説明

負荷駆動装置及びその制御方法

【課題】外乱等の影響を受けた場合でも、スイッチング電源のデッドタイムの最適値を誤認する可能性を低減し、これによって電力損失を低減することが可能な負荷駆動装置を提供する
【解決手段】負荷駆動装置1は、直流電圧源Vccに直列に接続された2つのスイッチング素子Q1,Q2を有するスイッチング電源回路2と、スイッチング素子Q1,Q2をオン/オフさせる駆動信号を供給するスイッチ制御回路3と、2つのスイッチング素子Q1、Q2の両方がオフとなるデッドタイムを設定するデッドタイム設定回路6とを備えており、デッドタイム設定回路6は、デッドタイムの最適値となり得る候補値を探索する最適値探索部9と、最適値探索部9から候補値を受け取って、候補値を最適値とするか否かを確率に基づいて決定する確率演算部10とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負荷駆動装置に関し、特に、スイッチング電源回路を備えた負荷駆動装置の低損失化に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、直流電圧源に直列に接続された2つのスイッチング素子を用い、PWM制御されたスイッチ駆動信号によりハイ(High)側のスイッチング素子とロー(Low)側のスイッチング素子とを交互にオン/オフさせることで所望の出力電圧を得るスイッチング電源回路、及び、このようなスイッチグ電源回路を備えた負荷駆動装置が広く用いられている。
一般に、このようなスイッチング電源回路では、一方のスイッチング素子のオン状態から他方のスイッチング素子のオン状態に切り替えるときに、両方のスイッチング素子をオフにする所謂デッドタイムが設けられ、このデッドタイムの期間長は、スイッチング電源回路を備えた負荷駆動装置の効率に影響を及ぼすことが知られている。例えば、デッドタイム期間が長いと、還流電流による導通損失及び寄生ダイオードのリカバリ電流等による損失が増大し、効率が低下する。一方、デッドタイム期間が短すぎると、2つのスイッチング素子を貫通して短絡電流が流れ始めるため、やはり効率は低下する。したがって、負荷駆動装置の電力損失を低減し、その効率を改善するためには、最適なデッドタイムを設定することが望ましい。
【0003】
この点に関連して、従来、最大の効率を達成するための最適なデッドタイムを設定することにより、同時に、スイッチング素子のデューティ比(1スイッチングサイクル中のオン時間の割合)が最小になることが報告されており、この事実に着目したデッドタイムの最適化アルゴリズムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
このアルゴリズムは、最初にデッドタイムをある程度長い初期値に設定して、デューティ比を監視しながらデッドタイムを徐々に短くしていき、これに伴うデューティ比の変化が減少から増大に転じるポイント(すなわち、デューティ比が最小と判断されるポイント)のデッドタイムを、その最適値とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−141564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、負荷駆動装置は、実際には、作動中常に外乱の影響を受けており、そのデューティ比も外乱によってランダムに変動する可能性がある。したがって、単に上記のアルゴリズムを実装するのみでは、例えば、デッドタイム最適化動作の実行中に、入力電圧の低下や負荷電流の増大等により、デッドタイムを短くしたこととは無関係にデューティ比が増大する可能性があり、これによって、本来最適ではないデッドタイムの値を最適値として誤認するおそれがある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、外乱等の影響を受けた場合でも、スイッチング電源のデッドタイムの最適値を誤認する可能性を低減し、これによって電力損失を低減することが可能な負荷駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明を実施するための最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、さらに他の構成要素を付加したものについても、本願発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0008】
(1)直流電圧源に直列に接続された2つのスイッチング素子を有するスイッチング電源回路と、前記スイッチング素子をオン/オフさせる駆動信号を前記スイッチング素子に供給するスイッチ制御回路と、前記2つのスイッチング素子の両方がオフとなるデッドタイムを設定するデッドタイム設定回路とを備える負荷駆動装置において、前記デッドタイム設定回路は、デッドタイムの最適値となり得る候補値を探索する最適値探索部と、該最適値探索部から前記候補値を受け取って、前記候補値を最適値とするか否かを確率に基づいて決定する確率演算部とを備えることを特徴とする負荷駆動装置(請求項1)。
本項に記載の負荷駆動装置によれば、デッドタイム設定回路が、デッドタイムの最適値となり得る候補値を探索する最適値探索部だけなく、最適値探索部から候補値を受け取って、候補値を最適値とするか否かを確率に基づいて決定する確率演算部とを備えることによって、外乱の影響によるデッドタイムの最適値の誤認が発生する可能性が低減するため、負荷駆動装置の電力損失を低減することが可能となる。
【0009】
(2)(1)項に記載の負荷駆動装置において、前記最適値探索部は、前記確率演算部が前記最適値探索部から受け取った前記候補値を最適値とすることを決定するか、または、予め定められた最大繰り返し回数に達するまで、前記候補値の探索を繰り返すことを特徴とする負荷駆動装置(請求項2)。
本項に記載の負荷駆動装置によれば、外乱の影響によるデッドタイムの最適値の誤認が発生する可能性をより確実に低減させ、負荷駆動装置の電力損失を低減することが可能となる。
【0010】
(3)(1)または(2)項に記載の負荷駆動装置において、前記確率演算部が前記最適値探索部から受け取った前記候補値を最適値とするか否かを決定するための確率は、1以上のパラメータに基づいて算出される参照値と、前記候補値を最適値とするか否かの決定が行われる度に発生される乱数との比較に基づくことを特徴とする負荷駆動装置(請求項3)。
本項に記載の負荷駆動装置によれば、参照値を定める1以上のパラメータを任意に設定することができるため、確率演算部が最適値探索部から受け取った候補値を最適値とするか否かを決定するための確率を、負荷駆動装置の仕様等に応じて柔軟かつ適切に設定することが可能となる。
【0011】
(4)(2)または(3)項に記載の負荷駆動装置において、前記確率演算部が前記最適値探索部から受け取った前記候補値を最適値とする確率は、前記最適値探索部による前記候補値の探索の開始からの時間経過にしたがって増大することを特徴とする負荷駆動装置(請求項4)。
本項に記載の負荷駆動装置は、一般に、探索の開始後初期に見つかった候補値ほど、本来の最適値ではない可能性が高いという知見に基づいてなされたものであり、確率演算部が最適値探索部から受け取った候補値を最適値とする確率を、最適値探索部による候補値の探索の開始からの時間経過にしたがって増大させることによって、候補値の探索を過剰に繰り返すことを回避しつつ、デッドタイムの最適値を効果的に決定することが可能となる。
【0012】
この際、確率演算部が最適値探索部から受け取った候補値を最適値とするか否かを決定するための確率が、1以上のパラメータに基づいて算出される参照値と乱数との比較に基づいて定まる場合、これらのパラメータのうちの少なくとも1つが時間経過を反映するものとし、時間経過にしたがってこのパラメータの値を更新することによって、乱数と比較される参照値を減少させるものであってもよい。
【0013】
さらに、上記の知見に鑑みて、確率演算部が最適値探索部から受け取った候補値を最適値とする確率は、時間経過にしたがって一定の増大率をもって線形に増大するのではなく、その増大率も時間経過にしたがって増大するものであってもよい。
【0014】
(5)(1)〜(4)項に記載の負荷駆動装置において、前記最適値探索部は、デッドタイムと前記駆動信号のデューティ比との相関に基づいて、前記候補値を探索することを特徴とする負荷駆動装置(請求項5)。
【0015】
(6)(1)〜(4)項に記載の負荷駆動装置において、前記最適値探索部は、デッドタイムと前記スイッチング電源回路の出力電圧との相関に基づいて、前記候補値を探索することを特徴とする負荷駆動装置(請求項6)。
【0016】
(7)直流電圧源に直列に接続された2つのスイッチング素子を有するスイッチング電源回路と、前記スイッチング素子をオン/オフさせる駆動信号を前記スイッチング素子に供給するスイッチ制御回路とを備える負荷駆動装置の制御方法であって、前記2つのスイッチング素子の両方がオフとなるデッドタイムの最適値となり得る候補値を探索する段階と、前記候補値を最適値とするか否かを確率に基づいて決定する段階と、前記候補値が最適値とされなかった場合、再び前記候補値を探索する段階と、を備えることを特徴とする制御方法(請求項7)。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る負荷駆動装置は、以上のように構成したため、スイッチング電源を備えた負荷駆動装置において、外乱等の影響を受けた場合でも、スイッチング電源のデッドタイムの最適値を誤認する可能性が低減するため、設定されるデッドタイムが、負荷駆動装置の効率を最大化する最適値であることに対する信頼性を向上させ、負荷駆動装置の電力損失を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態における負荷駆動装置を示す回路構成図である。
【図2】図1に示す負荷駆動装置のデッドタイム設定回路の制御動作を示すフローチャートである。
【図3】本発明の別の実施形態における負荷駆動装置を示す回路構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態における負荷駆動装置1を示す回路構成図である。図1に示す負荷駆動装置1は、所謂降圧型のDC−DCコンバータを構成するものであり、直流電圧源Vccに直列に接続された2つのスイッチング素子Q1、Q2を有するスイッチング電源回路2と、スイッチング素子Q1、Q2をオン/オフさせる駆動信号をこれらのスイッチング素子Q1、Q2に供給するスイッチ制御回路3と、抵抗R1,R2からなり、スイッチング電源回路2の出力電圧を検出する電圧検出回路4と、検出した出力電圧と基準電圧Vdcとの誤差を出力するエラーアンプ8を含む補償回路5とを備えている。
【0020】
スイッチング電源回路2において、スイッチング素子Q1、Q2はMOSFETからなり、スイッチング素子Q1のドレインは直流電圧源Vccの正極側に接続されてハイ側のスイッチング素子として構成され、スイッチング素子Q2のソースは直流電圧源Vccの負極側(GND)に接続されてロー側のスイッチング素子として構成されている。スイッチング素子Q1のソースとスイッチング素子Q2のドレインは互いに接続されており、その接続点に、インダクタL1の一端が接続されている。そして、インダクタL1の他端は、コンデンサC1の一端に接続され、コンデンサC1の他端は、直流電圧源Vccの負極側に接続されており、コンデンサC1と並列に負荷7が接続される。
【0021】
スイッチ制御回路3は、補償回路5からの出力と、後述するデッドタイム設定回路6からの出力に基づいて、適切なデューティ比とデッドタイムを有する駆動信号(ゲート駆動信号)をスイッチング素子Q1、Q2に出力し、スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2とを交互にオン/オフすることによって、スイッチング電源回路2の所望の出力電圧を達成するものである。
【0022】
本実施形態における負荷駆動装置1は、さらに、最適値探索部9及び確率演算部10を含むデッドタイム設定回路6を有しており、以下、その動作の詳細について説明する。
尚、本実施形態において、補償回路5、スイッチ制御回路3、及びデッドタイム設定回路6は、一体のプログラマブルデバイスにより構成されることが好ましい。その際、デッドタイム設定回路6の最適値探索部9及び確率演算部10は、好ましくは、以下に説明する動作を実行するソフトウェアモジュールとして実装されるものである。但し、本発明は、これらの構成要素の実装態様によって限定されるものではなく、また、デッドタイム設定回路6は、後述する制御動作を実行する限り、任意の適切なハードウェアまたはソフトウェア、またはそれらの組合せによって実現されるものであってもよい。
【0023】
図2は、負荷駆動装置1におけるデッドタイム設定回路6の制御動作を示すフローチャートであり、以下、図2を参照して、その動作をステップ毎に説明する。但し、デッドタイム設定回路6の基本動作は、ステップS1〜S11から構成されるものであるため、まず、これらのステップについて説明し、付加的なステップS’1〜S’3については後述する。
【0024】
まず、適切なトリガー信号等によりデッドタイム設定回路6の動作が開始された(Start)後、デッドタイム変数tdに初期値td_initialが設定される(ステップS1)。この際、初期値td_initialとしては、通常、ある程度大きな値(すなわち、予想されるデッドタイムの最適値よりも長い時間に対応する値)が設定される。
ここで、このデッドタイム変数tdの値はスイッチ制御回路3に出力され、スイッチ制御回路3は、このtdの値に基づいて設定されたデッドタイムを有する駆動信号をスイッチング素子Q1、Q2に対して出力する。
【0025】
次に、デッドタイムの最適値変数td_optにデッドタイム変数tdの値が設定される(ステップS2)。次に、デッドタイム設定回路6は、スイッチ制御回路3から、駆動信号のこの時点のデューティ比Dを受け取り、デューティ比変数D_oldにこのデューティ比Dが設定される(ステップS3)。
【0026】
次に、デッドタイム変数tdの値が所定の時間幅Δtだけ短縮される(td−Δtが、新たなデッドタイム変数tdの値として設定される)(ステップS4)。次に、デッドタイム設定回路6は、スイッチ制御回路3から、駆動信号のこの時点のデューティ比Dを受け取り、このデューティ比D(すなわち、デッドタイムを時間幅Δtだけ短縮した後のデューティ比)と、変数D_oldの値(すなわち、デッドタイムを時間幅Δtだけ短縮する以前のデューティ比)が比較される(ステップS5)。そして、このデューティ比Dが、デッドタイムを時間幅Δtだけ短縮する以前のデューティ比D_old以下(D≦D_old)であった場合(yes)、制御は、ステップS10に移行する。
【0027】
ステップS10では、再びデューティ比Dと変数D_oldの値とが比較され、デューティ比Dが、デッドタイムを時間幅Δtだけ短縮する以前のデューティ比D_oldよりも減少していた場合(yes)、制御は、ステップS2に戻る。ステップS2では、この時点のデッドタイム変数tdの値が最適値変数td_optに設定される。すなわち、最適値変数td_optの値は、時間幅Δtだけ短縮された値に更新され、その後、ステップS3以後のステップが繰り返される。また、ステップS10において、デューティ比Dが以前のデューティ比D_oldよりも減少していなかった場合(no)には、制御はステップS3に戻り、最適値変数td_optの値を更新することなく、以後のステップが繰り返される。
【0028】
一方、ステップS5において、デューティ比Dが、デッドタイムを時間幅Δtだけ短縮する以前のデューティ比D_oldよりも増大していた(D>D_old)場合(no)、制御は、ステップS6に移行する。本実施形態における負荷駆動装置1は、このときの最適値変数td_optの値(すなわち、直前のステップS4において時間幅Δtだけ短縮される以前のデッドタイム変数tdの値)を、デッドタイムの最適値となり得る候補値とするものである。
【0029】
このように、本実施形態における負荷駆動装置1において、図2に示すデッドタイム設定回路6の動作のうち、ステップS1〜S5、S10は、最適値探索部9の動作に相当するものであり、この最適値探索部9は、デッドタイムとスイッチング素子Q1、Q2を駆動する駆動信号のデューティ比との相関に基づいて、デッドタイムの最適値となり得る候補値を探索するものである。
そして、後続のステップS6〜S9は、最適値探索部9から候補値を受け取って、その候補値を最適値とするか否かを確率に基づいて決定する確率演算部10の動作に相当するものであり、次に、この確率演算部10の動作について説明する。
【0030】
確率演算部10では、ステップS6において、次式(1)にしたがって参照値Pが算出される。
P=exp[K{D_old−D}/T] (1)
ここで、D_old及びDは、直前のステップS5で使用された値であり、K及びTは、後述するように、それぞれ重み付け及び時間推移を表す正数のパラメータである。このステップでは、必ず「D>D_old」である(ステップS5参照)ため、「D_old−D」は負数であり、算出される参照値Pは、「0<P<1」の範囲内にある。
次に、ステップS7において、0<α<1の範囲内で乱数α(例えば、一様乱数)を発生させ、ステップS8において、参照値Pと乱数αの大小が比較される。そして、この結果に応じて、候補値(この時点にける最適値変数td_optの値)を、実際に最適値とするか否かが決定される(尚、この比較は、図2のステップS8におけるRound[P]のように、参照値Pを任意の適切な桁数に丸めて実施するものであってもよく、以下では、Round[P]とした場合も含めて、単に参照値Pという)。
【0031】
本実施形態では、ステップS8において、参照値Pが乱数αよりも小さい(Round[P]<α)場合(yes)、制御はステップS9に移行し、ステップS9において、このときの候補値td_optが、最適値としてデッドタイム変数tdに設定される(td=td_opt)。
これ以後、スイッチ制御回路3は、例えば、次にデッドタイム設定回路6の動作が起動されるまで、このデッドタイム変数tdの値に基づくデッドタイムを有する駆動信号をスイッチング素子Q1、Q2に供給し、負荷駆動装置1は、この駆動信号によるスイッチング素子Q1、Q2のスイッチング動作でもって、負荷7を駆動することになる。
【0032】
一方、ステップS8において、参照値Pが乱数α以上であった(Round[P]≧α)場合(no)、制御はステップS11に移行する。ステップS11では、デッドタイム設定回路6が始動してからこの時点までに、最適値探索部9により実行された候補値探索の回数(言い換えれば、これまでに確率演算部10が候補値として最適値探索部9から受け取ったが、最適値とはされなかった候補値の個数)が、予め定められた最大繰り返し回数nに達したか否かが判別され、達していなかった場合(yes)、最適値探索部9のステップS2に戻って、この時点のデッドタイム変数の値tdから、デッドタイムの最適値となり得る候補値の次の探索が開始される。
また、ステップS11において、制御がステップS11に到達した回数が、予め定められた最大繰り返し回数nに達した場合(no)、制御はステップS9に移行し、ステップS9において、このときの候補値td_optが、最適値としてデッドタイム変数tdに設定される(td=td_opt)。
【0033】
ここで、本発明は、ステップS11における判別の実装態様の詳細に限定されるものではないが、例えば、本実施形態におけるデッドタイム設定回路6は、ループカウンタ変数Loop Counterを備えており、図示は省略するが、ステップS1において、(tdの初期値設定とともに)その初期値「1」が設定されるものとすることができる。そして、制御がステップS11に達した場合、ループカウンタ変数Loop Counterの値と最大繰り返し回数nとの比較が実施され、ループカウンタ変数Loop Counterの値が最大繰り返し回数よりも小さい(Loop Counter<n)場合、Loop Counterの値を1だけ増大させて(図示は省略する)ステップS2に移行し、ループカウンタ変数Loop Counterの値が最大繰り返し回数以上(Loop Counter≧n)であった場合、ステップS9に移行するものであってもよい。
【0034】
このように、本実施形態における負荷駆動装置1では、そのデッドタイム設定回路6において、最適値探索部9が、デッドタイムと駆動信号のデューティ比との相関に基づいてデッドタイムの最適値となり得る候補値を見つけた場合でも、その候補値をそのまま最適値として設定するのではなく、所定の確率で候補値の探索を繰り返すことによって、外乱の影響によるデッドタイムの最適値の誤認が発生する可能性を低減することができる。
【0035】
その際、一般に、最適値探索の開始後初期に見つかった候補値ほど、本来の最適値ではない可能性が高いことが知られており、本実施形態におけるデッドタイム設定回路6は、確率演算部10が最適値探索部9から受け取った候補値を最適値とする確率(以下、選定確率という)が、最適値探索部による候補値の探索の開始からの時間経過にしたがって増大するように設定されているものである。
【0036】
この点について詳述すれば、次の通りである。すなわち、本実施形態におけるデッドタイム設定回路6では、図2のステップS8に示すように、参照値Pが乱数αよりも小さい場合にそのときの候補値を最適値とするものであり、時間経過にしたがって選定確率を増大させるためには、時間経過にしたがって参照値Pを小さくすればよい。本実施形態において、このことは、参照値Pを決める上式(1)中の時間推移パラメータTを時間経過にしたがって小さい値に更新し(このとき、重み付けパラメータKは一定とする)、図2のステップS6において、参照値Pを上式(1)にしたがって算出する際に、この更新された時間推移パラメータTの値を用いて算出することによって達成されるものである。
【0037】
例えば、式(1)において、デューティ比Dが適切な単位で0.3、D_oldが0.24である場合、重み付けパラメータK=100とし、時間推移パラメータTの値を一定の時間幅毎に1000、100、10、1と小さい値に更新していった場合、参照値Pは、それぞれ、約0.9940、約0.9418、約0.5488、約0.0025と小さくなり、これに伴って、選定確率は増大することになる。例えば、時間推移パラメータT=1000(参照値Pが約0.9940)のときには、殆ど確実に候補値の探索が繰り返され、逆に、時間推移パラメータT=1(参照値Pが約0.0025)のときには、そのときの候補値が殆ど確実に最適値とされる。
【0038】
このように、選定確率が時間経過とともに増大するように設定することで、探索の開始後初期に見つかった候補値ほど、本来の最適値ではない可能性が高いという事実を利用して、候補値の探索を過剰に繰り返すことを回避しつつ、デッドタイムの最適値を効果的に決定することが可能となる。また、この効果を奏する上で、上記の数値例のように、選定確率の増大率も時間とともに増大するように設定すれば、さらに有利である。
【0039】
尚、本実施形態における負荷駆動装置1において、時間推移パラメータTを時間経過にともなって更新するために、タイマー等を有してデッドタイム設定回路6の始動後の経過時間を測定するものであってもよく、あるいは、デッドタイム設定回路6の始動後、図2のステップS6に到達するステップ数等をカウントするものであってもよい。
【0040】
本発明は、確率演算部10における選定確率を定める具体的手段の実装態様によって限定されるものではないが、本実施形態のように、選定確率を定める参照値Pを、式(1)のような1以上のパラメータを含む数式により算出することによって、そのパラメータを、負荷駆動装置の仕様等に応じて適切に設定することができ、それによって、選定確率を柔軟かつ適切に設定することが可能となる。
さらに、本実施形態において、参照値Pを算出するために、上述したような特徴を備えた様々な数式を使用することは可能ではあるが、本発明者による検討によれば、上述したような、D_old−Dに依存するとともにK、Tをパラメータに含む式(1)を実装したデッドタイム設定回路6により、良好な結果が得られることが分かった。
【0041】
さらに、本実施形態における負荷駆動装置1は、入力電圧Vin及び出力電流Ioを直接的、または、間接的に検知する手段をさらに備え、そのデッドタイム設定回路6において、図2に示すステップS’1〜S’3に示す動作も実行するものであってもよい。ステップS’1では、入力電圧Vinおよび出力電流Ioが測定され、これらの測定値がそれぞれ入力電圧変数Vin_old、出力電流変数Ioに設定され、ステップS’2において、Vin_old、Io_oldの値に基づいて、許容入力電圧の下限Vin_Llimit及び上限Vin_Hlimit、及び許容出力電流の下限Io_Llimit及び上限Io_Hlimitが設定される。そして、ステップS’3において、その時点における入力電圧Vin及び出力電流Ioの測定値が、それぞれの許容範囲内にある場合(yes)には、最適値探索部9における最適値の探索が続行され、許容範囲内にない場合(no)には、最適値探索部9の動作がリセットされて、ステップS’1から再開される。
これによって、負荷駆動装置1において、外乱の影響をさらに効果的に排除して、信頼性の高いデッドタイムの最適値を設定することが可能となる。
尚、許容入力電圧の下限Vin_Llimit及び上限Vin_Hlimit、及び許容出力電流の下限Io_Llimit及び上限Io_Hlimitは、ステップS’1、S‘2のように測定値に基づいて決めるのではなく、予め適切な値を設定するものであってもよい。
【0042】
ここで、スイッチング電源回路2におけるスイッチング素子Q1、Q2の動作のデッドタイムには、ハイ側のスイッチング素子Q1のオフからロー側のスイッチング素子Q2のオンまでのデッドタイムと、ロー側のスイッチングQ2のオフからハイ側のスイッチング素子Q1のオンまでのデッドタイムの2種類のデッドタイムが存在しており、本実施形態における負荷駆動装置1は、これらの2種類のデッドタイムの両方に対して、デッドタイム設定回路6により最適値が設定されるものである。
また、デッドタイム設定回路6は、負荷駆動装置1の作動中、任意の適切なタイミングで始動させることが可能であり、例えば、負荷駆動装置1の動作開始後、周期的に始動させるものであってもよい。
【0043】
以上、本発明に係る負荷駆動装置の好ましい実施形態について説明したが、本発明に係る負荷駆動装置は、図3に示す負荷駆動装置1aのように、デッドタイム設定回路6が、補償回路5から出力電圧と基準電圧Vdcとの誤差情報が入力されるように構成され、最適値探索部9aにおいて、デッドタイムとスイッチング電源回路2の出力電圧との相関に基づいて、デッドタイムの最適値となり得る候補値を探索するものであってもよい。
この場合、最適値探索部9aは、図2に示した動作と同様の動作により、出力電圧が最大と判断されるポイント(デッドタイムの短縮に伴って、出力電圧が増大から減少に転じるポイント)におけるデッドタイムを、候補値として確率演算部10に受け渡すものである。
【符号の説明】
【0044】
1,1a:負荷駆動装置、2:スイッチング電源回路、3:スイッチ制御回路、4:電圧検出回路、5:補償回路、6:デッドタイム設定回路、7:負荷、8:エラーアンプ、9,9a:最適値探索部、10:確率演算部、C1:コンデンサ、L1:インダクタ、Q1,Q2:スイッチング素子、R1,R2:抵抗、Vcc:直流電源電圧、Vdc:基準電圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電圧源に直列に接続された2つのスイッチング素子を有するスイッチング電源回路と、前記スイッチング素子をオン/オフさせる駆動信号を前記スイッチング素子に供給するスイッチ制御回路と、前記2つのスイッチング素子の両方がオフとなるデッドタイムを設定するデッドタイム設定回路とを備える負荷駆動装置において、
前記デッドタイム設定回路は、デッドタイムの最適値となり得る候補値を探索する最適値探索部と、該最適値探索部から前記候補値を受け取って、前記候補値を最適値とするか否かを確率に基づいて決定する確率演算部とを備えることを特徴とする負荷駆動装置。
【請求項2】
前記最適値探索部は、前記確率演算部が前記最適値探索部から受け取った前記候補値を最適値とすることを決定するか、または、予め定められた最大繰り返し回数に達するまで、前記候補値の探索を繰り返すことを特徴とする請求項1に記載の負荷駆動装置。
【請求項3】
前記確率演算部が前記最適値探索部から受け取った前記候補値を最適値とするか否かを決定するための確率は、1以上のパラメータに基づいて算出される参照値と、前記候補値を最適値とするか否かの決定が行われる度に発生される乱数との比較に基づくことを特徴とする請求項1または2に記載の負荷駆動装置。
【請求項4】
前記確率演算部が前記最適値探索部から受け取った前記候補値を最適値とする確率は、前記最適値探索部による前記候補値の探索の開始からの時間経過にしたがって増大することを特徴とする請求項2または3に記載の負荷駆動装置。
【請求項5】
前記最適値探索部は、デッドタイムと前記駆動信号のデューティ比との相関に基づいて、前記候補値を探索することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の負荷駆動装置。
【請求項6】
前記最適値探索部は、デッドタイムと前記スイッチング電源回路の出力電圧との相関に基づいて、前記候補値を探索することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の負荷駆動装置。
【請求項7】
直流電圧源に直列に接続された2つのスイッチング素子を有するスイッチング電源回路と、前記スイッチング素子をオン/オフさせる駆動信号を前記スイッチング素子に供給するスイッチ制御回路とを備える負荷駆動装置の制御方法であって、
前記2つのスイッチング素子の両方がオフとなるデッドタイムの最適値となり得る候補値を探索する段階と、前記候補値を最適値とするか否かを確率に基づいて決定する段階と、前記候補値が最適値とされなかった場合、再び前記候補値を探索する段階と、を備えることを特徴とする制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−205837(P2011−205837A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−72488(P2010−72488)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000114215)ミネベア株式会社 (846)
【Fターム(参考)】