車両の駆動力制御装置
【課題】 アクセルオフによりドライブ走行からコースト走行へ移行する際のショックの緩和と空走感の抑制とを両立できる車両の駆動力制御装置を提供する。
【解決手段】 目標駆動力tFoを算出する目標駆動力演算部30と、推定駆動力Fo^を算出する実駆動力推定手段と、目標駆動力tFoと推定駆動力Fo^との偏差である駆動力偏差ΔFoが減少方向に変化している場合、目標駆動力tFoが所定のトルク閾値Fo_th未満のときには目標駆動力tFoがトルク閾値Fo_th以上のときよりも目標駆動力tFoの変化率を大きく制限する駆動力変化率制限部61と、を備えた。
【解決手段】 目標駆動力tFoを算出する目標駆動力演算部30と、推定駆動力Fo^を算出する実駆動力推定手段と、目標駆動力tFoと推定駆動力Fo^との偏差である駆動力偏差ΔFoが減少方向に変化している場合、目標駆動力tFoが所定のトルク閾値Fo_th未満のときには目標駆動力tFoがトルク閾値Fo_th以上のときよりも目標駆動力tFoの変化率を大きく制限する駆動力変化率制限部61と、を備えた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の駆動力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、運転者のアクセル操作に応じた車両の目標駆動力と現在の駆動力との偏差が大きい場合には、目標駆動力の変化率の制限を小さくし、前記偏差が小さい場合には、目標駆動力の変化率の制限を大きくすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4200842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術にあっては、目標駆動力と現在の駆動力との偏差に応じて目標駆動力の変化率を制限しているため、アクセルオフにより車両がドライブ走行からコースト走行へ移行する際、以下のような問題が生じる。
前記偏差が大きい場合には、目標駆動力の変化率の制限を小さくするため、車両の駆動力がゼロを跨ぐ(駆動力が正から負に切り替わる)際に発生するショックが大きくなる。一方、偏差が小さいときには目標駆動力の変化率の制限を大きくするため、アクセルオフに対して車両を早期に減速させることができず、空走感を与えてしまう。
本発明の目的は、アクセルオフによりドライブ走行からコースト走行へ移行する際のショックの緩和と空走感の抑制とを両立できる車両の駆動力制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明では、目標駆動力と実駆動力との偏差が減少方向に変化している場合、目標駆動力が所定の閾値未満のときには目標駆動力が閾値以上のときよりも目標駆動力の変化率を大きく制限する。
【発明の効果】
【0006】
本発明にあっては、目標駆動力が閾値以上であるときは目標駆動力の変化率の制限を小さくするため、運転者のアクセルオフに対して車両を早期に減速させることができ、空走感を抑制できる。一方、目標駆動力が閾値未満となったときには、目標駆動力の変化率の制限を大きくするため、車両の加速度変化を小さくすることでドライブ走行からコースト走行へ移行する際に発生するショックを緩和できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の車両の駆動力制御装置を適用した実施例1のハイブリッド車両のパワートレインを示す概略平面図である。
【図2】図1に示したパワートレインの制御システムを示すブロック線図である。
【図3】図2に示した制御システムにおける統合コントローラの機能別ブロック線図である。
【図4】図3における目標駆動力演算部が目標駆動力を求めるときに用いる目標駆動力の特性線図である。
【図5】ハイブリッド車両の電気走行(EV)モード領域およびハイブリッド走行(HEV)モード領域を示す領域線図である。
【図6】ハイブリッド車両のバッテリ蓄電状態に対する目標充放電量特性を示す特性線図である。
【図7】目標変速段SHIFTを決める変速マップの一例である。
【図8】車速に応じた最良燃費線までのエンジントルクの上昇経過を示すエンジントルク上昇経過説明図である。
【図9】駆動力変化率制限処理の流れを示すフローチャートである。
【図10】車速VSPに応じた減少側変化率制限値ΔFo_dの設定マップである。
【図11】高車速域においてアクセルオフによりドライブ走行からコースト走行へ移行する際の駆動力変化率制限作用を示すタイムチャートである。
【図12】中車速域においてアクセルオフによりドライブ走行からコースト走行へ移行する際の駆動力変化率制限作用を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の車両の駆動力制御装置を実施するための形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
〔実施例1〕
図1は、本発明の車両の駆動力制御装置を適用した実施例1のハイブリッド車両のパワートレインを示す概略平面図である。
実施例1のハイブリッド車両は、フロントエンジン・リヤホイールドライブ車(後輪駆動車)をベース車両とし、これをハイブリッド化したもので、1はエンジンであり、2は駆動車輪(後輪)である。
図1に示すハイブリッド車両のパワートレインにおいては、通常の後輪駆動車と同様にエンジン1の車両前後方向後方に自動変速機3をタンデムに配置し、エンジン1(クランクシャフト1a)からの回転を自動変速機3の入力軸3aへ伝達する軸4に結合してモータ/ジェネレータ(電動モータ)5を設け、このモータ/ジェネレータ5を、第2動力源として備える。
【0009】
モータ/ジェネレータ5は、駆動モータおよびジェネレータとして作用するもので、エンジン1および自動変速機3間に配置する。
このモータ/ジェネレータ5およびエンジン1間、より詳しくは、軸4とエンジンクランクシャフト1aとの間に第1クラッチ6を介挿し、この第1クラッチ6によりエンジン1およびモータ/ジェネレータ5間を切り離し可能に結合する。
ここで、第1クラッチ6は、伝達トルク容量を連続的もしくは段階的に変更可能なものとし、例えば、比例ソレノイドでクラッチ作動油流量およびクラッチ作動油圧を連続的もしくは段階的に制御して伝達トルク容量を変更可能な湿式多板クラッチで構成する。
【0010】
モータ/ジェネレータ5および駆動車輪(後輪)2間に第2クラッチ7を介挿し、この第2クラッチ7によりモータ/ジェネレータ5および駆動車輪(後輪)2間を切り離し可能に結合する。
第2クラッチ7も第1クラッチ6と同様、伝達トルク容量を連続的もしくは段階的に変更可能なものとし、例えば、比例ソレノイドでクラッチ作動油流量およびクラッチ作動油圧を連続的もしくは段階的に制御して伝達トルク容量を変更可能な湿式多板クラッチで構成する。
【0011】
自動変速機3は、周知の任意なものでよく、複数の変速摩擦要素(クラッチやブレーキ等)を選択的に締結・解放することで、これら変速摩擦要素の締結・解放の組み合わせにより伝動系路(変速段)を決定するものとする。
従って、自動変速機3は、入力軸3aからの回転を選択変速段に応じたギヤ比で変速して出力軸3bに出力する。
この出力回転は、ディファレンシャルギヤ装置8により左右後輪2へ分配して伝達され、車両の走行に供される。
【0012】
ところで、図1においては、モータ/ジェネレータ5および駆動車輪2を切り離し可能に結合する第2クラッチ7として専用のものを新設するのではなく、自動変速機3内に既存する変速摩擦要素を流用する。
この場合、第2クラッチ7が締結により上記の変速段選択機能(変速機能)を果たして自動変速機3を動力伝達状態にするのに加え、第1クラッチ6の解放・締結との共働により、後述するモード選択機能を果たし得ることとなり、専用の第2クラッチが不要でコスト上大いに有利である。
【0013】
上記した図1に示すハイブリッド車両のパワートレインにおいては、停車状態からの発進時などを含む低負荷・低車速時に用いられる電気走行(EV)モードが要求される場合、第1クラッチ6を解放し、第2クラッチ7の締結により自動変速機3を動力伝達状態にする。
なお第2クラッチ7は、自動変速機3内の変速摩擦要素のうち、現変速段で締結させるべき変速摩擦要素であって、選択中の変速段ごとに異なる。
この状態でモータ/ジェネレータ5を駆動すると、当該モータ/ジェネレータ5からの出力回転のみが変速機入力軸3aに達することとなり、自動変速機3が当該入力軸3aへの回転を、選択中の変速段に応じ変速して変速機出力軸3bより出力する。
変速機出力軸3bからの回転はその後、ディファレンシャルギヤ装置8を経て後輪2に至り、車両をモータ/ジェネレータ5のみによって電気走行(EV走行)させることができる。
【0014】
高速走行時や大負荷走行時などで用いられるハイブリッド走行(HEV走行)モードが要求される場合、第2クラッチ7の締結により自動変速機3を対応変速段選択状態(動力伝達状態)にしたまま、第1クラッチ6も締結させる。
この状態では、エンジン1からの出力回転およびモータ/ジェネレータ5からの出力回転の双方が変速機入力軸3aに達することとなり、自動変速機3が当該入力軸3aへの回転を、選択中の変速段に応じ変速して、変速機出力軸3bより出力する。
変速機出力軸3bからの回転はその後、ディファレンシャルギヤ装置8を経て後輪2に至り、車両をエンジン1およびモータ/ジェネレータ5の双方によってハイブリッド走行(HEV走行)させることができる。
【0015】
かかるHEV走行中において、エンジン1を最適燃費で運転させるとエネルギーが余剰となる場合、この余剰エネルギーによりモータ/ジェネレータ5を発電機として作動させることで余剰エネルギーを電力に変換し、この発電電力をモータ/ジェネレータ5のモータ駆動に用いるよう蓄電しておくことでエンジン1の燃費を向上させることができる。
【0016】
図1に示すハイブリッド車両のパワートレインを成すエンジン1、モータ/ジェネレータ5、第1クラッチ6、および第2クラッチ7は、図2に示すようなシステムにより制御する。
図2の制御システムは、パワートレインの動作点を統合制御する統合コントローラ20を備え、パワートレインの動作点を、目標エンジントルクtTeと、目標モータ/ジェネレータトルクtTmと、第1クラッチ6の目標伝達トルク容量tTc1と、第2クラッチ7の目標伝達トルク容量tTc2とで規定する。
【0017】
統合コントローラ20には、上記パワートレインの動作点を決定するために、エンジン回転数Neを検出するエンジン回転センサ11からの信号と、モータ/ジェネレータ回転数Nmを検出するモータ/ジェネレータ回転センサ12からの信号と、変速機入力回転数Niを検出する入力回転センサ13からの信号と、変速機出力回転数Noを検出する出力回転センサ14からの信号と、車両への要求負荷を表すアクセルペダル踏み込み量(アクセル開度APO)を検出するアクセル開度センサ15からの信号と、モータ/ジェネレータ5用の電力を蓄電しておくバッテリ9の蓄電状態SOC(持ち出し可能電力)を検出する蓄電状態センサ16からの信号とを入力する。
なお、上記したセンサのうち、エンジン回転センサ11、モータ/ジェネレータ回転センサ12、入力回転センサ13、および出力回転センサ14はそれぞれ、図1に示すように配置することができる。
【0018】
統合コントローラ20は、上記入力情報のうちアクセル開度APO、バッテリ蓄電状態SOC、および変速機出力回転数No(車速VSP)から、運転者が希望している車両の駆動力を実現可能な運転モード(EVモード、HEVモード)を選択すると共に、目標エンジントルクtTe、目標モータ/ジェネレータトルクtTm、目標第1クラッチ伝達トルク容量tTc1、および目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2をそれぞれ演算する。
目標エンジントルクtTeはエンジンコントローラ21に供給され、目標モータ/ジェネレータトルクtTmはモータ/ジェネレータコントローラ22に供給される。
【0019】
エンジンコントローラ21は、エンジントルクTeが目標エンジントルクtTeとなるようエンジン1を制御し、モータ/ジェネレータコントローラ22はモータ/ジェネレータ5のトルクTmが目標モータ/ジェネレータトルクtTmとなるよう、バッテリ9およびインバータ10を介してモータ/ジェネレータ5を制御する。
統合コントローラ20は、目標第1クラッチ伝達トルク容量tTc1および目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2に対応したソレノイド電流を第1クラッチ6および第2クラッチ7の締結制御ソレノイド(図示せず)に供給し、第1クラッチ6の伝達トルク容量Tc1が目標伝達トルク容量tTc1に一致するよう、また、第2クラッチ7の伝達トルク容量Tc2が目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2に一致するよう、第1クラッチ6および第2クラッチ7を個々に締結力制御する。
【0020】
統合コントローラ20は、上記した運転モード(EVモード、HEVモード)の選択、そして目標エンジントルクtTe、目標モータ/ジェネレータトルクtTm、目標第1クラッチ伝達トルク容量tTc1、および目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2の演算を、図3の機能別ブロック線図で示すように実行する。
目標駆動力演算部(目標駆動力算出手段)30では、図4に示す目標駆動力マップを用いて、アクセル開度APOおよび車速VSPから、車両の目標駆動力tFoを演算する。
【0021】
運転モード選択部40では、図5に示すEV−HEV領域マップを用いて、アクセル開度APOおよび車速VSPから目標とする運転モードを決定する。
図5に示すEV−HEV領域マップから明らかなように、高負荷・高車速時はHEVモードを選択し、低負荷・低車速時はEVモードを選択し、EV走行中にアクセル開度APOおよび車速VSPの組み合わせで決まる運転点がEV→HEV切り替え線を越えてHEV領域に入るとき、EVモードからエンジン始動を伴うHEVモードへのモード切り替えを行い、また、HEV走行中に運転点がHEV→EV切り替え線を越えてEV領域に入るとき、HEVモードからエンジン停止およびエンジン切り離しを伴うEVモードへのモード切り替えを行うものとする。ここで、EV→HEV切り替え線およびHEV→EV切り替え線は、バッテリ蓄電状態が低くなるにつれて、アクセル開度APOが小さくなる方向に移動するものとする。
【0022】
図3の目標充放電演算部50では、図6に示す充放電量マップを用いて、バッテリ蓄電状態SOCから目標充放電量(電力)tPを演算する。
動作点指令部60では、アクセル開度APOと、後述する駆動力変化率制限部(駆動力変化率制限手段)61の駆動力変化率制限処理によって目標駆動力tFoの値を制限した制限後目標駆動力tFo_limと、目標運転モードと、車速VSPと、目標充放電電力tPとから、これらを動作点到達目標として、時々刻々の過渡的な目標エンジントルクtTeと、目標モータ/ジェネレータトルクtTmと、第1クラッチ6の目標伝達トルク容量tTc1に対応した目標ソレノイド電流Is1と、第2クラッチ7の目標伝達トルク容量tTc2と、目標変速段SHIFTとを演算する。図7は、目標変速段SHIFTを決める変速マップの一例であり、目標変速段SHIFTは、車速VSPとアクセル開度APOに応じて設定する。
また、現在の動作点から図8に示す最良燃費線までエンジントルクを上げるのに必要な出力を演算し、これと上記目標充放電量(電力)tPとを比較し、小さい方の出力を要求出力として、エンジン出力に加算する。
【0023】
変速制御部70では、上記の目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2と、目標変速段SHIFTとを入力され、これら目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2および目標変速段SHIFTが達成されるよう自動変速機3内の対応するソレノイドバルブを駆動する。
これにより図1の自動変速機3は、第2クラッチ7を目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2が達成されるよう締結制御されつつ、目標変速段SHIFTが選択された動力伝達状態になる。
【0024】
[エンジン始動処理]
動作点指令部60は、目標運転モードがEVモードからエンジン始動を伴うHEVモードへ切り替わったとき、エンジン1を始動させるエンジン始動処理を実行する。エンジン始動処理は以下の通りである。
目標運転モードがEVモードからHEVモードへ切り替わったとき、先ず第2クラッチ7の伝達トルク容量tTc2を、エンジン始動要求直前の変速機出力軸トルクに対応したものとなるように設定し、その後モータ/ジェネレータ5の駆動力を増大させる。
このとき、モータ/ジェネレータ5に作用する負荷は、第2クラッチ7の伝達トルク容量tTc2に相当する値を上限とし、これを超えた負荷がモータ/ジェネレータ5に作用することはなく、モータ/ジェネレータ5は、上記駆動力の増大により第2クラッチ7をスリップさせつつ、回転数Nmを上昇することとする。
【0025】
次いで、係る第2クラッチ7のスリップおよびモータ/ジェネレータ回転数Nmの上昇が完了したと見込まれる時より、解放状態であった第1クラッチ6の伝達トルク容量tTc1を所定値まで上昇させて第1クラッチ6を締結進行させ、エンジン1をクランキングしてエンジン回転数Neを引き上げ、エンジン回転数Neが所定回転数に達したらエンジン1に対し燃料噴射、点火等の着火制御を行う。これによりエンジン1が始動、すなわち、エンジン1が完爆し、自立運転可能な回転数に達して、第1クラッチ6の前後回転差(エンジン回転数Neとモータ/ジェネレータ回転数Nmとの差)が無くなったら、第1クラッチ6を完全締結させると共に第2クラッチ7の伝達トルク容量tTc2を本来の値に増大復帰させて、エンジン始動処理を終了する。
【0026】
[駆動力変化率制限処理]
駆動力変化率制限部61は、図9に示す制御プログラムを実行することで目標駆動力tFoの変化率を制限した制限後目標駆動力tFo_limを演算する。
図9は、駆動力変化率制限処理の流れを示すフローチャートである。
ステップS1では、車両の駆動力の推定値である推定駆動力Fo^を算出すると共に、目標駆動力tFoから推定駆動力Fo^を減算して駆動力偏差ΔFoを求め、駆動力偏差ΔFoが前回の演算周期で算出した駆動力偏差前回値ΔFon-1以上であるか否かを判定し、YESの場合にはステップS2へ進み、NOの場合にはステップS3へ進む。
【0027】
ここで、推定駆動力Fo^は、例えば、エンジントルクとモータ/ジェネレータトルクをそれぞれ推定し、両者を加算した値とする。エンジントルクは、例えば、エンジン回転数Ne、吸気圧力と点火時期に対するエンジントルクの関係をあらかじめ実験等により求めてマップを作成しておき、マップを検索することでトルク基本値を算出し、この基本値に対して、トルク応答の時定数を持った一次遅れ処理を施すことで算出できる。また、モータ/ジェネレータトルクは、モータ/ジェネレータ5の電流値から推定できる。なお、第2クラッチ7をスリップさせている場合には、推定駆動力Fo^を第2クラッチ7の目標伝達トルク容量tTc2から推定できる。
ステップS1は、推定駆動力Fo^を算出する実駆動力推定手段である。
【0028】
ステップS2では、目標駆動力tFoの前回値(前回の演算周期で算出した目標駆動力前回値)tFon-1からの増加量が所定の増加側変化率制限値ΔFo_i以下となるような制限後目標駆動力tFo_limを算出し、制御を終了する。よって、目標駆動力tFoから前回値tFon-1を減算した値が増加側変化率制限値ΔFo_iよりも小さい場合、制限後目標駆動力tFo_limは目標駆動力tFoとなり、目標駆動力tFoから前回値tFon-1を減算した値が増加側変化率制限値ΔFo_i以上である場合、制限後目標駆動力tFo_limは前回値tFon-1に増加側変化率制限値ΔFo_iを加算した値となる。
ステップS3では、目標駆動力tFoが所定のトルク閾値Fo_th以上であるか否かを判定し、YESの場合にはステップS4へ進み、NOの場合にはステップS5へ進む。ここで、トルク閾値Fo_thは、エンジン1から左右後輪2に至る駆動系の回転の慣性力と、自動変速機3からディファレンシャルギヤ装置8までのフリクショントルクとに打ち勝つトルク値以上の値とする。
【0029】
ステップS4では、目標駆動力tFoをそのまま制限後目標駆動力tFo_limとし、制御を終了する。
ステップS5では、車速VSPから図10のマップを参照して減少側変化率制限値ΔFo_dを算出する。図10は、車速VSPに応じた減少側変化率制限値ΔFo_dの設定マップであり、減少側変化率制限値ΔFo_dは、車速VSPが低下するにつれて小さくなるものする。なお、減少側変化率制限値ΔFo_dには上限値と下限値を設ける。上限値は、増加側変化率制限値ΔFo_iよりも小さな値とする。
【0030】
ステップS6では、目標駆動力tFoの前回値tFon-1からの減少量がステップS5で算出した減少側変化率制限値ΔFo_d以下となるような制限後目標駆動力tFo_limを算出し、制御を終了する。よって、目標駆動力tFoから前回値tFon-1を減算した値の絶対値が減少側変化率制限値ΔFo_dよりも小さい場合、制限後目標駆動力tFo_limは目標駆動力tFoとなり、目標駆動力tFoから前回値tFon-1を減算した値の絶対値が減少側変化率制限値ΔFo_d以上である場合、制限後目標駆動力tFo_limは前回値tFon-1から減少側変化率制限値ΔFo_dを減算した値となる。
【0031】
次に、作用を説明する。
[駆動力変化率制限作用]
図11は、高車速域においてアクセルオフによりドライブ走行からコースト走行へ移行する際の駆動力変化率制限作用を示すタイムチャートである。
時点t1では、運転者がアクセルの踏み込みを開始し、時点t1からt2の期間ではアクセル開度APOが増大に応じて目標駆動力tFoが増大する。このとき、目標駆動力tFoと推定駆動力Fo^との偏差である駆動力偏差ΔFoは前回値ΔFon-1に対して増加しているため、図9に示した駆動力変化率制限処理において、ステップS1→ステップS2へと進む流れとなり、制限後目標駆動力tFo_limの前回値tFon-1からの増加量は、増加側変化率制限値ΔFo_i以下に制限される。
時点t2では、運転者がアクセルの踏み込みを終了し、時点t3では、制限後目標駆動力tFo_limが目標駆動力tFoに一致する。時点t3からt4の期間では、アクセル開度APOが一定であるため、目標駆動力tFoは変化せず、制限後目標駆動力tFo_limも目標駆動力tFoと一致している。
【0032】
時点t4では、運転者がアクセルオフし、時点t4からt5の期間では、駆動力偏差ΔFoは前回値ΔFon-1に対して減少しており、さらに目標駆動力tFoがトルク閾値Fo_th以上であるため、駆動力変化率制限処理において、ステップS1→ステップS3→ステップS4へと進む流れとなり、ステップS4では、目標駆動力tFoの変化率を制限せず、目標駆動力tFoを制限後目標駆動力tFo_limとする。
【0033】
時点t5では、目標駆動力tFoがトルク閾値Fo_thを下回ったため、時点t5からt6の期間では、駆動力変化率制限処理において、ステップS1→ステップS3→ステップS5→ステップS6へと進む流れとなり、ステップS6では、制限後目標駆動力tFo_limの前回値tFon-1からの減少量は、増加側変化率制限値ΔFo_iよりも小さな減少側変化率制限値ΔFo_d以下に制限される。このとき、車速VSPは図10に示したマップにおいて減少側変化率制限値ΔFo_dの上限値に対応する値であるため、減少側変化率制限値ΔFo_dは上限値となる。
時点t6では、制限後目標駆動力tFo_limが目標駆動力tFo、すなわちコースト走行における目標コーストトルク(<0)に一致する。
【0034】
従来装置では、駆動力偏差が小さい場合、目標駆動力の変化率の制限を大きくしているため(図11の駆動力偏差小)、アクセルオフに対して車両の駆動力を早期に目標コーストトルクまで減速させることができず、空走感を与えてしまう。これに対し、実施例1では、運転者のアクセルオフに対して車両を早期に目標コーストトルクまで減速させることができるため、空走感の発生を緩和できる。
【0035】
なお、車両の駆動力がゼロを跨ぐ(正から負へと切り替わる)際、駆動力伝達経路上に設けられた歯車の歯面間のガタ(バックラッシュ)が詰まること等に起因してショックが発生する。
ここで、実施例1では、高車速域では減少側変化率制限値ΔFo_dを上限値としているため、車両の駆動力がゼロを跨ぐ際の駆動力の変化率は従来装置よりも大きくなるが、目標駆動力tFoがトルク閾値Fo_thを下回ったときの減少側変化率制限値ΔFo_dは、目標駆動力tFoがトルク閾値Fo_th以上のときの減少側変化率制限値ΔFo_dよりも小さいこと、および高速走行時であることから、発生するショックは小さい。駆動力がゼロを跨ぐ際に発生するショックは、自動変速機3の変速段がロー側であるほど大きくなるのに対し、高速走行時にはハイ側の変速段が選択されているからである。
【0036】
図12は、中車速域においてアクセルオフによりドライブ走行からコースト走行へ移行する際の駆動力変化率制限作用を示すタイムチャートである。
時点t1からt5の期間は、図11の時点t1からt5の期間と同様である。
時点t5では、目標駆動力tFoがトルク閾値Fo_thを下回ったため、時点t5からt6の期間では、駆動力変化率制限処理において、ステップS1→ステップS3→ステップS5→ステップS6へと進む流れとなり、ステップS6では、制限後目標駆動力tFo_limの前回値tFon-1からの減少量は、増加側変化率制限値ΔFo_iよりも小さな減少側変化率制限値ΔFo_d以下に制限される。
【0037】
ここで、時点t5では、車速VSPが図10の設定マップにおいて減少側変化率制限値ΔFo_dの上限値に対応する車速を下回っているため、減少側変化率制限値ΔFo_dは、車速VSPの低下につれて小さくなる。
上述したように、ドライブ走行からコースト走行へ移行する際に発生するショックは、変速段がロー側であるほど大きくなるのに対し、自動変速機3の変速段は車速VSPが低下するほどロー側が選択される。
従来装置では、駆動力偏差が大きい場合、目標駆動力の変化率の制限を小さくするため(図12の駆動力偏差大)、駆動力がゼロを跨ぐ際に発生するショックが大きくなる。これに対し、実施例1では、低車速域では車速VSPが低下するほど駆動力変化を小さくするため、駆動力がゼロを跨ぐ際の車速VSPが低いほど大きなショックが発生するのに対し、ショックを効果的に抑制できる。
【0038】
以上のように、実施例1では、目標駆動力tFoの変化率を制限する減少側変化率制限値ΔFo_dを大から小へと切り替えるトルク閾値Fo_thを、エンジン1から左右後輪2に至る駆動系の回転の慣性力と、自動変速機3からディファレンシャルギヤ装置8までのフリクショントルクとに打ち勝つトルク値以上の値としている。駆動力がゼロを跨ぐ際に発生するショックは、駆動力が正のとき発生する。これは、エンジン1から左右後輪2に至る駆動系の回転の慣性力と、自動変速機3からディファレンシャルギヤ装置8までのフリクショントルクとの影響によるものである。つまり、ショックは駆動力がトルク閾値Fo_thを下回ってからゼロとなるまでの間に発生するため、目標駆動力tFoがトルク閾値Fo_thを下回ったときに目標駆動力tFoの変化率の制限を大きくすることで、ショックを緩和できる。一方、駆動力がトルク閾値Fo_th以上の場合にはショックが発生することはないため、その場合は目標駆動力tFoの変化率を制限しないことで、運転者のアクセルオフに対して車両を早期に減速させることができ、空走感を抑制できる。
【0039】
次に、効果を説明する。
実施例1の車両の駆動力制御装置にあっては、以下に列挙する効果を奏する。
(1) 目標駆動力tFoを算出する目標駆動力演算部30と、推定駆動力Fo^を算出する実駆動力推定手段(ステップS1)と、目標駆動力tFoと推定駆動力Fo^との偏差である駆動力偏差ΔFoが減少方向に変化している場合、目標駆動力tFoが所定のトルク閾値Fo_th未満のときには目標駆動力tFoがトルク閾値Fo_th以上のときよりも目標駆動力tFoの変化率を大きく制限する駆動力変化率制限部61と、を備えた。
これにより、運転者のアクセルオフに対して車両を早期に減速させることができ、空走感を抑制できると共に、ドライブ走行からコースト走行へ移行する際に発生するショックを緩和できる。
【0040】
(2) 駆動力変化率制限部61は、目標駆動力tFoがトルク閾値Fo_th未満の場合、車速VSPが低下するにつれて目標駆動力tFoの変化率を大きく制限するため、車速VSPが低下するほど大きくなるショックを効果的に抑制できる。
【0041】
(他の実施例)
以上、本発明の車両の駆動力制御装置を実施するための形態を、実施例に基づいて説明したが、本発明の具体的な構成は、実施例に記載の構成に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等は本発明の範囲に含まれる。
図9のステップS4において、増加側変化率制限値ΔFo_iよりも大きな減少側変化率制限値ΔFo_dにより目標駆動力tFoの前回値tFon-1からの変化量を制限した制限後目標駆動力tFo_limを求めてもよい。
【0042】
自動変速機3は、有段式のものに限られず、無段変速機であってもよい。
目標モータ/ジェネレータトルクtTmに代えて、目標モータ/ジェネレータ回転数tNmを用い、モータ/ジェネレータ5の回転数Nmが目標モータ/ジェネレータ回転数tNmとなるようにモータ/ジェネレータ5を制御する構成としてもよい。
第2クラッチ7は自動変速機3内に既存する変速摩擦要素ではなく、専用のものを新設してもよい。この場合、第2クラッチ7は自動変速機3の入力軸3aとモータ/ジェネレータ軸4との間に設けたり、自動変速機3の出力軸3bと後輪駆動系との間に設けたりすることができる。
推定駆動力Fo^の算出方法は任意であり、例えば、車速VSPと車両の前後方向加速度から算出してもよい。
【符号の説明】
【0043】
30 目標駆動力演算部(目標駆動力算出手段)
61 駆動力変化率制限部(駆動力変化率制限手段)
S1 実駆動力推定手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の駆動力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、運転者のアクセル操作に応じた車両の目標駆動力と現在の駆動力との偏差が大きい場合には、目標駆動力の変化率の制限を小さくし、前記偏差が小さい場合には、目標駆動力の変化率の制限を大きくすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4200842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術にあっては、目標駆動力と現在の駆動力との偏差に応じて目標駆動力の変化率を制限しているため、アクセルオフにより車両がドライブ走行からコースト走行へ移行する際、以下のような問題が生じる。
前記偏差が大きい場合には、目標駆動力の変化率の制限を小さくするため、車両の駆動力がゼロを跨ぐ(駆動力が正から負に切り替わる)際に発生するショックが大きくなる。一方、偏差が小さいときには目標駆動力の変化率の制限を大きくするため、アクセルオフに対して車両を早期に減速させることができず、空走感を与えてしまう。
本発明の目的は、アクセルオフによりドライブ走行からコースト走行へ移行する際のショックの緩和と空走感の抑制とを両立できる車両の駆動力制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明では、目標駆動力と実駆動力との偏差が減少方向に変化している場合、目標駆動力が所定の閾値未満のときには目標駆動力が閾値以上のときよりも目標駆動力の変化率を大きく制限する。
【発明の効果】
【0006】
本発明にあっては、目標駆動力が閾値以上であるときは目標駆動力の変化率の制限を小さくするため、運転者のアクセルオフに対して車両を早期に減速させることができ、空走感を抑制できる。一方、目標駆動力が閾値未満となったときには、目標駆動力の変化率の制限を大きくするため、車両の加速度変化を小さくすることでドライブ走行からコースト走行へ移行する際に発生するショックを緩和できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の車両の駆動力制御装置を適用した実施例1のハイブリッド車両のパワートレインを示す概略平面図である。
【図2】図1に示したパワートレインの制御システムを示すブロック線図である。
【図3】図2に示した制御システムにおける統合コントローラの機能別ブロック線図である。
【図4】図3における目標駆動力演算部が目標駆動力を求めるときに用いる目標駆動力の特性線図である。
【図5】ハイブリッド車両の電気走行(EV)モード領域およびハイブリッド走行(HEV)モード領域を示す領域線図である。
【図6】ハイブリッド車両のバッテリ蓄電状態に対する目標充放電量特性を示す特性線図である。
【図7】目標変速段SHIFTを決める変速マップの一例である。
【図8】車速に応じた最良燃費線までのエンジントルクの上昇経過を示すエンジントルク上昇経過説明図である。
【図9】駆動力変化率制限処理の流れを示すフローチャートである。
【図10】車速VSPに応じた減少側変化率制限値ΔFo_dの設定マップである。
【図11】高車速域においてアクセルオフによりドライブ走行からコースト走行へ移行する際の駆動力変化率制限作用を示すタイムチャートである。
【図12】中車速域においてアクセルオフによりドライブ走行からコースト走行へ移行する際の駆動力変化率制限作用を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の車両の駆動力制御装置を実施するための形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
〔実施例1〕
図1は、本発明の車両の駆動力制御装置を適用した実施例1のハイブリッド車両のパワートレインを示す概略平面図である。
実施例1のハイブリッド車両は、フロントエンジン・リヤホイールドライブ車(後輪駆動車)をベース車両とし、これをハイブリッド化したもので、1はエンジンであり、2は駆動車輪(後輪)である。
図1に示すハイブリッド車両のパワートレインにおいては、通常の後輪駆動車と同様にエンジン1の車両前後方向後方に自動変速機3をタンデムに配置し、エンジン1(クランクシャフト1a)からの回転を自動変速機3の入力軸3aへ伝達する軸4に結合してモータ/ジェネレータ(電動モータ)5を設け、このモータ/ジェネレータ5を、第2動力源として備える。
【0009】
モータ/ジェネレータ5は、駆動モータおよびジェネレータとして作用するもので、エンジン1および自動変速機3間に配置する。
このモータ/ジェネレータ5およびエンジン1間、より詳しくは、軸4とエンジンクランクシャフト1aとの間に第1クラッチ6を介挿し、この第1クラッチ6によりエンジン1およびモータ/ジェネレータ5間を切り離し可能に結合する。
ここで、第1クラッチ6は、伝達トルク容量を連続的もしくは段階的に変更可能なものとし、例えば、比例ソレノイドでクラッチ作動油流量およびクラッチ作動油圧を連続的もしくは段階的に制御して伝達トルク容量を変更可能な湿式多板クラッチで構成する。
【0010】
モータ/ジェネレータ5および駆動車輪(後輪)2間に第2クラッチ7を介挿し、この第2クラッチ7によりモータ/ジェネレータ5および駆動車輪(後輪)2間を切り離し可能に結合する。
第2クラッチ7も第1クラッチ6と同様、伝達トルク容量を連続的もしくは段階的に変更可能なものとし、例えば、比例ソレノイドでクラッチ作動油流量およびクラッチ作動油圧を連続的もしくは段階的に制御して伝達トルク容量を変更可能な湿式多板クラッチで構成する。
【0011】
自動変速機3は、周知の任意なものでよく、複数の変速摩擦要素(クラッチやブレーキ等)を選択的に締結・解放することで、これら変速摩擦要素の締結・解放の組み合わせにより伝動系路(変速段)を決定するものとする。
従って、自動変速機3は、入力軸3aからの回転を選択変速段に応じたギヤ比で変速して出力軸3bに出力する。
この出力回転は、ディファレンシャルギヤ装置8により左右後輪2へ分配して伝達され、車両の走行に供される。
【0012】
ところで、図1においては、モータ/ジェネレータ5および駆動車輪2を切り離し可能に結合する第2クラッチ7として専用のものを新設するのではなく、自動変速機3内に既存する変速摩擦要素を流用する。
この場合、第2クラッチ7が締結により上記の変速段選択機能(変速機能)を果たして自動変速機3を動力伝達状態にするのに加え、第1クラッチ6の解放・締結との共働により、後述するモード選択機能を果たし得ることとなり、専用の第2クラッチが不要でコスト上大いに有利である。
【0013】
上記した図1に示すハイブリッド車両のパワートレインにおいては、停車状態からの発進時などを含む低負荷・低車速時に用いられる電気走行(EV)モードが要求される場合、第1クラッチ6を解放し、第2クラッチ7の締結により自動変速機3を動力伝達状態にする。
なお第2クラッチ7は、自動変速機3内の変速摩擦要素のうち、現変速段で締結させるべき変速摩擦要素であって、選択中の変速段ごとに異なる。
この状態でモータ/ジェネレータ5を駆動すると、当該モータ/ジェネレータ5からの出力回転のみが変速機入力軸3aに達することとなり、自動変速機3が当該入力軸3aへの回転を、選択中の変速段に応じ変速して変速機出力軸3bより出力する。
変速機出力軸3bからの回転はその後、ディファレンシャルギヤ装置8を経て後輪2に至り、車両をモータ/ジェネレータ5のみによって電気走行(EV走行)させることができる。
【0014】
高速走行時や大負荷走行時などで用いられるハイブリッド走行(HEV走行)モードが要求される場合、第2クラッチ7の締結により自動変速機3を対応変速段選択状態(動力伝達状態)にしたまま、第1クラッチ6も締結させる。
この状態では、エンジン1からの出力回転およびモータ/ジェネレータ5からの出力回転の双方が変速機入力軸3aに達することとなり、自動変速機3が当該入力軸3aへの回転を、選択中の変速段に応じ変速して、変速機出力軸3bより出力する。
変速機出力軸3bからの回転はその後、ディファレンシャルギヤ装置8を経て後輪2に至り、車両をエンジン1およびモータ/ジェネレータ5の双方によってハイブリッド走行(HEV走行)させることができる。
【0015】
かかるHEV走行中において、エンジン1を最適燃費で運転させるとエネルギーが余剰となる場合、この余剰エネルギーによりモータ/ジェネレータ5を発電機として作動させることで余剰エネルギーを電力に変換し、この発電電力をモータ/ジェネレータ5のモータ駆動に用いるよう蓄電しておくことでエンジン1の燃費を向上させることができる。
【0016】
図1に示すハイブリッド車両のパワートレインを成すエンジン1、モータ/ジェネレータ5、第1クラッチ6、および第2クラッチ7は、図2に示すようなシステムにより制御する。
図2の制御システムは、パワートレインの動作点を統合制御する統合コントローラ20を備え、パワートレインの動作点を、目標エンジントルクtTeと、目標モータ/ジェネレータトルクtTmと、第1クラッチ6の目標伝達トルク容量tTc1と、第2クラッチ7の目標伝達トルク容量tTc2とで規定する。
【0017】
統合コントローラ20には、上記パワートレインの動作点を決定するために、エンジン回転数Neを検出するエンジン回転センサ11からの信号と、モータ/ジェネレータ回転数Nmを検出するモータ/ジェネレータ回転センサ12からの信号と、変速機入力回転数Niを検出する入力回転センサ13からの信号と、変速機出力回転数Noを検出する出力回転センサ14からの信号と、車両への要求負荷を表すアクセルペダル踏み込み量(アクセル開度APO)を検出するアクセル開度センサ15からの信号と、モータ/ジェネレータ5用の電力を蓄電しておくバッテリ9の蓄電状態SOC(持ち出し可能電力)を検出する蓄電状態センサ16からの信号とを入力する。
なお、上記したセンサのうち、エンジン回転センサ11、モータ/ジェネレータ回転センサ12、入力回転センサ13、および出力回転センサ14はそれぞれ、図1に示すように配置することができる。
【0018】
統合コントローラ20は、上記入力情報のうちアクセル開度APO、バッテリ蓄電状態SOC、および変速機出力回転数No(車速VSP)から、運転者が希望している車両の駆動力を実現可能な運転モード(EVモード、HEVモード)を選択すると共に、目標エンジントルクtTe、目標モータ/ジェネレータトルクtTm、目標第1クラッチ伝達トルク容量tTc1、および目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2をそれぞれ演算する。
目標エンジントルクtTeはエンジンコントローラ21に供給され、目標モータ/ジェネレータトルクtTmはモータ/ジェネレータコントローラ22に供給される。
【0019】
エンジンコントローラ21は、エンジントルクTeが目標エンジントルクtTeとなるようエンジン1を制御し、モータ/ジェネレータコントローラ22はモータ/ジェネレータ5のトルクTmが目標モータ/ジェネレータトルクtTmとなるよう、バッテリ9およびインバータ10を介してモータ/ジェネレータ5を制御する。
統合コントローラ20は、目標第1クラッチ伝達トルク容量tTc1および目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2に対応したソレノイド電流を第1クラッチ6および第2クラッチ7の締結制御ソレノイド(図示せず)に供給し、第1クラッチ6の伝達トルク容量Tc1が目標伝達トルク容量tTc1に一致するよう、また、第2クラッチ7の伝達トルク容量Tc2が目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2に一致するよう、第1クラッチ6および第2クラッチ7を個々に締結力制御する。
【0020】
統合コントローラ20は、上記した運転モード(EVモード、HEVモード)の選択、そして目標エンジントルクtTe、目標モータ/ジェネレータトルクtTm、目標第1クラッチ伝達トルク容量tTc1、および目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2の演算を、図3の機能別ブロック線図で示すように実行する。
目標駆動力演算部(目標駆動力算出手段)30では、図4に示す目標駆動力マップを用いて、アクセル開度APOおよび車速VSPから、車両の目標駆動力tFoを演算する。
【0021】
運転モード選択部40では、図5に示すEV−HEV領域マップを用いて、アクセル開度APOおよび車速VSPから目標とする運転モードを決定する。
図5に示すEV−HEV領域マップから明らかなように、高負荷・高車速時はHEVモードを選択し、低負荷・低車速時はEVモードを選択し、EV走行中にアクセル開度APOおよび車速VSPの組み合わせで決まる運転点がEV→HEV切り替え線を越えてHEV領域に入るとき、EVモードからエンジン始動を伴うHEVモードへのモード切り替えを行い、また、HEV走行中に運転点がHEV→EV切り替え線を越えてEV領域に入るとき、HEVモードからエンジン停止およびエンジン切り離しを伴うEVモードへのモード切り替えを行うものとする。ここで、EV→HEV切り替え線およびHEV→EV切り替え線は、バッテリ蓄電状態が低くなるにつれて、アクセル開度APOが小さくなる方向に移動するものとする。
【0022】
図3の目標充放電演算部50では、図6に示す充放電量マップを用いて、バッテリ蓄電状態SOCから目標充放電量(電力)tPを演算する。
動作点指令部60では、アクセル開度APOと、後述する駆動力変化率制限部(駆動力変化率制限手段)61の駆動力変化率制限処理によって目標駆動力tFoの値を制限した制限後目標駆動力tFo_limと、目標運転モードと、車速VSPと、目標充放電電力tPとから、これらを動作点到達目標として、時々刻々の過渡的な目標エンジントルクtTeと、目標モータ/ジェネレータトルクtTmと、第1クラッチ6の目標伝達トルク容量tTc1に対応した目標ソレノイド電流Is1と、第2クラッチ7の目標伝達トルク容量tTc2と、目標変速段SHIFTとを演算する。図7は、目標変速段SHIFTを決める変速マップの一例であり、目標変速段SHIFTは、車速VSPとアクセル開度APOに応じて設定する。
また、現在の動作点から図8に示す最良燃費線までエンジントルクを上げるのに必要な出力を演算し、これと上記目標充放電量(電力)tPとを比較し、小さい方の出力を要求出力として、エンジン出力に加算する。
【0023】
変速制御部70では、上記の目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2と、目標変速段SHIFTとを入力され、これら目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2および目標変速段SHIFTが達成されるよう自動変速機3内の対応するソレノイドバルブを駆動する。
これにより図1の自動変速機3は、第2クラッチ7を目標第2クラッチ伝達トルク容量tTc2が達成されるよう締結制御されつつ、目標変速段SHIFTが選択された動力伝達状態になる。
【0024】
[エンジン始動処理]
動作点指令部60は、目標運転モードがEVモードからエンジン始動を伴うHEVモードへ切り替わったとき、エンジン1を始動させるエンジン始動処理を実行する。エンジン始動処理は以下の通りである。
目標運転モードがEVモードからHEVモードへ切り替わったとき、先ず第2クラッチ7の伝達トルク容量tTc2を、エンジン始動要求直前の変速機出力軸トルクに対応したものとなるように設定し、その後モータ/ジェネレータ5の駆動力を増大させる。
このとき、モータ/ジェネレータ5に作用する負荷は、第2クラッチ7の伝達トルク容量tTc2に相当する値を上限とし、これを超えた負荷がモータ/ジェネレータ5に作用することはなく、モータ/ジェネレータ5は、上記駆動力の増大により第2クラッチ7をスリップさせつつ、回転数Nmを上昇することとする。
【0025】
次いで、係る第2クラッチ7のスリップおよびモータ/ジェネレータ回転数Nmの上昇が完了したと見込まれる時より、解放状態であった第1クラッチ6の伝達トルク容量tTc1を所定値まで上昇させて第1クラッチ6を締結進行させ、エンジン1をクランキングしてエンジン回転数Neを引き上げ、エンジン回転数Neが所定回転数に達したらエンジン1に対し燃料噴射、点火等の着火制御を行う。これによりエンジン1が始動、すなわち、エンジン1が完爆し、自立運転可能な回転数に達して、第1クラッチ6の前後回転差(エンジン回転数Neとモータ/ジェネレータ回転数Nmとの差)が無くなったら、第1クラッチ6を完全締結させると共に第2クラッチ7の伝達トルク容量tTc2を本来の値に増大復帰させて、エンジン始動処理を終了する。
【0026】
[駆動力変化率制限処理]
駆動力変化率制限部61は、図9に示す制御プログラムを実行することで目標駆動力tFoの変化率を制限した制限後目標駆動力tFo_limを演算する。
図9は、駆動力変化率制限処理の流れを示すフローチャートである。
ステップS1では、車両の駆動力の推定値である推定駆動力Fo^を算出すると共に、目標駆動力tFoから推定駆動力Fo^を減算して駆動力偏差ΔFoを求め、駆動力偏差ΔFoが前回の演算周期で算出した駆動力偏差前回値ΔFon-1以上であるか否かを判定し、YESの場合にはステップS2へ進み、NOの場合にはステップS3へ進む。
【0027】
ここで、推定駆動力Fo^は、例えば、エンジントルクとモータ/ジェネレータトルクをそれぞれ推定し、両者を加算した値とする。エンジントルクは、例えば、エンジン回転数Ne、吸気圧力と点火時期に対するエンジントルクの関係をあらかじめ実験等により求めてマップを作成しておき、マップを検索することでトルク基本値を算出し、この基本値に対して、トルク応答の時定数を持った一次遅れ処理を施すことで算出できる。また、モータ/ジェネレータトルクは、モータ/ジェネレータ5の電流値から推定できる。なお、第2クラッチ7をスリップさせている場合には、推定駆動力Fo^を第2クラッチ7の目標伝達トルク容量tTc2から推定できる。
ステップS1は、推定駆動力Fo^を算出する実駆動力推定手段である。
【0028】
ステップS2では、目標駆動力tFoの前回値(前回の演算周期で算出した目標駆動力前回値)tFon-1からの増加量が所定の増加側変化率制限値ΔFo_i以下となるような制限後目標駆動力tFo_limを算出し、制御を終了する。よって、目標駆動力tFoから前回値tFon-1を減算した値が増加側変化率制限値ΔFo_iよりも小さい場合、制限後目標駆動力tFo_limは目標駆動力tFoとなり、目標駆動力tFoから前回値tFon-1を減算した値が増加側変化率制限値ΔFo_i以上である場合、制限後目標駆動力tFo_limは前回値tFon-1に増加側変化率制限値ΔFo_iを加算した値となる。
ステップS3では、目標駆動力tFoが所定のトルク閾値Fo_th以上であるか否かを判定し、YESの場合にはステップS4へ進み、NOの場合にはステップS5へ進む。ここで、トルク閾値Fo_thは、エンジン1から左右後輪2に至る駆動系の回転の慣性力と、自動変速機3からディファレンシャルギヤ装置8までのフリクショントルクとに打ち勝つトルク値以上の値とする。
【0029】
ステップS4では、目標駆動力tFoをそのまま制限後目標駆動力tFo_limとし、制御を終了する。
ステップS5では、車速VSPから図10のマップを参照して減少側変化率制限値ΔFo_dを算出する。図10は、車速VSPに応じた減少側変化率制限値ΔFo_dの設定マップであり、減少側変化率制限値ΔFo_dは、車速VSPが低下するにつれて小さくなるものする。なお、減少側変化率制限値ΔFo_dには上限値と下限値を設ける。上限値は、増加側変化率制限値ΔFo_iよりも小さな値とする。
【0030】
ステップS6では、目標駆動力tFoの前回値tFon-1からの減少量がステップS5で算出した減少側変化率制限値ΔFo_d以下となるような制限後目標駆動力tFo_limを算出し、制御を終了する。よって、目標駆動力tFoから前回値tFon-1を減算した値の絶対値が減少側変化率制限値ΔFo_dよりも小さい場合、制限後目標駆動力tFo_limは目標駆動力tFoとなり、目標駆動力tFoから前回値tFon-1を減算した値の絶対値が減少側変化率制限値ΔFo_d以上である場合、制限後目標駆動力tFo_limは前回値tFon-1から減少側変化率制限値ΔFo_dを減算した値となる。
【0031】
次に、作用を説明する。
[駆動力変化率制限作用]
図11は、高車速域においてアクセルオフによりドライブ走行からコースト走行へ移行する際の駆動力変化率制限作用を示すタイムチャートである。
時点t1では、運転者がアクセルの踏み込みを開始し、時点t1からt2の期間ではアクセル開度APOが増大に応じて目標駆動力tFoが増大する。このとき、目標駆動力tFoと推定駆動力Fo^との偏差である駆動力偏差ΔFoは前回値ΔFon-1に対して増加しているため、図9に示した駆動力変化率制限処理において、ステップS1→ステップS2へと進む流れとなり、制限後目標駆動力tFo_limの前回値tFon-1からの増加量は、増加側変化率制限値ΔFo_i以下に制限される。
時点t2では、運転者がアクセルの踏み込みを終了し、時点t3では、制限後目標駆動力tFo_limが目標駆動力tFoに一致する。時点t3からt4の期間では、アクセル開度APOが一定であるため、目標駆動力tFoは変化せず、制限後目標駆動力tFo_limも目標駆動力tFoと一致している。
【0032】
時点t4では、運転者がアクセルオフし、時点t4からt5の期間では、駆動力偏差ΔFoは前回値ΔFon-1に対して減少しており、さらに目標駆動力tFoがトルク閾値Fo_th以上であるため、駆動力変化率制限処理において、ステップS1→ステップS3→ステップS4へと進む流れとなり、ステップS4では、目標駆動力tFoの変化率を制限せず、目標駆動力tFoを制限後目標駆動力tFo_limとする。
【0033】
時点t5では、目標駆動力tFoがトルク閾値Fo_thを下回ったため、時点t5からt6の期間では、駆動力変化率制限処理において、ステップS1→ステップS3→ステップS5→ステップS6へと進む流れとなり、ステップS6では、制限後目標駆動力tFo_limの前回値tFon-1からの減少量は、増加側変化率制限値ΔFo_iよりも小さな減少側変化率制限値ΔFo_d以下に制限される。このとき、車速VSPは図10に示したマップにおいて減少側変化率制限値ΔFo_dの上限値に対応する値であるため、減少側変化率制限値ΔFo_dは上限値となる。
時点t6では、制限後目標駆動力tFo_limが目標駆動力tFo、すなわちコースト走行における目標コーストトルク(<0)に一致する。
【0034】
従来装置では、駆動力偏差が小さい場合、目標駆動力の変化率の制限を大きくしているため(図11の駆動力偏差小)、アクセルオフに対して車両の駆動力を早期に目標コーストトルクまで減速させることができず、空走感を与えてしまう。これに対し、実施例1では、運転者のアクセルオフに対して車両を早期に目標コーストトルクまで減速させることができるため、空走感の発生を緩和できる。
【0035】
なお、車両の駆動力がゼロを跨ぐ(正から負へと切り替わる)際、駆動力伝達経路上に設けられた歯車の歯面間のガタ(バックラッシュ)が詰まること等に起因してショックが発生する。
ここで、実施例1では、高車速域では減少側変化率制限値ΔFo_dを上限値としているため、車両の駆動力がゼロを跨ぐ際の駆動力の変化率は従来装置よりも大きくなるが、目標駆動力tFoがトルク閾値Fo_thを下回ったときの減少側変化率制限値ΔFo_dは、目標駆動力tFoがトルク閾値Fo_th以上のときの減少側変化率制限値ΔFo_dよりも小さいこと、および高速走行時であることから、発生するショックは小さい。駆動力がゼロを跨ぐ際に発生するショックは、自動変速機3の変速段がロー側であるほど大きくなるのに対し、高速走行時にはハイ側の変速段が選択されているからである。
【0036】
図12は、中車速域においてアクセルオフによりドライブ走行からコースト走行へ移行する際の駆動力変化率制限作用を示すタイムチャートである。
時点t1からt5の期間は、図11の時点t1からt5の期間と同様である。
時点t5では、目標駆動力tFoがトルク閾値Fo_thを下回ったため、時点t5からt6の期間では、駆動力変化率制限処理において、ステップS1→ステップS3→ステップS5→ステップS6へと進む流れとなり、ステップS6では、制限後目標駆動力tFo_limの前回値tFon-1からの減少量は、増加側変化率制限値ΔFo_iよりも小さな減少側変化率制限値ΔFo_d以下に制限される。
【0037】
ここで、時点t5では、車速VSPが図10の設定マップにおいて減少側変化率制限値ΔFo_dの上限値に対応する車速を下回っているため、減少側変化率制限値ΔFo_dは、車速VSPの低下につれて小さくなる。
上述したように、ドライブ走行からコースト走行へ移行する際に発生するショックは、変速段がロー側であるほど大きくなるのに対し、自動変速機3の変速段は車速VSPが低下するほどロー側が選択される。
従来装置では、駆動力偏差が大きい場合、目標駆動力の変化率の制限を小さくするため(図12の駆動力偏差大)、駆動力がゼロを跨ぐ際に発生するショックが大きくなる。これに対し、実施例1では、低車速域では車速VSPが低下するほど駆動力変化を小さくするため、駆動力がゼロを跨ぐ際の車速VSPが低いほど大きなショックが発生するのに対し、ショックを効果的に抑制できる。
【0038】
以上のように、実施例1では、目標駆動力tFoの変化率を制限する減少側変化率制限値ΔFo_dを大から小へと切り替えるトルク閾値Fo_thを、エンジン1から左右後輪2に至る駆動系の回転の慣性力と、自動変速機3からディファレンシャルギヤ装置8までのフリクショントルクとに打ち勝つトルク値以上の値としている。駆動力がゼロを跨ぐ際に発生するショックは、駆動力が正のとき発生する。これは、エンジン1から左右後輪2に至る駆動系の回転の慣性力と、自動変速機3からディファレンシャルギヤ装置8までのフリクショントルクとの影響によるものである。つまり、ショックは駆動力がトルク閾値Fo_thを下回ってからゼロとなるまでの間に発生するため、目標駆動力tFoがトルク閾値Fo_thを下回ったときに目標駆動力tFoの変化率の制限を大きくすることで、ショックを緩和できる。一方、駆動力がトルク閾値Fo_th以上の場合にはショックが発生することはないため、その場合は目標駆動力tFoの変化率を制限しないことで、運転者のアクセルオフに対して車両を早期に減速させることができ、空走感を抑制できる。
【0039】
次に、効果を説明する。
実施例1の車両の駆動力制御装置にあっては、以下に列挙する効果を奏する。
(1) 目標駆動力tFoを算出する目標駆動力演算部30と、推定駆動力Fo^を算出する実駆動力推定手段(ステップS1)と、目標駆動力tFoと推定駆動力Fo^との偏差である駆動力偏差ΔFoが減少方向に変化している場合、目標駆動力tFoが所定のトルク閾値Fo_th未満のときには目標駆動力tFoがトルク閾値Fo_th以上のときよりも目標駆動力tFoの変化率を大きく制限する駆動力変化率制限部61と、を備えた。
これにより、運転者のアクセルオフに対して車両を早期に減速させることができ、空走感を抑制できると共に、ドライブ走行からコースト走行へ移行する際に発生するショックを緩和できる。
【0040】
(2) 駆動力変化率制限部61は、目標駆動力tFoがトルク閾値Fo_th未満の場合、車速VSPが低下するにつれて目標駆動力tFoの変化率を大きく制限するため、車速VSPが低下するほど大きくなるショックを効果的に抑制できる。
【0041】
(他の実施例)
以上、本発明の車両の駆動力制御装置を実施するための形態を、実施例に基づいて説明したが、本発明の具体的な構成は、実施例に記載の構成に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等は本発明の範囲に含まれる。
図9のステップS4において、増加側変化率制限値ΔFo_iよりも大きな減少側変化率制限値ΔFo_dにより目標駆動力tFoの前回値tFon-1からの変化量を制限した制限後目標駆動力tFo_limを求めてもよい。
【0042】
自動変速機3は、有段式のものに限られず、無段変速機であってもよい。
目標モータ/ジェネレータトルクtTmに代えて、目標モータ/ジェネレータ回転数tNmを用い、モータ/ジェネレータ5の回転数Nmが目標モータ/ジェネレータ回転数tNmとなるようにモータ/ジェネレータ5を制御する構成としてもよい。
第2クラッチ7は自動変速機3内に既存する変速摩擦要素ではなく、専用のものを新設してもよい。この場合、第2クラッチ7は自動変速機3の入力軸3aとモータ/ジェネレータ軸4との間に設けたり、自動変速機3の出力軸3bと後輪駆動系との間に設けたりすることができる。
推定駆動力Fo^の算出方法は任意であり、例えば、車速VSPと車両の前後方向加速度から算出してもよい。
【符号の説明】
【0043】
30 目標駆動力演算部(目標駆動力算出手段)
61 駆動力変化率制限部(駆動力変化率制限手段)
S1 実駆動力推定手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の目標駆動力を算出する目標駆動力算出手段と、
車両の実際の駆動力を推定する実駆動力推定手段と、
前記目標駆動力と実駆動力との偏差が減少方向に変化している場合、前記目標駆動力が所定の閾値未満のときには前記目標駆動力が前記閾値以上のときよりも前記目標駆動力の変化率を大きく制限する駆動力変化率制限手段と、
を備えたことを特徴とする車両の駆動力制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の駆動力制御装置において、
前記駆動力変化率制限手段は、前記目標駆動力が前記閾値未満の場合、車速が低下するにつれて前記目標駆動力の変化率を大きく制限することを特徴とする車両の駆動力制御装置。
【請求項1】
車両の目標駆動力を算出する目標駆動力算出手段と、
車両の実際の駆動力を推定する実駆動力推定手段と、
前記目標駆動力と実駆動力との偏差が減少方向に変化している場合、前記目標駆動力が所定の閾値未満のときには前記目標駆動力が前記閾値以上のときよりも前記目標駆動力の変化率を大きく制限する駆動力変化率制限手段と、
を備えたことを特徴とする車両の駆動力制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の駆動力制御装置において、
前記駆動力変化率制限手段は、前記目標駆動力が前記閾値未満の場合、車速が低下するにつれて前記目標駆動力の変化率を大きく制限することを特徴とする車両の駆動力制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−86678(P2012−86678A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−235223(P2010−235223)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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