走行制御システム、制御プログラム、記録媒体
【課題】先行車両への追突を回避可能である安全な走行制御と、自車両に急激な速度変化が生じることのない乗り心地の良好な走行制御とを両立して実現できる走行制御システムを提供する。
【解決手段】走行制御システムは、自車両が現時刻の先行車両の位置に到達するまでの到達時間を分割することで複数の予測区間を設定して(ステップS105)、到達時間の経過時点における自車両の目標加速度を各予測区間毎に算出する(ステップS107)。そして、各予測区間における自車両の予測加速度や、連続する2つの予測区間における操作変化量を入力値とする評価関数を作成して(ステップS108)、評価関数の出力値が最小となる入力値を求める一般化予測制御に基づき、各予測区間における自車両の加速度を取得して(ステップS109)、取得値に現時刻以降の自車両の加速度を制御する(ステップS110)。
【解決手段】走行制御システムは、自車両が現時刻の先行車両の位置に到達するまでの到達時間を分割することで複数の予測区間を設定して(ステップS105)、到達時間の経過時点における自車両の目標加速度を各予測区間毎に算出する(ステップS107)。そして、各予測区間における自車両の予測加速度や、連続する2つの予測区間における操作変化量を入力値とする評価関数を作成して(ステップS108)、評価関数の出力値が最小となる入力値を求める一般化予測制御に基づき、各予測区間における自車両の加速度を取得して(ステップS109)、取得値に現時刻以降の自車両の加速度を制御する(ステップS110)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行制御システム、制御プログラム、及びこれを記録した記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、交通事故や交通渋滞、さらには自動車の排ガス等によって引き起こされる環境問題を解消するために、ITS(Intelligent Transport Systems)技術についての研究開発が行われており、この一環として、交通事故の防止、燃費の向上、ドライバの運転負荷軽減等を目的として、先行車両に追従する際の走行を制御するACC(Adaptive Cruise Control)システムが提案されている。現在、ACCシステムは、一部の車両で実用化されており、将来の標準装備となるシステムとして注目されている。
【0003】
このACCシステムの例として、特許文献1には、先行車両との車間距離に基づき自車速を制御する制御装置が開示されている。この制御装置は、現時刻の自車速から算出された安全車間距離内に先行車両が存在するか否かを検出するとともに、先行車両があるときには、これとの車間距離が安全車間距離となるように自車速を制御し、先行車両がないときには、自車速が設定車速となるように制御する。
【0004】
また、先行車両との車間距離や、自車両の車速・加速度を用いて、自車両の目標車速を算出し、その目標車速と自車両の車速との偏差を小さくして、両者を一致させるフィードバック制御を行う技術が提案されている。
【0005】
このフィードバック制御を行う装置の例として、特許文献2には、先行車両との車間距離や自車両の車速・加速度等のデータを、一定の時間間隔で記憶する制御装置が開示されている。この制御装置では、現時刻以前の所定時間内に記憶されたデータがニューラルネットワークに入力されると共に、ニューラルネットワークの出力値に基づき、車速を目標速度に近づける上で必要なスロットル開度やブレーキ操作量等が設定される。
【0006】
また、特許文献3には、現時刻の車速や加速度を用いて、現時刻直後の一つの時間帯における車速を予測するとともに、この車速を用いて、前記時間帯の経過後に先行車両との間に確保すべき安全車間距離を算出する制御装置が開示されている。この制御装置では、上記の安全車間距離とは別に、前記時間帯の経過後の車間距離が現時刻の車間距離に基づき予測され、この車間距離と、安全車間距離との差に基づき、前記時間帯における目標速度が算出される。
【0007】
また、特許文献4には、上述のフィードバック制御にフィードフォワード制御を併用した制御装置が開示されている。この制御装置におけるフィードフォワード制御とは、前回サンプリング時の目標車速と今回サンプリング時の目標車速とから今回の目標車速の変化率を算出し、算出した目標車速の変化率が次回サンプリング時も継続するものと推定して、所定時間経過後の目標車速を設定するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭60−215432号公報
【特許文献2】特開平4−71933号公報
【特許文献3】特開平5−104977号公報
【特許文献4】特開平8−40231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1では、先行車両が自車両の車線から隣接車線に車線変更等を行った際には、安全車間距離による車速制御から、設定車速による車速制御に切り換えられる。このため、急激な速度変化が生じて、運転者に乗り心地の悪さを感じさせる虞れがある。
【0010】
また、特許文献2では、ニューラルネットワークに入力されるデータの種類は、自車両の車速・加速度や車間距離など様々あり、これらの各データについて、現時刻以前の所定時間内に記憶されたデータが入力される。これにより、ニューラルネットワークで処理されるデータ量は莫大なものとなるため、制御系に遅れが生じて、迅速に車両の走行を制御できなくなる虞れがある。
【0011】
また特許文献3では、現時刻直後の一つの時間帯における目標速度を予測する一段予測により走行制御を行っていることで、応答の時間遅れやオーバーシュートが生じ得る。また、現時刻の車速や加速度が維持されるという条件下で、前記時間帯の経過時における車速を予測していることから、前記時間帯内に車両が車速や加速度を変化させていた場合には、予測される車速と、実際の車速との間に、大きな隔たりが生じ得る。以上の点から、充分な制御性能が得られない虞れがある。
【0012】
また、特許文献4では、目標車速の変化率には推定誤差が考慮されていないため、目標車速の予測を高精度で行うには限界がある。
【0013】
本発明は、こうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、走行操作が行われる移動体に搭載される走行制御システム、走行制御システムを制御するための制御プログラム、及び制御プログラムが記録された記録媒体であって、移動体の前方を走行する先行物体への追突を回避可能である安全な走行制御と、移動体に急激な速度変化が生じることのない乗り心地の良好な走行制御とを両立して実現できるとともに、長期的な加速度予測が可能になることで充分な制御性能が得られ、さらに、加速度の予測対象時間を、移動体と先行物体との間の距離や移動体の速度に応じて可変的に設定することで、制御性能の精度の向上と、制御に要する計算量の低減とを両立して実現できる走行制御システム、制御プログラム、及び記録媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1の観点に係る走行制御システムは、走行操作が行われる移動体に搭載される走行制御システムであって、現時刻における前記移動体と該移動体の前方を走行する先行物体との間の距離を、現時刻の前記移動体の速度で除することで、前記移動体が現時刻における前記先行物体の位置に到達するまでの到達時間を算出する到達時間算出手段と、前記到達時間を所定の時間間隔で分割することにより、加速度の予測対象時間となる複数の予測区間を設定する予測区間設定手段と、前記到達時間の経過時点において、前記移動体の速度を前記先行物体の速度に近づけ、且つ、前記移動体と前記先行物体との間の距離を、現時刻の前記移動体の速度に基づき算出される空走距離と制動距離との合計よりも大きな安全距離に近づけ得る前記移動体の目標加速度を、各前記予測区間毎に算出する目標加速度算出手段と、各前記予測区間における前記移動体の予測加速度と、連続する2つの前記予測区間の間における前記移動体への操作変化量とが入力されることにより、各前記予測区間における目標加速度と予測加速度との差分に関する累計値と、各操作変化量に関する累計値とを、加算して出力する評価関数を生成する評価関数生成手段と、前記評価関数の出力値が最小となる入力値を求める一般化予測制御に基づき、各前記予測区間における前記移動体の加速度を取得して、該取得値に現時刻以降の前記移動体の加速度を制御する加速度制御手段とを有することを特徴とする。
【0015】
また好ましくは、各前記予測区間における目標加速度は、前記現時刻における前記移動体と前記先行物体との間の距離と前記安全距離との差分を前記到達時間で除した値に所定の重み付け係数を乗じた値に、現時刻の前記移動体と前記先行物体との相対速度を加算するとともに、該加算した値を、前記到達時間で除することで算出されることを特徴とする。
【0016】
また好ましくは、各前記予測区間における目標加速度と予測加速度との差分に関する累計値は、各前記予測区間における前記目標加速度と予測加速度との差分の2乗値を合計した値であり、各操作変化量に関する累計値は、連続する2つの前記予測区間における前記入力値の操作変化量の2乗値に、所定の重み付け係数を乗じた値を合計した値であることを特徴とする。
【0017】
また好ましくは、前記移動体に作用する力と前記移動体の加速度との関係を示す力学モデルを作成する力学モデル作成手段をさらに有し、前記加速度制御手段は、前記力学モデルを用いて各前記予測区間における前記移動体の加速度を取得することを特徴とする。
【0018】
また好ましくは、前記力学モデル作成手段により作成された前記力学モデルに基づき、前記移動体の速度と前記移動体に作用する力との関係が線形的に表現された線形モデルを作成する線形モデル作成手段をさらに有し、前記加速度制御手段は、前記線形モデルを用いて、前記評価関数の出力値を最小とさせる入力値に対応した前記移動体に作用する力を算出するとともに、該移動体に作用する力を前記力学モデルに入力することで、各前記予測区間における前記移動体の加速度を取得することを特徴とする。
【0019】
本発明の第2の観点に係る制御プログラムは、走行操作が行われる移動体に搭載される走行制御システムを制御するための制御プログラムであって、現時刻における前記移動体と該移動体の前方を走行する先行物体との間の距離を、現時刻の前記移動体の速度で除することで、前記移動体が現時刻における前記先行物体の位置に到達するまでの到達時間を算出する到達時間算出手順と、前記到達時間を所定の時間間隔で分割することにより、加速度の予測対象時間となる複数の予測区間を設定する予測区間設定手順と、前記到達時間の経過時点において、前記移動体の速度を前記先行物体の速度に近づけ、且つ、前記移動体と前記先行物体との間の距離を、現時刻の前記移動体の速度に基づき算出される空走距離と制動距離との合計よりも大きな安全距離に近づけ得る前記移動体の目標加速度を、各前記予測区間毎に算出する目標加速度算出手順と、各前記予測区間における前記移動体の予測加速度と、連続する2つの前記予測区間の間における前記移動体への操作変化量とが入力されることにより、各前記予測区間における目標加速度と予測加速度との差分に関する累計値と、各操作変化量に関する累計値とを、加算して出力する評価関数を生成する評価関数生成手順と、前記評価関数の出力値が最小となる入力値を求める一般化予測制御に基づき、各前記予測区間における前記移動体の加速度を取得して、該取得値に現時刻以降の前記移動体の加速度を制御する加速度制御手順とを前記走行制御システムに実行させることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の第3の観点に係る記録媒体は、前記制御プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、評価関数による一般化予測制御に基づき取得される加速度に、現時刻以降の移動体の加速度が制御されることで、移動体の速度を、先行物体の速度に近づけると共に、移動体と先行物体との間の距離を、現時刻の速度に基づき算出される空走距離と制動距離との合計よりも大きく確保することが可能となる。これにより、先行物体への追突を回避可能な安全な走行制御が実現できる。また、上述の加速度制御によれば、各予測区間に対応する現時刻以降の各時間帯では、前記移動体への操作変化量が小さくなることから、前記移動体への操作量をほぼ一定にすることができる。これにより、移動体に急激な速度変化が生じることのない乗り心地の良好な走行制御が実現できる。
【0022】
また、評価関数による一般化予測制御では、加速度予測が、現時刻以降の複数の予測区間で行われる多段予測となるため、長期的な加速度予測が可能となる。これにより、制御性能が向上する。
【0023】
また、移動体と先行物体との間の距離を、現時刻の移動体の速度に基づき算出された安全距離に近づける走行制御が行われることで、移動体が高速走行をしている時には、先行物体との間の距離が長くなり、また、移動体が低速走行をしている時には、先行物体との間の距離が短くなる。これにより、移動体の速度に応じて、移動体と先行物体との間の距離が調整される。
【0024】
また、移動体が現時刻における先行物体の位置に到達するまでの到達時間が算出されて、これを時間間隔で分割することにより、加速度の予測対象時間である複数の予測区間が設定される。これにより、加速度の予測対象時間となる予測区間は、到達時間に応じて可変的に設定されるため、予測区間を一定にする場合に比して、制御性能の精度が向上する。また、移動体の速度が高速になるにつれ、安全距離が大きくなる。これにより、移動体の高速走行時には、到達時間が長くなり、予測区間の数が大きくなる。この結果、長時間での加速度の予測を行うため、円滑な走行制御が行われる。また、移動体の速度が低速になるにつれ、安全距離が短くなる。これにより、移動体の低速走行時には、到達時間が短くなることで、予測区間の数が少なくなるため、制御に要する計算量が少なくなる。この結果、到達距離や移動体の速度に応じた可変的な制御が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態における走行制御システムの構成を示すブロック図である。
【図2】走行制御システムが搭載される自車両と、自車両の前方を走行する先行車両との位置関係を示す概略図である。
【図3】走行制御システムの処理を示すフローチャートである。
【図4】走行制御システムによる加速度予測対象時間を示す概略図である。
【図5】現時刻における自車両の速度と、安全距離との関係を示す図である。
【図6】図3のステップS104の処理の詳細を示すフローチャートである。
【図7】第1の走行パターンのシミュレーションにおける自車・先行車速度と時間との関係を示す図である。
【図8】第1の走行パターンのシミュレーションにおける車間距離・安全距離と時間との関係を示す図である。
【図9】第2の走行パターンのシミュレーションにおける自車・先行車速度と時間との関係を示す図である。
【図10】第2の走行パターンのシミュレーションにおける車間距離・安全距離と時間との関係を示す図である。
【図11】第3の走行パターンのシミュレーションにおける自車・先行車速度と時間との関係を示す図である。
【図12】第3の走行パターンのシミュレーションにおける車間距離・安全距離と時間との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、この発明の実施の形態に係る走行制御システム1について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付し、その説明は繰り返さない。走行制御システム1は、走行操作が行われる移動体に搭載されるものであって、以下では、走行制御システム1が、前記移動体としての自動車に搭載される場合を例に説明する。
【0027】
図1は、走行制御システム1の構成を示し、図2は、走行制御システム1が搭載される自動車である自車両2と、自車両2の前方を走行する自動車である先行車両3との位置関係を示している。
【0028】
図1に示すように、走行制御システム1は、自車両計測用センサ10と、先行車両計測用センサ11と、制御装置12とを備えている。
【0029】
自車両計測用センサ10は、例えば、自車両2のドライブシャフトの回転を光学的に検知するセンサから構成されており、現時刻tnの自車両2の速度va(tn)を計測する。
【0030】
先行車両計測用センサ11は、例えば、ミリ波レーダーやレーザレーダーから構成されており、現時刻tnの自車両2と先行車両3との間の車間距離d(tn)や、現時刻tnの先行車両3の速度vb(tn)を計測する。
【0031】
制御装置12は、記憶部20と、制御部21と、インターフェイス22とを有している。
【0032】
記憶部20は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、ハードディスク装置などから構成され、プログラムや入力データ等を記憶すると共に、制御部21のワークエリアとして機能する。
【0033】
制御部21は、CPU(Central Processing Unit)から構成され、記憶部20に記憶されたプログラムを実行する。
【0034】
インターフェイス22は、自車両計測用センサ10及び先行車両計測用センサ11や、自車両2に設置されるスロットルアクチュエータ30やブレーキアクチュエータ31に接続される。
【0035】
以上の構成を有する制御装置12は、インターフェイス22を通じて、自車両計測用センサ10や先行車両計測用センサ11からのデータが入力され、また、制御部21の演算結果を、スロットルアクチュエータ30やブレーキアクチュエータ31に出力することで、演算結果に従った走行制御を可能とする。
【0036】
図3は、走行制御システム1の処理を示すフローチャートであり、図4は、走行制御システム1による加速度予測対象時間を示している。図2〜4を用いて、走行制御システム1で実行される処理について説明する。なお、図3のフローチャートにより示されるアルゴリズムは、制御装置12の記憶部20(図1参照)にプログラムとして記憶されており、例えば、車室内に設けられるスイッチをユーザが操作することによって、走行制御システム1の電源がONされることに応じて、制御部21(図1参照)により実行される。
【0037】
まず、自車両2に作用する力uと自車両2の加速度dva/dtとの関係を示す式1の自車両2の力学モデルが作成される(ステップS101)。
【数1】
【0038】
自車両2に作用する力uは、入力値であって、自車両2の加速に要する力mdva/dtと、自車両2の速度vaの2乗値va2に比例する空気抵抗μlAva2と、自車両2の重量W(自車両2の質量mに重力加速度を乗じた値)に比例する転がり抵抗μrWとを足し合わせた値に一致する。また、自車両2の質量m、空気抵抗係数μl、前面投影面積A、転がり抵抗係数μr、自車両2の重量Wは、予め制御装置12の記憶部20(図1参照)に記憶される。
【0039】
次に、自車両計測用センサ10や先行車両計測用センサ11から、現時刻tnの自車両2の速度va(tn)、現時刻tnの自車両2と先行車両3との間の車間距離d(tn)、現時刻tnの先行車両3の速度vb(tn)を取得するとともに、自車両2及び先行車両3の速度va(tn), vb (tn)から、自車両2と先行車両3との相対速度vab(tn)を取得する(ステップS102)。
【0040】
次に、自車両2が現時刻tnにおける先行車両3の位置に到達するまでの到達時間Tc(tn)(図2参照)が算出される(ステップS103)。このステップS103では、ステップS102で取得された車間距離d(tn)を、現時刻tnの自車両2の速度va(tn)で除することで、到達時間Tc(tn)が算出される。
【0041】
次に、ステップS101で作成された力学モデルを線形モデルに変換する(ステップS104)。この処理は、計算負荷を低減するために行われるものであり、詳しくは後述する。
【0042】
次に、ステップS103で算出された到達時間Tc(tn)を、所定の時間間隔Tで分割することにより、複数の予測区間N(tn)(図4参照)が設定される(ステップS105)。各予測区間N(tn)は、それぞれ加速度の予測対象時間となるものであって、現時刻tnにおける自車両2の速度va(tn)と、ステップS102で得られる車間距離d(tn)と、時間間隔Tとを用いて、式2により算出される。
【数2】
【0043】
なお、式2において、d(tn)/va(tn)は、ステップS103で算出される到達時間Tc(tn)に相当する。また、時間間隔Tについては、予め制御装置12の記憶部20(図1参照)に記憶される。
【0044】
次に、現時刻tnの自車両2の速度va(tn)を用いて、自車両2と先行車両3との間に確保すべき安全距離dr(tn) (図2参照)が、式3により算出される(ステップS106)。
【数3】
【0045】
安全距離dr(tn)は、現時刻tnの速度va(tn)に基づき算出される空走距離va(tn) trと制動距離va(tn)2 /2μgとの合計値よりも大きな値である。具体的には、安全距離dr(tn)は、空走距離va(tn) trと、制動距離va(tn)2 /2μgと、停止時車間距離dminとを足し合わせた値である。この安全距離dr(tn)が確保されている場合では、自車両2にブレーキがかけられてから、自車両2が空走距離va(tn)trと制動距離va(tn)2 /2μgとを合計した距離を走行して停止した際に、自車両2は、少なくとも停止時車間距離dminほど先行車両3から離れるようになる。なお、停止時車間距離dminは、停止時における望ましい車間距離であり、パラメータとして事前に設定する。また、式3で用いられる、停止時車間距離dmin、静止摩擦係数μ、重力加速度gは、予め制御装置12の記憶部20(図1参照)に記憶される。
【0046】
図5は、現時刻tnにおける自車両2の速度va(tn)と、安全距離dr(tn)との関係を示している。図5に示すように、安全距離dr(tn)は、速度va(tn)が速くなるにつれて、長く算出される傾向にある。また、路面が濡れている時(静止摩擦係数μ=0.5)では、路面が乾燥している時(静止摩擦係数μ=0.7)に比して、静止摩擦係数μが小さいことから、安全距離dr(tn)は長く算出される傾向にある。
【0047】
そして図3のステップS106の実行後では、自車両2の目標加速度w(tn+j)(図4参照)が各予測区間N(tn)毎に算出される(ステップS107)。目標加速度w(tn+j)は、この値に各予測区間N(tn)の加速度が制御されることで、到達時間Tc(tn)の経過時点において、自車両2の速度vaを先行車両3の速度vbに近づけ、且つ、自車両2と先行車両3との間の車間距離dを、安全距離dr(tn)に近づけ得るものであり、式4により、算出される。
【数4】
【0048】
式4によれば、現時刻tnの車間距離d(tn)と安全距離dr(tn)との差分を、到達時間Tc(tn)(式4ではN(tn)Tに相当)で除した値に所定の重み付け係数γを乗じた値に、ステップS102で取得された現時刻tnの相対速度vab(tn)を加算するとともに、該加算した値を、到達時間Tc(tn)(式4ではN(tn)Tに相当)で除することによって、目標加速度w(tn+j)が算出される。なお、重み付け係数γについては、予め制御装置12の記憶部20に記憶される。
【0049】
次に、式5に示す評価関数J(tn)が生成される(ステップS108)。
【数5】
【0050】
評価関数J(tn)は、各予測区間N(tn)における目標加速度w(tn+j)と自車両2の予測加速度yp(tn+j) (図4参照)の偏差や、連続する2つの予測区間N(tn)の間で生じるアクセルやブレーキの操作変化量Δu(tn+j-1) (図4参照)を考慮したものである。
【0051】
予測加速度yp(tn+j)は、現時刻tnからj時刻(時間間隔Tを単位とする時刻)先における自車両2の予測加速度であり、各予測区間N(tn)内では、一定値として与えられる。例えば、図4に示すyp(tn+2)は、予測区間2における予測加速度である。
【0052】
また、操作変化量Δu(tn+j-1)は、現時刻tnのj-2時刻先から、現時刻tnのj-1時刻先までの間に生じる操作変化量であり、後述の一般化予測制御から算出され、Δu(tn+j-1) = u(tn+j-1) - u(tn+j-2)である。例えば、図4に示すΔu(tn+2)は、区間2から区間3へと時刻が移る際に生じる操作変化量であり、Δu(tn+2) = u(tn+2) - u(tn+1)である。
【0053】
ここで、操作変化量Δu(tn+j-1)を算出する一般化予測制御の概要を説明する。
【0054】
まず、一般化予測制御のモデルを式6で表す。式6において、q-1は1時刻遅れの演算子を表している。また、式6におけるA(q-1)、B(q-1)は、式7で表される。
【数6】
【数7】
【0055】
そして、式8の関係を満たすEj (q-1),Fj (q-1)を求める。なお、式8において、Δ=1-q-1である。
【数8】
【0056】
ここで、Ej (q-1)、Fj (q-1)は、式8を数値的に解くことで求められるが、jが変わるたびに計算する必要がある。そこで、計算量削減のため、Diophantine方程式を再帰的に用いる。具体的には、式9に示すように、B(q-1) Ej (q-1)を、Gj (q-1)とおいて、式10に示す計算を行う。
【数9】
【数10】
【0057】
次に、式11により、自由応答の項hk+1を表す。なお、式11に示す各要素hk+jは、式12で求められる。
【数11】
【数12】
【0058】
次に、ステップ応答である行列Gの要素を、式13により示す。
【数13】
【0059】
そして、式12,式13を適用した式14により、評価関数J(tn)の出力値を最小とする操作変化量(式14のΔu(k)に相当)が算出される。
【数14】
【0060】
そして、式5の評価関数J(tn)では、各予測区間N(tn)における目標加速度 w(tn+j)と予測加速度yp(tn+j)との差分に関する累計値(第1項の算出値)と、操作変化量Δu(tn+j-1)に関する累計値(第2項の算出値)とが、加算して出力される。
【0061】
より詳細には、第1項の算出値は、各予測区間N(tn)における目標加速度w(tn+j)と予測加速度yp(tn+j)との差分の2乗値を合計した値であり、第2項の算出値は、連続する2つの予測区間N(tn)における操作変化量Δu(tn+j-1)の2乗値に、所定の重み付け係数λjを乗じた値を合計した値であり、これら第1,2項の算出値を足し合わせた値が出力される。なお、重み付け係数λjは、予め制御装置12の記憶部20に記憶される。
【0062】
この評価関数J(tn)は、目標加速度 w(tn+j)と予測加速度yp(tn+j)との差や、操作変化量Δu(tn+j-1)が小さい場合には、第1,2項の算出値が小さくなることで、出力値も小さくなる特徴を有している。
【0063】
また、評価関数J(tn)は、重み付け係数λjの値を変更することで、出力値に対して支配的になる値が変更される特徴を有している。つまり、重み付け係数λjが小さい時には、目標加速度 w(tn+j)と予測加速度yp(tn+j)との差分に関する累計値(第1項の算出値)が支配的となり、重み付け係数λjが大きいときには、操作変化量Δu(tn+j-1)に関する累計値(第2項の算出値)が支配的になる。
【0064】
そして図3のステップS108の実行後では、評価関数J(tn)の出力値が最小となる入力値を求める一般化予測制御に基づき、各予測区間N(tn)における自車両2の加速度a(tn+j)(図4参照)が取得される(ステップS109)。
【0065】
なお、ステップS109は、ステップS104で作成された線形モデルが用いられて実行され、この結果、目標加速度 w(tn+j)との差が小さく、且つ、操作変化量Δu(tn+j-1)を小さくさせる加速度a(tn+j)が、各予測区間N(tn)毎に取得される。
【0066】
なお、評価関数J(tn)の重み付け係数λj(式5参照)を小さく設定した場合には、目標加速度w(tn+j)に近づける傾向の大きな加速度a(tn+j)が取得され、また、評価関数J(tn)の重み付け係数λjを大きく設定した場合には、操作変化量Δu(tn+j-1)を小さくする傾向の加速度a(tn+j)が取得される。
【0067】
そして図3のステップS109の実行後では、ステップS109で取得された加速度a(tn+j)が、インターフェイス22(図1参照)を通じて、スロットルアクチュエータ30やブレーキアクチュエータ31に出力される(ステップS110)。この結果、自車両2は、現時刻tn以降の加速度が、ステップS109の取得値a(tn+j)に制御される。
【0068】
この制御によれば、ステップS109の取得値a(tn+j)と目標加速度 w(tn+j)との差が小さいことから、到達時間Tc(tn)が経過した時では、自車両2の速度vaは、先行車両3の速度vbに近づくと共に、自車両2と先行車両3との間の車間距離dが、ステップS106で算出された安全距離dr(tn+1)に近づくことになる。また、取得値a(tn+j)が操作変化量Δu(tn+j-1)を小さくする加速度であることから、到達時間Tc(tn)が経過するまでの間では、アクセルやブレーキの操作量は、ほぼ一定となる。
【0069】
そして、ステップS110が実行された後では、ステップS102に復帰することで、再びステップS102〜S110が実行される。この処理は、時刻tn以降の時刻tn+1(例えば時刻tnから時間T(図4参照)が経過した時刻)が現時刻になるときに行われるものであって、時刻tn+1において、自車両計測用センサ10や先行車両計測用センサ11により計測されるデータが使用される。
【0070】
具体的には、ステップS102では、時刻tn+1の自車両2・先行車両3の速度va(tn+1), vb(tn+1)、時刻tn+1の自車両2と先行車両3との間の車間距離d(tn+1)、速度va(tn+1), vb (tn+1)から時刻tn+1の自車両2と先行車両3との相対速度vab(tn+1)が取得される。そしてステップS103では、自車両2が時刻tn+1における先行車両3の位置に到達するまでの到達時間Tc(tn+1)が算出され、ステップS105では、到達時間Tc(tn+1)を、所定の時間間隔Tで分割することで、複数の予測区間N(tn+1)が設定される。そして、ステップS107では、時刻tn+1の自車両2の速度va(tn+1) 等を用いて、自車両2の目標加速度w(tn+1+j)が各予測区間N(tn+1)毎に算出される。さらに、ステップS108では、時刻tn+1からj時間先における自車両2の予測加速度yp(tn+1+j)と、現時刻tn+1のj-2時間先から、時刻tn+1のj-1時間先までの間に生じる操作変化量Δu(tn+j-1)とを入力値とする評価関数J(tn+1)が生成され、ステップS109では、評価関数J(tn+1)の出力値が最小となる入力値を求める一般化予測制御に基づき、各予測区間N(tn+1)における自車両2の加速度a(tn+1+j)が取得される。そして、ステップS110により、時刻tn+1以降の自車両2の加速度が、ステップS109の取得値a(tn+1+j)に制御される。
【0071】
そしてステップS102〜S110の処理は、ユーザが車室内のスイッチを操作することによって、走行制御システム1の電源がOFFされるまで繰り返される。
【0072】
次に、ステップS104,S109の詳細について説明する。
【0073】
ステップS101で作成される力学モデル(式1参照)は、自車両2の速度vaの2乗値va2を含むことから、vaについて非線形の方程式になっており、評価関数J(tn)を用いた一般化予測制御で解析的に解を求めるためには、線形化する必要がある。
【0074】
このため、ステップS104では、ステップS101で作成された力学モデルに基づき、自車両2の速度vaと自車両2に作用する力uとの関係が線形的に表現された線形モデルが作成される。そして、ステップS109では、ステップS104で作成された線形モデルが用いられて、評価関数J(tn)の出力値を最小とさせる入力値(予測加速度yp(tn+j)や操作変化量Δu(tn+j-1))に対応した作用力uが求められる。
【0075】
具体的には、ステップS104では、図6に示すように、まず、転がり抵抗μrW(式1参照)が支配的になる低速時の力学モデルと、空気抵抗μlAva2(式1参照)が支配的となる高速時の力学モデルとが作成される(ステップS201)。この処理は、式1の力学モデルに基づき実行される。
【0076】
式15は、低速走行時の力学モデルを示している。低速時では、va≦√μrW/μlA(式1参照)の関係があることで、式15は、式1から、空気抵抗μlAva2の項が削除されたモデルとなっている。
【数15】
【0077】
また、式16は、高速走行時の力学モデルを示している。高速時では、va>√μrW/μlA(式1参照)の関係があることで、式1から、転がり抵抗μrWの項が削除されたモデルとなっている。
【数16】
【0078】
次に、ステップS201で作成された力学モデルが、連続時間の微分方程式に変形される(ステップS202)。
【0079】
まず、低速走行時の力学モデルについては、式15を変形することで、式17の微分方程式が導かれる。
【数17】
【0080】
また、高速走行時の力学モデルについては、式16のvaを1/zとおいて、式16を変形することで、式18の微分方程式が導かれる。
【数18】
【0081】
次に、低速走行時の微分方程式である式17と、高速走行時の微分方程式である式18とを、離散時間モデルに変換する(ステップS203)。このステップS203では、図3のステップS203で各予測区間N(tn)の設定に用いた時間間隔Tが、離散時間として与えられる。
【0082】
具体的には、低速走行時の式17について、現時刻速度vaをva1とおき、vaの微分値をva2とおき、作用力u rの微分値をu r2とおいて、式19の離散時間モデルに変換する。
【数19】
【0083】
また、高速走行時の式18について、現時刻速度vaの逆数zをz1とおき、z1の微分値をz2とおき、vaの微分値をva2とおき、作用力ulの微分値をul2とおいて、式20の離散時間モデルに変換する。
【数20】
【0084】
次に、ステップS203で得られた離散時間モデルから、評価関数J(tn)による一般化予測制御に用いる線形モデルが導出される(ステップS204)。この線形モデルは、自車両2の速度vaと自車両2に作用する力uとの関係が線形的に表現されたモデルとなっている。
【0085】
まず、低速走行時については、式19から、式21に示す線形モデルが導かれる。
【数21】
【0086】
式21では、現時刻速度の微分値va2(tn)が、直前の時刻tn -1の速度の微分値va2(tn -1)と、直前の時刻tn -1の作用力u rの微分値u r2に時間間隔Tを乗じた値とを足し合わせることで、算出されるようになっている。
【0087】
また、高速走行時については、式20から、式22に示す線形モデルが導かれる。
【数22】
【0088】
式22では、現時刻速度の逆数zの微分値z2(tn)が、直前時刻tn -1の速度の逆数の微分値z2(tn-1)と、直前の時刻tn -1の作用力u rの微分値u r2に時間間隔Tを乗じた値とを足し合わせることで、算出される。
【0089】
そして、図3のステップS109では、式21,22の線形モデルを用いて、評価関数J(tn)の出力値を最小とさせる入力値に対応した作用力u(tn)を算出する。
【0090】
具体的には、まず、低速走行時について、式21を変形することで、式23が導かれる。
【数23】
【0091】
また、高速走行時について、式22を変形することで、式24が導かれる。
【数24】
【0092】
そして、式25により、式23により算出される作用力ur(tn)と、式24により算出される作用力ul(tn)とを足し合わせることで、上述の作用力u(tn)が算出される。
【数25】
【0093】
そして、式25により算出される作用力u(tn)を、式1に入力することで、評価関数J(tn)の出力値を最小にする加速度a(tn+j)が得られる。
【0094】
本実施の形態によれば、評価関数J(tn)による一般化予測制御に基づき取得される自車両2の加速度a(tn+j)に、現時刻tn以降の加速度が制御されることで、自車両2の速度vaを、先行車両3の速度vbに近づけると共に、自車両2と先行車両3との間の車間距離dを、現時刻tnの自車両2の速度va(tn)に基づき算出される空走距離va(tn) trと制動距離とva(tn)2 /2μgとの合計値よりも大きな安全距離dr(tn+1)に近づけることが可能となる。これにより、先行車両3への追突を回避可能な安全な走行制御が実現できる。また、上述の加速度制御によれば、各予測区間N(tn)に対応する現時刻tn以降の各時間帯では、アクセルやブレーキの操作変化量Δu(tn+j-1)を小さくして、自車両2に対する操作量をほぼ一定にすることができる。これにより、自車両2に急激な速度変化が生じることのない乗り心地の良好な走行制御が実現できる。なお、本実施の形態では、自車両2に対する操作量をほぼ一定とする走行制御を実現するために、目標加速度w(tn+j)を各予測区間N(tn)内で一定値として与える必要があるため、目標加速度w(tn+j)は、式4により各予測区間N(tn)毎に算出するようにしている。
【0095】
また、評価関数J(tn)の重み付け係数λj(式5参照)を小さく設定した場合には、目標加速度に近づける傾向の大きな加速度a(tn+j)が出力される。このため、目標加速度w(tn+j)への即応性を高めることができる。評価関数J(tn)の重み付け係数λjを大きく設定した場合には、操作変化量Δu(tn+j-1)を小さくする傾向の加速度a(tn+j)が出力される。これにより、アクセルやブレーキの操作量がより一定になるため、運転者の乗り心地をさらに良好なものとし、エンジン出力などのエネルギーの損失を小さく抑えることができる。
【0096】
また、評価関数J(tn)による一般化予測制御では、加速度予測が、現時刻tn以降の複数の予測区間N(tn)で行われる多段予測となるため、長期的な加速度予測が可能となる。これにより、制御性能が向上する。
【0097】
また、式3に示したように、自車両2と先行車両3との間の車間距離d(tn)を、現時刻tnの自車両2の速度va(tn)に基づき算出された安全距離dr(tn)に近づける走行制御が行われることで、自車両2が高速走行をしている時には、先行車両3との間の車間距離dが長くなり、また、自車両2が低速走行をしている時には、先行車両3との間の車間距離dが短くなる。これにより、自車両2の速度va(tn)に応じた車間距離dの調整が実現できる。
【0098】
また、自車両2が現時刻tnにおける先行車両3の位置に到達するまでの到達時間Tc(tn)が算出されて、これを時間間隔Tで分割することにより、加速度の予測対象時間である複数の予測区間N(tn)が設定される。これにより、加速度の予測対象時間となる予測区間N(tn)は、到達時間Tc(tn)に応じて可変的に設定されるため、予測区間を一定にする場合に比して、制御性能の精度が向上する。また、速度が高速になるにつれ、安全距離dr(tn)が大きくなるため、自車両2の高速走行時には、到達時間Tc(tn) が長くなり、予測区間N(tn)の数が多くなる。この結果、走行制御システム1は長時間での加速度の予測を行うため、円滑な走行制御が行われる。また、速度が低速になるにつれ、安全距離dr(tn)が短くなるため、自車両2の低速走行時には、到達時間Tc(tn)が短くなることで、予測区間N(tn)の数が少なくなるため、制御に要する計算量が少なくなる。この結果、車間距離d(tn)や速度によって可変的な制御が実現できる。
【0099】
また、評価関数J(tn)による一般化予測制御が、自車両2の速度vaと自車両2に作用する力uとの関係が線形的に表現された線形モデルを用いて実行されることから、計算負荷が低減される。これにより、迅速な走行制御が実現できる。
【0100】
なお、本発明は、上記の実施形態に限られず、種々改変することができる。
【0101】
例えば、走行制御システム1は、上述の自動車に限られず、電車やモノレールなどの車両や、ロボット、電動式車椅子、倉庫やFMS(Flexible Manufacturing System)における自動搬送装置等の移動体にも、走行制御のために搭載され得る。
【0102】
また、本実施形態の走行制御システム1における各種処理を行う手段は、専用のハードウェア回路、またはプログラムされたコンピュータのいずれによっても実現することが可能である。ここで、上記プログラムは、例えばフレキシブルディスクやCD−ROM等のコンピュータ読取可能な情報記録媒体によって提供されてもよい。この場合、コンピュータ読取可能な情報記録媒体に記録されたプログラムは、通常、ハードディスク等の記憶部20に転送されて記憶される。また、上記プログラムは、単独のアプリケーションソフトとして提供されてもよいし、装置の一機能としてその装置のソフトウェアに組み込まれてもよい。
【0103】
次に、走行制御システム1により行ったシミュレーションについて説明する。
【0104】
シミュレーションでは、以下に示す第1〜第3の走行パターンを設定し、これらパターンのそれぞれについて、先行車両3の速度変化等に対する自車両2の応答性の確認を行った。表1に、シミュレーションで用いたパラメータを記す。
【表1】
【0105】
図7は、第1の走行パターンのシミュレーションにおける自車速度va(tn)・先行車速度vb (tn)と時間との関係を示し、図8は、第1の走行パターンのシミュレーションにおける車間距離d(tn)・安全距離dr(tn)と時間との関係を示している。
【0106】
第1の走行パターンは、先行車両3が高速走行を行った後に、ゆっくりと減速することを想定した走行パターンである。この走行パターンでは、図7に示すように、先行車両3は、90km/hで15秒間走行し、その後の10秒間(15〜25秒)において、0.8m/s2の加速度で60km/hまで減速し、さらにその後、60km/hを維持して走行するように設定されている。また、先行車両3が90km/hで走行する15秒間では、自車両2も、90km/hで走行している。そして、第1の走行パターンのシミュレーションでは、15秒経過後の自車両2の応答性の確認を行った。
【0107】
図7に示すように、先行車両3が15秒経過時点から減速を開始することに応じて、自車両2も減速を開始しており、先行車両3が60km/hまで減速した際には、自車両2の速度va(tn)も60km/hになり、先行車両3の速度vb(tn)と一致していた。
【0108】
また、自車両2と先行車両3とが減速する25秒間(15〜40秒)では、先行車両3の一定な速度変化に比して、自車両2の速度変化は、運転者に対して減速による違和感を与えない滑らかなものとなっていた。
【0109】
また、図8に示すように、自車両2と先行車両3とが減速する25秒間(15〜40秒)や、その後の10秒間では、自車両2は、加速度を制御することで、先行車両3との間の車間距離d(tn)を、安全距離dr(tn)に維持する走行を行っていた。
【0110】
図9は、第2の走行パターンのシミュレーションにおける自車速度va(tn)・先行車速度vb (tn)と時間との関係を示し、図10は、第2の走行パターンのシミュレーションにおける車間距離d(tn)・安全距離dr(tn)と時間との関係を示している。
【0111】
第2の走行パターンは、自車両2が走行中に先行車両3が停止することを想定した走行パターンである。この走行パターンでは、図9に示すように、先行車両3は、90km/hで15秒間(0〜15秒)走行し、その後の12秒間(15〜27秒)で2.08m/s2の減速度により停止に至るように設定されている。また、先行車両3が90km/hで走行する15秒間(0〜15秒)では、自車両2も、90km/hで走行している。そして、第2の走行パターンのシミュレーションでは、15秒経過後の自車両2の応答性の確認を行った。
【0112】
図9に示すように、先行車両3が15秒経過時点から減速を開始することに応じて、自車両2も減速を開始した。そして、先行車両3が減速する12秒間(15〜27秒)では、自車両2は、相対速度の増加に伴い制動力を徐々に大きくして、先行車両3の速度変化に対して応答性の速い減速を行っていた。
【0113】
また図10に示すように、先行車両3が減速する12秒間(15〜27秒)では、自車両2は、安全距離dr(tn)を保ち追突回避をしていた。そして、先行車両3が停止した後(27秒以降)では、自車両2と先行車両3との間の車間距離d(tn)が、停止時車間距離dminの2m(表1参照)に維持されていた。
【0114】
図11は、第3の走行パターンのシミュレーションにおける自車速度va(tn)・先行車速度vb (tn)と時間との関係を示し、図12は、第3の走行パターンのシミュレーションにおける車間距離d(tn)・安全距離dr(tn)と時間との関係を示している。
【0115】
第3の走行パターンは、自車両2と先行車両3との間に他の車両が割り込んでくる走行パターンである。この走行パターンでは、自車両2と先行車両3とは、当初、100km/hで走行するように設定されており、15秒経過した時点で、他の車両が自車両2の60m前方に速度90km/hで割り込み、その後、他の車両が速度100km/hまで加速するように設定されている。そして、第3の走行パターンのシミュレーションでは、他の車両が割り込んだ後(15秒〜)の自車両2の応答性の確認を行った。
【0116】
なお、図11において、15秒経過前の破線は、先行車両3の速度vb(tn)を示し、15秒以降の破線は、他の車両の速度vb(tn)を示している。また、図12において、15秒経過前の実線は、自車両2と先行車両3との間の車間距離d(tn)を示し、15秒以降の実線は、自車両2と他の車両との間の車間距離d(tn)を示している。
【0117】
図11に示すように、自車両2と先行車両3との間に他の車両が割り込んだ後では(15秒以降)、自車両2は、強い制動力をかけ、減速を行っていた。これは、自車両2は、直前を走行する車両が他の車両に変わることに応じて、他の車両の速度vb(tn)等を計測して、この計測値に基づき算出された安全距離dr(tn)に、他の車両との間の車間距離d(tn)を近づけようとしたためである(図12の15〜18秒参照)。
【0118】
そして図12に示すように、車間距離d(tn)が、安全距離dr(tn)に一致した後では(18秒以降)、自車両2は、安全距離dr(tn)を維持する追従走行を行っていた。
【0119】
また、車間距離d(tn)が、安全距離dr(tn)に一致した後では(18秒以降)、図11に示すように、自車両2の速度変化は、他の車両の速度変化に比して、運転者に対して減速による違和感を与えない滑らかなものとなっていた。
【0120】
なお、他の車両の割り込みが生じたときから、車間距離d(tn)が安全距離dr(tn)に一致するまでの間では(15〜18秒)、図11に示すように、自車両2は、車間距離d(tn)を安全距離dr(tn)に近づけるべく、急激な速度変化を生じさせていた。しかしながら、本発明によれば、式5の重み付け係数λjを大きくしたり、式4の重み付け係数γを小さくすることで、上述のような割り込みに伴う速度変化を小さく抑えて、乗り心地を向上することができる。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明は、自動車、電車、モノレール、ロボット、電動式車椅子、倉庫やFMSにおける自動搬送装置の走行制御に適用できる。
【符号の説明】
【0122】
1 走行制御システム
2 自車両
3 先行車両
10 自車両計測用センサ
11 先行車両計測用センサ
12 制御装置
20 記憶部
21 制御部
22 インターフェイス
30 スロットルアクチュエータ
31 ブレーキアクチュエータ
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行制御システム、制御プログラム、及びこれを記録した記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、交通事故や交通渋滞、さらには自動車の排ガス等によって引き起こされる環境問題を解消するために、ITS(Intelligent Transport Systems)技術についての研究開発が行われており、この一環として、交通事故の防止、燃費の向上、ドライバの運転負荷軽減等を目的として、先行車両に追従する際の走行を制御するACC(Adaptive Cruise Control)システムが提案されている。現在、ACCシステムは、一部の車両で実用化されており、将来の標準装備となるシステムとして注目されている。
【0003】
このACCシステムの例として、特許文献1には、先行車両との車間距離に基づき自車速を制御する制御装置が開示されている。この制御装置は、現時刻の自車速から算出された安全車間距離内に先行車両が存在するか否かを検出するとともに、先行車両があるときには、これとの車間距離が安全車間距離となるように自車速を制御し、先行車両がないときには、自車速が設定車速となるように制御する。
【0004】
また、先行車両との車間距離や、自車両の車速・加速度を用いて、自車両の目標車速を算出し、その目標車速と自車両の車速との偏差を小さくして、両者を一致させるフィードバック制御を行う技術が提案されている。
【0005】
このフィードバック制御を行う装置の例として、特許文献2には、先行車両との車間距離や自車両の車速・加速度等のデータを、一定の時間間隔で記憶する制御装置が開示されている。この制御装置では、現時刻以前の所定時間内に記憶されたデータがニューラルネットワークに入力されると共に、ニューラルネットワークの出力値に基づき、車速を目標速度に近づける上で必要なスロットル開度やブレーキ操作量等が設定される。
【0006】
また、特許文献3には、現時刻の車速や加速度を用いて、現時刻直後の一つの時間帯における車速を予測するとともに、この車速を用いて、前記時間帯の経過後に先行車両との間に確保すべき安全車間距離を算出する制御装置が開示されている。この制御装置では、上記の安全車間距離とは別に、前記時間帯の経過後の車間距離が現時刻の車間距離に基づき予測され、この車間距離と、安全車間距離との差に基づき、前記時間帯における目標速度が算出される。
【0007】
また、特許文献4には、上述のフィードバック制御にフィードフォワード制御を併用した制御装置が開示されている。この制御装置におけるフィードフォワード制御とは、前回サンプリング時の目標車速と今回サンプリング時の目標車速とから今回の目標車速の変化率を算出し、算出した目標車速の変化率が次回サンプリング時も継続するものと推定して、所定時間経過後の目標車速を設定するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭60−215432号公報
【特許文献2】特開平4−71933号公報
【特許文献3】特開平5−104977号公報
【特許文献4】特開平8−40231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1では、先行車両が自車両の車線から隣接車線に車線変更等を行った際には、安全車間距離による車速制御から、設定車速による車速制御に切り換えられる。このため、急激な速度変化が生じて、運転者に乗り心地の悪さを感じさせる虞れがある。
【0010】
また、特許文献2では、ニューラルネットワークに入力されるデータの種類は、自車両の車速・加速度や車間距離など様々あり、これらの各データについて、現時刻以前の所定時間内に記憶されたデータが入力される。これにより、ニューラルネットワークで処理されるデータ量は莫大なものとなるため、制御系に遅れが生じて、迅速に車両の走行を制御できなくなる虞れがある。
【0011】
また特許文献3では、現時刻直後の一つの時間帯における目標速度を予測する一段予測により走行制御を行っていることで、応答の時間遅れやオーバーシュートが生じ得る。また、現時刻の車速や加速度が維持されるという条件下で、前記時間帯の経過時における車速を予測していることから、前記時間帯内に車両が車速や加速度を変化させていた場合には、予測される車速と、実際の車速との間に、大きな隔たりが生じ得る。以上の点から、充分な制御性能が得られない虞れがある。
【0012】
また、特許文献4では、目標車速の変化率には推定誤差が考慮されていないため、目標車速の予測を高精度で行うには限界がある。
【0013】
本発明は、こうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、走行操作が行われる移動体に搭載される走行制御システム、走行制御システムを制御するための制御プログラム、及び制御プログラムが記録された記録媒体であって、移動体の前方を走行する先行物体への追突を回避可能である安全な走行制御と、移動体に急激な速度変化が生じることのない乗り心地の良好な走行制御とを両立して実現できるとともに、長期的な加速度予測が可能になることで充分な制御性能が得られ、さらに、加速度の予測対象時間を、移動体と先行物体との間の距離や移動体の速度に応じて可変的に設定することで、制御性能の精度の向上と、制御に要する計算量の低減とを両立して実現できる走行制御システム、制御プログラム、及び記録媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1の観点に係る走行制御システムは、走行操作が行われる移動体に搭載される走行制御システムであって、現時刻における前記移動体と該移動体の前方を走行する先行物体との間の距離を、現時刻の前記移動体の速度で除することで、前記移動体が現時刻における前記先行物体の位置に到達するまでの到達時間を算出する到達時間算出手段と、前記到達時間を所定の時間間隔で分割することにより、加速度の予測対象時間となる複数の予測区間を設定する予測区間設定手段と、前記到達時間の経過時点において、前記移動体の速度を前記先行物体の速度に近づけ、且つ、前記移動体と前記先行物体との間の距離を、現時刻の前記移動体の速度に基づき算出される空走距離と制動距離との合計よりも大きな安全距離に近づけ得る前記移動体の目標加速度を、各前記予測区間毎に算出する目標加速度算出手段と、各前記予測区間における前記移動体の予測加速度と、連続する2つの前記予測区間の間における前記移動体への操作変化量とが入力されることにより、各前記予測区間における目標加速度と予測加速度との差分に関する累計値と、各操作変化量に関する累計値とを、加算して出力する評価関数を生成する評価関数生成手段と、前記評価関数の出力値が最小となる入力値を求める一般化予測制御に基づき、各前記予測区間における前記移動体の加速度を取得して、該取得値に現時刻以降の前記移動体の加速度を制御する加速度制御手段とを有することを特徴とする。
【0015】
また好ましくは、各前記予測区間における目標加速度は、前記現時刻における前記移動体と前記先行物体との間の距離と前記安全距離との差分を前記到達時間で除した値に所定の重み付け係数を乗じた値に、現時刻の前記移動体と前記先行物体との相対速度を加算するとともに、該加算した値を、前記到達時間で除することで算出されることを特徴とする。
【0016】
また好ましくは、各前記予測区間における目標加速度と予測加速度との差分に関する累計値は、各前記予測区間における前記目標加速度と予測加速度との差分の2乗値を合計した値であり、各操作変化量に関する累計値は、連続する2つの前記予測区間における前記入力値の操作変化量の2乗値に、所定の重み付け係数を乗じた値を合計した値であることを特徴とする。
【0017】
また好ましくは、前記移動体に作用する力と前記移動体の加速度との関係を示す力学モデルを作成する力学モデル作成手段をさらに有し、前記加速度制御手段は、前記力学モデルを用いて各前記予測区間における前記移動体の加速度を取得することを特徴とする。
【0018】
また好ましくは、前記力学モデル作成手段により作成された前記力学モデルに基づき、前記移動体の速度と前記移動体に作用する力との関係が線形的に表現された線形モデルを作成する線形モデル作成手段をさらに有し、前記加速度制御手段は、前記線形モデルを用いて、前記評価関数の出力値を最小とさせる入力値に対応した前記移動体に作用する力を算出するとともに、該移動体に作用する力を前記力学モデルに入力することで、各前記予測区間における前記移動体の加速度を取得することを特徴とする。
【0019】
本発明の第2の観点に係る制御プログラムは、走行操作が行われる移動体に搭載される走行制御システムを制御するための制御プログラムであって、現時刻における前記移動体と該移動体の前方を走行する先行物体との間の距離を、現時刻の前記移動体の速度で除することで、前記移動体が現時刻における前記先行物体の位置に到達するまでの到達時間を算出する到達時間算出手順と、前記到達時間を所定の時間間隔で分割することにより、加速度の予測対象時間となる複数の予測区間を設定する予測区間設定手順と、前記到達時間の経過時点において、前記移動体の速度を前記先行物体の速度に近づけ、且つ、前記移動体と前記先行物体との間の距離を、現時刻の前記移動体の速度に基づき算出される空走距離と制動距離との合計よりも大きな安全距離に近づけ得る前記移動体の目標加速度を、各前記予測区間毎に算出する目標加速度算出手順と、各前記予測区間における前記移動体の予測加速度と、連続する2つの前記予測区間の間における前記移動体への操作変化量とが入力されることにより、各前記予測区間における目標加速度と予測加速度との差分に関する累計値と、各操作変化量に関する累計値とを、加算して出力する評価関数を生成する評価関数生成手順と、前記評価関数の出力値が最小となる入力値を求める一般化予測制御に基づき、各前記予測区間における前記移動体の加速度を取得して、該取得値に現時刻以降の前記移動体の加速度を制御する加速度制御手順とを前記走行制御システムに実行させることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の第3の観点に係る記録媒体は、前記制御プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、評価関数による一般化予測制御に基づき取得される加速度に、現時刻以降の移動体の加速度が制御されることで、移動体の速度を、先行物体の速度に近づけると共に、移動体と先行物体との間の距離を、現時刻の速度に基づき算出される空走距離と制動距離との合計よりも大きく確保することが可能となる。これにより、先行物体への追突を回避可能な安全な走行制御が実現できる。また、上述の加速度制御によれば、各予測区間に対応する現時刻以降の各時間帯では、前記移動体への操作変化量が小さくなることから、前記移動体への操作量をほぼ一定にすることができる。これにより、移動体に急激な速度変化が生じることのない乗り心地の良好な走行制御が実現できる。
【0022】
また、評価関数による一般化予測制御では、加速度予測が、現時刻以降の複数の予測区間で行われる多段予測となるため、長期的な加速度予測が可能となる。これにより、制御性能が向上する。
【0023】
また、移動体と先行物体との間の距離を、現時刻の移動体の速度に基づき算出された安全距離に近づける走行制御が行われることで、移動体が高速走行をしている時には、先行物体との間の距離が長くなり、また、移動体が低速走行をしている時には、先行物体との間の距離が短くなる。これにより、移動体の速度に応じて、移動体と先行物体との間の距離が調整される。
【0024】
また、移動体が現時刻における先行物体の位置に到達するまでの到達時間が算出されて、これを時間間隔で分割することにより、加速度の予測対象時間である複数の予測区間が設定される。これにより、加速度の予測対象時間となる予測区間は、到達時間に応じて可変的に設定されるため、予測区間を一定にする場合に比して、制御性能の精度が向上する。また、移動体の速度が高速になるにつれ、安全距離が大きくなる。これにより、移動体の高速走行時には、到達時間が長くなり、予測区間の数が大きくなる。この結果、長時間での加速度の予測を行うため、円滑な走行制御が行われる。また、移動体の速度が低速になるにつれ、安全距離が短くなる。これにより、移動体の低速走行時には、到達時間が短くなることで、予測区間の数が少なくなるため、制御に要する計算量が少なくなる。この結果、到達距離や移動体の速度に応じた可変的な制御が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態における走行制御システムの構成を示すブロック図である。
【図2】走行制御システムが搭載される自車両と、自車両の前方を走行する先行車両との位置関係を示す概略図である。
【図3】走行制御システムの処理を示すフローチャートである。
【図4】走行制御システムによる加速度予測対象時間を示す概略図である。
【図5】現時刻における自車両の速度と、安全距離との関係を示す図である。
【図6】図3のステップS104の処理の詳細を示すフローチャートである。
【図7】第1の走行パターンのシミュレーションにおける自車・先行車速度と時間との関係を示す図である。
【図8】第1の走行パターンのシミュレーションにおける車間距離・安全距離と時間との関係を示す図である。
【図9】第2の走行パターンのシミュレーションにおける自車・先行車速度と時間との関係を示す図である。
【図10】第2の走行パターンのシミュレーションにおける車間距離・安全距離と時間との関係を示す図である。
【図11】第3の走行パターンのシミュレーションにおける自車・先行車速度と時間との関係を示す図である。
【図12】第3の走行パターンのシミュレーションにおける車間距離・安全距離と時間との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、この発明の実施の形態に係る走行制御システム1について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付し、その説明は繰り返さない。走行制御システム1は、走行操作が行われる移動体に搭載されるものであって、以下では、走行制御システム1が、前記移動体としての自動車に搭載される場合を例に説明する。
【0027】
図1は、走行制御システム1の構成を示し、図2は、走行制御システム1が搭載される自動車である自車両2と、自車両2の前方を走行する自動車である先行車両3との位置関係を示している。
【0028】
図1に示すように、走行制御システム1は、自車両計測用センサ10と、先行車両計測用センサ11と、制御装置12とを備えている。
【0029】
自車両計測用センサ10は、例えば、自車両2のドライブシャフトの回転を光学的に検知するセンサから構成されており、現時刻tnの自車両2の速度va(tn)を計測する。
【0030】
先行車両計測用センサ11は、例えば、ミリ波レーダーやレーザレーダーから構成されており、現時刻tnの自車両2と先行車両3との間の車間距離d(tn)や、現時刻tnの先行車両3の速度vb(tn)を計測する。
【0031】
制御装置12は、記憶部20と、制御部21と、インターフェイス22とを有している。
【0032】
記憶部20は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、ハードディスク装置などから構成され、プログラムや入力データ等を記憶すると共に、制御部21のワークエリアとして機能する。
【0033】
制御部21は、CPU(Central Processing Unit)から構成され、記憶部20に記憶されたプログラムを実行する。
【0034】
インターフェイス22は、自車両計測用センサ10及び先行車両計測用センサ11や、自車両2に設置されるスロットルアクチュエータ30やブレーキアクチュエータ31に接続される。
【0035】
以上の構成を有する制御装置12は、インターフェイス22を通じて、自車両計測用センサ10や先行車両計測用センサ11からのデータが入力され、また、制御部21の演算結果を、スロットルアクチュエータ30やブレーキアクチュエータ31に出力することで、演算結果に従った走行制御を可能とする。
【0036】
図3は、走行制御システム1の処理を示すフローチャートであり、図4は、走行制御システム1による加速度予測対象時間を示している。図2〜4を用いて、走行制御システム1で実行される処理について説明する。なお、図3のフローチャートにより示されるアルゴリズムは、制御装置12の記憶部20(図1参照)にプログラムとして記憶されており、例えば、車室内に設けられるスイッチをユーザが操作することによって、走行制御システム1の電源がONされることに応じて、制御部21(図1参照)により実行される。
【0037】
まず、自車両2に作用する力uと自車両2の加速度dva/dtとの関係を示す式1の自車両2の力学モデルが作成される(ステップS101)。
【数1】
【0038】
自車両2に作用する力uは、入力値であって、自車両2の加速に要する力mdva/dtと、自車両2の速度vaの2乗値va2に比例する空気抵抗μlAva2と、自車両2の重量W(自車両2の質量mに重力加速度を乗じた値)に比例する転がり抵抗μrWとを足し合わせた値に一致する。また、自車両2の質量m、空気抵抗係数μl、前面投影面積A、転がり抵抗係数μr、自車両2の重量Wは、予め制御装置12の記憶部20(図1参照)に記憶される。
【0039】
次に、自車両計測用センサ10や先行車両計測用センサ11から、現時刻tnの自車両2の速度va(tn)、現時刻tnの自車両2と先行車両3との間の車間距離d(tn)、現時刻tnの先行車両3の速度vb(tn)を取得するとともに、自車両2及び先行車両3の速度va(tn), vb (tn)から、自車両2と先行車両3との相対速度vab(tn)を取得する(ステップS102)。
【0040】
次に、自車両2が現時刻tnにおける先行車両3の位置に到達するまでの到達時間Tc(tn)(図2参照)が算出される(ステップS103)。このステップS103では、ステップS102で取得された車間距離d(tn)を、現時刻tnの自車両2の速度va(tn)で除することで、到達時間Tc(tn)が算出される。
【0041】
次に、ステップS101で作成された力学モデルを線形モデルに変換する(ステップS104)。この処理は、計算負荷を低減するために行われるものであり、詳しくは後述する。
【0042】
次に、ステップS103で算出された到達時間Tc(tn)を、所定の時間間隔Tで分割することにより、複数の予測区間N(tn)(図4参照)が設定される(ステップS105)。各予測区間N(tn)は、それぞれ加速度の予測対象時間となるものであって、現時刻tnにおける自車両2の速度va(tn)と、ステップS102で得られる車間距離d(tn)と、時間間隔Tとを用いて、式2により算出される。
【数2】
【0043】
なお、式2において、d(tn)/va(tn)は、ステップS103で算出される到達時間Tc(tn)に相当する。また、時間間隔Tについては、予め制御装置12の記憶部20(図1参照)に記憶される。
【0044】
次に、現時刻tnの自車両2の速度va(tn)を用いて、自車両2と先行車両3との間に確保すべき安全距離dr(tn) (図2参照)が、式3により算出される(ステップS106)。
【数3】
【0045】
安全距離dr(tn)は、現時刻tnの速度va(tn)に基づき算出される空走距離va(tn) trと制動距離va(tn)2 /2μgとの合計値よりも大きな値である。具体的には、安全距離dr(tn)は、空走距離va(tn) trと、制動距離va(tn)2 /2μgと、停止時車間距離dminとを足し合わせた値である。この安全距離dr(tn)が確保されている場合では、自車両2にブレーキがかけられてから、自車両2が空走距離va(tn)trと制動距離va(tn)2 /2μgとを合計した距離を走行して停止した際に、自車両2は、少なくとも停止時車間距離dminほど先行車両3から離れるようになる。なお、停止時車間距離dminは、停止時における望ましい車間距離であり、パラメータとして事前に設定する。また、式3で用いられる、停止時車間距離dmin、静止摩擦係数μ、重力加速度gは、予め制御装置12の記憶部20(図1参照)に記憶される。
【0046】
図5は、現時刻tnにおける自車両2の速度va(tn)と、安全距離dr(tn)との関係を示している。図5に示すように、安全距離dr(tn)は、速度va(tn)が速くなるにつれて、長く算出される傾向にある。また、路面が濡れている時(静止摩擦係数μ=0.5)では、路面が乾燥している時(静止摩擦係数μ=0.7)に比して、静止摩擦係数μが小さいことから、安全距離dr(tn)は長く算出される傾向にある。
【0047】
そして図3のステップS106の実行後では、自車両2の目標加速度w(tn+j)(図4参照)が各予測区間N(tn)毎に算出される(ステップS107)。目標加速度w(tn+j)は、この値に各予測区間N(tn)の加速度が制御されることで、到達時間Tc(tn)の経過時点において、自車両2の速度vaを先行車両3の速度vbに近づけ、且つ、自車両2と先行車両3との間の車間距離dを、安全距離dr(tn)に近づけ得るものであり、式4により、算出される。
【数4】
【0048】
式4によれば、現時刻tnの車間距離d(tn)と安全距離dr(tn)との差分を、到達時間Tc(tn)(式4ではN(tn)Tに相当)で除した値に所定の重み付け係数γを乗じた値に、ステップS102で取得された現時刻tnの相対速度vab(tn)を加算するとともに、該加算した値を、到達時間Tc(tn)(式4ではN(tn)Tに相当)で除することによって、目標加速度w(tn+j)が算出される。なお、重み付け係数γについては、予め制御装置12の記憶部20に記憶される。
【0049】
次に、式5に示す評価関数J(tn)が生成される(ステップS108)。
【数5】
【0050】
評価関数J(tn)は、各予測区間N(tn)における目標加速度w(tn+j)と自車両2の予測加速度yp(tn+j) (図4参照)の偏差や、連続する2つの予測区間N(tn)の間で生じるアクセルやブレーキの操作変化量Δu(tn+j-1) (図4参照)を考慮したものである。
【0051】
予測加速度yp(tn+j)は、現時刻tnからj時刻(時間間隔Tを単位とする時刻)先における自車両2の予測加速度であり、各予測区間N(tn)内では、一定値として与えられる。例えば、図4に示すyp(tn+2)は、予測区間2における予測加速度である。
【0052】
また、操作変化量Δu(tn+j-1)は、現時刻tnのj-2時刻先から、現時刻tnのj-1時刻先までの間に生じる操作変化量であり、後述の一般化予測制御から算出され、Δu(tn+j-1) = u(tn+j-1) - u(tn+j-2)である。例えば、図4に示すΔu(tn+2)は、区間2から区間3へと時刻が移る際に生じる操作変化量であり、Δu(tn+2) = u(tn+2) - u(tn+1)である。
【0053】
ここで、操作変化量Δu(tn+j-1)を算出する一般化予測制御の概要を説明する。
【0054】
まず、一般化予測制御のモデルを式6で表す。式6において、q-1は1時刻遅れの演算子を表している。また、式6におけるA(q-1)、B(q-1)は、式7で表される。
【数6】
【数7】
【0055】
そして、式8の関係を満たすEj (q-1),Fj (q-1)を求める。なお、式8において、Δ=1-q-1である。
【数8】
【0056】
ここで、Ej (q-1)、Fj (q-1)は、式8を数値的に解くことで求められるが、jが変わるたびに計算する必要がある。そこで、計算量削減のため、Diophantine方程式を再帰的に用いる。具体的には、式9に示すように、B(q-1) Ej (q-1)を、Gj (q-1)とおいて、式10に示す計算を行う。
【数9】
【数10】
【0057】
次に、式11により、自由応答の項hk+1を表す。なお、式11に示す各要素hk+jは、式12で求められる。
【数11】
【数12】
【0058】
次に、ステップ応答である行列Gの要素を、式13により示す。
【数13】
【0059】
そして、式12,式13を適用した式14により、評価関数J(tn)の出力値を最小とする操作変化量(式14のΔu(k)に相当)が算出される。
【数14】
【0060】
そして、式5の評価関数J(tn)では、各予測区間N(tn)における目標加速度 w(tn+j)と予測加速度yp(tn+j)との差分に関する累計値(第1項の算出値)と、操作変化量Δu(tn+j-1)に関する累計値(第2項の算出値)とが、加算して出力される。
【0061】
より詳細には、第1項の算出値は、各予測区間N(tn)における目標加速度w(tn+j)と予測加速度yp(tn+j)との差分の2乗値を合計した値であり、第2項の算出値は、連続する2つの予測区間N(tn)における操作変化量Δu(tn+j-1)の2乗値に、所定の重み付け係数λjを乗じた値を合計した値であり、これら第1,2項の算出値を足し合わせた値が出力される。なお、重み付け係数λjは、予め制御装置12の記憶部20に記憶される。
【0062】
この評価関数J(tn)は、目標加速度 w(tn+j)と予測加速度yp(tn+j)との差や、操作変化量Δu(tn+j-1)が小さい場合には、第1,2項の算出値が小さくなることで、出力値も小さくなる特徴を有している。
【0063】
また、評価関数J(tn)は、重み付け係数λjの値を変更することで、出力値に対して支配的になる値が変更される特徴を有している。つまり、重み付け係数λjが小さい時には、目標加速度 w(tn+j)と予測加速度yp(tn+j)との差分に関する累計値(第1項の算出値)が支配的となり、重み付け係数λjが大きいときには、操作変化量Δu(tn+j-1)に関する累計値(第2項の算出値)が支配的になる。
【0064】
そして図3のステップS108の実行後では、評価関数J(tn)の出力値が最小となる入力値を求める一般化予測制御に基づき、各予測区間N(tn)における自車両2の加速度a(tn+j)(図4参照)が取得される(ステップS109)。
【0065】
なお、ステップS109は、ステップS104で作成された線形モデルが用いられて実行され、この結果、目標加速度 w(tn+j)との差が小さく、且つ、操作変化量Δu(tn+j-1)を小さくさせる加速度a(tn+j)が、各予測区間N(tn)毎に取得される。
【0066】
なお、評価関数J(tn)の重み付け係数λj(式5参照)を小さく設定した場合には、目標加速度w(tn+j)に近づける傾向の大きな加速度a(tn+j)が取得され、また、評価関数J(tn)の重み付け係数λjを大きく設定した場合には、操作変化量Δu(tn+j-1)を小さくする傾向の加速度a(tn+j)が取得される。
【0067】
そして図3のステップS109の実行後では、ステップS109で取得された加速度a(tn+j)が、インターフェイス22(図1参照)を通じて、スロットルアクチュエータ30やブレーキアクチュエータ31に出力される(ステップS110)。この結果、自車両2は、現時刻tn以降の加速度が、ステップS109の取得値a(tn+j)に制御される。
【0068】
この制御によれば、ステップS109の取得値a(tn+j)と目標加速度 w(tn+j)との差が小さいことから、到達時間Tc(tn)が経過した時では、自車両2の速度vaは、先行車両3の速度vbに近づくと共に、自車両2と先行車両3との間の車間距離dが、ステップS106で算出された安全距離dr(tn+1)に近づくことになる。また、取得値a(tn+j)が操作変化量Δu(tn+j-1)を小さくする加速度であることから、到達時間Tc(tn)が経過するまでの間では、アクセルやブレーキの操作量は、ほぼ一定となる。
【0069】
そして、ステップS110が実行された後では、ステップS102に復帰することで、再びステップS102〜S110が実行される。この処理は、時刻tn以降の時刻tn+1(例えば時刻tnから時間T(図4参照)が経過した時刻)が現時刻になるときに行われるものであって、時刻tn+1において、自車両計測用センサ10や先行車両計測用センサ11により計測されるデータが使用される。
【0070】
具体的には、ステップS102では、時刻tn+1の自車両2・先行車両3の速度va(tn+1), vb(tn+1)、時刻tn+1の自車両2と先行車両3との間の車間距離d(tn+1)、速度va(tn+1), vb (tn+1)から時刻tn+1の自車両2と先行車両3との相対速度vab(tn+1)が取得される。そしてステップS103では、自車両2が時刻tn+1における先行車両3の位置に到達するまでの到達時間Tc(tn+1)が算出され、ステップS105では、到達時間Tc(tn+1)を、所定の時間間隔Tで分割することで、複数の予測区間N(tn+1)が設定される。そして、ステップS107では、時刻tn+1の自車両2の速度va(tn+1) 等を用いて、自車両2の目標加速度w(tn+1+j)が各予測区間N(tn+1)毎に算出される。さらに、ステップS108では、時刻tn+1からj時間先における自車両2の予測加速度yp(tn+1+j)と、現時刻tn+1のj-2時間先から、時刻tn+1のj-1時間先までの間に生じる操作変化量Δu(tn+j-1)とを入力値とする評価関数J(tn+1)が生成され、ステップS109では、評価関数J(tn+1)の出力値が最小となる入力値を求める一般化予測制御に基づき、各予測区間N(tn+1)における自車両2の加速度a(tn+1+j)が取得される。そして、ステップS110により、時刻tn+1以降の自車両2の加速度が、ステップS109の取得値a(tn+1+j)に制御される。
【0071】
そしてステップS102〜S110の処理は、ユーザが車室内のスイッチを操作することによって、走行制御システム1の電源がOFFされるまで繰り返される。
【0072】
次に、ステップS104,S109の詳細について説明する。
【0073】
ステップS101で作成される力学モデル(式1参照)は、自車両2の速度vaの2乗値va2を含むことから、vaについて非線形の方程式になっており、評価関数J(tn)を用いた一般化予測制御で解析的に解を求めるためには、線形化する必要がある。
【0074】
このため、ステップS104では、ステップS101で作成された力学モデルに基づき、自車両2の速度vaと自車両2に作用する力uとの関係が線形的に表現された線形モデルが作成される。そして、ステップS109では、ステップS104で作成された線形モデルが用いられて、評価関数J(tn)の出力値を最小とさせる入力値(予測加速度yp(tn+j)や操作変化量Δu(tn+j-1))に対応した作用力uが求められる。
【0075】
具体的には、ステップS104では、図6に示すように、まず、転がり抵抗μrW(式1参照)が支配的になる低速時の力学モデルと、空気抵抗μlAva2(式1参照)が支配的となる高速時の力学モデルとが作成される(ステップS201)。この処理は、式1の力学モデルに基づき実行される。
【0076】
式15は、低速走行時の力学モデルを示している。低速時では、va≦√μrW/μlA(式1参照)の関係があることで、式15は、式1から、空気抵抗μlAva2の項が削除されたモデルとなっている。
【数15】
【0077】
また、式16は、高速走行時の力学モデルを示している。高速時では、va>√μrW/μlA(式1参照)の関係があることで、式1から、転がり抵抗μrWの項が削除されたモデルとなっている。
【数16】
【0078】
次に、ステップS201で作成された力学モデルが、連続時間の微分方程式に変形される(ステップS202)。
【0079】
まず、低速走行時の力学モデルについては、式15を変形することで、式17の微分方程式が導かれる。
【数17】
【0080】
また、高速走行時の力学モデルについては、式16のvaを1/zとおいて、式16を変形することで、式18の微分方程式が導かれる。
【数18】
【0081】
次に、低速走行時の微分方程式である式17と、高速走行時の微分方程式である式18とを、離散時間モデルに変換する(ステップS203)。このステップS203では、図3のステップS203で各予測区間N(tn)の設定に用いた時間間隔Tが、離散時間として与えられる。
【0082】
具体的には、低速走行時の式17について、現時刻速度vaをva1とおき、vaの微分値をva2とおき、作用力u rの微分値をu r2とおいて、式19の離散時間モデルに変換する。
【数19】
【0083】
また、高速走行時の式18について、現時刻速度vaの逆数zをz1とおき、z1の微分値をz2とおき、vaの微分値をva2とおき、作用力ulの微分値をul2とおいて、式20の離散時間モデルに変換する。
【数20】
【0084】
次に、ステップS203で得られた離散時間モデルから、評価関数J(tn)による一般化予測制御に用いる線形モデルが導出される(ステップS204)。この線形モデルは、自車両2の速度vaと自車両2に作用する力uとの関係が線形的に表現されたモデルとなっている。
【0085】
まず、低速走行時については、式19から、式21に示す線形モデルが導かれる。
【数21】
【0086】
式21では、現時刻速度の微分値va2(tn)が、直前の時刻tn -1の速度の微分値va2(tn -1)と、直前の時刻tn -1の作用力u rの微分値u r2に時間間隔Tを乗じた値とを足し合わせることで、算出されるようになっている。
【0087】
また、高速走行時については、式20から、式22に示す線形モデルが導かれる。
【数22】
【0088】
式22では、現時刻速度の逆数zの微分値z2(tn)が、直前時刻tn -1の速度の逆数の微分値z2(tn-1)と、直前の時刻tn -1の作用力u rの微分値u r2に時間間隔Tを乗じた値とを足し合わせることで、算出される。
【0089】
そして、図3のステップS109では、式21,22の線形モデルを用いて、評価関数J(tn)の出力値を最小とさせる入力値に対応した作用力u(tn)を算出する。
【0090】
具体的には、まず、低速走行時について、式21を変形することで、式23が導かれる。
【数23】
【0091】
また、高速走行時について、式22を変形することで、式24が導かれる。
【数24】
【0092】
そして、式25により、式23により算出される作用力ur(tn)と、式24により算出される作用力ul(tn)とを足し合わせることで、上述の作用力u(tn)が算出される。
【数25】
【0093】
そして、式25により算出される作用力u(tn)を、式1に入力することで、評価関数J(tn)の出力値を最小にする加速度a(tn+j)が得られる。
【0094】
本実施の形態によれば、評価関数J(tn)による一般化予測制御に基づき取得される自車両2の加速度a(tn+j)に、現時刻tn以降の加速度が制御されることで、自車両2の速度vaを、先行車両3の速度vbに近づけると共に、自車両2と先行車両3との間の車間距離dを、現時刻tnの自車両2の速度va(tn)に基づき算出される空走距離va(tn) trと制動距離とva(tn)2 /2μgとの合計値よりも大きな安全距離dr(tn+1)に近づけることが可能となる。これにより、先行車両3への追突を回避可能な安全な走行制御が実現できる。また、上述の加速度制御によれば、各予測区間N(tn)に対応する現時刻tn以降の各時間帯では、アクセルやブレーキの操作変化量Δu(tn+j-1)を小さくして、自車両2に対する操作量をほぼ一定にすることができる。これにより、自車両2に急激な速度変化が生じることのない乗り心地の良好な走行制御が実現できる。なお、本実施の形態では、自車両2に対する操作量をほぼ一定とする走行制御を実現するために、目標加速度w(tn+j)を各予測区間N(tn)内で一定値として与える必要があるため、目標加速度w(tn+j)は、式4により各予測区間N(tn)毎に算出するようにしている。
【0095】
また、評価関数J(tn)の重み付け係数λj(式5参照)を小さく設定した場合には、目標加速度に近づける傾向の大きな加速度a(tn+j)が出力される。このため、目標加速度w(tn+j)への即応性を高めることができる。評価関数J(tn)の重み付け係数λjを大きく設定した場合には、操作変化量Δu(tn+j-1)を小さくする傾向の加速度a(tn+j)が出力される。これにより、アクセルやブレーキの操作量がより一定になるため、運転者の乗り心地をさらに良好なものとし、エンジン出力などのエネルギーの損失を小さく抑えることができる。
【0096】
また、評価関数J(tn)による一般化予測制御では、加速度予測が、現時刻tn以降の複数の予測区間N(tn)で行われる多段予測となるため、長期的な加速度予測が可能となる。これにより、制御性能が向上する。
【0097】
また、式3に示したように、自車両2と先行車両3との間の車間距離d(tn)を、現時刻tnの自車両2の速度va(tn)に基づき算出された安全距離dr(tn)に近づける走行制御が行われることで、自車両2が高速走行をしている時には、先行車両3との間の車間距離dが長くなり、また、自車両2が低速走行をしている時には、先行車両3との間の車間距離dが短くなる。これにより、自車両2の速度va(tn)に応じた車間距離dの調整が実現できる。
【0098】
また、自車両2が現時刻tnにおける先行車両3の位置に到達するまでの到達時間Tc(tn)が算出されて、これを時間間隔Tで分割することにより、加速度の予測対象時間である複数の予測区間N(tn)が設定される。これにより、加速度の予測対象時間となる予測区間N(tn)は、到達時間Tc(tn)に応じて可変的に設定されるため、予測区間を一定にする場合に比して、制御性能の精度が向上する。また、速度が高速になるにつれ、安全距離dr(tn)が大きくなるため、自車両2の高速走行時には、到達時間Tc(tn) が長くなり、予測区間N(tn)の数が多くなる。この結果、走行制御システム1は長時間での加速度の予測を行うため、円滑な走行制御が行われる。また、速度が低速になるにつれ、安全距離dr(tn)が短くなるため、自車両2の低速走行時には、到達時間Tc(tn)が短くなることで、予測区間N(tn)の数が少なくなるため、制御に要する計算量が少なくなる。この結果、車間距離d(tn)や速度によって可変的な制御が実現できる。
【0099】
また、評価関数J(tn)による一般化予測制御が、自車両2の速度vaと自車両2に作用する力uとの関係が線形的に表現された線形モデルを用いて実行されることから、計算負荷が低減される。これにより、迅速な走行制御が実現できる。
【0100】
なお、本発明は、上記の実施形態に限られず、種々改変することができる。
【0101】
例えば、走行制御システム1は、上述の自動車に限られず、電車やモノレールなどの車両や、ロボット、電動式車椅子、倉庫やFMS(Flexible Manufacturing System)における自動搬送装置等の移動体にも、走行制御のために搭載され得る。
【0102】
また、本実施形態の走行制御システム1における各種処理を行う手段は、専用のハードウェア回路、またはプログラムされたコンピュータのいずれによっても実現することが可能である。ここで、上記プログラムは、例えばフレキシブルディスクやCD−ROM等のコンピュータ読取可能な情報記録媒体によって提供されてもよい。この場合、コンピュータ読取可能な情報記録媒体に記録されたプログラムは、通常、ハードディスク等の記憶部20に転送されて記憶される。また、上記プログラムは、単独のアプリケーションソフトとして提供されてもよいし、装置の一機能としてその装置のソフトウェアに組み込まれてもよい。
【0103】
次に、走行制御システム1により行ったシミュレーションについて説明する。
【0104】
シミュレーションでは、以下に示す第1〜第3の走行パターンを設定し、これらパターンのそれぞれについて、先行車両3の速度変化等に対する自車両2の応答性の確認を行った。表1に、シミュレーションで用いたパラメータを記す。
【表1】
【0105】
図7は、第1の走行パターンのシミュレーションにおける自車速度va(tn)・先行車速度vb (tn)と時間との関係を示し、図8は、第1の走行パターンのシミュレーションにおける車間距離d(tn)・安全距離dr(tn)と時間との関係を示している。
【0106】
第1の走行パターンは、先行車両3が高速走行を行った後に、ゆっくりと減速することを想定した走行パターンである。この走行パターンでは、図7に示すように、先行車両3は、90km/hで15秒間走行し、その後の10秒間(15〜25秒)において、0.8m/s2の加速度で60km/hまで減速し、さらにその後、60km/hを維持して走行するように設定されている。また、先行車両3が90km/hで走行する15秒間では、自車両2も、90km/hで走行している。そして、第1の走行パターンのシミュレーションでは、15秒経過後の自車両2の応答性の確認を行った。
【0107】
図7に示すように、先行車両3が15秒経過時点から減速を開始することに応じて、自車両2も減速を開始しており、先行車両3が60km/hまで減速した際には、自車両2の速度va(tn)も60km/hになり、先行車両3の速度vb(tn)と一致していた。
【0108】
また、自車両2と先行車両3とが減速する25秒間(15〜40秒)では、先行車両3の一定な速度変化に比して、自車両2の速度変化は、運転者に対して減速による違和感を与えない滑らかなものとなっていた。
【0109】
また、図8に示すように、自車両2と先行車両3とが減速する25秒間(15〜40秒)や、その後の10秒間では、自車両2は、加速度を制御することで、先行車両3との間の車間距離d(tn)を、安全距離dr(tn)に維持する走行を行っていた。
【0110】
図9は、第2の走行パターンのシミュレーションにおける自車速度va(tn)・先行車速度vb (tn)と時間との関係を示し、図10は、第2の走行パターンのシミュレーションにおける車間距離d(tn)・安全距離dr(tn)と時間との関係を示している。
【0111】
第2の走行パターンは、自車両2が走行中に先行車両3が停止することを想定した走行パターンである。この走行パターンでは、図9に示すように、先行車両3は、90km/hで15秒間(0〜15秒)走行し、その後の12秒間(15〜27秒)で2.08m/s2の減速度により停止に至るように設定されている。また、先行車両3が90km/hで走行する15秒間(0〜15秒)では、自車両2も、90km/hで走行している。そして、第2の走行パターンのシミュレーションでは、15秒経過後の自車両2の応答性の確認を行った。
【0112】
図9に示すように、先行車両3が15秒経過時点から減速を開始することに応じて、自車両2も減速を開始した。そして、先行車両3が減速する12秒間(15〜27秒)では、自車両2は、相対速度の増加に伴い制動力を徐々に大きくして、先行車両3の速度変化に対して応答性の速い減速を行っていた。
【0113】
また図10に示すように、先行車両3が減速する12秒間(15〜27秒)では、自車両2は、安全距離dr(tn)を保ち追突回避をしていた。そして、先行車両3が停止した後(27秒以降)では、自車両2と先行車両3との間の車間距離d(tn)が、停止時車間距離dminの2m(表1参照)に維持されていた。
【0114】
図11は、第3の走行パターンのシミュレーションにおける自車速度va(tn)・先行車速度vb (tn)と時間との関係を示し、図12は、第3の走行パターンのシミュレーションにおける車間距離d(tn)・安全距離dr(tn)と時間との関係を示している。
【0115】
第3の走行パターンは、自車両2と先行車両3との間に他の車両が割り込んでくる走行パターンである。この走行パターンでは、自車両2と先行車両3とは、当初、100km/hで走行するように設定されており、15秒経過した時点で、他の車両が自車両2の60m前方に速度90km/hで割り込み、その後、他の車両が速度100km/hまで加速するように設定されている。そして、第3の走行パターンのシミュレーションでは、他の車両が割り込んだ後(15秒〜)の自車両2の応答性の確認を行った。
【0116】
なお、図11において、15秒経過前の破線は、先行車両3の速度vb(tn)を示し、15秒以降の破線は、他の車両の速度vb(tn)を示している。また、図12において、15秒経過前の実線は、自車両2と先行車両3との間の車間距離d(tn)を示し、15秒以降の実線は、自車両2と他の車両との間の車間距離d(tn)を示している。
【0117】
図11に示すように、自車両2と先行車両3との間に他の車両が割り込んだ後では(15秒以降)、自車両2は、強い制動力をかけ、減速を行っていた。これは、自車両2は、直前を走行する車両が他の車両に変わることに応じて、他の車両の速度vb(tn)等を計測して、この計測値に基づき算出された安全距離dr(tn)に、他の車両との間の車間距離d(tn)を近づけようとしたためである(図12の15〜18秒参照)。
【0118】
そして図12に示すように、車間距離d(tn)が、安全距離dr(tn)に一致した後では(18秒以降)、自車両2は、安全距離dr(tn)を維持する追従走行を行っていた。
【0119】
また、車間距離d(tn)が、安全距離dr(tn)に一致した後では(18秒以降)、図11に示すように、自車両2の速度変化は、他の車両の速度変化に比して、運転者に対して減速による違和感を与えない滑らかなものとなっていた。
【0120】
なお、他の車両の割り込みが生じたときから、車間距離d(tn)が安全距離dr(tn)に一致するまでの間では(15〜18秒)、図11に示すように、自車両2は、車間距離d(tn)を安全距離dr(tn)に近づけるべく、急激な速度変化を生じさせていた。しかしながら、本発明によれば、式5の重み付け係数λjを大きくしたり、式4の重み付け係数γを小さくすることで、上述のような割り込みに伴う速度変化を小さく抑えて、乗り心地を向上することができる。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明は、自動車、電車、モノレール、ロボット、電動式車椅子、倉庫やFMSにおける自動搬送装置の走行制御に適用できる。
【符号の説明】
【0122】
1 走行制御システム
2 自車両
3 先行車両
10 自車両計測用センサ
11 先行車両計測用センサ
12 制御装置
20 記憶部
21 制御部
22 インターフェイス
30 スロットルアクチュエータ
31 ブレーキアクチュエータ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行操作が行われる移動体に搭載される走行制御システムであって、
現時刻における前記移動体と該移動体の前方を走行する先行物体との間の距離を、現時刻の前記移動体の速度で除することで、前記移動体が現時刻における前記先行物体の位置に到達するまでの到達時間を算出する到達時間算出手段と、
前記到達時間を所定の時間間隔で分割することにより、加速度の予測対象時間となる複数の予測区間を設定する予測区間設定手段と、
前記到達時間の経過時点において、前記移動体の速度を前記先行物体の速度に近づけ、且つ、前記移動体と前記先行物体との間の距離を、現時刻の前記移動体の速度に基づき算出される空走距離と制動距離との合計よりも大きな安全距離に近づけ得る前記移動体の目標加速度を、各前記予測区間毎に算出する目標加速度算出手段と、
各前記予測区間における前記移動体の予測加速度と、連続する2つの前記予測区間の間における前記移動体への操作変化量とが入力されることにより、各前記予測区間における目標加速度と予測加速度との差分に関する累計値と、各操作変化量に関する累計値とを、加算して出力する評価関数を生成する評価関数生成手段と、
前記評価関数の出力値が最小となる入力値を求める一般化予測制御に基づき、各前記予測区間における前記移動体の加速度を取得して、該取得値に現時刻以降の前記移動体の加速度を制御する加速度制御手段とを有することを特徴とする走行制御システム。
【請求項2】
各前記予測区間における目標加速度は、前記現時刻における前記移動体と前記先行物体との間の距離と前記安全距離との差分を前記到達時間で除した値に所定の重み付け係数を乗じた値に、現時刻の前記移動体と前記先行物体との相対速度を加算するとともに、該加算した値を、前記到達時間で除することで算出されることを特徴とする請求項1に記載の走行制御システム。
【請求項3】
各前記予測区間における目標加速度と予測加速度との差分に関する累計値は、各前記予測区間における前記目標加速度と予測加速度との差分の2乗値を合計した値であり、
各操作変化量に関する累計値は、連続する2つの前記予測区間における前記入力値の操作変化量の2乗値に、所定の重み付け係数を乗じた値を合計した値であることを特徴とする請求項1又は2に記載の走行制御システム。
【請求項4】
前記移動体に作用する力と前記移動体の加速度との関係を示す力学モデルを作成する力学モデル作成手段をさらに有し、
前記加速度制御手段は、前記力学モデルを用いて各前記予測区間における前記移動体の加速度を取得することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の走行制御システム。
【請求項5】
前記力学モデル作成手段により作成された前記力学モデルに基づき、前記移動体の速度と前記移動体に作用する力との関係が線形的に表現された線形モデルを作成する線形モデル作成手段をさらに有し、
前記加速度制御手段は、前記線形モデルを用いて、前記評価関数の出力値を最小とさせる入力値に対応した前記移動体に作用する力を算出するとともに、該移動体に作用する力を前記力学モデルに入力することで、各前記予測区間における前記移動体の加速度を取得することを特徴とする請求項4に記載の走行制御システム。
【請求項6】
走行操作が行われる移動体に搭載される走行制御システムを制御するための制御プログラムであって、
現時刻における前記移動体と該移動体の前方を走行する先行物体との間の距離を、現時刻の前記移動体の速度で除することで、前記移動体が現時刻における前記先行物体の位置に到達するまでの到達時間を算出する到達時間算出手順と、
前記到達時間を所定の時間間隔で分割することにより、加速度の予測対象時間となる複数の予測区間を設定する予測区間設定手順と、
前記到達時間の経過時点において、前記移動体の速度を前記先行物体の速度に近づけ、且つ、前記移動体と前記先行物体との間の距離を、現時刻の前記移動体の速度に基づき算出される空走距離と制動距離との合計よりも大きな安全距離に近づけ得る前記移動体の目標加速度を、各前記予測区間毎に算出する目標加速度算出手順と、
各前記予測区間における前記移動体の予測加速度と、連続する2つの前記予測区間の間における前記移動体への操作変化量とが入力されることにより、各前記予測区間における目標加速度と予測加速度との差分に関する累計値と、各操作変化量に関する累計値とを、加算して出力する評価関数を生成する評価関数生成手順と、
前記評価関数の出力値が最小となる入力値を求める一般化予測制御に基づき、各前記予測区間における前記移動体の加速度を取得して、該取得値に現時刻以降の前記移動体の加速度を制御する加速度制御手順とを前記走行制御システムに実行させることを特徴とする制御プログラム。
【請求項7】
請求項6に記載の制御プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項1】
走行操作が行われる移動体に搭載される走行制御システムであって、
現時刻における前記移動体と該移動体の前方を走行する先行物体との間の距離を、現時刻の前記移動体の速度で除することで、前記移動体が現時刻における前記先行物体の位置に到達するまでの到達時間を算出する到達時間算出手段と、
前記到達時間を所定の時間間隔で分割することにより、加速度の予測対象時間となる複数の予測区間を設定する予測区間設定手段と、
前記到達時間の経過時点において、前記移動体の速度を前記先行物体の速度に近づけ、且つ、前記移動体と前記先行物体との間の距離を、現時刻の前記移動体の速度に基づき算出される空走距離と制動距離との合計よりも大きな安全距離に近づけ得る前記移動体の目標加速度を、各前記予測区間毎に算出する目標加速度算出手段と、
各前記予測区間における前記移動体の予測加速度と、連続する2つの前記予測区間の間における前記移動体への操作変化量とが入力されることにより、各前記予測区間における目標加速度と予測加速度との差分に関する累計値と、各操作変化量に関する累計値とを、加算して出力する評価関数を生成する評価関数生成手段と、
前記評価関数の出力値が最小となる入力値を求める一般化予測制御に基づき、各前記予測区間における前記移動体の加速度を取得して、該取得値に現時刻以降の前記移動体の加速度を制御する加速度制御手段とを有することを特徴とする走行制御システム。
【請求項2】
各前記予測区間における目標加速度は、前記現時刻における前記移動体と前記先行物体との間の距離と前記安全距離との差分を前記到達時間で除した値に所定の重み付け係数を乗じた値に、現時刻の前記移動体と前記先行物体との相対速度を加算するとともに、該加算した値を、前記到達時間で除することで算出されることを特徴とする請求項1に記載の走行制御システム。
【請求項3】
各前記予測区間における目標加速度と予測加速度との差分に関する累計値は、各前記予測区間における前記目標加速度と予測加速度との差分の2乗値を合計した値であり、
各操作変化量に関する累計値は、連続する2つの前記予測区間における前記入力値の操作変化量の2乗値に、所定の重み付け係数を乗じた値を合計した値であることを特徴とする請求項1又は2に記載の走行制御システム。
【請求項4】
前記移動体に作用する力と前記移動体の加速度との関係を示す力学モデルを作成する力学モデル作成手段をさらに有し、
前記加速度制御手段は、前記力学モデルを用いて各前記予測区間における前記移動体の加速度を取得することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の走行制御システム。
【請求項5】
前記力学モデル作成手段により作成された前記力学モデルに基づき、前記移動体の速度と前記移動体に作用する力との関係が線形的に表現された線形モデルを作成する線形モデル作成手段をさらに有し、
前記加速度制御手段は、前記線形モデルを用いて、前記評価関数の出力値を最小とさせる入力値に対応した前記移動体に作用する力を算出するとともに、該移動体に作用する力を前記力学モデルに入力することで、各前記予測区間における前記移動体の加速度を取得することを特徴とする請求項4に記載の走行制御システム。
【請求項6】
走行操作が行われる移動体に搭載される走行制御システムを制御するための制御プログラムであって、
現時刻における前記移動体と該移動体の前方を走行する先行物体との間の距離を、現時刻の前記移動体の速度で除することで、前記移動体が現時刻における前記先行物体の位置に到達するまでの到達時間を算出する到達時間算出手順と、
前記到達時間を所定の時間間隔で分割することにより、加速度の予測対象時間となる複数の予測区間を設定する予測区間設定手順と、
前記到達時間の経過時点において、前記移動体の速度を前記先行物体の速度に近づけ、且つ、前記移動体と前記先行物体との間の距離を、現時刻の前記移動体の速度に基づき算出される空走距離と制動距離との合計よりも大きな安全距離に近づけ得る前記移動体の目標加速度を、各前記予測区間毎に算出する目標加速度算出手順と、
各前記予測区間における前記移動体の予測加速度と、連続する2つの前記予測区間の間における前記移動体への操作変化量とが入力されることにより、各前記予測区間における目標加速度と予測加速度との差分に関する累計値と、各操作変化量に関する累計値とを、加算して出力する評価関数を生成する評価関数生成手順と、
前記評価関数の出力値が最小となる入力値を求める一般化予測制御に基づき、各前記予測区間における前記移動体の加速度を取得して、該取得値に現時刻以降の前記移動体の加速度を制御する加速度制御手順とを前記走行制御システムに実行させることを特徴とする制御プログラム。
【請求項7】
請求項6に記載の制御プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【図1】
【図6】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図6】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−121417(P2011−121417A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278991(P2009−278991)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年度電気・情報関連学会中国支部第60回連合大会、社団法人 映像情報メディア学会、社団法人 電気情報通信学会、社団法人 電気学会、社団法人 情報処理学会、社団法人 照明学会、社団法人 電気設備学会、平成21年10月17日(土)
【出願人】(510108951)公立大学法人広島市立大学 (11)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年度電気・情報関連学会中国支部第60回連合大会、社団法人 映像情報メディア学会、社団法人 電気情報通信学会、社団法人 電気学会、社団法人 情報処理学会、社団法人 照明学会、社団法人 電気設備学会、平成21年10月17日(土)
【出願人】(510108951)公立大学法人広島市立大学 (11)
【Fターム(参考)】
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