説明

誘導性負荷の駆動回路

【課題】スイッチング素子のオンオフによる誘導性負荷の電流応答性を良好なものとしながら駆動回路内の発熱をより抑制する。
【解決手段】誘導性負荷10を駆動する駆動回路20に、誘導性負荷10と並列接続され且つ互いに直列接続された第1の抵抗42および第2の抵抗44と、第2の抵抗44に並列接続されたコンデンサ46と、誘導性負荷10と並列接続されゲートが抵抗42と第2の抵抗44(コンデンサ46)との接続点に接続されドレインがグランドに接地されたNチャネル型のFET32と、FET32のソースと電源ライン24との間に介在しドレインからソースの方向を順方向とする第1のダイオード34とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチング素子のオンオフにより電源からの電力を誘導性負荷に間欠的に供給して駆動する誘導性負荷の駆動回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の誘導性負荷の駆動回路としては、スイッチング素子を介して電源の電力を誘導性負荷に供給するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この回路では、スイッチング素子としてNPNトランジスタを配置し、トランジスタのベース−コレクタ間に、ベース側をアノードとして直列接続された二つのツェナーダイオードを設けると共に二つのツェナーダイオードのうちの一方にコンデンサを並列接続してクランプ回路を構成しており、トランジスタがオンからオフされて誘導性負荷の通電が解除されると、誘導性負荷に発生する逆起電力により、コレクタ電圧をコンデンサが接続されていない方のツェナーダイオードの降伏電圧まで急峻に立ち上げ、その後、コンデンサが充電されるに従って両ツェナーダイオードの降伏電圧の和に対応するクランプ電圧まで徐々に変化させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−55937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、誘導性負荷の駆動回路では、スイッチング素子のオンオフにより誘導性負荷に発生する逆起電力によるエネルギーをクランプ回路によって吸入することにより、電流応答性を良好なものとしているが、逆起電力のエネルギーの大きさによってはクランプ回路における電力消費により、その発熱量が過大となる場合が生じる。
【0005】
本発明の誘導性負荷の駆動回路は、スイッチング素子のオンオフによる誘導性負荷の電流応答性を良好なものとしながら回路内の発熱をより抑制することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の誘導性負荷の駆動回路は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の誘導性負荷の駆動回路は、
ススイッチング素子のオンオフにより電源からの電力を誘導性負荷に間欠的に供給して駆動する誘導性負荷の駆動回路であって、
前記誘導性負荷に対して並列接続され且つ互いに直列接続された第1の抵抗およびコンデンサと、
前記誘導性負荷に対して並列接続され、ゲートが前記第1の抵抗と前記コンデンサとの接続点に接続され、ソースが前記電源側に接続され、ドレインがグランド側に接続されたNチャネル型の電界効果トランジスタと、
前記ドレインから前記ソースの方向に電流を流すと共に前記電源と前記誘導性負荷との間の電源ラインと前記電界効果トランジスタのソースと間に接続された第1のダイオードと、
を備えることを要旨とする。
【0008】
この本発明の誘導性負荷の駆動回路では、誘導性負荷に対して並列接続され且つ互いに直列接続された第1の抵抗およびコンデンサと、誘導性負荷に対して並列接続されゲートが抵抗とコンデンサとの接続点に接続されソースが電源側に接続されドレインがグランド側に接続されたNチャネル型の電界効果トランジスタと、ドレインからソースの方向に電流を流すと共に電源と誘導性負荷との間の電源ラインと電界効果トランジスタのソースとの間に接続されたダイオードとを設ける。スイッチング素子がオンされているときには、電源の電力によりコンデンサが充電して電界効果トランジスタをゲートオンし、スイッチング素子がオンからオフされたときには、コンデンサは時間の経過と共に徐々に放電し、これに伴って電界効果トランジスタのドレイン−ソース間のオン抵抗が増加してこの間を流れる電流を抑制する。このため、スイッチング素子がオンからオフされた直後では、電界効果トランジスタのオン抵抗は小さく、誘導性負荷に生じる逆起電力は、誘導性負荷,電界効果トランジスタ,ダイオードを囲む回路を電流が周回することにより、主として誘導性負荷によって消費され、コンデンサの放電に伴ってゲート電圧が低下すると、電界効果トランジスタのオン抵抗が大きくなり、電界効果トランジスタで電力消費されるようになる。即ち、スイッチング素子がオンからオフされた直後の逆起電力によるエネルギーが高いときには、誘導性負荷の電力消費に対する電界効果トランジスタの電力消費の割合を小さくし、時間の経過と共に徐々に電界効果トランジスタの電力消費の割合を増やしているのである。この結果、スイッチング素子のオンオフによる誘導性負荷の電流応答性を良好なものとしながら誘導性負荷の消費電力を促進させて回路内の発熱をより抑制することができる。
【0009】
こうした本発明の誘導性負荷の駆動回路において、前記電界効果トランジスタのゲート−ソース間に接続されたツェナーダイオードを備えるものとすることもできる。こうすれば、電源電圧に拘わらず電界効果トランジスタのゲート−ソース間に作用させる電圧を適切なものとし、電源電圧の増減による電流応答性の変化を抑制することができる。
【0010】
また、本発明の誘導性負荷の駆動回路において、前記コンデンサに並列接続された第2の抵抗を備えるものとすることもできる。こうすれば、スイッチング素子をオンからオフした際に誘導性負荷に作用する電圧の過大な変化を抑制することができる。
【0011】
さらに、本発明の誘導性負荷の駆動回路において、前記第1の抵抗に対して並列接続された第3の抵抗と、前記第1の抵抗に対して並列接続されると共に前記第3の抵抗に対して直列接続され、前記電源から前記コンデンサを充電する方向を順方向とする第2のダイオードとを備えるものとすることもできる。こうすれば、スイッチング素子がオンした際にコンデンサの充電を素早く行なうことができる。
【0012】
また、本発明の誘導性負荷の駆動回路において、前記スイッチング素子が前記誘導性負荷に対して前記電源側に接続されてなるものとすることもできるし、前記スイッチング素子が前記誘導性負荷に対してグランド側に接続されてなるものとすることもできる。即ち、前者と後者のいずれのタイプの回路であっても適用することができるため、設計の自由度をより高めることができる。
【0013】
また、本発明の誘導性負荷の駆動回路において、車両に搭載された自動変速機が備える摩擦係合要素の油室に油圧を供給するための電磁ポンプを駆動する駆動回路として構成されてなるものとすることもできる。この場合、電磁ポンプの駆動に必要な電流が比較的大きいため、本発明を適用することによる効果をより顕著なものとすることができる。この態様の本発明の誘導性負荷の駆動回路において、前記電磁ポンプは、シリンダ内に挿入され第1の流体室と第2の流体室とを区画するピストンと、電磁力により前記ピストンを往動させる前記誘導性負荷としての電磁部と、前記ピストンに前記電磁部の電磁力と対向する向きに弾性力を付与することにより前記ピストンを復動させる弾性部材と、前記第1の流体室への作動流体の移動を許可する方向に取り付けられた第1の開閉弁と、前記第1の流体室と前記第2の流体室とを接続する流路に設けられ該第1の流体室から該第2の流体室への作動流体の移動を許可する方向に取り付けられた第2の開閉弁と、を備え、前記ピストンは、往動するときには前記第1の流体室の容積を小さくすると共に前記第2の流体室の容積を大きくし且つ復動するときには前記第1の流体室の容積を大きくすると共に前記第2の流体室の容積を小さくするよう前記第1の流体室と前記第2の流体室とを区画し、往復動に伴う前記第1の流体室の容積変化が前記第2の流体室の容積変化よりも大きくなるよう形成されてなるものとすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例としての誘導性負荷の駆動回路20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】電磁ポンプ120の構成の概略を示す構成図である。
【図3】FET26をオンからオフしたときの実施例における誘導性負荷10の電圧および電流と誘導性負荷10で消費される電力とFET32で消費される電力とFET32のドレイン−ソース間の電圧の時間変化の様子を示す説明図である。
【図4】FET26をオンからオフしたときの比較例における誘導性負荷10の電圧および電流と誘導性負荷10で消費される電力とツェナーダイオード32Bで消費される電力の時間変化の様子を示す。
【図5】比較例の誘導性負荷の駆動回路20Bの構成の概略を示す構成図である。
【図6】変形例の誘導性負荷の駆動回路20Cの構成の概略を示す構成図である。
【図7】変形例の誘導性負荷の駆動回路20Dの構成の概略を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施の形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0016】
図1は、本発明の一実施例としての誘導性負荷の駆動回路20の構成の概略を示す構成図である。実施例の誘導性負荷の駆動回路20は、図示するように、スイッチング素子として直流電源22と誘導性負荷10とを接続する電源ライン24の直流電源22側にドレインが接続され誘導性負荷10側にソースが接続されたNチャネル型電界効果トランジスタ(以下、単にFETという)26を備えるハイサイド駆動の駆動回路として構成されており、ゲートに入力される駆動信号(駆動電圧)によってFET26を間欠的にオンオフすることにより誘導性負荷10にパルス電流を印加して誘導性負荷10を駆動する。実施例の誘導性負荷の駆動回路20は、例えば、図2に例示する電磁ポンプ120の駆動回路として構成されている。以下、電磁ポンプ120の詳細についてさらに説明する。
【0017】
電磁ポンプ120は、図2に示すように、ピストン150を往復動させて作動油を圧送するピストンポンプとして構成されており、電磁力を発生させるソレノイド部130と、ソレノイド部130の電磁力により作動するポンプ部140と、を備え、自動車に搭載されるオートマチックトランスミッションが備えるクラッチやブレーキをオンオフするための油圧回路の一部として組み込まれている。
【0018】
ソレノイド部130は、底付き円筒部材としてのケース131に、電磁コイル132,可動子としてのプランジャ134,固定子としてのコア136が配置されており、電磁コイル132に電流を印加することにより磁束がケース131,プランジャ134,コア136を周回する磁気回路が形成されてプランジャ134が吸引され、プランジャ134の先端に当接するシャフト138を押し出す。
【0019】
ポンプ部140は、ソレノイド部130に接合された中空円筒状のシリンダ142と、シリンダ142内を摺動可能に配置され基端面がソレノイド部130のシャフト138の先端に同軸上で当接するピストン150と、ピストン150に先端面に当接しソレノイド部130からの電磁力が作用する方向とは逆向きに付勢力を付与するスプリング146と、スプリング146をピストン150の先端面とは反対側から支持しポンプ室141への吸入する方向の作動油の流れを許可し逆方向の流れを禁止する吸入用逆止弁160と、ピストン150に内蔵されポンプ室141から吐出する方向の作動油の流れを許可し逆方向の流れを禁止する吐出用逆止弁170と、吸入用逆止弁160の上流側に配置されポンプ室141へ吸入される作動油に含まれる異物を捕捉するためのストレーナ147と、シリンダ142内にソレノイド部130とは反対側の開口部142aからピストン150と吐出用逆止弁170とスプリング146と吸入用逆止弁160とストレーナ147とをこの順に収容した状態で開口部142aを覆うシリンダカバー148と、を備える。シリンダカバー148の内周面とシリンダ142の開口部142aの外周面には周方向に螺旋状の溝が形成されており、シリンダカバー148をシリンダ142の開口部142aに被せて締め付けることにより、シリンダカバー148がシリンダ142の開口部142aに取り付けられている。なお、ポンプ部140は、シリンダカバー148の軸中心に作動油を吸入するための吸入ポート149が形成され、シリンダ142の側面に吸入した作動油を吐出するための吐出ポート143が形成されている。
【0020】
ピストン150は、円筒形状のピストン本体152と、ピストン本体152よりも外径が小さく端面がソレノイド部130のシャフト138の先端に当接された円筒形状のシャフト部154とにより形成されており、ソレノイド部130のシャフト138に連動してシリンダ142内を往復動する。ピストン150は、軸中心に、吐出用逆止弁170を収容可能に円筒形状の底付き中空部152aが形成されている。ピストン150の中空部152aは、ピストン150の先端面からピストン本体152内部を貫通しシャフト部154内部の途中まで延伸されている。また、シャフト部154には、径方向に、互いに90度の角度で交差する2本の貫通孔154a,154bが形成されている。シャフト部154の周囲には吐出ポート143が形成されており、ピストン150の中空部152aは2本の貫通孔154a,154bを介して吐出ポート143と連通している。
【0021】
吸入用逆止弁160は、シリンダ142の開口部142aの内周面に嵌挿され内部に底付きの中空部162aが形成されると共にこの中空部162aの底に軸中心で中空部162aとポンプ室141とを連通させる中心孔162bが形成された弁本体162と、ボール164と、ボール164に付勢力を付与するスプリング166と、ボール164とスプリング166とが弁本体162の中空部162aに収容された状態で中空部162aの内周面に嵌挿されるプラグ168と、を備える。
【0022】
この吸入用逆止弁160は、吸入ポート149側の圧力P1とポンプ室141側の圧力P2との差圧(P1−P2)がスプリング166の付勢力に打ち勝つ所定圧力以上のときには、スプリング166の収縮を伴ってボール164がプラグ168の中心孔169から離されることにより開弁し、上述した差圧(P1−P2)が所定圧力未満のときには、スプリング166の伸張を伴ってボール164がプラグ168の中心孔169に押し付けられて中心孔169を塞ぐことにより閉弁する。
【0023】
吐出用逆止弁170は、ボール174と、ボール174に対して付勢力を付与するスプリング176と、ボール174の外径よりも小さな内径の中心孔179aを有する環状部材としてのプラグ178とを備え、これらはピストン150の中空部152aに開口部152bからスプリング176,ボール174,プラグ178の順に収容され、スナップリング179により固定されている。
【0024】
この吐出用逆止弁170は、ポンプ室141側の圧力P2と吐出ポート側143の圧力P3との差圧(P2−P3)がスプリング176の付勢力に打ち勝つ所定圧力以上のときには、スプリング176の収縮を伴ってボール174がプラグ178の中心孔179から離されることにより開弁し、上述した差圧(P2−P3)が所定圧力未満のときには、スプリング176の伸張を伴ってボール174がプラグ178の中心孔179に押し付けられて中心孔179を塞ぐことにより閉弁する。
【0025】
シリンダ142は、ピストン本体152が摺動する内壁142bとピストン本体152のスプリング146側の面と吸入用逆止弁160の弁本体162のスプリング146側の面とにより囲まれる空間によりポンプ室141を形成する。ポンプ室141は、スプリング146の付勢力によりピストン150が移動すると、ポンプ室141内の容積の拡大に伴って吸入用逆止弁160が開弁すると共に吐出用逆止弁170が閉弁して吸入ポート149を介して作動油を吸入し、ソレノイド部130の電磁力によりピストン150が移動すると、ポンプ室141内の容積の縮小に伴って吸入用逆止弁160が閉弁すると共に吐出用逆止弁170が開弁して吸入した作動油を吐出ポート143を介して吐出する。
【0026】
また、シリンダ142は、ピストン本体152が摺動する内壁142bと、シャフト部154が摺動する内壁142cとが段差をもって形成されており、段差部分に吐出ポート143が形成されている。この段差部分は、ピストン本体152とシャフト部154との段差部分の環状の面とシャフト部154の外周面とにより囲まれる空間を形成する。この空間は、ピストン本体152を隔ててポンプ室141とは反対側に形成されるから、ポンプ室141の容積が拡大する際に容積が縮小し、ポンプ室141の容積が縮小する際に容積が拡大する。このとき、この空間の容積変化は、ピストン本体152のポンプ室141側からの圧力を受ける面積(受圧面積)が吐出ポート143側から圧力を受ける面積(受圧面積)よりも大きいため、ポンプ室141の容積変化よりも小さくなる。このため、この空間は第2のポンプ室156として機能する。即ち、ソレノイド部130の電磁力によりピストン150が移動すると、ポンプ室141の容積の縮小分と第2のポンプ室156の容積の拡大分との差分に相当する量の作動油がポンプ室141から吐出用逆止弁170を介して第2のポンプ室156に送り出されて吐出ポート143を介して吐出され、スプリング146の付勢力によりピストン150が移動すると、ポンプ室141の容積の拡大分に相当する量の作動油が吸入ポート149から吸入用逆止弁160を介してポンプ室141に吸入される一方で第2のポンプ室156の容積の縮小分に相当する量の作動油が第2のポンプ室156から吐出ポート143を介して吐出されることになる。したがって、ピストン150の1回の往復動で作動油が吐出ポート143から2回吐出されるから、吐出ムラを少なくし吐出性能を向上させることができる。以上、電磁ポンプ120の詳細について説明した。
【0027】
また、実施例の誘導性負荷の駆動回路20は、図1に示すように、誘導性負荷10に対して並列接続され且つ互いに直列接続された第1の抵抗42および第2の抵抗44と、第2の抵抗44に並列接続されたコンデンサ46と、誘導性負荷10に対して並列接続されゲートが第1の抵抗42と第2の抵抗44(コンデンサ46)との接続点に接続されドレインがグランドに接地されたNチャネル型電界効果トランジスタ(以下、単にFETという)32と、カソードが電源ライン24に接続されると共にアノードがFET32のソースに接続された第1のダイオード34を備える。この駆動回路20では、FET26がオンからオフされたときに誘導性負荷10に生じる逆起電力により、FET32から第1のダイオード34,誘導性負荷10の順に電流が周回する回路を形成する。なお、第2の抵抗44は、第1の抵抗42よりも高い抵抗値(例えば、10〜20倍の抵抗値)のものが用いられており、第1の抵抗42との分圧により第1の抵抗42と第2の抵抗44(コンデンサ46)との接続点の電位を決定する。また、実施例の誘導性負荷の駆動回路20では、電源電圧に拘わらず、FET32のゲートーソース間に安定した電圧を作用させるためにカソードがゲートに接続されアノードがソースに接続されたツェナーダイオード36を備える。
【0028】
こうして構成された実施例の誘導性負荷の駆動回路20では、FET26がオフからオンされると、直流電源22から誘導性負荷10に電流が印加されると共に第1の抵抗42を介してコンデンサ46が充電される。コンデンサ46がある程度充電されると、FET32のゲート−ソース間の電圧(ゲート電圧)がゲートオン電圧に達してFET32をオンするが、第1のダイオード34がドレインからソースの方向を順方向として接続されているため、FET32のドレインーソース間には電流が流れない。次に、FET26がオンからオフされると、コンデンサ46が放電を開始するが、その直後はゲート電圧が十分に高くFET32のドレイン−ソース間の抵抗は十分に低いため、誘導性負荷10に生じる逆起電力は、FET32から第1のダイオード34,誘導性負荷10の順に電流が流れることにより、主として誘導性負荷10の内部抵抗によって消費される。コンデンサ46の放電が進むと、ゲート電圧の低下に伴ってFET32のドレイン−ソース間の抵抗が増加するため、誘導性負荷10に生じる逆起電力は、FET32によっても消費されるようになる。このとき、誘導性負荷10の電力消費に対するFET32による電力消費の割合は、FET32のドレイン−ソース間の抵抗が高くなるほど、即ち、コンデンサ46の放電が進むほど高くなる。
【0029】
図3は、FET26をオンからオフしたときの実施例における誘導性負荷10の電圧および電流と誘導性負荷10で消費される電力とFET32で消費される電力とFET32のドレイン−ソース間の電圧の時間変化の様子を示し、図4は、FET26をオンからオフしたときの比較例における誘導性負荷10の電圧および電流と誘導性負荷10で消費される電力とツェナーダイオード32Bで消費される電力の時間変化の様子を示す。なお、図4では、比較例として図5の誘導性負荷の駆動回路20Bを用いるものとした。図4の比較例の誘導性負荷の駆動回路20Bは、カソードがグランドに接続されたツェナーダイオード32Bと、カソードが電源ライン24に接続されると共にアノードがツェナーダイオード32Bのアノードに接続されたダイオード34Bとを備えるものである。実施例では、時刻t1にFET26がオンからオフされると、その直後はゲート電圧が高くFET32のドレイン−ソース間の抵抗が十分に小さいため、誘導性負荷10の電圧は第1のダイオード34の電圧降下分だけ低下する。時刻t2以降、コンデンサ46の放電に伴ってゲート電圧が低下すると、FET32のドレイン−ソース間の抵抗が増加するため、FET32の電圧降下分により誘導性負荷10の電圧が低下していく。そして、時刻t3に逆起電力のエネルギーが完全に消費されると、第1のダイオード34およびFET32に電流が流れなくなるから、第1のダイオード34およびFET32の電圧降下はなくなり、誘導性負荷10の電圧は値0まで戻る。誘導性負荷10の消費電力とFET32の消費電力はそれぞれに作用している電圧と流れている電流との積によって計算されるため、誘導性負荷10の電力消費に対するFET32の電力消費の割合はFET26がオンからオフした直後の逆起電力のエネルギーが高いときには小さく、時間の経過と共に、即ち、誘導性負荷10の電力消費に伴う逆起電力のエネルギーの低下により大きくなる。なお、実施例の誘導性負荷の駆動回路20では、時刻t1から時刻t3までの時間Tf、即ち、スイッチング素子としてのFET26がオンからオフされた時点から誘導性負荷10に電流が流れなくなるまでの時間は、第1の抵抗42の抵抗値とコンデンサ46の静電容量とを調整することにより、自由に調整することができる。一方、比較例では、時刻t1にFET26がオンからオフされると、誘導性負荷10の電圧はツェナーダイオード32Bの降伏電圧で低下し、一定電圧でクランプされる。このとき、誘導性負荷10に生じる逆起電力はツェナーダイオード32Bを流れる電流と降伏電圧との積により計算される電力をもって消費され、逆起電力が完全に消費されると、誘導性負荷10の電圧は値0まで戻る。このように、比較例では、誘導性負荷10の逆起電力はそのエネルギーが高いときでも多くがツェナーダイオード32Bにより消費されることになるから、ツェナーダイオード32Bの発熱が過大となり、その大型化が必要となる。なお、実施例では、コンデンサ46の放電に伴うゲート電圧の低下により誘導性負荷10の電力消費に対するFET32の電力消費の割合を徐々に増やしているため、誘導性負荷10を流れる電流の低下は比較例の急峻な低下に対して緩やかになるから、電流の急峻な変化に起因するノイズの発生を抑制する効果もある。
【0030】
以上説明した実施例の誘導性負荷の駆動回路20によれば、誘導性負荷10と並列接続され且つ互いに直列接続された第1の抵抗42および第2の抵抗44と、第2の抵抗44に並列接続されたコンデンサ46と、誘導性負荷10と並列接続されゲートが第1の抵抗42と第2の抵抗44(コンデンサ46)との接続点に接続されドレインがグランドに接地されたNチャネル型のFET32と、FET32のソースと電源ライン24との間に介在しドレインからソースの方向を順方向とする第1のダイオード34とを備えるから、FET26をオンからオフした直後ではコンデンサ46の充電電圧によりFET26のドレイン−ソース間の抵抗を小さくして誘導性負荷10に生じる逆起電力を主として誘導性負荷10によって消費されるようにし、その後、時間の経過と共に徐々にFET32のドレイン−ソース間の抵抗を大きくして誘導性負荷10の電力消費に対するFET32の電力消費の割合を増やすことができる。この結果、FET26のオンオフによる誘導性負荷10の電流応答性を良好なものとしながら回路内の発熱をより抑制することができる。
【0031】
また、実施例の誘導性負荷の駆動回路20によれば、自動車に搭載されるオートマチックトランスミッションが備えるクラッチやブレーキに油圧を供給するための図2の電磁ポンプ120の駆動回路として構成しており、誘導性負荷10(電磁コイル132)に比較的大きな電流を印加する必要があるため、回路内の発熱を抑制することができる本発明を適用する意義がより大きなものとなる。
【0032】
実施例の誘導性負荷の駆動回路20では、FET32のゲート−ソース間にツェナーダイオード36を備えるものとしたが、直流電源22の電圧によってはツェナーダイオード36を備えないものとしてもよい。
【0033】
実施例の誘導性負荷の駆動回路20では、第2の回路40として、互いに直列接続された第1の抵抗42および第2の抵抗44と、第2の抵抗44に並列接続されたコンデンサ46とを備えるものとしたが、第2の抵抗44は備えないものとしてもよい。
【0034】
実施例の誘導性負荷の駆動回路20では、第2の回路40として、電源ライン24とグランドとの間に第1の抵抗42と第2の抵抗44とを直列接続すると共に第2の抵抗44にコンデンサ46を並列接続するものとしたが、図6の変形例の誘導性負荷の駆動回路20Cに示すように、電源ライン24からコンデンサ46へ向かう方向(コンデンサ46へ充電電流が流れる方向)を順方向とする第2のダイオード41Cと第3の抵抗42Cとを互いに直列接続したものを第1の抵抗42に対して並列接続するものとしてもよい。これにより、FET26がオフからオンされたときに、互いに並列接続された第1の抵抗42と第3の抵抗42Cとを介して直流電源22からの電力をコンデンサ46に充電することができるから、コンデンサ46の充電を素早く完了させることができる。この変形例の誘導性負荷の駆動回路20Cは、FET26をオンオフ制御する際のデューティ比が小さい(オン期間が短い)場合に特に有効なものとなる。
【0035】
実施例の誘導性負荷の駆動回路20では、ハイサイド駆動の駆動回路として構成するものとしたが、図7の変形例の誘導性負荷の駆動回路20Dに示すように、ローサイド駆動の駆動回路として構成するものとしてもよい。この変形例の誘導性負荷の駆動回路20Dでは、図7に示すように、直流電源22から誘導性負荷10,FET26,グランドの順に電源ライン24が接続されており、FET26のドレインが誘導性負荷10に接続されソースがグランドに接地されている。また、変形例の誘導性負荷の駆動回路20Dでは、第1の回路30のFET32はドレインが電源ライン24に接続され、第1のダイオード34はカソードが直流電源22に接続されると共にアノードがFET32のソースに接続されている。また、第2の回路40の第1の抵抗42は直流電源22に接続され、第2の抵抗44は第1の抵抗42に接続されると共に電源ライン24に接続されている。
【0036】
実施例では、誘導性負荷10としての電磁コイルにパルス電流を印加して電磁力によってピストンを往復動させることにより作動油を圧送する電磁ポンプの駆動回路として構成するものとしたが、これに限定されるものではなく、例えば、オンオフソレノイドバルブなど、スイッチング素子のオンオフにより電源からの電力を誘導性負荷に間欠的に供給して駆動するものであれば、如何なるものにも適用可能である。
【0037】
以上、本発明の実施の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、誘導性負荷の駆動回路の製造産業に利用可能である。
【符号の説明】
【0039】
10 誘導性負荷、20,20B,20C,20D 誘導性負荷の駆動回路、22 直流電源、24 電源ライン、26 電界効果トランジスタ(FET)、32 電界効果トランジスタ(FET)、32B ツェナーダイオード、34 第1のダイオード、34B ダイオード、36 ツェナーダイオード、41C 第2のダイオード、42 第1の抵抗、42C 第3の抵抗、44 第2の抵抗、46 コンデンサ、120 電磁ポンプ、130 ソレノイド部、131 ケース、132 電磁コイル、134 プランジャ、136 コア、138 シャフト、140 ポンプ部、141 ポンプ室、142 シリンダ、142a 開口部、142b,142c 内壁、143 吐出ポート、146 スプリング、147 ストレーナ、148 シリンダカバー、149 吸入ポート、150 ピストン、152 ピストン本体、152a 中空部、152b 開口部、154 シャフト部、154a,154b 貫通孔、156 第2のポンプ室、160 吸入用逆止弁、162 弁本体、162a 中空部、162b 中心孔、164 ボール、166 スプリング、168 プラグ、169 中心孔、170 吐出用逆止弁、174 ボール、176 スプリング、178 プラグ、179 スナップリング、179a 中心孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング素子のオンオフにより電源からの電力を誘導性負荷に間欠的に供給して駆動する誘導性負荷の駆動回路であって、
前記誘導性負荷に対して並列接続され且つ互いに直列接続された第1の抵抗およびコンデンサと、
前記誘導性負荷に対して並列接続され、ゲートが前記第1の抵抗と前記コンデンサとの接続点に接続され、ソースが前記電源側に接続され、ドレインがグランド側に接続されたNチャネル型の電界効果トランジスタと、
前記ドレインから前記ソースの方向に電流を流すと共に前記電源と前記誘導性負荷との間の電源ラインと前記電界効果トランジスタのソースと間に接続された第1のダイオードと、
を備える誘導性負荷の駆動回路。
【請求項2】
前記電界効果トランジスタのゲート−ソース間に接続されたツェナーダイオードを備える請求項1記載の誘導性負荷の駆動回路。
【請求項3】
前記コンデンサに対して並列接続された第2の抵抗を備える請求項1または2記載の誘導性負荷の駆動回路。
【請求項4】
請求項1ないし3いずれか1項に記載の誘導性負荷の駆動回路であって、
前記第1の抵抗に対して並列接続された第3の抵抗と、
前記第1の抵抗に対して並列接続されると共に前記第3の抵抗に対して直列接続され、前記電源から前記コンデンサを充電する方向を順方向とする第2のダイオードと
を備える誘導性負荷の駆動回路。
【請求項5】
前記スイッチング素子が前記誘導性負荷に対して前記電源側に接続されてなる請求項1ないし4いずれか1項に記載の誘導性負荷の駆動回路。
【請求項6】
前記スイッチング素子が前記誘導性負荷に対してグランド側に接続されてなる請求項1ないし4いずれか1項に記載の誘導性負荷の駆動回路。
【請求項7】
車両に搭載された自動変速機が備える摩擦係合要素の油室に油圧を供給するための電磁ポンプを駆動する駆動回路として構成されてなる請求項1ないし6いずれか1項に記載の誘導性負荷の駆動回路。
【請求項8】
請求項7記載の誘導性負荷の駆動回路であって、
前記電磁ポンプは、シリンダ内に挿入され第1の流体室と第2の流体室とを区画するピストンと、電磁力により前記ピストンを往動させる前記誘導性負荷としての電磁部と、前記ピストンに前記電磁部の電磁力と対向する向きに弾性力を付与することにより前記ピストンを復動させる弾性部材と、前記第1の流体室への作動流体の移動を許可する方向に取り付けられた第1の開閉弁と、前記第1の流体室と前記第2の流体室とを接続する流路に設けられ該第1の流体室から該第2の流体室への作動流体の移動を許可する方向に取り付けられた第2の開閉弁と、を備え、
前記ピストンは、往動するときには前記第1の流体室の容積を小さくすると共に前記第2の流体室の容積を大きくし且つ復動するときには前記第1の流体室の容積を大きくすると共に前記第2の流体室の容積を小さくするよう前記第1の流体室と前記第2の流体室とを区画し、往復動に伴う前記第1の流体室の容積変化が前記第2の流体室の容積変化よりも大きくなるよう形成されてなる
誘導性負荷の駆動回路。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−210135(P2012−210135A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76005(P2011−76005)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】