説明

赤外線検出素子、赤外線検出装置及び赤外線検出素子の製造方法

【課題】検出感度が高く、大面積化が可能な赤外線検出素子、赤外線検出装置及び赤外線検出素子の製造方法を提供する。
【解決手段】遠赤外線〜中赤外線を透過し、近赤外線〜可視光を反射する反射部1と、反射部1を透過した遠赤外線〜中赤外線により電子が励起されて、光電流が生成される量子ドット構造を多重に積層した光電流生成部2と、光電流生成部2で生成された光電流の電子が注入されて、正孔と再結合させることにより、近赤外線〜可視光を放出する量子井戸構造を多重に積層した発光部3と、発光部3から放出された近赤外線〜可視光を検出すると共に、発光部3から放出されて、反射部1で反射された近赤外線〜可視光を検出する光検出部4とを有し、反射部1、光電流生成部2及び発光部3を、半導体の基板上に積層したIII−V族化合物半導体から構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線を検出する赤外線検出素子、赤外線検出装置及び赤外線検出素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中・遠赤外線帯域(例えば、波長3〜12μmの帯域)の赤外線検出素子は、II−VI族化合物半導体であるHgCdTeを用いたものと、III−V族化合物半導体の超格子(GaAs/AlGaAs)を用いたQWIP(量子井戸型赤外線検出器;Quantum Well Infrared Photo-detector)と、量子ドットを用いたQDIP(量子ドット型赤外線検出器;Quantum Dot Infrared Photo-detector)が実用化されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−275692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
HgCdTeを用いた赤外線検出素子は高い量子効率が得られるが、Hgの低い融点と高い蒸気圧により良質な結晶成長が困難であり、特に、イメージセンサにおいては、歩留まりが非常に悪かった。更に、大面積の良質な基板(CdTe等)が得られないため、ピクセル数の大きなイメージセンサの製造が困難となっていた。
【0005】
QWIPは、量子井戸内の離散化した電子のエネルギー準位間を、赤外線吸収により電子を遷移させて光電流を流すことにより赤外線を検出するものである。量子井戸の形成は、AlGaAsとGaAsによる超格子構造により実現することができるため、成熟したGaAs結晶成長プロセスにより、大面積で高品質なイメージセンサの製造が可能である。しかしながら、電子は積層方向のみに一次元的に量子化されていることから、面に垂直な入射光に対しては感度を有しておらず、感度が非常に低いものであった。又、入射赤外線を散乱させるための光結合構造を形成する必要があるため、プロセスが複雑であった。
【0006】
QDIPは、自己組織化InAsをドット成長させることで量子井戸を形成しており、三次元的に電子が閉じ込められて量子化されている。例えば、特許文献1では、QDIPで発生した電子を他の量子ドットにて再結合させることにより、入射赤外線よりエネルギーの高い変換光(近赤外線)を発光させる波長変換構造を採用している。このような構造では、垂直な入射光に対して感度を持つことや、光励起された電子が再び量子井戸に捕獲される確率が低いことから、QWIPに比べ高い感度を得られるが、HgCdTeの感度には及ばなかった。
【0007】
以上ように、赤外線検出素子として、様々な提案がなされているが、最終的な検出感度の点では、未だに不十分なものであった。又、宇宙での中・遠赤外線帯域の観測を実施するためには、微弱な光量の赤外線を広視野角、高分解能で検出する必要があり、そのためには、量子効率の高い材料からなる大面積(大ピクセル数)のイメージセンサが必要であるが、双方の要求を同時に満足するイメージセンサは製造が困難であった。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みなされたもので、検出感度が高く、大面積化が可能な赤外線検出素子、赤外線検出装置及び赤外線検出素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する第1の発明に係る赤外線検出素子は、
遠赤外線から中赤外線の波長域の光を透過し、近赤外線から可視光の波長域の光を反射する反射部と、
前記反射部を透過した遠赤外線から中赤外線の波長域の光により電子が励起されて、当該電子から光電流が生成される量子ドット構造を多重に積層した光電流生成部と、
前記光電流生成部で生成された光電流の電子が注入されて、正孔と再結合させることにより、近赤外線から可視光の波長域の光を放出する量子井戸構造を多重に積層した発光部と、
前記発光部から放出された近赤外線から可視光の波長域の光を検出すると共に、前記発光部から放出されて、前記反射部で反射された近赤外線から可視光の波長域の光を検出する光検出部とを有し、
少なくとも、前記反射部、前記光電流生成部及び前記発光部を、基板上に積層したIII−V族化合物半導体から構成し、
前記発光部から放出された近赤外線から可視光の波長域の光を前記光検出部で検出することにより、入射してくる遠赤外線から中赤外線の波長域の光を検出することを特徴とする。
【0010】
上記課題を解決する第2の発明に係る赤外線検出素子は、
第1の発明に記載の赤外線検出素子において、
前記反射部と前記光電流生成部と前記発光部とから第1の素子を構成し、前記光検出部から第2の素子を独立して構成し、前記第1の素子と前記第2の素子とを貼り合わせて、一体としたことを特徴とする。
【0011】
上記課題を解決する第3の発明に係る赤外線検出素子は、
第1の発明に記載の赤外線検出素子において、
前記反射部、前記光電流生成部、前記発光部及び前記光検出部を全てIII−V族化合物半導体から構成し、III−V族化合物半導体の基板に各々積層して、一体としたことを特徴とする。
【0012】
上記課題を解決する第4の発明に係る赤外線検出素子は、
第1から第3の発明のいずれか1つに記載の赤外線検出素子において、
前記光検出部を、アバランシェフォトダイオードから構成したことを特徴とする。
【0013】
上記課題を解決する第5の発明に係る赤外線検出素子は、
第1から第4の発明のいずれか1つに記載の赤外線検出素子において、
前記光電流生成部の量子ドット構造は、量子井戸となる複数の量子ドットを障壁層で埋め込む構造からなり、
前記発光部に隣接する前記光電流生成部の障壁層の膜厚を、前記光電流生成部の他の障壁層より厚く、かつ、電子の平均自由行程より薄くすると共に、前記発光層に向かってバンドギャップが徐々に狭くなるように、前記発光部に隣接する前記光電流生成部の障壁層の組成比を、膜厚の厚さ方向に徐々に変化させたことを特徴とする。
【0014】
上記課題を解決する第6の発明に係る赤外線検出素子は、
第5の発明に記載の赤外線検出素子において、
前記発光部の量子井戸構造の少なくとも1つは、近赤外線から可視光の波長域の光を放出するバンドギャップとなるように、量子井戸となる前記発光部の井戸層を、前記発光部に隣接する前記光電流生成部の障壁層と前記発光部の障壁層で挟み込む構造からなることを特徴とする。
【0015】
上記課題を解決する第7の発明に係る赤外線検出素子は、
第1から第6の発明のいずれか1つに記載の赤外線検出素子において、
近赤外線から可視光の波長域の光に対して分布ブラッグ反射を起こすように、前記反射部を、屈折率が互いに異なる2つの層を交互に複数積層する構造としたことを特徴とする。
【0016】
上記課題を解決する第8の発明に係る赤外線検出素子は、
第1から第7の発明のいずれか1つに記載の赤外線検出素子において、
二酸化炭素の吸収波長である4.257μmを含む4〜4.5μmの波長域の赤外線により電子が励起されるように、前記光電流生成部の量子ドット構造を構成したことを特徴とする。
【0017】
上記課題を解決する第9の発明に係る赤外線検出装置は、
第1から第8の発明のいずれか1つに記載の赤外線検出素子を使用することを特徴とする。
【0018】
上記課題を解決する第10の発明に係る赤外線検出素子の製造方法は、
電子と正孔を再結合させることにより、近赤外線から可視光の波長域の光を放出する量子井戸構造を多重に積層した構造からなる発光部を、基板上に形成し、
遠赤外線から中赤外線の波長域の光により電子が励起されて、当該電子から前記発光部に注入される光電流が生成される量子ドット構造を多重に積層した構造からなる光電流生成部を、前記発光部上に形成し、
前記光電流生成部に入射する遠赤外線から中赤外線の波長域の光を透過し、前記発光部から放出された近赤外線から可視光の波長域の光を前記光検出部側へ反射する反射部を、前記光電流生成部上に積層して、第1の素子を構成し、
前記発光部から放出された近赤外線から可視光の波長域の光を検出する共に、前記発光部から放出されて、前記反射部で反射された近赤外線から可視光の波長域の光を検出する光検出部からなる第2の素子を独立して構成し、
少なくとも、前記反射部、前記光電流生成部及び前記発光部を単一の結晶成長法でIII−V族化合物半導体から形成すると共に、前記第1の素子と前記第2の素子とを貼り合わせて、一体に形成して、
前記発光部から放出された近赤外線から可視光の波長域の光を前記光検出部で検出することにより、入射してくる遠赤外線から中赤外線の波長域の光を検出する赤外線検出素子を製造することを特徴とする。
【0019】
上記課題を解決する第11の発明に係る赤外線検出素子の製造方法は、
近赤外線から可視光の波長域の光を検出する光検出部を、III−V族化合物半導体の基板上に積層し、
電子と正孔を再結合させることにより、前記光検出部で検出される近赤外線から可視光の波長域の光を放出する量子井戸構造を多重に積層した構造からなる発光部を、前記光検出部上に形成し、
遠赤外線から中赤外線の波長域の光により電子が励起されて、当該電子から前記発光部に注入される光電流が生成される量子ドット構造を多重に積層した構造からなる光電流生成部を、前記発光部上に形成し、
前記光電流生成部に入射する遠赤外線から中赤外線の波長域の光を透過し、前記発光部から放出された近赤外線から可視光の波長域の光を前記光検出部側へ反射する反射部を、前記光電流生成部上に積層し、
前記反射部、前記光電流生成部、前記発光部及び前記光検出部の全てを単一の結晶成長法でIII−V族化合物半導体から一体に形成して、
前記発光部から放出された近赤外線から可視光の波長域の光を前記光検出部で検出することにより、入射してくる遠赤外線から中赤外線の波長域の光を検出する赤外線検出素子を製造することを特徴とする。
【0020】
上記課題を解決する第12の発明に係る赤外線検出素子の製造方法は、
第10又は第11の発明に記載の赤外線検出素子の製造方法において、
前記光検出部として、アバランシェフォトダイオードを形成することを特徴とする。
【0021】
上記課題を解決する第13の発明に係る赤外線検出素子の製造方法は、
第10から第12の発明のいずれか1つに記載の赤外線検出素子の製造方法において、
前記光電流生成部の量子ドット構造として、量子井戸となる複数の量子ドットを障壁層で埋め込む構造を形成し、
前記発光部に隣接する前記光電流生成部の障壁層の膜厚を、前記光電流生成部の他の障壁層より厚く、かつ、電子の平均自由行程より薄く形成すると共に、前記発光層に向かってバンドギャップが徐々に狭くなるように、前記発光部に隣接する前記光電流生成部の障壁層の組成比を、膜厚の厚さ方向に徐々に変化させて形成することを特徴とする。
【0022】
上記課題を解決する第14の発明に係る赤外線検出素子の製造方法は、
第13発明に記載の赤外線検出素子の製造方法において、
前記発光部の量子井戸構造の少なくとも1つとして、近赤外線から可視光の波長域の光を放出するバンドギャップを形成するように、量子井戸となる前記発光部の井戸層を、前記発光部に隣接する前記光電流生成部の障壁層と前記発光部の障壁層で挟み込む構造を形成することを特徴とする。
【0023】
上記課題を解決する第15の発明に係る赤外線検出素子の製造方法は、
第10から第14の発明のいずれか1つに記載の赤外線検出素子の製造方法において、
前記反射部として、近赤外線から可視光の波長域の光に対して分布ブラッグ反射を起こすように、屈折率が互いに異なる2つの層を交互に複数積層する構造を形成することを特徴とする。
【0024】
上記課題を解決する第16の発明に係る赤外線検出素子の製造方法は、
第10から第15の発明のいずれか1つに記載の赤外線検出素子の製造方法において、
二酸化炭素の吸収波長である4.257μmを含む4〜4.5μmの波長域の赤外線により電子が励起されるように、前記光電流生成部の量子ドット構造を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
第1〜第3、第10〜第11の発明によれば、所謂、QDIP構造となる光電流生成部に入射する遠赤外線から中赤外線の波長域の光により光電流を生成し、生成した光電流の電子を発光層に注入し、注入した電子と正孔との再結合により近赤外線から可視光の波長域の光を発光させると共に、発光した近赤外線から可視光の波長域の光を反射部で反射し、素子内部に閉じ込めて、発光した近赤外線から可視光の波長域の光を光検出部で検出するので、素子としての検出感度の向上が可能となる。又、III−V族化合物半導体の基板(例えば、GaAs基板)上に、III−V族化合物半導体からなる層を積層して赤外線検出素子を形成するので、大面積(大ピクセル数)のイメージセンサが実現可能となる。又、QDIP構造は、垂直に入射してくる遠赤外線から中赤外線の波長域の光に対して感度を有するので、QWIP構造とは違い、入射してくる光を散乱させるための光結合構造を形成する必要はなく、素子構造を簡単にし、製造プロセスも簡易となる。
【0026】
第3、第11の発明によれば、反射部、光電流生成部、発光部及び光検出部全てを、基板上に積層して、一体に形成するので、発光部で発光した近赤外線から可視光の波長域の光を、ロス無く光検出部で検出することができ、検出感度の更なる向上が可能となる。
【0027】
第4、第12の発明によれば、光検出部をアバランシェフォトダイオードとするので、発光部で発光した近赤外線から可視光の波長域の光を、感度よく光検出部で検出することができ、検出感度の更なる向上が可能となる。
【0028】
第5、第13の発明によれば、発光部に隣接する光電流生成部の障壁層の膜厚を電子の平均自由行程より薄く形成すると共に、発光層に向かってバンドギャップが徐々に狭くなるように、その組成比を膜厚の厚さ方向に徐々に変化させるので、散乱無く、効率的に電子を発光部に注入することができ、発光部で近赤外線から可視光の波長域の光を高効率で発光させることができ、その結果、検出感度の更なる向上が可能となる。
【0029】
第6、第14の発明によれば、隣接する光電流生成部の障壁層を利用して、発光部の量子井戸構造の1つを形成できるので、単純な構造で近赤外線から可視光の波長域の光を放出するバンドギャップを形成することが可能である。
【0030】
第7、第15の発明によれば、反射部を、分布ブラッグ反射を起こす構造とするので、発光部から反射部方向へ発光した近赤外線から可視光の波長域の光を高効率で反射して、光検出部側へ入射させることができ、検出感度の更なる向上が可能となる。
【0031】
第8、第16の発明によれば、光電流生成部の量子ドット構造を、二酸化炭素の吸収波長である4.257μmを含む4〜4.5μmの波長域の赤外線により電子が励起されるように形成するので、他の分子の影響を排除して、検出対象とする二酸化炭素を高効率で検出することができる。
【0032】
第9の発明によれば、第1〜第8の発明の赤外線検出素子を用いるので、検出感度が高く、かつ、大面積(大ピクセル数)の赤外線検出装置とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1A】本発明に係る赤外線検出素子の実施形態の一例を説明する概略構成図である。
【図1B】本発明に係る赤外線検出素子の実施形態の一例を説明する図であり、その素子構造及びエネルギーバンドの説明図である。
【図2A】図1Bに示す赤外線検出素子の製造方法の説明図である。
【図2B】図1Bに示す赤外線検出素子の製造方法の説明図である。
【図2C】図1Bに示す赤外線検出素子の製造方法の説明図である。
【図3】積層周期と反射率との関係を示すグラフである。
【図4A】本発明に係る赤外線検出素子の実施形態の他の一例を説明する概略構成図である。
【図4B】本発明に係る赤外線検出素子の実施形態の他の一例を説明する図であり、その素子構造及びエネルギーバンドの説明図である。
【図5A】図4Bに示す赤外線検出素子の製造方法の説明図である。
【図5B】図4Bに示す赤外線検出素子の製造方法の説明図である。
【図5C】図4Bに示す赤外線検出素子の製造方法の説明図である。
【図5D】図4Bに示す赤外線検出素子の製造方法の説明図である。
【図6】本発明に係る赤外線検出装置の実施形態の一例を示すブロック図である。
【図7】大気の赤外吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図1〜図7を参照して、本発明に係る赤外線検出素子、赤外線検出装置及び赤外線検出素子の製造方法を詳細に説明する。なお、本発明では、基板、素子共に、III−V族化合物半導体であるGaAsを基本組成とする構成を説明しているが、検出対象波長に応じて、基板、素子の半導体組成を適宜に選択可能である。
例えば、検出対象波長を2〜12μmの範囲としたい場合には、下記実施例で示すように、GaAs基板上にGaAs系材料(GaAs、AlGaAs、InGaAs、InAs等)を用いて素子を形成すればよいし、検出対象波長を長波長側にシフトしたい場合には、InP基板上にGaAs系材料(GaAs、InGaAs、InAlAs、InGaAlAs等)を用いて素子を形成すればよいし、検出対象波長を短波長側にもう少し拡げて、2〜10μmの範囲としたい場合には、サファイア基板、Si基板、SiC基板又はGaN(ガリウムナイトライド)基板上にGaN系材料を用いて素子を形成すればよい。
【実施例1】
【0035】
図1A、1Bは、本発明に係る赤外線検出素子の実施形態の一例を説明する図であり、図1Aは、その概略構成を説明する図であり、図1Bは、その素子構造とエネルギーバンドを説明する図である。又、図2A、2B、2Cは、その製造方法を説明する図である。
【0036】
図1Aに示すように、本実施例の赤外線検出素子は、遠赤外線〜中赤外線を透過し、近赤外線〜可視光を反射する反射部1と、反射部1を透過した遠赤外線〜中赤外線により電子が励起されて、当該電子から光電流が生成される多重の量子ドット構造を有する光電流生成部2と、光電流生成部2で生成された光電流の電子が注入されて、正孔と再結合させることにより、近赤外線〜可視光を放出する多重量子井戸構造を有する発光部3とから構成された第1の素子と、発光部3から放出された近赤外線〜可視光を検出すると共に、発光部3から放出されて、反射部1で反射された近赤外線〜可視光を検出する光検出部4とから構成された第2の素子とを有し、第1の素子と第2の素子とを接合部5で貼り合わせて、一体に形成したものである。
【0037】
第1の素子、第2の素子には、各々独立して電極6が設けられ、各々所定の電圧が印加されて、各々駆動されている。なお、電極6は、コンタクト層を介して、第1の素子、第2の素子と電気的に接続されているが、図1A、1B、図2A、2B、2Cにおいては、その図示を省略している。
【0038】
本実施例の赤外線検出素子においては、少なくとも、反射部1、光電流生成部2及び発光部3を、つまり、第1の素子をIII−V族化合物半導体(例えば、GaAs系材料)から構成すると共に、III−V族化合物半導体の基板(例えば、GaAs基板)上に、反射部1、光電流生成部2及び発光部3(第1の素子)を積層して構成している。
【0039】
更に具体的な素子構造を、図1Bを参照して説明する。
第1の素子において、反射部1は、屈折率が互いに異なる反射第一層11、反射第二層12を有し、近赤外線〜可視光に対して分布ブラッグ反射を起こすように、反射第一層11と反射第二層12とを交互に周期的に複数積層する構造としたものである。例えば、反射第一層11はAlAs、反射第二層12はGaAsからなる。
【0040】
又、光電流生成部2は、障壁層21と多数の量子ドット22とを有し、量子井戸となる量子ドット22を埋め込むように障壁層21を設けると共に、これらを多重に積層して、多重構造としたものである。この光電流生成部2は、所謂、QDIPと同等の構造のものであり、例えば、障壁層21がAlGaAs、量子ドット22がInxGa1-xAs(0<x≦1)からなる構造である。但し、発光部3に隣接する障壁層23は、後述する理由により、障壁層21の組成を基本としながらも、発光層3に向かってバンドギャップが徐々に狭くなるように、障壁層23の組成比を、膜厚の厚さ方向に徐々に変化させており、又、障壁層23の膜厚も障壁層21より厚く、かつ、電子の平均自由行程より薄くしている。なお、図1Bでは、説明を簡単にするため、各層に1個の量子ドット22を図示しているが、実際には、図2B等にも示すように、各層に多数の量子ドット22が形成され、障壁層21を介して多重に積層されている。
【0041】
又、発光部3は、井戸層31と障壁層32とを有し、近赤外線〜可視光を放出するバンドギャップとなるように、量子井戸となる井戸層31を、隣接する光電流生成部2の障壁層23と発光部3の障壁層32との間に挟み込むと共に、井戸層31、障壁層32を多重に積層して、多重量子井戸構造としたものである。例えば、井戸層31はInGaAs、障壁層32はGaAsからなる。なお、障壁層32はAlGaAsでもよい。又、障壁層32は、電極6を接続するコンタクト層を兼ねるようにしてもよい。
【0042】
第2の素子において、光検出部4は、p型領域層41と、真性層42と、n型領域層43とを有し、真性層42を、p型領域層41とn型領域層43との間に挟み込むように配置したものである。つまり、第2の素子は、pinフォトダイオード(以降、pinPDと略す。)となっている。p型領域層41、真性層42、n型領域層43は、例えば、Si(シリコン)を基本組成とする。
なお、第2の素子の一例として、pinPDの構成を説明しているが、pinPDに限らず、pnフォトダイオードやアバランシェフォトダイオード(以降、APDと略す。)でもよい。又、Si系に限らず、GaAs系のフォトダイオードでもよい。
【0043】
そして、本実施例では、検出対象となる波長、つまり、光電流生成部2において電子を励起する遠赤外線〜中赤外線が2〜12μmの範囲となるように構成しており、発光部3から放出し、かつ、光検出部4で検出する近赤外線〜可視光が860〜1000nmの範囲(常温)となるように構成している。
【0044】
ここで、図1Bに示したエネルギーバンドを参照して、本実施例の赤外線検出素子の動作原理を説明する。なお、図1Bにおいて、Bcは伝導帯、Bvは価電子帯を示す。又、図中左側から遠赤外線〜中赤外線IRが入射してくるものとする。
【0045】
光電流生成部2においては、図1Bに示すように、量子ドット22を設けることにより、量子井戸が形成され、量子井戸内の伝導帯Bc側のエネルギー準位に電子(図中の黒丸)が存在している。この電子は、入射された遠赤外線〜中赤外線を吸収することにより励起され、障壁層23を経て、発光部3の井戸層31に注入される(点線の矢印参照)。このとき、障壁層23の組成、膜厚を適切に設定することにより(詳細は後述する。)、光電流生成部2で発生した電子が、散乱無く、効率的に発光部3の井戸層31に注入されるようにしている。
【0046】
一方、発光部3においても、図1Bに示すように、障壁層23と障壁層32との間、そして、障壁層32同士の間に井戸層31を挟み込むことにより、多重の量子井戸が形成されている。井戸層31には、価電子帯Bv側のエネルギー準位に正孔(図中の白丸)が存在しており、井戸層31において、この正孔と注入された電子とが再結合することにより、よりエネルギーが大きい近赤外線〜可視光を放出することになる。又、多重量子井戸構造とすることにより、光電流生成部2から注入された電子と井戸層31の正孔とを効率的に再結合させて、上記の近赤外線〜可視光を効率的に放出するようにしている。
【0047】
放出された近赤外線〜可視光は、主に、本実施例の赤外線検出素子の積層方向(図中の水平方向)に放出される。光検出部4側へ放出された近赤外線〜可視光Ldは、光検出部4へ直接入射し、光検出部4において、その強度が検出されることになる。一方、反射部1側へ放出された近赤外線〜可視光Lrは、反射部1における分布ブラッグ反射により高効率で反射された後、光検出部4へ入射し、光検出部4において、その強度が検出されることになる。この結果、発光部3から放出された近赤外線〜可視光は、光検出部4により高効率で検出されることになる。
【0048】
そして、光検出部4に入射された近赤外線〜可視光は、p型領域層41を通過し、真性層42でその殆どが吸収されて、電子−正孔対が生成される。これらのキャリア(電子、正孔)はドリフトして、p型領域層41、n型領域層43に流れ込み、光電流となる。つまり、発光部3から放出された近赤外線〜可視光を光検出部4で検出することにより、素子に入射してくる遠赤外線〜中赤外線を効率的に検出することになる。なお、光検出部4には、高速応答性のため、通常、逆バイアスが印加されている。
【0049】
なお、QDIP構造の光電流生成部2、量子井戸構造の発光部3、PD構造の光検出部4各々において、入射された遠赤外線〜中赤外線の効率的な吸収、近赤外線〜可視光の効率的な放出、放出された近赤外線〜可視光の効率的な検出のためには、光電流生成部2、発光部3、光検出部4同士の関係も重要である。具体的には、[光電流生成部2における赤外線吸収エネルギー<光検出部4の吸収エネルギー<発光部3の井戸層31のエネルギー<光電流生成部2における価電子帯と伝導帯の基礎吸収エネルギー]となるように、各部が形成されている。
【0050】
このように、本実施例の赤外線検出素子では、発光部3において、遠赤外線〜中赤外線の入射により光電流生成部2で発生した電子を正孔と再結合させて、近赤外線〜可視光を放出させることにより、入射してきた遠赤外線〜中赤外線を、よりエネルギーが大きい近赤外線〜可視光に変換させる波長変換機能を備えることになる。更に、反射部1において、発光部3から放出された近赤外線〜可視光を反射させることにより、近赤外線〜可視光に変換した光を素子内部に閉じこめる光閉じ込め機能も備えることになる。従って、本実施例の赤外線検出素子では、QDIP構造となる光電流生成部2に、波長変換機能を担う発光部3と、光閉じ込め機能を担う反射部1とを組み合わせて、一体に形成した単素子内で、波長変換した近赤外線〜可視光を閉じこめて検出することになり、通常のQDIP方式の赤外線検出素子と比較して、検出効率(S/N比)を向上させることができる。
なお、本実施例において、上述した光電流生成部2及び発光部3は、電子をキャリアとするn型デバイスであるが、正孔をキャリアとするp型デバイスの構成としてもよい。その場合、動作原理は上述したものと同じになるが、伝導帯、価電子帯の障壁高さや有効質量等が、電子をキャリアとする場合とは相違するので、これらを考慮して、光電流生成部2及び発光部3を構成すればよい。
【0051】
次に、図2A、2B、2Cを参照して、本実施例の赤外線検出素子の製造方法を説明する。なお、本実施例において、第2の素子であるpinPDは、別途独立して形成されるものであり、その製造方法は公知であるため、その説明については割愛する。
【0052】
<1.準備工程>
まず、GaAs基板10を、有機アルカリ溶媒(例えば、セミコクリーン(商品名))を用いて、超音波洗浄すると共に、超純水を用いて、超音波洗浄を行う。洗浄後、GaAs基板10をプリベークチャンバへ搬入し、超高真空中(1×10-7〜1×10-10torr程度)でプリベーク(約200℃)して、水分を除去する。
【0053】
一方、MBE(分子線エピタキシー)チャンバ内において、Ga、Al、As、Inを高温にして、各分子線圧力を測定しておく。そして、GaAs、AlAs、AlGaAs、InGaAs、InAsの成長レートを、各分子線セルシャッタを適宜に開いて、予め測定しておく。例えば、GaAsの成長レートを測定する場合には、Asセルシャッタ、Gaセルシャッタを開いて、GaAsを成長させて確認する。なお、MBE法に限らず、例えば、MOCVD法(有機金属化学気相成長法)等を用いて、後述する各層を形成するようにしてもよい。
【0054】
As圧力を1×10-5torr前後に設定し、水分を除去したGaAs基板10をMBEチャンバへ搬入する。GaAs基板10を580℃に加熱する。このとき、300℃以上からはAsセルシャッタを開いて、Asの離脱を防ぐようにしている。
【0055】
<2.成長工程>
GaAs基板10上に、MBE法により、GaAsからなる障壁層32とInGaAsからなる井戸層31とを交互に複数積層して、光発光部3を形成する(図2A参照)。このとき、予め求めた成長レートから、設計通りの膜厚になるように成長時間を決定して、セルシャッタの開閉時間を制御すると共に、GaAsからなる障壁層32の成長後は、界面の平坦性を促進するために成長中断(マイグレーション)時間(約30秒前後)をおく。井戸層31は、障壁層32のバンドギャップよりも低くなければならないので、In組成をできるだけ増やすようにしている。但し、In組成を増加させると、レイヤー(平面)になる層がだんだん薄くなる。例えば、In組成0.2においては4.2nm以下であり、それ以上だと量子ドットになり、又、In組成0.3においては1.7nm以下である。又、薄すぎると、発光効率が悪くなるため、少なくとも1nm以上であることが望ましい。従って、In組成に応じ、井戸層31の膜厚を適切な範囲に設定している。
【0056】
次に、発光部3上に、同じく、MBE法により、AlGaAsからなる障壁層23を積層する。その後、InxGa1-xAs(0<x≦1)からなる量子ドット22を多数形成し、形成した多数の量子ドット22を埋め込むように、AlGaAsからなる障壁層21を積層し、これらを複数回積層して、光電流生成部2を形成する(図2B参照)。このとき、予め求めた成長レートから、設計通りの膜厚、大きさになるように成長時間を決定して、セルシャッタの開閉時間を制御すると共に、AlGaAsからなる障壁層21、23の成長後は、界面の平坦性を促進するために成長中断時間(約30秒前後)をおく。又、障壁層21及び量子ドット22の積層回数は、通常、10〜100周期程度積層している。
【0057】
InxGa1-xAs(0<x≦1)からなる量子ドット22は、MBE法を用い、例えば、成長温度を約500℃にして、格子不整合を利用したS−K(Stranski-Krastanov)モードによる自己組織化現象により形成している。この自己組織化現象では、まず、成長初期において、下地材料となる障壁層21、23のAlGaAsの結晶構造を引き継いで、InxGa1-xAs(0<x≦1)濡れ層が2次元的に平坦に成長し、その後、下地材料との格子定数の違いによる歪みエネルギーを緩和するため、平面状の構造のInxGa1-xAs(0<x≦1)濡れ層から再配列を起こして、InxGa1-xAs(0<x≦1)が島状に3次元的に成長して、多数の量子ドット22が形成されることになる。
【0058】
障壁層21は、量子ドット22に閉じ込められた電子が、積層方向に隣接する量子ドット22の電子と反応しない程度の厚さとするため、少なくとも、25nmの厚さとしており、通常25nm〜50nmに形成している。又、量子ドット22は、検出対象の波長域に応じて、材料及びその組成(例えば、InAs、InGaAs、InAlAs、InGaAlAs、GaInNAs、GaSb、AlGaSb、InGaSb、GaAsSb)、大きさ(例えば、3nm〜40nm)、密度(例えば、109〜1011個/cm2)等を変える必要があり、通常、数nmの大きさである。本実施例では、大きさ3nmとしている。
【0059】
障壁層23は、障壁層21の組成を基本としながらも、そのAl組成を、発光部3側に向かって徐々に減少させており、又、膜厚も障壁層21より厚くなっている。これは、障壁層23では、光電流生成部2で発生した電子を、散乱無く、効率的に発光部3の井戸層31に注入することが望ましいからである。例えば、障壁層23が障壁層21と同じ組成である場合には、障壁層23にかかる電界による電位差がそのまま障壁となってしまう。従って、その障壁(電位差)をなるべく少なくするため、障壁層23においては、Al組成を発光部3に向かって徐々に少なくしている。従って、障壁層23は、障壁層21の成長方法を基本として、Alセル温度を徐々に下げながら、Al組成を徐々に減少させて、成長させている。
【0060】
又、障壁層23の膜厚は、散乱をできるだけ避けるため、電子の平均自由行程(散乱されずに進む距離)よりも短くしている。例えば、バルクGaAs移動度(77K、1×1016cm-3)μ=20000cm2/Vs、GaAs電子有効質量m*=0.067m0=0.067×9.1×10-31、衝突緩和時間τ=μm*/e=0.76ps、電子速度v(高電界):v=1.0×107cm/sとすると、電子の平均自由行程L=v×τ=76nmとなり、障壁層23の膜厚は、厚さは76nm以下としている。一方、障壁層21が少なくとも25nmであるので、障壁層23は50nm以上としている。
【0061】
最後に、光電流生成部2上に、同じく、MBE法により、GaAsからなる反射第二層12とAlAsからなる反射第一層11とを交互に複数積層して、反射部1を形成する(図2C参照)。このとき、予め求めた成長レートから、設計通りの膜厚になるように成長時間を決定して、セルシャッタの開閉時間を制御すると共に、GaAsからなる反射第一層12の成長後は、界面の平坦性を促進するために成長中断時間(約30秒前後)をおく。一方、AlAsからなる反射第一層11は、成長中断をすると不純物を取り込み易いので、成長中断は設けていない。又、反射第一層11及び反射第二層12の積層数は、図3からわかるように、近赤外線〜可視光に対して90%以上の反射率を確保するため、少なくとも、11周期以上積層している。なお、本実施例では、発光部3からの発光波長895nmに対して、屈折率n(AlAs)=2.89、n(GaAs)=3.41とし、膜厚t(AlAs)=77.6nm、t(GaAs)=65.8nmとしている。
【0062】
成長終了後は、GaAs基板10の基板温度を下げ、300℃まで下がった時点でAsセルシャッタを閉じる。そして、GaAs基板10の温度が下がった時点(室温程度)で、MBEチャンバから取り出す。
【0063】
このように、本実施例の赤外線検出素子の製造方法は、GaAs基板を用いるので、大口径化が可能となる。又、MBE法はプロセスが成熟しており、このMBE法の結晶成長のみを用いて、反射部1、光電流生成部2、発光部3を構成する全層を形成しているため、製造の歩留まりを高くすることができる。又、QWIP構造とは異なり、入射赤外線を散乱させるための光結合構造を形成する必要はなく、素子構造を簡単にし、製造プロセスも簡易となる。なお、裏面入射とする場合には、各層の成長順を逆にすればよい。
【0064】
<3.イメージセンサ形成工程>
又、本実施例の赤外線検出素子を、ピクセル数の大きなイメージセンサとして形成する場合には、上記成長工程後、更に、以下に示す製造方法を用いて形成すればよい。
【0065】
成長工程後の素子表面に、レジストをスピンコートし、ベーキングすることにより、レジストを固める。デバイスサイズにするためのマスクを利用し、レジストに紫外線露光を行った後、現像液で現像する。硫酸系エッチング液により、下部電極を蒸着する層の手前までエッチングする。そして、下部電極となる金属を蒸着する。例えば、蒸着対象の層がn型層である場合には、AuGe(12%)/Ni/Au、p型層である場合には、AuSb(5%)/Ni/Auを蒸着する。これは、後述する上部電極でも同様である。下部電極として用いる部分を除き、蒸着した金属をレジストと共にリフトオフする。下部電極の平面形状としては、例えば、櫛形状、井形状に形成する。
【0066】
最後に、素子表面に再度レジストをスピンコートし、ベーキングすることにより、レジストを固める。上部電極用マスクを用いて、レジストに紫外線露光を行った後、現像液で現像する。そして、レジストの開口部に上部電極となる金属を蒸着する。上部電極として用いる部分を除き、蒸着した金属をレジストと共にリフトオフする。上部電極の平面形状としても、例えば、櫛形状、井形状に形成する。
【0067】
このように、本発明では、容易にピクセル数の大きなイメージセンサを形成することも可能である。
【実施例2】
【0068】
図4A、4Bは、本発明に係る赤外線検出素子の実施形態の他の一例を説明する図であり、図4Aは、その概略構成を説明する図であり、図4Bは、その素子構造とエネルギーバンドを説明する図である。又、図5A、5B、5C、5Dは、その製造方法を説明する図である。なお、本実施例において、実施例1における赤外線検出素子と同等の構成要素には、同じ符号を付して説明を行う。
【0069】
図4Aに示すように、本実施例の赤外線検出素子は、遠赤外線〜中赤外線を透過し、近赤外線〜可視光を反射する反射部1と、反射部1を透過した遠赤外線〜中赤外線により電子が励起されて、当該電子から光電流が生成される多重の量子ドット構造を有する光電流生成部2と、光電流生成部2で生成された光電流の電子が注入されて、正孔と再結合させることにより、近赤外線〜可視光を放出する多重量子井戸構造を有する発光部3と、発光部3から放出された近赤外線〜可視光を検出すると共に、発光部3から放出されて、反射部1で反射された近赤外線〜可視光を検出する光検出部7とを有し、反射部1、光電流生成部2、発光部3及び光検出部7を積層して、一体に形成したものである。
【0070】
発光部3と光検出部7との間に共通のグランド電極6が設けられると共に、素子の両端部に正電極6及び負電極6が設けられ、素子全体に所定の電圧が印加されて、駆動されている。なお、電極6は、コンタクト層(図示省略)を介して、素子と電気的に接続されているが、図4A、4B、図5A、5B、5C、5Dにおいて、発光部3及び光検出部7に接続する電極6に対しては、後述する障壁層32及びAPD上部電極層71がその機能を果たしている。
【0071】
本実施例の赤外線検出素子においては、反射部1、光電流生成部2、発光部3及び光検出部7全てをIII−V族化合物半導体(例えば、GaAs系材料)から構成すると共に、III−V族化合物半導体の基板(例えば、GaAs基板)上に、反射部1、光電流生成部2、発光部3及び光検出部7を積層して一体に構成している。
【0072】
実施例1に示した赤外線検出素子は、第1の素子と第2の素子とを接合部5で貼り合わせているため、接合部5の欠陥等により、発光部3から放出された近赤外線〜可視光のロスがあり得るが、本実施例の赤外線検出素子では、後述するように、素子全体をMBE法のみを用いて結晶成長させて、一体形成するので、接合部5自体が存在せず、発光部3から放出された近赤外線〜可視光のロスを低減でき、検出感度の更なる向上が可能である。
【0073】
更に具体的な素子構造を、図4Bを参照して説明する。
反射部1は、屈折率が互いに異なる反射第一層11、反射第二層12を有し、近赤外線〜可視光に対して分布ブラッグ反射を起こすように、反射第一層11と反射第二層12とを交互に周期的に複数積層する構造としたものである。例えば、反射第一層11はAlAs、反射第二層12はGaAsからなる。
【0074】
又、光電流生成部2は、障壁層21と多数の量子ドット22とを有し、量子井戸となる量子ドット22を埋め込むように障壁層21を設けると共に、これらを多重に積層して、多重構造としたものである。この光電流生成部2は、所謂、QDIPと同等の構造のものであり、例えば、障壁層21がAlGaAs、量子ドット22がInxGa1-xAs(0<x≦1)からなる構造である。但し、発光部3に隣接する障壁層23は、後述する理由により、障壁層21の組成を基本としながらも、発光層3に向かってバンドギャップが徐々に狭くなるように、障壁層23の組成比を、膜厚の厚さ方向に徐々に変化させており、又、障壁層23の膜厚も障壁層21より厚く、かつ、電子の平均自由行程より薄くしている。なお、図4Bでも、説明を簡単にするため、各層に1個の量子ドット22を図示しているが、実際には、図5C等にも示すように、各層に多数の量子ドット22が形成され、障壁層21を介して多重に積層されている。
【0075】
又、発光部3は、井戸層31と障壁層32とを有し、近赤外線〜可視光を放出するバンドギャップとなるように、量子井戸となる井戸層31を、隣接する光電流生成部2の障壁層23と発光部3の障壁層32との間に挟み込むと共に、井戸層31、障壁層32を多重に積層して、多重量子井戸構造としたものである。例えば、井戸層31はInGaAs、障壁層32はGaAsからなる。なお、障壁層32はAlGaAsでもよい。又、障壁層32は、電極6を接続するコンタクト層を兼ねている。
【0076】
光検出部7は、APD上部電極層71と、スペーサ層72、光吸収層73と、スペーサ層74、増倍層75と、APD下部電極層76とを有し、これらを順次積層して構成したものである。つまり、第2の素子は、APDとなっている。光検出部7は、例えば、GaAs組成のみから構成してもよいが、本実施例においては、APD上部電極層71はAlGaAs、光吸収層73はInGaAs、スペーサ層72、74はAlGaAs、増倍層75はAlGaAs、APD下部電極層76はAlGaAsからなっている。これは、光吸収層73を、発光部3の井戸層31と同じInGaAs組成とすることにより、発光波長が近いInGaAs組成で光を吸収することになり、吸収効率を向上させることができる。
そして、本実施例では、検出対象となる波長、つまり、光電流生成部2において電子を励起する遠赤外線〜中赤外線が2〜12μmの範囲となるように構成しており、発光部3から放出し、かつ、光検出部4で検出する近赤外線〜可視光が860〜1000nmの範囲(常温)となるように構成している。
【0077】
ここで、図4Bに示したエネルギーバンドを参照して、本実施例の赤外線検出素子の動作原理を説明する。なお、図4Bにおいても、Bcは伝導帯、Bvは価電子帯を示す。又、図中左側から遠赤外線〜中赤外線IRが入射してくるものとする。
【0078】
光電流生成部2においては、図4Bに示すように、量子ドット22を設けることにより、量子井戸が形成され、量子井戸内の伝導帯Bc側のエネルギー準位に電子(図中の黒丸)が存在している。この電子は、入射された遠赤外線〜中赤外線を吸収することにより励起され、障壁層23を経て、発光部3の井戸層31に注入される(点線の矢印参照)。このとき、障壁層23の組成、膜厚を適切に設定することにより(詳細は後述する。)、光電流生成部2で発生した電子が、散乱無く、効率的に発光部3の井戸層31に注入されるようにしている。
【0079】
一方、発光部3においても、図4Bに示すように、障壁層23と障壁層32との間、そして、障壁層32同士の間に井戸層31を挟み込むことにより、多重の量子井戸が形成されている。井戸層31には、価電子帯Bv側のエネルギー準位に正孔(図中の白丸)が存在しており、井戸層31において、この正孔と注入された電子とが再結合することにより、よりエネルギーが大きい近赤外線〜可視光を放出することになる。又、多重量子井戸構造とすることにより、光電流生成部2から注入された電子と井戸層31の正孔とを効率的に再結合させて、上記の近赤外線〜可視光を効率的に放出するようにしている。
【0080】
放出された近赤外線〜可視光は、主に、本実施例の赤外線検出素子の積層方向(図中の水平方向)に放出される。光検出部7側へ放出された近赤外線〜可視光Ldは、光検出部7へ直接入射し、光検出部7において、その強度が検出されることになる。一方、反射部1側へ放出された近赤外線〜可視光Lrは、反射部1における分布ブラッグ反射により高効率で反射された後、光検出部7へ入射し、光検出部7において、その強度が検出されることになる。この結果、発光部3から放出された近赤外線〜可視光は、光検出部7により高効率で検出されることになる。
【0081】
そして、光検出部7においては、逆バイアスが印加されているため、光吸収層73における空乏層には高電界が形成されている。入射された光は、この光吸収層73で吸収されて、電子−正孔対が生成され、これらのキャリア(電子、正孔)が高電界により加速される。加速されたキャリアは、高エネルギーを持って、格子と衝突し、2次的な電子−正孔対が生成される。増倍層75において、この過程が繰り返されて、キャリアがなだれ増倍され、増倍されたキャリアがドリフトして、光電流となる。つまり、発光部3から放出された近赤外線〜可視光を光検出部7で増幅して検出することにより、素子に入射してくる遠赤外線〜中赤外線を効率的に検出することになる。
【0082】
なお、QDIP構造の光電流生成部2、量子井戸構造の発光部3、APD構造の光検出部7各々において、入射された遠赤外線〜中赤外線の効率的な吸収、近赤外線〜可視光の効率的な放出、放出された近赤外線〜可視光の効率的な検出のためには、光電流生成部2、発光部3、光検出部7同士の関係も重要である。具体的には、[光電流生成部2における赤外線吸収エネルギー<光検出部7の吸収エネルギー<発光部3の井戸層31のエネルギー<光電流生成部2における価電子帯と伝導帯の基礎吸収エネルギー]となるように、各部が形成されている。
【0083】
このように、本実施例の赤外線検出素子では、発光部3において、遠赤外線〜中赤外線の入射により光電流生成部2で発生した電子を正孔と再結合させて、近赤外線〜可視光を放出させることにより、入射してきた遠赤外線〜中赤外線を、よりエネルギーが大きい近赤外線〜可視光に変換させる波長変換機能を備えることになる。更に、反射部1において、発光部3から放出された近赤外線〜可視光を反射させることにより、近赤外線〜可視光に変換した光を素子内部に閉じこめる光閉じ込め機能も備えることになる。加えて、光検出部7において、APD構造を用いることにより、発光部3から放出された近赤外線〜可視光の入射により生成された電子のなだれ増倍を行うなだれ増倍機能も備えることになる。従って、本実施例の赤外線検出素子では、QDIP構造となる光電流生成部2に、波長変換機能を担う発光部3と、光閉じ込め機能を担う反射部1と、なだれ増倍機能を担う光検出部7とを組み合わせて、一体に形成した単素子内で、波長変換した近赤外線〜可視光を閉じこめて、増幅して検出することになり、通常のQDIP方式の赤外線検出素子、そして、実施例1の赤外線検出素子と比較して、検出効率(S/N比)を更に向上させることができる。
なお、本実施例においても、上述した光電流生成部2及び発光部3は、電子をキャリアとするn型デバイスであるが、正孔をキャリアとするp型デバイスの構成としてもよい。その場合、動作原理は上述したものと同じになるが、伝導帯、価電子帯の障壁高さや有効質量等が、電子をキャリアとする場合とは相違するので、これらを考慮して、光電流生成部2及び発光部3を構成すればよい。
【0084】
次に、図5A、5B、5C、5Dを参照して、本実施例の赤外線検出素子の製造方法を説明する。
【0085】
<1.準備工程>
まず、GaAs基板10を、有機アルカリ溶媒(例えば、セミコクリーン(商品名))を用いて、超音波洗浄すると共に、超純水を用いて、超音波洗浄を行う。洗浄後、GaAs基板10をプリベークチャンバへ搬入し、超高真空中(1×10-7〜1×10-10torr程度)でプリベーク(約200℃)して、水分を除去する。
【0086】
一方、MBEチャンバ内において、Ga、Al、As、Inを高温にして、各分子線圧力を測定しておく。そして、GaAs、AlAs、AlGaAs、InGaAs、InAsの成長レートを、各分子線セルシャッタを適宜に開いて、予め測定しておく。例えば、GaAsの成長レートを測定する場合には、Asセルシャッタ、Gaセルシャッタを開いて、GaAsを成長させて確認する。なお、MBE法に限らず、例えば、MOCVD法等を用いて、後述する各層を形成するようにしてもよい。
【0087】
As圧力を1×10-5torr前後に設定し、水分を除去したGaAs基板10をMBEチャンバへ搬入する。GaAs基板10を580℃に加熱する。このとき、300℃以上からはAsセルシャッタを開いて、Asの離脱を防ぐようにしている。
【0088】
<2.成長工程>
GaAs基板10上に、MBE法により、AlGaAsからなるAPD下部電極層76、AlGaAsからなる増倍層75、AlGaAsからなるスペーサ層74、InGaAsからなる光吸収層73、AlGaAsからなるスペーサ層72、AlGaAsからなるAPD上部電極層71を順次積層して、光検出部7を形成する(図5A参照)。このとき、予め求めた成長レートから、設計通りの膜厚になるように成長時間を決定して、セルシャッタの開閉時間を制御すると共に、AlGaAsからなるAPD下部電極層76、増倍層75、スペーサ層72、74及びAPD上部電極層71の成長後は、界面の平坦性を促進するために成長中断時間(約30秒前後)をおく。
【0089】
APD上部電極層71は、障壁層32と共に、共通電極を蒸着するコンタクト層として機能する。そして、後述する<3.イメージセンサ形成工程>において、これらのAPD上部電極層71及び障壁層32に共通電極を蒸着することになる。従って、APD上部電極層71及び障壁層32は、全く同じ組成から構成してもよく、例えば、APD上部電極層71をp型Al0.1Ga0.9Asから構成する場合、それに合わせて、障壁層32もp型Al0.1Ga0.9Asから構成すればよい。その場合、MBE法により、APD上部電極層71及び障壁層32を連続して積層して、分厚い層(例えば、1μm前後)を形成することになる。当然ながら、障壁層32の組成に合わせて、APD上部電極層71を構成してもよく、後述するように、障壁層32をp型GaAsから構成する場合、それに合わせて、APD上部電極層71もp型GaAsから構成すればよい。
【0090】
次に、光検出部7上に、同じく、MBE法により、GaAsからなる障壁層32とInGaAsからなる井戸層31とを交互に複数積層して、発光部3を形成する(図5B参照)。このとき、予め求めた成長レートから、設計通りの膜厚になるように成長時間を決定して、セルシャッタの開閉時間を制御すると共に、GaAsからなる障壁層32の成長後は、界面の平坦性を促進するために成長中断時間(約30秒前後)をおく。井戸層31は、障壁層32のバンドギャップよりも低くなければならないので、In組成をできるだけ増やすようにしている。但し、In組成を増加させると、レイヤー(平面)になる層がだんだん薄くなる。例えば、In組成0.2においては4.2nm以下であり、それ以上だと量子ドットになり、又、In組成0.3においては1.7nm以下である。又、薄すぎると、発光効率が悪くなるため、少なくとも1nm以上であることが望ましい。従って、In組成に応じ、井戸層31の膜厚を適切な範囲に設定している。
【0091】
次に、発光部3上に、同じく、MBE法により、AlGaAsからなる障壁層23を積層する。その後、InxGa1-xAs(0<x≦1)からなる量子ドット22を多数形成し、形成した多数の量子ドット22を埋め込むように、AlGaAsからなる障壁層21を積層し、これらを複数回積層して、光電流生成部2を形成する(図5C参照)。このとき、予め求めた成長レートから、設計通りの膜厚、大きさになるように成長時間を決定して、セルシャッタの開閉時間を制御すると共に、AlGaAsからなる障壁層21、23の成長後は、界面の平坦性を促進するために成長中断時間(約30秒前後)をおく。又、障壁層21及び量子ドット22の積層回数は、通常、10〜100周期程度積層している。
【0092】
InxGa1-xAs(0<x≦1)からなる量子ドット22は、MBE法を用い、例えば、成長温度を約500℃にして、格子不整合を利用したS−K(Stranski-Krastanov)モードによる自己組織化現象により形成している。この自己組織化現象では、まず、成長初期において、下地材料となる障壁層21、23のAlGaAsの結晶構造を引き継いで、InxGa1-xAs(0<x≦1)濡れ層が2次元的に平坦に成長し、その後、下地材料との格子定数の違いによる歪みエネルギーを緩和するため、平面状の構造のInxGa1-xAs(0<x≦1)濡れ層から再配列を起こして、InxGa1-xAs(0<x≦1)が島状に3次元的に成長して、多数の量子ドット22が形成されることになる。
【0093】
障壁層21は、量子ドット22に閉じ込められた電子が、積層方向に隣接する他の量子ドット22の電子と反応しない程度の厚さとするため、少なくとも、25nmの厚さとしており、通常25nm〜50nmに形成している。又、量子ドット22は、検出する対象波長域に応じて、材料及びその組成(例えば、InAs、InGaAs、InAlAs、InGaAlAs、GaInNAs、GaSb、AlGaSb、InGaSb、GaAsSb)、大きさ(例えば、3nm〜40nm)、密度(例えば、109〜1011個/cm2)等を変える必要があり、通常、数nmの大きさである。本実施例では、大きさ3nmとしている。
【0094】
障壁層23は、障壁層21の組成を基本としながらも、そのAl組成を、発光部3側に向かって徐々に減少させており、又、膜厚も障壁層21より厚くなっている。これは、障壁層23では、光電流生成部2で発生した電子を、散乱無く、効率的に発光部3の井戸層31に注入することが望ましいからである。例えば、障壁層23が障壁層21と同じ組成である場合には、障壁層23にかかる電界による電位差がそのまま障壁となってしまう。従って、その障壁(電位差)をなるべく少なくするため、障壁層23においては、Al組成を発光部3に向かって徐々に少なくしている。従って、障壁層23は、障壁層21の成長手順を基本として、Alセル温度を徐々に下げながら、Al組成を徐々に減少させて、成長させている。
【0095】
又、障壁層23の膜厚は、散乱をできるだけ避けるため、電子の平均自由行程(散乱されずに進む距離)よりも短くしている。例えば、バルクGaAs移動度(77K、1×1016cm-3)μ=20000cm2/Vs、GaAs電子有効質量m*=0.067m0=0.067×9.1×10-31、衝突緩和時間τ=μm*/e=0.76ps、電子速度v(高電界):v=1.0×107cm/sとすると、電子の平均自由行程L=v×τ=76nmとなり、障壁層23の膜厚は、厚さは76nm以下としている。一方、障壁層21が少なくとも25nmあるので、障壁層23は50nm以上としている。
【0096】
最後に、光電流生成部2上に、同じく、MBE法により、GaAsからなる反射第二層12とAlAsからなる反射第一層11とを交互に複数積層して、反射部1を形成する(図5D参照)。このとき、予め求めた成長レートから、設計通りの膜厚になるように成長時間を決定して、セルシャッタの開閉時間を制御すると共に、GaAsからなる反射第一層12の成長後は、界面の平坦性を促進するために成長中断時間(約30秒前後)をおく。一方、AlAsからなる反射第一層11は、成長中断をすると不純物を取り込み易いので、成長中断は設けていない。又、反射第一層11及び反射第二層12の積層数は、前述の図3からわかるように、近赤外線〜可視光に対して90%以上の反射率を確保するため、少なくとも、11周期以上積層している。なお、本実施例でも、発光部3からの発光波長895nmに対して、屈折率n(AlAs)=2.89、n(GaAs)=3.41とし、膜厚t(AlAs)=77.6nm、t(GaAs)=65.8nmとしている。
【0097】
成長終了後は、GaAs基板10の基板温度を下げ、300℃まで下がった時点でAsセルシャッタを閉じる。そして、GaAs基板10の温度が下がった時点(室温程度)で、MBEチャンバから取り出す。
【0098】
このように、本実施例の赤外線検出素子の製造方法は、GaAs基板を用いるので、大口径化が可能となる。又、MBE法はプロセスが成熟しており、このMBE法の結晶成長のみを用いて、反射部1、光電流生成部2、発光部3、光検出部7の全てを構成する全層を形成しているため、製造の歩留まりを高くすることができる。又、QWIP構造とは異なり、入射赤外線を散乱させるための光結合構造を形成する必要はなく、素子構造を簡単にし、製造プロセスも簡易となる。なお、裏面入射とする場合には、上記成長順を逆にすればよい。
【0099】
<3.イメージセンサ形成工程>
又、本実施例の赤外線検出素子を、ピクセル数の大きなイメージセンサとして形成する場合には、上記成長工程後、更に、以下に示す製造方法を用いて形成すればよい。
【0100】
成長工程後の素子表面に、レジストをスピンコートし、ベーキングすることにより、レジストを固める。デバイスサイズにするためのマスクを利用し、レジストに紫外線露光を行った後、現像液で現像する。硫酸系エッチング液により、APD用下部電極を蒸着するn型APD下部電極層76の手前までエッチングする。そして、n型のAPD下部電極層76にAPD用下部電極となる金属[AuGe(12%)/Ni/Au]を蒸着する。APD用下部電極として用いる部分を除き、蒸着した金属をレジストと共にリフトオフする。APD用下部電極の平面形状としては、例えば、櫛形状、井形状に形成する。
【0101】
次に、素子表面に再度レジストをスピンコートし、ベーキングすることにより、レジストを固める。APD用上部電極兼QDIP用下部電極となる共通電極用マスクを用いて、レジストに紫外線露光を行った後、現像液で現像する。硫酸系エッチング液により、共通電極を蒸着する障壁層32の手前までエッチングする。そして、p型の障壁層32に共通電極となる金属[AuSb(5%)/Ni/Au]を蒸着する。共通電極、つまり、グランド電極として用いる部分を除き、蒸着した金属をレジストと共にリフトオフする。共通電極の平面形状としても、例えば、櫛形状、井形状に形成する。
【0102】
最後に、素子表面に再度レジストをスピンコートし、ベーキングすることにより、レジストを固める。上部電極用マスクを用いて、レジストに紫外線露光を行った後、現像液で現像する。そして、レジストの開口部に上部電極となる金属を蒸着する。上部電極として用いる部分を除き、蒸着した金属をレジストと共にリフトオフする。上部電極の平面形状としても、例えば、櫛形状、井形状に形成する。
【0103】
このように、本発明では、容易にピクセル数の大きなイメージセンサを形成することも可能である。
【実施例3】
【0104】
図6は、本発明に係る赤外線検出装置の実施形態の一例を示すブロック図である。
本実施例の赤外線検出装置は、赤外線検出素子80と、赤外線検出素子の入射面側に設けられた光学系81と、赤外線検出素子80を駆動し、制御するセンサ駆動部82と、赤外線検出素子80で検出した画像信号の処理を行う画像信号処理部83と、センサ駆動部82及び画像信号処理部83を制御するデジタル制御回路84と、デジタル制御回路84により制御されると共に、赤外線検出素子80の冷却を行う冷却系85とを有するものである。
【0105】
本実施例において、赤外線検出素子80としては、上記実施例1〜2に示した赤外線検出素子のいずれかを使用しており、従来の赤外線検出装置と比較して、実施例1〜2と同様に、赤外線検出装置としての検出効率(S/N比)を向上させることができる。
【0106】
このような構成の赤外線検出装置は、例えば、衛星に搭載することにより、地球表面の特定の波長域を観測して、地球の大気の状態や地球表面の状態を観測することができる。又、地球での赤外線の影響を受けることなく、天文観測を行って、天体の状態を観測することができる。
【0107】
更に、光電流生成部2を適切な構成にすることにより、特定の波長域に対応した赤外線検出装置とすることができる。具体的には、地球温暖化の問題に対して、大気中の二酸化炭素(CO2)濃度を高効率、高精度で観測することが現在望まれている。図7に示すように、CO2の吸収波長(4.257μm)を含む波長域(例えば、4μm以上4.5μm以下の範囲の波長域)に赤外線検出感度を有するように、光電流生成部2の量子井戸構造を適切な構成にすることにより、他の分子の赤外線吸収特性の影響を排除して、大気中のCO2濃度を高効率、高精度で検出するCO2用赤外線検出装置とすることが可能となる。
例えば、光電流生成部2において、量子ドット22を大きさ3nmのInGaAsから構成すると共に、障壁層11を膜厚30nm以上のGaAsから構成すると、CO2の吸収波長(4.257μm)に適合する構成となる。
そして、上記構成のCO2用赤外線検出装置を衛星に搭載すれば、地球全体の大気中のCO2濃度を高効率、高精度で観測することが可能となる。上記実施例1〜2に示した赤外線検出素子のいずれかを使用しているので、従来のCO2検出装置と比較しても、検出効率(S/N比)を向上させることができると共に、他の分子の影響も排除することができる。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明は、地球のリモートセンシングや天体観測に用いられる赤外線センサ、赤外線イメージセンサに好適なものである。
【符号の説明】
【0109】
1 反射部
2 光電流生成部
3 発光部
4、7 光検出部
8 屈折部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠赤外線から中赤外線の波長域の光を透過し、近赤外線から可視光の波長域の光を反射する反射部と、
前記反射部を透過した遠赤外線から中赤外線の波長域の光により電子が励起されて、当該電子から光電流が生成される量子ドット構造を多重に積層した光電流生成部と、
前記光電流生成部で生成された光電流の電子が注入されて、正孔と再結合させることにより、近赤外線から可視光の波長域の光を放出する量子井戸構造を多重に積層した発光部と、
前記発光部から放出された近赤外線から可視光の波長域の光を検出すると共に、前記発光部から放出されて、前記反射部で反射された近赤外線から可視光の波長域の光を検出する光検出部とを有し、
少なくとも、前記反射部、前記光電流生成部及び前記発光部を、基板上に積層したIII−V族化合物半導体から構成し、
前記発光部から放出された近赤外線から可視光の波長域の光を前記光検出部で検出することにより、入射してくる遠赤外線から中赤外線の波長域の光を検出することを特徴とする赤外線検出素子。
【請求項2】
請求項1に記載の赤外線検出素子において、
前記反射部と前記光電流生成部と前記発光部とから第1の素子を構成し、前記光検出部から第2の素子を独立して構成し、前記第1の素子と前記第2の素子とを貼り合わせて、一体としたことを特徴とする赤外線検出素子。
【請求項3】
請求項1に記載の赤外線検出素子において、
前記反射部、前記光電流生成部、前記発光部及び前記光検出部を全てIII−V族化合物半導体から構成し、III−V族化合物半導体の基板に各々積層して、一体としたことを特徴とする赤外線検出素子。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1つに記載の赤外線検出素子において、
前記光検出部を、アバランシェフォトダイオードから構成したことを特徴とする赤外線検出素子。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1つに記載の赤外線検出素子において、
前記光電流生成部の量子ドット構造は、量子井戸となる複数の量子ドットを障壁層で埋め込む構造からなり、
前記発光部に隣接する前記光電流生成部の障壁層の膜厚を、前記光電流生成部の他の障壁層より厚く、かつ、電子の平均自由行程より薄くすると共に、前記発光層に向かってバンドギャップが徐々に狭くなるように、前記発光部に隣接する前記光電流生成部の障壁層の組成比を、膜厚の厚さ方向に徐々に変化させたことを特徴とする赤外線検出素子。
【請求項6】
請求項5に記載の赤外線検出素子において、
前記発光部の量子井戸構造の少なくとも1つは、近赤外線から可視光の波長域の光を放出するバンドギャップとなるように、量子井戸となる前記発光部の井戸層を、前記発光部に隣接する前記光電流生成部の障壁層と前記発光部の障壁層で挟み込む構造からなることを特徴とする赤外線検出素子。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1つに記載の赤外線検出素子において、
近赤外線から可視光の波長域の光に対して分布ブラッグ反射を起こすように、前記反射部を、屈折率が互いに異なる2つの層を交互に複数積層する構造としたことを特徴とする赤外線検出素子。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1つに記載の赤外線検出素子において、
二酸化炭素の吸収波長である4.257μmを含む4〜4.5μmの波長域の赤外線により電子が励起されるように、前記光電流生成部の量子ドット構造を構成したことを特徴とする赤外線検出素子。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか1つに記載の赤外線検出素子を使用することを特徴とする赤外線検出装置。
【請求項10】
電子と正孔を再結合させることにより、近赤外線から可視光の波長域の光を放出する量子井戸構造を多重に積層した構造からなる発光部を、基板上に形成し、
遠赤外線から中赤外線の波長域の光により電子が励起されて、当該電子から前記発光部に注入される光電流が生成される量子ドット構造を多重に積層した構造からなる光電流生成部を、前記発光部上に形成し、
前記光電流生成部に入射する遠赤外線から中赤外線の波長域の光を透過し、前記発光部から放出された近赤外線から可視光の波長域の光を前記光検出部側へ反射する反射部を、前記光電流生成部上に積層して、第1の素子を構成し、
前記発光部から放出された近赤外線から可視光の波長域の光を検出する共に、前記発光部から放出されて、前記反射部で反射された近赤外線から可視光の波長域の光を検出する光検出部からなる第2の素子を独立して構成し、
少なくとも、前記反射部、前記光電流生成部及び前記発光部を単一の結晶成長法でIII−V族化合物半導体から形成すると共に、前記第1の素子と前記第2の素子とを貼り合わせて、一体に形成して、
前記発光部から放出された近赤外線から可視光の波長域の光を前記光検出部で検出することにより、入射してくる遠赤外線から中赤外線の波長域の光を検出する赤外線検出素子を製造することを特徴とする赤外線検出素子の製造方法。
【請求項11】
近赤外線から可視光の波長域の光を検出する光検出部を、III−V族化合物半導体の基板上に積層し、
電子と正孔を再結合させることにより、前記光検出部で検出される近赤外線から可視光の波長域の光を放出する量子井戸構造を多重に積層した構造からなる発光部を、前記光検出部上に形成し、
遠赤外線から中赤外線の波長域の光により電子が励起されて、当該電子から前記発光部に注入される光電流が生成される量子ドット構造を多重に積層した構造からなる光電流生成部を、前記発光部上に形成し、
前記光電流生成部に入射する遠赤外線から中赤外線の波長域の光を透過し、前記発光部から放出された近赤外線から可視光の波長域の光を前記光検出部側へ反射する反射部を、前記光電流生成部上に積層し、
前記反射部、前記光電流生成部、前記発光部及び前記光検出部の全てを単一の結晶成長法でIII−V族化合物半導体から一体に形成して、
前記発光部から放出された近赤外線から可視光の波長域の光を前記光検出部で検出することにより、入射してくる遠赤外線から中赤外線の波長域の光を検出する赤外線検出素子を製造することを特徴とする赤外線検出素子の製造方法。
【請求項12】
請求項10又は請求項11に記載の赤外線検出素子の製造方法において、
前記光検出部として、アバランシェフォトダイオードを形成することを特徴とする赤外線検出素子の製造方法。
【請求項13】
請求項10から請求項12のいずれか1つに記載の赤外線検出素子の製造方法において、
前記光電流生成部の量子ドット構造として、量子井戸となる複数の量子ドットを障壁層で埋め込む構造を形成し、
前記発光部に隣接する前記光電流生成部の障壁層の膜厚を、前記光電流生成部の他の障壁層より厚く、かつ、電子の平均自由行程より薄く形成すると共に、前記発光層に向かってバンドギャップが徐々に狭くなるように、前記発光部に隣接する前記光電流生成部の障壁層の組成比を、膜厚の厚さ方向に徐々に変化させて形成することを特徴とする赤外線検出素子の製造方法。
【請求項14】
請求項13に記載の赤外線検出素子の製造方法において、
前記発光部の量子井戸構造の少なくとも1つとして、近赤外線から可視光の波長域の光を放出するバンドギャップを形成するように、量子井戸となる前記発光部の井戸層を、前記発光部に隣接する前記光電流生成部の障壁層と前記発光部の障壁層で挟み込む構造を形成することを特徴とする赤外線検出素子の製造方法。
【請求項15】
請求項10から請求項14のいずれか1つに記載の赤外線検出素子の製造方法において、
前記反射部として、近赤外線から可視光の波長域の光に対して分布ブラッグ反射を起こすように、屈折率が互いに異なる2つの層を交互に複数積層する構造を形成することを特徴とする赤外線検出素子の製造方法。
【請求項16】
請求項10から請求項15のいずれか1つに記載の赤外線検出素子の製造方法において、
二酸化炭素の吸収波長である4.257μmを含む4〜4.5μmの波長域の赤外線により電子が励起されるように、前記光電流生成部の量子ドット構造を形成することを特徴とする赤外線検出素子の製造方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−77467(P2011−77467A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−230173(P2009−230173)
【出願日】平成21年10月2日(2009.10.2)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】