説明

薬液散布機

【課題】従来、ダイヤフラムの往復動により薬液を吸引・吐出して間欠的に散布する薬液散布機では、このダイヤフラムのポンプをモータで駆動して散布作業を正確なタイミングで行うようにしていたが、ダイヤフラムが大きく変形したままで停止すると、クリープによる塑性変形を起こすと共に、その材質も大きく劣化する、という問題があった。
【解決手段】薬液散布機1が所定距離移動するとダイヤフラム35の往復動を開始させる起動信号64を発信する起動信号発信手段60と、前記ダイヤフラム35の往復動を停止させる停止信号65を発信する停止信号発信手段61と、前記起動信号64と停止信号65に基づいてダイヤフラムポンプ29のポンプ駆動装置28の入切を行う制御手段62を備えると共に、往復動を開始して薬液を吐出した前記ダイヤフラム35が、該ダイヤフラム35の変形量の小さな低歪み位置79aで停止する制御構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤフラムの往復動により薬液を吸引・吐出して間欠的に散布するモータ駆動式のダイヤフラムポンプを備えた薬液散布機に関し、特に、該ダイヤフラムポンプのポンプ寿命を向上させるポンプ駆動制御構成に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、土壌消毒機等の薬液散布機に往復駆動式のダイヤフラムポンプを取り付け、薬液を間欠的に散布する技術が知られており、特に、該ダイヤフラムポンプをモータで駆動することにより、鎮圧ローラ等の回転体からの動力で駆動する場合と異なりスリップ等の問題をなくして、散布作業をより正確なタイミングで行う技術(例えば、特許文献1参照)が公知となっている。
【特許文献1】特開2002―317768号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前記従来技術においては、間欠駆動後のダイヤフラムが大きく変形したままで停止し、ダイヤフラムが高い歪みを持った状態で長期間保管されると、ニトリルゴム・テフロン(登録商標)・クロロプレンゴム等の各種弾性材料から成るダイヤフラムは、クリープによる塑性変形を起こすと共に、その材質も大きく劣化して破損しやすくなる、という問題があった。
また、ダイヤフラムポンプがモータ駆動式では、機体の走行に関係なく作動して薬液が勝手に散布されるため、旋回時や停止直後等に無駄に薬液を消費して薬液コストが増加すると共に、機体の走行速度が変動すると薬液の散布距離間隔を一定にするのが難しくなる、という問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
すなわち、請求項1においては、ダイヤフラムの往復動により薬液を吸引・吐出して間欠的に散布するモータ駆動式のダイヤフラムポンプを備えた薬液散布機において、該薬液散布機が所定距離移動すると前記ダイヤフラムの往復動を開始させる起動信号を発信する起動信号発信手段と、前記ダイヤフラムの往復動を停止させる停止信号を発信する停止信号発信手段と、前記起動信号と停止信号に基づいて前記ダイヤフラムポンプのポンプ駆動装置の入切を行う制御手段を備えると共に、往復動を開始して薬液を吐出した前記ダイヤフラムが、該ダイヤフラムの変形量の小さな低歪み位置で停止する制御構成としたものである。
請求項2においては、前記起動信号発信手段は、薬液散布機の移動に追従して回転する回転体と、該回転体の所定の回転部位に設けた起動マーカと、該起動マーカを検知して起動信号を発信する起動センサとを有するものである。
請求項3においては、前記停止信号発信手段は、ダイヤフラムの往復動との連動部位に設けた停止マーカと、該停止マーカを検知して停止信号を発信する停止センサとを有するものである。
請求項4においては、前記ポンプ駆動装置は、前記停止信号発信手段からの停止信号に基づいて、ポンプ駆動装置を駆動するモータに制動力を付与する制動手段を備えるものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明は、以上のように構成したので、以下に示す効果を奏する。
すなわち、請求項1においては、ダイヤフラムの往復動により薬液を吸引・吐出して間欠的に散布するモータ駆動式のダイヤフラムポンプを備えた薬液散布機において、該薬液散布機が所定距離移動すると前記ダイヤフラムの往復動を開始させる起動信号を発信する起動信号発信手段と、前記ダイヤフラムの往復動を停止させる停止信号を発信する停止信号発信手段と、前記起動信号と停止信号に基づいて前記ダイヤフラムポンプのポンプ駆動装置の入切を行う制御手段を備えると共に、往復動を開始して薬液を吐出した前記ダイヤフラムが、該ダイヤフラムの変形量の小さな低歪み位置で停止する制御構成としたので、薬液散布機を使用しない状態で長期間保管しても、保管中のダイヤフラムの歪みを小さくしてクリープによる塑性変形を大きく軽減すると共に、材質劣化を最小限に抑えて破損を防止することができ、ダイヤフラムポンプのポンプ寿命を改善することができる。更に、機体の走行に連動して薬液を散布することができ、旋回時や停止直後等にも無駄に薬液を消費することがなく薬液コストを低減できると共に、機体の走行速度が変動しても薬液の散布距離間隔を常に一定に保つことができる。
請求項2においては、前記起動信号発信手段は、薬液散布機の移動に追従して回転する回転体と、該回転体の所定の回転部位に設けた起動マーカと、該起動マーカを検知して起動信号を発信する起動センサとを有するので、別途特殊な装置を用いることなく簡単な構成で起動信号を発信することができ、部品数減少による製造コストの低減と、組立性・メンテナンス性の向上を図ることができる。
請求項3においては、前記停止信号発信手段は、ダイヤフラムの往復動との連動部位に設けた停止マーカと、該停止マーカを検知して停止信号を発信する停止センサとを有するので、別途特殊な装置を設けることなく簡単な構成でダイヤフラムの往復動を検知して停止信号を発信することができ、部品数減少による製造コストの低減と、組立性・メンテナンス性の向上を図ることができる。
請求項4においては、前記ポンプ駆動装置は、前記停止信号発信手段からの停止信号に基づいて、ポンプ駆動装置を駆動するモータに制動力を付与する制動手段を備えるので、モータを制動して短時間で停止させ過回転を防ぎ、ダイヤフラムを低歪み位置に正確に停止させることができ、塑性変形や材質劣化を一層抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
次に、発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明に関わる土壌消毒機を装着したトラクタの全体構成を示す全体平面図、図2は土壌消毒機の薬液注入部の斜視図、図3は土壌消毒機の薬液供給部の斜視図、図4はダイヤフラム式薬液供給ポンプのポンプ駆動構成を示す側面一部断面図、図5は同じく底面一部断面図、図6はポンプ駆動制御機構を示すブロック図、図7はモータの起動・停止手順を示すタイムチャート、図8はモータの回転とダイヤフラムの往復動との関係を示す説明図である。なお、本実施例では、薬液散布機として、薬液を土壌中に注入する土壌消毒機を例に説明しているが、薬液を土壌面や空中や作物上等にまき散らす噴霧機であってもよく、モータ駆動式のダイヤフラムポンプで間欠散布するものであれば、特には限定されない。また、この土壌消毒機は、トラクタに装着されて一緒に走行する他走式としているが、エンジンを積んで自力走行可能な自走式であってもよい。
【0007】
まず、土壌消毒機1を装着したトラクタ2の概略構成について、図1、図2により説明する。
図1に示すように、該トラクタ2は走行車両2aと、該走行車両2aの後部に連結した装着部2bとから構成され、このうちの走行車両2aの前部及び後部には、それぞれ前輪3・3及び後輪4・4が懸架されている。そして、該走行車両2a前部のボンネット5内には、エンジン、バッテリ6等が搭載されると共に、該ボンネット5後方には操向ハンドル7が配置され、該操向ハンドル7の更に後方には作業者が着座する運転席8が配設されている。該運転席8の両側方のサイドコラム9L・9Rには、主変速レバー、PTO変速レバー等の各種操作器具が配設され、該運転席8前方の足元には、フットアクセルペダル、左右ブレーキペダル、主クラッチペダル等が配設されている。
【0008】
図1、図2に示すように、前記装着部2bは、トップリンク10、ロアリンク11・11等より構成され、該トップリンク10、ロアリンク11・11に各種作業機を連結して牽引できるように構成されている。尚、前記土壌消毒機1の装着車両には耕耘機等を使用してもよく、トラクタ2に限定されるものではない。
【0009】
次に、このようなトラクタ2に装着した土壌消毒機1の全体構成について、図1乃至図3により説明する。
図1、図2に示すように、土壌消毒機1は薬液を供給する薬液供給部1aと、薬液を土壌内に注入する薬液注入部1bとから構成される。このうちの薬液注入部1bにおいては、前端にトップリンクマスト12・12が設けられ、該トップリンクマスト12・12の上端は、前記トラクタ2の装着部2bのトップリンク10の後部に連結される一方、トップリンクマスト12・12の下端には支持杆13・13の前端が連結固定され、該支持杆13・13の前端から外方に突設した左右のピン14・14に、前記ロアリンク11・11の後端が枢結されている。このようなトップリンク10、ロアリンク11・11、トップリンクマスト12・12を介して、土壌消毒機1の薬液注入部1bをトラクタ2の装着部2bに確実に連結支持して牽引できるようにしている。
【0010】
前記支持杆13・13の後面には、後方に開いた平面視コ字状の取付フレーム15が固設され、該取付フレーム15の左右のアーム部15a・15aの後部間には、鎮圧ローラ16が回転自在に軸支され、薬液注入後の土壌を押圧するように構成されると共に、該鎮圧ローラ16には、後述する起動信号発信装置60が取り付けられている。そして、前記アーム部15a・15aの前端間に連架された連架部15bには、一定間隔をおいて複数の薬液注入爪17・17・・・が配設され、該薬液注入爪17・17・・・の背面には、薬液注入ノズル18・18・・・が所定深さに設定可能に配設されている。
【0011】
図1、図3に示すように、前記薬液供給部1aにおいては、後方に開いた平面視コ字状の支持フレーム19の後端が前記走行車両2aの前部に固設されると共に、該支持フレーム19の前部上面には、薬液タンク載置台20・20が固設されており、該薬液タンク載置台20・20には薬液タンク21・21が載置されている。
【0012】
前記支持フレーム19を構成する左右のアーム部19aの長手方向中間位置には、支持板22が横架され、該支持板22上に、前記薬液注入ノズル18・18・・・と同数の薬液送出ポンプ23・23・・・が固設され、該薬液送出ポンプ23・23・・・は前記薬液タンク21・21の直後方に並設されている。これらの薬液送出ポンプ23・23・・・は、吸入ホース26・26・・・を介して薬液タンク21・21に連通されると共に、吐出ホース27・27・・・を介して薬液注入ノズル18・18・・・に連結されている。
【0013】
このような薬液送出ポンプ23・23・・・の駆動源であるモータ24・24・・・は、前記運転席8右側方のサイドコラム9Rに配設したモータスイッチ盤25の各スイッチ25aを操作することによって、駆動の入切ができるように構成されている。更に、該モータスイッチ盤25にはコントローラ62が併設されており、該コントローラ62は各モータ24に取り付けた停止信号発信装置61と前記起動信号発信装置60からの電気信号に基づいて、モータ24の起動・停止を後述の如く制御するようにしている。なお、本実施例の薬液供給部1aはトラクタ2の前部に設けているが、薬液注入部1bと一緒にトラクタ2の後部に設けてもよい。
【0014】
次に、薬液送出ポンプ23について、図3乃至図5により説明する。
該薬液送出ポンプ23・23・・・は、往復駆動式ポンプとしてのダイヤフラムポンプ29と、該ダイヤフラムポンプ29を駆動するポンプ駆動装置28とを有し、該ポンプ駆動装置28には前記モータ24からの動力が入力されるようにしている。そして、ポンプ駆動装置28は前記薬液送出ポンプ23のポンプ駆動ケース30内に設けられ、該ポンプ駆動ケース30の一側の上部にダイヤフラムポンプ29が設けられており、該ダイヤフラムポンプ29と前記ポンプ駆動装置28とは連結連動されている。
【0015】
このうちのダイヤフラムポンプ29においては、弾性材料から成るダイヤフラム35が弁取付部材33とダイヤフラム取付部材34とによって上下から挟持して固定され、このうちの弁取付部材33からは、吸入ポート31と吐出ポート32とが上方に突設され、該吸入ポート31と吐出ポート32とは、弁取付部材33とダイヤフラム35で形成されるダイヤフラム室56に連通されると共に、前記吸入ホース26と吐出ホース27とに、それぞれ接続されている。一方、前記ダイヤフラム35の中央下部からは連結ピン36が垂下され、該連結ピン36には往復移動体である連結ロッド37が連結され、該連結ロッド37の下部が前記ポンプ駆動ケース30内に挿入されている。
【0016】
また、ポンプ駆動装置28においては、このようなダイヤフラムポンプ29の連結ロッド37の下端が、揺動クランク40の一端上部に枢支軸39を介して枢支され、留め具38によって抜け止めがなされている。この揺動クランク40には、ダイヤフラムポンプ29側に長孔40aが開口され、モータ24側には楕円状孔40bが開口されており、前記長孔40a内には揺動支点となる支点カム41が挿入され、前記楕円状孔40bには偏心カム42が挿入されている。
【0017】
このうちの支点カム41については、円盤状に形成されると共に、中央に連結軸43を貫通し、該連結軸43に回転自在に枢支されている。そして、該連結軸43の他端側には、取付部43aが一体的に形成され、該取付部43aには、調節レバー44の先部がボルト45によって締結固定されている。更に、該取付部43aの外端は細くなってガイド部43bを形成し、該ガイド部43bは、前記ポンプ駆動ケース30に長穴状に穿設されたガイド孔30aに挿入されている。
【0018】
このポンプ駆動ケース30にはガイド孔30bも穿設され、該ガイド孔30bには、前記連結軸43側が挿入されて外方に延出されている。この連結軸43の延出端には指針48が装着されると共に、該指針48の位置を読み取るための目盛盤47がガイド孔30bに沿って配設されている。そして、これらガイド孔30a・30bは対向して配置されると共に、前記調節レバー44と平行に配設されている。
【0019】
前記調節レバー44は、前記揺動クランク40と平行に配設される一方、前記連結軸43に対しては直角方向に配置されており、その基部はポンプ駆動ケース30に付設したレバーガイド46に枢支されている。該レバーガイド46より外方に突出した調節レバー44は下方に屈曲されてレバー操作部44aを形成している。更に、調節レバー44には、平坦な当接部44bがガイド孔30a側の外周側面に形成されると共に、前記レバーガイド46には、L字状の固定ボルト49の螺挿部49bが前記調節レバー44に対して垂直となるように螺挿されており、該固定ボルト49の把持部49aを回転することにより、螺挿部49bの先端が前記当接部44b側に向かって進退し、調節レバー44を、レバーガイド46の内壁46aとの間に挟持して特定位置に固定したり、逆に内壁46aから離間させて揺動クランク40の長手方向に自由にスライドできるようにしている。
【0020】
一方、前記偏心カム42については、その軸心部には出力軸50が挿入され、該出力軸50はキー51によって相対回転不能に連結されている。更に、この偏心カム42には、カラー52が外嵌され、該カラー52を介して、前記揺動クランク40の楕円状孔40b内に摺動自在に支持されると共に、カラー52の両側面にはドーナツ状の固定部材53・53が嵌合されており、前記偏心カム42とカラー52とが、揺動クランク40から抜け出ないように固定されている。
【0021】
偏心カム42を貫通した出力軸50の両側端は、ポンプ駆動ケース30より両外側方に突出されると共に、ポンプ駆動ケース30にベアリング54等によって回転自在に支持されている。そして、該出力軸50の一端は、ポンプ駆動ケース30の外側面に固設された前記モータ24のモータ軸部24aに、ボス55を介して連結される一方、出力軸50の他端には、前記停止信号発信装置61が取り付けられている。
【0022】
このような構成において、前記固定ボルト49の把持部49aを持って螺挿部49bを回転操作し、該螺挿部49bの先端を前記調節レバー44側面の当接部44bから僅かに離間させた上で、レバー操作部44aを持って調節レバー44を揺動クランク40の長手方向に押し引きしてスライド操作すると、該調節レバー44の先部に固定された取付部43aが、前記ガイド孔30a・30bにガイドされながら揺動クランク40の長手方向に摺動し、同時に、連結軸43に支持された前記支点カム41も移動される。そして、前記目盛盤47や指針48等を使って支点カム41を所定位置に移動させた後は、固定ボルト49の把持部49aを持って螺挿部49bを逆方向に回転操作し、該螺挿部49bの先端を前記調節レバー44側面の当接部44bに当てて押圧することによって、調節レバー44を固定する。
【0023】
このようにして支点カム41を所定位置に固定し吐出量を設定した後、前記スイッチ25a・25a・・・を入操作した上で後述のようにコントローラ62が作動すると、各モータ24が駆動してモータ軸部24aに連結した出力軸50が回転駆動され、偏心カム42が回転する。すると、該偏心カム42の外周に摺接された揺動クランク40の一端が上下に往復動し、揺動クランク40の他端も前記支点カム41を支点として上下に往復動し、これに伴って、揺動クランク40の他端に連結ロッド37を介して連結されたダイヤフラム35も上下に往復動する。これにより、吸入ポート31と吐出ポート32内に設けた弁が開閉され、薬液の吸入動作と吐出動作が繰り返されるのである。なお、本実施例では各薬液送出ポンプ23ごとにモータ24と停止信号発信装置61を設けているが、全薬液送出ポンプ23を一個のモータ24からの共通出力軸で駆動するようにすると共に、該共通出力軸に一個の停止信号発信装置61を取り付ける構成として、部品数の減少や構造の簡素化を図ってもよく、モータ24や停止信号発信装置61の取付構成については、特に限定されるものではない。
【0024】
次に、このようにして薬液を吐出する薬液送出ポンプ23の間欠駆動を制御するポンプ駆動制御機構59の構成について、図2乃至図6により説明する。
図6に示すように、該ポンプ駆動制御機構59は、使用する薬液送出ポンプ23に応じてモータ24を選択するスイッチであるモータスイッチ盤25と、各モータ24に配線68を介して接続されモータ24の起動・停止を制御するコントローラ62と、該コントローラ62に配線66を通じて起動信号64を送信する起動信号発信装置60と、同じくコントローラ62に配線67を通じて停止信号65を送信する停止信号発信装置61と、前記コントローラ62やモータ24に配線69等を介して駆動電力を供給するバッテリー6等から構成されている。
【0025】
図2、図6に示すように、このうちの起動信号発信装置60は、前述のように鎮圧ローラ16に取り付けられており、土壌消毒機1の薬液注入部1bの鎮圧ローラ16側面に固設されて該鎮圧ローラ16と一緒に回転する起動マーカ70と、前記取付フレーム15のアーム部15a上で鎮圧ローラ16側方位置に取り付けられた起動センサ71とから構成され、該起動センサ71は、透過型フォトセンサであって発光部71aと受光部71bを有する。
【0026】
そして、土壌消毒機1が移動して鎮圧ローラ16が回転し、前記起動マーカ70も一緒に回転して、前記発光部71aと受光部71bとの間を通過する光を遮断すると、起動センサ71中の起動スイッチ71cが「入」となり、起動信号64を前記コントローラ62に送信する。更に起動マーカ70が回転して発光部71aと受光部71bとの間から離間すると、起動スイッチ71bが「切」となり、起動信号64の送信を中断するように構成している。
【0027】
これにより、ダイヤフラム35の往復動を開始させる起動信号64を、鎮圧ローラ16に設けた起動マーカ70と該起動マーカ70側方の起動センサ71のみによって、土壌消毒機1が一定距離(以下、「注入間隔」とする)、本実施例の場合では鎮圧ローラ16の外周長さに相当する距離だけ移動する毎に、正確に発信することができるのである。なお、本実施例では、前記起動マーカ70を一個としているが、その個数や取付間隔を変えることにより、様々な注入間隔で注入作業を行うことができる。また、本実施例のような鎮圧ローラ16がない場合には、接地輪等を回転体として新たに設け、これに起動信号発信装置60を取り付けるようにすればよい。
【0028】
すなわち、起動信号発信手段である前記起動信号発信装置60は、薬液散布機である土壌消毒機1の移動に追従して回転する回転体である鎮圧ローラ16と、該鎮圧ローラ16の所定の回転部位に設けた起動マーカ70と、該起動マーカ70を検知して起動信号64を発信する起動センサ71とを有するので、別途特殊な装置を用いることなく簡単な構成で起動信号64を発信することができ、部品数減少による製造コストの低減と、組立性・メンテナンス性の向上を図ることができる。
【0029】
なお、本実施例では、起動マーカ70を鎮圧ローラ16に取り付け、近接した起動センサ71でこの起動マーカ70を検知することにより、求めた鎮圧ローラ16の回転量から移動距離を測定するようにしているが、これ以外に次のような構成をとることもできる。例えば、鎮圧ローラ16の回転と連動する伝達部材やトラクタ1の車輪等に起動マーカ70を取り付け、該起動マーカ70を近接した起動センサ71で検知して移動距離を測定したり、ロータリエンコーダを鎮圧ローラ16に取り付けて移動距離を測定したり、あるいは、トラクタ1の駆動軸に螺子を形成し、該螺子に噛合させたセンサで求めた駆動軸の回転数から移動距離を測定するようにしてもよく、薬液散布機の移動距離を測定する構成は、注入間隔を正確に設定できるものであればよく、限定されるものではない。これらのうち、特に、鎮圧ローラ16の回転と連動する伝達部材に起動マーカ70を取り付けたり、ロータリエンコーダを鎮圧ローラ16に取り付ける場合には、取り付ける伝達部材を変更したり、ロータリーエンコーダの設定を変えるだけで、大きな設計変更をすることなく、注入間隔を容易に変更することができる。
【0030】
また、図3乃至図6に示すように、前記停止信号発信装置61は、前述のように各モータ24に取り付けられており、該モータ24からの出力軸50上に固定され該出力軸50と一緒に回転する停止マーカ72と、前記ポンプ駆動ケース30側面に固設される停止センサ73とから構成され、該停止センサ73も、前記起動センサ71と同様に、透過型フォトセンサであって発光部73aと受光部73bを有する。一方、停止マーカ72は、前記出力軸50に外嵌固定されたボス部72bと、該ボス部72bから半径方向に突出された遮断部72aとから成り、該遮蔽部72aが、前記発光部73aと受光部73bとの間を通過するようにしている。
【0031】
そして、起動信号64を受信したコントローラ62によってモータ24が駆動されて出力軸50が回転し、該出力軸50上の停止マーカ72も一緒に回転して、該停止マーカ72の遮断部72aが、前記発光部73aと受光部73bとの間を通過する光を遮断すると、停止センサ73中の停止スイッチ73cが「入」となり、停止信号65を前記コントローラ62に送信を開始する。これにより、ダイヤフラム35の往復動を停止させる停止信号64を、モータ24の出力軸50が一回転する毎に正確に発信することができる。
【0032】
すなわち、前記停止信号発信手段である停止信号発信装置61は、ダイヤフラム35の往復動との連動部位である出力軸50に設けた停止マーカ72と、該停止マーカ72を検知して停止信号を発信する停止センサ73とを有するので、別途特殊な装置を設けることなく簡単な構成でダイヤフラム35の往復動を検知して停止信号65を発信することができ、部品数減少による製造コストの低減と、組立性・メンテナンス性の向上を図ることができる。なお、本実施例では、前記起動信号発信装置60と停止信号発信装置61のいずれにも透過型フォトセンサを適用しているが、薬液散布機の移動やダイヤフラムの往復動を高精度かつ高速に検出可能なセンサであればよく、特に限定されるものではない。なお、本実施例では、停止マーカ72を設ける連動部位は、出力軸50としているが、該出力軸50からダイヤフラム35までの間の各伝達部材、例えば揺動クランク40や連結ロッド37としてもよい。
【0033】
次に、以上のようなポンプ駆動制御機構59の動作について、図2、図6乃至図8により説明する。
トラクタ2に装着された土壌消毒機1が移動すると、鎮圧ローラ16が土壌を押圧しながら回転し、該鎮圧ローラ16の起動マーカ70が矢印77の方向に回転して、前記発光部71aと受光部71bとの間を通過する。すると、起動スイッチ71cが入って起動信号64が発信され(時刻T1)、該起動信号64を受信したコントローラ62は、配線68を介して各モータ24に通電し、それまで停止状態にあったモータ24の回転を開始させる(時刻t1)。
【0034】
ここで、予め、停止センサ73の位置に停止マーカ72の遮断部72aの回転開始位置80aを設定し、該遮断部72aの回転開始位置80aとダイヤフラム35の低歪み位置79aとが正確に対応するように、出力軸50上への停止マーカ72の取付位置を調整しておく。すると、遮断部72aが、回転開始位置80aから回転位置80b(時刻t2)、回転位置80c(時刻t3)の順に回転すると、この回転にともなって、ダイヤフラム35も、低歪み位置79aから往復位置79b、往復位置79cの順にポンプ駆動装置28を介して押動され、ダイヤフラム室56の容積が減少して薬液が吐出ポート32から吐出ホース27に送出される。
【0035】
更に、遮断部72aが、回転位置80cから回転位置80d(時刻t4)を通って回転開始位置80aまで回転していくと、この回転にともなって、ダイヤフラム35も、往復位置79cから往復位置79dを通って低歪み位置79aまでポンプ駆動装置28を介して下方に引き戻され、薬液タンク21内の薬液が吸入ホース26を介して吸入ポート31からダイヤフラム室56に吸入される。
【0036】
そして、遮断部72aが停止センサ73の位置まで回転して発光部73aと受光部73bとの間に入り始めると、即座に停止スイッチ73cが入って停止信号65が発信開始され(時刻T2)、該停止信号65を受信したコントローラ62は、配線68を介して各モータ24への通電を直ちに中止し、モータ24の回転を、ダイヤフラム35の低歪み位置79aに対応する回転開始位置80aに停止させる(時刻t5)。そして、次の起動信号64をコントローラ62が受信するまでは、停止信号65の発信は継続され、ダイヤフラム35が低歪み位置79aに確実に保持されるようにしている。
【0037】
すなわち、以上のように、ダイヤフラム35の往復動により薬液を吸引・吐出して間欠的に散布するモータ駆動式のダイヤフラムポンプ29を備えた薬液散布機である土壌消毒機1において、該土壌消毒機1が所定距離移動すると前記ダイヤフラム35の往復動を開始させる起動信号64を発信する起動信号発信手段である起動信号発信装置60と、前記ダイヤフラム35の往復動を停止させる停止信号65を発信する停止信号発信手段である停止信号発信装置61と、前記起動信号64と停止信号65に基づいて前記ダイヤフラムポンプ29のポンプ駆動装置28の入切を行う制御手段であるコントローラ62を備えると共に、往復動を開始して薬液を吐出した前記ダイヤフラム35が、該ダイヤフラム35の変形量の小さな低歪み位置で停止する制御構成としたので、薬液散布機を使用しない状態で長期間保管しても、保管中のダイヤフラム35の歪みを小さくしてクリープによる塑性変形を大きく軽減すると共に、材質劣化を最小限に抑えて破損を防止することができ、ダイヤフラムポンプ29のポンプ寿命を改善することができる。更に、機体の走行に連動して薬液を散布することができ、旋回時や停止直後等にも無駄に薬液を消費することがなく薬液コストを低減できると共に、機体の走行速度が変動しても薬液の散布距離間隔を常に一定に保つことができる。なお、前記低歪み位置は、本実施例では、ダイヤフラム35が最も拡張される位置79aとしているが、弾性材料から成るダイヤフラム35の特性によって変化するものであり、本実施例には限定されない。
【0038】
次に、モータ24の停止性能向上のための制御構成について、図3、図5乃至図8により説明する。
図6乃至図8に示すように、前記コントローラ62には、モータ24を短時間で停止するショートブレーキ回路62aを設けショートブレーキモードを備えるようにしてもよい。これによると、コントローラ62は、前記停止信号発信装置61からの停止信号65を受信すると、直ちにショートブレーキモードを「入」にし、モータ24を短時間で停止させる。
【0039】
これにより、停止信号65を発信開始してから実際にモータ24の出力軸50が停止するまでの時間に相当する、時刻T2から時刻t5までのタイムラグ75を、更に短くし、モータ24を、ダイヤフラム35の低歪み位置79aに対応する回転開始位置80aに正確に停止させることができる。なお、ショートブレーキの手段としては、モータ24への通電中止時に端子間を短絡させる等、モータ24を急停止させる機能を有するものであればよく、特に限定されるものではない。
【0040】
つまり、前記制御手段であるコントローラ62は、前記停止信号発信手段である停止信号発信装置61からの停止信号65に基づいて、ポンプ駆動装置28を駆動するモータ24を迅速に停止するショートブレーキモードを備えるので、モータ24の過回転を防ぎ、ダイヤフラム35を低歪み位置に正確に停止させることができ、塑性変形や材質劣化を一層抑制することができる。
【0041】
また、図3、図5、図6に示すように、モータ24の出力軸50に電磁ブレーキ63を取り付けるようにしてもよい。該電磁ブレーキ63は、前記ポンプ駆動ケース30から側方に突設された固定フレーム76に固定されており、コントローラ62からの制動信号によって作動できるようにしている。
【0042】
これにより、コントローラ62は、前記停止信号発信装置61からの停止信号65を受信すると、直ちに制動信号を電磁ブレーキ63に送信してモータ24の出力軸50に制動力を付与し、モータ24を短時間で停止させことができる。前記ショートブレーキモードと同様に、時刻T2から時刻t5までのタイムラグ75を短くし、モータ24を、ダイヤフラム35の低歪み位置79aに対応する回転開始位置80aに正確に停止させることができる。なお、本実施例では、制動手段として電磁ブレーキ63を用いたが、モータ24を急停止させる機能を有するものであればよく、特に限定されるものではない。
【0043】
すなわち、前記ポンプ駆動装置28は、前記停止信号発信手段である停止信号発信装置61からの停止信号65に基づいて、ポンプ駆動装置28を駆動するモータ24に制動力を付与する制動手段である電磁ブレーキ63を備えるので、モータ24を制動して短時間で停止させ過回転を防ぎ、ダイヤフラム35を低歪み位置に正確に停止させることができ、塑性変形や材質劣化を更に一層抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、ダイヤフラムの往復動により薬液を吸引・吐出して間欠的に散布するモータ駆動式のダイヤフラムポンプを備えた全ての薬液散布機に適用することができる。更に、種子、苗の近傍に液肥を散布する施肥機にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に関わる土壌消毒機を装着したトラクタの全体構成を示す全体平面図である。
【図2】土壌消毒機の薬液注入部の斜視図である。
【図3】土壌消毒機の薬液供給部の斜視図である。
【図4】ダイヤフラム式薬液供給ポンプのポンプ駆動構成を示す側面一部断面図である。
【図5】同じく底面一部断面図である。
【図6】ポンプ駆動制御機構を示すブロック図である。
【図7】モータの起動・停止手順を示すタイムチャートである。
【図8】モータの回転とダイヤフラムの往復動との関係を示す説明図である。
【符号の説明】
【0046】
1 薬液散布機
16 回転体
24 モータ
28 ポンプ駆動装置
29 ダイヤフラムポンプ
35 ダイヤフラム
50 連動部位
60 起動信号発信手段
61 停止信号発信手段
62 制御手段
63 制動手段
64 起動信号
65 停止信号
70 起動マーカ
71 起動センサ
72 停止マーカ
73 停止センサ
79a 低歪み位置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヤフラムの往復動により薬液を吸引・吐出して間欠的に散布するモータ駆動式のダイヤフラムポンプを備えた薬液散布機において、該薬液散布機が所定距離移動すると前記ダイヤフラムの往復動を開始させる起動信号を発信する起動信号発信手段と、前記ダイヤフラムの往復動を停止させる停止信号を発信する停止信号発信手段と、前記起動信号と停止信号に基づいて前記ダイヤフラムポンプのポンプ駆動装置の入切を行う制御手段を備えると共に、往復動を開始して薬液を吐出した前記ダイヤフラムが、該ダイヤフラムの変形量の小さな低歪み位置で停止する制御構成としたことを特徴とする薬液散布機。
【請求項2】
前記起動信号発信手段は、薬液散布機の移動に追従して回転する回転体と、該回転体の所定の回転部位に設けた起動マーカと、該起動マーカを検知して起動信号を発信する起動センサとを有することを特徴とする請求項1記載の薬液散布機。
【請求項3】
前記停止信号発信手段は、ダイヤフラムの往復動との連動部位に設けた停止マーカと、該停止マーカを検知して停止信号を発信する停止センサとを有することを特徴とする請求項1または請求項2記載の薬液散布機。
【請求項4】
前記ポンプ駆動装置は、前記停止信号発信手段からの停止信号に基づいて、ポンプ駆動装置を駆動するモータに制動力を付与する制動手段を備えることを特徴とする請求項1乃至請求項3のうちのいずれか一項に記載の薬液散布機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−136416(P2008−136416A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−325799(P2006−325799)
【出願日】平成18年12月1日(2006.12.1)
【出願人】(597041747)アグリテクノ矢崎株式会社 (56)
【Fターム(参考)】