説明

自動車

【課題】 その場回転や、横方向移動等が可能な自動車において、運転者による運転操作の操作性の向上を図る。
【解決手段】 3輪以上の車輪1,2を有し、全車輪1,2に独立して転舵可能な転舵機構4を有し、各車輪1,2のうちの駆動輪は、各々独立して原動機6を含む走行駆動機構5により走行駆動される自動車に適用する。走行駆動機構5は、例えばインホイールモータ駆動装置とする。転舵機構4の操作および走行駆動機構5の駆動の操作を行うジョイスティック21を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、全車輪が独立して転舵可能で、各駆動輪が独立して走行駆動可能な、電気自動車等の自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車等において、全車輪が独立して転舵可能で、各駆動輪が独立して走行駆動可能なものが提案されている。このような自動車では、車体の中心回りに回転させるその場回転や、真横に走行させる横方向移動等の、通常の自動車では行えない特殊な非通常形態の走行が可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4541201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような、その場回転や横方向移動等の特殊な走行が行える車両においても、操舵および加減速の操作は、通常の自動車と同様に、ステアリングホイールとアクセルペダルとで行うようにしている。あるいは、その場回転や横方向移動は、専用のボタン操作で自動運転で行うようにしている。
しかし、その場回転や横方向移動等の運転は、ステアリングホイールとアクセルペダルとによる操作では、行い難い。また、専用のボタン操作による自動運転では、状況に応じた適切な運転が難しい場合がある。
【0005】
この発明の目的は、その場回転や、横方向移動等の走行を含め、運転者による運転操作性に優れた自動車を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の自動車は、3輪以上の車輪を有し、全車輪に独立して転舵可能な転舵機構を有し、前記各車輪のうちの駆動輪は、各々独立して原動機を含む走行駆動機構により走行駆動される自動車であって、前記転舵機構の操作および前記走行駆動機構の駆動の操作を行うジョイスティックを有することを特徴とする。
なお、この明細書において「ジョイスティック」とは、運転者が触れる一つの操作子によって、方向および操作量の両方の入力が行える入力操作手段の総称を言い、操作子の外形がレバー形であっても、球状や平板状であっても良く、外形上の形式は問わない。
【0007】
この構成によると、転舵機構の操作および走行駆動機構の駆動の操作を行うジョイスティックを有しており、ジョイスティックは一つの操作子によって方向および操作量の入力が行える。そのため、その場回転や横方向移動等の走行を含め、各輪独立転舵、各駆動輪独立駆動により可能となる非通常形態の走行の運転が、操作性良く行える。また、ジョイスティックによる運転者の操作によるため、非通常形態の走行を自動運転で行うものと異なり、状況に応じた適切な運転が行える。
【0008】
この発明において、車体の複数箇所に前記ジョイスティックが着脱可能なジョイスティック設置座を設け、前記ジョイスティックは、任意のジョイスティック設置座へ設置場所の変更を可能としてもよい。
運転者の利き腕や体格等により、ジョイスティックの操作が行い易い位置は異なる。そのため、ジョイスティック設置座を複数箇所に設け任意のジョイスティック設置座へ設置場所の変更を可能とすることで、運転者の操作の行い易いジョイスティックの位置で操作することができる。
【0009】
この発明において、前記ジョイスティックを複数有し、これら複数のジョイスティックの中から操作可能状態とするジョイスティックを選択するジョイスティック選択手段を有するものとしても良い。
ジョイスティックが複数あれば、操作が行い易い位置のジョイスティックを選択して操作することができる。あるいは、複数のジョイスティックが形式の異なるものであると、操作し易い形式のジョイスティックを選択して操作することができる。これらの場合に、複数のジョイスティックの入力が重なると、運転に支障を来す。これにつき、ジョイスティック選択手段を設け、選択されたジョイスティックの入力だけを受け付けるようにすることで、支障なく運転が行える。
【0010】
車体の複数箇所に前記ジョイスティックが着脱可能なジョイスティック設置座を有する場合に、前記ジョイスティックを複数有し、これら複数のジョイスティックの中から操作可能状態とするジョイスティックを選択するジョイスティック選択手段を有するものとしても良い。ジョイスティック設置座の個数とジョイスティックの個数とは一致していなくてもよい。
ジョイスティックが複数あって、複数箇所に可能に設置可能であると、操作し易いジョイスティックの選択が、より多くの中から行える。この場合も、選択されたジョイスティックの入力だけを受け付けるようにすることで、支障なく運転が行える。
【0011】
この発明において、前記転舵機構および走行駆動機構は、各車輪を車体に対して横向きとして各駆動輪を互いに同じ横方向へ転がるように回転させる横方向移動形態と、各車輪を互いに共通の円周に沿う方向に向けるか、または、複数の同心円のいずれかの円周に沿う方向に向け、各駆動輪を車体中央側から見て互いに同じ方向に回転させるその場回転形態とのいずれか一方または両方の形態を取り得る構成であっても良い。
その場回転が可能であると、車庫入れや駐車スペースへの移動、あるいは狭いスペースや路上での方向転換が自由に行える。横方向移動が可能である場合も、車庫入れや駐車スペースへの移動が行い易い。このようなその場回転形態や横方向移動は、通常のステアリングでの操作では行い難いが、ジョイスティックによると簡単に操作することができる。
【0012】
この発明において、前記転舵機構を運転者によって操作する手段が前記ジョイスティックのみであっても良く、またジョイスティックとステアリングホイールとの両方を備えていてもよい。
ジョイスティックによると、通常走行と非通常走行のいずれでも容易に行うことができるが、通常走行時はステアリングホイールの方が、運転者が従来の自動車で慣れていることから、より運転が行い易い。
【0013】
この発明において、前記転舵機構および走行駆動機構が、各車輪を車体に対して横向きとして各駆動輪を互いに同じ横方向へ転がるように回転させる横方向移動形態と、各車輪を互いに共通の円周に沿う方向に向けるか、または、複数の同心円のいずれかの円周に沿う方向に向け、各駆動輪を車体中央側から見て互いに同じ方向に回転させるその場回転形態とのいずれか一方または両方の形態を取り得る構成であって、
前記転舵機構を操作する手段として、前記ジョイスティックとは別にステアリングホイールを有し、前記横方向移動形態または前記その場回転形態で走行する非通常通走行時以外の走行時である通常走行時は前記ステアリングホイールの入力を選択し、前記非通常通走行時は前記ジョイスティックの入力を選択する入力選択部を設けても良い。
ジョイスティックによると、通常走行と非通常走行のいずれでも容易に運転することができるが、通常走行時はステアリングホイールを用いる方が、運転者が従来の自動車で慣れていることから、より運転が行い易い。ジョイスティックやステアリングホイールの両方を備えることで、通常走行時と非通常走行時のいずれにおいても、操作が行い易くなる。この場合に、入力選択部によってステアリングホイールとジョイスティックの入力とが走行形態に応じて自動選択されるため、運転者による手動の操作が不要で操作性に優れる。
【0014】
ステアリングホイールとジョイスティックを備える場合に、これらステアリングホイールとジョイスティックのいずれか一方または両方を着脱可能としても良い。外したステアリングホイールとジョイスティックは、自動車内の定められた置き場所等に収納しておくようにしても良い。ステアリングホイールとジョイスティックと両方がある場合、運転席の周辺が狭くなるが、ステアリングホイールとジョイスティックのいずれか一方または両方を着脱可能としておくと、使用しないステアリングホイールまたはジョイスティックが運転や車内空間で邪魔になることが回避できる。
【0015】
この発明において、前記走行駆動機構の原動機が電動モータであっても良く、この走行駆動機構がインホイールモータ駆動装置であっても良い。
走行用の原動機が電動モータである場合、特にインホイールモータ駆動装置である場合に、全車輪独立転舵、各駆動輪独立駆動の自動車とすることが容易となる。
【発明の効果】
【0016】
この発明の自動車は、3輪以上の車輪を有し、全車輪に独立して転舵可能な転舵機構を有し、前記各車輪のうちの駆動輪は、各々独立して原動機を含む走行駆動機構により走行駆動される自動車であって、前記転舵機構の操作および前記走行駆動機構の駆動の操作を行うジョイスティックを有するため、その場回転や、あるいは横方向移動等の走行を含め、運転者による運転操作性に優れた自動車となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明の第1の実施形態に係る自動車の各部の配置を平面視で示す説明図である。
【図2】図1に制御系のブロック図を重ねて示す説明図である。
【図3】同自動車の通常走行、その場回転、および横方向移動の形態をそれぞれ平面視で示す動作説明図である。
【図4】ジョイスティックの一例の斜視図および作用説明図である。
【図5】ジョイスティック設置座の一例を示す説明図である。
【図6】同自動車におけるモード切換制御部の制御動作の流れ図である。
【図7】この発明の他の実施形態に係る自動車の各部の配置を平面視で示す説明図である。
【図8】図7に制御系のブロック図を重ねて示す説明図である。
【図9】この発明の自動車を適用できる駆動形式の他の例を平面視で示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
この発明の第1の実施形態を図1ないし図6と共に説明する。この自動車は、電気自動車であって、前輪となる左右2つの車輪1,1と、後輪となる左右2つの車輪2,2とが設けられている。全ての車輪1,2には、いずれも独立して転舵可能な転舵機構4が設けられている。各車輪1,2は、図示の例ではいずれも駆動輪であって、各々独立して、駆動源6を含む走行駆動機構5により走行駆動される。
【0019】
走行駆動機構5は、この例ではインホイールモータ駆動装置であり、車輪1,2をそれぞれ支持する車輪用軸受7と、電動モータからなる駆動源6と、駆動源6の出力する回転を減速して車輪用軸受7の回転側軌道輪(図示せず)に伝達する減速機8とで構成される。走行駆動機構5は、これら車輪用軸受7、駆動源6、および減速機8が、共通のハウジングに設置されて、または互いに結合されて一体化されており、その一体化された走行駆動機構5が、サスペンション(図示せず)を介して、上下方向の支軸9回りに回転自在なように、車体3に設置されている。転舵機構4は、電動モータ等からなる転舵用駆動源4aと、この転舵用駆動源4aの回転を前記一体化された走行駆動機構5に伝達する伝達機構4bとでなる。伝達機構4bは、例えばギヤ列からなる。伝達機構4bは、この他にギヤとボールねじやラック・ピニオン機構等の回転・直線運動変換手段との組み合わせであっても良い。
【0020】
この自動車は、上記の全車輪1,2が独立して転舵可能な転舵機構4を備える構成、および全駆動輪1,2が各々独立して駆動可能とされた構成によって、図3(A)に示す通常走行形態と、図3(B),(C)にそれぞれ示すその場回転形態または横方向移動形態である非通常走行形態で移動することが可能である。
【0021】
図3(B)のその場回転形態は、車体3の略中心を回転としてその場で(回転半径を略零として)回転させる移動形態である。その場回転形態は、具体的には、各車輪1,2を互いに共通の仮想の円周Cに沿う方向(すなわち接線方向)に向け、かつ各駆動輪である車輪1,2を、前記円周の中心O側から見て、図中に矢印で示すように互いに同じ方向に回転駆動する移動形態である。従って、左右の車輪1,1,2,2は、直進方向から互いに逆方向に転舵された状態となる。その場回転形態は、駆動輪である車輪1,2の回転方向を正逆に切り換えることで、左右いずれの方向にも回転可能とされる。
【0022】
図3(C)の横方向移動形態は、車体3を真横、または真横に近い方向に移動させる移動形態である。横方向移動形態は、具体的には、各車輪1,2を車体3に対して横向きとして、各駆動輪となる車輪1,2を互いに同じ横方向へ転がるように回転させる形態である。直進状態から横方向移動形態への変更は、転舵機構4の構成にもよるが、この例では、単に転舵角を大きくするのではなく、同図中に前側の車輪1につき想像線で転舵途中の状態を示すように、左右の車輪1,1を互いに線対象となるように逆方向に転舵させることで車輪1,1を真横に向ける。後ろ側の車輪2,2も同様である。このように転舵させて横方向移動させる場合、各駆動輪となる車輪1,2を互いに同じ横方向へ転がるように回転させる場合、左右の車輪1,1,2,2は、互いに逆方向に回転駆動させることになる。
【0023】
図3(A)の通常走行形態は、通常の直進や、円弧状の曲線方向の走行であり、上記
その場回転形態および横方向移動形態である非通常走行形態以外の走行形態である。通常走行形態では、左右の車輪1,1,2,2は、互いに同じ方向に転舵されることになる。
【0024】
図1において、運転操作系を説明する。車体3の車室3a内に、運転席11および助手席12となるシートが設けられており、運転操作系としては、操舵手段をおよびアクセル操作手段を兼ねるジョイスティック21と、ブレーキ操作子22とが設けられている。ブレーキ操作子22はブレーキペダル等からなり、運転席11の前方の床部に設けられている。
【0025】
ジョイスティック21は、運転者が触れる一つの操作子によって、方向および操作量の両方の入力が行える入力操作手段の総称であり、レバー型に限らないが、この実施形態では、例えば図4に示すレバー型のジョイスティック21が設けられている。このジョイスティック21は、操作子であるレバー21aが、中立位置となる直立状態から、全周の360°の任意の方向に倒れ可能であって、倒れ方向によってその方向へ自動車を走行させる操舵入力が行え、かつ倒れ量(中立位置からの倒れ角度)によって、アクセル操作量(ペダル型のアクセルの踏み込み量に相当)の入力が行える。ジョイスティック21は、この例では、図1のように、運転席11の前方のダッシュボード24に、ジョイスティック設置座23を介して設置されている。
【0026】
ジョイスティック設置座23は、1か所であっても良いが、図示の例では複数箇所に設けられている。ジョイスティック設置座23は、例えば、ダッシュボード24における運転席11の前方の左右の各1箇所および中央1か所(中央のジョイスティック設置座23は図示せず)と、車室3a内の後部とに設けられている。ジョイスティック設置座23は、この他に、車室3aの内壁面や、運転席11や助手席12のシート等に設けられていても良い。
【0027】
ジョイスティック設置座23は、ジョイスティック21を着脱不能に設置するものであっても良いが、ジョイスティック21が着脱可能なものであってもよい。ここで言う着脱可能とは、工具を用いることなく、装着状態と取り外し状態とに変更できる構成であることを言う。ジョイスティック設置座23を複数設ける場合は、ジョイスティック21を着脱可能で、かつその複数のジョイスティック設置座23を任意に選択して同じジョイスティック21を装着できる互換性を有するものとされる。
【0028】
ジョイスティック設置座23をジョイスティック21の着脱が可能なものとする場合、ジョイスティック設置座23は、単にジョイスティック21の支持だけを行うものであっても良く、またジョイスティック設置座23に、配線系として、ジョイスティック21の着脱によって接続状態と非接続状態とに切り換わる差し込み式のコネクタ25(図5参照)が設けられていても良い。ジョイスティック設置座23が単にジョイスティック21の支持だけを行うものである場合、ジョイスティック21は、配線された状態で設置箇所の変更を行うか、または無線等のコードレスでECU31(図2)と通信を行うものとされ、あるいはジョイスティック設置座23とは別に複数のコネクタが配置されたものとされる。
【0029】
図1において、ジョイスティック21は複数設けても良く、その場合は、複数のジョイスティック21の中から操作可能状態とするジョイスティック21を選択するジョイスティック選択手段26を設ける。ジョイスティック選択手段26は、車室3a内のダッシュボード24等に設けられる選択スイッチ26aと、図2のECU31に設けられて選択スイッチ26aの操作に従って選択されたジョイスティック21の入力のみを受け付ける入力選択部26bとで構成される。
【0030】
また、図3と共に前述した各走行モードを運転者の操作によって切り換える走行モード切換手段41(図2)が、複数の入力操作手段42〜45と、ECU31に設けられたモード切換制御部34とで構成される。前記各入力操作手段42〜45のうち、第1の入力操作手段42は、通常走行運転モードと非通常走行運転モードとの相互間で運転モードの切換を可能な切換準備モードとする手段であり、例えば、ジョイスティック21の前面に設けられた操作ボタンからなる。第2〜第4の入力操作手段43〜45は、それぞれ、その場回転モード、横方向移動モード、および通常走行モードを選択する手段であり、いずれもジョイスティック21の上端の上面に設けられた操作ボタンからなる。
なお、前記各入力操作手段42〜45の設置場所は、ジョイスティック21に限らず、ダッシュボード24の表面や、車室3aの内壁面、各運転席11のシート等に設けられてても良い。また、通常走行運転モードと非通常走行運転モードとの相互間で運転モードの切換の準備モードとする入力操作手段42と、他の各入力操作手段43〜45とを互いに離して、例えば、第1の入力操作手段42をジョイスティック21に設け、他の各入力操作手段43〜45をダッシュボード24の表面に設けても良い。
【0031】
図2と共に制御系を説明する。制御手段として、前記ECU31と複数のインバータ装置39とを備える。インバータ装置39は、前記各輪の走行駆動機構5の電動モータからなる駆動源6を駆動する装置であり、バッテリ(図示せず)の直流電力を交流電力に変換するインバータ等のパワー回路部と、このパワー回路部をECU31の指令に従って制御する制御回路部とでなる。
【0032】
ECU31は、自動車の全体を統括制御,協調制御する電気制御ユニットであり、マイクロコンピータと電子回路等からなる。ECU31は、機能別の複数のECUからなるものであっても良く、ここではそれら複数のECUを纏めたものをECU31として説明する。ECU31には、転舵制御手段32と、駆動制御手段33と、前記モード切換制御部34と、前記入力選択部26bとを備える。転舵制御手段32は、転舵操作手段の操舵方向の信号、図示の例ではジョイスティック31で入力された操舵方向の信号を受けて、各転舵機構4の転舵用駆動源4aへ駆動指令を与える手段である。駆動制御手段33は、アクセル操作手段のアクセル操作量、図示の例ではジョイスティック31で入力されるアクセル操作量の信号に従って、各輪の駆動源6のインバータ装置39へトルク指令等の駆動指令を出力する手段である。なお、アクセル操作量の信号は、加速指令、減速指令、速度維持指令となる。
【0033】
モード切換制御部34は、走行モードを、通常走行運転モードと、その場回転モードおよび横方向移動モードである非通常走行モードとに、モード切換信号によって切り換える手段である。この例では、モード切換制御部34は、切換機能の他に、各走行モードに応じて転舵制御手段32および駆動制御手段33を機能させる通常運転制御部35および非通常運転制御部36を有する。モード切換制御部34と、モード切換用の入力操作手段42〜45とで、走行モード切換手段41が構成される。
【0034】
通常運転制御部35は、転舵制御手段32および駆動制御手段33を、転舵およびアクセル操作手段であるジョイスティック31からの操舵入力およびアクセル操作量の信号によって、通常に、つまり定められた基本動作となるように機能させる手段である。この基本動作は、操舵方向の入力に応じてその入力された方向へ転舵させる指令を転舵制御手段32に行わせ、またアクセル操作量に応じた駆動指令を駆動制御手段33に行わせる動作である。
【0035】
非通常運転制御部36は、その場回転モードである時は、図3(B)と共に前述したその場回転形態となるように転舵制御手段32および駆動制御手段33を制御し、横方向移動モードである時は、図3(C)と共に前述した横方向移動形態となるように、転舵制御手段32および駆動制御手段33を制御する。ジョイスティック31等の操舵手段やアクセル操作手段の入力が同じようになされても、各モード制御部35,36が介在することで、転舵制御手段32および駆動制御手段33は異なる動作を行うことになる。
【0036】
モード切換制御手段41につき、より具体的に説明する。モード切換制御手段41は、前述のように複数の入力操作手段42〜45と、この入力操作手段42〜45の入力によって運転モードの切換を行うモード切換制御部34とを有する。このモード切換制御部35は、前記複数の入力操作手段42〜45のうちの複数のものが同時に入力操作状態にあるとき、またはいずれかの入力操作手段42〜45が入力操作された後に他の入力操作手段42〜45が入力操作された場合のみ、モード切換可能とする。この実施形態では、第1の入力操作手段42が入力操作されて切換準備モードになっていて、他のいずれかの入力操作手段43〜45(これらの入力操作手段43〜45を「第2の入力操作手段」と称す)が入力操作されるか、または第1の入力操作手段42と他のいずれかの第2の入力操作手段43〜45とが同時に入力操作されることにより、モード切換可能となる。ここで言う「同時に入力操作される」とは、入力操作の開始時や終了時に互いのずれがあっても良いが、両方が共に操作されている重なり時間がある場合を言う。
【0037】
モード切換制御部34は、上記の条件の他に、自動車の走行の停止時、または定められた速度以下である場合のみ、切換可能とされている。モード切換制御部34による、走行の停止時または定められた速度以下であるかの判断は、各車輪1,2の車輪用軸受7等に設けられた回転速度センサ46の検出信号等によって行う。上記の「定められた速度」は任意に定めれば良いが、走行モードが変わっても安全に走行が行える程度の速度であり、例えば人が通常に歩く速度よりも遅い速度とされる。
【0038】
図6は、モード切換制御部34の制御例を示す。モード切換制御部34は、第1の入力操作手段42がオンになったか否かを監視し(S2)、オンになるまでは現在の走行モードを維持する(S1)。
【0039】
第1の入力操作手段42がオンになると(S2)、モード切換準備モードとなり、この状態で第2の入力操作手段43〜45のいずれかオンになるのを待つ(S3,S4)。第1の入力操作手段42と第2の入力操作手段43〜45とが同時にオンとされても良い。定められた操作待ち時間が経過しても第2の入力操作手段43〜45のいずれかがオンにならなければ、第1の入力操作手段42がオンになったか否かを判定するステップ(S2)よりも前に戻り、再度、第1の入力操作手段42がオンになるのを待つ。前記操作待ち時間が経過するまでに、第2の入力操作手段43〜45のいずれかがオンになり、または第1の入力操作手段42と第2の入力操作手段43〜45とが同時にオンとされると、設定速度の判定ステップ(S5)を経て、運転モードの切換を行う(S6)。
【0040】
この運転モードの切換(S6)は、この実施形態では、第2の入力操作手段43〜45で選択されたモードに行われる。例えば、入力操作手段43が操作されると、その場回転モードとなり、他の入力操作手段44が操作されると横方向移動モードとなり、また他の入力操作手段45が操作されると通常運転モードとなる。
なお、設定速度以上であった場合は、最初のステップS1に戻り、再度、第1の入力操作手段42がオンになるのを待つ。
【0041】
上記構成の自動車によると、図3(B),(C)等に示したその場回転形態や横方向移動形態の走行が行える。そのため、車庫入れや駐車スペースへの移動、あるいは狭いスペースや路上での方向転換が自由に行える。
【0042】
この場合に、転舵機構4の操作および走行駆動機構5の駆動の操作を行うジョイスティック21を有しており、ジョイスティック21は一つの操作子によって方向および操作量の入力が行える。そのため、図3(B)のその場回転や、図3(C)の横方向移動等の走行を含め、各輪独立転舵、各駆動輪独立駆動により可能となる非通常形態の走行の運転が、操作性良く行える。また、ジョイスティック21による運転者の操作によるため、非通常形態の走行を自動運転で行うものと異なり、状況に応じた適切な運転が行える。
【0043】
ジョイスティック設置座23を複数箇所に設け、ジョイスティック21の設置場所の変更を可能とした場合は、運転者の操作の行い易いジョイスティック21の位置で操作することができる。
ジョイスティック21を複数有し、その中から操作可能状態とするジョイスティック21を選択するジョイスティック選択手段26を設けた場合も、操作が行い易い位置のジョイスティックを選択して操作することができる。複数のジョイスティック21が形式の異なるものであると、希望の形式のジョイスティック21を選択して操作することもできる。これらの場合に、複数のジョイスティック21の入力が重なると、運転に支障を来す。これにつき、ジョイスティック選択手段26を設け、選択されたジョイスティック21の入力だけを受け付けるようにすることで、支障なく運転が行える。
【0044】
ジョイスティック21が複数あって、複数箇所に可能に設置可能であると、操作し易いジョイスティック21の選択が、より多くの中から行える。この場合も、選択されたジョイスティック21の入力だけを受け付けるようにすることで、支障なく運転が行える。
【0045】
また、横方向移動形態またはその場回転形態で走行する非通常走行の運転を行う非通常走行運転モードと、非通常走行以外の形態で走行する通常走行の運転を行う通常走行運転モードとの切換を、運転者の操作によって切り換える走行モード切換手段41を設けたため、走行モード切換手段を運転者が操作しなければ、走行モードが切り換わらない。通常走行形態と非通常走行形態とは、曲がり角度が異なる程度の違いとは異なる走行形態の極度に大きな違いであるため、運転操作の誤操作や、自動運転などによって、運転者の無意識の状態で切り換わると、その後の適切な運転が行えないことが予想される。しかし、上記のように走行モード切換手段41を設けたことで、常に運転者が意識した状態で走行形態が切り換わることになり、安全性が向上する。
【0046】
走行モード切換手段41は、自動車の走行の停止時または定められた速度以下である場合のみ、切換可能としている。通常走行形態と上記非通常走行形態とは走行形態が極度に異なるため、運転者が意識していたとしても、走行速度が速い状態で切り換わると、適正な走行が行えない場合がある。上記のように止時または低速時のみ切換可能とすることで、切り換え直後の適切な車両動作が安定して行える。
【0047】
また、走行モード切換手段41が操作されたときのみ走行形態の切り換えが可能とされていても、走行モード切換手段41の操作子に不測に運転者の身体の一部や器物が当たることで、走行モード切換手段41が操作され、切り換え可能な状態となることがある。これにつき、この実施形態では、走行モード切換手段41は、複数の入力操作手段42〜45とモード切換制御部34とを有し、モード切換制御部34は、上記のように複数の入力操作手段42〜45が同時に入力操作状態にあるとき、または第1の入力操作手段42が入力操作された後に第2の入力操作手段43〜45が入力操作された場合のみ、切換可能としている。これら2つの同時操作が不測になされることは殆どない。そのため、通常走行形態と非通常走行形態とに不測に走行形態が切り換わることが、より確実に回避され、安全性がさらに向上する。
【0048】
走行モード切換手段21の各入力操作手段42〜45はジョイスティック21に設けられているが、そのため次の利点が得られる。すなわち、モード切換用の複数の入力操作手段42〜45があって、これらの複数の操作を行う場合、その入力操作に要する時間が長くなる。しかし、運転者は、運転中は操舵入力手段であるジョイスティック21に触れている場合が殆どであり、操舵入力手段21に付随してモード切換用の入力操作手段42〜45が設けられていると、運転者による切り換え用入力操作手段の操作が、少しの手指等の動作で行えて、迅速に行える。
【0049】
モード切り換え用の入力操作手段42〜45が操舵入力手段であるジョイスティック21上にあると、迅速に操作できる反面、誤って操作される可能性も高まる。そのため、モード切り換え用の第1の入力操作手段42と、第2の入力操作手段43〜45のいずれか一方かをジョイスティック21から離して設けた場合は、不測の誤操作が生じる可能性を低くできる。
【0050】
図7,図8は、この発明における他の実施形態を示す。なお、この実施形態は、特に説明した事項の他は、図1〜図6と共に前述した第1の実施形態と同様である。
この実施形態は、転舵機構4を操作する手段として、前記ジョイスティック21とは別にステアリングホイール27が設けられ、かつアクセルペダル28が設けられている。入力選択部26aは、選択スイッチ26aの操作を特に行わない基本状態の場合、通常走行時、つまり上記の通常走行運転モードで走行している場合は、操舵入力としてステアリングホイール27の入力のみを受け付けて操舵を行い、前記その場回転形態または横方向移動形態で走行する非通常通走行モードの場合は、操舵入力としてジョイスティック21の入力のみを受け付けて操舵を行うように、自動変更する。また、入力選択部26aは、ステアリングホイール27の入力を受付ける状態では、アクセル操作量の入力は、アクセルペダル28のみから受け付けるようにしている。
【0051】
なお、入力選択部26aは、選択スイッチ26aの操作によって、ジョイスティック21と任意のジョイスティック21または任意のジョイスティック設置座23からの入力を受け付けるように切換える機能を兼備する。
ステアリングホイール27についても、ステアリングホイール設置座(図示せず)に対して着脱可能としても良い。
【0052】
ジョイスティック21によると、通常走行と非通常走行のいずれでも容易に運転することができるが、通常走行時はステアリングホイール27を用いる方が、従来の自動車で慣れていることから運転が行い易い。ジョイスティック21とステアリングホイール27との両方を備えることで、通常走行時と非通常走行時のいずれにおいても、操作し易くできる。
【0053】
ステアリングホイール27とジョイスティック21を備える場合に、これらステアリングホイール27とジョイスティック21のいずれか一方または両方を着脱可能としてあると、使用しないステアリングホイール27またはジョイスティック21で運転席11の周辺が狭くなることが回避され、運転者回りの空間が広く得られる。外したステアリングホイール27とジョイスティック21は、自動車内の定められた置き場所等に収納しておくようにしても良い。
【0054】
なお、上記各実施形態は、走行駆動機構5がインホイールモータ形式である場合につき説明したが、この発明は、例えば図9に示すように、走行駆動機構5が車体3のフレーム上(つまりサペンションよりの上側)に設置された駆動源6から等速ジョイント19,20を介して車輪1に回転伝達する形式の自動車にも適用することができる。原動機6は、電動モータであっても、内燃機関であっても良い。また、自動車の持つ車輪数は、4輪に限らず、3輪であっても、5輪以上であっても良い。各車輪のうちの駆動輪は、全て原動機を含む走行駆動機構により走行駆動される形式とするが、駆動輪の数は任意で良い。例えば、4輪の自動車において、前輪または後輪の2輪駆動であってもよく、また前輪または後輪が1輪となった3輪の自動車において、その1輪となった前輪または後輪を駆動輪としても良い。
【符号の説明】
【0055】
1,2…車輪
3…車体
3a…車室
4…転舵機構
4a…転舵用駆動源
5…走行駆動機構
6…駆動源
7…車輪用軸受
8…減速機
11…運転席
21…ジョイスティック
22…ブレーキ操作子
23…ジョイスティック設置座
24…ダッシュボード
26…ジョイスティック選択手段
26a…選択スイッチ
26b…入力選択部
31…ECU
34…モード切換制御部
35…通常運転制御部
36…非通常運転制御部
41…走行モード切換手段
42〜45…入力操作手段
46…回転速度センサ
C…仮想の円周


【特許請求の範囲】
【請求項1】
3輪以上の車輪を有し、全車輪に独立して転舵可能な転舵機構を有し、前記各車輪のうちの駆動輪は、各々独立して原動機を含む走行駆動機構により走行駆動される自動車であって、
前記転舵機構の操作および前記走行駆動機構の駆動の操作を行うジョイスティックを有することを特徴とする自動車。
【請求項2】
請求項1において、車体の複数箇所に前記ジョイスティックが着脱可能なジョイスティック設置座を有し、前記ジョイスティックは、任意のジョイスティック設置座へ設置場所の変更が可能である自動車。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記ジョイスティックを複数有し、これら複数のジョイスティックの中から操作可能状態とするジョイスティックを選択するジョイスティック選択手段を有する自動車。
【請求項4】
請求項2において、前記ジョイスティックを複数有し、これら複数のジョイスティックの中から操作可能状態とするジョイスティックを選択するジョイスティック選択手段を有する自動車。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記転舵機構および走行駆動機構は、各車輪を車体に対して横向きとして各駆動輪を互いに同じ横方向へ転がるように回転させる横方向移動形態と、各車輪を互いに共通の円周に沿う方向に向けるか、または、複数の同心円のいずれかの円周に沿う方向に向け、各駆動輪を車体中央側から見て互いに同じ方向に回転させるその場回転形態とのいずれか一方または両方の形態を取り得る自動車。
【請求項6】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記転舵機構を運転者によって操作する手段が前記ジョイスティックのみである自動車。
【請求項7】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、において、前記転舵機構および走行駆動機構が、各車輪を車体に対して横向きとして各駆動輪を互いに同じ横方向へ転がるように回転させる横方向移動形態と、各車輪を互いに共通の円周に沿う方向に向けるか、または、複数の同心円のいずれかの円周に沿う方向に向け、各駆動輪を車体中央側から見て互いに同じ方向に回転させるその場回転形態とのいずれか一方または両方の形態を取り得る構成であって、
前記転舵機構を操作する手段として、前記ジョイスティックとは別にステアリングホイールを有し、
前記横方向移動形態または前記その場回転形態で走行する非通常通走行時以外の走行時である通常走行時は前記ステアリングホイールの入力を選択し、前記非通常通走行時は前記ジョイスティックの入力を選択する入力選択部を設けた自動車。
【請求項8】
請求項7において、前記ステアリングホイールとジョイスティックとのいずれか一方または両方を着脱可能とした自動車。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項において、前記走行駆動機構の原動機が電動モータである自動車。
【請求項10】
請求項9において、前記走行駆動機構がインホイールモータ駆動装置である自動車。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−112102(P2013−112102A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258656(P2011−258656)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】