説明

絶縁シート及び積層構造体

【課題】優れた耐熱性、耐電圧性及び接着性を有し、しかも優れた難燃性を有する硬化物を与える絶縁シートを提供する。
【解決手段】熱伝導率が10W/m・K以上の高熱伝導体4を導電層2に接着するのに用いられる絶縁シート3であって、芳香族骨格を有し、かつ重量平均分子量が1万以上であるポリマー(A)と、芳香族骨格を有し、かつ重量平均分子量が600以下であるエポキシモノマー(B1)及び/又はオキセタンモノマー(B2)と、硬化剤(C)と、フィラー(D)とを含有しており、かつ、上記ポリマー(A)として骨格中にリンを有する化合物を含むか、もしくは上記(A),(B1),(B2),(C)及び(D)以外の成分として骨格中にリン原子を有する化合物(E)を含有する、絶縁シート3。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導率が10W/m・K以上の高熱伝導体を導電層に接着するのに用いられる絶縁シートに関し、より詳細には、優れた難燃性を有し、しかも優れた放熱性、耐熱性、耐電圧性及び接着性を有する硬化物を与える絶縁シート、及び該絶縁シートを用いた積層構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気機器の小型化及び高性能化が進行している。それに伴って、電子部品の実装密度が高くなってきており、電子部品から発生する熱を効率的にかつ効果的に放散させる必要が高まってきている。熱を放散させる方法としては、高い放熱性を有し、かつ熱伝導率が10W/m・K以上であるアルミニウム等などの高熱伝導体を、発熱源に対して接着する方法が広く採用されている。また、この高熱伝導体を発熱源に接着させるのに、絶縁性を有する絶縁接着材料が用いられている。絶縁接着材料には、熱放散が確実に行えるように、高い熱伝導率を有することが強く求められている。更に、この絶縁接着材料には、火災を予防し、安全性を高めるために高い難燃性が付与されていることが望ましい。
【0003】
上記絶縁接着材料の一例として、下記の特許文献1には、ビスフェノール型ジグリシジルエーテルに特定のリン化合物を反応させて得られた下記式(A)で表されるリン含有難燃性エポキシ樹脂を含む組成物が開示されている。この組成物には、各種の合成樹脂、硬化剤、充填材、顔料、着色材などが配合される。
【0004】
【化1】

【0005】
上記式(A)中、Zは下記式(a)を示し、n=0を含んでよいが、n=1以上を必須として含有する。
【0006】
【化2】

【0007】
上記式(a)中、Aは、−CH−、−C(CH−のいずれかの2価の基から選ばれるものであり、mは0以上の整数を表す。
【0008】
また、下記の特許文献2では、下記式(B)で表されるリン酸エステルアミド化合物を含む難燃性樹脂組成物が記載されている。この難燃性樹脂組成物には、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂等の合成樹脂のほか、熱硬化性樹脂やポリオレフィン樹脂、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、銅害防止剤、滑剤、中和剤、無機充填剤、顔料、過酸化物などが配合される。
【0009】
【化3】

【0010】
上記式(B)中、R及びRは、同一または異なるもので水素原子またはC〜Cのアルキル基を表す。
【特許文献1】特許第3268498号公報
【特許文献2】特開2003−238580号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に記載のリン含有難燃性エポキシ樹脂組成物では、エポキシ樹脂がリン化合物で変性されているリン含有難燃性エポキシ樹脂が用いられているため、難燃性に優れている。しかしながら、このリン含有難燃性エポキシ樹脂組成物の硬化物は、放熱性、耐熱性、耐電圧性及び接着性が充分ではなかった。
【0012】
また、特許文献2に記載の難燃性樹脂組成物の硬化物もまた、充分な放熱性、耐熱性、耐電圧性及び接着性を有するものではなかった。
【0013】
本発明の目的は、上述した従来技術の現状に鑑み、優れた難燃性を有し、しかも優れた放熱性、耐熱性、耐電圧性及び接着性を有する硬化物を与える絶縁シート、及びそれを用いた積層構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願の第1の発明に係る絶縁シートは、熱伝導率が10W/m・K以上の高熱伝導体を導電層に接着するのに用いられる絶縁シートであって、芳香族骨格を有し、かつ重量平均分子量が1万以上であるポリマー(A)と、芳香族骨格を有し、かつ重量平均分子量が600以下であるエポキシモノマー(B1)及び/又は芳香族骨格を有し、かつ重量平均分子量が600以下であるオキセタンモノマー(B2)と、硬化剤(C)と、フィラー(D)と、骨格中にリン原子を有する化合物(E)とを含有し、未硬化状態での前記絶縁シートのガラス転移温度Tgが25℃以下であることを特徴とする。
【0015】
本願の第2の発明に係る絶縁シートは、熱伝導率が10W/m・K以上の高熱伝導体を導電層に接着するのに用いられる絶縁シートであって、骨格中にリン原子を有し、芳香族骨格を有し、かつ重量平均分子量が1万以上であるポリマー(A1)と、芳香族骨格を有し、かつ重量平均分子量が600以下であるエポキシモノマー(B1)及び/又は芳香族骨格を有し、かつ重量平均分子量が600以下であるオキセタンモノマー(B2)と、硬化剤(C)と、フィラー(D)とを含有し、未硬化状態での前記絶縁シートのガラス転移温度Tgが25℃以下であることを特徴とする。
【0016】
第1の発明に係る絶縁シートのある特定の局面では、前記骨格中にリン原子を有する化合物(E)は、有機リン酸化合物(E1)である。この化合物(E1)を用いた場合には、難燃性を付与しながらも、十分な耐熱性や絶縁破壊電圧を維持することができる。
【0017】
本発明では、前記ポリマー(A)又は前記ポリマー(A1)としては、様々なポリマーを用いることができるが、フェノキシ樹脂が好ましく、それによって、耐熱性が高められる。また、上記フェノキシ樹脂は、ガラス転移温度Tgが95℃以上であることが好ましい。この場合、樹脂の熱劣化がより一層抑制される。
【0018】
本発明では、上記硬化剤(C)としては、様々な硬化剤を用いることができるが、メラミン骨格又はトリアジン骨格を有するフェノール樹脂、またはアリル基を有するフェノール樹脂がより好ましい。これらの硬化剤を用いた場合には、絶縁シートの硬化物のシート柔軟性や難燃性がより一層高められる。
【0019】
また、上記硬化剤(C)としては、多脂環式骨格を有する酸無水物、その水添加物又はその変性物、もしくはテルペン系化合物と無水マレイン酸との付加反応により得られた脂環式骨格を有する酸無水物、その水添加物又はその変性物も好ましい。これらの硬化剤を用いた場合には、シートの柔軟性、耐湿性及び接着性がより一層高められる。
【0020】
また、本発明では、硬化剤(C)として、下記式(1)〜(3)のいずれかで表される酸無水物がより好ましく用いられる。この場合、シート柔軟性、耐湿性及び接着性がさらに一層高められる。
【0021】
【化4】

【0022】
【化5】

【0023】
【化6】

【0024】
上記式(3)中、R1及びR2はそれぞれ独立に、水素、炭素数1〜5のアルキル基、又は水酸基を示す。
【0025】
本発明では、上記フィラー(D)としては、様々なフィラーを用いることができるが、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸化亜鉛及び酸化マグネシウムからなる群から選択された少なくとも1種が好ましく、球状アルミナ及び/又は球状窒化アルミニウムがより好ましい。これらのフィラー(D)を用いた場合には、絶縁シートの放熱性をより一層高めることができる。
【0026】
本発明に係る絶縁シートの他の特定の局面では、UL94規格の垂直燃焼試験において、難燃性の等級がV−0とされている。
【0027】
本発明に係る積層構造体は、熱伝導率が10W/m・K以上の高熱伝導体の少なくとも片面に、絶縁層を介して導電層が積層されており、該絶縁層が、本発明に従って構成された絶縁シートを硬化させて形成されていることを特徴とする。
【0028】
本発明に係る積層構造体のある特定の局面では、前記高熱伝導体は金属とされている。
【発明の効果】
【0029】
第1の発明によれば、絶縁シートが上記ポリマー(A)と、上記エポキシモノマー(B1)及び/又は上記オキセタンモノマー(B2)と、硬化剤(C)と、フィラー(D)と、骨格中にリン原子を有する化合物(E)とを含有し、未硬化状態での絶縁シートのガラス転移温度Tgが25℃以下であるので、絶縁シートの硬化物は、優れた難燃性を有し、しかも優れた放熱性、耐熱性、耐電圧性及び接着性を有する。第1の発明の絶縁シートの硬化物は、難燃性に優れているので、火災を予防し、安全性を高めるために特に有用である。
【0030】
第2の発明によれば、絶縁シートが、骨格中にリン原子を有し、芳香族骨格を有し、かつ重量平均分子量が1万以上であるポリマー(A1)と、上記エポキシモノマー(B1)及び/又は上記オキセタンモノマー(B2)と、硬化剤(C)と、フィラー(D)とを含有し、未硬化状態での絶縁シートのガラス転移温度Tgが25℃以下であるので、絶縁シートの硬化物は、優れた難燃性を有し、しかも優れた放熱性、耐熱性、耐電圧性及び接着性を有する。第2の発明の絶縁シートの硬化物は、難燃性に優れているので、火災を予防し、安全性を高めるために特に有用である。
【0031】
本発明に係る積層構造体は、熱伝導率が10W/m・K以上の高熱伝導体の少なくとも片面に、絶縁層を介して導電層が積層されており、該絶縁層が、本発明に従って構成された絶縁シートを硬化させて形成されているので、導電層側からの熱が絶縁層を介して上記高熱伝導体に伝わり易く、該高熱伝導体によって熱を効率的に放散させることができる。さらに、本発明の積層構造体は、絶縁層が放熱性、耐熱性、耐電圧性及び接着性に優れているだけでなく、難燃性にも優れているので、高熱あるいは高電圧等に晒される用途にも用いられ得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本願発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、芳香族骨格を有し、かつ重量平均分子量が1万以上であるポリマー(A)と、芳香族骨格を有し、かつ重量平均分子量が600以下であるエポキシモノマー(B1)及び/又は芳香族骨格を有し、かつ重量平均分子量が600以下であるオキセタンモノマー(B2)と、硬化剤(C)と、フィラー(D)とを含む絶縁シートにおいて、骨格中にリン原子を有する化合物(E)をさらに含有させるか、もしくは上記ポリマー(A)として骨格中にリン原子を有するポリマー(A1)を用いることによって、絶縁シートの硬化物が優れた放熱性、耐熱性、耐電圧性及び接着性を有しつつ、しかも特に該硬化物に優れた難燃性を付与することができることを見出し、本発明を成すに至った。
【0033】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0034】
本発明の絶縁シートは、芳香族骨格を有し、かつ重量平均分子量が1万以上であるポリマー(A)と、芳香族骨格を有し、かつ重量平均分子量が600以下であるエポキシモノマー(B1)及び/又は芳香族骨格を有し、かつ重量平均分子量が600以下であるオキセタンモノマー(B2)と、硬化剤(C)と、フィラー(D)とを含有する。
【0035】
本発明に係る絶縁シートでは、上記(A)〜(D)成分に加えて、骨格中にリン原子を有する化合物(E)がさらに用いられるか、もしくは上記ポリマー(A)として、骨格中にリン原子を有し、芳香族骨格を有し、かつ重量平均分子量が1万以上であるポリマー(A1)が用いられる。
【0036】
すなわち、本発明は、絶縁シートの硬化物が優れた放熱性、耐熱性、耐電圧性及び接着性を有しつつ、しかも該硬化物に極めて優れた難燃性を付与することを課題としており、この課題を達成するために、上記(A)〜(D)成分を含むという組成系において、リン原子を、上記(A)〜(D)成分以外の成分(E)として、あるいは上記(A)成分として含有されているという技術的特徴を有する。
【0037】
(ポリマー(A))
本発明に係る絶縁シートに含まれる上記ポリマー(A)は、芳香族骨格をポリマー全体の中に有していればよく、主鎖骨格内に含んでいてもよく、側鎖中に含んでいてもよい。耐熱性が高められるので、ポリマー(A)は、芳香族骨格を主鎖骨格内に有することが好ましい。
【0038】
上記芳香族骨格としては特に限定はされず、ナフタレン骨格、フルオレン骨格、ビフェニル骨格、アントラセン骨格、ピレン骨格、キサンテン骨格等が挙げられる。なかでも、耐熱性がより一層高められるので、ビフェニル骨格、フルオレン骨格が好ましい。
【0039】
上記ポリマー(A)としては特に限定はされず、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂等を用いることができる。上記熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン等の熱可塑性樹脂、熱可塑性ポリイミド、熱硬化性ポリイミド、ベンゾオキサジン、ポリベンゾオキサゾールとベンゾオキサジンとの反応物などといったスーパーエンプラと呼ばれている耐熱性樹脂群を使用することができる。これら熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂は、単独で用いられても良いし、2種類以上が併用されても良い。また、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂は、それぞれ単独で用いられても良いし、両者が併用されても良い。
【0040】
上記ポリマー(A)の中では、酸化劣化を防止でき、耐熱性がより一層高められるのでフェノキシ樹脂がより好ましい。上記フェノキシ樹脂(A)とは、具体的には、例えばエピハロヒドリンと2価フェノール化合物とを反応させて得られる樹脂、または2価のエポキシ化合物と2価のフェノール化合物とを反応させて得られる樹脂のことである。
【0041】
上記フェノキシ樹脂(A)としては、ナフタレン骨格、フルオレン骨格、ビフェニル骨格、アントラセン骨格、ピレン骨格、キサンテン骨格、アダマンタン骨格及びジシクロペンタジエン骨格からなる群から選択された少なくとも1つの骨格を有するフェノキシ樹脂が好ましい。中でも、耐熱性がより一層高められるので、フルオレン骨格及び/又はビフェニル骨格を有するフェノキシ樹脂が好ましい。
【0042】
上記フェノキシ樹脂は、主鎖中に多環式芳香族骨格を有することが好ましい。また、上記フェノキシ樹脂は、主鎖中に、下記式(4)〜(9)で表される骨格のうち、少なくとも1つの骨格を有することがより好ましい。
【0043】
【化7】

【0044】
上記式(4)中、Rは互いに同一であっても異なっていてもよく水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基又はハロゲン元素から選ばれる基であり、Xは単結合、炭素数1〜7の2価の炭化水素基、−O−、−S−、−SO−、又は−CO−から選ばれる基である。
【0045】
【化8】

【0046】
上記式(5)中、R1aは互いに同一であっても異なっていてもよく水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基又はハロゲン元素から選ばれる基であり、Rは、水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基又はハロゲン元素から選ばれる基であり、Rは、水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基であり、mは0〜5の整数である。
【0047】
【化9】

【0048】
上記式(6)中、R1bは互いに同一であっても異なっていてもよく水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基又はハロゲン元素から選ばれる基であり、Rは互いに同一であっても異なっていてもよく水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基又はハロゲン元素から選ばれる基であり、lは0〜4の整数である。
【0049】
【化10】

【0050】
【化11】

【0051】
上記式(8)中、R、Rは水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、ハロゲン原子から選ばれるものであり、Xは−SO−、−CH−、−C(CH−、または−O−のいずれかであり、kは0または1の値である。
【0052】
【化12】

【0053】
上記ポリマー(A)としては、例えば、下記式(10)または下記式(11)で表されるフェノキシ樹脂を好適に用いることができる。
【0054】
【化13】

【0055】
上記式(10)中、Aは上記式(4)〜(6)のいずれかで表される構造を有し、かつその構成は上記式(4)で表される構造が0〜60モル%、上記式(5)で表される構造が5〜95モル%、及び上記式(6)で表される構造が5〜95モル%であり、Aは水素原子、または上記式(7)で表される基であり、nは平均値で25〜500の数である。
【0056】
【化14】

【0057】
上記式(11)中、Aは上記式(8)または上記式(9)で表される構造を有し、nは少なくとも21以上の値である。
【0058】
本発明に係る絶縁シートは、骨格中にリン原子を有する成分を必須成分として含むが、ポリマー(A)がリン原子を有する成分であってもよい。この場合、本発明に係る絶縁シートは、骨格中にリン原子を有し、芳香族骨格を有し、かつ重量平均分子量が1万以上であるポリマー(A1)を含む。ポリマー(A1)は、骨格の少なくとも一部にリン原子を含む。
【0059】
上記ポリマー(A1)としては特に限定されず、リン原子を含有するモノマー単位のみからなるポリマーでもよく、該リン原子を含有するモノマー単位と他のモノマー単位との共重合体であってもよい。
【0060】
上記ポリマー(A1)としては特に限定されないが、例えば、特許第3268498号公報に記載されている、ビスフェノール型ジグリシジエルエーテルにリン含有1,4−ヒドロキノン系化合物をエポキシ基1モルに対して、0.05〜0.45モル反応させて得られたフェノキシ樹脂等が挙げられる。
【0061】
上記ポリマー(A)もしくは上記ポリマー(A1)は、単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0062】
上記ポリマー(A)もしくはポリマー(A1)のガラス転移温度Tgは、60〜200℃の範囲にあることが好ましい。より好ましくは、90〜180℃の範囲である。Tgが低すぎると、樹脂が熱劣化することがあり、高すぎると、他の樹脂との相溶性が悪くなり、耐熱性が低下することがある。
【0063】
上記ポリマー(A)もしくはポリマー(A1)がフェノキシ樹脂である場合、該フェノキシ樹脂のガラス転移温度Tgは、95℃以上であることが好ましい。より好ましくは110〜200℃の範囲、さらに好ましくは110〜180℃の範囲である。Tgが低すぎると、樹脂が熱劣化することがあり、高すぎると、他の樹脂との相溶性が悪くなり、耐熱性が低下することがある。
【0064】
上記ポリマー(A)もしくはポリマー(A1)の重量平均分子量は1万以上である。重量平均分子量の下限は、好ましくは3万、より好ましくは4万である。重量平均分子量が1万未満であると、絶縁シートの耐熱性が低下する傾向にある。重量平均分子量の上限は、特に限定されるものではないが、大きすぎると、他の樹脂との相溶性が悪くなり、耐熱性が低下する場合があることから、好ましくは100万、より好ましくは25万である。
【0065】
上記ポリマー(A)もしくは上記ポリマー(A1)の配合量としては、絶縁シートに含まれている全樹脂成分の合計100重量部に対して、10〜60重量部の範囲が好ましく、より好ましくは、20〜50重量部の範囲である。ポリマー(A)もしくはポリマー(A1)が少なすぎると、絶縁シートのハンドリング性が低下することがあり、多すぎると、フィラー(D)の分散が困難になることがある。なお、全樹脂成分とは、ポリマー(A)もしくはポリマー(A1)、エポキシモノマー(B1)、オキセタンモノマー(B2)、硬化剤(C)及び必要に応じて添加される他の樹脂構成成分の総和をいうものとする。
【0066】
なお、ポリマー(A)として、上記ポリマー(A1)と、該ポリマー(A1)以外の芳香族骨格を有し、かつ重量平均分子量が1万以上であるポリマーとが、併存されていてもよい。
【0067】
また、絶縁シートが上記ポリマー(A1)を含む場合には、該ポリマー(A1)は、絶縁シート100重量%中に、3〜20重量%の範囲で含まれていることが好ましい。ポリマー(A1)が3重量%未満であると、難燃性が充分に高められないことがあり、20重量%を超えるとシートが固くなり、取扱時に割れや欠けが生じることがある。
【0068】
(エポキシモノマー(B1)及びオキセタンモノマー(B2))
本発明に係る絶縁シートは、芳香族骨格を有し、かつ重量平均分子量が600以下のエポキシモノマー(B1)、及び/又は芳香族骨格を有し、かつ重量平均分子量は600以下オキセタンモノマー(B2)を含む。絶縁シートは、エポキシモノマー(B1)とオキセタンモノマー(B2)とのいずれか一方のみを含んでいてもよいし、両者を含んでいてもよい。
【0069】
上記エポキシモノマー(B1)としては特に限定はされないが、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型のビスフェノール骨格を有するエポキシモノマー;ジシクロペンタジエンジオキシド、ジシクロペンタジエン骨格を有するフェノールノボラックエポキシモノマーなどのジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシモノマー;1−グリシジルナフタレン、2−グリシジルナフタレン、1,2−ジグリシジルナフタレン、1,5−ジグリシジルナフタレン、1,6−ジグリシジルナフタレン、1,7−ジグリシジルナフタレン、2,7−ジグリシジルナフタレン、トリグリシジルナフタレン、1,2,5,6−テトラグリシジルナフタレン等のナフタレン骨格を有するエポキシモノマー;1,3−ビス(4−グリシジルオキシフェニル)アダマンテン、2,2−ビス(4−グリシジルオキシフェニル)アダマンテン等のアダマンテン骨格を有するエポキシモノマー;9,9−ビス(4−グリシジルオキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−グリシジルオキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−グリシジルオキシ−3−クロロフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−グリシジルオキシ−3−ブロモフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−グリシジルオキシ−3−フルオロフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−グリシジルオキシ−3−メトキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−グリシジルオキシ−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−グリシジルオキシ−3,5−ジクロロフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−グリシジルオキシ−3,5−ジブロモフェニル)フルオレン等のフルオレン骨格を有するエポキシモノマー、4,4’−ジグリシジルビフェニル、4,4’−ジグリシジル−3,3’,5,5’−テトラメチルビフェニル等のビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂;1,1’−バイ(2,7−グリシジルオキシナフチル)メタン、1,8’−バイ(2,7−グリシジルオキシナフチル)メタン、1,1’−バイ(3,7−グリシジルオキシナフチル)メタン、1,8’−バイ(3,7−グリシジルオキシナフチル)メタン、1,1’−バイ(3,5−グリシジルオキシナフチル)メタン、1,8’−バイ(3,5−グリシジルオキシナフチル)メタン、1,2’−バイ(2,7−グリシジルオキシナフチル)メタン、1,2’−バイ(3,7−グリシジルオキシナフチル)メタン、1,2’−バイ(3,5−グリシジルオキシナフチル)メタン等のバイ(グリシジルオキシフェニル)メタン骨格を有するエポキシモノマー;1,3,4,5,6,8−ヘキサメチル−2,7−ビス−オキシラニルメトキシ−9−フェニル−9H−キサンテン等のキサンテン骨格を有するエポキシモノマー;アントラセン骨格やピレン骨格を有するエポキシモノマー等が挙げられる。これらのエポキシモノマー(B1)は、1種のみが用いられても良いし、2種以上が併用されても良い。
【0070】
上記オキセタンモノマー(B2)としては、特に限定はされないが、例えば、4,4’−ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシメチル]ビフェニル、1,4−ベンゼンジカルボン酸ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)メチル]エステル、1,4−ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシメチル]ベンゼン、オキセタン化フェノールノボラック等が挙げられる。これらのオキセタンモノマー(B2)は、1種のみが用いられても良いし、2種以上が併用されても良い。
【0071】
上記エポキシモノマー(B1)及び/又はオキセタンモノマー(B2)の重量平均分子量は、600以下である。エポキシモノマー(B1)及び/又はオキセタンモノマー(B2)の重量平均分子量の好ましい下限は200、好ましい上限は550である。重量平均分子量が小さすぎると、揮発性が高すぎて絶縁シートの取扱い性が低下することがあり、大きすぎると、絶縁シートが固くかつ脆くなったり、接着力が低下することがある。
【0072】
上記エポキシモノマー(B1)及び/又はオキセタンモノマー(B2)の総配合量としては、絶縁シートに含まれている全樹脂成分の合計100重量部に対して、10〜60重量部の範囲が好ましく、より好ましくは、10〜40重量部の範囲である。エポキシモノマー(B1)及び/又はオキセタンモノマー(B2)が少なすぎると、接着性や耐熱性が低下することがあり、多すぎると、絶縁シートの柔軟性が低下することがある。
【0073】
(硬化剤(C))
本発明に係る絶縁シートに含まれる上記硬化剤(C)としては、特に限定されないが、フェノール系硬化剤、酸無水物系硬化剤、アミン系硬化剤等の加熱硬化型硬化剤、あるいはジシアンジアミド等の潜在性硬化剤等が挙げられる。なかでも耐熱性、耐湿性及び電気物性のバランスに優れる絶縁シートの硬化物が得られるので、フェノール樹脂、もしくは酸無水物、その水添加物又はその変性物が好ましく、フェノール樹脂、もしくは芳香族骨格または脂環式骨格を有する酸無水物、その水添加物又はその変性物がより好ましい。硬化剤(C)は、単独で用いられても良いし、2種以上が併用されても良い。
【0074】
上記フェノール樹脂としては、特に限定されないが、フェノールノボラック、o−クレゾールノボラック、p−クレゾールノボラック、t−ブチルフェノールノボラック、ジシクロペンタジエンクレゾール、ポリパラビニルフェノール、ビスフェノールA型ノボラック、キシリレン変性ノボラック、デカリン変性ノボラック、ポリ(ジ−o−ヒドロキシフェニル)メタン、ポリ(ジ−m−ヒドロキシフェニル)メタン、ポリ(ジ−p−ヒドロキシフェニル)メタンが挙げられる。なかでも、シート柔軟性や難燃性がより一層高められるので、メラミン骨格を有するフェノール樹脂、トリアジン骨格を有するフェノール樹脂、またはアリル基を有するフェノール樹脂が好ましい。
【0075】
上記フェノール樹脂の市販品としては、明和化成社製のMEH−8005、MEH−8010、NEH−8015;ジャパンエポキシレジン社製のYLH903;大日本インキ社製のLA―7052、LA−7054、LA−7751、LA−1356、LA−3018−50P;群栄化学社製のPS6313及びPS6492等が挙げられる。
【0076】
上記酸無水物としては特に限定されないが、例えば、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルナジック酸無水物、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸などの酸無水物系硬化剤が挙げられる。
【0077】
また、芳香族骨格を有する酸無水物、その水添加物又はその変性物としては、特に限定されないが、例えば、スチレン/無水マレイン酸コポリマー、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、ピロメリット酸無水物、トリメリット酸無水物、4,4’−オキシジフタル酸無水物、フェニルエチニルフタル酸無水物、グリセロールビス(アンヒドロトリメリテート)モノアセテート、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。なかでも、耐水性が高められるので、メチルナジック酸無水物やトリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸が好ましい。
【0078】
上記芳香族骨格を有する酸無水物、その水添加物又はその変性物の市販品としては、サートマー・ジャパン社製のSMAレジンEF30、SMAレジンEF40、SMAレジンEF60、SMAレジンEF80;マナック社製のODPA−M、PEPA;新日本理化社製のリカジットMTA―10、リカジットMTA−15、リカジットTMTA、リカジットTMEG−100、リカジットTMEG−200、リカジットTMEG−300、リカジットTMEG−500、リカジットTMEG−S、リカジットTH、リカジットHT−1A、リカジットHH、リカジットMH−700、リカジットMT−500、リカジットDSDA、リカジットTDA−100;大日本インキ化学社製のEPICLON B4400、EPICLON B650、EPICLON B570等が挙げられる。
【0079】
また、脂環式骨格を有する酸無水物、その水添加物又はその変性物としては、メチルナジック酸無水物、テルペン系化合物と無水マレイン酸の付加反応物及び、その水添加物又はその変性物、ジシクロペンタジエン骨格を有する酸無水物又はその変性物等が挙げられる。
【0080】
上記脂環式骨格を有する酸無水物、その水添加物又はその変性物の市販品としては、新日本理化社製のリカジットHNA、リカジットHNA−100;ジャパンエポキシレジン社製のエピキュアYH306、エピキュアYH307、エピキュアYH308H、エピキュアYH309等が挙げられる。
【0081】
上記硬化剤(C)としては、シートの柔軟性、耐湿性、接着性などがより一層高められるので、多脂環式骨格を有する酸無水物、その水添加物又はその変性物、もしくはテルペン系化合物と無水マレイン酸との付加反応により得られた脂環式骨格を有する酸無水物、その水添加物又はその変性物が好ましい。
【0082】
また、上記硬化剤(C)としては、シートの柔軟性、耐湿性、接着性などがより一層高められるので、下記式(1)〜(3)のいずれかで表される酸無水物がより好ましい。
【0083】
【化15】

【0084】
【化16】

【0085】
【化17】

【0086】
上記式(3)中、R1及びR2はそれぞれ独立に、水素、炭素数1〜5のアルキル基、又は水酸基を示す。
【0087】
硬化速度や硬化物の物性などを調整するために、上記硬化剤とともに、硬化促進剤を併用しても良い。
【0088】
上記硬化促進剤としては特に限定されないが、例えば、3級アミン、イミダゾール類、イミダゾリン類、トリアジン類、有機リン系化合物、4級ホスホニウム塩類、有機酸塩等のジアザビシクロアルケン類;オクチル酸亜鉛、オクチル酸錫やアルミニウムアセチルアセトン錯体等の有機金属化合物類;4級アンモニウム塩類;金属ハロゲン化物が挙げられる。
【0089】
上記硬化促進剤としては、さらに高融点イミダゾール化合物、ジシアンジアミド又はアミンをエポキシモノマー等に付加したアミン付加型促進剤等の高融点分散型潜在性促進剤、イミダゾール系、リン系又はホスフィン系の促進剤の表面をポリマーで被覆したマイクロカプセル型潜在性促進剤、アミン塩型潜在性硬化促進剤、ルイス酸塩、ブレンステッド酸塩等の高温解離型で熱カチオン重合型の潜在性硬化促進剤等に代表される潜在性硬化促進剤を使用することもできる。なかでも、硬化速度や硬化物の物性などの調整をするための反応系の制御をしやすいことから、高融点イミダゾール系硬化促進剤が好適に用いられる。これらの硬化促進剤は、単独で用いられても良いし、2種類以上が併用されても良い。取扱性に優れているので、硬化促進剤の融点は100℃以上が好ましい。
【0090】
(フィラー(D))
本発明に係る絶縁シートがフィラー(D)を含むことによって、放熱性が高められる。
【0091】
上記フィラー(D)としては特に限定されないが、放熱性がより一層高められるので、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸化亜鉛及び酸化マグネシウムからなる群から選択された少なくとも1種が好ましい。なかでも、絶縁シート中への高充填が可能であり、それにより硬化物の放熱性がさらに一層高められるので、球状アルミナ及び/又は球状窒化アルミニウムがより好ましい。
【0092】
上記フィラー(D)の平均粒子径は、0.1〜40μmの範囲が好ましい。平均粒子径が0.1μm未満であると、高充填が困難なことがあり、40μmを超えると、絶縁破壊電圧が低下することがある。
【0093】
上記フィラー(D)の配合割合としては、絶縁シート100体積%中に、50〜90体積%の範囲が好ましい。フィラー(D)が50体積%未満であると、放熱性が充分に高められないことがあり、90体積%を超えると、絶縁シートの柔軟性や接着性が著しく低下するおそれがある。
【0094】
(化合物(E))
本発明に係る絶縁シートは、骨格中にリン原子を有する成分を必須成分として含む。骨格中にリン原子を有する成分は、前述のように、ポリマー(A)として含有されていてもよい。すなわち、ポリマー(A)は、骨格中にリン原子を有し、芳香族骨格を有し、かつ重量平均分子量が1万以上であるポリマー(A1)であってもよい。
【0095】
また、骨格中にリン原子を有する成分は、上記(A)〜(D)成分以外の成分として含有されていてもよい。この場合における骨格中にリン原子を有する成分としての化合物を、本明細書においては、「骨格中にリン原子を有する化合物(E)」と記載する。
【0096】
上記骨格中にリン原子を有する化合物(E)としては特に限定されないが、耐熱性や絶縁破壊電圧の低下が少ないので、有機リン酸化合物(E1)が好ましい。このような化合物としては、例えば、特開2003−238580号公報に記載の芳香族リン酸エステルアミド化合物等を用いることができる。
【0097】
また、絶縁シートが上記化合物(E)を含む場合には、該化合物(E)は、絶縁シート100重量%中に、1〜20重量%の範囲で含まれていることが好ましい。化合物(E)が1重量%未満であると、難燃性が充分に高められないことがあり、20重量%を超えると、絶縁破壊電圧や耐熱性が低下することがある。
【0098】
(ゴム粒子(F))
本発明に係る絶縁シートは、ゴム粒子(F)を含んでいてもよい。
【0099】
上記ゴム粒子(F)としては特に限定されないが、例えば、アクリルゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、スチレンイソプレンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、天然ゴム等を性状を問わず用いることができる。なかでも、応力緩和性、硬化後の絶縁シートの柔軟性が高められるので、シリコーンゴムが好ましい。
【0100】
上記ゴム粒子(F)と上記フィラー(D)とを併用することで、絶縁シートが低い線熱膨張率と同時に応力緩和能を有し、高温下や冷熱サイクル条件下での剥離やクラック等の発生をより一層抑制することができる。
【0101】
上記ゴム粒子(F)の配合割合としては、絶縁シート100重量%中、0.1〜40重量%の範囲が好ましく、より好ましくは0.3〜20重量%の範囲である。ゴム粒子(F)が少なすぎると、硬化物の応力緩和性が十分に発現しないことがあり、多すぎると、接着性が低くなることがある。
【0102】
(他の成分)
本発明に係る絶縁シートは、シート特性をより一層高めるために、ガラスクロス、ガラス不織布、アラミド不織布等の基材物質を含んでいてもよい。もっとも、それら基材物質を含まなくても、本発明の絶縁シートは室温(23℃)において自立性を有し、かつ優れたシート特性を有し得る。よって、絶縁シートは基材物質を含まないことが好ましく、特にガラスクロスを含まないことが好ましい。上記基材物質を含まない場合、絶縁シートの薄膜化が可能であり、かつ絶縁シートの熱伝導率がより一層高められ、さらに必要に応じて絶縁シートにレーザー加工、ドリル穴開け加工等の各種加工を容易に行うこともできる。
【0103】
また、本発明の絶縁シートは、必要に応じて、チキソ性付与剤、分散剤、難燃剤、着色剤などを含有していても良い。
【0104】
(絶縁シート)
本発明に係る絶縁シートは、特に限定はされないが、例えば、上述した材料を混合したものを溶剤キャスト法、押し出し成膜等の方法でシート状に成形することにより得ることができる。シート状に成形する際に、脱泡することが好ましい。
【0105】
本発明の絶縁シートの膜厚としては、10〜300μmの範囲が好ましい。より好ましくは、50〜200μmの範囲であり、特に好ましくは70〜120μmの範囲である。膜厚が薄すぎると、絶縁破壊電圧が急激に低下することがあり、厚すぎると、金属体を導電層に接着したときに放熱性が低下することがある。
【0106】
また、本発明に係る絶縁シートの未硬化状態でのガラス転移温度Tgは、25℃以下である。ガラス転移温度が25℃を超えると、室温において固く、かつ脆くなる場合があり、絶縁シートのハンドリング性が低下する原因となる。
【0107】
本発明に係る絶縁シートの難燃性をUL94規格の垂直燃焼試験で評価したときに、難燃性の等級がV−0であることが好ましい。なお、ULとは、Underwriter’s Laboratories Inc.の略称であり、ULはアメリカにおける最も権威ある安全試験及び製品検定証明機関である。また、UL94規格はANSI(アメリカ国家規格)として登録されている最も基本的な規格であり、このUL94規格の垂直燃焼試験における難燃性の等級は、難燃性が高いものから順に、V−0、V−1、V−2で表される。
【0108】
絶縁シートの硬化後の熱伝導率は、1.5W/m・K以上であることが好ましい。より好ましくは2.0W/m・K以上、更に好ましくは3.0W/m・K以上である。熱伝導率が低すぎると、充分な放熱性が得られないことがある。
【0109】
絶縁シートの硬化後の絶縁破壊電圧は、30kV/mm以上であることが好ましい。より好ましくは、40kV/mm以上、さらに好ましくは50kV/mm以上である。絶縁破壊電圧が低すぎると、例えば電力素子用のような大電流用途に用いた場合に充分な絶縁性が得られないことがある。
【0110】
絶縁シートの硬化後の体積抵抗率は、1014Ω・cm以上であることが好ましい。より好ましくは1016Ω・cm以上である。体積抵抗率が低すぎると、導体層と高熱伝導体間の絶縁を保てないことがある。
【0111】
絶縁シートの硬化後の熱線膨張率は、30ppm/℃以下であることが好ましい。より好ましくは、20ppm/℃以下である。熱線膨張率が高すぎると、耐冷熱サイクル性に劣ることがある。
【0112】
(積層構造体)
本発明に係る絶縁シートは、熱伝導率が10W/m・K以上の高熱伝導体を導電層に接着するのに用いられる。また、本発明に係る絶縁シートは、熱伝導率が10W/m・K以上の高熱伝導体の少なくとも片面に、絶縁層を介して導電層が積層されている積層構造体の絶縁層を構成するのに好適に用いられる。例えば、両面銅回路付き積層板または多層配線板、銅箔、銅板、半導体素子、半導体パッケージ等の各導電層に、絶縁シートを介して金属体を接着させた後、絶縁シートを硬化させることにより、上記積層構造体を得ることができる。
【0113】
図1に、本発明の一実施形態に係る積層構造体を模式的に部分切欠正面断面図で示す。
【0114】
図1に示す積層構造体1は、発熱源としての導電層2の表面2aに、絶縁層3を介して、高熱伝導体4が積層されている。絶縁層3は、本発明の絶縁シートを硬化させて形成されている。高熱伝導体4としては、熱伝導率が10W/m・K以上の高熱伝導体が用いられている。
【0115】
上記積層構造体1では、絶縁層3が高い熱伝導率を有するので、導電層2側からの熱が絶縁層3を介して上記高熱伝導体4に伝わり易い。そして、該高熱伝導体4によって熱を効率的に放散させることができる。
【0116】
上記熱伝導率が10W/m・K以上の高熱伝導体4としては特に限定されないが、例えば、アルミニウム、銅、アルミナ、ベリリア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミ、グラファイトシート等が挙げられる。中でも、放熱性に優れているので、銅、アルミニウムが好ましい。
【0117】
本発明に係る絶縁シートは、基板上に半導体素子が実装されている半導体装置の導電層に、熱伝導率が10W/m・K以上の高熱伝導体を接着するのに好適に用いられる。本発明に係る絶縁シートは、半導体素子以外の電子部品素子が基板上に搭載されている電子部品装置の導電層に、熱伝導率が10W/m・K以上の高熱伝導体を接着するのにも好適に用いられる。
【0118】
半導体素子が大電流用の電力用デバイス素子の場合には、より一層高い絶縁性、あるいはより一層高い耐熱性などが求められる。従って、このような用途において、本発明の絶縁シートはより好ましく用いられる。
【0119】
以下、本発明の具体的な実施例及び比較例を挙げることにより、本発明を明らかにする。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0120】
以下の材料を用意した。
【0121】
[ポリマー(A)]
(1)ビフェニル型フェノキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製、商品名:YX8100、Mw=37,000、Tg=155℃)
(2)ビスフェノールA型フェノキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製、商品名:E1256、Mw=51,000、Tg=98℃)
(3)高耐熱フェノキシ樹脂(東都化成社製、商品名:FX−293、Mw=43,700、Tg=163℃)
【0122】
[ポリマー(A1)]
(1)リン原子含有フェノキシ樹脂(東都化成社製、商品名:ERF−001、Mw=38,500、Tg=127℃)
【0123】
[ポリマー(A)以外の樹脂]
(1)エポキシ基含有アクリル樹脂(日本油脂社製、商品名:マープルーフG−0130S、Mw=9,000,Tg=69℃)
【0124】
[エポキシモノマー(B1)]
(1)ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン製、商品名:エピコート828US、Mw=370)
(2)ビスフェノールF型液状エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン製、商品名:エピコート806L、Mw=370)
(3)3官能グリシジルジアミン型液状エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製、商品名:エピコート630、Mw=300)
(4)フルオレン骨格エポキシ樹脂(大阪ガスケミカル社製、商品名:オンコートEX1011、Mw=486)
(5)ナフタレン骨格液状エポキシ樹脂(大日本インキ化学社製、商品名:EPICLON HP−4032D、Mw=304)
【0125】
[オキセタンモノマー(B2)]
(1)ベンゼン骨格オキセタン(宇部興産社製、商品名:エタナコールOXTP、Mw=362.4)
【0126】
[エポキシモノマー(B1)及びオキセタンモノマー(B2)以外のモノマー]
(1)ヘキサヒドロフタル酸骨格液状エポキシ樹脂(日本化薬社製、商品名:AK−601、Mw=284)
【0127】
[硬化剤(C)]
(1)脂環式骨格酸無水物(新日本理化社製、商品名:MH−700)
(2)芳香族骨格酸無水物(サートマー・ジャパン社製、商品名:SMAレジンEF60)
(3)多脂環式骨格酸無水物(新日本理化社製、商品名:HNA−100)
(4)テルペン骨格酸無水物(ジャパンエポキシレジン社製、商品名:エピキュアYH−306)
(5)ビフェニル骨格フェノール樹脂(明和化成社製、商品名:MEH−7851−S)
(6)アリル基含有骨格フェノール樹脂(ジャパンエポキシレジン社製、商品名:YLH−903)
(7)トリアジン骨格フェノール樹脂(大日本インキ化学社製、商品名:フェノライトKA−7052−L2)
(8)メラミン骨格フェノール樹脂(群栄化学工業社製、商品名:PS−6492)
【0128】
[硬化促進剤]
(1)イソシアヌル変性固体分散型イミダゾール(イミダゾール系硬化促進剤、四国化成社製、商品名:2MZA−PW)
【0129】
[フィラー(D)]
(1)表面疎水化ヒュームドシリカ(トクヤマ社製、商品名:MT−10、平均粒径15nm)
(2)球状アルミナ(デンカ社製、商品名:DAM−10、平均粒径10μm)
(3)窒化ホウ素(昭和電工社製、商品名:UHP−1、平均粒径8μm)
(4)窒化アルミ(東洋アルミ社製、商品名:TOYALNITE―FLX、平均粒径14μm)
【0130】
[骨格中にリン原子を有する化合物(E)]
(1)有機リン酸塩(クラリアントジャパン社製、商品名:OP−935)
(2)リン酸エステルアミド骨格を有する化合物(四国化成工業社製、商品名:SP−703)
【0131】
[ゴム粒子(F)]
(1)コアシェル型ゴム微粒子(三菱レーヨン社製、商品名:KW4426、メチルメタクリレートからなるシェルと、ブチルアクリレートからなるコアとを有するゴム微粒子、平均粒径5μm)
【0132】
[添加剤]
(1)エポキシシランカップリング剤(信越化学社製、商品名:KBE403)
【0133】
[溶剤]
(1)メチルエチルケトン
【0134】
(実施例1)
ホモディスパー型攪拌機を用い、下記の表1に示す割合(配合単位は重量部)で各化合物を配合・混練し、絶縁材料を調製した。
【0135】
上記絶縁材料を50μm離形PETシートに100μm厚に塗工し、90℃オーブンにて30分乾燥して、PETシート上に絶縁シートを作製した。
【0136】
(実施例2〜33及び比較例1〜4)
使用した各成分の種類及び配合量を下記の表1,2に示すようにしたこと以外は、実施例1と同様にして絶縁材料を調製し、PETシート上に絶縁シートを作製した。
【0137】
(実施例及び比較例の評価)
上記のようにして得られた各絶縁シートについて以下の項目を評価した。
【0138】
(1.ハンドリング性)
PETシートと、該PETシート上に形成された絶縁シートとを460mm×610mm角に切り出したテストサンプルを用意した。このテストサンプルにおいて、室温(23℃)でPETシートから未硬化状態の絶縁シートを剥離したときのハンドリング性を下記の基準で評価した。
【0139】
〇:絶縁シートの変形がなく、容易に剥離可能
△:絶縁シートを剥離できるが、シート伸びや破断が発生する
×:絶縁シートを剥離できない
【0140】
(2.ガラス転移温度)
セイコーインスツルメンツ社製、示差走査熱量測定装置「DSC220C」を用いて、3℃/分の昇温速度で未硬化状態の絶縁シートのガラス転移温度を測定した。
【0141】
(3.熱伝導率)
絶縁シートの熱伝導率を、京都電子工業社製熱伝導率計「迅速熱伝導率計QTM−500」を用いて測定した。
【0142】
(4.引き剥がし強さ)
絶縁シートを1mm厚のアルミ板と35μm厚の電解銅箔間に挟み、真空プレス機で4MPaの圧力を保持しながら120℃で1時間、更に200℃で1時間絶縁シートをプレス硬化し、金属ベース基板の銅張り積層板を形成した。得られた金属ベース基板の銅箔をエッチングして幅10mmの銅箔の帯を形成し、銅箔を基板に対して90℃の角度で50mm/分の引っ張り速度で剥離した際の引き剥がし強さを測定した。
【0143】
(5.絶縁破壊電圧)
絶縁シートを100mm×100mm角に切り出したものを120℃オーブンで1時間、更に200℃オーブンで1時間硬化し、テストサンプルを作製した。耐電圧試験器(MODEL7473、EXTECH Electronics社製)を用いて、1kV/秒の速度で電圧上昇して、テストサンプルの絶縁破壊電圧を測定した。
【0144】
(6.半田耐熱)
上記(4)引き剥がし強さの評価で作製した銅張り積層基板を50mm×60mmのサイズに切り出した。これを288℃の半田浴に銅箔側を下に向けて浮かべ、銅箔の膨れ・剥がれが発生するまでの時間を測定し以下の基準で判定した。
【0145】
〇:3分経過しても膨れ、剥離の発生なし
△:1分経過後、かつ3分経過する前に膨れ、剥離が発生
×:1分経過する前に膨れ、剥離が発生
【0146】
(7.難燃性)
絶縁シートを120℃オーブンで1時間、更に200℃オーブンで1時間硬化させた。得られた絶縁シートの硬化物を13cm×12.5cmの大きさに切り出し、試験片を得た。UL94規格に準拠して、垂直に保持した試験片の下端にガスバーナーの炎を10秒接炎させて、燃焼が止まったら更に10秒接炎させ、試験片の燃焼の程度を調べることより、UL94規格での難燃性評価を行った。なお、難燃性の等級は、難燃性が高いものから順に、V−0、V−1、V−2で表される。難燃性の等級がそれに満たないものは下記表1,2において「×」と表記した。
【0147】
結果を下記の表1,2に示す。
【0148】
【表1】

【0149】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0150】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る積層構造体を模式的に示す部分切欠正面断面図である。
【符号の説明】
【0151】
1…積層構造体
2…導電層
2a…表面
3…絶縁層
4…高熱伝導体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導率が10W/m・K以上の高熱伝導体を導電層に接着するのに用いられる絶縁シートであって、
芳香族骨格を有し、かつ重量平均分子量が1万以上であるポリマー(A)と、
芳香族骨格を有し、かつ重量平均分子量が600以下であるエポキシモノマー(B1)及び/又は芳香族骨格を有し、かつ重量平均分子量が600以下であるオキセタンモノマー(B2)と、
硬化剤(C)と、
フィラー(D)と、
骨格中にリン原子を有する化合物(E)とを含有し、
未硬化状態での前記絶縁シートのガラス転移温度Tgが25℃以下であることを特徴とする、絶縁シート。
【請求項2】
熱伝導率が10W/m・K以上の高熱伝導体を導電層に接着するのに用いられる絶縁シートであって、
骨格中にリン原子を有し、芳香族骨格を有し、かつ重量平均分子量が1万以上であるポリマー(A1)と、
芳香族骨格を有し、かつ重量平均分子量が600以下であるエポキシモノマー(B1)及び/又は芳香族骨格を有し、かつ重量平均分子量が600以下であるオキセタンモノマー(B2)と、
硬化剤(C)と、
フィラー(D)とを含有し、
未硬化状態での前記絶縁シートのガラス転移温度Tgが25℃以下であることを特徴とする、絶縁シート。
【請求項3】
前記骨格中にリン原子を有する化合物(E)が、有機リン酸化合物(E1)である、請求項1に記載の絶縁シート。
【請求項4】
前記ポリマー(A)又は前記ポリマー(A1)がフェノキシ樹脂である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の絶縁シート。
【請求項5】
前記フェノキシ樹脂のガラス転移温度Tgが95℃以上である、請求項4に記載の絶縁シート。
【請求項6】
前記硬化剤(C)が、メラミン骨格又はトリアジン骨格を有するフェノール樹脂、またはアリル基を有するフェノール樹脂である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の絶縁シート。
【請求項7】
前記硬化剤(C)が、多脂環式骨格を有する酸無水物、その水添加物又はその変性物、もしくはテルペン系化合物と無水マレイン酸との付加反応により得られた脂環式骨格を有する酸無水物、その水添加物又はその変性物である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の絶縁シート。
【請求項8】
前記硬化剤(C)が下記式(1)〜(3)のいずれかで表される酸無水物である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の絶縁シート。
【化1】

【化2】

【化3】

上記式(3)中、R1及びR2はそれぞれ独立に、水素、炭素数1〜5のアルキル基、又は水酸基を示す。
【請求項9】
前記フィラー(D)が、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸化亜鉛及び酸化マグネシウムからなる群から選択された少なくとも1種である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の絶縁シート。
【請求項10】
前記フィラー(D)が、球状アルミナ及び/又は球状窒化アルミニウムである、請求項1〜8のいずれか1項に記載の絶縁シート。
【請求項11】
UL94規格の垂直燃焼試験において、難燃性の等級がV−0である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の絶縁シート。
【請求項12】
熱伝導率が10W/m・K以上の高熱伝導体の少なくとも片面に、絶縁層を介して導電層が積層されており、該絶縁層が、請求項1〜11のいずれか1項に記載の絶縁シートを硬化させて形成されていることを特徴とする、積層構造体。
【請求項13】
前記高熱伝導体が金属であることを特徴とする、請求項12に記載の積層構造体。

【図1】
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【公開番号】特開2009−161578(P2009−161578A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−339271(P2007−339271)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】