説明

車両の制御装置

【課題】アイドルストップ時に無段変速機の変速比を最大変速比に確実に戻すことができる車両の制御装置を提供する。
【解決手段】アイドルストップ判定があり、かつ無段変速機の変速比が最大変速比でないとき、アイドルストップ判定からエンジン停止までの間に、前進クラッチを解放状態とすると共に、プライマリプーリの油圧をドレーンさせ、エンジンが停止する前に最大変速比へ戻す。最大変速比ではプライマリプーリの可動シーブがストッパ当たりしているので、ストッパ反力によってセカンダリプーリによる推力がベルト張力を経由してプライマリプーリにアシスト力として作用し、そのアシスト分だけベルト伝達トルクを見込むことができる。そのため、プライマリプーリへの油圧供給が遅れても、ベルト滑りを生じずに速やかに発進できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両の制御装置、特にベルト式無段変速機を搭載したアイドルストップ車における変速制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、所定の条件が成立したとき、エンジンを自動停止させ、停車中の無駄な燃料消費や排出ガスの発生を抑えるアイドルストップ制御を実施する車両が知られている。このようなアイドルストップ制御におけるエンジン停止条件としては、車両停止やブレーキONなどがあり、エンジンの再始動条件としては、ブレーキOFFやアクセルペダルの踏み込みなどがある。
【0003】
上述のようなアイドルストップ制御を実施するエンジンと、ベルト式無段変速機とを搭載した車両が知られている。一般に、無段変速機にはベルトを架け渡したプライマリプーリとセカンダリプーリとが設けられ、これらプーリの油圧を制御することによって、変速制御やベルト挟圧力制御を行っている。無段変速機が最大変速比(最Low)にある時には、プライマリプーリの可動シーブがストッパに当たって停止しているため、プライマリプーリ側の推力(ベルト挟圧力)には、プライマリプーリの油圧推力に加えて、ストッパ反力によってセカンダリプーリによる推力がベルト張力を経由してプライマリプーリ側にアシスト力として作用する。このため、プライマリ油圧がドレーンされていても、アシスト分だけベルト伝達トルクを見込むことができる。
【0004】
ところが、アイドルストップ車の場合、車両の急停止等でプライマリプーリが最大変速比の位置まで戻らない間にアイドルストップ状態となることがある。その場合には、次にエンジンが再始動したとき、ストッパ反力がないために、アシスト分のベルト伝達トルクを見込むことができず、ベルトに滑りが発生して車両が発進できない。
【0005】
プーリの油圧源として、エンジンによって駆動されるオイルポンプのみを備えたアイドルストップ車の場合、アイドルストップ状態ではオイルポンプも停止しているので、プーリへ油圧が供給されない。そのため、車両急停止等で無段変速機が最大変速比に戻りきらない場合、アイドルストップ中にプーリを最大変速比に戻すことができない。
【0006】
エンジンによって駆動されるオイルポンプの他に、アイドルストップ時に駆動される電動ポンプを備えたアイドルストップ車も提案されている。この場合には、アイドルストップ中もプーリへ油圧を供給することができるので、プーリを最大変速比に戻すことができ、エンジンの再始動と同時に発進することが可能である。しかし、電動ポンプのためにコスト高になるという問題がある。
【0007】
特許文献1には、車両の急停止時などで最大変速比に戻り切らない場合でも、再発進に先立って最大変速比が得られるようにした無段変速機の変速制御装置が開示されている。すなわち、無段変速機の変速比が最大変速比でないと判定され、かつ無段変速機の回転要素が停止していると判定されたときに、シフトレバーがP又はN位置に切り替えられたことを条件として、無段変速機の変速比を強制的に最大変速比側へ変更するものである。
【0008】
しかしながら、この制御装置は車両停止状態の間に強制的に最大変速比側へ変速するものであり、無段変速機が停止している間もエンジンが回転し、油圧が発生していることを前提としている。アイドルストップ時のようにエンジンが停止しており、かつ油圧が発生していない状態では、最大変速比へ変速できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−181180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、アイドルストップ状態への遷移前に車両急停止等があっても、無段変速機を最大変速比へ確実に戻し、エンジン再始動時における発進を可能とする車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するため、本発明は、エンジンとベルト式無段変速機とを搭載した車両であって、前記エンジンにより駆動されるオイルポンプと、前記無段変速機内に設けられ、前進走行時に締結される前進クラッチと、前記前進クラッチの油圧を、前記オイルポンプを油圧源とする油圧に基づいて制御するクラッチ油圧制御手段と、前記無段変速機のプライマリプーリ及びセカンダリプーリの油圧を、前記オイルポンプを油圧源とする油圧に基づいて制御するプーリ油圧制御手段と、前記無段変速機が最大変速比になった時に前記プライマリプーリの可動シーブが当接するストッパと、前記無段変速機の変速比が最大変速比であることを検出する最大変速比検出手段と、所定の条件が成立したときに前記エンジンを停止させるためのアイドルストップ判定を行うアイドルストップ判定手段と、前記アイドルストップ判定があり、かつ前記無段変速機の変速比が最大変速比でないとき、前記アイドルストップ判定から前記エンジンが停止するまでの間に、前記前進クラッチを解放状態とすると共に、前記プライマリプーリの油圧をドレーンさせる制御手段と、を備えたことを特徴とする車両の制御装置を提供する。
【0012】
本発明は、前進クラッチ及びプーリの油圧源としてエンジンによって駆動されるオイルポンプのみを備えたアイドルストップ車を対象とし、電動ポンプのような格別な油圧源を有していないため、アイドルストップ状態では前進クラッチやプーリへ油圧を供給できない。そのため、車両の急停止等によって変速比が最大変速比(最Low)まで戻る前にエンジン停止状態となると、次にエンジンが再始動したとき、ベルトに滑りが発生し、速やかに発進できない。そこで、本発明では、アイドルストップ判定があり、かつ無段変速機の変速比が最大変速比でないとき、アイドルストップ判定からエンジン停止までの間に、前進クラッチを解放状態とすると共に、プライマリプーリの油圧をドレーンさせ、エンジン停止する前に最大変速比へ確実に戻すようにしている。もし、前進クラッチを解放せずにプライマリプーリ油圧をドレーンさせると、ベルト滑りが発生するため、まず先に前進クラッチを解放してニュートラル状態とし、続いてプライマリプーリ油圧をドレーンする。そのため、ベルト停止状態でも(エンジンが回転している限り)可動シーブを移動させることができ、確実に最大変速比へ戻すことができる。次に、アイドルストップが解除され、エンジンが再始動して発進する場合には、プライマリプーリの可動シーブはストッパ当たりしているので、ストッパ反力によってセカンダリプーリによる推力がベルト張力を経由してプライマリプーリにアシスト力として作用し、そのアシスト分だけベルト伝達トルクを見込むことができる。そのため、プライマリプーリへの油圧供給が遅れても、セカンダリプーリの推力によってベルト伝達トルクを得ることができ、車両を速やかに発進できる。
【0013】
最大変速比検出手段は、無段変速機の変速比が最大変速比であるかどうかを検出するものであるが、具体的な検出方法として、例えばプライマリプーリとセカンダリプーリの回転速度比を基準値と比較する方法や、プライマリプーリの可動シーブがストッパに当接した否かかを判定する方法などがある。前者の場合、格別なセンサを必要とせずに簡単に最大変速比であるかどうかを判定できる。一方、後者の場合には、ストッパ又は可動シーブの一方にセンサを設け、このセンサの出力信号から可動シーブがストッパに当接したか否かを検出することができ、可動シーブとストッパとの当接を直接的に検出できる。
【0014】
一般にアイドルストップ車の場合、アイドルストップ判定からエンジンが実際に停止するまで約1〜2秒程度のタイムラグがある。本発明では、このタイムラグを利用して前進クラッチを解放すると共に、プライマリプーリ油圧をドレーンし、最大変速比へ戻すようにしている。なお、アイドルストップ判定からエンジン回転が低下し始めるまでの間に、ある程度(例えば1秒程度)の待ち時間を設けることで、前進クラッチの解放時間とプライマリプーリ油圧のドレーン時間にばらつきがあっても、エンジンが停止する前に確実に最大変速比に戻すようにしてもよい。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明にかかる制御装置によれば、プライマリプーリの可動シーブがストッパへ当接していない(最大変速比でない)状態でアイドルストップ判定があった時、アイドルストップ判定からエンジンが停止するまでの間に、前進クラッチを解放状態とし、かつプライマリプーリの油圧をドレーンさせるようにしたので、素早く最大変速比へ戻すことができる。そのため、エンジンが再始動して発進する場合に、プライマリプーリは所定のベルト伝達トルクを確保でき、車両を速やかに発進できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る車両の全体システムを示す図である。
【図2】無段変速機の構造を示すスケルトン図である。
【図3】プライマリプーリ、セカンダリプーリ及び前進クラッチを制御するための油圧制御回路の概略図である。
【図4】アイドルストップ時における制御の一例のタイムチャート図である。
【図5】本発明に係る制御方法の一例のフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を、実施例を参照しながら説明する。
【0018】
図1は本発明にかかる自動変速機の一例である無段変速機を搭載した車両システムの一例を示す。エンジン1の出力軸1aは、無段変速機2を介してドライブシャフト32に接続されている。無段変速機2には、トルクコンバータ3、変速機構4、油圧制御装置5及びエンジン1により駆動されるオイルポンプ6などが設けられている。
【0019】
エンジン1及び無段変速機2は電子制御装置100によって制御される。電子制御装置100には各種センサ101〜107から信号が入力されている。入力信号には、エンジン回転数、車速(又はセカンダリプーリ回転数)、スロットル開度(又はアクセル開度)、シフト位置、プライマリプーリ回転数(又はタービン回転数)、ブレーキ信号、油温などがある。そのほか、アイドル信号、スタート信号、エンジン水温、吸入空気量、エアコン信号、イグニッション信号などを入力してもよい。プライマリプーリ回転数と車速とから、無段変速機2の変速比を検出できる。なお、図1では説明を簡単にするため、単一の電子制御装置100によってエンジン1と無段変速機2の両方を制御する例を示したが、実際にはエンジン1と無段変速機2は個別の電子制御装置によって制御され、両電子制御装置は通信用バスによって相互に連携している。
【0020】
電子制御装置100は、所定の条件が成立したときにエンジン1を停止(アイドルストップ)し、所定の条件が不成立となったときにエンジンを再始動するアイドルストップ機能を有する。アイドルストップを許可する条件としては、例えば車速が一定値未満、スロットル開度が全閉、かつ車両減速度が所定値未満であるときや、車両停止状態でかつブレーキON(ブレーキペダルの踏み込み)などである。但し、エンジン水温が低いときや、電気負荷が大きいとき、アクセルペダルが踏まれているときには、アイドルストップを許可しない。一方、アイドルストップの解除(エンジン再始動)条件としては、例えばブレーキOFF、アクセルペダル踏み込み、車速信号の入力などがある。
【0021】
電子制御装置100は、エンジン制御のほかに、無段変速機2の制御も実施している。すなわち、車速とスロットル開度とに応じて、予め設定された変速マップに従って目標プライマリ回転数を決定し、油圧制御装置5に内蔵されたソレノイドバルブ5a〜5cを制御することによって、無段変速機2のプライマリ回転数を目標値へと制御する。また、油圧制御装置5は後述する無段変速機2に内蔵された直結クラッチ86及び逆転ブレーキ85への供給油圧を制御する機能も有する。この制御には、後述するアイドルストップ時における逆転ブレーキ(前進クラッチ)の解放制御も含まれる。この実施例では、油圧制御装置5が3個のソレノイドバルブ5a〜5cを有する例を示したが、この他にトルクコンバータ3に内蔵されたロックアップクラッチ3aの制御用やライン圧制御用などの別のソレノイドバルブを設けてもよい。なお、油圧制御装置5の油圧源は、前述のエンジン1によって駆動されるオイルポンプ6のみであり、電動ポンプなどの格別のオイルポンプは備えていない。
【0022】
図2は無段変速機2の内部構造の一例を示す。無段変速機2は、トルクコンバータ3と無段変速機構4とを備える。トルクコンバータ3のタービン軸7は前後進切替装置8を介してプライマリ軸10に連結されている。前後進切替装置8は、タービン軸7の回転を正逆切り替えてプライマリ軸10に伝達するものである。無段変速機構4は、さらにプライマリプーリ11、セカンダリプーリ21、両プーリ間に巻き掛けられたVベルト15、セカンダリ軸20、セカンダリ軸20の動力をドライブシャフト32に伝達するデファレンシャル装置30などを備えている。タービン軸7とプライマリ軸10とは同一軸線上に配置され、セカンダリ軸20とドライブシャフト32とがタービン軸7に対して平行でかつ非同軸に配置されている。したがって、この無段変速機2は全体として3軸構成とされている。ここで用いられるVベルト15は、例えば一対の無端状張力帯とこれら張力帯に支持された多数のブロックとで構成された公知の金属ベルトである。
【0023】
前後進切替装置8は、遊星歯車機構80と逆転ブレーキ85と直結クラッチ86とで構成され、逆転ブレーキ85が本発明における前進クラッチに相当する。逆転ブレーキ85と直結クラッチ86は、それぞれ湿式多板式のブレーキ及びクラッチである。遊星歯車機構80のサンギヤ81が入力部材であるタービン軸7に連結され、リングギヤ82が出力部材であるプライマリ軸10に連結されている。遊星歯車機構80はシングルピニオン方式であり、逆転ブレーキ85はピニオンギヤ83を支えるキャリア84とトランスミッションケースとの間に設けられ、直結クラッチ86はキャリア84とサンギヤ81との間に設けられている。直結クラッチ86を解放して逆転ブレーキ85を締結すると、タービン軸7の回転が逆転され、かつ減速されてプライマリ軸10へ伝えられる。そして、セカンダリ軸20を経てドライブシャフト32がエンジン回転方向と同方向に回転するため、前進走行状態となる。逆に、逆転ブレーキ85を解放して直結クラッチ86を締結すると、キャリア84とサンギヤ81とが一体に回転するので、タービン軸7とプライマリ軸10とが直結される。そして、セカンダリ軸20を経てドライブシャフト32がエンジン回転方向と逆方向に回転するため、後進走行状態となる。
【0024】
プライマリプーリ11は、プライマリ軸10上に一体に固定された固定シーブ11aと、プライマリ軸10上に軸方向移動自在に、かつ一体回転可能に支持された可動シーブ11bとを備えている。可動シーブ11bの背後には、プライマリ軸10に固定されたシリンダ12が設けられ、可動シーブ11bとシリンダ12との間に油圧室13が形成されている。この油圧室13への作動油を流量制御することにより、変速制御が実施される。油圧室13の作動油をドレーンすると、可動シーブ11bが後退し、可動シーブ11bの端部11b1 がシリンダ12の内壁(ストッパ12a)に当接することで、最大変速比(最Low)が構成される。そのため、最大変速比では可動シーブ11bがストッパ12aに当接しているため、プライマリプーリ11の推力には、プライマリ油圧による推力に加えて、セカンダリプーリ21の推力がベルト張力としてプライマリ側にアシスト力として作用する。このため、プライマリ油圧が低下してもアシスト分のベルト伝達トルクが見込める。
【0025】
セカンダリプーリ21は、セカンダリ軸20上に一体に固定された固定シーブ21aと、セカンダリ軸20上に軸方向移動自在に、かつ一体回転可能に支持された可動シーブ21bとを備えている。可動シーブ21bの背後には、セカンダリ軸20に固定されたピストン22が設けられ、可動シーブ21bとピストン22との間に油圧室23が形成されている。この油圧室23の油圧を圧力制御することにより、トルク伝達に必要な挟圧力が与えられる。なお、油圧室23には初期挟圧力を発生させるバイアススプリング24が配置されている。
【0026】
セカンダリ軸20の一方の端部はエンジン側に向かって延び、この端部に出力ギヤ27が固定されている。出力ギヤ27はデファレンシャル装置30のリングギヤ31に噛み合っており、デファレンシャル装置30から左右に延びるドライブシャフト32に動力が伝達され、車輪が駆動される。
【0027】
図3は、油圧制御装置5において、無段変速機2のプライマリプーリ11、セカンダリプーリ21、前進クラッチ85を制御するための油圧制御回路の概略を示す。図3において、オイルポンプ6によって吐出された油圧は、レギュレータバルブ51によって所定のライン圧に調圧された後、変速制御バルブ52を介してプライマリプーリ11へ作動油が供給され、挟圧力制御バルブ53を介してセカンダリプーリ21へ作動油が供給される。変速制御バルブ52は流量制御バルブであり、挟圧力制御バルブ53は圧力制御バルブである。さらに、ライン圧はクラッチ圧制御バルブ54を介して前進クラッチ85へ供給され、クラッチ圧が制御される。変速制御バルブ52、挟圧力制御バルブ53及びクラッチ圧制御バルブ54にはそれぞれソレノイド52a,53a,54aが装備されており、これらソレノイドを電子制御装置100により制御することで、プライマリ油圧、セカンダリ油圧及び前進クラッチ85のクラッチ圧が制御される。なお、図3には、マニュアルバルブやガレージシフトバルブなどの本発明の制御と直接関係のないバルブは省略してある。流量制御バルブである変速制御バルブ52は、所定変速比で維持するために閉じ込み制御を必要とするため、プライマリプーリ11への作動油の給排はセカンダリプーリ21に比べて時間がかかる。そのため、車両の急減速時などにおいて車両停止までに最大変速比に戻り切れない、つまり可動シーブ11bがストッパ12aに当接できないことがある。特に、アイドルストップ状態への遷移時に最大変速比に戻れないと、次のアイドルストップ復帰時にベルト滑りが発生する。本発明では、このような問題を解決するために後述するような制御を実施する。
【0028】
次に、アイドルストップ判定によってアイドルストップが許可された場合の本発明による制御方法について、図4を参照しながら説明する。図4は、エンジン停止判定、アイドルストップ実施判定、エンジン回転数、前進クラッチ信号、前進クラッチ圧、プライマリプーリのドレーン要求フラグ、プライマリプーリ圧、変速比の時間変化を示し、破線が従来技術、実線が本発明を示す。
【0029】
時刻t1で所定のアイドルストップ条件が成立すると、アイドルストップ許可のフラグが立ち、微小時間後の時刻t2で変速比を求める。この時点で変速比が最大変速比であれば、エンジン停止制御を実施し、以下の制御は実施しない。一方、時刻t2で変速比が最大変速比でない場合には、エンジン停止制御の開始と並行して、前進クラッチ信号をD位置からN位置へ切り換える。つまり、前進クラッチの解放信号をクラッチ圧制御バルブ54に出力することで、クラッチ圧は急激に低下し、ニュートラル状態となる。クラッチ圧がほぼ零になった時点t3で、プライマリプーリのドレーン要求フラグがONになり、変速制御バルブ52はプライマリ圧をドレーンさせる。そのため、無段変速機2の変速比は最大変速比(Low)へ急速に変化し、プライマリプーリ11の可動シーブ11bがストッパ12aに当接する(時刻t4)。時刻t1〜t2〜t3の各時間間隔は予め決められており、時刻t1〜t4までの時間はエンジン停止制御をアイドルストップ判定からエンジンが停止するまでの時間内に設定されている。時刻t1〜t4までの時間は、CVT油温にもよるが約1秒以下に設定されている。時刻t4の後、時刻t5でエンジン回転が停止したことを判定すると、前進クラッチ信号をD位置に戻し、プライマリプーリのドレーン要求フラグをOFFする。そのため、次にアイドルストップが解除され、エンジンが再始動して発進する場合でも、プライマリプーリ11の可動シーブ11bはストッパ12a当たりしているので、プライマリプーリ11への油圧供給が遅れても、ストッパ反力によってセカンダリプーリ21による推力がプライマリプーリ11にアシスト力として作用し、ベルト伝達トルクを確保できる。そのため、ベルト滑りを発生させずに車両を速やかに発進できる。
【0030】
なお、図4ではエンジン停止の開始をアイドルストップのフラグが立つのとほぼ同時としたが、エンジン停止の開始は、図4の一点鎖線で示すように、アイドルストップのフラグが立ってから所定時間T後としてもよい。エンジン停止までに確実に前進クラッチの解放とプライマリ圧のドレーンとを終了できるからである。また、前進クラッチの解放の後でプライマリ圧のドレーンを開始するようにしたが、両者を同時に開始してもよい。
【0031】
図5は本発明に係る制御方法の流れを示す。スタートすると、まずアイドルストップ条件が成立したか否かを判定する(ステップS1)。アイドルストップ条件としては、例えば車速が所定値(例えば5km/h)未満でスロットル開度が全閉でかつ車両減速度が所定値(例えば1m/s2 )未満であるか、又は車両の完全停止時でかつブレーキONである場合などである。アイドルストップ条件が成立した場合、つまりアイドルストップが許可された場合、続いて無段変速機の変速比を所定値αと比較する(ステップS2)。この所定値αとしては、最大変速比近傍の値とする。もし、変速比がαより大きい場合には、無段変速機が既に最大変速比に到達している、換言すればプライマリプーリ11の可動シーブ11bがストッパ12aに当接していることを意味するので、格別な制御を行うことなくエンジン停止制御を開始し(ステップS3)、終了する。一方、変速比がα以下である場合には、今だ最大変速比に到達していないので、まず前進クラッチ85を解放してニュートラル状態とし(ステップS4)、続いてプライマリ油圧のドレーンを開始させる(ステップS5)。そして、アイドルストップ許可から所定時間が経過したかどうかを判定(ステップS6)、所定時間を経過しておれば、エンジン停止制御を開始する(ステップS3)。所定時間は、前進クラッチ85の解放とプライマリ油圧のドレーンに必要な時間であり、例えば1秒程度である。上記制御によって、エンジン停止までの間に前進クラッチ85の解放とプライマリ油圧のドレーンとを終了でき、エンジン停止までに最大変速比へ確実に戻すことができる。
【0032】
エンジン停止後、次の発進に備えて、前進クラッチ信号をD状態に戻し、プライマリ油圧信号を非ドレーン状態に戻しておく。但し、前進クラッチ信号をD状態に戻し、プライマリ油圧信号を非ドレーン状態に戻しても、エンジンが停止しオイルポンプも停止しているので、実際には前進クラッチ及びプライマリプーリに油圧が供給されない。
【0033】
図4の制御では、アイドルストップ許可された後、エンジン停止制御を開始すると同時に、前進クラッチを解放し、プライマリ油圧をドレーンさせるようにしたが、油温低下時のように無段変速機の変速比が最大変速比に戻り切る前にエンジンが停止してしまう可能性がある。その場合には、図5のように、エンジンが停止するまでに前進クラッチの解放とプライマリ油圧のドレーンが確実に終了するように、所定の時間待ち(ステップS6)を実施するのがよい。この所定時間とは例えば約1秒程度でよく、アイドルストップ性能を低下させることはない。
【0034】
前記実施例では、前後進切替装置としてシングルピニオン方式の遊星歯車機構を使用したため、逆転ブレーキが前進クラッチに相当する例を示したが、ダブルピニオン方式の遊星歯車機構を使用した場合には、直結クラッチが前進クラッチに相当する。また、図3では、変速制御バルブ52、挟圧制御バルブ53及びクラッチ圧制御バルブ54自体がソレノイドバルブである例を示したが、これは一例に過ぎず、例えばコントロールバルブとソレノイドバルブとを組み合わせた構成でもよい。ソレノイドバルブはリニアソレノイドバルブ、デューティソレノイドバルブの何れでもよい。
【符号の説明】
【0035】
1 エンジン出力軸
2 無段変速機
3 トルクコンバータ
4 変速機構
5 遊星歯車装置
6 オイルポンプ
8 前後進切替装置
11 プライマリプーリ
11b 可動シーブ
11b1 端部
12a ストッパ
15 ベルト
21 セカンダリプーリ
52 変速制御バルブ(プーリ油圧制御手段)
53 挟圧制御バルブ(プーリ油圧制御手段)
54 クラッチ圧制御バルブ(クラッチ油圧制御手段)
80 遊星歯車機構
85 逆転ブレーキ(前進クラッチ)
86 直結クラッチ
100 電子制御装置
101 エンジン回転数センサ
102 車速センサ
103 スロットル開度センサ
104 シフト位置センサ
105 プライマリプーリ回転数センサ
106 ブレーキセンサ
107 油温センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンとベルト式無段変速機とを搭載した車両であって、
前記エンジンにより駆動されるオイルポンプと、
前記無段変速機内に設けられ、前進走行時に締結される前進クラッチと、
前記前進クラッチの油圧を、前記オイルポンプを油圧源とする油圧に基づいて制御するクラッチ油圧制御手段と、
前記無段変速機のプライマリプーリ及びセカンダリプーリの油圧を、前記オイルポンプを油圧源とする油圧に基づいて制御するプーリ油圧制御手段と、
前記無段変速機が最大変速比になった時に前記プライマリプーリの可動シーブが当接するストッパと、
前記無段変速機の変速比が最大変速比であることを検出する最大変速比検出手段と、
所定の条件が成立したときに前記エンジンを停止させるためのアイドルストップ判定を行うアイドルストップ判定手段と、
前記アイドルストップ判定があり、かつ前記無段変速機の変速比が最大変速比でないとき、前記アイドルストップ判定から前記エンジンが停止するまでの間に、前記前進クラッチを解放状態とすると共に、前記プライマリプーリの油圧をドレーンさせる制御手段と、を備えたことを特徴とする車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−230131(P2010−230131A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−80456(P2009−80456)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】