説明

肢体支持面材

【課題】美観や触感、風合いがよく、仕立縫製適性を具備し、機能性や耐久性の点でも優れた弾性肢体支持面材を得る。
【解決手段】破断伸度が60%以上であり、15%伸長後の弾性回復率が90%以上の弾性糸条21が適用されており、その弾性糸条21が長く延在する延在方向におけるヒステリシスロス率(ΔE)が20〜45%の弾性布帛12に、その弾性糸条21の延在方向における10%伸長時の弾性布帛12の伸長応力AL ・Ac よりも伸長応力BL ・Bc の少ない品質補完層11を積層し、弾性糸条21の延在方向における10%伸長時の応力が50〜300(N/5cm)であり、その延在方向におけるヒステリシスロス率(ΔE)が20〜45%の弾性肢体支持面材10を調製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベンチ、ソファー、座席、椅子、座椅子、肘掛け、枕、オットマン等の肢体支持品の向き合うフレームとフレームの間に張設して肢体を弾性的に支持するために使用される肢体支持面材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
破断伸度が60%以上であり、15%伸長後の弾性回復率が90%以上の弾性糸条が適用されており、その弾性糸条が長く延在する延在方向における布帛の10%伸長時の応力が150〜600(N/5cm)であり、その延在方向におけるヒステリシスロス率(ΔE)が20〜45%の弾性布帛は、それに肢体を載せるとき、圧縮歪の不足に起因して痛みを伴う硬さを感じさせず、又、圧縮歪の過剰に起因して肢体が不安定になって疲れを感じさせることもなく、体重が作用する厚み方向における圧縮歪と、その圧縮歪に応じて生じる圧縮弾性回復力とのバランスがとれて程良い弾力性を感じさせるものとして肢体支持面材に使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ポリウレタンエラストマーを基布に含浸させて構成される人工皮革に弾性を付与するために、その基布に弾性繊維を併用することは知られている(例えば、特許文献2、3、4、5参照)。
【0004】
【特許文献1】WO2004−015181(特許第3928178号)
【特許文献2】特開平05−093372号公報(特許第3034120号)
【特許文献3】特開平05−186972号公報
【特許文献4】特開平07−197383号公報
【特許文献5】特開平10−060782号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
肢体支持面材に使用の従来の弾性布帛(例えば、特許文献1参照)は、その主材とする弾性糸条の単繊維繊度が300dtex以上であって通常の釣糸以上に太く、隣り合う糸条と糸条に囲まれる布目も粗くなるので、弾性布帛を肢体支持品のフレーム間に張設する際に、弾性布帛の経糸や緯糸の長さ方向、コース方向やウェール方向に沿った布目ラインと肢体支持品のフレームの輪郭ラインの間に不揃いが生じたり、縫合する弾性布帛相互間の布目ラインの間に不揃いが生じるときは、その布目ラインの不揃いが目立ち、出来上がった肢体支持品の美観が損なわれる。
そのため、弾性布帛の仕立縫製過程では布目ラインの間に不揃いが生じないように細心の注意が払われるが、それがために仕立縫製効率が大きく損なわれる。
【0006】
又、肢体支持面材に使用の従来の弾性布帛は、その主材とする弾性糸条の単繊維繊度が300dtex以上であって通常の釣糸以上に太いので、肢体支持面材として使用する上で必要とされる品質特性を備えているが、美観や触感、風合い、或いは、消臭、抗菌、制電、調湿等の機能性、耐候、耐光、耐摩耗、耐炎等の耐久性、プリント印刷適性、染色性、ミシン縫合適性、超音波加工適性等の仕立縫製適性の面では、単繊維繊度が30dtexの繊維毛羽の突き出た防滑性糸条を併用する試みがなされているとしても、それには尚改善されるべき余地が多分にあるものと思われた。
【0007】
弾性繊維の併用された基布にポリウレタンエラストマーを含浸させて成る人工皮革(例えば、特許文献2、3、4、5参照)は、肢体支持面材に使用の弾性布帛(例えば、特許文献1参照)に比して、美観や触感、風合い、仕立縫製適性の面で優れている。
しかし、その主たる用途は衣類であり、それに使用される弾性繊維は、細く伸縮性に富むポリウレタン弾性繊維であり、ヒステリシスロス率が大きく、底打ち感を与えるので、肢体支持面材には不向きである。
因みに、衣料用人工皮革に使用されるポリウレタン弾性繊維の単繊維繊度は20dtex未満であり、その10%伸長時の伸長応力は0.015cN/dtex前後になっている(例えば、特許文献3、5参照)。
それに対し、肢体支持面材に使用されるポリエーテル系エステル弾性繊維の単繊維繊度は100dtex以上であり、その10%伸長時の伸長応力は0.27cN/dtex前後であり、ポリウレタン弾性繊維に比して剛直である(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
そこで本発明は、仕立縫製適性を具備し、ポリウレタン弾性繊維を使用した衣料用人工皮革と同様に美観や触感、風合いがよく、機能性や耐久性の点でも優れた弾性肢体支持面材を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、(1) 破断伸度が60%以上であり、15%伸長後の弾性回復率が90%以上であり、10%伸長時の伸長応力が0.1cN/dtex以上であり、単繊維繊度が100dtex以上の弾性糸条21と、単繊維繊度が10dtex以下の多数の繊維によって構成される多繊糸条31・32・33によって織編された弾性布帛12の表裏両面または片面に品質補完層11が積層された肢体支持面材10であり、
(2) 弾性糸条21が弾性布帛12の幅の一部または全幅若しくは長さの一部または全長にわたって長く延在しており、
(3) その弾性糸条21の延在方向における10%伸長時(伸度ρ=10%)の弾性布帛12の伸長応力AL が補完層11の伸長応力BL よりも大きく、
(4) その弾性糸条21の延在方向に直交する直交方向における10%伸長時(伸度ρ=10%)の弾性布帛の伸長応力Ac が補完層11の伸長応力Bc よりも大きく、
(5) その弾性糸条21の延在方向における肢体支持面材10の10%伸長時(伸度ρ=10%)の伸長応力Fが50≦F≦300(N/5cm)であり、
(6) 弾性糸条21の延在方向における肢体支持面材10の10%伸長時までの荷重伸度曲線図に示されるヒステリシスの加圧曲線(f0 )によって表される荷重伸度関係式(f0 (ρ))の積分値(V)と、そのヒステリシスの減圧曲線(f1 )によって表される荷重伸度関係式(f1 (ρ))の積分値(W)との差として表されるヒステリシスロス(C=V−W)の前記加圧曲線(f0 )によって表される荷重伸度関係式(f0 (ρ))の積分値(V)に占めるヒステリシスロス率(ΔE=100×C/V=100×(V−W)/V)が、20〜45%(20≦ΔE≦45)であることを第1の特徴とする。
【0010】
本発明の第2の特徴は、上記第1の特徴に加えて、補完層11が、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、ポリプロピレン樹脂、塩化ビニル樹脂の何れかのエラストマーによって構成されている点にある。
【0011】
本発明の第3の特徴は、上記第2の特徴に加えて、エラストマーが、離形シートから弾性布帛12に転写されたフィルム13である点にある。
【0012】
本発明の第4の特徴は、上記第2と第3の何れかの特徴に加えて、エラストマーが、弾性布帛に塗工された発泡ポリウレタンプライマー層14と、そのプライマー層14に離形シートから転写された発泡ポリウレタンフィルム層13との二層積層構造を形成している点にある。
【0013】
本発明の第5の特徴は、上記第1と第2と第3と第4の何れかの特徴に加えて、補完層11の表面に研磨処理が施されており、補完層11の表面に細かい凹凸がある点にある。
【0014】
本発明の第6の特徴は、上記第1と第2と第3と第4と第5の何れかの特徴に加えて、補完層11の表面にエンボスが施されて凹凸模様が描出されている点にある。
【0015】
本発明の第7の特徴は、上記第1と第2と第3と第4と第5と第6の何れかの特徴に加えて、補完層11が、消臭剤、抗菌剤、制電剤、調湿剤、難燃剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤の何れかの機能性薬剤を含有している点にある。
【0016】
本発明の第8の特徴は、上記第1の特徴に加えて、補完層11が、弾性布帛12に塗工された発泡ポリウレタンプライマー層14と、そのプライマー層14を介して貼り合わされた天然または人工皮革との二層積層構造を形成している点にある。
【0017】
本発明の第9の特徴は、上記第1と第2と第3と第4と第5と第6と第7と第8の何れかの特徴に加えて、弾性布帛12を構成している多繊糸条31・32が、単繊維繊度3dtex以下の細手繊維を含んでおり、弾性布帛12に起毛処理が施されて、細手繊維が弾性布帛12の表面に起毛層を形成している点にある。
【0018】
本発明の第10の特徴は、上記第1と第2と第3と第4と第5と第6と第7と第8の何れかの特徴に加えて、多繊糸条33にモール糸が使用されており、弾性布帛12の表面にモール糸(33)のパイル繊維30が突き出ている点にある。
【0019】
本発明の第11の特徴は、上記第1と第2と第3と第4と第5と第6と第7と第8と第9と第10の何れかの特徴に加えて、弾性糸条21の平均繊度(T)(dtex/本)と、その弾性糸条21が弾性布帛12の織編幅の一部または全幅若しくは長さの一部または全長にわたって長くなって延在する延在方向に直交する直交方向における一定間隔(L)(cm)において弾性布帛12に配置されている弾性糸条21の本数(M)を当該布帛の一定間隔(L)で除して示される当該弾性糸条21の配置密度(G=M/L)(本/cm)との積(T×G)として表される当該弾性糸条21の弾性布帛12に占める嵩密度(J=T×G)(dtex/cm)が17000dtex/cm以上(J=T×G≧17000)である点にある。
【発明の効果】
【0020】
本発明(第1の特徴)によると、弾性布帛12の表面の布目ラインが伸長応力BL が弱く伸縮し易い品質補完層11で被覆されているので、仕立縫製過程で縫合する弾性布帛12と弾性布帛12の布目ラインの間に不揃いが生じたり、弾性布帛12の布目ラインと肢体支持品のフレームの輪郭ラインとの間に不揃いが生じても、その布目ラインの不揃いによって肢体支持品の美観が損なわれることがなく、効率的に肢体支持面材10を仕立縫製することが出来る。
【0021】
前記特許文献1に記載されているように、破断伸度が60%以上であり、15%伸長後の弾性回復率が90%以上であり、10%伸長時の伸長応力が0.1cN/dtex以上であり、単繊維繊度が100dtex以上の弾性糸条と、単繊維繊度が10dtex以下の多数の繊維によって構成される多繊糸条によって織編された弾性布帛によって構成され、弾性糸条が弾性布帛の幅の一部または全幅若しくは長さの一部または全長にわたって長く延在しており、その弾性糸条の延在方向における肢体支持面材の10%伸長時(伸度ρ=10%)の伸長応力Fが150≦F≦600(N/5cm)であり、弾性糸条の延在方向におけるヒステリシスロス率(ΔE)が20〜45%の肢体支持面材は公知である。
【0022】
本発明(第1の特徴)では、その公知の肢体支持面材10の表面に、その弾性糸条21の延在方向における10%伸長時(伸度ρ=10%)の伸長応力BL が弾性布帛12の伸長応力AL よりも少なく、又、その弾性糸条21の延在方向に直交する直交方向における10%伸長時(伸度ρ=10%)の伸長応力Bc が弾性布帛12の伸長応力Ac よりも少ない補完層11を積層することにしたので、肢体支持面材10に要求されるヒステリシスロス率ΔEを20〜45%に維持しつつ、肢体支持面材10に商品として要求される美観や触感、風合い、仕立縫製適性、機能性や耐久性等の諸特性を補完層11を介して付与することが出来る。
即ち、補完層11の美観や触感、風合い、プリント印刷適性、染色性、ミシン縫合適性、超音波加工適性等は、そのまま肢体支持面材の特性となり、消臭剤、抗菌剤、制電剤、調湿剤、難燃剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤を補完層11に担持させるときは、それらの機能性薬剤に応じた特性が肢体支持面材10に付与される。
【0023】
そして、弾性布帛12において交絡している糸条間が補完層11を介して連結されるので、弾性布帛12が目粗(ポーラス)でも織目や編目において糸条間の目ズレがなく、弾性布帛12の織編組織構造が安定する。
【0024】
本発明(第2の特徴)によると、補完層11がウレタン樹脂、シリコン樹脂、ポリプロピレン樹脂、塩化ビニル樹脂等のエラストマーによって構成されているので、そのエラストマーに配合された消臭剤、抗菌剤、制電剤、調湿剤、難燃剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤等の機能性薬剤は脱落することがなく、又、補完層11の担持するそれらの機能性薬剤によって弾性糸条21や多繊糸条31・32の物性が損なわれることがない。
【0025】
本発明(第3の特徴)において、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、ポリプロピレン樹脂、塩化ビニル樹脂等のエラストマーを離形シートから弾性布帛に転写しており、エラストマーは弾性布帛12の表面に密着しているだけで弾性布帛内部に浸透しておらず、弾性布帛内部の織編組織構造がエラストマーによって固定されないフリーの状態にあり、而も、弾性糸条21の延在方向における10%伸長時のエラストマー(補完層11)の伸長応力BL を弾性布帛12の伸長応力AL よりも少なくし、且つ又、弾性糸条21の延在方向における10%伸長時のエラストマー(補完層)の伸長応力Bc が弾性布帛12の伸長応力Ac よりも少なくしているので、ヒステリシスロス率ΔEが20〜45%の公知の弾性布帛(例えば、特許文献1参照)の物性を損なうことなくそのまま使用して高品質の肢体支持面材10を得ることが出来る。
【0026】
本発明(第4の特徴)では、発泡ポリウレタンプライマー層14を塗工して弾性布帛12の表面を平坦に調製した上で発泡ポリウレタンフィルム層13を離形シートから転写する二層積層構造にしたので、補完層11の表面を平滑にすることが出来、その下層であるプライマー層14を発泡ポリウレタンとしたので、プライマー層14が深く浸透して弾性布帛12を硬くすることがなく、この点でも、ヒステリシスロス率ΔEが20〜45%の公知の弾性布帛の物性を損なうことなくそのまま使用して高品質の肢体支持面材10を得ることが出来る。
【0027】
ウレタン樹脂、シリコン樹脂、ポリプロピレン樹脂、塩化ビニル樹脂等のエラストマーによって形成された補完層11には、研磨処理やエンボス加工を施すことが出来る。
従って、本発明(第5・第6の特徴)によると、人工皮革調の肢体支持面材を得ることが出来る。
【0028】
本発明(第9・第10の特徴)によると、エラストマー(補完層11)を離形シートから弾性布帛12に転写する場合でも、その弾性布帛12の転写面が毛羽立っており、その毛羽立ったパイル繊維30が食い込むので、補完層11の剥離強度が高まる。
このパイル繊維30によるアンカリング効果は、補完層11として天然皮革や人工皮革を適用する場合(第8の特徴)も同様に生じる。
【0029】
弾性布帛12の交絡する糸条間が補完層11を介して連結されるので、弾性布帛12が目粗でも目ズレがなく、弾性布帛12の織編組織構造が安定している。
しかし、弾性糸条21の弾性布帛12に占める嵩密度を17000dtex/cm以上にすると、補完層11によらずして弾性布帛12の織編組織構造が安定化する。
即ち、弾性布帛12を構成している弾性糸条21は、それらが触れ合う程度に隣合って平行に並んでおり、1本1本の弾性糸条21が互いに独立して伸縮するのではなく、その隣合う1本に伸長応力が作用するときはそれが隣合う他の弾性糸条12にも伝播して伸縮する。
そのようにして、体重は、順次隣合う多数の弾性糸条へと分散し、限られた極く一部の弾性糸条だけが目ズレを起こすことはない。
本発明(第11の特徴)では、弾性糸条21の弾性布帛12に占める嵩密度を17000dtex/cm以上にして弾性布帛の織編組織構造を安定にしたので、補完層11を薄くし、弾性糸条21の延在方向における10%伸長時(伸度ρ=10%)の補完層11の伸長応力BL ・Bc を弾性布帛12の伸長応力AL ・Ac よりも十分に少なくすることが出来、補完層11の物性に左右されることなく、肢体支持面材のヒステリシスロス率(ΔE)を20〜45%に設定し易くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
10%伸長時のヒステリシスロス率ΔEは、(1) 肢体支持面材から切り取られた幅50mm×長さ250mmの試験片を、掴み代間隔が150mm、加重伸長速度が50mm/分、測定開始時の初期荷重が4.9Nに調整された荷重・伸度測定試験機にセットし、(2) 試験片が伸度10%に達するまで荷重を加えて予備伸長し、(3) 初期荷重に戻るまで除重してコンディショニングを行い、(4) その後試験片の伸度ρが10%に達するまで荷重を加えるとき、伸度表示座標軸と荷重表示座標軸との直交座標に描かれる加圧曲線(f0 )と、その加圧曲線(f0 )において試験片の伸度ρが10%に達した10%伸度荷重点を通って伸度表示座標軸に直交する直線と、その加圧曲線(f0 )の起点、即ち荷重・伸度0点を通る伸度表示座標軸に囲まれる部分の加圧履歴面積(V)と、試験片の伸度ρが10%に達した10%伸度荷重点(F10)から初期荷重に戻るまで除重するとき直交座標に描かれる減圧曲線(f1 )と、10%伸度荷重点を通って伸度表示座標軸に直交する直線と、伸度表示座標軸に囲まれる部分の減圧履歴面積(W)との差(V−W)として算出されるヒステリシスロス(C)を、加圧履歴面積(V)で除して算定される。
【0031】
弾性布帛12を織地とする場合、弾性糸条21は、経糸として製織方向即ち織地の長さ方向に真っ直ぐ延在するように織込むことも出来るが、好ましくは、経糸には多繊糸条即ち非弾性の通常の紡績糸やマルチフイラメント糸を用い、弾性糸条21は、緯糸として多繊糸条33(31・32)と交互に織込むとよく、その場合には、その緯糸として織込まれた弾性糸条21が、織地の織幅方向に真っ直ぐ延在することになり、織地の織幅方向が弾性糸条21の延在方向となる。
弾性糸条21を経糸として織込む場合は、織地の製織方向が弾性糸条21の延在方向となる。
【0032】
弾性布帛12を横編地とする場合は、多繊糸条31・32(33)によってベース編地を編成しつつ、弾性糸条21をニットループを形成することなくベース編地のコース間に挿入し、その挿入されたコースにおいて隣合うウェールのニットループとニットループの間を掬い縫いするように交互に潜り抜け、その交互に潜り抜けるニットループとニットループの間に挟まれて係止されるようにベース編地に弾性糸条を編み込む。
従って、弾性布帛12を横編地とする場合、横編地のコース方向である編幅方向が弾性糸条21の延在方向となる。
【0033】
弾性布帛12を経編地とする場合は、弾性糸条21をウェール方向である編成方向即ち経編地の長さ方向に真っ直ぐ延在するように編込むことも出来るが、好ましくは、緯糸挿入装置付きラッシェル経編機において弾性糸条21を緯糸としてベース経編地に挿入し、コース方向である経編地の全幅に亙って真っ直ぐ延在するように編込むか、又は、通常のラッシェル経編機において弾性糸条21を編成方向にジグザグに連続させ、そのジグザグに連続する弾性糸条21と弾性糸条21が編幅方向に隣合って断続的に延在するように編込む。
弾性糸条21を経編地の全幅に亙って真っ直ぐ延在するように編込む場合、弾性糸条21は、コース方向において隣合う地経糸の各ニットループのニードルループとシンカーループの間に挟まれて係止されることになる。
【0034】
弾性糸条を編成方向にジグザグに連続させて編幅方向に断続的に延在するように編込む場合、弾性糸条21は、挿入糸として地経糸と交互に配列され、コース方向に振り動かされてウェール間を往復し、コース方向において隣合う地経糸のニットループ間を連結するように編込まれ、各ニットループのニードルループとシンカーループの間に挟まれて係止され、そのウェール間において各弾性糸条が編幅方向に部分的に一直線状になって隣合い、その隣合う弾性糸条が編幅方向に断続的に延在することになる。
【0035】
経編地にモール糸30を適用する場合は、緯糸挿入装置付きラッシェル経編機を使用し、モール糸30を緯糸として弾性糸条21と交互にベース経編地に挿入して編込む。
弾性布帛12に起毛処理を施す場合は、織地では緯糸として弾性糸条21に交互して織込まれる多繊糸条(31・32)を起毛し、編地では多繊糸条(31・32)の構成するシンカーループを起毛する。
【0036】
弾性布帛12は、多繊糸条(31・32)によって構成される上布と多繊糸条(31・32)と弾性糸条21によって構成される下布との二重構造にすることが出来、補完層11は、弾性糸条21の織編込まれない上布の表面に積層する。
【0037】
弾性糸条21の総繊度は1000dtex以上に、好ましくは2000dtex以上にするとよい。
その場合、弾性布帛12の織編組織を形成するために、総繊度が500dtex未満となる細手の弾性糸条22を補助的に使用することが出来る。
その場合、弾性糸条の延在方向は、総繊度が1000dtex以上の太手の弾性糸条21によって特定される。
【0038】
エンボスによる補完層表面の凹凸模様は、弾性布帛12に転写される補完層11のエラストマーを塗工積層する離形シートに刻設し、補完層11の弾性布帛12への転写に伴って離形シートから補完層11へと凹凸模様を転写するとよい。
【0039】
エラストマーによって構成される補完層11の10%伸長時の伸長応力Bc は、その補完層11の目付けと同じ目付けとなるエラストマーの離形シートに塗布積層された皮膜によって計測される。
弾性布帛12の10%伸長時の伸長応力AL は、補完層11を積層する前の生機の状態の弾性布帛によって計測される。
【0040】
ベンチ、ソファー、座席、椅子、座椅子等の重い肢体重量が作用する座面に使用される肢体支持面材の10%伸長時(伸度ρ=10%)の伸長応力(F)は、150≦F≦300(N/5cm)に設定し、ソファー、座席等の背凭れや肘掛け、枕、オットマン等の比較的軽い肢体重量が作用する部位に使用される肢体支持面材の10%伸長時(伸度ρ=10%)の伸長応力(F)は、50≦F≦200(N/5cm)に設定する。
【0041】
弾性糸条21の延在方向における10%伸長時の補完層11の伸長応力BL は、その弾性糸条21の延在方向における10%伸長時の弾性布帛12の伸長応力AL の1%以下(0.01AL 以下)に、好ましくは0.5%以下(0.005AL 以下)にする。
【0042】
破断伸度が60%以上であり、15%伸長後の弾性回復率が90%以上であり、10%伸長時の伸長応力が0.1cN/dtex以上、好ましくは0.2〜0.8(cN/dtex)であり、単繊維繊度が100dtex以上の弾性糸条21には、ポリエーテル系エステル弾性糸条を使用するとよく、それは他の合成繊維ポリマーと芯鞘複合繊維構造を形成しているもの、例えば、破断伸度が60(%)以上、30%伸長後の弾性回復率が90(%)以上の熱融着性芯鞘複合ポリエーテル系エステル弾性糸条(東洋紡績株式会社製品名:ダイヤフローラ)を使用するとよい。
【実施例】
【0043】
10%伸長時の伸長応力Fは、弾性布帛等から採取された幅50mm、長さ250mmの試験片を、掴み代間隔150mmとして荷重・伸度測定試験機にセットし、50mm/minの引張速度で引っ張って測定される。
【0044】
[実施例1]
緯糸挿入装置付き3枚筬経編機の第1筬に繊度330dtexの熱融着性芯鞘複合ポリエーテル系エステル・モノフイラメント弾性糸条22(東洋紡績株式会社製品名:ダイヤフローラ)を導入し、第2筬と第3筬に総繊度500dtex(96f)のポリエステル・マルチフイラメント糸31・32をそれぞれ1イン・3アウト(1−in−3−out)で導入し、第1筬を1−0/0−1/1−0/0−1/………と操作し、第2筬を1−0/2−3/4−5/3−2/………と操作し、第3筬を4−5/3−2/1−0/2−3/………と操作してベース経編地を編成しつつ、緯糸挿入装置から6.5番手モール糸単糸33と繊度2560dtexの熱融着性芯鞘複合ポリエーテル系エステル・モノフイラメント弾性糸条21(東洋紡績株式会社製品名:ダイヤフローラ)を1コースおきに交互にベース経編地に挿入してウェール密度が14ウェール/25.4mm、コース密度が24コース/25.4mmの緯糸挿入経編弾性布帛12を編成した。
この弾性布帛12の編幅方向(弾性糸条21の延在方向)における10%伸長時(伸度ρ=10%)の弾性布帛12の伸長応力AL は、図2に図示する通り170N/5cmであり、10%伸長時(伸度ρ=10%)までの荷重伸度曲線図(図2)の加圧曲線f0wS と減圧曲線f1wS から算定されるヒステリシスロス率(ΔE)は23%であり、編成方向(弾性糸条21の延在方向の直交方向)における10%伸長時(伸度ρ=10%)の伸長応力Ac は、図3に図示する通り58N/5cmであり、10%伸長時(伸度ρ=10%)までの荷重伸度曲線図(図3)の加圧曲線f0LS と減圧曲線f1LS から算定されるヒステリシスロス率(ΔE)は34%であった。
【0045】
その弾性布帛12の表面に発泡性ポリウレタン樹脂組成物を200g/m2 塗布してプライマー層14を積層し、そのプライマー層14の上に厚さ300μm・目付け200g/m2 の発泡ポリウレタンフイルム13を貼り合わせ、発泡ポリウレタンプライマー層14と発泡ポリウレタンフイルム13との二層積層構造の発泡ポリウレタン樹脂補完層11によって弾性布帛12の表面が被覆された肢体支持面材10を得た。
この肢体支持面材10の編幅方向(弾性糸条21の延在方向)における10%伸長時(伸度ρ=10%)の伸長応力AL は、図2に図示する通り171N/5cmであり、10%伸長時(伸度ρ=10%)までの荷重伸度曲線図(図2)の加圧曲線f0wA と減圧曲線f1wA から算定されるヒステリシスロス率(ΔE)は23%であり、編成方向(弾性糸条21の延在方向の直交方向)における10%伸長時(伸度ρ=10%)の伸長応力Ac は、図3に図示する通り59N/5cmであり、10%伸長時(伸度ρ=10%)までの荷重伸度曲線図(図3)の加圧曲線f0LA と減圧曲線f1LA から算定されるヒステリシスロス率(ΔE)は34%であった。
発泡ポリウレタン樹脂補完層11の編幅方向(弾性糸条21の延在方向)における10%伸長時(伸度ρ=10%)の伸長応力BL は、図2に図示する通り1N/5cm未満であり、10%伸長時(伸度ρ=10%)までの荷重伸度曲線図(図2)の加圧曲線f0wC と減圧曲線f1wC から算定されるヒステリシスロス率(ΔE)は3%であり、編成方向(弾性糸条21の延在方向の直交方向)における10%伸長時(伸度ρ=10%)の伸長応力Bc は、図3に図示する通り1N/5cm未満であり、10%伸長時(伸度ρ=10%)までの荷重伸度曲線図(図3)の加圧曲線f0LC と減圧曲線f1LC から算定されるヒステリシスロス率(ΔE)は3%であった。
【0046】
[実施例2]
実施例1で得た弾性布帛12の上に、実施例1において使用の発泡性ポリウレタン樹脂組成物を200g/m2 塗布してプライマー層14を積層し、そのプライマー層14の上に天然毛皮(13)を貼り合わせ、発泡ポリウレタンプライマー層14と天然毛皮(13)との二層積層構造の天然毛皮補完層11によって弾性布帛12の表面が被覆された肢体支持面材10を得た。
この肢体支持面材10の編幅方向(弾性糸条21の延在方向)における10%伸長時(伸度ρ=10%)の伸長応力AL は、図2に図示する通り155N/5cmであり、10%伸長時(伸度ρ=10%)までの荷重伸度曲線図(図2)の加圧曲線f0wB と減圧曲線f1wB から算定されるヒステリシスロス率(ΔE)は41%であり、編成方向(弾性糸条21の延在方向の直交方向)における10%伸長時(伸度ρ=10%)の伸長応力Ac は、図3に図示する通り92N/5cmであり、10%伸長時(伸度ρ=10%)までの荷重伸度曲線図(図3)の加圧曲線f0LB と減圧曲線f1LB から算定されるヒステリシスロス率(ΔE)は41%であった。
【0047】
弾性布帛の10%伸長時(伸度ρ=10%)のヒステリシスロス率ΔEの算定方法について、実施例1と2の弾性布帛12によって具体的に説明すると、(1) 弾性布帛12から切り取られた幅50mm×長さ250mmの試験片を、掴み代間隔が150mm、加重伸長速度が50mm/分、測定開始時の初期荷重(F0 )が4.9Nに調整された荷重・伸度測定試験機にセットし、(2) 試験片の伸度ρが10%に達するまで荷重を加えて予備伸長し、(3) 初期荷重(F0 )に戻るまで除重してコンディショニングを行い、(4) その後試験片の伸度ρが10%に達するまで荷重を加えるとき、伸度表示座標軸と荷重表示座標軸との直交座標(図2・3)に描かれる加圧曲線(f0wS )と、その加圧曲線(f0wS )において試験片の伸度ρが10%に達した10%伸度荷重点(F10)を通って伸度表示座標軸に直交する直線と、その加圧曲線(f0wS )の起点、即ち荷重・伸度0点を通る伸度表示座標軸に囲まれる部分の加圧履歴面積(V)と、 試験片の伸度ρが10%に達した10%伸度荷重点(F10)から初期荷重に戻るまで除重するとき直交座標に描かれる減圧曲線(f1wS )と、前記の10%伸度荷重点(F10)を通って伸度表示座標軸に直交する直線と、伸度表示座標軸に囲まれる部分の減圧履歴面積(W)との差(V−W)として算出されるヒステリシスロス(C)を、前記の加圧履歴面積(V)で除して算定される。実施例1と2の弾性布帛12の編幅方向の10%伸度荷重点(F10)は、図2に伸長応力AL として示す170N/5cmであり、編成方向の10%伸度荷重点(F10)は、図3に伸長応力Ac として示す58N/5cmである。
【0048】
実施例1と2の肢体支持面材10の編幅方向と編成方向の10%伸長時(伸度ρ=10%)のヒステリシスロス率ΔEも、弾性布帛12のヒステリシスロス率ΔEと同様に、それぞれ、図2の加圧曲線f0wA ・f0wB と減圧曲線f1wA ・f1wB と、図3の加圧曲線f0LA ・f0LB と減圧曲線f1LA ・f1LB から算定される。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に係る肢体支持面材の断面図である。
【図2】本発明に係る肢体支持面材と弾性布帛の荷重伸度曲線図である。
【図3】本発明に係る肢体支持面材と弾性布帛の荷重伸度曲線図である。
【符号の説明】
【0050】
10:肢体支持面材
11:補完層
12:弾性布帛
13:フィルム
14:プライマー
21:弾性糸条
22:弾性糸条
30:パイル繊維
31:多繊糸条
32:多繊糸条
33:多繊糸条(モール糸)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1) 破断伸度が60%以上であり、15%伸長後の弾性回復率が90%以上であり、10%伸長時の伸長応力が0.1cN/dtex以上であり、単繊維繊度が100dtex以上の弾性糸条(21)と、単繊維繊度が10dtex以下の多数の繊維によって構成される多繊糸条(31・32・33)によって織編された弾性布帛(12)の表裏両面または片面に品質補完層(11)が積層された肢体支持面材(10)であり、
(2) 弾性糸条(21)が弾性布帛(12)の幅の一部または全幅若しくは長さの一部または全長にわたって長く延在しており、
(3) その弾性糸条(21)の延在方向における10%伸長時の弾性布帛(12)の伸長応力AL が補完層(11)の伸長応力BL よりも大きく、
(4) その弾性糸条(21)の延在方向に直交する直交方向における10%伸長時の弾性布帛の伸長応力Ac が補完層(11)の伸長応力Bc よりも大きく、
(5) その弾性糸条(21)の延在方向における肢体支持面材(10)の10%伸長時の伸長応力Fが50≦F≦300(N/5cm)であり、
(6) 弾性糸条(21)の延在方向における肢体支持面材(10)の10%伸長時までの荷重伸度曲線図に示されるヒステリシスの加圧曲線(f0 )によって表される荷重伸度関係式(f0 (ρ))の積分値(V)と、そのヒステリシスの減圧曲線(f1 )によって表される荷重伸度関係式(f1 (ρ))の積分値(W)との差として表されるヒステリシスロスの前記加圧曲線(f0 )によって表される荷重伸度関係式(f0 (ρ))の積分値(V)に占めるヒステリシスロス率(ΔE)が、20〜45%であることを特徴とする肢体支持面材。
【請求項2】
補完層(11)が、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、ポリプロピレン樹脂、塩化ビニル樹脂の何れかのエラストマーによって構成されている前掲請求項1に記載の肢体支持面材。
【請求項3】
エラストマーが、離形シートから弾性布帛(12)に転写されたフィルム(13)である前掲請求項2に記載の肢体支持面材。
【請求項4】
エラストマーが、弾性布帛に塗工された発泡ポリウレタンプライマー層(14)と、そのプライマー層(14)に離形シートから転写された発泡ポリウレタンフィルム層(13)との二層積層構造を形成している前掲請求項2と3の何れかに記載の肢体支持面材。
【請求項5】
補完層(11)の表面に研磨処理が施されており、補完層(11)の表面に細かい凹凸がある前掲請求項1と2と3と4の何れかに記載の肢体支持面材。
【請求項6】
補完層(11)の表面にエンボスが施されて凹凸模様が描出されている前掲請求項1と2と3と4と5の何れかに記載の肢体支持面材。
【請求項7】
補完層(11)が、消臭剤、抗菌剤、制電剤、調湿剤、難燃剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤の何れかの機能性薬剤を含有している前掲請求項1と2と3と4と5と6の何れかに記載の肢体支持面材。
【請求項8】
補完層(11)が、弾性布帛(12)に塗工された発泡ポリウレタンプライマー層(14)と、そのプライマー層(14)を介して貼り合わされた天然または人工皮革との二層積層構造を形成している前掲請求項1に記載の肢体支持面材。
【請求項9】
弾性布帛(12)を構成している多繊糸条(31・32)が、単繊維繊度3dtex以下の細手繊維を含んでおり、弾性布帛(12)に起毛処理が施されて、細手繊維が弾性布帛(12)の表面に起毛層を形成している前掲請求項1と2と3と4と5と6と7と8の何れかに記載の肢体支持面材。
【請求項10】
多繊糸条(33)にモール糸が使用されており、弾性布帛(12)の表面にモール糸のパイル繊維(30)が突き出ている前掲請求項1と2と3と4と5と6と7と8の何れかに記載の肢体支持面材。
【請求項11】
弾性糸条(21)の平均繊度(T:dtex/本)と、その弾性糸条(21)が弾性布帛(12)の織編幅の一部または全幅若しくは長さの一部または全長にわたって長くなって延在する延在方向に直交する直交方向における一定間隔(L:cm)において弾性布帛(12)に配置されている弾性糸条(21)の本数(M)を当該布帛の一定間隔(L)で除して示される当該弾性糸条(21)の配置密度(G:本/cm)との積(T×G)として表される当該弾性糸条(21)の弾性布帛(12)に占める嵩密度(J:dtex/cm)が17000dtex/cm以上である前掲請求項1と2と3と4と5と6と7と8と9と10の何れかに記載の肢体支持面材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−115869(P2010−115869A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−290847(P2008−290847)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(000148151)株式会社川島織物セルコン (104)
【Fターム(参考)】