説明

表面被覆切削工具およびその製造方法

【課題】 高温時の耐酸化性に優れるとともに、靭性にも優れかつ被膜の層間剥離を生じることがない被膜を有する表面被覆切削工具およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】 被膜は、化学蒸着法により形成される第1被膜と物理蒸着法により形成される第2被膜および第3被膜とを含み、第1被膜は、基材1と第2被膜との間に位置するものであって、α型酸化アルミニウムを少なくとも一層含むものであり、かつ圧縮残留応力を有し、第2被膜は、周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、Al、およびSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の化合物よりなり、かつ圧縮残留応力を有し、第3被膜は、第1被膜と第2被膜との間に位置するものであって、α型酸化アルミニウム、γ型酸化アルミニウムまたは非晶質酸化アルミニウムによって構成されるものであることを特徴とする表面被覆切削工具が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上に被膜を形成してなる表面被覆切削工具およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、切削工具の靭性や耐摩耗性を向上させるために基材の表面に各種の被膜を形成した表面被覆切削工具が用いられてきた。昨今、切削加工技術は高速切削に対する要求が高く、これに伴い切削工具における刃先温度もより高温に曝されるケースが増加している。このため、切削工具の基材上に形成される被膜に対しても、高温時における耐酸化性の向上が要求されている。
【0003】
このような要求を満たす被膜としては、たとえばAlやCrとともにSiを含んだ窒化物や炭窒化物からなる被膜(特許文献1、特許文献2)や酸化アルミニウムからなる被膜が提案されている。中でも、酸化アルミニウムからなる被膜は高い耐摩耗性が示されるため最も注目されている被膜の1つである。
【0004】
たとえば、特定元素の化合物からなる第1被膜上に酸化アルミニウムからなる第2被膜を物理蒸着法(PVD法)により形成した構成のものが提案されている(特許文献3)。この提案は、従来、最外層としての酸化アルミニウム被膜が化学蒸着法(CVD法)により形成されていたことに起因する問題、すなわち酸化アルミニウム被膜に引張応力が残留するために靭性が劣るという問題を解決するためになされたものである。しかし、第1被膜上にα型のような結晶性の高い酸化アルミニウム被膜を形成させるためには、たとえこの提案のようにPVD法を採用するにしてもかなりの高温が適用されることになり、第1被膜が有する圧縮応力はアニールされて解放されてしまうことから、結果的に高い靭性を得ることはできなかった。
【0005】
これに対して、CVD法により形成した酸化アルミニウムからなる被膜上に、TiAlNからなる被膜をPVD法により形成した構成のものが提案されている(特許文献4、特許文献5)。しかし、この提案においては、酸化アルミニウム被膜が引張応力を有したものとなることから結果的に高い靭性を得ることができなかった。しかも、CVD法による酸化アルミニウムからなる被膜上にTiAlNからなる被膜を形成する場合、両被膜間で密着性に劣る場合があり、TiAlNからなる被膜が剥離することがあった。このような剥離の問題を防止する提案は未だなされておらず、上記特許文献1および2においても、そのような剥離を防止するためにSiを含んだ被膜と酸化アルミニウムからなる被膜とを併用することについては全く言及されていない。
【0006】
また、下記特許文献6には、CVDで作製した硬質層被覆切削工具にショットブラストを行い、さらにPVD法で硬質層を被覆したことを特徴とする被覆切削工具が開示されている。ここで、特許文献6の切削工具において、ショットブラスト処理の目的は、引っ張り応力の解放とあり、ショットブラスト処理により、膜中へ亀裂を導入し、膜と基材との熱膨張係数差を解消することにより、結果として引っ張り応力を解放することを目的とするものと考えられる。
【0007】
しかし、当該発明において、ショットブラストしたCVD工具の耐欠損性が不十分である旨の示唆があり、また、圧縮応力の付与については全く目的とするところではない。さらに、特許文献6においては、鋼球を用いたショットブラストを行っているが、鋼球を用いた場合、CVD被膜に鉄粉が付着し、当該CVD被膜にPVDによる被覆を行っても、CVD層とPVD層との界面において膜の剥離が生じやすいという問題があった。
【特許文献1】特許第2793773号公報
【特許文献2】特開2004−106183号公報
【特許文献3】特許第3159572号公報
【特許文献4】特開2002−263910号公報
【特許文献5】特開2002−263911号公報
【特許文献6】特開平6−57409号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の問題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、高温時の耐酸化性に優れるとともに、靭性にも優れかつ被膜の層間剥離を生じることがない被膜を有する表面被覆切削工具およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明を完成させるに至ったものである。
【0010】
本発明の1つ局面によれば、基材と、該基材上に形成された被膜とを備える表面被覆切削工具であって、記被膜は、化学蒸着法により形成される第1被膜と物理蒸着法により形成される第2被膜および第3被膜とを含み、第1被膜は、基材と第2被膜との間に位置するものであって、α型酸化アルミニウムを少なくとも一層含むものであり、かつセラミック粒子を用いて機械的衝撃を与える処理によって付与された圧縮残留応力を有し、第2被膜は、周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、Al、およびSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素、および硼素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物よりなる少なくとも一層によって構成されるものであり、かつ圧縮残留応力を有し、第3被膜は、第1被膜と第2被膜との間に位置するものであって、α型酸化アルミニウム、γ型酸化アルミニウムまたは非晶質酸化アルミニウムによって構成されるものであることを特徴とする表面被覆切削工具が提供される。
【0011】
好ましくは、第2被膜のうち少なくとも一層は、Siを含む。
【0012】
好ましくは、第3被膜は、第1被膜の直上に形成されている。
【0013】
好ましくは、第2被膜は前記第3被膜の直上に形成されている。
【0014】
好ましくは、第1被膜を構成するα型酸化アルミニウムおよび/または第3被膜を構成するα型酸化アルミニウム、γ型酸化アルミニウムまたは非晶質酸化アルミニウムは、Zrおよび/またはHfの酸化物との複合酸化物である。
【0015】
好ましくは、第1被膜中の平均圧縮残留応力σ1と、第2被膜の平均圧縮残留応力σ2とは、σ1<σ2の関係を有する。
【0016】
好ましくは、第1被膜の平均圧縮残留応力σ1は、1〜6GPaの範囲内であり、第2被膜の平均圧縮残留応力σ2は、1〜10GPaの範囲内である。
【0017】
好ましくは、被膜は、さらに第4被膜を含み、第4被膜は、第2被膜上に形成され、かつTi、Cr、Si、V、Al、ZrおよびHfからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素および硼素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物によって構成される。
【0018】
好ましくは、基材は、超硬合金、サーメット、高速度鋼、セラミックス、立方晶型窒化硼素焼結体、またはダイヤモンド焼結体のいずれかにより構成される。
【0019】
本発明の別の局面によれば、上記いずれかに記載の表面被覆切削工具の製造方法であって、第1被膜を化学蒸着法により形成する第1ステップと、第3被膜を物理蒸着法により形成する第2ステップと、第2被膜を物理蒸着法により形成する第3ステップと、を含み、第1ステップにより形成された第1被膜に、第2ステップの前に、セラミック粒子を用いて機械的衝撃を与える処理を行うことを特徴とする表面被覆切削工具の製造方法が提供される。
【0020】
好ましくは、機械的衝撃を与える処理は、湿式で行われる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の表面被覆切削工具は、上述の通りの構成を有することにより、高温時の耐酸化性に優れるとともに、靭性にも優れかつ被膜の層間剥離を生じることがない被膜を有するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。なお、以下の実施の形態の説明において図面を用いて説明する場合は、当該図面において同一の参照符号を付したものは、同一部分または相当部分を示す。また、各図面はあくまでも説明用の模式的なものであって、各部位を示すサイズの比率は実際の比率と異なる場合を含んでいる。
【0023】
<表面被覆切削工具>
本発明の表面被覆切削工具は、基材と、該基材上に形成された被膜とを備えるものである。このような基本的構成を有する本発明の表面被覆切削工具は、ドリル、エンドミル、フライス加工用または旋削加工用刃先交換型チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップ、またはクランクシャフトのピンミーリング加工用チップとして極めて有用である。
【0024】
<基材>
本発明の表面被覆切削工具の基材としては、このような切削工具の基材として知られる従来公知のものを特に限定なく使用することができる。たとえば、超硬合金(たとえばWC基超硬合金、WCの他、Coを含み、あるいはさらにTi、Ta、Nb等の炭窒化物を添加したものも含む)、サーメット(TiC、TiN、TiCN等を主成分とするもの)、高速度鋼、セラミックス(炭化チタン、炭化硅素、窒化硅素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウムおよびこれらの混合体など)、立方晶型窒化硼素焼結体、ダイヤモンド焼結体等をこのような基材の例として挙げることができる。このような基材として超硬合金を使用する場合、そのような超硬合金は、組織中に遊離炭素やη相と呼ばれる異常相を含んでいても本発明の効果は示される。
【0025】
なお、これらの基材は、その表面が改質されたものであっても差し支えない。たとえば、超硬合金の場合はその表面に脱β層が形成されていたり、サーメットの場合には表面硬化層が形成されていても良く、このように表面が改質されていても本発明の効果は示される。
【0026】
ここで、本発明の表面被覆切削工具は、図1に示すように、基材1の上に、被覆膜が形成されるものであり、工具表面において、すくい面2、逃げ面3、および刃先稜線部4を含むものである。
【0027】
<被膜>
本発明の表面被覆切削工具の上記基材上に形成される被膜は、少なくとも後述の第1被膜と第2被膜と第3被膜とを含むものである。該第1被膜は、上記基材と後述の第2被膜との間に位置するようにして形成される。また、第3被膜は、第1被膜と第2被膜との間に位置するようにして形成される。
【0028】
また、このような被膜は、これらの第1被膜〜第2被膜以外に、第4被膜や他の被膜を含むことができる。第4被膜は、上記第2被膜上に形成される。
【0029】
なお、このような被膜の合計厚みは、1μm以上30μm以下とすることが好ましく、より好ましくはその上限が25μm以下、さらに好ましくは20μm以下、その下限が2μm以上、さらに好ましくは3μm以上である。その厚みが1μm未満の場合、耐摩耗性や耐酸化性等の特性が十分に示されない場合があり、30μmを超えると耐欠損性が低下するため好ましくない。以下、これらの被膜についてさらに詳細に説明する。
【0030】
<第1被膜>
本発明の第1被膜は、化学蒸着法(CVD法)により単層または多層として形成され、基材と第2被膜との間に位置するものであって、α型酸化アルミニウム(α−Al23)を少なくとも一層含むによって構成されるものであり、かつ後述するセラミックを用いた機械的衝撃を与える衝撃によって付与された圧縮残留応力を有するものである。本明細書において、α型酸化アルミニウムをα型アルミナという場合もある。
【0031】
このような第1被膜は、高温時の耐酸化性に優れるとともに、高硬度を有する上、αアルミナをCVDで成膜する際には800℃以上の高温が必要であり、基材との間で強い密着力を有するため極めて優れた耐摩耗性を有するものである。しかも、κ型アルミナよりも粒界強度に優れるα型アルミナをCVD法により成膜しているので、α型アルミナの優れた粒界強度を活かしてα型アルミナ中への亀裂の導入を抑制し、さらにα型アルミナ中に後述の機械的衝撃処理により大きな圧縮応力が導入されているため優れた靭性を有し、特に、α型アルミナが残留圧縮応力を有するので耐欠損性が飛躍的に向上される。また、圧縮応力を導入する際、後述のとおりセラミック粒子を用いた機械的衝撃を施しているので、被膜表面を平滑にすることができるものであり、CVD法により成膜した表面が金属等によって汚染され、第3被膜との密着力に悪影響を与えることを防止している。
【0032】
なお、α型アルミナへの亀裂の導入が少ないことは、機械的衝撃処理がかかりにくい部位(穴付きチップの場合は穴の中)でのα型アルミナ膜中およびその下層のCVD膜中に存在する亀裂本数と、機械的衝撃処理が施された部位においてα型アルミナ膜中およびその下層のCVD膜中に存在する亀裂本数を比較することによって確認できる。
【0033】
本発明は、このように最外層ではなく内層となる第1被膜として、α型酸化アルミニウムからなる被膜を化学蒸着法により形成し、かつセラミックを用いた機械的衝撃を与える処理を行うことを特徴の1つとしている。これにより、該被膜が単にCVD法により形成される場合と比べて、α型アルミナ中に引っ張り応力の解放ではなく、圧縮応力を導入することができ、かつ、第3被膜との密着性を向上させることができる。さらに、靭性の向上に資する被膜の上にこのα型酸化アルミニウム被膜を形成するといった従来例のような構成ではないため、靭性の向上に資する被膜の圧縮応力がアニールされて靭性が低下するという問題を解消することができる。
【0034】
なお、このような圧縮残留応力を有するα型酸化アルミニウム層は工具の全面である必要はなく、切刃として作用するにげ面、すくい面および刃先稜線部の少なくとも一部に存在すれば効果が期待できる。
【0035】
このような第1被膜を形成する化学蒸着法としては、従来公知の化学蒸着法であればいずれのものも採用することができ、たとえば、HT−CVD法、MT−CVD法、MO−CVD法等を挙げることができる。これらの中でも、特にHT−CVD法、MT−CVD法を採用することが好ましい。
【0036】
また、上記圧縮残留応力とは「−」(マイナス)の数値(単位:本発明では「GPa」を使う)で表される応力をいう。なお、数値を使わずに圧縮残留応力の大小を表現する場合は、上記数値の絶対値が大きくなる程、圧縮残留応力が大きいと表現し、また上記数値の絶対値が小さくなる程、圧縮残留応力が小さいと表現するものとする。一般に、圧縮残留応力が大きくなる程高い靭性を示す。また、引張残留応力とは、「+」(プラス)の数値(単位:本発明では「GPa」を使う)で表される応力をいう。
【0037】
なお、このような残留応力は、X線応力測定装置を用いたsin2ψ法により測定することができ、工具のすくい面または逃げ面の平坦部に位置する任意の点3点(これらの各点は当該部位の応力を代表できるように互いに0.5mm以上の距離を離して選択することが好ましい)以上の応力を該sin2ψ法により測定し、その平均値を求めることにより測定することができる。
【0038】
このようなX線を用いたsin2ψ法は、多結晶材料の残留応力の測定方法として広く用いられているものであり、たとえば「X線応力測定法」(日本材料学会、1981年株式会社養賢堂発行)の54〜66頁に詳細に説明されている方法を用いれば良い。
【0039】
このような第1被膜の残留応力、特にα型アルミナの残留応力は、上記の通り、−6GPa以上−0.1GPa以下、さらに好ましくはその上限が−0.2GPa以下、さらに好ましくは−0.3GPa以下、その下限が−5GPa以上、さらに好ましくは−4GPa以上の範囲の応力とすることが好適である。−0.1GPaを超える残留応力を有する場合には、靭性が劣る(耐欠損性が劣る)ことになる。一方、残留応力が−6GPa未満になると大きな圧縮応力を有することから被膜の自己破壊を生じる場合がある。
【0040】
また、このような第1被膜は、α型酸化アルミニウムによって構成されるものであるが、このα型酸化アルミニウムと、ZrまたはHfの少なくともいずれかの酸化物との複合酸化物によって構成されるものとすることもできる。ZrまたはHfを含有することにより、酸化アルミニウムの微細化による高硬度化や断熱性の向上という特性を付与することができる。
【0041】
なお、本発明のα型酸化アルミニウム層には、ZrおよびHf以外の金属(たとえば、B、Si、Ti、Cr、Y、Ybなど)を20原子%以下含有する場合も含む。
【0042】
ここで、α型酸化アルミニウムと、ZrまたはHfの少なくともいずれかの酸化物との複合酸化物とは、ZrまたはHfの少なくともいずれか一方または両方が上記α型酸化アルミニウムの結晶格子の正規の位置に置換型として入る場合、該結晶格子間に侵入型として入る場合、金属間化合物を形成する場合、非晶質として存在する場合等、いずれの場合の酸化物も含むものである。
【0043】
このような第1被膜は、0.5μm以上25μm以下の厚み(多層で形成される場合はその全体の厚み)を有することが好ましく、より好ましくはその上限が20μm以下、さらに好ましくは15μm以下、その下限が1μm以上、さらに好ましくは2μm以上である。その厚みが0.5μm未満の場合、十分な圧縮応力が付与できなくなるとともに十分な耐摩耗性を示さなくなる場合があり、25μmを超えると耐欠損性が低下するため好ましくない。
【0044】
<第2被膜>
本発明の第2被膜は、物理蒸着法(PVD法)により単層または多層として形成され、周期律表のIVa族元素(Ti、Zr、Hf等)、Va族元素(V、Nb、Ta等)、VIa族元素(Cr、Mo、W等)、Al、およびSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素、および硼素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物(ただしα型酸化アルミニウムは除く)の少なくとも一層によって構成されるものであり、かつ圧縮残留応力を有するものである。このような第2被膜は、高硬度で耐摩耗性に優れるとともに、極めて優れた靭性を示すものである。なお、このように物理蒸着法により形成された第2被膜は、圧縮残留応力を有し、膜厚方向に導入された亀裂を有さない被膜となる。
【0045】
このような第2被膜を物理蒸着法により形成するのは、第一に被膜に圧縮残留応力を付与するためである。このような物理蒸着法は、従来公知の物理蒸着法であればいずれのものも採用することができ、たとえばイオンプレーティング法、スパッタリング法等を挙げることができる。これらの中でも、特にカソードアークイオンプレーティング法、バランスドまたはアンバランスドマグネトロンスパッタリング法、または、これらを組み合わせた方法を採用することが好ましい。また、このような第2被膜は、上記の第1被膜上に形成されるものであって、特に第1被膜の直上に形成されていることが好ましい。
【0046】
そして、この第2被膜は、周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、Al、およびSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素、および硼素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物によって構成される。このような化合物としては、たとえば、TiAlN、TiAlSiN、TiAlCrSiN、AlCrN、AlCrSiN、TiZrN、TiAlMoN、TiAlNbN、TiSiN、AlCrTaV、AlTiVN、TiBTiGrHfN、CrSiWN、TiAlCN、TiSiCN、AlZrON、AlCrCN、AlHfN、CrSiBON、TiAlWN、AlCrMoCN、TiAlBN、TiAlCrSiBCNO等を挙げることができる。また、この第2被膜はこれらの化合物を5nm以上5μmの厚みで積層する場合を含む。
【0047】
また、この第2被膜のうち少なくとも一層は、より好ましくはSiを含むことが好適である。このような化合物としては、たとえば、TiAlSiN、AlCrSiN、TiAlCrSiN、TiSiN、CrSiBON、TiAlSiBN、AlCrSiCN等を挙げることができる。
【0048】
このように該化合物の構成元素としてSiを含むことにより、第3被膜に対する密着性がさらに向上したとともに、高温時の耐酸化性も飛躍的に向上したものとなる。このように高温時の耐酸化性の向上は、高速切削時に必要とされ、特に本発明のようにα型酸化アルミニウム、γ型酸化アルミニウムまたは非晶質酸化アルミニウムからなる第3被膜の上に形成される場合において有用となる。なぜなら、このような第3被膜は、低熱伝導性の被膜であることから、第2被膜に発生した熱は基材側に放熱され難く、以って第2被膜の温度上昇が顕著となり高温時の耐酸化性が特に要求されるからである。
【0049】
さらに本発明の第2被膜は、圧縮残留応力を有することから、高い靭性を示すものとなる。ここで、残留応力とは、上記の第1被膜について既に説明した通りの内部応力であって、好ましくは−10GPa以上−1GPa以下、さらに好ましくはその上限が−1.5GPa以下、さらに好ましくは−2GPa以下、その下限が−8GPa以上、さらに好ましくは−7GPa以上の範囲の応力とすることが好適である。−1GPaを超える残留応力を有する場合には、靭性が劣る(耐欠損性が劣る)ことになり、一方、残留応力が−10GPa未満になると圧縮応力が大きくなり過ぎて被膜の自己破壊による剥離を生じる場合がある。なお、このような圧縮残留応力は、第1被膜で説明したsin2ψ法を用いた同様の方法により測定することができる。また、第2被膜が多層で形成される場合には、最大の圧縮応力(その絶対値が最大となる圧縮応力)を有する層の応力を第2被膜の圧縮残留応力とするものとする。
【0050】
このような第2被膜は、0.3μm以上10μm以下の厚み(多層で形成される場合はその全体の厚み)を有することが好ましく、より好ましくはその上限が7μm以下、さらに好ましくは5μm以下、その下限が0.5μm以上、さらに好ましくは1μm以上である。その厚みが0.3μm未満の場合、十分な耐摩耗性が示されなくなるとともに十分な靭性を示さなくなる場合があり、10μmを超えると耐欠損性が低下するため好ましくない。
【0051】
<第3被膜>
本発明の第3被膜は、単層または多層であって、上記第1被膜と上記第2被膜との間に位置し、物理的蒸着法により形成されるものであって、第1被膜と第2被膜の両者に対して優れた密着力を有することにより、被膜の層間剥離を防止する作用を示すものである。当該物理的蒸着法としては、第2被膜において説明したものと同様のものを用いることができる。
【0052】
当該第3被膜は、セラミック粒子を用いた機械的衝撃処理を施された第1被膜の上に形成されているので、第1被膜との密着性に優れ、耐剥離性が向上する。当該機械的衝撃処理では、従来の鋼球などを用いたブラスト処理に伴う鉄粉の付着等が発生しないため、メディアによって被膜表面が汚染されることがなく、平滑な被膜表面を有するためである。さらに、第1被膜と同一の組成(酸化型アルミナ)を有するので、第1被膜との密着性はさらに向上し、耐剥離性がますます良好となる。
【0053】
このような第3被膜は、上記第1被膜と上記第2被膜との間に位置するものであって、α型酸化アルミニウム、γ型酸化アルミニウムまたは非晶質酸化アルミニウムによって構成される。特に、第1被膜直上に形成されることが好ましい。また、第3被膜が多層の場合は、結晶系の異なる酸化アルミニウムが交互に積層される場合や、連続して積層されている場合、また、ランダムに積層されている場合を含む。α型、γ型または非晶質酸化アルミニウムのいずれかが単層で形成されていてもよい。
【0054】
また、第3被膜は、物理的蒸着法により形成されているので、残留圧縮応力を有するものであり、結果として高い靭性および高い耐欠損性を示すものとなる。ここで、圧縮残留応力とは、上記の第1被膜について既に説明した通りの内部応力であるが、α型酸化アルミニウムを形成した場合は、被覆温度が700〜800℃と高温になるため、圧縮残留応力は1GPa以下の小さい値となりやすく、γ型や非晶質酸化アルミニウムは、X線の回折ピークが明瞭に現われにくく、sin2ψ法では残留応力を定量化することは難しい。ただし、膜断面を鏡面研磨し、被膜の膜厚方向に亀裂が導入されていないことが確認できれば、被膜中には圧縮残留応力または小さな引張残留応力が導入されていると考えることができる。
【0055】
このような第3被膜は、0.01μm以上3μm以下の厚み(多層で形成される場合はその全体の厚み)を有することが好ましく、より好ましくはその上限が2.5μm以下、さらに好ましくは2μm以下、その下限が0.03μm以上、さらに好ましくは0.05μm以上である。その厚みが0.01μm未満の場合、上記密着性を向上させる効果が十分に示されない場合があり、3μmを超えても効果に大差なく経済的に不利となる。
【0056】
また、このような第3被膜は、α型酸化アルミニウム、γ型酸化アルミニウムまたは非晶質酸化アルミニウムによって構成されるものであるが、このα型酸化アルミニウム、γ型酸化アルミニウムまたは非晶質酸化アルミニウムと、ZrまたはHfの少なくともいずれかの酸化物との複合酸化物によって構成されるものとすることもできる。ZrまたはHfを含有することにより、酸化アルミニウムの微細化による高硬度化や断熱性の向上が期待できる。
【0057】
ここで、α型酸化アルミニウム、γ型酸化アルミニウムまたは非晶質酸化アルミニウムと、ZrまたはHfの少なくともいずれかの酸化物との複合酸化物とは、ZrまたはHfの少なくともいずれか一方または両方が上記α型酸化アルミニウムまたはγ型酸化アルミニウムの結晶格子の正規の位置に置換型として入る場合、該結晶格子間に侵入型として入る場合、金属間化合物を形成する場合、非晶質として存在する場合等、いずれの場合の酸化物も含むものである。
【0058】
ここで、上記第1被膜の圧縮残留応力をσ1、第2被膜の圧縮残留応力をσ2とする場合、σ1<σ2の関係を有するように規定することが特に好ましく、このσ1<σ2という関係の下、第1被膜において−6GPa以上−0.1GPa以下の残留応力を有し、第2被膜において−10GPa以上−1GPa以下の残留応力を有し、第3被膜が圧縮残留応力を有するかまたは膜厚方向に亀裂を有さないことが特に好適である。このように規定することにより、特に第1被膜と第2被膜と第3被膜との密着性に優れたものとなる。
【0059】
<第4被膜>
本発明の第4被膜は、所望により、上記第2被膜上に形成されるものであって、仕上げ面粗さの向上、耐溶着性の向上、耐剥離性の向上、外観品質の向上、使用済コーナーの識別性の容易化、第2被膜に対する保護性の向上(たとえば、耐酸化性の向上等)などの作用を示すものである。
【0060】
このような第4被膜は、Ti、Cr、Si、V、Al、ZrおよびHfからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素、および硼素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物によって単層または多層として構成される。
【0061】
このような第4被膜として好適な化合物としては、たとえばAlN、ZrN、CrN、AlZrN、AlON、AlHfN、AlCN、ZrCN、TiN、TiCN、TiSiCN、TiBN、Al(γ型もしくはアモルファス)などを挙げることができる。
【0062】
このような第4被膜は、0.1μm以上3μm以下の厚み(多層で形成される場合はその全体の厚み)を有することが好ましく、より好ましくはその上限が2μm以下、さらに好ましくは1.5μm以下、その下限が0.2μm以上、さらに好ましくは0.3μm以上である。その厚みが0.1μm未満の場合、仕上げ面粗さの向上、耐溶着性の向上、耐剥離性の向上、外観品質の向上、使用済コーナーの識別性の容易化、第2被膜に対する保護性の向上(たとえば、耐酸化性の向上等)などの作用効果が十分に示されない場合があり、3μmを超えても効果に大差なく経済的に不利となる。
【0063】
このような第4被膜は、第2被膜および第3被膜と同様に物理蒸着法により形成することが好ましい。製造効率が向上する上、層間の密着力も向上するからである。
【0064】
<製造方法>
本発明の表面被覆切削工具の製造方法は、上記第1被膜を化学蒸着法(CVD)で形成する第1ステップと、上記第3被膜を物理蒸着法により形成する第2ステップと、上記第2被膜を物理蒸着法により形成する第3ステップと、を含むことができる。ここで、第1ステップの後、第2ステップの前に、セラミックを用いた機械的衝撃処理により形成するステップを行うことを特徴とする。なお、化学蒸着法および物理蒸着法としては、上記で説明した方法が採用される。
【0065】
なお、機械的衝撃処理とは、ノズルからの噴出や羽根車による投射などで運動エネルギーを与えられた粒子を対象物に打ち付ける処理やセラミックなどの硬質粒子を保持したブラシなどで対象物を叩く処理をいう。たとえば、ブラスト処理やピーニング処理、ブラシホーニング処理などを利用することができ、特に、ウェットブラストが好ましい。通常CVDで形成した被膜は引っ張り応力を有するものとなるが、当該処理により残留圧縮応力を導入することができる。特に、本発明においては、当該処理の際、メディアとしてセラミックを用いることに特徴を有する。セラミックを用いることにより、当該処理の際に被膜表面を汚染することがなく、当該被膜に接触する層との密着性に悪影響を及ぼすことがないためである。セラミック材料としては、Al、SiC、ZrO、TiC、SiO、ガラスなどの材料を用いることができる。特に、球形のセラミック粒子が好ましい。ブラスト処理によるCVD膜の破壊を抑制しやすいためである。また、当該処理の条件としては、投射圧0.01〜0.5MPaの範囲内、投射距離0.5〜200mmの範囲内、微粉濃度5〜40vol%の範囲内、粒径10〜250μmの範囲内に設定することが好ましい。
【0066】
中でも、湿式ブラストとすることで、ブラスト時にCVD膜表面に発生する高熱を冷却することが可能となり、CVD膜に導入された圧縮残留応力が熱でアニールされることなく、大きな圧縮残留応力を導入することが可能となる。
【0067】
また、本発明の表面被覆切削工具の製造方法は、上記のように第1被膜、第2被膜および第3被膜以外に、第4被膜が形成される場合には、当該第4被膜も物理蒸着法により形成することが好ましい。
【0068】
このように本発明の表面被覆切削工具の被膜においては、第1被膜については化学蒸着法(CVD)とセラミックを用いた機械的衝撃処理とを、そして、第2被膜および第3被膜、必要な場合には第4被膜について物理蒸着法により形成することが好ましい。これにより、各層間の優れた密着力と高い製造効率を得ることができるからである。
【実施例】
【0069】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の各被膜の化学組成はXPS(X線光電子分光分析装置)によって確認し、圧縮残留応力は上記に説明したsin2ψ法により平均値を求めることによって算出した。また、以下では被膜を物理蒸着法であるカソードアークイオンプレーティング法により形成しているが、例えばバランスドまたはアンバランスドスパッタリング法や公知の他の物理蒸着法によっても成膜することは可能である。
【0070】
<表面被覆切削工具の作製>
まず、基材として、グレードがJIS規格K20のWC基超硬合金であって、切削チップとしての形状がJIS規格CNMG120408であるものを使用し、これに公知のCVD製法を用いて約900℃でTiN、TiCNおよび約1000℃でα型酸化アルミナ材料よりなる第1被膜を形成した。
【0071】
次いで、CVDにより形成した第1被膜に、投射圧0.05〜0.3MPa、投射距離5〜100mm、セラミック濃度10〜30vol%の条件下、粒径150μm以下のAl23などのセラミック砥粒による機械的衝撃処理を施すことにより、残留圧縮応力を導入した。
【0072】
第1被膜形成後の基板を、カソードアークイオンプレーティング装置に装着した。続いて、真空ポンプにより該装置のチャンバー内を1×10−3Pa以下に減圧するとともに、該装置内に設置されたヒーターにより上記基材の温度を500℃に加熱し、1時間保持した。
【0073】
次に、アルゴンガスを導入してチャンバー内の圧力を3.0Paに保持し、基板バイアス電源の電圧を徐々に上げながら−500Vとし、被膜の表面のクリーニングを15分間行なった。その後、アルゴンガスを排気した。
【0074】
次いで、上記第1被膜表面に形成される被膜として、化学組成および積層構成が以下の表1に示したものとなるように金属蒸発源であるターゲットをセットするとともに、反応ガスとして窒素、メタン(炭素源として)、酸素または一酸化炭素(酸素源として)のいずれか1以上のガスを導入させながら、基材(基板)温度650℃、反応ガス圧2.0Pa、基板バイアス電圧を−200Vに維持したまま、カソード電極に100Aのアーク電流を供給し、アーク式蒸発源から金属イオンを発生させることにより、上記基材表面に各構成の被膜を形成した。
【0075】
このようにして、表1に示したNo.1〜19の表面被覆切削工具を作製した。No.1〜15が本発明の実施例であり、No.16〜19は比較例である(ただし、各比較例の下記被膜については以下の成膜方法を採用した)。
【0076】
No.16の比較例は、第1被膜、第2被膜とともにCVD法(被膜温度900〜1000℃)により形成されており、0.4GPaの引張残留応力を有している。No.17および19の比較例は第1被膜がCVD法(1000℃)により形成された後、鋼球を用いて乾式でショットブラストを行った結果、それぞれの第1被膜には残留応力が導入されておらず、またそれぞれの第2被膜はPVD法で形成され、各々−2.9GPa、−3.0GPaの残留応力を有している。No.18の比較例は第1被膜がCVD法(被膜温度1000℃)で形成され、0.5GPaの残留応力を有し、続いて第2被膜がPVD法で形成されており、−2.8GPaの残留応力を有している。
【0077】
【表1】

【0078】
【表2】

【0079】
上記表1において、被膜の積層構成は、左のものから順に基材上に積層させたことを示している。また、上記表1において、「※」の記号を付したものが比較例である。
【0080】
そして、これらの表面被覆切削工具について、下記の条件により、耐摩耗性試験と断続切削試験を行なった。その結果を表1にあわせて示す。耐摩耗性試験では、逃げ面摩耗量が0.2mmとなる時間を測定し、その時間が長いもの程耐摩耗性に優れていることを示している。また、断続切削試験では、工具が欠損するまでの時間を測定し、その時間が多いもの程靭性に優れていることを示している。
【0081】
<耐摩耗性試験>
被削材:SCM435丸棒
切削速度:300m/min
切込みd:1.5mm
送りf:0.30mm/rev.
乾式/湿式:湿式
<断続切削試験>
被削材:SCM440(4本溝入り丸棒)
切削速度:200m/min
切込み:1.5mm
送り:0.4mm/rev.
乾式/湿式:乾式
上記表1において、「※」の記号を付したものが比較例である。また、「第1被膜残留応力」および「第2および第3被膜残留応力」の欄は、上記のsin2ψ法によりすくい面の平坦部の圧縮残留応力を測定した結果を示している。
【0082】
なお、第2被膜が被覆層からなるものについては、No.1、4、5、6、8、12、17、18、19については「TiAlN」、No.2、10については「TiAlSiN」、No.14については「AlCrSiN」、No.16については「TiCN」の残留応力を示している。
【0083】
以上、上記の表1から明らかなように、No.1〜No.15の本発明の実施例の表面被覆切削工具は、いずれも優れた耐摩耗性と靭性とを有するとともに、被膜の層間剥離を生じなかった。また、No.1〜No.15の本発明の実施例の表面被覆切削工具は、上記の耐摩耗性試験の条件を考慮すると高温時の耐酸化性や被膜の耐欠損性に優れていることが明らかであり、特に第2被膜中にSiを有するものにおいてその傾向が顕著である。これに対して、No.16およびNo.18の比較例の表面被覆切削工具は、第1被膜に引張残留応力を有するため、耐欠損性に劣る。No.17、19の比較例の表面被覆切削工具は、第1被膜に引張残留応力は有さないものの、鋼球を用いたブラスト処理のため、第2被膜の密着力が低く、耐摩耗性に劣る。
【0084】
なお、本実施例では、基材として超硬合金製のものを用いたが、サーメット等他の素材のものを用いても同様の効果を得ることができる。また、基材としてチップブレーカを有するものを用いたが、チップブレーカを有していないものや、切削工具の上下面全面が研磨されたような工具(チップ)でも本実施例と同様の効果を得ることができる。
【0085】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0086】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の表面被覆切削工具における基材の概略断面図である。
【符号の説明】
【0088】
1 基材、2 すくい面、3 逃げ面、4 刃先稜線部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材上に形成された被膜とを備える表面被覆切削工具であって、
前記被膜は、化学蒸着法により形成される第1被膜と物理蒸着法により形成される第2被膜および第3被膜とを含み、
前記第1被膜は、前記基材と前記第2被膜との間に位置するものであって、α型酸化アルミニウムを少なくとも一層含むものであり、かつセラミック粒子を用いて機械的衝撃を与える処理によって付与された圧縮残留応力を有し、
前記第2被膜は、周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、Al、およびSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素、および硼素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物よりなる少なくとも一層によって構成されるものであり、かつ圧縮残留応力を有し、
前記第3被膜は、前記第1被膜と前記第2被膜との間に位置するものであって、α型酸化アルミニウム、γ型酸化アルミニウムまたは非晶質酸化アルミニウムによって構成されるものであることを特徴とする表面被覆切削工具。
【請求項2】
前記第2被膜のうち少なくとも一層は、Siを含むことを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
【請求項3】
前記第3被膜は、前記第1被膜の直上に形成されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の表面被覆切削工具。
【請求項4】
前記第2被膜は前記第3被膜の直上に形成されていることを特徴とする、請求項2に記載の表面被覆切削工具。
【請求項5】
前記第1被膜を構成するα型酸化アルミニウムおよび/または前記第3被膜を構成するα型酸化アルミニウム、γ型酸化アルミニウムまたは非晶質酸化アルミニウムは、Zrおよび/またはHfの酸化物との複合酸化物であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
【請求項6】
前記第1被膜中の平均圧縮残留応力σ1と、前記第2被膜の平均圧縮残留応力σ2とは、σ1<σ2の関係を有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
【請求項7】
前記第1被膜の平均圧縮残留応力σ1は、0.1〜6GPaの範囲内であり、前記第2被膜の平均圧縮残留応力σ2は、1〜10GPaの範囲内であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
【請求項8】
前記被膜は、さらに第4被膜を含み、
前記第4被膜は、前記第2被膜上に形成され、かつTi、Cr、Si、V、Al、ZrおよびHfからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素および硼素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物によって構成されることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
【請求項9】
前記基材は、超硬合金、サーメット、高速度鋼、セラミックス、立方晶型窒化硼素焼結体、またはダイヤモンド焼結体のいずれかにより構成されることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の表面被覆切削工具の製造方法であって、
前記第1被膜を化学蒸着法により形成する第1ステップと、
前記第3被膜を物理蒸着法により形成する第2ステップと、
前記第2被膜を物理蒸着法により形成する第3ステップと、
を含み、
前記第1ステップにより形成された前記第1被膜に、前記第2ステップの前に、セラミック粒子を用いて機械的衝撃を与える処理を行うことを特徴とする表面被覆切削工具の製造方法。
【請求項11】
前記機械的衝撃を与える処理は、湿式で行われることを特徴とする、請求項10に記載の表面被覆切削工具の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−192545(P2006−192545A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−8085(P2005−8085)
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【出願人】(503212652)住友電工ハードメタル株式会社 (390)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】