説明

自動車用ダッシュインシュレータ及びその製造方法

【課題】車室内の騒音に対する吸音性等による静寂性を良好に発揮するようにした自動車用ダッシュインシュレータ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】前側層40及び後側層60の間に積層される中側層50は、一側融着フィルム、バリアフィルム及び他側融着フィルムを積層して形成されており、この中側層50は、所定範囲以内の厚さを有し、かつ、多数の小孔を、所定範囲以内の均一な開口率でもって、貫通状に形成してなる。前側層40及び後側層60は、所定の目付量及び所定のヤング率を有する熱可塑性材料により形成されている。一側融着フィルム及び他側融着フィルムは、バリアフィルムの形成材料よりも融点の低い熱可塑性材料により形成されて、前側層40及び後側層60をバリアフィルムにその両面側から融着している。また、前側層及び後側層とバリア層との間の一側融着フィルム及び他側融着フィルムによる各融着部位は、その所定範囲にて、所定の融着力を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の車室内への伝播により当該車室内で発生する騒音を低減するに適した自動車用ダッシュインシュレータ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のダッシュインシュレータとしては、下記特許文献1に記載された車両用防音材が提案されている。この防音材は、第1通気性吸音層、非通気性樹脂膜層及び第2通気性吸音層を順次積層して構成されている。
【0003】
このように構成した防音材は、車両のエンジンルームと車室とを隔離するダッシュパネルに沿い、配設される。ここで、当該防音材においては、第1通気性吸音層は、車室内の騒音を吸音するために車室内側に位置するように配設され、第2通気性吸音層は、エンジンルームからの騒音を吸音するためにエンジンルーム側に位置するように配設される。また、非通気性樹脂膜層は、エンジンルームからの騒音を車室内に伝播しないように遮音するために、第2通気性吸音層を介しエンジンルームに対向するように第1及び第2の通気性吸音層の間に積層される。
【特許文献1】特開2001−347900号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このように構成した防音材においては、第1及び第2の通気性吸音層が通気性を有するものの、非通気性樹脂膜層は、全く、通気性を有さない。従って、当該非通気性樹脂膜層は、第1通気性吸音層を介するエンジンルームからの騒音を車室から遮音するとしても、この非通気性樹脂膜層は、車室内への騒音に対しても遮音機能を発揮する。換言すれば、当該防音材は、非通気性樹脂膜層を有するために、車室内への伝播により当該車室内において発生する騒音を、遮音機能により、車室内にて反射し得ても吸音することは困難である。
【0005】
そこで、本発明は、このようなことに対処するため、車室内の騒音に対する吸音性等による静寂性を良好に発揮するようにした自動車用ダッシュインシュレータ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題の解決にあたり、本発明に係る自動車用ダッシュインシュレータは、請求項1の記載によれば、
多孔質材料により形成されて互いに対向して位置する第1及び第2の外側層(40、60)と、
当該第1及び第2の外側層の間に位置するようにこれら外側層に積層されて、バリアフィルム(50b)と、このバリアフィルムにその両面側からそれぞれ第1及び第2の外側層を融着するように積層した第1及び第2の融着フィルム(50a、50c)とを有する少なくとも1層の中側層(50)とを備えて、
第1及び第2の外側層の一方を形成する上記多孔質材料は、100(g/m2)〜1,600(g/m2)の範囲以内の目付量を有するとともに、第1及び第2の外側層の他方を形成する上記多孔質材料は、100(g/m2)〜1,600(g/m2)の範囲以内の目付量及び50,000(N/m2)〜300,000(N/m2)の範囲以内のヤング率を有しており、
中側層は、25(μm)〜80(μm)の範囲以内の厚さを有し、かつ、多数の小孔を、0.5(%)〜5(%)の範囲以内の均一な開口率でもって、貫通状に形成してなり、
第1外側層とバリアフィルムとの間の第1融着フィルムによる融着部位が、その50(%)以上において、5(N/5cm)〜20(N/5cm)の範囲以内の融着力を有するとともに、
第2外側層とバリアフィルムとの間の第2融着フィルムによる融着部位が、その50(%)以上において、5(N/5cm)〜20(N/5cm)の範囲以内の融着力を有する。
【0007】
これによれば、当該ダッシュインシュレータは、第1及び第2の外側層と、当該第1及び第2の外側層の間に位置するようにこれら外側層に積層した少なくとも1層の中側層とにより、積層構造として形成されている。
【0008】
しかして、このような積層構造であるダッシュインシュレータを、自動車のエンジンルームと車室との境界に組み付けたダッシュボードに装着するにあたっては、当該ダッシュインシュレータは、第1及び第2の外側層の一方にて、ダッシュボードに沿い当該自動車の車室側から装着される。従った、当該ダッシュインシュレータは、第1及び第2の外側層の他方にて、車室内を臨むこととなる。
【0009】
ここで、第1及び第2の外側層の他方を形成する多孔質材料は、100(g/m2)〜1,600(g/m2)の範囲以内の目付量及び50,000(N/m2)〜300,000(N/m2)の範囲以内のヤング率を有する。このため、第1及び第2の外側層の他方は、上記目付量に対応する重量に基づき、良好な吸音性を発揮し得る。また、第1及び第2の外側層の他方は、上記ヤング率に対応する柔らかさに基づき、良好な吸音性を発揮し得る。従って、当該第1及び第2の外側層の他方は、上記目付量及び上記ヤング率の双方の相乗作用に基づき、良好な吸音性を発揮し得る。
【0010】
また、中側層は、25(μm)〜80(μm)の範囲以内の厚さにて薄く形成されているとともに、多数の小孔が、0.5(%)〜5(%)の範囲以内の均一な開口率でもって、貫通状に形成されている。このため、当該中側層は、その薄さ及び多数の小孔の双方に基づき良好な吸音性を発揮し得る。
【0011】
さらに、第1外側層とバリアフィルムとの間の第1融着フィルムによる融着部位が、その50(%)以上において、5(N/5cm)〜20(N/5cm)の範囲以内の融着力を有するとともに、第2外側層とバリアフィルムとの間の第2融着フィルムによる融着部位が、その50(%)以上において、5(N/5cm)〜20(N/5cm)の範囲以内の融着力を有する。これらの融着力は、中側層において良好な吸音性を発揮するのに役立つ。
【0012】
以上のような吸音性のもと、騒音が車室内への伝播により当該車室内において発生しても、当該騒音は、第1及び第2の外側層の他方により、その多孔質材料の上記目付量及びヤング率の相乗作用に基づき、良好に吸音され得る。
【0013】
また、上記騒音の一部が、第1及び第2の外側層の他方を透過しても、このように透過した上記騒音の一部は、中側層の上記薄さのもと、当該中側層の多数の小孔を透過することで良好に吸音され得る。ここで、多数の小孔は、上述した均一な開口率に基づき、中側層の全面に亘り、均一に形成されているから、上述した騒音の一部は、中側層の多数の小孔の全体に亘り透過することで良好に吸音され得る。
【0014】
また、上記騒音のうち中側層により吸音されない部分があっても、このような騒音の部分は、第1及び第2の外側層の一方により、その多孔質材料の100(g/m2)〜1,600(g/m2)の範囲以内の目付量及び50,000(N/m2)〜300,000(N/m2)の範囲以内のヤング率に基づく相乗作用的な吸音性に基づき良好に吸音され得る。
【0015】
以上のような吸音過程を経ることで、車室内の騒音は、ダッシュインシュレータにより、車室内側へは殆ど反射されることなく良好に吸音され得る。
【0016】
一方、エンジン音がエンジンルーム内に発生しても、このエンジン音は、第1及び第2の外側層の一方により、その形成材料の100(g/m2)〜1,600(g/m2)の範囲以内の目付量に基づき、良好に吸音され得る。従って、エンジン音の車室内への伝播が、ダッシュインシュレータにより良好に遮断され得る。
【0017】
以上によれば、エンジン音を車室内から良好に遮音しつつ、車室内への伝播により当該車室内に発生する騒音に対する吸音性を良好に発揮し得る自動車用ダッシュインシュレータの提供が可能となる。なお、第1及び第2の外側層を形成する多孔質材料の目付量は、100(g/m2)〜1,600(g/m2)の範囲以内にあるから、第1及び第2の外側層は非常に軽量である。しかも、中側層は上述のごとく薄く形成されている。従って、ダッシュインシュレータは非常に軽量であるから、当該ダッシュインシュレータを採用すれば、自動車の燃費等の向上に役立つ。
【0018】
また、本発明は、請求項2の記載によれば、請求項1に記載の自動車用ダッシュインシュレータにおいて、
第1及び第2の外側層を形成する上記多孔質材料は、繊維構造体材料或いは多孔質合成樹脂材料であり、
中側層において、バリアフィルムは熱可塑性樹脂材料により形成され、第1融着フィルムは、バリアフィルムを形成する上記熱可塑性樹脂材料よりも低い融点を有する熱可塑性樹脂材料でもって形成され、また、第2融着フィルムは、バリアフィルムを形成する上記熱可塑性樹脂材料よりも低い融点を有する熱可塑性樹脂材料でもって形成されていることを特徴とする。
【0019】
これによれば、第1及び第2の融着フィルムは、バリアフィルムを形成する上記熱可塑性樹脂材料よりも低い融点を有する熱可塑性材料により形成されているから、第1融着フィルムによる第1外側層のバリアフィルムとの融着が、バリアフィルムの溶融を伴うことなく、上述の融着力を確保し得るように良好になされ得るとともに、第2融着フィルムによる第2外側層のバリアフィルムとの融着が、バリアフィルムの溶融を伴うことなく、上述の融着力を確保し得るように良好になされ得る。その結果、繊維構造体材料或いは多孔質合成樹脂材料からなる第1及び第2の外側層のもと、請求項1に記載の発明の作用効果がより一層確実に達成され得る。
【0020】
また、本発明は、請求項3の記載によれば、請求項2に記載の自動車用ダッシュインシュレータにおいて、第1及び第2の外側層を形成する上記繊維構造体材料は、ポリエチレンテレフタレート、コットン或いはウールからなるフェルトであり、バリアフィルムを形成する上記熱可塑性樹脂材料は、ナイロン或いはポリエステルであり、第1融着フィルムを形成する上記熱可塑性樹脂材料は、ポリエチレン或いはポリプロピレンであり、第2融着フィルムを形成する上記熱可塑性樹脂材料は、ポリエチレン或いはポリプロピレンであることを特徴とする。これによれば、請求項2に記載の発明の作用効果がより一層具体的に達成され得る。
【0021】
また、本発明に係る自動車用ダッシュインシュレータの製造方法は、請求項4の記載によれば、
100(g/m2)〜1,600(g/m2)の範囲以内の目付量を有する多孔質材料により第1及び第2の外側層(40、60)の一方を形成するとともに、100(g/m2)〜1,600(g/m2)の範囲以内の目付量及び50,000(N/m2)〜300,000(N/m2)の範囲以内のヤング率を有する多孔質材料により第1及び第2の外側層(40、60)の他方を形成する外側層形成工程と、
多層インフレーション成型機により、共に溶融状態にある第1熱可塑性樹脂材料、この第1熱可塑性樹脂材料よりも融点の低い第2熱可塑性樹脂材料及び上記第1熱可塑性樹脂材料よりも融点の低い第3熱可塑性樹脂材料からそれぞれバリアフィルム(50b)用第1筒フィルム、この第1筒フィルムを内包する第1融着フィルム(50a)用第2筒フィルム及び上記第1筒フィルムにより内包される第2融着フィルム(50c)用第3筒フィルムをともに形成し、然る後、上記第2、第1及び第3の各筒フィルムをそのまま冷却しながら接合して25(μm)〜80(μm)の範囲以内の厚さの単一の筒フィルムを形成し、この単一の筒フィルムからシート状フィルムを形成し、このシート状フィルムに多数の小孔を0.5(%)〜5(%)の範囲以内の均一な開口率にて形成して、上記第1融着フィルム、上記バリアフィルム及び上記第2融着フィルムからなる中側層(50)を形成する中側層形成工程と、
中側層を第1及び第2の外側層の間に積層状に介装して3層積層体として構成し、この3層積層体を上記第1熱可塑性材料の融点と上記第2及び第3の熱可塑性材料の各融点との間の温度にて上記第1融着フィルム及び上記第2融着フィルムを溶融するように加熱しながら加圧した後冷却して上記第1融着フィルム及び上記第2融着フィルムにより第1及び第2の外側層を上記バリアフィルムにその両面側から融着させる融着工程とを備えて、
当該融着工程において、第1及び第2の外側層を上記バリアフィルムにその両面側から融着させるにあたり、第1外側層と上記バリアフィルムとの間の上記第1融着フィルムによる融着部位が、その50(%)以上において、5(N/5cm)〜20(N/5cm)の範囲以内の融着力を有するとともに、第2外側層と上記バリアフィルムとの間の上記第2融着フィルムによる融着部位が、その50(%)以上において、5(N/5cm)〜20(N/5cm)の範囲以内の融着力を有するように、前記加圧を行うようになっている。
【0022】
これによれば、上記融着工程において、第1及び第2の融着フィルムを溶融した上で、これら第1及び第2の融着フィルムにより第1及び第2の外側層をバリアフィルムにその両面側から融着する。従って、第1及び第2の外側層をバリアフィルムに接着するに当たり、接着剤を塗布するという工程を経ることなく、中側層において、第1及び第2の融着フィルムに、接着剤としての役割を兼用させつつ、バリアフィルムと同様の吸音性を発揮させ得る。
【0023】
その結果、第1及び第2の外側層をバリアフィルムに接着するにあたり必要とされる接着剤の塗布といった余分な工程を不必要としつつ、請求項1に記載の発明と同様の作用効果を達成し得る自動車用ダッシュインシュレータの製造が可能となる。
【0024】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態を図面により説明する。図1は、セダン型自動車に適用してなる本発明の一実施形態を示している。当該自動車は、エンジンルーム10及び車室20を備えており、車室20は、当該自動車において、エンジンルーム10に後続して設けられている。なお、エンジンルーム10内には、エンジンEが配設されている。また、車室20内には、ステアリングハンドルH、インストルメントパネルIP及び運転席Sが配設されている。
【0026】
また、当該自動車は、ダッシュボード30(ダッシュパネル30ともいう)を備えており、このダッシュボード30は、図1の縦断面形状にて示すごとく、その中央部から上下両側部を後方へ上下に傾斜状に屈曲するように延出させて形成されている。このように構成したダッシュボード30は、エンジンルーム10と車室20との境界に設けられて、これらエンジンルーム10及び車室20を相互に区画している。なお、ダッシュボード30は、その延出上端部にて、車室20のフロントウインドシールド21の下縁部に連結されており、このダッシュボード30の延出下端部は、車室20の床壁22の前縁部に連結されている。
【0027】
また、当該自動車は、ダッシュインシュレータDIを備えている。このダッシュインシュレータDIは、図1にて示すごとく、ダッシュボード30に沿い車室20側から組み付けられており、当該ダッシュインシュレータDIは、図2にて示すごとく、前側層40、中側層50及び後側層60を、当該自動車の前側から後側にかけて、順次、積層して形成されている。
【0028】
前側層40は、図2の縦断面形状にて示すごとく、その中央部から上下両側部を後方へ上下に傾斜状に屈曲して延出させるように、所定の前側層用多孔質材料により、所定の厚さでもって形成されており、この前側層40は、その前面にて、ダッシュボード30にその後面に沿い組み付けられている。
【0029】
本実施形態において、上述した前側層40の所定の厚さは、20(mm)に設定されている。また、上述した所定の前側層用多孔質材料としては、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETという)からなるフェルトであって、所定のヤング率及び所定の目付量(単位面積当たりの重量)を有するフェルト(以下、前側層用PETフェルトという)が採用されている。ここで、当該前側層用PETフェルトの上記所定の目付量は、1,000(g/m2)である。
【0030】
中側層50は、図3にて示すごとく、一側融着フィルム50a、バリアフィルム50b及び他側融着フィルム50cを積層して形成されている。一側融着フィルム50aは、図3の縦断面形状にて示すごとく、その中央部から上下両側部を後方へ上下に傾斜状に屈曲して延出させるように、所定の一側融着フィルム用熱可塑性材料により、所定の厚さでもって形成されており、この一側融着フィルム50aは、その前面にて、前側層40にその後面に沿い融着されている。
【0031】
本実施形態において、上述した一側融着フィルム50aの所定の厚さは、20(μm)に設定されている。また、上述した所定の一側融着フィルム用熱可塑性材料としては、ポリエチレンが採用されている。
【0032】
バリアフィルム50bは、図3の縦断面形状にて示すごとく、その中央部から上下両側部を後方へ上下に傾斜状に屈曲して延出させるように、所定のバリアフィルム用熱可塑性材料により、所定の厚さでもって形成されており、このバリアフィルム50bには、その前面側から、前側層40が、一側融着フィルム50aにより融着されている。
【0033】
本実施形態において、上述したバリアフィルム50bの所定の厚さは、15(μm)に設定されている。また、上述した所定のバリアフィルム用熱可塑性材料としては、ナイロンが採用されている。なお、本実施形態において、上述のごとく、所定のバリアフィルム用熱可塑性材料としてナイロンを採用したのは、ナイロンが、上述した一側融着フィルム50aの形成材料であるポリエチレンよりも高い融点を有するためである。
【0034】
他側融着フィルム50cは、一側融着フィルム50aと同様の縦断面形状を有するように、所定の他側融着フィルム用熱可塑性材料により、一側融着フィルム50aの厚さと同様の所定の厚さ(20(μm))でもって形成されており、この他側融着フィルム50cは、その前面にて、バリアフィルム50bにその後面に沿い融着されている。なお、上述した所定の他側融着フィルム用熱可塑性材料としては、上述した所定の一側融着フィルム用熱可塑性材料と同様に、ポリエチレンが採用されている。また、中側層50の厚さは、一側融着フィルム50a、バリアフィルム50b及び他側融着フィルム50cの各厚さの総和55(μm)である。
【0035】
また、本実施形態では、中側層50において、多数の小孔(図示しない)が、一側融着フィルム50aの前面から他側融着フィルム50cの後面にかけて、中側層50の全面に亘り、所定の直径(例えば、5(mm))及び所定の開口ピッチ(例えば、30(mm))にて、貫通状に形成されている。これにより、多数の小孔が、中側層50において、所定の均一の開口率2(%)にて貫通状に形成されていることになる。なお、上記開口ピッチは、互いに隣り合う両小孔の中心間距離をいう。
【0036】
後側層60は、図2の縦断面形状にて示すごとく、その中央部から上下両側部を後方へ上下に傾斜状に屈曲して延出させるように、所定の後側層用多孔質材料により、所定の厚さでもって形成されており、この後側層60は、中側層50の他側融着フィルム50cによりバリアフィルム50bに沿いその後面側から融着されている。
【0037】
本実施形態において、上述した後側層60の所定の厚さは、前側層40とは異なり、3(mm)に設定されている。また、上述の所定の後側層用多孔質材料としては、ポリエチレンテレフタレートからなるフェルトであって所定のヤング率及び所定の目付量を有するフェルト(以下、後側層用PETフェルトという)が採用されている。ここで、当該後側層用PETフェルトの所定のヤング率は、280,000(N/m2)であるが、当該後側層用PETフェルトの所定の目付量は、上記前側層用PETフェルトとは異なり、400(g/m2)である。
【0038】
次に、上述のように構成した当該ダッシュインシュレータDIは次のようにして製造されている。まず、上述した前側層用PETフェルトを、ダッシュボード30の外形寸法に合わせた外形寸法を有するように切断し、20(mm)の厚さの前側層40として準備する。また、上述した後側層用PETフェルトを、ダッシュボード30の外形寸法に合わせた外形寸法を有するように切断し、3(mm)の厚さの後側層60として準備する。
【0039】
次に、中側層50を、多層インフレーション成形機を用いて準備する。即ち、多層インフレーション成形機において、一側融着フィルム用溶融ポリエチレン、バリアフィルム用溶融ナイロン及び他側融着フィルム用溶融ポリエチレンが、それぞれ、複数の押出機(本実施形態では3つの押出機)により上方に向け押し出されると、これら一側融着フィルム用溶融ポリエチレン、バリアフィルム用溶融ナイロン及び他側融着フィルム用溶融ポリエチレンが、空気流により、共に、筒フィルム状に膨張形成される。
【0040】
このとき、一側融着フィルム用溶融ポリエチレンからなる筒フィルムが、バリアフィルム用溶融ナイロンからなる筒フィルムを内包するとともに、このバリアフィルム用溶融ナイロンからなる筒フィルムが、他側融着フィルム用溶融ポリエチレンからなる筒フィルムを内包するようにして、3層筒フィルム体が形成される。
【0041】
しかして、このように形成された3層筒フィルム体は、多層インフレーション成形機において、そのまま、冷却しながら相互に接合して、一側融着フィルム用ポリエチレンフィルム、バリアフィルム用ナイロンフィルム及び他側融着フィルム用ポリエチレンフィルムからなる単一の筒フィルムとなる。
【0042】
このように単一の筒フィルムを形成した後は、当該単一の筒フィルムを軸方向に切断してシート状フィルムを形成し、ついで、このシート状フィルムに対し、孔空け装置(図示しない)により、多数の小孔を形成する。ここで、当該孔空け装置は、回転可能に支持した孔空けローラを有しており、この孔空けローラには、多数の針状突起が、上述した中側層50の小孔の所定の開口ピッチ(30(mm))に対応するピッチにて、上記孔空けローラの外表面から延出するように突設されている。なお、上記各針状突起の基部の外径は、上述した中側層50の小孔の直径(5(mm))に等しい。
【0043】
しかして、上記孔空け装置において、上述のシート状フィルムを、上記多数の針状突起に刺し通すようにして、上記孔空けローラの外表面に押圧しながら当該孔空けローラを回転させる。これにより、多数の小孔が、均一の開口率2(%)にて上述のシート状フィルムに形成される。その結果、当該シート状フィルムが、上述した一側融着フィルム50a、バリアフィルム50b及び他側融着フィルム50cからなる中側層50として形成される。なお、上述のようにシート状フィルムに多数の小孔を形成しても、当該シート状フィルムが非常に薄いので、当該多数の小孔が詰まることはない。
【0044】
このようにして形成した中側層50を、上述のように準備した前側層40及び後側層60の間に積層状に介装して3層積層体として構成し、この3層積層体を加熱装置(図示しない)内に設置する。そして、当該加熱装置内において、170(℃)の熱風を上記3層積層体に吹き付けて所定の加熱時間(例えば、1(分))の間加熱する。
【0045】
これにより、上記3層積層体中の一側融着フィルム50a及び他側融着フィルム50cが溶融される。このとき、一側融着フィルム50a及び他側融着フィルム50cの形成材料であるポリエチレンの融点は、上述の170(℃)よりも低く、かつ、バリアフィルム50bの形成材料であるナイロンの融点は、上述の170(℃)よりも高いので、一側融着フィルム50a及び他側融着フィルム50cが溶融しても、バリアフィルム50bが溶融することはない。
【0046】
ついで、このように一側融着フィルム50a及び他側融着フィルム50cのみを溶融させた上記3層積層体を、冷間成型装置(図示しない)の冷間成型用金型内に設置する。ここで、当該冷間成型装置が具備する冷間成型用金型は、上型及び下型を有しており、これら上型及び下型は、その各成型面にて接合されて、上述の3層積層体を設置する収容空間を形成するように構成されている。また、上記上型は、上記収容空間内に冷却水を供給するように、冷却水パイプを内蔵して構成されている。
【0047】
しかして、上述のように一側融着フィルム50a及び他側融着フィルム50cのみを溶融させた上記3層積層体を、上記金型の収容空間内に設置した状態にて、上記上型からその冷却水パイプでもって上記収容空間に冷却水を供給する。これに伴い、上記3層積層体が、上記金型により上記収容空間内にて加圧されつつ水冷されて成形される。その結果、前側層40及び後側層60が、溶融状態にあった一側融着フィルム50a及び他側融着フィルム50cによりその各凝固にあわせて、バリアフィルム50bにその両面からそれぞれ融着される。
【0048】
この場合、このような融着の実現にあたり、加圧力が、上記金型により、上記3層積層体に対し、次のように付与される。即ち、前側層40及びバリアフィルム50bのうち一側融着フィルム50aにより15(N/5cm)の融着力で融着される部位が50(%)以上となるように、かつ、後側層60及びバリアフィルム50bのうち他側融着フィルム50cにより10(N/5cm)の融着力で融着される部位が50(%)以上となるように、上記加圧力が上記金型により上記3層積層体に対し付与される。
【0049】
以上のような工程を経て、ダッシュインシュレータDIの製造が終了する。しかして、上述のような製造工程における上記融着過程においては、一側融着フィルム50a及び他側融着フィルム50cを溶融させた上で、これら一側融着フィルム50a及び他側融着フィルム50cにより前側層40及び後側層60をバリアフィルム50bにその両面側から融着により接着する。従って、前側層40及び後側層60をバリアフィルム50bに接着するに当たり、接着剤を塗布するという工程を経ることなく、中側層50において、一側融着フィルム50a及び他側融着フィルム50cに、接着剤としての役割を兼用させつつ、バリアフィルム50bと同様の吸音性を発揮させ得る。
【0050】
その結果、前側層40及び後側層60をバリアフィルム50bに接着するにあたり必要とされる接着剤の塗布といった作業工程を不必要にし得る。
【0051】
また、上述のようにして製造したダッシュインシュレータDIは、前側層40及び後側層60と、当該前側層40及び後側層60の間に位置するようにこれら前側層40及び後側層60に積層した中側層50とにより、3層積層構造として形成されている。そして、当該ダッシュインシュレータIDは、上述のごとく、前側層40にて、ダッシュボード30に沿い装着されて、後側層60にて、車室20の内部を臨んでいる。
【0052】
ここで、前側層40を形成する前側層用PETフェルトは、上述のごとく、目付量1,000(g/m2)を有する。このため、前側層40は、上記目付量に対応する重量に基づき、良好な吸音性を発揮し得るとともに、上記ヤング率に対応する柔らかさに基づき良好な吸音を発揮し得る。従って、前側層40は、上記目付量及び上記ヤング率の双方に基づく相乗作用により、良好な吸音性を発揮し得る。なお、前側層用PETフェルトの目付量は、エンジンEの音(以下、エンジン音という)の騒音としての大きさに対応した量となっている。
【0053】
一方、後側層60を形成する後側層用PETフェルトは、上述のごとく、目付量400(g/m2)及びヤング率280,000(N/m2)を有する。このため、後側層60は、後側層用PETフェルトの上記目付量に対応する重量に基づき良好な吸音性を発揮し得るとともに、後側層用PETフェルトの上記ヤング率に対応する柔らかさに基づき、良好な吸音性を発揮し得る。従って、後側層60は、後側層用PETフェルトの上記目付量及び上記ヤング率の双方に基づく相乗作用により、良好な吸音性を発揮し得る。なお、本実施形態では、車室20内に発生する騒音は、エンジン音に比べて、通常、小さいことから、後側層用PETフェルトの目付量は、前側層用PETフェルトの目付量の半分になっている。
【0054】
また、中側層50は、55(μm)の厚さにて薄く形成されているとともに、上記多数の小孔が、均一な開口率2(%)(小孔の直径:5(mm)、小孔の開口ピッチ:30(mm))でもって、貫通状に形成されているから、当該中側層は、その薄さ及び多数の小孔の相乗作用に基づき良好な吸音性を発揮し得る。
【0055】
さらに、前側層40とバリアフィルム50bとの間の一側融着フィルム50aによる融着部位が、その50(%)以上において、20(N/5cm)以下の融着力を有するとともに、後側層60とバリアフィルム50bとの間の他側融着フィルム50cによる融着部位が、その50(%)以上において、20(N/5cm)以下の融着力を有する。これらの融着力は、中側層50において良好な吸音性を発揮するのに役立つ。
【0056】
以上のような吸音性のもと、騒音が車室20内への伝播により当該車室内において室内騒音として発生しても、当該室内騒音は、後側層60により、その前側層用PETフェルトの上記目付量及び同一のヤング率に基づく相乗作用により、良好に吸音され得る。
【0057】
また、上記室内騒音が、後側層60を透過しても、このように透過した上記室内騒音の一部は、中側層50の上記薄さのもと、当該中側層50の多数の小孔を透過することで吸音され得る。ここで、上記多数の小孔は、上述した均一な開口率2(%)に基づき、中側層50の全面に亘り、均一に形成されているから、上述した室内騒音の一部は、その全体に亘り、中側層50の多数の小孔の全体に亘り良好に透過することで吸音され得る。
【0058】
また、上記室内騒音のうち中側層50により吸音されない部分があっても、このような室内騒音の部分は、前側層40により、前側層用PETフェルトの上記目付量及びヤング率に基づく相乗作用により良好に吸音され得る。
【0059】
このように、室内騒音は、以上のような吸音過程を経ることで、ダッシュインシュレータにより、車室内側へは殆ど反射されることなく良好に吸音され得る。
【0060】
一方、エンジン音がエンジンルーム10内に発生しても、このエンジン音は、前側層40により、その前側層用PETフェルトの上記目付量及びヤング率に基づく相乗作用により良好に防音され得る。ここで、エンジン音が、その一部にて、前側層40を透過する場合、当該エンジン音の一部は、部分的に、上述のような中側層50の多数の小孔を透過する傾向にあっても、このような傾向にあるエンジン音の部分は、後側層60により、その後側層用PETフェルトの上記目付量及びヤング率に基づく相乗作用により良好に吸音され得る。従って、エンジン音は、ダッシュインシュレータDIにより車室20内に伝播することなく良好に遮音され得る。
【0061】
以上によれば、エンジン音を車室20内から良好に遮音しつつ、車室20内への伝播により当該車室内に発生する騒音を良好に吸音し得る自動車用ダッシュインシュレータの提供が可能となる。なお、前側層40を形成する前側層用PETフェルトの目付量は、1000(g/m2)であるとともに、後側層60を形成する後側層用PETフェルトの目付量は、400(g/m2)であるから、これら前側層40及び後側層60外側層は非常に軽量である。しかも、中側層50は上述のごとく薄く形成されている。従って、ダッシュインシュレータDIは非常に軽量であるから、当該ダッシュインシュレータDIを採用すれば、当該自動車の燃費等の向上に役立つ。
【0062】
ちなみに、本実施形態にて述べたダッシュインシュレータDIを実施例1とするとともに、他の各実施例2〜4を準備して、これら各実施例の剥離特性について剥離試験を用いて調べてみた。ここで、実施例2〜実施例4は、実施例1と同様の構成を有するが、実施例2の前側層及び後側層の各形成材料は、実施例1の前側層及び後側層の各形成材料のヤング率とは異なり、ヤング率140,000(N/m2)を有する点を除き、当該実施例1の前側層及び後側層の各形成材料と同様である。実施例3の前側層及び後側層の各形成材料は、実施例1の前側層及び後側層の各形成材料のヤング率とは異なり、ヤング率60,000(N/m2)を有する点を除き、当該実施例1の前側層及び後側層の各形成材料と同様である。また、実施例4の前側層及び後側層の各形成材料は、実施例1の前側層及び後側層の各形成材料のヤング率とは異なり、ヤング率20,000(N/m2)を有する点を除き、当該実施例1の前側層及び後側層の各形成材料と同様である。なお、上記剥離試験は、上記各実施例における前側層或いは後側層の中間層からの手による剥離を行う試験をいう。
【0063】
しかして、各実施例1〜4に対し上記剥離試験を施したところ、前側層の中間層からの剥離強度は、ほぼ15(N/5cm)であるとともに、後側層の中間層からの剥離強度は、ほぼ10(N/5cm)であった。なお、剥離強度は上記融着力に層とする。
【0064】
また、各実施例1〜4の吸音特性及び遮音特性について比較例との対比において調べてみた。ここで、上記比較例は、実施例1とは異なり、中側層を排除した従来品としての構成を有する。従って、当該比較例は、実施例1のうちの前側層40及び後側層60にそれぞれ対応する前側層(以下、比較例用前側層という)及び後側層(以下、比較例用後側層という)を積層して構成されている。また、上述の比較例用前側層及び比較例用後側層は、それぞれ、目付量2000(g/m2)及びヤング率30,000(N/m2)を有するポリエチレンテレフタレートからなるフェルトでもって形成されており、当該比較例用前側層及び比較例用後側層の各厚さは、それぞれ、20(mm)及び3(mm)である。なお、上記比較例は、比較例用前側層及び比較例用後側層の積層体からなる一層構成と同じである。
【0065】
また、吸音特性に対する試験方法としては、いわゆる残響室法吸音率試験を採用し、遮音特性に対する試験方法としては、いわゆる透過音損失試験を採用した。ここで、残響室法吸音率試験は、各実施例1〜4或いは上記比較例によるエンジンEからの音(即ち、エンジン音)その他の音に対する吸音率をエンジン音その他の音の周波数との関係において測定する試験である。また、透過音損失試験は、各実施例1〜4或いは上記比較例に対するエンジン音その他の音の透過音損失をエンジン音その他の音の周波数との関係において測定する試験である。
【0066】
以上のような前提のもとに、各実施例1〜4及び上記比較例に対し残響室法吸音率試験を行ったところ、図4にて示すような結果が得られた。図4においては、各グラフ1〜4が、それぞれ、実施例1〜実施例4の吸音率と周波数との関係を示し、また、グラフ5が、上記比較例の吸音率と周波数との関係を示す。
【0067】
ここで、各グラフ1〜4を対比してみると、両グラフ1〜3では、吸音率が、周波数の変化に応じて、800(Hz)前後に亘り、増大傾向となるように変化している。また、グラフ4では、吸音率が、周波数の変化に応じて、増大傾向となるように変化している。一方、グラフ5では、吸音率が、周波数の変化に応じて、グラフ4に沿い、増大傾向となるように変化している。
【0068】
このように対比してみると、実施例4の吸音特性(グラフ4に対応)は、上記比較例の吸音特性(グラフ5に対応)とほぼ一致していることが分かる。換言すれば、実施例4は、上記比較例よりも軽量であるにもかかわらず、従来品と同様に、車室内の騒音を良好に吸音し得ることが分かる。
【0069】
また、各実施例1〜3の吸音特性(各グラフ1〜3に対応)では、吸音率が、ほぼ1250(Hz)以上において、実施例4及び上記比較例の各吸音率よりも幾分小さいものの、ほぼ1250(Hz)未満では、実施例4及び上記比較例の各吸音率よりも大きいことが分かる。換言すれば、各実施例1〜3は、上記比較例よりも軽量であるにもかかわらず、従来品とほぼ同様に、車室内の騒音を良好に吸音し得ることが分かる。
【0070】
また、上述のような前提のもと、各実施例1〜4及び上記比較例に対し透過音損失試験を行ったところ、図5にて示すような結果が得られた。ここで、図5において、各グラフ6〜9は、各実施例1〜4の透過音損失と周波数との関係を示し、また、グラフ10は、上記比較例の透過音損失と周波数との関係を示す。
【0071】
そこで、各グラフ6〜9を対比してみると、各グラフ6〜8では、透過音損失が、周波数の増大に応じて、共にほぼ一致しながら直線的な傾向でもって増大している。また、グラフ9では、透過音損失が、周波数の増大に応じて、各グラフ6〜8の透過音損失よりも少ない状態にて直線的な傾向でもって増大している。また、グラフ10では、透過音損失が、周波数の増大に応じて、グラフ9に沿うように変化している。
【0072】
このように対比してみると、実施例4の遮音特性(グラフ9に対応)は、上記比較例の遮音特性とほぼ一致していることが分かる。換言すれば、実施例4は、上記比較例よりも軽量であるにもかかわらず、従来品と同様に、エンジン音を良好に遮音し得ることが分かる。
【0073】
また、各実施例6〜8の遮音特性(各グラフ6〜8に対応)では、透過音損失が、周波数の増大に応じて、実施例4や上記比較例の遮音特性よりもさらに増大する傾向にあることが分かる。従って、各実施例6〜8は、実施例4や上記比較例よりも、良好にエンジン音を良好に遮音し得ることが分かる。
【0074】
さらに、上記各実施例の他に、多数の実施例を準備した。ここで、これら多数の実施例は、共に、上記各実施例と同様に前側層、中側層及び後側層の3層構造であるが、前側層及び後側層の各形成材料の目付量及びヤング率は、上記各実施例とは異なるのは勿論のこと、上記多数の実施例毎に互いに異なっている。また、中側層は1層であるが、厚さ及び融着力並びに小孔の直径及び開口ピッチが、上記多数の実施例毎に互いに異なっている。
【0075】
そして、上記多数の実施例の各々に対し上述の剥離試験、残響室法吸音率試験及び透過音損失試験を行った。その結果、当該多数の実施例の各々が以下の条件1〜4を満たせば、当該多数の実施例は、上記実施例と実質的に同様の吸音性及び遮音性を確保し得ることが分かった。
1.上記多数の実施例の各中側層においては、小孔の均一な開口率が0.05(%)〜5(%)の範囲内にあること。換言すれば、小孔の直径が0.05(mm)〜5(mm)の範囲内の値であり、かつ、小孔の開口ピッチが3(mm)〜30(mm)の範囲内の値であること。
【0076】
ここで、開口率0.05(%)未満の小孔では、中側層の吸音性が不十分となる。また、開口率5(%)よりも大きな開口率を有する小孔では、遮音性が不十分となる。
2.中側層が、25(μm)〜80(μm)の範囲以内の厚さを有すること。ここで、厚さ25(μm)未満では、中側層が破れ易く実用的でない。また、80(μm)よりも厚い中側層では、厚すぎて吸音性が不十分となる。
3.前側層及び後側層の上記各形成材料が、100(g/m2)〜1,600(g/m2)の範囲以内の目付量及び50,000(N/m2)〜300,000(N/m2)の範囲以内のヤング率を有すること。
【0077】
ここで、100(g/m2)未満の目付量では、前側層40及び後側層60の吸音性が不十分となる。また、目付量が1,600(g/m2)よりも大きくなる程、ダッシュインシュレータの軽量化の観点から好ましくない。
【0078】
また、50,000(N/m2)未満のヤング率では、前側層及び後側層が柔らかすぎて実用性に欠ける。また、300,000(N/m2)よりも大きいヤング率では、前側層及び後側層が固すぎて実用性に欠けるとともに吸音性が不十分となる。
4.前側層とバリアフィルムとの間の一側融着フィルムによる融着部位が、その50(%)以上において、5(N/5cm)〜20(N/5cm)の範囲以内の融着力を有するとともに、後側層とバリアフィルムとの間の他側融着フィルムによる融着部位が、その50(%)以上において、5(N/5cm)〜20(N/5cm)の範囲以内の融着力を有すること。ここで、50(%)未満では、前側層及び後側層としての吸音性が不十分となる。また、5(N/5cm)未満の融着力では、前側層及び後側層が中側層から剥離し易い。また、20(N/5cm)よりも大きな融着力では、前側層及び後側層としての吸音性が不十分となり好ましくない。
【0079】
なお、本発明の実施にあたり、上記実施形態に限ることなく、次のような種々の変形例が挙げられる。
(1)中側層50において、バリアフィルムの形成材料は、ナイロンに限ることなく、ポリエステルのフィルム等の樹脂であればよい。また、第1及び第2の融着フィルムの形成材料は、バリアフィルムの形成材料よりも融点(融点200(℃)以下)の熱可塑性樹脂、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートや不飽和ポリエステルであればよい。
(2)前側層40或いは後側層60の形成材料は、上記実施形態にて述べたものに限ることなく、フェルトやグラスウール等の繊維構造体材料或いはウレタンフォーム等の多孔質合成樹脂材料であればよい。なお、上記繊維構造体材料は、ポリエチレンテレフタレートからなるフェルトに限ることなく、コットン或いはウールからなるフェルトであってもよい。
(3)前側層40の形成材料は、上記実施形態とは異なり、100(g/m2)〜1,600(g/m2)の範囲以内の目付量を有すればよい。
(4)中側層50において、一側融着フィルム50a及び他側融着フィルム50bの各形成材料は、バリアフィルム50bの形成材料よりも低い融点を有すればよく、それぞれ、互いに異なる熱可塑性樹脂材料であってもよい。
(5)上述したダッシュインシュレータIDの製造にあたっては、上記実施形態とは異なり、一側融着フィルム用シート状ポリエチレン、バリアフィルム用シート状ナイロン及び他側融着フィルム用シート状ポリエチレンをそれぞれ予め準備して、バリアフィルム用シート状ナイロンを一側融着フィルム用シート状ポリエチレン及び他側融着フィルム用シート状ポリエチレンでもって挟持するように積層して、上述の単一のシート状フィルムを形成するようにしてもよい。
(6)ダッシュインシュレータIDに対する騒音としては、エンジン音に限ることなく、エンジンルーム内に入る種々の騒音を含めてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明に係るダッシュインシュレータの一実施形態を適用した自動車の模式的部分概略側面図である。
【図2】図1のダッシュインシュレータの拡大縦断面図である。
【図3】図2の中側層の拡大縦断面図である。
【図4】上記実施形態における各実施例1〜4及び比較例の吸音率と周波数との関係をそれぞれ示すグラフである。
【図5】上記実施形態における各実施例1〜4及び比較例の透過音損失と周波数との関係をそれぞれ示すグラフである。
【符号の説明】
【0081】
40…前側層、50…中側層、50a…一側融着フィルム、50b…バリアフィルム、
50c…他側融着フィルム、60…後側層、ID…ダッシュインシュレータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質材料により形成されて互いに対向して位置する第1及び第2の外側層と、
当該第1及び第2の外側層の間に位置するようにこれら外側層に積層されて、バリアフィルムと、このバリアフィルムにその両面側からそれぞれ前記第1及び第2の外側層を融着するように積層した第1及び第2の融着フィルムとを有する少なくとも1層の中側層とを備えて、
前記第1及び第2の外側層の一方を形成する前記多孔質材料は、100(g/m2)〜1,600(g/m2)の範囲以内の目付量を有するとともに、前記第1及び第2の外側層の他方を形成する前記多孔質材料は、100(g/m2)〜1,600(g/m2)の範囲以内の目付量及び50,000(N/m2)〜300,000(N/m2)の範囲以内のヤング率を有しており、
前記中側層は、25(μm)〜80(μm)の範囲以内の厚さを有し、かつ、多数の小孔を、0.5(%)〜5(%)の範囲以内の均一な開口率でもって、貫通状に形成してなり、
前記第1外側層と前記バリアフィルムとの間の前記第1融着フィルムによる融着部位が、その50(%)以上において、5(N/5cm)〜20(N/5cm)の範囲以内の融着力を有するとともに、
前記第2外側層と前記バリアフィルムとの間の前記第2融着フィルムによる融着部位が、その50(%)以上において、5(N/5cm)〜20(N/5cm)の範囲以内の融着力を有する自動車用ダッシュインシュレータ。
【請求項2】
前記第1及び第2の外側層を形成する前記多孔質材料は、繊維構造体材料或いは多孔質合成樹脂材料であり、
前記中側層において、前記バリアフィルムは熱可塑性樹脂材料により形成され、前記第1融着フィルムは、前記バリアフィルムを形成する前記熱可塑性樹脂材料よりも低い融点を有する熱可塑性樹脂材料でもって形成され、また、前記第2融着フィルムは、前記バリアフィルムを形成する前記熱可塑性樹脂材料よりも低い融点を有する熱可塑性樹脂材料でもって形成されていることを特徴とする請求項1に記載の自動車用ダッシュインシュレータ。
【請求項3】
前記第1及び第2の外側層を形成する前記繊維構造体材料は、ポリエチレンテレフタレート、コットン或いはウールからなるフェルトであり、
前記バリアフィルムを形成する前記熱可塑性樹脂材料は、ナイロン或いはポリエステルであり、
前記第1融着フィルムを形成する前記熱可塑性樹脂材料は、ポリエチレン或いはポリプロピレンであり、
前記第2融着フィルムを形成する前記熱可塑性樹脂材料は、ポリエチレン或いはポリプロピレンであることを特徴とする請求項2に記載の自動車用ダッシュインシュレータ。
【請求項4】
100(g/m2)〜1,600(g/m2)の範囲以内の目付量を有する多孔質材料により第1及び第2の外側層(40、60)の一方を形成するとともに、100(g/m2)〜1,600(g/m2)の範囲以内の目付量及び50,000(N/m2)〜300,000(N/m2)の範囲以内のヤング率を有する多孔質材料により第1及び第2の外側層の他方を形成する外側層形成工程と、
多層インフレーション成型機により、共に溶融状態にある第1熱可塑性樹脂材料、この第1熱可塑性樹脂材料よりも融点の低い第2熱可塑性樹脂材料及び前記第1熱可塑性樹脂材料よりも融点の低い第3熱可塑性樹脂材料からそれぞれバリアフィルム用第1筒フィルム、この第1筒フィルムを内包する第1融着フィルム用第2筒フィルム及び前記第1筒フィルムにより内包される第2融着フィルム用第3筒フィルムをともに形成し、然る後、前記第2、第1及び第3の各筒フィルムをそのまま冷却しながら接合して25(μm)〜80(μm)の範囲以内の厚さの単一の筒フィルムを形成し、この単一の筒フィルムからシート状フィルムを形成し、このシート状フィルムに多数の小孔を0.5(%)〜5(%)の範囲以内の均一な開口率にて形成して、前記第1融着フィルム、前記バリアフィルム及び前記第2融着フィルムからなる中側層を形成する中側層形成工程と、
前記中側層を前記第1及び第2の外側層の間に積層状に介装して3層積層体として構成し、この3層積層体を前記第1熱可塑性材料の融点と前記第2及び第3の熱可塑性材料の各融点との間の温度にて前記第1融着フィルム及び前記第2融着フィルムを溶融するように加熱しながら加圧した後冷却して前記第1融着フィルム及び前記第2融着フィルムにより前記第1及び第2の外側層を前記バリアフィルムにその両面側から融着させる融着工程とを備えて、
当該融着工程において、前記第1及び第2の外側層を前記バリアフィルムにその両面側から融着させるにあたり、前記第1外側層と前記バリアフィルムとの間の前記第1融着フィルムによる融着部位が、その50(%)以上において、5(N/5cm)〜20(N/5cm)の範囲以内の融着力を有するとともに、前記第2外側層と前記バリアフィルムとの間の前記第2融着フィルムによる融着部位が、その50(%)以上において、5(N/5cm)〜20(N/5cm)の範囲以内の融着力を有するように、前記加圧を行うようにした自動車用ダッシュインシュレータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−76601(P2010−76601A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−247211(P2008−247211)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(509069892)豊和繊維工業株式会社 (23)
【Fターム(参考)】