説明

車両用制動装置

【課題】車両用制動装置において、車両の走行状態に拘らず適正時期に回生制動を効率良く実施することでエネルギ効率の向上を図ると共に操作フィーリングの向上を図る。
【解決手段】ブレーキペダル14により入力ピストン12と加圧ピストン13が移動可能であると共に制動油圧を出力可能なマスタシリンダを設け、ペダルストロークSpに基づいて目標制動油圧Pstを設定し、車速に基づいて回生制動力を設定すると共に、目標制動油圧Pstから回生制動力を減算して目標出力油圧Prtを設定し、入力ピストン12が加圧ピストン13に接触するまでの期間S0に、回生制動力を発生させるときは、第1圧力室R1に制御油圧を作用させずに制動操作量を吸収する一方、油圧制動力を発生させるときは、第1圧力室R1に制御油圧を作用して制動操作量を加圧ピストン13に伝達する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気モータを動力源として走行可能な車両において、回生ブレーキと油圧ブレーキの協調制御を可能とした車両用制動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料の燃焼によりトルクを出力するエンジンと、電力の供給によりトルクを出力する電気モータとを搭載し、このエンジンと電気モータのトルクを車輪に伝達することで走行可能とするハイブリッド車両が提案されている。このようなハイブリッド車両では、運転状態に応じてエンジン及び電気モータの駆動と停止を制御することにより、電気モータのトルクだけで車輪を駆動したり、エンジンと電気モータの両者のトルクにより車輪を駆動するようにしており、電気モータはバッテリに蓄積された電力により駆動することができ、このバッテリのエネルギが低下したときには、エンジンを駆動してバッテリの充電を行うようにしている。
【0003】
即ち、ハイブリッド車両において、駆動力源としてエンジン及び電気モータが設けられると共に、エンジン及び電気モータの動力を合成して車輪に伝達するプラネタリギヤが設けられている。具体的には、エンジンの出力軸がプラネタリギヤのキャリヤに連結され、電気モータの出力軸がプラネタリギヤのリングギヤに連結されると共に、リングギヤに連結されたスプロケットから車輪に対して動力が伝達されるように構成されている。また、プラネタリギヤとエンジンとの間には発電機が設けられており、この発電機の回転軸がプラネタリギヤのサンギヤに連結されている。そのため、エンジンの動力がプラネタリギヤにより車輪及び発電機に分割されることとなり、発電機の回転速度を制御することにより、エンジンの回転速度を制御することができる。つまり、プラネタリギヤにより構成される動力分割機構は、エンジンの回転速度を変換する機能と、エンジンの動力を車輪及び発電機に分割する機能を有している。
【0004】
また、このハイブリッド車両では、エンジンブレーキによる制動時やフットブレーキによる制動時に、電気モータを発電機として作動させることで、車両の運動エネルギを電気エネルギに変換してバッテリに回収し、再利用する回生ブレーキシステムが適用されている。特に、加減速を繰り返す走行パターンにおいてエネルギ回収の効果が高く、フットブレーキによる制動時には、油圧ブレーキと回生ブレーキを協調制御して回生ブレーキを優先的に使用し、より低い車速までエネルギ回収を行っている。
【0005】
このような車両用制動装置としては、例えば、下記特許文献1に記載されたものがある。特許文献1に記載された車両用制動装置は、ブレーキペダルの踏み込み量に応じて目標総制動トルクが設定され、この目標総制動トルクから電気モータによる実回生制動トルクを減算して目標液圧制動トルクが設定され、液圧制動トルクが目標液圧制動トルクになるようにリニアバルブ装置を制御するものである。
【0006】
【特許文献1】特開平11−105688号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した従来の車両用制動装置にあっては、液圧による制動と回生による制動の協調制御を行う場合、マスタシリンダからホイールシリンダへの油圧供給を停止して液圧制動と回生制動の配分を設定し、回生制動を優先することでエネルギを効率良く回収するようにしている。ところが、マスタシリンダからホイールシリンダへの油圧供給ラインに協調制御のために開閉弁を設けると、構造が複雑になると共に製品コストが増加してしまうという問題がある。また、油圧供給系が失陥したときには、乗員が低い減速制動を要求した場合、ブレーキペダルの操作力により油圧が増大して液圧による制動が行われることとなり、回生によるエネルギの回収効率が低下してしまう。
【0008】
本発明は、このような問題を解決するためのものであって、車両の走行状態に拘らず適正時期に回生制動を効率良く実施することでエネルギ効率の向上を図ると共に操作フィーリングの向上を図った車両用制動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の車両用制動装置は、乗員が制動操作する操作部材と、該操作部材の制動操作量を検出する操作量検出手段と、前記操作部材により出力ピストンが移動可能であると共に該出力ピストンが移動して制動油圧を出力可能なマスタシリンダと、前記操作量検出手段が検出した制動操作量に基づいて目標制動力を設定する目標制動力設定手段と、車両の走行状態に応じて該目標制動力設定手段が設定した目標制動力を目標回生制動力と目標油圧制動力に分配する目標制動力分配手段と、前記目標油圧制動力に基づいて設定された制御油圧を前記マスタシリンダに供給する油圧供給手段と、前記目標回生制動力を出力するときは前記操作部材から前記出力ピストンに入力される操作量を吸収する一方、目標油圧制動力を出力するときは前記操作部材から前記出力ピストンに入力される操作量を前記出力ピストンに伝達する操作量吸収手段とを具えたことを特徴とするものである。
【0010】
本発明の車両用制動装置では、前記マスタシリンダの出力ピストンは、シリンダ内に軸方向に沿って移動自在に支持された入力ピストンと、前記シリンダ内に前記入力ピストンと同軸上に所定間隔をもって軸方向に沿って移動自在に支持されると共に前記入力ピストンにより押圧可能な加圧ピストンから構成されることで、前記入力ピストンの移動方向一方側の第1圧力室と他方側の第2圧力室と前記加圧ピストンにより加圧される第3圧力室が形成され、前記油圧供給手段は、前記第1圧力室または前記第2圧力室に制御油圧を供給可能であり、前記操作量吸収手段は、前記第1圧力室と前記第2圧力室とを連通する連通路により構成されたことを特徴としている。
【0011】
本発明の車両用制動装置では、前記マスタシリンダの出力ピストンは、シリンダ内に軸方向に沿って移動自在に支持された入力ピストンと、前記シリンダ内に前記入力ピストンと同軸上に接触して軸方向に沿って移動自在に支持されると共に前記入力ピストンにより押圧可能な加圧ピストンから構成されることで、前記入力ピストンの移動方向一方側の第1圧力室と他方側の第2圧力室と前記加圧ピストンにより加圧される第3圧力室が形成され、前記油圧供給手段は、制御油圧を前記第1圧力室または前記第2圧力室に供給可能であり、前記操作量吸収手段は、前記第1圧力室と前記第2圧力室とを連通する連通路と、前記第3圧力室の油圧を排出する排出路により構成されたことを特徴としている。
【0012】
本発明の車両用制動装置では、前記第1圧力室の油圧を受ける前記入力ピストンの第1受圧面積と、前記第2圧力室の油圧を受ける前記入力ピストンの第2受圧面積が均等に設定されたことを特徴としている。
【0013】
本発明の車両用制動装置では、前記マスタシリンダの出力ピストンは、シリンダ内に軸方向に沿って移動自在に支持された入力ピストンと、前記シリンダ内に前記入力ピストン嵌合状態で同軸上に所定間隔をもって軸方向に沿って移動自在に支持されると共に前記入力ピストンにより押圧可能な加圧ピストンから構成されることで、前記入力ピストンの移動方向一方側の第1圧力室と他方側の第2圧力室とが形成され、前記油圧供給手段は、制御油圧を前記第2圧力室に供給可能であり、前記操作量吸収手段は、前記第1圧力室の油圧を排出する排出路により構成されたことを特徴としている。
【0014】
本発明の車両用制動装置では、前記第1圧力室の油圧を受ける前記入力ピストンの第1受圧面積と、前記油圧供給手段により制御油圧を受ける前記加圧ピストンの第2受圧面積が均等に設定されたことを特徴としている。
【0015】
本発明の車両用制動装置では、前記操作部材から前記入力ピストンに入力される操作量に応じた反力を設定する反力設定手段と、該反力設定手段により設定された反力を前記入力ピストンに作用させることで前記操作部材に反力を発生させる反力供給手段を設けたことを特徴としている。
【0016】
本発明の車両用制動装置では、前記出力ピストンの移動方向一方側に形成されて前記油圧供給手段が制御油圧を供給する第1圧力室と、他方側に形成されて前記出力ピストンにより加圧される第3圧力室が形成され、前記操作量吸収手段は、前記第3圧力室の油圧を排出する排出路により構成されたことを特徴としている。
【0017】
本発明の車両用制動装置では、前記マスタシリンダにブレーキブースタが装着され、前記操作部材の制動操作力が前記ブレーキブースタを介して前記出力ピストンに伝達可能とし、前記ブレーキブースタ内に、前記操作量吸収手段としてのストローク吸収機構が設けられたことを特徴としている。
【0018】
本発明の車両用制動装置では、前記マスタシリンダにブレーキブースタが装着され、前記操作部材の制動操作力が前記ブレーキブースタを介して前記出力ピストンに伝達可能とし、前記操作部材と前記ブレーキブースタとの間に、前記操作量吸収手段としてのストローク吸収機構が設けられたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
本発明の車両用制動装置によれば、操作部材により出力ピストンが移動可能であると共にこの出力ピストンが移動して制動油圧を出力可能なマスタシリンダを設け、制動操作量に基づいて目標制動力を設定し、車両の走行状態に応じてこの目標制動力を目標回生制動力と目標油圧制動力に分配し、目標回生制動力を出力するときは操作部材から出力ピストンに入力される操作量を吸収する一方、目標油圧制動力を出力するときは操作部材から出力ピストンに入力される操作量を出力ピストンに伝達する操作量吸収手段を設けたので、乗員が操作部材を操作すると、その操作量と車両の走行状態に基づいて目標回生制動力と目標油圧制動力が設定され、目標回生制動力が出力されるときは、出力ピストンに伝達される操作量が吸収されて制動油圧がほとんど発生することはなく、回生制動が効率良く実施される一方、目標油圧制動力が出力されるときは、出力ピストンに操作量が伝達されてマスタシリンダは所定の制動油圧を出力し、回生制動及び油圧制動が効率良く実施されることとなり、車両の走行状態に拘らず適正時期に回生制動を効率良く実施することでエネルギ効率の向上を図ると共に操作フィーリングを向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、本発明に係る車両用制動装置の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0021】
図1は、本発明の実施例1に係る車両用制動装置が適用されたハイブリッド車両を表す概略構成図、図2は、実施例1の油圧式制動装置を表す概略構成図、図3は、ペダルストロークに対する目標出力油圧及び目標反力を表すグラフ、図4は、車速に対する回生制動力を表すグラフ、図5は、実施例1の車両用制動装置における制動力制御を表すフローチャートである。
【0022】
実施例1の車両用制動装置が適用されたハイブリッド車両において、図1に示すように、車両には、動力源として、エンジン201と電気モータ202が搭載されており、また、この車両には、エンジン201の出力を受けて発電を行う発電機203も搭載されている。これらのエンジン201と電気モータ202と発電機203は、動力分割機構204によって接続されている。この動力分割機構204は、エンジン201の出力を発電機203と駆動輪205とに振り分けると共に、電気モータ202からの出力を駆動輪205に伝達したり、減速機206及び駆動軸207を介して駆動輪205に伝達される駆動力に関する変速機として機能する。
【0023】
電気モータ202は交流同期電動機であり、交流電力によって駆動する。インバータ208は、バッテリ209に蓄えられた電力を直流から交流に変換して電気モータ202に供給すると共に、発電機203によって発電される電力を交流から直流に変換してバッテリ209に蓄えるためのものである。発電機203も、基本的には上述した電気モータ202とほぼ同様の構成を有しており、交流同期電動機としての構成を有している。この場合、電気モータ202が主として駆動力を出力するのに対し、発電機203は主としてエンジン201の出力を受けて発電するものである。
【0024】
また、電気モータ202は主として駆動力を発生させるが、駆動輪205の回転を利用して発電(回生発電)することもでき、発電機として機能することも可能である。このとき、駆動輪205には回生ブレーキが作用するので、これをフットブレーキやエンジンブレーキと併用することにより、車両を制動させることができる。一方、発電機203は主としてエンジン201の出力を受けて発電をするが、インバータ208を介してバッテリ209の電力を受けて駆動する電動機としても機能することができる。
【0025】
なお、エンジン201には、ピストン位置及びエンジン回転数を検出するクランクポジションセンサ(図示略)が設けられており、検出結果をエンジンECU210に出力している。また、電気モータ202及び発電機203には、回転位置及び回転数を検出する回転数センサ(図示略)が設けられており、検出結果をモータECU211に出力している。
【0026】
ハイブリッド車両の上記各種制御は、複数の電子制御ユニット(ECU)によって制御される。ハイブリッド車両として特徴的なエンジン201による駆動と電気モータ202による駆動とは、メインECU212によって総合的に制御される。即ち、メインECU212によりエンジン201の出力と電気モータ202による出力の配分が決定され、エンジン201、電気モータ202及び発電機203を制御すべく、各制御指令がエンジンECU210及びモータECU211に出力される。
【0027】
そして、エンジンECU210及びモータECU211は、エンジン201、電気モータ202及び発電機203の情報をメインECU212にも出力している。このメインECU212には、バッテリ209を制御するバッテリECU213にも接続されている。このバッテリECU213はバッテリ209の充電状態を監視し、充電量が不足した場合には、メインECU212に対して充電要求指令を出力する。充電要求を受けたメインECU212はバッテリ209に充電をするように発電機203を発電させる制御を行う。
【0028】
また、車両には、駆動輪205に対応して油圧ブレーキ装置214が設けられている。この油圧ブレーキ装置214には、油圧源215からの油圧が油圧調整部216で所定の圧力に調整されてから制動油圧が供給されるようになっている。上述したメインECU212には、この油圧源215を制御するブレーキECU217にも接続されている。このブレーキECU217はアクセルペダルの操作量に応じて目標制動力を設定し、メインECU212に対してこの目標制動力を出力する。メインECU212はモータECU211にこの目標制動力を出力し、モータECU211は回生ブレーキを制御すると共に、その実行値、つまり、実行した回生制動力をメインECU212に出力する。メインECU212は目標制動力から回生制動力を減算して目標油圧制動力を設定し、ブレーキECU217はこの目標油圧制動力に基づいて油圧ブレーキを制御する。
【0029】
このように構成されたハイブリッド車両にて、以下に、本実施例の車両用制動装置について詳細に説明する。
【0030】
本実施例の車両用制動装置の油圧調整部216を構成するマスタシリンダにおいて、図2に示すように、シリンダ11は、基端部が開口して先端部が閉塞した円筒形状をなし、内部に入力ピストン12と加圧ピストン13が同軸上に配置されて軸方向に沿って移動自在に支持されており、この入力ピストン12と加圧ピストン13により本発明の出力ピストンが構成されている。シリンダ11の基端部側に配置された入力ピストン12は、基端部に操作部としてのブレーキペダル14の操作ロッド15が連結されており、乗員によるブレーキペダル14の操作により操作ロッド15を介して移動可能となっている。また、入力ピストン12は、外周面がシリンダ11の内周面に圧入または螺合して固定された前後の支持部材16,17により移動自在に支持されると共に、円盤形状のフランジ部18がシリンダ11の内周面に移動自在に支持されている。そして、入力ピストン12は、フランジ部18が各支持部材16,17に当接することでその移動ストロークが規制されると共に、支持部材16とフランジ部18との間に張設された反力スプリング19によりフランジ部18が支持部材17に当接する位置に付勢支持されている。
【0031】
シリンダ11の先端部側に配置された加圧ピストン13は断面がコ字形状をなし、外周面がシリンダ11の内周面に移動自在に支持されている。そして、加圧ピストン13は、前後の端面がシリンダ11と支持部材16に当接することでその移動ストロークが規制されると共に、シリンダ11との間に張設された付勢スプリング20により加圧ピストン13が支持部材16に当接する位置に付勢支持されている。従って、入力ピストン12と加圧ピストン13とは、所定間隔(ストローク)S0をもって離間した状態で保持されており、乗員がブレーキペダル14を操作し、入力ピストン12が所定ストロークS0だけ前進すると、加圧ピストン13に当接して押圧することができる。
【0032】
このようにシリンダ11内に入力ピストン12と加圧ピストン13が同軸上に移動自在に配置されることで、入力ピストン12における移動方向一方、つまり、入力ピストン12と加圧ピストン13との間に第1圧力室R1が形成されると共に、入力ピストン12における移動方向他方、つまり、入力ピストン12のフランジ部18と支持部材17との間に第2圧力室R2が形成され、また、シリンダ11と加圧ピストン13との間に第3圧力室R3が形成されている。また、支持部材16と入力ピストン12のフランジ部18との間に反力室R4が形成されている。そして、第1圧力室R1と第2圧力室R2とは、シリンダ11内に形成されたオリフィスとしての連通路21により連通されている。
【0033】
また、油圧源215において、油圧ポンプ22はモータ23が駆動することで油圧を供給可能であり、配管24を介してリザーバタンク25に連結されると共に、配管26を介してアキュムレータ27に連結されている。アキュムレータ27は第1油圧供給配管28を介して連通路21の第1供給ポート29に連結されており、この第1油圧供給配管28に第1リニア弁30が配置されると共に、第1油圧供給配管28から配管24に連結される第1油圧排出配管31に第2リニア弁32が配置されている。この第1リニア弁30と第2リニア弁32は、流量調整式の電磁弁であり、第1リニア弁30はノーマルクローズ、第2リニア弁32はノーマルオープンとなっている。
【0034】
また、アキュムレータ27は第2油圧供給配管33を介して反力室R4に連通する第2供給ポート34に連結されており、この第2油圧供給配管33に第3リニア弁35が配置されると共に、第2油圧供給配管33から第1油圧排出配管31に連結される第2油圧排出配管36に第4リニア弁37が配置され、また、第2油圧排出配管36には第4リニア弁37を迂回してチェック弁38が配置されている。この第3リニア弁35と第4リニア弁37は、流量調整式の電磁弁であり、第3リニア弁35はノーマルクローズ、第4リニア弁37はノーマルオープンとなっている。
【0035】
一方、油圧ブレーキ装置214において、前輪FR,FL及び後輪RR,RL(駆動輪205)にはそれぞれブレーキ装置(図示略)を作動させるホイールシリンダ39FR,39FL,39RR,39RLが設けられており、ABS(Antilock Brake System)40により作動可能となっている。そして、第1圧力室R1に連通するオリフィスとしての第1吐出ポート41には第1吐出油圧配管42が連結され、この第1吐出油圧配管42はABS40に連結され、後輪RR,RLのホイールシリンダ39RR,39RLに油圧を供給可能となっている。また、第3圧力室R3に形成されたオリフィスとしての第2吐出ポート43には第2吐出油圧配管44が連結され、この第2吐出油圧配管44はABS40に連結され、前輪FR,FLのホイールシリンダ39FR,39FLに油圧を供給可能となっている。更に、第3圧力室R3に連通する第1、第2排出ポート45,46には排出油圧配管47がリザーバタンク22に連結されている。
【0036】
なお、シリンダ11と入力ピストン12と加圧ピストン13等の要部には、Oリング48が装着されると共に、ワンウェイシール49が装着されており、油圧の漏洩を防止している。
【0037】
このように構成された本実施例の車両用制動装置にて、図1及び図2に示すように、ブレーキECU217は、ブレーキペダル14から入力ピストン12に入力される操作量(ペダルストローク)に応じた目標制動力を設定(目標制動力設定手段)し、メインECU212は、この目標制動力を目標回生制動力と目標油圧制動力とに分配(目標制動力分配手段)し、モータECU211が回生ブレーキを制御する一方、ブレーキECU217が油圧ブレーキを制御する。
【0038】
そして、モータECU211は、目標回生制動力に応じて電気モータ202を駆動制御し、駆動輪205の回転によりこの電気モータ202を発電機として作動させることで、回生ブレーキを作動して車両を減速しつつ、運動(回転)エネルギを電気エネルギに変換し、インバータ208を介してバッテリ209に回収させる。この場合、モータECU211は、図3に示すように、車速に対する最大回生制動力を表すマップを有しており、このマップに基づいて目標制動力に対して発生可能な目標回生制動力を設定している。
【0039】
一方、ブレーキECU217は、目標油圧制動力に応じて制御油圧を設定し、この設定された制御油圧を油圧供給手段としての油圧源215から油圧調整部216の加圧ピストン13に作用させることで制動油圧を発生させ、ABS40によりホイールシリンダ39FR,39FL,39RR,39RLを作動して前輪FR,FL及び後輪RR,RLに制動力を作用させるようにしている。この場合、本実施例では、制御油圧を入力ピストン12の第1圧力室R1及び第2圧力室R2に供給することで加圧ピストン13に作用させ、制動油圧を発生させるようにしている。
【0040】
また、本実施例では、ブレーキペダル14から入力ピストン12に入力された操作力を吸収(操作量吸収手段)し、入力ピストン12の押圧力を加圧ピストン13に伝達不能とすると共に、この押圧力を操作反力としてブレーキペダル14に作用させないようにしている。この場合、この操作力吸収手段を、第1圧力室R1と第2圧力室R2とを連通する連通路21と、入力ピストン12と加圧ピストン13との所定間隔S0により構成し、シリンダ11内の油路面積A1に対して、第1圧力室R1の油圧を受ける入力ピストン12の先端部の第1受圧面積A2と、第2圧力室R2の油圧を受ける入力ピストン12のフランジ部18の第2受圧面積A3とを均等に設定している。そして、異常発生時には、ブレーキペダル14からの操作力により入力ピストン12が加圧ピストン13を直接押圧することで、制動油圧を発生させるようにしている。
【0041】
更に、ブレーキECU217は、ブレーキペダル14から入力ピストン12に入力された操作量に応じた反力を設定(反力設定手段)し、この設定された反力を入力ピストン12に作用させることでブレーキペダル14に反力を発生(反力供給手段)させるようにしている。そして、異常発生時には、ブレーキペダル14への反力を制限することで、ブレーキペダル14の操作不能状態を回避するようにしている。
【0042】
即ち、ブレーキペダル14には、このブレーキペダル14のペダルストロークSpを検出するストロークセンサ52と、その踏力Fpを検出する踏力センサ53と、所定の踏力に応じてON/OFFする踏力スイッチ54と、踏力を検出してストップランプ(図示略)を点灯するストップランプスイッチ55が設けられており、各検出結果をブレーキECU217に出力している。また、第1吐出油圧配管42及び第2吐出油圧配管44には、油圧を検出する第1圧力センサ56及び第2圧力センサ57が設けられている。第1圧力センサ56は、第1圧力室R1から第1吐出油圧配管42を通して後輪RR,RLのホイールシリンダ39RR,39RLへ供給される制動油圧Prを検出し、検出結果をブレーキECU217に出力している。一方、第2圧力センサ57は、第3圧力室R3から第2吐出油圧配管44を通して前輪FR,FLのホイールシリンダ39FR,39FLへ供給される制動油圧Pfを検出し、検出結果をブレーキECU217に出力している。
【0043】
更に、アキュムレータ27から第2供給ポート34に至る第2油圧供給配管33には、第3リニア弁35の下流側に位置して第3圧力センサ58が設けられており、この第3圧力センサ58は反力室R4へ供給する反力油圧Pvを検出し、検出結果をブレーキECU217に出力している。そして、アキュムレータ27からの配管26に第4圧力センサ59が設けられており、この第4圧力センサ59は、アキュムレータ27から各圧力室へ供給する油圧Ppを検出し、検出結果をブレーキECU217に出力している。また、前輪FR,FL及び後輪RR,RLには、それぞれ車輪速センサ60が設けられており、検出した各車輪速度をブレーキECU217に出力している。
【0044】
従って、ブレーキECU217は、図3に表す目標制動油圧を求めるマップを用いてストロークセンサ52が検出したペダルストロークSpに基づいて目標制動油圧Pstを設定する。メインECU212は、この目標制動油圧Pstを目標減速度に変換し、更に、目標減速度を目標制動力に変換してモータECU211に出力する。モータECU211は、図4に表す最大回生制動力を求めるマップを用いて目標回生制動力を設定し、電気モータ202を制御して回生ブレーキを作動させると共に、その実行値、つまり、実行した回生制動力をメインECU212に出力する。メインECU212は、目標制動力から回生制動力を減算して目標油圧制動力を設定し、目標油圧制動力を目標油圧減速度に変換し、更に、目標油圧減速度を目標出力油圧Prtに変換する。ブレーキECU217は、この目標出力油圧Prtに基づいて、第1、第2リニア弁30,32の開度を調整する一方、第1圧力センサ56が検出した制動油圧Prをフィードバックし、目標出力油圧Prtと制動油圧Prとが一致するように制御している。
【0045】
また、図3に示すように、ブレーキペダル14に与える反力Pbは、反力スプリング19によるスプリング力と反力室R4に作用する反力油圧Pvとの加算値であり、スプリング力は一定となっている。従って、ブレーキECU217は、ストロークセンサ52が検出したペダルストロークSpに基づいて目標反力油圧Pvtを設定し、第3、第4リニア弁35,37の開度を調整する一方、第3圧力センサ58が検出した反力油圧Pvをフィードバックし、目標反力油圧Pvtと反力油圧Pvとが一致するように制御している。この場合、ブレーキECU217は、ペダルストロークSpに対する目標反力油圧Pvtのマップを有しており、このマップに基づいて各リニア弁35,37を制御する。
【0046】
ここで、目標制動油圧Ps、制動油圧Pf,Pr、反力Fp(反力油圧Pv)との関係について説明する。目標制動油圧Ps及び制動油圧Prは、ペダルストロークSpと予め設定された両者の関数マップに基づいて設定される。なお、制動油圧Pf≒制動油圧Prである。また、入力ピストン12に作用する力の釣り合いは下記に示すようになる。なお、k0は、反力スプリング19のばね定数である。
2×Pr+Sp×k0+A3×Pv=Fp+A3×Pr
Fp=(A2−A3)×Pr+k0×Sp+A3×Pv
ここで、A2=A3となるように各面積A2,A3を設計すると下記のようになる。
Fp=k0×Sp+A3×Pv
即ち、面積A3は固定値なので、反力Pvにより踏力Fpが決まる。従って、反力Pvを制御することで踏力Fpを可変とすることができ、踏力Fp−ストロークSp−制動油圧Pf,Prの関係を任意に設定することができる。
【0047】
ここで、本実施例の車両用制動装置における制動力制御について図5のフローチャートに基づいて説明する。制動力制御において、図5に示すように、まず、ステップS1では、ブレーキECU217が、ストロークセンサ52が検出したペダルストロークSpを取得し、ステップS2では、第1圧力センサ56が検出した制動油圧Prと、第2圧力センサ57が検出した制動油圧Pfを取得し、ステップS3では、第3圧力センサ58が検出した反力油圧Pvを取得する。
【0048】
次に、ステップS4にて、ペダルストロークSpに基づいて目標制動油圧Pstを演算し、ステップS5にて、この目標制動油圧Pstを目標減速度に変換し、更に、目標減速度を目標制動力に変換し、この目標制動力に対して出力可能な目標回生制動力を演算し、ステップS6では、電気モータ202を制御して回生ブレーキを作動させる。そして、ステップS7にて、目標制動力から実行した回生制動力を減算して目標油圧制動力を演算する。ステップS8にて、この目標油圧制動力を目標油圧減速度に変換し、更に、目標油圧減速度を目標出力油圧Prtに変換する。一方、ステップS9にて、ペダルストロークSpに基づいて予め設定されたマップを用いて目標反力油圧Pvtを演算する。そして、ステップS10にて、目標出力油圧Prtに基づいて第1、第2リニア弁30,32の開度を調整すると共に、算出した目標反力油圧Pvtに基づいて第3、第4リニア弁35,37の開度を調整する。このとき、制動油圧Prをフィードバックし、目標出力油圧Prtと制動油圧Prとが一致するように制御すると共に、反力油圧Pvをフィードバックし、目標反力油圧Pvtと反力油圧Pvとが一致するように制御する。
【0049】
具体的に説明すると、図1に示すように、乗員がブレーキペダル14を踏むと、その操作力により入力ピストン12が前進(図2にて左方へ移動)する。このとき、入力ピストン12は前進するが、加圧ピストン13との間には所定のストロークS0が設けられているため、加圧ピストン13を直接押圧することはなく、第1圧力室R1の作動油が連通路21を通して第2圧力室R2に流れることとなり、入力ピストン12がフリー状態となって、第1圧力室R1は入力ピストン12を介してブレーキペダル14に反力を作用させることはない。
【0050】
このように乗員がブレーキペダル14を踏むと、入力ピストン12が前進するため、ストロークセンサ52はペダルストロークSpを検出し、ブレーキECU217は、このペダルストロークSpに基づいて目標制動油圧Pstを設定すると共に、目標反力油圧Pvtを設定する。そして、この目標制動油圧Pstから変換された目標制動力に対して目標回生制動力が設定され、電気モータ202を制御して回生ブレーキが作動することで、所定の回生制動力が発生する。そして、目標制動力から実行した回生制動力を減算して目標油圧制動力を設定し、この目標油圧制動力を変換して目標出力油圧Prtを設定する。
【0051】
そして、ブレーキECU217は、この目標出力油圧Prtに基づいて第1、第2リニア弁30,32の開度を調整し、第1圧力室R1に所定の制御油圧を作用させる。すると、この制御油圧によって第1圧力室R1から第1吐出油圧配管42に所定の制動油圧Prが作用すると共に、第3圧力室R3から第2吐出油圧配管44に所定の制動油圧Pfが作用することとなる。そして、この制動油圧Pr,PfがABS40を介してホイールシリンダ39FR,39FL,39RR,39RLに作用し、前輪FR,FL及び後輪RR,RLに対して油圧制動力が発生する。
【0052】
なお、ブレーキペダル14の操作力により入力ピストン12が前進し、第1圧力室R1に所定の制御油圧が作用したとき、加圧ピストン13が移動して第1、第2排出ポート45,46を遮断するために第3圧力室R3が加圧されることとなり、第1圧力室R1に作用する制御油圧に応じて第1圧力室R1と第3圧力室R3との油圧がバランスすることで、吐出される制動油圧Pr,Pfはほぼ同等のものとなる。
【0053】
このように乗員のブレーキペダル14の操作力に応じて、回生制動力及び油圧制動力が車両に作用することで、乗員は所望の制動力を得ることができる。この場合、乗員がブレーキペダル14を踏んで入力ピストン12が前進すると、第1圧力室R1の作動油が連通路21を通して第2圧力室R2に流れるため、第1圧力室R1は加圧されずに制動油圧Pr,Pfは発生しない。そして、入力ピストン12が所定のストロークS0だけ前進し、入力ピストン12が加圧ピストン13に接触し、これを押圧し始める少なくとも第3圧力室R3が加圧され、制動油圧Pfが上昇して油圧制動力が発生する。即ち、乗員がブレーキペダル14を踏んでから入力ピストン12が加圧ピストン13に接触する間は、その操作力が吸収されることとなり、この入力ピストン12が所定のストロークS0だけ移動する期間は、第2圧力室R2に制御油圧を供給しなければ制動油圧Pr,Pfは発生せず、乗員のブレーキペダル14の操作力に応じた回生制動力だけを発生させることかできる。
【0054】
そのため、入力ピストン12と加圧ピストン13との間隔(ストローク)S0は、電気モータ202が発生可能な回生制動力に応じたペダルストロークSpよりも大きくなるように設定されている。従って、入力ピストン12が加圧ピストン13に接触するまでの期間(ストロークS0)は、油圧制動力を作用させずに回生制動力のみで車両を制動させる頻度が向上することとなり、回生効率を向上させることができる。
【0055】
なお、入力ピストン12が加圧ピストン13に接触するまでの期間(ストロークS0)であっても、目標制動力に対して回生制動力が不足する場合には、油圧制動力を発生させることができるものであり、逆に、入力ピストン12が加圧ピストン13に接触した後であっても、回生制動力を発生させることができ、回生ブレーキによる回生効率を向上させることができる。
【0056】
また、ブレーキECU217は、目標反力油圧Pvtに基づいて第3、第4リニア弁35,37の開度を調整し、反力室R4に所定の反力油圧を作用させる。すると、この反力油圧とスプリング力の加算値が反力Pbとして反力室R4に作用し、この反力Pbが入力ピストン12を介してブレーキペダル14に伝達されることとなり、乗員に対してブレーキペダル14の操作力に応じた反力を付与することができる。
【0057】
そして、ブレーキペダル14に対して反力を付与する油圧系統に異常が発生したときには、乗員がブレーキペダル14を踏むと、入力ピストン12が所定のストロークS0だけ前進した後に、先端部が加圧ピストン13を直接押圧することとなり、所定の制動油圧Pr,PfをABS40を介してホイールシリンダ39FR,39FL,39RR,39RLに作用させることができる。この場合、反力室R4内の作動油は、第2油圧供給配管33から反力制限機構として機能する第4リニア弁37を通ってリザーバタンク25に排出されることとなり、ブレーキペダル14が作動不能となったり、操作力が必要以上に重くなったりすることはない。
【0058】
このように実施例1の車両用制動装置にあっては、ブレーキペダル14により入力ピストン12及び加圧ピストン13が移動可能であると共に制動油圧を出力可能なマスタシリンダ(油圧調整部216)を設け、ブレーキペダル14のペダルストロークSpに基づいて目標制動油圧Pstを設定し、車速に基づいて回生制動力を設定すると共に、目標制動油圧Pstから回生制動力を減算して目標出力油圧Prtを設定し、入力ピストン12が加圧ピストン13に接触するまでの期間(ストロークS0)に、回生制動力を発生させるときは、第1圧力室R1に制御油圧を作用させずに制動操作量を吸収する一方、油圧制動力を発生させるときは、第1圧力室R1に制御油圧を作用して制動操作量を加圧ピストン13に伝達するようにしている。
【0059】
従って、乗員がブレーキペダル14を操作し、入力ピストン12が加圧ピストン13に接触するまでの期間S0にて、油圧制動力を作用させずに回生制動力のみで車両を制動させることが可能となり、車両の走行状態に拘らず適正時期に回生制動を効率良く実施することでエネルギ効率を向上することができると共に、制動操作の操作フィーリングを向上することができる。
【0060】
また、実施例1の車両用制動装置では、シリンダ11内に入力ピストン12と加圧ピストン13を同軸上に軸方向に沿って移動自在に支持し、入力ピストン12にブレーキペダル14を連結し、入力ピストン12の前後の圧力室R1,R2を連通路21により連通し、連通路21の第1供給ポート29に制御油圧を供給可能とすると共に、入力ピストン12の反力室R4の第2供給ポート34に反力油圧を供給可能とする一方、各圧力室R1,R3の吐出ポート41,43から制動油圧を出力可能としている。
【0061】
従って、ブレーキECU217は、ペダルストロークSpに応じた回生制動力と油圧制動力を設定し、目標出力油圧Prtに基づいて第1圧力室R1に制御油圧を作用させることで、第1圧力室R1から第1吐出油圧配管42に所定の制動油圧Prを出力すると共に、第3圧力室R3から第2吐出油圧配管44に所定の制動油圧Pfを出力し、この制動油圧Pr,PfをABS40を介して各ホイールシリンダ39FR,39FL,39RR,39RLに作用させ、前輪FR,FL及び後輪RR,RLに対して乗員のブレーキペダル14の操作力に応じた適正な制動力を発生させることができる。
【0062】
また、このブレーキペダル14の操作により入力ピストン12が前進したとき、第1圧力室R1の作動油が連通路21を通って第2圧力室R2に流動することで、入力ピストン12は制御油圧を受けることはなく、ブレーキECU217は、ペダルストロークSpに応じた目標反力油圧Pvtを設定し、この目標反力油圧Pvtに基づいて反力室R4に所定の反力油圧を作用させることで、この反力油圧とスプリング力の加算値が反力Pbとして入力ピストン12を介してブレーキペダル14に伝達されることとなり、乗員に対してブレーキペダル14の操作力に応じた適正な反力を付与することができる。
【0063】
一方、異常発生時には、乗員によるブレーキペダル14の操作量により入力ピストン12が加圧ピストン13を直接押圧することで、制動油圧を発生させることができ、安全性を向上することができる。
【0064】
このように乗員によるブレーキペダル14の操作量に応じた回生制動力及び油圧制動力を確実に発生させることができると共に、乗員に対してブレーキペダル14の操作力に応じた反力を適正に付与することができ、その結果、油圧経路を簡略化して構造の簡素化を図ることができると共に、製造コストを低減することができる一方、適正な制動力制御及び反力制御を可能とすることができる。
【0065】
また、実施例1の車両用制動装置にあっては、本発明の操作量吸収手段を、圧力室R1,R2を連通する連通路21、入力ピストン12と加圧ピストン13との所定間隔S0により構成しており、簡単な構成でブレーキペダル14に対する反力変動を抑制することができる。この場合、第1圧力室R1の油圧を受ける入力ピストン12の第1受圧面積A2と、第2圧力室R2の油圧を受ける入力ピストン12の第2受圧面積A3が均等に設定されており、ブレーキペダル14から入力ピストン12に入力した操作力を確実に吸収することができる。
【0066】
なお、この実施例1では、ペダルストロークSpに基づいて目標制動油圧Pstを設定し、目標制動油圧Pstを目標減速度に変換し、更に、目標減速度を目標制動力に変換し、目標制動力に対して目標回生制動力を設定し、目標制動力から実行した回生制動力を減算して目標油圧制動力を設定し、目標油圧制動力を目標油圧減速度に変換し、更に、目標油圧減速度を目標出力油圧Prtに変換し、この目標出力油圧Prtに基づいて各リニア弁30,32を制御するようにしたが、この方法に限定されるものではない。例えば、ペダルストロークSpに基づいて目標減速度に変換し、目標減速度を目標制動力に変換し、目標制動力に対して目標回生制動力を設定し、目標制動力から実行した回生制動力を減算して目標油圧制動力を設定し、目標油圧制動力を目標油圧減速度に変換し、この目標油圧減速度に基づいてマップを用いて目標出力油圧Prtを設定し、この目標出力油圧Prtに基づいて各リニア弁30,32を制御するようにしてもよい。即ち、ペダルストロークSpに基づいて設定した目標制動力を目標回生制動力と目標油圧制動力に分配するように構成すればよいものである。
【実施例2】
【0067】
図6は、本発明の実施例2に係る車両用制動装置を表す概略構成図である。なお、本実施例の車両用制動装置における全体構成は、上述した実施例1とほぼ同様であり、図1を用いて説明すると共に、この実施例で説明したものと同様の機能を有する部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0068】
実施例2の車両用制動装置において、図6に示すように、シリンダ11には入力ピストン12と加圧ピストン13が直列をなして移動自在に支持されており、入力ピストン12には、ブレーキペダル14の操作ロッド15が連結され、反力スプリング19によりフランジ部18が支持部材17に当接する位置に付勢支持されている。一方、加圧ピストン13は付勢スプリング20により支持部材16に当接する位置に付勢支持されており、入力ピストン12とは所定のストロークS0をもって離間した状態で保持されている。
【0069】
シリンダ11内には、入力ピストン12と加圧ピストン13との間に第1圧力室R1が形成され、入力ピストン12のフランジ部18と支持部材17との間に第2圧力室R2が形成され、シリンダ11と加圧ピストン13との間に第3圧力室R3が形成され、支持部材16と入力ピストン12のフランジ部18との間に反力室R4が形成されている。そして、第1圧力室R1と第2圧力室R2とは、入力ピストン12内に形成されたオリフィスとしての連通路61により連通されている。
【0070】
本実施例では、第1圧力室R1と第2圧力室R2とを連通する連通路61を入力ピストン12内に形成しており、この連通路61は、入力ピストン12の軸中心に沿って形成された第1孔61aとこの第1孔61aに連通して径方向に沿って形成された第2孔61bとから構成されている。
【0071】
そして、アキュムレータ27からの第1油圧供給配管28が連通路61の第1供給ポート29に連結され、この第1油圧供給配管28に第1リニア弁30が配置されると共に、第1油圧排出配管31に第2リニア弁32が配置されている。また、アキュムレータ27からの第2油圧供給配管33が反力室R4の第2供給ポート34に連結され、この第2油圧供給配管33に第3リニア弁35が配置されると共に、第2油圧排出配管36に第4リニア弁37が配置されている。
【0072】
一方、第2圧力室R2の第1吐出ポート41は第1吐出油圧配管42を介してABS40に連結され、後輪RR,RLのホイールシリンダ39RR,39RLに油圧を供給可能となっている。また、第3圧力室R3の第2吐出ポート43は第2吐出油圧配管44を介してABS40に連結され、前輪FR,FLのホイールシリンダ39FR,39FLに油圧を供給可能となっている。更に、第3圧力室R3の第1、第2排出ポート45,46は排出油圧配管47を介してリザーバタンク25に連結されている。
【0073】
そして、ブレーキペダル14には、ストロークセンサ52と踏力センサ53と踏力スイッチ54とストップランプスイッチ55が設けられ、各検出結果をブレーキECU217に出力している。また、第1、第2吐出油圧配管42,44には、第1、第2圧力センサ56,57が設けられ、検出結果をブレーキECU217に出力している。更に、第2油圧供給配管33には、第3圧力センサ58が設けられ、アキュムレータ27からの配管26には第4圧力センサ59が設けられ、検出結果をブレーキECU217に出力している。
【0074】
従って、ブレーキECU217は、ストロークセンサ52が検出したペダルストロークSpに基づいて目標制動油圧Pstを設定する。メインECU212は、この目標制動油圧Pstを目標減速度に変換し、更に、目標減速度を目標制動力に変換してモータECU211に出力する。モータECU211は、目標回生制動力を設定し、電気モータ202を制御して回生ブレーキを作動させると共に、その実行値、つまり、実行した回生制動力をメインECU212に出力する。メインECU212は、目標制動力から回生制動力を減算して目標油圧制動力を設定し、目標油圧制動力を目標油圧減速度に変換し、更に、目標油圧減速度を目標出力油圧Prtに変換する。ブレーキECU217は、この目標出力油圧Prtに基づいて、第1、第2リニア弁30,32の開度を調整する一方、第1圧力センサ56が検出した制動油圧Prをフィードバックし、目標出力油圧Prtと制動油圧Prとが一致するように制御している。
【0075】
なお、本実施例の車両用制動装置の油圧制御については上述した実施例1と同様であるため、説明は省略する。
【0076】
このように実施例2の車両用制動装置にあっては、ブレーキペダル14のペダルストロークSpに基づいて目標制動油圧Pstを設定し、車速に基づいて回生制動力を設定すると共に、目標制動油圧Pstから回生制動力を減算して目標出力油圧Prtを設定し、入力ピストン12が加圧ピストン13に接触するまでの期間(ストロークS0)に、回生制動力を発生させるときは、第1圧力室R1に制御油圧を作用させずに制動操作量を吸収する一方、油圧制動力を発生させるときは、第1圧力室R1に制御油圧を作用して制動操作量を加圧ピストン13に伝達するようにしている。
【0077】
従って、乗員がブレーキペダル14を操作し、入力ピストン12が加圧ピストン13に接触するまでの期間S0にて、油圧制動力を作用させずに回生制動力のみで車両を制動させることが可能となり、車両の走行状態に拘らず適正時期に回生制動を効率良く実施することでエネルギ効率を向上することができると共に、制動操作の操作フィーリングを向上することができる。
【0078】
また、実施例2の車両用制動装置にあっては、第1圧力室R1と第2圧力室R2とを連通する連通路61を、入力ピストン12の軸中心に沿って形成された第1孔61aと、第1孔61aに連通して径方向に沿って形成された第2孔61bとから構成している。従って、入力ピストン12に対して孔加工により第1孔61aと第2孔61bを形成するだけで連通孔61を形成することができ、製造作業を簡素化することができると共に、製造コストを低減することができる。
【実施例3】
【0079】
図7は、本発明の実施例3に係る車両用制動装置を表す概略構成図である。なお、本実施例の車両用制動装置における全体構成は、上述した実施例1とほぼ同様であり、図1を用いて説明すると共に、この実施例で説明したものと同様の機能を有する部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0080】
実施例3の車両用制動装置において、図7に示すように、シリンダ11には入力ピストン12と加圧ピストン13が直列をなして移動自在に支持されており、入力ピストン12には、ブレーキペダル14の操作ロッド15が連結されている。一方、加圧ピストン13は付勢スプリング20により付勢され、入力ピストン12に当接する位置に保持されている。シリンダ11内には、入力ピストン12と加圧ピストン13との間に第1圧力室R1が形成され、入力ピストン12のフランジ部18と支持部材17との間に第2圧力室R2が形成され、シリンダ11と加圧ピストン13との間に第3圧力室R3が形成され、支持部材16と入力ピストン12のフランジ部18との間に反力室R4が形成されている。そして、第1圧力室R1と第2圧力室R2とは連通路21により連通されている。
【0081】
そして、アキュムレータ27からの第1油圧供給配管28が連通路21の第1供給ポート29に連結され、この第1油圧供給配管28に第1リニア弁30が配置されると共に、第1油圧排出配管31に第2リニア弁32が配置されている。また、アキュムレータ27に比べて低容量のアキュムレータ71からの第2油圧供給配管72が反力室R4の第2供給ポート34に連結されており、この第2油圧供給配管72から第1油圧排出配管31に連結される第2油圧排出配管73にリリーフ弁74が配置され、また、第2油圧排出配管73にはリリーフ弁74を迂回してチェック弁75が配置されている。なお、アキュムレータ71からの第2油圧供給配管72を介して反力室R4に反力油圧を作用させる機構は、この構成に限定されるものではなく、アキュムレータ71、第2油圧供給配管72、第2油圧排出配管73、電磁弁76により構成してもよい。
【0082】
一方、第1圧力室R1の第1吐出ポート41は第1吐出油圧配管42を介してABS40に連結され、第3圧力室R3の第2吐出ポート43は第2吐出油圧配管44を介してABS40に連結されている。更に、第3圧力室R3の第1、第2排出ポート45,46は排出油圧配管47を介してリザーバタンク25に連結されている。この場合、付勢スプリング20により加圧ピストン13が付勢され、入力ピストン12に当接した位置に位置保持された状態で、第1、第2排出ポート45,46は一対のワンウェイシール49を挟んで連通している。
【0083】
従って、ブレーキペダル14の操作力により入力ピストン12が前進し、加圧ピストン13を押圧するとき、第1圧力室R1の作動油は連通路21を通って第2圧力室R2に流れるため、ブレーキペダル14に操作反力が作用しない。また、加圧ピストン13がストロークS0だけ移動して第1、第2排出ポート45,46を遮断するまでは、第3圧力室R3の作動油は排出油圧配管47を通してリザーバタンク25に流れるため、入力ピストン12に入力された操作力を吸収し、制御油圧が発生しない。その後、加圧ピストン13がストロークS0以上移動して第1、第2排出ポート45,46を遮断し、第1圧力室R1に所定の制御油圧が作用すると、第1圧力室R1及び第3圧力室R3が加圧され、両者の油圧がバランスすることで、同等の制動油圧Pr,Pfが吐出される。
【0084】
そして、ブレーキペダル14には、ストロークセンサ52と踏力センサ53と踏力スイッチ54とストップランプスイッチ55が設けられ、各検出結果をブレーキECU217に出力している。また、第1、第2吐出油圧配管42,44には、第1、第2圧力センサ56,57が設けられ、検出結果をブレーキECU217に出力している。更に、アキュムレータ27からの配管26には第4圧力センサ59が設けられ、検出結果をブレーキECU217に出力している。
【0085】
従って、ブレーキECU217は、ストロークセンサ52が検出したペダルストロークSpに基づいて目標制動油圧Pstを設定する。メインECU212は、この目標制動油圧Pstを目標減速度に変換し、更に、目標減速度を目標制動力に変換してモータECU211に出力する。モータECU211は、目標回生制動力を設定し、電気モータ202を制御して回生ブレーキを作動させると共に、その実行値、つまり、実行した回生制動力をメインECU212に出力する。メインECU212は、目標制動力から回生制動力を減算して目標油圧制動力を設定し、目標油圧制動力を目標油圧減速度に変換し、更に、目標油圧減速度を目標出力油圧Prtに変換する。ブレーキECU217は、この目標出力油圧Prtに基づいて、第1、第2リニア弁30,32の開度を調整する一方、第1圧力センサ56が検出した制動油圧Prをフィードバックし、目標出力油圧Prtと制動油圧Prとが一致するように制御している。
【0086】
このように乗員のブレーキペダル14の操作力に応じて、回生制動力及び油圧制動力が車両に作用することで、乗員は所望の制動力を得ることができる。この場合、乗員がブレーキペダル14を踏んで入力ピストン12及び加圧ピストン13が前進すると、第1圧力室R1の作動油が連通路21を通して第2圧力室R2に流れる。また、入力ピストン12及び加圧ピストン13が所定のストロークS0以上前進し、第1排出ポート45と第2排出ポート46とが遮断されるまで、第3圧力室R3の作動油は排出油圧配管47を通してリザーバタンク25に排出される。そのため、入力ピストン12の操作力が吸収されることとなり、第1圧力室R1及び第3圧力室R3は加圧されず、制動油圧Pr,Pfは発生しない。従って、乗員がブレーキペダル14を踏んでから入力ピストン12及び加圧ピストン13が所定のストロークS0前進する間は、その操作力が吸収されることとなり、乗員のブレーキペダル14の操作力に応じた回生制動力だけを発生させることかできる。
【0087】
そのため、このストロークS0は、電気モータ202が発生可能な回生制動力に応じたペダルストロークSpよりも大きくなるように設定されている。従って、入力ピストン12及び加圧ピストン13がストロークS0だけ移動する期間は、油圧制動力を作用させずに回生制動力のみで車両を制動させる頻度が向上することとなり、回生効率を向上させることができる。
【0088】
また、アキュムレータ71の油圧が第2油圧供給配管72を通して常時反力室R4に作用しており、入力ピストン12が移動して反力室R4が加圧されることで、反力室R4の反力Pbが上昇し、この反力Pbが入力ピストン12を介してブレーキペダル14に伝達されることとなり、乗員に対してブレーキペダル14の操作力に応じた反力を付与することができる。
【0089】
そして、ブレーキペダル14に対して反力を付与する油圧系統に異常が発生したときには、乗員がブレーキペダル14を踏むと、入力ピストン12が加圧ピストン13を直接押圧し、所定の制動油圧Pr,PfをABS40を介してホイールシリンダ39FR,39FL,39RR,39RLに作用させることができる。この場合、反力室R4内の作動油は、第2油圧供給配管72からリリーフ弁74または電磁弁76を通ってリザーバタンク25に排出されることとなり、ブレーキペダル14が作動不能となったり、操作力が必要以上に重くなったりすることはない。
【0090】
このように実施例3の車両用制動装置にあっては、シリンダ11内に入力ピストン12と加圧ピストン13を同軸上に軸方向に沿って互いに接触した状態で移動自在に支持し、入力ピストン12にブレーキペダル14を連結し、2つの圧力室R1,R2を連通路21により連通し、連通路21の第1供給ポート29に制御油圧を供給可能とすると共に、入力ピストン12の反力室R4の第2供給ポート34に反力油圧を供給可能とする一方、各圧力室R1,R3の吐出ポート41,43から制動油圧を出力可能に構成し、ブレーキペダル14のペダルストロークSpに基づいて目標制動油圧Pstを設定し、車速に基づいて回生制動力を設定すると共に、目標制動油圧Pstから回生制動力を減算して目標出力油圧Prtを設定し、第3圧力室R3の油圧が排出される入力ピストン12及び加圧ピストン13の移動期間(ストロークS0)には、第1圧力室R1及び第3圧力室R3から制動油圧を出力させずに制動操作量を吸収する一方、回生制動力を発生させるようにしている。
【0091】
従って、乗員がブレーキペダル14を操作し、入力ピストン12及び加圧ピストン13が所定のストロークS0移動する期間は、油圧制動力を作用させずに回生制動力のみで車両を制動させることが可能となり、車両の走行状態に拘らず適正時期に回生制動を効率良く実施することでエネルギ効率を向上することができると共に、制動操作の操作フィーリングを向上することができる。
【実施例4】
【0092】
図8は、本発明の実施例4に係る車両用制動装置を表す概略構成図である。なお、本実施例の車両用制動装置における全体構成は、上述した実施例1とほぼ同様であり、図1を用いて説明すると共に、この実施例で説明したものと同様の機能を有する部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0093】
実施例4の車両用制動装置において、図8に示すように、シリンダ81には、入力ピストン82と加圧ピストン83が同軸上に嵌合した状態で配置され、軸方向に沿って移動自在に支持されており、入力ピストン82には、ブレーキペダル14の操作ロッド15が連結されている。また、入力ピストン82は、外周面がシリンダ81の内周面に圧入または螺合して固定された支持部材84により移動自在に支持され、フランジ部85がシリンダ81に固定されたケース86に当接することでその移動ストロークが規制されると共に、支持部材84とケース86との間に張設された反力スプリング87によりフランジ部85がケース86に当接する位置に付勢支持されている。
【0094】
加圧ピストン83は外周面がシリンダ81の内周面に圧入または螺合して固定された支持部材88により移動自在に支持され、フランジ部89がシリンダ81の内周面に移動自在に支持されている。また、加圧ピストン83は凹部90を有しており、入力ピストン82の先端部が嵌合している。そして、加圧ピストン83は、先端部がシリンダ81に当接すると共に、フランジ部89が支持部材84に当接することでその移動ストロークが規制され、シリンダ81との間に張設された付勢スプリング91により加圧ピストン83が支持部材84に当接する位置に付勢支持されている。従って、入力ピストン82の先端部と加圧ピストン83の凹部90の底面とは、所定間隔(ストローク)S0をもって離間した状態で保持されており、乗員がブレーキペダル14を操作し、入力ピストン82が所定ストロークS0だけ前進すると、加圧ピストン83に当接して押圧することができる。
【0095】
シリンダ81内には、入力ピストン82と加圧ピストン83との間に第1圧力室R11が形成され、加圧ピストン83のフランジ部89と支持部材84との間に第2圧力室R12が形成され、シリンダ81と加圧ピストン83との間に第3圧力室R13が形成され、支持部材88と加圧ピストン83のフランジ部89との間に第4圧力室R14が形成されている。そして、第1圧力室R11と第4圧力室R14とは、貫通孔92により連通されている。
【0096】
そして、アキュムレータ27からの第1油圧供給配管28が第2圧力室R12の供給ポート93に連結され、この第1油圧供給配管28に第1リニア弁30が配置されると共に、第1油圧排出配管31に第2リニア弁32が配置されている。また、第2圧力室R12の第1吐出ポート94は第1吐出油圧配管42を介してABS40に連結され、後輪RR,RLのホイールシリンダ39RR,39RLに油圧を供給可能となっている。また、第3圧力室R13の第2吐出ポート95は第2吐出油圧配管44を介してABS40に連結され、前輪FR,FLのホイールシリンダ39FR,39FLに油圧を供給可能となっている。更に、第3圧力室R13の排出ポート96は排出油圧配管47を介してリザーバタンク25に連結されている。
【0097】
なお、シリンダ81と入力ピストン82と加圧ピストン83等の要部には、Oリング97が装着されており、油圧の漏洩を防止している。
【0098】
そして、ブレーキペダル14には、ストロークセンサ52と踏力センサ53と踏力スイッチ54とストップランプスイッチ55が設けられ、各検出結果をブレーキECU217に出力している。また、第1、第2吐出油圧配管42,44には、第1、第2圧力センサ56,57が設けられ、検出結果をブレーキECU217に出力している。アキュムレータ27からの配管26には第4圧力センサ59が設けられ、検出結果をブレーキECU217に出力している。
【0099】
従って、ブレーキECU217は、ストロークセンサ52が検出したペダルストロークSpに基づいて目標制動油圧Pstを設定する。メインECU212は、この目標制動油圧Pstを目標減速度に変換し、更に、目標減速度を目標制動力に変換してモータECU211に出力する。モータECU211は、目標回生制動力を設定し、電気モータ202を制御して回生ブレーキを作動させると共に、その実行値、つまり、実行した回生制動力をメインECU212に出力する。メインECU212は、目標制動力から回生制動力を減算して目標油圧制動力を設定し、目標油圧制動力を目標油圧減速度に変換し、更に、目標油圧減速度を目標出力油圧Prtに変換する。ブレーキECU217は、この目標出力油圧Prtに基づいて、第1、第2リニア弁30,32の開度を調整する一方、第1圧力センサ56が検出した制動油圧Prをフィードバックし、目標出力油圧Prtと制動油圧Prとが一致するように制御している。
【0100】
また、本実施例では、ブレーキペダル14から入力ピストン82に入力された操作力を吸収し、押圧力を加圧ピストン83に伝達不能とすると共に、ブレーキペダル14に操作反力として作用させないようにしている。この場合、この操作量吸収手段を、第1圧力室R11と貫通孔92と排出ポート96により構成し、シリンダ81内の油路面積A11に対して、第1圧力室R11の油圧を受ける入力ピストン82の先端部の第1受圧面積A12と、第2圧力室R12の油圧を受ける加圧ピストン83のフランジ部89の第2受圧面積A13とを均等に設定している。そして、異常発生時には、ブレーキペダル14からの操作力により入力ピストン82が加圧ピストン83を直接押圧することで、制動油圧を発生させるようにしている。
【0101】
具体的には、乗員がブレーキペダル14を踏むと、その操作力により入力ピストン82が前進する。このとき、入力ピストン82は前進するが、加圧ピストン83との間には所定のストロークS0が設けられているため、加圧ピストン83を直接押圧することはなく、第1圧力室R11の作動油が貫通孔92から第4圧力室R14に流れ、更に排出ポート96を通して排出油圧配管47によりリザーバタンク25に排出されることとなり、入力ピストン82がフリー状態となって、第1圧力室R11は入力ピストン82を介してブレーキペダル14に反力を作用させることはない。
【0102】
なお、ブレーキペダル14の操作力により入力ピストン82が前進し、第2圧力室R12に所定の制御油圧が作用したとき、加圧ピストン83が移動して排出ポート96を遮断するために第3圧力室R13が加圧されることとなり、第2圧力室R12に作用する制御油圧に応じて第3圧力室R13の油圧がバランスすることで、吐出される制動油圧Pr,Pfはほぼ同等のものとなる。
【0103】
このように乗員のブレーキペダル14の操作力に応じて、回生制動力及び油圧制動力が車両に作用することで、乗員は所望の制動力を得ることができる。この場合、乗員がブレーキペダル14を踏んで入力ピストン82が前進すると、第1圧力室R11の作動油がリザーバタンク25に排出されるため、第2圧力室R12及び第3圧力室R13は加圧されずに制動油圧Pr,Pfは発生しない。そして、入力ピストン82が所定のストロークS0だけ前進し、入力ピストン82が加圧ピストン83に接触し、これを押圧し始めると少なくとも第3圧力室R13が加圧され、制動油圧Pfが上昇して油圧制動力が発生する。即ち、乗員がブレーキペダル14を踏んでから入力ピストン82が加圧ピストン83に接触する間は、その操作力が吸収されることとなり、この入力ピストン82が所定のストロークS0だけ移動する期間は、第2圧力室R12に制御油圧を供給しなければ制動油圧Pr,Pfは発生せず、乗員のブレーキペダル14の操作力に応じた回生制動力だけを発生させることができる。
【0104】
そのため、入力ピストン82と加圧ピストン83との間隔(ストローク)S0は、電気モータ202が発生可能な回生制動力に応じたペダルストロークSpよりも大きくなるように設定されている。従って、入力ピストン82が加圧ピストン83に接触するまでの期間(ストロークS0)は、油圧制動力を作用させずに回生制動力のみで車両を制動させる頻度が向上することとなり、回生効率を向上させることができる。
【0105】
そして、ブレーキペダル14に対して反力を付与する油圧系統に異常が発生したときには、乗員がブレーキペダル14を踏むと、入力ピストン82が所定のストロークS0だけ前進した後に、先端部が加圧ピストン83を直接押圧することとなり、所定の制動油圧Pr,PfをABS40を介してホイールシリンダ39FR,39FL,39RR,39RLに作用させることができる。
【0106】
このように実施例4の車両用制動装置にあっては、シリンダ81内に入力ピストン82と加圧ピストン83を嵌合した状態で軸方向に沿って移動自在に支持し、入力ピストン82にブレーキペダル14を連結し、第2圧力室R12の第1供給ポート93に制御油圧を供給可能とすると共に、第3圧力室R13の作動油を貫通孔92及び第4圧力室R4を介して排出ポート96から排出可能とする一方、各圧力室R12,R13の吐出ポート94,95から制動油圧を出力可能構成し、ブレーキペダル14のペダルストロークSpに基づいて目標制動油圧Pstを設定し、車速に基づいて回生制動力を設定すると共に、目標制動油圧Pstから回生制動力を減算して目標出力油圧Prtを設定し、入力ピストン82が加圧ピストン83に接触するまでの期間(ストロークS0)に、回生制動力を発生させるときは、第2圧力室R12に制御油圧を作用させずに制動操作量を吸収する一方、油圧制動力を発生させるときは、第2圧力室R12に制御油圧を作用して制動操作量を加圧ピストン83に伝達するようにしている。
【0107】
従って、乗員がブレーキペダル14を操作し、入力ピストン82が加圧ピストン83に接触するまでの期間S0にて、油圧制動力を作用させずに回生制動力のみで車両を制動させることが可能となり、車両の走行状態に拘らず適正時期に回生制動を効率良く実施することでエネルギ効率を向上することができると共に、制動操作の操作フィーリングを向上することができる。
【0108】
また、このブレーキペダル14の操作により入力ピストン82が前進したとき、第1圧力室R11の作動油が貫通孔92及び第4圧力室R14を通して排出ポート96から排出されることで、入力ピストン82は制御油圧を受けることはなく、反力スプリング87によるスプリング力を反力として入力ピストン82を介してブレーキペダル14に伝達することとなり、乗員に対してブレーキペダル14の操作力に応じた適正な反力を付与することができる。
【0109】
一方、異常発生時には、乗員によるブレーキペダル14の操作量により入力ピストン82が加圧ピストン83を直接押圧することで、制動油圧を発生させることができ、安全性を向上することができる。
【0110】
また、実施例4の車両用制動装置にあっては、シリンダ81内に入力ピストン82と加圧ピストン83を嵌合した状態で軸方向に沿って移動自在に支持し、第1圧力室R1の作動油を貫通孔92及び第4圧力室R4を介して排出ポート96から排出することで、ブレーキペダル14の操作力を吸収するようにしている。従って、入力ピストン82と加圧ピストン83が常時嵌合することで、シリンダ81の全長を短縮して装置の小型化を図ることができると共に、入力ピストン82と加圧ピストン83が常時接触することで、衝突音などの発生を防止することができる。
【実施例5】
【0111】
図9は、本発明の実施例5に係る車両用制動装置を表す概略構成図である。なお、本実施例の車両用制動装置における全体構成は、上述した実施例1とほぼ同様であり、図1を用いて説明すると共に、この実施例で説明したものと同様の機能を有する部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0112】
実施例5の車両用制動装置において、図9に示すように、シリンダ101には、入力ピストン102と加圧ピストン103が同軸上に嵌合した状態で配置され、軸方向に沿って移動自在に支持されており、入力ピストン102には、ブレーキペダル14の操作ロッド15が連結されている。また、入力ピストン102は、外周面がシリンダ101の内周面により移動自在に支持され、シリンダ101に固定された支持部材104に当接することでその移動ストロークが規制されると共に、支持部材104とケース86との間に張設された反力スプリング87により支持部材104に当接する位置に付勢支持されている。
【0113】
加圧ピストン103はフランジ部105がシリンダ101の内周面により移動自在に支持されている。また、入力ピストン102は凹部106を有しており、加圧ピストン103の基端部が嵌合している。そして、加圧ピストン103は、先端部がシリンダ101に当接すると共に、フランジ部109がシリンダ101に固定された支持部材107に当接することでその移動ストロークが規制され、シリンダ101との間に張設された付勢スプリング108により加圧ピストン103のフランジ部105が支持部材107に当接する位置に付勢支持されている。従って、入力ピストン102の凹部106の底面と加圧ピストン103の基端部とは、所定間隔(ストローク)S0をもって離間した状態で保持されており、乗員がブレーキペダル14を操作し、入力ピストン102が所定ストロークS0だけ前進すると、加圧ピストン103に当接して押圧することができる。
【0114】
シリンダ101内には、入力ピストン102と加圧ピストン103との間に第1圧力室R21が形成され、入力ピストン102と支持部材107との間に第2圧力室R22が形成され、シリンダ101と加圧ピストン103との間に第3圧力室R23が形成されている。
【0115】
そして、アキュムレータ27からの第1油圧供給配管28が第1圧力室R21への第1、第2供給ポート109,110に連結され、この第1油圧供給配管28に第1リニア弁30が配置されると共に、第1油圧排出配管31に第2リニア弁32が配置されている。また、第1圧力室R21の第1、第2吐出ポート111,112は第1吐出油圧配管42を介してABS40に連結され、後輪RR,RLのホイールシリンダ39RR,39RLに油圧を供給可能となっている。また、第3圧力室R23の第3吐出ポート113は第2吐出油圧配管44を介してABS40に連結され、前輪FR,FLのホイールシリンダ39FR,39FLに油圧を供給可能となっている。更に、加圧ピストン103には、第2圧力室R22と第3圧力室R23を連通するアイドルポート117が形成されると共に、第2圧力室R22の排出ポート114は排出油圧配管47を介してリザーバタンク25に連結されている。
【0116】
なお、シリンダ101と入力ピストン102と加圧ピストン103等の要部には、Oリング115及びワンウェイシール116が装着されており、油圧の漏洩を防止している。
【0117】
そして、ブレーキペダル14には、ストロークセンサ52と踏力センサ53と踏力スイッチ54とストップランプスイッチ55が設けられ、各検出結果をブレーキECU217に出力している。また、第1、第2吐出油圧配管42,44には、第1、第2圧力センサ56,57が設けられ、検出結果をブレーキECU217に出力している。更に、アキュムレータ27からの配管26には第4圧力センサ59が設けられ、検出結果をブレーキECU217に出力している。
【0118】
従って、ブレーキECU217は、ストロークセンサ52が検出したペダルストロークSpに基づいて目標制動油圧Pstを設定する。メインECU212は、この目標制動油圧Pstを目標減速度に変換し、更に、目標減速度を目標制動力に変換してモータECU211に出力する。モータECU211は、目標回生制動力を設定し、電気モータ202を制御して回生ブレーキを作動させると共に、その実行値、つまり、実行した回生制動力をメインECU212に出力する。メインECU212は、目標制動力から回生制動力を減算して目標油圧制動力を設定し、目標油圧制動力を目標油圧減速度に変換し、更に、目標油圧減速度を目標出力油圧Prtに変換する。ブレーキECU217は、この目標出力油圧Prtに基づいて、第1、第2リニア弁30,32の開度を調整する一方、第1圧力センサ56が検出した制動油圧Prをフィードバックし、目標出力油圧Prtと制動油圧Prとが一致するように制御している。
【0119】
また、本実施例では、ブレーキペダル14から入力ピストン102に入力された操作力を吸収し、押圧力を加圧ピストン103に伝達不能とすると共に、ブレーキペダル14に操作反力として作用させないようにしている。この場合、この操作量吸収手段を、第2圧力室R22と排出ポート114により構成し、シリンダ101内の油路面積A21に対して、第2圧力室R22の油圧を受ける入力ピストン102の先端部の第1受圧面積A22と、第1圧力室R21の油圧を受ける加圧ピストン103の基端部の第2受圧面積A23とを均等に設定している。そして、異常発生時には、ブレーキペダル14からの操作力により入力ピストン102が加圧ピストン103を直接押圧することで、制動油圧を発生させるようにしている。
【0120】
具体的には、乗員がブレーキペダル14を踏むと、その操作力により入力ピストン102が前進する。このとき、入力ピストン102は前進するが、加圧ピストン103との間には所定のストロークS0が設けられているため、加圧ピストン103を直接押圧することはなく、第2圧力室R22の作動油が排出ポート114を通して排出油圧配管47によりリザーバタンク25に排出されると共に、第1圧力室R21の作動油が各供給ポート109,110を通して第1油圧供給配管28、第1油圧排出配管31によりリザーバタンク25に排出されることとなり、入力ピストン102がフリー状態となって、第1圧力室R21は入力ピストン102を介してブレーキペダル14に反力を作用させることはない。また、入力ピストン102により加圧ピストン103が押圧されるまでは、アイドルポート117により第2圧力室R22と第3圧力室R23が連通しているため、第3圧力室R23の作動油がアイドルポート117、排出油圧配管47によりリザーバタンク25に排出されることとなり、制動油圧を発生させることはない。
【0121】
このように乗員のブレーキペダル14の操作力に応じて、回生制動力及び油圧制動力が車両に作用することで、乗員は所望の制動力を得ることができる。この場合、乗員がブレーキペダル14を踏んで入力ピストン102が前進すると、第1圧力室R21及び第2圧力室R22の作動油がリザーバタンク25に排出されるため、第1圧力室R21及び第3圧力室R23は加圧されずに制動油圧Pr,Pfは発生しない。そして、入力ピストン102が所定のストロークS0だけ前進し、入力ピストン102が加圧ピストン103に接触し、これを押圧し始めると少なくとも第3圧力室R23が加圧され、制動油圧Pfが上昇して油圧制動力が発生する。即ち、乗員がブレーキペダル14を踏んでから入力ピストン102が加圧ピストン103に接触する間は、その操作力が吸収されることとなり、この入力ピストン102が所定のストロークS0だけ移動する期間は、第1圧力室R21に制御油圧を供給しなければ制動油圧Pr,Pfは発生せず、乗員のブレーキペダル14の操作力に応じた回生制動力だけを発生させることができる。
【0122】
そのため、入力ピストン102と加圧ピストン103との間隔(ストローク)S0は、電気モータ202が発生可能な回生制動力に応じたペダルストロークSpよりも大きくなるように設定されている。従って、入力ピストン102が加圧ピストン103に接触するまでの期間(ストロークS0)は、油圧制動力を作用させずに回生制動力のみで車両を制動させる頻度が向上することとなり、回生効率を向上させることができる。
【0123】
そして、ブレーキペダル14に対して反力を付与する油圧系統に異常が発生したときには、乗員がブレーキペダル14を踏むと、入力ピストン102が所定のストロークS0だけ前進した後に、先端部が加圧ピストン103を直接押圧することとなり、所定の制動油圧Pr,PfをABS40を介してホイールシリンダ39FR,39FL,39RR,39RLに作用させることができる。
【0124】
このように実施例5の車両用制動装置にあっては、シリンダ101内に入力ピストン102と加圧ピストン103を嵌合した状態で軸方向に沿って移動自在に支持し、入力ピストン102にブレーキペダル14を連結し、第1圧力室R21の供給ポート109,110に制御油圧を供給可能とすると共に、第2圧力室R22の作動油を排出ポート114から排出可能とする一方、各圧力室R21,R23の吐出ポート111,112,113から制動油圧を出力可能に構成し、ブレーキペダル14のペダルストロークSpに基づいて目標制動油圧Pstを設定し、車速に基づいて回生制動力を設定すると共に、目標制動油圧Pstから回生制動力を減算して目標出力油圧Prtを設定し、入力ピストン102が加圧ピストン103に接触するまでの期間(ストロークS0)に、回生制動力を発生させるときは、第1圧力室R21に制御油圧を作用させずに制動操作量を吸収する一方、油圧制動力を発生させるときは、第1圧力室R21に制御油圧を作用して制動操作量を加圧ピストン103に伝達するようにしている。
【0125】
従って、乗員がブレーキペダル14を操作し、入力ピストン102が加圧ピストン103に接触するまでの期間S0にて、油圧制動力を作用させずに回生制動力のみで車両を制動させることが可能となり、車両の走行状態に拘らず適正時期に回生制動を効率良く実施することでエネルギ効率を向上することができると共に、制動操作の操作フィーリングを向上することができる。
【0126】
また、このブレーキペダル14の操作により入力ピストン102が前進したとき、第2圧力室R22の作動油が排出ポート114から排出されることで、入力ピストン102は制御油圧を受けることはなく、反力スプリング87によるスプリング力を反力として入力ピストン102を介してブレーキペダル14に伝達することとなり、乗員に対してブレーキペダル14の操作力に応じた適正な反力を付与することができる。
【実施例6】
【0127】
図10は、本発明の実施例6に係る車両用制動装置を表す概略構成図である。なお、本実施例の車両用制動装置における全体構成は、上述した実施例1とほぼ同様であり、図1を用いて説明すると共に、この実施例で説明したものと同様の機能を有する部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0128】
実施例6の車両用制動装置は、図10に示すように、マスタシリンダ121と負圧式ブースタ(ブレーキブースタ)122とが一体に連結されて構成されている。このマスタシリンダ121において、シリンダ123は、基端部が開口して先端部が閉塞した円筒形状をなし、内部に出力ピストン124が軸方向に沿って移動自在に支持されている。この出力ピストン124は、基端部にプッシュロッド125の先端部が当接する連結部126が形成されている。また、出力ピストン124は、外周面がシリンダ123の内周面に圧入または螺合して固定された前後の支持部材127,128により移動自在に支持されると共に、円盤形状のフランジ部129がシリンダ123の内周面に移動自在に支持されている。そして、出力ピストン124は、フランジ部129が各支持部材127,128に当接することでその移動ストロークが規制されると共に、シリンダ123と出力ピストン124との間に張設された付勢スプリング130により出力ピストン124はフランジ部129が支持部材127に当接した位置に付勢支持されている。
【0129】
また、負圧式ブースタ122は、乗員がブレーキペダル132を踏む力の他に、エンジンの負圧や圧縮空気などの力を加えて制動力を強くし、制動時における踏力を軽減するものである。この負圧式ブースタ122において、ハウジング131がシリンダ123の基端部に固定されると共に、ブレーキペダル132に連結された操作ロッド133が連結されている。即ち、ハウジング131内にはパワーピストン134が移動自在に支持されており、このパワーピストン134には、操作ロッド133の先端部133aが連結されると共に、プッシュロッド125の基端部125aが連結されており、操作ロッド133の先端部133aとプッシュロッド125の基端部125aとの間に空間部135が設けられている。
【0130】
そして、ハウジング131と操作ロッド133のフランジ部133bとの間には、負圧式ブースタ122から操作ロッド133を介してブレーキペダル132に伝達される反力よりも大きな反力をこのブレーキペダル132に付与する反力スプリング136が設けられている。
【0131】
従って、乗員がブレーキペダル132を操作して操作ロッド133を押圧すると、図示しないエアバルブが開いてハウジング131内の一方の部屋に大気が流入し、操作ロッド133によりパワーピストン134を押す力が倍増され、プッシュロッド125は出力ピストン124を押圧することができる。
【0132】
このようにシリンダ123内に出力ピストン124が移動自在に配置されることで、フランジ部129と支持部材122との間に第1圧力室R31が形成され、フランジ部129と支持部材128との間に第2圧力室R32が形成され、シリンダ123と出力ピストン124の間に第3圧力室R33が形成されている。
【0133】
油圧ポンプ137はモータ138が駆動することで油圧を供給可能であり、配管139を介してリザーバタンク140に連結されると共に、配管141を介してアキュムレータ142に連結されている。アキュムレータ142は油圧供給配管143を介して第1圧力室R31の供給ポート144に連結されており、この油圧供給配管143に第1リニア弁145が配置されると共に、油圧供給配管143からリザーバタンク140に連結される油圧排出配管146に第2リニア弁147が配置されている。この第1リニア弁145と第2リニア弁147は、流量調整式の電磁弁であり、第1リニア弁145はノーマルクローズ、第2リニア弁147はノーマルオープンとなっている。
【0134】
また、第2圧力室R32に連通する第1排出ポート148は、第1油圧排出配管149を介してリザーバタンク140に連結されると共に、第3圧力室R33に連通する第2、第3排出ポート150,151は、第2油圧排出配管152を介してリザーバタンク140に連結されている。この場合、シリンダ123の第2排出ポート150と出力ピストン124の第3排出ポート151は、所定の間隔(ストローク)S0だけずれ、且つ、連通するように設けられている。従って、出力ピストン124がストロークS0以上移動し、第2排出ポート150と第3排出ポート151とが遮断されるまで、第3圧力室R33の作動油は各油圧排出配管152,146を通してリザーバタンク140に排出されるため、出力ピストン124に入力された操作力を吸収し、制御油圧が発生しない。その後、出力ピストン124がストロークS0以上移動して第2、第3排出ポート150,151が遮断されると第3圧力室R33が加圧され、制動油圧Pfが吐出される。
【0135】
一方、第1圧力室R31に連通する第1吐出ポート153には第1吐出油圧配管154が連結され、この第1吐出油圧配管154はABS155に連結され、後輪RR,RLのホイールシリンダ156RR,156RLに油圧を供給可能となっている。また、第3圧力室R33に形成された第2吐出ポート157には第2吐出油圧配管158が連結され、この第2吐出油圧配管158はABS155に連結され、前輪FR,FLのホイールシリンダ156FR,156FLに油圧を供給可能となっている。
【0136】
なお、シリンダ123と出力ピストン124との間には、Oリング159及びワンウェイシール160が装着されており、油圧の漏洩を防止している。
【0137】
このように構成された本実施例の車両用制動装置にて、ブレーキECU161が設けられると共に、ブレーキペダル132にストロークセンサ162が設けられ、その検出結果をこのブレーキECU161に出力している。また、第1、第2吐出油圧配管154,158には、第1、第2圧力センサ163,164が設けられ、検出結果をブレーキECU161に出力している。なお、配管141にはアキュムレータ142の油圧を検出する第3圧力センサ165が設けられており、検出結果をブレーキECU161に出力している。
【0138】
従って、ブレーキECU161は、ストロークセンサ162が検出したペダルストロークSpに基づいて目標制動油圧Pstを設定し、この目標制動油圧Pstを目標減速度に変換し、更に、目標減速度を目標制動力に変換する。そして、目標制動力に対して目標回生制動力を設定して回生ブレーキを作動させると共に、その実行値、つまり、実行した回生制動力から減算して目標油圧制動力を設定し、目標油圧制動力を目標油圧減速度に変換し、更に、目標油圧減速度を目標出力油圧Prtに変換する。ブレーキECU161は、この目標出力油圧Prtに基づいて、第1、第2リニア弁145,147の開度を調整することで、目標出力油圧Prtを出力ピストン124に作用させることで制動油圧を発生させ、ABS155によりホイールシリンダ156FR,156FL,156RR,156RLを作動して前輪FR,FL及び後輪RR,RLに制動力を作用させる。また、第1圧力センサ163が検出した制動油圧Prをフィードバックし、目標出力油圧Prtと制動油圧Prとが一致するように制御している。このように乗員のブレーキペダル132の操作力に対して、回生制動力と油圧制動力が車両に作用し、乗員は所望の制動力を得ることができる。
【0139】
また、本実施例では、ブレーキペダル132から負圧式ブースタ122に入力された操作力を吸収し、負圧式ブースタ122からブレーキペダル132に至る反力を伝達不能とすると共に、反力スプリング136によりブレーキペダル132に対して所定の操作反力が作用するようにしている。
【0140】
このように乗員のブレーキペダル132の操作力に応じて、回生制動力及び油圧制動力が車両に作用することで、乗員は所望の制動力を得ることができる。この場合、乗員がブレーキペダル132を踏んで出力ピストン124が所定のストロークS0以上前進し、第2排出ポート150と第3排出ポート151とが遮断されるまで、第3圧力室R33の作動油は油圧排出配管146を通してリザーバタンク140に排出される。そのため、出力ピストン124の操作力が吸収されることとなり、第1圧力室R31及び第3圧力室R33は加圧されず、制動油圧Pr,Pfは発生しない。従って、乗員がブレーキペダル132を踏んでから出力ピストン124が所定のストロークS0前進する間は、その操作力が吸収されることとなり、乗員のブレーキペダル132の操作力に応じた回生制動力だけを発生させることができる。
【0141】
そのため、このストロークS0は、電気モータ202が発生可能な回生制動力に応じたペダルストロークSpよりも大きくなるように設定されている。従って、出力ピストン124がストロークS0だけ移動する期間は、油圧制動力を作用させずに回生制動力のみで車両を制動させる頻度が向上することとなり、回生効率を向上させることができる。
【0142】
このように実施例6の車両用制動装置にあっては、マスタシリンダ121と負圧式ブースタ122とを連結し、ブレーキペダル132の制動操作力を負圧式ブースタ122を介してプッシュロッド125によりマスタシリンダ121の出力ピストン124に伝達可能とすると共に、アキュムレータ142により制御加圧をマスタシリンダ121の出力ピストン124に伝達可能に構成し、ブレーキペダル132のペダルストロークSpに基づいて目標制動油圧Pstを設定し、車速に基づいて回生制動力を設定すると共に、目標制動油圧Pstから回生制動力を減算して目標出力油圧Prtを設定し、第3圧力室R33の油圧が排出される出力ピストン124の移動期間(ストロークS0)には、第1圧力室R31及び第3圧力室R33から制動油圧を出力させずに制動操作量を吸収する一方、回生制動力を発生させるようにしている。
【0143】
従って、乗員がブレーキペダル132を操作し、出力ピストン124が所定のストロークS0移動する期間は、油圧制動力を作用させずに回生制動力のみで車両を制動させることが可能となり、車両の走行状態に拘らず適正時期に回生制動を効率良く実施することでエネルギ効率を向上することができると共に、制動操作の操作フィーリングを向上することができる。
【0144】
この場合、乗員がブレーキペダル132を操作すると、目標出力油圧Prtに基づいて各リニア弁145,147の開度を制御することで、マスタシリンダ121に所定の制御油圧を供給し、ブレーキ操作量の全てを制御油圧としてマスタシリンダ121に伝達し、このマスタシリンダ121が制動油圧Prを出力可能となる。即ち、ブレーキ操作量に応じてマスタシリンダ121へ付与する圧力を油圧ポンプ137だけで確保することで、負圧式ブースタ122の出力を0として負圧の消費を軽減することができる。また、乗員がブレーキペダル132を操作した操作量に関係なく、マスタシリンダ123に供給する制御油圧を制御することが可能となり、バイワイヤ機構を容易に成立させることができる。
【0145】
一方、乗員がブレーキペダル132を操作するとき、このブレーキペダル132に反力スプリング136により負圧式ブースタ122よりも大きな一定の反力が付与されるため、マスタシリンダ121の圧力変動がプッシュロッド125等を介してブレーキペダル132に伝達されることはなく、その結果、乗員の制動操作量に応じた適正な制動力を発生させることができると共に、乗員に対して不快な制動操作反力を伝達不能とし、操作フィーリングを向上することができる。
【実施例7】
【0146】
図11は、本発明の実施例7に係る車両用制動装置を表す概略構成図である。なお、本実施例の車両用制動装置における全体構成は、上述した実施例1及び実施例6とほぼ同様であり、図1を用いて説明すると共に、この実施例で説明したものと同様の機能を有する部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0147】
実施例7の車両用制動装置は、図11に示すように、マスタシリンダ121と負圧式ブースタ122とが一体に連結されて構成されている。このマスタシリンダ121において、シリンダ123内には出力ピストン124が軸方向に沿って移動自在に支持され付勢スプリング130によりフランジ部129が支持部材127に当接した位置に付勢支持されている。負圧式ブースタ122において、ハウジング131内にはパワーピストン134が移動自在に支持され、操作ロッド133の先端部133aが連結されると共に、プッシュロッド125の基端部125aが連結されており、操作ロッド133の先端部133aとプッシュロッド125の基端部125aとの間に空間部135が設けられている。この場合、プッシュロッド125の先端部と出力ピストン124の連結部126との間には所定の間隔(ストローク)S0が設けられている。そして、ハウジング131と操作ロッド133のフランジ部133bとの間には、負圧式ブースタ122から操作ロッド133を介してブレーキペダル132に伝達される反力よりも大きな反力をこのブレーキペダル132に付与する反力スプリング136が設けられている。
【0148】
従って、乗員がブレーキペダル132を操作して操作ロッド133を押圧すると、図示しないエアバルブが開いてハウジング131内の一方の部屋に大気が流入し、操作ロッド133によりパワーピストン134を押す力が倍増され、プッシュロッド125は出力ピストン124を押圧することができる。但し、プッシュロッド125と出力ピストン124との間には所定の間隔(ストローク)S0が設けられており、プッシュロッド125が所定のストロークS0以上前進すると、出力ピストン124を押圧することができる。
【0149】
なお、マスタシリンダ121に対する油圧給排系は、前述の実施例6と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0150】
このように構成された本実施例の車両用制動装置にて、ブレーキECU161は、ストロークセンサ162が検出したペダルストロークSpに基づいて目標制動油圧Pstを設定し、この目標制動油圧Pstを目標減速度に変換し、更に、目標減速度を目標制動力に変換する。そして、目標制動力に対して目標回生制動力を設定して回生ブレーキを作動させると共に、その実行値、つまり、実行した回生制動力から減算して目標油圧制動力を設定し、目標油圧制動力を目標油圧減速度に変換し、更に、目標油圧減速度を目標出力油圧Prtに変換する。ブレーキECU161は、この目標出力油圧Prtに基づいて、第1、第2リニア弁145,147の開度を調整することで、目標出力油圧Prtを出力ピストン124に作用させることで制動油圧を発生させ、ABS155によりホイールシリンダ156FR,156FL,156RR,156RLを作動して前輪FR,FL及び後輪RR,RLに制動力を作用させる。また、第1圧力センサ163が検出した制動油圧Prをフィードバックし、目標出力油圧Prtと制動油圧Prとが一致するように制御している。このように乗員のブレーキペダル132の操作力に対して、回生制動力と油圧制動力が車両に作用し、乗員は所望の制動力を得ることができる。
【0151】
また、本実施例では、ブレーキペダル132から負圧式ブースタ122に入力された操作力を吸収し、負圧式ブースタ122からブレーキペダル132に至る反力を伝達不能とすると共に、反力スプリング136によりブレーキペダル132に対して所定の操作反力が作用するように、負圧式ブースタ122内に操作量吸収手段としてのストローク吸収機構が設けられている。具体的には、ストローク吸収機構として、上述したように、プッシュロッド125の先端部と出力ピストン124の連結部126との間に、所定の間隔(ストローク)S0が設けられている。
【0152】
このように乗員のブレーキペダル132の操作力に応じて、回生制動力及び油圧制動力が車両に作用することで、乗員は所望の制動力を得ることができる。この場合、乗員がブレーキペダル132を踏んで、プッシュロッド125が所定のストロークS0以上前進し、プッシュロッド125が出力ピストン124に当接するまで、操作力が吸収されることとなり、第1圧力室R31及び第3圧力室R33は加圧されず、制動油圧Pr,Pfは発生しない。従って、乗員がブレーキペダル132を踏んでからプッシュロッド125が所定のストロークS0前進する間は、その操作力が吸収されることとなり、乗員のブレーキペダル132の操作力に応じた回生制動力だけを発生させることができる。
【0153】
このように実施例7の車両用制動装置にあっては、ブレーキペダル132のペダルストロークSpに基づいて目標制動油圧Pstを設定し、車速に基づいて回生制動力を設定すると共に、目標制動油圧Pstから回生制動力を減算して目標出力油圧Prtを設定し、プッシュロッド125が出力ピストン124に当接するプッシュロッド125の移動期間(ストロークS0)には、第1圧力室R31及び第3圧力室R33から制動油圧を出力させずに制動操作量を吸収する一方、回生制動力を発生させるようにしている。
【0154】
従って、乗員がブレーキペダル132を操作し、プッシュロッド125が所定ストロークS0移動する期間は、油圧制動力を作用させずに回生制動力のみで車両を制動させることが可能となり、車両の走行状態に拘らず適正時期に回生制動を効率良く実施することでエネルギ効率を向上することができると共に、制動操作の操作フィーリングを向上することができる。
【実施例8】
【0155】
図12は、本発明の実施例8に係る車両用制動装置を表す概略構成図である。なお、本実施例の車両用制動装置における全体構成は、上述した実施例1及び実施例7とほぼ同様であり、図1を用いて説明すると共に、この実施例で説明したものと同様の機能を有する部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0156】
実施例8の車両用制動装置は、図12に示すように、マスタシリンダ121と負圧式ブースタ122とが一体に連結されて構成されている。このマスタシリンダ121において、シリンダ123内には出力ピストン124が軸方向に沿って移動自在に支持され付勢スプリング130によりフランジ部129が支持部材127に当接した位置に付勢支持されている。負圧式ブースタ122において、ハウジング131内にはパワーピストン134が移動自在に支持され、操作ロッド133の先端部133aが連結されると共に、プッシュロッド125の基端部125aが連結されており、操作ロッド133の先端部133aとプッシュロッド125の基端部125aとの間に空間部135が設けられている。この場合、プッシュロッド125の先端部が出力ピストン124の連結部126に当接している。そして、ブレーキペダル132と負圧式ブースタ122との間には、操作量吸収手段としてのストローク吸収機構171が設けられており、ハウジング131とこのストローク吸収機構171との間には、負圧式ブースタ122からブレーキペダル132に伝達される反力よりも大きな反力をこのブレーキペダル132に付与する反力スプリング136が設けられている。
【0157】
従って、乗員がブレーキペダル132を操作して操作ロッド133を押圧すると、図示しないエアバルブが開いてハウジング131内の一方の部屋に大気が流入し、操作ロッド133によりパワーピストン134を押す力が倍増され、プッシュロッド125は出力ピストン124を押圧することができる。但し、プッシュロッド125と出力ピストン124との間には所定の間隔(ストローク)S0が設けられており、プッシュロッド125が所定のストロークS0以上前進すると、出力ピストン124を押圧することができる。
【0158】
なお、マスタシリンダ121に対する油圧給排系は、前述の実施例6、7と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0159】
このように構成された本実施例の車両用制動装置にて、ブレーキECU161は、ストロークセンサ162が検出したペダルストロークSpに基づいて目標制動油圧Pstを設定し、この目標制動油圧Pstを目標減速度に変換し、更に、目標減速度を目標制動力に変換する。そして、目標制動力に対して目標回生制動力を設定して回生ブレーキを作動させると共に、その実行値、つまり、実行した回生制動力から減算して目標油圧制動力を設定し、目標油圧制動力を目標油圧減速度に変換し、更に、目標油圧減速度を目標出力油圧Prtに変換する。ブレーキECU161は、この目標出力油圧Prtに基づいて、第1、第2リニア弁145,147の開度を調整することで、目標出力油圧Prtを出力ピストン124に作用させることで制動油圧を発生させ、ABS155によりホイールシリンダ156FR,156FL,156RR,156RLを作動して前輪FR,FL及び後輪RR,RLに制動力を作用させる。また、第1圧力センサ163が検出した制動油圧Prをフィードバックし、目標出力油圧Prtと制動油圧Prとが一致するように制御している。このように乗員のブレーキペダル132の操作力に対して、回生制動力と油圧制動力が車両に作用し、乗員は所望の制動力を得ることができる。
【0160】
また、本実施例では、ブレーキペダル132から負圧式ブースタ122に入力された操作力を吸収し、負圧式ブースタ122からブレーキペダル132に至る反力を伝達不能とすると共に、反力スプリング136によりブレーキペダル132に対して所定の操作反力が作用するように、上述したように、ブレーキペダル132と負圧式ブースタ122との間に操作量吸収手段としてのストローク吸収機構171が設けられている。このストローク吸収機構において、一端部が負圧式ブースタ122に連結された操作ロッド133には、円筒形状をなすケーシング172が固定されると共に、その他端部がブレーキペダル132の連結ブラケット173に貫通してボルト174が螺合することで、相対移動自在に連結されている。そして、ケーシング172内には、操作ロッド133が貫通して第1、第2ピストン175,176が移動自在に支持されると共に、両者の間に圧縮コイルスプリング177が介装されている。この場合、第1ピストン175と第2ピストン176との間には、所定の間隔(ストローク)S0が設けられている。
【0161】
従って、乗員がブレーキペダル132を踏み込むと、その操作力が連結ブラケット173を介して第1ピストン175に伝達され、この第1ピストン175が操作ロッド133に沿って負圧式ブースタ122側に移動し、圧縮コイルスプリング177の付勢力に抗して所定のストロークS0移動した後に第2ピストン176に当接して押圧し、この第2ピストン176がケーシング172を介して操作ロッド133を移動することで、ブレーキペダル132の操作力を負圧式ブースタ122に伝達することができる。
【0162】
このように乗員のブレーキペダル132の操作力に応じて、回生制動力及び油圧制動力が車両に作用することで、乗員は所望の制動力を得ることができる。この場合、乗員がブレーキペダル132を踏んで、第1ピストン175が所定のストロークS0以上前進し、この第1ピストン175が第2ピストン176に当接するまで、操作力が吸収されることとなり、負圧式ブースタ122及び出力ピストン124を介して第1圧力室R31及び第3圧力室R33は加圧されず、制動油圧Pr,Pfは発生しない。従って、乗員がブレーキペダル132を踏んでから第1ピストン175が所定のストロークS0前進する間は、その操作力が吸収されることとなり、乗員のブレーキペダル132の操作力に応じた回生制動力だけを発生させることができる。
【0163】
このように実施例8の車両用制動装置にあっては、ブレーキペダル132と負圧式ブースタ122との間に、操作量吸収手段としてのストローク吸収機構171を設け、ブレーキペダル132のペダルストロークSpに基づいて目標制動油圧Pstを設定し、車速に基づいて回生制動力を設定すると共に、目標制動油圧Pstから回生制動力を減算して目標出力油圧Prtを設定し、第1ピストン175が第2ピストン176に当接する移動期間(ストロークS0)には、第1圧力室R31及び第3圧力室R33から制動油圧を出力させずに制動操作量を吸収する一方、回生制動力を発生させるようにしている。
【0164】
従って、乗員がブレーキペダル132を操作し、ストローク吸収機構171における第1ピストン175が所定ストロークS0移動する期間は、油圧制動力を作用させずに回生制動力のみで車両を制動させることが可能となり、車両の走行状態に拘らず適正時期に回生制動を効率良く実施することでエネルギ効率を向上することができると共に、制動操作の操作フィーリングを向上することができる。また、ストローク吸収機構171の作動中は、負圧式ブースタ122が作動しないため、負圧の消費を抑制することができ、エネルギ効率を向上することができる。
【産業上の利用可能性】
【0165】
以上のように、本発明に係る車両用制動装置は、車両の走行状態に拘らず適正時期に回生制動を効率良く実施するようにしたものであり、いずれの種類の制動装置に用いても好適である。
【図面の簡単な説明】
【0166】
【図1】本発明の実施例1に係る車両用制動装置が適用されたハイブリッド車両を表す概略構成図である。
【図2】実施例1の油圧式制動装置を表す概略構成図である。
【図3】ペダルストロークに対する目標出力油圧及び目標反力を表すグラフである。
【図4】車速に対する回生制動力を表すグラフである。
【図5】実施例1の車両用制動装置における制動力制御を表すフローチャートである。
【図6】本発明の実施例2に係る車両用制動装置を表す概略構成図である。
【図7】本発明の実施例3に係る車両用制動装置を表す概略構成図である。
【図8】本発明の実施例4に係る車両用制動装置を表す概略構成図である。
【図9】本発明の実施例5に係る車両用制動装置を表す概略構成図である。
【図10】本発明の実施例6に係る車両用制動装置を表す概略構成図である。
【図11】本発明の実施例7に係る車両用制動装置を表す概略構成図である。
【図12】本発明の実施例8に係る車両用制動装置を表す概略構成図である。
【符号の説明】
【0167】
11,81,101,123 シリンダ
12,82,102 入力ピストン(出力ピストン)
13,83,103 加圧ピストン(出力ピストン)
14,132 ブレーキペダル(操作部材)
18,89 フランジ部
19,87,136 反力スプリング
20,91,108 付勢スプリング
21,61 連通路(操作量吸収手段)
22,137 油圧ポンプ
25,140 リザーバタンク
27,142 アキュムレータ
28,143 第1油圧供給配管
30,145 第1リニア弁(油圧供給手段)
31,146 第1油圧排出配管
32,147 第2リニア弁(油圧供給手段)
33,72 第2油圧供給配管
35 第3リニア弁(反力供給手段)
36,73 第2油圧排出配管
37 第4リニア弁(反力供給手段、反力制限手段)
39RR,39RL,39FR,39FL ホイールシリンダ
40 ABS
42,154 第1吐出油圧配管
44,158 第2吐出油圧配管
52,162 ストロークセンサ(操作量検出手段)
53 踏力センサ
54 踏力スイッチ
55 ストップランプスイッチ
56,163 第1圧力センサ
57,164 第2圧力センサ
58 第3圧力センサ
121 マスタシリンダ
122 負圧式ブースタ(ブレーキブースタ)
171 作動ストローク吸収機構(操作量吸収手段)
201 エンジン
202 電気モータ
203 発電機
211 モータECU
212 メインECU(目標制動力分配手段)
215 油圧源(油圧供給手段)
216 油圧調整部(マスタシリンダ)
217、161 ブレーキECU(目標制動力設定手段)
R1,R11,R21,R31 第1圧力室
R2,R12,R22,R32 第2圧力室
R3,R13,R23,R33 第3圧力室
R4 反力室
R14 第4圧力室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員が制動操作する操作部材と、該操作部材の制動操作量を検出する操作量検出手段と、前記操作部材により出力ピストンが移動可能であると共に該出力ピストンが移動して制動油圧を出力可能なマスタシリンダと、前記操作量検出手段が検出した制動操作量に基づいて目標制動力を設定する目標制動力設定手段と、車両の走行状態に応じて該目標制動力設定手段が設定した目標制動力を目標回生制動力と目標油圧制動力に分配する目標制動力分配手段と、前記目標油圧制動力に基づいて設定された制御油圧を前記マスタシリンダに供給する油圧供給手段と、前記目標回生制動力を出力するときは前記操作部材から前記出力ピストンに入力される操作量を吸収する一方、目標油圧制動力を出力するときは前記操作部材から前記出力ピストンに入力される操作量を前記出力ピストンに伝達する操作量吸収手段とを具えたことを特徴とする車両用制動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用制動装置において、前記マスタシリンダの出力ピストンは、シリンダ内に軸方向に沿って移動自在に支持された入力ピストンと、前記シリンダ内に前記入力ピストンと同軸上に所定間隔をもって軸方向に沿って移動自在に支持されると共に前記入力ピストンにより押圧可能な加圧ピストンから構成されることで、前記入力ピストンの移動方向一方側の第1圧力室と他方側の第2圧力室と前記加圧ピストンにより加圧される第3圧力室が形成され、前記油圧供給手段は、前記第1圧力室または前記第2圧力室に制御油圧を供給可能であり、前記操作量吸収手段は、前記第1圧力室と前記第2圧力室とを連通する連通路により構成されたことを特徴とする車両用制動装置。
【請求項3】
請求項1に記載の車両用制動装置において、前記マスタシリンダの出力ピストンは、シリンダ内に軸方向に沿って移動自在に支持された入力ピストンと、前記シリンダ内に前記入力ピストンと同軸上に接触して軸方向に沿って移動自在に支持されると共に前記入力ピストンにより押圧可能な加圧ピストンから構成されることで、前記入力ピストンの移動方向一方側の第1圧力室と他方側の第2圧力室と前記加圧ピストンにより加圧される第3圧力室が形成され、前記油圧供給手段は、制御油圧を前記第1圧力室または前記第2圧力室に供給可能であり、前記操作量吸収手段は、前記第1圧力室と前記第2圧力室とを連通する連通路と、前記第3圧力室の油圧を排出する排出路により構成されたことを特徴とする車両用制動装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載の車両用制動装置において、前記第1圧力室の油圧を受ける前記入力ピストンの第1受圧面積と、前記第2圧力室の油圧を受ける前記入力ピストンの第2受圧面積が均等に設定されたことを特徴とする車両用制動装置。
【請求項5】
請求項1に記載の車両用制動装置において、前記マスタシリンダの出力ピストンは、シリンダ内に軸方向に沿って移動自在に支持された入力ピストンと、前記シリンダ内に前記入力ピストン嵌合状態で同軸上に所定間隔をもって軸方向に沿って移動自在に支持されると共に前記入力ピストンにより押圧可能な加圧ピストンから構成されることで、前記入力ピストンの移動方向一方側の第1圧力室と他方側の第2圧力室とが形成され、前記油圧供給手段は、制御油圧を前記第2圧力室に供給可能であり、前記操作量吸収手段は、前記第1圧力室の油圧を排出する排出路により構成されたことを特徴とする車両用制動装置。
【請求項6】
請求項5に記載の車両用制動装置において、前記第1圧力室の油圧を受ける前記入力ピストンの第1受圧面積と、前記油圧供給手段により制御油圧を受ける前記加圧ピストンの第2受圧面積が均等に設定されたことを特徴とする車両用制動装置。
【請求項7】
請求項2から6のいずれか一つに記載の車両用制動装置において、前記操作部材から前記入力ピストンに入力される操作量に応じた反力を設定する反力設定手段と、該反力設定手段により設定された反力を前記入力ピストンに作用させることで前記操作部材に反力を発生させる反力供給手段を設けたことを特徴とする車両用制動装置。
【請求項8】
請求項1に記載の車両用制動装置において、前記出力ピストンの移動方向一方側に形成されて前記油圧供給手段が制御油圧を供給する第1圧力室と、他方側に形成されて前記出力ピストンにより加圧される第3圧力室が形成され、前記操作量吸収手段は、前記第3圧力室の油圧を排出する排出路により構成されたことを特徴とする車両用制動装置。
【請求項9】
請求項1に記載の車両用制動装置において、前記マスタシリンダにブレーキブースタが装着され、前記操作部材の制動操作力が前記ブレーキブースタを介して前記出力ピストンに伝達可能とし、前記ブレーキブースタ内に、前記操作量吸収手段としてのストローク吸収機構が設けられたことを特徴とする車両用制動装置。
【請求項10】
請求項1に記載の車両用制動装置において、前記マスタシリンダにブレーキブースタが装着され、前記操作部材の制動操作力が前記ブレーキブースタを介して前記出力ピストンに伝達可能とし、前記操作部材と前記ブレーキブースタとの間に、前記操作量吸収手段としてのストローク吸収機構が設けられたことを特徴とする車両用制動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−55588(P2007−55588A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−198356(P2006−198356)
【出願日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】