説明

腐食及び傷耐性を向上させた光学コーティングのため保護層

【課題】光学コーティングの腐食・傷耐性バリアを提供すること。
【解決手段】酸化可能な金属珪素化合物又は金属アルミニウム化合物を、光学コーティングの外層の1つとして使用する。この層は、未酸化又は一部酸化状態で付着され、この化学状態で、下の層を腐食から保護する。該金属化合物又は合金の層は、大多数の金属を超える硬さを有し、それにより傷からの保護を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の基板上の光学コーティング上面に適用される外側保護層、より具体的には、下層の光学コーティングに腐食及び傷からの改善された保護を提供する保護層に関する。特に本発明は、酸化可能な珪化物とアルミニウム化合物等の合金とを光学コーティングの外層として使用することに関する。
【0002】
本願は、2003年12月18日に出願された米国仮出願第60/530,244号に基づく優先権を主張する。
【背景技術】
【0003】
低放射率の光学コーティング又は赤外線反射金属を含む光学コーティングを、透明な基板に入射する赤外線放射の一部又は全部の透過率を減らすために、該基板上に付着させることができる。反射防止・銀薄膜コーティングは、赤外線放射の大部分を反射するが、可視光を通過させることが知られている。これらの望ましい特性のために、銀が被覆された反射防止基板は、窓の断熱性を向上させ、窓ガラス等の様々な用途に使用されてきた。低放射率の銀コーティングは、特許文献1及び特許文献2に記載されている。銀を含む真空付着された低放射率コーティングは、現在、窓の市場で販売されている。
【0004】
特許文献2には、焼もどし可能な低放射率コーティングを保護するための曇り止め上面被膜(トップコート)として酸化可能な金属を使用することが開示されている。この発明は、600℃を超える温度に曝されることから生じる曇りを減らす方法に関する。
【0005】
金属、金属合金、及び金属酸化物コーティングは、被覆された対象物の特性を改善するために、低放射率の銀コーティングに適用されてきた。特許文献2は、ガラス基板に付着された全層のうち最外層として付着された金属又は金属合金層を開示している。該金属又は金属合金層は酸化され、反射防止コーティングとして働く。特許文献1は、金属酸化物層を反射防止層として付着させる方法を開示している。銀層を反射防止層間に挟むことで光透過率を最適化する。
【0006】
不幸なことに、光学コーティングは、輸送中及び取扱い中に、ひっかき及び腐食性の環境に曝されることによって、また熱処理中の熱損傷又は曲げによって、頻繁に損傷する。特に、銀系の低放射率コーティングは腐食しやすい。現在使用されている大多数の低放射率コーティング積層は、低放射率の薄膜積層内又は上のどこかに、バリア層を設ける。薄膜バリアは、水蒸気、酸素又は他の流体による銀層の腐食を減らすように働く。また幾つかの薄膜バリアは、低放射率積層の物理的なひっかきによる損傷を、その硬さにより又は外層を成す場合は摩擦を少なくすることにより減らす。
【0007】
現在、純金属は、酸化可能な腐食・傷耐性層として使用されている。金属層は物理的、化学的に拡散を阻止する能力のために効果的なバリアであることが知られている。もし、この層が多孔性でなければ、拡散は物理的に阻止される。
【0008】
また、全ての化学的に束縛された分子群の動きを阻止する欠陥を流体が通る時に、金属化合物層は該流体、酸素又は水、と反応することで、化学的に拡散を阻止する場合がある。この反応は流体の動きを止めるだけでなく、ピンホールの壁に付いた流体の分子は、後続の分子の動きを物理的に阻止する場合がある。反応性のより高い金属化合物が化学的阻止のために特に有効である。一般に、金属は、金属化合物又は金属と金属化合物の混合物ほど硬くないので、傷からの保護に効果的ではない。傷からの保護は、しばしば、光学積層の表側に付着された炭素又は金属酸化物層により実現される。
【0009】
スパッタされた炭素保護層は、傷からの保護を提供するために使用されてきたが、腐食からの保護にはほとんど役立たない。また、炭素は、400℃を超える温度でのみ酸化する。
【0010】
酸化可能な化学量論金属窒化物が、腐食及び傷耐性保護層として使用されてきた。炭素と同様に、化学量論金属窒化物は高温でのみ酸化し、腐食からの保護にほとんどならないが、傷からの良好な保護を提供する。
【0011】
焼もどしは、銀系の低放射率コーティングに伴う腐食の問題を軽減することができる。焼もどしは、より低いエネルギー状態への原子レベルの再構成をひき起こすことができ、銀を腐食しにくくする。また、焼もどしは光学コーティングの硬さ及び傷耐性を改善する場合がある。しかし、該光学コーティングが焼もどしされるまで、該コーティングはひっかき及び腐食による損傷を特に受けやすい。光学コーティング内の傷は、該コーティングが加熱・焼もどしされる(これにより傷が成長し、増殖する)まで、しばしば見えない。
【特許文献1】米国特許第4749397号明細書
【特許文献2】米国特許第4995895号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、当技術分野では、可視光を透過させる一方、腐食及びひっかきによる損傷を減らす十分な硬さと耐久性を有する保護層に対する要求が存在する。
上記の要求及び/又は以下の開示から当業者にとって明らかとなる他の要求を満たすことが本発明の実施形態の目的である。
【0013】
本発明の主目的は、可視光を透過させる一方、腐食及びひっかきによる損傷を減らす十分な硬さと耐久性を有する保護層を提供することにより、従来技術の上記欠陥を克服することである。
【0014】
本発明の他の目的は、光学コーティングの性能又は外観の変化を最小限にし、腐食及びひっかき傷を著しく減らす保護層を作ることである。該保護層は、光学コーティング・プロセスの変更を最小限して、適用し易いものでなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、腐食・傷耐性バリアを提供するために、酸化可能な金属化合物又は同時付着された金属と金属化合物の混合物を、光学コーティングの外層の1つとして使用することで、上記目的の全てを達成する。この層は、主に未酸化又は未窒化状態で付着され、この化学状態で、下の層を腐食から保護する。この層は、大多数の金属を超える硬さを有し、それにより傷からの保護を提供する。
【0016】
本発明の好適な実施形態の構造と組成および本発明の更なる特徴と利点を、添付の図面を参照しながら、下記に詳細に説明する。添付の図は本発明の実施形態を説明するためのものであり、本発明を限定するためのものではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、銀を含む薄膜光学コーティングの空気接触層に付着された光学コーティング上の、光学コーティング層の傷及び腐食を防止する外層としての腐食及び傷耐性保護コーティングを提供する。
【0018】
透明な基板が好適であり、如何なる熱耐性の透明な物質であってもよい。該透明基板は、加熱・急冷による焼もどしができるガラスが好ましい。
【0019】
該保護コーティングは、非吸収酸化物と化学的に反応可能な、珪化物又は合金等の金属化合物、金属と珪化物の混合物、又は金属と金属合金化合物の混合物を使用する。該傷・腐食保護層は、3〜10ナノメートル(nm)の厚みとすることができるが、3〜6nmの厚みが好ましい。一般的に、腐食保護は、この層が酸化物に変化した後よりも、金属化合物として存在する間の方が良好である。傷耐性は、いずれの状態でも高い。該保護コーティングは、熱処理後、曇りが増える結果になる場合がある。
【0020】
金属化合物層は、光学的に吸収性があり、より低い透過率が望ましい低放射率積層のために、又は該保護層が透明な酸化物へと熱酸化される熱処理されたコーティングのために適切である。
【0021】
酸化プロセスは、金属が熱等のエネルギー源又は空気よりも化学的に反応しやすい環境に曝された場合に起こる。従って、薄膜積層(例えば熱処理可能な曲げられる低放射率コーティング)が酸化性の雰囲気中で過熱される場合、より厚い金属化合物層を使用してもよい。厚みは3〜10nmとすることができる。厚みが厚いほど腐食及び傷保護が良好である。金属化合物層は3nmより厚く付着され、熱処理に先立ち、効果的な腐食バリアを提供する。熱処理に先立ち効果的な傷保護を提供するために、金属化合物は4nm以上の厚さに付着されるのが好ましい。金属化合物層が熱処理において完全に酸化されるのを保証するために、この層は8nm以下の厚さに付着されるのが好ましく、6nm以下とするのがより好ましい。金属化合物層が完全に酸化されると、吸収には影響はほとんどないが、光学干渉に小さな影響がある場合がある。
【0022】
適切な酸化可能な金属化合物と合金は、珪素化合物及びアルミニウム化合物を含む。これらの合金化合物の金属部分は、クロム、鉄、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、鉄、ニッケル、及び/又はアルミニウムであってよい。珪素が、この金属化合物の非金属部分であってよい。好適な実施形態では、該化合物の金属部分はジルコニウムである。該金属化合物には窒素又は酸素を微量(0〜30原子%)、ドープしてもよい。該金属化合物は、未酸化又は一部酸化又は窒化状態で光学コーティング上に付着される。この層によって提供される傷耐性は、酸素又は窒素のドープに伴って改善するが、腐食耐性は、約20原子%を超えるドープに伴って減少する場合がある。
【0023】
任意の適切な方法又は方法の組合せを、傷・腐食保護層と光学コーティングの各層を付着させるのに使用することができる。これらの方法は、(熱又は電子ビームによる)蒸発、液体熱分解、化学蒸着、真空蒸着及びスパッタリング(例えばマグネトロンスパッタリング)、及び同時スパッタリングを含む。異なる層は異なる技法を用いて付着してよい。
【0024】
低放射率構造体又は銀含有薄膜積層は、400〜700℃の範囲の温度に加熱した後、室温まで急冷することで、熱処理可能である。銀の層を含む光学コーティングは、銀の融点960℃未満の温度に加熱した後、室温まで急冷することで、熱処理可能である。例えば、銀の層を含む低放射率光学コーティングは、約730℃まで数分加熱した後、急冷することで、熱処理可能である。該ガラス及び光学コーティングは550℃以上の温度で熱処理されるのが好ましい。
【0025】
本発明の金属化合物保護層は、腐食及び傷耐性を改善するために、未酸化又は一部酸化又は窒化状態で任意の適切な光学積層上に付着されることが可能である。図3〜図7は適当な光学積層の例を示す。光学積層における層の様々な組合せも、特許文献1及び特許文献2に示されているように当技術分野において周知である。光学積層は、少なくとも1つの銀層と、スパッタリング工程において該銀層を保護する少なくとも1つのバリア層と、必要に応じて、熱処理において該銀層が酸化するのを防ぐ少なくとも1つの阻止、バリア、又は犠牲層とを含むのが好ましい。本発明の好適な実施形態では、光学積層はTiO、NiCrO、TiO、Ag、NiCr、Ag、NiCrO、及びSiAlNの層群を含み、珪化ジルコニウム等の金属化合物から成る保護層を有する(Szczyrbowski, J.ほか「ツイン・マグネトロンスパッタされたTiOとSi上の焼もどし可能な低放射率コーティング(Temperable Low Emissivity Coating Based on Twin Magnetron Sputtered TiO2 and Si3N4)」真空コーティング装置学会(Society of Vacuum Coaters),p.141〜146,1999)。当業者は、該積層の層群は、積層の特性を改善又は変更するために配置・変更が可能であることを理解するであろう。
【0026】
光学積層の前記層群は、太陽光制御コーティング(例えば低放射率型コーティング)を構成する。このコーティングはガラス基板上に設けてもよい。該積層は、一回以上、基板上に繰返してもよい。前記層群の上又は下に他の層を設けてもよい。該積層又はコーティングが直接又は間接的に基板上に設けられているか、又は基板によって支持されているが、他の層を間に設けてもよい。また、他の実施形態では該コーティングのうち、ある層は取除いてもよいし、一方、別の実施形態では、本発明の思想を逸脱することなく他の層を追加することができる。
【0027】
本明細書で使用する表現「に付着させる」は、指定された層上に直接又は間接的に物質を付着させることを意味し、他の層を、該物質と指定された層の間に設けてもよい。
【0028】
本発明の実施形態に係る被覆された物品は、建築物の窓(例えばIGユニット)、自動車の窓、又は任意の他の適当な用途において使用することができる。本明細書では、被覆された物品は、実施形態によって熱処理される場合とされない場合がある。
【0029】
ガラス・コーティング分野では、特に被覆されたガラスの性質及び太陽光制御特性を定義する時に、特定の用語が広く使用されている。これらの用語は、本明細書では、周知の意味で使用される。例えば、
反射された可視波長光の強度、すなわち反射率は、その比率によって定義され、RY又はRとして表現される(すなわちRY値は明所視反射率を、TY値は明所視透過率を指す)。Xは、ガラス(Glass)側の場合はG、膜(Film)側の場合はFとなる。「ガラス側」(G)は、ガラス基板のコーティングが存在する側と反対側から見たことを意味し、一方、「膜側」(F)は、ガラス基板のコーティングが存在する側から見たことを意味する。
【0030】
色特性は、CIE LAB 1976 a*,b*座標・尺度(すなわち、CIE 1976 a*b*ダイアグラム,III. CIE-C2等級オブザーバ)を使用して測定され、表現される。ここで、
は(CIE 1976)明るさ単位
は(CIE 1976)赤−緑単位
は(CIE 1976)黄−青単位
他の同様の座標を、ハンター法(又は単位)III. C,10オブザーバ、又はCIE LUV u*v*座標の慣習的な使用を示す下付き「h」により等価的に使用することができる。本明細書中では、これらの尺度は、ASTM E-308-95,Annual Book of ASTM Standards, Vol. 06.01「Standard Method for Computing the Colors of Objects by 10 Using the CIE System(CIE系を使用して対象の色を計算するための標準方法)」によって補足され、及び/又はIES LIGHTING HANDBOOK 1981 Reference Volumeに報告されたASTM D-2244-93「Standard Test Method for Calculation of Color Differences From Instrumentally Measured Color Coordinates(測定された色座標から色差を計算するための標準テスト方法)」Sep. 15, 1993に従って定義されている。
【0031】
用語「放射率」(又は発射度)及び「透過率」は、当技術分野では周知であり、周知の意味で本明細書では使用される。従って、本明細書では、例えば用語「透過率」は、可視光透過率(TVIS)、赤外線透過率(TIR)、及び紫外光透過率(TUV)から成る太陽光透過率(TY)を意味し、全太陽エネルギー透過率(TS又はTSOLAR)は、これらの値の加重平均として表現される。これらの透過率に関して、建築用には、可視光透過率は標準光源C,2等級技法によって表わされ、一方、自動車用には、標準III.A2等級技法(例えば、ASTM E−308−95を参照されたい。これを本明細書に援用する。)によって表わされてよい。放射率のために、特定の赤外領域(2,500〜40,000nm)が使用される。上記パラメータのうち何れか及び/又は全てを計算/測定するための様々な標準が、本願の優先権主張の基になる前記米国仮出願に開示されている。
【0032】
用語RSOLARは、全太陽エネルギー反射率(本明細書ではガラス側)を指し、赤外線反射率、可視光反射率、及び紫外光反射率の加重平均である。この項は、自動車用途では、周知のDIN410及びISO13837 (December 1998) Table 1, p.22に従って計算され、建築用途では、周知のASHRAE142規格に従って計算されてよい。両方を本明細書に援用する。
【0033】
「曇り」は次のように定義される。多くの方向に拡散された光は、コントラストに損失が生じる。本明細書では、用語「曇り」は、ASTM D 1003に従い、通過時、入射ビームからのずれが平均2.5度を超える光のパーセンテージとして定義される。「曇り」は、Byk Gardner曇りメータにより測定してもよい(本明細書において、全ての曇り値は、このような曇りメータにより測定され、散乱光のパーセンテージとして表わされる)。
【0034】
「放射率」(又は発射度)(E)は、指定された波長における光の吸収率と反射率の両方あわせた測定値または特性値である。式:E=1−反射率FILMによって表わされる。
【0035】
建築用には、放射率の値は、赤外スペクトラムの遠いレンジとも呼ばれるいわゆる中間レンジ、すなわち、例えばLawrence Berkeley LaboratoriesによるWINDOW 4.1 program, LBL-35298(1994)によって指定された約2,500〜40,000nmにおいてかなり重要となる。本明細書においては、用語「放射率」は、ASTM Standard E 1585-93「Standard Test Method for Measuring and Calculating Emittance of Architectural Flat Glass Products Using Radiometric Measurements(放射計による測定を用いて建築用平面ガラスの放射率を測定し計算するための標準テスト方法)」に指定された、前記の赤外領域において測定された放射率値を指すのに使用される。この規格及びその規定を本明細書に援用する。この規格では、放射率は半球体放射率(E)と垂直放射率(E)として表現される。
【0036】
放射率値の測定のデータの蓄積は、従来どおりであり、例えば「VW」アタッチメント付きBeckmanモデル4260分光光度計(Beckman Scientific Inst.社)を使用して行われる。この分光光度計は波長に対する反射率を測定し、これから、前記ASTM Standard 1585-93を使用して放射率を計算する。
【0037】
本明細書で使用する他の用語は「シート抵抗」である。シート抵抗(R)は当技術分野で周知の用語であり、周知の意味で使用される。平方当りのオーム単位で表現される。一般に、この用語は、ガラス基板上の層構造体の任意の平方当りのオームで表された該層構造体を通過する電流に対する抵抗を指す。シート抵抗は、層又は層構造体が赤外線をどれだけ反射するかを示す。この特性の測定値としての放射率とともに頻繁に使用される。シート抵抗は、Magnetron Instruments社製のヘッドを持つ市販の4点抵抗探針、すなわち米国Signatone社製のモデルM−800等の4点探針オームメータを使用して容易に測定できる。
【0038】
本明細書では、「化学的耐久性」又は「化学的耐久性がある」は、技術用語「化学的に耐性がある」又は「化学的安定性」と同義である。化学的耐久性は、被覆されたガラス基板の2インチ(約5.1cm)×5インチ(約12.7cm)又は2インチ×2インチのサンプルを4.05%のNaClと1.5%のHとを含有する約500mlの溶液に約36℃、20分間浸ける浸漬試験により判定される。
【0039】
本明細書では、「機械的耐久性」は、次の試験により判定される。この試験は、Erichsenモデル494ブラシ試験機と(長方形パッドの繊維に付着されたSiC粒群からなる)Scotch Brite7448研磨剤とを使用し、標準重量ブラシ又は改良ブラシのホルダーを該サンプルに対して該研磨剤を保持するために使用する。ブラシ又はブラシホルダーを使用して100〜500回のドライ又はウエットストロークが実行される。ひっかきによる損傷は、放射率の変動と、Δhaze(曇り)と、膜側反射率のΔEとの3通りの測定が可能である。この試験は、傷をより見えるようにするために浸漬試験又は熱処理と組合せることができる。該サンプルに135g荷重で200回のドライストロークした時、良好な結果を得ることができる。ストロークの数は減らすことができ、または、より緩やかな研磨剤を使用することができる。これが、この試験の利点の1つであり、サンプル間に必要な差の大きさによって、ストロークの荷重及び/又は数は調整可能である。より明確な等級分けのためにより強い試験をしてもよい。試験の再現性は、指定の長さの時間に亘って同じ膜の多数のサンプルを調べることによりチェック可能である。
【0040】
本明細書では、「熱処理」、「熱処理された」、及び「熱処理する」は、ガラスを含む物品の焼もどし(tempering)、曲げ、又は熱強化を可能にするのに十分な温度に該物品を加熱することを意味する。この定義は、焼もどし、熱強化、又は曲げを可能にするのに十分な期間の間、被覆された物品を例えば華氏約1100度以上の温度(摂氏約550〜700度の温度)に加熱することを含む。
【0041】
<用語解説>
別途記載がなければ、本明細書において下記の用語は次の意味を持つものとする。
Ag:銀
TiO:二酸化チタン
NiCrO:酸化ニッケル及び酸化クロムを含む合金又は混合物。酸化状態は化学量論的から半化学量論的まで変わる。
NiCr:ニッケル及びクロムを含む合金又は混合物
SiAlN:珪素オキシ窒化物を含むかも知れない反応的にスパッタされた珪素アルミニウム窒化物。スパッタのターゲットは通常、10重量%のAlを含むSiであるが、その比率は変わってもよい。
SiAlO:反応的にスパッタされた珪素アルミニウム・オキシ窒化物
Zr:ジルコニウム
付着された:先に付着された層の上に直接又は間接的に付着されていること。間接的に付着された場合、1つ以上の層が間に存在する。
光学コーティング:基板に付着された、該基板の光学特性に影響する1つ以上のコーティング
低放射率積層:1つ以上の層から成る低熱放射率光学コーティングが付着された透明基板
バリア:プロセス中に他の層を保護するために付着された層。上の層の接着を改善する場合があり、プロセス後、存在しないかも知れない。
層:機能と化学組成を有するある厚みの物質。該物質層の各面に異なる機能と化学組成を有する別の物質層が結合されている。付着された層は、プロセス中の反応のためにそのプロセス後、存在しないかも知れない。
同時スパッタリング:2つ以上の異なる物質のスパッタリング・ターゲットから基板に同時にスパッタリングすること。得られる付着されたコーティングは、該異なる物質群の反応生成物又は該ターゲット物質の非反応混合物又はその両方から成る。
合金化合物:特定の化学量論的比率の2つ以上の金属要素から成る合金のある相。これら金属要素は、電子又は侵入型結合されている、すなわち標準的な合金に典型的な固溶体として存在する。合金化合物は、しばしば、その金属要素とは明らかに異なる性質を有する。特に硬さ又はもろさの程度が増す。程度が増した硬さにより、大多数の標準的な金属又は合金に勝る傷耐性となる。
【0042】
次の例は、本発明を説明するためのものであり、限定するためではない。
【0043】
<<実施例1>>
様々な酸化可能なバリアが、ガラス/TiO/NiCrO/TiO/Ag/NiCr/Ag/NiCrO/SiAlNから成る光学積層上に付着された。酸化可能なバリアは、Zr金属、窒素がドープされたZr金属、Zr珪化物、窒素がドープされたZr珪化物、及びTiAlを含む。
【0044】
銀含有積層のための腐食保護は、試験された酸化可能なバリアの全てで、著しい改善があったが、Zr珪化物が、Zr金属よりも良好な腐食保護を示した。窒素ドープのドープレベルが低い場合、ベース金属の腐食保護力に変化がなかった。窒素量を増やすと、金属腐食保護力は減少した。また、Zr珪化物はZr金属よりも良好な傷からの保護を示した。図1、図2はZrSiとTiAlの結果を示す。
【0045】
<<実施例2>>
浸漬試験手順
《原液の作製》
320グラムのNaClを計りとって、過熱攪拌プレート上の逆浸透ろ過された温水で満たされたビーカに入れた。
NaClは、次を加える前に完全に溶解するように、ゆっくりと加えられた。NaClが完全に溶解した後、その混合物を1ガロン(約3.785リットル)容器に注いだ。該ビーカをRO水ですすぎ、ビーカからNaClを完全に除去するためにジャグに入れた。
240mlの0.1N KOHを計りとって、1ガロン容器に注いだ。
十分なRO水を最終の体積が3.95Lとなるように加えた。
【0046】
《サンプルの準備》
サンプルは、所望のサイズに切断された。2インチ(約5.1cm)×2インチが現在の代表的なサイズである。サンプル群が異なる時間間隔で一度に1つ取り出される場合、5インチ(約12.7cm)×2インチが扱い易いサイズである。
サンプルは、指紋、切削オイル、又は傷が付くことがあってはならない。汚染又は傷は結果に影響するであろう。
【0047】
《使用する溶液の準備》
250mlの原液を1Lビーカに加え、次に、250mlの3.0%過酸化水素を加えた。原液と3.0%過酸化水素を、1対1で混合した。最終の体積は500mlである。この溶液のpHは9.0である。NaClの最終の濃度は、4.05%であり、Hの最終の濃度は、1.5%である。
該溶液は、ホットプレート上で36℃まで温められ、この溶液のpHを確認した。
【0048】
《浸漬試験の実行》
該サンプル群をラック内に置き、加熱された溶液に入れる。
該ビーカを36℃の一定温度水槽に入れる。水のレベルは該ビーカの浸漬流体と同じ高さである。
試験は20分間で、試験の終りに、該サンプル群が該溶液から取り出され、残っている浸漬流体を取り去るために清浄なRO水に入れる。
該ラックが、RO水から取り出され、ペーパータオル上で軽打して水を取り去る。該サンプルは膜側を上に向けてリント布の上に置き、水をとる。サンプルの膜側をふかずに、軽くたたいて乾かす。膜が激しく損傷している場合は、サンプルをふくと膜がとれる。ガラス側は、ふいて水をとる。水滴跡ができないように注意する必要がある。水滴跡が損傷の計算に影響する可能性がある。
【0049】
《サンプルの解析》
該サンプルは、Δhaze(曇り)、ΔE、及び目視を含む様々な方法で解析することができる。Δhazeを決めるために、浸漬の前にサンプルの曇りが測定される。ΔEを決めるために、浸漬の前にサンプルの膜側の反射が測定される。これらの測定は浸漬試験完了後に繰返される。
Δhazeを計算するために、試験後の曇り値から試験前の曇り値を減算する。ΔEを計算するために、ΔE=(ΔL*2+Δa*2+Δb*21/2を使用する。ΔXは、Xの試験前と試験後の差を表す。
【0050】
表1は、腐食試験の結果を示す。該サンプルは、目視検査され、その結果が、1〜5のスケールで記録される。点数1はそのサンプル表面が目視では腐食又は損傷していないことを示す。2から5までの点数は、損傷をおおよそ5%分ずつ増加させることに対応する。点数5は、薄膜表面領域の約20%以上が損傷していることを示す。
【0051】
表1 標準スパッタされたZrとZrSiの腐食データ
【表1】

【0052】
<<実施例3>>
ひっかき試験手順において、傷耐性(機械的耐久性)は、Scotch Brite(登録商標)ひっかき試験を使用して判定された。この試験は、Erichsenモデル494ブラシ試験機とScotch Brite7448研磨剤とを使用する。損傷量は、放射率、曇り、及び膜側反射の各変化の3通りで測定できる。
【0053】
Scotch Brite(登録商標)(繊維に付着されたSiC粒群からなる)パッドは、6インチ(約15.2cm)×9インチ(約23cm)から2インチ×4インチ(約10cm)までのサイズに切断される。Erichsenブラシ試験機は、研磨剤をサンプル上で移動させる機構として使用された。標準重量ブラシ又は改良ブラシのホルダーを該サンプルに対して該研磨剤を保持するために使用した。各サンプルに対して新しい研磨剤を使用した。
ひっかくことで生じた損傷は、放射率変化、Δhaze、及び膜側反射のΔEの3通りで測定された。放射率変化は、膜のひっかく前と後の差として測定される。これらの測定値は、次の式において使用された。
(εSCRATCH−εFILM)/(εGLASS−εFILM) (式1)

Δhazeは、ひっかく前の膜の曇り値からひっかいた後の膜の曇り値を減算することで測定された。熱処理されたサンプルの場合は、ひっかいた後の膜の曇り値からひっかく前の膜の曇り値を減算する。
ΔE測定値は、損傷のない膜とひっかいた膜の膜側反射率(Rf)を測定することで得られる。熱処理されたサンプルの場合は、ひっかいていない領域のRfも測定される。
【0054】
ΔL、Δa、Δbは、傷により発生するΔEを計算するために次の式に代入される。
ΔE=(ΔL*2+Δa*2+Δb*21/2 (式2)
【0055】
損傷は、次の3通りで評価された。
・ひっかき試験後、後処置なし
・ひっかき試験後、酸性浸漬試験を実施
・ひっかき試験後、熱処置
結果:
浸漬試験及び熱処置試験は、Scotch Brite(登録商標)によって生成された損傷を見えるようにする。浸漬試験は短く(20分)、大きな又は多数のサンプルを同時に処置できる。浸漬試験は小さな傷をより見えるようにするのでひっかき試験後に実施される。コーティングは、ひっかきにより弱められ、浸漬されるか熱処置された後、より多くの損傷が現れる。
【0056】
<<実施例4>>
同時スパッタリング処理準備:
同時スパッタリングを、下向きスパッタリング静止マグネトロン・カソードと、コーティング時、該カソードの下で基板を毎分0〜15メートルの速度で移動させる手段とを有するインライン真空コーティング装置において実行した。同時スパッタリング・カソードは、約40mm離れた2つの長さ1メートルのスパッタリング・カソードから成る。該スパッタリング装置は、Leybold社により開発され、商品名は「Twin-mag」である。2つのマグネトロン・カソードは、約50kHzの周波数で動作するAC2極電源によって、電力が供給される。この電源は、Huttinger製のモデルBIG100であった。
【0057】
腐食・傷耐性層のために使用されたスパッタリング・ターゲットは、ジルコニウムと、10重量%のアルミニウムを含む珪素(Heraeus社のSISPA10)とであった。上記2つの物質の堆積比は、スパッタリング・ターゲットと基板の間のシールド配置によって制御された。2つのターゲットからのスパッタリングの流れは、基板の同じ領域に同時に堆積されるとともに、2つのスパッタリング・ターゲット物質の混合反応生成物を生成する。
【0058】
例えば、2つ以上の直流カソードを使用する他の同時スパッタリング装置を使用してもよい。複数の電源を使用すると、隣り合うカソード間で電力を変えることができるため、物質の堆積比を制御することができる。また、隣り合う回転可能な又は管状のカソードを、腐食・傷耐性層を同時スパッタするために使用してもよい。
腐食・傷耐性層を付着させるために、他の珪化物を堆積させる珪素ターゲットと金属ターゲットの他の組合せ、又は合金層を形成する金属と金属の組合せを使用してもよい。
【0059】
腐食・傷耐性層を同時スパッタするために、3つの異なるZrSi比を生成する3チャンバ構成が準備された。Zrターゲットはカソードのロード端側に置かれ、SISPA10・SiAlターゲットはアンロード端側に置かれた。また、堆積中、ロード端からアンロード端に向かって基板が移動された。下記の表2は、堆積された層における原子比率とスパッタリング条件を示す。原子比率は、XPS表面解析法で決定される。
【0060】
表2 堆積パラメータ及び原子比率
注)21原子%のサンプルのXPS測定値には、Alは含まれていなかった。この原子%は、Zr:Si比だけから計算された。
【表2】

【0061】
腐食・傷耐性トップコート層を持つサンプルの場合、曇り値は、焼もどし後のスペック0.6%以内であったがより高いことが分かった。表3は、腐食・傷耐性層を上面に持つ低放射率積層の曇りと色の傾向を示す。一般に、上面被覆されたサンプルの曇り値は、トップコートの厚みが増え、Si含有量が減るとより大きくなった。
【表3】

【0062】
本発明は、上記特定の実施形態に限定されると解釈されるべきではない。これら実施形態は説明するためであり、限定するためではないと理解されるべきである。当業者は、本発明の範囲を逸脱することなく変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】ZrSi腐食・傷耐性層のデータを示す。ZrSiは、アルゴン雰囲気中で14.875×4.75インチ(約37.8×12.1cm)長方形ZrSi化合物ターゲットからスパッタされた。
【図2】TiAl腐食・傷耐性トップコート層のデータを示す。
【図3】腐食・傷耐性トップコート層を有する焼もどし可能な低放射率積層の概略図である。
【図4】腐食・傷耐性トップコートを有する焼もどし可能な、銀2層低放射率積層の概略図である。
【図5】腐食・傷耐性トップコートを有する低放射率積層の概略図である。
【図6】腐食・傷耐性トップコートを有する低放射率積層の概略図である。
【図7】腐食・傷耐性トップコートを有する低放射率積層の概略図である。
【図8】ガラス上の腐食・傷保護トップコートのない焼もどし(tempering)可能な銀1層低放射率コーティングの、Scotch Brite試験による200ストローク後の写真である。
【図9】ガラス上の同時スパッタされたZrSi腐食・傷保護トップコート付きの焼もどし可能な銀1層低放射率コーティングの、Scotch Brite試験による200ストローク後の写真である。
【図1A】

【図1B】

【図1C】

【図1D】

【図1E】

【図2A】

【図2B】

【図2C】

【図2D】

【図2E】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
腐食及び傷からの改善された保護手段を有する物品を作製するための方法であって、
基板上に1つ以上の層から成る光学コーティングを付着させることと、
腐食・傷保護層を設けるために、金属珪素化合物と金属アルミニウム化合物から構成されるグループから選択され、未酸化又は一部酸化又は窒化された金属化合物又は合金から成る層を前記光学コーティング上に付着させることと、
前記金属化合物又は合金の層を酸化又は一部酸化することと
を含む方法。
【請求項2】
前記金属化合物又は合金の層を前記光学コーティング上に付着させた後、酸素を含む雰囲気中で前記基板を加熱することを更に含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属化合物層は、3〜10nmの厚みとなるよう付着される請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記金属化合物層は、4〜6nmの厚みとなるよう付着される請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記金属化合物の金属部分は、クロム、鉄、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、鉄、ニッケル、アルミニウム、及び珪素から構成されるグループから選択される請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記金属部分は、ジルコニウムである請求項6に記載の方法。
【請求項7】
前記金属化合物は、ジルコニウム珪化物である請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記基板は、透明な基板である請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記基板は、ガラスである請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記光学コーティングは、TiO、NiCrO、Ag、NiCr、及びSiAlNのうち1つ以上の層を含む請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記金属化合物は、ジルコニウム珪化物である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記金属化合物は、金属と珪素とを含む2つ以上のソースから同時スパッタすることで前記基板上に付着される請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記合金は、合金層を形成することが可能な第1の金属と第2の金属とを含む2つ以上のソースから同時スパッタすることで付着される請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記合金は、合金化合物である請求項13に記載の方法。
【請求項15】
腐食及び傷からの改善された保護手段を有する物品であって、
基板と、
前記基板上の1つ以上の層から成る光学コーティングと、
金属珪素化合物と金属アルミニウム化合物から構成されるグループから選択された金属化合物又は合金の保護コーティングから成る最外層と
を備える物品。
【請求項16】
前記金属化合物は、少なくとも一部酸化されている請求項15に記載の物品。
【請求項17】
前記金属化合物層は、3〜10nmの厚みである請求項11に記載の物品。
【請求項18】
前記金属化合物層は、3〜6nmの厚みである請求項15に記載の物品。
【請求項19】
前記金属化合物の金属部分は、クロム、鉄、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、鉄、ニッケル、アルミニウム、及び珪素から構成されるグループから選択される請求項11に記載の物品。
【請求項20】
前記金属部分は、ジルコニウムである請求項18に記載の物品。
【請求項21】
前記金属化合物は、ジルコニウム珪化物である請求項15に記載の物品。
【請求項22】
前記基板は、透明な基板である請求項15に記載の物品。
【請求項23】
前記透明基板は、光学コーティングが上面に付着されたガラスである請求項22に記載の物品。
【請求項24】
前記光学コーティングは、TiO、NiCrO、Ag、NiCr、及びSiAlNのうち1つ以上の層を含む請求項23に記載の物品。
【請求項25】
前記金属化合物は、ジルコニウム珪化物である請求項24に記載の物品。


【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2007−519037(P2007−519037A)
【公表日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−545395(P2006−545395)
【出願日】平成16年12月17日(2004.12.17)
【国際出願番号】PCT/US2004/042152
【国際公開番号】WO2005/060651
【国際公開日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(505154842)エーエフジー インダストリーズ,インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】