説明

表面形状の測定方法

【課題】プローブを用いて、容易かつ高精度に被検物の表面形状を測定することができる表面形状の測定方法を提供する。
【解決手段】プローブと被検物とを相対移動させることにより、被検物の表面形状を測定する表面形状測定方法は、被検物の第1の領域の第1表面形状データを取得する第1取得工程と、第1表面形状データと少なくとも一部が重複する被検物の第2の領域の第2表面形状データを取得する第2取得工程と、第1表面形状データのうち、第2表面形状データと重複する領域のデータに対して、近似関数による当てはめを行って近似曲線を取得する近似曲線取得工程S20と、近似曲線を用いて第2表面形状データの補正量を算出する補正量算出工程S30と、算出された補正量に基づいて、第2表面形状データ全体を座標変換する座標変換工程S40と、第1表面形状データと、座標変換が行われた第2表面形状データとを統合する工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検物の表面形状を測定する測定方法、より詳しくは、触針子を被検物の表面に接触させてその表面形状を測定する測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レンズや金型等の光学関連素子の表面形状評価を行う装置として、触針子(プローブ)を光学関連素子等の被検物の面上に追従させる接触走査式の測定方法を採用した表面形状測定装置が用いられている。
【0003】
このような表面形状測定装置においては、プローブが被検物に接触している状態で、駆動機構により被検物を走査すると、被検物の形状に沿ってプローブが追従し、これに従ってプローブが取り付けられた触針軸が変位する。変位する触針軸の位置座標を変位計により、また、走査される被検物の位置座標を変位計により時系列的に取得することで被検物の形状が得られる。
【0004】
しかしながら、このような表面形状測定装置で、たとえば半球状の表面を有する被検物の形状測定を行う場合、図7に示すように、被検物110の周縁領域A110では、傾斜が強いためにプローブ111の単位走査量あたりの変位量が大きくなる結果、測定精度が低下しやすいという問題がある。また、プローブ111の撓み変形により測定誤差が大きくなるという問題もある。
【0005】
この問題に対して、特許文献1には、被検物に対して軸方向が異なるプローブを備えた表面形状測定装置が記載されている。特許文献1の装置では、プローブの軸方法が異なるため、単位走査量あたりの変位量が適切な大きさとなる。
また、特許文献2には、被検物であるワークの姿勢を制御して単位走査量あたりの変位量を適切にしつつワークの表面形状を走査して表面形状の測定を行う表面形状測定装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−121260号公報
【特許文献2】特許第3923945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の表面形状測定装置では、軸方向が異なるプローブを備えても、あらゆる形状のワークに対応できるわけではないので、必ずしも汎用性が高いとは言えない。また、被検物と軸方向が平行なプローブを他に備える場合は、装置製造コストの上昇につながるという問題がある。さらに、プローブ間の感度差を校正する必要があるが、感度を完全に合わせることが困難という問題もある。
【0008】
さらに、特許文献1及び特許文献2に記載の表面形状測定装置で表面形状測定を行う場合、被検物全体の表面形状を得るために、プローブと被検物との位置関係が異なる状態で取得された複数の部分表面形状データをつなぎ合わせる作業(フィッティング)が必要となる。この場合、各部分表面形状データのチルト量等も考慮する必要があるため、単なるデータ点列間のフィッティングではノイズが入りやすく、精度の向上が困難であるという問題がある。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みて成されたものであり、プローブを用いて、容易かつ高精度に被検物の表面形状を測定することができる表面形状の測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の表面形状測定方法は、プローブを被検物に接触させ、前記プローブと前記被検物とを相対移動させることにより、前記プローブに前記被検物の表面を走査させて前記被検物の表面形状を測定する表面形状の測定方法であって、前記被検物の第1の領域の表面形状データである第1表面形状データを取得する第1取得工程と、前記第1表面形状データと少なくとも一部が重複する前記被検物の第2の領域の表面形状データである第2表面形状データを取得する第2取得工程と、前記第1表面形状データのうち、前記第2表面形状データと重複する領域のデータに対して、近似関数による当てはめを行って近似曲線を取得する近似曲線取得工程と、前記近似曲線を用いて前記第2表面形状データの補正量を算出する補正量算出工程と、算出された前記補正量に基づいて、前記第2表面形状データ全体を座標変換する座標変換工程と、前記第1表面形状データと、前記座標変換が行われた前記第2表面形状データとを統合する工程とを備えることを特徴とする。
【0011】
本発明の表面形状測定方法によれば、フィッティングに必要な補正量を求める際、点列データに対して近似関数による当てはめを行うことによって、シフトやチルトといった調整可能な幾何学パラメータを自由に設定することができるため、フィッティングを行うに当たっての汎用性が大きい。
【0012】
前記第2取得工程においては、前記被検物と前記プローブとが前記第1取得工程と異なる位置関係に変化されてもよい。この場合、プローブに対する被検物の傾斜角を適切に調整して誤差の発生を抑えつつ、第1表面形状データ及び第2表面形状データを取得することができる。
【0013】
前記近似関数は、NURBS関数であってもよい。この場合、ゴミや異物の影響を受けにくく、また欠落しているデータを補間した当てはめが行えるため、被検物の実際の表面形状に即した補間値または近似値が算出できる。また、当てはめを行う対象である表面形状データの一部の点列データに対して、各点ごとに重み付けを変えることができるので、ノイズを好適に除去して取得される表面形状データの精度を向上させることができる。
【0014】
前記近似曲線取得工程においては、当てはめの対象となる前記第1表面形状データの点列データのうち、隣接する2つの点列データの差が所定値以上の場合に、前記2つの点列データの一方に対する前記NURBS関数の重み付けを小さくされてもよいし、当てはめの対象となる前記第1表面形状データの点列データのうち、所定の周波数に相当する周期の点列データの重み付けが変化されてもよい。
これらの場合、ユーザの逐次判断によらず、自動的にノイズ等を排除することができるので、フィッティングの効率をさらに向上させることができる。
【0015】
前記補正量算出工程においては、前記近似曲線と、前記近似曲線に対応する領域の前記第2表面形状データとの差の自乗和が最小となるように前記補正量が算出されてもよい。また、本発明の表面形状測定方法は、前記近似曲線に対応する領域の前記第2表面形状データに対して、近似関数による当てはめを行って第2近似曲線を取得する第2近似曲線取得工程をさらに備え、前記補正量算出工程において、前記近似曲線と、前記第2近似曲線との相関係数が最大となるように前記補正量が算出されてもよい。
これらの場合、補正量算出のための処理を簡略化することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の表面形状の測定方法によれば、プローブを用いて、容易かつ高精度に被検物の表面形状を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態の表面形状測定方法を実行する表面形状測定装置の一例を示す図である。
【図2】同表面形状測定装置を用いた同表面形状測定方法の流れを示すフローチャートである。
【図3】(a)から(c)は、いずれも同表面形状測定方法における同形状測定装置の動作を示す図である。
【図4】被検物における部分表面形状データの領域設定の一例を示す図である。
【図5】(a)は、同部分表面形状データの一例を、(b)及び(c)は、それぞれ同部分表面形状データに対する近似関数の当てはめの一例を示す図である。
【図6】同部分表面形状データに対する近似関数の当てはめの一例を示す図である。
【図7】従来のプローブ式表面形状測定装置におけるプローブと被検物との位置関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態について、図1から図6を参照して説明する。なお、特に説明のない限り、「前方」および「後方」とは、それぞれ図1に示すZ軸の負方向及び正方向を指すものとする。
図1は、本実施形態の表面形状の測定方法(以下、単に「形状測定方法」と称する。)を行う表面形状測定装置(以下、単に「形状測定装置」と称する。)1の一例を示す図である。形状測定装置1は、プローブ11が取り付けられた触針子部10と、被検物100が支持される被検物保持部20と、触針子部10を移動させるためのY軸駆動機構30と、被検物保持部20を移動させるためのX軸駆動機構40と、形状測定装置1全体の動作制御及び取得された表面形状データの処理を行うパソコン50とを備えている。
【0019】
触針子部10は、プローブ11と、プローブ11が挿通される静圧軸受12と、プローブ11の傾斜角を調整する傾斜角調整部13とを備えている。
プローブ11は公知の構成のものを適宜選択して採用可能であり、静圧軸受12内を滑らかに摺動可能に静圧軸受12に挿通されている。静圧軸受12はプローブ11を前方に向けてベース平板14上に固定される。プローブ11の後端側には、プローブ11の変位量を検出するための変位計15が取り付けられている。
【0020】
傾斜角調整部13は、前方の支点13Aと、Y軸方向に伸縮可能な伸縮部13Bとを備えており、プローブ11の傾斜角を変化させて、被検物100の表面に接触させる。伸縮部13Bとしては、圧電アクチュエータやねじと角度調整部材とからなる機構等を採用することができる。
【0021】
被検物保持部20は、基台2上に取り付けられたベース21と、ベース21に取り付けられた揺動部22とを備えている。被検物100は、揺動部22に固定されてプローブ11に対向配置される。揺動部22は、ベース21に対して揺動可能であり、揺動部22とベース21との位置関係を変化させることによって、後述するように、揺動部22に取り付けられた被検物100とプローブ11とがなす角度を変化させることができる。
なお、本実施形態では、測定される表面が球面状の被検物を示しているが、測定される表面の形状には特に制限はない。
【0022】
Y軸駆動機構30は、触針子部10と基台2との間に設けられており、Y軸方向に移動することによって、傾斜角調整部13が設定したプローブ11の傾斜角を保持したまま、触針子部10を上下に移動させることができる。Y軸駆動機構30の後方には、Y軸駆動機構の移動量を検出するための変位計31が設けられている。
【0023】
X軸駆動機構40は、被検物保持部20のベース21と基台2との間に設けられており、X軸方向に移動することによって、被検物保持部20全体をX軸方向に移動させることができる。X軸駆動機構40の前方には、被検物保持部20のX軸方向の変位を検出する変位計41が設けられる。
【0024】
パソコン50は、使用者の入力や指示等を受け付ける入力部51と各種情報を表示する表示部52とを備えている。パソコン50は、傾斜角調整部13、揺動部22、Y軸駆動機構30、及びX軸駆動機構40に接続されており、これらの機構の動作を制御可能である。また、パソコン50は、各変位計15、31、及び41とも接続されており、これらの検出値を受信して被検物100の複数の部分表面形状データに再構成するとともに、後述するように各部分表面形状データをつなぎ合わせて被検物100全体の表面形状データを取得する処理を行う。
【0025】
上記の構成を備えた形状測定装置1の動作について、以下に説明する。図2は、形状測定装置1を用いた本実施形態の形状測定方法の流れを示すフローチャートである。
本形状測定方法は、被検物100の部分表面形状データを複数取得する部分形状データ取得工程S10と、部分表面形状データの一部に対する近似曲線を取得する近似曲線取得工程S20と、得られた近似曲線に基づいて、各部分表面形状データの補正量を算出する補正量算出工程S30と、得られた補正量に基づいて部分表面形状データの座標変換を行う座標変換工程S40と、座標変換後の部分形状データをつなぎ合わせて被検物全体の表面形状データを取得する部分形状データ統合工程S50とを備えている。
【0026】
まず、ステップS10において、プローブ11を用いて被検物100の表面形状データが取得される。その詳細は、公知のプローブ式表面形状測定装置を使用したデータ取得とおおむね同様であるが、以下の通りである。
【0027】
まず使用者は、被検物100を、形状測定を行う面が触針子部10に対向するように、被検物保持部20の揺動部22に支持固定する。次に、使用者は傾斜角調整部13を操作して、ベース平板14の後部を上方に移動させると、ベース平板14は支点13Aを支点として傾斜する。静圧軸受12で保持されたプローブ11は、自身の重力によって、静圧軸受12内を滑らかに摺動する。摺動によってプローブ11の先端は前方に向かって移動し、被検物100の表面に接触して停止する。
【0028】
この状態で、パソコン50によってX軸駆動機構40とY軸駆動機構30とを駆動し、被検物100とプローブ11とを相対移動させることにより、被検物100の表面をプローブ11によって走査させる。各変位計15、31及び41の検出値はパソコン50に入力される。
【0029】
被検物100のような球面状の表面を有する被検物の場合、被検物の中心付近の領域は、図3(a)に示すように、被検物100とプローブ11とが正対した状態で問題なくプローブ11による表面の走査を行うことができる。
【0030】
一方、被検物100の周縁付近の領域では、表面の傾斜が大きくなるので、図3(a)のような位置関係で走査を行うと、誤差が発生しやすく、かつその誤差も大きくなりやすい。そのため、使用者はパソコン50を介して揺動部22を揺動させ、図3(b)や図3(c)に示すように、被検物100の姿勢を変化させ、当該領域がプローブ11に対してなす角度を小さく調節して走査を行う。なお、図3(a)から図3(c)は、被検物100等を上方から見た図であるため、図3(b)及び図3(c)には揺動部22が水平方向に揺動された状態が示されているが、被検物の表面において垂直方向にも傾斜角の大きい領域がある等の場合は、必要に応じて揺動部22が垂直方向に揺動されてからプローブ11による走査が行われてもよい。
【0031】
このようにして、被検物100の表面がプローブ11によって走査された後、パソコン50は各変位計15、31及び41から受信した検出値をプローブ11と被検物100との位置関係ごとにまとめて再構成し、複数の部分表面形状データを取得する。
【0032】
図4に、部分表面形状データの一例を示す。図4では、被検物100の表面に対して、プローブ11と被検物とを正対させて走査した中心付近の領域R1と、揺動部22を動作させて、プローブ11と被検物との位置関係を変化させた状態で走査された領域R1周辺の領域R2ないしR5の計5つの領域の部分表面形状データが取得される。
【0033】
各部分表面形状データは、後の工程においてフィッティングが可能となるように、少なくとも1つの他の部分表面形状データと重複領域を共有するようにその範囲が設定される。なお、図4に示した領域R1ないしR5は一例であり、各部分表面形状データが少なくとも1つの他の部分表面形状データと重複領域を共有していれば、領域の数や位置は自由に設定されて構わない。
【0034】
続くステップS20の近似曲線取得工程において、使用者は、ステップS10で取得された任意の領域の部分表面形状データのうち、他の部分表面形状データと重複する領域の中から、フィッティングの指標となる指標領域を抽出する。そしてパソコン50が当該指標領域の部分表面形状データに対して近似曲線によるあてはめを行い、フィッティングの基準となる近似曲線を取得する。
任意の領域の選択は使用者が自由に行うことができるが、説明の便宜上、以下では、プローブ11と被検物100とが正対して取得された領域R1(第1の領域)の部分表面形状データ(第1表面形状データ)をマスターデータとして、周辺の領域R2ないしR5(第2の領域)のフィッティングを行う例を説明する。
【0035】
図4に示すように、領域R1は、領域R2ないしR5のうち2つの領域と重複する重複領域SR1ないしSR4を有している。このような領域内から指標領域を抽出すると、2つの領域とフィッティングを行うことができる。例えば、重複領域SR1内の指標領域を用いれば、重複領域SR1を共有する領域R2及びR5とのフィッティングを行うことができる。同様に、重複領域SR3内の指標領域を用いれば、領域R3及びR4とのフィッティングを行うことができる。したがって、互いに対向する重複領域SR1及びSR3、又はSR2及びSR4に指標領域を設定すれば、すべての領域のフィッティングが可能となる。
【0036】
指標領域としては、例えば微細な傷等を有する領域を用いることができる。指標領域が備えるべき形状等について特に制限はないが、抽出を行う重複領域内に偶然同一の形状が存在すると、指標領域の設定を誤った結果、フィッティングにおいて誤差が発生する可能性があるので、非対称性を持った形状を含む領域が好ましい。
【0037】
指標領域を設定した後、使用者は、領域R1の部分表面形状データのうち、重複領域SR1に設定した指標領域の部分を取り出して、数1に示すNURBS関数による当てはめを行い、当該部分の部分表面形状データの近似曲面を示す曲線(近似曲線)を関数として取得する。なお、当てはめの手法としては、NURBS関数の他に最小自乗法、線形/非線形計画法、探索法等があり、いずれの手法を用いて当てはめが行われてもよい。
【0038】
【数1】

【0039】
NURBS関数においては、ωの値を変更することによって座標ごとに重み付けをすることができる。そこで、ある座標の値が明らかに測定エラーや被検物100の表面に付着したゴミ等による不正値であると判断できる場合は、ユーザは当該座標に重み付けを与えない、あるいは他の座標よりも重み付けを小さくすることによって、より被検物の表面形状に忠実な近似曲線を取得することができる。
【0040】
例えば、図5(a)に示す指標領域の表面形状のデータDMにおいて、点列データC1がゴミ等による不正値であると判断できる場合、通常の多項式等を用いた当てはめでは、図4(b)に示すように、点列データC1のノイズを含む近似曲線A1が取得されるが、NURBS関数を用いて点列データC1の重み付けを小さくすると、図4(c)に示すように、点列データC1の影響が排除され、あるいは補正された、より被検物100の表面形状に忠実な近似曲線A2がパソコン50によって取得される。
【0041】
不正値か否かの判断は、使用者が表面形状データを見て逐次判断し、パソコン50の入力部51を介して行ってもよいし、当該判断のための条件をプログラム等に設定して自動判別させてもよい。例えば、所定の範囲から外れる外れ値を不正値と判断する、あるいは、隣接する点列データ間の差が所定値以上のときに、点列データの平均値からより離れた点列データの方を不正値と判断するなどの条件が挙げられる。このようにすれば、ユーザが逐次判断する場合に比べてより作業効率を向上させることができる。
同様の手順で、パソコン50は、領域R1の重複領域SR3における指標領域の近似曲線を取得する。
【0042】
続くステップS30の補正量算出工程において、パソコン50は、まず領域R2及びR5の部分表面形状データについて、重複領域SR1内の指標領域の表面形状データを取り出し、ステップS20で取得された近似曲線と当該表面形状データとの差の自乗和が最小となるように、最小自乗法によって、周辺領域R2及びR5の補正量を算出する。補正量は、例えば、x軸、y軸、及びz軸それぞれに沿った平行移動量dx、dy、dzと、それぞれの軸周りのチルト量da、db、dc、及び光軸方向のシフトに伴う拡大・縮小変形の相似倍率Pの7種類を設定することができる。これにより、領域R2及びR5の補正量が算出される。
このとき、基準となる領域R1の指標領域の部分表面形状データが近似曲線を取得することによって関数化されているので、微分等を容易に行うことによってチルト量等も容易に算出することができるほか、それ以外の補正パラメータ(例えば、拡大・縮小等)も自由に導入することができる。
さらに、パソコン50は領域R3及びR4の部分表面形状データについて、重複領域SR3内の指標領域の表面形状データを取り出し、同様の手順で領域R3及びR4の補正量を算出する。こうして、フィッティングにより統合される領域R2ないしR5のすべてに対してそれぞれ異なる補正量が算出される。
【0043】
ステップS40の座標変換工程において、パソコン50は、領域R2ないしR5の部分表面形状データの全座標値を、ステップS30で算出された各領域の補正量に基づいて変換する。
【0044】
最後にステップS50において、パソコン50は、座標変換された領域R2ないしR5の部分表面形状データと領域R1の部分表面形状データとを、それぞれの重複領域が重畳するように統合し、すべての部分表面形状データのフィッティングを行う。こうして被検物100全体の表面形状データが取得されて一連の動作が終了する。
【0045】
本実施形態の形状測定方法によれば、近似曲線取得工程S20において、NURBS関数を用いて領域R1内の指標領域における部分表面形状データの近似曲線が取得され、補正量算出工程S30において、当該近似曲線に基づいて他の領域R2ないしR5の補正量が算出される。そして座標変換工程S40において当該補正量に基づく領域R2ないしR5の座標変換が行われた後、ステップS50においてすべての部分形状データのフィッティングが行われて被検物100全体の表面形状データが取得される。
したがって、ゴミ等の不純物や測定エラーによる不正値を排除して、より正確な近似曲線に基づくデータ統合を行うことができ、精度の高い表面形状データを得ることができるとともに、関数化により補正パラメータの自由度が増し、汎用性の高いフィッティングを行うことができる。
【0046】
また、揺動部22を揺動させて被検物100の姿勢を変えて部分表面形状を測定しているにもかかわらず、揺動部22の変位量の情報を用いずに各領域の補正量を高精度に算出してフィッティングを行うことができる。したがって、揺動部22にエンコーダ等が設けられていないような形状測定装置についても本実施形態の形状測定方法を適用することが可能である。
さらに、揺動部22の挙動に機械的誤差が発生しやすいような場合であっても、このような誤差が適切に排除されて、高精度な表面形状測定を行うことができる。
【0047】
なお、揺動部22の変位量を取得可能な構成を有するような形状測定装置を用いて本発明の形状測定方法を実施する場合、取得された変位量を補正量算出の際の初期値として利用してもよい。このようにすると、補正量算出のための演算時間が短縮でき、かつ誤った極値へ収束するといったエラーが回避できることで精度を向上させることができる。
【0048】
本実施形態においては、基準となる領域R1の指標領域の近似曲線のみが取得され、他の領域R2ないしR5の指標領域における点列データを用いて補正量が算出されて統合される例を説明したが、これに代えて、他の領域の指標領域についても同様の方法で近似曲線を取得し(第2近似曲線取得工程)、2つの近似曲線の相関係数が最大となるように補正量が算出されて統合が行われてもよい。
【0049】
また、本実施形態においては、補正量の算出に最小自乗法を用いる例を説明したが、これに限らず、線形/非線形計画法、探索法等の他の手法が用いられてもよい。
また、近似曲線を取得する際の座標の重み付けについては、特定の周波数に相当する周期の点列データの重み付けを変化させる、いわゆる周波数フィルタを用いて行ってもよい。この場合、ノイズ除去作業を自動化することができ、より容易に表面形状測定を行うことができる。
【0050】
さらに、上述したNURBS関数のメリットはなくなるものの、一般的な多項式等によって近似曲線を取得して、データ統合を行ってもよい。この場合でも明らかなノイズを使用者が特定して除去し、フィッティングの精度を向上させることは可能である。
ただし、NURBS関数を用いた場合、座標に対する重み付けは、1かゼロかの択一的なものでなく、ゼロから1まで無段階に設定することが可能である。したがって、例えば図5(a)に示したデータDMの点列データC1がノイズである可能性があるが、完全にノイズであるとも断定できない等の場合、NURBS関数を用いれば、図6に示すように、点列データC1に対して中間的な重み付けを行った近似曲線A3を取得することも可能である。このように、部分表面形状データに対してより細かい調整を行ってより精度の高い表面形状測定を行うことができる。
【0051】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0052】
例えば上述した各実施形態においては、指標領域のマスターデータをすべて同一の領域R1から抽出する例を説明したが、これに代えて、各領域と隣接する他の領域との重複領域でそれぞれ異なる指標領域を抽出し、領域ごとに異なる指標領域に対する近似曲線を用いて補正量が算出されてもよい。
【0053】
このとき、例えば、時計回りあるいは反時計回りに順次隣接する領域の部分形状データを、両者の重複領域に存在する指標領域を用いてフィッティングし、最後の領域を統合して全体の表面形状データを取得する際に、あわせて最初に基準とした領域に対しても補正量の算出を行い、検出された補正量の誤差に基づいてすべて領域の統合に対して補正を行ってもよい。
【符号の説明】
【0054】
11 プローブ
100 被検物
R1 領域(第1の領域)
R2、R3、R4、R5 領域(第2の領域)
S20 近似曲線取得工程
S30 補正量算出工程
S40 座標変換工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プローブを被検物に接触させ、前記プローブと前記被検物とを相対移動させることにより、前記プローブに前記被検物の表面を走査させて前記被検物の表面形状を測定する表面形状の測定方法であって、
前記被検物の第1の領域の表面形状データである第1表面形状データを取得する第1取得工程と、
前記第1表面形状データと少なくとも一部が重複する前記被検物の第2の領域の表面形状データである第2表面形状データを取得する第2取得工程と、
前記第1表面形状データのうち、前記第2表面形状データと重複する領域のデータに対して、近似関数による当てはめを行って近似曲線を取得する近似曲線取得工程と、
前記近似曲線を用いて前記第2表面形状データの補正量を算出する補正量算出工程と、
算出された前記補正量に基づいて、前記第2表面形状データ全体を座標変換する座標変換工程と、
前記第1表面形状データと、前記座標変換が行われた前記第2表面形状データとを統合する工程と、
を備えることを特徴とする表面形状の測定方法。
【請求項2】
前記第2取得工程において、前記被検物と前記プローブとが前記第1取得工程と異なる位置関係に変化されることを特徴とする請求項1に記載の表面形状の測定方法。
【請求項3】
前記近似関数は、NURBS関数であることを特徴とする請求項1又は2に記載の表面形状の測定方法。
【請求項4】
前記近似曲線取得工程において、当てはめの対象となる前記第1表面形状データの点列データのうち、隣接する2つの点列データの差が所定値以上の場合に、前記2つの点列データの一方に対する前記NURBS関数の重み付けを小さくすることを特徴とする請求項3に記載の表面形状の測定方法。
【請求項5】
前記近似曲線取得工程において、当てはめの対象となる前記第1表面形状データの点列データのうち、所定の周波数に相当する周期の点列データの重み付けを変化させることを特徴とする請求項3に記載の表面形状の測定方法。
【請求項6】
前記補正量算出工程において、前記近似曲線と、前記近似曲線に対応する領域の前記第2表面形状データとの差の自乗和が最小となるように前記補正量が算出されることを特徴とする請求項1に記載の表面形状の測定方法。
【請求項7】
前記近似曲線に対応する領域の前記第2表面形状データに対して、近似関数による当てはめを行って第2近似曲線を取得する第2近似曲線取得工程をさらに備え、
前記補正量算出工程において、前記近似曲線と、前記第2近似曲線との相関係数が最大となるように前記補正量が算出されることを特徴とする請求項1に記載の表面形状の測定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−64550(P2011−64550A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−214859(P2009−214859)
【出願日】平成21年9月16日(2009.9.16)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】