説明

超音波洗浄方法と超音波洗浄装置、および超音波洗浄に用いる伝播水の製造方法

【課題】超音波洗浄で問題となっていた洗浄ムラを解消し、パーティクル除去を効果的に行うことのできる超音波洗浄方法を提供する。
【解決手段】少なくとも、洗浄槽中の洗浄液に被洗浄物を浸漬し、超音波振動子から発生する超音波を伝播槽中の伝播水を介して前記洗浄液に伝播させて前記被洗浄物を洗浄する超音波洗浄方法であって、前記伝播水として、脱気した純水に、溶存ガスを飽和濃度に対して35〜70%の濃度で溶解させたものを用いることを特徴とする超音波洗浄方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェーハを始めとした半導体部品等の被洗浄物を、薬液や純水に浸漬させて超音波を照射して洗浄する際の超音波洗浄方法と超音波洗浄装置、および超音波洗浄に用いる伝播水の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デバイスのデザインルール微細化に伴う品質改善要求の一つに、ウェーハパーティクルの低減がある。このパーティクル低減要求は、ウェーハ表面の個数のみではなく、デザインルールの微細化に合わせてサイズが小さくなり、ますます厳しいものとなってきている。このような品質要求を達成するためには、清浄度の高い洗浄技術が必要となる。
ここで、被洗浄物の1つである半導体ウェーハの洗浄においては、効率良くパーティクルを除去するために超音波洗浄を併用するのが一般的であり、付着パーティクルの種類やウェーハの状態、洗浄後の品質等によって、周波数、出力、超音波制御方法、超音波洗浄槽の形態、洗浄時間等が決定される(特許文献1、特許文献2等参照)。
【0003】
また、一般的なウェーハの洗浄における超音波洗浄では、最近ではメガソニックと呼ばれる例えば周波数1MHzのユニットが使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−131978号公報
【特許文献2】特開2009−125645号公報
【特許文献3】特開平10−109073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、半導体シリコンウェーハ等の被洗浄物表面の微小なパーティクルを除去するためには、強力で被洗浄物の表面全体をムラ無く洗浄できる超音波洗浄が必要である。
一方、超音波振動を緩和して、超音波振動による過度の衝撃を抑制する必要もある。
【0006】
そこで、超音波振動子を洗浄槽に直接設置せずに、超音波を伝播させるための伝播水が入った伝播槽に超音波振動子を設けて、伝播水を介して間接的に超音波を被洗浄物に照射させる方法が採用されている。
【0007】
しかし、メガソニックと呼ばれる超音波洗浄は、超音波の周波数が高周波のため、指向性が強く、洗浄槽内の治具等による洗浄ムラ(洗い残し)が発生する問題がある。
より具体的には、洗浄槽内に配置された被洗浄物の保持治具や配管の影となる部分にメガソニックが照射されないことに起因して、また、メガソニック振動子の配置に応じた洗浄ムラが生じてしまっていた。
【0008】
また、洗浄槽内において、伝播水や洗浄水中に存在するガスによって超音波のエネルギーが減衰されるため、縦方向の洗浄力が低下するという問題がある。
この対策として、伝播水中の溶存ガスを脱気することで、伝播槽における減衰を大幅に低減することが開示されている(例えば特許文献3等参照)。
しかし、伝播水を脱気水とすると、今度は、伝播水内で起きていたメガソニックの散乱が無くなるため、振動子や振動板等起因の発振ムラが顕在化し、これが被洗浄物の洗浄ムラとなっている。
【0009】
本発明は、上記問題に鑑みなされたものであって、超音波洗浄で問題となっていた洗浄ムラを解消し、パーティクル除去を効果的に行うことのできる超音波洗浄方法と超音波洗浄装置、および超音波洗浄に用いる伝播水の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明では、少なくとも、洗浄槽中の洗浄液に被洗浄物を浸漬し、超音波振動子から発生する超音波を伝播槽中の伝播水を介して前記洗浄液に伝播させて前記被洗浄物を洗浄する超音波洗浄方法であって、前記伝播水として、脱気した純水に、溶存ガスを飽和濃度に対して35〜70%の濃度で溶解させたものを用いることを特徴とする超音波洗浄方法を提供する。
【0011】
このように、超音波を伝播させるための伝播水に、脱気した純水にガスを溶解させたものを用いるが、その溶存ガスの濃度がコントロール(飽和濃度に対して35〜70%)されたものを用いる。すると、このような伝播水中を超音波が伝播する際に、少量の溶存ガスが脱気されてキャビテーションを起こすが、これによって適量の気泡を発生させることができる。そしてこの発生させた適量の気泡により、超音波を散乱させることができるため、エネルギーロスが小さく、超音波の強度を保ったまま、洗浄ムラの発生を解消することができる。
すなわち、一旦脱気した純水に溶存ガス濃度を飽和ガス濃度の35〜70%とコントロールした伝播水を用いることによって、超音波のエネルギーロスがほとんど無く、かつ適度な超音波の散乱を発生させることができるため、例えば指向性が強いメガソニック洗浄であっても、振動子・振動板・保持治具・配管等に起因する超音波の発振ムラが解消され、洗浄ムラの少ない超音波洗浄を行うことができる。
【0012】
ここで、前記溶存ガスを、水素とすることが好ましい。
このように、溶存ガスが水素であれば、例えば水素水製造装置等によって、一旦脱気した純水に飽和ガス濃度の35〜70%の濃度の溶存ガス濃度にコントロールされたものを容易に得ることができるため、調達が容易であり、洗浄に要するコストを低減することができる。
【0013】
また、前記被洗浄物の洗浄中に、前記脱気した純水に溶存ガスを飽和濃度に対して35〜70%の濃度で溶解させた伝播水を前記伝播槽に供給し続けて、前記伝播水をオーバーフローさせながら前記被洗浄物の洗浄を行うことが好ましい。
このように、脱気した純水に溶存ガスを飽和濃度に対して35〜70%の濃度で溶解させた伝播水を供給し続けて、オーバーフローさせながら超音波洗浄を行うことによって、超音波洗浄中に伝播水の溶存ガス濃度が安定して35〜70%となる。このため、更に超音波のエネルギーロスがほとんど無く、かつ超音波の発振ムラに基づく洗浄ムラの無い超音波洗浄を行うことができる。
【0014】
そして、前記溶存ガスの濃度を、40〜60%とすることが好ましい。
このように、溶存ガスの濃度を、40〜60%とすることによって、前述の超音波のエネルギーロスがほとんど無く、かつ超音波の発振ムラが解消されるという効果をより強いものとすることができ、より洗浄ムラの無い超音波洗浄とすることができる。
【0015】
また、本発明では、洗浄槽中の洗浄液に浸漬させた被洗浄物を超音波洗浄する際に、超音波振動子から発生する超音波を前記洗浄液に伝播させる伝播水の製造方法であって、該伝播水を、純水を脱気した後に、溶存ガスを飽和濃度に対して35〜70%の濃度となるように溶解させることを特徴とする伝播水の製造方法を提供する。
【0016】
このように、伝播水を、純水を脱気した後に、溶存ガスを飽和濃度に対して35〜70%の濃度となるように溶解させることによって製造することとする。
このような伝播水では、超音波を伝播させる際に少量の溶存ガスが脱気されるが、溶存ガス濃度はコントロールされているため、超音波のエネルギーロスがほとんど無い上に、脱気させたガスによって発生する気泡によって、超音波を散乱させることができる。従って、被洗浄物の縦方向の洗浄力は高いままに発振ムラによる洗浄ムラの小さい超音波洗浄を行うことが可能な伝播水を得ることができる。
【0017】
ここで、前記溶存ガスを、水素とすることが好ましい。
このように、一旦脱気した純水に飽和ガス濃度の35〜70%の濃度の溶存ガス濃度にコントロールされたものは、例えば水素水製造装置等によって容易に得ることができるため、溶存ガスが水素であれば、調達が容易であり、洗浄に要するコストを低減することができる。
【0018】
更に、本発明では、少なくとも、超音波振動子と、被洗浄物を浸漬させる洗浄水を保持する洗浄槽と、前記超音波振動子から発生する超音波を前記洗浄水に伝播させるための伝播水を保持する伝播槽とを備える超音波洗浄装置であって、前記伝播水に、脱気した純水に、溶存ガスを飽和濃度に対して35〜70%の濃度で溶解させたものが用いられるものであることを特徴とする超音波洗浄装置を提供する。
【0019】
このように、脱気した純水に対して溶存ガスを飽和濃度に対して35〜70%の濃度で溶解させたものが伝播水に用いられる超音波洗浄装置とすることによって、伝播水中の適量な溶存ガスによって超音波を散乱させることができるため、洗浄ムラを従来に比べて小さくすることができる。これと供に、溶存ガス濃度は飽和濃度に対して35〜70%にコントロールされているため、超音波のエネルギー損失を小さなものとすることができ、超音波洗浄におけるパーティクル除去の効果は高いままの状態とすることができる。従って、従来に比べて洗浄ムラの少ない効率の良い超音波洗浄を行うことができる超音波洗浄装置を提供することができる。
【0020】
ここで、前記溶存ガスが、水素であることが好ましい。
一旦脱気された純水に水素が飽和ガス濃度の35〜70%の濃度にコントロールされた水は、例えば水素水製造装置等によって容易に得られるため、容易に超音波のエネルギーロスが小さく、かつ洗浄ムラの小さい超音波洗浄を行うことができる。
【0021】
また、前記超音波洗浄装置は、更に、前記被洗浄物の洗浄中に、前記伝播槽に前記脱気した純水に溶存ガスを飽和濃度に対して35〜70%の濃度で溶解させた伝播水を供給し続ける伝播水供給機構を有することが好ましい。
このように、脱気した純水に溶存ガスを飽和濃度に対して35〜70%の濃度で溶解させた伝播水を供給し続ける伝播水供給機構を更に備えた超音波洗浄装置であれば、更に超音波洗浄中の伝播水の溶存ガス濃度は35〜70%の範囲に安定したものとできる。よって、より確実に洗浄後の被洗浄物に洗浄ムラが発生しない超音波洗浄を行うことができる超音波洗浄装置となる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明によれば、洗浄ムラの無い強力な超音波洗浄を複雑な方法によらずに実現することができる。これにより、被洗浄物のパーティクル除去を従来に比べて効果的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の超音波洗浄装置の概略の一例を示した図である。
【図2】比較例1での超音波洗浄後のシリコンウェーハ表面のLPDを観察した結果を示した図である。
【図3】比較例2での超音波洗浄後のシリコンウェーハ表面のLPDを観察した結果を示した図である。
【図4】比較例3での超音波洗浄後のシリコンウェーハ表面のLPDを観察した結果を示した図である。
【図5】実施例1での超音波洗浄後のシリコンウェーハ表面のLPDを観察した結果を示した図である。
【図6】実施例2での超音波洗浄後のシリコンウェーハ表面のLPDを観察した結果を示した図である。
【図7】実施例3での超音波洗浄後のシリコンウェーハ表面のLPDを観察した結果を示した図である。
【図8】実施例4での超音波洗浄後のシリコンウェーハ表面のLPDを観察した結果を示した図である。
【図9】実施例5での超音波洗浄後のシリコンウェーハ表面のLPDを観察した結果を示した図である。
【図10】比較例4での超音波洗浄後のシリコンウェーハ表面のLPDを観察した結果を示した図である。
【図11】比較例5での超音波洗浄後のシリコンウェーハ表面のLPDを観察した結果を示した図である。
【図12】比較例6での超音波洗浄後のシリコンウェーハ表面のLPDを観察した結果を示した図である。
【図13】実施例1−5,比較例1−6の超音波洗浄における伝播水の条件と洗浄後のシリコンウェーハ表面のLPD数との関係を示した図である。
【図14】水素水製造装置の概略の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明についてより具体的に説明する。
超音波伝播水に、脱気していない純水を用いた場合は、NやO等のガスがほぼ飽和の状態で溶解している。
このため、このような純水を伝播水として用いて超音波を照射すると、これらのガスを脱気してキャビテーションが発生し、エネルギーをロスしてしまうため、洗浄槽に伝わる超音波が弱くなって超音波の減衰により超音波振動子から距離のある部分の洗浄力が低下してしまい、ウェーハ全面を洗浄ムラ無く洗浄することができない、という問題があった。
【0025】
そこで、メガソニック洗浄の強度を上げるために出力を上げ、更に超音波の減衰を防ぐために脱気水を伝播水に用いる場合がある。このように、超音波伝播水に脱気した純水を用いた場合であれば、伝播槽での脱気によるエネルギーロスがなく、洗浄槽での超音波強度は上げることができる。
しかしながら、脱気によって発生するキャビテーションの量が減少するため、超音波の散乱が減少する。すると超音波振動子の周波数、形状、配置等に起因する洗浄ムラが発生する、という新たな問題が発生する。
【0026】
そこで、本発明者らは、このような問題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、伝播水に、一旦脱気した純水に対して飽和濃度に対して35〜70%の濃度で溶存ガスを溶解させたものを用いることによって、伝播槽における超音波のエネルギーロスは小さい状態のまま、超音波振動子の配置等に起因する洗浄ムラが発生しない程度に超音波を散乱させることができる適量のキャビテーションを発生させることができることを発見した。
そして、この知見によれば、超音波振動子の周波数、形状、配置等に起因する洗浄ムラや、超音波の減衰による洗浄ムラやエネルギーロスを従来に比べて少ない超音波洗浄を行えることを発見し、本発明を完成させた。
【0027】
以下、本発明について図を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。図1は、本発明の超音波洗浄装置の概略の一例を示した図である。
本発明の超音波洗浄装置10は、少なくとも、超音波振動子11と、被洗浄物Wを浸漬させる洗浄液12aを保持する洗浄槽12と、超音波振動子11から発生する超音波を洗浄槽12に伝播させるための伝播水13aを保持する伝播槽13と、被洗浄物Wを洗浄液12a中で保持するための保持治具15とを備えるものである。
そして、伝播水13aとして、脱気した純水に飽和濃度に対して35〜70%の濃度で溶存ガスを溶解させたものが用いられている。
【0028】
このように、脱気した純水に対して溶存ガスを飽和濃度に対して35〜70%の濃度で溶解させた水を伝播水に用いた超音波洗浄装置では、伝播水中に溶存ガスが飽和濃度に対して35%以上の濃度で溶解しているため、超音波をある程度は散乱させることができる。従って、超音波振動子や保持治具、配管の構造・配置に起因する洗浄ムラを従来に比べて小さくすることができる。
また伝播水中に溶存ガスが飽和濃度に対して70%以下の濃度で溶解しているため、キャビテーションの発生による超音波のエネルギー損失が必要以上に大きくならずに済み、パーティクルの除去効率が低下することも抑制できる。
これらの効果によって、必要な超音波洗浄の強度を維持しつつ、超音波振動子等に起因する洗浄ムラを解消することができる超音波洗浄装置が提供される。
【0029】
なお、溶存ガス濃度が飽和濃度の35%より低い場合、超音波の散乱が不十分になり、洗浄ムラが発生する。また70%より高い場合、超音波のエネルギー損失が多くなるため、同様に洗浄力不足による洗浄ムラが発生するようになる。そのため、伝播水の溶存ガス濃度は、飽和濃度に対して35〜70%とする。
【0030】
また、更に、被洗浄物Wの洗浄中に、脱気した純水に溶存ガスを飽和濃度に対して35〜70%の濃度で溶解させた伝播水を供給し続ける伝播水供給機構14を有するものとすることができる。なお、この場合、伝播水は排水樋16によってオーバーフローさせることが望ましい。
上述のような伝播水を伝播水供給機構によって供給し続けながら超音波洗浄を行う超音波洗浄装置であれば、超音波洗浄中の伝播水の溶存ガス濃度が常に容易に35〜70%の範囲に安定して制御されたものとなる。従って、より洗浄ムラが発生しない超音波洗浄を行うことができる装置となる。
【0031】
ここで、溶存ガスに、水素を選択することができる。
溶存ガスが水素であれば、例えば図14に示すような水素水製造装置等によって容易に製造することができるため、洗浄ムラの小さい超音波洗浄が更に容易に行うことができる。
但し、本発明における溶存ガスとしては、水素に限定されるものではなく、酸素、窒素、その他のガスとすることも可能である。
【0032】
この水素水製造装置20は、例えば図14に示すように、少なくとも、純水中のNやOを脱気するための脱気膜21と、該脱気膜21によって脱気した気体を排気するための真空ポンプ22と、先に脱気した純水に水素を溶解させるための溶解膜23とからなるものである。
そしてこのような水素水製造装置では、脱気膜21によって純水中の気体を脱気し、脱気済みの純水に高純度の水素を溶解膜23によって所望の濃度となるように溶解させることによって、飽和ガス濃度に対する所望の濃度にコントロールされた水素水が作製される。
【0033】
次に、本発明の超音波洗浄方法について以下に説明するが、もちろんこれに限定されるものではない。
【0034】
例えば図1に示す装置を用い、本発明の超音波洗浄方法は、超音波発振器(不図示)により高周波電圧を印加されて駆動した超音波振動子11により発生する超音波を、伝播槽13中の伝播水13aを介して基板等の被洗浄物Wを洗浄するための洗浄液12aが満たされた洗浄槽12に伝播させて、保持治具15により保持されている被洗浄物Wを超音波洗浄するものである。
そして本発明では、この伝播水13aに、脱気した純水に、溶存ガスを飽和濃度に対して35〜70%の濃度で溶解させたものを用いることを特徴とするものである。
【0035】
伝播水中の溶存ガス濃度が飽和濃度に対して35%以上のため、伝播水中に、超音波振動子や保持治具、配管の構造・配置に起因する洗浄ムラを従来に比べて小さくすることができる程度に超音波を散乱させることができる位のキャビテーションが発生する。
また伝播水中の溶存ガス濃度が飽和濃度に対して70%以下のため、パーティクルの除去効率が低下する程の超音波のエネルギーロスが発生することを防止することができる。
このように、脱気した純水に対して溶存ガスを飽和濃度に対して35〜70%の濃度で溶解させた伝播水を用いて超音波洗浄を行うことによって、超音波洗浄の強度は必要十分な水準に維持しつつ、振動子等の構造や配置に起因する洗浄ムラが発生することを抑制することができ、従来よりパーティクルの少ない清浄な被洗浄物を得ることができる。
【0036】
なお、溶存ガス濃度が飽和濃度の35%より低いと、超音波の散乱が不十分になり、洗浄ムラが発生する。また70%より高いと、超音波のエネルギー損失が多くなるため、洗浄力が低下して同様に洗浄ムラが発生するようになる。そのため、伝播水の溶存ガス濃度は、飽和濃度に対して35〜70%とする。
【0037】
このような伝播水は、純水を脱気した後に、溶存ガスを飽和濃度に対して35〜70%の濃度となるように溶解させることによって製造することができるが、例えば上述のような図14に示すような水素水製造装置によっても製造することができる。
【0038】
ここで、溶存ガスの濃度を、40〜60%とすることができる。
このように、溶存ガスの濃度が、40〜60%となっている伝播水を用いることによって、より超音波のエネルギーロスが小さく、かつ超音波の発振ムラによる洗浄ムラを少なくすることができるため、更に洗浄ムラの少ない超音波洗浄を行うことができる。
【0039】
また、水素を溶存ガスとすることができる。
一旦脱気した純水に飽和ガス濃度の35〜70%の濃度で水素が溶解された水は、上述のような水素水製造装置等によって容易に得られるため、伝播水の調達が容易となり洗浄コストの低減を図ることができる。
そして、純水に対する飽和濃度が1.6ppm程度と小さい水素であれば、伝播水中の溶存ガスが必要以上に溶解した状態とならず、キャビテーションも必要以上に発生しないものとできると考えられ、超音波のエネルギーロスを極力小さくすることができ、より洗浄ムラの少ない超音波洗浄を行うことができるためと考えられる。
【0040】
そして、このような被洗浄物Wの超音波洗浄中に、脱気した純水に溶存ガスを飽和濃度に対して35〜70%の濃度で溶解させた伝播水を、例えば伝播水供給機構14によって伝播槽13に供給し続けて、伝播水13を排水樋16からオーバーフローさせながら行うことができる。
このように、脱気した純水に溶存ガスを飽和濃度に対して35〜70%の濃度で溶解させた伝播水を伝播槽に供給し続けて、オーバーフローさせながら超音波洗浄を行うことによって、超音波洗浄中における伝播水の溶存ガス濃度を35〜70%の間に容易に安定してコントロールすることができる。これによって、更に超音波のエネルギーロスが少なく、かつ超音波の発振ムラに基づく洗浄ムラのより少ない超音波洗浄を確実に行うことができる。
【0041】
また、本発明は、超音波振動子から発生する超音波が、1MHz以上の高周波(所謂メガソニック)である場合にも好適である。従来、メガソニック洗浄は、高い指向性に起因して洗浄槽内に配置されたウェーハ支持治具や配管の影となる部分にメガソニックが照射されず、洗浄ムラが発生する問題や、超音波振動子の配置に応じた洗浄ムラが発生する問題があった。
しかし、上記のような本発明の超音波洗浄装置や超音波洗浄方法を用いれば、1MHz以上の高周波による洗浄であっても、洗浄ムラが抑制された効果的なパーティクル除去を行うことができるため、有効である。但し、本発明における「超音波」の振動数については広義に解釈されるべきものであり、特定の振動数に限定されるものではない。
【0042】
尚、本発明の超音波洗浄装置や超音波洗浄方法に用いる超音波振動子の構造は特に限定されず、適宜変更が可能である。
【0043】
また、本発明の超音波洗浄装置や超音波洗浄方法では、洗浄液は特に限定されないが、アンモニア、過酸化水素水、及び水の混合溶液とすることが好ましく、また、純水としてもよいし、更に半導体部品等の洗浄液として用いられる通常の薬液等も用いることができる。
尚、ウェーハ等の洗浄において、ウェーハ表面粗さを低減するために、比較的低温(例えば50℃)の洗浄液で洗浄を行う方法があるが、このような洗浄能力が低めの洗浄液の場合でも、本発明の超音波洗浄装置や超音波洗浄方法によれば、効果的にパーティクルの除去を行うことができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1−5,比較例1−6)
図1に示すような超音波洗浄装置を用いて、鏡面研磨後の直径300mmのシリコンウェーハを6分間超音波洗浄した。使用した洗浄液はアンモニア、過酸化水素水、水の混合液(SC−1)とし、その混合比を1:1:10とした。また、洗浄液の温度は50℃とした。
またこの際に使用する伝播水は、溶存水素濃度0ppmの脱気水(比較例1)、脱気水に水素を溶解させて溶存水素濃度0.2ppm(飽和濃度の12.5%)とした水(比較例2)、脱気水に水素を溶解させて溶存水素濃度0.4ppm(飽和濃度の25%)とした水(比較例3)、脱気水に水素を溶解させて溶存水素濃度0.56ppm(飽和濃度の35%)とした水(実施例1)、脱気水に水素を溶解させて溶存水素濃度0.6ppm(飽和濃度の37.5%)とした水(実施例2)、脱気水に水素を溶解させて溶存水素濃度0.8ppm(飽和濃度の50%)とした水(実施例3)、脱気水に水素を溶解させて溶存水素濃度1.0ppm(飽和濃度の62.5%)とした水(実施例4)、脱気水に水素を溶解させて溶存水素濃度1.12ppm(飽和濃度の70%)とした水(実施例5)、脱気水に水素を溶解させて溶存水素濃度1.2ppm(飽和濃度の75%)とした水(比較例4)、脱気水に水素を溶解させて溶存水素濃度1.4ppm(飽和濃度の87.5%)とした水(比較例5)、脱気していない純水(比較例6)、の計9種類を用いた。
【0045】
そして、洗浄後のシリコンウェーハの表面に存在するパーティクル(LPD(径≧41nm))の個数や分布をウェーハ表面検査装置で測定した。
【0046】
超音波伝播槽の伝播水に脱気水を使用した比較例1の場合、図2に示すように、シリコンウェーハ下部から上部に向かって超音波振動子に起因すると見られる洗浄ムラが発生し、LPDは8007個であった。
一方、脱気していない純水を使用した比較例6の場合、図12に示すように、超音波の減衰によると見られるシリコンウェーハ上部での超音波強度の不足のためと考えられるパーティクルの未除去部が発生しており、LPDはトータルで14517個であった。
また、図3、図4に示すように、飽和濃度の12.5%のガス濃度の伝播水を用いた比較例2や飽和濃度の25%のガス濃度の伝播水を用いた比較例3では、ウェーハ下部から上部に向かって振動子に起因すると見られる洗浄ムラが発生しており、LPDはそれぞれ5217個、5460個であった。
【0047】
さらに水素水の溶存水素ガスの濃度を上げていった結果である実施例1(飽和濃度の35%)では、図5に示すように、振動子起因の洗浄ムラや伝播水の脱気による超音波のエネルギーロスがほとんどなく、シリコンウェーハの下部から上部の方まで比較的きれいに洗浄することができ、LPDは477個と少ないことが判った。
また図6に示すように、実施例2(飽和濃度の37.5%)も、同様に振動子起因の洗浄ムラや伝播水の脱気による超音波のエネルギーロスがほとんどなく、LPDは422個と少ないことが判った。
そして実施例3(飽和濃度の50%)では、図7に示すように、実施例1,2同様に比較的きれいに洗浄されており、LPDは135個と、最も少なかった。
更に実施例4(飽和濃度の62.5%)では、図8に示すように、実施例1−3と同様に、LPDは461個と少ないことが判った。
また、実施例5(飽和濃度の62.5%)では、図9に示すように、実施例1−4と同様、LPDは521個と少ないことが判った。
【0048】
一方、飽和濃度の75%のガス濃度とした比較例4では、図10に示すように、LPD数が2177個と、シリコンウェーハ上部でパーティクル除去能力が落ちていることが判った。
そして、飽和濃度の87.5%とした比較例5では、図11に示すように、LPD数が8649個となり、脱気水(比較例1)や脱気なし(比較例6)とほぼ同レベルのLPD数であり、洗浄能力が低いことが判った。
【0049】
以上の結果をまとめると、図13に示すように、伝播水として、脱気した純水に、溶存ガスを飽和濃度に対して35〜70%の濃度で溶解させてコントロールしたものを用いることにより、必要なメガソニック洗浄の強度を維持しつつ、超音波振動子起因の洗浄ムラを解消することができることが判った。なお、図13は、実施例1−5,比較例1−6の超音波洗浄における伝播水の条件と洗浄後のシリコンウェーハ表面のLPD数との関係を示した図である。
【0050】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0051】
10…超音波洗浄装置、
11…超音波振動子、 12…洗浄槽、 12a…洗浄液、 13…伝播槽、 13a…伝播水、 14…伝播水供給機構、 15…保持治具、 16…排水樋、
20…水素水製造装置、
21…脱気膜、 22…真空ポンプ、 23…溶解膜、
W…被洗浄物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、洗浄槽中の洗浄液に被洗浄物を浸漬し、超音波振動子から発生する超音波を伝播槽中の伝播水を介して前記洗浄液に伝播させて前記被洗浄物を洗浄する超音波洗浄方法であって、
前記伝播水として、脱気した純水に、溶存ガスを飽和濃度に対して35〜70%の濃度で溶解させたものを用いることを特徴とする超音波洗浄方法。
【請求項2】
前記溶存ガスを、水素とすることを特徴とする請求項1に記載の超音波洗浄方法。
【請求項3】
前記被洗浄物の洗浄中に、前記脱気した純水に溶存ガスを飽和濃度に対して35〜70%の濃度で溶解させた伝播水を前記伝播槽に供給し続けて、前記伝播水をオーバーフローさせながら前記被洗浄物の洗浄を行うことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の超音波洗浄方法。
【請求項4】
前記溶存ガスの濃度を、40〜60%とすることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の超音波洗浄方法。
【請求項5】
洗浄槽中の洗浄液に浸漬させた被洗浄物を超音波洗浄する際に、超音波振動子から発生する超音波を前記洗浄液に伝播させる伝播水の製造方法であって、
該伝播水を、純水を脱気した後に、溶存ガスを飽和濃度に対して35〜70%の濃度となるように溶解させることを特徴とする伝播水の製造方法。
【請求項6】
前記溶存ガスを、水素とすることを特徴とする請求項5に記載の伝播水の製造方法。
【請求項7】
少なくとも、超音波振動子と、被洗浄物を浸漬させる洗浄水を保持する洗浄槽と、前記超音波振動子から発生する超音波を前記洗浄水に伝播させるための伝播水を保持する伝播槽とを備える超音波洗浄装置であって、
前記伝播水に、脱気した純水に、溶存ガスを飽和濃度に対して35〜70%の濃度で溶解させたものが用いられるものであることを特徴とする超音波洗浄装置。
【請求項8】
前記溶存ガスが、水素であることを特徴とする請求項7に記載の超音波洗浄装置。
【請求項9】
前記超音波洗浄装置は、更に、前記被洗浄物の洗浄中に、前記伝播槽に前記脱気した純水に溶存ガスを飽和濃度に対して35〜70%の濃度で溶解させた伝播水を供給し続ける伝播水供給機構を有することを特徴とする請求項7または請求項8に記載の超音波洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−147917(P2011−147917A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−13341(P2010−13341)
【出願日】平成22年1月25日(2010.1.25)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【Fターム(参考)】