説明

薄膜トランジスタ

【課題】高移動度の薄膜トランジスタ、その製造方法及びその製造に用いるスパッタリングターゲットを提供する。
【解決手段】元素In,Ga及びZnを下記領域1、2又は3の原子比の範囲で含む酸化物を活性層とし、電界効果移動度が25cm/Vs以上である薄膜トランジスタ。
領域1
0.58≦In/(In+Ga+Zn)≦0.68
0.15<Ga/(In+Ga+Zn)≦0.29
領域2
0.45≦In/(In+Ga+Zn)<0.58
0.09≦Ga/(In+Ga+Zn)<0.20
領域3
0.45≦In/(In+Ga+Zn)<0.58
0.20≦Ga/(In+Ga+Zn)≦0.27

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜トランジスタ、スパッタリングターゲット及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、8K4K(SHV)や4K2Kと呼ばれる超高精細のディスプレイ、240Hz(4倍速)や480Hz(8倍速)等の高周波数のディスプレイ、種々の方式の3Dディスプレイ等の次世代ディスプレイの開発が盛んである。一方、このような次世代の高性能な液晶ディスプレイや有機ディスプレイを実現するには、表示を制御する薄膜トランジスタ(TFT)の移動度が、0.5cm/Vs程度のアモルファスシリコンでは性能が不足する。そのためTFTの高性能化(高移動度化)が重要となる。
当初、次世代ディスプレイ用TFTの移動度は、2〜8cm/Vs程度が目標といわれていたが、最近では20cm/Vs以上、25cm/Vs以上、さらに30cm/Vs以上の移動度が期待されている(非特許文献1)。
【0003】
また、タブレットPCやスマートフォン等に使用される中小型のディスプレイにおいても高精細化やドライバー回路等の周辺回路を基板上への形成することが進んでいる。従来中小型のディスプレイでは、高い移動度が必要な場合、低温ポリシリコン(LTPS)が用いられていた。しかし、コストが高く、適用製品に限界があり、30cm/Vs前後の高い移動度のTFTを安価に製造できる技術が期待されていた(非特許文献1)。
【0004】
一方、細川等によって、酸化インジウムと酸化亜鉛を含むn型半導体材料が見出されて以来(特許文献1)、酸化インジウムと酸化亜鉛を含む種々の酸化物膜が半導体材料として注目されてきた。特に、酸化インジウム、酸化亜鉛及び酸化ガリウムからなる非晶質の酸化物膜は、10cm/Vs前後のTFTが作製できることから、高移動度のTFTを中小型のディスプレイから大面積のディスプレイまで安価に作製できる技術として注目されている。
【0005】
この酸化物膜の成膜方法としては、スパッタリング・PLD(パルスレーザーデポジション)・蒸着等の物理的な成膜やゾルゲル法等の化学的な成膜が検討されているが、比較的低温で大面積に均一に成膜できる方法としてスパッタリング法が中心に検討されている。
【0006】
従来、酸化インジウム、酸化亜鉛及び酸化ガリウムからなる酸化物半導体を用いたTFT作製の検討は、In、Ga、Znの組成比が原子比でIn:Ga:Zn=1:1:1又は2:2:1のものが中心に検討されていた。これらの組成では作製したTFTの移動度は通常10cm/Vs程度であり、次世代ディスプレイやLTPS代替に必要な30cm/Vs前後の高い移動度のTFTを工業的に製造するには到っていなかった。
【0007】
素子構成やTFTの製造条件等で高移動度のTFTを作る試みもなされていた。しかし、膜厚が薄い、W/Lが小さい、積層構造である、工業化が難しい絶縁膜を用いている等、大面積での作製が困難で再現性に乏しい製造法であったり、オフ電流が高い、S値が大きい等、他の課題が発生する場合があり、実用化に到っていなかった。
【0008】
一方、In、Ga、Znの組成比を変えて高性能化を図る検討が、コスパッタ法(特許文献2,3、非特許文献2)、又は各種組成の酸化物ターゲットを作製(特許文献4)してなされている。しかし,次世代ディスプレイやLTPS代替に必要な30cm/Vs前後の高い移動度を示す実用的なTFTを作製するには到っていなかった。
【0009】
その他にも酸化インジウム、酸化亜鉛及び酸化ガリウムからなるスパッタリングターゲットの検討が行なわれているが、30cm/Vs前後の高い移動度のTFTを作製するには到っていなかった(特許文献5,6)。
【0010】
酸化物焼結体からなるスパッタリングターゲットは、組成比毎に適切な性状や焼結条件が異なっている。従って、有望な材料や組成を見出してから、スパッタリングターゲットの適切な性状や焼結条件を検討することが通例であった。そのため、前述したように酸化インジウム、酸化亜鉛及び酸化ガリウムからなる酸化物半導体を用いたTFTの高性能化を図る検討においても、コスパッタを用いて高性能な組成比の探索が行なわれてきた(特許文献2,3,非特許文献2)。
しかし、前述したようにコスパッタで組成比を変えても30cm/Vs前後の高い移動度のTFTを作製するには到っていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−114928号公報
【特許文献2】特開2007−281409号公報
【特許文献3】特開2009−21536号公報
【特許文献4】国際公開第2009/075281号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2008/072486号パンフレット
【特許文献6】国際公開第2009/148154号パンフレット
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】International TFT Conference 2010、S6(p314−317)、Matsueda
【非特許文献2】Joonchul Moon,et.al,Jornal 0f the Korean Physical Society,vil.53,No.4,October 2008,pp.2029〜2032
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、高移動度の薄膜トランジスタ、その製造方法及びその製造に用いるスパッタリングターゲットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
一方、本発明者らは長年多大な労力を掛け、各組成比に対してスパッタリングターゲットの適切な性状や製造条件を検討し、さらにそのスパッタリングターゲットを用いてTFTの作製条件を検討し、高性能TFTの作製が可能なスパッタリングターゲットを目指して検討し続けた。そしてついに、30cm/Vs前後の高い移動度を示すTFTの作製が可能なスパッタリングターゲット及びTFTを開発するに到った。
【0015】
その結果、本発明のスパッタリングターゲットを用いてTFTを作製することで、工業的に適用が容易な方法で、30cm/Vs前後の高い移動度を示すTFTの作製が可能となった。
【0016】
尚、驚くべきことに本発明のスパッタリングターゲットに含まれる原子の組成比(原子比)はコスパッタ法によって見出された最適組成比(特許文献2)と異なっていた。これは、組成比検討で用いられるコスパッタ法で作製された酸化物膜と、工業的に一般的な平行平板型のスパッタリング法で作製された酸化物膜では構造や膜質が異なり、電気的性質も異なるためと推定される。
コスパッタ法では、基板に対して粒子が斜入射で成膜される点や、S−T間距離(基板とスパッタリングターゲット間の距離)が長い点等が平行平板型のスパッタ法とは異なり、基板に飛来するスパッタ粒子の成分やエネルギーが異なると考えられる。このことが、膜構造や膜質の違い、ひいてはTFT特性の違いに繋がっているものと推定される。
【0017】
このように、コスパッタ法では最適な組成を見出すことが困難であったため、従来は30cm/Vs前後の高い移動度を示すTFTの作製には到っていなかったと思われる。
本発明によれば、以下の薄膜トランジスタ等が提供される。
1.元素In,Ga及びZnを下記領域1、2又は3の原子比の範囲で含む酸化物を活性層とし、電界効果移動度が25cm/Vs以上である薄膜トランジスタ。
領域1
0.58≦In/(In+Ga+Zn)≦0.68
0.15<Ga/(In+Ga+Zn)≦0.29
領域2
0.45≦In/(In+Ga+Zn)<0.58
0.09≦Ga/(In+Ga+Zn)<0.20
領域3
0.45≦In/(In+Ga+Zn)<0.58
0.20≦Ga/(In+Ga+Zn)≦0.27
2.電界効果移動度が30cm/Vs以上である1に記載の薄膜トランジスタ。
3.元素In,Ga及びZnを下記領域1、2又は3の原子比の範囲で含む酸化物焼結体からなるスパッタリングターゲット。
領域1
0.58≦In/(In+Ga+Zn)≦0.68
0.15<Ga/(In+Ga+Zn)≦0.29
領域2
0.45≦In/(In+Ga+Zn)<0.58
0.09≦Ga/(In+Ga+Zn)<0.20
領域3
0.45≦In/(In+Ga+Zn)<0.58
0.20≦Ga/(In+Ga+Zn)≦0.27
4.前記酸化物焼結体が、比抵抗15mΩcm未満、相対密度97%超である3に記載のスパッタリングターゲット。
5.前記酸化物焼結体が、元素In,Ga及びZnを前記領域1の原子比の範囲で含み、(InGaO)ZnOで表されるホモロガス構造化合物と、Inで表されるビックスバイト構造化合物とを含む、3又は4に記載のスパッタリングターゲット。
6.前記酸化物焼結体が、元素In,Ga及びZnを前記領域2の原子比の範囲で含み、X線回折測定(Cukα線)により入射角(2θ)が、7.0°〜8.4°、30.6°〜32.0°、33.8°〜35.8°、53.5°〜56.5°及び56.5°〜59.5°の各位置に回折ピークが観測される酸化物を含む、3又は4に記載のスパッタリングターゲット。
7.前記酸化物焼結体が、元素In,Ga及びZnを前記領域3の原子比の範囲で含み、(InGaO)ZnOで表されるホモロガス構造化合物を含む、3又は4に記載のスパッタリングターゲット。
8.400℃〜800℃の間を2.5℃/分以下で昇温する工程、
800℃〜焼結温度の間を1.0℃/分以下で昇温する工程、及び
焼結温度1300〜1450℃、焼結時間6〜48時間で焼結する工程を含む3〜7のいずれかに記載のスパッタリングターゲットの製造方法。
9.3〜7のいずれかに記載のスパッタリングターゲットを用いて酸化物薄膜を作製する工程を含む1又は2に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高移動度の薄膜トランジスタ、その製造方法及びその製造に用いるスパッタリングターゲットが提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】酸化物AのピークA〜Kを示すX線回析チャートである。
【図2】酸化物AのX線回折チャート、InGaO(ZnO)(JCPDS:40−0252)及びIn(ZnO)(JCPDS:20−1442)の結晶構造を示す図である。
【図3】本実施例14で作製したTFTの素子構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の薄膜トランジスタ(TFT)は、元素In,Ga及びZnを下記領域1、2又は3の範囲(原子比)で含む酸化物を活性層とする。
領域1
0.58≦In/(In+Ga+Zn)≦0.68
0.15<Ga/(In+Ga+Zn)≦0.29
領域2
0.45≦In/(In+Ga+Zn)<0.58
0.09≦Ga/(In+Ga+Zn)<0.20
領域3
0.45≦In/(In+Ga+Zn)<0.58
0.20≦Ga/(In+Ga+Zn)≦0.27
【0021】
上記の原子比は後述するスパッタリングターゲットの原子比と対応する。
また、本発明の薄膜トランジスタは電界効果移動度が25cm/Vs以上である。
【0022】
活性層である酸化物に含まれる各元素の原子比は、誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP−AES)により含有元素を定量分析して求める。
ICP−AES分析を具体的に説明する。溶液試料をネブライザーで霧状にして、アルゴンプラズマ(約6000〜8000℃)に導入すると、試料中の元素は熱エネルギーを吸収して励起され、軌道電子が基底状態から高いエネルギー準位の軌道に移る。この軌道電子は10−7〜10−8秒程度で、より低いエネルギー準位の軌道に移る。この際にエネルギーの差を光として放射し発光する。この光は元素固有の波長(スペクトル線)を示すため、スペクトル線の有無により元素の存在を確認できる(定性分析)。
また、それぞれのスペクトル線の大きさ(発光強度)は試料中の元素数に比例するため、既知濃度の標準液と比較することで試料濃度を求めることができる(定量分析)。
定性分析で含有されている元素を特定後、定量分析で含有量を求め、その結果から各元素の原子比を求める。
【0023】
本発明のTFTの電界効果移動度は、25cm/Vs以上が好ましく、28cm/Vs以上が好ましく、30cm/Vs以上が特に好ましい。
電界効果移動度が25cm/Vs以上であると、パネル上にドライバー回路等の周辺回路を小さい面積の中に構成することができる。30cm/Vs以上であると、さらにTFTを小さくできるため、スマートフォンやタブレット端末等のモバイル用機器のパネルへの応用も期待できる。
【0024】
トランジスタ特性の評価項目としては、電界効果移動度の他、例えば閾値電圧(Vth)、On/Off比、S値等が挙げられる。
電界効果移動度は、線形領域や飽和領域の特性から求めることができる。例えば線形領域においては、トランスファー特性の結果からId−Vgのグラフを作成し、Vg−トランスコンダクタンス(Gm)を算出することにより電界効果移動度を導く方法が挙げられる。尚、Gmは∂(Id)/∂(Vg)によって表される。本発明において特に断らない限り、電界効果移動度はこの方法で評価する。上記Idはソース・ドレイン電極間の電流、Vgはソース・ドレイン電極間に電圧Vdを印加したときのゲート電圧である。
【0025】
閾値電圧は、例えば線形領域ではId=10−9AでのVgの値をとる方法が挙げられる。またOn/Off比は例えば、Vg=−15VのIdの値をOff電流値とし、Vg=20VのIdの値をOn電流値としてOn/Off比を決める方法が挙げられる。
S値についてはlogId−Vgのグラフを作成しId=10−10A〜10−9Aの傾きから∂(Vg)/∂(logId)によって決める方法が挙げられる。
本発明のTFTのS値は、0.6(V/decade)以下が好ましく、0.5(V/decade)以下がより好ましく、S値0.4(V/decade)以下が特に好ましい。S値が0.6(V/decade)以下だと駆動時の消費電力を低減することが期待できる。
【0026】
TFTは通常、ソース・ドレイン電極間に5〜20V程度の電圧Vdを印加したとき、ゲート電圧Vgを0Vと5〜20Vの間でスイッチすることで、ソース・ドレイン電極間の電流Idを制御(オンオフ)する。
TFTのトランスファー特性を測定する際の条件は、通常次の通りとする。
Vg:−15V〜20V
Vd:0.1V、1V、10V
【0027】
本発明のTFTの活性層は、以下に説明するスパッタリングターゲットを用いて製造することができる。
スパッタリングターゲットは、元素In,Ga及びZnを下記領域1、2又は3の原子比の範囲で含む酸化物焼結体からなる。
領域1
0.58≦In/(In+Ga+Zn)≦0.68
0.15<Ga/(In+Ga+Zn)≦0.29
領域2
0.45≦In/(In+Ga+Zn)<0.58
0.09≦Ga/(In+Ga+Zn)<0.20
領域3
0.45≦In/(In+Ga+Zn)<0.58
0.20≦Ga/(In+Ga+Zn)≦0.27
【0028】
領域1の範囲内であると、移動度が高くS値が特に小さいTFTが得られるため好ましい。また、Gaが比較的多いため短波長の透過率が高く光電流の小さいTFTが期待できる。さらに、蓚酸系エッチング液に対してアモルファス透明電極(インジウム亜鉛酸化物やITO)とエッチング速度が近く、工程設計がしやすい。
【0029】
領域1は、以下の範囲であると特に好ましい。
0.58≦In/(In+Ga+Zn)<0.65
0.15<Ga/(In+Ga+Zn)≦0.29
0.14≦Zn/(In+Ga+Zn)
In/(In+Ga+Zn)を0.65未満とすると、S値を低減させやすい。また、ノーマリーオフとしやすい。Ga/(In+Ga+Zn)を0.15超とすると、耐湿性の向上が期待できる。Zn/(In+Ga+Zn)が0.14以上であると、焼結体の比抵抗を下げやすい。また、TFTを作製する際にエッチングが容易で残渣が残りにくい。
【0030】
領域2の範囲内であると、移動度が高くS値が小さいTFTが得られるため好ましい。
【0031】
領域2は、以下の範囲であると特に好ましい。
0.45≦In/(In+Ga+Zn)<0.58
0.10≦Ga/(In+Ga+Zn)<0.20
In/(In+Ga+Zn)が0.45以上だと高い移動度が期待できる。
Ga/(In+Ga+Zn)が0.10より小さいとノーマリーオフ動作が容易になる。
【0032】
領域3の範囲内であると、領域1や領域2に比べて電界効果移動度はやや低くなるが、S値が小さいTFTが得られる。
【0033】
領域3は、以下の範囲であるとより好ましい。
0.45≦In/(In+Ga+Zn)<0.58
0.20<Ga/(In+Ga+Zn)<0.25
Ga/(In+Ga+Zn)が0.25より小さいと移動度が高くなる。0.20より大きいと短波長の光の透過率が高くなり光電流の低減が期待できる。
In/(In+Ga+Zn)が0.45以上だと高い移動度が期待できる。
【0034】
スパッタリングターゲットを構成する酸化物焼結体は、酸素欠損を有することが好ましい。酸素欠損量は、組成比から計算した酸素原子の含有量の1×10−7〜3×10−1倍の範囲であることが好ましい。上記範囲内であると、比抵抗を下げやすい。
ターゲット(焼結体)の酸素欠損量が、組成比から計算した酸素原子の化学量論比の1×10−7倍以上、1×10−3倍未満であるものがより好ましい。5×10−4倍未満であるものが特に好ましい。1×10−3倍未満であると、半導体膜を成膜する際に活性化された酸素が十分あるため閾値電圧が負になりにくいことが期待できる。
ターゲット(焼結体)の酸素欠損量を上記範囲とするには、焼結後の還元処理を行なわないことが好ましい。また、焼結は窒素雰囲気で行なわず、大気雰囲気、あるいは酸素雰囲気で行なうことが好ましい。
【0035】
酸素欠損量は、焼結条件や、焼結時、昇温時、降温時の雰囲気等で調整することができる。また、焼結後に還元処理をすること等によって調整することもできる。尚、Inリッチ層を備えていると焼結後に還元処理を行わなくとも酸素欠損量を前記範囲内に調整することが容易である。
【0036】
酸素欠損量とは、1モルの酸化物結晶中に含まれる酸素イオンの数を化学量論量の酸素イオンの数から差し引いた値をモル単位で示した値である。酸化物結晶中に含まれる酸素イオンの数は、例えば、酸化物結晶を炭素粉末中で加熱させて生成する二酸化炭素の量を赤外吸収スペクトルで測定することで算出することができる。また、化学量論量の酸素イオンの数は酸化物結晶の質量から算出することができる。
【0037】
上記酸化物焼結体は、90μm×90μmの範囲内に直径3μm以上のインジウムが欠損する部分(ZnGa化合物等)の個数が10個以下であることが好ましく、5個以下がより好ましく、1個以下が特に好ましい。インジウムが欠損する部分は抵抗が高くなりやすいため、その個数が少ないと異常放電の発生の低減が期待できる。上記はEPMA(電子線マイクロアナライザー)によって測定する。
EPMAは下記条件で測定することができる。
・装置:日本電子株式会社JXA−8200
・測定条件:加速電圧:15kV、照射電流:50nA、照射時間(1点当り):50mS
【0038】
上記酸化物焼結体は、窒素含有量が好ましくは5ppm(原子)以下である。酸化物焼結体の窒素含有量が5ppm超の場合、得られるターゲットのスパッタリング時の異常放電、及びターゲット表面への吸着ガス量を十分に抑制できないおそれがあり、さらにターゲット中の窒素とインジウムがスパッタリング時に反応して黒色窒化インジウム(InN)を生成して、半導体膜中に混入して歩留まりが低下するおそれがある。
窒素含有量を上記とするには、通常焼結時の窒素分圧を1気圧未満、好ましくは窒素分圧0.8気圧以下、より好ましくは窒素分圧0.5気圧以下とし、特に好ましくは酸素雰囲気下で焼結する。
【0039】
上記酸化物焼結体は、比抵抗が15mΩcm未満、相対密度が97%超であると好ましい。
比抵抗は10mΩcm以下がより好ましく、5mΩcm以下が特に好ましい。また、通常は0.1mΩcm以上である。比抵抗が15mΩcm未満であると、ACスパッタリングした際でもターゲットが割れにくく、10mΩcm以下であるとACスパッタリングやDCスパッタリングした際でもターゲットが割れにくい。
また、比抵抗が15mΩcm以上であると、スパッタリングでプラズマ放電させる際に高い電圧を掛ける必要があり、スパッタリング成膜時のフラグメント成分が変化し、膜質が変化するおそれがある。比抵抗は本実施例に記載の方法で測定できる。
【0040】
相対密度は98%以上がより好ましく、99%以上が特に好ましい。相対密度が97%超であると、スパッタレートが早くなる、強度が高くなり割れにくくなる等の効果がある。相対密度は本実施例に記載の方法で測定できる。
【0041】
本発明のスパッタリングターゲットは、本発明の効果を損ねない範囲において、上述したIn、Ga、Zn以外の他の金属元素、例えば、Sn、Ge、Si、Ti、Zr、Hf等を含有していてもよい。本発明においては、ターゲットに含有される金属元素は、実質的にIn,Ga及びZnのみであってもよい。尚、「実質的」とは、原料や製造工程等により不可避的に含まれる不純物等以外の元素を含まないことを意味する。
【0042】
スパッタリングターゲットを構成する酸化物焼結体が、元素In,Ga,Znを領域1の範囲で含有する場合、好ましくは(InGaO)ZnOで表されるホモロガス構造化合物と、Inで表されるビックスバイト構造化合物とを含む。
【0043】
(InGaO)ZnOで表されるホモロガス構造とInで表されるビックスバイト構造を含むことは、X線回折測定(XRD)で確認できる。XRDは、例えば本実施例に記載の装置・条件により行うことができる。
【0044】
InGaO(ZnO)(mは1〜20の整数)で表される結晶構造のm=1の場合がInGaO(ZnO)である。InGaO(ZnO)で表される結晶構造は「六方晶層状化合物」又は「ホモロガス相の結晶構造」と呼ばれ、異なる物質の結晶層を何層か重ね合わせた長周期を有する「自然超格子」構造からなる結晶である。
結晶周期又は各薄膜層の厚さがナノメーター程度の場合、これら各層の化学組成や層の厚さの組み合わせによって、単一の物質あるいは各層を均一に混ぜ合わせた混晶の性質とは異なる固有の特性が得られる。
【0045】
ホモロガス相の結晶構造は、例えばターゲットを粉砕したパウダー又はターゲットから直接測定したX線回折パターンが、組成比から想定されるホモロガス相の結晶構造X線回折パターンと一致することから確認できる。具体的には、JCPDS(Joint Committee of Powder Diffraction Standards)カードから得られるホモロガス相の結晶構造X線回折パターンと一致することから確認することができる。InGaO(ZnO)の場合は、JCPDSカードNo.38−1104である。
【0046】
Inで表されるビックスバイト構造(又は希土類酸化物C型の結晶構造)とは、(T,Ia3)の空間群を持つ立方晶系で、Mn(I)型酸化物結晶構造とも言う。X線回折でJCPDSカードNo.6−0416のパターンを示す。Sc、Y、Tl、Pu、Am、Cm、In、ITO(Inに10wt%程度以下のSnをドープしたもの)がこの結晶構造を示す(日本学術振興会透明酸化物光電子材料第166委員会「透明導電膜の技術」、オーム社)。
希土類酸化物C型の結晶構造を示すことは、X線回折でJCPDSカードNo.6−0416のパターンを示すことから確認できる。
【0047】
希土類酸化物C型の結晶構造は、MX(M:陽イオン、X:陰イオン)で示される化合物の結晶構造の1つである蛍石型結晶構造から、化学量論比がMのため陰イオンの4つに1つが抜けている構造となる。陽イオンに対して陰イオン(通常酸化物の場合は、酸素)が6配位し、残りの2つの陰イオンサイトは空となっている。空となっている陰イオンサイトは準イオンサイトとも呼ばれる(「透明導電膜の技術」)。
陽イオンに酸素(陰イオン)が6配位した希土類酸化物C型の結晶構造は、酸素8面体稜共有構造を有している。酸素8面体稜共有構造を有していると、陽イオンであるp金属のns軌道が互いに重なり合って電子の伝導路を形成し、有効質量が小さくなり高い電子の移動度を示す。
【0048】
希土類酸化物C型の結晶構造は、X線回折でJCPDSカードNo.6−0416のパターンを示していれば、化学量論比がMからずれていてもよい。即ち、M3−dとなっていてもよい。
【0049】
スパッタリングターゲットを構成する酸化物焼結体が、元素In,Ga,Znを領域2の範囲で含有する場合、好ましくはX線回折測定(Cukα線)により入射角(2θ)が下記A〜Eの各位置に回折ピークが観測される酸化物(酸化物A)を含む(条件1)。
A.2θ=7.0°〜8.4°(好ましくは7.2°〜8.2°)
B.2θ=30.6°〜32.0°(好ましくは30.8°〜31.8°)
C.2θ=33.8°〜35.8°(好ましくは34.3°〜35.3°)
D.2θ=53.5°〜56.5°(好ましくは54.1°〜56.1°)
E.2θ=56.5°〜59.5°(好ましくは57.0°〜59.0°)
【0050】
酸化物Aは下記条件2を満たすとより好ましい。
条件2:2θが30.6°〜32.0°(上記領域B)及び33.8°〜35.8°(上記領域C)の位置に観測される回折ピークの一方がメインピークであり、他方がサブピークである。メインピークとは、2θが5〜80°の範囲で最も強度の強いピーク(ピーク高さの高いピーク)であり、サブピークとは、2番目に強度の強いピークである。
【0051】
酸化物Aは下記条件3を満たすとより好ましい。
条件3:X線回折測定(Cukα線)により得られるチャートにおいて、下記F〜Kの領域に回折ピークが観測される。
F.2θ=14.8°〜16.2°(好ましくは15.0°〜16.0°)
G.2θ=22.3°〜24.3°(好ましくは22.8°〜23.8°)
H.2θ=32.2°〜34.2°(好ましくは32.7°〜33.7°)
I.2θ=43.1°〜46.1°(好ましくは43.6°〜45.6°)
J.2θ=46.2°〜49.2°(好ましくは46.7°〜48.7°)
K.2θ=62.7°〜66.7°(好ましくは63.7°〜65.7°)
【0052】
上記酸化物のX線回折チャートの例を図1に示す。図中、A〜Kは上記の各ピーク位置を表わす。尚、横軸は2θであり、縦軸は強度である。XRDは、例えば本実施例に記載の装置・条件により行うことができる。
【0053】
上記条件1及び2を満たす酸化物結晶は、JCPDSカードにはなく、今まで確認されていない新規な結晶である。
図2に、酸化物AのX線回折チャート、InGaO(ZnO)(JCPDS:40−0252)で示される結晶構造及びIn(ZnO)(JCPDS:20−1442)で示される結晶構造を示す。
酸化物Aの結晶のX線回折チャートは、InGaO(ZnO)(JCPDS:40−0252)で示される結晶構造、及びIn(ZnO)(JCPDS:20−1442)で示される結晶構造に類似している。しかしながら、図2に示す通り、酸化物AはInGaO(ZnO)特有のピーク(上記領域Aのピーク)、及びIn(ZnO)特有のピーク(上記領域D及びEのピーク)を有する。
従って、酸化物AはInGaO(ZnO)ともIn(ZnO)とも異なる新たな周期性を有していると判断できる。即ち、酸化物Aは、InGaO(ZnO)及びIn(ZnO)とは異なる。
【0054】
上記領域Bのピークについて、このピークはIn(ZnO)とInGaO(ZnO)のメインピークの間、即ち、31°付近と32°付近の間にある。従って、InGaO(ZnO)のメインピークよりも低角側にシフトしており(格子間距離が広がっていると思われる)、In(ZnO)のメインピークよりも高角側にシフトしている(格子間距離が狭まっていると思われる)。
【0055】
In(ZnO)で表される結晶構造は、InO1.5層とInZnO2.5層とZnO層が1:1:(m−1)の比率で周期的に繰り返された構造を有すると考えられている。
また、InGaO(ZnO)で表される結晶構造は、InO1.5層とGaZnO2.5層とZnO層が1:1:(m−1)の比率で周期的に繰り返されると考えられている。
【0056】
このように、In(ZnO)で表される結晶構造やInGaO(ZnO)のX線回折による測定結果は、ピーク位置が異なる(格子間距離は異なる)がパターンは似たものとなる。
【0057】
上記酸化物Aの結晶構造は、上述したIn(ZnO)やInGaO(ZnO)と同様に、「六方晶層状化合物」又は「ホモロガス相の結晶構造」からなる結晶であると推定される。
【0058】
また、酸化物Aの結晶構造のX線回折パターンは、特にIn(ZnO)のものと類似している。ただし、In(ZnO)の結晶構造を示す酸化物は、1550℃を越える高温で焼成しないと合成が難しいことが知られている。一方、酸化物Aの結晶構造は1550℃以下の低温で焼結可能であり、生成温度からも新規の結晶構造であると考えられる。
【0059】
酸化物Aにおいては、X線回折測定により上記条件1、又は条件1及び2の特有の回折パターンを示していれば、酸化物の酸素が過剰であっても不足(酸素欠損)していても構わない(酸素元素の原子比が化学量論比からずれていてもよい)。
酸化物の酸素が過剰であると、ターゲットとしたときに抵抗が高くなりすぎるおそれがあるため、酸素欠損を有していることが好ましい。
【0060】
スパッタリングターゲットを構成する酸化物焼結体が、元素In,Ga,Znを領域3の範囲で含む場合、酸化物焼結体は好ましくは(InGaO)ZnOで表されるホモロガス構造化合物を含む。
【0061】
上記のスパッタリングターゲットによれば、工業的に広範囲で用いられている平行平板型のスパッタリングにより、高性能なTFT(高移動度、低S値)を製造することができる。
【0062】
次に、本発明のスパッタリングターゲットの製造方法について説明する。
(1)配合工程
配合工程は、スパッタリングターゲットの原料である金属酸化物を混合する工程である。
原料としては、インジウム化合物の粉末、ガリウム化合物の粉末、亜鉛化合物の粉末等の粉末を用いる。ターゲットの原料となる各金属化合物の比表面積(BET比表面積)は、JIS Z 8830に記載の方法によって測定することができる。インジウムの化合物としては、例えば、酸化インジウム、水酸化インジウム等が挙げられる。ガリウムの化合物としては、例えば、酸化ガリウム、水酸化ガリウム等が挙げられる。亜鉛の化合物としては、例えば、酸化亜鉛、水酸化亜鉛等が挙げられる。各々の化合物として、焼結のし易さ、副生成物の残存のし難さから、酸化物が好ましい。
【0063】
また、原料の純度は、通常2N(99質量%)以上、好ましくは3N(99.9質量%)以上、特に好ましくは4N(99.99質量%)以上である。純度が2Nより低いと耐久性が低下する、液晶ディスプレイに用いた際に液晶側に不純物が入り、焼き付けが起こるおそれがある。
原料の一部として金属亜鉛(亜鉛末)を用いることが好ましい。原料の一部に亜鉛末を用いるとホワイトスポットの生成を低減することができる。
金属酸化物等のターゲットの製造に用いる原料を混合し、通常の混合粉砕機、例えば、湿式ボールミルやビーズミル又は超音波装置を用いて、均一に混合・粉砕することが好ましい。
湿式ボールミルを用いる場合、混合粉砕の時間は、通常0.5〜60時間、好ましくは6〜48時間、より好ましくは8〜36時間である。0.5時間未満だと原料の分散不良でホワイトスポットや黒点等の外観不良が生じるおそれがある。60時間超だと、混合時に反応して想定外の結晶型が生じるおそれがある。
【0064】
酸化インジウム、酸化ガリウム、酸化亜鉛の比表面積(BET比表面積)は、通常各々3〜18m/g、3〜18m/g、3〜18m/gであり、好ましくは各々7〜16m/g、7〜16m/g、3〜10m/gであり、より好ましくは各々7〜15m/g、7〜15m/g、4〜10m/gであり、特に好ましくは各々11〜15m/g、11〜15m/g、4〜5m/gである。
比表面積が小さすぎると焼結体中に各々の元素の凝集体が成長する、原料粉末の結晶型が残存する、想定外の結晶型が生成し性状が変化する等のおそれがある。比表面積が大きすぎると想定外の結晶型が生成し性状が変化する、分散不良を起こし外観不良や特性のムラが生じる等のおそれがある。
【0065】
(2)仮焼工程
仮焼工程は、スパッタリングターゲットの原料である化合物の混合物を得た後、この混合物を仮焼する、必要に応じて設けられる工程である。
仮焼を行うと、密度を上げることが容易になり好ましいが、コストアップになるおそれがある。そのため、仮焼を行わずに密度を上げられることがより好ましい。
仮焼工程においては、500〜1200℃で、1〜100時間の条件で金属酸化物の混合物を熱処理することが好ましい。500℃未満又は1時間未満の熱処理条件では、インジウム化合物や亜鉛化合物、錫化合物の熱分解が不十分となる場合があるためである。一方、熱処理条件が、1200℃を超えた場合又は100時間を超えた場合には、粒子の粗大化が起こる場合があるためである。
従って、特に好ましいのは、800〜1200℃の温度範囲で、2〜50時間の条件で、熱処理(仮焼)することである。
尚、ここで得られた仮焼物は、下記の成形工程及び焼成工程の前に粉砕するのが好ましい。
【0066】
(3)成形工程
成形工程は、金属酸化物の混合物(上記仮焼工程を設けた場合には仮焼物)を加圧成形して成形体とする工程である。この工程により、ターゲットとして好適な形状に成形する。仮焼工程を設けた場合には得られた仮焼物の微粉末を造粒した後、加圧成形により所望の形状に成形することができる。
本工程で用いることができる成形方法としては、例えば、金型成形、鋳込み成形、射出成形等も挙げられるが、焼結密度の高く、比抵抗が小さく、均質な焼結体(ターゲット)を得るためには、冷間静水圧(CIP)、熱間静水圧(HIP)等で成形するのが好ましい。単なるプレス成形(一軸プレス)であると圧力にムラ生じて、想定外の結晶型が生成してしまうおそれがある。
尚、成形処理に際しては、ポリビニルアルコールやメチルセルロース、ポリワックス、オレイン酸等の成形助剤を用いてもよい。
【0067】
成形体の厚みは通常6mm以上、好ましくは8mm以上、特に好ましくは10mm以上である。6mm未満だと焼結時に収縮して薄くなりすぎるため熱伝導率のムラが生じ想定外の結晶型が生成する、結晶粒径が大きくなりすぎるおそれがある。
【0068】
(4)焼結工程
焼結工程は、上記成形工程で得られた成形体を焼成する必須の工程である。
窒素含有量、及び酸素欠損量を制御するため、酸素含有雰囲気、酸素ガス雰囲気又は酸素ガス加圧下で行うことが好ましい。
【0069】
焼結時の昇温速度は、通常4℃/分以下、好ましくは3℃/分以下である。4℃/分以下であるとクラックが発生しにくい。
さらに、昇温速度は、常温〜400℃の間を2.5℃/分以下、400℃〜800℃の間を2.5℃/分以下、800℃〜焼結温度の間を1.0℃/分以下であることが好ましい。
常温〜400℃の間の昇温速度は、1.0℃/分以下であることがより好ましい。常温〜400℃の間の昇温速度は、1.0℃/分以下であると、焼結体中のボイドを減らすことや相対密度を上げることが期待できる。
800℃〜焼結温度の間の昇温速度は、0.9℃/分以下であることがより好ましい。800℃〜焼結温度の間の昇温速度は、0.9℃/分以下であると、本発明の結晶型を生じさせやすい。
【0070】
焼結は、通常1100〜1600℃で1〜100時間行う。1300〜1450℃で、6〜48時間で行うと好ましい。
【0071】
スパッタリングターゲットが領域2の組成であるとき、以下の焼結方法によると、酸化物Aが生成しやすい。
400℃〜1000℃の間を2.5℃/分以下で昇温し、1350〜1400℃で20〜48時間焼結する、
400℃〜1000℃の間を2.5℃/分以下で昇温し、1400〜1490℃で6〜20時間焼結する、又は
400℃〜1000℃の間を2.5℃/分以下で昇温し、1490〜1650℃で2〜6時間焼結する。
また、800〜焼結温度の間を1.0℃/分以下で昇温し、焼結温度は1350〜1500℃、焼結時間は6〜24時間とすることが好ましい。
【0072】
焼結時の降温速度は、通常4℃/分以下、好ましくは2℃/分以下、より好ましくは1℃/分以下、さらに好ましくは0.8℃/分以下、特に好ましくは0.5℃/分以下である。4℃/分以下であると本発明の結晶型が得られやすい。また、降温時にクラックが発生しにくい。
また、昇温の途中で一度昇温を止め保持温度で保持し、2段階以上で焼結を行ってもよい。
【0073】
(5)還元工程
還元工程は、上記焼結工程で得られた焼結体のバルク抵抗をターゲット全体として低減するために還元処理を行う、必要に応じて設けられる工程である。
本工程で適用することができる還元方法としては、例えば、還元性ガスによる方法や真空焼成又は不活性ガスによる還元等が挙げられる。
還元性ガスによる還元処理の場合、水素、メタン、一酸化炭素や、これらのガスと酸素との混合ガス等を用いることができる。
不活性ガス中での焼成による還元処理の場合、窒素、アルゴンや、これらのガスと酸素との混合ガス等を用いることができる。
ただし、ターゲット(焼結体)の酸素欠損量を所定量以下としたい場合は、焼結後の還元処理を行なわないことが好ましい。
【0074】
(6)加工工程
加工工程は、上記のようにして焼結して得られた焼結体を、さらにスパッタリング装置への装着に適した形状に切削加工し、またバッキングプレート等の装着用治具を取り付けるための、必要に応じて設けられる工程である。
研削前の焼結体の厚みは5.5mm以上が好ましく、6mm以上がより好ましく、8mm以上が特に好ましい。研削は通常片面0.2mm以上、好ましくは0.5mm以上、さらに好ましくは2mm以上である。厚みの厚い焼結体を作製し、十分研削することで、均質なターゲットが作製できるというメリットがある。
【0075】
酸化物焼結体をスパッタリングターゲット素材とするには、該焼結体を例えば、平面研削盤で研削して表面粗さ(Ra)が5μm以下の素材とする。ここで、さらにスパッタリングターゲットのスパッタ面に鏡面加工を施して、平均表面粗さ(Ra)が1000オングストローム以下としてもよい。この鏡面加工(研磨)は機械的な研磨、化学研磨、メカノケミカル研磨(機械的な研磨と化学研磨の併用)等の、すでに知られている研磨技術を用いることができる。例えば、固定砥粒ポリッシャー(ポリッシュ液:水)で#2000以上にポリッシングしたり、又は遊離砥粒ラップ(研磨材:SiCペースト等)にてラッピング後、研磨材をダイヤモンドペーストに換えてラッピングすることによって得ることができる。このような研磨方法には特に制限はない。
【0076】
得られたスパッタリングターゲット素材をバッキングプレートへボンディングする。ターゲットの厚みは通常2〜20mm、好ましくは3〜12mm、特に好ましくは4〜10mmである。また、複数のターゲットを1つのバッキングプレートに取り付け、実質1つのターゲットとしてもよい。また、表面は200〜10,000番のダイヤモンド砥石により仕上げを行うことが好ましく、400〜5,000番のダイヤモンド砥石により仕上げを行うことが特に好ましい。200番より小さい、あるいは10,000番より大きいダイヤモンド砥石を使用するとターゲットが割れやすくなるおそれがある。
ターゲットの表面粗さRa≦0.5μmであり、方向性のない研削面を備えていることが好ましい。Raが0.5μmより大きかったり、研磨面に方向性があると、異常放電が起きたり、パーティクルが発生するおそれがある。
【0077】
次に、清浄処理にはエアーブローあるいは流水洗浄等を使用できる。エアーブローで異物を除去する際には、ノズルの向い側から集塵機で吸気を行なうとより有効に除去できる。尚、以上のエアーブローや流水洗浄では限界があるので、さらに超音波洗浄等を行なうこともできる。この超音波洗浄は周波数25〜300KHzの間で多重発振させて行なう方法が有効である。例えば周波数25〜300KHzの間で、25KHz刻みに12種類の周波数を多重発振させて超音波洗浄を行なうのがよい。
【0078】
次に、本発明のTFTの各層について説明する。
基板の材料については特に制限はなく、本技術分野で公知のものを使用できる。例えば、ケイ酸アルカリ系ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等のガラス基板、シリコン基板、アクリル、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート(PEN)等の樹脂基板、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド等の高分子フィルム基材等が使用できる。
【0079】
半導体層(チャンネル層又は活性層ともいう)は非晶質膜であることが好ましい。非晶質膜であることにより、絶縁膜や保護層との密着性が改善でき、大面積でも均一なトランジスタ特性が容易に得られることとなる。ここで、半導体層が非晶質膜であるか否かは、X線結晶構造解析により確認できる。明確なピークが観測されない場合が非晶質である。
【0080】
膜厚は、通常5〜200nm、好ましくは20〜150nm、より好ましくは30〜100nmである。5nm以上であれば特性の再現性が期待できる。200nm以下であれば、大型ディスプレイの製造時に経済的に採用可能なタクトタイム(1枚毎に1工程が使用する時間)で製造できる。高い移動度を得るためには100nm以下であることが特に好ましい。また大型液晶ディスプレイの製造時のように2mを超える大型基板に作製する際は、面内の均一性を確保するために30nm超であることが特に好ましい。
【0081】
チャンネル長(L)は、1〜50μmが好ましく、3〜40μmがさらに好ましく、5〜25μmが特に好ましい。50μm超であると、トランジスタのサイズが大きくなりすぎ集積度が下がるおそれがある。1μm未満であるとフォトリソグラフィに高い精度が必要となり、大面積ディスプレイ等での採用が難しくなるおそれがある。
チャンネル幅(W)は、1〜500μmが好ましく、3〜100μmがさらに好ましく、5〜50μmが特に好ましい。500μm超であると、トランジスタが大きくなりすぎ集積度が下がるおそれがある。1μm未満であるとフォトリソグラフィに高い精度が必要となり、大面積ディスプレイ等での採用が難しくなるおそれがある。
チャンネル幅(W)とチャンネル長(L)の比であるW/Lは、通常0.1〜10、好ましくは0.5〜5である。前記範囲内であるとパネルの設計が容易である。
【0082】
本発明のTFTは、チャンネル層の保護層を有していてもよい。
チャンネル層の保護層を形成する材料は特に制限はない。本発明の効果を失わない範囲で一般に用いられているものを任意に選択できる。例えば、SiO,SiN,Al,Ta,TiO,MgO,ZrO,CeO,KO,LiO,NaO,RbO,Sc,Y,Hf,CaHfO,PbTi,BaTa,SrTiO又はAlN等の酸化物を用いることができる。
これらの中でも、SiO,SiN,Al,Y,Hf又はCaHfOを用いるのが好ましく、より好ましくはSiO,SiN,Y,Hf又はCaHfOであり、特に好ましくはSiO,Y,Hf又はCaHfOである。これらの酸化物の酸素数は、必ずしも化学量論比と一致していなくともよい(例えば、SiOでもSiOでもよい)。また、SiNは水素元素を含んでいてもよい。
このような保護膜は、異なる2層以上の絶縁膜を積層した構造でもよい。
【0083】
ゲート絶縁膜は、通常比誘電率が2〜10の誘電体材料からなる。ゲート絶縁膜の比誘電率が2以上であると、移動度の高いTFTを作製することができる。また、10以下であるとヒステリシスの小さなTFTが期待できる。ゲート絶縁膜の比誘電率は、2.5〜10の範囲内であることが好ましく、3〜6の範囲内であることがより好ましい。ゲート絶縁膜の比誘電率は、誘電率測定装置によって測定することができる。
比誘電率(relative permittivity、dielectric constant)とは媒質の誘電率と真空の誘電率の比ε/ε=εrのことである。比誘電率は無次元量であり、用いる単位系によらず、一定の値をとる。
【0084】
比誘電率が2〜9の誘電体材料としては、SiO、SiN、SiON、Al等が工業的な実績も高く、大面積に適用しやすく好ましい。特に、SiO、SiNがディスプレイへの適用が容易で好ましい。尚、上記誘電体材料である酸化物の酸素数は、必ずしも化学量論比と一致していなくともよい(例えば、SiOでもSiOでもよい)。また、SiNは水素元素を含んでいてもよい。
尚、本発明の電界効果型トランジスタのゲート絶縁膜は、異なる2層以上の絶縁膜を積層した構造でもよい。
また、ゲート絶縁膜は、結晶質、多結晶質、非晶質のいずれであってもよいが、工業的に製造しやすい多結晶質か、非晶質であるのが好ましい。
【0085】
比誘電率が2〜9の誘電体材料からなるゲート絶縁膜の形成は、例えば、シリコン基板を用いる場合には、シリコン基板を熱酸化し、シリコン基板の表面を、SiOxからなる熱酸化膜(層)とすることによって行うことができる。また、シリコン基板以外の基板を用いる場合には、例えば、プラズマ化学気相成長装置(PECVD)にて、SiN及び/又はSiOを成膜することによってゲート絶縁膜を形成することができる。
ゲート絶縁膜としては、SiOxやSiNx、及びその積層膜や混合膜が大面積での工業化実績があり、安価かつ均一に作製することができより好ましい。
【0086】
ゲート電極、ソ−ス電極及びドレイン電極の各電極を形成する材料に特に制限はなく、本発明の効果を失わない範囲で一般に用いられているものを任意に選択することができる。
例えば、インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物、ZnO、SnO等の透明電極や、Al,Ag,Cr,Ni,Mo,Au,Ti,Ta、Cu等の金属電極、又はこれらを含む合金の金属電極を用いることができる。
【0087】
次に、本発明のTFTの製造方法について説明する。
TFTの各構成部材(層)は、本技術分野で公知の手法で形成できる。
具体的には、成膜方法としては、スプレー法、ディップ法、CVD法等の化学的成膜方法、又はスパッタ法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、パルスレーザーディポジション法等の物理的成膜方法を用いることができる。
キャリア密度が制御し易く、膜質向上が容易であることから、物理的成膜方法を用いることが好ましく、中でも、生産性が高いことからスパッタ法を用いることがより好ましい。
形成した膜は、各種エッチング法によりパターニングできる。
【0088】
本発明のTFTのチャンネル層(半導体層)は、本発明のスパッタリングターゲットを用い、DC又はACスパッタリングにより成膜することによって形成することが好ましい。DC又はACスパッタリングを用いることにより、RFスパッタリングの場合と比べて、成膜時のダメージを低減できる。このため、TFTとしたときに、移動度の向上等の効果が期待できる。
尚、本発明のターゲットを用いると比抵抗が小さく密度が高いため、DC又はACスパッタリングにより成膜してもクラックが発生する等のトラブルがおきにくい。
【0089】
チャンネル層の成膜において、チャネル層の酸化処理工程を含むことが好ましい。酸化処理としては、下記が挙げられる。
・スパッタリング時の酸素分圧を0.1Pa以上とする。
・0.1〜10Paの酸素雰囲気下、150〜400℃、0.2〜5時間の熱処理(酸素アニール)を行う。
・酸素プラズマ雰囲気下で成膜を行う(酸素プラズマ処理)。
【0090】
また、基板上にチャンネル層(半導体層)とチャンネル層(半導体層)の保護層を形成した後に、70〜350℃で熱処理することが好ましい。70℃より低いと得られるトランジスタの熱安定性や耐熱性が低下したり、移動度が低くなったり、S値が大きくなったり、閾値電圧が高くなるおそれがある。一方、350℃より高いと耐熱性のない基板は使用できず、また、熱処理用の設備費用がかかるおそれがある。
熱処理は、不活性ガス中あるいは酸素存在下で行うことが好ましい。特に、酸素分圧が1気圧以上の酸素加圧下行うと、スパッタリング時の酸素分圧が低くともノーマリーオフのTFTが作製でき好ましい。
半導体膜上に保護膜を形成した後、さらに熱処理すると面内均一性の向上が期待できる。
【実施例】
【0091】
実施例1
(1)酸化物焼結体の作製
焼結体の原料として、In(純度4N、アジア物性材料社製、BET表面積15m/g)、Ga(純度4N、アジア物性材料社製、BET表面積15m/g)、及びZnO(純度4N、高純度化学社製、BET表面積4m/g)を使用した。
これらの原料を、原子比がIn:Ga:Zn=60:20:20となるように秤量し、ボールミルで混合粉砕した。粉砕後、自然乾燥して造粒し、得られた造粒粉末をCIP(冷間静水等方圧加圧)処理し、成形体を得た。
【0092】
得られた成形体を以下の条件で焼結した。
焼結雰囲気:酸素
昇温速度(室温〜400℃):0.5℃/分
昇温速度(400℃〜切替温度):1.0℃/分
切替温度:800℃
昇温速度(切替温度〜焼結温度):0.3℃/分
焼結温度:1400℃
焼結時間:24時間
冷却速度(焼結温度〜室温):0.3℃/分
還元条件下での熱処理(後処理)は行わなかった。厚さ8mmの焼結体を厚さ6mmに両面を研削・研磨して、直径2インチのターゲット素材とした。
【0093】
(2)ターゲット用焼結体の評価
得られたターゲット用焼結体は、下記の方法により評価した。結果を表1に示す。
元素組成比(原子比):誘導プラズマ発光分析装置(ICP−AES)により測定した。
X線回折測定(XRD):ターゲット用焼結体の表面を下記条件で直接測定した。
・装置:株式会社リガク製Ultima−III
・X線:Cu−Kα線(波長1.5406Å、グラファイトモノクロメータにて単色化)
・2θ−θ反射法、連続スキャン(1.0°/分)
・サンプリング間隔:0.02°
・スリット DS、SS:2/3°、RS:0.6mm
抵抗率(比抵抗):抵抗率計(三菱化学株式会社製、ロレスタ)を使用して四探針法(JIS R 1637)に基づき測定し、10箇所の平均値を抵抗率値とした。
相対密度:原料粉の密度から計算した理論密度と、アルキメデス法で測定した焼結体の密度から、下記計算式にて算出した。
相対密度(%)=(アルキメデス法で測定した密度)÷(理論密度)×100
【0094】
尚、焼結体中の窒素含有量を微量全窒素分析装置(TN)で測定した。焼結体の窒素含有量は5ppm以下であった。
微量全窒素分析装置(TN)は、元素分析の中で窒素(N)のみ、又は窒素(N)及び炭素(C)のみを対象元素とし、窒素量、又は窒素量と炭素量を求めるための分析に用いる。TNでは、含窒素無機物又は含窒素有機物を触媒存在下で分解させ、Nを一酸化窒素(NO)に変換し、このNOガスをオゾンと気相反応させ、化学発光により光を発し、その発光強度からNの定量を行う。
【0095】
焼結体の表面をエアーブローし、さらに3分間超音波洗浄を行なった後、インジウム半田にて無酸素銅製のバッキングプレートにボンディングしてターゲットとした。
【0096】
(3)薄膜トランジスタ(TFT)の作製
作製したスパッタリングターゲットを用いて、以下の方法でトップコンタクトボトムゲート型のTFTを作製し、評価した。
基板は、熱酸化膜付n型高ドープシリコン基板を用いた。基板をゲート電極、100nmの熱酸化膜(SiO絶縁膜)をゲート絶縁膜とした。
シリコン基板にチャンネル層形成用のマスクを装着した後、DCスパッタ法により上記(1)で作製したターゲットを使用して、表1に示す成膜条件で成膜し、厚さ50nmの半導体膜(チャネル層)を形成した。その後、大気中300℃で60分間熱処理した。
【0097】
ソース電極及びドレイン電極形成用のマスクを装着しRFスパッタ法によりAuを成膜して、ソース電極及びドレイン電極を形成した。その後、大気中300℃で60分間熱処理し、チャネル長100μm、チャネル幅2000μmのトランジスタを得た。
【0098】
(4)TFTの評価
チャネル層の元素組成比(原子比)をICP−AESにより測定した。
また、半導体パラメーターアナライザー(ケースレー社製:4200SCS)、及びマニュアルプローバー(ズース・マイクロテック社製EP−6又はPM−5)を用い、TFTのトランスファー特性を測定して移動度(電界効果移動度(μ)、及びS値を評価した。
TFTの測定に際しては大気中の水蒸気がTFTへ与える影響を低減するために、測定の直前までTFTをホットプレートで110℃の過熱を行った。またプローバーにTFTをセットした上で、窒素をTFTに吹きつけながら2分以上経過した後、室温、遮光環境下でTFTの測定を行った。
トランスファー特性の測定条件は次の通りとした。結果を表1に示す。
Vg:−15V〜20V
Vd:0.1V、1V、10V
測定スピード:FAST
【0099】
実施例2〜13、比較例1、2
ターゲットの原子比を表1のように変更した他は実施例1と同様にターゲットの作製・評価を行い、TFTの作製・評価を行った。いずれも焼結体(ターゲット)の窒素含有量は5ppm以下であった。結果を表1に示す。
【0100】
比較例3〜5
In、ZnO、Gaの3つのターゲットを用い、RFスパッタリングによるコスパッタ法によって、表2に示す原子組成比になるように各カソードの電力を調整して酸化膜を成膜して活性層とし、表2に示す条件でTFTを作製・評価した。その他の操作は実施例1と同様に行なった。結果を表2に示す。
【0101】
実施例14
実施例1で作製したスパッタリングターゲットを用いて、以下の方法でボトムゲート・トップコンタクト型のTFTを作製し、評価した。ボトムゲート・トップコンタクト型TFTの素子構造を図3に示す。
具体的には、熱酸化膜22付Si基板21上に上記スパッタリングターゲットを用いて酸化物膜25を成膜した後、パターニング、電極形成等を行い、素子を形成した。
素子の構造はボトムゲート・トップコンタクト型であり、ゲート電極21にn+−Si、絶縁膜22にSiO、ソース・ドレイン電極24,27、23、26に、Ti23,26とAu24,27の積層体を使用した。チャネル幅及びチャネル長はそれぞれ150μm、10μm、活性層25の膜厚は40nmであった。
作製したTFTを実施例1と同様に評価した。結果を表2に示す。
【0102】
実施例15
実施例8で作製したターゲットを用いた以外は実施例14と同様にTFTの作製・評価を行なった。結果を表2に示す。
【0103】
実施例16
実施例12で作製したターゲットを用いた以外は実施例14と同様にTFTの作製・評価を行なった。結果を表2に示す。
【0104】
実施例17
実施例1のターゲットを用い、フォトリソ(リフトオフ)を用い、SiOをゲート絶縁膜、Ti/Auをソース電極・ドレイン電極、PECVDで作製した100nmSiOを保護膜とするチャネル長20μm、チャネル幅10μmのトランジスタを得た。実施例1と同様にTFTの評価を行った。結果を表2に示す。
【0105】
実施例18
酸素分圧を下げ、代わりにTFT作製後に酸素雰囲気下、10気圧、250℃、1時間の高圧酸素アニールによる酸化処理を行った他は、実施例17と同様にTFTの作製・評価を行なった。結果を表2に示す。
【0106】
【表1−1】

【表1−2】

【表2】

【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の薄膜トランジスタは、表示装置、特に大面積のディスプレイ用として用いることができる。
【符号の説明】
【0108】
21 基板(ゲート電極)
22 熱酸化膜
23,26 ソース・ドレイン電極(Ti)
24,27 ソース・ドレイン電極(Au)
25 活性層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
元素In,Ga及びZnを下記領域1、2又は3の原子比の範囲で含む酸化物を活性層とし、電界効果移動度が25cm/Vs以上である薄膜トランジスタ。
領域1
0.58≦In/(In+Ga+Zn)≦0.68
0.15<Ga/(In+Ga+Zn)≦0.29
領域2
0.45≦In/(In+Ga+Zn)<0.58
0.09≦Ga/(In+Ga+Zn)<0.20
領域3
0.45≦In/(In+Ga+Zn)<0.58
0.20≦Ga/(In+Ga+Zn)≦0.27
【請求項2】
電界効果移動度が30cm/Vs以上である請求項1に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項3】
元素In,Ga及びZnを下記領域1、2又は3の原子比の範囲で含む酸化物焼結体からなるスパッタリングターゲット。
領域1
0.58≦In/(In+Ga+Zn)≦0.68
0.15<Ga/(In+Ga+Zn)≦0.29
領域2
0.45≦In/(In+Ga+Zn)<0.58
0.09≦Ga/(In+Ga+Zn)<0.20
領域3
0.45≦In/(In+Ga+Zn)<0.58
0.20≦Ga/(In+Ga+Zn)≦0.27
【請求項4】
前記酸化物焼結体が、比抵抗15mΩcm未満、相対密度97%超である請求項3に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項5】
前記酸化物焼結体が、元素In,Ga及びZnを前記領域1の原子比の範囲で含み、(InGaO)ZnOで表されるホモロガス構造化合物と、Inで表されるビックスバイト構造化合物とを含む、請求項3又は4に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項6】
前記酸化物焼結体が、元素In,Ga及びZnを前記領域2の原子比の範囲で含み、X線回折測定(Cukα線)により入射角(2θ)が、7.0°〜8.4°、30.6°〜32.0°、33.8°〜35.8°、53.5°〜56.5°及び56.5°〜59.5°の各位置に回折ピークが観測される酸化物を含む、請求項3又は4に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項7】
前記酸化物焼結体が、元素In,Ga及びZnを前記領域3の原子比の範囲で含み、(InGaO)ZnOで表されるホモロガス構造化合物を含む、請求項3又は4に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項8】
400℃〜800℃の間を2.5℃/分以下で昇温する工程、
800℃〜焼結温度の間を1.0℃/分以下で昇温する工程、及び
焼結温度1300〜1450℃、焼結時間6〜48時間で焼結する工程を含む請求項3〜7のいずれかに記載のスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項9】
請求項3〜7のいずれかに記載のスパッタリングターゲットを用いて酸化物薄膜を作製する工程を含む請求項1又は2に記載の薄膜トランジスタの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−238678(P2012−238678A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105721(P2011−105721)
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】