説明

結晶化度が改善された歪シリコン層を有する歪シリコンオンインシュレータ(SSOI)構造

本発明は、一般に歪シリコンオンインシュレータ(SSOI)構造とその製造方法に関するものである。この方法は、歪シリコン層の歪を維持しつつその結晶化度を改善するための高温熱アニールを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に歪シリコン・オン・インシュレータ(SSOI)構造に関する。さらに詳しくは、本発明は歪シリコン層の結晶化度が改善されたことを特徴とするSSOI構造に関する。さらに本発明はそのような構造の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンオンインシュレータ構造は、一般にハンドルウエハと、半導体デバイス層と、ハンドルウエハおよびデバイス層との間の誘電性絶縁層とを備える。デバイス層をSOI構造のハンドルウエハから絶縁することによって、デバイス層の漏れ電流が低減され電気容量が低下する。半導体デバイス用の歪シリコンオンインシュレータ(SSOI)構造は、SOI技術と歪シリコン技術の利点を組み合わせたもので、歪シリコン層がキャリア移動度を高める。
【0003】
歪シリコンオンインシュレータ構造は様々な方法で加工または製造される。例えば一つの方法では、下記するような公知の方法の一つによって、シリコン−ゲルマニウム(SiGe)緩和層を絶縁層上に形成する。(i)酸素注入による分離(SIMOXとして知られている。例えば特許文献1参照);(ii)ウエハ接合とその後の裏面エッチング;(iii)ウエハ接合とそれに続く水素剥離層移設、または(iv)非晶質材料の再結晶化。これらの方法に続き、SiGe層上に歪シリコン層をエピタキシャル堆積または成長させる。絶縁層上のSiGe緩和層は、Siに歪を導入するためのテンプレートとして機能し、導入される歪は典型的にはおよそ10−3より大きい。
【0004】
しかしながらこのような構想には制約がある。例えばこれは、デバイス動作間に層を完全に空乏するために絶縁材料上の層を十分に薄く(例えば300オングストローム未満)する必要がある完全空乏型半導体装置を絶縁体上に製造する妨げとなる。さらにSiGe緩和層は、絶縁材料上の層の合計厚さを増加させ、その結果、完全空乏型シリコンオンインシュレータ装置(fully depleted silicon on insulator device)の作成に要求される厚さを満足することが難しくなる。
【0005】
このような問題は、絶縁材料上に直接配置された歪Siを歪SOI構造に持たせることによって回避することができる。(例えば、特許文献2参照)これは、例えば、ウエハ接合と注入法による分離との両者を活用することで達成することができる。具体的には、例えばSiGe緩和層を一つのウエハまたは基板面に形成する。次いで歪シリコン層を、例えばエピタキシャル堆積によって、緩和層の表面に形成する。そして、例えば特許文献3に開示される方法等一般に公知の方法の何れかによって緩和層に水素イオンを注入し、劈開または分離面を画定する。このようにしてできた構造を、表面に誘電性絶縁層を有する第二のウエハに対し、歪層面が誘電性絶縁層面に接着するように接合する。ひとたび接合すると、その結果としてできた構造を劈開または分離面に沿って分離することで歪シリコンオンインシュレータ構造を得ることができる。
【特許文献1】米国特許第5,436,175号
【特許文献2】米国特許出願公開第2004/0005740号
【特許文献3】米国特許第6,790,747号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
SSOI構造を作成する為の方法の如何に関わらず、典型的な方法は高温アニールを利用したウエハ接合法を採用する。しかしながらこの高温アニールは、歪層の有益な特性を乱すため歪材料に完全に適合するわけではない。例えば高温アニールを行うと、歪Si層を緩和する、あるいは上部のSiGe層からGeが歪Si層内に拡散するなどの結果を招く場合がある。逆に熱アニールを省略するか、約950℃より低い温度で熱アニールを行うと、例えば、歪Si層に所望の結晶構造が得られない等、SSOI構造の特性も制約を受ける。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従って簡単に述べれば本発明は、ハンドルウエハと、歪シリコン層と、前記ハンドルウエハと前記歪シリコン層との間の誘電体層とを備える歪シリコンオンインシュレータ構造を作製する方法に関し、前記方法は、前記歪シリコン層がハンドルウエハの結晶化度と約10%未満だけ異なる結晶化度を有するように前記歪シリコンオンインシュレータ構造を所定の温度にて所定の時間でアニールすることを含む。
【0008】
本発明の方法は、ドナーウエハの表面にシリコン含有緩和層を形成すること、前記シリコン含有緩和層上に歪シリコン層を形成すること、ハンドルウエハの表面上に誘電体層を形成すること、前記ドナーウエハの歪シリコン層と前記ハンドルウエハの誘電体層とを接合して接合ウエハを形成することをさらに含み、前記歪シリコン層と前記誘電体層との間に接合界面が形成され、前記ハンドルウエハの歪シリコン層がその表面にシリコン含有緩和残留層を有するように前記シリコン含有緩和層内の分離面に沿って接合ウエハと分離することおよび歪シリコン層からシリコン含有緩和残留層を実質的に除去するために、前記層をエッチングすることとを特徴とする。
【0009】
別の観点における本発明は、ハンドルウエハと、歪シリコン層と、前記ハンドルウエハと前記歪層との間の酸化物層とを備える歪シリコンオンインシュレータ構造に関し、前記歪層はハンドルウエハの結晶化度と約10%未満だけ異なる結晶化度を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の目的と特徴は一部明らかであり、一部以下に示される。
【0011】
図面を通じて対応する符号は対応する部分を示す。
【0012】
本発明によれば、結晶化度が改善され電気特性を改善できる歪半導体層を有する絶縁体構造上の歪半導体の製法が考案される。より具体的には、歪半導体層を緩和することなくその結晶化度を改善するために、高温熱アニールが有用な手段であることが判明した。本発明による半導体材料は、シリコン含有材料など当技術分野で一般に知られている半導体用途に適当な如何なる材料でも良い。ここでは例示のため、半導体材料としてSSOI構造に活用されるシリコンを取り上げる。本発明の改善された特徴は、例えば半導体積層構造など他の半導体用途に望ましい場合があることも理解すべきである。このような積層構造には、例えばSSi/PNO/ポリシリコン/SiO(BOX)またはSSi/HfO/TaSiN/ポリシリコン/SiO(BOX)積層(ここでPNOはプラズマ窒化ゲート酸化物(plasma nitrided gate oxide)を指し、BOXは埋め込み酸化物(buried oxide)を指す。)が含まれる。
【0013】
本発明の高温熱アニールはSSOI構造製作のための公知の方法に容易に組み入れることができることを留意すべきである。このような方法には、例えば、ここにその全ての内容を参照し組み入れる米国特許出願公開2004/0005740号および2004/0031979号記載のウエハ接合および層移設法と同様に、前述した米国特許第6,790,747号に記載の方法などが含まれる。従って、SSOI構造の作成法として一般に知られる実質的にいずれの技法も、本発明に従って採用することができる。本発明の方法はウエハ接合法と層の移設法を利用することが好ましい。従って以下には、本発明をこれ等の技法に沿って詳細に説明する。しかしながら、これは説明を目的とするもので限定を意図するものとみなされるべきではないことを理解すべきである。さらに本発明の実施に当たり、これ等の技法は、当技術分野でよく知られる様々な装置および方法条件を用いて適宜実施することができ、場合によっては、本発明の範囲から逸脱することなく省略する、あるいは他の技法と組み合わせることができる。
【0014】
1.歪シリコン層の形成
SSOI構造の形成には多くの技法を用いることができるが、ここでは本発明のいくつかの実施形態を説明するため、ウエハ接合法と層移設法によるSSOI作成方法を図1から4を参照しながら詳細に説明する。一般的にこれ等の技法は、二つの別々の構造を作成することと、接合界面に沿ってこれ等を接合することと、注入技法を用いて形成され前記接合界面とは異なる分離面に沿ってこれ等を剥離することとを含む。各構造は基板または支持ウエハを含み、基板または支持ウエハは石英またはサファイアを含んでも良いが、一般にはシリコン(例えば、チョクラルスキー法によって作製された単結晶シリコン)、ゲルマニウムまたはシリコン−ゲルマニウム(SiGe)などの半導体材料を含む。一つの好適な実施形態において、基板は単結晶シリコンウエハを含み、前記ウエハは少なくとも約150mm、200mm、300mmまたはそれ以上の直径を有している。
【0015】
以下では一つのウエハを「ハンドルウエハ」と称する。ハンドルウエハはその表面に直接配置された誘電体層を有し、最終的なSSOI構造の基板としての役割を果たす。もう一方の基板を以降「ドナーウエハ」と称する。ドナーウエハはその表面に直接配置されたシリコン含有緩和層を有し、一つの実施形態では、ウエハ接合ステップ前に歪シリコン層をその表面に形成するための基板としての役割を果たす。一つの代替的実施形態では、ウエハ接合ステップ前に、歪シリコン層上に所定量の誘電体層材料が配置される。
【0016】
A.ドナーウエハの構造
図1Aを参照すると、ドナーウエハ構造10はドナーウエハまたは基板12と、基板表面上の緩和したシリコン格子とは格子定数の異なるシリコン含有緩和層13と、前記シリコン含有緩和層の表面上にある歪シリコン層とを備える。一つの好適な実施形態におけるシリコン含有層はSiGeである。SiGe緩和層の特定の組成は、歪シリコン層に導入しようとする格子歪のレベルに応じて様々である。典型的なSiGe層は少なくとも約10%のGeを含み、場合によっては約15%、約20%、約25%、約35%、約50% 以上(例えば60%、70%、80%、90% 以上)を含むことができる。しかしながら一つの好適な実施形態におけるSiGe層は、Ge濃度が10%以上、50%未満の範囲、または15%以上、35%未満の範囲にあり、約20%のGeが好ましい。
【0017】
シリコン含有(例、SiGe)緩和層の形成には、エピタキシャル堆積法の一種など、当技術分野で一般に使用される実質的に全ての技法が使用できる。一般に、緩和層の厚さは、SiGe結晶格子が実質的に完全塑性緩和できるような十分な厚さとする。典型的な緩和層は実質的に均一な厚さを有し、その平均厚さは約0.1μm以上で、例えば約0.6μm以上、約1.0μm以上、場合によっては約2.0μm以上である。代わりに、厚さを範囲で表すほうが好ましい場合がある。例えば平均厚さは、典型的には約0.1から約2.0μmまでの範囲、例えば約0.5から約1.0μmまでの範囲などである。一つの好適な実施形態において、SiGe層は平均厚さが約2.0μmである。なお上述した厚さの範囲と最小厚さとは、緩和層の結晶格子を実質的に塑性緩和するのに十分な厚さである限り、本発明においてはあまり重要ではない。
【0018】
歪層14は、例えば(GeSi)緩和層13上に形成または堆積されたシリコンで、歪は例えば歪シリコン層とSiGe緩和層との間の格子定数の差によって生じる。このような歪が、ひいては歪層の結晶化度を左右する。
【0019】
堆積後の層に歪が存在する限り、緩和層と同様に緩和層上の歪層の形成または堆積にも、当技術分野で一般に知られている実質的に全ての技法が使用できる。一つの好適な実施形態においては、エピタキシャル堆積技法の一つ(例えば、大気圧化学気相堆積法(APCVD);低圧または減圧CVD(LPCVD);超高真空CVD(UHCVD);分子ビームエピタキシー(MBE);または原子層堆積(ALD))が使用され、例えば化学気相堆積法によってシラン、ジシランまたはトリシランが堆積される。エピタキシャル成長システムは、単一ウエハまたは複数ウエハ用バッチ式反応室を備えることができる。歪層は、場合によっては歪層と緩和層との間の界面の画定を促進するため、比較的低い温度、例えば700℃未満で形成される。画定された界面は、後に緩和層からの歪層の分離または除去を容易にする場合がある。歪層が実質的に100%のシリコンを含む一つの実施形態では、歪層は例えばGeソース気体に曝されていない堆積ツールの専用チャンバー内で形成される。このようにすることで、二次汚染を回避し、歪層と緩和層との間における高品質界面の形成が促進される。さらに歪層は、従来のSiより良好な熱伝導性を有するように、等方的な高純度シリコン前躯体から形成することもできる。高い熱伝導率は、後に歪層上に形成されるデバイス層からの熱の放散を容易にし、それによって歪層固有の高いキャリア移動度を維持する場合がある。
【0020】
一般に歪層14は、後のデバイス製造に十分な実質的に均一な厚さに成長するが、結晶格子が露出したシリコン表面で顕著な塑性緩和を起こすのに十分な厚さとはならない。従って典型的な歪層は、平均厚さが少なくとも約1nm、例えば約1nmと約100nmとの間、好ましくは約10nmと約80nmとの間、より好ましくは約15nmと約40nmとの間に成長する。好適な一実施形態におけるシリコン層の平均厚さは約20nmである。
【0021】
図1Aを再び参照すると、緩和層13の実質的に一定の深さに水素イオンなどのイオンを注入することができる。歪層14の形成前に緩和層にイオンを注入すると、イオンは後に歪層が形成される緩和層13の表面全体に注入される。歪層14の形成後に緩和層にイオンを注入すると、イオンは歪層14を通じて緩和層13に注入される。このイオン注入は、緩和層の分離面または劈開面17を画定する。イオンの平均注入深さは、後の熱処理時に歪層を十分移設しつつ、これに伴い移設される緩和層の量を可能な限り制限するような深さが好ましい。以下に詳細を記述するように、イオンは典型的には緩和層内の少なくとも約20nm、30nm、40nm、場合によっては50nmまたはそれ以上の深さに注入する。例えば場合によって、イオンは緩和層内の少なくとも約65nm、75nm、85nm、100nm、150nm、200nmまたはそれ以上の深さに注入される。イオン注入は当業者公知の方法によって行われる。例えば、注入を米国特許第6,790,747号に記載の方法に従って行っても良い。注入パラメータは、注入水素イオン(H)、例えば、一回あたり約1から約5×1016イオン/cm、注入エネルギー、例えば、約20から約100keVなどである。(例えば、歪層を通じて緩和層にエネルギー28keV、一回当たり2.6×1016イオン/cmのHを注入することができる。)
【0022】
この点において、代替的実施形態では他の注入物、例えばHまたはHe等、を注入量とエネルギーを適宜調整して使用することができることを留意すべきである。
【0023】
歪層形成の前に注入を行う場合には、緩和層中の面17に沿った分離または劈開が尚早に(即ち、接合工程の前に)起こらないように、それに続く緩和層への歪層の成長または堆積を十分に低い温度で実施することが好ましいこともさらに留意すべきである。分離または劈開温度は、注入種、注入量および注入材料によって複雑に変化する。例えばある場合には、堆積または成長温度を約500℃より低く保つことで、尚早分離または劈開を防ぐことができることが提唱されている。
【0024】
B.ハンドルウエハの構造
図1Bを参照すると、ハンドルウエハ構造11は、最終的なSSOI構造の絶縁層として機能する誘電体層15を表面に有するハンドルウエハまたは基板16を含む。誘電体層は、例えば、SiO、Si、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムなど、SSOI構造への使用に適した電気的絶縁材料であれば良い。一つの好適な実施形態における誘電体操はSiOである。しかしながら、場合によっては代わりにSiOの融点、即ちおよそ1700℃、よりも高い融点を有する材料を誘電体層に用いることが好ましい場合があることを留意すべきである。このような材料の例として窒化シリコン(Si)、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムなどが挙げられる。特定の理論に捕らわれない一般の考え方として、融点の高い誘電体層を用いると、その後の方法において、下地の誘電体層がデバイス製造工程で一般に用いられる温度(即ち、1000〜1200℃)で軟化することによって移設された歪層の緩和が起こりにくくなる。
【0025】
誘電体層は、熱酸化、湿式酸化または熱窒化など、当業者公知の技法によって形成することができる。一般には誘電体層を、最終的なSSOI構造に所望の絶縁性を提供するのに十分で実質的に均一な厚さに成長させる。典型的な誘電体層の平均厚さは少なくとも10nm、例えば約50nm、約100nm、約125nm、約150nm、約175nmまたは約200nmである。代わりに誘電体層の厚さを、約10nmと約200nmとの間、好ましくは約50nmと約175nmとの間、さらに好ましくは約100nmと約1500nmとの間、などの範囲として表すこともできる。一つの好適な実施形態における誘電体層の平均厚さは約145nmである。
【0026】
C.ウエハ接合と歪層の移設
ドナーウエハ構造10とハンドルウエハ構造11が作成された後、ドナーウエハ上の歪シリコン層をハンドルウエハの誘電体層上に移設して最終的なSSOI構造を形成する。一般にこの移設は、誘電体層15の表面を歪層14の表面に接触させ、両表面の間に接合界面18を有する接合構造20を形成し、その後、接合構造を緩和層中の分離面または劈開面17に沿って劈開または分離することによって行われる。
【0027】
接合前に、歪シリコン層および/または誘電体層を、これらの表面が接合できるように、洗浄、短時間エッチングおよび/または平坦化など当技術分野で公知の方法によって任意に処理する事ができる。さらに接合前の両表面の品質は、その結果生じる接合界面の強度に直接影響を与える。
【0028】
表面粗さは表面品質の定量評価方法の一つで、表面粗さの値が小さいほど表面品質は高い。従って、歪層および/または誘電体層の表面粗さを減じる処理を施すことができる。例えば一つの実施形態における表面粗さは、二乗平均平方根(RMS)で約0.5nm未満である。このように低いRMS値は接合前に洗浄および/または平坦化を行うことによって達成できる。洗浄は、親水面形成方法などの湿式洗浄法によって行うことができる。一般的な親水性表面形成方法の一つにRCA SC1洗浄方法があり、この方法では水酸化アンモニウム、過酸化水素および水を、例えば1:4:20の比率で混合して60℃に加熱した溶液に表面を約10分間浸漬し、その後脱イオン水でリンスしてからスピンドライヤーで乾燥する。平坦化は化学機械研磨(CMP)法によって行うことができる。さらに湿式洗浄の前、後、またはこれに代わって、両表面に接合強度を高めるためのプラズマ活性化処理を施すことができる。プラズマ雰囲気は例えば、酸素、アンモニア、アルゴン、窒素、ジボランまたはホスフィンを含むことができる。一つの好適な実施形態におけるプラズマ活性化雰囲気は、窒素、酸素およびこれ等の組み合わせからなる群より選択される。
【0029】
図2を参照すると、ドナーウエハが、歪層14と誘電体層15とを合わせて接合界面18を形成することによってハンドルウエハに接合される。一般にウエハ接合は、後の劈開または分離による層移設などに持ちこたえるだけの一体性を接合界面に保証するため十分なエネルギーを使用するものであれば、当技術分野で公知の実質的に如何なる方法でも行うことができる。しかしながら典型的なウエハ接合は、歪層の表面と誘電体層の表面とを常温で接触させ、その後、接合強度が約500mJ/m、約750mJ/m、約1000mJ/mまたはそれ以上の接合界面を形成するのに十分な時間、高温で加熱することによって行われる。このような接合強度を達成するため、加熱は少なくとも約200℃、300℃、400℃、場合によっては500℃にて、少なくとも約5分、30分、60分、場合によっては300分の時間で行う。
【0030】
図3を参照すると、接合界面18の形成後に形成された接合構造20を、緩和層13内の分離面または劈開面18に沿った破壊を誘起する条件に曝す。一般にこの破壊は、例えば熱誘起分離、機械的分離またはその組み合わせなど当技術分野で公知の技法を用いて行われる。一つの実施形態では、破壊を誘起するため接合構造を高温で一定の時間アニールする方法を採用することができる。例えばアニール温度は少なくとも250℃、350℃、450℃、550℃、650℃、場合によっては750℃である。この温度は、好ましくは約250℃と約750℃との間、より好ましくは約350℃と約650℃との間にある。アニールは少なくとも5分、30分、60分、場合によっては300分の間行われる。アニール温度が高いほど時間が短くなり、逆も同様である。アニール工程は大気または例えばアルゴンもしくは窒素などの不活性雰囲気で行うことができる。
【0031】
さらにもう一つの実施形態は、機械的力のみまたは機械的力をアニール工程に追加することによって緩和層の分離を誘起する。このような機械的力を適用するための実際の方法は本発明にとって重要ではなく、すなわち、歪層に相当の損傷を与えない限り、緩和層の分離を誘起する如何なる公知の機械的力を適用しても構わない。一つの好適な実施形態では、約350℃より低いアニールに加え分離を誘起する機械的力を用いる。
【0032】
図3を再び参照すると、分離に際して、二つの構造(30および31)が形成される。接合構造20の分離が緩和層13内の分離面または劈開面17に沿って起こる場合、分離面17は界面18と一致せずにむしろ緩和層内に存在し、緩和層の部分は両構造の一部となる。(即ち、緩和層の一部が歪層と共に移設される。)構造30はドナーウエハ12と、緩和層13の一部32とを備える。構造31はハンドルウエハ16と、誘電体層15と、表面上に緩和層13の残留部分33を有した歪シリコン層14とを備える。
【0033】
緩和層の残留部分33が存在する場合、残留部分33は緩和層にイオンが注入された深さにほぼ等しい厚さ(T)を有する。従ってこの厚さ(T)は典型的には約20nm、30nm、40nm、場合によっては50nmより厚い。例えばある場合、残留層は任意に少なくとも約65nm、75nm、85nm、100nm、150nm、200 nmまたはそれ以上の厚さとすることができる。厚さ(T)は分離に際し歪層に損傷を与えない十分な厚さであることが好ましく、例えば、一つの好適な実施形態における残留層は約80nmから90nm厚である。
【0034】
2.層移設後における歪シリコン表面の仕上げ
A.緩和残留層の除去
本発明によれば図3、4に示すように、歪シリコン層14をハンドルウエハ16に移設して構造31を形成した後、歪シリコン層がその上に形成されるデバイスに適した特性を持つように、構造31に追加的な方法を施す。例えば、シリコン含有緩和層33がある場合、この残留層を取り除くため構造31に一つ以上の工程を施す。残留層の除去には当技術分野で公知の何れの技法も適用可能であるが、エッチングによって行うことが好ましい。一つの好適な実施形態では、NHOH、HおよびHOを含むエッチング溶液を用いた湿式エッチング方法によって実質的に全ての緩和残留層を除去する。このエッチング液は、様々な組成のものが市販されており、一般に「SC1」溶液と呼ばれている。
【0035】
図4に示すように、最終的なSSOI構造40は、ハンドルウエハ16と、誘電体層15を間に挟んだ歪シリコン層14を備え、エッチング後の歪層表面に緩和層33が実質的に存在しないことが好ましい。この際、ここにおける「実質的に除去」または「実質的に存在しない」と言う表現は、SSOI表面において緩和残留層の元素が本質的に検出できないことを指すことを留意すべきである。例えば、一つの好適な実施形態における歪シリコン表面は、検出可能なGe原子を含まない。当技術分野で公知の手段によるGeの検出限界は約1.0×10Ge原子/cmである。
【0036】
従ってSSOI表面からは、当初歪を誘起するため歪層に導入された元素が何れも検出されないことが好ましい。例えばGeは、その後のデバイス製造またはデバイス動作と干渉する場合があるため、可能な限り取り除くことが好ましい。従って本発明によれば、エッチング後の歪シリコン表面には緩和層が実質的に存在しない。しかしながらある場合には、表面から例えばGeがいくらか検出されても良い。このような場合、歪シリコンの表面は約1.0×1010Ge原子/cm未満、例えば約7.5×10Ge原子/cm未満、約5.0×10Ge原子/cm未満、約2.5×10Ge原子/cm未満、場合によっては約1.0×10Ge原子/cm未満を含むことが好ましい。
【0037】
緩和層の正確な組成およびエッチング液の選択性など様々な要因に応じて適当なエッチング液組成を選択する。ここで「選択性」とはエッチング液が歪層材料に相対して緩和層材料を除去する選択的な速度を指す。一つの好適な実施形態において、エッチング液の選択性は歪シリコンの除去速度に相対するSiGe緩和層の除去速度として評価される。このSiGe除去:Si除去の比は、エッチング液の組成と同様、一部はSiGe緩和層のGe濃度に依存する。一般的には、SiGe緩和残留層がすばやく除去され歪シリコン層が可能な限りそのまま残るように、選択性の高いエッチング液が好まれる。
【0038】
前述したように残留層のGe濃度は、少なくとも約10%Ge、場合によっては少なくとも約15%、約20%、約25%、約35%、約50% 以上(例えば60%、70%、80%、90%以上)である。しかしながら一つの好適な実施形態におけるSiGe層は、Ge濃度が10%以上、50%未満の範囲、または15%以上、35%未満の範囲にあり、約20%のGeが最も好まれる。
【0039】
典型的なエッチング液は、SiGe緩和残留層をハンドルウエハから除去するに十分な比でNHOH、HおよびHOを含み、SiGe:Si選択性が少なくとも約3:1である。エッチング液は、好ましくは少なくとも約3.5:1、より好ましくは少なくとも4:1、さらに好ましくは4.5:1、さらによって好ましくは少なくとも5:1以上の選択性を得るのに十分なNHOH、HおよびHOを含む。一つの好適な実施形態における、ある特定の好適エッチング液のNHOH:H:HO比は約1:2:50である。
【0040】
一般に、エッチング方法のエッチング時間とエッチング温度は、緩和層を実質的に除去するのに十分な時間、温度とする。正確なエッチング時間はSiGe層の厚さに依存し、言い換えれば最初の注入エネルギーの関数となる。しかしながら典型的には、ハンドルウエハを約1分から約1000分、例えば約10分と約500との間、または約20分と200分との間、エッチング液に曝す。さらにハンドルウエハは、典型的には約1℃と約100℃との間、例えば10℃と90℃との間、50℃と75℃との間でエッチングされ、長いエッチング時間は低いエッチング温度に、また短いエッチング時間は高いエッチング温度に対応する。一つの好適な実施形態におけるエッチングは約65℃で約200分間行われる。
【0041】
典型的には、SiGe緩和残留層の除去を容易にし、エッチングが短時間で行われるようエッチング工程に攪拌を追加する。一つの実施形態では、典型的な出力レベルが約5から1500ワットの超音波(megasonic)攪拌または処理が施される。例えば、超音波の出力は約10から約1250ワット、約25から約1000ワット、約50から約75ワット、または約100から約500ワットである。
【0042】
B.歪層の結晶化度の改善
緩和残留層(例えば残留SiGe層)を任意に除去した後、デバイス製造に適した歪シリコン表面を作成するため構造31に後工程を施す。特に以下詳述のように、構造31を、その上の歪Si層の緩和を実質的に抑制しつつ結晶化度を改善するような条件でアニールする。
【0043】
典型的には、SSOI構造31を約950℃と約1200℃との間の温度でアニールする。例えば、SSOI構造31を約1000℃から約1175℃の間、好ましくは約1025℃から約1150℃の間、さらに好ましくは約1050℃から約1125℃の間でアニールすることができる。アニール時間はアニール温度によって様々で、低温には長いアニール時間が、また高温には短い時間が適用される。典型的には、SSOI構造31を、約15分から約150分、例えば約30分から約120分、好ましくは約45分から約100分、さらに好ましくは約60分から約80分アニールする。一つの好適な実施形態では、SSOI構造31を800℃以上、好ましくは1000℃以上で、約10分間以上、好ましくは30分間以上アニールする。
【0044】
本発明の実施に当たり、SSOI構造31のアニールに使用される装置の構造および構成は、あまり重要ではない点を留意すべきである。ある特定の好適実施形態では、SSOI構造31を管状アニーラーでアニールする。
【0045】
追加的な表面改善を行うため、SSOI構造31を様々な雰囲気で任意にアニールできることを留意すべきである。例えば、アルゴン雰囲気を使用することによって、酸化と歪シリコン層の消耗を抑えると共に、歪シリコン層表面の窒化損傷を抑制する事ができる。代わりに水素雰囲気は、歪シリコン層の結晶化度回復と、表面原子拡散によるその表面の平滑化とに同時に行うのに有用である。さらに水素とHClガスを含む雰囲気は、緩和層の除去を促進するために使用されることがある。好適な実施形態におけるSSOI構造は、高窒素および低酸素雰囲気でアニールされる。さらに好適な実施形態におけるSSOI構造は、99%窒素および1%酸素雰囲気でアニールされる。
【0046】
アニール後のSSOI構造におけるシリコン層の結晶化度および歪みは、当技術分野で公知の試料調整法と測定法によって測定することができる。一つの好適な実施形態では、ラマン分光法によって、以下に詳述する当技術分野で公知の手段を用いて結晶化度および歪みを測定する。
【0047】
ラマン分光法は、材料または化合物によって非弾性的に散乱した光の集光である。ある波長の光が材料に当たると、光はその材料の化学官能性に応じてシフトする。シフト光の強度は、分子構造とマクロ組織の両者に依存する。この現象の結果、シフト光を集光すると、化合物または材料の分子振動に関する直接的な情報を提供するラマンスペクトルが得られる。従って本発明によれば、ハンドルウエハの歪Si層のラマンピーク位置および幅を正確に測定するため、SSOI構造をガウス型バンド−ローレンツ型バンド(Gaussian-Lorentzian bands)に基づいてバンドフィット(band-fit)する。これは、例えば1mWで波長514.4nmのArイオンビームを用いたラマン顕微鏡によって行うことができる。
【0048】
いずれか特定の理論に捕らわれることなく、一般的に歪シリコン層の結晶化度は、その中の歪を保ちつつ、単結晶シリコンの結晶化度に近いほど望ましいものと考えられている。従って、ラマン分光法を用いて、ここに詳述する歪シリコンオンインシュレータ構造40をアニールすることによって、歪Si層14の結晶化度が改善されることを見出した。特に、アニール後の歪Si層の結晶化度は約10%未満、例えば約9%未満、約8%未満、約7%未満、約6%未満、そして好ましくは約5%未満(例えば、潜在的に約4%未満、約3%未満、約2%未満、場合によっては約1%未満)で単結晶シリコンの結晶化度と異なる。代わりに、アニール後の歪シリコンの結晶化度と単結晶シリコンとの結晶化度の相違を、例えば約1%から約10%の間、好ましくは約2%から約8%の間、さらに好ましくは約4%から約6%の間、などの範囲で表すことが望ましい場合もある。
【0049】
ここで、この差はアニール方法の前後におけるSSOIのラマンスペクトル走査を比較して計算されるものであることを留意すべきである。より具体的には、ここで用いられる「改善された結晶化度(improved crystallinity)」とは、歪シリコン層の最大吸収ピーク幅とハンドルウエハの最大吸収ピーク幅とを比較した時、それらの差が約10%未満であることを指す。
【0050】
歪Si層とハンドルウエハは異なる位置に最大吸収ピークを有しており、これはシリコン表面に歪があることを示す。2軸応力場におけるシリコン応力とΔV=V(基板)−V(歪層)で与えられるラマンシフトとの関係は、式1:
【数1】

[式中、σはPaを単位とする応力である。]
で示される。上式は、σxx=σyyの場合に1.0cm−1のダウンシフトが250MPaの引張応力に対応することを意味する。Si層中の歪は、式(2):
ε=0.123ΔV (2)
の百分率として計算される。
【0051】
シリコンの歪は、SSOI構造に形成されるトランジスタのカレントドライブおよび移動度に直接的に影響を与える。従ってアニール後におけるSi表面層の歪は、アニール処理前の歪と大きく異ならないことが望ましい。すなわち、ラマン分光法における歪シリコン層の最大吸収ピークの位置が実質的に変わらないことが望ましい。
【0052】
従って本発明の方法によれば、ここに開示した温度と時間のアニール後において歪Si層に実質的な変化が起こらないことが見出された。別の言い方をすれば、本発明の方法は、測定可能な歪緩和をSi層に起こすことなく、歪Si層の結晶化度を改善することが見出された。特に、アニール後における歪Si層の最大吸収ピーク位置は、アニール前における最大吸収ピーク位置よりもラマン分光測定で1.5波数(wave numbers)未満だけ異なる。例えばアニール後のピーク位置は、アニール前のピーク位置よりも波数で1.4未満、好ましくは1.3未満、さらに好ましくは1.2未満、さらに好ましくは1.1未満、さらに好ましくは1.0未満、さらに好ましくは0.9未満、さらに好ましくは0.8未満、さらに好ましくは0.7未満、さらに好ましくは0.6未満、そしてさらに好ましくは0.5未満だけ異なる。
【0053】
この際、最近の標準的なラマン分光法の精度は約0.1波数以内であることを留意するべきである。
【0054】
上記の事項を考慮して、本発明の方法によって歪層内の結晶化度が改善され、一方表面層の歪が最大化されたSSOIが作成できることを留意するべきである。一般に、歪層の厚さ、表面粗さおよび欠陥密度など他の特性が維持される限り、歪は大きい程よい。例えば、本発明によって作成されるSSOI構造中の歪レベルは0.5%以上、例えば0.6%以上、0.7%以上または0.8%以上である。ドナーウエハ構造10の作成技法を改善すれば歪レベルは、好ましくは0.9%以上、さらに好ましくは1%にすることが可能である。
【0055】
以上、SiGe層を除去した後にSSOI構造をアニールすることを含む本発明のSSOI構造の製造方法について説明したが、本発明の範囲を逸脱することなく、アニールを他の方法で方法に組み込むことができることも留意すべきである。例えば、移設後に任意に存在する緩和残留層の除去前のハンドルウエハに対してアニール工程を行うことができる。さらにSSOIを作製するための従来の方法を本発明に従い改良し、でき上がったSSOI構造に本発明記載の高温熱アニール方法を施すことができる。
【0056】
3.歪シリコンオンインシュレータ構造
本発明に従って作成されたSSOI構造は、歪Si層の有利な特性を維持したまま歪Si層の結晶化度を改善している。例えばSSOI構造は、結晶化度が好ましくは単結晶シリコンハンドルウエハと約10%未満だけ異なり、好ましくは約9%未満、約8%未満、約7%未満、約6%未満、約5%未満(例えば約4%未満、約3%未満、約2%未満、場合によっては約1%未満)だけ異なる結晶化度を有する歪層を備える。さらにSSOI構造は任意に少なくとも約0.5%、好ましくは少なくとも約0.6%、約0.7%、約0.8%、約0.9%、場合によっては約1%の歪値を有することができる。
【0057】
一つの好適な実施形態におけるSSOI構造は、結晶化度が単結晶ハンドルウエハの結晶化度と約8%未満だけ異なり、0.6%以上の歪値を有する歪層を有している。より好適なSSOI構造は、結晶化度が単結晶ハンドルウエハの結晶化度と約6%未満だけ異なり、0.7%以上の歪値を有する歪層を有している。さらによって好適なSSOI構造は、結晶化度が単結晶ハンドルウエハの結晶化度と約5%未満だけ異なり、0.8%以上の歪値を有する歪層を有している。
【0058】
さらにこれ等の実施形態における歪Si層は約1nmから約100nm厚の範囲の実質的に均一な厚さを有することができる。様々な実施形態にける歪Si層は、約10nmから約80nmの厚さを有することが好ましく、約20nmから約60nmの厚さを有することがより好ましい。
【0059】
本発明に従い製造されるSSOI構造は、たとえば種々の相補型金属酸化物半導体(CMOS)の技術分野を含む種々の技術用途に適している。
【0060】
以下の実施例は、単に本発明をさらに示し説明すること意図するものである。本発明はここに記載される如何なる詳細によっても限定されるべきものではない。
実施例
実施例1
【0061】
工業用のエピタキシャル堆積方法によって、GeソースガスとSiソースガスを用い、平均厚さが約0.2μmのSiGe緩和層を堆積させて、本発明のシリコンドナー構造を作成した。その上に、ASM社製Epislon 1 シングル・ウエハ・リアクタによるエピタキシャル成長手段を用いて、平均厚さが約80nmのシリコン層を形成した。その後、SiGe緩和層内に分離面を形成するため、Innovion社の外部受託注入サービスを利用し、SiGe層中の約120nmの深さに水素イオンを注入した。次いで、その上に縦型炉を用い850℃、120分の熱酸化手段によって145nm厚のSiO層を成長させてシリコンハンドル構造を作成した。
【0062】
EAGボンダーによるNプラズマ活性化処理および親水性接合によって、歪シリコン層とSiO層との間に接合界面を形成して、二つの構造を接合した。その後、接合構造に300℃、60分間の接合アニールを施した。そして、水素注入による分離面に沿って分離が起こるように、SiGen社製劈開器を用いて構造を劈開した。このようにしてできた構造の一つは、ハンドルウエハと、その上の歪シリコン層と、歪シリコン層上のSiGe緩和残留層とを備え、緩和残留層の厚さは約105nmであった。この構造を65℃のNHOH:H:HOが1:2:50のエッチング液に150Wの超音波をかけながら240分浸漬し、歪層の表面から緩和残留層を実質的に除去した。
【0063】
このようにしてできた600Å厚さのSSOI構造を1100℃の99%Nおよび1%O雰囲気中で30分アニールした。このアニール方法は、歪シリコン層の歪を維持しつつ、その結晶化度を改善する事が確認された。歪シリコン層の結晶化度と歪をラマン分光法でより具体的に評価した。歪層の最大吸収ピークは波数515.8の位置に観察され、単結晶ハンドルウエハの最大吸収ピークは波数520.7の位置に観察された。アニール後における歪シリコン層の結晶化度は、ハンドルウエハの結晶化度に比べ約6.5%未満異なり、歪シリコン層の引張歪は0.7%であることが確認された。さらに歪については、歪層の最大吸収ピークがアニール後に波数で見る限りシフトしなかったことから、緩和はほとんど起こらなかったことが確認された。
実施例2
【0064】
600ÅのSSOI構造を実質的な窒素雰囲気中において約1000℃で30分間アニールした。より具体的には、800℃で約98%N、約2%Oの雰囲気中でアニールを開始した。その後、温度を5℃/分の速度で1000℃まで上昇させ、同じ雰囲気中でそのアニール温度に約5分間保持した。さらにSSOI構造を、約100%Nの雰囲気で25分間アニールし、この雰囲気中において約3℃/分の速度で800℃まで冷却し、アニール炉から取り出した。
【0065】
このアニール方法は、歪シリコン層の歪を維持しつつ、その結晶化度を改善する事が確認された。歪シリコン層の結晶化度と歪とをラマン分光法でより具体的に評価した。歪層の最大吸収ピークは波数515.0の位置に観察され、単結晶ハンドルウエハの最大吸収ピークは波数520.8の位置に観察された。アニール後における歪シリコン層の結晶化度は、ハンドルウエハの結晶化度に比べ約7.3%未満異なり、歪シリコン層の引張歪は0.7%であることが決定された。さらに歪について、歪層の緩和は殆どないことが決定された。
【0066】
上記の実施例に関する記述は、当業者にその原理や実際の用途を紹介し、当業者が特定の用途の要求に最も適するように本発明を様々な形態で適用、応用できるようにするためのものである。従って本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々に変形され得るものである。
【0067】
請求の範囲を含む本明細書全体における「含む(comprises)」、「備える(comprising)」という用語の用法は、文脈が他の意味を明記しない限り、排他的ではなく包含を意味するものと解釈するよう明確に理解されるべきで、請求の範囲を含む本明細書全体の理解に当たり、これらの用語はそのように解釈されるべきものである。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1A】シリコン含有緩和層13と、歪シリコン層14とを表面上に有したドナーウエハ12の断面概略図である。
【図1B】は誘電層15を表面に配置したハンドルウエハ16の断面概略図であり、図1Aのウエハに接合される前の状態を示す。
【図2】(図1Aに示す)ドナーウエハの歪シリコン層14の表面を、(図1Bに示す)ハンドルウエハの誘電体層15の表面に接触させることによって作られる接合構造20の断面概略図である。
【図3】接合構造20を、シリコン含有緩和層13中の分離面または劈開面17に沿って分離することを説明する断面概略図で、歪シリコン層14が、シリコン含有緩和層の残留部分33をその表面に任意に残した状態で、ハンドルウエハ16/誘電体層15に移設することを示す。
【図4】本発明による歪シリコンオンインシュレータ構造40の断面概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンドルウエハと、歪シリコン層と、前記ハンドルウエハと前記歪シリコン層との間の誘電体層とを備える歪シリコンオンインシュレータ構造の製造方法であって、前記歪シリコン層が前記ハンドルウエハの結晶化度と約10%未満だけ異なる結晶化度を有するように前記歪シリコンオンインシュレータ構造を所定の温度にて所定の時間でアニールすることを含んでなる、歪シリコンオンインシュレータ構造の製造方法。
【請求項2】
ドナーウエハの表面上にシリコン含有緩和層を形成すること、前記シリコン含有緩和層上に歪シリコン層を形成すること、前記ハンドルウエハの表面上に前記誘電体層を形成すること、および前記ドナーウエハの前記歪シリコン層を前記ハンドルウエハの前記誘電体層に接合して、接合ウエハを形成することを含んでなり、
前記歪シリコン層と前記誘電体との間に接合界面が形成され、前記ハンドルウエハ上の前記歪み層がその表面にシリコン含有緩和残留層を有するように、前記接合ウエハを前記シリコン含有緩和層内の分離面に沿って分離することおよび前記シリコン含有緩和残留層を前記歪シリコン層から実質的に取り除くように前記層をエッチングすることをさらに含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記歪シリコン層の厚さが約1nm以上である、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記歪シリコン層の厚さが約10nmから約80nmまでである、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記シリコン含有緩和層がSiGeを含んでなる、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記歪シリコンオンインシュレータ構造を窒化および酸化雰囲気でアニールする、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記シリコンオンインシュレータ構造を少なくとも約800℃の温度でアニールする、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記シリコンオンインシュレータ構造を約1000℃から1175℃の温度でアニールする、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記シリコンオンインシュレータ構造を少なくとも約10分間アニールする、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項10】
前記シリコンオンインシュレータ構造を少なくとも約30分から約120分間アニールする、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項11】
前記ハンドルウエハの直径が少なくとも約200mmである、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項12】
前記アニール後において、前記歪シリコン層が、前記ハンドルウエハの結晶化度と約5%未満だけ異なる結晶化度を有する、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項13】
前記アニール後において、前記歪シリコン層の歪レベルが少なくとも約0.5%である、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項14】
前記アニール後において、前記歪シリコン層の歪レベルが少なくとも約1.0%である、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項15】
前記アニール後において、前記シリコン層の歪みを実質的に変化させずに残留させる、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項16】
前記アニール後の前記歪シリコン層の最大吸収ピークが、前記アニール前に比べて、1.5波数未満だけ異なる、請求項2に記載の方法。
【請求項17】
前記アニール後の前記歪シリコン層の最大吸収ピークが、前記アニール前に比べて、0.5波数未満だけ異なる、請求項2に記載の方法。
【請求項18】
構造が請求項1、2、16または17の何れかの方法によって形成される、歪シリコンオンインシュレータ構造。
【請求項19】
ハンドルウエハと、歪シリコン層と、前記ハンドルウエハと前記歪層との間に酸化物層を備え、前記歪層がハンドルウエハの結晶化度と約10%未満だけ異なる結晶化度を有する、歪シリコンオンインシュレータ構造。
【請求項20】
前記ハンドルウエハが少なくとも200mmの直径を有する、請求項19に記載の構造。
【請求項21】
前記歪シリコン層が、前記ハンドルウエハの結晶化度と約5%未満だけ異なる結晶化度を有する、請求項19または請求項20に記載の構造。
【請求項22】
前記歪シリコン層が少なくとも約0.5%の歪レベルを有する、請求項19または請求項20に記載の構造。
【請求項23】
前記歪シリコン層が少なくとも約1.0%の歪レベルを有する、請求項19または請求項20に記載の構造。
【請求項24】
前記歪シリコン層が少なくとも約1nmの厚さを有する、請求項19または請求項20に記載の構造。
【請求項25】
前記歪シリコン層が少なくとも約10nmから約80nmの厚さを有する、請求項19または請求項20に記載の構造。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2009−503907(P2009−503907A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−525202(P2008−525202)
【出願日】平成18年8月1日(2006.8.1)
【国際出願番号】PCT/US2006/030348
【国際公開番号】WO2007/019260
【国際公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(392026316)エムイーエムシー・エレクトロニック・マテリアルズ・インコーポレイテッド (74)
【氏名又は名称原語表記】MEMC ELECTRONIC MATERIALS,INCORPORATED
【Fターム(参考)】