、前記組成物中の前記(A)成分の濃度M(質量%)および前記(B)成分の濃度M(質量%)がM/M=2.0×10−4〜4.0×10−2である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブを含有する組成物、およびこれを用いて形成されたカーボンナノチューブ含有膜に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(以下、「CNT」ともいう。)は、一様な平面のグラファイトを丸めて円筒状にしたような構造を有している。CNTの両端は、フラーレンの半球のような構造で閉じられており、必ず5員環を6個ずつ有している。CNTは、このような独特の構造を有するため様々な特性を具備しており、広範な分野において応用が検討されている。
具体的には、CNTは電場をかけると5員環から電子が放出されるため、電子放出電極としての応用が検討されている。また、CNTは内部に筒状の中空空間を有しているため、該空間に様々な分子を内包させることにより、燃料電池用電極としての応用が検討されている。さらに、CNTを分散させた導電性コンポジットのように膜としての応用が検討されている(特許文献1参照)。
CNTを膜として用いる場合、CNTを分散媒体中に分散させた塗工液を利用することが簡便である。例えば、共役系重合体の溶液中にCNTを分散させる方法等が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−166591号公報
【特許文献2】特開2008−88341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、CNTは、相互に凝集する性質を有するため、分散媒体中に均一に分散させることが困難であった。また、長期に亘りCNTの分散安定性を有し、かつ、十分な強度を有するカーボンナノチューブ含有膜を得ることも困難であった。
そこで、本発明に係る幾つかの態様は、上記課題を解決することで、CNTが分散媒体中に均一に分散されており、成膜性および成形性に優れ、かつ、簡便な方法で基板に塗工することができる組成物、および該組成物から形成されたカーボンナノチューブ含有膜を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することができる。
〔適用例1〕
本発明に係る組成物の一態様は
(A)カーボンナノチューブと、
(B)金属塩およびオニウム塩から選ばれる少なくとも一種と、
を含有する組成物であって、
前記組成物中の前記(A)成分の濃度M(質量%)および前記(B)成分の濃度M(質量%)がM/M=2.0×10−4〜4.0×10−2である組成物。
〔適用例2〕
前記組成物中の前記(B)成分の濃度Mが1.0×10−5〜2.0×10−3質量%の範囲である適用例1に記載の組成物。
〔適用例3〕
前記(B)成分は、2価以上の金属を含む塩を含有する、適用例1〜2のいずれか一項に記載の組成物。
〔適用例4〕
(C)分散媒体をさらに含有する、適用例1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
〔適用例5〕
前記(C)分散媒体は水である、適用例4に記載の組成物。
〔適用例6〕
適用例1〜5のいずれか一項に記載の組成物から形成された、カーボンナノチューブ含有膜。
〔適用例7〕
(A)カーボンナノチューブと、
(B)金属塩およびオニウム塩から選ばれる少なくとも一種と、
(C)分散媒体と、
を混合して組成物を製造する方法であって、
前記組成物中の前記(A)成分の濃度M(質量%)および前記(B)成分の濃度M(質量%)がM/M=2.0×10−4〜4.0×10−2である組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る組成物は、分散媒体中にカーボンナノチューブが均一に分散されているため、長期の貯蔵安定性を確保することができる。また、本発明に係るカーボンナノチューブ含有組成物は、成膜性および成形性に優れており、基板上に簡便な方法で塗工することができる。
上述した組成物から形成されたカーボンナノチューブ含有膜は、カーボンナノチューブの特性を損なうことなく、膜強度に優れた膜となる。また、形成されたカーボンナノチューブ含有膜は塗布基板との密着性に優れた膜となる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は下記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例をも含む。
【0008】
1.組成物
本実施の形態に係る組成物は、(A)カーボンナノチューブと、(B)金属塩およびオニウム塩から選ばれる少なくとも一種とを含有し、前記組成物中の前記(A)成分の濃度M(質量%)および前記(B)成分の濃度M(質量%)がM/M=2.0×10−4〜4.0×10−2である。
以下、本実施の形態に係る組成物を構成する各成分について説明する。
【0009】
1.1.(A)成分
本実施の形態で用いられる(A)成分であるカーボンナノチューブ(CNT)としては、炭素によって作られる1枚の六員環ネットワーク(グラフェン・シート)が円筒状に巻かれた単層のシングルウォールカーボンナノチューブ(以下、「SWCNT」という。)、2枚のグラフェン・シートが同心円状に巻かれたダブルウォールカーボンナノチューブ(以下、「DWCNT」という。)、複数のグラフェン・シートが同心円状に巻かれたマルチウォールカーボンナノチューブ(以下、「MWCNT」という。)等が挙げられる。本実施の形態では、SWCNT、DWCNT、MWCNTをそれぞれ単独で使用してもよいし、複数種組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、導電性および半導体特性において優れた性質を有する観点から、SWCNTおよびDWCNTがより好ましく、SWCNTが特に好ましい。
【0010】
上記のようなCNTは、例えばアーク放電法、レーザーアブレーション法、化学気相成長法(以下、「CVD法」ともいう。)等によって好ましいサイズに作製される。本実施の形態で用いられるCNTは、いずれの方法を用いて作製されたものであってもよい。
上記の方法でCNTを作製する際には、フラーレンやグラファイト、非晶性炭素が同時に副生成物として生成される場合があり、またニッケル、鉄、コバルト、イットリウム等の触媒金属が残存する場合があるので、これらの不純物をできるだけ精製して除去することが好ましい。不純物を除去する方法としては、硝酸、硫酸、フッ酸等による酸処理またはテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、アンモニア、水酸化カリウム等による塩基処理と共に超音波処理を行う方法が有効であり、さらにフィルターによる分離または遠心分離による分離操作を併用することが純度を向上させる観点から好ましい。
【0011】
本実施の形態において、CNTは、上記の精製後そのまま使用することもできるが、米国特許2006/0204427A1号等に記載されているような精製を行って使用してもよい。たとえば、塗工膜(カーボンナノチューブ含有膜)が半導体として利用される場合には素子電極間の短絡を防ぐために、素子電極間の距離よりも短いCNTを使用することが好ましい。通常CNTは、紐状で形成されているため、短繊維状で使用するにはあらかじめカットしておくことが望ましい。CNTを短繊維状にカットするには、硝酸、硫酸等による酸処理と共に超音波処理する方法が有効であり、さらにフィルターによる分離操作を併用することにより純度を向上させることができる。なお、本実施の形態においては、カットした短繊維状CNTだけではなく、あらかじめ短繊維状に作製されたCNTを用いてもよい。
【0012】
上述したような短繊維状CNTは、例えば以下のようにして作製することができる。まず、基板を用意し、該基板上に鉄、コバルト等の触媒金属を形成させる。次いで、その基板の表面にCVD法を用いて700〜900℃で炭素化合物を熱分解して気相成長させる。これにより、前記基板表面に垂直方向に配向した形状のCNTが形成される。得られた短繊維状のCNTは、基板から剥ぎ取る等の方法で取り出すことができる。また、短繊維状CNTは、ポーラスシリコンのようなポーラスな支持体またはアルミナの陽極酸化膜上に触媒金属を担持させ、それらの表面にCVD法にて成長させて得ることもできる。また、触媒金属を分子内に含む鉄フタロシアニンのような分子を原料とし、アルゴン/水素のガス流中でCVD法を用いることによって基板上にCNTを作製する方法でも、配向された短繊維状CNTを作製することができる。さらには、SiC単結晶表面にエピタキシャル成長法によって配向させた短繊維状CNTを得ることもできる。
【0013】
カーボンナノチューブ含有膜が半導体として利用される場合には、CNTの平均長さは、電極間距離にもよるが、好ましくは0.1μm以上2μm以下、より好ましくは0.5μm以上1.5μm以下である。CNTの平均長さが前記範囲内であると、素子電極間の短絡を防ぐことができる。なお、CNTの平均長さは、CNTを含有する水分散液をシリコンウエハー上に塗布した後に乾燥させて、シリコンウエハー上のCNTをSEM(走査型電子顕微鏡)により観察し、画像解析により50点の計測を行い長さの平均値を算出した値である。
【0014】
CNTの平均直径は、特に限定されないが、好ましくは0.8nm以上100nm以下、より好ましくは50nm以下、特に好ましくは15nm以下である。CNTの平均直径が前記範囲内であると、CNTの分散安定性に優れた組成物を得ることができ、該組成物を用いて形成されたカーボンナノチューブ含有膜の成膜性が良好となる。なお、CNTの平均直径は、CNTを含有する水分散液をシリコンウエハー上に塗布した後に乾燥させて、シリコンウエハー上のCNTをAFM(原子間力顕微鏡)により観察し、画像解析により50点の計測を行い長さの平均値を算出した値である。
【0015】
本実施の形態に係る組成物中における本願組成物中の(A)成分の濃度M(質量%)は、必要に応じて設定できるが、好ましくは0.00001〜10質量%、より好ましくは0.0001〜1質量%である。
なお、本実施の形態において、CNTは、組成物中に添加される前に、あらかじめ表面処理を行ってもよい。表面処理としては、例えばイオン注入処理、スパッタエッチング処理、プラズマ処理等が挙げられる。
【0016】
1.2.(B)成分
本実施の形態で用いられる(B)成分である金属塩およびオニウム塩から選ばれる少なくとも一種は、目的に応じて適時選択することができるが、(B)成分が金属塩である場合、2価以上の金属を含む塩であることが好ましく、2価以上の金属イオンを含有することが好ましい。2価以上の金属イオンを含有する金属塩を用いることでカーボンナノチューブをアイオノマ−のように疑似架橋させることができると考えられ、本願組成物を塗布して得られるカーボンナノチューブ含有膜の強度を向上させることができる。
また、(B)成分がオニウム塩である場合は2個以上のオニウム塩部位を有する化合物であることが好ましい。2個以上のオニウム塩部位を有する化合物を含有することでカーボンナノチューブを疑似架橋させることができると考えられ、本願組成物を塗布して得られるカーボンナノチューブ含有膜の強度を向上させることができる。
(B)成分は一種類である必要はなく、複数種組み合わせて使用してもよい。
【0017】
(B)成分が金属塩である場合、たとえば、ベリリウム、ホウ素、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、カルシウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ヒ素、スカンジウム、イットリウム、ニオブ、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、インジウム、スズ、アンチモン、テルル、バリウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金、水銀、タリウム、鉛、ビスマス、ポロニウム、ラジウム、ランタノイド、アクチノイド等の金属塩を用いることができ、好ましくはマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等の金属塩であり、カルシウム、マグネシウム等の金属塩がより好ましい。
【0018】
また、(B)成分がオニウム塩である場合、アンモニウムイオン、ホスホニウムイオン、スルホニウムイオンを含むことが好ましい。たとえば、N,N−メチレンビス、(ジメチルエチルアンモニウム)、N,N−エチレンビス(ジメチルエチルアンモニウム)、N,N−プロピレンビス(ジメチルエチルアンモニウム)、N,N−ブチレンビス(ジメチルエチルアンモニウム)、N,N−メチレンビス(ジメチルプロピルアンモニウム)、N,N−メチレンビス(ジメチルヘキシルアンモニウム)、N,N−メチレンビス(ジメチルベンジルアンモニウム)、N,N−フェニレンレンビス(ジメチルエチルアンモニウム)等のアンモニウム塩、N,N−メチレンビス(ジメチルエチルホスホニウム)、N,N−エチレンビス(ジメチルエチルホスホニウム)、N,N−プロピレンビス(ジメチルエチルホスホニウム)、N,N−ブチレンビス(ジメチルエチルホスホニウム)、N,N−メチレンビス(ジメチルプロピルホスホニウム)、N,N−メチレンビス(ジメチルヘキシルホスホニウム)、N,N−メチレンビス(ジメチルベンジルホスホニウム)、N,N−フェニレンレンビス(ジメチルエチルホスホニウム)等のホスホニウム塩、N,N−メチレンビス(ジメチルエチルスルホニウム)、N,N−エチレンビス(ジメチルエチルスルホニウム)、N,N−プロピレンビス(ジメチルエチルスルホニウム)、N,N−ブチレンビス(ジメチルエチルスルホニウム)、N,N−メチレンビス(ジメチルプロピルスルホニウム)、N,N−メチレンビス(ジメチルヘキシルスルホニウム)、N,N−メチレンビス(ジメチルベンジルスルホニウム)、N,N−フェニレンレンビス(ジメチルエチルスルホニウム)等のスルホニウム塩を用いることができ、好ましくはN,N−メチレンビス、(ジメチルエチルアンモニウム)、N,N−プロピレンビス(ジメチルエチルアンモニウム)、N,N−メチレンビス(ジメチルエチルホスホニウム)、N,N−プロピレンビス(ジメチルエチルホスホニウム)、N,N−メチレンビス(ジメチルエチルスルホニウム)、N,N−エチレンビス(ジメチルエチルスルホニウム)、N,N−プロピレンビス(ジメチルエチルスルホニウム)であり、N,N−メチレンビス、(ジメチルエチルアンモニウム)、N,N−メチレンビス(ジメチルエチルホスホニウム)、N,N−メチレンビス(ジメチルエチルスルホニウム)がより好ましい。
【0019】
本願組成物中の組成物中の(A)成分の濃度M(質量%)および(B)成分の濃度M(質量%)は、M/M=2.0×10−4〜4.0×10−2であり、好ましくは1.0×10−2〜4.0×10−2である。M/Mの値が前記範囲であると、(B)成分が組成物中で解離して生成された金属イオンまたはオニウムイオンにより(A)成分が架橋され、塗布した際に十分な膜強度を有するカーボンナノチューブ含有膜を得ることができるため好ましい。また、M/Mの値が前記範囲であると、本願組成物より作製したカーボンナノチューブ含有膜の電気特性を悪化させることがないため、電子素子などに好適に利用することができる。
【0020】
本願組成物中の組成物中の(B)成分の濃度M(質量%)は1.0×10−5〜2.0×10−3質量%が好ましく、さらに好ましくは1.0×10−4〜2.0×10−3質量%である。(B)成分の濃度Mが前記範囲であると、(A)成分と(B)成分と後述する(C)成分を混合しても組成物中でCNTの沈降および凝集が認められず良好な貯蔵安定性を維持することができるので好ましい。
【0021】
1.3.(C)分散媒体
本実施の形態に係る組成物は、必要に応じて(C)分散媒体を加えてもよい。本実施の形態で用いられる(C)分散媒体は、前記(A)成分および前記(B)成分を均一に分散させることができ、カーボンナノチューブ含有膜の成膜時に速やかに揮発する成分であれば特に限定されない。(C)分散媒体としては、例えば水、アルコール系分散媒体、ケトン系分散媒体、アミド系分散媒体、エステル系分散媒体および非プロトン系分散媒体から選択される少なくとも1種が挙げられる。これらの分散媒体の中でも、50〜300℃の沸点を有するものが好ましく、80〜250℃の沸点を有するものがより好ましい。さらに、(C)分散媒体としては、安全面の観点から、水を含有する媒体が好ましく、水(特に脱イオン水)がより好ましい。前記例示した分散媒体を用いることにより、カーボンナノチューブ含有膜を成膜する際に必要となる特性、すなわち適度な蒸気圧および蒸発速度、基板への濡れ性、ならびに粘度等を付与することができる。
【0022】
1.4.添加剤
本実施の形態に係る組成物は、必要に応じて以下に示すような添加剤を加えてもよい。
【0023】
1.4.1.有機ポリマー
本実施の形態に係る組成物は、ポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアンハイドライド、ポリスチレン系重合体および(メタ)アクリル系重合体から選択される少なくとも1種の有機ポリマーを添加してもよい。
本実施の形態に係る組成物においては、モノマー組成、分子量等を適切に選択することによって窒素雰囲気下において80〜250℃における示差熱熱重量分析による重量減少率が90%以上となる有機ポリマーを用いることが好ましい。また、本実施の形態に用いられる有機ポリマーは、分解後の残渣がCNTの性質に影響を及ぼさないものが好ましく、解重合により分解されるものがより好ましい。
本実施の形態に係る組成物中に含まれる有機ポリマーの含有量は、(A)カーボンナノチューブ100質量部に対して、好ましくは0.01〜99質量部、より好ましくは0.1〜80質量部である。
【0024】
1.4.2.界面活性剤
本実施の形態に係る組成物は、CNTの分散安定性を向上させる観点から、界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤のいずれの界面活性剤を使用してもよい。アニオン系界面活性剤としては、例えば脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルアリールスルホン酸塩等が挙げられる。ノニオン系界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル等が挙げられる。カチオン系界面活性剤としては、例えばアルキルアミン塩、第4級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0025】
1.4.3.pH調整剤
本実施の形態に係る組成物は、pH調整剤を添加してもよい。pH調整剤としては、例えば塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属の水酸化物、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、アンモニア等の塩基性物質が挙げられる。本実施の形態に係る組成物においては、分解性または揮発性を有する塩基性物質であって、窒素雰囲気下において30〜250℃での示差熱熱重量分析による重量減少率が好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは99%以上のものを用いるとよい。重量減少率が90%未満であると、カーボンナノチューブ含有膜を250℃以上の温度で加熱した場合に多量の分解物(残渣)が残留するので、良好な成膜性が得られない場合がある。なお、重量減少率は、窒素雰囲気下30℃で1時間乾燥させた試料を、TG−DTA(示差熱熱重量同時測定)により、30℃から250℃まで10℃/分の条件で昇温させ、試料の重量変化を追跡し、((30℃の試料重量)−(250℃の試料重量))/(30℃の試料重量)×100で計算される値である。
【0026】
1.4.4.その他の添加剤
本実施の形態に係る組成物には、必要に応じて、さらに分散剤、粘度調整剤、塗面調整剤、保存剤等の各種添加剤を添加してもよい。
【0027】
1.5.組成物の製造方法
本実施の形態に係る組成物は、前記(A)成分、前記(B)成分、必要に応じて添加剤を混合することにより製造することができる。さらに、本実施の形態に係る組成物が(C)分散媒体を含有する場合には(C)分散媒体中に前記(A)成分、前記(B)成分、必要に応じて添加剤を混合し、均一に分散させることによって得ることができる。添加する順序は、特に限定されず、全ての原料を一括して混合してもよいし、各成分を所望の順に混合してもよい。分散させる方法についても、特に限定されず、均一に分散させることができればどのような方法でも構わない。
各成分を均一に分散させる方法としては、前記(A)成分を分散媒体中で超音波照射により予備分散した後超音波照射により分散する方法等が好ましい。ここで、超音波照射は、超音波洗浄機、超音波破砕機等を用いて行うことができる。
【0028】
2.カーボンナノチューブ含有膜およびその製造方法
本実施の形態に係るカーボンナノチューブ含有膜の製造方法は、(a)基板の少なくとも一方の面に、上述した組成物を塗工して塗膜を形成する工程と、(b)前記塗膜を乾燥させる工程と、を含む。
以下、本実施の形態に係るカーボンナノチューブ含有膜の製造方法の一例について具体的に説明する。
【0029】
まず、上述した組成物を基板上に塗工して塗膜を形成する(工程(a))。基板としては、ガラス、シリコンウエハー、構造材等の無機物のみならず、フィルム、繊維、織物膜、板、紙等の種々の材質が挙げられる。塗膜の形成方法としては、キャスト法、スピンコート法、スプレーコート法、インクジェット法、ブレードコート法、ディップ法、バーコーター法、滴下法等の一般的な方法を使用することができる。
【0030】
次に、前記塗膜中に残存する分散媒体等を揮発させて、前記塗膜を乾燥させることにより、基板上にカーボンナノチューブ含有膜を作製する(工程(b))。本工程では、室温で放置して自然乾燥させてもよいが、加熱処理することが好ましい。加熱処理としては、例えば50〜150℃の温度で0.5〜2分間塗膜を予備乾燥させた後、250〜400℃の温度で5〜20分間本乾燥させるとよい。基板上にカーボンナノチューブ含有膜を形成することで、導電性や半導体特性等の機能を付与することができるようになる。
【0031】
本実施の形態に係るカーボンナノチューブ含有膜を電界効果型トランジスタの半導体層として用いる場合には、以下のようにして作製するとよい。まず、絶縁層で覆われたゲート電極上に上述した組成物をスピンコートして塗膜を形成し、該塗膜中に残存する分散媒体等を揮発させることによってゲート電極上にCNTが均一に分散された半導体層を形成する。この半導体層の上にソース電極とドレイン電極とを対峙させて形成することによって、電界効果型トランジスタ構造が作製される。また、上述した組成物をスピンコートして形成された塗膜を加熱焼成することで得られた多孔質膜をスイッチング素子として用いることもできる。また、基板上にカーボンナノチューブ含有膜のパターンを形成する場合には、感光性レジストを用いてフォトリソグラフィー法によってパターンを形成することができる。
【0032】
上述した組成物からカーボンナノチューブ含有膜を得る他の方法としては、ある支持体の上に一旦カーボンナノチューブ含有膜を形成し、得られたカーボンナノチューブ含有膜を他の支持体に写して形成する方法を用いることもできる。例えば、上記組成物をフィルターに通過させて、該フィルター上に堆積したCNTを別の基板上に写し取る方法、またはフィルム上に塗布して得られたカーボンナノチューブ含有膜を別の基板上に写し取る方法等がある。これらの方法を採用する場合、カーボンナノチューブ含有膜の付着したフィルターやフィルムをそのカーボンナノチューブ含有膜が別の基板上に付着するように接触させることで、カーボンナノチューブ含有膜を別の基板上に写し取るができる。この際使用するフィルターやフィルムは、カーボンナノチューブ含有膜の剥離性が良好なものが好ましい。カーボンナノチューブ含有膜の剥離性が良好なフィルターやフィルムの材質としては、PET(ポリエチレンテレフタレート)、ナイロン、PP(ポリプロピレン)、PTFE(ポリテトラフロオロエチレン)等が挙げられる。さらに、フィルターやフィルムのカーボンナノチューブ含有膜が形成されていない方の面から圧力を加えたり、少量の溶媒で湿潤させたりすることで、カーボンナノチューブ含有膜を良好に写し取ることができる。
【0033】
また、上記のようなカーボンナノチューブ含有膜を写し取る方法においては、あらかじめ必要なパターンを支持体に施しておくことでパターン形成をすることができる。例えばフィルター上にカーボンナノチューブ含有膜を形成する場合には、フィルターの上面にパターンの型を抜いたフィルム等を重ねておくことで、所望のパターンを得ることができる。また、フィルム上にカーボンナノチューブ含有膜を形成する場合には、別の支持体との間にパターンの型を抜いたフィルムを挟んだり、または上記組成物と親和性の異なる材料を用いてパターン形成しておくなどして、所望のパターンを得ることができる。
【0034】
本実施の形態に係るカーボンナノチューブ含有膜は、その膜厚が好ましくは1〜10000nm、より好ましくは2nm〜200nmであるとよい。特に膜厚が2nm〜200nmである場合には透明性に優れている。膜厚が2nm〜200nmであれば可視光透過率が50%T以上となり、膜厚が2nm〜100nmであれば可視光透過率は80%Tを超える。カーボンナノチューブ含有膜は、膜厚が厚いほど抵抗を小さくできるが、同時に光の透過率が小さくなるので、目的に応じた膜厚を調製するとよい。より低抵抗で、かつ高透過率の透明導電体を得るためには、1本の長さがより長いCNTを用いたり、より細いCNTを用いたり、CNT分散時に用いる撹拌や超音波照射などの条件をより強力にする方法などが好ましく用いられる。
【0035】
本実施の形態に係るカーボンナノチューブ含有膜の密度は、好ましくは0.5〜3.0g/cm、より好ましくは0.7〜2.0g/cmである。上記のような密度を有するカーボンナノチューブ含有膜を作製するために、必要に応じて加熱処理等の工程を別途設けてもよい。
本実施の形態に係る組成物から形成されるカーボンナノチューブ含有膜およびそれを加熱焼成した多孔質膜は、CNT本来の導電性(例えば、スイッチング素子など)や半導体特性に近い特性(例えば電界効果型トランジスタに使用した場合には高いキャリア移動度)を備えており、かつ、面内均一性が高いため、例えば電子放出素子の電子放出源として好ましく用いることができる。以上のように、本実施の形態に係るカーボンナノチューブ含有膜およびそれを加熱焼成した多孔質膜は、面内均一性を高くすることができるので面内いずれの箇所においても均一に電界を印加することができ、スイッチング素子として利用する場合には安定したスイッチング性能を発現することができる。
【0036】
3.実施例
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0037】
3.1.カーボンナノチューブの精製
カーボンナノチューブ(DWCNT、nanocyl社製、 NANOCYLTM NC2100、純度90%)1gを蒸留水125g、15M硝酸水溶液125mLと混合し、攪拌しながら125℃に加熱した。得られた混合液を12時間後、室温まで冷却したあと、1.8Lの脱イオン水を加え、さらに混合液のpHが1.6になるように35%水酸化アンモニムを加え、さらに超音波破砕機(東京理化器械社製 「VCX−502」、出力250W、直接照射)で60分間分散処理した。その後、反応溶液を0.5μm孔径のセラミックフィルターでろ過し、フィルターより排出された廃水のpHが4.0以上になるまで反応溶液に脱イオン水を加えてろ過を繰り返した。
【0038】
その後、フィルターに残った混合液を回収し、pHが7.1になるように0.1質量%の水酸化アンモニウム水溶液を加えた。次にこの混合液を再度、超音波破砕機で2時間分散処理した。混合液に含まれるCNT量は、所定量の混合液をアルミ容器に入れ、100℃に加熱されたホットプレートで15分間、200℃に加熱されたホットプレートで15分間加熱して水分を完全に蒸発させ、残った成分の重量をCNT量として算出した。最後に混合液中へ脱イオン水を加えて、(A)成分(カーボンナノチューブ)を0.05質量%のCNT水分散体を調製した。
【0039】
3.2.組成物の調製
[実施例1]
上記「3.1.カーボンナノチューブの精製」にて作製した(A)成分(カーボンナノチューブ)を0.05質量%のCNT水分散体を10g、(B)成分として硝酸カルシウム四水和物(和光純薬工業社製、純度98.5%)を水で希釈して0.1%にした水溶液を0.1g加えてCNTを含む組成物を調製した。
【0040】
[実施例2〜5、比較例2〜4]
CNTの量と硝酸カルシウム四水和物の量を変化させ、それぞれ(A)成分と(B)成分の濃度を表1に示すものに変更したこと以外は、実施例1と同様にして組成物を調製した。
【0041】
[実施例6]
(B)成分として、水酸化カリウム(和光純薬工業社製、純度85%)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして組成物を調製した。
【0042】
[実施例7]
(B)成分として、水酸化マグネシウム(和光純薬工業社製、純度95%)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして組成物を調製した。
【0043】
[実施例8]
(B)成分として、塩化インジウム(III)n水和物(和光純薬工業社製、純度99.99%)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして組成物を調製した。
【0044】
[実施例9]
(B)成分として、酢酸サマリウム四水和物(和光純薬工業社製、純度99.9%)を用いて調製したこと以外は、実施例1と同様にして組成物を調製した。
【0045】
[実施例10]
(B)成分として、硫酸セリウム(IV)四水和物(和光純薬工業社製、純度98%)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして組成物を調製した。
【0046】
[比較例1]
(B)成分を添加しないこと以外は、実施例1と同様にして組成物を調製した。
【0047】
3.3.評価方法
3.3.1.カーボンナノチューブ含有膜の成膜
8インチのP−TEOS膜付きシリコンウエハーを一辺が4cmの正方形にカットしたカットウェハーを試験片とした。この試験片をホットプレートで350℃/3分間乾燥させた後、アルミ製バットに置き30秒間除熱した。その後、乾燥させた試験片表面のゴミをエアスプレーで除去し、スピンコーター(ミカサ社製、SPINCOATER1H−7D)の回転台座に固定した。試験片を60rpmで回転させ、上記「3.1.組成物の調製」で得られた組成物1mLを滴下し、30秒間組成物が試験片全体に均質に行き渡るよう回転させた。その後、500rpmに回転数を設定し、1秒間回転させて組成物を試験片全体に均等に塗布した。その後、回転数を再び60rpmに設定し、5分間回転させ、組成物を乾燥させた。回転数を再度2000rpmに設定し、20秒間回転させて組成物を完全に乾燥させた。試験片をスピンコーターから外し、ホットプレートで350℃/3分間乾燥することにより試験片表面にカーボンナノチューブ含有膜を形成した。
【0048】
3.3.2.カーボンナノチューブ含有膜の膜強度・膜密着性評価
上記「3.3.1カーボンナノチューブ含有膜の成膜」によりカーボンナノチューブ含有膜を表面にコーティングされた一辺が4cmの正方形にカットした試験片を長辺が4cm、短辺が2cmになるようにカットし、スクラッチ試験機(RHESCA社製、CSR−02)のステージにステージ角度が水平面に対して5°になるように固定した。その後、センサー荷重176.5g/mm、振動レベルを80μm、速度7.46μm/Sの条件でダイヤモンド試験端子を振動させて1分間カーボンナノチューブ含有膜上をこすらせながら通過させた。その後、試験片をステージから取り外し、試験片のカーボンナノチューブ含有膜表面を光学顕微鏡システム(KEYENCE社製、VH−8000)を用いて245倍の倍率で観察し、ダイヤモンド試験端子の振幅折り返し点となる100箇所における傷の有無とP−TEOS基板からのカーボンナノチューブ含有膜の剥がれを確認した。
その結果を表1に示す。表1の膜強度の評価項目において、観察した100箇所のうち傷が見られた測定点の箇所が50箇所以下である場合を良好な膜強度を有すると判断し「○」、傷が見られた測定点が50箇所より多い場合を膜強度が不十分と判断し「×」と評価した。
また、膜密着性の評価項目において、カーボンナノチューブ含有膜表面を観察した結果、P−TEOS基板からのカーボンナノチューブ含有膜剥がれが観察されない場合を「○」、P−TEOS基板からのカーボンナノチューブ含有膜の剥がれが観察され、基板であるP−TEOS表面が露出した場合を「×」とした。
【0049】
3.3.3.組成物の貯蔵安定性評価
上記「3.2.組成物の調製」で得られた組成物を25ccのスチロール管瓶に10cc入れ、25℃で1日静置保管した。その後、上記「3.3.1カーボンナノチューブ含有膜の成膜」によりカーボンナノチューブ含有膜を形成し、膜上に凝集および異物が認められない場合を「○」、凝集および異物が認められた場合を「×」と評価した。
【0050】
【表1】

【0051】
3.4.評価結果
実施例1〜実施例10の結果より、(A)成分と(B)成分と、(C)分散媒体と、を含有し、前記(A)成分の濃度M(質量%)および前記(B)成分の濃度M(質量%)がM/M=2.0×10−4〜4.0×10−2の範囲にある組成物は、

カーボンナノチューブの強度評価の結果、良好な膜強度を示し、また、密着度評価の結果、基板からの剥がれやカーボンナノチューブ含有膜間での剥がれは見られなかった。また、実施例1〜実施例10に係る組成物を用いて作製されたカーボンナノチューブ含有膜は、欠陥のない平滑な膜であることが認められた。
一方、比較例1に係る組成物は、(B)成分を添加していないため、膜強度評価による膜強度の不良が認められ、膜密着性評価においてカーボンナノチューブ含有膜の基板からの剥がれとP−TEOS表面の露出が観察され膜密着性の不良が認められた。
比較例2に係る組成物は、(B)成分の添加量が5.0×10−6質量%と少量であるため、金属イオンによる架橋効果が発現しないため、膜強度評価による膜強度の不良が認められ、膜密着性評価においてカーボンナノチューブ含有膜の基板からの剥がれとP−TEOS表面の露出が観察され膜密着性の不良が認められた。
比較例3に係る組成物は、(B)成分の添加量が2.5×10−3質量%と多量であるため、得られたカーボンナノチューブ含有膜金属にはカーボンナノチューブの凝集や異物が認められ、貯蔵安定性が不良であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)カーボンナノチューブと、
(B)金属塩およびオニウム塩から選ばれる少なくとも一種と、
を含有する組成物であって、
前記組成物中の前記(A)成分の濃度M(質量%)および前記(B)成分の濃度M(質量%)がM/M=2.0×10−4〜4.0×10−2である組成物。
【請求項2】
組成物中の前記(B)成分の濃度Mが1.0×10−5〜2.0×10−3質量%の範囲である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記(B)成分は、2価以上の金属を含む塩である、請求項1〜2のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項4】
(C)分散媒体をさらに含有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記(C)分散媒体は水である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の組成物から形成された、カーボンナノチューブ含有膜。
【請求項7】
(A)カーボンナノチューブと、
(B)金属塩およびオニウム塩から選ばれる少なくとも一種と、
(C)分散媒体と、
を混合して組成物を製造する方法であって、
前記組成物中の前記(A)成分の濃度M(質量%)および前記(B)成分の濃度M(質量%)がM/M=2.0×10−4〜4.0×10−2である組成物の製造方法。

【公開番号】特開2012−6773(P2012−6773A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−142557(P2010−142557)
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】