説明

車両用内装材及びその製造方法

【課題】側突対策が施された簡単な構成の車両用内装材を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂の基材を備えた車両用内装材であって、基材(11)は、前記熱可塑性樹脂のゲル分率が45%以上90%以下である架橋構造を有する本体部(12)に、部分的に前記熱可塑性樹脂のゲル分率が10%以下の易変形部(13)を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用内装材及びその製造方法に関し、詳しくは、衝突発生時に破断、変形を促進して乗員に対する衝撃荷重を低減する構成としたドアトリム等の車両用内装材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両においては、車室に面する部分には車体を構成する金属製パネルの表面に樹脂製の内装材(トリム)が取り付けられている。この種の内装材は見栄え向上の観点から外観上優れていることに加えて、強度及び耐熱性を有すると共に、燃費低減のために軽量化も求められている。さらに、衝突事故等の発生時に乗員を保護するために衝撃吸収機能を有することが求められている。
【0003】
そこで、例えば、特許文献1(特開平10−24775号公報)では、車両衝突時に乗員に対する衝撃を吸収するために内装部品の基材裏面に凹溝を形成し、その溝を起点に基材が変形するようにしている。
【0004】
また、特許文献2(特開昭63−175041号公報)において、見掛密度が0.2〜0.020g/cc、厚さが少なくとも4mmおよび発泡体の表面層のゲル分率に対する発泡体中心層のゲル分率の比が1.5以下である放射線架橋厚物ポリプロピレン樹脂発泡体が提案されており、該発泡体はドアトリムとしても使用できるとされている。
【0005】
【特許文献1】特開平10−24775号公報
【特許文献2】特開昭63−175041号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の側突対応の内装部品は、基材の剛性を確保しつつ、衝突時には乗員に対して衝撃荷重を低減させるため、基材全般においては厚みが必要となり、内装部品における軽量化は難しい。また、基材に凹溝を形成のため、成形型の形状が複雑化する。
【0007】
前記特許文献2は、放射線による架橋構造を発泡の制御に利用する技術に関するものでドアトリムに用いられることが開示されているが、側面から衝撃が加えれた際の乗員保護を考慮したものではないため、これに対する対策は施されていない。
また、特許文献2のポリプロピレン樹脂発泡体は、ポリプロピレン樹脂を放射線により架橋した後に発泡や成形といった大きな変形を加えており、よって、特許文献2に例示されているようにゲル分率を30%程度と低くして、発泡や成形による変形を可能としている。このように、特許文献2の発泡体は、放射線照射により強固な架橋構造を形成したものではなく、全体として所要以上の剛性が要求される内装材を得ることは困難である。
【0008】
本発明は、前記問題に鑑みてなされたものであり、全体としては剛性を有すると共に、衝突時に所要以上の衝撃が負荷された際に容易に変形または破断する易変形部を備え、乗員に対する衝撃荷重を低減して乗員保護が図れる車両用内装材およびその製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明は、熱可塑性樹脂の基材を備えた車両用内装材であって、
前記基材は、前記熱可塑性樹脂のゲル分率45%以上90%以下である架橋構造を有し、部分的に前記記熱可塑性樹脂のゲル分率が10%以下の部分を有することを特徴とする車両用内装材を提供している。
【0010】
前記のように、本発明の車両用内装材の基材は、熱可塑性樹脂のゲル分率45%以上90%以下である架橋構造を有する部分(以下、本体部と称す)と、熱可塑性樹脂のゲル分率が10%以下で実質的に架橋構造を形成させていない部分(以下、易変形部と称す)とを一つの成形体内に共存させている。
即ち、本発明は、一体成形される基材全体としては架橋構造を有して耐衝撃強度に優れる構造としながら、所定以上の衝撃が外部から加えれた際には部分的に易変形部を設けていることで変形または破断しやすくし、乗員に対する衝撃を低減できるものとしている。
【0011】
本発明では、熱可塑性樹脂を架橋構造とすることによって強度を向上させており、本発明の目的とする強度を有する車両用内装材を得るためには、成形物に施された架橋の度合いが重要となる。前記ゲル分率は架橋の度合いを示し、熱可塑性樹脂の架橋による強度向上効果を確実にするためには、前述したように、本体分のゲル分率は45%以上が必要であり、好ましくは60%以上である。一方、前記本体部のゲル分率は90%以下としているのは、ゲル分率が90%を超えも強度に影響を殆ど与えないためである。
一方、易変形部の熱可塑性樹脂のゲル分率を10%以下としているのは、10%を超えると熱可塑性樹脂分子が架橋され、容易に変形または破断されにくくなるからである。
【0012】
前記ゲル分率の測定方法は、以下の通りである。
所定量のサンプルを200メッシュのステンレス金網に包み、キシレン液の中で48時間煮沸したのちに、キシレンに溶解したゾル分を除いて残ったゲル分を得る。50℃24時間で乾燥してゲル中のクロロホルムを除去してゲル分の乾燥重量を測定し、以下の式でゲル分率を計算する。
(ゲル分率(%))=(ゲル分乾燥重量)/(元乾燥重量)×100
【0013】
前記ゲル分率10%以下の部分の易変形部は、厚さが1mm以上70mm以下とすることが好ましい。
また、易変形部は前記基材に1つだけ設けても良いし複数箇所に設けてもよい。複数箇所設ける場合には偏在させ、または均一に分散して配置している。前記易変形部を除く本体部の厚さは易変形部と同等である。
【0014】
本発明の内装材は、車室に面する部分で、車両衝突時に乗員が接触する可能性がある箇所に取り付けられるものであればよく、例えば、ドアやルーフ、ピラーなどのトリムまたはガーニッシュとして用いられる。その中でも、サイドドアのドアトリムとして好適に用いられる。
サイドドアのドアトリムとする場合、前部座席側に設置されるフロントドアトリム、後部座席側に設置されるリアドアトリムのいずれにおいても、乗員は着座すると、通常、ドアトリムの車両前後方向の中央部よりも後方側に着座することになるため、該易変形部は前記基材の車両前後方向の中央部よりも後方側に設けることが好ましい。
さらに、前記易変形部は、車両上下方向においては、乗員の胸部あるいは/及び腰部相当位置に設けていることが好ましい。
【0015】
本発明の車両用内装材は、熱可塑性樹脂製としているので、金属性のものに比べて耐腐食性に優れ、軽量性に優れるという利点がある。
本発明で用いる熱可塑性樹脂は、架橋構造を導入できるものであればよく、例えば、高密度および低密度ポリエチレン、アイソタクチチック、シンジオタチック等の各種ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートに代表される各種ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレンオキシド、ポリサルフォン、ポリメチルメタクリレートを代表とするアクリル系樹脂等の汎用樹脂、ナイロン、ポリアミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンサルファイド、アクリルニトリルブタジエンスチレンなどエンジニアリングプラスチック、セルロースやデンプン、キチン、キトサン、アルギン酸などの天然多糖類およびそれらをアセチル化、エステル化等した誘導体を含む多糖類、ε−カプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネートラクチド、ポリブチレンサクシネートアジペートラクチド、L体およびD体のポリ乳酸などに代表される脂肪族ポリエステル、あるいはこれらにテレフレタル酸など芳香族を導入したポリブチレンアジペートテレフタレートなどに代表される脂肪族ポリエステルと芳香族ポリエステルのコポリマー等が挙げられる。
この中でも、特に安価でかつ軽量であり、さらに軽量化に有効な発泡成形などがしやすいことから、ポリプロピレンおよびポリプロピレンを含む共重合体が好適に用いられる。
【0016】
前記ポリプロピレンを用いる場合、アイソタクチチック構造、シンジオタチック構造等を有する純粋なポリプロピレンでも良いが、架橋構造を導入しやすい点から、ポリエチレンなどの直鎖成分やEPDM等のゴム成分などを含むブロック共重合体、コポリマーが好適に利用できる。これらを単独あるいは2種類以上を混合して利用可能である。
特に、前記EPDM成分が多い方が架橋しやすいため、EPDMが好適に用いられる。
【0017】
本発明は、前記車両用内装材の製造方法として、溶融した熱可塑性樹脂に多官能性モノマーを混合して混練物を作製し、
前記混練物を所要形状に成型して成形物を作製し、
前記成形物に部分的に放射線遮蔽材からなるマスキングを施して電離性放射線を照射し、非マスキング部分をマスキング部分よりもゲル分率が高い架橋構造としていることを特徴とする車両用内装材の製造方法を提供している。
【0018】
前記のように、多官能性モノマーを混練した熱可塑性樹脂を成形した後、ドアトリム等の内装材の形状に成形し、該成形物を電離性放射線で照射すると熱可塑性樹脂分子が架橋することで、前記のようにゲル分率を45%以上90%以下として耐衝撃強度を向上させた前記本体部を形成することができる。さらに、電離性放射線を照射する際に、部分的にマスクして放射線を遮断することにより、架橋されずゲル分率が10%以下の比較的剛性の低い易変形部を設けることができる。
【0019】
前記ゲル分率の架橋構造を形成するために多官能性モノマーを熱可塑性樹脂と混合している。該多官能性モノマーは、アリル系モノマー、メタクリル酸系モノマー及びアクリル酸系モノマーからなる群から選択される1種以上であることが好ましい。
【0020】
前記アクリル系もしくはメタクリル系の多官能性モノマーとしては、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレ―ト、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、トリス(メタクリロキシエチル)イソシアヌレート等が挙げられる。
【0021】
前記アリル系多官能性モノマーとしては、トリアリルイソシアヌレート、トリメタアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリメタアリルシアヌレート、ジアリルアミン、トリアリルアミン、ジアクリルクロレンテート、アリルアセテート、アリルベンゾエート、アリルジプロピイソシアヌレート、アリルオクチルオキサレート、 アリルプロピルフタレート、ビチルアリルマレート、ジアリルアジペート、ジアリルカーボネート、ジアリルジメチツアンモニウムクロリド、ジアリルフマレート、ジアリルイソフタレート、ジアリルマロネート、ジアリルオキサレート、ジアリルフタレート、ジアリルプロピルイソシアヌレート、ジアリルセバセート、ジアリルサクシネート、ジアリルテレフタレート、ジアリルタトレート、ジメチルアリルフタレート、エチルアリルマレート、メチルアリルフマレート、メチルメタアリルマレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート等が挙げられる。
【0022】
本発明で用いる多官能性モノマーとしては、比較的低濃度で高い架橋度を得ることができることからアクリル系もしくはメタクリル系多官能性モノマーが好ましい。なかでもトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート(以下、TMPTAおよびTMPTMAという)は、ポリプロピレンに対する架橋効果は高いために特に好ましい。
【0023】
前記多官能性モノマーは、前記熱可塑性樹脂100質量部に対して0.5質量部以上8質量部の割合で配合することが好ましい。
多官能性モノマーは、熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.05質量部以上で架橋が認められるが、本発明の目的とする高温時の強度維持効果を確実にするためには、モノマーは熱可塑性樹脂100質量部に対して0.5質量部以上必要である。また、8質量部を越えると、ポリプロピレンに確実に全量を均一に混合するのが困難になり、実質的に効果に顕著な差がでない。製造工程上、多官能性モノマーがポリプロピレンの成型温度では非常に蒸散しやすく安全管理の問題等を勘案すれば、できるだけ混合量を少なくすることが望ましく、効果の確実性も考慮すれば、熱可塑性樹脂100質量部に対して0.5〜6質量部、更に、1〜3質量部の割合で配合することが最も適している。
【0024】
ポリプロピレンを発泡して軽量化する目的として、発泡剤を混合してもよい。
本発明では、特許文献2のように発泡の制御のために放射線を照射するものではなく、発泡体を成形した後に放射線を照射して架橋構造を形成させるため、発泡体としても、特許文献2よりも高いゲル分率を備えることができ、耐衝撃強度に優れる。
【0025】
さらに、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂の耐久性や難燃性を向上をする目的として、加水分解抑制剤や難燃剤を混合してもよい。
特に、車両用内装材は、難燃性能が要求されるため、難燃剤を配合することが好ましい
さらに、補強する目的として、鉱物や炭素繊維などのフィラーを混合してもよい。該フィラーとしては、ガラス繊維、ガラスビーズ、金属粉末、タルク、マイカ、クレイもしくはシリカが挙げられる。
【0026】
さらに、本発明の目的に反しない限り、他の成分を配合しても良い。
例えば、前記列挙した熱可塑性樹脂以外の熱可塑性樹脂を配合してもよい。さらに、前記組成物には、硬化性オリゴマー、各種安定剤、帯電防止剤、結晶促進用核剤、防カビ剤もしくは粘性付与剤等の添加剤、染料もしくは顔料などの着色剤等を加えることもできる。
【0027】
前記内装材の製造工程を詳述すると、まず、前述した種類の熱可塑性樹脂、多官能性モノマーおよび所望により他の成分を混合し、混練物を作製する。該混練物は後述する成形を行いやすくする目的で、ペレット状、あるいは該ペレットが連結したシート状としている。
【0028】
次に、前記工程により得られた混練物を熱可塑性樹脂の融点あるいは軟化点以上の温度に加熱して、所望の形状に成形する。成形方法は特に限定されず、公知の方法を用いれば良い。例えば、圧縮成形機、ブロー成形機、Tダイ型成形機、射出成形機、インフレーション成形機等の公知の成形機が用いられる。
【0029】
前記工程により得られた成形物の所要箇所に放射線遮蔽機能を有するマスキングを施す。このマスキングをする部分は前記易変形部とする部分である。
前記マスキングをするマスキング材は、重金属単体又は重金属を含む樹脂成形品としている。前記樹脂は放射線の遮蔽能力を有する金属を含むことができ、かつ、放射線に対してある程度安定であれば良い。
放射線の遮蔽能力は単純に比重に比例するので、原子番号が大きい金属であるほど有効であり、金、銀、水銀等の貴金属、鉛、タリウム、タングステン等が好適に用いられる。
なかでも、柔らかく被照射物の形状に添わせやすいためマスキングが確実である点及び比較的安価である点で、鉛が好適である。
【0030】
前記マスキング後に、電離性放射線を照射する。
この電離性放射線を照射することで、前記多官能性モノマーの未架橋の官能基を前記熱可塑性樹脂の分子とネットワーク状に結合させ、加熱しても形状を維持できるように架橋状態としている。
【0031】
電離性放射線としてはγ線、エックス線、β線またはα線などが使用できるが、工業的生産にはコバルト−60によるγ線照射や、電子線加速器による電子線照射が好ましい。
電離性放射線の照射は空気を除いた不活性雰囲気下や真空下で行うのが好ましい。電離性放射線の照射によって生成した活性種は空気中の酸素と結合して失活すると架橋効果が低下するためである。
【0032】
前記電離性放射線の照射量は、熱可塑性樹脂の種類、多官能性モノマーの種類によって異なり、多官能性モノマーの気化・蒸散が抑制可能な照射量以上で混合物の熱流動性を損なわない照射量以下の条件を予め確認して調整することが好ましい。照射量は数kGyでも架橋が認められるが、本発明に必要は略100%の分子を架橋するには5kGyは必要であり、好ましくは10kGy以上である。また、熱可塑性樹脂として用いるポリプロピレンは樹脂単独で放射線を崩壊する性質をもつため、必要囲繞の照射は架橋とは逆に分解を進行させることになる。よって、照射量は600kGy以下であり、さらに300kGy以下、より好ましくは200kGy以下である。
【発明の効果】
【0033】
前述したように、本発明の車両用内装材の基材は、熱可塑性樹脂のゲル分率が45%以上90%以下である架橋構造を有し、部分的に前記記熱可塑性樹脂のゲル分率が10%以下の部分を有する構成とし、ゲル分率が10%である易変形部を強度を有する基材中に一体的に設けている。よって、基材に凹部や溝からなる易変形部を形成する必要はなく、内装材を成形する金型形状を簡単とすることができる。また、特許文献1のように基材裏面に凹溝を設ける必要もなく、内装材の剛性を確保しつつ、衝撃が加えられた時に未架橋部分で容易に変形または破断して乗員に対する衝撃を緩和できる内装材とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1に本発明の実施形態のサイドドアのドアトリム10を示す。
前記ドアトリム10は、ドアインナーパネル(図示せず)の室内側面に装着されるものであり、樹脂成形品からなる基材11を図1に示す形状に成形しており、該基材11の室内側面に所要の部品(図示せず)を取り付けている。
【0035】
前記基材11は、ポリプロピレンからなり、該ポリプロピレンのゲル分率が45%以上90%以下である架橋構造を有する本体部12中に、図2に示すように、ゲル分率が10%以下である易変形部13を部分的に有している。なお、ポリプロピレンの共重合体を用いてもよい。
【0036】
該基材11の本体部12の平均厚さは1mm〜4mmであり、易変形部13の平均厚さは1mm〜4mmである。易変形部13は前後車両方向において中央部から後端近傍にかけて、かつ、窓枠の下端に位置する上端からフロア側までの下端との間の上下方向の略中間位置に、1本設けている。該易変形部13の車両前後方向の長さLは5mm〜800mm、上下高さ方向の幅は5mm〜10mmとしている。
なお、易変形部13は前記の1本に限らず、上下方向に延在させて形成しても良いし、前記易変形部13より表面積を小さくした易変形部を複数個分散して配置してもよい。
【0037】
前記基材11の本体部12の照射マスキングなしにおける曲げ弾性率は16800〜17630としている。一方、易変形部13となる照射マスキング部における曲げ弾性率は14230〜15730としている。最大曲げ荷重(N)は42〜44、曲げ弾性勾配(n/10mm)は123〜137としている。
【0038】
前記ドアトリム10の基材11の製造方法を以下に説明する。
まず、加熱溶融したポリプロピレンを100質量部に対して多官能性モノマーを3〜6質量部を配合して混合し、混練物を作成する。本実施形態ではメタクリル系架橋性モノマーの1種であるTMPTMAを3質量部配合している。
【0039】
前記混練物を金型のキャビテイに供給し、射出成形して図1に示す成形物とする。
ついで、前記成形物に対して、易変形部13を設ける部分にマスキンク材で取り付ける。該マスキング材は放射線遮蔽性能を有する鉛で形成している。
ついで、電離性放射線を成形物に照射する。照射量は5kGy以上600kGy以下としている。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の実施例および比較例を説明する。該実施例及び比較例とも基材11の形状を平板形状としたテストピースとして作成し、その物性を評価した。
【0041】
(実施例1〜実施例3)
熱可塑性樹脂として、ポリプロピレン(プライムポリマー(株)製FX200S(商品名))を使用した。メタクリル系架橋性モノマーの1種であるTMPTMA(大日本インキ(株)製TD1500)を用意し、押出機(池貝鉄工(株)製PCM30型)を用いてシリンダ温度190℃で熱可塑性樹脂を溶融押出する際に押出機のペレット供給部にTMPTMAをペリスタポンプにて定速滴下することで熱可塑性樹脂にTMPTMAを添加した。その際、TMPTMAの配合量が熱可塑性樹脂100質量部に対して表1に示す質量部となるようにTAICを添加した。棒状に押し出したものを水冷ののちにペレタイザーにてペレット化し、熱可塑性樹脂と架橋性モノマーのペレット状混練物を得た。
【0042】
この混練物を、射出成形機に投入し、200℃の溶融状態で金型へ注入し、成形した後、厚さ3.8mm、縦寸法110mm、横寸法9.9mmの基材20を作製した。図3に示すように、前記基材20を4枚積層し、鉛製の厚さ6mmのマスキング材21を外嵌した。該マスキング材12の幅Wは10mm、20mmの2種類設けた。
表1に示す幅のマスキング材でマスキングした後、空気を除いた不活性雰囲気下で電子加速器(加速電圧10MeV電流量12mA)により電子線を表1に示す照射量で照射して、ポリプロピレン架橋物からなる基材を得た。マスキングした部分が易変形部となり、非マスキング部分が本体部となる。
【0043】
(比較例1、2)
比較例1、2では表1に示すようにTAIC(架橋剤)の添加量を3%と6%とし、かつ、電子線の照射量を120kGyとした。マスキングはせずに、全体を照射した。
【0044】
前記実施例1〜3、比較例1、2について、常態時と80℃加熱時とにおける弾性率、最大曲げ荷重、最大弾性勾配を測定した。弾性率、最大曲げ荷重、最大弾性勾配を測定方法は、JISK7171に準じて行った。その結果を表1に示す。
【表1】

【0045】
また、実施例1〜3ではマスキング部分と非マスキング部分とのゲル分率を測定した。
(ゲル分率の測定)
まず、図4に示すように、鉛マスキング部分S1と非マスキング部分S2とを鉛マスキングの端縁を境界位置0とし、該境界位置を支点としてマスキング部分S1と非マスキング部分S2との表面を1mm単位で区画し、夫々4つの区画に分けた。さらに、表面から厚さ方向に2mm毎に区画し、幅1mm、厚さ(深さ)2mmのブロックを40個切断して取得した。
前記40個のブロック毎に、200メッシュのステンレス金網に包み、キシレン液の中で48時間煮沸したのちに、キシレンに溶解したゾル分を除いて残ったゲル分を得た。50℃24時間で乾燥してゲル中のクロロホルムを除去してゲル分の乾燥重量を測定し、以下の式でゲル分率を計算する。
(ゲル分率(%))=(ゲル分乾燥重量)/(元乾燥重量)×100
【0046】
前記図4に示す試料は、TAICを6%添加し、電子線の照射量は120kGyとし、試料の厚さは10mmとした。鉛マスキングの厚さは6mmとした。
前記各40個のブロックにおける架橋率を図4の各ブロック内に示す。
この図4の試料では、鉛マスキング部分S1の領域においては、ゲル分率は鉛マスキングの境界位置0から1mmの範囲のブロックでは試料の厚さが深くなるに従ってゲル分率は0〜33%と次第に増加したが、境界位置から1mm以上離れた位置ではゲル分率は0%で架橋されていないことが確認できた。
前記境界位置0〜1mmの範囲で架橋されたいたのは、鉛マスキングから離れた位置(試料の厚さ方向で離れた位置)では電子線の照射と非照射の境界がぼやけ、照射の影響を受けたと認められる。
一方、非マスキング部分S2の20個の各ブロックにおいるゲル分率は48%〜61%であった。
【0047】
前記図4に示す方法で測定した実施例1〜実施例3のゲル分率の測定結果は、下記の表2に示す通りであった。非マスキング部分およびマスキング部分のゲル分率は、前記のように分割したブロックの平均ゲル分率である。
【0048】
【表2】

【0049】
前記表1に示すように、マスキングした実施例1とTAIC添加量および電子線照射量を同一としたマスキングなしの比較例1との物性値を対比すると、常態時および熱間時のいずれにおいても曲げ弾性率、最大曲げ荷重、曲げ弾性勾配ともに実施例1は比較例1より低く、マスキングをして架橋していない部分を設けていることにより変形または破断しやすいことが確認できた。
また、マスキングした実施例2、3とTAIC添加量および電子線照射量を同一としたマスキングなしの比較例2との物性値を対比しても、常態時および熱間時のいずれにおいても曲げ弾性率、最大曲げ荷重、曲げ弾性勾配ともに実施例2、3は比較例2より低く、マスキングをして架橋していない部分を設けていることにより変形または破断しやすいことが確認できた。
【0050】
前記した実験例および比較例より明らかなように、マスキングして電子線を照射しない部分を設けると、該部分が易変形部となり、該易変形部が起点となって、衝突荷重が負荷された時にドアトリムが変形または破断されやすくなり、乗員がドアトリムに衝突した時に受けるダメージを低減でき乗員保護を図ることができる。
【0051】
なお、本発明の車両用内装材は前記実施形態および実施例に限定されず、特許請求の範囲に基づき解釈されるべきものである。
また、本発明の車両用内装材は、前記基材のほかに、表皮材、クッションパッド等の他の部材が備えられてもよいことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】第1実施形態の車両用のサイドドアのトリムを示す斜視図である。
【図2】前記トリムの基板の概略図である。
【図3】実施例のテストピースにマスキング材を取り付けている状態を示す図面である。
【図4】ゲル分率の測定方法を示す図面である。
【符号の説明】
【0053】
10 ドアトリム
11 基材
12 本体部
13 易変形部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂の基材を備えた車両用内装材であって、
前記基材は、前記熱可塑性樹脂のゲル分率45%以上90%以下である架橋構造を有し、部分的に前記記熱可塑性樹脂のゲル分率が10%以下の部分を有することを特徴とする車両用内装材。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂がポリプロピレンあるいはポリプロピレンの共重合体を含む請求項1に記載の車両用内装材。
【請求項3】
前記ゲル分率10%以下の部分は、厚さが1mm以上70mm以下で、前記基材に1つ又は複数箇所に設け、複数箇所設ける場合には偏在させ又は均一に分散して配置している請求項1または請求項2に記載の車両用内装材。
【請求項4】
前記基材はドアトリムであり、前記ゲル分率10%以下の部分を車両前後方向の中央部から後方に偏在させている請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の車両用内装材。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の車両用内装材の製造方法であって、
溶融した熱可塑性樹脂に多官能性モノマーを混合して混練物を作製し、
前記混練物を所要形状に成型して成形物を作製し、
前記成形物に部分的に放射線遮蔽材からなるマスキングを施して電離性放射線を照射し、非マスキング部分をマスキング部分よりもゲル分率が高い架橋構造としていることを特徴とする車両用内装材の製造方法。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂としてはポリプロピレンを用い、前記多官能性モノマーはアリル系モノマー、メタクリル酸系モノマー及びアクリル酸系モノマーからなる群から選択される1種以上である請求項5に記載の車両用内装材の製造方法。
【請求項7】
前記多官能性モノマーは、前記熱可塑性樹脂100質量部に対して0.5質量部以上8質量部の割合で配合している請求項5または請求項6に記載の車両用内装材の製造方法。
【請求項8】
前記電離性放射線の照射量が5kGy以上600kGy以下である請求項5乃至請求項7のいずれか1項に記載の車両用内装材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−19084(P2009−19084A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−181435(P2007−181435)
【出願日】平成19年7月10日(2007.7.10)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【出願人】(599109906)住友電工ファインポリマー株式会社 (203)
【Fターム(参考)】