観察装置
【課題】細胞のような透明で微細な被写体を高い分解能で簡易に観察する。
【解決手段】試料Aを載置する載置面6aを有する光学結晶6と、該光学結晶6に向けて第1の電磁波L2を載置面6aとは反対側から照射する第1の照射系4および第2の電磁波L1を照射する第2の照射系5と、該第2の照射系5から照射され試料Aの載置面6aにおいて反射した第2の電磁波L1を検出する検出系7とを備え、第1の電磁波L2は、パルス状のテラヘルツ波であり、第2の電磁波L1は、テラヘルツ波L2よりも波長が短いパルス状の電磁波であり、第1の電磁波L2の照射領域と第2の電磁波L1の照射領域の少なくとも一部が光学結晶6内の載置面6a近傍で重なるように、第1の照射系4と第2の照射系5が配置され、検出系7は、その合焦位置が光学結晶6の載置面6a近傍と一致するように配置されている観察装置1を提供する。
【解決手段】試料Aを載置する載置面6aを有する光学結晶6と、該光学結晶6に向けて第1の電磁波L2を載置面6aとは反対側から照射する第1の照射系4および第2の電磁波L1を照射する第2の照射系5と、該第2の照射系5から照射され試料Aの載置面6aにおいて反射した第2の電磁波L1を検出する検出系7とを備え、第1の電磁波L2は、パルス状のテラヘルツ波であり、第2の電磁波L1は、テラヘルツ波L2よりも波長が短いパルス状の電磁波であり、第1の電磁波L2の照射領域と第2の電磁波L1の照射領域の少なくとも一部が光学結晶6内の載置面6a近傍で重なるように、第1の照射系4と第2の照射系5が配置され、検出系7は、その合焦位置が光学結晶6の載置面6a近傍と一致するように配置されている観察装置1を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は観察装置に関し、特に、可視光による観察が困難な透明な試料、例えば細胞等の試料を観察するための観察装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
透明な物質(例えば、水)のセンシング技術として、従来、テラヘルツ波を使用したセンシング技術が知られている(例えば、非特許文献1参照。)。
このセンシング技術は、テラヘルツ波を透明な試料を透過させたときに、その成分分布に応じた強度分布を、テラヘルツ波が備えることを利用している。非特許文献1では、透明な試料を透過したテラヘルツ波を、結像光学系により電気光学結晶に結像させている。また、結像光学系の途中にダイクロイックミラーを配置して、このダイクロイックミラーによって同一光路上に近赤外光を導入することで、導入された近赤外光を同じ電気光学結晶に照射させている。電気光学結晶はテラヘルツ波が照射されると、その電場状態(テラヘルツ波の振幅、位相の状態)に応じて特性が変化する。すなわち、電気光学結晶に試料情報が記録されることになる。そのため、この状態の電気光学結晶を近赤外光が透過すると、透過の際に近赤外光が変調をうける。そこで、変調された近赤外光を検出することにより、試料の成分分布を観察することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】西澤潤一編著、「テラヘルツ波の基礎と応用」、株式会社工業調査会発行、2005年4月1日、p.160−161
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、テラヘルツ波は、波長30μm〜3mm程度の極めて長波長の電磁波である。一方、光学系の空間分解能は、光学系のF値と波長の積により決定される。そのため、従来技術のセンシング技術では、結像光学系の空間分解能が極めて低くなる。すなわち、電気光学結晶には分解能の低い情報が記録されることになる。そのため、細胞のように微細な構造を持つ試料を観察するための観察装置には使用することができないという不都合がある。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、細胞のような透明で微細な構造を持つ試料を高い分解能で簡易に観察することができる観察装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、試料を載置する載置面を有する光学結晶と、該光学結晶に向けて第1の電磁波を前記載置面とは反対側から照射する第1の照射系および第2の電磁波を照射する第2の照射系と、該第2の照射系から照射され前記試料の載置面において反射した前記第2の電磁波を検出する検出系とを備え、前記第1の電磁波は、パルス状のテラヘルツ波であり、前記第2の電磁波は、前記テラヘルツ波よりも波長が短いパルス状の電磁波であり、前記第1の電磁波の照射領域と前記第2の電磁波の照射領域の少なくとも一部が前記光学結晶内の前記載置面近傍で重なるように、前記第1の照射系と前記第2の照射系が配置され、前記検出系は、その合焦位置が前記光学結晶の前記載置面近傍と一致するように配置されている観察装置を提供する。
【0007】
本発明によれば、光学結晶の載置面に試料を載置した状態で、載置面とは反対側から光学結晶に向けて第1の照射系によりパルス状のテラヘルツ波(第1の電磁波)を照射すると、テラヘルツ波は光学結晶を透過して載置面上の試料に入射され、その一部が試料において反射されて、再度載置面を透過して光学結晶内に入射される。ここで、テラヘルツ波は、試料において反射される際に、試料の屈折率および吸収の分布に従って変調される。そして、変調されたテラヘルツ波は、試料において反射された直後に光学結晶内に再度入射され、光学結晶に作用して、光学結晶内に複屈折を生じさせる。
【0008】
テラヘルツ波が光学結晶に入射した後、あるいは入射するのと同時に、テラヘルツ波より短い波長のパルス状の第2の電磁波を、テラヘルツ波が入射された光学結晶に、載置面とは反対側から第2の照射系により入射させると、光学結晶の載置面において反射した第2の電磁波が、光学結晶内の複屈折に従って変調されて光学結晶から射出される。そして、検出系により、光学結晶の載置面近傍を通過した第2の電磁波を検出することで、試料の屈折率分布の情報を正しく含んだ電磁波を検出することができる。この場合に、試料と載置面との間に結像光学系を含まず、試料が光学結晶に対してテラヘルツ波の波長以下の間隔で近接して配置されるため、波長の長いテラヘルツ波を利用しながら、簡易に高い空間分解能で試料の観察を行うことができる。
【0009】
上記発明においては、前記載置面に、前記第1の電磁波を透過し、前記第2の電磁波を反射する反射膜が設けられていてもよい。
このようにすることで、反射膜によってテラヘルツ波のみを透過させて、試料の屈折率および吸収の分布に従って変調されたテラヘルツ波を光学結晶内に入射させ、第2の電磁波については、試料に入射させることなく、光学結晶内に複屈折によって書き込まれた情報の読み出しのみに使用することができる。これにより、第2の電磁波を試料に照射せずに済み、試料によって受ける変調を抑えて、さらに高い分解能で試料の観察を行うことができる。
【0010】
また、上記発明においては、前記光学結晶が、前記第1の電磁波の電場状態に応じて屈折率が変化する電気光学結晶であり、前記検出系が、前記載置面において反射された後に前記光学結晶を通過する前記第2の電磁波の偏光状態を検出することとしてもよい。
【0011】
このようにすることで、試料の屈折率および吸収の分布の情報は、反射するテラヘルツ波(第1の電磁波)に電場状態の変化として引き渡され、試料から反射した直後に入射する電気光学結晶に屈折率の分布として転写される。そして、試料の屈折率および吸収の分布の情報が転写された電気光学結晶に、第2の電磁波を透過させると、その電磁波の偏光の状態が変化する。検出系においては、その変化した偏光の状態を抽出することで、試料の屈折率および吸収の分布を取得することができ、簡易に高い空間分解能で試料の観察を行うことができる。
【0012】
また、上記発明においては、前記光学結晶が、前記第1の電磁波と前記第2の電磁波を和周波混合または差周波混合する非線形光学結晶であり、前記検出系が、前記光学結晶から発せられた和周波混合または差周波混合された電磁波を検出することとしてもよい。
【0013】
このようにすることで、試料において反射される際に試料の屈折率および吸収の分布に従って変調されたテラヘルツ波(第1の電磁波)と、第2の電磁波とが、非線形光学結晶の作用によって和周波混合または差周波混合されて、テラヘルツ波と第2の電磁波の和または差の周波数を有する電磁波として光学結晶から射出される。射出された電磁波にはテラヘルツ波に含まれていた試料の屈折率および吸収の分布の情報がそのまま含まれているので、これを検出することにより、試料の屈折率および吸収の分布を取得することができ、簡易に高い空間分解能で試料の観察を行うことができる。
【0014】
また、本発明は、試料を載置する載置面を有する光学結晶と、該光学結晶に向けて、同一波長かつ、強度または偏光の異なる2つの電磁波を、それらの照射領域の少なくとも一部が前記光学結晶内の前記載置面近傍で重なるように、前記載置面とは反対側から照射する照射系と、該照射系から照射され前記試料の載置面において反射した一方の電磁波を検出する検出系とを備え、前記光学結晶が、前記一方の電磁波によってはテラヘルツ波を発生せず、所定の強度または偏光を有する他方の電磁波によってテラヘルツ波を発生する非線形光学結晶であり、前記検出系は、その合焦位置が前記光学結晶の前記載置面近傍と一致するように配置されている観察装置を提供する。
【0015】
本発明によれば、テラヘルツ波の発生手段として光学結晶を利用することができ、別個の発生手段を必要としないので装置を簡略にすることができる。また、テラヘルツ波を発生させる電磁波および読み出しに使用する電磁波としては、強度または偏光が異なる同一波長の電磁波を使用することができ、さらに構成を簡易にすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、細胞のような透明で微細な構造を持つ試料を高い分解能で簡易に観察することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る観察装置を示す全体構成図である。
【図2】図1の観察装置における試料および光学結晶に入射されるテラヘルツ波および近赤外光を説明する図である。
【図3】図1の観察装置による観察手順を示すフローチャートである。
【図4】図2の第1の変形例を示す図である。
【図5】図2の第2の変形例を示す図である。
【図6】図1の観察装置の変形例を示す全体構成図である。
【図7】図1の観察装置の他の変形例を示す全体構成図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る観察装置を示す全体構成図である。
【図9】図8の観察装置における試料および光学結晶に入射されるテラヘルツ波および近赤外光を説明する図である。
【図10】図9の変形例を示す図である。
【図11】図9の観察装置の変形例を示す全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の第1の実施形態に係る観察装置1について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る観察装置1は、図1に示されるように、フェムト秒パルス状の近赤外光L1を発生する光源2と、該光源2からの近赤外光L1を2つの光路に分割するビームスプリッタ3と、該ビームスプリッタ3により分割された一方の光路に設けられたテラヘルツ波照射光学系(第1の照射系)4と、他方の光路に設けられた近赤外光照射光学系(第2の照射系)5と、これら照射光学系4,5の後段に配置され、細胞等の試料Aを載置する載置面6aを有する電気光学結晶6と、電気光学結晶6から出射された近赤外光L1を検出する検出光学系7とを備えている。
【0019】
テラヘルツ波照射光学系4は、ビームスプリッタ3により分割された光路の一方の光路に配置されている。テラヘルツ波照射光学系4は、分割された近赤外光L1の内の一方を集光する集光レンズ8と、該集光レンズ8により集光された近赤外光L1をテラヘルツ波(第1の電磁波)L2に変換するテラヘルツ波放射素子9と、該テラヘルツ波放射素子9から放射されたテラヘルツ波L2を略平行光束に変換する第1の放物面ミラー10aと、該第1の放物面ミラー10aによって略平行光束となったテラヘルツ波L2を試料Aに集光する第2の放物面ミラー10bとを備えている。
【0020】
第2の放物面ミラー10bには、その中央近傍に貫通孔11が設けられており、後述するように、電気光学結晶6から出射された近赤外光L1を、検出光学系7側に通過させるようになっている。図中、符号12はミラーである。
【0021】
近赤外光照射光学系5は、ビームスプリッタ3により分割された光路の他方の光路に配置されている。近赤外光照射光学系5は、光路調整光学系13と、近赤外光L1の偏光を調節する1/2波長板14と、該1/2波長板14によって偏光を調節された近赤外光L1を集光して電気光学結晶6内に合焦させる対物レンズ15とを備えている。なお、近赤外光照射光学系5を通過する近赤外光L1が第2の電磁波となる。
対物レンズ15は、その焦点位置が電気光学結晶6内の載置面6aに近接する領域S(図2参照。)に配置されている。
【0022】
光路調整光学系13は、2個2対のミラー13a〜13dで構成され、一対のミラー13b、13cを他方の対のミラー13a,13dに対して矢印Bの方向に移動させる移動機構(図示略)とを備えている。ミラー13aにおいて偏向された近赤外光L1は、一対のミラー13b,13cにおいて2回偏向させられることにより折り返された後に、ミラー13dにおいて偏向されることで元の光路に戻るようになっている。2対のミラー13a〜13dの間隔を変更することで、近赤外光L1の光路長を調節することができるようになっている。
【0023】
電気光学結晶6は、テラヘルツ波L2が照射されることにより、その電場状態に応じて屈折率が変化する光学結晶であって、例えば、ZnTe(テルル化亜鉛)を挙げることができる。電気光学結晶6に電場状態の分布を有するテラヘルツ波L2が照射されることで、その電場状態の分布が屈折率分布として電気光学結晶6に書き込まれ(電場状態の分布が屈折率分布として反映され)、その書き込まれた領域Sに近赤外光L1を通過させると、近赤外光L1の偏光方向が変化させられるようになっている。ここで、テラヘルツ波L2の電場状態とは、テラヘルツ波の振幅、位相の状態を示している。
【0024】
電気光学結晶6の載置面6aには、図2に示されるように、テラヘルツ波L2を透過させ、近赤外光L1を反射する反射膜6bが設けられている。電気光学結晶6の載置面6aとは反対側から入射されたテラヘルツ波L2は反射膜6bを透過して試料Aに入射される一方、同じ方向から入射された近赤外光L1は、反射膜6bを透過せずに反射されて、電気光学結晶6内を再び通過して入射面と同一面から外部に出射されるようになっている。
【0025】
検出光学系(検出系)7は、電気光学結晶6から出射され、対物レンズ15によりコリメートされた近赤外光L1を分岐するビームスプリッタ16と、該ビームスプリッタ16により分岐された近赤外光L1の内から所定の偏光方向を有する近赤外光L1を選択する光選択光学系17と、選択された所定の偏光方向を有する近赤外光L1を集光する結像レンズ18と、結像レンズ18により集光された近赤外光L1を撮影する撮像素子(光検出器)19とを備えている。撮像素子19としては、例えば、CCDやCMOS等の2次元イメージセンサが用いられる。
【0026】
光選択光学系17は、所定の偏光方向を有する近赤外光L1のみを透過させる偏光子(以下、偏光子17とも言う。)であり、テラヘルツ波L2が電気光学結晶6に入射していない状態で入射される近赤外光L1が完全に遮断されるように調節されている。上述のように、テラヘルツ波L2の電場によって、電気光学結晶6には複屈折が誘起される。この電気光学結晶6を透過することで、近赤外光L1には位相変化が生じて偏光状態が変化する。これによって、光選択光学系17を透過してその後段の撮像素子19に入射する近赤外光L1の強度が変化するようになっている。
【0027】
このように構成された本実施形態に係る観察装置1の作用について以下に説明する。
本実施形態に係る観察装置1を用いて透明な細胞のような試料Aの観察を行うには、電気光学結晶6の載置面6aに試料Aを載置し、光源2からパルス状の近赤外光L1を出射させる。
【0028】
ビームスプリッタ3により分岐されてテラヘルツ波照射光学系4に入射された近赤外光L1は、ミラー12により1回偏向された後に集光レンズ8によって集光され、テラヘルツ波放射素子9に照射される。これにより、テラヘルツ波L2が発生し、放物面ミラー10aによって略平行光束に変換された後に、放物面ミラー10bによって試料Aに集光される。このとき、テラヘルツ波L2は、電気光学結晶6に向けて試料Aの載置面6aとは反対側、すなわち、下面から入射され、電気光学結晶6およびその載置面6aに設けられた反射膜6bを透過して試料Aに入射される。
【0029】
試料Aは透明な細胞等であるが、試料Aに入射されたテラヘルツ波L2は、試料Aによって反射されることにより変調されて、試料A内における屈折率および吸収の分布に応じた電場状態の分布を有するようになる。そして、そのように電場状態の分布を有するテラヘルツ波L2が、反射膜6bを透過して電気光学結晶6に再度入射されると、電気光学結晶6においては、テラヘルツ波L2の強度分布に応じた屈折率分布が発生する。
【0030】
電気光学結晶6において発生する屈折率分布は、試料Aに近接する程、試料Aの屈折率および吸収の分布を精度よく反映している。なお、テラヘルツ波L2の照射により電気光学結晶6内に屈折率分布が発生している時間は極めて短いので、テラヘルツ波L2の照射直後に屈折率分布の情報を読み出す必要がある。
【0031】
この情報の読み出しには、近赤外光照射光学系5に入射された近赤外光L1が用いられる。ビームスプリッタ3により分岐された近赤外光L1は、光路調整光学系13において光路長を調節された後に、1/2波長板14を透過することにより偏光方向を調節される。その後、近赤外光L1は、対物レンズ15によって集光され、放物面ミラー10bの貫通孔11を通過してから、図2に示されるように、テラヘルツ波L2と同一の方向から電気光学結晶6に照射される。そして、電気光学結晶6の載置面6aに設けられた反射膜6bによって反射されて下方に戻る際に、電気光学結晶6aに屈折率分布として書き込まれている試料で反射したテラヘルツ波L2の情報を読み出す(近赤外光L1の偏光状態が変化させられる)。
【0032】
図中、斜線で示される領域Sは、テラヘルツ波L2によって試料Aの屈折率および吸収の分布の情報を書き込まれた領域である。同一の光源2から発せられた近赤外光L1に基づくテラヘルツ波L2と近赤外光L1とは、それぞれ異なる光路を通るので、そのままでは、パルスが同時に電気光学結晶6の領域Sを通過しないこともある。そこで、光路調整光学系13による光路長の調節により、そのパルスの位相を精度よく調節することができる。
【0033】
その結果、テラヘルツ波L2の照射とほぼ同時に近赤外光L1を領域Sに照射して、屈折率分布の情報を読み出すことができる。なお、図2において、近赤外光L1とテラヘルツ波L2は、交互に別々の領域に照射されているように描かれているが、実際には、両者の照射領域Sの少なくとも一部が重なるように照射されている。
【0034】
領域Sでは、テラヘルツ波L2の照射によって屈折率が変化させられる。
電気光学結晶6を通過してその載置面6aにおいて反射された近赤外光L1が、領域Sを通過すると、近赤外光L1の偏光状態が変化させられる。すなわち、対物レンズ15により集光された近赤外光L1は、その一部が、その透過位置に応じて偏光状態が異ならされた状態で電気光学結晶6から下方に向けて出射される。
【0035】
電気光学結晶6から出射された近赤外光L1は、放物面ミラー10bの貫通孔11を通過させられた後に、対物レンズ15によってコリメートされ、ビームスプリッタ16によって分岐された光路上に配置されている偏光子17に入射される。偏光子17は、テラヘルツ波L2が電気光学結晶6に入射していない状態では、近赤外光L1を遮断するように設定されている。その一方、試料で反射されたテラヘルツ波L2が電気光学結晶6に入射している状態では、屈折率が変化した領域Sを通過することによって、偏光状態が変化した部分の近赤外光L1のみが、偏光子17を通過させられる。これにより、電気光学結晶6に記録された屈折率分布の情報を、光の光量(強度)として読み出すことができる。
【0036】
そして、このようにして抽出された近赤外光L1を結像レンズ18によって集光し、撮像素子19によって撮影することにより、可視光によっては観察できない透明な細胞等の試料Aの画像を取得することができる。
【0037】
この場合において、本実施形態に係る観察装置1によれば、従来のように試料Aと電気光学結晶6との間に光学系を配置することなく、電気光学結晶6の載置面6aに直接試料Aを載置しているので、電気光学結晶6に書き込まれる情報は光学系によって空間分解能を制限されることがない。また、試料近傍に電気光学結晶6が配置されるため、試料通過後のテラヘルツ波の回折による空間分解能低下の影響を抑えることが出来る。また、情報の読み出しには、テラヘルツ波L2よりも短い近赤外光L1を用いているので、高い空間分解能で観察することができるという利点がある。その結果、細胞のように微細な構造を持つ試料Aであっても、簡易な構成で高い空間分解能により試料Aを観察することができる。
【0038】
図3に、観察の手順を表すフローチャートを示す。
本実施形態に係る観察装置1を用いて観察を行うには、まず、バックグラウンド測定を行う。すなわち、光路調整光学系13を用いてテラヘルツ波L2と近赤外光L1とが時間的に重なっていない状態を形成するか、もしくはテラヘルツ波L2が電気光学結晶6に入射しない状態にして、画像を取得する(ステップS1)。次いで、光路調整光学系13を調整してテラヘルツ波L2と近赤外光L1とが時間的に重なっている状態を形成し、画像を取得する(ステップS2)。最後に、ステップS2において取得した画像と、ステップS1において取得した画像とを減算あるいは除算することにより、観察環境に起因する不要な情報を取り除くことができる(ステップS3)。これによって、イメージングを行うための良質な画像を得ることができる。なお、ステップS1,S2の順序は逆でもよい。
【0039】
なお、本実施形態においては、放物面ミラー10bに貫通孔11を設けて、電気光学結晶6から出射される近赤外光L1を対物レンズ15に導いているが、放物面ミラー10a,10b間にテラヘルツ波L2を透過して近赤外光L1を反射するミラーを設けて、近赤外光L1をテラヘルツ波L2と同じ光路に導いてもよい。この場合、ミラーとしてはSi板等を使用すればよい。
また、検出光学系7においてビームスプリッタ16と偏光子17とを備えることとしたが、これに代えて、両者の機能を備える偏光ビームスプリッタを採用してもよい。
【0040】
また、本実施形態においては、電気光学結晶6の載置面6aに反射膜6bを設けることにより、テラヘルツ波L2を透過し近赤外光L1を反射することとしたが、これに代えて、図4に示されるように、反射膜6bを設けなくてもよい。この場合には、電気光学結晶6の載置面6aにおいてフレネル反射が発生して近赤外光L1の一部を戻すことができる。したがって、上記と同様にテラヘルツ波L2によって書き込んだ情報を近赤外光L1によって読み出すことができる。
【0041】
ただし、この場合には、近赤外光L1の一部が電気光学結晶6の載置面6aを透過して試料Aに入射されるので、近赤外光L1を照射することが好ましくない試料Aの場合には適していない。そのような場合には、上記の反射膜6bを有する電気光学結晶6を使用することが好ましい。
【0042】
また、上記各実施形態においては、光学結晶として、電気光学結晶6を例示して説明した。しかし、これに代えて、図5に示されるように、2種類の異なる波長の光L1,L2を同時に入射させると、その2つの光L1,L2が和周波混合または差周波混合されて、その周波数の和または差の周波数を有する他の光L3が射出される非線形光学結晶6′を採用してもよい。
【0043】
このようにすることで、例えば、和周波混合の場合では、図1に示される観察装置1において、試料Aで反射したテラヘルツ波L2と近赤外光L1とを同時に非線形光学結晶6′に入射させると、図5に示されるように、試料Aの屈折率分布に応じて変調されたテラヘルツ波L2(例えば、波長100μm、周波数3THz)と、さほど変調されていない近赤外光L1(例えば、波長800nm)とが非線形光学結晶6′において和周波混合される。
【0044】
そして、試料Aの屈折率および吸収の分布の情報を含む他の波長(例えば、波長793.65nm)の和周波混合光L3が対物レンズ15により集光され、これを検出することにより、試料Aの画像を取得することができる。
この場合には、撮像素子19には、近赤外光L1を入射させないように、偏光子17に代えて、フィルタを設けることにすればよい。
【0045】
また、図6に示されるように、共焦点観察装置20を構成してもよい。
図6に示す例では、図1の観察装置1の近赤外光照射光学系5の途中に、近赤外光L1を2次元的に走査するスキャナ(近接ガルバノミラー)20a,20bを設け、対物レンズ15の焦点位置と光学的に共役な位置に、共焦点ピンホール28を配置している。これにより、対物レンズ15の焦点位置が配置されている電気光学結晶6の載置面6a近傍の領域Sからの近赤外光L1のみを光検出器19によって検出することができる。したがって、電気光学結晶6自体を比較的厚く構成しても鮮明な画像を得ることができる。
【0046】
また、図7に示されるように、近赤外光L1を検出する検出光学系7として、1/4波長板21、結像レンズ18、偏光ビームスプリッタ22およびバランスフォトダイオードのような差分検出器23を備える構成を採用してもよい。偏光ビームスプリッタ22としては、例えばウォラストンプリズムが用いられるが、これに限られるものではない。
【0047】
この場合には、テラヘルツ波L2と近赤外光L1とが領域Sにおいて時間的に重なっていない状態で近赤外光L1が円偏光となるように1/4波長板21を調節しておく。そして、1/4波長板21を通過した光を偏光ビームスプリッタ22で直交する2つの偏光成分に分割し、差分検出器23でその2つの偏光成分の強度差を検出するようにしておく。テラヘルツ波L2と近赤外光L1とが領域Sにおいて時間的に重なっていない状態では、差分検出器23により検出される強度差はゼロである。
【0048】
この状態で、テラヘルツ波L2と近赤外光L1とが領域Sにおいて時間的に重なると、近赤外光L1の偏光状態が変化するので、差分検出器23により検出される2つの偏光成分に強度差が発生する。これを検出することで、テラヘルツ波近接場成分の状態、すなわち、試料Aの情報を得ることができる。
【0049】
次に、本発明の第2の実施形態に係る観察装置30について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る観察装置30の説明において、上述した第1の実施形態に係る観察装置1と構成を共通とする箇所には同一符号を付して説明を省略する。
【0050】
本実施形態に係る観察装置30は、図8および図9に示されるように、電気光学結晶31において相違し、それによって、テラヘルツ波照射光学系32の構造が相違している。
本実施形態に係る観察装置30において、電気光学結晶31としては、特定の偏光状態または強度の近赤外光L1を入射させると、非線形光学効果によってテラヘルツ波L2を発生するものが採用されている。
【0051】
ここで、特定の偏光状態とは、近赤外光L1の偏光方向と電気光学結晶31の結晶軸方向とが特定の条件を満たしている状態をいい、後述する1/2波長板14、33により調節することができる。また、近赤外光L1の強度は、ビームスプリッタ34による強度分割比によって設定することができる。
【0052】
そして、テラヘルツ波照射光学系32は、ビームスプリッタ34で分岐した一方の光路に2個一対のミラー35a,35bを配置して光路を折り返した後に、他のビームスプリッタ36で他方の光路と同一光路に合流させるようになっている。この2個一対のミラー35a,35bを矢印Cの方向に移動可能に設けられており、移動によって光路長を調節するようになっている。2つの光路にはそれぞれ異なる偏光状態を実現するための1/2波長板14,33が配置されており、これら1/2波長板14,33を調節することにより、電気光学結晶31に入射させる近赤外光L1の偏光状態を調節することができるようになっている。
【0053】
このように構成された本実施形態に係る観察装置30の作用について以下に説明する。
本実施形態に係る観察装置30を用いて試料Aの観察を行うには、電気光学結晶31の載置面31aに試料Aを載置し、光源2からパルス状の近赤外光L1を出射させる。
【0054】
ビームスプリッタ34により分岐されてテラヘルツ波照射光学系32に入射された近赤外光L1は、一対のミラー35a,35bによって折り返される。このとき、その光路の途中に配置された1/2波長板33によって偏光状態が調節される。その後、ビームスプリッタ36によって他方の光路と同一の光路に合流され、対物レンズ15によって集光されて電気光学結晶31に入射される。
【0055】
電気光学結晶31は、特定の偏光状態または強度の近赤外光L1が入射されることにより、非線形光学効果の一種である光整流効果によってテラヘルツ波L2を発生する。一方、その条件から外れた近赤外光L1が入射された場合、テラヘルツ波L2は発生しない、もしくは発生するテラヘルツ波L2の強度は非常に小さい。したがって、一方の光路から入射させる近赤外光L1をテラヘルツ波L2発生のために使用し、他方の光路から入射させる近赤外光L1を屈折率分布の情報を読み出すために使用することができる。
【0056】
電気光学結晶31内で発生したテラヘルツ波L2は、反射膜6bを透過して試料Aに照射され、試料Aにおいて反射することで、試料Aの屈折率分布に応じて変調される。そして、そのように変調されたテラヘルツ波L2が再度反射膜6bを逆方向に透過して電気光学結晶31に入射されることにより、電気光学結晶31内に複屈折を生じさせ、試料Aに対応する屈折率および吸収の分布の情報が書き込まれる。
【0057】
そして、近赤外光照射光学系5に入射された近赤外光L1を用いて情報の読み出しが行われる。1/2波長板14によって所定の偏光状態に設定された後に対物レンズ15によって集光された近赤外光L1は、図9に示されるように、照射光学系32から導かれた近赤外光L1と同一の方向から電気光学結晶31に照射される。そして、第1の実施形態に係る観察装置1と同様にして、電気光学結晶31の載置面31aに設けられた反射膜6bによって反射されて下方に戻る際に、電気光学結晶31に書き込まれている情報を読み出すことができる。
このように、本実施形態に係る観察装置30によれば、第1の実施形態とは異なり、テラヘルツ波放射素子9を用意する必要がなくなり、構成を簡略化することができる。
【0058】
なお、本実施形態においては、単一のフェムト秒パルスレーザ光源2を2つの光路に分岐することとしたが、これに代えて、2つの別個のフェムト秒パルスレーザ光源2を用いてもよい。
【0059】
また、本実施形態においては、図10に示されるように、非線形光学結晶としての性質も備えた電気光学結晶31を用いたが、それに代えてテラヘルツ波L2を発生させるための非線形光学結晶31bと、屈折率分布の情報の書き込みと読み取りを行うための電気光学結晶31cの2つを相互に積層状態に接着することにしてもよい。例えば、非線形光学結晶31bがDAST結晶やGaSe結晶であり、電気光学結晶31cがZnTe結晶であってもよい。このようにすることで、高強度でかつ広帯域な信号の検出を行うことができる。
【0060】
また、図11に示されるように、異なる偏光状態または強度に設定された2つの近赤外光L1を合波した状態で、光ファイバ38によって電気光学結晶31まで導くことにしてもよい。図中、符号37はカップリングレンズである。このようにすることで、電気光学結晶31を比較的自由に移動させることができ、載置面31a上に置くことが困難な試料Aに対しても観察を行うことができるという利点がある。例えば、電気光学結晶31を内視鏡の挿入部先端に配置して光ファイバ38によって近赤外光L1を導くことにより、体腔内の観察を行うことも可能となる。
【0061】
また、上記各実施形態においては、信号を時間的に連続して検出することにより、動画を取得することもできる。
【符号の説明】
【0062】
L1 近赤外光(第2の電磁波)
L2 テラヘルツ波(第1の電磁波)
A 試料
S 領域(照射領域)
1,20,30 観察装置
4 テラヘルツ波照射光学系(第1の照射系)
5 近赤外光照射光学系(第2の照射系)
6,31,31c 電気光学結晶(光学結晶)
6′,31b 非線形光学結晶(光学結晶)
6a,31a 載置面
6b 反射膜
7 検出光学系(検出系)
32 テラヘルツ波照射光学系(照射系)
【技術分野】
【0001】
本発明は観察装置に関し、特に、可視光による観察が困難な透明な試料、例えば細胞等の試料を観察するための観察装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
透明な物質(例えば、水)のセンシング技術として、従来、テラヘルツ波を使用したセンシング技術が知られている(例えば、非特許文献1参照。)。
このセンシング技術は、テラヘルツ波を透明な試料を透過させたときに、その成分分布に応じた強度分布を、テラヘルツ波が備えることを利用している。非特許文献1では、透明な試料を透過したテラヘルツ波を、結像光学系により電気光学結晶に結像させている。また、結像光学系の途中にダイクロイックミラーを配置して、このダイクロイックミラーによって同一光路上に近赤外光を導入することで、導入された近赤外光を同じ電気光学結晶に照射させている。電気光学結晶はテラヘルツ波が照射されると、その電場状態(テラヘルツ波の振幅、位相の状態)に応じて特性が変化する。すなわち、電気光学結晶に試料情報が記録されることになる。そのため、この状態の電気光学結晶を近赤外光が透過すると、透過の際に近赤外光が変調をうける。そこで、変調された近赤外光を検出することにより、試料の成分分布を観察することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】西澤潤一編著、「テラヘルツ波の基礎と応用」、株式会社工業調査会発行、2005年4月1日、p.160−161
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、テラヘルツ波は、波長30μm〜3mm程度の極めて長波長の電磁波である。一方、光学系の空間分解能は、光学系のF値と波長の積により決定される。そのため、従来技術のセンシング技術では、結像光学系の空間分解能が極めて低くなる。すなわち、電気光学結晶には分解能の低い情報が記録されることになる。そのため、細胞のように微細な構造を持つ試料を観察するための観察装置には使用することができないという不都合がある。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、細胞のような透明で微細な構造を持つ試料を高い分解能で簡易に観察することができる観察装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、試料を載置する載置面を有する光学結晶と、該光学結晶に向けて第1の電磁波を前記載置面とは反対側から照射する第1の照射系および第2の電磁波を照射する第2の照射系と、該第2の照射系から照射され前記試料の載置面において反射した前記第2の電磁波を検出する検出系とを備え、前記第1の電磁波は、パルス状のテラヘルツ波であり、前記第2の電磁波は、前記テラヘルツ波よりも波長が短いパルス状の電磁波であり、前記第1の電磁波の照射領域と前記第2の電磁波の照射領域の少なくとも一部が前記光学結晶内の前記載置面近傍で重なるように、前記第1の照射系と前記第2の照射系が配置され、前記検出系は、その合焦位置が前記光学結晶の前記載置面近傍と一致するように配置されている観察装置を提供する。
【0007】
本発明によれば、光学結晶の載置面に試料を載置した状態で、載置面とは反対側から光学結晶に向けて第1の照射系によりパルス状のテラヘルツ波(第1の電磁波)を照射すると、テラヘルツ波は光学結晶を透過して載置面上の試料に入射され、その一部が試料において反射されて、再度載置面を透過して光学結晶内に入射される。ここで、テラヘルツ波は、試料において反射される際に、試料の屈折率および吸収の分布に従って変調される。そして、変調されたテラヘルツ波は、試料において反射された直後に光学結晶内に再度入射され、光学結晶に作用して、光学結晶内に複屈折を生じさせる。
【0008】
テラヘルツ波が光学結晶に入射した後、あるいは入射するのと同時に、テラヘルツ波より短い波長のパルス状の第2の電磁波を、テラヘルツ波が入射された光学結晶に、載置面とは反対側から第2の照射系により入射させると、光学結晶の載置面において反射した第2の電磁波が、光学結晶内の複屈折に従って変調されて光学結晶から射出される。そして、検出系により、光学結晶の載置面近傍を通過した第2の電磁波を検出することで、試料の屈折率分布の情報を正しく含んだ電磁波を検出することができる。この場合に、試料と載置面との間に結像光学系を含まず、試料が光学結晶に対してテラヘルツ波の波長以下の間隔で近接して配置されるため、波長の長いテラヘルツ波を利用しながら、簡易に高い空間分解能で試料の観察を行うことができる。
【0009】
上記発明においては、前記載置面に、前記第1の電磁波を透過し、前記第2の電磁波を反射する反射膜が設けられていてもよい。
このようにすることで、反射膜によってテラヘルツ波のみを透過させて、試料の屈折率および吸収の分布に従って変調されたテラヘルツ波を光学結晶内に入射させ、第2の電磁波については、試料に入射させることなく、光学結晶内に複屈折によって書き込まれた情報の読み出しのみに使用することができる。これにより、第2の電磁波を試料に照射せずに済み、試料によって受ける変調を抑えて、さらに高い分解能で試料の観察を行うことができる。
【0010】
また、上記発明においては、前記光学結晶が、前記第1の電磁波の電場状態に応じて屈折率が変化する電気光学結晶であり、前記検出系が、前記載置面において反射された後に前記光学結晶を通過する前記第2の電磁波の偏光状態を検出することとしてもよい。
【0011】
このようにすることで、試料の屈折率および吸収の分布の情報は、反射するテラヘルツ波(第1の電磁波)に電場状態の変化として引き渡され、試料から反射した直後に入射する電気光学結晶に屈折率の分布として転写される。そして、試料の屈折率および吸収の分布の情報が転写された電気光学結晶に、第2の電磁波を透過させると、その電磁波の偏光の状態が変化する。検出系においては、その変化した偏光の状態を抽出することで、試料の屈折率および吸収の分布を取得することができ、簡易に高い空間分解能で試料の観察を行うことができる。
【0012】
また、上記発明においては、前記光学結晶が、前記第1の電磁波と前記第2の電磁波を和周波混合または差周波混合する非線形光学結晶であり、前記検出系が、前記光学結晶から発せられた和周波混合または差周波混合された電磁波を検出することとしてもよい。
【0013】
このようにすることで、試料において反射される際に試料の屈折率および吸収の分布に従って変調されたテラヘルツ波(第1の電磁波)と、第2の電磁波とが、非線形光学結晶の作用によって和周波混合または差周波混合されて、テラヘルツ波と第2の電磁波の和または差の周波数を有する電磁波として光学結晶から射出される。射出された電磁波にはテラヘルツ波に含まれていた試料の屈折率および吸収の分布の情報がそのまま含まれているので、これを検出することにより、試料の屈折率および吸収の分布を取得することができ、簡易に高い空間分解能で試料の観察を行うことができる。
【0014】
また、本発明は、試料を載置する載置面を有する光学結晶と、該光学結晶に向けて、同一波長かつ、強度または偏光の異なる2つの電磁波を、それらの照射領域の少なくとも一部が前記光学結晶内の前記載置面近傍で重なるように、前記載置面とは反対側から照射する照射系と、該照射系から照射され前記試料の載置面において反射した一方の電磁波を検出する検出系とを備え、前記光学結晶が、前記一方の電磁波によってはテラヘルツ波を発生せず、所定の強度または偏光を有する他方の電磁波によってテラヘルツ波を発生する非線形光学結晶であり、前記検出系は、その合焦位置が前記光学結晶の前記載置面近傍と一致するように配置されている観察装置を提供する。
【0015】
本発明によれば、テラヘルツ波の発生手段として光学結晶を利用することができ、別個の発生手段を必要としないので装置を簡略にすることができる。また、テラヘルツ波を発生させる電磁波および読み出しに使用する電磁波としては、強度または偏光が異なる同一波長の電磁波を使用することができ、さらに構成を簡易にすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、細胞のような透明で微細な構造を持つ試料を高い分解能で簡易に観察することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る観察装置を示す全体構成図である。
【図2】図1の観察装置における試料および光学結晶に入射されるテラヘルツ波および近赤外光を説明する図である。
【図3】図1の観察装置による観察手順を示すフローチャートである。
【図4】図2の第1の変形例を示す図である。
【図5】図2の第2の変形例を示す図である。
【図6】図1の観察装置の変形例を示す全体構成図である。
【図7】図1の観察装置の他の変形例を示す全体構成図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る観察装置を示す全体構成図である。
【図9】図8の観察装置における試料および光学結晶に入射されるテラヘルツ波および近赤外光を説明する図である。
【図10】図9の変形例を示す図である。
【図11】図9の観察装置の変形例を示す全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の第1の実施形態に係る観察装置1について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る観察装置1は、図1に示されるように、フェムト秒パルス状の近赤外光L1を発生する光源2と、該光源2からの近赤外光L1を2つの光路に分割するビームスプリッタ3と、該ビームスプリッタ3により分割された一方の光路に設けられたテラヘルツ波照射光学系(第1の照射系)4と、他方の光路に設けられた近赤外光照射光学系(第2の照射系)5と、これら照射光学系4,5の後段に配置され、細胞等の試料Aを載置する載置面6aを有する電気光学結晶6と、電気光学結晶6から出射された近赤外光L1を検出する検出光学系7とを備えている。
【0019】
テラヘルツ波照射光学系4は、ビームスプリッタ3により分割された光路の一方の光路に配置されている。テラヘルツ波照射光学系4は、分割された近赤外光L1の内の一方を集光する集光レンズ8と、該集光レンズ8により集光された近赤外光L1をテラヘルツ波(第1の電磁波)L2に変換するテラヘルツ波放射素子9と、該テラヘルツ波放射素子9から放射されたテラヘルツ波L2を略平行光束に変換する第1の放物面ミラー10aと、該第1の放物面ミラー10aによって略平行光束となったテラヘルツ波L2を試料Aに集光する第2の放物面ミラー10bとを備えている。
【0020】
第2の放物面ミラー10bには、その中央近傍に貫通孔11が設けられており、後述するように、電気光学結晶6から出射された近赤外光L1を、検出光学系7側に通過させるようになっている。図中、符号12はミラーである。
【0021】
近赤外光照射光学系5は、ビームスプリッタ3により分割された光路の他方の光路に配置されている。近赤外光照射光学系5は、光路調整光学系13と、近赤外光L1の偏光を調節する1/2波長板14と、該1/2波長板14によって偏光を調節された近赤外光L1を集光して電気光学結晶6内に合焦させる対物レンズ15とを備えている。なお、近赤外光照射光学系5を通過する近赤外光L1が第2の電磁波となる。
対物レンズ15は、その焦点位置が電気光学結晶6内の載置面6aに近接する領域S(図2参照。)に配置されている。
【0022】
光路調整光学系13は、2個2対のミラー13a〜13dで構成され、一対のミラー13b、13cを他方の対のミラー13a,13dに対して矢印Bの方向に移動させる移動機構(図示略)とを備えている。ミラー13aにおいて偏向された近赤外光L1は、一対のミラー13b,13cにおいて2回偏向させられることにより折り返された後に、ミラー13dにおいて偏向されることで元の光路に戻るようになっている。2対のミラー13a〜13dの間隔を変更することで、近赤外光L1の光路長を調節することができるようになっている。
【0023】
電気光学結晶6は、テラヘルツ波L2が照射されることにより、その電場状態に応じて屈折率が変化する光学結晶であって、例えば、ZnTe(テルル化亜鉛)を挙げることができる。電気光学結晶6に電場状態の分布を有するテラヘルツ波L2が照射されることで、その電場状態の分布が屈折率分布として電気光学結晶6に書き込まれ(電場状態の分布が屈折率分布として反映され)、その書き込まれた領域Sに近赤外光L1を通過させると、近赤外光L1の偏光方向が変化させられるようになっている。ここで、テラヘルツ波L2の電場状態とは、テラヘルツ波の振幅、位相の状態を示している。
【0024】
電気光学結晶6の載置面6aには、図2に示されるように、テラヘルツ波L2を透過させ、近赤外光L1を反射する反射膜6bが設けられている。電気光学結晶6の載置面6aとは反対側から入射されたテラヘルツ波L2は反射膜6bを透過して試料Aに入射される一方、同じ方向から入射された近赤外光L1は、反射膜6bを透過せずに反射されて、電気光学結晶6内を再び通過して入射面と同一面から外部に出射されるようになっている。
【0025】
検出光学系(検出系)7は、電気光学結晶6から出射され、対物レンズ15によりコリメートされた近赤外光L1を分岐するビームスプリッタ16と、該ビームスプリッタ16により分岐された近赤外光L1の内から所定の偏光方向を有する近赤外光L1を選択する光選択光学系17と、選択された所定の偏光方向を有する近赤外光L1を集光する結像レンズ18と、結像レンズ18により集光された近赤外光L1を撮影する撮像素子(光検出器)19とを備えている。撮像素子19としては、例えば、CCDやCMOS等の2次元イメージセンサが用いられる。
【0026】
光選択光学系17は、所定の偏光方向を有する近赤外光L1のみを透過させる偏光子(以下、偏光子17とも言う。)であり、テラヘルツ波L2が電気光学結晶6に入射していない状態で入射される近赤外光L1が完全に遮断されるように調節されている。上述のように、テラヘルツ波L2の電場によって、電気光学結晶6には複屈折が誘起される。この電気光学結晶6を透過することで、近赤外光L1には位相変化が生じて偏光状態が変化する。これによって、光選択光学系17を透過してその後段の撮像素子19に入射する近赤外光L1の強度が変化するようになっている。
【0027】
このように構成された本実施形態に係る観察装置1の作用について以下に説明する。
本実施形態に係る観察装置1を用いて透明な細胞のような試料Aの観察を行うには、電気光学結晶6の載置面6aに試料Aを載置し、光源2からパルス状の近赤外光L1を出射させる。
【0028】
ビームスプリッタ3により分岐されてテラヘルツ波照射光学系4に入射された近赤外光L1は、ミラー12により1回偏向された後に集光レンズ8によって集光され、テラヘルツ波放射素子9に照射される。これにより、テラヘルツ波L2が発生し、放物面ミラー10aによって略平行光束に変換された後に、放物面ミラー10bによって試料Aに集光される。このとき、テラヘルツ波L2は、電気光学結晶6に向けて試料Aの載置面6aとは反対側、すなわち、下面から入射され、電気光学結晶6およびその載置面6aに設けられた反射膜6bを透過して試料Aに入射される。
【0029】
試料Aは透明な細胞等であるが、試料Aに入射されたテラヘルツ波L2は、試料Aによって反射されることにより変調されて、試料A内における屈折率および吸収の分布に応じた電場状態の分布を有するようになる。そして、そのように電場状態の分布を有するテラヘルツ波L2が、反射膜6bを透過して電気光学結晶6に再度入射されると、電気光学結晶6においては、テラヘルツ波L2の強度分布に応じた屈折率分布が発生する。
【0030】
電気光学結晶6において発生する屈折率分布は、試料Aに近接する程、試料Aの屈折率および吸収の分布を精度よく反映している。なお、テラヘルツ波L2の照射により電気光学結晶6内に屈折率分布が発生している時間は極めて短いので、テラヘルツ波L2の照射直後に屈折率分布の情報を読み出す必要がある。
【0031】
この情報の読み出しには、近赤外光照射光学系5に入射された近赤外光L1が用いられる。ビームスプリッタ3により分岐された近赤外光L1は、光路調整光学系13において光路長を調節された後に、1/2波長板14を透過することにより偏光方向を調節される。その後、近赤外光L1は、対物レンズ15によって集光され、放物面ミラー10bの貫通孔11を通過してから、図2に示されるように、テラヘルツ波L2と同一の方向から電気光学結晶6に照射される。そして、電気光学結晶6の載置面6aに設けられた反射膜6bによって反射されて下方に戻る際に、電気光学結晶6aに屈折率分布として書き込まれている試料で反射したテラヘルツ波L2の情報を読み出す(近赤外光L1の偏光状態が変化させられる)。
【0032】
図中、斜線で示される領域Sは、テラヘルツ波L2によって試料Aの屈折率および吸収の分布の情報を書き込まれた領域である。同一の光源2から発せられた近赤外光L1に基づくテラヘルツ波L2と近赤外光L1とは、それぞれ異なる光路を通るので、そのままでは、パルスが同時に電気光学結晶6の領域Sを通過しないこともある。そこで、光路調整光学系13による光路長の調節により、そのパルスの位相を精度よく調節することができる。
【0033】
その結果、テラヘルツ波L2の照射とほぼ同時に近赤外光L1を領域Sに照射して、屈折率分布の情報を読み出すことができる。なお、図2において、近赤外光L1とテラヘルツ波L2は、交互に別々の領域に照射されているように描かれているが、実際には、両者の照射領域Sの少なくとも一部が重なるように照射されている。
【0034】
領域Sでは、テラヘルツ波L2の照射によって屈折率が変化させられる。
電気光学結晶6を通過してその載置面6aにおいて反射された近赤外光L1が、領域Sを通過すると、近赤外光L1の偏光状態が変化させられる。すなわち、対物レンズ15により集光された近赤外光L1は、その一部が、その透過位置に応じて偏光状態が異ならされた状態で電気光学結晶6から下方に向けて出射される。
【0035】
電気光学結晶6から出射された近赤外光L1は、放物面ミラー10bの貫通孔11を通過させられた後に、対物レンズ15によってコリメートされ、ビームスプリッタ16によって分岐された光路上に配置されている偏光子17に入射される。偏光子17は、テラヘルツ波L2が電気光学結晶6に入射していない状態では、近赤外光L1を遮断するように設定されている。その一方、試料で反射されたテラヘルツ波L2が電気光学結晶6に入射している状態では、屈折率が変化した領域Sを通過することによって、偏光状態が変化した部分の近赤外光L1のみが、偏光子17を通過させられる。これにより、電気光学結晶6に記録された屈折率分布の情報を、光の光量(強度)として読み出すことができる。
【0036】
そして、このようにして抽出された近赤外光L1を結像レンズ18によって集光し、撮像素子19によって撮影することにより、可視光によっては観察できない透明な細胞等の試料Aの画像を取得することができる。
【0037】
この場合において、本実施形態に係る観察装置1によれば、従来のように試料Aと電気光学結晶6との間に光学系を配置することなく、電気光学結晶6の載置面6aに直接試料Aを載置しているので、電気光学結晶6に書き込まれる情報は光学系によって空間分解能を制限されることがない。また、試料近傍に電気光学結晶6が配置されるため、試料通過後のテラヘルツ波の回折による空間分解能低下の影響を抑えることが出来る。また、情報の読み出しには、テラヘルツ波L2よりも短い近赤外光L1を用いているので、高い空間分解能で観察することができるという利点がある。その結果、細胞のように微細な構造を持つ試料Aであっても、簡易な構成で高い空間分解能により試料Aを観察することができる。
【0038】
図3に、観察の手順を表すフローチャートを示す。
本実施形態に係る観察装置1を用いて観察を行うには、まず、バックグラウンド測定を行う。すなわち、光路調整光学系13を用いてテラヘルツ波L2と近赤外光L1とが時間的に重なっていない状態を形成するか、もしくはテラヘルツ波L2が電気光学結晶6に入射しない状態にして、画像を取得する(ステップS1)。次いで、光路調整光学系13を調整してテラヘルツ波L2と近赤外光L1とが時間的に重なっている状態を形成し、画像を取得する(ステップS2)。最後に、ステップS2において取得した画像と、ステップS1において取得した画像とを減算あるいは除算することにより、観察環境に起因する不要な情報を取り除くことができる(ステップS3)。これによって、イメージングを行うための良質な画像を得ることができる。なお、ステップS1,S2の順序は逆でもよい。
【0039】
なお、本実施形態においては、放物面ミラー10bに貫通孔11を設けて、電気光学結晶6から出射される近赤外光L1を対物レンズ15に導いているが、放物面ミラー10a,10b間にテラヘルツ波L2を透過して近赤外光L1を反射するミラーを設けて、近赤外光L1をテラヘルツ波L2と同じ光路に導いてもよい。この場合、ミラーとしてはSi板等を使用すればよい。
また、検出光学系7においてビームスプリッタ16と偏光子17とを備えることとしたが、これに代えて、両者の機能を備える偏光ビームスプリッタを採用してもよい。
【0040】
また、本実施形態においては、電気光学結晶6の載置面6aに反射膜6bを設けることにより、テラヘルツ波L2を透過し近赤外光L1を反射することとしたが、これに代えて、図4に示されるように、反射膜6bを設けなくてもよい。この場合には、電気光学結晶6の載置面6aにおいてフレネル反射が発生して近赤外光L1の一部を戻すことができる。したがって、上記と同様にテラヘルツ波L2によって書き込んだ情報を近赤外光L1によって読み出すことができる。
【0041】
ただし、この場合には、近赤外光L1の一部が電気光学結晶6の載置面6aを透過して試料Aに入射されるので、近赤外光L1を照射することが好ましくない試料Aの場合には適していない。そのような場合には、上記の反射膜6bを有する電気光学結晶6を使用することが好ましい。
【0042】
また、上記各実施形態においては、光学結晶として、電気光学結晶6を例示して説明した。しかし、これに代えて、図5に示されるように、2種類の異なる波長の光L1,L2を同時に入射させると、その2つの光L1,L2が和周波混合または差周波混合されて、その周波数の和または差の周波数を有する他の光L3が射出される非線形光学結晶6′を採用してもよい。
【0043】
このようにすることで、例えば、和周波混合の場合では、図1に示される観察装置1において、試料Aで反射したテラヘルツ波L2と近赤外光L1とを同時に非線形光学結晶6′に入射させると、図5に示されるように、試料Aの屈折率分布に応じて変調されたテラヘルツ波L2(例えば、波長100μm、周波数3THz)と、さほど変調されていない近赤外光L1(例えば、波長800nm)とが非線形光学結晶6′において和周波混合される。
【0044】
そして、試料Aの屈折率および吸収の分布の情報を含む他の波長(例えば、波長793.65nm)の和周波混合光L3が対物レンズ15により集光され、これを検出することにより、試料Aの画像を取得することができる。
この場合には、撮像素子19には、近赤外光L1を入射させないように、偏光子17に代えて、フィルタを設けることにすればよい。
【0045】
また、図6に示されるように、共焦点観察装置20を構成してもよい。
図6に示す例では、図1の観察装置1の近赤外光照射光学系5の途中に、近赤外光L1を2次元的に走査するスキャナ(近接ガルバノミラー)20a,20bを設け、対物レンズ15の焦点位置と光学的に共役な位置に、共焦点ピンホール28を配置している。これにより、対物レンズ15の焦点位置が配置されている電気光学結晶6の載置面6a近傍の領域Sからの近赤外光L1のみを光検出器19によって検出することができる。したがって、電気光学結晶6自体を比較的厚く構成しても鮮明な画像を得ることができる。
【0046】
また、図7に示されるように、近赤外光L1を検出する検出光学系7として、1/4波長板21、結像レンズ18、偏光ビームスプリッタ22およびバランスフォトダイオードのような差分検出器23を備える構成を採用してもよい。偏光ビームスプリッタ22としては、例えばウォラストンプリズムが用いられるが、これに限られるものではない。
【0047】
この場合には、テラヘルツ波L2と近赤外光L1とが領域Sにおいて時間的に重なっていない状態で近赤外光L1が円偏光となるように1/4波長板21を調節しておく。そして、1/4波長板21を通過した光を偏光ビームスプリッタ22で直交する2つの偏光成分に分割し、差分検出器23でその2つの偏光成分の強度差を検出するようにしておく。テラヘルツ波L2と近赤外光L1とが領域Sにおいて時間的に重なっていない状態では、差分検出器23により検出される強度差はゼロである。
【0048】
この状態で、テラヘルツ波L2と近赤外光L1とが領域Sにおいて時間的に重なると、近赤外光L1の偏光状態が変化するので、差分検出器23により検出される2つの偏光成分に強度差が発生する。これを検出することで、テラヘルツ波近接場成分の状態、すなわち、試料Aの情報を得ることができる。
【0049】
次に、本発明の第2の実施形態に係る観察装置30について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る観察装置30の説明において、上述した第1の実施形態に係る観察装置1と構成を共通とする箇所には同一符号を付して説明を省略する。
【0050】
本実施形態に係る観察装置30は、図8および図9に示されるように、電気光学結晶31において相違し、それによって、テラヘルツ波照射光学系32の構造が相違している。
本実施形態に係る観察装置30において、電気光学結晶31としては、特定の偏光状態または強度の近赤外光L1を入射させると、非線形光学効果によってテラヘルツ波L2を発生するものが採用されている。
【0051】
ここで、特定の偏光状態とは、近赤外光L1の偏光方向と電気光学結晶31の結晶軸方向とが特定の条件を満たしている状態をいい、後述する1/2波長板14、33により調節することができる。また、近赤外光L1の強度は、ビームスプリッタ34による強度分割比によって設定することができる。
【0052】
そして、テラヘルツ波照射光学系32は、ビームスプリッタ34で分岐した一方の光路に2個一対のミラー35a,35bを配置して光路を折り返した後に、他のビームスプリッタ36で他方の光路と同一光路に合流させるようになっている。この2個一対のミラー35a,35bを矢印Cの方向に移動可能に設けられており、移動によって光路長を調節するようになっている。2つの光路にはそれぞれ異なる偏光状態を実現するための1/2波長板14,33が配置されており、これら1/2波長板14,33を調節することにより、電気光学結晶31に入射させる近赤外光L1の偏光状態を調節することができるようになっている。
【0053】
このように構成された本実施形態に係る観察装置30の作用について以下に説明する。
本実施形態に係る観察装置30を用いて試料Aの観察を行うには、電気光学結晶31の載置面31aに試料Aを載置し、光源2からパルス状の近赤外光L1を出射させる。
【0054】
ビームスプリッタ34により分岐されてテラヘルツ波照射光学系32に入射された近赤外光L1は、一対のミラー35a,35bによって折り返される。このとき、その光路の途中に配置された1/2波長板33によって偏光状態が調節される。その後、ビームスプリッタ36によって他方の光路と同一の光路に合流され、対物レンズ15によって集光されて電気光学結晶31に入射される。
【0055】
電気光学結晶31は、特定の偏光状態または強度の近赤外光L1が入射されることにより、非線形光学効果の一種である光整流効果によってテラヘルツ波L2を発生する。一方、その条件から外れた近赤外光L1が入射された場合、テラヘルツ波L2は発生しない、もしくは発生するテラヘルツ波L2の強度は非常に小さい。したがって、一方の光路から入射させる近赤外光L1をテラヘルツ波L2発生のために使用し、他方の光路から入射させる近赤外光L1を屈折率分布の情報を読み出すために使用することができる。
【0056】
電気光学結晶31内で発生したテラヘルツ波L2は、反射膜6bを透過して試料Aに照射され、試料Aにおいて反射することで、試料Aの屈折率分布に応じて変調される。そして、そのように変調されたテラヘルツ波L2が再度反射膜6bを逆方向に透過して電気光学結晶31に入射されることにより、電気光学結晶31内に複屈折を生じさせ、試料Aに対応する屈折率および吸収の分布の情報が書き込まれる。
【0057】
そして、近赤外光照射光学系5に入射された近赤外光L1を用いて情報の読み出しが行われる。1/2波長板14によって所定の偏光状態に設定された後に対物レンズ15によって集光された近赤外光L1は、図9に示されるように、照射光学系32から導かれた近赤外光L1と同一の方向から電気光学結晶31に照射される。そして、第1の実施形態に係る観察装置1と同様にして、電気光学結晶31の載置面31aに設けられた反射膜6bによって反射されて下方に戻る際に、電気光学結晶31に書き込まれている情報を読み出すことができる。
このように、本実施形態に係る観察装置30によれば、第1の実施形態とは異なり、テラヘルツ波放射素子9を用意する必要がなくなり、構成を簡略化することができる。
【0058】
なお、本実施形態においては、単一のフェムト秒パルスレーザ光源2を2つの光路に分岐することとしたが、これに代えて、2つの別個のフェムト秒パルスレーザ光源2を用いてもよい。
【0059】
また、本実施形態においては、図10に示されるように、非線形光学結晶としての性質も備えた電気光学結晶31を用いたが、それに代えてテラヘルツ波L2を発生させるための非線形光学結晶31bと、屈折率分布の情報の書き込みと読み取りを行うための電気光学結晶31cの2つを相互に積層状態に接着することにしてもよい。例えば、非線形光学結晶31bがDAST結晶やGaSe結晶であり、電気光学結晶31cがZnTe結晶であってもよい。このようにすることで、高強度でかつ広帯域な信号の検出を行うことができる。
【0060】
また、図11に示されるように、異なる偏光状態または強度に設定された2つの近赤外光L1を合波した状態で、光ファイバ38によって電気光学結晶31まで導くことにしてもよい。図中、符号37はカップリングレンズである。このようにすることで、電気光学結晶31を比較的自由に移動させることができ、載置面31a上に置くことが困難な試料Aに対しても観察を行うことができるという利点がある。例えば、電気光学結晶31を内視鏡の挿入部先端に配置して光ファイバ38によって近赤外光L1を導くことにより、体腔内の観察を行うことも可能となる。
【0061】
また、上記各実施形態においては、信号を時間的に連続して検出することにより、動画を取得することもできる。
【符号の説明】
【0062】
L1 近赤外光(第2の電磁波)
L2 テラヘルツ波(第1の電磁波)
A 試料
S 領域(照射領域)
1,20,30 観察装置
4 テラヘルツ波照射光学系(第1の照射系)
5 近赤外光照射光学系(第2の照射系)
6,31,31c 電気光学結晶(光学結晶)
6′,31b 非線形光学結晶(光学結晶)
6a,31a 載置面
6b 反射膜
7 検出光学系(検出系)
32 テラヘルツ波照射光学系(照射系)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を載置する載置面を有する光学結晶と、
該光学結晶に向けて第1の電磁波を前記載置面とは反対側から照射する第1の照射系および第2の電磁波を照射する第2の照射系と、
該第2の照射系から照射され前記試料の載置面において反射した前記第2の電磁波を検出する検出系とを備え、
前記第1の電磁波は、パルス状のテラヘルツ波であり、
前記第2の電磁波は、前記テラヘルツ波よりも波長が短いパルス状の電磁波であり、
前記第1の電磁波の照射領域と前記第2の電磁波の照射領域の少なくとも一部が前記光学結晶内の前記載置面近傍で重なるように、前記第1の照射系と前記第2の照射系が配置され、
前記検出系は、その合焦位置が前記光学結晶の前記載置面近傍と一致するように配置されている観察装置。
【請求項2】
前記載置面に、前記第1の電磁波を透過し、前記第2の電磁波を反射する反射膜が設けられている請求項1に記載の観察装置。
【請求項3】
前記光学結晶が、前記第1の電磁波の電場状態に応じて屈折率が変化する電気光学結晶であり、
前記検出系が、前記載置面において反射された後に前記光学結晶を通過する前記第2の電磁波の偏光状態を検出する請求項1または請求項2に記載の観察装置。
【請求項4】
前記光学結晶が、前記第1の電磁波と前記第2の電磁波を和周波混合または差周波混合する非線形光学結晶であり、
前記検出系が、前記光学結晶から発せられた和周波混合または差周波混合された電磁波を検出する請求項1に記載の観察装置。
【請求項5】
試料を載置する載置面を有する光学結晶と、
該光学結晶に向けて、同一波長かつ、強度または偏光の異なる2つの電磁波を、それらの照射領域の少なくとも一部が前記光学結晶内の前記載置面近傍で重なるように、前記載置面とは反対側から照射する照射系と、
該照射系から照射され前記試料の載置面において反射した一方の電磁波を検出する検出系とを備え、
前記光学結晶が、前記一方の電磁波によってはテラヘルツ波を発生せず、所定の強度または偏光を有する他方の電磁波によってテラヘルツ波を発生する非線形光学結晶であり、
前記検出系は、その合焦位置が前記光学結晶の前記載置面近傍と一致するように配置されている観察装置。
【請求項1】
試料を載置する載置面を有する光学結晶と、
該光学結晶に向けて第1の電磁波を前記載置面とは反対側から照射する第1の照射系および第2の電磁波を照射する第2の照射系と、
該第2の照射系から照射され前記試料の載置面において反射した前記第2の電磁波を検出する検出系とを備え、
前記第1の電磁波は、パルス状のテラヘルツ波であり、
前記第2の電磁波は、前記テラヘルツ波よりも波長が短いパルス状の電磁波であり、
前記第1の電磁波の照射領域と前記第2の電磁波の照射領域の少なくとも一部が前記光学結晶内の前記載置面近傍で重なるように、前記第1の照射系と前記第2の照射系が配置され、
前記検出系は、その合焦位置が前記光学結晶の前記載置面近傍と一致するように配置されている観察装置。
【請求項2】
前記載置面に、前記第1の電磁波を透過し、前記第2の電磁波を反射する反射膜が設けられている請求項1に記載の観察装置。
【請求項3】
前記光学結晶が、前記第1の電磁波の電場状態に応じて屈折率が変化する電気光学結晶であり、
前記検出系が、前記載置面において反射された後に前記光学結晶を通過する前記第2の電磁波の偏光状態を検出する請求項1または請求項2に記載の観察装置。
【請求項4】
前記光学結晶が、前記第1の電磁波と前記第2の電磁波を和周波混合または差周波混合する非線形光学結晶であり、
前記検出系が、前記光学結晶から発せられた和周波混合または差周波混合された電磁波を検出する請求項1に記載の観察装置。
【請求項5】
試料を載置する載置面を有する光学結晶と、
該光学結晶に向けて、同一波長かつ、強度または偏光の異なる2つの電磁波を、それらの照射領域の少なくとも一部が前記光学結晶内の前記載置面近傍で重なるように、前記載置面とは反対側から照射する照射系と、
該照射系から照射され前記試料の載置面において反射した一方の電磁波を検出する検出系とを備え、
前記光学結晶が、前記一方の電磁波によってはテラヘルツ波を発生せず、所定の強度または偏光を有する他方の電磁波によってテラヘルツ波を発生する非線形光学結晶であり、
前記検出系は、その合焦位置が前記光学結晶の前記載置面近傍と一致するように配置されている観察装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−58892(P2011−58892A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−207403(P2009−207403)
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]