説明

自動二輪車のブレーキ装置および自動二輪車のブレーキ制御方法

【課題】 車両挙動を安定させるとともに充分な加速性能を得ることができること。
【解決手段】 運転者の制動操作にかかわらず、車両挙動に応じて少なくとも後輪に制動力を付与するブレーキアクチュエータと、前記後輪に付与する制動力を演算し、前記ブレーキアクチュエータを制御するコントロールユニットと、を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車のブレーキ装置および自動二輪車のブレーキ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の技術としては、特許文献1に記載の技術が開示されている。この公報では、ウィリー状態を判別し、ウィリー状態と判別した場合には動力源の出力を低下させるものが開示されている。
【特許文献1】特開2002−70709号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来技術にあっては、動力源の出力を低下させるため再び出力を増加させるためには時間を要し、充分な加速性能を得ることができないという問題があった。
【0004】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、その目的とするところは車両挙動を安定させるとともに充分な加速性能を得ることができる自動二輪車のブレーキ装置および自動二輪車のブレーキ制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本願発明では、運転者の制動操作にかかわらず、車両の状態に応じて少なくとも後輪に制動力を付与するようにした。
【発明の効果】
【0006】
よって、車両挙動を安定させるとともに充分な加速性能を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の油圧ポンプを実現する最良の形態を、実施例1において説明する。
【実施例1】
【0008】
まず、実施例1の自動二輪車用ブレーキ装置を適用した自動二輪車1の構成について説明する。
[自動二輪車の構成]
図1は自動二輪車の全体側面図である。前輪の制動力付与装置として、ハンドル2に配置したブレーキレバー10と、ブレーキレバー10に入力される握力によってブレーキ液圧を発生させるマスタシリンダ11と、ブレーキ液を貯留するリザーバタンク12と、前輪15とともに回転する前輪ロータ13に制動力を発生させる前輪キャリパ14とを有する。
【0009】
また後輪の制動力付与装置として、フットブレーキ20と、フットブレーキ20に入力される踏力によってブレーキ液圧を発生させるマスタシリンダ21と、ブレーキ液を貯留するリザーバタンク22と、後輪25とともに回転する後輪ロータ23に制動力を発生させる後輪キャリパ24とを有する。また運転者によるブレーキレバー10やフットブレーキ20の操作に関わらず、ブレーキ液圧を発生させるブレーキアクチュエータ30を有する。
【0010】
マスタシリンダ11とブレーキアクチュエータ30とは配管18によって接続され、ブレーキアクチュエータ30と前輪キャリパ14とは配管19によって接続されている。また、マスタシリンダ21とブレーキアクチュエータ30とは配管28によって接続され、ブレーキアクチュエータ30と後輪キャリパ24とは配管29によって接続されている。
【0011】
制御系の構成としては、前輪15、後輪25とともに回転する回転センサローラ16,26と、回転センサローラ16,26の回転角速度を検出する車輪速センサ17,27と、ブレーキアクチュエータ30を制御するコントロールユニット3とを有する。車輪速センサ17,27は検出した車速情報をコントロールユニット3に出力する。
【0012】
運転者がブレーキレバー10を操作することによりマスタシリンダ11で発生したブレーキ液圧は、配管18、ブレーキアクチュエータ30、配管19を介して前輪キャリパ14へ伝達される。前輪キャリパ14は前輪ロータ13を挟み込んで前輪15に制動力を付与する。また、運転者がフットブレーキ20を操作することによりマスタシリンダ21で発生したブレーキ液圧は、配管28、ブレーキアクチュエータ30、配管29を介して後輪キャリパ24へ伝達される。後輪キャリパ24は後輪ロータ23を挟み込んで後輪25に制動力を付与する。
【0013】
[ブレーキアクチュエータの構成]
図2はブレーキアクチュエータ30の構成を示す図である。ブレーキアクチュエータ30は、運転者の制動操作に関わらず自動的にブレーキ液圧を発生させるものである。
【0014】
ブレーキアクチュエータ30は、配管28と配管29との間に設けられた配管35と配管36の2系統を有する。配管35にはモータ32によって駆動されブレーキ液圧を発生させるポンプ31と、ポンプ31とマスタシリンダ21との間の遮断・連通を切り換える常閉の電磁弁である吸入弁33が設けられている。
【0015】
配管36には、配管28と配管29との間の遮断・連通を切り換える常開の電磁弁である保持弁34が設けられている。また保持弁34を迂回するバイパス配管38を備え、このバイパス配管38には配管28側から配管29側へのブレーキ液の流れのみを許可する一方向弁であるチェック弁37が備えられている。
【0016】
吸入弁33、保持弁34、モータ32はコントロールユニット3によって制御されている。運転者の制動操作により制動力を発生させる場合には、吸入弁33、保持弁34、モータ32は非通電状態で、吸入弁33は閉弁、保持弁34は開弁、モータ32は停止状態とする。マスタシリンダ21で発生したブレーキ液圧は配管36を介して後輪キャリパ24に伝達される。
【0017】
自動的にブレーキ液圧を発生させる場合には、吸入弁33、保持弁34、モータ32に通電し、吸入弁33を開弁、保持弁34を閉弁、モータ32を駆動状態とする。モータ32によりポンプ31が駆動され、マスタシリンダ21を介してリザーバタンク22のブレーキ液を吸入しブレーキ液圧を発生させ、このブレーキ液圧は後輪キャリパ24に伝達される。後輪キャリパ24に伝達されるブレーキ液圧は、モータ32によるポンプ31の駆動量や、吸入弁33の開弁量によって制御される。
上記では後輪25用のブレーキアクチュエータ30の構成について説明したが、前輪15用の構成も同様の構成としても良い。
【0018】
[コントロールユニットにおける処理]
図3は実施例1のコントロールユニット3において行われる処理の流れを示すフローチャートである。この処理は一定の制御サイクル毎(例えば5msec毎)に演算が行われる。
【0019】
ステップS1では、ウィリー走行状態を判定する。ウィリー走行状態は前輪15、後輪25の車輪速センサ17,27が検出した車輪速から判定することができる。
ウィリー走行状態では前輪15が浮いているため、前輪15の車輪速はそれまでの車輪速を維持するか、少しずつ低くなる。一方、ウィリー走行状態は通常加速時に生じるため、後輪256車輪速度は高くなる。すなわち、ウィリー走行状態では前輪15と後輪25の車輪速の偏差が大きくなる。
【0020】
しかし、後輪25がホイルスピンをしているときもウィリー走行状態と同様に、前輪15と後輪25の車輪速の偏差が大きくなる。ここで後輪25の車輪加速度からウィリー走行状態とホイルスピン状態を判別する。つまり、ウィリー走行状態においては後輪25の車輪加速度は車両の最大加速度以下であるが、ホイルスピン状態においては後輪25の車輪加速度は車両の最大加速度より大きくなる。
【0021】
ステップS2では、ステップS1の演算結果からウィリー走行状態であるか否かを判定し、ウィリー走行状態である場合にはステップS3へ、ウィリー走行状態でない場合にはリターンへ移行する。
【0022】
ステップS3では、ブレーキアクチュエータ30により後輪25に制動力を付与する。後輪25に制動力を付与することにより車両の加速度を抑制し、前輪15が路面に接地した状態に復帰させる。後輪25に付与する制動力は予め設定した目標制動力(例えば最大0.2Gの制動力)となるように制御する。制動力が大きすぎると前輪15が路面に接地する際の衝撃が大きくなり、また後輪25がロックするおそれがある。制動力は車両に応じて、前輪15の接地時の衝撃や後輪25のロックを避けつつ、ウィリー走行状態を抑制できるように最適化する。
【0023】
前輪15が路面に接地すると、次のサイクルでステップS2においてウィリー走行状態でないとしてステップS3を経由せずにリターンへ移行する。その場合、後輪25の制動制御が解除されるが後輪25の制動力を急激に低下させると、再び急加速してウィリー走行状態となるおそれがある。制動力の解除は車両に応じて、ウィリー走行状態の再発を抑制するように最適化する。
【0024】
[作用]
自動二輪車1を運転中にスロットルを全開にして加速することや、クラッチを急激に繋げたりすることによって、前輪15が浮き上がりウィリー走行状態となることがある。ウィリー走行状態では車両挙動が不安定になり、また旋回性が悪化するおそれがある。
【0025】
動力源の出力を低下させて車両の加速度を減少しウィリー走行状態を抑制させることができる。しかしながら動力源の出力を低下させると、前輪15が路面に接地した後の加速度を戻そうとした場合、動力源の出力を増加させるまでに時間がかかり加速性能が低下する。運転者はウィリー走行状態となるほどスロットの開度を大きくしているため加速要求は高いが、充分な加速性能を得ることができないため運転者に違和感を与えるおそれがある。
【0026】
そこで実施例1では、ウィリー走行状態であると判定した場合には、後輪25に制動力を付与することとした。
動力源の出力を低下させることなく加速度を抑制させることができるため、ウィリー走行状態を抑制させつつ、加速度を復帰させるときには制動力を解除すれば良いため加速度の低下を最小限にとどめることができる。
【0027】
[効果]
(1)運転者の制動操作にかかわらず、車両挙動に応じて少なくとも後輪25に制動力を付与するブレーキアクチュエータ30と、後輪25に付与する制動力を演算し、ブレーキアクチュエータ30を制御するコントロールユニット3とを設けた。
【0028】
よって、動力源の出力を低下させることなく車両挙動を制御することができるため、加速度の低下を最小限にとどめることができる。
【0029】
(2)コントロールユニット3は、車輪速度または車輪加速度に基づきウィリー走行状態を判定し、ウィリー走行状態と判定された場合には、ウィリー走行状態を抑制するようにブレーキアクチュエータ30を制御するようにした。
【0030】
よって、動力源の出力を低下させることなくウィリー走行状態を抑制することができるため、加速度の低下を最小限にとどめることができる。
【実施例2】
【0031】
次に、実施例2の自動二輪車用ブレーキ装置を適用した自動二輪車1の構成について説明する。実施例1と同じ構成については同一の符号を付して説明を省略する。
【0032】
実施例1ではコントロールユニット3はウィリー走行を抑制するようにブレーキアクチュエータ30を制御していたが、実施例2ではコントロールユニット3は下り坂走行時に車速を抑制するようにブレーキアクチュエータ30を制御した点で実施例1と異なる。
【0033】
図4は自動二輪車の全体側面図である。自動二輪車1は前後加速度を検出する前後加速度センサ40と、ハンドル2付近に設けた車速抑制許可スイッチ41とを有する。前後加速度センサ40は検出した前後加速度を、車速抑制許可スイッチ41は運転者による車速抑制制御許可信号をコントロールユニット3に出力する。
車速抑制許可スイッチ41は、下り坂走行時に自動的に車速を抑制することを運転者が希望する場合に操作することで、運転者が制動操作を行うことなく車速を抑制することを許可するスイッチである。
【0034】
[コントロールユニットにおける処理]
図5は実施例1のコントロールユニット3において行われる処理の流れを示すフローチャートである。この処理は一定の制御サイクル毎(例えば5msec毎)に演算が行われる。
【0035】
ステップS11では、自動二輪車1が走行している路面の勾配を演算する。勾配の演算は、車輪速センサ17,27が検出した車輪速情報と前後加速度センサ40が検出した前後加速度情報に基づいて演算する。前後加速度センサ40は、下り坂を走行中には重力加速度の影響を受けるため、路面の勾配が大きいほど検出した前後加速度は自動二輪車1の実際の前後加速度に対して偏差が生じる。
【0036】
まず、前輪15の車輪速センサ17と後輪25の車輪速センサ27のうち大きい方の車輪速を車体速として推定し、車体速の変化量から車体加速度を推定する。推定した車体加速度と前後加速度センサ40が検出した前後加速度との偏差から路面の勾配を演算する。
【0037】
ステップS12では、車速抑制許可スイッチ41に操作され車速抑制が許可されているか否かを判断し、車速抑制が許可されている場合にはステップS13へ移行し、車速抑制が許可されていない場合にはリターンへ移行する。
【0038】
ステップS13では、ステップS11で演算した路面の勾配が所定値より大きいか否かを判断し、所定値より大きい場合にはステップS14へ移行し、所定値以下である場合にはリターンへ移行する。
ステップS14では、ブレーキアクチュエータ30により後輪25に制動力を付与する。
【0039】
図6はステップS14において行われる制動力制御の流れを示すフローチャートである。
ステップS21では、推定車体速度が目標車体速度よりも大きいか否かを判断し、推定車体速度が目標車体速度よりも大きい場合にはステップS22へ移行し、推定車体速度が目標車体速度以下である場合にはステップS23へ移行する。
【0040】
ステップS22では、ブレーキアクチュエータ30に制動力増加の指令を出力してリターンへ移行する。
ステップS23では、ブレーキアクチュエータ30に制動力減少の指令を出力してリターンへ移行する。
【0041】
ブレーキアクチュエータ30に制動力の制御は前輪15および後輪25の制動力を制御しても良いし、どちらか一方の制動力を制御するようにしても良い。
【0042】
[作用]
急な下り坂などでは運転者が車両のバランスを取ることに集中することにより、車両挙動を安定させることができる。しかしながら、同時に制動操作も行わなくてはならないため車両挙動を安定させることが困難であった。
【0043】
そこで実施例2のコントロールユニット3では、下り坂走行時に車速を抑制するようにブレーキアクチュエータ30を制御した。
車速の調整を自動化することができるため、運転者は車両のバランスをとることに集中することが可能となり、車両挙動を安定させることができる。
【0044】
[効果]
(3)コントロールユニット3は、下り坂走行状態と判定された場合には、車速を抑制するようにブレーキアクチュエータ30を制御するようにした。
車速の調整を自動化することができるため、運転者は車両のバランスをとることに集中することが可能となり、車両挙動を安定させることができる。
【0045】
[他の実施例]
以上、本発明を実施するための最良の形態を、実施例1および実施例2に基づいて説明してきたが、各発明の具体的な構成は各実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても、本発明に含まれる。
【0046】
実施例1では、ウィリー走行状態を判定するために前輪15と後輪25の車輪速に基づいて判定していたが、例えば前後加速度センサにより検出した前後加速度が、車両の最大加速度よりも所定値以上大きい場合にはウィリー走行状態と判定するようにしても良い。また、車両の傾きを検出するセンサを設け、車両の傾きが所定値以上である場合にはウィリー走行状態であると判定するようにしても良い。また、前輪15のサスペンションストロークを検出するセンサを設け、サスペンションが伸びた状態が所定時間以上経過した場合にはしてウィリー走行状態であると判定するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】実施例1の自動二輪車の全体側面図である。
【図2】実施例1のブレーキアクチュエータの構成を示す図である。
【図3】実施例1のコントロールユニットにおいて行われる処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】実施例2の自動二輪車の全体側面図である。
【図5】実施例2のコントロールユニットにおいて行われる処理の流れを示すフローチャートである。
【図6】実施例2のコントロールユニットにおいて行われる処理の流れを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0048】
1 自動二輪車
3 コントロールユニット
15 前輪
17 車輪速センサ
25 後輪
27 車輪速センサ
30 ブレーキアクチュエータ
40 前後加速度センサ
41 車速抑制許可スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者の制動操作にかかわらず、車両挙動に応じて少なくとも後輪に制動力を付与するブレーキアクチュエータと、
前記後輪に付与する制動力を演算し、前記ブレーキアクチュエータを制御するコントロールユニットと、
を設けたことを特徴とする自動二輪車用ブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の自動二輪車用ブレーキ装置において、
前記コントロールユニットは、車輪速度または車輪加速度に基づきウィリー走行状態を判定するウィリー走行判定部を有し、前記ウィリー走行状態と判定された場合には、前記ウィリー走行状態を抑制するように前記ブレーキアクチュエータを制御することを特徴とする自動二輪車用ブレーキ装置。
【請求項3】
請求項1に記載の自動二輪車用ブレーキ装置において、
前記コントロールユニットは、下り坂走行状態を判定する下り坂走行判定手段を有し、前記下り坂走行状態と判定された場合には、車速を抑制するように前記ブレーキアクチュエータを制御することを特徴とする自動二輪車用ブレーキ装置。
【請求項4】
車輪速度または車輪加速度に基づきウィリー走行状態を判定し、
前記ウィリー走行状態と判定した場合には、ウィリー走行を抑制するように後輪に制動力を付与する自動二輪車のブレーキ制御方法。
【請求項5】
下り坂走行状態を判定し、
前記下り坂走行状態と判定した場合には、車速を抑制するように後輪に制動力を付与する自動二輪車のブレーキ制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−214855(P2009−214855A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−63517(P2008−63517)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】