説明

自律神経調整剤、睡眠改善剤又はストレス緩和剤用組成物

【課題】優れた自律神経調整効果、睡眠改善効果及びストレス緩和効果を有する組成物を提供する。
【解決手段】ベンゼン骨格とアルデヒド基とを有する香料成分を0.001〜50質量%含有し、自律神経調整剤、睡眠改善剤又はストレス緩和剤用である身体塗布組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自律神経調整効果、睡眠改善効果又はストレス緩和効果を有する組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
社会環境や生活環境の変化により肉体的・精神的なストレスに悩む人が増加している。具体的な症状としては、副交感神経と交感神経それぞれの働きのバランスが崩れて自律神経系に失調が生じ、精神の亢進状態が引き起こされ、また速やかな入眠(睡眠誘導)が妨げられ、睡眠も浅くなるという問題が生ずる。生理学的には、副交感神経の働きを交感神経の働きよりも相対的に優位にすることにより、ストレスを軽減し、亢進した精神状態を鎮静化し、そして良好な睡眠誘導を実現できるとされている。このため、副交感神経の働きを交感神経の働きよりも相対的に優位にすることを目的として、人に対し香料組成物を気化させてその蒸気を吸気させるアロマテラピーや、経口的又は経皮的に投与する方法等が用いられている。
【0003】
サンダルウッド油及びラベンダー油から高揮発成分を除いた精油によりストレスを解消する技術(特許文献1:特開平3−28300号公報、特許文献2:特開平3−111493号公報参照)、セダーウッド油の香気成分の中で、ガスクロマトグラフィーにおける特定の検出時間を示す成分を用いることで鎮静効果の持続性を向上させる技術(特許文献3:特開平5−255688号公報参照)が提案されている。
【0004】
さらに、ローズマリー、ラベンダー、カモミルブルー、ビターオレンジ、センキュウから選ばれる香気成分の鎮静効果(特許文献4:特開平11−343497号公報参照)、ビターオレンジ精油やジャスミンの精油に含まれるジャスミンラクトンを鼻粘膜、口腔粘膜あるいは肺組織から吸収させることにより入眠促進効果を得る技術(特許文献5:特開平4−128234号公報、特許文献6:特開平6−40911号公報参照)が提案されている。しかしながら、これらの天然精油もしくはこれらをベースに改良された香料には、それぞれの精油に特徴的な香気があり、その嗜好性によって心理的効果が影響を受ける場合も想定される。
【0005】
ビターオレンジ精油やジャスミンラクトン等の香りに対する感受性や嗜好性は個人差が大きく、ある人に対しては鎮静作用や睡眠誘導作用を示すが、別の人に対しては逆に嫌悪感やいら立ち、精神の亢進状態を引き起こすという問題がある。また、セダーウッド油の低沸点成分も独特の強い香りがあり、ビターオレンジ精油等の場合と同様に、その鎮静効果も人の感受性や嗜好性に関する個人差に大きく影響を受けている。
このことから、個人差による嗜好性の違いが生じにくく、さらに性別や年齢の違いに合わせて嗜好性の高い香調に自由に調整できる特徴を有する、自律神経調整効果、睡眠改善効果又はストレス緩和効果を有する組成物が強く求められている。
【0006】
【特許文献1】特開平3−28300号公報
【特許文献2】特開平3−111493号公報
【特許文献3】特開平5−255688号公報
【特許文献4】特開平11−343497号公報
【特許文献5】特開平4−128234号公報
【特許文献6】特開平6−40911号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、優れた自律神経調整効果、睡眠改善効果及びストレス緩和効果(以下、自律神経調整効果等と記載する場合がある。)を有する組成物を提供することを目的とする。具体的には、香りに対する感受性や嗜好性に関する個人差に関わりなく、過度に交感神経優位な状態の人に対し鎮静等の作用を示し、逆に過度に副交感神経優位な状態の人に対しては生理学的に最適な状態に戻す作用を示すことができる、自律神経調整効果、睡眠改善効果又はストレス緩和効果を有する組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、ベンゼン骨格とアルデヒド基とを有する香料成分に高い自律神経調整効果、睡眠改善効果、ストレス緩和効果があり、性別、年齢及び個人差の影響を受けにくく、香り立ちがおだやかで他の香料成分と広範囲で混合可能であり、嗜好性に合わせ各種の香調に容易に調合できることを見出した。さらにその用途や使用剤型(溶液、固形、粉体、スプレー、ジェル、ペースト等)に応じて、上記効果を発現するベンゼン骨格とアルデヒド基とを有する香料成分の組成物中の最適配合量を見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0009】
従って、下記発明を提供する。
[1].ベンゼン骨格とアルデヒド基とを有する香料成分を0.001〜50質量%含有し、自律神経調整剤、睡眠改善剤又はストレス緩和剤用である身体塗布組成物。
[2].ベンゼン骨格とアルデヒド基とを有する香料成分を0.0005〜10質量%含有し、自律神経調整剤、睡眠改善剤又はストレス緩和剤用である経口組成物。
[3].ベンゼン骨格とアルデヒド基とを有する香料成分を0.001〜20質量%含有し、自律神経調整剤、睡眠改善剤又はストレス緩和剤用であるリーブ・オフ組成物。
[4].ベンゼン骨格とアルデヒド基とを有する香料成分を0.001〜50質量%含有し、自律神経調整剤、睡眠改善剤又はストレス緩和剤用である浴用組成物。
[5].ベンゼン骨格とアルデヒド基とを有する香料成分を0.001〜30質量%含有し、自律神経調整剤、睡眠改善剤又はストレス緩和剤用である繊維又は皮革処理用組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた自律神経調整効果、睡眠改善効果又はストレス緩和効果を有する組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の組成物は、性別、年齢及び香りに対する感受性や嗜好性に関する個人差に関わりなく、過度に交感神経優位な状態の人に対しては鎮静作用や睡眠改善作用を示し、逆に過度に副交感神経優位な状態の人に対しては、交感神経を副交感神経に対し相対的に優位化し、さらに怒りやストレス、喜び、悲しみ、リラックスといった感性を改善する(即ち、怒りやストレスを緩和し、喜びを強化し、悲しみを和らげ、リラックス感を増す)ことのできる化合物として、ベンゼン骨格とアルデヒド基とを有する香料成分を含有する。このような香料成分が、上述したような作用を示す機構の少なくとも一部は、主嗅覚神経に受容され、下位中枢神経系を経て自律神経系を刺激するためであると考えられ、さらに下位中枢神経系を経由して上位中枢神経系を刺激する可能性が示唆される。
【0012】
上述の現象を惹起し得る作用を有するベンゼン骨格とアルデヒド基とを有する香料成分としては、ベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、フェニルプロピルアルデヒド、シンナミックアルデヒド、α−アミルシンナミックアルデヒド、アニスアルデヒド、クミンアルデヒド、ピペロナール(3,4−メチレンジオキシベンズアルデヒド)、ヘリオナール、シクラメンアルデヒド、バニリン、メチルバニリン、リリアール等が挙げられる。中でもピペロナール及びアニスアルデヒドが好適に使用される。これらの香料成分は、天然に存在するものを抽出して用いても、有機合成されたものを用いてもよく、例えば、ピペロナールであればバニラ豆中等の天然に存在するものを抽出して用いてもよい。これら香料成分は1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができ、組成物の用途や使用剤型により異なる。
【0013】
本発明の組成物には、嗜好性や本発明の効果を妨げない範囲で、他の香料成分と組合せて使用することができ、天然香料でも合成香料でも使用することができる。他の香料成分としては、例えば、ラベンダー、セダーウッド、サンダルウッド、カモミール、イランイラン、ローズ、ゼラニウム、クラリセージ、ネロリ、マジョラム等から抽出される精油等が挙げられる。
【0014】
本発明の組成物は、ベンゼン骨格とアルデヒド基とを有する香料成分を有効成分として含有する自律神経調整剤、睡眠改善剤又はストレス緩和剤用組成物である。組成物は、身体塗布組成物、経口組成物、リーブ・オフ組成物、浴用組成物等の目的に応じた製剤に適用することができる。この際の、用途及び使用剤型に応じた各組成物におけるベンゼン骨格とアルデヒド基とを有する香料成分の組成物における配合濃度を下記範囲にすることによって、上記効果が格段に発現することは、本発明者の新知見である。以下、各組成物中のベンゼン骨格とアルデヒド基とを有する香料成分含有量を説明する。
【0015】
洗い流さずに使用するいわゆるリーブ・オン型の身体塗布組成物(皮膚化粧料組成物、毛髪用化粧料組成物、香水組成物等)の場合、ベンゼン骨格とアルデヒド基とを有する香料成分の配合量は、組成物中0.001〜50質量%であり、好ましくは0.01〜50質量%、より好ましくは0.1〜50質量%、さらに好ましくは1.0〜50質量%である。0.001質量%未満だと効果がみられず、50質量%を超えると香気が強すぎて覚醒感が生じ、交感神経活動が上昇し、眠りを妨げる。
【0016】
身体塗布組成物としては、化粧水、乳液、ジェル、クリーム、ローション、バーム、オイル、パウダー、制汗剤、ホワイトニング、シワ用剤、マッサージ剤、ファンデーション、アイシャドー、アイライナー、アイブロー、口紅、リップクリーム、化粧下地等、貼付剤、マニキュア、爪保護剤、着け爪、除光液、鼻腔用剤、点眼剤等の皮膚化粧料組成物、
フォーム、ジェル、クリーム、ワックス、ミスト、オイル、リキッド、ポマード、洗い流さないトリートメント剤、育毛剤、脱毛剤等の毛髪用化粧料組成物、香水、オーデコロン、オードトワレ、パヒュームコロン、香油、練り香水、粉末香水等の香水組成物が挙げられる。
【0017】
口腔内に一定時間滞留させて使用し、内服する経口組成物の場合、ベンゼン骨格とアルデヒド基とを有する香料成分の配合量は、組成物中0.0005〜10質量%であり、好ましくは0.001〜10質量%、より好ましくは0.01〜10質量%、さらに好ましくは0.1〜10質量%である。0.0005質量%未満だと効果がみられず、1質量%を超えると苦味を生じ、経口組成物として不適になる。
【0018】
経口用組成物としては、歯磨、洗口剤、口中清涼剤、義歯安定剤等の口腔用組成物;ドロップ、キャラメル、ゼリー錠菓等のキャンディー類、チョコレート類、チューインガム類、ビスケット、クッキー、クラッカー、ウエハース等のビスケット類、いも、とうもろこし、小麦粉等から作られたスナック類、スポンジケーキ類、バターケーキ類、ゼリー、ムース、ババロア、プディング等のデザート菓子類等の食品用組成物;清涼飲料、果実飲料、コーヒー、紅茶等の嗜好飲料、乳製飲料、内服ドリンク等の飲料;食品用組成物用のフレーバー、食品を調理する際に利用するスパイス等の添加剤、経口薬剤用組成物、口あるいは鼻から吸引する吸引薬剤用組成物等が挙げられる。
【0019】
適用後に洗い流して使用するいわゆるリーブ・オフ組成物(身体、毛髪、体毛用組成物)の場合、ベンゼン骨格とアルデヒド基とを有する香料成分の配合量は、組成物中0.001〜20質量%であり、好ましくは0.01〜20質量%、より好ましくは0.1〜20質量%、さらに好ましくは1.0〜20質量%である。0.001質量%未満だと効果がみられず、20質量%を超えると香気が強すぎて覚醒感が生じ、交感神経活動が上昇し、ストレス緩和効果を妨げる。
【0020】
リーブ・オフ組成物としては、石鹸、ボディソープ、ボディリンス、洗顔料、クレンジング剤、マッサージ剤、洗眼剤等の身体用組成物、シャンプー、リンス、コンディショナー、トリートメント、染毛剤、パーマネントウェーブ剤、ブリーチ剤、除毛剤等の毛髪及び体毛用組成物が挙げられる。
【0021】
浴用組成物の場合、ベンゼン骨格とアルデヒド基とを有する香料成分の配合量は、組成物中0.001〜50質量%であり、好ましくは0.01〜50質量%、より好ましくは0.1〜50質量%、さらに好ましくは1.0〜50質量%である。0.001質量%未満だと効果がみられず、50質量%を超えると浴室空間では香気が強すぎて覚醒感が生じ、交感神経活動が上昇し、ストレス緩和効果を妨げる。
【0022】
浴用組成物としては、粉末状、タブレット状、クリーム状、ジェル状、オイル状、ミスト状、キャンドル状、バスソルト、バスフラワー、バブルバス等が挙げられる。
【0023】
繊維又は皮革処理用組成物(寝具用組成物、住居用組成物等)の場合、ベンゼン骨格とアルデヒド基とを有する香料成分の配合量は、組成物中0.001〜30質量%であり、好ましくは0.01〜30質量%、より好ましくは0.1〜30質量%、さらに好ましくは1.0〜30質量%である。0.001質量%未満だと効果がみられず、30質量%を超えると香気が強すぎて覚醒感を生じ眠りが妨げられ、ストレス緩和効果を妨げる。
【0024】
繊維及び皮革処理用組成物としては、繊維及び皮革用洗浄剤、しわ取り剤、柔軟剤、消臭剤、芳香剤、殺菌抗菌剤、静電気防止剤、防水撥水加工剤、アイロンがけ用剤、リネン用処理剤、皮革トリートメント剤等が挙げられる。
【0025】
本発明の各組成物には、各種用途に応じた製剤とする際に、その製剤化に必要となる一般的に使用される成分を1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。このような成分としては、溶剤、界面活性剤、高分子化合物が挙げられる。
【0026】
溶剤としてはエタノール、水、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、イソプロパノール等が挙げられる。界面活性剤としては、非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤のいずれでも使用でき、高分子化合物としては糖系、アクリル系、ビニル系、メタクリル酸系等の天然もしくは合成高分子化合物等を使用することができる。
【0027】
その他、オリーブスクワラン、オリーブ油、ヒマワリ油、亜麻仁油、椿油、スクワラン、流動パラフィン、ミツロウ、マイクロクリスタリンワックス、カルバウナロウ、キャンデリラロウ、シア脂等の油脂、シリコーン類、加水分解蛋白、リン脂質等の感触改善剤、ピロリドンカルボン酸塩やトレハロース、グルコシルルチン等の保湿剤、各種植物エキス、育毛、美白、抗酸化、シワ改善、抗炎症、フケ防止、リラックス、睡眠誘導、筋肉増強等の各種有効成分、紫外線吸収剤、防腐剤、殺菌剤、着色剤、増粘剤、噴射用ガス等を使用することができる。
【0028】
本発明の組成物は剤型に制限はなく、固体、液体、ジェル状等を製剤の用途によって適宜選定することができる。また、使用する容器材質あるいは容器形状についても特に制限は受けない。そのような容器材質として、例えば、ガラス、磁器、陶器、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、アルミニウム、ブリキ、アルミ蒸着プラスティックフィルム等が挙げられ、容器形状としては、ボトル容器、ジャー容器、ポンプ容器、トリガータイプスプレー容器、エアゾールスプレー容器、エアゾールフォーム容器、ポーション容器、パウチ等が挙げられる。
【0029】
本発明に使用されるベンゼン骨格とアルデヒド基とを有する香料成分の自律神経調整効果等は、鼻粘膜、口腔粘膜又は肺から吸収されることにより発現し、また安全性も高いため、本発明の自律神経調整剤、睡眠改善剤又はストレス緩和剤用組成物は、そのような吸収方法を具現化する形態であれば特に制限はされない。
【0030】
本発明の組成物は、吸気、口腔粘膜、鼻粘膜、経口、経皮的浸透、気道等から人体に投与することができる。本発明の組成物には、錠剤を経口投与する場合、ベンゼン骨格とアルデヒド基とを有する香料成分を必ずしも揮散可能な状態で含有させなくてよい。しかし、不特定多数の人に対して投与するためには、人の自然呼吸に伴って鼻粘膜や気道からの投与が可能となるように、投与近傍空間内に極微量濃度のベンゼン骨格とアルデヒド基とを有する香料成分を拡散させることが好ましく、従って、本発明の組成物はベンゼン骨格とアルデヒド基とを有する香料成分を揮散可能な状態で含有することが好ましい。ここで、揮散可能な状態とは、自然な揮発により、又は揮散促進器による加熱、超音波照射、スチーム加熱、マイナスイオン化等の処理により、蒸気又は極微少ない固体粒子もしくは液滴として空気中に拡散し得る状態をいう。
【0031】
本発明の組成物の使用方法も、その用途や使用剤型に応じて適宜選定することができる。例えば、ベンゼン骨格とアルデヒド基とを有する香料成分をパッドに染み込ませた場合には、パッドを電気ヒーター等の揮散促進器から発生する熱で加熱して、ベンゼン骨格とアルデヒド基とを有する香料成分を揮散させることや、水蒸気発生体を備えた特開平2000−42125号公報に記載のマスク等の揮散促進器から発生する温熱スチームで加熱してベンゼン骨格とアルデヒド基とを有する香料成分を揮散させることができる。また、ベンゼン骨格とアルデヒド基とを有する香料成分を水性媒体に可溶化した場合には、超音波加湿器等の揮散促進器で超音波を印加してベンゼン骨格とアルデヒド基とを有する香料成分を含有する微小液滴を揮散させることや、レナード現象を応用した水破砕式装置によりマイナスイオン化してベンゼン骨格とアルデヒド基とを有する香料成分を揮散させることができる。
【0032】
他方、上述したような処理をすることなく常温下でベンゼン骨格とアルデヒド基とを有する香料成分を自然に揮散させてもよい。即ち、ベンゼン骨格とアルデヒド基とを有する香料成分を揮散可能な状態で含有させる形態の例は、揮発促進器を利用する場合に限定されず、寝具、壁紙等に単にスプレーした場合や、皮膚等に適用して洗い流さずに使用するいわゆるリーブ・オン型の組成物に含有させた場合や、口腔内に一定時間滞留させて使用する組成物(例えば、歯磨やアメ等)に含有させた場合等が挙げられる。
【0033】
本発明におけるベンゼン骨格とアルデヒド基とを有する香料成分を含有する自律神経調整剤、睡眠改善剤又はストレス緩和剤である組成物は、自律神経系への作用等によって、肉体的又は精神的ストレスを軽減し、亢進した精神状態を鎮静化でき、しかも、入眠潜時(入床してから入眠するまでの時間)を短縮し、中途覚醒回数を減少させると共に、覚醒時間を短縮し、睡眠効率(=総睡眠時間/総就床時間)を上昇させ、起床時の爽快感を強化し、しかも深い睡眠(ノンレム睡眠)の期間を長くする等の睡眠の質を改善できる。このため、本発明は、睡眠改善の目的で好ましく使用することができる。
【0034】
本発明において「自律神経調整」とは、非病的範囲での自律神経系の失調を改善することを指し、交感神経が通常より高まっている被験者において、副交感神経活動の有意な増加が観察されることによって定義される。
【0035】
自律神経調整効果は、以下の方法で確認することができる。
外部からの音や光を遮断できるシールドルームに、適宜濃度に試料を揮散させる。被験者は椅子に腰掛け、ポリグラフテレメーター「ポリグラフテレメーターECG(大日本製薬(株)製)」及び循環動態波形・ゆらぎ解析ソフトウェア「フラクレットWT(大日本製薬(株)製)」を用い、副交感神経の活動度について測定する。安静時を100として、試料を吸引したときの自律神経活動の変化を測定する。
【0036】
本発明において「睡眠改善」とは、非病的範囲で睡眠を質又は量的に改善することを指し、睡眠の不良を認識する被験者において、下記(1)〜(3)の方法の中で、1つ、好ましくは2つ、より好ましくは3つで睡眠改善効果が確認されることによって定義される。
【0037】
(1)自宅における入床から睡眠開始までの入眠潜時の短縮
被験者が試料を自宅の寝室で使用し、入床から睡眠開始までの入眠潜時をアクチグラフ(米国A.M.I社製、マイクロミニ型アクチグラフ)にて計測する。アクチグラフの使用性に慣れるため、被験者は測定期間中には常に非利き腕にアクチグラフを装着し、1分毎の活動量を連続記録する。記録された活動量より、睡眠と覚醒を「Coleらの方式」に従い解析し、入眠開始時刻を推測する。この値から入床から睡眠開始までの入眠潜時を得る。
(2)実験室における入床から睡眠開始までの入眠潜時の短縮
外部からの音や光を遮断できるシールドルームに、適宜濃度に試料を揮散させる。被験者は設置したベッドに横になり、発光ダイオードに連動する金属箔製の電気スイッチを人差し指と親指に装着させる。実験開始時には指を閉じた状態にし、入眠での指筋力の脱力により発光ダイオードが消灯する様子を家庭用ビデオカメラで記録し、入眠までの時間を測定する。
(3)官能評価にて「寝つきのよさ」、「目覚めのよさ」及び「熟睡感のよさ」の睡眠感の改善
被験者が自宅の寝室で試料を使用し、「寝つきのよさ」、「目覚めのよさ」及び「熟睡感のよさ」の各項目について官能による評価を行う。これにより、官能評価による睡眠改善効果を確認する。
【0038】
本発明において「ストレス緩和」とは、非病的範囲で肉体又は精神的ストレスを軽減することを指し、ストレスを認識する被験者において「リラックス」、「イライラ」、「疲労」及び「ストレス」の項目のうち1つ、好ましくは2つ以上、より好ましくは3つ以上の項目が改善されることによって定義される。
【0039】
被験者が自宅で試料を使用し、「リラックス」、「イライラ」、「疲労」及び「ストレス」の各項目の改善感について官能による評価を行う。これにより、官能評価によるストレス緩和効果を確認する。
【0040】
本発明によれば、睡眠改善、ストレス緩和等の効果を得ることによって、さらに更年期症状、PMS(premenstrual syndrome:月経前症候群)、体力、食欲等を改善することが可能となる。
【0041】
本発明において使用するベンゼン骨格とアルデヒド基とを有する香料成分の中でも、特にピペロナールのように性別、年齢及び個人差の影響を受けにくく、香り立ちがおだやかで他の香料成分と広範囲で混合可能であり、嗜好性に合わせた各種の香調に容易に調合できるものを用いた場合には、本発明の組成物は、個人に対しても、不特定多数の人に対しても、前述の効果を奏することができる。従って、寝室や浴室等の個人的なスペースだけでなく、会議室、室内、機内、車内、ホテル、介護施設、病院、老人ホーム、福利厚生施設、デパート、空港、図書館、駅構内、企業のオフィス等の公共のスペースにおいても、本発明の組成物を、使用形態、使用時期(朝、昼、夜、就床前、就床後、仕事中、移動中等)や人の体調(疲労時、健康時、ストレス時等)等に制限を受けることなく使用することができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において特に明記のない場合は、組成の「%」は質量%を示す。
【0043】
[実施例1、比較例1〜2]
表1に示す組成のボディー用練り香水(身体塗布組成物)を調製し、下記評価を行った。結果を表1に併記する。
評価方法
「寝つきが悪い」と自己申告のあった24〜35才の女性20名を対象に、自宅の寝室にてピペロナール配合のボディー用練香水を胸元に塗り広げた後の睡眠について下記方法で評価した。対象者は各サンプルについて、それぞれ10日間使用した。
(1)自宅における入床から睡眠開始までの入眠潜時の測定
入床から睡眠開始までの入眠潜時をアクチグラフ(米国A.M.I社製、マイクロミニ型アクチグラフ)にて計測した。アクチグラフの使用性に慣れるため、被験者は測定期間中には常に非利き腕にアクチグラフを装着し、1分毎の活動量を連続記録させた。記録された活動量より、睡眠と覚醒を「Coleらの方式」に従い解析し、入眠開始時刻を推測した。この値から入床から睡眠開始までの入眠潜時を得て、20名の平均値±標準偏差(S.E.)を算出した。
(2)「寝つきのよさ」、「目覚めのよさ」及び「熟睡感のよさ」の睡眠感の評価
「寝つきのよさ」、「目覚めのよさ」及び「熟睡感のよさ」の各項目に対して、サンプルを10日間使用した後に官能評価にて、「良好になった」、「変わらなかった」、「悪化した」の3段階で回答させ、下記評価基準により評価した。
<評価基準>
◎:良好と回答したものが20名中16名以上
○:良好と回答したものが20名中11〜15名
△:良好と回答したものが20名中6〜10名
×:良好と回答したものが20名中5名以下
【0044】
【表1】

【0045】
以上の結果から、被験者にピペロナール配合のボディー用練り香水を用いてから入床した場合、入眠潜時の短縮効果及び睡眠感の改善効果が優れていることが確認できた。
【0046】
[実施例2、比較例3〜4]
表2に示す組成の飴(経口組成物)を調製し、下記評価を行った。結果を表2に併記する。
評価方法
「寝つきが悪い」と自己申告のあった24〜35才の女性10名を対象に、外部からの音や光を遮断できるシールドルーム内で、ピペロナール配合飴1粒(5g/粒)を噛まずになめた後、設置したベッドに横になり、下記方法で評価を行った。
(1)副交感神経活動の変化の測定
ポリグラフテレメーター「ポリグラフテレメーターECG(大日本製薬(株)製)」及び循環動態波形・ゆらぎ解析ソフトウェア「フラクレットWT(大日本製薬(株)製)」を用い、副交感神経の活動度について測定した。サンプルを使用する直前の値を100として、サンプルを使用したときの相対変化率を算出した。試験は3回繰り返し平均値を算出した。
(2)実験室における入床から睡眠開始までの入眠潜時の測定
発光ダイオードに連動する金属箔製の電気スイッチを人差し指と親指に装着させ、試験開始時には指を閉じた状態にし、入眠での指筋力の脱力により発光ダイオードが消灯する様子を家庭用ビデオカメラで記録し、入眠までの時間を測定した。各評価について1回の試験を行い、10名の平均値±標準偏差(S.E.)を算出した。
(3)「リラックス」、「イライラ」、「疲労」及び「ストレス」の改善効果の評価
「リラックス」、「イライラ」、「疲労」及び「ストレス」の各項目に対して、サンプルを1回使用した後に官能評価にて、「改善された」、「変わらなかった」、「悪化した」の3段階で回答させ、下記評価基準により評価した。
<評価基準>
◎:改善されたと回答したものが10名中8名以上
○:改善されたと回答したものが10名中6〜7名
×:改善されたと回答したものが10名中5名以下
【0047】
【表2】

【0048】
以上の結果から、ピペロナール配合の飴をなめた場合、自律神経調整効果、ストレス緩和効果があり、入眠潜時を有意に短縮させる睡眠改善効果も認められた。
【0049】
[実施例3、比較例5〜6]
表3に示す組成の身体洗浄剤(リーブ・オフ組成物)を調製し、下記評価を行った。結果を表3に併記する。
評価方法
疲労感(交感神経が過度に高まっている状態)を感じていると自己申告のあった24〜35才の女性20名を対象に、自宅の浴室にてピペロナール配合身体洗浄剤で体を洗浄した後の睡眠及びストレスについて下記方法で評価を行った。対象者は各サンプルについて、それぞれ7日間使用した。
(1)「寝つきのよさ」、「目覚めのよさ」及び「熟睡感のよさ」の睡眠感の評価
「寝つきのよさ」、「目覚めのよさ」及び「熟睡感のよさ」の各項目に対して、サンプルを7日間使用した後に官能評価にて、「良好になった」、「変わらなかった」、「悪化した」の3段階で回答させ、下記評価基準により評価した。
<評価基準>
◎:良好と回答したものが20名中16名以上
○:良好と回答したものが20名中11〜15名
△:良好と回答したものが20名中6〜10名
×:良好と回答したものが20名中5名以下
(2)「リラックス」、「イライラ」、「疲労」及び「ストレス」の改善効果の評価
「リラックス」、「イライラ」、「疲労」及び「ストレス」の各項目に対して、サンプルを7日間使用した後に官能評価にて、「改善された」、「変わらなかった」、「悪化した」の3段階で回答させ、下記評価基準により評価した。
<評価基準>
◎:改善されたと回答したものが20名中16名以上
○:改善されたと回答したものが20名中11〜15名
△:改善されたと回答したものが20名中6〜10名
×:改善されたと回答したものが20名中5名以下
【0050】
【表3】

【0051】
以上の結果から、被験者にピペロナール配合の身体洗浄剤を用いることで、ストレス緩和効果及び睡眠感の改善効果が認められた。
【0052】
[実施例4、比較例7〜8]
表4に示す組成の浴用剤(浴用組成物)を調製し、下記評価を行った。結果を表4に併記する。
評価方法
寝つきが悪いと自己申告のあった24〜35才の女性20名を対象に、自宅の浴室にてピペロナール配合浴用剤(25g)をお湯に入れて入浴した後の睡眠及びストレスについて下記方法で評価を行った。対象者は各サンプルについて、それぞれ7日間使用した。
(1)自宅における入床から睡眠開始までの入眠潜時の測定
入床から睡眠開始までの入眠潜時をアクチグラフ(米国A.M.I社製、マイクロミニ型アクチグラフ)にて計測した。アクチグラフの使用性に慣れるため、被験者は測定期間中には常に非利き腕にアクチグラフを装着し、1分毎の活動量を連続記録させた。記録された活動量より、睡眠と覚醒を「Coleらの方式」に従い解析し、入眠開始時刻を推測した。この値から入床から睡眠開始までの入眠潜時を得て、20名の平均値±標準偏差(S.E.)を算出した。
(2)「寝つきのよさ」、「目覚めのよさ」及び「熟睡感のよさ」の睡眠感の評価
「寝つきのよさ」、「目覚めのよさ」及び「熟睡感のよさ」の各項目に対して、サンプルを7日間使用した後に官能評価にて、「良好になった」、「変わらなかった」、「悪化した」の3段階で回答させ、下記評価基準により評価した。
<評価基準>
◎:良好と回答したものが20名中16名以上
○:良好と回答したものが20名中11〜15名
△:良好と回答したものが20名中6〜10名
×:良好と回答したものが20名中5名以下
(3)「リラックス」「イライラ」「疲労」及び「ストレス」の改善効果の評価
「リラックス」、「イライラ」、「疲労」及び「ストレス」の各項目に対して、サンプルを7日間使用した後に官能評価にて、「改善された」、「変わらなかった」、「悪化した」の3段階で回答させ、下記評価基準により評価した。
<評価基準>
◎:改善されたと回答したものが20名中16名以上
○:改善されたと回答したものが20名中11〜15名
△:改善されたと回答したものが20名中6〜10名
×:改善されたと回答したものが20名中5名以下
【0053】
【表4】

【0054】
以上の結果から、被験者にピペロナール配合の浴用剤を用いた場合、ストレス緩和効果及び睡眠改善効果が認められた。
【0055】
[実施例5、比較例9〜10]
表5に示す組成の芳香ミスト(繊維又は皮革処理用組成物)を調製し、下記評価を行った。結果を表5に併記する。
評価方法
不眠を感じている自己申告のあった24〜35才の女性20名を対象に、自宅寝室の枕、シーツ、掛け布団、カーテン、壁紙及び床板にピペロナール配合芳香ミストを塗布し、その後の睡眠について下記方法で評価を行った。対象者は各サンプルについて、それぞれ7日間使用した。
(1)自宅における入床から睡眠開始までの入眠潜時の測定
入床から睡眠開始までの入眠潜時をアクチグラフ(米国A.M.I社製、マイクロミニ型アクチグラフ)にて計測した。アクチグラフの使用性に慣れるため、被験者は測定期間中には常に非利き腕にアクチグラフを装着し、1分毎の活動量を連続記録させた。記録された活動量より、睡眠と覚醒を「Coleらの方式」に従い解析し、入眠開始時刻を推測した。この値から入床から睡眠開始までの入眠潜時を得て、20名の平均値±標準偏差(S.E.)を算出した。
(2)「寝つきのよさ」、「目覚めのよさ」及び「熟睡感のよさ」の睡眠感の評価
「寝つきのよさ」、「目覚めのよさ」及び「熟睡感のよさ」の各項目に対して、サンプルを7日間使用した後に官能評価にて、「良好になった」、「変わらなかった」、「悪化した」の3段階で回答させ、下記評価基準により評価した。
<評価基準>
◎:良好と回答したものが20名中16名以上
○:良好と回答したものが20名中11〜15名
△:良好と回答したものが20名中6〜10名
×:良好と回答したものが20名中5名以下
【0056】
【表5】

【0057】
以上の結果から、被験者にピペロナール配合の繊維及び皮革処理用ミスト剤を用いてから入床した場合、入眠潜時の短縮及び睡眠感の改善が認められた。
【0058】
本発明の組成物は、ベンゼン骨格とアルデヒド基とを有する香料成分、好ましくはピペロナールを含有する。代表的な作用として、過度に交感神経優位な状態の人に対しては、副交感神経を交感神経に対し相対的に優位化(即ち、交感神経抑制及び/又は副交感神経刺激)し、過度に副交感神経優位な状態な人に対しては、交感神経を副交感神経に対し相対的に優位化する。従って、香りに対する感受性や嗜好性に関する個人差に依存せずに、副交感神経の働きと交感神経の働きとのバランスを制御し、失調した自律神経を改善方向に調整する等の作用を発現することができ、良好な鎮静、睡眠改善、ストレス緩和等の効果を奏する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベンゼン骨格とアルデヒド基とを有する香料成分を0.001〜50質量%含有し、自律神経調整剤、睡眠改善剤又はストレス緩和剤用である身体塗布組成物。
【請求項2】
ベンゼン骨格とアルデヒド基とを有する香料成分を0.0005〜10質量%含有し、自律神経調整剤、睡眠改善剤又はストレス緩和剤用である経口組成物。
【請求項3】
ベンゼン骨格とアルデヒド基とを有する香料成分を0.001〜20質量%含有し、自律神経調整剤、睡眠改善剤又はストレス緩和剤用であるリーブ・オフ組成物。
【請求項4】
ベンゼン骨格とアルデヒド基とを有する香料成分を0.001〜50質量%含有し、自律神経調整剤、睡眠改善剤又はストレス緩和剤用である浴用組成物。
【請求項5】
ベンゼン骨格とアルデヒド基とを有する香料成分を0.001〜30質量%含有し、自律神経調整剤、睡眠改善剤又はストレス緩和剤用である繊維又は皮革処理用組成物。

【公開番号】特開2007−197334(P2007−197334A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−14790(P2006−14790)
【出願日】平成18年1月24日(2006.1.24)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【出願人】(000169466)高砂香料工業株式会社 (194)
【Fターム(参考)】