説明

膜分離活性汚泥法によるリン回収方法

【課題】膜分離活性汚泥法によって効率的に有機性排水の脱リン処理を行うことができる方法を提供する。
【解決手段】生物処理槽4で生物脱リン処理を行い、分離膜5によりろ過して膜ろ過水を処理水として取り出す。請求項1の発明では、分離膜5で濃縮された汚泥を生物処理槽4へ返送する汚泥返送ライン8から汚泥の一部を取り出してリン回収装置10内に取り入れ、リン吐出、汚泥とリン含有水との固液分離工程、リン含有水中からリンのリン回収を行う。請求項2の発明では、嫌気槽1から槽内水の一部を取り出してリン回収装置に取り入れて、汚泥とリン含有水との固液分離工程、リン含有水中からリンのリン回収工程とを行わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水などのリンを含有する排水中から膜分離活性汚泥法によってリンを回収する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生物を利用した排水中からのリン除去方法としては、脱リン菌を含む活性汚泥を嫌気状態に置いて水中にリンを放出させた後、好気状態に置くことによって水中からリンを菌体内に過剰摂取させ、固液分離して活性汚泥とともに取り出す方法が用いられている。リンの放出量よりも摂取量が多いため、この差の分だけ排水中からリンを除去することができる。このような生物学的脱リン方法は、特許文献1〜4などに記載されている。
【0003】
特許文献1〜4に記載されているように、従来の脱リン方法は、嫌気槽と好気槽とを備えた生物処理槽の後段に沈降槽を配置し、リンを過剰摂取させた活性汚泥を重力沈降させて取り出す方法が一般的であった。しかし重力沈降には長時間を必要とし、従って広い敷地面積が必要となるという問題があった。
【0004】
なお近年においては、有機性排水の活性汚泥処理方法として、従来の重力沈降槽に代えて分離膜を使用する膜分離活性汚泥法が普及しつつある。このような膜分離活性汚泥法は、通常の重力沈降式の活性汚泥法と比較して、MLSS濃度を高くできる(重力沈降法では、MLSS濃度を高くすると沈降しにくい)こと、槽内の滞留時間(SRT)を長くして汚泥発生量を低減できるなどのメリットがある。
【0005】
しかしながら、膜分離活性汚泥法によってリンを回収しようとしても、上記のメリットが逆に作用して十分な脱リンを行えないという問題があった。すなわち、嫌気状態におけるリンの放出は、原水中に有機物量が十分に存在しないと十分に行われない。膜分離活性汚泥法では生物処理槽のMLSS濃度が高いために有機物量は十分ではなく、リンの放出は不十分となる場合がある。従って、好気条件下でのリンの過剰摂取量も不十分となる場合がある。
【0006】
また、菌体内へのリンの蓄積量には限界があるので、SRTが長くなると、系外への汚泥排出量が減少するためリン除去量も減少し、脱リンへの寄与が小さくなる。従って膜分離活性汚泥法は生物による脱リンを行ううえでは効率が悪く、特許文献1〜4に記載されているような広い敷地面積が必要な重力沈降法が用いられていた。
【特許文献1】特許第3511430号公報
【特許文献2】特開2002−192185号公報
【特許文献3】特開2004−261694号公報
【特許文献4】特開2004−321908号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記した従来の問題点を解決し、膜分離活性汚泥法によって効率的に有機性排水の脱リン処理を行うことができる膜分離活性汚泥法のリン回収方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するためになされた請求項1の発明は、少なくとも嫌気槽と好気槽とを備えた生物処理槽で生物脱リン処理を行い、好気槽の槽内液を分離膜によりろ過して膜ろ過水を処理水として取り出し、分離膜で濃縮された汚泥を生物処理槽へ返送するラインから汚泥の一部を取り出してリン回収装置内に取り入れ、嫌気条件下によるリン吐出工程、汚泥とリン含有水との固液分離工程、リン含有水中からリンのリン回収工程とを行わせることを特徴とするものである。
【0009】
また同一の課題を解決するためになされた請求項2の発明は、少なくとも嫌気槽と好気槽とを備えた生物処理槽で生物脱リン処理を行い、好気槽の槽内液を分離膜によりろ過して膜ろ過水を処理水として取り出し、分離膜で濃縮された汚泥は生物処理槽へ返送し、嫌気槽から槽内水の一部を取り出してリン回収装置内に取り入れて、汚泥とリン含有水との固液分離工程、リン含有水中からリンのリン回収工程とを行わせることを特徴とするものである。
【0010】
いずれの発明においても、生物処理槽が嫌気槽と無酸素槽と好気槽とを備えたものとすることができる。また、リン回収装置内における固液分離を、浮上分離法または膜ろ過法によって行うことができ、リン回収装置内におけるリン回収を、リン化合物の晶析法、リン吸着剤による吸着法、凝集剤による沈殿法の何れかによって行うことができる。
【発明の効果】
【0011】
請求項1または請求項2の発明によれば、少なくとも嫌気槽と好気槽とを備えた生物処理槽で生物脱リン処理を行いながら、リン回収装置において更にリンの回収を行うことができる。リンを回収した後のリン含有量の少ない汚泥は生物処理工程に戻されるので、MLSS濃度を一定に保ち、また活性汚泥性状に悪影響を及ぼすこともなく、膜分離活性汚泥法により安定した水質と膜ろ過性能を確保することができる。またリン回収装置には、分離膜で濃縮された汚泥または分離膜で濃縮された汚泥を含む嫌気槽の槽内水が取り込まれるので、リン回収装置におけるMLSS濃度は高く、リン回収装置に有機物を供給すれば効率の良いリン回収が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に各発明の好ましい実施形態を示す。
図1は請求項1の発明の実施形態を示す図であり、嫌気槽1と無酸素槽2と好気槽3とを備えた生物処理槽4の後段に、分離膜5が設置されている。原水は生物処理槽4に供給され、生物処理による脱リン及び脱窒が行われる。原水は下水のほか、返流水、工場排水、ゴミ浸出水、屎尿、農業廃水、畜産排水、養殖排水等の、リンおよび窒素を含む有機性排水である。
【0013】
原水は先ず嫌気槽1に供給される。嫌気槽1中には脱リン菌を含む活性汚泥が存在し、嫌気条件下においてリンの放出が行われる。
【0014】
次の無酸素槽2には好気槽3から硝化液返送ライン6を経由して硝化液が返送され、脱窒が行われる。しかし脱窒を要しない場合には、この無酸素槽2は省略し、嫌気槽1と好気槽3とによって生物処理槽4を構成することができる。
【0015】
次の好気槽4では散気手段7から空気または酸素が供給され、活性汚泥中の好気性菌体による硝化が行われるとともに、活性汚泥中の脱リン菌によるリンの過剰摂取が行われる。活性汚泥を含む好気槽4の槽内水は分離膜5に循環され、クロスフローろ過による固液分離が行われる。なおこの実施形態では分離膜5を槽外に設置したが、好気槽4の水中に浸漬して膜分離を行わせても良い。
【0016】
分離膜5はMF膜またはUF膜であることが好ましく、膜材質は高分子であってもセラミックであってもよい。また膜形状も特に限定されるものではなく、モノリス膜、チューブラー膜、平膜、中空糸膜等の任意形状とすることができる。モノリス膜やチューブラー膜の場合、流路形状は丸であっても、四角形以上の多角形であってもよい。また分離膜5の加圧方式は、外圧式であっても内圧式であってもよい。この実施形態では、分離膜5として出願人会社製のセラミック製モノリス膜が用いられている。
【0017】
分離膜5による膜ろ過水は清浄な処理水として取り出される。また分離膜5によってろ過水が分離されることにより濃縮され、活性汚泥の含有率が高められた汚泥(濃縮水)は、汚泥返送ライン8によって嫌気槽1と無酸素槽2に返送されるが、この汚泥の一部をリン回収装置10内に取り入れ、リン回収を行う。リン回収装置10への活性汚泥の導入量は、生物反応槽へのリンの流入量、生物反応槽からのリンの引抜き量、活性汚泥のリン含有率、MLSS濃度、リン回収装置10のリン回収率等から、決定することが可能である。
【0018】
請求項1におけるリン回収装置10は、図2に示すようにリン吐出部11と、固液分離部12と、リン回収部13とを備えたものである。リン吐出部11は汚泥を嫌気条件下に保持してリンを吐出させる部分である。リンの吐出に必要な有機物は有機酸の添加によって供給される。このリン吐出部11において、汚泥中のリンは水中に放出される。
【0019】
固液分離部12は汚泥とリン含有排水とを分離する部分である。分離手段としては、重力沈降、遠心分離、浮上分離、膜分離などの各種の手段を採用できるが、浮上分離または膜分離を採用することが好ましい。浮上分離を行う場合には酸素を含有しないガス、例えば窒素ガスを使用し、汚泥が好気状態に戻らないようにすることが好ましい。膜分離を行う場合にはクロスフロー方式を採用すれば、嫌気状態を維持したまま、高流束で膜分離が可能となる。このようにして、リンの含有量の少ない汚泥と、リン含有排水との分離が行われる。
【0020】
リン回収部13は、リン含有排水中からリンを回収する部分である。このリン回収には、リン化合物の晶析法、リン吸着剤による吸着法、凝集剤による凝集沈殿法の何れかを採用することができる。晶析法は排水中のリンをMAP(リン酸マグネシウムアンモニウム)や、リン酸カルシウムなどの結晶として分離する方法であり、前者はリン含有排水にマグネシウム成分を添加することにより、後者はカルシウム成分を添加することにより晶析される。
【0021】
吸着法はジルコニウム系や活性アルミナ系、キレート樹脂系、ハイドロサルタイト等のリン吸着剤をリン含有排水に加えてリンを吸着させる方法であり、凝集沈殿法はPAC、塩化第二鉄、PSI(ポリシリカ鉄)、高分子凝集剤などを加えてリンを凝集沈殿させる方法である。何れの方法による場合にも、固液分離によってリン含有物質を回収して系外に取り出し、リンを回収した後の排水は嫌気槽1に戻される。
【0022】
以上に説明した請求項1の発明によれば、生物処理槽4による脱リンとリン回収装置10による脱リンとが並行して行われるので、汚泥中のリン含有率の高低に関わらず、効率よく脱リンを行うことができる。
【0023】
図3は請求項2の発明の実施形態を示す図であり、生物処理槽4及び分離膜5の構成は請求項1の発明と同様である。請求項2の発明でも分離膜5によってろ過水が分離されることにより濃縮された汚泥(濃縮水)は、汚泥返送ライン8によって嫌気槽1と無酸素槽2に返送される。しかしリン回収装置14は汚泥返送ライン8から汚泥を取り込むのではなく、嫌気槽1から槽内水の一部を取り出してリン回収を行う。
【0024】
このため、請求項2の発明では嫌気条件下によるリン吐出工程は嫌気槽1中で行われるので、リン回収装置14は図4に示すように固液分離部12とリン回収部13とを備えておればよい。固液分離部12及びリン回収部13の構成は、請求項1と同様である。この請求項2の発明によれば、生物処理槽4と分離膜5とによる膜分離活性汚泥法によって脱リン及び脱窒を行いながら、リン回収装置14によってリン回収を行うことができる。またリンの吐出に必要な有機物として原水中の有機物を利用できるので、請求項1の発明のように有機酸を添加する必要はない。
【実施例1】
【0025】
(請求項1の実施例)
図1に示した装置を用い、膜分離活性汚泥法によって下水からのリン回収を行った。生物処理槽のMLSSは10000mg/L、SRTは100日であり、生物反応槽流入全リン濃度は4〜6mg/Lである。分離膜で濃縮された汚泥を生物処理槽へ返送するラインから流入水量の2%の活性汚泥をリン回収装置に導入し、リン吐出部では有機物源としてメタノールを添加した。固液分離は膜ろ過(セラミック膜ろ過)により行い、リン回収はカルシウムを添加してカルシウムイオン濃度=70mg/L、pH=8に調整し、リン酸カルシウムを晶析させる方法で行った。この結果、処理水のリン濃度は0〜0.5mg/Lとなった。これに対してリン回収装置への導入を行わない従来法では、処理水のリン濃度は2〜4mg/Lであり、本発明によるリン回収効果が確認できた。
【実施例2】
【0026】
(請求項2の実施例)
図3に示した装置を用い、膜分離活性汚泥法によって下水からのリン回収を行った。生物処理槽のMLSSは10000mg/L、SRTは100日であり、生物反応槽流入全リン濃度は4〜6mg/Lである。生物処理槽の嫌気槽から流入水量の2%の活性汚泥をリン回収装置に導入した。原水中の有機物を利用できるので、有機物源の添加は不要である。固液分離は膜ろ過(セラミック膜ろ過)により行い、リン回収はカルシウムを添加してカルシウムイオン濃度=70mg/L、pH=8に調整し、リン酸カルシウムを晶析させる方法で行った。この結果、処理水のリン濃度は0〜0.5mg/Lとなった。これに対してリン回収装置への導入を行わない従来法では、処理水のリン濃度は2〜4mg/Lであり、本発明によるリン回収効果が確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】請求項1の発明の処理フローを示す説明図である。
【図2】請求項1の発明におけるリン回収装置の構成図である。
【図3】請求項2の発明の処理フローを示す説明図である。
【図4】請求項2の発明におけるリン回収装置の構成図である。
【符号の説明】
【0028】
1 嫌気槽
2 無酸素槽
3 好気槽
4 生物処理槽
5 分離膜
6 硝化液返送ライン
7 散気手段
8 汚泥返送ライン
10 リン回収装置
11 リン吐出部
12 固液分離部
13 リン回収部
14 リン回収装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも嫌気槽と好気槽とを備えた生物処理槽で生物脱リン処理を行い、好気槽の槽内液を分離膜によりろ過して膜ろ過水を処理水として取り出し、分離膜で濃縮された汚泥を生物処理槽へ返送するラインから汚泥の一部を取り出してリン回収装置内に取り入れ、嫌気条件下によるリン吐出工程、汚泥とリン含有水との固液分離工程、リン含有水中からリンのリン回収工程とを行わせることを特徴とする膜分離活性汚泥法によるリン回収方法。
【請求項2】
少なくとも嫌気槽と好気槽とを備えた生物処理槽で生物脱リン処理を行い、好気槽の槽内液を分離膜によりろ過して膜ろ過水を処理水として取り出し、分離膜で濃縮された汚泥は生物処理槽へ返送し、嫌気槽から槽内水の一部を取り出してリン回収装置内に取り入れて、汚泥とリン含有水との固液分離工程、リン含有水中からリンのリン回収工程とを行わせることを特徴とする膜分離活性汚泥法によるリン回収方法。
【請求項3】
生物処理槽が、嫌気槽と無酸素槽と好気槽とを備えたものであることを特徴とする請求項1または2記載の膜分離活性汚泥法によるリン回収方法。
【請求項4】
リン回収装置内における固液分離を、浮上分離法または膜ろ過法によって行うことを特徴とする請求項1または2記載の膜分離活性汚泥法によるリン回収方法。
【請求項5】
リン回収装置内におけるリン回収を、リン化合物の晶析法、リン吸着剤による吸着法、凝集剤による沈殿法の何れかによって行うことを特徴とする請求項1または2記載の膜分離活性汚泥法によるリン回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−86864(P2008−86864A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−268293(P2006−268293)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】