説明

表面角度計測方法及び表面角度計測装置

【課題】物体表面の角度の検出感度を向上させることができると共に、計測装置から物体表面までの計測距離に依存することなく精密に物体表面の角度を計測することができる表面角度計測方法及び表面角度計測装置を提供することを目的とする。
【解決手段】
計測対象2の表面に計測光を照射すると共に、当該計測対象2で反射した計測反射光を受光することで計測対象2の表面の傾斜角度を計測する表面角度計測装置1において、計測反射光を金属薄膜11で受光すると共に、金属薄膜11で表面プラズモン共鳴を生じさせるプラズモンフィルタ部9を備える。さらに、その表面プラズモン共鳴が生じた金属薄膜11からの反射光の強度を計測する強度検出部15と、強度検出部15で計測された反射光の強度を基に、計測対象2の表面の傾斜角度を算出する傾斜角度算出手段を有する演算部4と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体表面の角度を計測する表面角度計測方法及び表面角度計測装置に関するものであって、特に、鏡面を有する物体表面の角度及び角度変化を、表面プラズモン共鳴を利用して計測する表面角度計測方法及び表面角度計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
物体表面の向き、すなわち物体表面の角度(傾き)を調べる手法として、レーザー等の光源を用いて物体表面の角度変位を拡大し検出する光てこ法に基づく手法、受光した平行光の結像位置のずれから物体表面の角度変位を検出するオートコリメータを用いる手法、及びレンズアレイで物体表面の像を結んで結像位置のずれから物体表面の角度変位を検出するシャックハルトマン型の波面センサを用いる手法などが、一般的に良く知られている。
【0003】
これらの手法では、近年、物体表面の画像を撮像する撮像素子の画素サイズが小さくなったことと画素密度が向上したこととにより、受光した光線の重心位置を1ピクセル以下で算出して取得し光線の角度を計測できる(サブピクセル法)。
特許文献1は、このような手法で用いられる装置のうち、平行光をレンズアレイで撮像素子上に集光して波面を計測するシャックハルトマン型の波面センサである光波面測定装置について開示している。
【0004】
特許文献1に開示の光波面測定装置は、空間を伝播してくる測定光を集光するレンズアレイと、レンズアレイにより集光された測定光を電気信号に変換する光検出器アレイと、光検出器アレイの面上における光強度の2次元分布に相当する電気信号を光検出器アレイから取り出す読み出し回路と、読み出し回路により取り出された電気信号に基づいて、光検出器アレイの面上の集光スポット位置を検出する光強度分布検出部と、光強度分布検出部により検出された集光スポット位置に基づいて、測定光の波面入射角を計算する測定光波面入射角計算部と、測定光波面入射角計算部により計算された波面入射角に基づいて測定光の波面形状を計算する波面形状計算部とを備えている。
【0005】
この光波面測定装置において、読み出し回路により取り出された電気信号を時刻と対応付けて順次記憶して、記憶されたそれぞれの時刻における電気信号の信号対雑音比を計算する。読み出し回路によって取り出された現在時刻における電気信号の信号対雑音比が所定閾値よりも低い場合には、所定閾値以上の信号対雑音比を有する過去の時刻の電気信号を先見情報として利用して現在時刻における光検出器アレイの面上の集光スポット位置を予測して検出する。
【0006】
その上で、現在時刻における電気信号の信号対雑音比が所定閾値よりも低い場合には、光強度分布検出部により予測された集光スポット位置に基づいて、測定光の波面入射角を計算している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−162614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した物体表面の角度を調べる手法では、物体表面の画像から重心位置を取得する際にサブピクセル法を用いている。しかしながら、いかにサブピクセル法を用いても、その測定のスケールは、画素サイズの1/10程度までが限度である。
よって、光てこ法に基づく手法、オートコリメータを用いる手法、及びシャックハルトマン型の波面センサを用いる手法のいずれに対しても、画素サイズを小さくすることで物体表面の画像分解能を上げることは可能であるが、画素サイズに下限がある以上、測定スケールも画素サイズに制約され、下限がある。
【0009】
実際に、いわゆる高精細のカメラでは、画素サイズは1μm程度であるため、オートコリメータを用いる手法において、反射光を直接CCD(電荷結合素子)に投影した場合、オートコリメータの検出感度(測定スケール)は約5秒(1.39×10-3deg)程度である。通常はレンズを通して反射光をCCDに投影するため、現在用いられているオートコリメータの感度は0.5秒程度が限界であり、これ以上の検出感度の向上は困難である。
【0010】
これとは別に、光てこ法に基づく手法では、計測装置から計測対象までの計測距離を大きくすることにより、撮像位置の微小な変化に対応した角度変化を捉えることが出来る。しかし、計測対象までの距離を大きくすると、レンズの作動距離(WD)に制限があることと、ダイナミックレンジの小さな角度変化しか測定できなくなるということが問題となり、光てこ法は、計測装置から計測対象までの計測距離に依存した手法であるといえる。
【0011】
すなわち、従来の技術では、計測対象表面の傾斜角度が、光線光学に基づいた撮像素子上の光点の位置でしか捕らえられないことから、物体表面の角度変位を10-4deg以下のオーダーで検出するには多くの問題がある。したがって、測定に用いる光線の波長や輝度など、測定対象の位置とは異なる情報に角度情報を乗せることで、計測対象までの位置を示す距離のパラメータに依存せずに微小な角度まで計測対象表面の傾斜角度を計測することが必要となる。
【0012】
本発明は、このような問題に鑑み、物体表面の角度の検出感度を向上させることができると共に、計測装置から物体表面までの計測距離に依存することなく精密に物体表面の角度を計測することができる表面角度計測方法及び表面角度計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
本発明の表面角度計測方法は、計測対象の表面に計測光を照射すると共に、当該計測対象で反射した計測反射光を受光することで計測対象の表面の傾斜角度を計測する方法であって、前記計測反射光を金属膜で受光すると共に、当該金属膜で表面プラズモン共鳴を生じさせるプラズモン共鳴工程と、表面プラズモン共鳴が生じた金属膜からの反射光の強度を計測する強度計測工程と、前記強度計測工程で計測された反射光の強度を基に、前記計測対象の表面の傾斜角度を算出する傾斜角度算出工程と、を備えることを特徴とする。
【0014】
この方法によって、計測対象の表面で反射した計測反射光を、表面プラズモン光学系に導入することにより、金属薄膜に入射する角度に依存した強度の計測反射光を得ることが出来る。
ここで前記傾斜角度算出工程は、前記入射光の角度と前記金属膜からの反射光の強度とを関係づける表面プラズモン共鳴の特性曲線に基づいて、前記計測対象の表面の傾斜角度を算出することを特徴とする。
【0015】
また前記強度検出工程は、前記金属膜で反射した反射光をP偏光とS偏光に分離すると共に、P偏光の強度とS偏光の強度を検出し、前記傾斜角度算出工程は、検出されたP偏光の強度に応じた前記計測対象の表面の傾斜角度を算出することを特徴とする。
さらに前記強度検出工程は、前記金属膜で反射した反射光をP偏光とS偏光に分離すると共に、P偏光の強度とS偏光の強度を検出し、前記傾斜角度算出工程は、検出されたP偏光の強度とS偏光の強度の比を反射率として算出し、算出された反射率に応じた前記計測対象の表面の傾斜角度を算出することを特徴とする。
【0016】
本発明の表面角度計測装置は、計測対象の表面に計測光を照射すると共に、当該計測対象で反射した計測反射光を受光することで計測対象の表面の傾斜角度を計測する装置であって、前記計測反射光を金属膜で受光すると共に、当該金属膜で表面プラズモン共鳴を生じさせるプラズモン共鳴手段と、表面プラズモン共鳴が生じた金属膜からの反射光の強度を計測する強度計測手段と、前記強度計測工程で計測された反射光の強度を基に、前記計測対象の表面の傾斜角度を算出する傾斜角度算出手段と、を備えることを特徴とする。
【0017】
ここで前記傾斜角度算出手段は、前記入射光の角度と前記金属膜からの反射光の強度とを関係づける表面プラズモン共鳴の特性曲線に基づいて、前記計測対象の表面の傾斜角度を算出することを特徴とする。
また前記強度検出手段は、前記金属膜で反射した反射光をP偏光とS偏光に分離すると共に、P偏光の強度とS偏光の強度を検出し、前記傾斜角度算出手段は、検出されたP偏光の強度に応じた前記計測対象の表面の傾斜角度を算出することを特徴とする。
【0018】
また前記強度検出手段は、前記金属膜で反射した反射光をP偏光とS偏光に分離すると共に、P偏光の強度とS偏光の強度を検出し、前記傾斜角度算出手段は、検出されたP偏光の強度とS偏光の強度の比を反射率として算出し、算出された反射率に応じた前記計測対象の表面の傾斜角度を算出することを特徴とする。
ここで前記計測光照射手段は、照射した計測光の強度を監視する監視手段を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る表面角度計測方法及び表面角度計測装置によれば、物体表面の角度の検出感度を向上させることができると共に、計測装置から物体表面までの計測距離に依存することなく精密に物体表面の角度を計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態による表面角度計測装置の計測原理の概念を示す模式図である。
【図2】本発明の実施形態による表面角度計測装置のセンサユニットの構成を示す概略図である。
【図3】本発明の実施形態による表面角度計測装置における表面プラズモン共鳴特性を表すグラフを示す図である。
【図4】本発明の実施形態による表面角度計測装置における表面プラズモン共鳴の特性曲線を近似したグラフを示す図であり、(a)は保護層を設けなかった場合を示し、(b)は保護層を設けた場合を示している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態による表面角度計測装置について説明する。
まず、図1を参照して、本実施形態による表面角度計測装置1の概要について説明する。図1は、表面角度計測装置1の計測動作を模式的に示した図である。
図1に示すように、本発明の実施形態による表面角度計測装置1は、入射光に対して全反射角領域のある一定角度において特有の光の吸収(反射光の減衰)を起こす表面プラズモン共鳴の原理を応用し、計測対象2の表面(計測面)の傾きを計測するものである。
【0022】
ところで、表面プラズモン共鳴は、金属層に光が入射した場合に入射光により生成されたエバネッセント波に共鳴して、金属表面に誘起される表面プラズモン波が励起される現象である。表面プラズモン共鳴は、入射光の波長及び入射角度に依存しており、表面プラズモン共鳴が励起されたときには、特定の入射角又は特定の波長を有する光成分の光エネルギーが表面プラズモン波へ移行することにより、対応する入射角又は波長を有する反射光の強度が減少するという特徴がある。
【0023】
表面プラズモン共鳴を起こすためには、特定の表面プラズモン波を有する金属と、表面プラズモン波と共鳴するエバネッセント波を誘起する光学構造とが必要となる。その光学構造の一つは光学プリズム(以下、単にプリズムと称する。)の全反射を利用したものであり、一般にクレッチマン配置と呼ばれる。
表面プラズモン波を励起するためのプラズモン共鳴チップは、主にガラスや樹脂などの透明基板と、その透明基板上に形成される50nm〜100nm程度の金属薄膜とからなり、金属薄膜にはAu、Ag、Cu、Al等が適用される。
【0024】
金属薄膜の角度特性から考えて、微小角の検出にはAg、ついでAuが好ましい共鳴特性を有する。Agは感度が高いが、Agではダイナミックレンジが不足するという場合にはAuを用いることが望ましい。合金化や基板密着層に用いる金属などをコントロールすることで、共鳴特性の微調整が可能である。
また、表面プラズモン共鳴は、金属薄膜表面の屈折率に依存するため、温度の変化等にも敏感に反応するので温度変化が計測誤差の要因となりうる。そこで、温度変化の影響を小さくするためには、基板表面に保護層を兼ねたSiO2やAl23などの光学薄膜層を設け、さらに、プラズモン共鳴チップの保護筐体を断熱構造にすることが望ましい。
【0025】
このような表面プラズモン共鳴を応用した表面角度計測装置1の概要について、さらに説明する。
表面角度計測装置1は、Siウェハなど、鏡面性の高い計測対象2の表面に計測光である平行光を照射して計測対象2の表面からの計測反射光を例えば金属の薄膜層で受光する。このとき金属薄膜層を、計測対象2の表面からの計測反射光が表面プラズモン共鳴の共鳴角付近で入射するように配置しておくと、計測反射光の入射によって金属薄膜層に表面プラズモン共鳴が起こり、入射した計測反射光の一部または全部が吸収される。これによって、該計測反射光の、金属薄膜層への入射強度に対する金属薄膜層からの反射強度が低下、つまり計測反射光の金属薄膜層での反射率が低下する。
【0026】
計測対象2の表面からの計測反射光が金属薄膜層に対して共鳴角で入射すると計測反射光の反射率はほぼ0となるが、共鳴角からずれると当該反射率はそのずれ量に対応して0より大きく1以下の値となる。共鳴角からのずれ量と計測反射光の反射率は対応関係にあるので、反射率が分かればその反射率を基にして共鳴角からのずれ量を取得することができる。
【0027】
そこで、計測対象2の表面からの計測反射光が金属薄膜層に対して共鳴角で入射するときの計測対象2の表面の傾き角度を基準面角度(0度)であるとすると、図1に示すように、表面角度計測装置1は、金属薄膜層での反射率から得られるずれ量(θ度)の分だけ計測対象2の表面が傾斜しているとして、推定値である角度θを出力する。
本発明の実施形態による表面角度計測装置1は、計測反射光を金属薄膜で受光すると共に、当該金属薄膜で表面プラズモン共鳴を生じさせるプラズモン共鳴手段と、表面プラズモン共鳴が生じた金属薄膜からの計測反射光の反射強度を計測する強度計測手段と、強度計測工程で計測された反射光の強度を基に、計測対象2の表面の傾斜角度を算出する傾斜角度算出手段と、を備えることを特徴としている。
【0028】
以下、図2を参照して、本実施形態による表面角度計測装置1の構成について、具体的に説明する。図2は、表面角度計測装置1のセンサユニット3の構成を示す概略図である。
本実施形態による表面角度計測装置1は、上述したプラズモン共鳴手段、強度計測手段、及び後述する計測光照射手段を含むセンサユニット3と、上述した傾斜角度算出手段を含む演算部4とを備えている。
【0029】
センサユニット3の計測光照射手段である計測光照射部5は、平行光(白色光)を発するコリメート光源6と、コリメート光源6から発せられた平行光を受光して該平行光の強度を監視する監視手段であって、コリメート光源6と対向するように配置され、例えばCCDや光量センサなどで構成された第1受光素子7とを有している。
さらに計測光照射部5は、コリメート光源6と第1受光素子7との間に、コリメート光源6からの平行光を分離して、その一方を透過すると共に他方を反射する無極性のビームスプリッタ8(ハーフミラー)を有している。ビームスプリッタ8は、分離された平行光の一方が第1受光素子7にて受光され、他方が、計測対象2に向かって反射されるように配置される。
【0030】
プラズモン共鳴手段であるプラズモンフィルタ部9は、図2に示すような、三角柱の光学プリズム10と、例えばAgで構成された50nm程度の表面プラズモン共鳴を発生させるための金属薄膜11と、金属薄膜11を腐食などから保護するための例えばSiO2で構成された保護層12を備えている。
プリズム10は、図2の紙面に示される上面及び底面の形状が、例えば直角二等辺三角形となっており、互いに略直角となる2側面13,14を有している。2側面13,14に隣接する斜面である側面20上には、図2に示すように金属薄膜11が積層されており、積層された金属薄膜11上には保護層12が形成されている。こうすることで保護層12は、プリズム10との間で金属薄膜11を外気に触れさせないように保護している。こうして金属薄膜11は、2側面13,14に対して略45度で配置される。
【0031】
計測対象2で反射した計測反射光は、2側面13,14のうち一方の側面13側からプラズモンフィルタ部9に入射する。プラズモンフィルタ部9に入射した計測反射光は、金属薄膜11で反射して2側面13,14のうち他方の側面14側から出射する。
このようなプラズモンフィルタ部9は、フィルタ部9の周辺温度が一定に保たれるように図示しない光学窓付きの2重構造筐体に収められており、計測光照射部5を挟んで計測対象2とは反対側で、互いに略直角となる2側面13,14のうちの一方の側面13を計測光照射部5に向けて配置されている。これによってプラズモンフィルタ部9は、計測対象2からの計測反射光を金属薄膜11で受光することができる。
【0032】
センサユニット3の強度検出手段である強度検出部15は、プラズモンフィルタ部9から出射した計測反射光をP偏光とS偏光に分離するスプリット面16を有すると共にP偏光を透過させてS偏光をP偏光とは異なる方向に反射させる偏光ビームスプリッタ17と、分離されたP偏光を受光して強度を検出する例えばCCDで構成された第2受光素子18と、分離されたS偏光を受光して強度を検出する例えばCCDで構成された第3受光素子19とを備えている。
【0033】
偏光ビームスプリッタ17は、スプリット面16をプラズモンフィルタ部9に対して約45度となるように向けて、プラズモンフィルタ部9で反射した計測反射光をスプリット面16で受光できる位置に配置されている。これによって測定反射光は、偏光ビームスプリッタ17のスプリット面16に約45度で入射する。
第2受光素子18は、偏光ビームスプリッタ17を挟んでプラズモンフィルタ部9とは反対側で、透過したP偏光を受光できる位置に設けられている。
【0034】
また、第3受光素子19は、スプリット面16で反射されたS偏光を受光できる位置に設けられている。
S偏光の反射率は表面プラズモン共鳴の影響を受けないが、P偏光の反射率は表面プラズモン共鳴の影響を受けて変化するので、S偏光の反射率とP偏光の反射率を分けて検出する。
【0035】
次に、演算部4の傾斜角度算出手段は、例えばパーソナルコンピュータなどのソフトウェアとして実現されるものであり、演算部4はセンサユニット3に電気的に接続されており、計測対象2の表面に対するプラズモンフィルタ部9の金属薄膜11の角度を調整するために、図示しない駆動部を用いてセンサユニット3の角度を調整するとともに、第1受光素子7〜第3受光素子19で検出した強度を受信する。
【0036】
さらに傾斜角度算出手段は、表面プラズモン共鳴特性(SPR特性)を示す図3の共鳴曲線(特性曲線)を保持している。
図3は、計測対象2からの計測反射光のプラズモンフィルタ部9の金属薄膜11への入射角と、計測反射光の金属薄膜11での反射率との関係を示す表面プラズモン共鳴特性を示すグラフである。図3における反射率は、特に第2受光素子18で検出されたP偏光の反射率を第3受光素子19で検出されたS偏光の反射率で除して得られた値(補正反射率)を示している。
【0037】
図3において破線は、金属薄膜11の保護層12がない場合の表面プラズモン共鳴特性を表しており、グラフ下側の横軸に入射角度が示され、縦軸に反射率が示されている。図3において実線は、金属薄膜11の保護層12がある場合の表面プラズモン共鳴特性を表しており、グラフ上側の横軸に入射角度が示され、縦軸に反射率が示されている。
図3において実線で示される曲線では、SiO2の保護層12が無い場合に比べピークが緩やかであるので、角度計測の感度は半分程度となっている、しかし、金属薄膜11の耐久性等を考慮すれば、プラズモンフィルタ部9に保護層12を備えるほうが望ましい。
【0038】
図4は、図3のグラフにおいて反射率が0となる点の近傍を近似した例を示す。図4(a)は、図3の破線に示すように保護層12がない場合の曲線を4次関数で近似したグラフであり、約35.139度付近でP偏光の強度が0となることで反射率が0となっているので、保護層12がない場合の共鳴角は約35.139度であることがわかる。
図4(b)は、図3の実線に示すように保護層12がある場合の曲線を6次関数で近似したグラフであり、約65.57度付近でP偏光の強度が0となることで反射率が0となっているので、保護層12がある場合の共鳴角は約65.57度であることがわかる。
【0039】
このような表面プラズモン共鳴特性は、金属薄膜11及び保護層12の屈折率などの物性によって決まるので、傾斜角度算出手段は、図3及び図4に示す特性曲線を予め保持しておくことができる。
具体的には、表面プラズモン共鳴特性は、使用する金属薄膜11の種類によって変化するので、目的に応じて使用する金属薄膜11の種類を変えて、例えば図3に示す曲線の半値幅を広くしたり、曲線のピーク位置(共鳴角)を変更することができる。
【0040】
図3及び図4に示すグラフは、厚み55nmのAg薄膜を屈折率1.79のガラス上に成膜した場合に得られる、波長635nm付近で得られる共鳴曲線を計算値で出力したものである。波長によって消衰係数が異なるとともに、波長ごとに共鳴ピークの位置が変化するため、計測光に白色光を用いた場合には、金属薄膜11で反射した計測反射光は、計測対象2の表面角度が変化するにつれて、強度(輝度)を変化させているのではなく色を変化させているように見える。
【0041】
光源に単色光を用いると、計測対象2の光学特性を限定してしまうため、これを回避するために複数並びに連続スペクトルを持つ白色光を用いている。単色光では強度(輝度)の変化としてのみプラズモン共鳴の効果を見積もることになるが、白色光を光源として用いることにより、プラズモン共鳴の効果を色の変化として捕らえることが可能となる。
以上のように構成された表面角度計測装置1を用いて、計測対象の表面角度を求める方法について説明する。
【0042】
まず、計測光照射部5のビームスプリッタ8から照射される平行光が、傾斜角度を0度とみなす仮想的な基準面に対して垂直に入射するように、表面角度計測装置1を設置する。その後、プラズモンフィルタ部9の金属薄膜11と基準面とでなす角度が共鳴角である約65.57よりも大きい66.9度となるように表面角度計測装置1の位置を調整する。
【0043】
このような調整によって、傾斜角度が0度である基準面に垂直に入射した計測光は該基準面に垂直に反射し、反射した計測反射光は、金属薄膜11に対して66.9度の入射角で入射する。
プラズモンフィルタ部9の金属薄膜11と基準面とでなす角度を共鳴角である約65.57ではなく66.9度にする理由は、図3及び図4に示す特性曲線が共鳴角において反射率が0となる変極点を有するため、変曲点を挟んで入射角が変化する場合1つの反射率に対して2つの入射角が得られ、いずれの角度を採用すべきなのかが判断できなくなってしまうからである。
【0044】
図3及び図4に示す特性曲線において、基準面(傾斜0度)で反射した計測反射光がプラズモンフィルタ部9の金属薄膜11で反射した後の反射率が、0.2〜0.5程度になる入射角(ゼロ点A)に、本実施形態においては66.9度に対応するようにすれば、反射率が増加したときは入射角が大きくなる方向に計測面が傾いたと判断でき、反射率が減少したときは入射角が小さくなる方向に計測面が傾いたと判断できる。
【0045】
プラズモンフィルタ部9に保護層12がない場合は、入射角が35.2度となる位置にゼロ点(B)を設定すると、同様に計測面の傾きを計測することができる。
このように表面角度計測装置1を設置した後、計測光照射部5のコリメート光源6から平行光を発し、計測対象2の表面に計測光として照射する。このとき、第1受光素子7は、照射された計測光の強度を検出し、検出した強度を傾斜角度算出手段に出力する。
【0046】
計測対象2の表面(計測面)に照射された計測光が計測面で反射し、該反射された計測反射光は、計測光照射部5を通過してプラズモンフィルタ部9に入射して金属薄膜11の表面で表面プラズモン共鳴を誘起して反射する。
金属薄膜11の表面で反射した計測反射光は、プラズモンフィルタ部9から出射して、強度検出部15の偏光ビームスプリッタ17に入射する。偏光ビームスプリッタ17に入射した計測反射光は、P偏光とS偏光に分離されて、P偏光は第2受光素子18で受光され、且つS偏光は第3受光素子19で受光される。第2受光素子18で検出されたP偏光の強度と、第3受光素子19で検出されたS偏光の強度は、傾斜角度算出手段に出力される。
【0047】
このような動作を経て、演算部4の傾斜角度算出手段は、第1受光素子7で検出された計測光の強度と、第2受光素子18で検出されたP偏光の強度と、第3受光素子19で検出されたS偏光の強度と、図3及び図4に示す特性曲線と、を有することになる。
ここで、第2受光素子18で検出されたP偏光の強度である反射率を第3受光素子19で検出されたS偏光の強度である反射率で除して得られた反射率(補正反射率)と、図3及び図4に示す特性曲線とを用いれば、該補正反射率に対応する計測反射光の金属薄膜11への入射角を得ることができる。例えば、図4(b)において、補正反射率が0.3であった場合、得られる入射角は66.95度である。これは、ゼロ点である66.9度よりも金属薄膜11への入射角が0.05度大きいので、計測対象2の表面は、基準面(0度)より正の方向、図1及び図2の紙面に向かって左回りとなる方向に0.05度傾いていると判断することができる。
【0048】
このようにして、計測対象の表面の傾斜角度を計測することができる。
ここで、図3及び図4に示すように、表面プラズモン共鳴の特性曲線を用いて、角度感度を線形近似で試算すると、反射率の70%分の変化が、約0.14度分の入射角の変化に相当するので、反射率1%分の変化が検出できる計測精度が実現できれば、2×10-3度の角度変化を検出できることになる。
【0049】
これに加えて、階調が12ビット以上の高精度CCDカメラ等を用い、0.1%以下の反射率変化を計測することで、2×10-4度以下の計測精度を得ることも可能である。
なお、表面プラズモン共鳴は、金属薄膜に対する平行光の照射角度のみに依存して誘起されるため、本実施形態の表面角度計測装置1における表面プラズモン共鳴は、平行光である計測反射光の金属薄膜11への入射角度のみに依存して誘起され、金属薄膜11から計測対象までの距離には依存していない。よって表面角度計測装置1から計測対象2までの距離は任意に選ぶことができる。
【0050】
なお、第2受光素子18で受光されるP偏光の強度は、プラズモンフィルタ部9に入射する前に、計測対象2の表面反射率が変動していることに起因する影響を受けていることが予想される。この影響分を補正するためにはP偏光の強度と、P偏光と同様の影響を受けているS偏光の強度の比をとって、当該影響分をキャンセルすることが有効である。そこで、本実施形態では、最も簡単な方法として、第3受光素子19の出力であるS偏光の強度S1と第2受光素子18の出力であるP偏光の強度P1の比をとり、P1/S1を、図3及び図4の特性曲線における反射率(補正反射率)として定義した。
【0051】
しかし、これに対して、偏光ビームスプリッタ17を用いずに計測反射光をP偏光とS偏光に分離することなく、該計測反射光の強度を例えば第2受光素子18で直接検出し、傾斜角度算出手段が、P偏光とS偏光に分離しない場合の表面プラズモン共鳴の特性曲線と検出した計測反射光の強度とを基に、金属薄膜11への計測反射光の入射角を算出して計測対象の表面角度を検出してもよい。
【0052】
このとき、強度検出部15が検出した計測反射光の強度変動が、光源から発せられた計測光の強度変動の影響や、計測対象2の表面の反射率変動の影響を受けている可能性がある。これに対しては、第1受光素子7が検出した強度変動と強度検出部15が検出した強度変動とを同期して比較することで、強度検出部15が検出した計測反射光の強度のうち、強度変動の影響や反射率変動の影響を受けている部分を検出することができる。
【0053】
また、第1受光素子7によって光源の強度を監視していれば、光源強度の低下の程度を基にして、光源の故障や劣化を検出することができる。
ところで、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0054】
例えば、図4に示すように、4次および6次の近似で共鳴角付近の表面プラズモン共鳴特性を良好に近似できるが、反射率の大きさを0.1ずつの区画に分け、各区画の近似を直線で行うなどの方法も可能である。
また、第2受光素子18がCCDセンサ(エリアセンサ)である場合、受光した各画素の位置やその位置での輝度を比較することで、面の角度分布を容易に計測できる。従って、レンズアレイを用いるシャックハルトマン型の波面センサの高感度化にも本発明は適用できる。
【符号の説明】
【0055】
1 表面角度計測装置
2 計測対象
3 センサユニット
4 演算部
5 計測光照射部
6 コリメート光源
7 第1受光素子
8 ビームスプリッタ
9 プラズモンフィルタ部
10 プリズム
11 金属薄膜
12 保護層
13,14,20 側面
15 強度検出部
16 スプリット面
17 偏光ビームスプリッタ
18 第2受光素子
19 第3受光素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測対象の表面に計測光を照射すると共に、当該計測対象で反射した計測反射光を受光することで計測対象の表面の傾斜角度を計測する方法であって、
前記計測反射光を金属膜で受光すると共に、当該金属膜で表面プラズモン共鳴を生じさせるプラズモン共鳴工程と、
表面プラズモン共鳴が生じた金属膜からの反射光の強度を計測する強度計測工程と、
前記強度計測工程で計測された反射光の強度を基に、前記計測対象の表面の傾斜角度を算出する傾斜角度算出工程と、を備えることを特徴とする表面角度計測方法。
【請求項2】
前記傾斜角度算出工程は、
前記入射光の角度と前記金属膜からの反射光の強度とを関係づける表面プラズモン共鳴の特性曲線に基づいて、前記計測対象の表面の傾斜角度を算出することを特徴とする請求項1に記載の表面角度計測方法。
【請求項3】
前記強度検出工程は、前記金属膜で反射した反射光をP偏光とS偏光に分離すると共に、P偏光の強度とS偏光の強度を検出し、
前記傾斜角度算出工程は、検出されたP偏光の強度に応じた前記計測対象の表面の傾斜角度を算出することを特徴とする請求項2に記載の表面角度計測方法。
【請求項4】
前記強度検出工程は、前記金属膜で反射した反射光をP偏光とS偏光に分離すると共に、P偏光の強度とS偏光の強度を検出し、
前記傾斜角度算出工程は、検出されたP偏光の強度とS偏光の強度の比を反射率として算出し、算出された反射率に応じた前記計測対象の表面の傾斜角度を算出することを特徴とする請求項2に記載の表面角度計測方法。
【請求項5】
計測対象の表面に計測光を照射すると共に、当該計測対象で反射した計測反射光を受光することで計測対象の表面の傾斜角度を計測する装置であって、
前記計測反射光を金属膜で受光すると共に、当該金属膜で表面プラズモン共鳴を生じさせるプラズモン共鳴手段と、
表面プラズモン共鳴が生じた金属膜からの反射光の強度を計測する強度計測手段と、
前記強度計測手段で計測された反射光の強度を基に、前記計測対象の表面の傾斜角度を算出する傾斜角度算出手段と、を備えることを特徴とする表面角度計測装置。
【請求項6】
前記傾斜角度算出手段は、
前記入射光の角度と前記金属膜からの反射光の強度とを関係づける表面プラズモン共鳴の特性曲線に基づいて、前記計測対象の表面の傾斜角度を算出することを特徴とする請求項5に記載の表面角度計測装置。
【請求項7】
前記強度検出手段は、前記金属膜で反射した反射光をP偏光とS偏光に分離すると共に、P偏光の強度とS偏光の強度を検出し、
前記傾斜角度算出手段は、検出されたP偏光の強度に応じた前記計測対象の表面の傾斜角度を算出することを特徴とする請求項6に記載の表面角度計測装置。
【請求項8】
前記強度検出手段は、前記金属膜で反射した反射光をP偏光とS偏光に分離すると共に、P偏光の強度とS偏光の強度を検出し、
前記傾斜角度算出手段は、検出されたP偏光の強度とS偏光の強度の比を反射率として算出し、算出された反射率に応じた前記計測対象の表面の傾斜角度を算出することを特徴とする請求項6に記載の表面角度計測装置。
【請求項9】
前記計測光照射手段は、照射した計測光の強度を監視する監視手段を有することを特徴とする請求項5〜8のいずれか1項に記載の表面角度計測装置。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−37268(P2012−37268A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175313(P2010−175313)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】