説明

自動車のバッテリ搭載構造

【課題】
バッテリをダッシュ部の直後に配置し、このバッテリとカウル部とを空気流通可能に連結する連通ダクトを設けることで、カウル部より外気を最短経路でバッテリに導入することができ、これにより、連通ダクトの大幅な短縮を図って、そのレイアウトスペースの狭小化と圧力損失の低減との両立を図ることができる自動車のバッテリ搭載構造の提供を目的とする。
【解決手段】
車室2内の前部に車両駆動用のバッテリ30を配置する自動車のバッテリ搭載構造であって、車室2前部は、車室2とその前方のエンジンルーム1とを仕切るダッシュ部3と、上記ダッシュ部3の上端部に配置され外気と連通する断面12Aを有するカウル部12とを含み、上記バッテリ30は上記ダッシュ部3の直後に配置され、上記バッテリ30とカウル部12とを空気流通可能に連結する連通ダクト58を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車室内の前部に車両駆動用のバッテリを配置するような自動車のバッテリ搭載構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、バッテリを車両に搭載した構造としては、特許文献1および特許文献2に開示された構造がある。
【0003】
前者の特許文献1には、エンジンルームと車室内とを前後方向に仕切るダッシュパネルを設け、このダッシュパネル直後の助手席側にのみバッテリを配置し、このバッテリをパンタグラフ移動機構により支持させたものである。
【0004】
この従来構造によれば、重量物としてのバッテリがダッシュパネル直後に位置しているので、バッテリをエンジンルーム内に搭載する構造と比較して、車両のヨー慣性モーメントを小さくすることができ、しかも、上述のバッテリはパンタグラフ移動機構によりカウルボックス下部に固定されているため、車室内における乗員の居住スペースが狭められることもない。しかしながら、上述のバッテリに対する冷却構造については何等の開示も示唆もない。
【0005】
後者の特許文献2には、車室2の床面を構成するフロア下部にバッテリ収容室を形成し、このバッテリ収容室にバッテリを格納する一方、インストルメントパネル内部に車室内空調装置を設け、この空調装置を用いてバッテリに冷却風を送風すると共に、カウルボックスからバッテリ冷却風を導く構造が開示されている。
【0006】
しかし、この従来構造においてはインストルメントパネルの下部位置からその後方のバッテリ収容室まで空気ダクトのダクト長が長くなるため、空気抵抗が大きくなり、圧力損失が大きく、送風用のファンが必要不可欠となる。加えてダクト長が長い空気ダクトを配設する必要があるので、この空気ダクトの過大なレイアウトスペースを要するという問題点があった。
【特許文献1】特開平7−315057号公報
【特許文献2】特許第3125198号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、この発明は、バッテリ(燃料電池およびキャパシタを含む)をダッシュ部の直後に配置し、このバッテリとカウル部とを空気流通可能に連結する連通ダクトを設けることで、カウル部より外気を最短経路でバッテリに導入することができ、これにより、連通ダクトの大幅な短縮を図って、そのレイアウトスペースの狭小化と圧力損失の低減との両立を図ることができる自動車のバッテリ搭載構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明による自動車のバッテリ搭載構造は、車室内の前部に車両駆動用のバッテリを配置する自動車のバッテリ搭載構造であって、車室前部は、車室とその前方のエンジンルームとを仕切るダッシュ部と、上記ダッシュ部の上端部に配置され外気と連通する断面を有するカウル部とを含み、上記バッテリは上記ダッシュ部の直後に配置され、上記バッテリとカウル部とを空気流通可能に連結する連通ダクトを備えたものである。
【0009】
上記構成によれば、バッテリをダッシュ部の直後に配置し、このバッテリに対してカウル部から連通ダクトを介して空気を流通させるので、このカウル部より外気を最短経路にてバッテリに導入することができる。この結果、連通ダクトのダクト長を短くすることができ、ダクトのレイアウトスペースの狭小化と圧力損失の低減との両立を図りつつ、バッテリ冷却構造を確保することができる。
【0010】
この発明の一実施態様においては、上記バッテリは車幅方向に延在し、上記バッテリを冷却した空気を車体前部の側面部を介して車外に排出する排出ダクトを備えたものである。
【0011】
上述の排出ダクトはバッテリと車体側とを連通するものであればよく、この排出ダクトはバッテリ側に設けてもよく、或いは車体側に設けてもよい。
【0012】
上記構成によれば、バッテリを冷却した空気を車体側面から車外に排出することができる。しかも、フロントウインド下部のカウル部には空力特性上、空気をカウル断面内に押込む方向の正圧が作用し、上述の車体側部には空力特性上、空気を車外に吸い出す方向の負圧が作用するので、バッテリ内の冷却風の排出ダクトへ向けた流れが励起され、これにより、バッテリ冷却効率の向上を図ることができる。
【0013】
この発明の一実施態様においては、上記カウル部はダッシュ部より車内側に突出して配置され、上記バッテリは平面視でカウル部とオーバラップしてその下方に配置され、上記連通ダクトは鉛直方向に延在するものである。
【0014】
上記構成によれば、カウル部下方のスペースを有効利用して、効率よくバッテリを収納することができる。
【0015】
この発明の一実施態様においては、上記ダッシュ部の下方にはフロア部に向けて後方に傾斜したトーボード部が接続され、上記バッテリはトーボード部と上記カウル部との間の空間に収容されると共に、上記バッテリはダッシュ部およびトーボード部に支持されたものである。
【0016】
上記構成によれば、傾斜したトーボード部の上方を有効利用して、バッテリスペースの拡大を図ることができ、バッテリの荷重は上記トーボード部で下方から支持することができるので、バッテリ容量の向上とバッテリ支持強度の向上との両立を図ることができる。
【0017】
この発明の一実施態様においては、上記ダッシュ部には、フロア部の車幅方向中央部で車室内に突出したフロアトンネル部の前端部が接続され、上記バッテリは該フロアトンネル部を跨いで運転席側と助手席側とにわたって配置されたものである。
【0018】
上記構成によれば、バッテリがフロアトンネル部を跨いで運転席側と助手席側とにわたるので、バッテリ容量の拡大を図ることができ、またバッテリがフロアトンネル部を跨ぐので、特に、車幅方向においてバッテリを安定して保持させることができる。
【0019】
この発明の一実施態様においては、上記バッテリはダッシュ部の直後に配置されると共に、助手席側においてのみ車幅方向に延びるように設けられたものである。
【0020】
上記構成によれば、バッテリ搭載構造の簡略化を図ることができる。つまり、運転席側にはダッシュ部を車両の前後方向に貫通するステアリングシャフトが存在するので、バッテリを運転席側にも設ける場合には、このステアリングシャフトを考慮した構成が必要不可欠となるが、バッテリを助手席側にのみ設ける場合には、その搭載構造の簡略化を図ることができる。
【0021】
また、一般に自動車にはドライバが単独で乗車する確率が高いが、このような場合に車両の左右の重量バランスを確保することができる。
【発明の効果】
【0022】
この発明によれば、バッテリをダッシュ部の直後に配置し、このバッテリとカウル部とを空気流通可能に連結する連通ダクトを設けたので、カウル部より外気を最短経路でバッテリに導入することができ、これにより、連通ダクトの大幅な短縮を図って、そのレイアウトスペースの狭小化と圧力損失の低減との両立を図りつつ、バッテリ冷却構造を確保することができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
カウル部より外気を最短経路でバッテリに導入することができ、これにより、連通ダクトの大幅な短縮を図って、そのレイアウトスペースの狭小化と圧力損失の低減との両立を図りつつ、バッテリ冷却構造を確保するという目的を、車室内の前部に車両駆動用のバッテリを配置する自動車のバッテリ搭載構造において、車室前部は、車室とその前方のエンジンルームとを仕切るダッシュ部と、ダッシュ部の上端部に配置され外気と連通する断面を有するカウル部とを含み、バッテリは上記ダッシュ部の直後に配置され、バッテリとカウル部とを空気流通可能に連結する連通ダクトを備えるという構成にて実現した。
【実施例】
【0024】
この発明の一実施例を以下図面に基づいて詳述する。
図面は自動車のバッテリ搭載構造を示し、図1〜図3において、エンジンルーム1と車室2とを前後方向に仕切るダッシュロアパネル3(ダッシュ部)を設けている。このダッシュロアパネル3は、フロントサイドフレーム4(フロントフレーム)の高さ位置からフロアパネル5底部までの間で、車室2とエンジンルーム1とを前後方向に仕切り、かつ後方に傾斜するトーボード部6(傾斜部)を備えている。
【0025】
上述のダッシュロアパネル3の前高後低状に傾斜するトーボード部6の下端部には、後方に向けて略水平に延びるフロアパネル5を一体または一体的に連設し、このフロアパネル5の車幅方向中央部には車室2内に突出して、車両の前後方向に延びるフロアトンネル部7(以下単にトンネル部と略記する)を設けている。ここで、上述のトンネル部7の前端部はダッシュロアパネル3に接続されたものである。
【0026】
図2は図1の要部拡大図であって、同図に示すように、上述のダッシュロアパネル3の上端部には、ダッシュアッパパネル8、カウルフロントパネル9、カウルアッパパネル10、カウルメンバ11から成るカウル部12を取付けている。
【0027】
このカウル部12はダッシュ部より車室2内側に突出すると共に、車幅方向に延びるもので、上述のカウルアッパパネル10とカウルメンバ11との間には同方向に延びる閉断面13が形成されており、図1に示すように、上述のカウルメンバ11には、ダムと、シーラント等の接着剤とを介して、フロントウインド14の傾斜下端部が接合固定されている。
【0028】
一方、前述のダッシュロアパネル3の車幅方向両端部には、図3に示すようにサイドパネル15,15を接合し、このサイドパネル15の車外側にはスプラッシュシールド16を介してフロントフェンダ17を設ける一方、サイドパネル15の後部にはヒンジピラー18を接合し、このヒンジピラー18とサイドパネル15との間には上下方向に延びるヒンジピラー閉断面19が形成されている。
【0029】
上述のヒンジピラー18は、ドアヒンジ(図示せず)を介してフロントドア20を開閉可能に支持するものである。このフロントドア20はドアアウタパネル21とドアインナパネル22とを備えている。
【0030】
図1、図3に示すように、上述のエンジンルーム1内の左右両サイドには車両の前後方向に延びる車体剛性部材としてのフロントサイドフレーム4,4を設けている。このフロントサイドフレーム4の後部はダッシュロアパネル3に沿って立下がり、この立下り部(いわゆるキックアップ部)の後部にはフロアフレーム(図示せず)が車両の前後方向に連続するように接続されている。
【0031】
また、図1、図3に示すように、上述の左右一対のフロントサイドフレーム4,4間には、図示しないエンジンマウントを介してエンジン23(例えばロータリエンジン)が搭載されている。このエンジン23の出力側つまり後部には、ISG24(インテグレーテッド・スタータ・ジェネレータ、スタータとジェネレータとを内蔵したもの)およびトランスミッション25が連結されていて、これらのISG24およびトランスミッション25は上述のトンネル部7の車外側下部空間内に位置するように配設されている。
【0032】
さらに、図1に示すように上述の左右一対のフロントサイドフレーム4,4の前端部相互間には、ラジエータとクーリングファンとを備えたクーリングユニット26が設けられている。なお、図1、図3において、27は前輪、28はボンネット、29はステアリングギヤ部である。
【0033】
ところで、図1〜図3に示すように、車室2内の前部には車両駆動用のバッテリ30を配置するが、このバッテリ30はバッテリケース31と、このケース31内の運転席側および助手席側の双方に密集して格納された多数のバッテリセル32とを備えている。
【0034】
図3に平面図で示すように、上述のバッテリ30はダッシュロアパネル3の車内側に沿って、運転席側と助手席側(この実施例では右側がドライバーズ側、左側がパッセンジャーズ側)との車幅方向全幅にわたってインストルメントパネル33の前方に配置されている。
【0035】
また、図2、図3に示すように、上述のバッテリ30は、ダッシュロアパネル3に結合されたトンネル部7を跨いで左右双方に連続配置されると共に、図2に側面図で示すように、該バッテリ30は車両側面視においてトンネル部7とオーバラップし、このバッテリ30の一部乃至過半部はトンネル部7の上端部7aよりも下方に位置するように配置されている。
【0036】
さらに、図2に示すように、上述のバッテリ30はカウル部12におけるダッシュアッパパネル8の下面と、トーボード部6の上面とに沿って、これら両者12,6間の空間34に配置されている。なお、バッテリケース31の上面とダッシュアッパパネル8の下面との間にはラバー部材35が介設されている。
【0037】
上述のバッテリ30がトンネル部7を跨ぐ構造、並びにトーボード部6の上面に沿う構造を達成するために、図4、図5に示すように、バッテリケース31の車幅方向中央部には、トンネル部7と対応して、下方が開放する凹部31aを形成すると共に、前側下部には、トーボード部6と対応して、前高後低状に傾斜するスラント部31b,31cを形成している。
【0038】
しかも、上述のバッテリ30の運転席側には、ステアリングシャフト36を前後方向に挿通するために、上方が開放した凹部31dを形成すると共に、この凹部31dによりバッテリ30の運転席側の重量は、その助手席側の重量に対して小さく設定されている。
【0039】
上述のステアリングシャフト36の車室2側にはステアリングホイール37が設けられ、ステアリングシャフト36は上述の凹部31dおよびダッシュロアパネル3を挿通してエンジンルーム1内に延び、その先端部は図1に示すようにステアリングギヤ部29に連動連結されていて、ステアリングホイール37の操舵力をステアリングギヤ部29を介して左右の前輪27,27に伝達すべく構成している。
【0040】
図2に示すように、バッテリ30を車体に取付けるために、そのバッテリケース31の左右の前側上部、前側中間部、前側下部(但し、図2では左右のうちの左側つまり助手席に対応する側のみを示す)には取付け片38,39,40を一体または一体的に設けている。
【0041】
そして、これらの各取付け片38,39,40と対応するように、ダッシュロアパネル3およびトーボード部6には、エンジンルーム1側から車室2側に向けて複数のボルト41を突設し、これらの各ボルト41に締付けるナット42を用いて、上述の取付け片38,39,40を介してバッテリケース31を車体側(ダッシュロアパネル3、トーボード部6参照)に固定すべく構成している。
【0042】
図1、図3に示すように、インストルメントパネル33の車幅方向中央部には、空調装置としての空調ユニット43が収容されている。この空調ユニット43はその内部にブロア44、ヒータコア45およびドア(図示せず)を内蔵し、この空調ユニット43は図1、図2に示すように、上述のバッテリ30の後方に隣接して配置されている。
【0043】
図2に示すように、空調ユニット43の外気取入れ口46は、外気と連通するカウル断面12Aをもった上述のカウル部12のダッシュアッパパネル8における後面部に該カウル断面12Aと連通するように取付けられている。
【0044】
また、図2〜図5に示すように上述の空調ユニット43には、デフロスタダクト47、センタベントダクト48、サイドベントダクト49,49、バッテリ用ダクト50を備え、空調ユニット43の上部からカウルアッパパネル10とインストルメントパネル33との間を前方に向けて延びるデフロスタダクト47の先端上部にはデフロスタ吐出口51が形成されている。
【0045】
空調ユニット43の後部から後方に向けて延びるセンタベントダクト48の後部にはベント吐出口52が形成されると共に、このベント吐出口52には図3に示すように空調風を運転席側と助手席側とに分岐する分岐ダクト53が連通接続されている。
【0046】
空調ユニット43の側部から車幅方向左右に向けて延びる一対のサイドベントダクト49,49の両端部には、それぞれボックス54,54を設け、このボックス54にはサイドベント吐出口55を形成している。
【0047】
空調ユニット43の前部から前方に向けて延びるバッテリ用のダクト50はその直前部に位置するバッテリケース31と連通接続されていて、ブロア44下流の空気または空調風をバッテリケース31内に導入して、バッテリ30、特にそのバッテリケース31内のバッテリセル32を冷却(または寒冷時に加熱)すべく構成している。
【0048】
ところで、図2に示すようにカウル部12のダッシュアッパパネル8には、雨水の侵入を防ぐために、その低部から上方に立ち上がるダクト8aが一体または一体的に形成され、このダクト8aの上端開口部にはゴミ等の異物進入を防止する目的で、メッシュ部材56が張架されている。
【0049】
カウル断面12Aが外気と連通する連通部12aは、車両走行時に空力特性上、正圧(走行風をカウル断面12A内に押込む方向の空気圧)が作用する部位であるが、上述のダクト8a内にはバッテリ冷却用の送風ファン57が設けられている。
【0050】
そして、上述のダクト8a内部とバッテリ30のバッテリケース31内部とを連通する連通ダクト58を設け、この連通ダクト58によりバッテリ30とカウル部12とを空気流通可能に連結し、カウル部12から外気を最短経路にてバッテリ30に導入すべく構成している。なお、図4、図5では連通ダクト58のバッテリケース31側の連通部58aのみを示している。
【0051】
上述のバッテリ30はダッシュロアパネル3の直後に配置されて、車幅方向に延びるものであって、このバッテリ30におけるバッテリケース31の左右両端部には図2、図3に示すように、排気ダクト59を連通接続し、図3に点線矢印で示すようにバッテリセル32冷却後の空気を車体前部側面部のフロントフェンダ17後端とフロントドア20前端との間の隙間から車外に排出すべく構成している。
【0052】
つまり、上述の排出ダクト59はバッテリ30と車体前部側面部を通じて外気と連通するダクトであり、また上述の隙間は車両走行時に空力特性上、負圧(隙間から空気を車外へ吸い出す方向の空気圧)が作用する部位であるから、フロントウインド14下部のカウル部12に作用する正圧と、隙間に作用する負圧との両者により、バッテリケース31内の冷却風を排出ダクト59から車外へ流出する向きの流れが励起される。
【0053】
ここで、上述のバッテリ30は平面視においてカウル部12とオーバラップして、その下方に配置されており、上述の連通ダクト58は鉛直方向に延びてバッテリケース31内部と連通され、カウル部12下方のスペースを有効利用して、効率よくバッテリ30を収容すべく構成したものである。なお、図1において64はブレーキペダルである。
【0054】
図示実施例は上記の如く構成するものにして、以下作用を説明する。
車両走行時には、カウル部12の外気と連通する連通部12aには、空力特性上、走行風をカウル断面12A内に押込む方向の空気圧が作用する一方、フロントフェンダ17後端とフロントドア20前端との間の隙間部分には、空力特性上、該隙間から空気を車外へ吸い出す方向の空気圧が作用するので、送風ファン57を駆動しなくても、走行風は連通部12aからカウル断面12Aに流入した後に、雨水侵入防止用ダクト8aから連通ダクト58を介してバッテリケース31の車幅方向略中央部上端から同ケース31内に流入する。
【0055】
上述の圧力差により、バッテリケース31内の冷却風を排出ダクト59から車外へ流出する向きの流れが励起されるので、冷却風は運転席側と助手席側との双方においてバッテリケース31内のバッテリセル32をほぼ均等に冷却し、冷却後の空気は図3に点線矢印で示すように、排出ダクト59から上記隙間を介して車外へ排出され、バッテリ30を冷却することができる。
【0056】
このように、図1〜図5で示した実施例の自動車のバッテリ搭載構造は、車室2内の前部に車両駆動用のバッテリ30を配置する自動車のバッテリ搭載構造であって、車室2前部は、車室2とその前方のエンジンルーム1とを仕切るダッシュ部としてのダッシュロアパネル3と、上記ダッシュロアパネル3の上端部に配置され外気と連通するカウル断面12Aを有するカウル部12とを含み、上記バッテリ30は上記ダッシュロアパネル3の直後に配置され、上記バッテリ30とカウル部12とを空気流通可能に連結する連通ダクト58を備えたものである。
【0057】
この構成によれば、バッテリ30をダッシュロアパネル3の直後に配置し、このバッテリ30に対してカウル部12から連通ダクト58を介して空気を流通させるので、このカウル部12より外気を最短経路にてバッテリ30に導入することができる。この結果、連通ダクト58のダクト長を短くすることができ、ダクト58のレイアウトスペースの狭小化と圧力損失の低減との両立を図りつつ、バッテリ冷却構造を確保することができる。
【0058】
また、上記バッテリ30は車幅方向に延在し、上記バッテリ30を冷却した空気を車体前部の側面部(フロントフェンダ17後端とフロントドア20前端との間の隙間参照)を介して車外に排出する排出ダクト59を備えたものである。
【0059】
この構成によれば、バッテリ30を冷却した空気を車体側面から車外に排出することができる。しかも、フロントウインド14下部のカウル部12には空力特性上、空気をカウル断面12A内に押込む方向の正圧が作用し、上述の車体側部には空力特性上、空気を車外に吸い出す方向の負圧が作用するので、バッテリ30内の冷却風の排出ダクト59へ向けた流れが励起され、これにより、バッテリ冷却効率の向上を図ることができる。
【0060】
しかも、上記カウル部12はダッシュロアパネル3より車内側に突出して配置され、上記バッテリ30は平面視でカウル部12とオーバラップしてその下方に配置され、上記連通ダクト58は鉛直方向に延在するものである。
【0061】
この構成によれば、カウル部12下方のスペースを有効利用して、効率よくバッテリ30を収納することができる。
【0062】
さらに、上記ダッシュロアパネル3の下方にはフロア部(フロアパネル5参照)に向けて後方に傾斜したトーボード部6が接続され、上記バッテリ30はトーボード部6と上記カウル部12との間の空間34に収容されると共に、上記バッテリ30はダッシュロアパネル3およびトーボード部6に支持されたものである。
【0063】
この構成によれば、傾斜したトーボード部6の上方を有効利用して、バッテリスペースの拡大を図ることができ、バッテリ30の荷重は上記トーボード部6で下方から支持することができるので、バッテリ容量の向上とバッテリ支持強度の向上との両立を図ることができる。
【0064】
加えて、上記ダッシュロアパネル3には、フロア部(フロアパネル5参照)の車幅方向中央部で車室2内に突出したフロアトンネル部7の前端部が接続され、上記バッテリ30は該トンネル部7を跨いで運転席側と助手席側とにわたって配置されたものである。
【0065】
この構成によれば、バッテリ30がトンネル部7を跨いで運転席側と助手席側とにわたるので、バッテリ容量の拡大を図ることができ、またバッテリ30がトンネル部7を跨ぐので、特に、車幅方向においてバッテリ30を安定して保持させることができる。
【0066】
図6は自動車のバッテリ搭載構造の他の実施例を示し、ダッシュロアパネル3の車内側上部には車幅方向に延びるダッシュクロスメンバ60を接合し、またダッシュロアパネル3のトーボード部6の上部車内側には車幅方向に延びるダッシュロアクロスメンバ61を接合し、トーボード部6の傾斜下端部と近接するフロアパネル5の車内側前部にはブラケット62を接合している。
【0067】
上述のダッシュクロスメンバ60、ダッシュロアクロスメンバ61およびブラケット62には、それぞれバッテリ取付け方向に向けてボルト41を突設固定し、バッテリケース31に一体または一体的に設けられた取付け片38,39,40をボルト41、ナット42を用いて、これら各要素60,61,62に取付けることで、バッテリ30を車体側(ダッシュクロスメンバ60、ダッシュロアクロスメンバ61、ブラケット62参照)に固定すべく構成したものである。
【0068】
このように構成すると、バッテリ30は閉断面部材(ダッシュクロスメンバ60、ダッシュロアクロスメンバ61、ブラケット62参照)に支持されるので、バッテリ30の支持剛性のさらなる向上と、車体剛性のさらなる向上との両立を図ることができる。
【0069】
図6に示すように構成しても、その他の構成、作用、効果については先の実施例と同様であるから、図6において図2と同一の部分には同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。
【0070】
図7は自動車のバッテリ搭載構造のさらに他の実施例を示し、フロントフェンダ17におけるダッシュロアパネル3よりも後方で、かつヒンジピラー18よりも前方の部位には、スリット63が形成されており、バッテリ30冷却後の空気(冷却風)をこのスリット63から車外に放出すべく構成したものである。
【0071】
上述のスリット63の形成部位には車両走行時に空力特性上、負圧(スリット63から空気を車外へ吸い出す方向の空気圧)が作用するので、カウル部12に作用する正圧と、スリット63に作用する負圧との両者により、図7に点線矢印で示すように、バッテリケース31内の冷却風を排気ダクト59から車外へ流出する向きの流れが励起される。
【0072】
図7に示すように構成しても、その他の構成、作用、効果については先の実施例と同様であるから、図7において図3と同一の部分には同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。
【0073】
図8、図9は自動車のバッテリ搭載構造のさらに他の実施例を示し、上述のバッテリ30の運転席側には、ステアリングシャフト36を前後方向に挿通するために、同方向に貫通する孔部31eを形成し、この孔部31eを通してステアリングシャフト36を前後方向に挿通させたものである。
【0074】
このように構成しても、ダッシュロアパネル3を車両の前後方向に貫通するステアリングシャフト36の存在に関わらず、バッテリ30を運転席側に拡大して、バッテリ容量の増加を図ることができる。
【0075】
なお、図8、図9に示す実施例においても、その他の構成、作用、効果については先の実施例と同様であるから、図8、図9において、図4、図5と同一の部分には同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。
【0076】
図10、図11は自動車のバッテリ搭載構造のさらに他の実施例を示すものである。
図1〜図9で示した各実施例においては、バッテリ30をダッシュロアパネル3の直後において、運転席側と助手席側との双方にわたるように配置したが、図10に平面図で、図11に斜視図で示すこの実施例においては運転席側のバッテリを省略し、バッテリ30を助手席側においてのみ車幅方向に延びるように設けたものである。
【0077】
この場合、バッテリケース31にはトンネル部7との干渉を回避する内高外低状の回避部31f(トンネル7に対応して車幅方向内側が高く、車幅方向外側が低くなる傾斜部)と、連通ダクト58を接続する接続部31gとを設ける。
【0078】
このように、図10、図11で示した実施例の自動車のバッテリ搭載構造においては、上記バッテリ30はダッシュロアパネル3の直後に配置されると共に、助手席側においてのみ車幅方向に延びるように設けられたものである。
【0079】
この構成によれば、バッテリ搭載構造の簡略化を図ることができる。つまり、運転席側にはダッシュ部を車両の前後方向に貫通するステアリングシャフト36が存在するので、バッテリ30を運転席側にも設ける場合には、このステアリングシャフト36を考慮した構成が必要不可欠となるが、バッテリ30を助手席側にのみ設ける場合には、その搭載構造の簡略化を図ることができる。
【0080】
また、一般に自動車にはドライバが単独で乗車する確率が高いが、このような場合に車両の左右の重量バランスを確保することができる。
【0081】
図10、図11に示す実施例においても、その他の構成、作用、効果については先の実施例とほぼ同様であるから、図10、図11において、前図と同一の部分には同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。
【0082】
図12、図13は自動車のバッテリ搭載構造のさらに他の実施例を示し、この実施例においてはバッテリ30をダッシュロアパネル3(ダッシュ部)の直後に配置すると共に、助手席側においてのみ車幅方向に延びるように設けたものである。
【0083】
しかも、図12、図13に示すこの実施例では図12、図13から明らかなように、バッテリ30に対して空調ユニット43が車両の前後方向にオーバラップすべく構成し、上述のバッテリ用ダクト50を空調ユニット43の側面部に設けて、このダクト50からフロア44下流の空気または冷却風をバッテリケース31内に供給すべく構成している。また、左右一対のサイドベントダクト49,49はセンタベントダクト48の両サイド部から車幅方向に延びるように設けている。
【0084】
このように構成すると、図10、図11で示した実施例の効果と併せて、バッテリ30と空調ユニット43のオーバラップ構造により、これら両者30,43の前後方向の厚みが減少するので、インストルメントパネル33の車室2内方への膨出量低減を図ることが可能となる。
【0085】
つまり、インストルメントパネル33は図12に示すデザイン形状のもの、または図14に示すデザイン形状のものの何れにも設定することができ、図14の構成を採用した場合には、図12の構成と比較して、インストルメントパネル33の車室2内方への膨出量の低減を図ることができる。
【0086】
図12〜図14で示した実施例においても、その他の構成、作用、効果については先の実施例とほぼ同様であるから、図12〜図14において、前図と同一の部分には同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。
【0087】
この発明の構成と、上述の実施例との対応において、
この発明のダッシュ部は、実施例のトーボード部6を備えたダッシュロアパネル3に対応し、
以下同様に、
カウル部の外気と連通する断面は、カウル断面12Aに対応し、
フロア部は、フロアパネル5に対応し、
フロアトンネル部は、トンネル部7に対応するも、
この発明は、上述の実施例の構成のみに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明のバッテリ搭載構造を備えた自動車の側面図
【図2】図1の要部を拡大して示す側面図
【図3】自動車のバッテリ搭載構造を示す平面図
【図4】バッテリと空調ユニットの配置構造を車両斜め前方から見た状態で示す斜視図
【図5】バッテリと空調ユニットの配置構造を車両斜め後方から見た状態で示す斜視図
【図6】自動車のバッテリ搭載構造の他の実施例を示す要部拡大側面図
【図7】バッテリ冷却後の排気構造の他の実施例を示す平面図
【図8】ステアリングシャフト挿通構造の他の実施例を示す斜視図
【図9】図8の構成を異なる角度から見た状態で示す斜視図
【図10】自動車のバッテリ搭載構造のさらに他の実施例を示す平面図
【図11】図10の要部の斜視図
【図12】自動車のバッテリ搭載構造のさらに他の実施例を示す平面図
【図13】図12の要部の斜視図
【図14】インストルメントパネルの車室内への膨出量を小さく設定した実施例を示す平面図
【符号の説明】
【0089】
1…エンジンルーム
2…車室
3…ダッシュロアパネル(ダッシュパ部)
5…フロアパネル(フロア部)
6…トーボード部
7…トンネル部(フロアトンネル部)
12…カウル部
12A…カウル断面
30…バッテリ
34…空間
58…連通ダクト
59…排出ダクト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室内の前部に車両駆動用のバッテリを配置する自動車のバッテリ搭載構造であって、
車室前部は、車室とその前方のエンジンルームとを仕切るダッシュ部と、
上記ダッシュ部の上端部に配置され外気と連通する断面を有するカウル部とを含み、
上記バッテリは上記ダッシュ部の直後に配置され、
上記バッテリとカウル部とを空気流通可能に連結する連通ダクトを備えた
自動車のバッテリ搭載構造。
【請求項2】
上記バッテリは車幅方向に延在し、
上記バッテリを冷却した空気を車体前部の側面部を介して車外に排出する排出ダクトを備えた
請求項1記載の自動車のバッテリ搭載構造。
【請求項3】
上記カウル部はダッシュ部より車内側に突出して配置され、
上記バッテリは平面視でカウル部とオーバラップしてその下方に配置され、
上記連通ダクトは鉛直方向に延在する
請求項1または2記載の自動車のバッテリ搭載構造。
【請求項4】
上記ダッシュ部の下方にはフロア部に向けて後方に傾斜したトーボード部が接続され、
上記バッテリはトーボード部と上記カウル部との間の空間に収容されると共に、
上記バッテリはダッシュ部およびトーボード部に支持された
請求項3記載の自動車のバッテリ搭載構造。
【請求項5】
上記ダッシュ部には、フロア部の車幅方向中央部で車室内に突出したフロアトンネル部の前端部が接続され、
上記バッテリは該フロアトンネル部を跨いで運転席側と助手席側とにわたって配置された
請求項3または4記載の自動車のバッテリ搭載構造。
【請求項6】
上記バッテリはダッシュ部の直後に配置されると共に、助手席側においてのみ車幅方向に延びるように設けられた
請求項1〜4の何れか1に記載の自動車のバッテリ搭載構造。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−50802(P2007−50802A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−238134(P2005−238134)
【出願日】平成17年8月19日(2005.8.19)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】