説明

車両用制動支援装置

【課題】坂路にて自車両の停止中に自動制動の制動力を解除した際に、自車両の動作が運転者が意図しないものになることを防止する。
【解決手段】車両用衝突回避制動支援装置1は、障害物との接近に関するリスクポテンシャルを算出するリスクポテンシャル演算部31と、走行路の勾配を検出する外乱推定部32と、自車両が停止中に、リスクポテンシャルに基づき自車両に付与した制動力を解除する際のその減少度合いを、リスクポテンシャル及び走行路の勾配に基づいて変更する制動力演算部40とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転を支援する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
運転を支援する技術としては、例えば特許文献1に記載の従来技術がある。
この従来技術では、先行車両との車間距離を判断する。この従来技術では、自動制動中に先行車との車間距離が停止時の車間距離より広くなったと判断すると、自動制動の制動力を解除する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−43618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記従来技術では、坂路にて自動制動の制動力を単純に解除してしまうと、自車両の動作が急に加速したり、或いは後退したり等、運転者が意図しないものとなってしまう恐れがある。
本発明は、坂路にて自車両の停止中に自動制動の制動力を解除した際に、自車両の動作が運転者が意図しないものになることを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するために、本発明の一態様は、走行路の勾配を検出する。そして、本発明の一態様は、自車両が停止中に、接近リスクポテンシャルに基づき自車両に付与した制動力を解除する際のその減少度合いを、接近リスクポテンシャル及び走行路の勾配検出値に基づいて変更する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、坂路にて自動制動による制動力を解除した際に、自車両の動作が運転者が意図しないものになることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本実施形態の車両用衝突回避制動支援装置の構成例を示すブロック図である。
【図2】自車両・障害物情報取得部の構成例を示すブロック図である。
【図3】支援情報演算部の構成例を示すブロック図である。
【図4】制動力演算部の構成例を示すブロック図である。
【図5】制動力解除設定演算部の設定処理の具体例を示すフローチャートである。
【図6】外乱推定値SUB2とアクセル全閉時減少側変化率△DEC_0との関係の一例を示す特性図である。
【図7】外乱推定値SUB2とアクセル全開時減少側変化率△DEC_1との関係の一例を示す特性図である。
【図8】外乱推定値SUB2とアクセル開度ゲインα_0との関係の一例を示す特性図である。
【図9】リスクポテンシャルとリスクポテンシャル減少側変化量ゲインα_1との関係の一例を示す特性図である。
【図10】アクセルペダル反力演算部の構成例を示すブロック図である。
【図11】アクセル全閉時の道路勾配と自動制動の制動力の解除状態との関係の一例を示す図である。
【図12】アクセル全開時の道路勾配と自動制動の制動力の解除状態との関係の一例を示す図である。
【図13】先行車両との車間距離と自動制動の制動力の解除状態との関係の一例を示す図である。
【図14】登坂路で自車両が自動制動により停車しており、自車両前後に他の車両が存在する状態を示す図である。
【図15】降坂路で自車両が自動制動により停車しており、自車両前後に他の車両が存在する状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本実施形態を図面を参照しつつ説明する。
本実施形態は、車両に搭載される車両用衝突回避制動支援装置である。
(構成)
図1は、車両用衝突回避制動支援装置1の構成例を示すブロック図である。
車両用衝突回避制動支援装置1は、図1に示すように、車輪速センサ2、障害物情報検出センサ3、アクセル開度センサ4、スロットル開度センサ5、シフトポジションセンサ6、コントローラ7、制動力付与装置8、及びアクセルペダル反力付与装置9を有している。
【0009】
ここで、例えば、コントローラ7は、マイクロコンピュータ及びその周辺回路を備えている。すなわち例えば、コントローラ7は、一般的なECU(Electronic Control Unit)と同様にCPU、ROM、RAM等によって構成されている。そして、ROMには、各種処理を実現する1又は2以上のプログラムが格納されている。CPUは、ROMに格納されている1又は2以上のプログラムに従って各種処理を実行する。
【0010】
そして、コントローラ7は、図1に示すように、自車両・障害物情報取得部20、支援情報演算部30、制動力演算部40、及びアクセルペダル反力演算部50を有している。ここで、自車両・障害物情報取得部20、支援情報演算部30、制動力演算部40、及びアクセルペダル反力演算部50は、プログラムによって構成されている。
車輪速センサ2、障害物情報検出センサ3、アクセル開度センサ4、スロットル開度センサ5及びシフトポジションセンサ6は、検出した検出値(センサ値)を自車両・障害物情報取得部20に出力する。
【0011】
自車両・障害物情報取得部20は、各種センサからのセンサ値が入力され、その入力されたセンサ値に基づいて各種情報を取得する。そして、自車両・障害物情報取得部20は、取得した各種情報を支援情報演算部30に出力する。
図2は、自車両・障害物情報取得部20の構成例を示すブロック図である。
自車両・障害物情報取得部20は、図2に示すように、自車速演算部21、自車加減速度演算部22、障害物情報演算部23、アクセル開度検出部24、エンジントルク検出部25、シフトポジション検出部26、及び自車両・障害物情報出力部27を有している。
【0012】
自車速演算部21は、車輪速センサ2からの車輪速センサ値に基づいて自車速を算出する。そして、自車速演算部21は、算出した自車速を自車両・障害物情報出力部27に出力する。
自車加速減速度演算部22は、車輪速センサ2からの車輪速センサ値に基づいて自車加減速度を算出する。そして、自車加速減速度演算部22は、算出した自車加減速度を自車両・障害物情報出力部27に出力する。
【0013】
障害物情報演算部23は、障害物情報検出センサ3からの障害物情報検出値に基づいて障害物情報を算出する。そして、障害物情報演算部23は、算出した障害物情報を自車両・障害物情報出力部27に出力する。
ここで、障害物情報検出センサ3は、例えばレーザーレーダやミリ波レーダ、ステレオカメラ等である。また、障害物情報は、障害物との距離、障害物との相対速度、及び障害物との相対加減速度である。例えば、障害物との相対速度については、障害物情報検出センサ3によって検出した障害物との距離を時間微分するなどの演算を行い求めても良い。また、障害物との相対加減速度については、障害物情報検出センサ3によって検出した障害物との相対速度を時間微分するなどの演算を行い求めても良い。
【0014】
アクセル開度検出部24は、アクセル開度センサ4からのアクセル開度センサ値に基づいてアクセル開度を算出する。そして、アクセル開度検出部24は、算出したアクセル開度を自車両・障害物情報出力部27に出力する。
エンジントルク検出部25は、スロットル開度センサ5からのスロットル開度センサ値に基づいてエンジントルクを算出する。そして、エンジントルク検出部25は、算出したエンジントルクを自車両・障害物情報出力部27に出力する。
【0015】
シフトポジション検出部26は、シフトポジションセンサ6からのシフトポジションセンサ値に基づいてシフトポジションを検出する。そして、シフトポジション検出部26は、検出したシフトポジションを自車両・障害物情報出力部27に出力する。
自車両・障害物情報出力部27は、自車速演算部21、自車加速減速度演算部22、障害物情報演算部23、アクセル開度検出部24、エンジントルク検出部25、及びシフトポジション検出部26からの自車両・障害物情報が入力される。そして、自車両・障害物情報出力部27は、入力された自車両・障害物情報を支援情報演算部30に出力する。
【0016】
ここでいう自車両・障害物情報は、自車速、自車加減速度、障害物情報、アクセル開度、エンジントルク、及びシフトポジションの情報である。
支援情報演算部30は、自車両・障害物情報取得部20からの自車両・障害物情報に基づいて支援情報を算出する。そして、支援情報演算部30は、算出した支援情報を制動力演算部40及びアクセルペダル反力演算部50に出力する。
【0017】
図3は、支援情報演算部30の構成例を示すブロック図である。
支援情報演算部30は、図3に示すように、リスクポテンシャル演算部31、外乱推定部32、及び支援情報出力部33を有している。
リスクポテンシャル演算部31は、自車両・障害物情報取得部20からの自車両・障害物情報に基づいて、障害物との接近に関するリスクポテンシャル(接近リスクポテンシャル)を算出する。そして、リスクポテンシャル演算部31は、算出したリスクポテンシャルを支援情報出力部33に出力する。
【0018】
ここで、具体的には、先ず、リスクポテンシャル演算部31は、下記(1)式を用いて、自車両・障害物情報取得部20からの障害物との距離D_tar(m)、障害物との相対速度V_tar(m/s)に基づいて、到達時間TTCを算出する。
TTC=D_tar/V_tar ・・・(1)
そして、リスクポテンシャル演算部31は、算出した到達時間TTCが小さいほど高くなり、到達時間TTCが大きいほど低くなるリスクポテンシャルの演算を行う。このようなことから、例えば、リスクポテンシャルは、到達時間TTCの逆数であっても良い。
【0019】
このように、リスクポテンシャルは、障害物との距離や障害物との相対速度、到達時間等を変数とする値であり、障害物への自車両の接近リスクの高さの指標と言える。
外乱推定部32は、自車両・障害物情報取得部20からの自車両・障害物情報、及び制動力演算部40の制動力演算処理結果に基づいて外乱推定値を算出する。そして、外乱推定部32は、算出した外乱推定値を支援情報出力部33に出力する。
【0020】
ここで、具体的には、外乱推定部32は、前回処理時に制動力演算部40が自車両に制動力を付与すると判断して算出した制動力指令値が予め設定した値以上のとき、外乱推定値を算出する。この場合、外乱推定部32は、下記(2)式を用いて、自車両・障害物情報取得部4からの自車両の加減速度A(m/s)及び前回処理時の制動力指令値P_brkに基づいて外乱推定値SUBを算出する。
【0021】
SUB=|(A/P_brk)×ARMYU| ・・・(2)
ここで、ARMYUは、制動力指令値演算部44が制動力指令値P_brkの算出に使用する制動量制動力変換係数である。また、予め設定した値は、例えば0.5(MPa)である。
一方、外乱推定値SUBを以上の演算で算出しない場合、外乱推定部32は、外乱推定値SUBを1に設定する。
【0022】
また、外乱推定部32は、制動支援を行っていない場合(自車両に制動力を付与すると判断していない場合)でも外乱推定値を算出する。この場合、外乱推定部32は、エンジントルク及びシフトポジションに基づいて外乱推定値を算出する。
具体的には、先ず、外乱推定部32は、シフトポジションに基づいて現在選択中の変速ギアのギア比GPを設定する。ここで、車両の変速機が無段変速機である場合には変速機の入出力回転を検出してギア比を演算して設定しても良い。
【0023】
さらに、外乱推定部32は、下記(3)式を用いて、設定したギア比に基づいて加速度推定値A_tarを算出する。
A_tar=(エンジントルク×変速ギア比×トルク比×デフギア比/車重)/タイヤ半径 ・・・(3)
ここで、エンジントルクは、自車両・障害物情報取得部20から取得した値である。また、トルク比、デフギア比、車重、及びタイヤ半径は、車両の諸元に基づいて予め設定された値である。
【0024】
そして、外乱推定部32は、自車両・障害物情報取得部20から取得したアクセル開度に基づいて運転者がアクセル操作を行っていることを検出した場合、下記(4)式を用いて、加速度推定値A_tar及び自車両・障害物情報取得部20からの自車加速度A(m/s)に基づいて外乱推定値SUB2を算出する。
SUB2=A_tar−A ・・・(4)
ここで、外乱推定値SUB2は、次のような理由から道路勾配を推定する値となる。
【0025】
先ず、(4)式で用いている加減速度A及び加速度推定値A_tarは、ともに加速度方向では正値を示し、減速度方向では負値を示す。すなわち、前進方向への加速度は正値となる。また、前進方向における減速度は、負値となることはもちろんのこと、後退方向への加速度も、減速度に相当するから負値となる。
そして、降坂路にて前進方向への駆動力を付与している場合の加速度推定値A_tarに比して前進する車両の実際の加減速度Aが大きくなると、外乱推定値SUB2は小さくなる(負値で小さい値になる)。
【0026】
また、登坂路にて前進方向への駆動力を付与している場合の加速度推定値A_tarに比して実際の加減速度Aが小さくなると(加減速度Aが正値で小さくなると(前進方向への加速度が小さくなると)、又は加減速度Aが負値で小さくなると(後退方向への加速度(減速度)が大きくなると))、外乱推定値SUB2は大きくなる。
このようなことから、前進方向への駆動力を付与している場合において、外乱推定値SUB2が小さいほど降坂路の勾配が大きいことが推定され、外乱推定値SUB2が大きいほど登坂路の勾配が大きいことが推定される。
【0027】
支援情報出力部33は、自車両・障害物情報取得部20、リスクポテンシャル演算部31及び外乱推定部32からの情報を制動力演算部40及びアクセルペダル反力演算部50に出力する。
制動力演算部40は、支援情報演算部30からの情報に基づいて制動付与力装置8の制動力指令値を算出する。そして、制動力演算部40は、算出した制動力指令値を制動力付与装置8に出力する。
【0028】
図4は、制動力演算部40の構成例を示すブロック図である。
制動力演算部40は、図4に示すように、閾値設定部41、制動力付与判断部42、制動量演算部43、制動力指令値演算部44、及び制動力解除設定演算部45を有している。
閾値設定部41は、制動力付与判断を行うための閾値を設定する。そして、閾値設定部41は、設定した閾値(以下、制動力付与判断用閾値という。)を制動力付与判断部42に出力する。
【0029】
ここで、具体的には、先ず、閾値設定部41は、外乱推定部32が算出した外乱推定値SUBが大きいほど大きくなるように、予め設定した到達時間TTC_0(例えば到達時間判断用閾値の初期値)を補正処理して到達時間判断用閾値TTC_thを設定する。そして、閾値設定部41は、設定した到達時間判断用閾値TTC_thになるときの到達時間TTCに対応するリスクポテンシャルを制動力付与判断用閾値として設定する。ここで、例えば、到達時間TTC_0は1である。また、到達時間判断用閾値TTC_thは、補正処理によって0.8以上1.2以下の範囲で設定される。
【0030】
制動力付与判断部42は、自車両への制動力付与の判断を行う。そして、制動力付与判断部42は、その制動力付与の判断結果を制動量演算部43及び支援情報演算部30に出力する。
ここで、具体的には、制動力付与判断部42は、支援情報演算部30から取得したリスクポテンシャルが、閾値設定部41が設定した制動力付与判断用閾値より大きい場合(リスクポテンシャル>制動力付与判断用閾値)、自車両に制動力を付与すると判断する。また、制動力付与判断部42は、それ以外の場合(リスクポテンシャル≦制動力付与判断用閾値)、自車両に制動力を付与しないと判断する。
【0031】
又は、制動力付与判断部42は、本装置1によって自動制動による制動力を付与して自車両が停止してから予め設定した時間が経過した場合、制動力を付与しない(制動力を解除する)と判断しても良い。ここで、予め設定した時間は、自動制動を終了する時間であり、例えば、制動力の付与による効果を享受し得たと認められて自動制動を終了する時間である。例えば、この時間は、実験的、経験的、又は理論的に設定される。
【0032】
又は、制動力付与判断部42は、本装置1によって自動制動による制動力を付与して自車両が停止し、運転者がアクセルペダルを踏んでいない状態からアクセルペダルを踏んだ場合、制動力を付与しない(制動力を解除する)と判断しても良い。
又は、制動力付与判断部42は、本装置1によって自動制動による制動力を付与し、自車両が停止してから予め設定した時間が経過した場合に制動力を付与しないとしつつも、運転者がアクセルペダルを踏んだ場合には優先して制動力を付与しないと判断しても良い。
【0033】
制動量演算部43は、制動付与力装置8の制動量を算出する。そして、制動量演算部43は、算出した制動量を制動力指令値演算部44に出力する。
ここで、具体的には、制動量演算部43は、制動力付与判断部42の制動力付与判断結果に基づいて制動量を設定する。より詳しくは、制動量演算部43は、制動力付与判断部42が制動力を付与すると判断した場合(リスクポテンシャル>制動力付与判断用閾値)、予め設定した制動量(減速度)DEC_0(m/s)を制動量(減速度)DEC(m/s)に設定する。このとき、制動量演算部43は、DEC_0(m/s)に至るまでの制動量DECの増加を予め設定した増加率により制限する。ここで、例えば、増加率は10.0(m/s)であり、制動量DEC_0は5.0(m/s)である。
【0034】
また、制動量演算部43は、制動力付与判断部42が制動力を付与しないと判断した場合、制動量DECを零に設定する。これにより、制動量演算部43は、制動力付与判断部42が制動力を付与すると判断した後に制動力を付与しないと判断すると、制動量DECを零に設定する。この場合、制動量演算部43は、零に至るまでの制動量DECの減少を予め設定した減少率により制限する。
【0035】
なお、ここでいう制動力を付与しないと判断する場合とは、リスクポテンシャルが制動力付与判断用閾値以下となる場合、制動力を付与して自車両が停止してから予め設定した時間が経過した場合、又は制動力を付与して自車両が停止し、運転者がアクセルペダルを踏んでいない状態からアクセルペダルを踏んだ場合等である。
制動力解除設定演算部45は、本装置1によって付与した制動力の解除の設定を行う。具体的には、制動力解除設定演算部45は、制動力を解除する際の減少を制限する減少側変化率を設定する。そして、制動力解除設定演算部45は、設定した減少側変化率を制動量演算部43に出力する。
【0036】
ここで、図5は、制動力解除設定演算部45の設定処理の具体例を示すフローチャートである。
制動力解除設定演算部45は、図5に示すように、先ずステップS1では、支援情報演算部30から支援情報を取得する。
次に、ステップS2では、制動力解除設定演算部45は、制動力付与判断部42の判断により制動力が付与されて自車両が停止した後、制動力付与判断部42が制動力を付与しない(制動力を解除する)と判断したか否かを判定する。制動力解除設定演算部45は、制動力付与判断部42の判断により制動力が付与されて自車両が停止した後、制動力付与判断部42が制動力を付与しない(制動力を解除する)と判断したと判定すると、ステップ3に進む。また、制動力解除設定演算部45は、それ以外の場合、ステップS10に進む。
【0037】
ステップS3では、制動力解除設定演算部45は、前記ステップS1で支援情報として取得した外乱推定値SUB2に基づいて、アクセル全閉時に制動力を減少させる際の変化率(以下、アクセル全閉時減少側変化率という。)を算出する。
図6は、外乱推定値SUB2とアクセル全閉時減少側変化率△DEC_0との関係の一例を示す特性図である。図6に示すように、外乱推定値SUB2の正値は、登坂路相当において得られる値であり、外乱推定値SUB2の負値は、降坂路相当において得られる値である。
【0038】
アクセル全閉時減少側変化率△DEC_0は、図6に示すように、外乱推定値SUB2が零近傍(零に対して予め設定された範囲)の値の場合、最大値△DEC_0maxとなる。
また、アクセル全閉時減少側変化率△DEC_0は、外乱推定値SUB2がその零近傍の値よりも大きい(正値で大きい)と外乱推定値SUB2が大きいほど小さくなる。そして、アクセル全閉時減少側変化率△DEC_0は、外乱推定値SUB2が予め設定した値まで大きくなると最小値△DEC_0min(<最大値△DEC_0max)となる。
【0039】
また、アクセル全閉時減少側変化率△DEC_0は、外乱推定値SUB2がその零近傍の値よりも小さい(負値で小さい)と外乱推定値SUB2が小さいほど小さくなる。そして、アクセル全閉時減少側変化率△DEC_0は、外乱推定値SUB2が予め設定した値まで小さくなると最小値△DEC_0min(<最大値△DEC_0max)となる。
すなわち、この場合、制動力解除設定演算部45は、登坂路相当及び降坂路相当と判定すると、それ以外の場合(平坦地相当の場合)よりもアクセル全閉時減少側変化率△DEC_0を小さい値にする。
【0040】
次に、ステップS4において、制動力解除設定演算部45は、前記ステップS1で支援情報として取得した外乱推定値SUB2に基づいて、アクセル全開時に制動力を減少させる際の変化率(以下、アクセル全開時減少側変化率という。)を算出する。なお、アクセルが全開の場合に限らず、アクセルが全開まで至らないが開いている場合であっても良い。
【0041】
図7は、外乱推定値SUB2とアクセル全開時減少側変化率△DEC_1との関係の一例を示す特性図である。
アクセル全開時減少側変化率△DEC_1は、図7に示すように、外乱推定値SUB2が零近傍(零に対して予め設定された範囲)の値の場合、予め設定された値(最小値△DEC_1min<予め設定された値<最大値△DEC_1max)となる。
【0042】
また、アクセル全開時減少側変化率△DEC_1は、外乱推定値SUB2がその零近傍の値よりも大きい(正値で大きい)と外乱推定値SUB2が大きいほど大きくなる。そして、アクセル全開時減少側変化率△DEC_1は、外乱推定値SUB2が予め設定した値まで大きくなると、その値以降、最大値△DEC_1maxとなる。
また、アクセル全開時減少側変化率△DEC_1は、外乱推定値SUB2がその零近傍の値よりも小さい(負値で大きい)と外乱推定値SUB2が小さいほど小さくなる。そして、アクセル全開時減少側変化率△DEC_1は、外乱推定値SUB2が予め設定した値まで小さくなると、その値以降、最小値△DEC_1min(<△DEC_1max)となる。
【0043】
すなわち、この場合、制動力解除設定演算部45は、降坂路相当と判定すると、それ以外の場合(平坦地相当又は登坂路相当の場合)よりもアクセル全開時減少側変化率△DEC_1を小さい値にする。
また、アクセル全開時減少側変化率△DEC_1に設定される最小値△DEC_1minは、アクセル全閉時減少側変化率△DEC_0に設定される最小値△DEC_0minよりも十分小さい値である。これにより、制動力解除設定演算部45は、例えば、降坂路相当では、アクセル全開時減少側変化率△DEC_1よりもアクセル全閉時減少側変化率△DEC_0が大きくなるようにしている。
【0044】
また、アクセル全開時減少側変化率△DEC_1に設定される最大値△DEC_1maxは、アクセル全閉時減少側変化率△DEC_0に設定される最小値△DEC_0maxと同等である。これにより、制動力解除設定演算部45は、例えば、登坂路相当では、アクセル全開時減少側変化率△DEC_1よりもアクセル全閉時減少側変化率△DEC_0が小さくなるようにしている。
【0045】
次に、ステップS5では、制動力解除設定演算部45は、前記ステップS1で支援情報として取得した外乱推定値SUB2に基づいて、アクセル開度ゲインを算出する。
図8は、外乱推定値SUB2とアクセル開度ゲインα_0との関係の一例を示す特性図である。
アクセル開度ゲインα_0は、図8に示すように、外乱推定値SUB2が零近傍(零に対して予め設定された範囲)の値の場合、最大値α_0maxとなる。
【0046】
また、アクセル開度ゲインα_0は、外乱推定値SUB2がその零近傍の値よりも大きい(正値で大きい)と外乱推定値SUB2が大きいほど小さくなる。そして、アクセル開度ゲインα_0は、外乱推定値SUB2が予め設定した値まで大きくなると、その値以降、最小値α_0min(<最大値α_0max)となる。
また、アクセル開度ゲインα_0は、外乱推定値SUB2がその零近傍の値よりも小さい(負値で小さい)と外乱推定値SUB2が小さいほど小さくなる。そして、アクセル開度ゲインα_0は、外乱推定値SUB2が予め設定した値まで小さくなると、その値以降、最小値△α_0min(<最大値α_0max)となる。
【0047】
次に、ステップS6では、制動力解除設定演算部45は、前記ステップS1で支援情報として取得したリスクポテンシャルに基づいて、制動力を減少させる際の変化量(変化率)のゲイン(以下、リスクポテンシャル減少側変化量ゲインという。)を算出する。
図9は、リスクポテンシャルとリスクポテンシャル減少側変化量ゲインα_1との関係の一例を示す特性図である。
【0048】
リスクポテンシャル減少側変化量ゲインα_1は、図9に示すように、リスクポテンシャルが高いほど小さくなる。より詳しくは、リスクポテンシャルが低い領域ではリスクポテンシャル減少側変化量ゲインα_1は最大値α_1maxに維持される。そして、リスクポテンシャルが中程度の領域でリスクポテンシャルが高いほどリスクポテンシャル減少側変化量ゲインα_1は小さくなる。さらに、リスクポテンシャルが高い領域ではリスクポテンシャル減少側変化量ゲインα_1は最小値α_1minに維持される。すなわち、リスクポテンシャル減少側変化量ゲインα_1は、リスクポテンシャルが高くなると最大値α_1maxから最小値α_1minに変化する(α_1min≦α_1≦α_1max)。
【0049】
ここで、例えば、アクセル全閉時減少側変化率△DEC_0及びアクセル全開時減少側変化率△DEC_1の設定をリスクポテンシャルが高いシーンを前提に設定する場合、制動力解除設定演算部45は、α_1maxに1を設定する(α_1max=1)。また、アクセル全閉時減少側変化率△DEC_0及びアクセル全開時減少側変化率△DEC_1の設定をリスクポテンシャルが低いシーンを前提に設定する場合、制動力解除設定演算部45は、α_1minに1を設定する(α_1min=1)。
【0050】
次に、ステップS7では、制動力解除設定演算部45は、下記(5)式を用いて、前記ステップS3〜ステップS6の算出結果に基づいて減少側変化率ΔDECを算出する。
△DEC=(△DEC_0×(100−α_0×θ)/100+△DEC_1×α_0×θ)×α_1 ・・・(5)
ここで、θは、前記ステップS1で支援情報として取得したアクセル開度である。
【0051】
この(5)式によれば、例えば、アクセル全閉時減少側変化率△DEC_0が大きいほど減少側変化率ΔDECは大きくなる。また、例えば、アクセル全開時減少側変化率△DEC_1が大きいほど減少側変化率ΔDECは大きくなる。また、例えば、リスクポテンシャル減少側変化量ゲインα_1が大きいほど減少側変化率ΔDECは大きくなる。
また、到達時間TTCが短いほどリスクポテンシャルが高く、さらには、リスクポテンシャルが高いほどポテンシャル減少側変化量ゲインα_1が小さいことから、到達時間TTCが短いほどポテンシャル減少側変化量ゲインα_1は小さくなる。よって、障害物との距離が短いほど到達時間TTCが短くなるから、障害物との距離が短いほど減少側変化率ΔDECは小さくなる。
【0052】
次に、ステップS8では、制動力解除設定演算部45は、前記ステップS7で算出した減少側変化率ΔDECを制動量演算部43に出力する。これにより、制動力解除設定演算部45は、制動量演算部43の演算において、零に至るまでの制動量DECの減少を減少側変化率ΔDECにより制限する。
次に、ステップS9では、制動力解除設定演算部45は、制動量演算部43が算出した制動量DECが零か否かを判定する。制動力解除設定演算部45は、制動量演算部43が算出した制動量DECが零であると判定すると、該図5に示す処理を終了する(前記ステップS1から再び処理を開始する)。また、制動力解除設定演算部45は、それ以外の場合、前記ステップS3から再び処理を開始する。
【0053】
一方、ステップS10では、制動力解除設定演算部45は、予め設定した減少側変化率△DECを維持する。そして、制動力解除設定演算部45は、該図5に示す処理を終了する(前記ステップS1から再び処理を開始する)。
制動力指令値演算部44は、制動付与力装置11の制動力指令値を算出する。そして、制動力指令値演算部44は、算出した制動力指令値を支援情報演算部30及び制動付与力装置11に出力する。
【0054】
ここで、具体的には、制動力指令値演算部44は、下記(6)式を用いて、制動力指令値P_brk(MPa)を算出する。
P_brk=DEC×ARMYU×α_armyu1 ・・・(6)
ここで、DECは、制動量演算部43が算出した値である。また、ARMYUは、制動量制動力変換係数であり、予め設定された値である。例えば、制動量制動力変換係数ARMYUは0.811である。また、α_armyu1は、制動量制動力変換係数補正ゲインである。
【0055】
ここで、制動量制動力変換係数補正ゲインα_armyu1は、外乱推定部32が算出した外乱推定値SUBに基づいて設定される。具体的には、制動量制動力変換係数補正ゲインα_armyu1は、外乱推定値SUBが制動を妨げるほど、すなわち外乱推定値SUBが小さいほど大きい値になる。このようなことから、例えば、制動量制動力変換係数補正ゲインα_armyu1は、外乱推定値SUBの逆数であっても良い。また、例えば、制動量制動力変換係数補正ゲインα_armyu1は、0.8を下限とし1.2を上限とした範囲内の値をとる。
【0056】
制動付与力装置11は、制動力演算部40からの制動力指令値に基づいて制動力を付与する。例えば、制動付与力装置11は、油圧式ブレーキアクチュエータに液圧を付与する。
アクセルペダル反力演算部50は、支援情報演算部30からの情報に基づいてアクセルペダル反力指令値を算出する。そして、アクセルペダル反力演算部50は、算出したアクセルペダル反力指令値をアクセルペダル反力付与装置9に出力する。
【0057】
図10は、アクセルペダル反力演算部50の構成例を示すブロック図である。
アクセルペダル反力演算部50は、図10に示すように、閾値設定部51、アクセルペダル反力付与判断部52、アクセルペダル反力量演算部53、及びアクセルペダル反力指令値演算部54を有している。
閾値設定部51は、アクセルペダル反力付与判断を行うための閾値を設定する。そして、閾値設定部51は、設定した閾値(以下、アクセルペダル反力付与判断用閾値という。)をアクセルペダル反力付与判断部52に出力する。
【0058】
ここで、具体的には、閾値設定部51は、支援情報演算部30から取得した外乱推定値が自車両の制動を妨げるほど小さくなるようにアクセルペダル反力付与判断用閾値を設定する。
アクセルペダル反力付与判断部52はアクセルペダル反力付与の判断を行う。そして、アクセルペダル反力付与判断部52は、そのアクセルペダル反力付与の判断結果をアクセルペダル反力量演算部53に出力する。
【0059】
ここで、具体的には、アクセルペダル反力付与判断部52は、支援情報演算部30から取得したリスクポテンシャルが、閾値設定部51が設定したアクセルペダル反力付与判断用閾値より大きい場合(リスクポテンシャル>アクセルペダル反力付与判断用閾値)、アクセルペダル反力を付与すると判断する。また、アクセルペダル反力付与判断部52は、それ以外の場合(リスクポテンシャル≦アクセルペダル反力付与判断用閾値)、アクセルペダル反力を付与しないと判断する。
【0060】
アクセルペダル反力量演算部53は、アクセルペダル反力量を算出する。そして、アクセルペダル反力量演算部53は、算出したアクセルペダル反力量をアクセルペダル反力指令値演算部54に出力する。
ここで、具体的には、アクセルペダル反力量演算部53は、アクセルペダル反力付与判断部52のアクセルペダル反力付与の判断結果に基づいてアクセルペダル反力量を算出する。すなわち、アクセルペダル反力量演算部53は、アクセルペダル反力付与判断部52がアクセルペダル反力を付与すると判断した場合、アクセルペダル反力量を算出する。ここで、アクセルペダル反力量演算部53は、アクセル開度が大きいほど、すなわち、アクセルペダルの踏み込み量(アクセルペダル開度量)が多いほど、アクセルペダル反力量を大きい値にする。このとき、例えば、アクセルペダル反力量演算部53は、20(N)以上25(N)以下の範囲内でアクセルペダル反力量を算出する。
【0061】
アクセルペダル反力指令値演算部54は、アクセルペダル反力指令値を算出する。そして、アクセルペダル反力指令値演算部54は、算出したアクセルペダル反力指令値をアクセルペダル反力付与装置9に出力する。
ここで、具体的には、アクセルペダル反力指令値演算部54は、アクセルペダル反力付与判断部52がアクセルペダル反力を付与すると判断した後、アクセルペダル反力量演算部53が算出したアクセルペダル反力量までアクセルペダル反力指令値を増加させる。このとき、アクセルペダル反力指令値演算部54は、予め設定した増加率でアクセルペダル反力指令値を増加させる。ここで、例えば、予め設定した増加率は7.5(N/sec)である。
【0062】
そして、アクセルペダル反力指令値演算部54は、アクセルペダル反力指令値がアクセルペダル反力量に達すると、その後、支援情報演算部30から取得したアクセル開度が零になるまでアクセルペダル反力指令値を維持する。
それから、アクセルペダル反力付与判断部52がアクセルペダル反力を付与しないと判断した場合に、前回処理時にアクセルペダル反力指令値が零以外の値となっているときには、アクセルペダル反力指令値演算部54は、アクセルペダル反力指令値を零まで減少させる。このとき、アクセルペダル反力指令値演算部54は、予め設定した減少率でアクセルペダル反力指令値を減少させる。ここで、例えば、予め設定した減少率は30(N/sec)である。
【0063】
そして、アクセルペダル反力指令値演算部54は、アクセルペダル反力指令値が零になった以降では、アクセルペダル反力付与判断部52がアクセルペダル反力を付与すると判断するまでアクセルペダル反力指令値を零に維持する。
アクセルペダル反力付与装置9は、アクセルペダル反力演算部50からのアクセルペダル反力指令値に基づいてアクセルペダルに反力を付与する。
【0064】
(動作等)
車両用衝突回避制動支援装置1の動作の一例を説明する。
車両用衝突回避制動支援装置1は、外乱推定値に基づき設定した制動力付与判断用閾値よりも障害物とのリスクポテンシャルが大きい場合、制動付与力装置11によって自車両に自動制動による制動力の付与を行う。
【0065】
また、車両用衝突回避制動支援装置1は、外乱推定値に基づき設定したアクセルペダル反力付与判断用閾値よりも障害物とのリスクポテンシャルが大きい場合、アクセルペダル反力付与装置9によってアクセルペダルに反力を付与する。
そして、車両用衝突回避制動支援装置1は、次のように自動制動による制動力を解除する。
【0066】
車両用衝突回避制動支援装置1は、自動制動によって制動力が付与されて自車両が停止した後、その制動力を解除すると判断すると、減少側変化率ΔDECを用いて自動制動の制動量(制動力)DECを減少させつつ零にする。
ここで、制動力を解除すると判断する場合とは、リスクポテンシャルが制動力付与判断用閾値以下となる場合、制動力を付与して自車両が停止してから予め設定した時間が経過した場合、又は制動力を付与して自車両が停止し、運転者がアクセルペダルを踏んでいない状態からアクセルペダルを踏んだ場合等である。
【0067】
次に、以上のように自動制動の制動力を解除したときの自車両の動作を説明する。
図11は、アクセル全閉時の道路勾配と自動制動の制動力の解除状態との関係の一例を示す図である。また、図12は、アクセル全開時の道路勾配と自動制動の制動力の解除状態との関係の一例を示す図である。また、図13は、先行車両との車間距離と自動制動の制動力の解除状態との関係の一例を示す図である。
また、図14は、登坂路で自車両100が自動制動により停車しており、自車両100の前後に他の車両201,202が存在する状態を示す図である。また、図15は、降坂路で自車両100が自動制動により停車しており、自車両100の前後に他の車両201,202が存在する状態を示す図である。
【0068】
運転者がアクセルペダルを踏んでいない場合、図6に示す関係によってアクセル全閉時減少側変化率△DEC_0が算出される結果、制動力の解除は、図11に示すようになる。すなわち、制動力の解除は、図11に示すように、概略として、登坂路及び降坂路の場合、それ以外の場合(平坦地(通常)の場合)よりも遅くなる。
これにより、図14及び図15に示すように自車両100が坂路で停車している場合に単に制動力を解除すると、その解除は、平坦地の場合よりも遅くなる。この結果、自車両100は、坂路では平坦地の場合よりも緩やかに発進するようになる。
【0069】
また、運転者がアクセルペダルを踏んでいる場合、図7に示す関係によってアクセル全開時減少側変化率△DEC_1が算出される結果、制動力の解除は、図12に示すようになる。すなわち、制動力の解除は、図12に示すように、概略として、降坂路の場合、それ以外の場合(平坦地又は登坂路の場合)よりも遅くなる。
これにより、図15に示すように自車両100が降坂路で停車している場合にアクセルペダルが踏まれて制動力を解除すると、その解除は、平坦地又は登坂路の場合よりも遅くなる。この結果、自車両100は、アクセルペダルが踏まれている場合、降坂路では緩やかに発進するようになる。
【0070】
また、アクセルペダルの踏み込み状態の違いについては、降坂路では、制動力の解除は、図12に示すように、アクセルペダルが踏まれていない場合よりもアクセルペダルが踏まれている場合の方が遅くなる。一方、登坂路では、制動力の解除は、図12に示すように、アクセルペダルが踏まれている場合よりもアクセルペダルが踏まれていない場合の方が遅くなる。この結果、自車両100は、降坂路では、アクセルペダルが踏まれていると緩やかに発進するようになる。また、自車両100は、登坂路では、アクセルペダルが踏まれていることに応じて速やかに発進するようになる。
【0071】
また、図9に示す関係によってリスクポテンシャル減少側変化量ゲインα_1が算出される結果、制動力の解除は、図13に示すように、先行車両との距離が短いほど遅くなる。
これにより、図14及び図15に示すように先行車両201が存在する場合に自車両100が制動力を解除すると、その解除は遅くなる。この結果、自車両100は、先行車両201が存在する場合、緩やかに発進するようになる。
【0072】
ここで、本実施形態において、リスクポテンシャル演算部31は、例えば、接近リスクポテンシャル検出手段を構成する。また、制動力演算部40及び制動付与力装置11は、例えば、制動力付与手段及び制動力解除手段を構成する。また、外乱推定部32は、例えば、走行路勾配検出手段を構成する。また、制動力解除設定演算部45は、例えば、変更手段を構成する。
【0073】
(本実施形態の効果)
本実施形態は、次のような効果を奏する。
(1)外乱推定部32は、走行路の勾配を検出する。そして、制動力解除設定演算部45は、自車両が停止中に、リスクポテンシャルに基づき自車両に付与した制動力を解除する際のその減少度合いを、リスクポテンシャル及び走行路の勾配に基づいて変更する。
これにより、車両用衝突回避制動支援装置1は、坂路にて自車両の停止中に自動制動による制動力を解除した際に、自車両の動作が運転者が意図しないものになることを防止することができる。
【0074】
例えば、前述のように、車両用衝突回避制動支援装置1は、該装置1によって自動制動による制動力を付与して自車両が停止してから予め設定した時間が経過すると、制動力を解除する場合がある。また、車両用衝突回避制動支援装置1は、該装置1によって自動制動による制動力を付与して自車両が停止し、運転者がアクセルペダルを踏んでいない状態からアクセルペダルを踏むと、制動力を解除する場合がある。この場合、坂路にてそのような制動力の解除を行ってしまうと、自車両の発進が運転者が意図しないもの(例えば大きい加速度を伴うもの)になってしまう恐れがある。
これに対して、本実施形態の車両用衝突回避制動支援装置1は、走行路の勾配に基づいて、制動力の解除の際の減少度合いを変更することで、自車両の発進が運転者が意図しないものになってしまうことを防止できる。
【0075】
(2)制動力解除設定演算部45は、リスクポテンシャルが高いほどリスクポテンシャル減少側変化量ゲインα_1を小さくする。この場合、リスクポテンシャルが高いほど、減少側変化率ΔDECが小さくなるために、自動制動の制動力の解除は緩やかになる。
また、制動力解除設定演算部45は、坂路の勾配が大きいほどアクセル全閉時減少側変化率△DEC_0を小さくする。この場合、坂路の勾配が大きいほど、減少側変化率ΔDECが小さくなるために、自動制動の制動力の解除は緩やかになる。
【0076】
これにより、車両用衝突回避制動支援装置1は、アクセル全閉時減少側変化率△DEC_0に従うことで、降坂路において、障害物とのリスクポテンシャルが低い場合でも自動制動の制動力の解除を緩やかに行うことができる。
よって、車両用衝突回避制動支援装置1は、降坂路にて自動制動の制動力を解除した際に、自車両の加速度が大きくなってしまうことを抑制できる。
また、車両用衝突回避制動支援装置1は、アクセル全閉時減少側変化率△DEC_0に従うことで、登坂路においても自動制動の制動力の解除を緩やかに行うことができる。
【0077】
よって、車両用衝突回避制動支援装置1は、登坂路にて停車中に自動制動の制動力を解除した際に、自車両が急に後退してしまうことを抑制できる。
以上のように、車両用衝突回避制動支援装置1は、坂路にて自動制動の制動力を解除した際に、自車両の動作が運転者が意図しないものになることを防止することができる。
【0078】
(3)制動力解除設定演算部45は、登坂路では、アクセル全開時減少側変化率△DEC_1よりもアクセル全閉時減少側変化率△DEC_0が小さくなるようにしている。この場合、登坂路では、アクセルペダルが踏まれている状態で解除するときよりもアクセルペダルが踏まれていない状態で解除するときの制動力の減少度合いが低くなる。言い換えると、登坂路では、アクセルペダルが踏まれている状態で解除する方が制動力の減少度合いは高くなる。
【0079】
これにより、車両用衝突回避制動支援装置1は、登坂路にて自動制動の制動力を解除した際に自車両が急に後退してしまうことを防止しつつ、運転者のアクセルペダル踏み込みによる前進意図に合致させて制動力の解除を速やかに行うことができる。
このように、車両用衝突回避制動支援装置1は、坂路にて自動制動の制動力を解除した際に、自車両の動作が運転者が意図しないものになることを防止することができる。
【0080】
(4)制動力解除設定演算部45は、降坂路では、アクセル全開時減少側変化率△DEC_1よりもアクセル全閉時減少側変化率△DEC_0が大きくなるようにしている。この場合、降坂路では、アクセルペダルが踏まれていない状態で解除するときよりもアクセルペダルが踏まれている状態で解除するときの制動力の減少度合いが低くなる。
これにより、車両用衝突回避制動支援装置1は、降坂路にて自動制動の制動力を解除した際に運転者のアクセルペダル踏み込みによる前進意図を上回る加速度になってしまうのを防止できる。
このように、車両用衝突回避制動支援装置1は、坂路にて自動制動の制動力を解除した際に、自車両の動作が運転者が意図しないものになることを防止することができる。
【0081】
(5)外乱推定部32は、車輪速センサ2が検出した車輪速を基に算出される自車両の加速度Aを取得し、アクセル開度センサ5が検出したスロットル開度センサ値を基に算出されるエンジントルク及び予め設定された車両諸元から自車両の加速度A_tarを算出する。そして、外乱推定部32は、自車両の加速度A及び自車両の加速度A_tarから走行路の勾配を検出する。
これにより、車両用衝突回避制動支援装置1は、デバイス等の特別な構成を新たに備えることなく走行路の勾配を検出できる。
【0082】
(本実施形態の変形例)
本実施形態では、障害物への自車両の接近に関するリスクポテンシャルを障害物との距離や障害物との相対速度に基づいて算出しているが、これに限定されない。例えば、本実施形態では、運転者の注意度等の運転者に起因する情報や自速度等の自車両に起因する情報、道路の混雑度等の自車両周囲に起因する情報等に基づいてリスクポテンシャルを算出しても良い。
【0083】
また、本実施形態では、(4)式を用いて走行路の勾配を算出しているが、これに限定されない。例えば、本実施形態では、他の演算式により走行路の勾配を算出したり、路車間通信により走行路の勾配情報を取得したりしても良い。
また、本実施形態は、自動制動の制動力の解除の設定について、自動制動によって自車両が停車した後の制動力の解除に適用されることに限らず、自動制動によって自車両が減速している最中の制動力の解除にも適用され得ることは言うまでもない。すなわち、本実施形態では、自動制動によって自車両が減速している最中の制動力を解除する際にも、自車両の動作が運転者が意図しないものになることを防止することができる等といった効果を発揮し得る。
【0084】
また、本実施形態では、外乱推定部32が、車輪速センサ2が検出した車輪速に基づいて自車両の加速度Aを算出したり、アクセル開度センサ5が検出したスロットル開度センサ値に基づいてエンジントルクを算出したりしても良い。
以上、本発明の実施形態を具体的に説明したが、本発明の範囲は、図示され記載された例示的な実施形態に限定されるものではなく、本発明が目的とするものと均等な効果をもたらすすべての実施形態をも含む。さらに、本発明の範囲は、請求項1により画される発明の特徴の組み合わせに限定されるものではなく、すべての開示されたそれぞれの特徴のうち特定の特徴のあらゆる所望する組み合わせによって画されうる。
【符号の説明】
【0085】
1 車両用衝突回避制動支援装置、11 制動付与力装置、12 アクセルペダル反力付与装置、30 支援情報演算部、31 リスクポテンシャル演算部、32 外乱推定部、40 制動力演算部、45 制動力解除設定演算部、50 アクセルペダル反力演算部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の前後方向に存在する障害物への自車両の接近リスクポテンシャルを検出する接近リスクポテンシャル検出手段と、
前記接近リスクポテンシャル検出手段が検出した接近リスクポテンシャルに基づいて、自車両に制動力を付与する制動力付与手段と、
自車両が停止しているときに、予め設定した解除条件を満たしたと判定すると、前記制動力付与手段が付与した制動力を解除する制動力解除手段と、
自車両が走行する走行路の勾配を検出する走行路勾配検出手段と、
前記接近リスクポテンシャル検出手段が検出した接近リスクポテンシャル及び前記走行路勾配検出手段が検出した走行路の勾配検出値に基づいて、前記制動力解除手段による解除の際の制動力の減少度合いを変更する変更手段と、
を備えることを特徴とする車両用制動支援装置。
【請求項2】
前記変更手段は、前記接近リスクポテンシャルが高くなるほど、又は前記走行路の勾配検出値が大きくなるほど、前記解除の際の制動力の減少度合いを低くすることを特徴とする請求項1に記載した車両用制動支援装置。
【請求項3】
前記変更手段は、前記走行路勾配検出手段が上り勾配を検出すると、アクセルペダルが踏まれている場合よりもアクセルペダルが踏まれていない場合の前記解除の際の制動力の減少度合いを低くすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した車両用制動支援装置。
【請求項4】
前記変更手段は、前記走行路勾配検出手段が下り勾配を検出すると、アクセルペダルが踏まれていない場合よりもアクセルペダルが踏まれている場合の前記解除の際の制動力の減少度合いを低くすることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載した車両用制動支援装置。
【請求項5】
自車両の車輪速を検出する車輪速検出手段と、
運転者の操作によるアクセルペダルの開度量を検出するアクセルペダル開度量検出手段と、をさらに備え、
前記走行路勾配検出手段は、前記車輪速検出手段が検出した車輪速に基づいて、自車両の加速度である第一加速度推定値を算出し、前記アクセルペダル開度量に基づいて、エンジントルクを算出し、該エンジントルク及び予め設定された車両諸元から第二加速度推定値を算出し、前記第一加速度推定値及び前記第二加速度推定値から走行路の勾配を検出することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載した車両用制動支援装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−32064(P2013−32064A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168357(P2011−168357)
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】