説明

車両のロール角推定方法及び装置

【課題】車高調整非実行時のロール角を推定することが可能な方法及び装置を提供する。
【解決手段】左右サスペンションの自動車高調整開始時の一定時間前から終了時の一定時間後までの任意の異なる2つの時点の各々において測定した各変位及び各内圧値から、それぞれ第1及び第2のロール角と該左右サスペンションによる第1及び第2のロールモーメントとを算出し、該ロール角及びロールモーメントから、該サスペンションを装着した車両固有のロール剛性係数を算出する。該サスペンションが示し得る内圧値をパラメータとして予め求めた複数個の変位特性の内、該左右サスペンションの測定内圧平均値に対応する変位特性を、該自動車高調整非実行時の該左右サスペンションに共通の変位特性として選択する。そして、該第2のロール角及びロールモーメント、該ロール剛性係数、及び該選択した変位特性に基づき該自動車高調整非実行時のロール角を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のロール角推定方法及び装置に関し、特に車両の横転危険度を判定する装置(以下、横転危険度判定装置と称する。)に用いるのに好適なロール角推定方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記のような横転危険度判定装置は、車両の走行状態に応じて連続的に変化するロール角及びロール角速度を検出すると共に、検出したロール角及びロール角速度に基づき車両の横転危険度を判定するものであり、該横転危険度に応じた自動ブレーキ制御や警報制御等を実行可能にしている。
しかしながら、左右の車高差を強制的に調整(補正)する自動車高調整(以下、単に車高調整と称することがある。)機能を備えた車両においては、該横転危険度を正しく判定できないという問題があった。これは、車両への荷物偏載、或いは車両の旋回走行に伴う遠心加速度により生じたロール角が車高調整によって失われる結果、該横転危険度が実際よりも低いと誤判定されてしまうためである。
【0003】
この問題に対処するため、以下に説明するロール角推定装置が既に提案されている。
従来例:図示せず
荷重に対して同一の変位特性を有する左右サスペンションの内圧を検出する圧力検出手段と、各サスペンションが示す内圧値をパラメータとして予め求めた複数個の変位特性の内、自動車高調整後の両サスペンションの内圧値間の平均値に対応する内圧値の変位特性を車高調整前の各サスペンションの変位特性として選択し、該車高調整後の各内圧値から各サスペンションに対する荷重を算出し、該選択した変位特性と該算出した荷重から該車高調整前の各サスペンションの変位を算出して該車高調整前のロール角を求める処理手段とを備えたロール角推定装置(例えば、本出願人による特許願2007-155489参照。)。
【0004】
このように、車高調整が行われなかった場合に検出されるべきロール角を推定し、以てこれを利用する上記の横転危険度判定装置に該横転危険度を正しく判定させることが可能となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の従来例は、自動車高調整前後でサスペンションに対する荷重が変化しない車両、すなわち、各車輪付近に設けられた全てのサスペンションに対して車高調整装置によるエア加圧又は減圧が行われる車両(以下、フルエアサス搭載車両)に適用されることを前提としているため、フルエアサス搭載車両以外では正しくロール角を推定できないという課題があった。
【0006】
すなわち、現行の車両(例えば、トラクタ)においては、前輪側に金属ばね(変位特性は固定)が設けられ、後輪側にエアサスペンション(変位特性は可変)が設けられることが一般的であるが、該金属ばねに配分されるロールモーメント(すなわち、荷重)の車高調整前後における変化分を該エアサスペンションが受け持つこととなるため、車高調整後の該エアサスペンションに対する荷重は車高調整前とは異なってしまい、車高調整が行われなかった場合の該エアサスペンションの変位を正しく算出(特定)することが出来なかった。
【0007】
従って、本発明は、フルエアサス搭載していない車両においても、自動車高調整が行われなかった場合に生じるロール角を推定することが可能な方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1]上記の目的を達成するため、本発明に係る車両のロール角推定方法(又は装置)は、同一の荷重−変位特性及び荷重−内圧特性を有し、且つ自動車高調整の対象となる一部の左右サスペンションの自動車高調整開始時の一定時間前から終了時の一定時間後までの任意の異なる2つの時点の各々において測定された変位及び内圧値から、それぞれ第1及び第2のロール角と該左右サスペンションによる第1及び第2のロールモーメントとを算出する第1ステップ(又は第1算出部)と、該第1及び第2のロール角並びに該第1及び第2のロールモーメントから、該サスペンションを装着した車両固有のロール剛性係数を算出する第2ステップ(又は第2算出部)と、該サスペンションが示し得る内圧値をパラメータとして予め求めた複数個の荷重−変位特性の内、該左右サスペンションの測定内圧平均値に対応する荷重−変位特性を、該自動車高調整が行われなかった場合の該左右サスペンションに共通の荷重−変位特性として選択する第3ステップ(又は選択部)と、該第2のロール角及びロールモーメント、該ロール剛性係数、並びに該選択した荷重−変位特性に基づき該自動車高調整が行われなかった場合のロール角を求める第4ステップ(又はロール角決定部)とを備えたことを特徴とする。
【0009】
すなわち、積載条件(又は走行条件下)が変わらない車両においては、該車両に生じるロールモーメントも変化せず一定であることに着目し、この条件を満たす車両固有のロール剛性係数を、全サスペンションの内の車高調整の対象となる一部の左右サスペンションの車高調整開始時の一定時間前以降の第1の時点におけるロール角及びロールモーメントと、車高調整終了時の一定時間後までで第1の時点の後の第2の時点におけるロール角及びロールモーメントとから算出する。
【0010】
ここで、該ロール剛性係数は、該車高調整の対象外である他のサスペンション固有のロール剛性係数(固定値)及び該車両のフレーム捩じり剛性係数(積載条件により変化する。)を含むものとして算出されるため、現行車両のようなサスペンション搭載条件、及び単体車両や連結車両等の型式に依存しない。
また、該左右サスペンションの測定内圧平均値に対応して選択した荷重−変位特性は、該車高調整が行われなかった場合の該左右サスペンションの荷重−変位特性に相当する。これは、車高調整が行われても該左右サスペンションのトータルの内圧が変化しないためである。
【0011】
また、該ロール剛性係数は、該車高調整終了時におけるロール角及びロールモーメントと、車高調整が行われなかった場合のロール角及びロールモーメントとの釣り合いも満たす。
ここで、該左右サスペンションによるロールモーメントは、該左右サスペンションに対する荷重差であり、荷重−変位特性を用いると該左右サスペンションの変位差(すなわち、ロール角)に置き換えることができる。
【0012】
従って、該第2の時点における該車両のロール角及び該左右サスペンションによるロールモーメント、該車両固有のロール剛性係数、並びに該選択した該左右サスペンションに共通の荷重−変位特性から、該車高調整が行われなかった場合のロール角を求めることができる。
[2]また、上記[1]において、該第1ステップ(又は第1算出部)が、該第1の時点から一定期間だけ該自動車高調整を中断させる第5ステップ(又は指示部)と、該一定期間内に測定された該左右サスペンションの変位及び内圧値から該第1のロール角及びロールモーメントを算出する第6ステップ(又は第3算出部)とを含むようにしても良い。
【0013】
すなわち、該車高調整中は、該左右サスペンションの変位及び内圧値が大幅に変動する虞れがある。これを回避するため、車高調整中断時の変位及び内圧値から該ロール角及び該ロールモーメントをより正確に算出する。
[3]また、上記[2]において、該第6ステップ(又は第3算出部)が、該一定期間内に測定された該左右サスペンションの変位及び内圧値の各移動平均を求め、各移動平均から該第1のロール角及びロールモーメントを算出するステップ(又は算出部)を含むようにしても良い。
【0014】
[4]また、上記[1]において、該第1ステップ(又は第1算出部)が、該第2の時点から一定期間内に測定された該左右サスペンションの変位及び内圧値の各移動平均を求め、各移動平均から該第2のロール角及びロールモーメントを算出するステップ(又は算出部)を含むようにしても良い。
すなわち、車高調整中断直後及び終了直後においては該左右サスペンションの変位及び内圧値が安定しないが、上記[3]及び[4]の場合には、該車高調整中断時及び終了時から一定期間内における変位及び内圧値の各移動平均(すなわち、安定した変位及び内圧値)から該ロール角及び該ロールモーメントをより正確に算出することができる。
【0015】
[5]また、上記[1]において、該第1ステップ(又は第1算出部)が、該測定された変位及び内圧値をバターワースフィルタ処理するステップ(又はバターワースフィルタ)を含むことができる。
[6]また、上記[1]において、該第4ステップ(又はロール角決定部)で求めた該自動車高調整が行われなかった場合のロール角から該第2のロール角を減算することにより、該自動車高調整による補正ロール角を求める第5ステップ(又は補正ロール角決定部)をさらに備えても良い。
【0016】
すなわち、この場合、該車高調整により実際に補正されたロール角を求めることができる。
[7]また、上記[6]において、該第2の時点以降のロール角を順次検出する第6ステップ(又は検出部)と、該検出したロール角に該補正ロール角を加算する第7ステップ(又は加算部)とをさらに備えても良い。
【0017】
すなわち、この場合、該車高調整が行われなかった場合に検出されるべきロール角を直接出力することができる。
[8]また、上記[1]において、該第1ステップ(又は第1算出部)は、該第1の時点に該測定した変位がバンプラバーに接触する位置まで車高が下がったことを示した時、一定期間だけ該自動車高調整を中断させ、該一定期間内に測定された該左右サスペンションの変位及び内圧値から該第1のロール角及びロールモーメントを算出するステップ(又は算出部)を含むことができる。
【0018】
[9]また、上記[1]から[8]のいずれかにおいて、該第1ステップ(又は第1算出部)が、該第1のロールモーメントを算出するときに、予め記憶したバンプラバーによる荷重−車高変位特性に基づき該測定した変位から荷重を求めて該バンプラバー位置でのロールモーメントを加算するステップ(又は加算部)を含むことができる。
[10]また、上記[2]において、該変位が標準範囲を超えており、非車高調整中における該変位の変化量の絶対値、又は車高調整中における該変位の変化量の絶対値が、積荷変動による車高変化と見做せる値の時、該一定期間以外の別の一定期間だけ該自動車高調整を中断させ、該別の一定期間内に測定された該左右サスペンションの変位及び内圧値から該第1のロール角及びロールモーメントを算出するステップ(又は算出部)を含むことができる。
【0019】
[11]さらに、上記[2]において、該変位が標準範囲を超えており、非車高調整中における該変位の変化量の絶対値が、積荷変動による車高変化と見做せる値の時、該内圧及び変位が取得できていなければ、該一定期間をリセットするステップ(又は算出部)を含むことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、フルエアサスを搭載していない車両であっても自動車高調整が行われなかった場合に生じるロール角を推定でき、以て上記の従来例と比較して殆んどの車両に適用することができる。また、サスペンション搭載条件や車両の型式等を問わずロール角を推定することができる。
さらに、積荷により、サスペンションがフルバンプした場合でも、ロール角の補正を正確に行うことが出来るとともに、エンジン始動等後における積荷変動にも対応できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明に係る車両のロール角推定方法及びこれを使用する装置の実施例を、図1〜図11を参照して以下に説明する。
非連結車両の実施例:図1〜図9
構成例:図1
図1に示す本発明の実施例に係る車両のロール角推定装置10は、車両1の左後輪2L及び右後輪2R付近にそれぞれ設けたサスペンション3L及び3Rの変位ZL及びZRを検出する変位検出部11L及び11R(以下、符号11で総称することがある。)と、サスペンション3L及び3Rの内圧PL及びPRを測定する圧力測定部12L及び12R(以下、符号12で総称することがある。)と、内圧PL,PRと変位ZL,ZRとに基づき自動車高調整が行われなかった場合(以下、車高調整非実行時と称することがある。)のロール角(φ2es)を推定すると共に、この推定したロール角(φ2es)を用いて横転危険度判定装置20内のロール角・ロール角速度検出部21で検出されたロール角φを補正し補正後のロール角φAMDを横転危険度判定部22に対して与える処理部13とを備えている。
【0022】
ここで、変位検出部11L及び11Rで検出した変位ZL及びZRは車高調整装置30にも入力されており、この車高調整装置30は、例えば旋回時、変位ZL及びZRに基づきサスペンション3L及び3Rの一方の内圧を加圧(エアAPを注入)すると共に他方の内圧を減圧(エアAPを排出)することにより、サスペンション3L及び3Rの荷重−変位特性をそれぞれ強制的に変化させて車両1の左右車高差(ZL−ZR)を調整(補正)する。
【0023】
すなわち、車両1においては、サスペンション3L及び3Rのみが車高調整の対象となり、左前輪4R及び右前輪4R付近にそれぞれ設けたサスペンション5L及び5Rについては何ら車高調整が行われない。従って、以下の説明では、荷重F及び内圧Pはサスペンション3L及び3Rに対する値である。
また、処理部13と車高調整装置30とが相互接続されており、処理部13は、車高調整装置30から車高調整の開始タイミング及び終了タイミングをそれぞれ示す信号SGS及びSGFを受信する一方、車高調整装置30に対して車高調整中断指示信号INS1及び再開指示信号INS2を与えて車高調整を中断できるようにしている。
【0024】
以下、このロール角推定装置10の動作を、図2〜図9を参照して説明する。

ロール角補正処理例[1]:図2〜図9
図2に示すように、処理部13におけるロール角補正処理は、(1)変位ZL及びZR並びに内圧PL及びPRの各移動平均を常時更新する処理(ステップS1)と、(2)車高調整開始時の各移動平均を取得する処理(ステップS2〜S8)と、(3)車高調整終了時の各移動平均を取得する処理(ステップS12〜S16)と、(4)車高調整非実行時のロール角φ2esを推定し、これに基づき上記の補正後ロール角φAMDを算出する処理(ステップS10及びS17〜S20)とから成る。
【0025】
以下、これらの処理(1)〜(4)を順に説明する。
(1)移動平均更新処理:図3
処理部13は、圧力測定部12により測定された内圧PL及びPR並びに変位検出部11により検出された変位ZL及びZRを入力する度毎に、図3に示すステップS30〜S40を実行する。
すなわち、エンジン始動時の初期状態においては内圧及び変位のデータ(以下、単にデータと称することがある。)のサンプリング数i(初期値は“1”)が所定の閾値n以下であるため(ステップS30)、処理部13は、内圧PLi,PRi及び変位ZLi,ZRiに、圧力測定部12から受けた最新の内圧PL,PR及び変位検出部11から受けた最新の変位ZL,ZRを記憶する(ステップS31)。
【0026】
そして、処理部13は、それぞれi個の内圧PL1〜PLi及びPR 1〜PRiを用い、下記の式(1)に従ってサスペンション3L及び3Rの内圧平均PLav及びPRavを算出する(ステップS32)。
【0027】
【数1】

【0028】
同様にして、処理部13は、それぞれi個の変位ZL1〜ZLi及びZR1〜ZRiを用い、下記の式(2)に従ってサスペンション3L及び3Rの変位平均ZLav及びZRavを算出する(ステップS33)。
【0029】
【数2】

【0030】
そして、処理部13は、サンプリングデータ数iを“1”だけインクリメントする(ステップS34)。サンプリングデータ数i≦閾値nが成立する間、処理部13は、上記のステップS31〜S34を繰り返し実行して平均PLav、PRav、ZLav、及びZRavを更新する。
一方、サンプリングデータ数iが閾値nを超えた時、処理部13は、サンプリングしたデータの内の最先データの参照用変数j(初期値は“1”)が閾値n以下であるか否かを判定する(ステップS35)。
【0031】
最先データ参照用変数j≦閾値nが成立した時、処理部13は、最先の内圧PLj,PRj及び変位ZLj,ZRjを、圧力測定部12から受けた内圧PL,PR及び変位検出部11から受けた変位ZL,ZRに更新する(ステップS36)。すなわち、最先データ参照用変数j=“1”であるとすると、サンプリングしたそれぞれn個の内圧PL1〜PLn,PR1〜PRn及び変位ZL1〜ZLn,ZR1〜ZRnの内で最も古い内圧PL1,PR1及び変位ZL1,ZR1が最新の値に置き換えられる。
【0032】
そして、処理部13は、上記のステップS36で更新したサンプリングデータを用い、下記の式(3)及び(4)に従って移動平均PLav、PRav、ZLav、及びZRavをそれぞれ算出する(ステップS37及びS38)。
【0033】
【数3】

【0034】
【数4】

【0035】
この後、処理部13は、内圧PL,PR及び変位ZL,ZRを新たに受信した際に上記のステップS36で更新した内圧PLj,PRj及び変位ZLj,ZRjに次いで古い内圧PLj+1,PRj+1及び変位ZLj+1,ZRj+1を更新するために、最先データ参照用変数jを“1”だけインクリメントする(ステップS39)。
このインクリメントによってデータ参照用変数j=“n+1”となってしまった場合(すなわち、上記のステップS35においてj>nが成立する場合)には、処理部13は、データ参照用変数jを再び“1”に初期化する(ステップS40)。すなわち、サンプリング数i=nだけサンプリングしたデータにおいて、データ参照用変数jの値を“1”から“n”まで順次循環させている。
【0036】
このように、処理部13は、後述する車高調整装置30との相互動作とは独立して内圧及び変位の移動平均を常時更新演算する。
(2)車高調整開始時の変位・内圧移動平均取得処理:図2及び図4
上記の処理(1)の後、処理部13は、まず図4に示す初動処理(図2のステップS2)を実行する。
【0037】
すなわち、処理部13は、初動フラグF1が“ON”であるか否かを判定する(ステップS41)。この初動フラグF1はエンジン始動時に“ON”に初期化されるものであり、下記のステップS42〜S49を一度だけ実行させるために用いられる。
初動フラグF1=“ON”が成立した時、処理部13は、さらに車高調整中断フラグF2が“OFF”であるか否かを判定する(ステップS42)。この車高調整中断フラグF2はエンジン始動時に“OFF”に初期化されるものであり、後述するように車高調整を中断した際に“ON”が設定される。
【0038】
車高調整中断フラグF2=“OFF”が成立した時、処理部13は、車高調整が開始されているか否か(すなわち、車高調整装置30から車高調整開始信号SGSを受信したか否か)を判定する(ステップS43)。
車高調整開始信号SGSにより車高調整の開始を検出した時、処理部13は、車高調整装置30に対して車高調整中断指示信号INS1を与えて車高調整を一時中断させる(ステップS44)。これは、車高調整中のサスペンション3L及び3Rの内圧及び変位の変動を回避し、安定した内圧及び変位を取得するためである。
【0039】
この時、処理部13は、車高調整中断フラグF2を“ON”に設定する(ステップS45)。
なお、上記のステップS43において車高調整が開始されていないと判定した時、処理部13は初動処理を実行しない。
上記のステップS44による車高調整中断時点から一定期間tが経過した時(ステップS46)、処理部13は、車高調整中断中の変化しない安定した内圧PL及びPR並びに変位ZL及びZRのみを用いた内圧移動平均PLav及びPRav並びに変位移動平均ZLav及びZRavが上記の処理(1)により算出されたと判断し、車高調整装置30に対して車高調整再開指示信号INS2を与えて車高調整を再開させる(ステップS47)。なお、「再開」も「開始」の一態様である。
【0040】
そして、処理部13は、車高調整開始時の移動平均が取得可能か否かを示すフラグ(以下、移動平均取得可能フラグ)F3を“ON(取得可能)”に設定する(ステップS48)と共に、初動フラグF1を“OFF”に設定する(ステップS49)。
なお、上記のステップS46において一定期間tが経過していない時には、処理部13は初動処理を実行しない。
【0041】
また、上記のステップS49により初動フラグF1=“OFF”となるため、再び初動処理が実行されても上記のステップS41以降の処理は何ら実行されない。
この後、図2のステップS3に戻って、処理部13は、車高調整が終了しているか否か(すなわち、車高調整装置30から車高調整終了信号SGFを受信したか否か)を判定する。
この結果、車高調整が未だ終了していなければ、処理部13は、車高調整開始時の移動平均取得可能フラグF3が“ON”であるか否かを判定する(ステップS4)。
【0042】
移動平均取得可能フラグF3=“ON”が成立した時、処理部13は、上記の処理(1)で求めた移動平均PLav、PRav、ZLav、及びZRavを、それぞれ車高調整開始時の内圧PLa及びPRa並びに変位ZLa及びZRaとして取得する(ステップS5)。
この時、処理部13は、車高調整開始時の移動平均取得可能フラグF3を“OFF”(取得不可)に設定する(ステップS6)と共に、車高調整終了時の移動平均取得可能フラグF4を“ON”(取得可能)に設定する(ステップS7)。但し、後述するように、移動平均取得可能フラグF4=“ON”であっても実際に車高調整が終了する迄は、車高調整終了後の移動平均は取得されない。
【0043】
また、処理部13は、後述するロール剛性係数算出処理(ステップS17)で必要となるパラメータの一部が取得されたか否かを示すフラグ(以下、ロール剛性係数算出パラメータ一部取得フラグと称する。)F5を“ON”(一部のパラメータである内圧PLa,PRa及び変位ZLa,ZRaを取得済。)に設定して(ステップS8)、ステップS9に進む。
一方、上記のステップS4において車高調整開始時の移動平均取得可能フラグF3=“OFF”が成立した時には、処理部13は上記のステップS5〜S8を実行せずステップS9に進む。これは、図4に示したステップS43及びS46で初動処理がが実行されなかった場合(すなわち、車高調整開始時の内圧及び変位が取得されなかった場合)に相当する。
【0044】
そして、ステップS9では、処理部13は、ロール剛性係数算出パラメータ一部取得フラグF5が“ON”であるか否かを判定する。
この結果、ロール剛性係数算出パラメータ一部取得フラグF5=“OFF”(パラメータ未取得)が成立した時、処理部13は、本発明特有の処理(車高調整非実行時のロール角φ2esを推定し、補正後ロール角φAMDを算出する処理(4))は実行する必要がないため、ステップS10に進んで、下記の式(5)に従い、予め“0”に初期化された補正ロール角(車高調整により失われたロール角) φ2offを、図1に示したロール角・ロール角速度検出部21から受信した検出ロール角φに加算して得た補正後ロール角φAMDを(すなわち、検出ロール角φをそのまま)横転危険度判定部22に与える。
【0045】
【数5】

【0046】
一方、上記のステップS9においてロール剛性係数算出パラメータ一部取得フラグF5=“ON”が成立した時には、処理部13は、さらにロール剛性係数算出パラメータ全取得フラグF6が“ON”であるか否かを判定する(ステップS11)。
ここで、上記のロール剛性係数算出パラメータ全取得フラグF6はロール剛性係数算出処理(ステップS17)で必要となるパラメータの全てが取得されたか否かを示すものであり、下記の処理(3)が実行された際に“ON”(全パラメータ取得済)に設定される。このため、ロール剛性係数算出パラメータ全取得フラグF6=“OFF”であれば、処理部13は、処理(4)を実行せず、上記のステップS10を実行して検出ロール角φをそのまま横転危険度判定部22に与える。
【0047】
(3)車高調整終了時の変位・内圧移動平均取得処理:図2
上記の処理(2)の後に車高調整が終了した時(車高調整装置30から車高調整終了信号SGFを受信した時)、処理部13は、図2のステップS12に示すように車高調整終了時点から一定期間tが経過するのを待機する。これは、上記の処理(1)で車高調整終了後の安定した内圧及び変位を用いて内圧移動平均及び変位移動平均を算出させるためである。
【0048】
一定期間tが経過した時、処理部13は、車高調整終了時の移動平均取得可能フラグF4が“ONであるか否かを判定する(ステップS13)。
この時点では上記のステップS7を経由しているため、車高調整終了時の移動平均取得可能フラグF4=“ON ”が成立し、処理部13は、上記の処理(1)により更新された移動平均PLav、PRav、ZLav、及びZRavを、それぞれ車高調整終了時の内圧PLb,PRb及び変位ZLb,ZRbとして取得する(ステップS14)と共に、移動平均取得可能フラグF4を“OFF”(取得済)に設定する(ステップS15)。
【0049】
また、処理部13は、後述するロール剛性係数算出処理(ステップS17)で必要となるパラメータが全て取得されたと判断し、ロール剛性係数算出パラメータ全取得フラグF6を“ON”(全パラメータ取得済)に設定する(ステップS16)。
これにより、ロール剛性係数算出パラメータ一部取得フラグF5及びロール剛性係数算出パラメータ全取得フラグF6が共に“ON”となるため、上記のステップS9及びS11の処理を経由して下記のステップS17以降の処理(4)が実行されることとなる。
【0050】
以降、上記のステップS13において移動平均取得可能フラグF4=“OFF ”が成立するため、上記のステップS14によるデータ取得は実行されない。これは、ロール剛性係数算出処理の実行後には移動平均PLav、PRav、ZLav、及びZRavの取得が不要であるからである。
(4)車高調整非実行時のロール角算出処理:図2及び図5〜9
上記の処理(3)の後、処理部13は、図2のステップS17に示すように車両1に固有のロール剛性係数Kφ13を算出する処理(図6参照。)を実行する。
【0051】
まず、ロール剛性係数Kφ13の定義を、図5を参照して以下に説明する。
図5に示す如く車両1に荷物偏積(或いは一定の遠心加速度)によるロールモーメントMxが生じているとすると、車両1の前輪側(車高調整の対象とならないサスペンション5L及び5R側)におけるロールモーメントの釣り合いの式は、下記の式(6)で表すことができる。
【0052】
【数6】

【0053】
ここで、上記の式(6)中のKφ1、φ1、Kφ12、及びφ2は、それぞれ、設計条件等によって決定されるサスペンション5L及び5Rに共通の既知の固定ロール剛性係数、サスペンション5L及び5Rの変位差によって生じた未知の(測定しない)ロール角、荷物の材質やその固定状況によって変化する車両フレーム(図示せず)の未知の捩じり剛性係数、及び車高調整の対象となる後輪側のサスペンション3L及び3Rの変位差によって生じた測定可能なロール角である。
【0054】
また、サスペンション3L及び3R側におけるロールモーメントの釣り合いの式は、下記の式(7)で表すことができる。
【0055】
【数7】

【0056】
ここで、上記の式(7)中のMx2及びKφ2は、それぞれ、車高調整に伴ってサスペンション3L及び3Rにより生じた未知のロールモーメント、及び設計条件等によって決定されるサスペンション3L及び3Rに共通の既知の固定ロール剛性係数である。
上記の式(6)をロール角φ1について整理すると、下記の式(8)が得られる。
【0057】
【数8】

【0058】
この式(8)を上記の式(7)に更新し、荷物偏積によるロールモーメントMxについて整理すると、下記の式(9)が得られる。
【0059】
【数9】

【0060】
ここで、下記の式(10)に示す如く、ロール剛性係数Kφ1,Kφ2及びフレーム捩じり剛性係数Kφ12による車両固有のロール剛性係数Kφ13を定義し、上記の式(9)で表されるロールモーメントMxが荷物の積載条件が変化しない限り一定であることに着目すると、車高調整開始時におけるサスペンション3L及び3RによるロールモーメントMx2a及びその変位差によって生じるロール角φ2aと、車高調整終了時におけるロールモーメントMx2b及びロール角φ2bとには下記の式(11)に示す等号関係が成立する。
【0061】
【数10】

【0062】
【数11】

【0063】
上記の式(11)をロール剛性係数Kφ13について整理すると、下記の式(12)が得られる。
【0064】
【数12】

【0065】
すなわち、フレーム捩じり剛性係数Kφ12が如何なる値であっても、ロールモーメントMx2a及びMx2bとロール角φ2a及びφ2bとが分かればロール剛性係数Kφ13を求めることができる。
従って、まずロールモーメントMx2aを求めるために、処理部13は、上記の処理(2)(図2のステップS5)で取得した車高調整開始時の内圧PLa及びPRaから、サスペンション3L及び3Rに対する荷重FLa及びFRaを下記の式(13)に従って算出する(図6のステップS51)。
【0066】
【数13】

【0067】
ここで、上記の式(13)は、サスペンション3L及び3R自体が共通に呈する荷重−内圧特性を示す線形近似式(k及びmは設計条件等で決定される係数)であり、図7に示す如く、内圧PL及びPRから荷重FL及びFRがそれぞれ一意に特定される。
また、ロールモーメントMx2bを求めるために、処理部13は、上記の処理(3)(図2のステップS14)で取得した車高調整終了時の内圧PLb及びPRbから、サスペンション3L及び3Rに対する荷重FLb及びFRbを下記の式(14)に従って算出する(ステップS52)。
【0068】
【数14】

【0069】
そして、処理部13は、下記の式(15)に従い、上記のステップS51で算出した荷重FLa及びFRaを用いて車高調整開始時のサンペンション3L及び3RによるロールモーメントMx2aを算出し、上記のステップS52で算出した荷重FLb及びFRbを用いて車高調整終了時のサンペンション3L及び3RによるロールモーメントMx2bを算出する(ステップS53)。
【0070】
【数15】

【0071】
ここで、上記の式(15)中のtrdは、各サンペンション3L及び3R−ロールセンタ(図示せず)間の距離(トレッド長)である。
また、処理部13は、下記の式(16)に従い、上記の処理(2)で取得した車高調整開始時の変位ZLa及びZRaを用いてロール角φ2aを算出し、上記の処理(3)で取得した車高調整終了時の変位ZLb及びZRbを用いてロール角φ2bを算出する(ステップS54)。
【0072】
【数16】

【0073】
そして、処理部13は、上記のステップS53で算出したロールモーメントMx2a及びMx2bと、上記のステップS54で算出したロール角φ2a及びφ2bとを用い、上記の式(12)に従ってロール剛性係数Kφ13を算出する(ステップS55)。
この時、処理部13は、ロール剛性係数算出パラメータ一部取得フラグF5及びロール剛性係数算出パラメータ全取得フラグF6を共に“OFF”に設定する(ステップS56)。これは、ロール剛性係数Kφ13を一度だけ算出させるためである。
【0074】
以上のようにして上記の式(10)のロール剛性係数Kφ13が求められたが、本発明では、このロール剛性係数Kφ13を用いてさらに車高調整非実行時のロール角φ2esを求める必要がある。
ここで、図5に示した荷物偏積によるロールモーメントMxは車高調整の前後を問わず一定であるため、車高調整終了時のロールモーメントMx2b及びロール角φ2bと、車高調整非実行時のロールモーメント(trd(FLes−FRes))及びロール角φ2esとには下記の式(17)に示す等号関係が成立する。
【0075】
【数17】

【0076】
ここで、上記の式(17)中のFLes及びFResは、それぞれ、サスペンション3L及び3Rに対する車高調整非実行時の荷重である。
上記の式(17)は、下記の式(18)に示すサスペンション3L及び3Rに共通の荷重−変位特性の線形近似式を用い、下記の式(19)で表すことができる。
【0077】
【数18】

【0078】
【数19】

【0079】
ここで、上記の式(19)中のZLes及びZResは、それぞれ、車高調整非実行時のサスペンション3L及び3Rの変位である。定数bは変位ZLes及びZResの差分を取った時に消去されている。
また、上記の式(18)中の1次係数a及び定数bは、例えば図8に示すようにして実験等により予め複数個求めておく。すなわち、実験段階において、まず内圧Pを一定にした状態(すなわち、内圧PをP1,P2,…P7(P1<P2<…<P7)にそれぞれ固定した状態)でサスペンション3L又は3Rに対する荷重Fを順次変化させ、その時々の変位Zを計測する。これにより同図(1)に点線で示す実際の荷重−変位特性CF1〜CF7がプロットされる。
【0080】
この後、同図(1)に示すように変位特性CF1〜CF7をそれぞれ線形近似して、線形近似式EXP1(荷重F=1次係数a1・変位Z+定数b1)、EXP2(F=a2・Z+b2)、EXP3(F=a3・Z+b3)、EXP4(F=a4・Z+b4)、EXP5(F=a5・Z+b5)、EXP6(F=a6・Z+b6)、及びEXP7(F=a7・Z+b7)を得る。
同図(2)に示す表は、内圧Pと、上記の各線形近似式EXP1〜EXP7中の1次係数a1〜a7及び定数b1〜b7の値とをそれぞれ対応付けて記載したものである。図示の如く1次係数a及び定数bは内圧Pにそれぞれ比例する。これをグラフ上に示したものが図9(1)及び(2)であり、1次係数a及び定数bは、下記の式(20)で表される。
【0081】
【数20】

【0082】
一方、ロール角φ2esは、下記の式(21)で表すことができる。
【0083】
【数21】

【0084】
この式(21)を上記の式(19)に更新すると、下記の式(22)が得られる。
【0085】
【数22】

【0086】
上記の式(22)をロール角φ2esについて整理すると、下記の式(23)が得られる。
【0087】
【数23】

【0088】
この式(23)は、車高調整非実行時のロール角φ2esが、図6に示したステップS53で算出した車高調整終了時のサスペンション3L及び3RによるロールモーメントMx2bと、ステップS54で算出した車高調整終了時のロール角φ2bと、ステップS55で算出したロール剛性係数Kφ13と、上記の式(20)中の1次係数aとから算出できることを示している。
従って、図2に戻って、処理部13は、まず車高調整終了時のサスペンション3L及び3Rの内圧PLb及びPRbを用いて1次係数aを選択する(ステップS18)。
【0089】
すなわち、上述した通り、車高調整装置30はサスペンション3L及び3Rの一方の内圧を加圧し、その加圧分だけ他方の内圧を減圧する。このため、内圧PLb及びPRb間の平均値(図示せず)は、車高調整非実行時のサスペンション3L及び3Rの内圧平均値に等しく、内圧PLb及びPRb間の平均値から車高調整非実行時の1次係数aを図8(2)のデータ表又は図9(1)のグラフから一意に特定することができる。
【0090】
なお、上記のステップS18において、車高調整開始時の内圧PLa及びPRaを用いて1次係数aを選択しても良い。
そして、処理部13は、上記のステップS18で選択した1次係数aを用い、上記の式(23)に従って車高調整非実行時のロール角φ2esを算出する(ステップS19)。
また、処理部13は、下記の式(24)に従い、ロール角φ2es及び車高調整終了時のロール角φ2bから補正ロール角φ2offを算出する(ステップS20)。
【0091】
【数24】

【0092】
このようにして算出した補正ロール角φ2offが、上記のステップS10(式(5))で検出ロール角φに加算され、以て補正後ロール角φAMDとして図1に示した横転危険度判定部22に与えられる。
以降、車高調整終了時の移動平均取得可能フラグF4が“OFF”(ステップS15)であり且つロール剛性係数算出パラメータ一部取得フラグF5及びロール剛性係数算出パラメータ全取得フラグF6が共に“OFF”(図6のステップS56)であるため、上記のステップS13→S9→S11→S10を経由する処理が繰り返し実行され、補正後ロール角φAMDが横転危険度判定部22に順次与えられることとなる。
【0093】
ロール角補正処理例[1]の連結車両への適用例:図10及び図11
また、ロール角推定装置10は、図1に示したような単体車両に限らず連結車両にも適用することができる。以下、連結車両への適用例を、図10及び図11を参照して説明する。
図10に示す車両1は、左右後輪2L及び2R並びに左右前輪4L及び4R付近にそれぞれサスペンション3L及び3R並びに5L及び5Rを設けたトラクタ100と、このトラクタ100にカプラ(図示せず)等を介して連結され、左右輪6L及び6R付近にそれぞれサスペンション7L及び7Rを設けたトレーラ200から成り、サスペンション3L及び3Rが車高調整(車高調整装置30によるエアAPの注入又は排出)対象となっている。
【0094】
このため、図1と同様のロール角推定装置10内の変位検出部11L及び圧力測定部12Lをサスペンション3Lに接続し、変位検出部11R及び圧力測定部12Rをサスペンション3Rに接続している。
この車両1においても、ロール角推定装置10内の処理部13は、上記の処理(1)〜(4)を実行して車高調整非実行時のロール角φ2es、補正ロール角φ2off、及び補正後ロール角φAMDを算出することができる。
【0095】
これを図11を参照して以下に説明する。
すなわち、図11に示す如く車両1全体に荷重偏積によるロールモーメントMxが生じているとすると、トラクタ100の前輪側(サスペンション5L及び5R側)におけるロールモーメントの釣り合いの式は、上記の式(6)で表すことができる。
一方、トラクタ100の後輪側(サスペンション3L及び3R側)におけるロールモーメントの釣り合いの式は、下記の式(25)で表すことができる。
【0096】
【数25】

【0097】
ここで、上記の式(25)中のKφ23及びφ3は、それぞれ、トレーラ200のフレーム捩じり剛性係数(荷物の材質や固定状況により変化する。)、及びトレーラ200側のサスペンション7L及び7Rの変位差によって生じた未知の(測定しない)ロール角である。
また、トレーラ200側(サスペンション7L及び7R側)におけるロールモーメントの釣り合いの式は、下記の式(26)で表すことができる。
【0098】
【数26】

【0099】
ここで、上記の式(26)中のKφ3は、設計条件等によって決定されるサスペンション7L及び7Rに共通の既知の固定ロール剛性係数である。
上記の式(25)に、上記の式(8)(式(6)をロール角φ1について整理したもの)を更新してロール角φ3について整理すると、下記の式(27)が得られる。
【0100】
【数27】

【0101】
上記の式(27)は、下記の式(28)に示す如く定義した係数K*φ1を用いて下記の式(29)で表すことができる。
【0102】
【数28】

【0103】
【数29】

【0104】
この式(29)を上記の式(26)に更新し、荷物偏積によるロールモーメントMxについて整理すると、下記の式(30)が得られる。
【0105】
【数30】

【0106】
ここで、上記の式(30)で表されるロールモーメントMxも上記の非連結車両の例と同様に荷物の積載条件が変化しない限り一定であることに着目すると、車高調整開始時におけるサスペンション3L及び3RによるロールモーメントMx2a及びその変位差によって生じるロール角φ2aと、車高調整終了時におけるロールモーメントMx2b及びロール角φ2bとには下記の式(31)に示す等号関係が成立する。
【0107】
【数31】

【0108】
この式(31)に、下記の式(32)に示す如くロール剛性係数Kφ1,Kφ2,Kφ3及びフレーム捩じり剛性係数Kφ12,Kφ23により定義した車両固有のロール剛性係数Kφ13を更新し、係数Kφ13について整理すると、下記の式(33)が得られる。
【0109】
【数32】

【0110】
【数33】

【0111】
すなわち、ロール剛性係数Kφ13は、図6のステップS55(式(12))と同様、車高調整開始時及び終了時におけるロールモーメントMx2a及びMx2bとロール角φ2a及びφ2bとから求めることができる。
また、上記の式(30)は、ロール剛性係数Kφ13を用いて下記の式(34)で表すことができる。
【0112】
【数34】

【0113】
上記の式(34)の左辺は同一の積載条件下においては変化せず一定であるため、図10に示した車両1においても、上記の式(17)に示した車高調整終了時のロール角φ2b及びロールモーメントMx2bと、車高調整非実行時のロールモーメント(trd(FLes−FRes))及びロール角φ2esとにロール剛性係数Kφ13を用いた等号関係が成立する。
従って、処理部13は、図2のステップS19(式(23))、S20(式(24))、及びS10(式(5))の処理を順に実行することにより、車高調整非実行時のロール角φ2es、補正ロール角φ2off、及び補正後ロール角φAMDを算出することができる。
【0114】
なお、上記の実施例では、ロール角推定装置10が補正後ロール角φAMDを算出して横転危険度判定装置20に利用させる場合を扱ったが、車高調整非実行時のロール角φ2es、又は補正ロール角φ2offを横転危険度判定装置20に利用させるようにすることもできる。
このように、連結車両の場合も、非連結車両と同様に、上記の動作例[1]を適用することが出来る。

ロール角補正処理例[2]:図12〜図14
上記のロール角補正処理例[1]及び[2]の場合には、補正ロール角が一度でも計算されると、図4に示す初動処理(ステップS2)において、フラグF1がOFFとなる(ステップS49)ので、エンジンを起動しない限り(フラグF1がONとならない限り)、補正ロール角は再計算されないこととなる。
【0115】
すなわち、荷物の積み下ろしは、エンジン停止時だけでなく、頻度は少ないがエンジンを掛けながら行う場合や、車高調整の途中で更に荷物が積み増されたり下ろされたりする荷重変動の場合もあるが、かかる場合は適切なロール角の補正計算ができないこととなるので、積荷の変化を予測して補正ロール角を再計算する必要がある。
そこで、本動作例[2]では、フラグF1がOFFとなった場合には、図12に示すように必ずリセット処理(ステップS200)を実行し、図13に示すような、一定の条件を満たす場合は、フラグF1のリセット(フラグF1の場合はONにすること。)及び車高中断タイマのリセットを行うようにしたものである。
【0116】
図13の処理フローを、図14に示すタイムチャートを参照して以下に説明する。
まず、図14(1)は、従来技術による自動車高調整過程を示したものであり、同(2)は、上記動作例[1]による自動車高調整過程を示したものである。同図(2)における状態a(t秒)は、初動処理(ステップS2)における車高調整開始時のデータ(内圧・変位)取得期間(図2の処理(2))を示し、状態bは、車高調整終了時のデータ取得期間(図2の処理(3))を示している。
【0117】
同図(3)に示す例は、同図(2)に従って既に一度補正ロール角を算出し、車高調整も終了しており、フラグF1はOFF(図12のステップS49)となっているので、この後は、図13に示すリセットルーチン(ステップS200)に入り、以下の処理を実行する。
(a)ステップS201→S204→S209:
まず車高変位ZR, ZLを読み込み、それぞれZRdiff2, ZLdiff2に代入し、それぞれ、前回のサンプリングによる車高変位ZRdiff1, ZLdiff1との差分ZRdiff,ZLdiffを算出する。この差分ZRdiff, ZLdiffは、実質的な車高の変化速度を示す。この場合、車高変位ZRdiff1, ZLdiff1の初期値としては標準車高変位を用いる。そして、車高変位ZRdiff2, ZLdiff2が標準と見做される所定の範囲(Dmax〜Dmin)に入っていれば、現在の車高変位ZRdiff2, ZLdiff2をZRdiff1,ZLdiff1にそれぞれ更新し、図12を経由して図2のメインルーチンに戻る。
【0118】
(b)ステップS204→S205→S210→S209:
荷物の積み増し等により、車高変位ZRdiff2, ZLdiff2が標準車高変位と見做せる範囲を逸脱した場合、車高調整装置30からの信号SGS又はSGに基づき車高調整途中であることが分かれば、車高変位の変化量ZRdiff,ZLdiffの絶対値│ZRdiff2|又は|ZLdiff2|が所定値Zdiff(サンプリング周期当たりの所定車高変位)以下の場合(すなわち、車高調整が終了した状態での積荷による車高変位の変化量=車高変化速度が小さい場合)には、そのまま車高変位ZRdiff2, ZLdiff2をZRdiff1,ZLdiff1にそれぞれ更新し、メインルーチンに戻る。
【0119】
(c)ステップS210→S211→S202→S209:
車高変位の変化量の絶対値│ZRdiff|又は|ZLdiff|が所定値Zdiffを超えた場合(すなわち、車高調整が終了した状態での積荷による車高変位の変化量=車高変化速度が大きい場合)には、t秒間(図12のステップS46)の状態aのデータ(内圧・変位)読込が終了していることを示すフラグF5がON(図2のステップS8)になっていれば、フラグF1-F6をリセット(フラグF1をONとし、フラグF2-F6をOFF)して、車高変位ZRdiff2, ZLdiff2をZRdiff1, ZLdiff1にそれぞれ更新し、メインルーチンに戻る。
【0120】
以上により、一度状態aでデータを読み込み、補正ロール角を算出した後でも、積荷変化による車高変位があったと見做せる場合には、初動フラグF1をONにするので、再度初動処理を実行する事が出来るようになる。
図14(4)に示す補正ロール角算出時(状態b)に積み増し等があった場合にも、同図(3)の場合と同様の流れとなる。
【0121】
同図(5)は、状態aのデータ読込完了後、車高調整中に積み増しがあった場合を示している。この場合も初動処理は一度実行されているので、以下のリセット処理を実行する。
(d)ステップS204→S209:
この場合は、図14(5)に示すように、車高変位ZRdiff2, ZLdiff2が標準車高変位と見做される所定の範囲に入っていることはなく、車高調整途上であれば、車高が降下中か上昇中かを判断し、下降中の場合には、車高変位の変化量ZRdiff, ZLdiffから、車高調整速度Zdcpm(固定データ)とサンプリング周期Δtとの積を減算し(これは、車高が下降中の固定変化量を差し引く必要があるためである。)、その絶対値(実質的に下降速度に相当する。)が所定値Zdiffより大きい場合には、積荷変化による車高変位であると見做し、フラグF1をONとし、フラグF2-F6をOFFとして、車高変位ZRdiff2, ZLdiff2をZRdiff1, ZLdiff1にそれぞれ更新し、メインルーチンに戻る。
【0122】
(e)ステップS206→S213→S209:
ステップS206で上昇中であることが分かった場合には、車高変位の変化量ZRdiff, ZLdiffから、車高調整速度Zdex(固定データ)とサンプリング周期Δtとの積を減算し(これは、車高が上昇中の固定変化量を差し引く必要があるためである。)、その絶対値(実質的に上昇速度に相当する。)が所定値Zdiffを超えている場合には、積荷変化による車高変位であると見做し、フラグF1をONとし、フラグF2-F6をOFFとして、車高変位ZRdiff2, ZLdiff2をZRdiff1, ZLdiff1にそれぞれ更新し、メインルーチンに戻る。所定値Zdiff以下の場合には、積荷変化による車高変位ではないものと見做し、そのまま、車高変位ZRdiff2, ZLdiff2をZRdiff1,ZLdiff1にそれぞれ更新し、メインルーチンに戻る。
【0123】
以上により、積荷変化による車高変位があったと見做せる場合には、再度、初動処理を実行する事が出来るようになる。
同図(6)は、状態aでデータを読み込むべく、移動平均更新処理中に車高変位があった場合を示している。この場合も初動処理は一度実行されているので、以下のリセット処理を実行する。
(b)ステップS204→S205→S210→S209:
この場合も車高変位ZRdiff2, ZLdiff2が標準車高変位と見做される所定の範囲に入っていることはないが、車高調整は停止中であるため、車高変位の変化量ZRdiff, ZLdiffの絶対値が所定値Zdiff以下の場合には、そのまま車高変位をZRdiff1, ZLdiff1にそれぞれ更新し、メインルーチンに戻る。
【0124】
(f)ステップS210→S212→S209:
車高変位の変化量の絶対値│ZRdiff|又は|ZLdiff|が所定値Zdiffを超えた場合には、状態aのデータ読込が終了していることを示すフラグF5はOFFになっているので、車高中断タイマをリセットし、車高変位ZRdiff2,ZLdiff2をZRdiff1, ZLdiff1にそれぞれ更新し、メインルーチンの移動平均更新処理(図2のステップS1)に戻る。
【0125】
こうすることにより、積荷に変化があったと見做される時点から、状態aのデータ読込のための移動平均更新処理に必要な時間を確保することができるよう車高調整再開のタイミングを遅らせる状態a’を設ける事が出来る。
このように、エンジンのON/OFFに関わらず、積荷状態に変化があった場合でも、その変化に応じて的確な横転危険度の判定と減速制御を行ない車両の横転を抑止できる。更に、エア抜け等による積荷変化がない場合で、ゆっくり車高が変化し、補正ロール角を再計算する必要のない車高調整の場合には、再計算しないことにより、的確な横転危険度の判定が可能となる。
【0126】
この処理例[2]も、上記の非連結車両及び連結車両のいずれにも適用することが出来る。

ロール角補正処理例[3]:図15及び図16
上記のロール角補正処理例[1]では、自動車高調整開始時と終了時に測定した変位及び内圧値に基づいて補正ロール角を求めたが、これに限らず、本処理例[3]では、自動車高調整開始から終了までの間の任意の2つの時点で取得したデータに基づいて補正ロール角を求めるものである。
【0127】
図1に示すロール角推定装置における処理部13の本処理例による具体的な動作は以下の通りである。
まず、図示されてはいないが、車両始動時(イグニッションオン時)システムは初期化されオフセットロール角φ2offは、“0”(ゼロ)にリセットされる。
次に図15において、処理をスタートした後、まず、ステップS301に示すバターワースフィルタ処理に入る。このバターワースフィルタ処理は、各センサの出力信号からノイズを除去して正常且つ安定した出力信号を処理部13の入力信号とするためのものであり、図2に示した移動平均処理ステップS1及び初動処理ステップS2の双方を包含する処理である。
【0128】
このバターワースフィルタ処理では、まず、図16(1)に示すようにステップS320にて左右輪圧力PL, PR及び左右輪変位ZL, ZRを取得する。
次にステップS321において、バターワースフィルタ処理後の各センサ出力値PLfilter, PRfilter, ZLfilter, ZRfilterを得た後、図15に於けるステップS301に戻る。
次に、ステップS302に移り、車高調整が終了している(車高調整が実施されていない)場合にはステップS312において第1データ未取得フラッグF10をオンにし、ステップS306において上記の式(5)に基づき、現時点でのロール角φとオフセットロール角φ2offから補正後のロール角φAMDを計算しスタートに戻る。
【0129】
次に、積荷に変化が生じた場合には、車高調整装置30が通常の車高調整を開始する。この場合、処理部13は、ステップS301においてバターワースフィルタ処理を行った後、ステップS302にて車高調整中である為、ステップS303に進み第1データ未取得フラッグF10がオンか否かを判定する。オンであった場合には、第1の時点でのデータは未取得であると判断し、ステップS304に進み、バターワースフィルタ処理後の各センサ出力値PLfilter, PRfilter, ZLfilter, ZRfilterを第1の時点のデータPLa, PRa, ZLa, ZRaとして読み込み、ステップS305にて第1データ未取得フラッグF10をオフに設定し、ステップS306に進んで補正ロール角φAMDを上記の式(5)に基づいて計算しスタートに戻る。なお、第1の時点は、車高調整開始時ではなく、車高調整開始時の一定時間前から所定時間経過した時点としてもよい。
【0130】
そして、車高調整が引き続き実施されている場合には、ステップS301、ステップS302を経て、ステップS303に進み、この時には第1データ未取得フラッグF10がオフになっているので、ステップS307に進み、バターワースフィルタ処理後の各センサ出力値PLfilter, PRfilter, ZLfilter, ZRfilterを第2の時点でのデータPLb, PRb, ZLb, ZRbとして読み込み、ステップS308のロール剛性係数算出処理に進む。なお、この第2の時点は、第1の時点以後の異なる時点であれば、車高調整終了時又はその一定時間後までの任意の時点でよい。
【0131】
ステップS308に入ると、図16(2)に示すようにステップS330にて図7に示す特性を示す上記の式(13)に基づき、PLa, PRaから輪荷重FLa, FRaを算出する。
次にステップS331に移り同様に図8(1)及び(2)に示す特性とPLb, PRbから、上記の式(14)に基づき、輪荷重FLb, FRbを算出する。次にステップS332において上記の式(15)に従って、FLa, FRa, FLb, FRbとトレッドtrdとから第1及び第2のロールモーメントMx2a, Mx2bを算出する。
【0132】
次にステップS333に移り、トレッドtrdと第1及び第2の左右変位ZLa, ZRa, ZLb, ZRbから上記の式(16)により第1及び第2のロール角φ2a2bを求め、ステップS334において、上記の式(12)に基づき第1及び第2のロールモーメントMx2a, Mx2b及び第1及び第2のロール角φ2a2bからロール剛性係数Kφ13を算出し、図15のステップS308に戻り、ステップS309に進む。
【0133】
ステップS309では、図9(1)に示す特性と第2の左右圧力PLb, PRbとから係数aを選択し、ステップS310に移り、上記の式(23)により推定ロール角φ2esを算出する。
更にステップS311に進み、上記の式(24)に基づき、補正ロール角φ2offを算出し、ステップS306に進み、補正後のロール角φAMDを式(5)に基づいて計算しスタートに戻る。
【0134】
なお、本処理例[3]は、処理例[1]と同様にして処理例[2]にも適用されると共に、上記の非連結車両及び連結車両のいずれにも適用することが出来る。

ロール角補正処理例[4]:図17〜図19
エアサス車両において、空車状態から突然、かなりの重量の積荷を積載した場合、サスペンションがフルバンプし、バンプラバーとエアバネの両方でその荷重を分担する状況が発生する可能性がある。
すなわち、図17はエアサスペンション3R(又は3L)(図1参照。)を車両右側面から見た場合の概略断面図であり、エアサスペンションの場合、通常の金属バネ5R(5L)を使ったサスペンションに較べてバネ定数が小さい為、極端に重い荷物を積んだ場合には、同図(1)に示す車高最高位状態から同図(2)に示すように、車高(フレームFRの高さ)が下がり切り、バンプラバーBRがアスクルAXLに当たるという状態(フルパンフ゜状態)が発生する可能性がある。
【0135】
このとき、積荷荷重FLoadはエアサスペンション反力(荷重)FRa、及び、バンプラバー反力(荷重)FRaxによって分担される。
【0136】
【数35】

【0137】
しかしながら、前述した図2のロール角補正処理においては、バンプラバーの接触を考慮していない為、
【0138】
【数36】

【0139】
として計算を進めており、従って、次式に示すように、バンプラバーBRの分担荷重分だけ少ないエアサスペンション荷重で推定していることになる。
【0140】
【数37】

【0141】
車両の設計仕様から、バンプラバーBRがアスクルAXLに接触する車高(エアサス)変位の範囲(ZLim)は予め限定できる為、変位検出部11R(又は11L)の出力から該変位がこの範囲に入った場合には、同図(1)に示すようにバンプラバーBRがアスクルAXLから離れた状態になるまで、車高をアップし、そこで、図4に示した初動処理と同様に所定の時間だけ車高調整を中断し、エアサスペンション3R(3L)の内圧及び変位のサンプリングを行なった後、自動車高調整を再開し、自動車高調整を完了させることで、精度良く補正ロール角を算出することが可能となる。
【0142】
具体的には、図2に示したロール角補正処理において、初動処理(ステップS2)の代わりに、図18に示すようなフルバンプ処理サブルーチン(ステップS100)を挿入する。
このフルバンプ処理サブルーチンでは、図19に示すように左右の車高(エアサス)変位ZL, ZRの何れかが上記の範囲ZLim以下、つまりアスクルAXLがバンプラバーBRに接触している範囲(フルバンプ状態)にあると判断された場合(ステップS101, S102の“NO”)には、フルバンプフラグをONにした後(ステップS109)、図18のロール角補正ルーチンに戻る。
【0143】
次に、従来から用いられている自動車高調整システムの基本機能により上記のフルバンプ状態が検知されて自動車高調整が行なわれ、左右の車高変位ZL,ZRが共にZLimより大きくなった場合には、フルバンプフラグを確認した後(ステップS103)、ONの場合には、自動車高調整システムに車高調整中断の指示を出す(ステップS104)。
自動車高調整が中止され、データサンプリングに必要な時間t[sec.]が経過した後(ステップS105)、自動車高調整システムに車高調整再開指示を出し(ステップS106)、フルバンプフラグをOFFにし(ステップS107)、検出フラグF4をONにして(ステップS108)、図18のロール角補正ルーチンに戻る。
【0144】
一方、フルバンプフラグがOFFであった場合(ステップS103)には、既にバンプラバーBRの接触のない状態で適切な車高と内圧データが取得できていると判断し、そのままロール角補正ルーチンに戻る。
このようにして、車高調整機構付の車両に於いて、積荷により、サスペンションがフルバンプした場合においても、的確な横転危険度の判定と減速制御を行なうことが可能となる。
【0145】
この動作例[4]も、上記の非連結車両及び連結車両のいずれにも適用することが出来る。

ロール角補正処理例[5]:図20及び図21
図17に示したバンプラバーBRの荷重-変位特性は図20に示すように、フルバンプ状態前(変位ZLa, ZRa<ZLim)は、荷重FRax,FLax =“0”で、フルバンプ状態後(変位ZLa, ZRa≧ZLim)は、急激に荷重FRax,FLax が立ち上がる特性となっている。なお、図中の0点は、車高が最高位置にある点を示す。
【0146】
この特性を変位ZLa, ZRaの関数fRbまたはマップとして記憶しておけば、変位ZLa, ZRaから荷重FRax, FLaxを推定できると考えられる。エアサスペンションとバンプラバーは並列に配置されていることを考慮すれば、式(15)における車高調整開始時のロールモーメントMx2aは下記の式(38)で求める事ができる。
【0147】
【数38】

【0148】
但し、ここで、tRbは、図17に示すように、バンプラバーBRの取り付け幅(車両中心からバンプラバー取り付け点までの距離)を表している。また、このロールモーメントMx2aは車高調整開始時のものであり(上記の通り“a”がそれを示している。)、車高終了時(上記のとおり“b”で示す。)には関係しない。この式は、フルバンプ状態の有無に関らず常に適用されていることを示している。
【0149】
従って、図2におけるロール剛性係数Kφ13の算出処理(ステップS17)は、図21に示す如く、図6のステップS53の代わりにステップS53`において車高調整開始時のロールモーメントMx2a として上記の式(38)を用いるとともに、車高調整終了時のロールモーメントMx2bは、式(15)と同一である。また、ステップS54は図6の場合と同様に、車高調整開始時も終了時もロール角φ2a、φ2a を用いる。その他は図6と同様である。
【0150】
なお、この処理例[5]は、上記の処理例[4]と組み合わせてもよい。また、この処理例[5]は、上記の非連結車両及び連結車両のいずれにも適用することが出来る。
このように積荷重心高が異なるなど車両の横転限界が異なる場合でもバンフラバーのバンプ状態に応じた的確な横転危険度の判定と減速制御を行なうことができる。

ロール角補正処理例[6]:図22
上記の処理例[4]及び[5]では、自動車高調整開始時と終了時に測定した変位及び内圧値に基づいて補正ロール角を求めたが、これに限らず、本処理例[6]では、自動車高調整開始から終了までの間の任意の2つの時点で取得したデータに基づいて補正ロール角を求めるものである。
【0151】
この処理例[6]では、図15に示した処理例[1]の変形例である処理例[3]において、図18及び図19に示したフルバンプ処理S100を加えたものである。
すなわち、バターワースフィルタ処理S301は、上述したように各センサの出力信号からノイズを除去して正常且つ安定した出力信号を処理部13の入力信号とするためのものであり、図2に示した移動平均処理ステップS1及び初動処理ステップS2の双方を包含する処理であるが、上記の処理例[4]及び[5]の場合にはフルバンプ処理が含まれているので、本処理例[6]においても同じフルバンプ処理S100が行われている。なお、このフルバンプ処理には、一定の初動処理が含まれている。
【0152】
このロール角補正処理例[6]は、上記の非連結車両及び連結車両のいずれにも適用することが出来る。
なお、上記実施例によって本発明は限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づき、当業者によって種々の変更が可能なことは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0153】
【図1】本発明に係る車両のロール角推定方法及び装置の実施例、並びにその利用例を示したブロック図である。
【図2】本発明に係る車両のロール角推定方法及び装置の実施例に用いる処理部のロール角補正処理例[1]を示したフローチャート図である。
【図3】本発明に係る車両のロール角推定方法及び装置の実施例に用いる処理部の移動平均更新処理例を示したフローチャート図である。
【図4】本発明に係る車両のロール角推定方法及び装置の実施例に用いる処理部の初動処理例を示したフローチャート図である。
【図5】車両に生じるロールモーメントの一例を示した図である。
【図6】本発明に係る車両のロール角推定方法及び装置の実施例に用いる処理部のロール剛性係数算出処理例を示したフローチャート図である。
【図7】本発明に係る車両のロール角推定方法及び装置の実施例に用いるサスペンションの荷重−変位特性例を示したグラフ図である。
【図8】本発明に係る車両のロール角推定方法及び装置の実施例に用いるサスペンションの荷重−内圧特性例を示した図である。
【図9】本発明に係る車両のロール角推定方法及び装置の実施例に用いるサスペンションの内圧と変位特性係数の関係を示したグラフ図である。
【図10】本発明に係る車両のロール角推定方法及び装置の連結車両への適用例を示したブロック図である。
【図11】連結車両に生じるロールモーメントの例を示した図である。
【図12】本発明に係る車両のロール角推定方法及び装置の実施例に用いる処理部のロール角補正処理例[2]における初動処理にリセット処理を組み込んだ例を示したフローチャート図である。
【図13】図12に示したリセット処理の具体的なフローチャート図である。
【図14】図12及び図13に示したリセット処理を説明したタイムチャート図である。
【図15】本発明に係る車両のロール角推定方法及び装置の実施例に用いる処理部のロール角補正処理例[3]を示したフローチャート図である。
【図16】図13の処理例[3]で用いられるバターワースフィルタ処理及びロール剛性係数算出処理を示したフローチャート図である。
【図17】本発明に係る車両のロール角推定方法及び装置の実施例におけるフルバンプ処理を説明するための車両の概略側面断面図である。
【図18】本発明に係る車両のロール角推定方法及び装置の実施例に用いる処理部のフルバンプ処理を組み込んだロール角補正処理[4]を示すフローチャート図である。
【図19】図18に示すフルバンプ処理の具体例を示したフローチャート図である。
【図20】車両に設けられているバンプラバーの荷重―変位特性を示すグラフ図である。
【図21】本発明に係る車両のロール角推定方法及び装置の実施例に用いる処理部のロール角補正処理例[5]におけるロール剛性係数算出処理の具体例を示したフローチャート図である。
【図22】本発明に係る車両のロール角推定方法及び装置の実施例に用いる処理部のロール角補正処理例[6]を示したフローチャート図である。
【符号の説明】
【0154】
1 車両
3L, 3R, 5L, 5R, 7L, 7R サスペンション
10 ロール角推定装置
11L,11R 変位検出部
12L, 12R 圧力測定部
13 処理部
20 横転危険度判定装置
21 ロール角・ロール角速度検出部
22 横転危険度判定部
30 車高調整装置
Z, ZL, ZLa, ZLb, ZR, ZRa,ZRb エアバネ変位
ZLav, ZRav 変位移動平均
P, PL, PLa, PLb, PR, PRa,PRb エアバネ内圧
PLav, PRav 内圧移動平均
φ 検出ロール角
φ2a 車高調整開始時のロール角
φ2b 車高調整終了時のロール角
φ2es 車高調整非実行時のロール角
φ2off 補正ロール角
φAMD 補正後ロール角
Kφ1, Kφ2, Kφ3, Kφ13 ロール剛性係数
Kφ12, Kφ23 フレーム捩じり剛性係数
Mx2 サスペンションによるロールモーメント
Mx2a 車高調整開始時のサスペンションによるロールモーメント
Mx2b 車高調整終了時のサスペンションによるロールモーメント
Mx 荷物偏積によるロールモーメント
CF1〜CF7 荷重−変位特性
EXP1〜EXP7 線形近似式
a 1次係数
b 定数
INS1 車高調整中断指示信号
INS2 車高調整再開指示信号
SGS 車高調整開始信号
SGF 車高調整終了信号
AP エア
図中、同一符号は同一又は相当部分を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一の荷重−変位特性及び荷重−内圧特性を有し、且つ自動車高調整の対象となる一部の左右サスペンションの自動車高調整開始時の一定時間前から終了時の一定時間後までの任意の異なる2つの時点の各々において測定された変位及び内圧値から、それぞれ第1及び第2のロール角と該左右サスペンションによる第1及び第2のロールモーメントとを算出する第1ステップと、
該第1及び第2のロール角並びに該第1及び第2のロールモーメントから、該サスペンションを装着した車両固有のロール剛性係数を算出する第2ステップと、
該サスペンションが示し得る内圧値をパラメータとして予め求めた複数個の荷重−変位特性の内、該左右サスペンションの測定内圧平均値に対応する荷重−変位特性を、該自動車高調整が行われなかった場合の該左右サスペンションに共通の荷重−変位特性として選択する第3ステップと、
該第2のロール角及びロールモーメント、該ロール剛性係数、並びに該選択した荷重−変位特性に基づき該自動車高調整が行われなかった場合のロール角を求める第4ステップと、
を備えたことを特徴とする車両のロール角推定方法。
【請求項2】
請求項1において、
該第1ステップが、該第1の時点から一定期間だけ該自動車高調整を中断させる第5ステップと、該一定期間内に測定された該左右サスペンションの変位及び内圧値から該第1のロール角及びロールモーメントを算出する第6ステップとを含むことを特徴とした車両のロール角推定方法。
【請求項3】
請求項2において、
該第6ステップが、該一定期間内に測定された該左右サスペンションの変位及び内圧値の各移動平均を求め、各移動平均から該第1のロール角及びロールモーメントを算出するステップを含むことを特徴とした車両のロール角推定方法。
【請求項4】
請求項1において、
該第1ステップが、該第2の時点から一定期間内に測定された該左右サスペンションの変位及び内圧値の各移動平均を求め、各移動平均から該第2のロール角及びロールモーメントを算出するステップを含むことを特徴とした車両のロール角推定方法。
【請求項5】
該第1ステップが、該測定された変位及び内圧値をバターワースフィルタ処理するステップを含むことを特徴とした車両のロール角推定方法。
【請求項6】
請求項1において、
該第4ステップで求めた該自動車高調整が行われなかった場合のロール角から該第2のロール角を減算することにより、該自動車高調整による補正ロール角を求める第5ステップをさらに備えたことを特徴とする車両のロール角推定方法。
【請求項7】
請求項6において、
該第2の時点以降のロール角を順次検出する第6ステップと、該検出したロール角に該補正ロール角を加算する第7ステップとをさらに備えたことを特徴とする車両のロール角推定方法。
【請求項8】
請求項1において、
該第1ステップは、該第1の時点に該測定した変位がバンプラバーに接触する位置まで車高が下がったことを示した時、一定期間だけ該自動車高調整を中断させ、該一定期間内に測定された該左右サスペンションの変位及び内圧値から該第1のロール角及びロールモーメントを算出するステップを含むことを特徴とした車両のロール角推定方法。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1つにおいて、
該第1ステップが、該第1のロールモーメントを算出するときに、予め記憶したバンプラバーによる荷重−車高変位特性に基づき該測定した変位から荷重を求めて該バンプラバー位置でのロールモーメントを加算するステップを含むことを特徴とした車両のロール角推定方法。
【請求項10】
請求項2において、
該変位が標準範囲を超えており、非車高調整中における該変位の変化量の絶対値、又は車高調整中における該変位の変化量の絶対値が、積荷変動による車高変化と見做せる値の時、該一定期間以外の別の一定期間だけ該自動車高調整を中断させ、該別の一定期間内に測定された該左右サスペンションの変位及び内圧値から該第1のロール角及びロールモーメントを算出するステップを含むことを特徴とした車両のロール角推定方法。
【請求項11】
請求項2において、
該変位が標準範囲を超えており、非車高調整中における該変位の変化量の絶対値が、積荷変動による車高変化と見做せる値の時、該内圧及び変位が取得できていなければ、該一定期間をリセットするステップを含むことを特徴とした車両のロール角推定方法。
【請求項12】
同一の荷重−変位特性及び荷重−内圧特性を有し、且つ自動車高調整の対象となる一部の左右サスペンションの自動車高調整開始時の一定時間前から終了時の一定時間後までの任意の異なる2つの時点の各々において測定された変位及び内圧値から、それぞれ第1及び第2のロール角と該左右サスペンションによる第1及び第2のロールモーメントとを算出する第1算出部と、
該第1及び第2のロール角並びに該第1及び第2のロールモーメントから、該サスペンションを装着した車両固有のロール剛性係数を算出する第2算出部と、
該サスペンションが示し得る内圧値をパラメータとして予め求めた複数個の荷重−変位特性の内、該左右サスペンションの測定内圧平均値に対応する荷重−変位特性を、該自動車高調整が行われなかった場合の該左右サスペンションに共通の荷重−変位特性として選択する選択部と、
該第2のロール角及びロールモーメント、該ロール剛性係数、並びに該選択した荷重−変位特性に基づき該自動車高調整が行われなかった場合のロール角を求めるロール角決定部と、
を備えたことを特徴とする車両のロール角推定装置。
【請求項13】
請求項12において、
該第1算出部が、該第1の時点から一定期間だけ該自動車高調整を中断させる指示部と、該一定期間内に測定された該左右サスペンションの変位及び内圧値から該第1のロール角及びロールモーメントを算出する第3算出部とを含むことを特徴とした車両のロール角推定装置。
【請求項14】
請求項13において、
該第3算出部が、該一定期間内に測定された該左右サスペンションの変位及び内圧値の各移動平均を求め、各移動平均から該第1のロール角及びロールモーメントを算出する算出部を含むことを特徴とした車両のロール角推定装置。
【請求項15】
請求項12において、
該第1算出部が、該第2の時点から一定期間内に測定された該左右サスペンションの変位及び内圧値の各移動平均を求め、各移動平均から該第2のロール角及びロールモーメントを算出する算出部を含むことを特徴とした車両のロール角推定装置。
【請求項16】
該第1算出部が、該測定された変位及び内圧値をバターワースフィルタ処理するバターワースフィルタを含むことを特徴とした車両のロール角推定装置。
【請求項17】
請求項12において、
該ロール角決定部で求めた該自動車高調整が行われなかった場合のロール角から該第2のロール角を減算することにより、該自動車高調整による補正ロール角を求める補正ロール角決定部をさらに備えたことを特徴とする車両のロール角推定装置。
【請求項18】
請求項12において、
該第2の時点以降のロール角を順次検出する検出部と、該検出したロール角に該補正ロール角を加算する加算部とをさらに備えたことを特徴とする車両のロール角推定装置。
【請求項19】
請求項12において、
該第1算出部は、該第1の時点に該測定した変位がバンプラバーに接触する位置まで車高が下がったことを示した時、一定期間だけ該自動車高調整を中断させ、該一定期間内に測定された該左右サスペンションの変位及び内圧値から該第1のロール角及びロールモーメントを算出する算出部を含むことを特徴とした車両のロール角推定装置。
【請求項20】
請求項12乃至19のいずれか1つにおいて、
該第1算出部が、該第1のロールモーメントを算出するときに、予め記憶したバンプラバーによる荷重−車高変位特性に基づき該測定した変位から荷重を求めて該バンプラバー位置でのロールモーメントを加算する加算部を含むことを特徴とした車両のロール角推定装置。
【請求項21】
請求項13において、
該第1算出部は、該変位が標準範囲を超えており、非車高調整中における該変位の変化量の絶対値、又は車高調整中における該変位の変化量の絶対値が、積荷変動による車高変化と見做せる値の時、該一定期間以外の別の一定期間だけ該自動車高調整を中断させ、該別の一定期間内に測定された該左右サスペンションの変位及び内圧値から該第1のロール角及びロールモーメントを算出する算出部を含むことを特徴とした車両のロール角推定装置。
【請求項22】
請求項13において、
該第1算出部は、該変位が標準範囲を超えており、非車高調整中における該変位の変化量の絶対値が、積荷変動による車高変化と見做せる値の時、該内圧及び変位が取得できていなければ、該一定期間をリセットする算出部を含むことを特徴とした車両のロール角推定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2009−227265(P2009−227265A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−312635(P2008−312635)
【出願日】平成20年12月8日(2008.12.8)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】