説明

自動変速機のレンジ切換制御装置

【課題】 従来よりもさらに、後方から追突された場合の移動距離を短くすることができる自動変速機のレンジ切換制御装置を提供すること。
【解決手段】 セレクト操作入力部1と、アクチュエータ3と、位置センサ33と、制御器2と、を備える自動変速機のレンジ切換制御装置において、車両後部からの衝突を検出する後部衝突センサ6を設け、制御器2は、車両後部からの衝突を検出した場合に、レンジ位置がPレンジ位置ならば、レンジ位置をNレンジ位置へ切り換えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操作者のセレクト操作を検知し、電気的にアクチュエータを制御して、自動変速機のレンジ切換を行うシフトバイワイヤ式システムにおける自動変速機のレンジ切換制御装置の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来において、シフトバイワイヤシステムでは、操作者のセレクト操作により位置信号が出力され、この位置信号に応じてアクチュエータが作動されて自動変速機のレンジ位置が切り換えられ、さらに、アクチュエータによるレンジ位置切換えのタイムラグ抑制のためにレンジ位置の中間位置を検出した制御を行っている(例えば、特許文献1参照。)。
また、衝突時にDレンジ位置またはRレンジ位置の時、車両の意図しない動きを避けるためにレンジ位置を中立状態に移動するものもある(例えば、特許文献2参照。)。
また、渋滞時走行モードを設け、追突された時には前方車両との衝突(2次衝突)を防止するためにブレーキをかけているものもある(例えば、特許文献3参照。)。
【特許文献1】特開2002−349703号公報(第2−5頁、全図)
【特許文献2】特開2002−139143号公報(第2−15頁、全図)
【特許文献3】特開2000−158973号公報(第2−17頁、全図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の自動変速機のレンジ切換制御装置にあっては、自動変速機のレンジ位置がPレンジ位置の状態で停車中に車両後方から追突された場合、衝撃で車両が押し出される。その際には、極力移動距離を短くし、他の車両や人への2次衝突を避けたいという要求がある。また、その移動距離を短くする処置は確実に行われることが望まれる。
【0004】
本発明は、上記問題点に着目してなされたもので、その目的とするところは、従来よりもさらに、後方から追突された場合の移動距離を短くすることが確実にできる自動変速機のレンジ切換制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明では、運転者がレンジ位置のセレクト操作を入力する操作入力手段と、モータと減速機構により自動変速機のレンジ切換手段を作動させるアクチュエータと、前記アクチュエータが作動させるレンジ位置を検出するレンジ位置検出手段と、前記セレクト操作と検出されたレンジ位置に基づき前記アクチュエータを制御する制御手段と、を備える自動変速機のレンジ切換制御装置において、車両後部からの衝突を検出する衝突検出手段を設け、フットブレーキを駆動でオンにするフットブレーキ駆動手段を設け、前記制御手段は、車両後部からの衝突を検出し、レンジ位置がPレンジ位置の場合にレンジ位置をNレンジ位置へ切り換え、且つ前記フットブレーキ駆動手段を作動させてフットブレーキを駆動でオンにする、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
よって、本発明にあっては、従来よりもさらに、後方から追突された場合の移動距離を確実に短くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の自動変速機のレンジ切換制御装置を実現する実施の形態を、請求項1に係る発明に対応する実施例1と、実施例2に基づいて説明する。
【実施例1】
【0008】
まず、構成を説明する。
図1は実施例1のシフトバイワイヤシステムのシステムブロック図である。
実施例1のシフトバイワイヤシステムは、セレクト操作入力部1、制御器2、アクチュエータ3、自動変速機4、ワイヤケーブル5、後部衝突センサ6、フットブレーキ駆動装置7を主要な構成としている。
セレクト操作入力部1は、切換えるレンジ位置(セレクト位置)を入力するものであり、セレクトレバーにより入力するものであっても、スイッチにより入力するものであってもよい。入力されたセレクト位置は制御器2に出力される。
【0009】
制御器2は、セレクト操作入力部1や後部衝突センサ6、自動変速機側のレンジ位置から、目標として設定されたセレクト位置にレンジ位置が一致するように、アクチュエータ3を駆動させて自動変速機4のレンジ位置を切換えるよう制御を行う。
アクチュエータ3は、モータ31と減速機構32、位置センサ33を備えている。制御器2の制御によりモータ31が駆動され、減速機構32によりモータ31の出力を減速して、機構に接続されるワイヤケーブル5をプッシュプルする。
【0010】
これによりワイヤケーブル5の1端を取り付けた自動変速機4の制御レバー(図示せず)を操作し、レンジ位置の切換えを行う。
また、位置センサ33は機構の位置変位を検出することで、自動変速機4のレンジ位置を検出し、制御器2へ出力する。
後部衝突センサ6は、車両後部への衝撃などを検出することで、車両後部への衝突を検知するセンサ6である。
なお、本実施例1のシフトバイワイヤシステムを搭載した車両は、ABS(アンチロックブレーキングシステム)を搭載しているものとする。
【0011】
さらに実施例1では、ドライバの操作にかかわらず、制御でフットブレーキを作動させるフットブレーキ駆動装置7を設ける。
このフットブレーキ駆動装置7は、実施例2においては、ABSシステム8の一部として設けられる。
【0012】
次に作用を説明する。
[シフトバイワイヤシステムについて]
実施例1のシフトバイワイヤシステムでは、セレクト操作入力部1にセレクト位置が入力されると、そのセレクト位置は電気信号として制御器2に入力される。制御器2では、位置センサ33からのレンジ位置の情報による現在のレンジ位置とセレクト位置を比較し、一致しない場合には、レンジ位置がセレクト位置になるように、アクチュエータ3を駆動させ、ワイヤケーブル5により接続した自動変速機4の制御レバーを操作してレンジ位置を切換える。
言い換えると、セレクト位置を目標とするフィードバック制御により、レンジ位置をアクチュエータ3で切換えるよう駆動制御を行う。
これによって、操作しているドライバは、従来よりも小型で軽いレバー操作、あるいはスイッチへの簡単な入力操作で、レンジ位置の切換えを行うことができる。
【0013】
[車両後部への衝突時の処理]
図2に示すのは、実施例1の自動変速機のレンジ切換制御装置の制御器で実行される車両後部への衝突時の処理の流れを示すフローチャートで、以下各ステップについて説明する。
ステップS1では、後部衝突センサ6からの信号により後続車両が自車に追突したかどうかの判定を以下のステップで行うことを示す。
【0014】
ステップS2では、後部衝突センサ6からの信号により後続車両が自車に追突したかどうかを判断し、衝突したならばステップS3へ進み、衝突していないならば処理を終了する。
【0015】
ステップS3では、自動変速機4のレンジ位置がPレンジ位置かどうかを判断し、Pレンジ位置ならばステップS4へ進み、Pレンジ位置でないならば処理を終了する。
【0016】
ステップS4では、セレクト操作入力部1から入力されるセレクト位置にかかわらず、強制的に、レンジ位置をNレンジ位置へ切換えるようアクチュエータ3を駆動する。
【0017】
ステップS5では、フットブレーキ駆動装置7へ作動指令を出力し、強制的にフットブレーキをオンにする。
【0018】
[後部衝突時の移動距離短縮作用]
実施例1の自動変速機のレンジ切換制御装置では、衝突を検知した際に、Pレンジ位置の場合は強制的にNレンジ位置へ切換える。
すると、後部に衝突された自車は、その衝撃力により前方へ移動しようとする。
実施例1では、ステップS5の処理により、Nレンジ位置への切換えとともにフットブレーキ駆動装置7を作動させ、強制的にフットブレーキをオンにする。
【0019】
すると、後部に衝突された自車が、その衝撃力により前方へ移動する際、ドライバがフットブレーキを踏まない、あるいは踏めない場合であっても、強制的にフットブレーキ駆動装置7によりフットブレーキがオンになり、さらにABSが作動し、タイヤがロック状態にならず制動距離が短く抑えられる。
【0020】
Pレンジ位置のままで衝突された場合には、Pレンジ位置であることによりABSが作動しないように車両が制御しているため、タイヤがロック状態になってしまうと、制動距離は長いものとなってしまう。
なお、ABSを作動させるためには、Dレンジ位置へ切換えることも考えられるが、Dレンジ位置ではABSが作用して停止後、車両がクリープによりさらに前方へ移動して2次衝突になる可能性が生じるため、Nレンジ位置にしている。
【0021】
このように、通常走行における場合のみならず、後方衝突時にもABSを作動させるようにレンジ位置を切換えることにより、従来よりもさらに、後方衝突時の車両の移動距離を短縮することができる。
【0022】
さらに、強制的にフットブレーキをオンにするので、後方衝突時の車両の移動距離を短縮することが、さらに確実に行われるようにできる。
なお、この制御が一度作動すると、フットブレーキのオン状態が以後継続することになるが、一度車両のIGN電源をオフにすることでブレーキ作動状態を解除するようにすればよい。
【0023】
次に、効果を説明する。
実施例1の自動変速機のレンジ切換制御装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0024】
(1)運転者がレンジ位置のセレクト操作を入力するセレクト操作入力部1と、モータ31と減速機構32により自動変速機4の制御レバーを作動させるアクチュエータ3と、アクチュエータ3が作動させるレンジ位置を検出する位置センサ33と、セレクト操作と検出されたレンジ位置に基づきアクチュエータ3を制御する制御器2と、を備える自動変速機のレンジ切換制御装置において、車両後部からの衝突を検出する後部衝突センサ6を設け、フットブレーキを駆動でオンにするフットブレーキ駆動装置7を設け、制御器2は、車両後部からの衝突を検出し、レンジ位置がPレンジ位置の場合にレンジ位置をNレンジ位置へ切り換え、且つフットブレーキ駆動装置7を作動させてフットブレーキを駆動でオンにするため、ドライバがフットブレーキを操作しないか、操作できない場合であっても、確実に後部衝突の際の車両の前方への意図しない移動距離を短縮することができる。
【0025】
また、現在においては、広く車両に採用されているABSシステムを用いることによって、既存の車両においてもコストを抑制して装備できる点が有利である。
【実施例2】
【0026】
実施例2は、後方衝突の際に、ドライバがフットブレーキを作動させるようにした例である。
図3に示すのは、実施例2のシフトバイワイヤのシステムブロック図である。
実施例2では、ドライバの操作によりフットブレーキを作動させる。
実施例2において車両は、ABSシステム8を設けているものとする。
【0027】
[車両後部への衝突時の処理]
図4に示すのは、実施例2の自動変速機のレンジ切換制御装置の制御器で実行される車両後部への衝突時の処理の流れを示すフローチャートで、なお、実施例1の図2のフローチャートと同様の処理を行うステップで構成されるので同じ符号を付し、説明を省略する。
【0028】
実施例2では、実施例1のステップS5の処理を行わないステップS1〜S4の処理を行う。
【0029】
[後部衝突時の移動距離短縮作用]
実施例2の自動変速機のレンジ切換制御装置でも、衝突を検知した際に、Pレンジ位置の場合は強制的にNレンジ位置へ切換える。
これに対し、ドライバは意図しない自車の前進を止めようとフットブレーキを踏み込むことになる。このブレーキング状態において、Nレンジ位置に切り換えたことにより、ABSが作動し、タイヤがロック状態にならず制動距離が短く抑えられる。
【0030】
次に、効果を説明する。
実施例2の自動変速機のレンジ切換制御装置にあっては、実施例1の(1)の効果のように確実なものではないが、ドライバの要求などにより、ドライバが主体となる実施例2のような構成作用を行うようにしてもよい。
また、実施例1の自動変速機のレンジ切換制御装置において、実施例2のようなドライバ主体のモードを加えて、ドライバの選択操作により切り替えるようにしてもよい。その場合には、ドライバの意思を尊重した制御にして、後部衝突の際の車両の前方への意図しない移動距離を短縮することができる。
よって、このような場合には下記の効果を得ることができる。
【0031】
(2) (1)において、制御器2は、車両後部からの衝突を検出し、レンジ位置がPレンジ位置の場合にレンジ位置をNレンジ位置へ切り換える際のフットブレーキ駆動装置7の作動を予めドライバの選択により設定するため、ドライバの意思を尊重した制御にして、後部衝突の際の車両の前方への意図しない移動距離を短縮することができる。
【0032】
以上、本発明の自動変速機のレンジ切換制御装置を実施例1、実施例2に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0033】
例えば、実施例1では、フットブレーキ駆動装置はABSシステムに組み込まれたものとしたが、システムと別に設けられるものであってもよい。
ここで、例えば、フットブレーキ駆動装置の例について、説明しておく、フットブレーキ駆動装置は、アクチュエータと機構により、マスタシリンダへの入力系統へのオン入力、つまり、ドライバの操作入力を駆動と機構により行うものであってもよい。
また、例えば、フットブレーキ駆動装置として、ABSシステムにおける回路あるいはプログラムとして設けるようにし、ABSシステムにおけるマスタシリンダへの供給油圧コントロールにより、強制的にブレーキをオンにするものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施例1のシフトバイワイヤシステムのシステムブロック図である。
【図2】実施例1の自動変速機のレンジ切換制御装置の制御器で実行される車両後部への衝突時の処理の流れを示すフローチャート図である。
【図3】実施例2のシフトバイワイヤのシステムブロック図である。
【図4】実施例2の自動変速機のレンジ切換制御装置の制御器で実行される車両後部への衝突時の処理の流れを示すフローチャート図である。
【符号の説明】
【0035】
1 セレクト操作入力部
2 制御器
3 アクチュエータ
31 モータ
32 減速機構
33 位置センサ
4 自動変速機
5 ワイヤケーブル
6 後部衝突センサ
7 フットブレーキ駆動装置
8 ABSシステム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者がレンジ位置のセレクト操作を入力する操作入力手段と、
モータと減速機構により自動変速機のレンジ切換手段を作動させるアクチュエータと、
前記アクチュエータが作動させるレンジ位置を検出するレンジ位置検出手段と、
前記セレクト操作と検出されたレンジ位置に基づき前記アクチュエータを制御する制御手段と、
を備える自動変速機のレンジ切換制御装置において、
車両後部からの衝突を検出する衝突検出手段を設け、
フットブレーキを駆動でオンにするフットブレーキ駆動手段を設け、
前記制御手段は、
車両後部からの衝突を検出し、レンジ位置がPレンジ位置の場合にレンジ位置をNレンジ位置へ切り換え、且つ前記フットブレーキ駆動手段を作動させてフットブレーキを駆動でオンにする、
ことを特徴とする自動変速機のレンジ切換制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−13084(P2008−13084A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−187368(P2006−187368)
【出願日】平成18年7月7日(2006.7.7)
【出願人】(000004765)カルソニックカンセイ株式会社 (3,404)
【Fターム(参考)】