説明

車両の制御装置

【課題】アクセルの誤操作を適切に判定することにより、駆動力低下によるドライバビリティの悪化を抑えることのできる車両の制御装置を提供する。
【解決手段】電子制御ユニット1は、駆動輪40の駆動力を低下させる駆動力低下制御を実行する。そして電子制御ユニット1は、車両進行方向における障害物の接近を検出してから所定の判定時間が経過した後にアクセルペダル2が操作されたときには、駆動力低下制御として駆動輪40の制動を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の制御装置として、アクセルペダルが所定量以上に操作されたときには、アクセルペダルが誤って操作されたと判定し、エンジンの出力をアクセルペダルの操作量に応じた出力よりも低下させることにより、駆動輪の駆動力を低下させる装置が知られている(例えば特許文献1など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−256170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
微速域で車両が突起を乗り越えるときや、強い加速力が要求されるときなどには、車両の運転者の意図によりアクセルペダルが大きく操作される。
一方、操作量に基づいてアクセルペダルの誤操作判定を行う従来の装置では、このような運転者の意図によるアクセルペダルの大きな操作を、アクセルペダルの誤操作であると誤って判定してしまい、駆動力を低下させてしまう。従って、運転者の意図に応じた駆動力が得られなくなり、ドライバビリティに悪影響を与えるおそれがある。
【0005】
この発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、アクセルの操作を適切に判定することにより、駆動力低下によるドライバビリティの悪化を抑えることのできる車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、駆動輪の駆動力を低下させる駆動力低下制御を実行する車両の制御装置において、車両進行方向における障害物の接近を検出してからアクセルが操作されるまでの時間に基づいて前記駆動力低下制御の実行可否を判定することをその要旨とする。
【0007】
車両進行方向における障害物の接近を認識すると、車両の運転者は通常ブレーキ操作を行う。一方、ブレーキ操作ではなく誤ってアクセル操作をした場合には、その操作タイミングに特徴があることを本発明者は見出した。
【0008】
つまり、車両進行方向における障害物の接近を認識した後、通常はブレーキ操作が行われるのであるが、そのブレーキ操作が行われるはずの期間よりも後にアクセル操作が行われた場合には、運転者が操作を迷った末にアクセルを誤操作したものであり、運転者の意図によるアクセル操作ではないと判断可能なことを見出した。
【0009】
また、ブレーキ操作が行われるはずの期間よりも前にアクセル操作が行われた場合には、運転者が焦ってアクセルを誤操作したものであり、この操作も運転者の意図によるアクセル操作ではないと判断可能なことを見出した。
【0010】
このようにアクセルの操作量ではなく、車両進行方向における障害物の接近を検出してからアクセルが操作されるまでの時間に基づき、そのアクセル操作が運転者の意図によるものか、誤操作なのかを適切に判定することができることを、本発明者は見出した。そこで、同実施形態では、車両進行方向における障害物の接近を検出してからアクセルが操作されるまでの時間に基づいて上記駆動力低下制御の実行可否を判定するようにしている。従って、アクセルの操作が適切に判定されることにより、駆動力低下によるドライバビリティの悪化を抑えることができるようになる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、車両の制御装置であって、車両進行方向における障害物の接近を検出してから所定の判定時間が経過するまでの間にブレーキが操作されておらず、かつ車両進行方向における障害物の接近を検出してから前記所定の判定時間が経過した後にアクセルが操作されたときには、駆動輪の駆動力を低下させる駆動力低下制御を実行することをその要旨とする。
【0012】
上述したように、車両進行方向における障害物の接近を認識した後、通常はブレーキ操作が行われるのであるが、そのブレーキ操作が行われるはずの期間よりも後にアクセル操作が行われた場合には、運転者が操作を迷った末にアクセルを誤操作したものであり、運転者の意図によるアクセル操作ではないと判断可能なことを本発明者は見出した。
【0013】
そこで、同構成では、車両進行方向における障害物の接近を検出してから所定の判定時間が経過するまでの間にブレーキが操作されておらず、かつ車両進行方向における障害物の接近を検出してから前記所定の判定時間が経過した後にアクセルが操作されたか否かを判定するようにしている。従って、運転者の迷いによって発生したアクセル操作であるか否かを適切に判定することができる。
【0014】
そして運転者による操作の迷いにより発生したアクセル操作であると判定される場合には、車両進行方向における障害物の接近を検出してからある程度の時間が経過していること、並びにブレーキが操作されていないことを考えて、早急に駆動力を低下させることが望ましい。
【0015】
そこで同構成では、運転者による操作の迷いにより発生したアクセル操作であると判定される場合には、駆動輪の駆動力を低下させる駆動力低下制御を行うようにしており、これにより車両進行方向における障害物と当該車両との距離が適切に確保される。
【0016】
このように同構成によっても、アクセルの操作を適切に判定することにより、駆動力低下によるドライバビリティの悪化を抑えることができるようになる。
なお、上述した所定の判定時間としては、車両の運転者が車両進行方向における障害物の接近を認識してからブレーキ操作を完了するまでの時間を設定することが望ましく、この判定時間は実験等を通じて適宜設定することができる。
【0017】
また、駆動力低下制御としては、請求項3に記載の発明によるように、駆動輪の制動を行うといった構成や、請求項4に記載の発明によるように、機関出力の抑制を行うといった構成を採用することができる。
【0018】
請求項5に記載の発明は、請求項2〜4のいずれか1項に記載の車両の制御装置において、車両進行方向における障害物の接近を検出してから前記所定の判定時間よりも早い別の判定時間が経過する前にアクセルが操作されたときには、機関出力の抑制を行うことをその要旨とする。
【0019】
同構成によれば、車両進行方向における障害物の接近を検出した後に行われたアクセル操作が、運転者による操作の焦りによって発生したアクセルの誤操作であると判定することができる。そしてこの場合には、機関出力の抑制を行うようにしており、これにより車両進行方向における障害物と当該車両との距離を適切に確保することができるようになる。
【0020】
なお、上記別の判定時間としては、車両の運転者が車両進行方向における障害物の接近を認識してからブレーキ操作を開始するまでの時間を設定することが望ましく、この判定時間は実験等を通じて適宜設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態における車両の全体構成を示す模式図。
【図2】アクセルの誤操作の種類を示すタイミングチャート。
【図3】同実施形態における障害物の接近検出処理の手順を示すフローチャート。
【図4】同実施形態における駆動力低下処理の手順を示すフローチャート。
【図5】同実施形態の変形例における駆動力低下処理の一部の手順を示すフローチャート。
【図6】同実施形態の変形例における駆動力低下処理の一部の手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の車両の制御装置を具体化した一実施形態を、図1〜図4を参照して説明する。なお、本実施形態の制御装置は、原動機であるエンジン6の出力で駆動力を得るように構成された車両に適用されるものとなっている。
【0023】
図1に示すように、本実施形態の車両の制御装置は、車載の電子制御ユニット1を中心に構成されている。電子制御ユニット1は、車両制御に係る各種演算処理を実施する中央演算処理装置(CPU)1a、制御用のプログラムやデータの記憶された読み出し専用メモリー(ROM)1b、CPU1aの演算結果やセンサーの検出結果を一時的に記憶するランダムアクセスメモリー(RAM)1cを備えている。
【0024】
こうした電子制御ユニット1には、車両各部に設けられたセンサーやスイッチ、例えばアクセルペダル2の踏み込み量であるアクセル操作量ACCPを検出するアクセルペダルセンサ3、車両の速度(車速V)を検出する車速センサ20、ステアリングホイール5の回転角であるハンドル角を検出するハンドル角センサ21などが接続されている。なお、電子制御ユニット1は、操舵装置におけるステアリングギア比とハンドル角とに基づき、車両の操舵輪の操舵角θを算出する。また、電子制御ユニット1には、車両進行方向における障害物を検出するレーダ22や、ブレーキペダル4が接続されたマスタシリンダ30内のブレーキ油圧BPを検出する圧力センサ23も接続されている。なお、ブレーキ油圧BPに基づいてブレーキペダル4の操作量が検出される。
【0025】
電子制御ユニット1には、車両各部に設けられたアクチュエーター、例えばエンジン6の吸気通路7に設けられた、エンジン出力調整用のスロットルバルブ8を駆動するスロットルモーター9や、駆動輪40のブレーキ31を制御するために上記マスタシリンダ30に設けられたアクチュエータなどが接続されている。
【0026】
こうした車両において電子制御ユニット1は、各センサー、スイッチの検出結果から車両の運転状況を把握する。そして電子制御ユニット1は、把握された車両の運転状況に応じて各アクチュエーターに指令信号を出力することで車両を制御している。例えば、アクセル操作量ACCPに応じてスロットルバルブ8の開度を制御することにより、エンジン6から出力される駆動力を調整する。また、マスタシリンダ30に設けられたアクチュエータを制御することにより駆動輪40の制動力を調整する。
【0027】
ところで、上述したように、車両の運転者が車両進行方向における障害物の接近を認識した場合、通常はブレーキ操作を行う。一方、ブレーキ操作ではなく誤ってアクセル操作をした場合には、その操作タイミングに特徴があることを本発明者は実験を通じて見出した。
【0028】
その実験結果の一例を図2に示す。この図2にように、時刻t0において、運転者が車両進行方向における障害物の接近を認識すると、通常はアクセルペダル2からブレーキペダル4への踏み替え動作をした後、時刻t1においてブレーキペダル4の操作が開始され、その後時刻t2においてブレーキペダル4の踏み込みが完了してブレーキ操作が完了される。
【0029】
一方、車両進行方向における障害物の接近を認識した後、運転者が操作を迷った末にアクセルペダル2を誤操作した場合には、線L2にて示すように、ブレーキ操作が行われるはずの期間(時刻t1〜時刻t2)よりも後にアクセル操作が行われる傾向が見られた。以下、こうしたアクセル誤操作の遅れを「遅延操作」という。なお、こうした遅延操作時には、運転者がペダル操作を迷っているため、アクセルペダル2の操作量が小さくなる傾向も見られた。
【0030】
他方、車両進行方向における障害物の接近を認識した後、運転者が誤ってアクセルペダル2を焦って踏み込んだ場合には、線L1にて示すように、ブレーキ操作が行われるはずの期間(時刻t1〜時刻t2)よりも前にアクセル操作が行われる傾向が見られた。以下、こうしたアクセルの早期誤操作を「拙速操作」という。
【0031】
このように本発明者は、アクセル操作が運転者の意図によるものか、誤操作によるものなのかを、アクセル操作量ではなく、車両進行方向における障害物の接近を検出してからアクセルペダル2が操作されるまでの時間に基づいて判断できることを見出した。そこで、本実施形態では、こうした原理に基づいてアクセルペダル2の誤操作を検出するようにしている。そして、車両進行方向における障害物の接近を検出した後にアクセルペダル2の誤操作が検出されたときには、駆動輪40の駆動力を低下させる駆動力低下制御を行うようにしている。
【0032】
まず、図3を参照して、障害物の接近を検出する処理を説明する。なお、本処理は、電子制御ユニット1により、所定周期毎に繰り返し実行される。
本処理が開始されるとまず、予測時間TCが判定値Aよりも短いか否かが判定される(S100)。この予測時間TCは、車両が障害物に衝突するまでの予測時間であり、車速センサ20やレーダ22の検出信号に基づいて算出される。より詳細には、「車両進行方向における障害物と自車との距離」を「車両進行方向における障害物と自車との相対速度」で除することにより予測時間TCが算出される。
【0033】
そして、予測時間TCが判定値A以上のときには(S100:NO)、本車両が衝突する可能性はないと判断されて、本処理は一旦終了される。
一方、予測時間TCが判定値Aよりも短いときには(S100:YES)、予測時間TCの変化量TCHが判定値Bよりも大きいか否かが判定される(S110)。この変化量TCHは所定期間内における予測時間TCの変化量であり、予測時間TCが短くなる方向に変化している、つまり障害物との衝突可能性が高まるほど、変化量TCHの値は大きくなる。
【0034】
そして変化量TCHが判定値Bよりも小さいときには(S110:NO)、本処理は一旦終了される。一方、変化量TCHが判定値Bよりも大きいときには(S110:YES)、車両の進行方向に障害物が過度に接近していると判定される(S120)。
【0035】
こうして障害物が過度に接近していると判定されると、アクセルカウンタAK及びブレーキカウンタBKの計測が開始されて(S130)、本処理は一旦終了される。このアクセルカウンタAKは、ステップS120にて障害物が接近していると判定されてからアクセルペダル2の操作が開始されるまでの時間を示す値として計測される。また、ブレーキカウンタBKは、ステップS120にて障害物が接近していると判定されてからブレーキペダル4の操作が開始されるまでの時間を示す値として計測される。
【0036】
次に、図4を参照して、駆動力低下処理の手順を説明する。なお、本処理も、電子制御ユニット1により、所定周期毎に繰り返し実行される。
本処理が開始されるとまず、障害物の接近が検出されているか否かが判定される(S200)。このステップS200では、先の図3におけるステップS120の処理が行われているときに肯定判定される。そして、障害物の接近が検出されていないときには(S200:NO)、本処理は一旦終了される。
【0037】
一方、障害物の接近が検出されているときには(S200:YES)、現在の操舵角θが判定値Cよりも小さい角度であるか否かが判定される(S210)。そして、操舵角θが判定値C以上に大きい角度であるときには(S210:NO)、運転者が操舵によって障害物を回避しようとしている可能性があるため、駆動力低下制御を行わずに、本処理は一旦終了される。
【0038】
一方、操舵角θが判定値Cよりも小さい角度であるときには(S210:YES)、上記アクセルカウンタAKが第1判定値H1よりも小さいか否かが判定される(S220)。この第1判定値H1は、車両の運転者が車両進行方向における障害物の接近を認識してからブレーキ操作を開始するまでの時間に相当する値であり、予めの実験等を通じて適切な値が設定されている。なお、この第1判定値H1は、先の図2に示した時刻t0から時刻t1までの時間に相当する値である。
【0039】
そして、アクセルカウンタAKが第1判定値H1よりも小さいときには(S220:YES)、駆動力低下制御の1つである出力抑制制御が実行されて(S230)、本処理は一旦終了される。この出力抑制制御では、エンジン6の機関出力がアクセル操作量ACCPに応じた出力よりも低下される。こうした機関出力の抑制により、駆動輪40の駆動力は低下される。
【0040】
一方、アクセルカウンタAKが第1判定値H1よりも大きいときには(S220:NO)、ステップS240の処理が行われる。
このステップS240では、上記ブレーキカウンタBKが第2判定値H2よりも大きく、かつアクセルカウンタAKが同第2判定値H2よりも大きいか否かが判定される(S240)。この第2判定値H2は、車両の運転者が車両進行方向における障害物の接近を認識してからブレーキ操作を完了するまでの時間に相当する値であり、予めの実験等を通じて適切な値が設定されている。なお、この第2判定値H2は、先の図2に示した時刻t0から時刻t2までの時間に相当する値であり、第1判定値H1よりも大きい値である。
【0041】
そして、ステップS240にて否定判定されるときには、本処理は一旦終了される。一方、ステップS240にて肯定判定されるときには、駆動力低下制御の1つであるブレーキ制御が実行されて(S250)、本処理は一旦終了される。このブレーキ制御では、ブレーキ31を制御して駆動輪40を制動することにより駆動輪40の駆動力は低下される。
【0042】
次に、本実施形態の作用を説明する。
上述したように、本発明者は、アクセル操作量ではなく、車両進行方向における障害物の接近を検出してからアクセル操作されるまでの時間に基づき、そのアクセル操作が運転者の意図によるものか、誤操作によるものなのかを適切に判定することができることを見出した。
【0043】
そこで、車両進行方向における障害物の接近を検出してからアクセルペダル2が操作されるまでの時間に基づいて駆動力低下処理の実行可否を判定するようにしている。従って、アクセル操作量が大きくても、そのアクセル操作のタイミングが誤操作のタイミングでないときには、運転者の意図によるアクセル操作であると判定され、駆動力低下制御が実行されない。そのため、運転者の意図に応じた駆動力が得られ、ドライバビリティの悪化が抑えられる。
【0044】
逆に、アクセル操作量が小さくても、そのアクセル操作のタイミングが誤操作のタイミングであるときには、運転者の意図とは異なるアクセルの誤操作であると判定され、駆動力低下制御が実行される。そのため、アクセル誤操作時に駆動力低下制御が適切に実行される。なお、上述したように「遅延操作」時には、「拙速操作」時に比してアクセル操作量が小さくなることがあり、従来の操作量に基づいたアクセルの誤操作判定では、そうしたアクセル操作量が小さいときの誤操作を検出することができない。一方、本実施形態では、操作量ではなく、アクセルペダル2の操作タイミングに基づいてアクセルの誤操作判定を行うため、アクセル操作量が小さいときの誤操作も検出することもできる。
【0045】
また、車両進行方向における障害物の接近を検出してから(図4のステップS200:YES)、ブレーキカウンタBKが第2判定値H2よりも大きく、且つアクセルカウンタAKが第2判定値H2よりも大きいときには(ステップS240:YES)、ブレーキ制御を行うようにしている(ステップS250)。
【0046】
つまり、障害物の接近を検出してから第2判定値H2に相当する時間が経過するまでの間にブレーキペダル4が操作されておらずブレーキ操作が遅れている、かつ障害物の接近を検出してから第2判定値H2に相当する時間が経過した後にアクセルペダル2が操作されたときには、駆動輪40の制動を行うようにしている。これにより、車両進行方向における障害物の接近を検出した後に行われたアクセル操作が、運転者による操作の迷いより発生したアクセルペダル2の誤操作(上記「遅延操作」)であると判定される。そしてこうした誤操作判定が行われる場合には、車両進行方向における障害物の接近を検出してからある程度の時間、つまり少なくとも第2判定値H2に相当する時間が経過していること、並びにブレーキペダル4が操作されていないことを考えて、早急に駆動力を低下させることが望ましい。そこで、駆動力低下制御として駆動輪40の制動を行うようにしており、これにより車両進行方向における障害物と当該車両との距離が適切に確保される。
【0047】
また、車両進行方向における障害物の接近を検出してから(図4のステップS200:YES)、アクセルカウンタAKが第1判定値H1よりも小さいときには(ステップS220:YES)、出力抑制制御を行うようにしている(ステップS230)。
【0048】
つまり、車両進行方向における障害物の接近を検出してから上記第2判定値よりも早い別の判定時間である第1判定値H1に相当する時間が経過する前にアクセルペダル2が操作されたときには、機関出力の抑制を行うようにしている。これにより、車両進行方向における障害物の接近を検出した後に行われたアクセル操作が、運転者による操作の焦りによって発生したアクセルペダル2の誤操作(上記「拙速操作」)であると判定される。そしてこの場合には、駆動力低下制御としてエンジン6の出力が抑制されるため、車両進行方向における障害物と当該車両との距離が適切に確保される。
【0049】
以上説明したように、本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)車両進行方向における障害物の接近を検出してからアクセルペダル2が操作されるまでの時間に基づいて駆動力低下制御の実行可否を判定するようにしている。従って、アクセルペダル2の操作が適切に判定されることにより、駆動力低下によるドライバビリティの悪化を抑えることができるようになる。
【0050】
(2)障害物の接近を検出してから第2判定値H2に相当する時間が経過するまでの間にブレーキペダル4が操作されておらず、かつ障害物の接近を検出してから第2判定値H2に相当する時間が経過した後にアクセルペダル2が操作されたか否かを判定するようにしている。従って、運転者の迷いによって発生したアクセル操作(上記「遅延操作」)であるか否かを判定することができる。そして、上記「遅延操作」が行われたと判定されるときには、駆動力低下制御として駆動輪40の制動を行うようにしている。従って、アクセルペダル2の操作が適切に判定され、駆動力低下によるドライバビリティの悪化を抑えることができるようになり、さらには車両進行方向における障害物と当該車両との距離を適切に確保することができるようになる。
【0051】
(3)車両進行方向における障害物の接近を検出してから第1判定値H1に相当する時間(第2判定値H2よりも早い別の判定時間)が経過する前にアクセルペダル2が操作されたときには、駆動力低下制御として機関出力の抑制を行うようにしている。従って、車両進行方向における障害物と当該車両との距離を適切に確保することができるようになる。
【0052】
なお、上記実施形態は、次のように変更して実施することもできる。
・先の図4に示したステップS210の処理、つまり操舵角θと判定値Cとの比較判定処理を省略してもよい。
【0053】
・図4のステップS220にて肯定判定されたときには、ステップS240にてブレーキカウンタBKやアクセルカウンタAKの比較判定を行うようにした。この他、図5に示すように、図4のステップS220にて肯定判定されたときには、ステップS240の処理に代えて、アクセルカウンタAKが第2判定値H2よりも大きいか否かの判定のみを行う(ステップS300)。そして、アクセルカウンタAKが第2判定値H2よりも大きいときには(S300:YES)、上記「遅延操作」の状態であると判断し、次のステップS250でブレーキ制御を実行するようにしてもよい。
【0054】
この変形例でも、車両進行方向における障害物の接近を検出した後に行われたアクセル操作が、運転者による操作の迷いより発生したアクセルペダル2の誤操作であると判定することができる。そしてアクセルカウンタAKが第2判定値H2よりも大きい場合には、車両進行方向における障害物の接近を検出してからある程度の時間、つまり少なくとも第2判定値H2に相当する時間が経過しているため、早急に駆動力を低下させることが望ましい。そこで同変形例でも、駆動力低下処理として駆動輪40の制動が行われる。従って、車両進行方向における障害物と当該車両との距離が適切に確保される。
【0055】
・図4のステップS240にて肯定判定されたときには、ステップS250にてブレーキ制御を行うようにした。この他、図4のステップS240にて肯定判定されたときには、駆動力低下制御として、駆動輪40のブレーキ制御ではなくエンジン6の出力抑制制御を行うようにしてもよい。また、図6のステップS400に示すように、図4のステップS240にて肯定判定されたときには、駆動力低下制御として駆動輪40のブレーキ制御とエンジン6の出力抑制制御とを併せて行うようにしてもよい。この場合には、駆動輪40の制動が行われるときには機関出力も抑制されるため、駆動輪40の駆動力を更に低下させることができる。そのため、例えば車両進行方向における障害物と当該車両との距離がより適切に確保される。
【0056】
・上記予測時間TC及び変化量TCHに基づいて障害物の接近の有無を判定するようにしたが、この他の態様で車両進行方向における障害物の接近判定を行ってもよい。例えば、車両進行方向を監視するカメラなどの映像機器を設ける。そして、その映像機器により先行車のブレーキランプの点灯が検出され、かつ先行車との距離が急速に短くなったときに、障害物の接近ありと判定してもよい。また、映像機器により隣接車線を走行している車両のウインカーの点滅が検出され、かつ自車が走行している車線への急速な割り込みが検出されたときに障害物の接近ありと判定してもよい。また、車両進行方向において歩行者や自転車等が急激に飛び出したことを検出したときに、障害物の接近ありと判定してもよい。
【0057】
・上記実施形態では、アクセルペダル2の踏み込みを通じてアクセル操作を行うようにしたが、ペダルの踏み込み以外の操作を通じてアクセル操作を行うようにしてもよい。ペダルの踏み込み以外のアクセル操作としては、例えば、パドルシフトなどの手を使った操作や音声操作などがある。同様に、ブレーキペダル4の踏み込みを通じてブレーキ操作を行うようにしたが、ペダルの踏み込み以外の操作を通じてブレーキ操作を行うようにしてもよい。
【0058】
・上記実施形態では、原動機としてエンジン6を備える車両に本発明の駆動力制御装置を適用した場合を説明したが、本発明は、原動機としてモーターを備える電気自動車や、原動機としてモーター及びエンジンを備えるハイブリッド自動車などにも同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0059】
1…電子制御ユニット、1a…中央演算処理装置(CPU)、1b…読み込み専用メモリー(ROM)、1c…ランダムアクセスメモリー(RAM)、2…アクセルペダル、3…アクセルペダルセンサー、4…ブレーキペダル、5…ステアリングホイール、6…エンジン、7…吸気通路、8…スロットルバルブ、9…スロットルモーター、20…車速センサ、21…ハンドル角センサ、22…レーダ、23…圧力センサ、30…マスタシリンダ、31…ブレーキ、40…駆動輪。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動輪の駆動力を低下させる駆動力低下制御を実行する車両の制御装置において、
車両進行方向における障害物の接近を検出してからアクセルが操作されるまでの時間に基づいて前記駆動力低下制御の実行可否を判定する
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
車両進行方向における障害物の接近を検出してから所定の判定時間が経過するまでの間にブレーキが操作されておらず、かつ車両進行方向における障害物の接近を検出してから前記所定の判定時間が経過した後にアクセルが操作されたときには、駆動輪の駆動力を低下させる駆動力低下制御を実行する
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項3】
前記駆動力低下制御として、駆動輪の制動を行う
請求項1または2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記駆動力低下制御として、機関出力の抑制を行う
請求項1または2に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
車両進行方向における障害物の接近を検出してから前記所定の判定時間よりも早い別の判定時間が経過する前にアクセルが操作されたときには、機関出力の抑制を行う
請求項2〜4のいずれか1項に記載の車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−107502(P2013−107502A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254104(P2011−254104)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】