説明

親水性材

【課題】優れた親水性を有し、強度も高く、製造も容易で、防曇膜等の防曇材(防曇処理済材)に適正な親水性材を提供する。
【解決手段】防曇層14等となる親水性材は、無機酸化物層からなる親水性層を有し、この親水性層が、基材の法線に対して10〜70°の角度αを有する柱からなる柱状構造、すなわち基材の法線に対して所定の角度で傾斜する柱からなり、前記親水性層の厚さが、100〜3000nmである柱状構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子フィルムなどの基材の表面に親水性層を形成してなる親水性材に関し、特に、防曇膜に最適な親水性膜に関する。
【背景技術】
【0002】
各種のレンズや鏡、さらにはガラス板等の曇りを防止する、いわゆる防曇性を付与する方法として、レンズ等の基材の表面に親水性の膜を形成することが知られている。
【0003】
また、この親水性の膜を形成する方法として、基材の表面に、イオンプレーティング、スパッタリング、真空蒸着などの気相堆積法で酸化硅素(SiO2)膜等の無機酸物膜を形成(成膜)して、表面を多孔質状にする方法が有る。
このように、表面を多孔質状とすることにより、毛細管現象によって表面の濡れ性が向上して親水性が高められて、表面に付着した水滴を凹凸で吸収することにより、防曇性が得られる。
【0004】
例えば、特許文献1には、基材の表面に光触媒反応を呈する透明な光触媒反応物質膜を形成し、その上に酸化硅素膜等の透明な無機酸化物膜を多孔質状に形成する防曇素子が開示されている。
この防曇素子は、無機酸化物膜の多孔質の開口にワックス等の有機物や酸化窒素等が入り込んで付着しても、光触媒反応物質膜の光触媒反応によってワックス等を分解して除去することができるので、その結果、親水性の低下を防止でき、長期間に渡って防曇性を維持している。
【0005】
また、特許文献2には、無機物質からなる単層または多層反射防止膜の最上層をガス導入しながらの真空蒸着で形成した後、親水性物質で最上層を処理して、最上層の微細孔や微細な凹凸に親水性物質を固定してなる防曇性物質が開示されている。
この防曇性物質は、充填率の低い膜に親水性物資を固定することにより、親水性物質の密度を高め、十分な防曇性能と耐磨耗性を維持している。
【0006】
さらに、特許文献3には、反射膜が形成された基材の表面に、基材に対して垂直に立設し、その先端が凸状で、かつ、この凸状表面に微細な凹凸が形成されてなる柱状の結晶性酸化スズからなる被膜を形成してなる防曇鏡が開示されている。
この防曇鏡は、防曇性を発現する酸化スズ被膜が柱状構造を有すために、柱の細長い間隙に水滴あるいは水滴の一部が達すると、毛管現象によって水滴が被膜内部に吸収され、しかも、柱の表面に微細な凹凸を有するので、表面積が非常に大きく、水滴が濡れ広がり易いため、曇りを好適に防止して優れた防曇性能を発揮する。
【0007】
【特許文献1】特許第2901550号公報
【特許文献2】特許第3694881号公報
【特許文献3】特開2003−116689号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような多孔質表面や柱状結晶構造を有する膜の防曇性能は、基本的に、親水性の膜の表面積に依存し、すなわち、この膜が、どれ位の水滴を吸収できるかで決まる。
上記各防曇材は、いずれも良好な防曇性を有する。しかしながら、防曇材に対する要求は、近年、ますます厳しくなる傾向にあり、より厳しい環境でも、より優れた防曇性を発揮し、さらに、優れた経時安定性を有する防曇材の出現が望まれている。
【0009】
本発明の目的は、前記従来技術の問題点を解決することにあり、非常に優れた親水性や水分の保持性を有すると共に、高い強度および経時安定性を有し、しかも、製造も容易であり、調湿材や防曇材、特に、防曇膜に最適な親水性材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明は、基材と、前記基材の表面に形成される無機酸化物からなる親水性層とを有し、前記親水性層は、柱状構造を有し、かつ、この柱状構造を形成する柱が前記基材の法線に対して10〜70°の角度を有することを特徴とする親水性材を提供する。
【0011】
このような本発明の親水性材において、前記親水性層の厚さが、100〜3000nmであるのが好ましく、また、フィルム状の前記基材を有する防曇膜であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
上記構成を有する本発明の親水性材は、無機酸化物層からなる親水性層を有し、この親水性層が、基材の法線に対して10〜70°の角度を有する柱からなる柱状構造、すなわち基材の法線に対して所定の角度で傾斜する柱からなる柱状構造を有する。
そのため、垂直に形成された柱状構造に比して、親水性層の表面積が非常に大きく、その結果、多量の水を吸収でき、非常に優れた親水性を発揮し、例えば防曇膜に利用した際に、非常に優れた防曇性を発現する。また、柱が斜めに形成された柱状構造を有することにより、柱間の間隙に余裕ができ、その結果、応力の逃げ場を十分に確保でき、環境変化た外部から受ける力に対して、非常に良好な強度を有し、さらに、経時安定性も良好である。
しかも、このような優れた特性を有するにも関わらず、真空蒸着等の気相堆積法を利用して、基板を傾けて配置するだけで製造することができ、製造も容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の親水性材について、添付の図面に示される好適実施例を基に、詳細に説明する。
【0014】
図1に、本発明の親水性材を防曇膜に利用した一例の模式図を示す。また、図2に、本発明の親水性材を利用する防曇膜の顕微鏡写真(顕微鏡写真データをプリントとして出力した画像)を示す。
図1に示す防曇膜10は、基板12と、この基板12の表面に形成された防曇層(親水性層)14とを有する。図1に示すように、防曇層14は、互いに独立して成長した無機酸化物の柱状物(柱)によって構成される柱状構造を有するものであり、かつ、基板12(基板12の表面)の法線H(基板12の表面に対する垂線)に対する柱の角度αが、10〜70°である。
【0015】
本発明において、基板12には、特に限定はなく、高分子フィルムやガラス板等、各種の可撓性あるいは非可撓性のシート状物が利用可能である。
また、本発明は、このような基板12に防曇層14を形成した防曇膜に限定はされず、車両用バックミラー、浴室用鏡、洗面所用鏡、歯科用鏡、道路鏡のなどの各種の鏡; 眼鏡レンズ、光学レンズ、写真機レンズ、内視鏡レンズ、照明用レンズ、半導体用レンズ、複写機用レンズなどの各種のレンズ; プリズム; 建物や監視塔の窓ガラスやその他建材用ガラス; 自動車、鉄道車両、航空機、船舶、潜水艇、雪上車、ロープウエイのゴンドラ、遊園地のゴンドラ、種々の乗物の窓ガラス; 自動車、鉄道車両、航空機、船舶、潜水艇、雪上車、スノーモービル、オートバイ、ロープウエイのゴンドラ、遊園地のゴンドラ、種々の乗物の風防ガラス; 冷凍食品陳列ケースのガラス; 計測機器のカバーガラス; 防護用ゴーグル、スポーツ用ゴーグル、防護用マスク、スポーツ用マスク、ヘルメットなどに設けられるシールド; さらには、これらの物品の表面に貼付させるためのフィルム; 等の各種の物品を基材(基板)として、防曇層14を形成したものであってもよい。
【0016】
また、本発明において、防曇層14(親水性層)は、無機酸化物によって形成される。
無機酸化物としては、親水性を有するものであれば、全てのものが利用可能でである。
好ましくは、優れた防曇性能を得られる、製造が容易である、使用上の安全性、基材や防曇性層の周辺部材に対して不活性である等の点で、硅素(Si)酸化物、アルミニウム(Al)酸化物、イットリウム(Y)酸化物、ジルコニウム(Zr)酸化物、スズ(Sn)酸化物、チタン(Ti)酸化物、タンタル(Ta)酸化物、ハフニウム(Hf)酸化物等が例示される。中でも特に、硅素酸化物、アルミニウム酸化物、は好適である。また、無機酸化物は、アモルファスであってもよい。
【0017】
防曇層14は、成膜(形成)する膜に応じて、通常の真空蒸着などと同様の材料を成膜材料として用いて、真空蒸着等の気相堆積法によって形成(成膜)すればよい。好適な製造方法に関しては、後に詳述する。
【0018】
また、防曇層14は、必要に応じて、抗菌機能材料を有してもよい。
抗菌機能材料としては、水銀,銀,銅,亜鉛,鉄,鉛,ビスマスなどが挙げられる。また、銀、銅、亜鉛、ニッケル等の金属や金属イオンをケイ酸塩系担体、リン酸塩系担体、酸化物、ガラスやチタン酸カリウム、アミノ酸等に担持させたものも挙げられる。
より具体的には、ゼオライト系抗菌剤、ケイ酸カルシウム系抗菌剤、リン酸ジルコニウム系抗菌剤、リン酸カルシウム抗菌剤、酸化亜鉛系抗菌剤、溶解性ガラス系抗菌剤、シリカゲル系抗菌剤、活性炭系抗菌剤、酸化チタン系抗菌剤、チタニア系抗菌剤、有機金属系抗菌剤、イオン交換体セラミックス系抗菌剤、層状リン酸塩−四級アンモニウム塩系抗菌剤、抗菌ステンレス等が例示されるが、これらに制限されるものではない。
抗菌機能材料を含有する場合には、その量は、0.001〜20wt%程度とするのが好ましい。
【0019】
なお、気相堆積法によって無機酸化物を形成すると、理論比と同じ組成の膜を形成できない場合が有るが、本発明者の検討によれば、防曇層14(親水性層)を形成する無機酸化物が、理論比に近い組成を有する方が、好適な防曇性(親水性)を発現する。
そのため、例えば、硅素酸化物(酸化硅素膜(SiO2))からなる防曇層14を形成する場合であれば、O/Si比が1.8以上の酸化珪素膜とするのが好ましい。なお、このような無機酸化物膜は、例えば、成膜圧力範囲で酸素ガスを導入しつつ無機酸化物を成膜することにより、作製できる。
【0020】
前述のように、防曇層14(親水性層)は、無機酸化物からなるものであり、かつ、個々に独立した柱(無機酸化物の柱状物)からなる柱状構造を有し、さらに、この柱と、基板12の法線Hとが成す角度αが10〜70°である。
【0021】
このように、基板12の法線Hとが成す角度αが10〜70°の柱(以下、「傾斜する柱」と称する)からなる柱状構造を有することにより、同じ層厚であれば、特許文献3に示されるように基板に垂直(すなわち前記角度αが0°)の柱状構造を有する防曇層に比して、大幅に表面積を向上することができ、すなわち、毛細管現象による防曇層14の水の吸収性を大幅に向上して、非常に優れた防曇性を得ることができる。
また、本発明の防曇膜10は、好ましくは、真空蒸着等の気相堆積法(真空成膜法)で形成される。ここで、本発明者らの検討によれば、気相堆積法によって傾斜する柱を成長させると、基板に垂直に成長させた場合のように柱が密接/密集して形成されずに、柱の間隔が広くなり、かつ、柱の独立性も向上する。そのため、水の吸収容積より向上して防曇性を向上でき、かつ、隣接する柱同士での接触や押圧も低減でき、また、応力の逃げ場を持つことができるので、防曇層14形成後の温度変化、使用環境の変化、外力を受けた場合等が生じても、防曇層14が破損(特に、柱同士の干渉に起因する自己破損)することがなく、すなわち、強度に優れる防曇層14すなわち防曇膜10が得られる。また、成膜中の防曇層14の破損も、好適に防止できる。
さらに、このような傾斜する柱からなる防曇層14は、経時安定性、特に、防曇性の経時安定性にも優れる。
【0022】
また、図1においては、本発明の構成を明瞭に示すために、防曇層14を構成する柱を単純に1本の柱として示しているが、気相堆積法で傾斜する柱からなる柱状構造の無機酸化物層を形成すると、図3に模式的に示すように、最初は互いに独立した柱が成長し、結晶の成長と共に、それらが次第に統合して1つの柱状物となる。また、柱は、微細な粒状物で形成され、この粒状物の大きさも、下方(基板側)から上方(防曇層表面側)に向かうにしたがって大きくなる。すなわち、防曇層14は、下方が粗で、上方に向かって次第に密になる構成となる。
その結果、前記表面積が大きくなる効果、各柱間の間隙が大きくなる効果が、より強く発現し、しかも、表面の水分を好適に下方に導くことができ、優れた防曇性および強度を有する防曇膜10が得られる。
【0023】
しかも、後に詳述するが、このような防曇膜10(防曇層14)は、真空蒸着等の気相成膜法によって、基板を傾けて配置した状態で防曇層14を形成するだけで、作製できるので、非常に簡単に製造できる。
【0024】
すなわち、本発明の防曇膜10(親水性膜)は、無機酸化物からなり、柱を傾斜した柱状構造を有することにより、防曇層14の表面積を大きくし、防曇層14における無機酸化物の充填率を最適な範囲として、防曇性(親水性)に優れ、しかも、高強度の防曇膜を得ることができる。
さらに、防曇層14が無機酸化物であるので、耐熱性、可視光透過性(透明性)、耐薬品性、耐候性、および、耐摩擦性にも優れる。
【0025】
前述のように、本発明において、柱状構造を有する防曇層14を構成する柱の角度αは、基板12の法線に対して10〜70°である。
この角度αが10°未満では、柱を傾斜した効果を十分に得られない場合が多く、すなわち従来の垂直の柱状構造の防曇膜に比して十分に優れた防曇膜を得ることができない場合が多い。他方、角度αが70°を超えると、いわゆるヘイズ(不可逆的な曇り)を生じ易くなってしまう。
また、よりすぐれた防曇性や強度の防曇層14を得られる等の点で、上記角度αは、25〜45°とするのが好ましい。
なお、防曇層14(親水性層)を形成する柱の上記角度αは、膜(柱)が傾斜している方向(基板12面と平行な方向 図1矢印a方向)と、直交する方向から見た断面を走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)で観察して、法線Hに対する柱の角度αを測定すればよい。
【0026】
具体的には、防曇層14を構成する柱(柱状構造)が最も傾斜している方向と平行で、かつ、基板12と直交する断面を形成し、この断面と直交する方向からSEM等で観察して、法線Hに対する柱の角度αを測定すればよい。
例えば、後述する図4に示す製造方法で防曇層14を形成した防曇膜10であれば、柱が最も傾斜している方向は、一般的に、基板12の法線Hcから、蒸発源26の中心と基板12の中心を結ぶ線Sに向かう方向となる。従って、柱状結晶が最も傾斜してる方向と平行な断面は、この法線Hcと線Sとが成す面と平行な面となる。
【0027】
ここで、防曇層14を形成する柱は、必ずしも、一直線状であるとは限らず、角度が異なる領域を有する場合もある。このような場合には、防曇層14の層厚に応じて、角度αの測定するのが好ましい。
防曇層14の層厚が300nm未満である場合には、基板12(もしくは防曇層14の下層)の表面から防曇層14の厚さ方向で10%の領域、および、防曇層14の表面から同方向で10%の領域を除いた、厚さ方向の中央80%の領域を設定する。この中央80%の領域において、柱の最大角度および最小角度を測定して、その平均値を柱の角度αとするのが好ましい。
防曇層14の層厚が300nm以上である場合には、基板12(もしくは防曇層14の下層)の表面から防曇層14の厚さ方向で30nmの領域、および、防曇層14の表面から同方向で30nmの領域を除いた、厚さ方向の中央領域を設定する。この中央領域において、柱の最大角度および最小角度を測定して、その平均値を柱の角度αとするのが好ましい。
【0028】
なお、上記柱の角度αの測定方法において、柱が湾曲している場合、および、柱が湾曲している領域を有する場合には、湾曲部で柱の接線を設定し、この接線の角度を測定することで、柱の最大角度および最小角度を測定すればよい。
【0029】
また、本発明においては、先と同様に、防曇層14を構成する柱が最も傾斜している方向と平行で、かつ、基板12と直交する断面を形成し、この断面と直交する方向からSEM等で観察して、異なる任意の10本の柱で、法線Hに対する柱の角度αを測定して、その平均値を、この防曇層14における柱の角度としてもよい。
【0030】
この際において、柱の角度αが異なる領域を有する場合には、先と同様にして中央領域を設定して、10本の柱の角度αを測定すればよい。
すなわち、防曇層14の層厚に応じて、防曇層14の層厚が300nm未満である場合には、厚さ方向の中央80%の領域を設定し、また、防曇層14の層厚が300nm以上である場合には、基板12および防曇層14の表面からの30nmを除いた中央領域を設定する。その上で、異なる任意の10本の柱において、前記中央領域で角度αを測定し、その平均値を防曇層14における柱の角度とする。
【0031】
なお、上記柱の角度αの測定において、クラックや欠陥等による異常成長部位や、断面の形成時に破壊されてしまった部位は、柱の角度(最大角度および最小角度)の測定位置としては採用しない。
【0032】
本発明においては、柱状構造を有する防曇層14を形成する全ての柱の角度αが、上記範囲(基板12の法線に対して10〜70°の範囲)に入っているのが好ましいのは、もちろんである。
しかしながら、本発明は、これに限定はされず、製造誤差等の範囲において、上記範囲に含まれない柱を有してもよい。
具体的には、防曇層14の表面において、面積の60%以上を構成する柱の角度αが、前記範囲に入っているのが好ましく、特に、防曇層14の表面において、面積の80%以上を構成する柱の角度αが、前記範囲に入っているのが好ましい。
なお、防曇層14において、全ての柱の角度αを計るのは、非常に手間がかかる。そのため、本発明においては、簡易的に、防曇層14の中央において前記断面を形成し、この中央の断面において、60%以上の柱の角度αが前記範囲に入っていれば、防曇層14の表面において、面積の60%以上を構成する柱の角度αが、前記範囲に入っていると見なしても良い。なお、言うまでもなく、前記断面とは、防曇層14を構成する柱が最も傾斜している方向と平行で、かつ、基板12と直交する断面である。
【0033】
本発明の防曇膜10(親水性材)において、防曇層14の厚さ(柱の長さではなく、基板12の法線方向の高さ)は、100〜3000nmが好ましい。
防曇層14の厚さを100nm以上とすることにより、十分な防曇性を安定して得ることができ、また、防曇層14の厚さを3000nm以下とすることにより、ヘイズの発生を好適に防止できる防曇膜を安定して得ることができる。
また、上記効果が、より好適に発現できる等の点で、防曇層14の厚さは、150〜1000nmが、より好ましい。
【0034】
本発明において、柱の径にも、特に限定は無い。
ここで、図3を例示して前述したように、傾斜する柱からなる柱状構造の無機酸化物膜は、当初は独立した細い柱が成長し、次第に統合して太い柱となる。この統合の状態は、基板面方向によって異なり、基板面に平行で柱が傾く方向(柱の傾斜方向)すなわち図1の矢印a方向(後述する製法における基板を傾けた方向)よりも、基板面に平行で柱の傾斜方向と直交する方向(図1紙面に垂直方向)の方が、より多くの柱が統合する。
すなわち、防曇層14の表面では、柱状構造を形成する柱の径は、柱の傾斜方向が細く、この傾斜方向と直交する方向が太い、楕円のような形状になる。
本発明者の検討によれば、柱の径は、防曇層14の表面(基板12と逆側の面)において、長径方向が50〜10000nm、短径方向が2〜300nmであるのが好ましい。
防曇層14を形成する柱の径を上記範囲とすることにより、防曇性、防曇性の経時安定性、防曇層14の強度等の点で、好ましい結果を得る。
【0035】
また、防曇層14を形成する柱の間隔にも、特に限定は無いが、2〜100nmであるのが好ましい。
柱の間隔を上記範囲とすることにより、防曇性、防曇性の経時安定性、防曇層14の強度等の点で、好ましい結果を得る。
【0036】
前述のように、防曇層14の柱状構造を構成する柱は、微細な粒状物で構成される。
この粒状物の径にも特に限定はないが、2〜20nmが好ましく、また、粒状物の間隔にも、特に限定はないが、0.5〜7nmであるのが好ましい。
防曇層14の柱を形成する粒状物の径および間隔を上記範囲とすることにより、防曇性、防曇性の経時安定性、防曇層14の強度等の点で、好ましい結果を得る。
【0037】
また、前述のように、本発明の防曇膜10の防曇層14は、柱状構造を構成する傾斜する柱同士が好適な間隔を保って形成され、かつ、下方から上方に向かって細い柱が統合して太くなり、かつ、この柱が粒状物で形成されることにより、広い表面積および適度な空間を有し、これにより、優れた防曇性と強度を有する。すなわち、本発明は、傾斜する柱状構造の防曇層とすることにより、防曇層の充填率(空隙も含めた層(膜)全体の堆積に対する、無機酸化物の割合)を防曇層14として好適なものにできる。
この防曇層14の充填率にも、特に限定は無いが、本発明者の検討によれば、0.5〜0.9、特に、0.7〜0.9が好ましい。
防曇層14の充填率を上記範囲とすることにより、防曇性、防曇性の経時安定性、防曇層14の強度等の点で、好ましい結果を得る。
【0038】
このような防曇膜10の防曇層14は、一例として、真空蒸着などの気相堆積法で成膜(形成)することができる。この際において、通常の成膜に対して、基板を傾斜して配置することにより、図1に示すような、傾斜した柱からなる柱状構造の防曇膜14を、好適に成膜できる。
図4に、このような傾斜した柱からなる柱状構造の防曇層14を有する防曇膜10を真空蒸着によって成膜する際の模式図を示す。
【0039】
図4に示す真空蒸着装置20は、電子銃を用いたEB加熱によって、成膜材料を溶融/蒸発するものであり、電子銃22と、真空チャンバ24と、蒸発源(ルツボ)26と、真空ポンプ28と、基板ホルダ30と、ガス導入手段32と、EB電源34とを有する。また、基板ホルダ30は、基板12の温度を調節するための温度調節手段30aを内蔵しており、温度調節手段30aには、その駆動電源36が接続される。
【0040】
図示例の真空蒸着装置20は、基板12を傾けて配置して、真空蒸着によって成膜する以外は、基本的に、通常のEB加熱による真空蒸着を行なう装置である。
すなわち、蒸発源26の所定位置に成膜材料Mを充填し、傾いた状態の基板ホルダ30の所定位置に基板12を装填して、真空チャンバを閉塞し、真空ポンプ28によって真空チャンバ24内を真空にする。なお、成膜材料は、成膜する防曇層14に応じて、通常の真空蒸着と同様の材料(例えば、成膜するのが酸化珪素であればSiO2)を成膜材料として用いればよい。
真空チャンバ24内が所定の圧力となった時点で、必要に応じて、ガス導入手段32によって酸素ガスや不活性ガスを導入して真空度を調整し、EB電源34を駆動して、電子銃22(図示例は180°偏向の電子銃であるが、これに限定はされない)を駆動して、電子ビーム(EB)を成膜材料に入射して、成膜材料を加熱溶融して、蒸発させて、基板12に成膜を行なう。また、この際に、必要に応じて、電源36を駆動して、温度調節手段30aによって、基板12の温度を調節する。
【0041】
なお、本発明の防曇膜10(親水性材)を作成する際において、真空蒸着は、EB加熱で行なうのに限定はされず、抵抗加熱でも誘導加熱でも、公知の方法を用いればよい。
【0042】
ここで、この製造方法(成膜方法)においては、前述のように、基板12を傾けた状態で配置して、基板12の表面に防曇層14(親水性層)を形成する。
すなわち、一般的な真空蒸着では、基板12(基板12表面)の法線と、基板12への蒸気の入射方向(蒸発流の入射方向)とを、重ねて蒸着を行なうが、この成膜方法では、基板12の法線と、蒸気の入射方向とに角度を持たせて蒸着を行なう。
これにより、この傾いた基板12に対する蒸気の入射方向に傾斜した柱からなる柱状構造を有する防曇膜14を形成できる。
【0043】
なお、真空蒸着(気相堆積法)による防曇層14(親水性層)の形成は、このように基板12を傾けて以外には、基本的に、作製する防曇層14に応じた通常の真空蒸着と同様に行なえばよい。
【0044】
基板12の角度は、目的とする柱の角度に応じて、適宜設定すればよい。
ここで、本発明者の検討によれば、成膜材料蒸気(成膜材料粒)の基板12への入射方向と、基板12の法線とが成す角度、例えば、図4に示すように、蒸発源26の中心(成膜材料蒸気の排出口の中心)と基板12の中心とを結ぶ線Sと、基板12の中心からの法線Hcとがなす角度βを20〜85°として防曇層14を形成することにより、前記角度αが10〜70°の柱からなる柱状構造の防曇層14を、安定して作製できる。なお、形状によって、基板12や蒸発源26の中心が容易に決められない場合には、基板12や蒸発源26(成膜材料蒸気の排出口)を内接する円を想定し、この円の中心を、中心とすればよい。
この好ましくは、この角度βを55〜75°とすることにより、角度αがより好適な25〜45°の柱からなる柱状構造の防曇層14を、安定して形成できる。
【0045】
この製造方法において、蒸発源26と基板12との距離(例えば、前記蒸発源中心と基板中心とを結ぶ線Sの長さ)には、特に限定はない。
ここで、この距離が近すぎると、基板12に形成される柱の傾斜(基板の法線に対する角度)にバラツキが生じる、組成や粒状物や充填率などの膜質にバラツキが生じる、蒸着源26から発生する熱等によって基板12がダメージを受けてしまう等の不都合を生じる可能性が有る。逆に遠すぎると、組成や粒状物や充填率などの膜質にバラツキが生じる、材料利用効率の低下、過剰な設備の巨大化による生産性の低下やコスト高等の不都合が生じる可能性が有る。
以上の点を考慮すると、蒸発源26と基板12との距離は、100〜2000mm、特に、300〜1000mmとするのが好ましい。
蒸発源26と基板12との距離を上記範囲とすることにより、防曇層14を構成する柱の角度が適切に揃った、かつ、基板12(基材/被処理物)にダメージが少ない、均一な膜質の防曇層14を安定して形成できる。
【0046】
成膜圧力にも、特に限定はなく、成膜する防曇層14等に応じて、適宜、設定すればよい。
ここで、成膜圧力は、防曇層14の充填率に影響を与え、成膜圧力が高い(真空度が低い)方が、充填率が低くなる。また、成膜圧力は、防曇層14を構成する柱の角度にも影響を与える。
本発明者の検討によれば、成膜圧力を5×10-4〜5×101Paの範囲とすることにより、より安定して、前記の角度で傾斜した柱からなる柱状構造を有し、また、前述の充填率(0.5〜0.9)を有する防曇層14を形成できる。
【0047】
なお、成膜圧力を調整するガスは、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン等のガスを用いればよい。
また、本発明の防曇膜10において、無機酸化物からなる防曇層14の組成は理論比に近い方が好ましいのは、前述のとおりである。これに応じて、前記成膜圧力範囲内において、酸素ガスを導入しつつ、防曇層14を形成してもよい。
【0048】
図4に示す真空蒸着装置20は、基板ホルダ30が、基板12(成膜された膜)の温度を調整する温度調整手段30aを内蔵する。
防曇層14を形成する際にも、必要に応じて、このような温度調整手段30aを用いる等の手段によって、基板12の温度を調整しつつ、成膜するのが好ましい。
例えば、防曇層14として、酸化珪素膜を形成する場合には、ガラスの転移温度は600〜800℃程度であるので、基板12の温度を600℃以下として、防曇層14を形成するのが好ましい。また、基板12が高分子フィルムで有る場合には、基板12の変性を防止するために、基板12の温度を80℃以下として、防曇層14を形成するのが好ましい。
【0049】
さらに、防曇層14を形成する際の蒸着レート(成膜レート)にも、特に限定は無い。
ここで、本発明者の検討によれば、蒸着レートは、膜厚として、1nm/min〜1000nm/min程度が好ましい。
【0050】
以上、本発明の親水性材について、防曇膜を例示して詳細に説明したが、本発明は、これに限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行なってもよいのは、もちろんである。
【0051】
例えば、本発明の親水性材は、防曇膜に限定はされず、前述のように防曇層を形成してなるレンズ、防曇層を形成してなる自動車用や建築用のガラス板、防曇層を形成してなる鏡等、すなわち防曇処理を施してなる各種の部材であってもよい。
また、以上の例においては、防曇層(親水性層)を真空蒸着によって形成したが、本発明は、これに限定はされず、スパッタリングやイオンアシスト蒸着(イオンプレーティング)等によって防曇層を形成してもよい。
さらに、本発明の親水性材は、防曇材に限定はされず、その良好な親水性および水滴の吸収性を利用して、調湿材、坊汚材、親水性物質の吸着材等の各種の用途に利用可能である。
【実施例】
【0052】
以下、本発明の具体的実施例を挙げ、本発明について、より詳細に説明する。
【0053】
[実施例1]
基板12として厚さ0.7mmのコーニング社製合成ガラス1737を用い、図4に示す真空蒸着装置20によって、この基板12に、防曇層として酸化硅素膜を成膜した。
成膜材料としては、1〜3mmの顆粒状の酸化硅素(SiO2)を用いた。
基板12を基板ホルダ30に取り付け、蒸発源26に成膜材料を充填した後、真空チャンバ24を閉塞して、真空ポンプ28を稼働して、真空チャンバ24内を減圧した。
真空チャンバ24内の圧力が8.0×10-4Paとなった時点で、電子銃22を駆動して、電子ビーム(EB)によって酸化硅素を約2000℃に加熱して溶解を開始し、真空チャンバ24内の圧力が1.5×10-3Paで安定した時点で、図示しないシャッタを開放して、基板12への酸化硅素膜、すなわち防曇層14の形成を開始した(すなわち、成膜圧力は1.5×10-3Pa)。
【0054】
防曇層14の膜厚が500nmとなった時点で、電子銃22を停止し、防曇層14の形成を終了した。
なお、成膜レートは300nm/minとした。これは、予め行なった実験に応じて制御した。また、防曇層14の形成中は、温度調整手段30aによって、基板12の温度を50℃に調整した。
【0055】
このようにして基板12に防曇層14(酸化硅素膜)を形成してなる防曇膜10の製造を、前記基板中央の法線Hcと、蒸発源26の中心と基板12の中心とを結ぶ線Sとが成す角度βを、0°、20°、40°、45°、50°、55°、60°、65°、70°、75°、および、80°に変更して行なった。
【0056】
形成した防曇層14は、いずれも、独立した多数の柱によって形成された柱状構造を有していた。
作製した11種の各防曇膜について、断面をSEMで観察して、基板12の法線Hと、防曇層の柱状構造を形成する柱とが成す角度α(傾斜角[°])を調べた。
【0057】
また、得られた各防曇膜10について、防曇性、防曇持続性、および防曇層の基板密着性を調べた。
【0058】
[防曇性]
各防曇膜10(防曇層14)の表面に、温度が40℃で、湿度が90%RHの水蒸気混合気体を1cmの距離から吹きかけ、曇りを生じる時間を調べ、防曇性を確認した。
水蒸気混合気体を1分以上秒吹きかけても全く曇らない防曇膜をA;
水蒸気混合気体を10秒吹きかけた時点で曇り始めた防曇膜をB;
水蒸気混合気体を5秒吹きかけた時点で曇り始めた防曇膜をC;
水蒸気混合気体を3秒吹きかけた時点で曇り始めた防曇膜をD;
水蒸気混合気体を1秒吹きかけた時点で曇り始めた防曇膜をE;
と評価した。
【0059】
[防曇持続性]
前記防曇性試験の結果に対して、曇り始める時間が半分になった時点(例えば、前記防曇性試験で10秒で曇り始めた検体が、5秒で曇り始めるようになった時点)を防曇効果が50%以下となったと判断して、防曇効果が50%以下になるまでの経時時間で、防曇持続性を確認した。
半年以上でも防曇効果が50%以下にならない防曇膜を5;
1カ月以内で防曇効果が50%以下になった防曇膜を4;
10日以内で防曇効果が50%以下になった防曇膜を3;
3日以内で防曇効果が50%以下になった防曇膜を2;
1日以内で防曇効果が50%以下になった防曇膜を1;
と評価した。
【0060】
[基板密着性]
前記防曇性の検査で蒸気を吹きかけても全く防曇層14の剥離を生じないものを○;
前記防曇性の検査で蒸気を吹きかけた際に防曇層14の一部に剥離を生じたものを△;
前記防曇性の検査で蒸気を吹きかけなくても、自然に防曇層14の一部に剥離を生じたものを×;
と評価した。
結果を下記表1に示す。
【0061】
【表1】


表1に示されるように、防曇層14の柱が10〜70°の範囲で傾斜している本発明の防曇膜10は、いずれも、防曇層14の柱が基板面に直立している従来の防曇膜に比して優れた特性を有しており、特に、柱の傾斜角(角度α)が25〜45°のものは、非常に優れた防曇性、防曇持続性、および、基板密着性を有している。
【0062】
[実施例2]
前記基板中央の法線Hcと、蒸発源26の中心と基板12の中心とを結ぶ線Sとが成す角度βを60°に固定し、防曇層14の膜厚を、50nm、70nm、110nm、170nm、300nm、430nm、および、1100nmに変更した以外には、前記実施例1と全く同様に防曇膜10を製造した。
作製した7種の防曇膜について、前記実施例1と全く同様に、基板12の法線Hと、防曇層の柱状構造を形成する柱とが成す角度α(傾斜角)を調べたところ、いずれも、27〜31°であった。
また、作製した7種の防曇膜10について、前記実施例1と全く同様に防曇性を評価した。結果を下記表2に示す。
【0063】
【表2】


上記表2に示されるように、防曇層14の柱が傾斜している本発明の防曇膜10は、いずれも、防曇層14の柱が基板面に直立している従来の防曇膜に比して優れた防曇性を有しており、特に膜厚が100nm、中でも特に300nm以上のものは、非常に優れた防曇性を有している。
【0064】
[実施例3]
前記実施例1と全く同様にして、基板傾斜角が0°の防曇膜、および、基板傾斜角が60°の防曇膜を作製した。なお、実施例1と同様にして、防曇層14(親水性層)を構成する柱と基板の法線Hとが成すの角度αを測定したところ、実施例1と全く同様に、基板傾斜角が0°の物は0°で、基板傾斜角が60°のものは27〜31°であった。
両者について、(株)マツボー製のPG−Xを用いて水の接触角を測定して、親水性(親水性材としての性能)について検査した。
その結果、角度αが0°のものは、作製直後が20°で、一週間経過後が52°;
角度αが27〜31°のものは、作製直後が5°以下(5°が測定限界)、一週間経過後もが5°以下; であった。
以上の結果より、本発明の効果は明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の親水性材を防曇膜に利用した一例を模式的に示す図である。
【図2】本発明の親水性材を防曇膜に利用した一例の顕微鏡写真データを処理して出力した画像である。
【図3】本発明の親水性材を説明するための模式図である。
【図4】本発明の親水性材の製造方法の一例を説明するための模式図である。
【符号の説明】
【0066】
10 防曇膜
12 基板
14 防曇層
20 真空蒸着装置
22 電子銃
24 真空チャンバ
26 蒸発源
28 真空ポンプ
30 基板ホルダ
32 ガス導入手段
34 EB電源
36 電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の表面に形成される無機酸化物からなる親水性層とを有し、
前記親水性層は、柱状構造を有し、かつ、この柱状構造を形成する柱が前記基材の法線に対して10〜70°の角度を有することを特徴とする親水性材。
【請求項2】
前記親水性層の厚さが、100〜3000nmである請求項1に記載の親水性材。
【請求項3】
フィルム状の前記基材を有する防曇膜である請求項1に記載の親水性材。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−274410(P2008−274410A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−71502(P2008−71502)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】