説明

自動車のフレーム構造及びその製造方法

【課題】本発明は、軸方向に延びる複数のパイプ部材を備える自動車のフレーム構造及びその製造方法において、確実に軸方向に座屈変形を生じるようにパイプ部材を結合して、常に大きな衝突エネルギーの吸収量を得ることができるフレーム構造、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】レーザー発振機29によって発生させたレーザーを、照射ヘッド27に供給して、照射ヘッド27からレーザーLを照射する。この照射されたレーザーLは、ミラー20で反射させられ、円筒パイプ11Cの内部から接合部位を加熱して溶接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車のフレーム構造及びその製造方法に関し、特に、衝突エネルギーの吸収性能を高めた自動車のフレーム構造及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車のフレーム構造においては、フロントサイドフレームやリヤサイドフレームを衝突時に軸方向に座屈変形させて、衝突エネルギーを吸収することで、車室内に衝突の影響が及ばないようにすることが知られている。
このため、自動車のフレーム構造では、衝突エネルギーの吸収性能が高いフレーム構造が求められる。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、押し出し成形等によって、フレーム断面を複数断面に分割したフレーム構造が提案されている。
このフレーム構造によると、衝突エネルギー吸収量が増加するとともに、座屈形状が安定するため、衝突エネルギー吸収量及び変形時の座屈変形が安定するという効果が得られる。
しかし、この押し出し成形のフレーム構造によると、被加工材料及び製造コストが高く、生産性等が悪化するという問題がある。
【0004】
そこで、生産性の悪化を防ぐフレーム構造として、下記特許文献2のフレーム構造が提案されている。
このフレーム構造は、矩形閉断面等のフレーム内に、複数の小径のパイプ部材等を充填挿入して、フレーム構造を構成したものである。
このフレーム構造によると、衝突荷重を受けた際に、フレーム内のパイプ部材もフレームと同様に、軸方向に座屈変形するため、衝突エネルギーの吸収量が増加する。特に、フレーム内にパイプ部材が充填されていることから、座屈変形の際には、パイプ部材が相互に干渉し合うことになり、衝突エネルギーの吸収量がさらに増加する旨が記載されている。
【特許文献1】特開2001−63626号公報
【特許文献2】特開2003−312535号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、衝突エネルギーの吸収性能を安定して高めるためには、常にフレーム構造を軸方向に座屈変形させる必要がある。
【0006】
この点、前述の特許文献2のフレーム構造では、大型断面のフレームと小型断面のパイプ部材を同時に座屈変形させることになるが、座屈変形は、断面を囲む辺の長さや直径の大きさ等によって、潰れ周期(変形方向の山折れと谷折れの繰返し周期)が変化するため、フレームとパイプ部材との間で、座屈周期が異なり、変形の位相がズレるといった現象が生じる。
【0007】
このように、フレームとパイプ部材との間で潰れ周期が異なり、変形位相がズレると、お互いの変形挙動を阻害し合うことになり、フレーム構造を、確実に軸方向に座屈変形させることができず、横折れ変形等が生じるおそれある。
【0008】
このため、パイプ部材の周囲に位置するフレームをなくして、パイプ部材だけを集合させて、フレーム構造を構成することで、こうした変形位相のズレの問題を解消することが考えられる。
【0009】
しかし、外殻部材たるフレームをなくした場合には、パイプ部材同士をパイプ部材だけで結合させる必要があり、どのような結合方法でパイプ部材を結合するかが問題であった。
【0010】
そこで、本発明は、軸方向に延びる複数のパイプ部材を備える自動車のフレーム構造及びその製造方法において、確実に軸方向に座屈変形を生じるようにパイプ部材を結合して、常に大きな衝突エネルギーの吸収量を得ることができるフレーム構造、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明の自動車のフレーム構造は、軸方向に延びる複数のパイプ部材を備える自動車のフレーム構造であって、前記パイプ部材を断面の略等しい円筒パイプで構成して、該円筒パイプを、隣接する円筒パイプとパイプ内部から照射されるレーザーで溶接するものである。
【0012】
上記構成によれば、パイプ内部から照射されるレーザーによって、円筒パイプと隣接する円筒パイプを溶接することになる。
このため、円筒パイプ間の接合を確実に行なうことができ、円筒パイプ同士を円筒パイプだけで結合することを確実に行なうことができる。
なお、円筒パイプの内部からレーザー溶接するものであれば、レーザー溶接の溶接位置や照射量、溶接機の形状や照射ヘッド等についてはどのようなものであってもよい。
【0013】
この発明の一実施態様においては、前記レーザーによる溶接を、円筒パイプの軸方向に一直線状に走査して行なうものである。
上記構成によれば、円筒パイプの軸方向に一直線状に走査してレーザー溶接を行なうことで、円筒パイプ間の接合を、より確実に行なうことができる。
よって、円筒パイプ間の接合ポイントの結合力を確実に高めることができ、円筒パイプの座屈変形時の剥離を確実に防止することができる。
【0014】
この発明の一実施態様においては、前記レーザーによる溶接を、円筒パイプの座屈変形の変形位相に合わせて所定間隔を空けて行なうものである。
上記構成によれば、円筒パイプの座屈変形の変形位相に合わせて所定間隔を空けてレーザー溶接を行なうことで、円筒パイプ間の接合を、座屈変形の際に剥離が生じる部分だけを、効率的に行なうことができる。
具体的には、円筒パイプの座屈変形の周期を考慮して、剥離が生じる部分を特定して、いわゆるステッチ状にレーザー溶接を行なう。
よって、座屈変形時に安定した座屈変形を得つつも、レーザー溶接のコストを削減することができる。
【0015】
この発明の一実施態様においては、前記パイプ内部からレーザーを照射する円筒パイプを中央円筒パイプとして設定し、該中央円筒パイプの周囲に、それぞれ接合される複数の周囲円筒パイプを配置して、レーザー照射を周方向に回動させてレーザー溶接するものである。
上記構成によれば、中央円筒パイプの周囲に、周囲円筒パイプを配置して、中央パイプの内部からレーザー溶接することで、周囲円筒パイプの複数の接合ポイントを、一度に接合することができる。
よって、複数の円筒パイプを接合するのを、効率的に行なうことができ、フレーム構造の製造方法をより簡便に行なうことができる。
【0016】
この発明の自動車のフレーム構造の製造方法は、前記円筒パイプのパイプ内部に、軸方向に移動可能なミラーを挿入して、該ミラーで、前記レーザー溶接のレーザーを反射させて接合を行なう方法である。
上記構成によれば、ミラーを利用してパイプ内部からレーザー溶接を行なうことで、ミラーが挿入可能であれば、円筒パイプの内径やレーザー溶接機の大きさを考慮することなく、円筒パイプ間のレーザー溶接を行なうことができる。
よって、円筒パイプの内部から溶接する場合であっても、さまざまな直径の円筒パイプに対して、汎用性を高めて製造作業を行なうことができる。
【0017】
この発明の一実施態様においては、前記レーザー溶接を、円筒パイプの座屈変形の変形位相に合わせて所定間隔を空けて行なう方法であって、前記ミラーの円筒パイプ軸方向の異なる部分に、同時に複数のレーザーを反射させて、前記所定間隔を空けて円筒パイプを接合する方法である。
上記構成によれば、ミラーの円筒パイプ軸方向の異なる部分で、同時に複数のレーザーを反射させることで、同時に複数箇所を所定間隔を空けて、レーザー溶接を行なうことができる。
このため、いわゆるステッチ状のレーザー溶接の際、ミラーの円筒パイプ内での移動量を少なくすることができ、また、溶接の作業時間も短縮することができる。
よって、所定間隔を空けて溶接を行なう場合であっても、作業効率を高めてフレーム構造を溶接することができる。
【0018】
この発明の一実施態様においては、前記レーザー溶接を、円筒パイプの座屈変形の変形位相に合わせた所定間隔を空けて行なう方法であって、前記ミラーに軸方向に対して反射角度を変更する角度調整機構を備え、該角度調整機構で反射角度を変化させることで、円筒パイプを接合する方法である。
上記構成によれば、角度調整機構で、ミラーの反射角度を変化させることにより、複数箇所を所定間隔を空けて、レーザー溶接を行なうことができる。
このため、いわゆるステッチ状のレーザー溶接の際、ミラーを軸方向に移動させることなく、複数の溶接箇所を溶接することができる。
よって、所定間隔を空けて溶接する場合であっても、作業効率を高めてフレーム構造を溶接することができる。
【0019】
この発明の一実施態様においては、前記円筒パイプの両側開口端から、各々ミラーを挿入して、該両側開口端の各々からレーザーを照射して、各ミラーで反射させることで、円筒パイプを接合する方法である。
上記構成によれば、円筒パイプの両側開口端からミラーを挿入して、それぞれの開口端からレーザーを照射して各ミラーで反射させて接合することで、円筒パイプが長尺であっても、ミラーの挿入量を多くすることなく、レーザー溶接を行なうことができる。
このため、ミラーの挿入量の増大による溶接位置のバラツキを抑えることができ、溶接位置の精度を高めることができる。
よって、円筒パイプが長尺であっても、確実に溶接を行なうことができ、円筒パイプ同士の結合強度を確実に高めることができる。
【0020】
この発明の一実施態様においては、中央円筒パイプと、該中央円筒パイプの周囲に配置した複数の周囲円筒パイプを接合する方法であって、前記ミラーに中央円筒パイプの軸心を回転中心とした回転機構を備え、該回転機構でミラーの反射方向を周方向に移動可能に構成し、レーザーを反射することで、中央円筒パイプと周囲円筒パイプを接合する方法である。
上記構成によれば、ミラーの回転機構により、ミラーの反射方向を周方向に変化させて、レーザーの照射位置を変化させることで、中央円筒パイプと複数の周囲円筒パイプを一気に接合することができる。
よって、中央円筒パイプから効率的にレーザー溶接することができ、溶接作業時間を短縮することができる。
【0021】
この発明の一実施態様においては、前記円筒パイプのパイプ内部に、軸方向に移動可能なレーザーファイバーを挿入して、該レーザーファイバーの先端部からレーザーを照射することにより接合を行なう方法である。
上記構成によれば、レーザーファイバーを利用してパイプ内部からレーザー溶接を行なうことにより、直接レーザーを接合位置に照射できるため、溶接精度を高めることができる。
よって、円筒パイプの内部から溶接する場合であっても、溶接精度を向上することができ、円筒パイプ間の接合強度を高めることができる。
【0022】
この発明の一実施態様においては、前記レーザー溶接を、円筒パイプの座屈変形の変形位相に合わせた所定間隔を空けて行なう方法であって、前記レーザーファイバーを複数設定して、該各レーザーファイバーの先端部を前記所定間隔を空けて設定して、同時に複数箇所を接合する方法である。
上記構成によれば、複数のレーザーファイバーの先端部を所定間隔を空けて設定して、同時に複数箇所を接合することで、複数箇所を所定間隔を空けてレーザー溶接を行なうことを、容易且つ確実に行なうことができる。
よって、いわゆるステッチ状にレーザー溶接する場合に、作業効率を高めてフレーム構造を溶接することができる。
【0023】
この発明の自動車のフレーム構造は、軸方向に延びる複数の円筒パイプを備える自動車のフレーム構造であって、前記円筒パイプを、断面の略等しい円筒パイプで構成して、該円筒パイプを、融点の高い内側部材と融点の低い外側部材とから構成する共に、該円筒パイプ同士を、外側部材同士で接合したものである。
上記構成によれば、円筒パイプを融点の低い外側部材同士で接合することで、比較的低い温度で接合することができるため、融点の高い内側部材の形状に影響を与えることなく、円筒パイプを接合することができる。
よって、円筒パイプに歪みを生じさせることなく、複数の円筒パイプを接合することができ、衝突荷重を受けた際の座屈変形の挙動を安定させることができる。
【0024】
この発明の一実施態様においては、円筒パイプ同士を、最終接合状態に束ねて、外側部材の融点よりも高く内側部材の融点よりも低い中間温度で焼成して、各円筒パイプの接触部を溶融させて接合する方法である。
上記構成によれば、複数の円筒パイプ同士を束ねて、中間温度で焼成することで、円筒パイプ間を溶融させて接合することができる。
このため、レーザー溶接等の溶接機を用いることなく、比較的低い温度で円筒パイプを接合することができる。
よって、円筒パイプに歪みを生じさせることなく、フレーム構造の座屈変形の挙動を安定させることができる。
【0025】
この発明の自動車のフレーム構造は、軸方向に延びる複数の閉断面を備える自動車のフレーム構造であって、前記閉断面を、断面の略等しい円筒形状の円筒部で構成し、前記フレームを、くびれを有する凸部を備える第一円筒部材と、くびれを有する凹部を備える第二円筒部材とで構成して、該第一円筒部材と第二円筒部材を、凸部と凹部で嵌合接続することで結合したものである。
上記構成によれば、第一円筒部材と第二円筒部材とを、凸部と凹部で嵌合結合することで、フレームを構成することができる。
このため、円筒部の結合に、熱処理を用いないため、円筒部に結合作業による歪みが生じることがない。
よって、複数の円筒部を有するフレーム構造の、座屈変形の挙動を安定させることができる。
【0026】
この発明の一実施態様においては、前記フレームが、少なくとも三つ円筒部を互いに結合する構成であって、前記第一円筒部材又は前記第二円筒部材の一方が、一体成形される複数の円筒部を有するものである。
上記構成によれば、第一円筒部材又は第二円筒部材の一方が、一体成形される複数の円筒部を有するため、円筒部毎に、第一円筒部材又は第二円筒部材を設けなくても、フレームを構成することができる。
よって、複数の円筒部を有するフレームの部品点数を削減して、構成することができる。
【0027】
この発明の一実施態様においては、前記フレームが、互いに接続される二つの円筒部が距離をおいて二組配設されて、該円筒部の間の中央に全ての円筒部に接続される一つの中央円筒部が配置した構造であって、前記第一円筒部材又は第二円筒部材の一方が、中央円筒部と各組の一つの円筒部を一体成形した三つの円筒部を有するものである。
上記構成によれば、五つの円筒部を有する場合に、第一円筒部材又は第二円筒部材の一方が一体成形される三つの円筒部を有するため、円筒部毎に、第一円筒部材又は第二円筒部材を設けなくても、フレームを構成することができる。
よって、複数の円筒部を有するフレームを、部品削減して構成することができる。
【0028】
この発明の一実施態様においては、前記一方の円筒部材が、中央円筒部と該中央円筒部に対して対角線上にある円筒部との、三つの円筒部が一体成形されるものである。
上記構成によれば、五つの円筒部を有する場合に、三つの円筒部が一体成形される一方の円筒部材と、これに別体で連結される他方の円筒部材が、偏りなく配置されることになる。
よって、フレームが座屈変形する際に、強度差が生じにくいため、座屈変形性能が安定する。
【0029】
この発明の一実施態様においては、前記円筒パイプを、引き抜き成形、又はロールフォーミング成形で複数の円筒部を有するように形成したものである。
上記構成によれば、引き抜き成形又はロール成形によって、一体成形の円筒パイプに、複数の円筒部を形成することで、円筒パイプの部品点数を削減することができる。
つまり、円筒パイプの数を、断面数よりも削減することができるため、部品点数の削減を図ることができる。
【発明の効果】
【0030】
この発明によれば、円筒パイプ間の接合を確実に行なうことができ、円筒パイプ同士を円筒パイプだけで結合することを確実に行なうことができる。
【0031】
よって、軸方向に延びる複数のパイプ部材を備える自動車のフレーム構造及びその製造方法において、確実に軸方向に座屈変形を生じるようにパイプ部材を結合して、常に大きな衝突エネルギーの吸収量を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳述する。
まず、第一実施形態について説明する。図1は本発明の自動車のフレーム構造をクラッシュカンとして使用した車体前部構造の前方斜視図、図2はクラッシュカンの全体斜視図、図3はクラッシュカンの前端部の斜視図、図4はクラッシュカンの正面図である。なお、本実施形態では、右側前部の車体構造だけを示している。
【0033】
図1に示すように、本実施形態では、車体前部に、車体前後方向に延びる断面略矩形状のフロントサイドフレーム1を設けている。このフロントサイドフレーム1の前端部には、平板状のセットプレート2を介して車体前後方向に延びるクラッシュカン3を設けている。また、そのクラッシュカン3の前端部には、車幅方向に延びて左右のクラッシュカン3(左側は図示せず)を掛け渡すバンパーレインメンバー4を設けている。
【0034】
フロントサイドフレーム1の後部には、下方に屈曲して傾斜する屈曲部5を形成している。そして、この屈曲部5の下端には、車体フロア(図示せず)下面で車体前後方向に延びるフロアフレーム6を結合固定している。
【0035】
この屈曲部5の車幅内方側側面には、車幅内方側に、傾斜して延びる傾斜連結メンバー7を結合固定している。この傾斜連結メンバー7は、図示しないダッシュパネル下部のダッシュクロスメンバーに接合固定している。
【0036】
また、屈曲部5の下面には、サスペンションクロスメンバー(図示せず)を締結固定するサスクロス取付けブラケット8を接合固定している。
さらに、屈曲部5の前方上面には、上方且つ後方に向って延び、図示しないヒンジピラーに連結される上部連結メンバー9を、接合固定している。
【0037】
こうして、フロントサイドフレーム1の後部を補強することで、車体前方からフロントサイドフレーム1に入力される衝突荷重を、車体後方側に分散して伝達するように構成している。
【0038】
前述のクラッシュカン3は、複数の円筒パイプ11…を集合させて結合した、いわゆる「集合パイプ体」で構成している。この集合パイプ体で構成したクラッシュカン3は、図2にも示すように、五本の円筒パイプ11…を、上部二本11A,11Bと下部二本11D,11Eと中央一本11Cで、略縦長形状に組み合わせて構成している。
【0039】
具体的には、このクラッシュカン3は、鋼材で成形した同一の直径d(本実施形態は38mm)の円筒パイプ五本11A,11B,11C,11D,11Eを、車体前後方向(図面では上下方向)に並ぶように組み合せ、後述するように、隣り合う各円筒パイプ同士を、それぞれ接合して構成している。
【0040】
このクラッシュカン3の前後方向長さは、約150mmに設定して、車体前後方向のクラッシュスペースを確保している。なお、円筒パイプの板厚t(本実施形態は1mm)も全て同一である。
【0041】
このクラッシュカン3は、車体前後方向の荷重が作用すると、軸方向に座屈変形をして、衝突エネルギーを吸収するように構成している。特に、このクラッシュカン3は、同時に五本の円筒パイプ11A,11B,11C,11D,11Eを座屈変形させるため、座屈荷重を従来のクラッシュカンよりも高めることができ、エネルギー吸収量を多くすることができる。
【0042】
この集合パイプ体の前端から後方側へS(本実施形態は約15mm)の位置には、衝突荷重が作用した際に、クラッシュカン3の潰れ形状を規定する横ビード12…を設けている。なお、このSは、円筒パイプの潰れ周期のピッチによって変化する。
この横ビード12は、全ての円筒パイプ11に、約120度間隔で設けられた、内凹形状で形成している。この横ビード12は、後述するように、クラッシュカン3が座屈変形する際に、座屈変形の「きっかけ」を与えている。
また、クラッシュカン3には、図3に示すように、隣り合う円筒パイプ11同士を接合する複数の接合部位13,14,15,16,17,18を設定している。
具体的には、この接合部位は、上部二本11A,11Bの間に最上部接合部位13を設定し、上部二本11A、11Bと中央一本11Cの間に上側部接合部位を二箇所14,15設定して、そして、下部二本11D,11Eと中央一本11Cの間に下側部接合部位を二箇所16,17設定して、さらに、下部二本11D,11Eの間に最下部接合部位18を設定している。
【0043】
そして、これらの接合部位13,14,15,16,17,18は、円筒パイプ11の軸方向に、ほぼ全域に亘って一直線状に延設している。このように延設することで、円筒パイプ11間の接合強度を高めている。
【0044】
この接合部位13,14,15,16,17,18の位置関係は、図3に示すように、上部の三点、すなわち、最上部接合部位13と上側部接合部位の二箇所14,15の三点を結んで構成される図形Rが、「正三角形」となるように設定している。
また、下部の三点、すなわち、最下部接合部位18と下側部接合部位の二箇所16,17の三点を結んで構成される図形Qが「逆正三角形」となるように設定している。そして、この「正三角形」Rと「逆正三角形」Qが、中央の円筒パイプ11Cを挟んで上下対称となるように設定している。
これは、円筒パイプ11の座屈変形時の変形挙動を考慮して、こうした接合部位に設定しているのである。
図4は、円筒パイプの座屈変形時の断面形状の変形状態を示した模式図であり、(a)は座屈変形前の円筒パイプの側面図とA−A断面図であり、(b)は座屈変形後の円筒パイプの側面図とB−B断面図、C−C断面図である。なお、この円筒パイプのモデルも、直径38mm、板厚1mmの鋼材パイプである。
【0045】
(a)に示すように、円筒パイプ11は、座屈変形前には真円形状の円筒断面を有している。
この円筒パイプ11が、車体前後方向荷重を受けて座屈変形する場合には、(b)に示すように、座屈変形の潰れ周期の半ピッチ毎に、断面形状が「正三角形」と「逆正三角形」を繰返して変形する。
【0046】
これは、「面」を構成する最小の多角形が三角形であるため、圧縮力を受けて円筒断面が外周側に拡張しようとする際、局所的に三点に応力集中が生じて、「正三角形」断面と、「正逆三角形」断面を周期的に繰返して、座屈変形していくと考えられるからである。
【0047】
このように、断面形状が「正三角形」と「正逆三角形」を繰り返しながら変形していくため、円筒パイプ11の接合部位は、この繰り返し変形を阻害しないように設定する必要がある。
【0048】
そこで、本実施形態では、図5、図6に示すように変形状態を考慮して、接合部位を設定している。図5はクラッシュカンの正面図に右側を頂点とする三角形の変形モデルを加えた図であり、図6はクラッシュカンの正面図に左側を頂点とする三角形の変形モデルを加えた図である。
【0049】
まず、図5に示すように、断面形状が右側を頂点とする三角形に変形する部分では、各接合部位が矢印に示すように移動する。すなわち、最上部接合部位13が右側に移動(13a)して、上側部接合部位の右側部位15が左斜め下側に移動(15a)して、左側部位14が左斜め上側に移動(14a)する。また、最下部接合部位18が右側に移動(18a)して、下側部接合部位の右側部位17が左斜め上側に移動(17a)して、左側部位16が左斜め下側に移動(16a)する。
【0050】
一方、図6に示すように、断面形状が左側を頂点とする三角形に変形する部分では、各接合部位が矢印に示すように移動する。すなわち、最上部接合部位13が左側に移動(13b)して、上側部接合部位の右側部位15が右斜め上側に移動(15b)して、左側部位14が右斜め下側に移動(14b)する。また、最下部接合部位18が左側に移動(18b)して、下側部接合部位の右側部位17が右斜め下側に移動(17b)して、左側部位16が右斜め上側に移動(16b)する。
【0051】
このように、各接合部位13,14,15,16,17,18は、円筒パイプ11の断面形状の繰り返し変形に即して往復移動することになる。
もっとも、こうした接合部位の移動は、円筒パイプ11の変形を阻害することなく、また、各円筒パイプ11間の接合状態も維持することができる。
【0052】
仮に、各接合部位を「正四角形」を構成するように設定した場合には、円筒パイプ11の断面変形に即して接合部位が移動しないため、円筒パイプ11の座屈変形を阻害したり、また、円筒パイプ11間の接合が剥離したりするおそれがある。
【0053】
こうした点に関し、本実施形態では、前述のように、各接合部位13,14,15,16,17,18を、「正三角形」と「逆正三角形」を構成するように設定しているため、各円筒パイプ11間の接合状態を維持した状態で、クラッシュカン3の座屈変形を許容できる。
【0054】
このように、各接合部位13,14,15,16,17,18がクラッシュカン3の座屈変形を阻害しないため、本実施形態のクラッシュカン3では、全て円筒パイプ11が完全に座屈変形をして、衝突エネルギーを確実に吸収することができる。
図7に、クラッシュカンの座屈変形前と座屈変形後の状態を示す。図7(a)が座屈変形前のクラッシュカンの側面図、(b)が座屈変形後のクラッシュカンの側面図である。
【0055】
(a)に示すように、フロントサイドフレーム1の前端部にセットプレート2を介して取り付けられたクラッシュカン3は、車体前後方向に延びて、車体前後方向のクラッシュスペースを確保している。
【0056】
クラッシュカン3の前部側面には、前述した変形促進部たる横ビード12を設けている。
この横ビード12は、円筒パイプ11の断面形状が「三角形」に変形する際に、「三角形」の「辺」になるように設定している。すなわち、この横ビード12を設けることで、横ビード12を設けていない円周部19の強度が相対的に高まることになり、圧縮荷重を受けた際には、この円周部19に応力が集中して三角形の頂点となるような変形が生じ、結果的に、横ビード12が「辺」になるように設定している。
【0057】
なお、この横ビード12の代わりに「横スリット」を設けてもよい。「横スリット」の場合も、横スリットを設けていない円筒部の強度が相対的に高まるため、圧縮荷重を受けた際に、この円周部に応力が集中して三角形の頂点となるような変形が生じ、結果的に、横スリットが「辺」になるからである。
【0058】
このように、横ビード12を形成することで、円筒パイプ11の潰れ周期のピッチの起点と断面形状を規定できるため、各円筒パイプ11は、全て同位相で同じ断面形状で座屈変形することになる。
【0059】
(b)に示すように、車体前方から衝突荷重を受けた際に、クラッシュカン3は、フロントサイドフレーム1の前方で座屈変形する。このとき、全ての円筒パイプ11は、まったく同様に、軸方向に山折れと谷折れを繰り返して座屈変形する。
【0060】
この座屈変形の潰れ周期のピッチPは、円筒パイプ11の板厚が一定の場合、直径dに依存しており、直径dが小さくなればピッチPも小さくなり、直径dが大きくなればピッチPも大きくなる(本実施形態では非圧縮時約38mm)。
【0061】
この実施形態では、円筒パイプ11の直径dが小さいため、潰れ周期のピッチPも小さくなり、図に示すように、座屈変形後のクラッシュカン3の径方向の外形も、従来の四角柱状のクラッシュカンより、比較的小さなものとなる。
また、潰れ周期のピッチPが小さいことで、接合部位の径方向の移動量も少なくて済むため、接合部位の剥離も確実に防止できる。
【0062】
図8は、本実施形態のクラッシュカンと従来構造のクラッシュカンの衝突エネルギー吸収状態を比較するグラフを示した図である。このグラフは、縦軸を座屈荷重、横軸をストローク量で示している。
【0063】
本実施形態のクラッシュカン3の荷重特性ラインは、Xに示した特性ラインである。これに対して、従来の四角柱状のクラッシュカン3の荷重特性ラインは、Zに示した特性ラインである。
【0064】
このグラフに示すように、本実施形態のクラッシュカン3の荷重特性Xは、衝突初期の荷重ピーク値Xpにおいて最も高い値を示し、その後、大きな吸収荷重を維持したまま、ストロークして(潰れて)いく。
つまり、本実施形態の平均荷重Xmは、従来構造の荷重特性Zの約4倍以上の値となり、衝突エネルギーの吸収性能が従来構造と比較して極めて高くなっていることが分かる。
これは、前述したように、潰れ周期が小さい小径の円筒パイプという質量効率の高い衝撃吸収体を、接合部を介して五本同時に同調して座屈変形させているためである。
よって、本実施形態のクラッシュカン3によると、極めて高い衝撃吸収性能を得ることができる。
【0065】
次に、図9によって、このクラッシュカンがどの程度の直径と板厚の円筒パイプで確実に座屈変形するかを説明する。
図9は、前後方向の長さが約150mmの円筒パイプの板厚と直径を変化させてクラッシュカンを座屈変形させた場合のグラフを示した図である。このグラフでは、縦軸を円筒パイプ11の直径d、横軸を円筒パイプ11の板厚tで示している。
【0066】
このグラフでは、○は円筒パイプが三角形断面で座屈変形した場合を示し、×は円筒パイプが三角形断面以外で座屈変形した場合を示している。また、ハッチングドット領域については、密なドット領域が全ての円筒パイプが三角形断面で座屈変形する領域であり、疎なドット領域が三角形断面と四角形断面で座屈変形する領域である。さらに、ハッチングがない領域は、座屈変形しない領域であり横折れ変形等により、衝突エネルギーの吸収をほとんど行なわない領域を示している。
【0067】
このグラフの範囲に限っていえば、円筒パイプが断面形状を三角形断面で変形する領域は、板厚tが0.4〜2.0mmで、直径dが20〜80mmの範囲であることが分かる。また、同じ直径dでも板厚tが薄ければ、三角形断面で変形するだけでなく四角形断面等で変形することが分かる。さらに、同じ板厚tでも直径dが小さい場合や、また大きすぎる場合も、全て三角形断面で潰れない場合があることが分かる。
【0068】
本実施形態のように、板厚tが1.0mm、直径dが38mmの場合(T)には、確実に全ての円筒パイプ11が三角形断面で座屈変形していくことが分かる。
こうしたことから、本発明を効果的に実施するためには、このグラフの密なドット領域の板厚tと直径dで円筒パイプを設計して、クラッシュカン3を構成することが望ましいことが分かる。
【0069】
次に、図10に基づいて、この実施形態のクラッシュカンの製造方法、特に円筒パイプ間の接合方法について説明する。
図10は、第一実施形態のクラッシュカンの円筒パイプ間を接合する溶接機の全体模式図である。この溶接機M1は、いわゆるレーザー溶接機であり、レーザーLを照射することによって溶接箇所を過熱して溶接を行なうものである。この実施形態では、特に、ミラー(鏡)20を利用することで、照射されたレーザーLを反射させて溶接を行なうミラーレーザー溶接機M1を用いている。
【0070】
このミラーレーザー溶接機M1のシステム構成は、図示しないベースに取り付けられた回転装置21と、この回転装置21に固定されて上下方向に延びる基準固定軸22と、この基準固定軸22の途中に固定されて昇降装置23等を支持する二つの固定ガイド24,24と、この固定ガイド24,24によって支持されて上下方向に延びる昇降軸25と、昇降軸25の途中に設けられ昇降軸25を上下方向に移動可能に昇降する昇降装置23と、昇降軸25の下端に設けられて照射されたレーザーLを反射するミラー20と、このミラー20と昇降軸25との間に設けられてミラー20の反射角(傾斜角)を変化させるミラー角度調整装置26と、昇降装置23に固定されてミラー20に向ってレーザーLを照射する照射ヘッド27と、この照射ヘッド27に対して光ファイバー28を介してレーザーLを供給するレーザー発振機29とを備えている。
そして、このうち、回転装置21と、昇降装置23と、ミラー角度調整装置26と、レーザー発振機29とを、遠隔操作によって制御する操作盤30とを設けている。なお、各構成要素の詳細構造は周知であるため、具体的な説明は省略する。
【0071】
前述の基準固定軸22は、クラッシュカン3の中央の円筒パイプ11Cと同芯軸上CLに位置するように設置している。この位置に基準固定軸22を設置することで、後述するように、中央の円筒パイプ11Cの周りに位置する接合部位14,15,16,17の全てをこの円筒パイプ11C内から接合することができる。
【0072】
次に、このミラーレーザー溶接機M1を用いて行う円筒パイプ11の接合方法について説明する。
まず初めに、図示しない治具を利用して、円筒パイプ11五本を最終結合状態に集合して、上下方向に軸方向が向くようにセットする。そして、前述したように基準固定軸22を、クラッシュカン3の上方位置であって、中央の円筒パイプ11Cの同芯軸上に設置する。
次に、昇降装置23を作動させて、昇降軸25を降下させる。こうして、ミラー20を中央の円筒パイプ11C内に挿入する。この挿入によって、ミラー20は円筒パイプ11C内の接合部位に対向する位置に位置することになる。
【0073】
そして、レーザー発振機29によって発生されたレーザーLを、照射ヘッド27に供給して、照射ヘッド27からレーザーLを照射する。この照射されたレーザーLは、ミラー20で反射させられ、円筒パイプ11Cの内部から接合部位14を加熱して溶接する(図11参考)。
その後、昇降装置23を作動させて昇降軸25を徐々に降下させることで、ミラー20を降下させ、レーザーLの照射位置、すなわち、溶接位置を降下させる。こうして、レーザー溶接が円筒パイプ11の軸方向に一直線状に走査される。
なお、図12に示すように、ミラー角度調整装置26を利用して、ミラー20の反射角度αを徐々に広げることで、レーザーLの照射位置を降下させて、レーザー溶接を軸方向に一直線状なるように行ってもよい。
【0074】
その後、回転装置21を作動させて、基準固定軸22を周方向に回動させる。これにより、次の接合部位15(図3参照)に対応する位置に、ミラー20を移動させる。そして、また、照射ヘッド27からレーザーLを照射することで、ミラー20でレーザーLが反射され、この接合部位15でも、レーザー溶接が行われる。
【0075】
また、この接合部位15でも、昇降装置23又はミラー角度調整装置26を利用して、レーザー溶接を円筒パイプ11の軸方向に一直線状に行なう。
【0076】
その後、他の二つの接合部位16,17(図3参照)に対しても、同様に、回転装置21を利用してミラー20を周方向に回動させた後、レーザーLを照射して反射することで、円筒パイプ11間のレーザー溶接を行う。
【0077】
このように、回転装置21を利用して、ミラー20の照射位置を周方向に回動するだけで、中央の円筒パイプ11Cの接合部位14,15,16,17を四箇所、全て溶接できる。これにより、ミラー20の挿入作業等を省くことができ、作業効率を図ることができる。
【0078】
中央の円筒パイプ11Cの接合部位を溶接した後は、一旦ミラー20を中央の円筒パイプ11Cから引き抜き、再度、他の周囲の円筒パイプ11A,11B,11D,11Eのいすれかに、ミラー20を挿入して、周囲の円筒パイプ間の二箇所の接合部位13,18(図3参照)の溶接を行なう。
【0079】
こうして、六つの接合部位13,14,15,16,17,18の溶接作業を行なうことで、円筒パイプ11間の接合は終了する。
【0080】
次に、このように構成された本実施形態の作用効果について説明する。
この実施形態のクラッシュカン3は、断面の等しい複数の円筒パイプ11で構成して、この円筒パイプ11を、隣接する円筒パイプ11とパイプ内部から照射されるレーザーLで溶接している。
【0081】
これにより、円筒パイプ11内部から照射されるレーザーLだけで、円筒パイプ11と隣接する円筒パイプ11を溶接することができる。
このため、円筒パイプ11間の結合を確実に行なうことができ、円筒パイプ11同士を円筒パイプ11だけで結合することを確実に行なうことができる。
よって、軸方向に延びる複数のパイプ部材を備えるクラッシュカン3において、確実に軸方向に座屈変形を生じるように円筒パイプ11を結合して、常に大きな衝突エネルギーの吸収量を得ることができる。
【0082】
また、この実施形態では、レーザーLによる溶接を、円筒パイプ11の軸方向に一直線状に走査して行っている。
これにより、円筒パイプ11間の接合を、円筒パイプ11の軸方向全域に亘って、より確実に行なうことができる。
よって、円筒パイプ11間の接合部位13,14,15,16,17,18の結合力を確実に高めることができ、円筒パイプ11の座屈変形時の剥離を確実に防止することができる。
【0083】
また、この実施形態では、中央の円筒パイプ11Cの内部からレーザーLを照射して、レーザーLの照射方向を周方向に回動することにより、周囲の円筒パイプ11A,11B,11D,11Eと接合している。
これにより、中央の円筒パイプ11Cと周囲の円筒パイプ11A,11B,11C,11Dとの接合部位を、全て、中央の円筒パイプ11C内からミラー20を取り出すことなく、一度で接合することができる。
よって、複数の円筒パイプ11間を接合するのを、効率的に行なうことができ、クラッシュカン3の製造方法をより簡便に行なうことができる。
【0084】
また、この実施形態では、中央の円筒パイプ11Cの軸芯CLと回転中心を一致させた回転装置21を備え、この回転装置21でミラー20の反射方向を周方向に回動可能になるように構成することで、中央の円筒パイプ11Cと周囲の円筒パイプ11A,11B,11D,11Eとを接合している。
これにより、ミラー20の反射位置を変化させるだけで、中央の円筒パイプ11Cと複数の周囲の円筒パイプ11A,11B,11D,11Eを、一気に接合することができる。
よって、中央の円筒パイプ11Cから効率的にレーザー溶接することができ、溶接作業時間を短縮することができる。
【0085】
また、この実施形態では、円筒パイプ11のパイプ内部に、軸方向に移動可能なミラー20を挿入して、このミラー20で、レーザー溶接のレーザーLを反射させて接合を行っている。
これにより、ミラー20が挿入可能であれば、円筒パイプ11の内径やレーザー溶接機M1の大きさを考慮することなく、円筒パイプ11間をレーザー溶接することができる。
よって、円筒パイプ11の内部から溶接する場合であっても、さまざまな直径の円筒パイプ11に対して、汎用性を高めて製造作業を行なうことができる。
【0086】
なお、この実施形態では、接合部位を、円筒パイプ11の軸方向に一直線状に設定しているが、その他にも、座屈変形の半ピッチ毎に、接合位置を離間して、いわゆる「ステッチ」状にレーザー溶接してもよい。
【0087】
このように、ステッチ状にレーザー溶接することで、断面形状が三角形に変形する際に剥離が生じやすい頂点部分だけを、重点的に溶接することができるため、効率的に溶接作業を行なうことができる。
【0088】
このステッチ状の溶接は、この実施形態の溶接機では、例えば、図12に示すように、ミラー角度調整装置26を利用して、所定の角度毎でミラー20を固定して、照射されたレーザーLを反射することで、ステッチ状に溶接することが考えられる。
【0089】
この場合には、座屈変形の際に剥離が生じる部分だけを、効率的に行なうことができる。
よって、座屈変形時に安定した座屈変形を得つつも、レーザー溶接のコストを削減することができる。
【0090】
特に、ミラー角度調整装置26でミラー20の反射角度αを変化させて、ステッチ状に溶接することにより、ミラー20を軸方向に移動させることなく、複数の溶接箇所を溶接することができる。
よって、さらに、作業効率を高めて円筒パイプ11を溶接することができる。
また、ステッチ状にレーザー溶接する場合には、図13に示すように、大型ミラー20Aを用いて、同時に二箇所の接合箇所14A,14Bを溶接することも考えられる。
すなわち、反射面20Aaが円筒パイプ11の軸方向に長い大型ミラー20Aを設定して、図示しない二つの照射ヘッドから、各々二つのレーザーL1,L2を照射して、大型ミラー20Aでこの二つのレーザーL1,L2を反射することで、上の接合箇所14Aと下の接合箇所14Bを同時に接合することが考えられる。
【0091】
この場合には、接合箇所14A,14Bがステッチ状に上下に離間していても、大型ミラー20Aを昇降することなく、二箇所の接合箇所14A,14Bを同時に接合することができる。
【0092】
このように、大型ミラー20Aの反射面20Aaのパイプ軸方向の異なる部分に、同時に二つのレーザーL1,L2を反射させて、ステッチ状に溶接を行うことも考えられる。
この場合には、同時に二箇所の接合箇所14A,14Bを所定間隔を空けて、レーザー溶接を行なうことができる。
このため、ステッチ状のレーザー溶接を行なう場合に、大型ミラー20Aの移動量を少なくすることができ、また、溶接の作業時間も短縮することができる。
よって、ステッチ溶接を行なう場合であっても、作業効率を高めて円筒パイプ11を溶接することができる。
【0093】
また、さらに、図14に示すように、円筒パイプ11が長尺である場合には、円筒パイプ11の両側開口端11a,11bから、各々ミラー20,20等を挿入して、レーザーLを円筒パイプ11の両側開口端11a,11bから照射することで、各接合箇所14C,14Dを接合するように構成することが考えられる。
このように、円筒パイプ11の両側開口端11a,11bからミラー20を挿入して各々レーザー溶接する場合には、円筒パイプ11の長さが長尺となって一方からの挿入では、接合箇所の位置を確実に規定できない場合であっても、確実に所望の接合箇所14C,14Dで溶接することができる。
【0094】
このように、円筒パイプ11の両側開口端11a,11bから各々ミラー20を挿入して、この両側開口端11a,11bからレーザーLを照射して、各ミラー20,20で反射させることで、円筒パイプ11間を接合することも考えられる。
この場合には、円筒パイプ11が長尺であっても、ミラー20の挿入量を多くすることなく、レーザー溶接を行なうことができる。
このため、ミラー20の挿入量の増大による溶接位置のバラツキを抑えることができ、溶接位置の精度を高めることができる。
よって、円筒パイプ11が長尺であっても、確実に溶接を行なうことができ、円筒パイプ11同士の結合強度を確実に高めることができる。
【0095】
また、溶接機のレーザーLの照射量が少ない場合には、図15に示すように、円筒パイプ11の両側開口端11a,11bから、複数のミラー20…を挿入して、一箇所の接合箇所14EにレーザーLを集中して反射させて、レーザー接合することも考えられる。
この場合には、複数のミラー20…を挿入して、複数のレーザーL,Lを、一箇所の接合箇所に集中して反射させるため、各レーザーL,Lの照射量が少ない場合であっても、確実に円筒パイプ11を溶接することができる。
よって、レーザーLの照射量が少ない場合であっても、複数のミラー20…を用いることで、確実に接合箇所14Eの溶接を行うことができる。
【0096】
次に、第二実施形態の実施形態について、図16により説明する。図16は第二実施形態のレーザー溶接機の全体模式図である。
この実施形態のレーザー溶接機M2は、照射ヘッド31を昇降軸25の下端に設けて、この照射ヘッド31に光ファイバー32(レーザーファイバー)でレーザーを案内する、いわゆるファイバーレーザー溶接機M2である。なお、その他の構成については、第一実施形態のミラーレーザー溶接機M1と同様であるため、同一の符号を付して説明を省略する。
【0097】
照射ヘッド31とレーザー発振機29との間には、前述のように光ファイバー32を設けている。この光ファイバー32は、比較的長い光ファイバーであり、照射ヘッド31が円筒パイプ11内に挿入された場合でも、確実に照射ヘッド31にレーザーを供給するように構成している。
【0098】
また、このファイバーレーザー溶接機M2による円筒パイプ11の接合方法についても、第一実施形態とほぼ同様であり、直接、照射ヘッド31でレーザーLを照射する以外は同様であるため、説明を省略する。
【0099】
このように、本実施形態では、円筒パイプ11のパイプ内部に、軸方向に移動可能な光ファイバー32を挿入して、この光ファイバー32の先端の照射ヘッド31からレーザーLを照射することで、接合を行なうようにしている。
これにより、照射ヘッド31で、レーザーLを接合部位14(図3参照)に直接照射できるため、溶接精度を高めることができる。
よって、円筒パイプ11の内部から溶接する場合であっても、溶接精度を向上することができ、円筒パイプ11間の接合強度を高めることができる。
【0100】
また、この実施形態では、図17に示すような関連する実施形態が考えられる。図17は、関連する実施形態のレーザー溶接機の全体模式図である。
この実施形態のレーザー溶接機M3は、照射ヘッド33を、昇降軸25の途中に離間して三つ(33,33,33)設けて、この三つの照射ヘッド33,33,33に、それぞれに対応する光ファイバー34,34,34を連結すると共に、それぞれの光ファイバー34,34,34にレーザーを供給する複数のレーザー発振機35,35,35を設けたファイバーレーザー溶接機M3である。
なお、その他の構成については、第一実施形態のミラーレーザー溶接機M1と同様であるため、この溶接機M3でも、同一の符号を付して説明を省略する。
【0101】
この実施形態の照射ヘッド33…は、座屈変形の半ピッチに対応した間隔を空けて、各々、昇降軸25の途中に設けている。このように座屈変形の半ピッチに対応した間隔を空けて照射ヘッド33…を設置することにより、この間隔を利用して、ステッチ状のレーザー溶接をすることができる。
【0102】
このファイバーレーザー溶接機M3による円筒パイプ11の接合方法においては、三つの照射ヘッド33…が同時にレーザーL…を照射する点を除いては、第二実施形態と同様である。
【0103】
このように、間隔を空けて設けた三つの照射ヘッド33…が、同時にレーザーL…を照射することにより、ステッチ状のレーザー溶接を比較的容易に行なうことができる。
【0104】
このように、この実施形態では、光ファイバー34…を三つ設定して、この光ファイバー34…に連結された三つの照射ヘッド35…を、座屈変形の半ピッチに対応した間隔を空けて設置して、同時に三箇所を接合するようにしている。
これにより、ステッチ状のレーザー溶接を行なうことを、容易且つ確実に行なうことができる。
よって、ステッチ状のレーザー溶接する場合に、作業効率を高めて溶接を行なうことができる。
なお、光ファイバーや照射ヘッドの数は、この三つに限定されるものではなく、二つや四つ、さらには五つであってもよい。
【0105】
次に、第三実施形態について、図18により説明する。図18は第三実施形態のクラッシュカンの横断面図である。
【0106】
この実施形態のクラッシュカン103の結合構造は、円筒パイプ41を、外周側を低融点合金(42)、内周側を高融点合金(43)で構成した「二重管」構造で構成して、融点の差を利用して、外周側の低融点合金だけを溶融して焼成することで、円筒パイプ41間の結合を行なうものである。
【0107】
具体的には、図18に示すように、各円筒パイプ41…を、内周側に高融点アルミニウム合金で成形した内側円筒部43を、外周側にアルミシリコン系などの低融点アルミニウム合金で成形した外側円筒部42を、それぞれ設定した二重管で構成している。
【0108】
この二重管で構成した円筒パイプ41を、図に示すように、最終結合状態で5本を集合して束ねて、図示しない溶融炉において、高融点アルミニウム合金(43)の融点温度と低融点アルミニウム合金(42)の融点温度の中間温度で、溶融して焼成する。
この焼成によって、この二重管の円筒パイプ41は、低融点アルミニウム合金(42)のみが溶融して、隣り合う円筒パイプ41…の接触部分44…のみで結合されることになる。
これにより、結合作業の際には、高融点アルミニウム合金(43)は、全く溶融することなく、熱による歪みも生じることがない。
【0109】
このように、本実施形態では、円筒パイプ41を、内側円筒部43を融点の高い高融点アルミニウム合金で構成して、外側円筒部42を融点の低い低融点アルミニウム合金で構成する共に、中間温度で焼成することで、円筒パイプ41同士を、外側円筒部42同士で接合する。
これにより、比較的低い温度で、円筒パイプ41を接合することができるため、融点の高い内側円筒部43の形状に影響を与えることなく、円筒パイプ41を接合することができる。
よって、円筒パイプ41に歪みを生じさせることなく、複数の円筒パイプ41…を接合することができ、衝突荷重を受けた際の座屈変形の挙動を安定させることができる。
【0110】
なお、この実施形態では、外周側全てを低融点アルミニウム合金で被覆したが、接合部位に相当する部分だけを、低融点アルミニウム合金で被覆するように構成してもよい。
【0111】
次に、第四実施形態について、図19、図20で説明する。図19は第四実施形態のクラッシュカンの横断面図であり、図20は他の例のクラッシュカンの横断面図で、(a)が第一例のクラッシュカンの横断面図で、(b)が第二例のクラッシュカンの横断面図である。
【0112】
この実施形態のクラッシュカン203は、一般的な円筒パイプを結合するものではなく、円筒部を有する複数の押出しフレーム(51,52,53)同士を、くびれを有する係合凹部54と係合凸部55とで嵌合結合することで、構成したものである。
【0113】
具体的には、図19に示すように、アルミニウム合金を押出し成形して構成した円筒部を有する押出しフレーム(51,52,53)を、複数設定して、互いに嵌合結合することでクラッシュカン203を構成している。
押出しフレームは、中央円筒部50Cと上側左円筒部50Bと下側左円筒部50Eとの三つの円筒部を一体に成形した第一フレーム51と、上側右円筒部50Aだけで成形した第二フレーム52と、下側左円筒部50Dだけで成形した第三フレーム53と、を備えている。
【0114】
そして、第一フレーム51の側面には、第二フレーム52と第三フレーム53に当接する部位に、それぞれくびれを有する係合凸部54…を四箇所設けている。一方、第二フレーム52及び第三フレーム53にも、この係合凸部54…に対応するように、くびれを有する係合凹部55…を二箇所ずつ設けている。
【0115】
こうして、第一フレーム51と第二フレーム52と第三フレーム53とは、係合凸部54…と係合凹部55…を利用して嵌合結合している。
【0116】
このように、係合凸部54…と係合凹部55…を利用して、第一フレーム51と第二フレーム52と第三フレーム53とを結合することにより、結合作業の際には、全く押出しフレーム(51,52,53)を加熱しないため、押出しフレームに歪が生じるのを防止できる。
【0117】
以上のように、この実施形態のクラッシュカン203は、断面の等しい円筒形状の円筒部50A,50B,50C,50D,50Eで構成される押出しフレームを、くびれを有する係合凸部54を備える第一フレーム51と、くびれを有する係合凹部54を備える第二フレーム52と第三フレーム53とで構成して、この第一フレーム51と、第二フレーム52、第三フレーム53を、それぞれ係合凸部54と係合凹部55で嵌合結合するように構成している。
これにより、単に、係合凸部54と係合凹部55を、嵌合結合するだけで、複数の円筒部50A,50B,50C,50D,50Eを備えたクラッシュカン203を構成することができる。
このため、円筒部50A,50B,50C,50D,50Eの結合に熱処理を用いることがないため、円筒部50A,50B,50C,50D,50Eに結合作業による歪みを生じさせることがない。
よって、複数の円筒部50A,50B,50C,50D,50Eを有するクラッシュカン203の座屈変形の挙動を安定させることができる。
【0118】
また、この実施形態では、第一フレーム51を、三つ円筒部50B,50C,50Eを一体成形したもので構成している。
これにより、円筒部50A,50B,50C,50D,50E毎に押出しフレームを設けなることなく、複数の円筒部50A,50B,50C,50D,50Eを備えたクラッシュカン3を構成することができる。
よって、複数の円筒部50A,50B,50C,50D,50Eを有するクラッシュカン3を、部品削減して構成することができる。
【0119】
なお、この実施形態では、第一フレーム51に三つの円筒部50B,50C,50Eを一体成形したが、例えば、二つの円筒部で一体成形するように構成してもよい。また、係合凸部54は第一フレーム51に設けているが、逆に、係合凹部を第一フレームに設けてもよい。
【0120】
なお、他の例のクラッシュカンの構造としては、図20(a)に示すように、中央円筒部50Cだけで第一フレーム51を構成して、上側右円筒部50Aと上側左円筒部50Bの二つで第二フレーム52を構成し、下側右円筒部50Dと下側左円筒部50Eの二つで第三フレーム53を構成してもよい。
この場合も、各フレーム51,52,53に設けたくびれを有する係合凸部54と係合凹部55を嵌合結合することで、複数の円筒部50A,50B,50C,50D,50Eを有するクラッシュカン303を構成することが考えられる。
【0121】
このクラッシュカン303の場合には、円筒部を一体成形した第二フレーム52と第三フレーム53が、上下方向で対称に位置することになるため、円筒部50A,50B,50C,50D,50E間の結合強度が上下方向で均等になり、円筒部50A,50B,50C,50D,50Eの座屈変形時の挙動を上下方向で一致させることができる。
【0122】
よって、クラッシュカン303の座屈変形が、上下いずれかに偏って生じることがなく、安定して衝突エネルギーの吸収を行なうことができる。
【0123】
また、他の例のクラッシュカンの構造として、(b)に示すように、第一フレーム51を中央円筒部50Cと上側右円筒部50Aと下側左円筒部50Eの三つを一体成形して構成して、第二フレーム52を上側左円筒部50Bだけで構成し、第三フレーム53を下側右円筒部50Dだけで構成することも考えられる。
この場合も、各フレーム51,52,53に設けた係合凸部54と係合凹部55とを嵌合結合することで、クラッシュカン403を構成することが考えられる。
【0124】
このクラッシュカン403の場合には、中央円筒部50Cに対して対角線上にある二つの円筒部(上側右円筒部50Aと下側左円筒部50E)を、第一フレーム51で一体に成形しているため、五つの円筒部を有する場合に、三つの円筒部が一体成形される第一フレーム51と、これに別体で連結される第二フレーム52と第三フレーム53とが、偏りなく配置されることになる。
よって、クラッシュカン403が座屈変形する際に、強度差が生じにくいため、座屈変形性能が安定する。
【0125】
なお、この他にも、具体的には図示しないが、五つの円筒部を各々別体に構成して、係合凸部と係合凹部で嵌合連結するように構成してもよい。
【0126】
次に、第五実施形態について、図21で説明する。図21は第五実施形態の円筒パイプ間の結合部の詳細断面図である。
【0127】
この実施形態では、円筒バイプ61,61を結合する結合部を、図21に示すように、円筒パイプ61の周面に形成したスプライン状の係合ボス部62と、スプライン状の係合溝部63とを嵌合結合することで構成している。
【0128】
具体的には、円筒パイプ61の周面に、塑性加工等によって、スプライン状に軸方向に延びる係合ボス部62と、スプライン状に軸方向に延びる係合溝部63とを形成し、この係合ボス部62と係合溝部63を嵌合固定することにより、隣り合う円筒パイプ61,61同士を結合している。
【0129】
係合ボス部62と係合溝部63には、それぞれ、嵌合固定が外れないように、カエリ傾斜角βが形成されており、一旦嵌合すると、円筒パイプ61間の連結固定が外れないように構成している。
【0130】
このように、この実施形態では、円筒パイプ61の周面に係合ボス部62と係合溝部63を設けて嵌合結合するため、結合の際には、第四実施形態と同様に、熱処理を行なう必要がない。
よって、円筒パイプ61に結合作業による歪みが生じることがなく、クラッシュカンの座屈変形の挙動を安定させることができる。
【0131】
次に、第六実施形態について、図22で説明する。図22は第六実施形態の円筒パイプの成形方法を説明する模式図であり、(a)が成形装置の断面図、(b)が円筒パイプの成形時の断面図である。
【0132】
この実施形態では、引き抜き加工によって、断面楕円形状のパイプ材71から、円筒部を二つ有するパイプ部材を成形するように構成している。すなわち、一つのパイプ部材から二つの円筒部を形成することで、クラッシュカンに用いる円筒パイプの数を削減しつつも、円筒の断面数を確保するようにしたものである。
【0133】
この引き抜き加工は、(a)に示すように、絞り加工を行なうダイス72と、パイプ部材71内に配置されるプラグ73と、円筒形状を保持する円筒保持具74と、パイプ部材71を引っ張る引き抜き機75と、を備える引き抜き加工装置M4によって行われる。
【0134】
この引き抜き加工装置M4で、金属製のパイプ部材71を形成すると、(b)に示すように、断面横長の楕円形状のパイプ材71Aから、円筒部71a,71bを二つ並設したパイプ部材71Bを成形することができる。
【0135】
このように、この実施形態では、こうした加工方法によって、円筒部71a,71bを二つ有するパイプ部材71Bを成形することにより、パイプ部材の数を削減することができる。
よって、パイプ部材の数を、断面数よりも削減することができるため、部品点数の削減を図ることができる。
なお、図22(a)の成形装置は、概略を図示したものであり、装置構成を限定するものではない。
【0136】
次に、第七実施形態について、図23で説明する。図23は第七実施形態の円筒パイプの成形方法を説明する模式図であり、(a)が成形装置の側面図、(b)がパイプ部材も含めて示した成形時の断面図である。
【0137】
この実施形態では、ロールフォーミング加工によって、断面楕円形状のパイプ部材81から、円筒部を二つ有するパイプ部材を成形するように構成している。すなわち、一つのパイプ部材から二つの円筒部を形成することで、クラッシュカンに用いる円筒パイプの数を削減しつつも、円筒の断面数を確保するようにしたものである。
【0138】
このロールフォーミング加工では、(a)に示すように、上下に位置するソロバン珠形状の上下ローラ82と、左右に位置する鼓形状の左右ローラ83と、をパイプ部材81の搬送方向に、徐々に絞り込むように複数配置した、ロールフォーミング加工装置によって行なう。
【0139】
このロールフォーミング加工装置で、金属製のパイプ部材81を形成すると、(b)に示すように、断面横長の楕円形状のパイプ部材81Aから、円筒部81a,81bを二つ並設したパイプ部材81Bを成形することができる。
【0140】
このように、この実施形態でも、こうした加工方法によって、円筒部81a,81bを二つ有するパイプ部材81Bを成形することにより、パイプ部材の数を削減することができる。
よって、パイプ部材の数を、断面数よりも削減することができるため、部品点数の削減を図ることができる。
なお、図23の成形装置は、概略を図示したものであり、装置構成を限定するものではない。
【0141】
次に、第八実施形態について、図24〜図27で説明する。図24は第八実施形態の円筒パイプの成形方法を説明する模式図であり、図25はプリフォーム積層タイプの円筒パイプの断面図であり、図26はプリフォーム形状が異なる他の積層タイプの円筒パイプの断面図であり、図27はプリフォーム一体タイプの円筒パイプの断面図である。
【0142】
この実施形態は、クラッシュカンを構成する円筒パイプを、より安定して座屈変形させるため、略円筒状のプリフォームを利用して円筒パイプを成形して、円筒パイプ内で部分的に強度差を持たせたものである。
すなわち、例えば、特開2007−268586公報等に記載された強化繊維で成形したプリフォームを、鋳型内にセットしておき、そのプリフォームを金属の母材で鋳込むことで、円筒パイプを成形するものである。
【0143】
具体的には、図24に示す成形工程によって、円筒パイプを成形する。
まず、初めに(a)に示すように、等間隔で厚肉部92…を有するシート状のプリフォーム91を成形する。このプリフォーム91は、前述したように強化繊維によって成形する。
【0144】
次に、(b)に示すように、シート状のプリフォーム91を円筒状に折曲げて、円筒形状のプリフォーム93を成形する。このとき、厚肉部92…が外周側に位置するように成形する。
なお、型を用いて(b)の形状を初めから作ってもよい。
【0145】
その後、(c)に示すように、円筒パイプの座屈変形の半ピッチに対応した長さで切断して、位相を60度ずらしたものを、一つとびに積層する(94)。
【0146】
最後に、(d)に示すように、この積層したプリフォーム94を、図示しない鋳型内にセットして、母材(アルミニウムなど)を流し込むことで、円筒パイプ95を成形する。
【0147】
このように、円筒パイプ95を成形することで、円筒パイプ95は、外周側に母材であるアルミニウム96が位置して、内周側にアルミニウムとプリフォームの複合化部分97が位置するように成形される。
【0148】
また、1−1縦断面図に示すように、厚肉部92を設けた部分では、アルミニウムとプリフォームの複合化部分97が、凹凸状に繰り返して成形されるように構成され、2−2縦断面図と比較すると、厚肉部92の部分では、複合化部分が増加することが分かる。
【0149】
このように、円筒パイプ95を構成することで、図25で一点鎖線に示すように、座屈変形時に、三角形の辺K1となる部分がちょうど厚肉部92になるように変形する。すなわち、厚肉部92を設けた部分の強度が高まり、その他の部分の強度が相対的に低下するため、強度が低い部分に応力集中が生じて、三角形の頂点K2がその部分に形成されることで、三角形の辺K1が厚肉部92に生じるのである。
【0150】
したがって、本実施形態の円筒パイプ95によると、確実に座屈変形時の断面形状を規定できるため、より安定してクラッシュカンの座屈変形を生じさせることができる。
【0151】
次に、図26は、プリフォームの形状が異なる他の円筒パイプの断面図であり、(a)がプリフォームを内周側に位置させた場合の断面図、(b)がプリフォームを外周側に位置させた場合の断面図である。
【0152】
この実施形態では、円筒形状のプリフォーム100の一部に、約120度間隔で凹部101を形成して、座屈変形時には、この凹部101に正三角形の頂点K2が形成されるように構成している。
【0153】
(a)に示すように、プリフォーム100Aを内周側に位置させた場合には、外面側に、一段凹んだ凹部101Aを120度間隔で三箇所形成する。これにより、座屈変形時には、一点鎖線で示すように、この凹部101Aに頂点K2が位置する正三角形が形成される。
【0154】
(b)に示すように、プリフォーム100Bを外周側に位置された場合には、内面側に、一段凹んだ凹部101Bを120度間隔で三箇所形成する。これにより、座屈変形時には、一点鎖線で示すように、この凹部101Aに頂点K2が位置する正三角形が形成される。
【0155】
なお、いずれの図においても、破線で示した凹部101Cは、半ピッチ後の逆正三角形の頂点に対応する凹部を示している。
【0156】
このように、プリフォーム100を成形した場合には、凹部101によって、座屈変形時の正三角形の頂点K2を、確実に規定できるため、図25に示したプリフォーム97の形状よりも、さらに、円筒パイプ101の座屈変形時の挙動を安定させることができる。
【0157】
よって、この実施形態の場合には、より安定して衝突エネルギーの吸収性能を高めることができる。
【0158】
次に、図27は、プリフォーム一体タイプの円筒パイプの断面図であり、(a)がプリフォームを内周側に位置させた場合の断面図、(b)がプリフォームを外周側に位置させた場合の断面図である。
【0159】
この実施形態では、円筒形状のプリフォーム110の一部に、約60度間隔で凹部111を形成して、座屈変形時には、この凹部111に正三角形の頂点K2と逆正三角形の頂点K3が形成されるように構成している。
【0160】
(a)に示すように、プリフォーム110Aを内周側に位置させた場合には、外面側に、一段凹んだ凹部111を60度間隔で六箇所形成する。これにより、座屈変形時には、一点鎖線で示すように、正三角形X1が形成される。また、次の半ピッチの所には、破線で示すように、逆正三角形X2が形成される。
【0161】
(b)に示すように、プリフォーム110Bを外周側に位置された場合には、内面側に、一段凹んだ凹部111Bを60度間隔で六箇所形成する。これにより、座屈変形時には、一点鎖線で示すように、正三角形X1が形成される。また、次の半ピッチの所には、破線で示すように、逆正三角形X2が形成される。
【0162】
このように、プリフォーム110を一体成形した場合には、プリフォーム110を切断して積層する必要がないため、円筒パイプの成形性を高めることができる。
また、凹部111Bによって、座屈変形時の正三角形X1の頂点K2と逆正三角形X2の頂点K2を確実に規定できるため、円筒パイプの座屈変形時の挙動を安定させることができる。
【0163】
よって、この実施形態の場合には、円筒パイプの成形性を高めることができ、また、より安定して衝突エネルギーの吸収性能を高めることができる。
【0164】
以上、この発明の構成と前述の実施形態との対応において、
この発明の角度調整機構は、実施形態のミラー角度調整装置26に対応し、
以下、同様に、
レーザーファイバーは、光ファイバー32に対応し、
内側部材は、内側円筒部43に対応し、
外側部材は、外側円筒部42に対応し、
第一円筒部材は、第一フレーム51に対応し、
第二円筒部材は、第二フレーム52に対応するも、
この発明は、前述の実施形態に限定されるものではなく、あらゆる自動車のフレーム構造に適用する実施形態を含むものである。
【0165】
例えば、車体前部のクラッシュカンだけでなく、車体後部のクラッシュカンや、車体の骨格部材であるフロントサイドフレームや、リヤサイドフレームであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0166】
【図1】自動車のフレーム構造をクラッシュカンとして使用した車体前部構造の前方斜視図。
【図2】クラッシュカンの全体斜視図。
【図3】クラッシュカンの前端部の斜視図。
【図4】クラッシュカンの正面図。
【図5】クラッシュカンの正面図に右側を頂点とする三角形の変形モデルを加えた図。
【図6】クラッシュカンの正面図に左側を頂点とする三角形の変形モデルを加えた図。
【図7】クラッシュカンの座屈変形前と座屈変形後の状態を示す側面図であり、(a)が座屈変形前のクラッシュカンの側面図、(b)が座屈変形後のクラッシュカンの側面図。
【図8】本実施形態のクラッシュカンと従来構造のクラッシュカンの衝突エネルギー吸収状態を比較するグラフを示した図。
【図9】円筒パイプの板厚と直径を変化させてクラッシュカンを座屈変形させた場合のグラフを示した図。
【図10】第一実施形態のクラッシュカンの円筒パイプ間を接合する溶接機の全体模式図。
【図11】ミラーでレーザーを反射して溶接を行なう状態の模式図。
【図12】ミラー角度調整装置を利用してミラーの反射角度を変化させた状態の模式図。
【図13】大型ミラーでレーザーを反射して溶接を行なう状態の模式図。
【図14】円筒パイプの両端開口部からミラーを挿入して溶接を行なう状態の模式図。
【図15】複数のミラーを用いてレーザーを反射して溶接を行なう状態の模式図。
【図16】第二実施形態のレーザー溶接機の全体模式図。
【図17】関連する実施形態のレーザー溶接機の全体模式図。
【図18】第三実施形態のクラッシュカンの横断面図。
【図19】第四実施形態のクラッシュカンの横断面図。
【図20】他の例のクラッシュカンの横断面図で、(a)が第一例のクラッシュカンの横断面図で、(b)が第二例のクラッシュカンの横断面図。
【図21】第五実施形態の円筒パイプ間の結合部の詳細断面図。
【図22】第六実施形態の円筒パイプの成形方法を説明する模式図であり、(a)が成形装置の断面図、(b)が円筒パイプの成形時の断面図。
【図23】第七実施形態の円筒パイプの成形方法を説明する模式図であり、(a)が成形装置の側面図、(b)がパイプ部材も含めた示した成形時の断面図。
【図24】第八実施形態の円筒パイプの成形方法を説明する模式図。
【図25】プリフォーム積層タイプの円筒パイプの断面図。
【図26】プリフォーム形状が異なる他の積層タイプの円筒パイプの断面図。
【図27】プリフォーム一体タイプの円筒パイプの断面図。
【符号の説明】
【0167】
L…レーザー
1…フロントサイドフレーム
3,103,203,303,403…クラッシュカン
11,11A,11B,11C,11D,11E…円筒パイプ
20,20A…ミラー
26…ミラー角度調整装置
32,35…光ファイバー
42…外側円筒部
43…内側円筒部
51…第一フレーム
52…第二フレーム
53…第三フレーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に延びる複数のパイプ部材を備える自動車のフレーム構造であって、
前記パイプ部材を断面の略等しい円筒パイプで構成して、
該円筒パイプを、隣接する円筒パイプとパイプ内部から照射されるレーザーで溶接する
自動車のフレーム構造。
【請求項2】
前記レーザーによる溶接を、円筒パイプの軸方向に一直線状に走査して行なう
請求項1記載の自動車のフレーム構造。
【請求項3】
前記レーザーによる溶接を、円筒パイプの座屈変形の変形位相に合わせて所定間隔を空けて行なう
請求項1記載の自動車のフレーム構造。
【請求項4】
前記パイプ内部からレーザーを照射する円筒パイプを中央円筒パイプとして設定し、
該中央円筒パイプの周囲に、それぞれ接合される複数の周囲円筒パイプを配置して、
レーザー照射位置を周方向に回動させてレーザー溶接する
請求項2又は3記載の自動車のフレーム構造。
【請求項5】
前記円筒パイプのパイプ内部に、軸方向に移動可能なミラーを挿入して、
該ミラーで、前記レーザー溶接のレーザーを反射させて接合を行なう
請求項1〜4いずれかに記載のフレーム構造の製造方法。
【請求項6】
前記レーザー溶接を、円筒パイプの座屈変形の変形位相に合わせて所定間隔を空けて行なう方法であって、
前記ミラーの円筒パイプ軸方向の異なる部分に、同時に複数のレーザーを反射させて、前記所定間隔を空けて円筒パイプを接合する
請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
前記レーザー溶接を、円筒パイプの座屈変形の変形位相に合わせた所定間隔を空けて行なう方法であって、
前記ミラーに軸方向に対して反射角度を変更する角度調整機構を備え、該角度調整機構で反射角度を変化させることで、円筒パイプを接合する
請求項5記載の製造方法。
【請求項8】
前記円筒パイプの両側開口端から、各々ミラーを挿入して、
該両側開口端の各々からレーザーを照射して、各ミラーで反射させることで、円筒パイプを接合する
請求項5〜7いずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
中央円筒パイプと、該中央円筒パイプの周囲に配置した複数の周囲円筒パイプを接合する方法であって、
前記ミラーに中央円筒パイプの軸心を回転中心とした回転機構を備え、
該回転機構でミラーの反射方向を周方向に移動可能に構成し、
レーザーを反射することで、中央円筒パイプと周囲円筒パイプを接合する
請求項5〜8いずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
前記円筒パイプのパイプ内部に、軸方向に移動可能なレーザーファイバーを挿入して、
該レーザーファイバーの先端部からレーザーを照射することにより接合を行なう
請求項1〜4いずれかに記載のフレーム構造の製造方法。
【請求項11】
前記レーザー溶接を、円筒パイプの座屈変形の変形位相に合わせた所定間隔を空けて行なう方法であって、
前記レーザーファイバーを複数設定して、
該各レーザーファイバーの先端部を前記所定間隔を空けて設定して、同時に複数箇所を接合する
請求項10記載の製造方法。
【請求項12】
軸方向に延びる複数の円筒パイプを備える自動車のフレーム構造であって、
前記円筒パイプを、断面の略等しい円筒パイプで構成して、
該円筒パイプを、融点の高い内側部材と融点の低い外側部材とから構成する共に、該円筒パイプ同士を、外側部材同士で接合した
自動車のフレーム構造。
【請求項13】
円筒パイプ同士を、最終接合状態に束ねて、
外側部材の融点よりも高く内側部材の融点よりも低い中間温度で焼成して、
各円筒パイプの接触部を溶融させて接合する
請求項12記載のフレーム構造の製造方法。
【請求項14】
軸方向に延びる複数の閉断面を備える自動車のフレーム構造であって、
前記閉断面を、断面の略等しい円筒形状の円筒部で構成し、
前記フレームを、くびれを有する凸部を備える第一円筒部材と、
くびれを有する凹部を備える第二円筒部材とで構成して、
該第一円筒部材と第二円筒部材を、凸部と凹部で嵌合接続することで結合した
自動車のフレーム構造。
【請求項15】
前記フレームが、少なくとも三つ円筒部を互いに結合する構成であって、
前記第一円筒部材又は前記第二円筒部材の一方が、一体成形される複数の円筒部を有する
請求項14記載の自動車のフレーム構造。
【請求項16】
前記フレームが、互いに接続される二つの円筒部が距離をおいて二組配設されて、該円筒部の間の中央に全ての円筒部に接続される一つの中央円筒部が配置した構造であって、
前記第一円筒部材又は第二円筒部材の一方が、中央円筒部と各組の一つの円筒部を一体成形した三つの円筒部を有する
請求項15記載の自動車のフレーム構造。
【請求項17】
前記一方の円筒部材が、中央円筒部と該中央円筒部に対して対角線上にある円筒部との、三つの円筒部が一体成形される
請求項16記載の自動車のフレーム構造。
【請求項18】
前記円筒パイプを、引き抜き成形、又はロール成形で複数の円筒部を有するように形成した
請求項1又は12記載の自動車のフレーム構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2009−227112(P2009−227112A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−74983(P2008−74983)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】