説明

車両の側部車体構造

【課題】サッシュ部の剛性確保と、視界の確保とを両立することができる車両の側部車体構造の提供を目的とする。
【解決手段】サッシュ部8は、車外側に位置する一方のフランジ13と、車内側に位置する他方のフランジ14とを有する複数のサッシュパネル10,11で形成されると共に、サッシュパネル10,11のフランジ同士が接合されて閉断面の中空部12を形成しており、一方のフランジ13には、ガラスラン9を取付ける取付部が設けられており、他方のフランジ14が該取付部とウエザストリップ20の周方向内側端部との間で車幅方向内側を向いて形成されたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アウタパネルとインナパネルとから成るドア本体の前後端から上方に延びてドアガラスを囲むサッシュ部と、サッシュ部に設けられてドアガラスに圧接されるガラスランと、車体側部のドア開口部の周囲に設けられて、ドアに当接するウエザストリップとを備えたような車両の側部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からドアガラスを昇降可能に受容するガラスランを設けるために、ドア本体の上部にドアサッシュ(サッシュ部)が設けられたドアが知られている。
上述のドアサッシュの成形方法は様々であるが、加工が容易で成形性、製産性に優れたロール成形によって該ドアサッシュが成形されるのが一般的である。
【0003】
しかし、近年においては、ドアそれ自体の剛性向上を目的として、アウタパネルとインナパネルとから成るドア本体に対してサッシュ部を一体で成形し、サッシュ部の剛性向上を図り、延いてはドア全体の剛性向上を確保する構造が採用されつつある。
この場合、サッシュ部には所定の閉断面を備え、この閉断面を備えることで、サッシュ部の剛性向上を図るものであるが、該閉断面を設けることによりサッシュ部の占有領域が大きくなるので、車室内への圧迫感や死角の増大に繋がることが懸念される。
【0004】
上述の車室内への圧迫感や死角の増大を低減させるために、サッシュ部の閉断面を小さくすると、サッシュ部の充分な剛性が確保できず、サッシュ部の剛性を確保するという本来の目的達成が損われるものである。
【0005】
ところで、特許文献1には、サッシュ部をドア本体のアウタパネルおよびインナパネルと一体形成した構造が開示されている。
すなわち、図8に示すように、ドア本体のアウタパネルと一体のサッシュアウタ81と、ドア本体のインナパネルと一体のサッシュインナ82とでサッシュ部83を構成し、サッシュアウタ81とサッシュインナ82との対向部間にチャンネル部84を取付けて、これら三者81,82,84間に閉断面85を形成すると共に、断面門形状のチャンネル部84内にはガラスラン86を配設したものである。
【0006】
この特許文献1に開示された従来構造においては、サッシュ部83のサッシュアウタ81およびサッシュインナ82が、ドア本体のアウタパネルおよびインナパネルと一体で、かつ、サッシュ部83が閉断面85を有するので、サッシュ部83の剛性向上を図ることができ、延いてはドア全体の剛性向上を確保することができる。
しかしながら、図8に示すように、チャンネル部84の車室内側片とサッシュインナ82の車室内側片とを接合したフランジ部87が図示の上下方向、詳しくは、ドアガラス88の前片、上片、後片の周囲を囲むサッシュ部83の周方向の内外方向に向くように形成されているので、このフランジ部87の延出長さに対応して視界が遮られ、サッシュ部83の剛性確保と視界の確保とを両立することができない問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−168757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、この発明は、サッシュ部を、車外側に位置する一方のフランジと、車内側に位置する他方のフランジとを有する複数のサッシュパネルで形成すると共に、該サッシュパネルのフランジ同士を接合して閉断面の中空部を形成し、一方のフランジにはガラスランを取付ける取付部が設けられ、他方のフランジが該取付部とウエザストリップの周方向内側端部との間で車幅方向内側を向いて形成されることで、中空部を形成したことによるサッシュ部の剛性確保と、他方のフランジが車幅方向内側を向いて形成されたことによる視界の確保とを、両立することができる車両の側部車体構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明による車両の側部車体構造は、車体側部に形成されたドア開口部と、該ドア開口部を開閉するドアとを有し、上記ドアが、アウタパネルとインナパネルとから形成されるドア本体と、該ドア本体の前後端から上方に延びてドアガラスの前片、上片、後片の周囲を囲むサッシュ部と、該サッシュ部に設けられて上記ドアガラスに圧接されるガラスランと、を備え、上記ドア開口部の周縁に、上記ドアに当接するウエザストリップが設けられた車両の側部車体構造であって、上記サッシュ部は、車外側に位置する一方のフランジと、車内側に位置する他方のフランジとを有する複数のサッシュパネルで形成されると共に、該サッシュパネルのフランジ同士が接合されて閉断面の中空部を形成しており、上記一方のフランジには、上記ガラスランを取付ける取付部が設けられており、上記他方のフランジが、該取付部と上記ウエザストリップの周方向内側端部との間で車幅方向内側を向いて形成されたものである。
【0010】
上記構成によれば、サッシュパネルのフランジ同士を接合して閉断面の中空部を形成したので、サッシュ部の剛性を確保することができる。
また、他方のフランジが車幅方向内側を向いて形成されたので、乗員の視界の確保を図ることができる。
要するに、サッシュ部の剛性確保と、視界の確保との両立を図ることができる。
【0011】
この発明の一実施態様においては、上記中空部が上記ガラスランと並列に設けられ、上記中空部の周方向内側面が上記ガラスランの車室側の周方向内側端と連続する位置に形成されたものである。
上記構成によれば、サッシュ部の閉断面の中空部を、ガラスランと並列に設け、該ガラスランと中空部とのそれぞれの周方向内側部を一致させたので、上記中空部の大きさを、乗員の視界を悪化させない範囲で最大限大きくすることができ、サッシュ部の剛性確保と、視界の確保とを高レベルで両立させることができる。
【0012】
この発明の一実施態様においては、上記ガラスランには、上記ドアガラスと摺接するリップ部が設けられ、該リップ部が周方向内外方向に互に離間して複数設けられたものである。
上記構成によれば、ガラスランのドアガラスと摺接するリップ部を、周方向内外方向に互に離間して複数設けたので、シール性の向上を図ることができ、車室内の静音性の確保と、ドアガラスの振動抑制を両立することができる。
【0013】
この発明の一実施態様においては、上記ドア開口部は、車体側部の外側面を形成するボディアウタパネルと、該ボディアウタパネルの車室内方側に設けられたボディインナパネルとによって形成されると共に、上記ボディアウタパネルと上記ボディインナパネルとによる接合部が全周にわたって形成されており、車幅方向内側を向いた上記他方のフランジ部の端部が、上記接合部の端部よりも周方向内側位置に設けられたものである。
上記構成によれば、ドア側のサッシュ部における他方のフランジ部の端部が、ボディ側の上記接合部の端部に対して、周方向内側位置に設けられたので、ドア閉時における該ドアのオーバランによる車体側との干渉を防止することができる。
【0014】
この発明の一実施態様においては、上記サッシュパネルが、上記ドア本体を形成する上記アウタパネルと上記インナパネルとで形成されたものである。
上記構成によれば、サッシュパネルをドア本体と一体形成したので、部品点数、組付け工数の削減を図り、しかも、サッシュ部の剛性向上乃至ドア全体の剛性向上を図ることができ、また、ドアガラスのがたつきを抑制することができると共に、ドア本体とサッシュ部との外観の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、サッシュ部を、車外側に位置する一方のフランジと、車内側に位置する他方のフランジとを有する複数のサッシュパネルで形成すると共に、該サッシュパネルのフランジ同士を接合して閉断面の中空部を形成し、一方のフランジにはガラスランを取付ける取付部が設けられ、他方のフランジが該取付部とウエザストリップの周方向内側端部との間で車幅方向内側を向いて形成されているので、上記中空部を形成したことによるサッシュ部の剛性確保と、他方のフランジが車幅方向内側を向いて形成されたことによる視界の確保とを、両立することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の側部車体構造を備えた車両の側面図
【図2】図1のA−A線矢視断面図
【図3】図1のB−B線矢視断面図
【図4】ドア開時の説明図
【図5】ガラスラン、サッシュ部、ウエザストリップおよびドアトリムの分解図
【図6】前方視界の改善状態を示すA−A断面対応図
【図7】図1のC−C線に沿う斜視図
【図8】従来の車両の側部車体構造を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
サッシュ部の剛性確保と、視界の確保との両立を図るという目的を、車体側部に形成されたドア開口部と、該ドア開口部を開閉するドアとを有し、上記ドアが、アウタパネルとインナパネルとから形成されるドア本体と、該ドア本体の前後端から上方に延びてドアガラスの前片、上片、後片の周囲を囲むサッシュ部と、該サッシュ部に設けられて上記ドアガラスに圧接されるガラスランと、を備え、上記ドア開口部の周縁に、上記ドアに当接するウエザストリップが設けられた車両の側部車体構造において、上記サッシュ部は、車外側に位置する一方のフランジと、車内側に位置する他方のフランジとを有する複数のサッシュパネルで形成されると共に、該サッシュパネルのフランジ同士が接合されて閉断面の中空部を形成しており、上記一方のフランジには、上記ガラスランを取付ける取付部が設けられており、上記他方のフランジが、該取付部と上記ウエザストリップの周方向内側端部との間で車幅方向内側を向いて形成されるという構成にて実現した。
【実施例】
【0018】
この発明の一実施例を以下図面に基づいて詳述する。
図面は車両の側部車体構造を示し、図1は車両の側面図、図2は図1のA−A線矢視断面図、図3は図1のB−B線矢視断面図、図4はドア開時の説明図であり、図中、矢印Fは車両の前方を示し、矢印OUTは車両の外方を示し、矢印UPは車両の上方を示す。
【0019】
図1において、車体側部にはドア開口部1が形成されており、フロントドア2およびリヤドア3は該ドア開口部1を開閉する。フロントドア2はその前部に位置するヒンジピラーに設けられたドアヒンジ(図示せず)を介して車体に開閉可能に取付けられており、リヤドア3はその前部に位置するセンタピラーに設けられたドアヒンジ(図示せず)を介して車体に開閉可能に取付けられている。
上述のフロントドア2は、図1、図7に示すように、ドアアウタパネル4とドアインナパネル5とから形成されるドア本体6と、該ドア本体6の前後両端から上方に延びてドアガラス7の前片、上片、後片の周囲を囲むサッシュ部としてのドアサッシュ8と、このドアサッシュ8に設けられて上述のドアガラス7に圧接されるガラスラン9(図2、図3、図4参照)と、を備えている。
【0020】
図2、図3に示すように、上述のドアサッシュ8はサッシュパネルとしてのサッシュアウタパネル10とサッシュインナパネル11とから構成されており、しかも、サッシュアウタパネル10はドア本体6を形成するドアアウタパネル4と一体形成され、サッシュインナパネル11はドア本体6を形成するドアインナパネル5と一体形成されている。
つまり、サッシュパネル(サッシュアウタパネル10およびサッシュインナパネル11)が、ドア本体6を形成するドアアウタパネル4とドアインナパネル5とで形成されたものであって、これにより、部品点数および組付け工数の削減を図るように構成している。
【0021】
図5に示すように、サッシュアウタパネル10はその車幅方向外側と車幅方向内側とにフランジ10a,10bを有し、同様に、サッシュインナパネル11はその車幅方向外側と車幅方向内側とにフランジ11a,11bを有し、サッシュアウタパネル10とサッシュインナパネル11とのフランジ10a,11a同士、およびフランジ10b,11b同士を接合して閉断面の中空部12と、車外側フランジ13と、車内側フランジ14と、を形成し、上記閉断面構造の中空部12により、サッシュ部としてのドアサッシュ8の剛性を確保すると共に、延いてはフロントドア2全体の剛性向上を図るように構成している。
【0022】
ドアサッシュ8について、さらに詳述すると、図5に示すように、サッシュアウタパネル10は、車外側に位置するフランジ10aと、該フランジ10aから車幅方向内方に延びる外壁10cと、この外壁10cに対して略直交方向に延びる縦壁10dと、この縦壁10dの端部から車幅方向内方に延びるフランジ10bと、を一体形成したものである。
【0023】
サッシュインナパネル11は、車外側に位置するフランジ11aと、該フランジ11aに対して略直交方向に延びる縦壁11cと、この縦壁11cの端部から車幅方向内方に延びる内壁11dと、この内壁11dに連続して車幅方向内方に延びるフランジ11bと、を一体形成したものである。
【0024】
また、上述の車外側フランジ13、車内側フランジ14のうちの一方のフランジとしての車外側フランジ13は、図2、図3に示すように、ガラスラン9を取付けるように中空部12から車幅方向外側に向けて形成されており、車外側フランジ13、車内側フランジ14のうちの他方のフランジとしての車内側フランジ14が、図2、図3に示すように、ガラスラン9の取付部(車外側フランジ13参照)と、後述するウエザストリップ20の周方向内側端部(図2においては後端、図3においては下端)との間で車幅方向内側を向いて形成されている。
【0025】
ところで、上述のドア開口部1は、図2、図3に示すように、車体側部の外側面を形成するボディアウタパネル15と、このボディアウタパネル15にレインフォースメント16を介して車室内方側に設けられたボディインナパネル17とによって形成されており、これら三者15,16,17による一方の接合部18と他方の接合部19とがドア開口部1の口縁に沿って形成されている。
そして、上述の接合部18にはドア開口部1の周囲に位置すべく、フロントドア2に当接するウエザストリップ20が設けられている。
【0026】
ここで、図1に示すように、車体側部においてはフロントピラー21に対して図1に点線αで示す部分からルーフサイド22が前後方向に連続するように形成されているので、図2で示したボディアウタパネル15はフロントピラーアウタとなり、ボディインナパネル17はフロントピラーインナとなる。
【0027】
また、図3で示したボディアウタパネル15はルーフサイドアウタとなり、ボディインナパネル17はルーフサイドインナとなる。
さらに、図2において上述の接合部19の前部(フロント側)およびボディアウタパネル15の前側段差部15aにおける車幅方向の内側には、シール部材23,24を介してフロントウインド25が配設され、このフロントウインド25は車室前方に位置している。一方、図3において上述の接合部19の上部には車室の上方に位置するルーフパネル26が取付けられている。
【0028】
上述のガラスラン9は、図2〜図5に示すように、上述の車外側フランジ13を圧入する凹溝9aと、ドアサッシュ8とボディアウタパネル15との間をシールするために車幅方向の内外方向に互に離間して複数設けられたリップ部9b,9cと、ドアガラス7の端部に当接するリップ部9dと、ドアガラス7の外面に摺接するリップ部9eと、ドアガラス7の内面の摺接し、該ドアガラス7の内側をシールするために周方向の内外方向に互に離間して複数設けられたリップ部9f,9gと、をゴム部材にて一体形成したものである。
【0029】
このように、構成したガラスラン9の車幅方向内側に対して上述の中空部12は並列に設けられており、図2、図3に示すように中空部12の周方向内側面としてのサッシュインナパネル11の内壁11dが、ガラスラン9の車室側の周方向内側端(図2の後端、図3の下端参照)と連続する位置に形成されている。
換言すれば、ガラスラン9のドアガラス7の内側をシールする複数のリップ部9f,9gのうち、最も周方向内方に位置するリップ部9fが、ドアサッシュ8の周方向内面部と略連続するように形成されたものである。
【0030】
図2、図3に示すように、ドアサッシュ8の車室側には、該ドアサッシュ8を車室側から覆って意匠面を形成するドアトリム30が設けられている。
すなわち、該ドアトリム30には、図5に示すように、クリップ31が合成樹脂材料にて一体形成され、このクリップ31と対向してサッシュインナパネル11の内壁11dには係止孔32が形成されている。そして、この係止孔32にクリップ31を係入することで、ドアトリム30をドアサッシュ8の車室側に配設するように構成している。
【0031】
また、該ドアトリム30には車内側フランジ14を覆いながら係止する係止部33が一体に形成されている。
ここで、上述のガラスラン9におけるリップ部9fの車幅方向外端部はドアガラス7の内面をシールするが、該リップ部9fの車幅方向内端部はドアトリム30の車幅方向外部においてその車室側の面に当接して、該面をシールするように形成されている。
【0032】
一方、図2、図3に示すように、車体側部の車室内側には、意匠面を形成するトリム部材が設けられている。このトリム部材は図2に示すフロントピラートリム40と、図3に示すルーフトリム50(いわゆるトップシーリング)とから構成されている。
なお、図1に示す点線αよりも前部にはトリム部材としてのフロントピラートリム40が配設され、同図に示す点線αよりも後部にはトリム部材としてのルーフトリム50が配設されるものである。
【0033】
ところで、車体側において、ボディアウタパネル15と、レインフォースメント16と、ボディインナパネル17との接合部18に取付けられたウエザストリップ20は、図2〜図5に示すように、U字部20aと、閉ループ部20bと、U字部20aの車室外側先端に形成されボディアウタパネル15に当接するリップ部20cと、U字部20aの車室内側先端から折り返し形成され接合部18の車室内側面に当接するリップ部20dと、を備えている。
しかも、このウエザストリップ20の閉ループ部20bの車外側には、中空部12、詳しくは、該中空部12を形成するサッシュアウタパネル10の外壁10cと縦壁10dとの間のコーナ部に当接する第1の当接部Xが形成されている。
【0034】
また、ウエザストリップ20の閉ループ部20bの車外側には、中空部12、詳しくは、該中空部12を形成するサッシュアウタパネル10の外壁10cと縦壁10dとの間のコーナ部に当接する第1の当接部Xが形成されている。
また、ウエザストリップ20の閉ループ部20b車外側には、車内側フランジ14に対応する位置、詳しくは、ドアトリム30の係止部33に当接してシールする第2の当接部Yが形成されている。そして、この第2の当接部Yと第1の当接部Xとは、互いに離間した位置に形成されている。
【0035】
さらに、ウエザストリップ20の閉ループ部20bの車内側端部から車幅方向内側に延びるトリムシール部Zが一体形成されており、このトリムシール部Zでトリム部材(図2に示すフロントピラートリム40と、図3に示すルーフトリム50)の車幅方向外側端部をシールするように構成している。
【0036】
また、図2、図3に示すように、車内側フランジ14の端部は、上記接合部18の端部よりも周方向内側位置(図2の後側位置、図3の下側位置参照)に設けられており、これにより、ドア閉時において、フロントドア2のオーバランによる車体側との干渉(いわゆる底付き接触)を防止するように構成している。
【0037】
さらに、図2、図3に示すように、ガラスラン9のリップ部9fと、ドアトリム30と、ウエザストリップ20と、該ウエザストリップ20のトリムシール部Zとが、可及的段差部を有さない状態で車幅方向に滑らかに連続するように構成されており、視界の確保と見栄えの向上との両立を図るように構成している。
加えて、図2、図3に示すように、ボディアウタパネル15と車外側フランジ13との間は、リップ部9b,9cによる複数箇所でシールされており、ドアガラス7の内面はガラスラン9のリップ部9f,9gによる複数箇所でシールされており、さらに、ドアサッシュ8と接合部18との間は、第1の当接部Xと第2の当接部Yにより複数箇所でシールされており、これら各所を上述の複数箇所でそれぞれシールすることにより、水の侵入防止、風切り音の低減、遮音性向上、静音性確保などのシール性の向上を図るように構成している。
また、ドアサッシュ8の意匠面を形成するトリム30が、ガラスラン9のリップ部9fとウエザストリップ20の第2の当接部Yとに当接されるので、トリムの振動による騒音も防ぐことができる。
【0038】
図6は前方視界の改善状態を示す平面図で、同図において、60はステアリングホイール、EPRはドライバの右側のアイポイント、EPLはドライバの左側のアイポイント、L1はフロントピラー21で妨害されることなく前方視認が可能な右側アイポイントEPRの視線の臨界線を示すライン、L2は、フランジ14を車幅方向内側に向けたこの実施例において、フロントピラー21で妨害されることなく前方視認が可能な左側アイポイントEPLの視線の臨界線を示すライン、L3は、図6に点線βで示すように、フランジ14をドアガラス7と略平行に配設した比較例において、フロントピラー21で妨害されることなく前方視認が可能な左側アイポイントEPLの視線の臨界線を示すラインである。
【0039】
図6において、ラインL1,L2間の開角θ1は、この実施例のフロントピラー21による視界妨害エリアを示し、ラインL1,L3間の開角θ2は、比較例のフロントピラー21による視界妨害エリアを示し、θ1<θ2となることから、この実施例では前方視界の改善を図ることができる。
なお、前方視界のみならず、上方視界の改善をも図ることができるので、図7において、乗員のアイポイントをEPで示し、ルーフサイド22で妨害されることなく上方視認が可能なアイポイントEPの視線の臨界線をラインLOで示している。
したがって、上方視界の改善による圧迫感の増大を防ぐことができる。
【0040】
このように、上記実施例の車両の側部車体構造は、車体側部に形成されたドア開口部1と、該ドア開口部1を開閉するドア(フロントドア2参照)とを有し、上記ドア2が、ドアアウタパネル4とドアインナパネル5とから形成されるドア本体6と、該ドア本体6の前後端から上方に延びてドアガラス7の前片、上片、後片の周囲を囲むサッシュ部(ドアサッシュ8参照)と、該サッシュ部(ドアサッシュ8参照)に設けられて上記ドアガラス7に圧接されるガラスラン9と、を備え、上記ドア開口部1の周縁に、上記ドア2に当接するウエザストリップ20が設けられた車両の側部車体構造であって、上記サッシュ部(ドアサッシュ8参照)は、車外側に位置する一方のフランジ13と、車内側に位置する他方のフランジ14とを有する複数のサッシュパネル(サッシュアウタパネル10、サッシュインナパネル11参照)で形成されると共に、該サッシュパネルのフランジ同士が接合されて閉断面の中空部12を形成しており、上記一方のフランジ13には、上記ガラスラン9を取付ける取付部(フランジ13それ自体を参照)が設けられており、上記他方のフランジ14が、該取付部と上記ウエザストリップ20の周方向内側端部との間で車幅方向内側を向いて形成されたものである(図1〜図3、図7参照)。
【0041】
この構成によれば、サッシュパネル(サッシュアウタパネル10、サッシュインナパネル11参照)のフランジ同士を接合して閉断面の中空部12を形成したので、サッシュ部(ドアサッシュ8参照)の剛性を確保することができる。
また、他方のフランジ14が車幅方向内側を向いて形成されたので、乗員の視界の確保を図ることができる。
要するに、サッシュ部(ドアサッシュ8参照)の剛性確保と、視界の確保との両立を図ることができる。
【0042】
さらに、上記中空部12が上記ガラスラン9の車幅方向内側において該ガラスラン9と並列に設けられ、上記中空部12の周方向内側面が上記ガラスラン9の車室側の周方向内側端と連続する位置に形成されたものである(図2、図3参照)。
この構成によれば、サッシュ部(ドアサッシュ8参照)の閉断面の中空部12を、ガラスラン9と並列に設け、該ガラスラン9と中空部12とのそれぞれの周方向内側部を一致させたので、上記中空部12の大きさを、乗員の視界を悪化させない範囲で最大限大きくすることができ、サッシュ部(ドアサッシュ8参照)の剛性確保と、視界の確保とを高レベルで両立させることができる。
【0043】
また、上記ガラスラン9には、上記ドアガラス7と摺接するリップ部9f,9gが設けられ、該リップ部9f,9gが周方向内外方向に互に離間して複数設けられたものである(図2、図3参照)。
この構成によれば、ガラスラン9のドアガラス7と摺接するリップ部9f,9gを、周方向内外方向に互に離間して複数設けたので、シール性の向上を図ることができ、車室内の静音性の確保と、ドアガラス7の振動抑制を両立することができる。
【0044】
さらに、上記ドア開口部1は、車体側部の外側面を形成するボディアウタパネル15と、該ボディアウタパネル15の車室内方側に設けられたボディインナパネル17とによって形成されると共に、上記ボディアウタパネル15と上記ボディインナパネル17とによる接合部18が全周にわたって形成されており、車幅方向内側を向いた上記他方のフランジ部14の端部が、上記接合部18の端部よりも周方向内側位置に設けられたものである(図2、図3参照)。
上記構成によれば、ドア側のサッシュ部(ドアサッシュ8参照)における他方のフランジ部14の端部が、ボディ側の上記接合部18の端部に対して、周方向内側位置に設けられたので、ドア2の閉時における該ドア2のオーバランによる車体側との干渉を防止することができる。
【0045】
加えて、上記サッシュパネル10,11が、上記ドア本体6を形成する上記ドアアウタパネル4と上記ドアインナパネル5とで形成されたものである(図1、図7参照)。
この構成によれば、サッシュパネル10,11をドア本体6と一体形成したので、部品点数、組付け工数の削減を図り、しかも、サッシュ部(ドアサッシュ8)の剛性向上乃至ドア全体の剛性向上を図ることができ、また、ドアガラス7のがたつきを抑制することができると共に、ドア本体6とサッシュ部(ドアサッシュ8参照)との外観の向上を図ることができる。
【0046】
この発明の構成と、上述の実施例との対応において、
この発明のドアは、実施例のフロントドア2に対応し、
以下同様に、
ドア本体を形成するアウタパネル、インナパネルは、ドアアウタパネル4、ドアインナパネル5に対応し、
サッシュ部は、ドアサッシュ8に対応し、
サッシュパネルは、サッシュアウタパネル10、サッシュインナパネル11に対応し、
ガラスランの取付部は、一方のフランジ13それ自体に対応するも、
この発明は、上述の実施例の構成のみに限定されるものではない。
例えば、上記実施例においては、フロントドア2周辺の側部車体構造について説明したが、
上記実施例の車両の側部車体構造は、リヤドア3側の構成に適用してもよい。
【符号の説明】
【0047】
1…ドア開口部
2…フロントドア(ドア)
4…ドアアウタパネル(アウタパネル)
5…ドアインナパネル(インナパネル)
6…ドア本体
7…ドアガラス
8…ドアサッシュ(サッシュ部)
9…ガラスラン
9f,9g…リップ部
10…サッシュアウタパネル(サッシュパネル)
11…サッシュインナパネル(サッシュパネル)
12…中空部
13,14…フランジ
15…ボディアウタパネル
17…ボディインナパネル
18…接合部
20…ウエザストリップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側部に形成されたドア開口部と、該ドア開口部を開閉するドアとを有し、
上記ドアが、アウタパネルとインナパネルとから形成されるドア本体と、
該ドア本体の前後端から上方に延びてドアガラスの前片、上片、後片の周囲を囲むサッシュ部と、
該サッシュ部に設けられて上記ドアガラスに圧接されるガラスランと、を備え、上記ドア開口部の周縁に、上記ドアに当接するウエザストリップが設けられた
車両の側部車体構造であって、
上記サッシュ部は、車外側に位置する一方のフランジと、車内側に位置する他方のフランジとを有する複数のサッシュパネルで形成されると共に、
該サッシュパネルのフランジ同士が接合されて閉断面の中空部を形成しており、
上記一方のフランジには、上記ガラスランを取付ける取付部が設けられており、
上記他方のフランジが、該取付部と上記ウエザストリップの周方向内側端部との間で車幅方向内側を向いて形成されたことを特徴とする
車両の側部車体構造。
【請求項2】
上記中空部が上記ガラスランと並列に設けられ、
上記中空部の周方向内側面が上記ガラスランの車室側の周方向内側端と連続する位置に形成された
請求項1記載の車両の側部車体構造。
【請求項3】
上記ガラスランには、上記ドアガラスと摺接するリップ部が設けられ、
該リップ部が周方向内外方向に互に離間して複数設けられた
請求項1または2に記載の車両の側部車体構造。
【請求項4】
上記ドア開口部は、車体側部の外側面を形成するボディアウタパネルと、該ボディアウタパネルの車室内方側に設けられたボディインナパネルとによって形成されると共に、
上記ボディアウタパネルと上記ボディインナパネルとによる接合部が全周にわたって形成されており、車幅方向内側を向いた上記他方のフランジ部の端部が、上記接合部の端部よりも周方向内側位置に設けられた
請求項1〜3の何れか1に記載の車両の側部車体構造。
【請求項5】
上記サッシュパネルが、上記ドア本体を形成する上記アウタパネルと上記インナパネルとで形成された
請求項1〜4の何れか1に記載の車両の側部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−68311(P2011−68311A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−222991(P2009−222991)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】