説明

耐放射線性のための回路アーキテクチャ

【課題】総線量の電離放射線又はバイアス効果によって引き起こされるデバイス特性の変化は望ましくない。
【解決手段】総線量の電離放射線及び/又はバイアスによる劣化によって引き起こされる欠陥の影響を受けやすいデバイスの動作寿命を延ばすシステム及び方法が記載される。そのデバイスは少なくとも一度だけ複製され、1つのデバイスだけが正常に動作しているように、少なくとも1つのスイッチング機構を用いて、それらのデバイス間で反復して用いられる。第1のデバイスが正常に動作しているとき、他のデバイスはバイアスをかけられる。そのバイアス条件は、総線量の電離放射線又はバイアス効果に起因して生じるデバイス変化を、遅くするか、解消するか、又はさらには逆に変化させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包括的には回路アーキテクチャに関し、より詳細には、総線量の電離放射線及び/又はバイアスによる劣化によって引き起こされる機能喪失までの時間を延ばすための回路アーキテクチャに関する。
【背景技術】
【0002】
放射線はマイクロエレクトロニクスに有害な影響を及ぼすおそれがある。何年もの間、専門家たちは、種々の種類の放射線がマイクロエレクトロニクスに影響を及ぼす様々な様態を研究しており、これらの様々なタイプの放射線がマイクロエレクトロニクスに対して引き起こす可能性がある問題を解消するか、又は少なくとも緩和する方法を考案しようと試みてきた。電離放射線によって引き起こされる3つの主なタイプの効果は、ソフトエラー(別の言い方をすると、シングルイベント効果)、線量率効果及びトータルドーズ(total dose)効果である。他の非電離放射線効果も十分に立証されている。
【0003】
シングルイベント効果は、高エネルギーの粒子(宇宙線、陽子又は中性子)が集積回路内の特定のデバイスの状態を変化させ、それによって情報が失われるときに生じる。シングルイベント効果は典型的には、集積回路の特定の領域に局在する。
【0004】
線量率効果は、集積回路全体が大量の放射線、典型的にはX放射線又はγ線放射に曝露されることによって引き起こされる。線量率効果は典型的には、核爆発によって放射される放射線のような、短いバースト(ナノ秒〜ミリ秒)の高い強度の放射線に関連付けられる。そのように曝露されることによって、集積回路内に一時的な障害、及び場合によっては固定障害が生じるおそれがある。
【0005】
デバイスにおけるトータルドーズ効果は、放射線量が累積することによって引き起こされる集積回路の固定障害に関連付けられる。そのような故障は典型的には、電離放射線によって生成された正孔が、ゲート酸化物領域又はフィールド酸化物領域等の絶縁性SiO領域内に捕捉されることから生じる。その名前が暗示するように、トータルドーズ効果は集積回路の全曝露履歴に関連し、総線量が或るしきい値を超えるときに、回路障害が観測される。このようにトータルドーズ効果が累積的であることによって、このタイプの放射線効果は、それとは異なり、短期間の一時的な現象に関連付けられるシングルイベント効果及び線量率効果とは区別される。
【0006】
トータルドーズ効果は、しきい値電圧の変化、相互コンダクタンスの変化、飽和電流の変化等の、デバイス特性の変化を引き起こすことがある。金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)のしきい値電圧は通常、トランジスタの基板(ボディ)内に空乏領域が形成されるゲート電圧と定義される。n型MOSFET(NMOS)では、トランジスタの基板はp型シリコンから成り、それは電子に比べて、正に帯電した正孔を多く有する。ゲートに電圧が印加されるとき、電界によって、基板内の電子が、ゲートに最も近い基板の領域に集中するようになり、それによって、電子の濃度が正孔の濃度に等しくなり、空乏領域が形成される。
【0007】
ゲート電圧がしきい値電圧未満である場合には、トランジスタはオフにされ、理想的には、トランジスタのドレインからソースまで電流は流れない。ゲート電圧がしきい値電圧よりも高い場合には、トランジスタはオンにされ、ゲート付近の基板内に正孔よりも電子が多いことに起因して、チャネルが形成され、ドレインからソースに電流が流れることができる。しきい値電圧の変化は、トランジスタの動作特性に有害な変化を及ぼす可能性がある。
【0008】
負バイアス温度不安定性(NBTI)のようなバイアス効果も、しきい値電圧の変化を引き起こすことがある。NBTIは、高温において大きな負のバイアスでデバイスにストレスを与える結果として生じる。デバイスの動作条件によるが、NBTIによって引き起こされるしきい値電圧変化は典型的には、数ヶ月又は数年の時間にわたって生じる。NBTIは高性能又は高信頼性のデバイスの場合に最も大きな問題であり、アナログ/混合信号デバイスは、デジタルデバイスよりも影響を受けやすい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
総線量の電離放射線又はバイアス効果によって引き起こされるデバイス特性の変化は望ましくない。したがって、この問題を緩和する回路アーキテクチャを有することが有益であろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
総線量の電離放射線又はバイアスによる劣化によって引き起こされる欠陥の影響を受けやすいデバイスの動作寿命を延ばすシステム及び方法が記述される。そのシステムは、第1のデバイスと、第1のデバイスと実質的に同じ第2のデバイスと、正常な動作条件において動作するように、第1のデバイス及び第2のデバイスのうちの一方を反復して選択するスイッチング機構とを備える。一例では、第1のデバイス及び第2のデバイスはダイオードである。別の例では、第1のデバイス及び第2のデバイスはトランジスタである。
【0011】
スイッチング機構は、入力スイッチング回路と出力スイッチング回路とを含むことができる。入力スイッチング回路は、第1のデバイス及び第2のデバイスがどの入力を受信するかを決定することができる。出力スイッチング回路は、出力を与えるために第1のデバイス及び第2のデバイスのうちのいずれが選択されるかを決定することができる。スイッチング機構は、システムクロックに基づいて、第1のデバイスと第2のデバイスとを反復して切り替えることができる。
【0012】
正常な動作条件において動作するために選択されない第1のデバイス及び第2のデバイスのうちの一方は、放射線効果を最小限に抑えるように選択された入力を受信することができる。たとえば、正常な動作条件において動作するために選択されないデバイスへの入力は、正常な動作条件において動作するために選択されるデバイスへの入力の値よりも大きな値を有することができる。その入力は、電流又は電圧入力にすることができる。
【0013】
一例では、総線量の電離放射線又はバイアスによる劣化によって引き起こされる欠陥の影響を受けやすいデバイスの動作寿命を延ばすシステムは、第1のダイオードと、第2のダイオードと、第1のダイオードに与えるために第1の入力電流を選択する第1のスイッチング機構と、第2のダイオードに与えるために第2の入力電流を選択する第2のスイッチング機構とを備える。第1のスイッチング機構及び第2のスイッチング機構は、アナログマルチプレクサとすることができる。
【0014】
総線量の電離放射線又はバイアスによる劣化によって引き起こされる欠陥の影響を受けやすいデバイスの動作寿命を延ばす方法も記述される。その方法は、第1のデバイスを配設すること、第1のデバイスに実質的に同じ第2のデバイスを配設すること、並びに、正常な動作条件において動作するために第1のデバイス及び第2のデバイスのうちの一方に切り替えることを含む。
【0015】
また、その方法は、正常な動作条件において動作していないデバイスにバイアスをかけることも含むことができる。デバイスにバイアスをかけることは、正常な動作条件で動作していないデバイスに、正常な動作条件において動作しているデバイスに与えられる第2の入力とは異なる第1の入力を与えることを含むことができる。第1の入力及び第2の入力は、電流又は電圧入力にすることができる。
【0016】
第1のデバイス及び第2のデバイスのうちの一方に切り替えることは、第1のデバイス及び第2のデバイスへの入力を選択することを含むことができる。第1のデバイス及び第2のデバイスのうちの一方に切り替えることは、第1のデバイス及び第2のデバイスのうちのいずれが出力を与えるかを選択することも含むことができる。第1のデバイス及び第2のデバイスに与えるためのいずれかの入力を選択すること、及びデバイスのうちのいずれが出力を与えるかを選択することは、異なる時点において行うことができる。第1のデバイス及び第2のデバイスのうちの一方に切り替えることは、システムクロックを用いて、第1のデバイスと第2のデバイスとの間で切り替える時点を決定することによって行うことができる。
【0017】
これらの態様及び利点、並びに他の態様及び利点は、適切な場合には添付の図面を参照しながら、以下の詳細な説明を読むことによって、当業者には明らかになるであろう。さらに、この概要は一例にすぎず、特許請求されるような発明の範囲を限定することは意図していないことを理解されたい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
現時点で好ましい実施形態が、添付の図面との関連で以下に説明される。なお、様々な図面において、同様の参照番号は同様の構成要素を指している。
図1は、ダイオード100のブロック図である。ダイオード100は、バンドギャップ基準電圧回路に用いることができ、その回路では、ダイオード100を刺激するために一定の電流が用いられ、ダイオード100の両端の電圧が検知される。バンドギャップ基準電圧回路は、数多くのアナログ、デジタル及び混合信号集積回路において用いられる。発振器、位相同期ループ(PLL)及びダイナミックランダムアクセスメモリ(DRAM)のような回路は、安定した正確な基準電圧を基にする。ダイオード100を用いることができるバンドギャップ基準電圧回路のために数多くの異なる回路設計が存在する。
【0019】
ダイオード100は、総線量の電離放射線及び/又はバイアスによる劣化によって引き起こされる欠陥の影響を受けやすい1つのタイプの回路である。ダイオード100を用いるバンドギャップ基準電圧回路の目的は、不変の正確な基準電圧を与えることであるため、トータルドーズ効果又はバイアス効果によって引き起こされる任意の欠陥が、ダイオード100を含むシステムの動作に影響を及ぼすおそれがある。したがって、ダイオード100の動作へのこれらの影響を低減することが有益であろう。
【0020】
図2は、複数のダイオードから成る耐放射線システム200のブロック図である。複数のダイオードから成る耐放射線システム200は、2つの入力スイッチング機構202、204及び2つのダイオード206、208を含む。2つの入力電流が利用可能である。INORMALは、たとえばバンドギャップ回路内のダイオード206、208に正常にバイアスをかけることに関連付けられる入力電流である。IRADRESISTANTは、放射線がダイオード206、208に及ぼす影響を最小限に抑えるために選択される電流である。たとえば、IRADRESISTANTは、INORMALよりも大きくなるように選択することができる。
【0021】
図2は、入力スイッチ202、204への入力として2つの電流(NORMAL及びRADRESISTANT)を示す。それらの電流は、スイッチ202への入力の場合に「1」として、スイッチ204の場合に「2」として示される。このように指示するのは、スイッチ202、204への電流入力が同じ電流源、又は異なる電流源からもたらされることがあることを示すためである。異なる電流源が用いられる場合には、好ましくは、INORMAL1はINORMAL2と実質的に同じであり、IRADRESISTANT1はIRADRESISTANT2と実質的に同じである。
【0022】
第1の入力スイッチング機構202を用いて、第1のダイオード206への入力として、電流入力(INORMAL1、IRADRESISTANT1)のうちのいずれが与えられるかが決定される。同様に、第2の入力スイッチング機構204を用いて、第2のダイオード208への入力として、電流入力(INORMAL2、IRADRESISTANT2)のうちのいずれが与えられるかが決定される。スイッチング機構202、204として、出力として与えられる信号を選択及び/又は選択解除するために現在既知であるか、又は将来に設計される任意のタイプのスイッチング機構を用いることができる。たとえば、スイッチング機構202、204として、アナログマルチプレクサを用いることができる。
【0023】
動作時に、耐放射線ダイオードシステム200は、第1のダイオード206を用いることと、第2のダイオード208を用いることとの間で反復する。第1の期間において、第1のダイオード206が正常動作のためにイネーブルされる(すなわち、ダイオード206への入力としてINORMAL1が与えられる)とき、第1のダイオード206の動作は正常に機能する(すなわち、第1のダイオード206は図1に示されるように動作する)。加えて、第1のダイオード206が選択されるとき、第2のダイオード208は、総線量の電離放射線又はバイアスによる劣化の効果を低減するようにバイアスをかけられる。
【0024】
第1の期間中に、第2のダイオード208は、「放射線感度を低減したモード」にあると説明することができる。一般的に、半導体デバイスへの総線量の放射線の効果は、そのデバイスが受ける電圧バイアスの関数である。たとえば、ダイオード100のようなダイオードの場合、そのデバイスの中に小さな電流が流れるときに、放射線変化が最も大きくなることがあり、そのデバイスの中に大きな電流が流れるときに、最も小さくなることがある。そのような場合には、IRADRESISTANTはINORMALよりも大きいことが好ましい。たとえば、IRADRESISTANTは、INORMALよりも約10倍大きいことができる。第2のダイオード208が選択解除されているとき、スイッチ204は、ダイオード208にIRADRESISTANTを与え、ダイオード208を、放射線による損傷を最小限に抑える状態に保持する。
【0025】
第2の期間では、スイッチング機構202、204は、第2のダイオード208を選択し、第1のダイオード206を選択解除する。この期間中に、第2のダイオード208の動作は正常に機能し(すなわち、第2のダイオード208は図1に示されるように動作し)、第1のダイオード206は、総線量の電離放射線又はバイアスによる劣化の影響を低減するようにバイアスをかけられる。上記で説明されたように、この時点で、第1のダイオード206は、「放射線感度が低減されたモード」にあると見なすことができる。
【0026】
その上、複数のダイオードから成る耐放射線システム200は、特定の周波数又はレートで、第1のダイオード206を使用することと、第2のダイオード208を使用することとの間で反復する必要はない。その反復周波数は、規則的であっても、不規則であってもよい。しかしながら、ダイオード206、208を交互に選択するための反復周波数は、好都合には、システムクロックに基づくことができる。
【0027】
図3は、典型的なバンドギャップ基準電圧回路300の回路図である。この実施例では、バンドギャップ基準電圧回路300は、2つのダイオードD1、D2と、3つの抵抗器R1、R2、R3と、演算増幅器302とを備える。回路300の出力は、バンドギャップ電圧(VBG)であり、それは、様々な用途において基準電圧として用いることができる。
【0028】
バンドギャップ基準電圧回路300の動作原理は非常に簡単である。多くの場合に同じ電流において機能し、接合面積が異なる2つのダイオードD1とD2との間の電圧差は、抵抗器R3において絶対温度に比例する(PTAT)電流を生成するために用いられる。この電流は、抵抗器R2において電圧を生成するために用いられる。この電圧はさらに、ダイオードのうちの一方の電圧に加算される。定電流、又はここではPTAT電流において動作する、ダイオードの両端の電圧は、絶対温度に対して相補的であり(CTAT、温度が上昇すると共に減少し)、約−1.5mV/Kである。
【0029】
抵抗器R2とR3との間の比が適切に選択される場合には、ダイオードの温度依存性の一次効果とPTAT電流が相殺される。結果として生成される電圧は温度に依存しなくなり、0Kにおいてシリコンの理論的なバンドギャップに接近する。典型的な集積回路の動作温度にわたって残る電圧変化は、実質的に数ミリボルトである。この温度依存性は典型的には、放物線状の挙動を有する。
【0030】
図4は、一実施例による耐放射線バンドギャップ基準電圧回路400の回路図を示す。ダイオードD1が、2つのダイオード410、412及びアナログクロスバースイッチ414から成る回路網406で置き換えられている。同様に、ダイオードD2が、ダイオード416、418及びアナログクロスバースイッチ420を含む回路網408で置き換えられている。
【0031】
耐放射線バンドギャップ基準電圧回路400の動作は以下のとおりである。SEL信号がハイであるとき、アナログクロスバースイッチ414が、R1/R2からのバイアス電流をダイオード412の中に導き、アナログクロスバースイッチ420が、R3からのバイアス電流をダイオード418の中に導く。バンドギャップ電圧出力VBGは、図3と同様に生成される。しかしながら、ダイオード410及び416は異なるバイアス電流を受信する。
【0032】
たとえば、R4は、R1及びR2の抵抗の和の約10分の1の大きさにすることができ、それゆえ、ダイオード410は、ダイオード412の中に流れている電流の約10倍の電流を受信する。同様に、R5は、R3の抵抗の約10分の1の大きさにすることができ、それゆえ、ダイオード416は、ダイオード418の中に流れている電流の約10倍の電流を受信することができる。これらの異なるバイアス電流の結果として、これらのダイオードが受ける放射線による変化を低減することができる。周期的であっても不規則であってもよいが、或る間隔で、SEL信号の状態がハイからローに切り替えられる。これによって、耐放射線バンドギャップ基準電圧回路400は、ダイオード410及び416を用いて正常に動作し、一方、ダイオード412及び418は異なるバイアス電流を受け、それによって放射線による変化を低減することができる。
【0033】
図5は、図4に示される耐放射線バンドギャップ基準電圧回路400において用いることができる2:2アナログクロスバースイッチ500の回路図を示す。他のスイッチ設計を用いることもできる。スイッチ500は、4つのトランジスタMN1、MN2、MN3、MN4と、1つのインバータ502とを備える。トランジスタMN1、MN2、MN3、MN4はいずれかのトランジスタタイプには限定されない。
【0034】
2:2アナログクロスバースイッチ500の動作は以下のとおりである。SELがハイ状態にあるとき、トランジスタMN1及びMN4はオンであり、一方、トランジスタMN2及びMN3はオフである。したがって、IN1に流れ込む電流はOUT1に結合されることになり、IN2に流れ込む電流は、OUT2に結合されることになる。SELがロー状態にあるとき、トランジスタMN1及びMN4はオフであり、一方、トランジスタMN2及びMN3はオンである。したがって、IN1に流れ込む電流はOUT2に結合されることになり、IN2に流れ込む電流は、OUT1に結合されることになる。アナログクロスバースイッチのための他の実施形態が可能であることは理解されよう。
【0035】
そのようなバンドギャップ回路のさらなる実施形態は、当業者には明らかであろう。たとえば、図示される実施形態は、個々のダイオードに加えられる電流の選択、及び増幅器にいずれのダイオード電圧が与えられるかの選択の両方に、アナログクロスバーを用いる。増幅器によって見込まれる電圧は、スイッチを通じて降下した任意の電圧を含むであろう。代替的手法は、別個のマルチプレクサを用いて、増幅器にいずれのダイオード電圧が与えられるかを選択することであろう。さらに、別個の出力マルチプレクサが存在する場合には、そのスイッチング機構によって、放射線抵抗バイアスを受信するダイオード(複数可)に入力される電流が、出力がそのダイオードに切り替えられるよりも或る期間だけ前に、正常動作のために適した電流に切り替えられるようにすることができ、それによって、ダイオード電圧が安定するための時間が与えられる。数多くのそのような改良が可能である。
【0036】
本発明は、バンドギャップ基準電圧回路によって用いられるダイオードのような、ダイオードと共に説明されてきたが、同じようにして他のデバイスにも利益を与えることができることは理解されよう。たとえば、図6及び図7に示されるように、同じようにトランジスタにも利益を与えることができる。
【0037】
図6は、典型的な差動増幅器600の回路図である。差動増幅器600の動作は以下のとおりである。電流源Iが、トランジスタP1及びP2を通る電流の和が一定であることを保証する。P1のゲートがP2のゲートよりも低い電圧にあるとき、R1及びP1の中に流れる電流が多くなり、それによって、VS1がVS2よりも低くなる。逆の場合も同様である。差動増幅器600の重要な動作パラメータは入力オフセット電圧であり、それは主にP1とP2との間のしきい値電圧の差によって決定される。これらのしきい値電圧間の不一致を最小限に抑えるための設計技法が存在する。
【0038】
しかしながら、P1及びP2が最初に一致する場合であっても、差動増幅器600の寿命中に、P1及びP2が一致しなくなることがある。たとえば、差動増幅器600が電離放射線に曝露されることがある。P1及びP2のゲートが、この電離放射線中に異なる電圧に保持される場合には、それらのゲートが受けるしきい値の変化は異なることがある。同様に、それらのゲートが、長期間にわたって異なる電圧にある場合には、負バイアス温度不安定性(NBTI)に起因して、それらのゲートは、異なるデバイス劣化を受けることがある。
【0039】
差動増幅器600に関して説明されたこれらの問題を克服するために、図7に示される回路700を用いることができる。回路700の第1のコピーが図6に示されるP1及びR1の代わりに用いられ、回路700の第2のコピーが図6に示されるP2及びR2の代わりに用いられる。
【0040】
ダイオードの例の場合と同様に、選択信号(SEL)が、論理1と論理0との間で周期的に切り替えられる。選択信号が論理1にあるとき、VN(すなわち、図6に示されるV1又はV2)は、パスゲートT1を通じてP1Aに結合され、一方、P1Bのゲートは供給レールに駆動される。同様に、選択信号が論理0であるとき、VNは、パスゲートT2を通じてP1Bに接続され、P1Aのゲートは供給レールに駆動される。
【0041】
P1A及びP1Bのゲートが供給レールに駆動されている時間中に、放射線又はNBTI効果に起因してそれらのトランジスタが受けるしきい値変化は、低減されることがあり、さらには、それらのトランジスタは、そのような効果のアニーリング(annealing)を受けることもある。その上、たとえば、P1Aのゲートが電圧供給源に接続されている場合には、差動増幅器の他方の側にある類似のゲートも類似のバイアスを受けていることになり、放射線又はNBTIによる何らかの変化が生じる限り、P1Aと同じように変化することになることは理解されよう。
【0042】
トランジスタの利点を説明するために、差動増幅器が用いられたが、デバイスを複製し、それらのデバイス間で反復して用いることによって、他のトランジスタ回路設計も利益がもたらされることがあることは理解されたい。
【0043】
提供されているダイオード及びトランジスタの実施例は、デバイスを複製し、それらのデバイス間で反復して用いることによって、各デバイスの動作が劣化することになっても、酸化物中に正孔が蓄積するのを減らし、デバイス特性の変化に起因してデバイスが動作できなくなるのを遅らせることを示す。さらに、デバイスの2回以上の複製を実行して、複数のデバイス間で動作を反復することができる。加えて、デバイスが選択されないか、又は起動されないときに、そのデバイスにバイアスをかけることができる。そのバイアス条件は、総線量の電離放射線又はバイアス効果に起因して生じるデバイス変化を、遅くするか、解消するか、又はさらには逆に変化させることができる。結果として、そのデバイスを含むシステムは、予想される動作寿命を長くすることができる。
【0044】
図示される実施形態は例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものと見なされるべきでないことは理解されたい。その効果に関する記述がない限り、特許請求の範囲は、記述される順序又は構成要素に限定されるものと解釈されるべきではない。それゆえ、添付の特許請求の範囲及びその均等物の範囲及び精神の中に入る全ての実施形態が、本発明として特許請求される。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】一実施例による、バンドギャップ基準電圧回路において用いられるダイオードのような、ダイオードのブロック図である。
【図2】一実施例による、複数のダイオードから成る耐放射線システムのブロック図である。
【図3】一実施例による、バンドギャップ基準回路の回路図である。
【図4】一実施例による、耐放射線バンドギャップ基準回路を形成するために用いることができる回路を示す図である。
【図5】一実施例による、図4に示される回路において用いられる2:2アナログクロスバースイッチの回路図である。
【図6】一例による、差動増幅器の回路図である。
【図7】一例による、耐放射線差動増幅器を形成するために用いることができる回路の回路図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
総線量の電離放射線又はバイアスによる劣化によって引き起こされる欠陥の影響を受けやすいデバイスの動作寿命を延ばすシステムであって、
第1のデバイスと、
前記第1のデバイスと実質的に同じ第2のデバイスと、
正常な動作条件において動作するように、前記第1のデバイス及び前記第2のデバイスのうちの一方を選択することを反復するスイッチング機構とを組み合わせて備える、システム。
【請求項2】
前記スイッチング機構は、入力スイッチング回路と出力スイッチング回路とを備え、前記入力スイッチング回路は、前記第1のデバイス及び前記第2のデバイスがどの入力を受信するかを決定し、前記出力スイッチング回路は、出力を与えるために、前記第1のデバイス及び前記第2のデバイスのいずれが選択されるかを決定する、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記正常な動作条件において動作するために選択されない前記第1のデバイス及び前記第2のデバイスのうちの一方は、放射線効果を最小限に抑えるように選択された入力を受信し、前記正常な動作条件において動作するために選択されない前記デバイスへの入力は、前記正常な動作条件において動作するために選択された前記デバイスへの入力の値とは異なる値を有する、請求項1に記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−110516(P2009−110516A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−273218(P2008−273218)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(500575824)ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド (1,504)
【Fターム(参考)】