説明

自動車

【課題】内燃機関の回転数を低下させて内燃機関を目標クランク角に停止させる。
【解決手段】エンジンを停止するときに、エンジン回転数Neがエンジンの回転に伴って生じるトルク脈動によってエンジン回転数Neに大きな影響を及ぼす回転数の上限としての閾値Nref未満に至るまでは比例項と積分項とを用いたフィードバック制御によりエンジンが目標回転数Ne*で回転するようモータを制御し(S160)、エンジン回転数Neが閾値Nref未満に至った以降は比例項は用いずに積分項だけを用いたフィードバック制御によりエンジン目標回転数Ne*で回転するようモータを制御する(S170)。これにより、エンジン回転数Neが閾値Nref未満に至った以降にエンジンのトルク脈動がエンジン回転数Neに大きく影響を及ぼすことになってもエンジン回転数Neを目標回転数Ne*に制御してエンジンを停止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車に関し、詳しくは、内燃機関と、内燃機関の出力軸に機械的機構を介して動力を入出力可能な電動機と、電動機と電力のやりとりが可能な二次電池と、を備える自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の自動車としては、3つの回転要素に車軸に連結された駆動軸とエンジンの出力軸と発電機の回転軸とを接続すると共に駆動軸に電動機が接続されたハイブリッド自動車において、エンジンを目標停止位置で停止させるために必要なエンジン目標回転速度とそのときのクランク角度とを取得し、取得したクランク角度に基づいてエンジン目標回転数を補正するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この制御方法では、クランク角度に基づいてエンジン目標回転数を補正することにより、エンジンや電動機械等における摩擦力にばらつきがあったり、潤滑用や冷却用の油の温度や粘性にばらつきがあったり、エンジン回転速度の低減中に車両の加減速があったりしても、エンジンを目標停止位置で停止させることができるようにしている。
【0003】
また、3つの回転要素に車軸に連結された駆動軸とエンジンの出力軸と発電機の回転軸とを接続すると共に駆動軸に電動機が接続されたハイブリッド自動車において、エンジンの回転数が目標回転数となるように、エンジンの目標回転数と目標トルクに基づいて設定された基準トルクと発電機の目標回転数と回転数とに基づいて設定された補正トルクとの和として発電機のトルク指令を設定する際、補正トルクの設定については、発電機の回転数が目標回転数を中心とする遷移領域に入ったあとは比例項のゲインk1を値0とすると共に積分項のゲインk2に小さな値を設定して行なうものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。この自動車では、上述の制御により、発電機制御における応答性と収束性との両立を図ると共にエンジンに要求される要求パワーの急変時も例外処理とすることなく処理するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−16505号公報
【特許文献2】特開2005−45862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前者の自動車のように、エンジンの出力軸が遊星歯車機構などの機械的機構を介して電動機に接続されている自動車では、エンジンを停止するときにエンジンの回転数が目標回転数となるよう電動機を制御する際には、通常、比例項と積分項とを用いたフィードバック制御が実行されるが、エンジンの各気筒は吸気、圧縮、膨張、排気の4行程を繰り返すため、燃料噴射制御と点火制御とが行なわれていないエンジンの停止のときでもトルク脈動が生じ、特に回転数が小さくなったときにはトルク脈動の影響がエンジンの回転数に大きく生じるため、良好なフィードバック制御を阻害する場合が生じる。このため、内燃機関を目標クランク角で停止することが困難となる。
【0006】
本発明の自動車は、内燃機関の回転数を低下させて内燃機関を目標クランク角に停止させることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の自動車は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0008】
本発明の自動車は、
内燃機関と、前記内燃機関の出力軸に機械的機構を介して動力を入出力可能な電動機と、前記電動機と電力のやりとりが可能な二次電池と、前記内燃機関の運転を停止するときには、前記内燃機関を予め定めた目標クランク角に停止するために回転数を減少している最中の前記内燃機関のクランク角または経過時間に応じた前記内燃機関の目標回転数を設定し、前記内燃機関の回転数が前記設定した目標回転数となるよう前記電動機を制御する停止時制御手段と、を備える自動車であって、
前記停止時制御手段は、前記内燃機関の回転数が前記内燃機関の回転に伴って生じるトルク脈動によって前記内燃機関の回転数に影響を与える回転数領域の上限値として予め定められた所定回転数以上のときには比例項と積分項とを用いたフィードバック制御により前記内燃機関の回転数が前記設定した目標回転数となるよう前記電動機を制御し、前記内燃機関の回転数が前記所定回転数未満のときには前記比例項を用いずに前記積分項を用いたフィードバック制御により前記内燃機関の回転数が前記設定した目標回転数となるよう前記電動機を制御する手段である、
ことを特徴とする。
【0009】
この本発明の自動車では、内燃機関の運転を停止するときには、内燃機関を予め定めた目標クランク角に停止するために回転数を減少している最中の内燃機関のクランク角または経過時間に応じた内燃機関の目標回転数を設定し、内燃機関の回転数が内燃機関の回転に伴って生じるトルク脈動によって内燃機関の回転数に影響を与える回転数領域の上限値として予め定められた所定回転数以上のときには比例項と積分項とを用いたフィードバック制御により内燃機関の回転数が目標回転数となるよう電動機を制御し、内燃機関の回転数が所定回転数未満のときには比例項を用いずに積分項を用いたフィードバック制御により内燃機関の回転数が目標回転数となるよう電動機を制御する。このように、内燃機関のトルク脈動がその回転数に影響を与える所定回転数未満のときには比例項を用いずに積分項を用いたフィードバック制御を行なうことにより、内燃機関のトルク脈動に左右されることなく内燃機関の回転数を目標回転数に制御することができる。ここで、「比例項」は、内燃機関の回転数と目標回転数との差に比例ゲインを乗じたものを意味し、「積分項」は、内燃機関の回転数と目標回転数との差の時間積分に積分ゲインを乗じたものを意味する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】エンジン22の構成の概略を示す構成図である。
【図3】ハイブリッド用電子制御ユニット70により実行されるエンジン停止時制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0012】
図1は本発明の一実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図であり、図2はエンジン22の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、図示するように、エンジン22と、エンジン22の出力軸としてのクランクシャフト26にダンパ28を介して接続された3軸式の動力分配統合機構30と、動力分配統合機構30に接続された発電可能なモータMG1と、動力分配統合機構30に接続された駆動軸としてのリングギヤ軸32aに取り付けられた減速ギヤ35と、この減速ギヤ35に接続されたモータMG2と、車両全体をコントロールするハイブリッド用電子制御ユニット70とを備える。
【0013】
エンジン22は、例えばガソリンまたは軽油などの炭化水素系の燃料により動力を出力可能な4気筒の内燃機関として構成されており、図2に示すように、エアクリーナ122により清浄された空気をスロットルバルブ124を介して吸入すると共に燃料噴射弁126からガソリンを噴射して吸入された空気とガソリンとを混合し、この混合気を吸気バルブ128を介して燃料室に吸入し、点火プラグ130による電気火花によって爆発燃焼させて、そのエネルギにより押し下げられるピストン132の往復運動をクランクシャフト26の回転運動に変換する。エンジン22からの排気は、一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC),窒素酸化物(NOx)の有害成分を浄化する浄化装置(三元触媒)134を介して外気へ排出される。
【0014】
エンジン22は、エンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという)24により制御されている。エンジンECU24には、エンジン22の状態を検出する種々のセンサからの信号が図示しない入力ポートを介して入力されている。例えば、エンジンECU24には、クランクシャフト26の回転位置を検出するクランクポジションセンサ140からのクランクポジションやエンジン22の冷却水の温度を検出する水温センサ142からの冷却水温,燃焼室内に取り付けられた圧力センサ143からの筒内の圧力,燃焼室へ吸排気を行なう吸気バルブ128や排気バルブを開閉するカムシャフトの回転位置を検出するカムポジションセンサ144からのカムポジション,スロットルバルブ124の開度を検出するスロットルバルブポジションセンサ146からのスロットルポジション,吸気管に取り付けられたエアフローメータ148からの吸入空気量,同じく吸気管に取り付けられた温度センサ149からの吸気温などが入力ポートを介して入力されている。また、エンジンECU24からは、エンジン22を駆動するための種々の制御信号が図示しない出力ポートを介して出力されている。例えば、エンジンECU24からは、燃料噴射弁126への駆動信号や、スロットルバルブ124のポジションを調節するスロットルモータ136への駆動信号、イグナイタと一体化されたイグニッションコイル138への制御信号、吸気バルブ128の開閉タイミングの変更可能な可変バルブタイミング機構150への制御信号などが出力ポートを介して出力されている。また、エンジンECU24は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によりエンジン22を運転制御すると共に必要に応じてエンジン22の運転状態に関するデータを出力する。なお、エンジンECU24は、クランクポジションセンサ140からのクランクポジションに基づいてクランクシャフト26の回転数、即ちエンジン22の回転数Neも演算したり、クランクポジションセンサ140により検出されたクランクポジションを基準角度からの角度としてクランク角CAを計算したりしている。
【0015】
動力分配統合機構30は、外歯歯車のサンギヤ31と、このサンギヤ31と同心円上に配置された内歯歯車のリングギヤ32と、サンギヤ31に噛合すると共にリングギヤ32に噛合する複数のピニオンギヤ33と、複数のピニオンギヤ33を自転かつ公転自在に保持するキャリア34とを備え、サンギヤ31とリングギヤ32とキャリア34とを回転要素として差動作用を行なう遊星歯車機構として構成されている。動力分配統合機構30は、キャリア34にはエンジン22のクランクシャフト26が、サンギヤ31にはモータMG1が、リングギヤ32にはリングギヤ軸32aを介して減速ギヤ35がそれぞれ連結されており、モータMG1が発電機として機能するときにはキャリア34から入力されるエンジン22からの動力をサンギヤ31側とリングギヤ32側にそのギヤ比に応じて分配し、モータMG1が電動機として機能するときにはキャリア34から入力されるエンジン22からの動力とサンギヤ31から入力されるモータMG1からの動力を統合してリングギヤ32側に出力する。リングギヤ32に出力された動力は、リングギヤ軸32aからギヤ機構60およびデファレンシャルギヤ62を介して、最終的には車両の駆動輪63a,63bに出力される。
【0016】
モータMG1およびモータMG2は、いずれも発電機として駆動することができると共に電動機として駆動できる周知の同期発電電動機として構成されており、インバータ41,42を介してバッテリ50と電力のやりとりを行なう。インバータ41,42とバッテリ50とを接続する電力ライン54は、各インバータ41,42が共用する正極母線および負極母線として構成されており、モータMG1,MG2のいずれかで発電される電力を他のモータで消費することができるようになっている。モータMG1,MG2は、いずれもモータ用電子制御ユニット(以下、モータECUという)40により駆動制御されている。モータECU40には、モータMG1,MG2を駆動制御するために必要な信号、例えばモータMG1,MG2の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ43,44からの信号や図示しない電流センサにより検出されるモータMG1,MG2に印加される相電流などが入力されており、モータECU40からは、インバータ41,42へのスイッチング制御信号が出力されている。モータECU40は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によってモータMG1,MG2を駆動制御すると共に必要に応じてモータMG1,MG2の運転状態に関するデータをハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。なお、モータECU40は、回転位置検出センサ43,44からの信号に基づいてモータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2も演算している。
【0017】
バッテリ50は、例えばリチウム二次電池として構成されており、バッテリ用電子制御ユニット(以下、バッテリECUという)52によって管理されている。バッテリECU52には、バッテリ50を管理するのに必要な信号、例えば、バッテリ50の端子間に設置された図示しない電圧センサからの端子間電圧,バッテリ50の出力端子に接続された電力ライン54に取り付けられた図示しない電流センサからの充放電電流,バッテリ50に取り付けられた温度センサ51からの電池温度Tbなどが入力されており、必要に応じてバッテリ50の状態に関するデータを通信によりハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。また、バッテリECU52は、バッテリ50を管理するために電流センサにより検出された充放電電流の積算値に基づいて残容量(SOC)を演算したり、演算した残容量(SOC)と電池温度Tbとに基づいてバッテリ50を充放電してもよい最大許容電力である入出力制限Win,Woutを演算している。なお、バッテリ50の入出力制限Win,Woutは、電池温度Tbに基づいて入出力制限Win,Woutの基本値を設定し、バッテリ50の残容量(SOC)に基づいて出力制限用補正係数と入力制限用補正係数とを設定し、設定した入出力制限Win,Woutの基本値に補正係数を乗じることにより設定することができる。
【0018】
ハイブリッド用電子制御ユニット70は、CPU72を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU72の他に処理プログラムを記憶するROM74と、データを一時的に記憶するRAM76と、図示しない入出力ポートおよび通信ポートとを備える。ハイブリッド用電子制御ユニット70には、イグニッションスイッチ80からのイグニッション信号,シフトレバー81の操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP,アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ88からの車速Vなどが入力ポートを介して入力されている。ハイブリッド用電子制御ユニット70は、前述したように、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と通信ポートを介して接続されており、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。
【0019】
こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20は、運転者によるアクセルペダル83の踏み込み量に対応するアクセル開度Accと車速Vとに基づいて駆動軸としてのリングギヤ軸32aに出力すべき要求トルクを計算し、この要求トルクに対応する要求動力がリングギヤ軸32aに出力されるように、エンジン22とモータMG1とモータMG2とが運転制御される。エンジン22とモータMG1とモータMG2の運転制御としては、要求動力に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にエンジン22から出力される動力のすべてが動力分配統合機構30とモータMG1とモータMG2とによってトルク変換されてリングギヤ軸32aに出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御するトルク変換運転モードや要求動力とバッテリ50の充放電に必要な電力との和に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にバッテリ50の充放電を伴ってエンジン22から出力される動力の全部またはその一部が動力分配統合機構30とモータMG1とモータMG2とによるトルク変換を伴って要求動力がリングギヤ軸32aに出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御する充放電運転モード、エンジン22の運転を停止してモータMG2からの要求動力に見合う動力をリングギヤ軸32aに出力するよう運転制御するモータ運転モードなどがある。
【0020】
次に、こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20の動作、特にエンジン22の運転を停止する際の動作について説明する。図3はハイブリッド用電子制御ユニット70により実行されるエンジン停止時制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、運転しているエンジン22を自動停止させる自動停止条件が成立したとき、例えばバッテリ50の残容量(SOC)がバッテリ50の充電を要しない所定残容量以上で且つ要求動力がエンジン停止用に設定されたエンジン停止動力未満になったときや図示しないモータ走行スイッチがオンされてモータ運転モードによる走行が指示されたときなどに、エンジン22の回転数Neがほぼアイドル回転数程度になったときに実行される。なお、このエンジン停止時制御ルーチンが実行されているときには、エンジン22の燃料噴射制御や点火制御については停止されるようエンジンECU24により制御されており、車両が走行している最中では、モータMG1から出力するトルク(トルク指令Tm1*)に対する反力としてのトルクと要求トルクTr*との和のトルクを減速ギヤ35のギヤ比Grで除したトルクがモータMG2から出力されるよう制御される。即ち、モータMG2のトルク指令Tm2*としては、次式(1)により計算される。ここで、モータMG1のトルク指令Tm1*はエンジン停止時制御ルーチンにおけるエンジン回転数低下時制御やエンジン停止時調整制御で設定されるものが用いられる。式(1)中の「ρ」は動力分配統合機構30のギヤ比ρ(サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)である。
【0021】
Tm2*=(Tr*+Tm1*/ρ)/Gr (1)
【0022】
図3のエンジン停止時制御ルーチンが実行されると、ハイブリッド用電子制御ユニット70のCPU72は、まず、エンジン22の回転数Neやクランク角CAを入力する処理を実行する(ステップS100)。ここで、エンジン22の回転数Neは、クランクポジションセンサ140により検出されたクランクポジションに基づいて算出された回転数NeをエンジンECU24から通信により入力するものとした。また、クランク角CAは、クランクポジションセンサ140により検出されたクランクポジションを基準角度からの角度として算出したクランク角CAをエンジンECU24から通信により入力するものとした。
【0023】
こうしてデータを入力すると、入力したエンジン22の回転数Neとクランク角CAとに基づいてエンジン22を停止する目標値としての目標クランク角CAtagを設定すると共に(ステップS110)、入力したエンジン22の回転数Neとクランク角CAとに基づいて初期値としてのエンジン22の目標回転数Ne*を設定する(ステップS120)。ここで、目標クランク角CAtagは、次にエンジン22を始動するときにショックが小さくなるなどエンジン22の始動性が良好となるクランク角CAとして予め設定されたクランク角(例えば、ある気筒の圧縮行程の上死点から90度前など)であり、実施例では、エンジン22は4気筒であるから、クランク角CAのサイクルとしての720度のうちに180度毎に設定することができる。実施例では、エンジン22の回転数Neとクランク角CAと4つの目標値との関係を予め定めてマップとしてROM74に記憶しておき、エンジン22の回転数Neとクランク角CAが与えられるとマップから得られる目標値を目標クランク角CAtagとして設定するものとした。エンジン22の目標回転数Ne*は、実施例では、入力したエンジン22の回転数Neに補正項を加えることにより設定するものとした。クランク角CAのサイクルとしての720度のうちの180度の範囲毎に1つの目標値を目標クランク角CAtagとして設定するから、その基準を中心にクランク角CAとしてプラスマイナス90度の誤差が生じる。したがって、その基準からの誤差としてのクランク角CAを打ち消す方向にエンジン22の回転数Neが大きいほど小さくなるように補正項を設定し、これに入力した回転数Neを加えて目標回転数Ne*とするのである。なお、補正項は、基準からの誤差としてのクランク角CAとエンジン22の回転数Neと補正値とを予め実験などにより定めてマップとしてROM74に記憶しておき、クランク角CAと回転数Neとが与えられるとマップから補正値を導出して設定するものとした。
【0024】
こうして目標クランク角CAtagと初期値としての目標回転数Ne*を設定すると、エンジン22の回転数Neが閾値Nref未満に至るまでは(ステップS150)、エンジン22の回転数Neとクランク角CAと入力する処理(ステップS130)、エンジン22の回転数Neの減少量として予め設定された回転数勾配dneでエンジン22の回転数Neが小さくなるよう前回の目標回転数Ne*(前回Ne*)から回転数勾配dneを減じたものをエンジン22の目標回転数Ne*として設定する処理(ステップS140)、エンジン22を目標回転数Ne*で回転させるための比例項と積分項とを用いたフィードバック制御における関係式(式(2)参照)を用いてモータMG1のトルク指令Tm1*を設定する処理(ステップS160)、設定したトルク指令Tm1*をモータECU40に送信する処理(ステップS180)、を繰り返す。ここで、閾値Nrefは、エンジン22の回転に伴って生じるトルク脈動によってエンジン22の回転数Neに大きな影響を及ぼす回転数領域の上限値として実験などにより求められた回転数であり、例えば、100prmや200rpm,300rpmなどを用いることができる。回転数勾配dneは、動力分配統合機構30やモータMG1,MG2を含む駆動系の共振回転数帯(例えば、300〜500rpm)をエンジン22の回転数Neが比較的迅速に通過して小さくなるよう設定された勾配である。式(2)中、右辺第1項の「kp」は比例項のゲインであり、右辺第2項の「ki」は積分項のゲインである。なお、トルク指令Tm1*を受信したモータECU40は、モータMG1からトルク指令Tm1*に相当するトルクが出力されるようインバータ41の図示しないスイッチング素子をスイッチング制御する。このように、比例項と積分項とを用いたフィードバック制御を行なうことにより、回転数勾配dneで減少する目標回転数Ne*でエンジン22を回転させることができる。
【0025】
Tm1*=kp・(Ne*-Ne)+ki・∫(Ne*-Ne)dt (2)
【0026】
エンジン22の回転数Neが閾値Nref未満に至ると、エンジン22の回転数Neが値0となるまで(ステップS190)、即ちエンジン22の回転が停止するまで、エンジン22の回転数Neとクランク角CAと入力する処理(ステップS130)、エンジン22の回転数Neの減少量として予め設定された回転数勾配dneでエンジン22の回転数Neが小さくなるよう前回の目標回転数Ne*(前回Ne*)から回転数勾配dneを減じたものをエンジン22の目標回転数Ne*として設定する処理(ステップS140)、エンジン22を目標回転数Ne*で回転させるために比例項は用いずに積分項だけを用いたフィードバック制御における関係式(式(3)参照)を用いてモータMG1のトルク指令Tm1*を設定する処理(ステップS170)、設定したトルク指令Tm1*をモータECU40に送信する処理(ステップS180)、を繰り返す。このように積分項だけを用いたフィードバック制御を行なうことにより、エンジン22が低回転となってエンジン22のトルク脈動がエンジン22の回転数Neに大きく影響を及ぼすことになっても、エンジン22のトルク脈動に左右されることなくエンジン22の回転数Neを目標回転数Ne*に制御することができる。
【0027】
Tm1*=ki・∫(Ne*-Ne)dt (3)
【0028】
以上説明した実施例のハイブリッド自動車20によれば、エンジン22を停止するときに、エンジン22の回転数Neがエンジン22の回転に伴って生じるトルク脈動によってエンジン22の回転数Neに大きな影響を及ぼす回転数領域の上限値として実験などにより求められた回転数としての閾値Nref未満に至るまでは比例項と積分項とを用いたフィードバック制御によりエンジン22が目標回転数Ne*で回転するようモータMG1を駆動制御し、エンジン22の回転数Neが閾値Nref未満に至った以降は比例項は用いずに積分項だけを用いたフィードバック制御によりエンジン22が目標回転数Ne*で回転するようモータMG1を駆動制御することにより、エンジン22の回転数Neが閾値Nref未満に至るまでは高い精度でエンジン22を目標回転数Ne*としてエンジン22の回転数Neを低減し、エンジン22の回転数Neが閾値Nref未満に至った以降はエンジン22のトルク脈動がエンジン22の回転数Neに大きく影響を及ぼすことになってもエンジン22のトルク脈動に左右されることなくエンジン22の回転数Neを目標回転数Ne*に制御してエンジン22の回転数Neを低減してエンジン22を停止することができる。
【0029】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、エンジン22が「内燃機関」に相当し、エンジン22のクランクシャフト26に動力分配統合機構30を介して動力を入出力するモータMG1が「電動機」に相当し、バッテリ50が「二次電池」に相当する。そして、エンジン22の回転数Neがエンジン22の回転に伴って生じるトルク脈動によってエンジン22の回転数Neに大きな影響を及ぼす回転数領域の上限値として実験などにより求められた回転数としての閾値Nref未満に至るまでは比例項と積分項とを用いたフィードバック制御によりエンジン22が目標回転数Ne*で回転するようモータMG1を駆動制御し、エンジン22の回転数Neが閾値Nref未満に至った以降は比例項は用いずに積分項だけを用いたフィードバック制御によりエンジン22が目標回転数Ne*で回転するようモータMG1を駆動制御する図3のエンジン停止時制御ルーチンを実行するハイブリッド用電子制御ユニット70とトルク指令Tm1*を受信してモータMG1を駆動制御するモータECU40とが「停止時制御手段」に相当する。
【0030】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0031】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、自動車の製造産業に利用可能である。
【符号の説明】
【0033】
20,ハイブリッド自動車、22 エンジン、24 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、24a CPU、24b ROM、24c RAM、26 クランクシャフト、28 ダンパ、30 動力分配統合機構、31 サンギヤ、32 リングギヤ、32a リングギヤ軸、33 ピニオンギヤ、34 キャリア、35 減速ギヤ、40 モータ用電子制御ユニット(モータECU)、41,42 インバータ、43,44 回転位置検出センサ、50 バッテリ、51 温度センサ、52 バッテリ用電子制御ユニット(バッテリECU)、54 電力ライン、60 ギヤ機構、62 デファレンシャルギヤ、63a,63b 駆動輪、70 ハイブリッド用電子制御ユニット、72 CPU、74 ROM、76 RAM、80 イグニッションスイッチ、81 シフトレバー、82 シフトポジションセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキペダルポジションセンサ、88 車速センサ、122 エアクリーナ、124 スロットルバルブ、126 燃料噴射弁、128 吸気バルブ、130 点火プラグ、132 ピストン、134 浄化装置、136,スロットルモータ、138 イグニッションコイル、140 クランクポジションセンサ、142 水温センサ、143 圧力センサ、144 カムポジションセンサ、146 スロットルバルブポジションセンサ、148 エアフローメータ、149 温度センサ、150 可変バルブタイミング機構、MG1,MG2 モータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、前記内燃機関の出力軸に機械的機構を介して動力を入出力可能な電動機と、前記電動機と電力のやりとりが可能な二次電池と、前記内燃機関の運転を停止するときには、前記内燃機関を予め定めた目標クランク角に停止するために回転数を減少している最中の前記内燃機関のクランク角または経過時間に応じた前記内燃機関の目標回転数を設定し、前記内燃機関の回転数が前記設定した目標回転数となるよう前記電動機を制御する停止時制御手段と、を備える自動車であって、
前記停止時制御手段は、前記内燃機関の回転数が前記内燃機関の回転に伴って生じるトルク脈動によって前記内燃機関の回転数に影響を与える回転数領域の上限値として予め定められた所定回転数以上のときには比例項と積分項とを用いたフィードバック制御により前記内燃機関の回転数が前記設定した目標回転数となるよう前記電動機を制御し、前記内燃機関の回転数が前記所定回転数未満のときには前記比例項を用いずに前記積分項を用いたフィードバック制御により前記内燃機関の回転数が前記設定した目標回転数となるよう前記電動機を制御する手段である、
ことを特徴とする自動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−219017(P2011−219017A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−92134(P2010−92134)
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】