車両用無段変速機
【課題】適切なロー位置に遊星回転部材を移動させることができる車両用無段変速機を提供する。
【解決手段】遊星回転部材55の位置に応じた信号を出力するセンサー103の出力信号に基づいて、或いは、変速制御モーター101に供給する駆動信号の駆動デューティー比及び駆動時間に基づいて、遊星回転部材55をロー位置に停止させるようにした。
【解決手段】遊星回転部材55の位置に応じた信号を出力するセンサー103の出力信号に基づいて、或いは、変速制御モーター101に供給する駆動信号の駆動デューティー比及び駆動時間に基づいて、遊星回転部材55をロー位置に停止させるようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライブフェースとドリブンフェースとの間に、軸方向に移動して両フェース間の変速比を可変可能、かつ、いずれかのフェースから離間可能な遊星回転部材を備える車両用無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車等に搭載される車両用無段変速機には、エンジン動力が伝達されるドライブフェースとして機能する駆動回転部材と、駆動輪に動力伝達するドリブンフェースとして機能する従動回転部材とを備え、ドライブフェースとドリブンフェースとの間に、軸方向に移動して両フェース間の変速比を可変可能、かつ、ドリブンフェースから離間可能な遊星回転部材として機能する変速回転部材を設けた構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−214958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の車両用無段変速機では、ドライブフェースとドリブンフェースとの回転数の比を求めることによって変速比を特定し、この変速比から遊星回転部材の位置を把握している。
しかし、この位置特定方法は、遊星回転部材が両フェースに接触して動力伝達可能なドライブ領域(DR)に位置し、しかも、両フェースが回転しているときに限って、遊星回転部材の位置を把握できるものである。
【0005】
このため、遊星回転部材がドリブンフェースから離間したニュートラル領域(N)からドライブ領域(D)へ切り替える場合、所望のロー位置に遊星回転部材を移動させることが困難であった。このことは、両フェース間のレシオ幅を有効に使ったロー位置に遊星回転部材を移動させることが困難になり、また、ロー位置への移動の遅れを招き、ドライブフェースが回転した後に遊星回転部材とフェースとが接触してしまう、といった事態を招いてしまう。
また、従来は、遊星回転部材と、大径部品であるドリブンフェースとの寸法管理により動力伝達を遮断するニュートラル制御であるため、これら部品の精度を高める必要があり、部品のコストアップやその品質管理が課題となっていた。
【0006】
本発明は、上述した事情を鑑みてなされたものであり、適切なロー位置に遊星回転部材を移動させることができる車両用無段変速機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するため、本発明は、駆動力が伝達されるドライブフェース(53)と、このドライブフェース(53)と間隔を空けて配置されるドリブンフェース(54)と、両フェース間にて軸方向に移動自在に設けられ、軸方向に移動することにより前記両フェースに接触した状態を保持しながら両フェース間の変速比を可変可能、かつ、いずれかのフェースから離間可能な遊星回転部材(55)と、前記遊星回転部材(55)を軸方向に移動するアクチュエーター(101)とを備える車両用無段変速機において、前記アクチュエーター(101)を制御する制御部(111)を有し、前記制御部(111)は、前記遊星回転部材(55)の位置に応じた信号を出力するセンサー(103)の出力信号に基づいて、或いは、所定の基準位置から前記アクチュエーターに供給する駆動信号及び駆動時間に基づいて、前記遊星回転部材(55)を、ロー位置に停止させることを特徴とする。
この構成によれば、ドライブフェースとドリブンフェースとの間の遊星回転部材の位置に応じた信号を出力するセンサーの出力信号に基づいて、或いは、所定の基準位置からアクチュエーターに供給する駆動信号及び駆動時間に基づいて、遊星回転部材を、ロー位置に停止させるので、適切なロー位置に遊星回転部材を移動させることができる。
【0008】
上記構成において、前記制御部(111)は、前記センサー(103)の出力信号に基づいて、前記遊星回転部材(55)が動力伝達不能なニュートラル領域と動力伝達可能なドライブ領域との境目で生じる前記遊星回転部材(55)の移動速度の変化を検出した場合に、前記アクチュエーター(101)を停止させるようにしてもよい。この構成によれば、レシオ幅を有効に使ったロー位置に移動させることができる。
また、上記構成において、前記制御部(111)は、前記遊星回転部材(55)が停止位置から離れた位置では前記アクチュエーター(101)を一定速度で駆動し、停止位置に近づくと前記アクチュエーター(101)の速度をそれまでより遅くするようにしてもよい。この構成によれば、迅速に移動させつつ停止位置に正確に停止させることができる。
【0009】
また、上記構成において、前記制御部(111)は、前記アクチュエーター(101)をデューティー制御し、前記遊星回転部材(55)が停止位置に近づくと、前記アクチュエーター(101)の速度を遅くするようにデューティー比を可変させようにしてもよい。この構成によれば、迅速に移動させつつ停止位置に正確に停止させると共に、省電力化することができる。
また、上記構成において、前記制御部(111)は、前記アクチュエーター(101)を一定のデューティー比で駆動し、前記センサー(103)の出力信号の変化量の総和を求めると共に、前記センサー(101)によって検出される位置が予め定めた計測点(P0)を通過するまでカウンタ数を一定周期でカウントアップし、前記計測点(P0)を通過した後、前記変化量の総和を前記カウンタ数で除算した値に基づいて、前記遊星回転部材(55)が所定の移動量だけ移動したと判定した場合に、前記アクチュエーター(101)を停止させるようにしてもよい。この構成によれば、遊星回転部材を予め定めた適切なロー位置に停止させることができる。
【0010】
また、上記構成において、前記制御部(111)は、前記センサー(103)の出力信号に基づいて検出される位置が予め定めた演算処理開始位置(PA)を通過した後に、前記センサー(103)の出力信号の変化量の総和を求めると共に、前記カウンタ数を算出する演算処理を行うようにしてもよい。この構成によれば、演算処理開始位置を通過するまで演算処理を行わないので、演算処理を行う時間を短縮でき、制御部の処理負担を軽減できる。
また、上記構成において、前記制御部(111)は、前記ロー位置から前記アクチュエーターに供給する駆動信号及び駆動時間に基づいて、前記遊星回転部材(55)をニュートラル位置に停止させ、前記基準位置は、前記ニュートラル位置であるので、適切なロー位置とニュートラル位置とに停止させることができる。
【0011】
また、上記構成において、前記ドライブフェース(53)と前記ドリブンフェース(54)との回転数の差に基づいて変速比を検出する変速比検出部(102)を有し、前記制御部(111)は、前記ロー位置に停止した後、前記変速比検出部(102)の検出結果に基づいて前記遊星回転部材(55)の位置を制御するので、遊星回転部材を目標の変速比に対応する位置に精度良く制御することができる。
また、前記ドライブフェース(53)は、前記ドリブンフェース(54)よりも小径に構成され、当該車両用無段変速機におけるニュートラル制御は、前記遊星回転部材(55)と前記ドライブフェース(53)とを非接触にすることによって行われるようにしてもよい。この構成によれば、遊星回転部材と大径のドリブンフェースとを非接触にしてニュートラル制御する場合と比べて、大径のドリブンフェースの製作精度を過度に高める必要がなく、部品のコストダウンや品質管理の容易化を図ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、ドライブフェースとドリブンフェースとの間の遊星回転部材の位置に応じた信号を出力するセンサーの出力信号に基づいて、或いは、所定の基準位置からアクチュエーターに供給する駆動信号及び駆動時間に基づいて、遊星回転部材を、ロー位置に停止させるので、適切なロー位置に遊星回転部材を移動させることができる。
また、制御部は、センサーの出力信号に基づいて、遊星回転部材が動力伝達不能なニュートラル領域と動力伝達可能なドライブ領域との境目で生じる遊星回転部材の移動速度の変化を検出した場合に、アクチュエーターを停止させるようにすれば、レシオ幅を有効に使ったロー位置に移動させることができる。
また、制御部は、遊星回転部材が停止位置から離れた位置ではアクチュエーターを一定速度で駆動し、停止位置に近づくとアクチュエーターの速度をそれまでより遅くするようにすれば、迅速に移動させつつ停止位置に正確に停止させることができる。
【0013】
また、制御部は、アクチュエーターをデューティー制御し、遊星回転部材が停止位置に近づくと、アクチュエーターの速度を遅くするようにデューティー比を可変させるようにすれば、迅速に移動させつつ停止位置に正確に停止させると共に、省電力化することができる。
また、制御部は、アクチュエーターを一定のデューティー比で駆動し、センサーの出力信号の変化量の総和を求めると共に、センサーによって検出される位置が予め定めた計測点を通過するまでカウンタ数を一定周期でカウントアップし、計測点を通過した後、変化量の総和をカウンタ数で除算した値に基づいて、遊星回転部材が所定の移動量だけ移動したと判定した場合に、アクチュエーターを停止させるようにすれば、遊星回転部材を予め定めた適切なロー位置に停止させることができる。
また、制御部は、センサーの出力信号に基づいて検出される位置が予め定めた演算処理開始位置を通過した後に、センサーの出力信号の変化量の総和を求めると共に、カウンタ数を算出する演算処理を行うようにすれば、演算処理開始位置を通過するまで演算処理を行わないので、演算処理を行う時間を短縮でき、制御部の処理負担を軽減できる。
【0014】
また、制御部は、ロー位置からアクチュエーターに供給する駆動信号及び駆動時間に基づいて、遊星回転部材をニュートラル位置に停止させ、基準位置は、ニュートラル位置であるので、正確なロー位置とニュートラル位置とに停止させることができる。
また、ドライブフェースとドリブンフェースとの回転数の差に基づいて変速比を検出する変速比検出部を有し、制御部は、ロー位置に停止した後、変速比検出部の検出結果に基づいて遊星回転部材の位置を制御するので、遊星回転部材を目標の変速比に対応する位置に精度良く制御することができる。
また、ドライブフェースは、ドリブンフェースよりも小径に構成され、当該車両用無段変速機におけるニュートラル制御は、遊星回転部材とドライブフェースとを非接触にすることによって行われるようにすれば、遊星回転部材と大径のドリブンフェースとを非接触にしてニュートラル制御する場合と比べて、大径のドリブンフェースの製作精度を過度に高める必要がなく、部品のコストダウンや品質管理の容易化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施形態に係る車両用無段変速機が適用されるエンジンの断面図である。
【図2】無段変速機がロー変速比にある状態を示す図である。
【図3】無段変速機がトップ変速比にある状態を示す図である。
【図4】無段変速機の制御装置の構成を示す図である。
【図5】ニュートラル領域(N)とドライブ領域(D)との間の切替制御のメインフローを示す図である。
【図6】ドライブ移行処理のフローチャートを示す図である。
【図7】センサーの出力レベルVoutと変速制御モーターの駆動デューティー比との関係を示す図である。
【図8】ニュートラル移行処理のフローチャートを示す図である。
【図9】変速制御モーターの駆動デューティー比と変速比との関係を示す図である。
【図10】第2実施形態のドライブ移行処理(N→D切替処理)のフローチャートを示す図である。
【図11】センサーの出力レベルVoutと変速制御モーターの駆動デューティー比との関係を示す図である。
【図12】第3実施形態のドライブ移行処理(N→D切替処理)のフローチャートを示す図である。
【図13】センサーの出力レベルVoutと変速制御モーターの駆動デューティー比との関係を示す図である。
【図14】第4実施形態のドライブ移行処理(N→D切替処理)のフローチャートを示す図である。
【図15】ニュートラル移行処理のフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る車両用無段変速機が適用されるエンジンの断面図である。
このエンジン10は、自動二輪車に搭載されるエンジンであり、このエンジン10のクランクケース11内には、エンジン駆動軸であるクランク軸12が収容されるクランク室13、及び、無段変速機(車両用無段変速機)50が収容される変速機室14が画成されている。無段変速機50は、クランク軸12の回転を変速して最終出力軸27に伝達し、この最終出力軸27にドライブスプロケット28及び駆動チェーン29を介して連結された不図示の駆動輪(後輪)を様々な変速比で駆動させる。
クランク軸12は、クランク室13の左右の側壁23A,23Bにそれぞれ設けられたベアリング15に回転自在に支持され、車幅方向に延びている。クランク軸12の一端には発電機16が設けられ、クランク軸12の他端には発進クラッチ17が設けられている。また、クランク軸12の中央部にはクランクウェブ18が設けられ、クランクウェブ18には、クランクピン19を介してコンロッド20が連結されている。
【0017】
発進クラッチ17は、クランク軸12上でクランク軸12と一体に回転するクラッチインナ17Aと、クランク軸12上で相対回転自在に設けられるクラッチアウタ17Bと、クラッチインナ17Aの回転による遠心力でクラッチインナ17Aとクラッチアウタ17Bとを接続するクラッチシュー17Cとを有する遠心クラッチである。
クラッチアウタ17Bには、クランク軸12上で相対回転自在に支持される出力歯車17Dが一体に設けられ、この出力歯車17Dは、無段変速機50の入力軸である変速機軸51に固定された入力歯車25と噛み合う。
つまり、この発進クラッチ17は、クランク軸12と無段変速機50の変速機軸51との間に設けられ、クラッチインナ17Aと一体に回転するクランク軸12が発進回転数(アイドリング回転数以上の回転数であり、例えば、2500rpm〜3000rpm内の回転数)以上になると、クランク軸12と変速機軸51との間を接続し、発進回転数を下回ると、クランク軸12と変速機軸51との間を切断する。
【0018】
また、クラッチアウタ17Bとクランク軸12との間には、クラッチアウタ17Bを一方向(クランク軸12と同じ回転方向)に回転させるワンウェイクラッチ91が配置される。このワンウェイクラッチ91は、発進クラッチ17が切断状態のときに、自動二輪車の駆動輪からの減速トルクを無段変速機50の入力歯車25及び出力歯車17Dを介してクランク軸12に伝達させ、これによって、いわゆるエンジンブレーキを発生させる。
この場合、出力歯車17Dの回転数がクランク軸12の回転数より低くなる場合、例えば、アイドリング回転数(例えば、1500〜2000rpm)未満となる場合には、ワンウェイクラッチ91が切断状態となり、出力歯車17Dをクランク軸12に対して空回りさせ、クランク軸12の回転数をアイドリング回転数以上に維持することができる。
なお、発進クラッチ17が接続されている場合には、駆動輪からの減速トルクが発進クラッチ17を介してクランク軸12に伝達され、これによってエンジンブレーキが発生する。発進クラッチ17の側方はクラッチカバー21で覆われ、発電機16の側方は発電機カバー22で覆われる。
【0019】
変速機室14はクランク室13の後部に連なるケーシング23内に設けられている。無段変速機50は、ケーシング23の左右の側壁23A,23Bに跨ってクランク軸12と平行に延びる変速機軸(入力軸)51と、変速機軸51に設けられる変速部52とを有している。
変速機軸51は、左右の側壁23A,23Bに設けられたボールベアリング24A,24Bを介して回転自在に支持され、変速機軸51における発進クラッチ17側の端はケーシング23の外側まで延び、この端には、発進クラッチ17の出力歯車17Dに常時噛み合う入力歯車25が固定されている。
【0020】
変速機室14には、変速機軸51と前後に間隔を空けて平行に配置される減速軸26及び最終出力軸27が設けられている。減速軸26は、変速部52の出力側に噛み合う被動歯車26Aと、最終出力軸27に固定された被動歯車27Aに噛み合う駆動歯車26Bとを有している。最終出力軸27の端に形成された出力軸端部27Bは、ケーシング23の車幅方向外側に突出し、この突出端にドライブスプロケット28が固定されている。ドライブスプロケット28と駆動輪(後輪)との間には駆動チェーン29が掛け渡される。
【0021】
図2は、無段変速機50がロー変速比にある状態を示す図である。図3は、無段変速機50がトップ変速比にある状態を示す図である。
図1〜図3に示すように、無段変速機50は、変速機軸51上で変速部52が作動することによって、ロー変速比とトップ変速比との間で無段階に変速比を可変させる。
変速機軸51は、軸芯に中空部42を有し、中空部42には、オイルポンプ(不図示)から潤滑オイルが供給される。変速機軸51は、中空部42を外周面に連通させる油孔43を複数有し、油孔43を通った潤滑オイルは、無段変速機50の各部に供給される。
【0022】
変速部52は、変速機軸51と一体に回転するドライブ側伝達部材(ドライブフェース)53と、変速機軸51に相対回転自在に支承されるドリブン側伝達部材(ドリブンフェース)54と、ドライブ側伝達部材53とドリブン側伝達部材54との間に設けられ動力を伝達する複数の遊星回転部材55と、変速機軸51の軸方向に移動可能な遊星キャリアー56と、遊星キャリアー56に設けられ各遊星回転部材55を軸支する複数の遊星支持軸57とを備えて構成される。
ドライブ側伝達部材53は、単一の軸である変速機軸51に一体に設けられ、ドリブン側伝達部材54は、変速機軸51に軸支されてドライブ側伝達部材53に対して回転自在に設けられる。
【0023】
このドライブ側伝達部材53は、変速機軸51の外周面から径方向に突出する円板状受け部60と、変速機軸51に嵌合されるリング状の駆動回転部材61とを有している。円板状受け部60と駆動回転部材61とは、円板状受け部60と駆動回転部材61との間に設けられる入力側トルクカム(調圧カム)63によって連結され、一体に回転する。駆動回転部材61の外周面には、遊星回転部材55に接触するテーパー状の摩擦接触面61Aが形成されている。
このため、入力歯車25を介して変速機軸51に入力されたエンジン駆動力は、入力側トルクカム63を介して駆動回転部材61に伝達され、この駆動回転部材61と摩擦接触する遊星回転部材55に伝達される。
【0024】
ドリブン側伝達部材54は、ドライブ側伝達部材53側に開放した椀状に形成される従動回転部材64と、減速軸26の被動歯車26Aに噛み合う出力歯車部65とを有している。従動回転部材64は、変速機軸51の外周に設けられるニードルベアリング66を介して変速機軸51に対して相対回転可能に設けられ、従動回転部材64の内周面には、遊星回転部材55に接触するテーパー状の摩擦接触面71Aが形成されている。
より具体的には、従動回転部材64は、ニードルベアリング66に支持される円筒状の基部69と、基部69から径方向に拡径する円板部70と、円板部70からドライブ側伝達部材53側へ行くに従って拡径する円錐台状の筒部71とを有しており、この筒部71の内周面が、遊星回転部材55に接触するテーパー状の摩擦接触面71Aとなっている。
【0025】
出力歯車部65は、変速機軸51の外周に設けられるボールベアリング67を介して変速機軸51に対して相対回転可能に設けられている。従動回転部材64と出力歯車部65とは、従動回転部材64と出力歯車部65との間に設けられる出力側トルクカム(調圧カム)68によって連結され、一体に回転する。
このため、遊星回転部材55に伝達されたエンジン駆動力は、遊星回転部材55と摩擦接触する従動回転部材64に伝達され、出力側トルクカム68を介して出力歯車部65に伝達された後に、減速軸26に伝達される。つまり、ドリブン側伝達部材54の基部69及び出力歯車部65が、無段変速機50下流に配置された減速軸26に動力を出力する、無段変速機50の出力軸として機能する。
【0026】
出力歯車部65は円筒状に形成され、出力歯車部65の内周には、ボールベアリング67が収容されるベアリング収容部72が形成されている。ベアリング収容部72は段状に形成され、ボールベアリング67は、その外周面67A及び側面67Bがベアリング収容部72に当接した状態で配置されている。
出力歯車部65は、従動回転部材64の基部69の外周面に沿うように基部69の外側を延びる押圧片73を有している。押圧片73の先端と円板部70との間には、従動回転部材64をドライブ側伝達部材53側に付勢する弾性部材(本構成では皿ばね)74が介挿され、この弾性部材74の弾性力によって従動回転部材64はドライブ側伝達部材53側に付勢されている。
【0027】
変速機軸51上のボールベアリング24A,67間には、エンジン10の各部にオイルを送出するオイルポンプ(不図示)を駆動するポンプ駆動歯車75が固定されている。また、ポンプ駆動歯車75とボールベアリング67との間には、リング状のシム76が固定されている。シム76は、変速機軸51に嵌め込まれるコッタ(不図示)によって軸方向に固定されている。
【0028】
遊星キャリアー56は、従動回転部材64側に向かって小径になる円錐状の第1キャリア半体77と、円板状に形成され第1キャリア半体77を支持する第2キャリア半体78とを備えて構成されている。遊星キャリアー56は、第1キャリア半体77の先端側の内周面、及び、第2キャリア半体78の内周面にニードルベアリング79をそれぞれ有し、ニードルベアリング79を介して変速機軸51に対し回転可能かつ軸方向に摺動可能となっている。
【0029】
ケーシング23の右の側壁23Bには、側壁23Bを貫通して変速機軸51と略平行に延びるガイド軸30が設けられている。第2キャリア半体78は、ガイド軸30が挿通されるガイド軸挿通部78Bを有し、ガイド軸30によって変速機軸51の軸方向への移動がガイドされると共に、変速機軸51に対する相対回転が規制される。すなわち、遊星キャリアー56は、変速機軸51の軸方向に移動可能であるが、変速機軸51の軸回りには回転しない。また、遊星キャリアー56がガイド軸30に規制されて回転しないため、遊星キャリアー56に支持されている遊星支持軸57も、ケーシング23に対して変速機軸51の軸回りに回り止めされていることになる。
また、第2キャリア半体78の後面には、変速機軸51の軸方向に延びる被動ねじ部78Aが設けられている。
【0030】
第1キャリア半体77の外周面には、その周方向に等間隔を空けて複数の窓孔が形成されている。各遊星支持軸57は、変速機軸51の軸線を中心線とする円錐母線に沿って上記窓孔に重なるように配置され、遊星回転部材55は外周側の一部が上記窓孔から露出するように遊星支持軸57に支持される。すなわち、遊星回転部材55は、従動回転部材64の側に頂点を有し変速機軸51の軸線を中心線とする円錐の円錐母線に沿うように傾斜しており、ドライブ側伝達部材53側に行くほど径方向に広がるように傾斜して配置されている。
【0031】
第1キャリア半体77には、遊星支持軸57の従動回転部材64側の端を支持する止まり穴の先端側支持穴80と、遊星支持軸57のドライブ側伝達部材53側の端を支持する基端側支持孔81とが形成されている。遊星支持軸57は基端側支持孔81側から挿入され、基端側支持孔81及び先端側支持穴80の両方の嵌合部に隙間嵌合により固定される。遊星支持軸57は隙間嵌合によって所定の隙間を有して嵌合されているため、遊星支持軸57に作用する力に応じて基端側支持孔81及び先端側支持穴80内でわずかに移動することができる。ここで、一例として、遊星支持軸57の直径は6mmであり、この場合、基端側支持孔81及び先端側支持穴80の内径は、遊星支持軸57の直径よりも1μm〜16μmだけ大きく設定される。
第1キャリア半体77及び遊星支持軸57は、遊星支持軸57が隙間嵌合することで、遊星支持軸57が移動可能な調整機構を構成している。
【0032】
遊星回転部材55は、その軸方向の中央部が大径で両端部が小径となるテーパー状に形成された筒状部材であり、駆動回転部材61の摩擦接触面61Aに接触する第1テーパー面55Aと、従動回転部材64の摩擦接触面71Aに接触する第2テーパー面55Bと、遊星回転部材55中央部をその軸方向に貫通する支持孔55Cとを有している。遊星支持軸57の中心を通る側方断面視(図2参照)では、第1テーパー面55A及び第2テーパー面55Bにおいて互いに対向する辺は、平行となっている。
支持孔55Cの両端部には、一対のニードルベアリング82,82が設けられ、駆動回転部材61はニードルベアリング82,82を介して遊星支持軸57に相対回転可能かつ軸方向に摺動可能に設けられている。
【0033】
遊星キャリアー56とボールベアリング24Bとの間には、変速機軸51上で回転自在な駆動ねじ部40が設けられている。駆動ねじ部40は、ボールベアリング41を介して回転自在に設けられ、遊星キャリアー56の被動ねじ部78Aに螺合されている。駆動ねじ部40は、図1に示す変速制御モーター(アクチュエーター)101及び減速機構(図1参照)を介して回転駆動され、駆動ねじ部40が回転することで被動ねじ部78Aに軸方向へ移動する力が作用し、遊星キャリアー56が変速機軸51の軸方向に移動される。すなわち、無段変速機50では、遊星回転部材55を支持する遊星キャリアー56を、上記変速制御モーター101の駆動によって変速機軸51の軸方向に移動させることができ、これにより、変速比の変更が行われる。
【0034】
図2及び図3に示すように、駆動回転部材61の摩擦接触面61Aと遊星回転部材55の第1テーパー面55Aとの接触点から変速機軸51の軸線までの距離を距離A、摩擦接触面61Aと第1テーパー面55Aとの接触点から遊星支持軸57の軸線までの距離を距離B、従動回転部材64の摩擦接触面71Aと遊星回転部材55の第2テーパー面55Bとの接触点から遊星支持軸57の軸線までの距離を距離C、従動回転部材64の摩擦接触面71Aと遊星回転部材55の第2テーパー面55Bとの接触点から変速機軸51の軸線まで距離を距離Kとし、駆動回転部材61の回転数をNI、従動回転部材64の回転数をNOとし、変速比RをR=NI/NOとしたときに、R=NI/NO=(B/A)×(K/C)となる。
ここで、遊星回転部材55が変速機軸51の軸方向に移動したとしても距離A,Kは一定であり変化しない。従って、変速比R=B/Cで表すことができる。
【0035】
図2に示すように、遊星回転部材55が従動回転部材64に近接する方向に移動すると、距離Bが大きくなるとともに距離Cが小さくなり、変速比Rが大きくなる。すなわち、距離Bが最大かつ距離Cが最小となる図2の状態がロー変速比の限界位置(ロー限界位置)PLとなる。
また、図3に示すように、遊星キャリアー56が従動回転部材64から離れる方向に移動すると、距離Bが小さくなるとともに距離Cが大きくなり、変速比Rが小さくなる。すなわち、距離Bが最小かつ距離Cが最大となる図3の状態がトップ変速比の位置(トップ位置)PTとなる。
【0036】
このようにして、図2に示すように、遊星回転部材55がロー限界位置PLからトップ位置PTに移動する範囲が、遊星回転部材55がドライブ側伝達部材53とドリブン側伝達部材54との間を動力伝達するドライブ領域(D)となる。
遊星回転部材55がドライブ領域(D)にある場合には、変速機軸51がクランク軸12からの動力で回転すると、変速機軸51と一体に回転するドライブ側伝達部材53が各遊星回転部材55を回転させ、変速比Rに応じて変速された回転が各遊星回転部材55を介してドリブン側伝達部材54に伝達され、出力歯車部65を介して減速軸26,最終出力軸27に順に伝達される。
【0037】
一方、本構成では、図2に示すロー限界位置PLから、遊星回転部材55が更に従動回転部材64に近接する方向に移動した場合には、遊星回転部材55の内周に位置する第1テーパー面55Aと、ドライブ側伝達部材53の外周に位置する摩擦接触面61Aとの摩擦接触が解除される。つまり、遊星回転部材55がドライブ側伝達部材53から離間し、遊星回転部材55とドライブ側伝達部材53との動力伝達が遮断される。
この遊星回転部材55とドライブ側伝達部材53との動力伝達が遮断される範囲が、ドライブ側伝達部材53とドリブン側伝達部材54との間を動力伝達不能にするニュートラル領域(N)(図2参照)となっている。
【0038】
図4は、無段変速機50の制御装置100の構成を示す図である。
制御装置100は、自動二輪車の各部を電子制御する車両制御装置の一部を構成し、変速制御モーター101と、回転数から変速比を検出するための変速比検出部102と、位置から変速比を検出するためのセンサー(変速比検出センサー)103と、制御部111とを備えている。
変速制御モーター101は、制御部111によってデューティー制御(PWM制御)されるDCモーターであり、遊星回転部材55を軸方向に移動するアクチュエーターとして機能する。
変速比検出部102は、ドライブ側伝達部材53とドリブン側伝達部材54との各々の回転数を検出し、これらの回転数の比を求めることによって変速比を検出する。なお、変速比を検出する演算処理は、制御部111が行ってもよい。制御部111は、CPUと、RAMやROM等のメモリーとを具備するコンピューターとして構成され、自動二輪車の各部を制御する。
【0039】
ところで、この変速比検出部102が変速比を検出できるのは、遊星回転部材55がドライブ領域(D)にあり、かつ、ドライブ側伝達部材53とドリブン側伝達部材54との両方が回転している、という条件を満たす場合である。
このため、制御部111は、上記条件を満たす場合には、変速比検出部102によって変速比を検出し、この変速比が、エンジン回転数,車速及び運転者のスロットル操作等に基づいて設定した目標変速比になるように、変速制御モーター101をフィードバック制御する。これにより、遊星回転部材55を目標の変速比に対応する位置に精度良く制御することができる。
【0040】
一方、ニュートラル領域(N)とドライブ領域(D)との間の切替時には、変速比検出部102によって変速比を検出することはできない。
そこで、本実施形態では、上記センサー103として、遊星回転部材55の位置を検出するポテンショメーターを備え、ニュートラル領域(N)からドライブ領域(D)への移行時(N→D切替時)には、このセンサー103の出力信号に基づいてニュートラル領域(N)とドライブ領域(D)との間の境目を検出し、この境目に対応するロー限界位置PLを基準にしてロー位置に停止させるようにしている。
また、上記制御部111は、タイマー機能を有し、ドライブ領域(D)からニュートラル領域(N)への移行時(D→N切替時)には、変速制御モーター101に供給する駆動信号及び駆動時間に基づいて、一定のニュートラル位置に停止させるようにしている。以下、この場合の制御を説明する。
【0041】
図5は、ニュートラル領域(N)とドライブ領域(D)との間の切替制御のメインフローを示している。前提として、この自動二輪車は、無段変速機50の動作モードを、ニュートラル/ドライブに切り替える操作部であるN−Dスイッチを具備しており、制御部111は、このN−Dスイッチの操作に応じてニュートラル領域(N)とドライブ領域(D)とに切替制御するようになっている。このN−Dスイッチは、運転者が手動操作するものでもよいし、制御部111が車速等の車両情報、或いは、運転者のスロットル操作等に基づいて自動切替するものであってもよい。
【0042】
図5に示すように、制御部111は、N−DスイッチがN又はDに切り替わったか否かを判断し(ステップS1)、Dに切り替わった場合はドライブモードへ移行するドライブ移行処理を行い(ステップS2)、Nに切り替わった場合はニュートラルへ移行するニュートラル移行処理を行う(ステップS3)。
図6は、ドライブ移行処理のフローチャートである。ドライブ移行処理は、ニュートラル領域(N)に位置する遊星回転部材55を、ドライブ領域(D)のロー位置に移動させる処理(N→D切替処理)である。また、図7は、このときのセンサー103の出力レベルVoutと変速制御モーター101の駆動デューティー比との関係を示している。
【0043】
まず、制御部111は、変速制御モーター101を一定のデューティー比(本実施形態では30%duty(図7参照))の駆動信号で駆動し、遊星回転部材55をドライブ領域(D)へ向けて移動させる(ステップS11A)。
ここで、デューティー比が小さいときは電圧がHiレベルの時間が短くなるので、変速制御モーター101の回転時間が短く、回転速度が実質的に遅くなり、デューティー比が大きいときは電圧がHiレベルの時間が長くなるので、変速制御モーター101の回転時間が長くなり、回転速度が実質的に速くなる。制御部111は、上記ステップS11Aでは一定のデューティー比とするので、変速制御モーター101を一定の回転速度で駆動し、遊星回転部材55を一定速度で移動させる。
【0044】
遊星回転部材55を移動させている間、制御部111は、センサー103の出力信号の変化量が予め定めた閾値を下回ったか否かを監視する(ステップS12A)。ここで、ポテンショメーターであるセンサー103の出力信号は、遊星回転部材55の位置に比例する信号レベルとなるため、遊星回転部材55が一定速度で移動している場合は、単位時間の信号変化量は一定である。
ところが、遊星回転部材55がドライブ側伝達部材53に非接触の状態から接触の状態へ変化する時点、つまり、ニュートラル領域(N)とドライブ領域(D)との間の境目では、遊星回転部材55の移動速度が減速することとなり、センサー103の信号変化量が小に変化する。
【0045】
上記ステップS12Aで用いる閾値は、上記境目での信号変化量を判別する閾値に設定されており、事前に測定された信号変化量(例えば、30%dutyの場合は変化量0.4V〜0.6V、60%dutyの場合は変化量0.8V〜1.2V)を判定する閾値(30%dutyの場合は0.6V、60%dutyの場合は1.2V)とされる。
このため、制御部111は、ステップS12の処理により、遊星回転部材55がニュートラル領域(N)とドライブ領域(D)との間の境目に位置したタイミングを検出することができる。この場合、制御部111は、変速制御モーター101の駆動を停止する(ステップS13A)。これによって、制御部111は、遊星回転部材55を上記境目に対応するロー限界位置PL近傍のロー位置に停止させることが可能になる。
なお、このロー位置は、ドライブ側伝達部材53とドリブン側伝達部材54との両方が回転している場合に、変速比検出部102が変速比を検出することによって、この変速比からロー位置を特定できる。従って、遊星回転部材55がドライブ領域(D)にあり、かつ、ドライブ側伝達部材53とドリブン側伝達部材54との両方が回転している場合には、変速比検出部102によって同じロー位置に制御することが可能になる。
【0046】
図8は、ニュートラル移行処理のフローチャートである。このニュートラル移行処理は、上記ロー位置にある遊星回転部材55を、ニュートラル領域(N)内のニュートラル基準位置に移動させる処理(D→N切替処理)である。また、図9は、このときの変速制御モーター101の駆動デューティー比と変速比との関係を示している。
図8に示すように、まず、制御部111は、変速制御モーター101の駆動デューティー比を予め定めた大の値(本実施形態では100%duty(図9参照))に設定し、予め定めた第1駆動時間が経過するまで、大の駆動デューティー比で変速制御モーター101をドライブ領域(D)に向けて駆動する(ステップS21A,S22A)。次に、制御部111は、変速制御モーター101の駆動デューティー比を予め定めた中の値(本実施形態では50%duty(図9参照))に設定し、予め定めた第2駆動時間が経過するまで、中の駆動デューティー比で変速制御モーター101を駆動する(ステップS23A,S24A)。
【0047】
次いで、制御部111は、変速制御モーター101の駆動デューティー比を予め定めた小の値(本実施形態では30%duty(図9参照))に設定し、予め定めた第3駆動時間が経過するまで、小の駆動デューティー比で変速制御モーター101を駆動した後(ステップS25A,S26A)、センサー103の出力信号の変化量が予め定めた閾値を下回ったか否かを判定する(ステップS27A)。
ここで、遊星回転部材55が、従動回転部材64の基部69に当接した場合には移動速度が減速するので、センサー103の信号変化量が小に変化する。ステップS27Aでは、この変化を判別する閾値に設定されており、ステップS27Aで閾値を下回っていると、制御部111は、変速制御モーター101の駆動を停止する(ステップS28A)。これにより、遊星回転部材55を従動回転部材64の基部69近傍のニュートラル位置に停止させることができる。
このように、駆動デューティー比を大、中、小へと切り替えることにより、変速制御モーター101を高速駆動、中速駆動、低速駆動へと切り替え、ニュートラル位置に向かって迅速に移動させながらニュートラル位置近傍では遅くし、一定のニュートラル位置に停止させることができる。
【0048】
以上説明したように、本実施の形態によれば、遊星回転部材55の位置に応じた信号を出力するセンサー103の出力信号に基づいてロー位置に停止させるので、変速比検出部102では位置制御できないN→D切替時に、適切なロー位置に停止させることが可能になる。
しかも、センサー103の出力信号に基づいて、遊星回転部材55がニュートラル領域(N)とドライブ領域(D)との境目を移動する場合に生じる遊星回転部材55の移動速度の変化を検出した場合に、ロー位置に停止させるので、毎回、ロー限界位置PL近傍の同じロー位置に遊星回転部材55を停止させることができる。また、仮にドライブ側伝達部材53やドリブン側伝達部材54が摩耗した場合には、その摩耗後のロー限界位置PL近傍のロー位置に遊星回転部材55を停止させることが可能になる。
従って、本実施形態では、レシオ幅を有効に使ったロー位置に移動させることができ、ロー位置の移動の遅れによって駆動回転部材61が回転した後に遊星回転部材55と駆動回転部材61とが接触してしまう、といった事態を回避することが可能になる。
【0049】
また、D→N切替時は、変速比検出部102で検出された変速比から特定された基準位置となるロー位置、或いは、上記N→D切替で停止された基準位置となるロー位置を起点として、変速制御モーター101に供給する駆動信号の駆動デューティー比及び駆動時間を予め決めたデューティー比及び駆動時間に制御するようにしたので、毎回、同じニュートラル位置に遊星回転部材55を停止させることができる。
この場合、遊星回転部材55が停止位置から離れた位置では変速制御モーター101を一定速度で駆動し、停止位置に近づくと変速制御モーター101の速度をそれまでより遅くするので、迅速に移動させつつ停止位置に正確に停止させることができる。また、駆動デューティー比を段階的に小さくして変速制御モーター101の速度を遅くするので、省電力化することができる。
また、本実施形態では、図1〜図4に示すように、ドライブ側伝達部材53がドリブン側伝達部材54よりも小径に構成され、無段変速機50におけるニュートラル制御は、遊星回転部材55と小径のドライブ側伝達部材53とを非接触にすることによって行われるので、遊星回転部材55と大径のドリブン側伝達部材54とを非接触にしてニュートラル制御する場合と比べて、大径のドリブンフェースの製作精度を過度に高める必要がなく、部品のコストダウンや品質管理の容易化を図ることができる。
【0050】
<第2実施形態>
図10は、第2実施形態のドライブ移行処理(N→D切替処理)のフローチャートであり、図11は、このときのセンサー103の出力レベルVoutと変速制御モーター101の駆動デューティー比との関係を示す図である。なお、第1実施形態と同じ処理は同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
図10に示すように、まず、制御部111は、変速制御モーター101を一定のデューティー比の駆動信号で駆動すると共に(ステップS11A)、センサー103の信号変化量の記録を開始する(ステップS12B)。次に、制御部111は、センサー103の出力信号に基づいて予め設定した計測点P0(図11参照)を通過したか否かを判定し(ステップS13B)、否定結果が得られる度にカウンタ数CTを零から1ずつ加算する(ステップS14B)。このステップS13B〜S14Bの処理は、計測点P0を通過するまで繰り返し実行され、このステップS13B〜S14Bのループを通過した回数(図11に示す範囲W1内での通過回数に相当)がカウントされる。
【0051】
計測点P0を通過したと判定すると、制御部111は、センサー103の変化量Sを算出済みか否かを判定する(ステップS14B)。変化量Sを算出済みでない場合、制御部111は、ステップS15Bの処理へ移行し、変化量S=記録した信号変化量の総和T/カウンタ数CTを算出し、ステップS15Bの処理へ移行する。
このステップS15Bでは、制御部111は、変化量Sが予め定めた閾値より大か否かを判定する。ここで、この変化量Sは、遊星回転部材55をニュートラル位置から移動した移動距離に比例しており、この場合の閾値は、予め設定した基準ロー位置P1(図11参照)に対応する値に設定される。このため、変化量Sが予め定めた閾値より小になると(ステップS17B)、遊星回転部材55が上記基準ロー位置P1近傍に位置すると判断できる。この場合に、制御部111は、変速制御モーター101の駆動を停止することにより(ステップS13A)、遊星回転部材55を基準ロー位置P1近傍に停止させることができる。
【0052】
ここで、上記変化量Sは、センサー103の信号変化量の総和Tを上記カウンタ数CTで除算した値であるため、変速制御モーター101の駆動デューティー比に依存せず、遊星回転部材55の移動量を示す値となる。そして、本構成では、この変化量Sに基づいて、遊星回転部材55を予め定めた基準ロー位置近傍に停止させるので、毎回、一定のロー位置に遊星回転部材55を停止させることができる。このため、本実施形態では、駆動デューティー比に対するセンサー103の信号変化量の事前計測は不要である。
【0053】
すなわち、本実施形態では、変速制御モーター101を一定のデューティー比で駆動し、センサー103の出力信号の変化量の総和Tを求めると共に、センサー103によって検出される位置が予め定めた計測点P0を通過するまでカウンタ数CTを一定周期でカウントアップし、上記計測点P0を通過した後、上記変化量の総和Tをカウンタ数CTで除算した値(変化量S)に基づいて、遊星回転部材55が所定の移動量だけ移動した場合に、変速制御モーター101を停止させる。これによれば、駆動デューティー比に対するセンサー103の信号変化量の事前計測を不要にしながら、遊星回転部材55を予め定めた位置(基準ロー位置P1近傍)に停止させることができる。
なお、ニュートラル移行処理については、第1実施形態と同じでもよいし、上記ドライブ移行処理と同様の処理を適用してもよい。
【0054】
<第3実施形態>
図12は、第3実施形態のドライブ移行処理(N→D切替処理)のフローチャートであり、図13は、このときのセンサー103の出力レベルVoutと変速制御モーター101の駆動デューティー比との関係を示す図である。なお、第1及び第2実施形態と同じ処理は同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
図12に示すように、まず、制御部111は、センサー103の出力信号に基づいて予め設定した演算開始用の計測点(演算処理開始位置)PA(図13参照)を通過したか否かを判定し(ステップS11C)、計測点PAを通過していない場合は(ステップS11C:No)、変速制御モーター101の駆動デューティー比を予め定めた大の値(本実施形態では100%duty(図13参照))に設定し、大の駆動デューティー比で変速制御モーター101を駆動する(ステップS12C)。つまり、制御部111は、図13に示す範囲W2では変速制御モーター101を高速駆動する。
演算開始用の計測点PAを通過した場合(ステップS11C:Yes)、制御部111は、第2実施形態と同様のステップS11A〜ステップS13Aの処理を実行する。
【0055】
本実施形態では、演算開始用の計測点PA(図13参照)を通過するまでは変速制御モーター101を高速駆動すると共にセンサー103の信号変化量の記録等の演算処理を行わないので、第2実施形態に比して、より迅速にロー位置に移動させることができると共に、演算処理を行う時間を短縮でき、制御部111の処理負担を軽減できる。
なお、ニュートラル移行処理については、第1実施形態と同じでもよいし、第2又は第3実施形態のドライブ移行処理と同様の処理を適用してもよい。
【0056】
<第4実施形態>
図14は、第4実施形態のドライブ移行処理(N→D切替処理)のフローチャートであり、図15は、ニュートラル移行処理のフローチャートであり、第4実施形態では、センサー103が不要である。
図14に示すように、N→D切替時、制御部111は、変速制御モーター101の駆動デューティー比を予め定めた大の値(本実施形態では100%duty)に設定し、予め定めた第1駆動時間が経過するまで、大の駆動デューティー比で変速制御モーター101をニュートラル領域(N)に向けて駆動する(ステップS11D,S12D)。次に、制御部111は、変速制御モーター101の駆動デューティー比を予め定めた中の値(本実施形態では50%duty)に設定し、予め定めた第2駆動時間が経過するまで、中の駆動デューティー比で変速制御モーター101を駆動する(ステップS13D,S14D)。
【0057】
次いで、制御部111は、変速制御モーター101の駆動デューティー比を予め定めた小の値(本実施形態では30%duty)に設定し、予め定めた第3駆動時間が経過するまで、小の駆動デューティー比で変速制御モーター101を駆動した後(ステップS15D,S16D)、変速制御モーター101の駆動を停止する(ステップS17D)。
すなわち、N→D切替前のニュートラル位置を基準位置として、変速制御モーター101に供給する駆動信号の駆動デューティー比及び駆動時間を予め決めたデューティー比及び駆動時間に制御することにより、予め定めた適切なロー位置に停止させる。
【0058】
一方、図15に示すように、D→N切替時、制御部111は、第2実施形態と同様のステップS21A〜ステップS26Aの処理を実行した後、変速制御モーター101の駆動を停止する(ステップS28A)。
すなわち、N→D切替時及びD→N切替時のいずれにおいても、上記ニュートラル位置やロー位置を基準位置として、変速制御モーター101に供給する駆動信号の駆動デューティー比及び駆動時間を予め決めたデューティー比及び駆動時間に制御することによって、毎回、同じロー位置と同じニュートラル位置とに遊星回転部材55を停止させることができる。従って、本実施形態では、センサー103を用いる必要がない分、部品点数を低減でき、処理を簡略化できる。
【0059】
上述した実施形態は、あくまでも本発明の一態様を示すものであり、本発明の主旨を逸脱しない範囲で任意に変形及び応用が可能である。
例えば、上記実施形態では、遊星回転部材55を軸方向に移動するアクチュエーターとして、変速制御モーター101を使用する場合を説明したが、モーター以外のアクチュエーターを用いてもよい。
また、上記実施形態では、変速制御モーター101に供給する駆動信号の駆動デューティー比及び駆動時間を予め決めた設定状態に制御することによって、正確なロー位置及びニュートラル位置に遊星回転部材55を停止させる場合を説明したが、要は所定の基準位置からアクチュエーターに供給する駆動信号及び駆動時間を予め設定しておいて、所定のロー位置及びニュートラル位置に停止させればよい。
また、上記実施形態では、自動二輪車用の動力伝達装置に本発明を適用する場合を説明したが、これに限らず、鞍乗り型車両等の車両の動力伝達装置に本発明を広く適用することができる。なお、鞍乗り型車両とは、車体に跨って乗車する車両全般を含み、自動二輪車(原動機付き自転車も含む)のみならず、ATV(不整地走行車両)に分類される三輪車両や四輪車両を含む車両である。
【符号の説明】
【0060】
50 無段変速機(車両用無段変速機)
53 ドライブ側伝達部材(ドライブフェース)
54 ドリブン側伝達部材(ドリブンフェース)
55 遊星回転部材
100 制御装置
101 変速制御モーター(アクチュエーター)
102 変速比検出部
103 センサー(変速比検出センサー)
111 制御部
P0 計測点
PA 演算開始用の計測点(演算処理開始位置)
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライブフェースとドリブンフェースとの間に、軸方向に移動して両フェース間の変速比を可変可能、かつ、いずれかのフェースから離間可能な遊星回転部材を備える車両用無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車等に搭載される車両用無段変速機には、エンジン動力が伝達されるドライブフェースとして機能する駆動回転部材と、駆動輪に動力伝達するドリブンフェースとして機能する従動回転部材とを備え、ドライブフェースとドリブンフェースとの間に、軸方向に移動して両フェース間の変速比を可変可能、かつ、ドリブンフェースから離間可能な遊星回転部材として機能する変速回転部材を設けた構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−214958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の車両用無段変速機では、ドライブフェースとドリブンフェースとの回転数の比を求めることによって変速比を特定し、この変速比から遊星回転部材の位置を把握している。
しかし、この位置特定方法は、遊星回転部材が両フェースに接触して動力伝達可能なドライブ領域(DR)に位置し、しかも、両フェースが回転しているときに限って、遊星回転部材の位置を把握できるものである。
【0005】
このため、遊星回転部材がドリブンフェースから離間したニュートラル領域(N)からドライブ領域(D)へ切り替える場合、所望のロー位置に遊星回転部材を移動させることが困難であった。このことは、両フェース間のレシオ幅を有効に使ったロー位置に遊星回転部材を移動させることが困難になり、また、ロー位置への移動の遅れを招き、ドライブフェースが回転した後に遊星回転部材とフェースとが接触してしまう、といった事態を招いてしまう。
また、従来は、遊星回転部材と、大径部品であるドリブンフェースとの寸法管理により動力伝達を遮断するニュートラル制御であるため、これら部品の精度を高める必要があり、部品のコストアップやその品質管理が課題となっていた。
【0006】
本発明は、上述した事情を鑑みてなされたものであり、適切なロー位置に遊星回転部材を移動させることができる車両用無段変速機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するため、本発明は、駆動力が伝達されるドライブフェース(53)と、このドライブフェース(53)と間隔を空けて配置されるドリブンフェース(54)と、両フェース間にて軸方向に移動自在に設けられ、軸方向に移動することにより前記両フェースに接触した状態を保持しながら両フェース間の変速比を可変可能、かつ、いずれかのフェースから離間可能な遊星回転部材(55)と、前記遊星回転部材(55)を軸方向に移動するアクチュエーター(101)とを備える車両用無段変速機において、前記アクチュエーター(101)を制御する制御部(111)を有し、前記制御部(111)は、前記遊星回転部材(55)の位置に応じた信号を出力するセンサー(103)の出力信号に基づいて、或いは、所定の基準位置から前記アクチュエーターに供給する駆動信号及び駆動時間に基づいて、前記遊星回転部材(55)を、ロー位置に停止させることを特徴とする。
この構成によれば、ドライブフェースとドリブンフェースとの間の遊星回転部材の位置に応じた信号を出力するセンサーの出力信号に基づいて、或いは、所定の基準位置からアクチュエーターに供給する駆動信号及び駆動時間に基づいて、遊星回転部材を、ロー位置に停止させるので、適切なロー位置に遊星回転部材を移動させることができる。
【0008】
上記構成において、前記制御部(111)は、前記センサー(103)の出力信号に基づいて、前記遊星回転部材(55)が動力伝達不能なニュートラル領域と動力伝達可能なドライブ領域との境目で生じる前記遊星回転部材(55)の移動速度の変化を検出した場合に、前記アクチュエーター(101)を停止させるようにしてもよい。この構成によれば、レシオ幅を有効に使ったロー位置に移動させることができる。
また、上記構成において、前記制御部(111)は、前記遊星回転部材(55)が停止位置から離れた位置では前記アクチュエーター(101)を一定速度で駆動し、停止位置に近づくと前記アクチュエーター(101)の速度をそれまでより遅くするようにしてもよい。この構成によれば、迅速に移動させつつ停止位置に正確に停止させることができる。
【0009】
また、上記構成において、前記制御部(111)は、前記アクチュエーター(101)をデューティー制御し、前記遊星回転部材(55)が停止位置に近づくと、前記アクチュエーター(101)の速度を遅くするようにデューティー比を可変させようにしてもよい。この構成によれば、迅速に移動させつつ停止位置に正確に停止させると共に、省電力化することができる。
また、上記構成において、前記制御部(111)は、前記アクチュエーター(101)を一定のデューティー比で駆動し、前記センサー(103)の出力信号の変化量の総和を求めると共に、前記センサー(101)によって検出される位置が予め定めた計測点(P0)を通過するまでカウンタ数を一定周期でカウントアップし、前記計測点(P0)を通過した後、前記変化量の総和を前記カウンタ数で除算した値に基づいて、前記遊星回転部材(55)が所定の移動量だけ移動したと判定した場合に、前記アクチュエーター(101)を停止させるようにしてもよい。この構成によれば、遊星回転部材を予め定めた適切なロー位置に停止させることができる。
【0010】
また、上記構成において、前記制御部(111)は、前記センサー(103)の出力信号に基づいて検出される位置が予め定めた演算処理開始位置(PA)を通過した後に、前記センサー(103)の出力信号の変化量の総和を求めると共に、前記カウンタ数を算出する演算処理を行うようにしてもよい。この構成によれば、演算処理開始位置を通過するまで演算処理を行わないので、演算処理を行う時間を短縮でき、制御部の処理負担を軽減できる。
また、上記構成において、前記制御部(111)は、前記ロー位置から前記アクチュエーターに供給する駆動信号及び駆動時間に基づいて、前記遊星回転部材(55)をニュートラル位置に停止させ、前記基準位置は、前記ニュートラル位置であるので、適切なロー位置とニュートラル位置とに停止させることができる。
【0011】
また、上記構成において、前記ドライブフェース(53)と前記ドリブンフェース(54)との回転数の差に基づいて変速比を検出する変速比検出部(102)を有し、前記制御部(111)は、前記ロー位置に停止した後、前記変速比検出部(102)の検出結果に基づいて前記遊星回転部材(55)の位置を制御するので、遊星回転部材を目標の変速比に対応する位置に精度良く制御することができる。
また、前記ドライブフェース(53)は、前記ドリブンフェース(54)よりも小径に構成され、当該車両用無段変速機におけるニュートラル制御は、前記遊星回転部材(55)と前記ドライブフェース(53)とを非接触にすることによって行われるようにしてもよい。この構成によれば、遊星回転部材と大径のドリブンフェースとを非接触にしてニュートラル制御する場合と比べて、大径のドリブンフェースの製作精度を過度に高める必要がなく、部品のコストダウンや品質管理の容易化を図ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、ドライブフェースとドリブンフェースとの間の遊星回転部材の位置に応じた信号を出力するセンサーの出力信号に基づいて、或いは、所定の基準位置からアクチュエーターに供給する駆動信号及び駆動時間に基づいて、遊星回転部材を、ロー位置に停止させるので、適切なロー位置に遊星回転部材を移動させることができる。
また、制御部は、センサーの出力信号に基づいて、遊星回転部材が動力伝達不能なニュートラル領域と動力伝達可能なドライブ領域との境目で生じる遊星回転部材の移動速度の変化を検出した場合に、アクチュエーターを停止させるようにすれば、レシオ幅を有効に使ったロー位置に移動させることができる。
また、制御部は、遊星回転部材が停止位置から離れた位置ではアクチュエーターを一定速度で駆動し、停止位置に近づくとアクチュエーターの速度をそれまでより遅くするようにすれば、迅速に移動させつつ停止位置に正確に停止させることができる。
【0013】
また、制御部は、アクチュエーターをデューティー制御し、遊星回転部材が停止位置に近づくと、アクチュエーターの速度を遅くするようにデューティー比を可変させるようにすれば、迅速に移動させつつ停止位置に正確に停止させると共に、省電力化することができる。
また、制御部は、アクチュエーターを一定のデューティー比で駆動し、センサーの出力信号の変化量の総和を求めると共に、センサーによって検出される位置が予め定めた計測点を通過するまでカウンタ数を一定周期でカウントアップし、計測点を通過した後、変化量の総和をカウンタ数で除算した値に基づいて、遊星回転部材が所定の移動量だけ移動したと判定した場合に、アクチュエーターを停止させるようにすれば、遊星回転部材を予め定めた適切なロー位置に停止させることができる。
また、制御部は、センサーの出力信号に基づいて検出される位置が予め定めた演算処理開始位置を通過した後に、センサーの出力信号の変化量の総和を求めると共に、カウンタ数を算出する演算処理を行うようにすれば、演算処理開始位置を通過するまで演算処理を行わないので、演算処理を行う時間を短縮でき、制御部の処理負担を軽減できる。
【0014】
また、制御部は、ロー位置からアクチュエーターに供給する駆動信号及び駆動時間に基づいて、遊星回転部材をニュートラル位置に停止させ、基準位置は、ニュートラル位置であるので、正確なロー位置とニュートラル位置とに停止させることができる。
また、ドライブフェースとドリブンフェースとの回転数の差に基づいて変速比を検出する変速比検出部を有し、制御部は、ロー位置に停止した後、変速比検出部の検出結果に基づいて遊星回転部材の位置を制御するので、遊星回転部材を目標の変速比に対応する位置に精度良く制御することができる。
また、ドライブフェースは、ドリブンフェースよりも小径に構成され、当該車両用無段変速機におけるニュートラル制御は、遊星回転部材とドライブフェースとを非接触にすることによって行われるようにすれば、遊星回転部材と大径のドリブンフェースとを非接触にしてニュートラル制御する場合と比べて、大径のドリブンフェースの製作精度を過度に高める必要がなく、部品のコストダウンや品質管理の容易化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施形態に係る車両用無段変速機が適用されるエンジンの断面図である。
【図2】無段変速機がロー変速比にある状態を示す図である。
【図3】無段変速機がトップ変速比にある状態を示す図である。
【図4】無段変速機の制御装置の構成を示す図である。
【図5】ニュートラル領域(N)とドライブ領域(D)との間の切替制御のメインフローを示す図である。
【図6】ドライブ移行処理のフローチャートを示す図である。
【図7】センサーの出力レベルVoutと変速制御モーターの駆動デューティー比との関係を示す図である。
【図8】ニュートラル移行処理のフローチャートを示す図である。
【図9】変速制御モーターの駆動デューティー比と変速比との関係を示す図である。
【図10】第2実施形態のドライブ移行処理(N→D切替処理)のフローチャートを示す図である。
【図11】センサーの出力レベルVoutと変速制御モーターの駆動デューティー比との関係を示す図である。
【図12】第3実施形態のドライブ移行処理(N→D切替処理)のフローチャートを示す図である。
【図13】センサーの出力レベルVoutと変速制御モーターの駆動デューティー比との関係を示す図である。
【図14】第4実施形態のドライブ移行処理(N→D切替処理)のフローチャートを示す図である。
【図15】ニュートラル移行処理のフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る車両用無段変速機が適用されるエンジンの断面図である。
このエンジン10は、自動二輪車に搭載されるエンジンであり、このエンジン10のクランクケース11内には、エンジン駆動軸であるクランク軸12が収容されるクランク室13、及び、無段変速機(車両用無段変速機)50が収容される変速機室14が画成されている。無段変速機50は、クランク軸12の回転を変速して最終出力軸27に伝達し、この最終出力軸27にドライブスプロケット28及び駆動チェーン29を介して連結された不図示の駆動輪(後輪)を様々な変速比で駆動させる。
クランク軸12は、クランク室13の左右の側壁23A,23Bにそれぞれ設けられたベアリング15に回転自在に支持され、車幅方向に延びている。クランク軸12の一端には発電機16が設けられ、クランク軸12の他端には発進クラッチ17が設けられている。また、クランク軸12の中央部にはクランクウェブ18が設けられ、クランクウェブ18には、クランクピン19を介してコンロッド20が連結されている。
【0017】
発進クラッチ17は、クランク軸12上でクランク軸12と一体に回転するクラッチインナ17Aと、クランク軸12上で相対回転自在に設けられるクラッチアウタ17Bと、クラッチインナ17Aの回転による遠心力でクラッチインナ17Aとクラッチアウタ17Bとを接続するクラッチシュー17Cとを有する遠心クラッチである。
クラッチアウタ17Bには、クランク軸12上で相対回転自在に支持される出力歯車17Dが一体に設けられ、この出力歯車17Dは、無段変速機50の入力軸である変速機軸51に固定された入力歯車25と噛み合う。
つまり、この発進クラッチ17は、クランク軸12と無段変速機50の変速機軸51との間に設けられ、クラッチインナ17Aと一体に回転するクランク軸12が発進回転数(アイドリング回転数以上の回転数であり、例えば、2500rpm〜3000rpm内の回転数)以上になると、クランク軸12と変速機軸51との間を接続し、発進回転数を下回ると、クランク軸12と変速機軸51との間を切断する。
【0018】
また、クラッチアウタ17Bとクランク軸12との間には、クラッチアウタ17Bを一方向(クランク軸12と同じ回転方向)に回転させるワンウェイクラッチ91が配置される。このワンウェイクラッチ91は、発進クラッチ17が切断状態のときに、自動二輪車の駆動輪からの減速トルクを無段変速機50の入力歯車25及び出力歯車17Dを介してクランク軸12に伝達させ、これによって、いわゆるエンジンブレーキを発生させる。
この場合、出力歯車17Dの回転数がクランク軸12の回転数より低くなる場合、例えば、アイドリング回転数(例えば、1500〜2000rpm)未満となる場合には、ワンウェイクラッチ91が切断状態となり、出力歯車17Dをクランク軸12に対して空回りさせ、クランク軸12の回転数をアイドリング回転数以上に維持することができる。
なお、発進クラッチ17が接続されている場合には、駆動輪からの減速トルクが発進クラッチ17を介してクランク軸12に伝達され、これによってエンジンブレーキが発生する。発進クラッチ17の側方はクラッチカバー21で覆われ、発電機16の側方は発電機カバー22で覆われる。
【0019】
変速機室14はクランク室13の後部に連なるケーシング23内に設けられている。無段変速機50は、ケーシング23の左右の側壁23A,23Bに跨ってクランク軸12と平行に延びる変速機軸(入力軸)51と、変速機軸51に設けられる変速部52とを有している。
変速機軸51は、左右の側壁23A,23Bに設けられたボールベアリング24A,24Bを介して回転自在に支持され、変速機軸51における発進クラッチ17側の端はケーシング23の外側まで延び、この端には、発進クラッチ17の出力歯車17Dに常時噛み合う入力歯車25が固定されている。
【0020】
変速機室14には、変速機軸51と前後に間隔を空けて平行に配置される減速軸26及び最終出力軸27が設けられている。減速軸26は、変速部52の出力側に噛み合う被動歯車26Aと、最終出力軸27に固定された被動歯車27Aに噛み合う駆動歯車26Bとを有している。最終出力軸27の端に形成された出力軸端部27Bは、ケーシング23の車幅方向外側に突出し、この突出端にドライブスプロケット28が固定されている。ドライブスプロケット28と駆動輪(後輪)との間には駆動チェーン29が掛け渡される。
【0021】
図2は、無段変速機50がロー変速比にある状態を示す図である。図3は、無段変速機50がトップ変速比にある状態を示す図である。
図1〜図3に示すように、無段変速機50は、変速機軸51上で変速部52が作動することによって、ロー変速比とトップ変速比との間で無段階に変速比を可変させる。
変速機軸51は、軸芯に中空部42を有し、中空部42には、オイルポンプ(不図示)から潤滑オイルが供給される。変速機軸51は、中空部42を外周面に連通させる油孔43を複数有し、油孔43を通った潤滑オイルは、無段変速機50の各部に供給される。
【0022】
変速部52は、変速機軸51と一体に回転するドライブ側伝達部材(ドライブフェース)53と、変速機軸51に相対回転自在に支承されるドリブン側伝達部材(ドリブンフェース)54と、ドライブ側伝達部材53とドリブン側伝達部材54との間に設けられ動力を伝達する複数の遊星回転部材55と、変速機軸51の軸方向に移動可能な遊星キャリアー56と、遊星キャリアー56に設けられ各遊星回転部材55を軸支する複数の遊星支持軸57とを備えて構成される。
ドライブ側伝達部材53は、単一の軸である変速機軸51に一体に設けられ、ドリブン側伝達部材54は、変速機軸51に軸支されてドライブ側伝達部材53に対して回転自在に設けられる。
【0023】
このドライブ側伝達部材53は、変速機軸51の外周面から径方向に突出する円板状受け部60と、変速機軸51に嵌合されるリング状の駆動回転部材61とを有している。円板状受け部60と駆動回転部材61とは、円板状受け部60と駆動回転部材61との間に設けられる入力側トルクカム(調圧カム)63によって連結され、一体に回転する。駆動回転部材61の外周面には、遊星回転部材55に接触するテーパー状の摩擦接触面61Aが形成されている。
このため、入力歯車25を介して変速機軸51に入力されたエンジン駆動力は、入力側トルクカム63を介して駆動回転部材61に伝達され、この駆動回転部材61と摩擦接触する遊星回転部材55に伝達される。
【0024】
ドリブン側伝達部材54は、ドライブ側伝達部材53側に開放した椀状に形成される従動回転部材64と、減速軸26の被動歯車26Aに噛み合う出力歯車部65とを有している。従動回転部材64は、変速機軸51の外周に設けられるニードルベアリング66を介して変速機軸51に対して相対回転可能に設けられ、従動回転部材64の内周面には、遊星回転部材55に接触するテーパー状の摩擦接触面71Aが形成されている。
より具体的には、従動回転部材64は、ニードルベアリング66に支持される円筒状の基部69と、基部69から径方向に拡径する円板部70と、円板部70からドライブ側伝達部材53側へ行くに従って拡径する円錐台状の筒部71とを有しており、この筒部71の内周面が、遊星回転部材55に接触するテーパー状の摩擦接触面71Aとなっている。
【0025】
出力歯車部65は、変速機軸51の外周に設けられるボールベアリング67を介して変速機軸51に対して相対回転可能に設けられている。従動回転部材64と出力歯車部65とは、従動回転部材64と出力歯車部65との間に設けられる出力側トルクカム(調圧カム)68によって連結され、一体に回転する。
このため、遊星回転部材55に伝達されたエンジン駆動力は、遊星回転部材55と摩擦接触する従動回転部材64に伝達され、出力側トルクカム68を介して出力歯車部65に伝達された後に、減速軸26に伝達される。つまり、ドリブン側伝達部材54の基部69及び出力歯車部65が、無段変速機50下流に配置された減速軸26に動力を出力する、無段変速機50の出力軸として機能する。
【0026】
出力歯車部65は円筒状に形成され、出力歯車部65の内周には、ボールベアリング67が収容されるベアリング収容部72が形成されている。ベアリング収容部72は段状に形成され、ボールベアリング67は、その外周面67A及び側面67Bがベアリング収容部72に当接した状態で配置されている。
出力歯車部65は、従動回転部材64の基部69の外周面に沿うように基部69の外側を延びる押圧片73を有している。押圧片73の先端と円板部70との間には、従動回転部材64をドライブ側伝達部材53側に付勢する弾性部材(本構成では皿ばね)74が介挿され、この弾性部材74の弾性力によって従動回転部材64はドライブ側伝達部材53側に付勢されている。
【0027】
変速機軸51上のボールベアリング24A,67間には、エンジン10の各部にオイルを送出するオイルポンプ(不図示)を駆動するポンプ駆動歯車75が固定されている。また、ポンプ駆動歯車75とボールベアリング67との間には、リング状のシム76が固定されている。シム76は、変速機軸51に嵌め込まれるコッタ(不図示)によって軸方向に固定されている。
【0028】
遊星キャリアー56は、従動回転部材64側に向かって小径になる円錐状の第1キャリア半体77と、円板状に形成され第1キャリア半体77を支持する第2キャリア半体78とを備えて構成されている。遊星キャリアー56は、第1キャリア半体77の先端側の内周面、及び、第2キャリア半体78の内周面にニードルベアリング79をそれぞれ有し、ニードルベアリング79を介して変速機軸51に対し回転可能かつ軸方向に摺動可能となっている。
【0029】
ケーシング23の右の側壁23Bには、側壁23Bを貫通して変速機軸51と略平行に延びるガイド軸30が設けられている。第2キャリア半体78は、ガイド軸30が挿通されるガイド軸挿通部78Bを有し、ガイド軸30によって変速機軸51の軸方向への移動がガイドされると共に、変速機軸51に対する相対回転が規制される。すなわち、遊星キャリアー56は、変速機軸51の軸方向に移動可能であるが、変速機軸51の軸回りには回転しない。また、遊星キャリアー56がガイド軸30に規制されて回転しないため、遊星キャリアー56に支持されている遊星支持軸57も、ケーシング23に対して変速機軸51の軸回りに回り止めされていることになる。
また、第2キャリア半体78の後面には、変速機軸51の軸方向に延びる被動ねじ部78Aが設けられている。
【0030】
第1キャリア半体77の外周面には、その周方向に等間隔を空けて複数の窓孔が形成されている。各遊星支持軸57は、変速機軸51の軸線を中心線とする円錐母線に沿って上記窓孔に重なるように配置され、遊星回転部材55は外周側の一部が上記窓孔から露出するように遊星支持軸57に支持される。すなわち、遊星回転部材55は、従動回転部材64の側に頂点を有し変速機軸51の軸線を中心線とする円錐の円錐母線に沿うように傾斜しており、ドライブ側伝達部材53側に行くほど径方向に広がるように傾斜して配置されている。
【0031】
第1キャリア半体77には、遊星支持軸57の従動回転部材64側の端を支持する止まり穴の先端側支持穴80と、遊星支持軸57のドライブ側伝達部材53側の端を支持する基端側支持孔81とが形成されている。遊星支持軸57は基端側支持孔81側から挿入され、基端側支持孔81及び先端側支持穴80の両方の嵌合部に隙間嵌合により固定される。遊星支持軸57は隙間嵌合によって所定の隙間を有して嵌合されているため、遊星支持軸57に作用する力に応じて基端側支持孔81及び先端側支持穴80内でわずかに移動することができる。ここで、一例として、遊星支持軸57の直径は6mmであり、この場合、基端側支持孔81及び先端側支持穴80の内径は、遊星支持軸57の直径よりも1μm〜16μmだけ大きく設定される。
第1キャリア半体77及び遊星支持軸57は、遊星支持軸57が隙間嵌合することで、遊星支持軸57が移動可能な調整機構を構成している。
【0032】
遊星回転部材55は、その軸方向の中央部が大径で両端部が小径となるテーパー状に形成された筒状部材であり、駆動回転部材61の摩擦接触面61Aに接触する第1テーパー面55Aと、従動回転部材64の摩擦接触面71Aに接触する第2テーパー面55Bと、遊星回転部材55中央部をその軸方向に貫通する支持孔55Cとを有している。遊星支持軸57の中心を通る側方断面視(図2参照)では、第1テーパー面55A及び第2テーパー面55Bにおいて互いに対向する辺は、平行となっている。
支持孔55Cの両端部には、一対のニードルベアリング82,82が設けられ、駆動回転部材61はニードルベアリング82,82を介して遊星支持軸57に相対回転可能かつ軸方向に摺動可能に設けられている。
【0033】
遊星キャリアー56とボールベアリング24Bとの間には、変速機軸51上で回転自在な駆動ねじ部40が設けられている。駆動ねじ部40は、ボールベアリング41を介して回転自在に設けられ、遊星キャリアー56の被動ねじ部78Aに螺合されている。駆動ねじ部40は、図1に示す変速制御モーター(アクチュエーター)101及び減速機構(図1参照)を介して回転駆動され、駆動ねじ部40が回転することで被動ねじ部78Aに軸方向へ移動する力が作用し、遊星キャリアー56が変速機軸51の軸方向に移動される。すなわち、無段変速機50では、遊星回転部材55を支持する遊星キャリアー56を、上記変速制御モーター101の駆動によって変速機軸51の軸方向に移動させることができ、これにより、変速比の変更が行われる。
【0034】
図2及び図3に示すように、駆動回転部材61の摩擦接触面61Aと遊星回転部材55の第1テーパー面55Aとの接触点から変速機軸51の軸線までの距離を距離A、摩擦接触面61Aと第1テーパー面55Aとの接触点から遊星支持軸57の軸線までの距離を距離B、従動回転部材64の摩擦接触面71Aと遊星回転部材55の第2テーパー面55Bとの接触点から遊星支持軸57の軸線までの距離を距離C、従動回転部材64の摩擦接触面71Aと遊星回転部材55の第2テーパー面55Bとの接触点から変速機軸51の軸線まで距離を距離Kとし、駆動回転部材61の回転数をNI、従動回転部材64の回転数をNOとし、変速比RをR=NI/NOとしたときに、R=NI/NO=(B/A)×(K/C)となる。
ここで、遊星回転部材55が変速機軸51の軸方向に移動したとしても距離A,Kは一定であり変化しない。従って、変速比R=B/Cで表すことができる。
【0035】
図2に示すように、遊星回転部材55が従動回転部材64に近接する方向に移動すると、距離Bが大きくなるとともに距離Cが小さくなり、変速比Rが大きくなる。すなわち、距離Bが最大かつ距離Cが最小となる図2の状態がロー変速比の限界位置(ロー限界位置)PLとなる。
また、図3に示すように、遊星キャリアー56が従動回転部材64から離れる方向に移動すると、距離Bが小さくなるとともに距離Cが大きくなり、変速比Rが小さくなる。すなわち、距離Bが最小かつ距離Cが最大となる図3の状態がトップ変速比の位置(トップ位置)PTとなる。
【0036】
このようにして、図2に示すように、遊星回転部材55がロー限界位置PLからトップ位置PTに移動する範囲が、遊星回転部材55がドライブ側伝達部材53とドリブン側伝達部材54との間を動力伝達するドライブ領域(D)となる。
遊星回転部材55がドライブ領域(D)にある場合には、変速機軸51がクランク軸12からの動力で回転すると、変速機軸51と一体に回転するドライブ側伝達部材53が各遊星回転部材55を回転させ、変速比Rに応じて変速された回転が各遊星回転部材55を介してドリブン側伝達部材54に伝達され、出力歯車部65を介して減速軸26,最終出力軸27に順に伝達される。
【0037】
一方、本構成では、図2に示すロー限界位置PLから、遊星回転部材55が更に従動回転部材64に近接する方向に移動した場合には、遊星回転部材55の内周に位置する第1テーパー面55Aと、ドライブ側伝達部材53の外周に位置する摩擦接触面61Aとの摩擦接触が解除される。つまり、遊星回転部材55がドライブ側伝達部材53から離間し、遊星回転部材55とドライブ側伝達部材53との動力伝達が遮断される。
この遊星回転部材55とドライブ側伝達部材53との動力伝達が遮断される範囲が、ドライブ側伝達部材53とドリブン側伝達部材54との間を動力伝達不能にするニュートラル領域(N)(図2参照)となっている。
【0038】
図4は、無段変速機50の制御装置100の構成を示す図である。
制御装置100は、自動二輪車の各部を電子制御する車両制御装置の一部を構成し、変速制御モーター101と、回転数から変速比を検出するための変速比検出部102と、位置から変速比を検出するためのセンサー(変速比検出センサー)103と、制御部111とを備えている。
変速制御モーター101は、制御部111によってデューティー制御(PWM制御)されるDCモーターであり、遊星回転部材55を軸方向に移動するアクチュエーターとして機能する。
変速比検出部102は、ドライブ側伝達部材53とドリブン側伝達部材54との各々の回転数を検出し、これらの回転数の比を求めることによって変速比を検出する。なお、変速比を検出する演算処理は、制御部111が行ってもよい。制御部111は、CPUと、RAMやROM等のメモリーとを具備するコンピューターとして構成され、自動二輪車の各部を制御する。
【0039】
ところで、この変速比検出部102が変速比を検出できるのは、遊星回転部材55がドライブ領域(D)にあり、かつ、ドライブ側伝達部材53とドリブン側伝達部材54との両方が回転している、という条件を満たす場合である。
このため、制御部111は、上記条件を満たす場合には、変速比検出部102によって変速比を検出し、この変速比が、エンジン回転数,車速及び運転者のスロットル操作等に基づいて設定した目標変速比になるように、変速制御モーター101をフィードバック制御する。これにより、遊星回転部材55を目標の変速比に対応する位置に精度良く制御することができる。
【0040】
一方、ニュートラル領域(N)とドライブ領域(D)との間の切替時には、変速比検出部102によって変速比を検出することはできない。
そこで、本実施形態では、上記センサー103として、遊星回転部材55の位置を検出するポテンショメーターを備え、ニュートラル領域(N)からドライブ領域(D)への移行時(N→D切替時)には、このセンサー103の出力信号に基づいてニュートラル領域(N)とドライブ領域(D)との間の境目を検出し、この境目に対応するロー限界位置PLを基準にしてロー位置に停止させるようにしている。
また、上記制御部111は、タイマー機能を有し、ドライブ領域(D)からニュートラル領域(N)への移行時(D→N切替時)には、変速制御モーター101に供給する駆動信号及び駆動時間に基づいて、一定のニュートラル位置に停止させるようにしている。以下、この場合の制御を説明する。
【0041】
図5は、ニュートラル領域(N)とドライブ領域(D)との間の切替制御のメインフローを示している。前提として、この自動二輪車は、無段変速機50の動作モードを、ニュートラル/ドライブに切り替える操作部であるN−Dスイッチを具備しており、制御部111は、このN−Dスイッチの操作に応じてニュートラル領域(N)とドライブ領域(D)とに切替制御するようになっている。このN−Dスイッチは、運転者が手動操作するものでもよいし、制御部111が車速等の車両情報、或いは、運転者のスロットル操作等に基づいて自動切替するものであってもよい。
【0042】
図5に示すように、制御部111は、N−DスイッチがN又はDに切り替わったか否かを判断し(ステップS1)、Dに切り替わった場合はドライブモードへ移行するドライブ移行処理を行い(ステップS2)、Nに切り替わった場合はニュートラルへ移行するニュートラル移行処理を行う(ステップS3)。
図6は、ドライブ移行処理のフローチャートである。ドライブ移行処理は、ニュートラル領域(N)に位置する遊星回転部材55を、ドライブ領域(D)のロー位置に移動させる処理(N→D切替処理)である。また、図7は、このときのセンサー103の出力レベルVoutと変速制御モーター101の駆動デューティー比との関係を示している。
【0043】
まず、制御部111は、変速制御モーター101を一定のデューティー比(本実施形態では30%duty(図7参照))の駆動信号で駆動し、遊星回転部材55をドライブ領域(D)へ向けて移動させる(ステップS11A)。
ここで、デューティー比が小さいときは電圧がHiレベルの時間が短くなるので、変速制御モーター101の回転時間が短く、回転速度が実質的に遅くなり、デューティー比が大きいときは電圧がHiレベルの時間が長くなるので、変速制御モーター101の回転時間が長くなり、回転速度が実質的に速くなる。制御部111は、上記ステップS11Aでは一定のデューティー比とするので、変速制御モーター101を一定の回転速度で駆動し、遊星回転部材55を一定速度で移動させる。
【0044】
遊星回転部材55を移動させている間、制御部111は、センサー103の出力信号の変化量が予め定めた閾値を下回ったか否かを監視する(ステップS12A)。ここで、ポテンショメーターであるセンサー103の出力信号は、遊星回転部材55の位置に比例する信号レベルとなるため、遊星回転部材55が一定速度で移動している場合は、単位時間の信号変化量は一定である。
ところが、遊星回転部材55がドライブ側伝達部材53に非接触の状態から接触の状態へ変化する時点、つまり、ニュートラル領域(N)とドライブ領域(D)との間の境目では、遊星回転部材55の移動速度が減速することとなり、センサー103の信号変化量が小に変化する。
【0045】
上記ステップS12Aで用いる閾値は、上記境目での信号変化量を判別する閾値に設定されており、事前に測定された信号変化量(例えば、30%dutyの場合は変化量0.4V〜0.6V、60%dutyの場合は変化量0.8V〜1.2V)を判定する閾値(30%dutyの場合は0.6V、60%dutyの場合は1.2V)とされる。
このため、制御部111は、ステップS12の処理により、遊星回転部材55がニュートラル領域(N)とドライブ領域(D)との間の境目に位置したタイミングを検出することができる。この場合、制御部111は、変速制御モーター101の駆動を停止する(ステップS13A)。これによって、制御部111は、遊星回転部材55を上記境目に対応するロー限界位置PL近傍のロー位置に停止させることが可能になる。
なお、このロー位置は、ドライブ側伝達部材53とドリブン側伝達部材54との両方が回転している場合に、変速比検出部102が変速比を検出することによって、この変速比からロー位置を特定できる。従って、遊星回転部材55がドライブ領域(D)にあり、かつ、ドライブ側伝達部材53とドリブン側伝達部材54との両方が回転している場合には、変速比検出部102によって同じロー位置に制御することが可能になる。
【0046】
図8は、ニュートラル移行処理のフローチャートである。このニュートラル移行処理は、上記ロー位置にある遊星回転部材55を、ニュートラル領域(N)内のニュートラル基準位置に移動させる処理(D→N切替処理)である。また、図9は、このときの変速制御モーター101の駆動デューティー比と変速比との関係を示している。
図8に示すように、まず、制御部111は、変速制御モーター101の駆動デューティー比を予め定めた大の値(本実施形態では100%duty(図9参照))に設定し、予め定めた第1駆動時間が経過するまで、大の駆動デューティー比で変速制御モーター101をドライブ領域(D)に向けて駆動する(ステップS21A,S22A)。次に、制御部111は、変速制御モーター101の駆動デューティー比を予め定めた中の値(本実施形態では50%duty(図9参照))に設定し、予め定めた第2駆動時間が経過するまで、中の駆動デューティー比で変速制御モーター101を駆動する(ステップS23A,S24A)。
【0047】
次いで、制御部111は、変速制御モーター101の駆動デューティー比を予め定めた小の値(本実施形態では30%duty(図9参照))に設定し、予め定めた第3駆動時間が経過するまで、小の駆動デューティー比で変速制御モーター101を駆動した後(ステップS25A,S26A)、センサー103の出力信号の変化量が予め定めた閾値を下回ったか否かを判定する(ステップS27A)。
ここで、遊星回転部材55が、従動回転部材64の基部69に当接した場合には移動速度が減速するので、センサー103の信号変化量が小に変化する。ステップS27Aでは、この変化を判別する閾値に設定されており、ステップS27Aで閾値を下回っていると、制御部111は、変速制御モーター101の駆動を停止する(ステップS28A)。これにより、遊星回転部材55を従動回転部材64の基部69近傍のニュートラル位置に停止させることができる。
このように、駆動デューティー比を大、中、小へと切り替えることにより、変速制御モーター101を高速駆動、中速駆動、低速駆動へと切り替え、ニュートラル位置に向かって迅速に移動させながらニュートラル位置近傍では遅くし、一定のニュートラル位置に停止させることができる。
【0048】
以上説明したように、本実施の形態によれば、遊星回転部材55の位置に応じた信号を出力するセンサー103の出力信号に基づいてロー位置に停止させるので、変速比検出部102では位置制御できないN→D切替時に、適切なロー位置に停止させることが可能になる。
しかも、センサー103の出力信号に基づいて、遊星回転部材55がニュートラル領域(N)とドライブ領域(D)との境目を移動する場合に生じる遊星回転部材55の移動速度の変化を検出した場合に、ロー位置に停止させるので、毎回、ロー限界位置PL近傍の同じロー位置に遊星回転部材55を停止させることができる。また、仮にドライブ側伝達部材53やドリブン側伝達部材54が摩耗した場合には、その摩耗後のロー限界位置PL近傍のロー位置に遊星回転部材55を停止させることが可能になる。
従って、本実施形態では、レシオ幅を有効に使ったロー位置に移動させることができ、ロー位置の移動の遅れによって駆動回転部材61が回転した後に遊星回転部材55と駆動回転部材61とが接触してしまう、といった事態を回避することが可能になる。
【0049】
また、D→N切替時は、変速比検出部102で検出された変速比から特定された基準位置となるロー位置、或いは、上記N→D切替で停止された基準位置となるロー位置を起点として、変速制御モーター101に供給する駆動信号の駆動デューティー比及び駆動時間を予め決めたデューティー比及び駆動時間に制御するようにしたので、毎回、同じニュートラル位置に遊星回転部材55を停止させることができる。
この場合、遊星回転部材55が停止位置から離れた位置では変速制御モーター101を一定速度で駆動し、停止位置に近づくと変速制御モーター101の速度をそれまでより遅くするので、迅速に移動させつつ停止位置に正確に停止させることができる。また、駆動デューティー比を段階的に小さくして変速制御モーター101の速度を遅くするので、省電力化することができる。
また、本実施形態では、図1〜図4に示すように、ドライブ側伝達部材53がドリブン側伝達部材54よりも小径に構成され、無段変速機50におけるニュートラル制御は、遊星回転部材55と小径のドライブ側伝達部材53とを非接触にすることによって行われるので、遊星回転部材55と大径のドリブン側伝達部材54とを非接触にしてニュートラル制御する場合と比べて、大径のドリブンフェースの製作精度を過度に高める必要がなく、部品のコストダウンや品質管理の容易化を図ることができる。
【0050】
<第2実施形態>
図10は、第2実施形態のドライブ移行処理(N→D切替処理)のフローチャートであり、図11は、このときのセンサー103の出力レベルVoutと変速制御モーター101の駆動デューティー比との関係を示す図である。なお、第1実施形態と同じ処理は同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
図10に示すように、まず、制御部111は、変速制御モーター101を一定のデューティー比の駆動信号で駆動すると共に(ステップS11A)、センサー103の信号変化量の記録を開始する(ステップS12B)。次に、制御部111は、センサー103の出力信号に基づいて予め設定した計測点P0(図11参照)を通過したか否かを判定し(ステップS13B)、否定結果が得られる度にカウンタ数CTを零から1ずつ加算する(ステップS14B)。このステップS13B〜S14Bの処理は、計測点P0を通過するまで繰り返し実行され、このステップS13B〜S14Bのループを通過した回数(図11に示す範囲W1内での通過回数に相当)がカウントされる。
【0051】
計測点P0を通過したと判定すると、制御部111は、センサー103の変化量Sを算出済みか否かを判定する(ステップS14B)。変化量Sを算出済みでない場合、制御部111は、ステップS15Bの処理へ移行し、変化量S=記録した信号変化量の総和T/カウンタ数CTを算出し、ステップS15Bの処理へ移行する。
このステップS15Bでは、制御部111は、変化量Sが予め定めた閾値より大か否かを判定する。ここで、この変化量Sは、遊星回転部材55をニュートラル位置から移動した移動距離に比例しており、この場合の閾値は、予め設定した基準ロー位置P1(図11参照)に対応する値に設定される。このため、変化量Sが予め定めた閾値より小になると(ステップS17B)、遊星回転部材55が上記基準ロー位置P1近傍に位置すると判断できる。この場合に、制御部111は、変速制御モーター101の駆動を停止することにより(ステップS13A)、遊星回転部材55を基準ロー位置P1近傍に停止させることができる。
【0052】
ここで、上記変化量Sは、センサー103の信号変化量の総和Tを上記カウンタ数CTで除算した値であるため、変速制御モーター101の駆動デューティー比に依存せず、遊星回転部材55の移動量を示す値となる。そして、本構成では、この変化量Sに基づいて、遊星回転部材55を予め定めた基準ロー位置近傍に停止させるので、毎回、一定のロー位置に遊星回転部材55を停止させることができる。このため、本実施形態では、駆動デューティー比に対するセンサー103の信号変化量の事前計測は不要である。
【0053】
すなわち、本実施形態では、変速制御モーター101を一定のデューティー比で駆動し、センサー103の出力信号の変化量の総和Tを求めると共に、センサー103によって検出される位置が予め定めた計測点P0を通過するまでカウンタ数CTを一定周期でカウントアップし、上記計測点P0を通過した後、上記変化量の総和Tをカウンタ数CTで除算した値(変化量S)に基づいて、遊星回転部材55が所定の移動量だけ移動した場合に、変速制御モーター101を停止させる。これによれば、駆動デューティー比に対するセンサー103の信号変化量の事前計測を不要にしながら、遊星回転部材55を予め定めた位置(基準ロー位置P1近傍)に停止させることができる。
なお、ニュートラル移行処理については、第1実施形態と同じでもよいし、上記ドライブ移行処理と同様の処理を適用してもよい。
【0054】
<第3実施形態>
図12は、第3実施形態のドライブ移行処理(N→D切替処理)のフローチャートであり、図13は、このときのセンサー103の出力レベルVoutと変速制御モーター101の駆動デューティー比との関係を示す図である。なお、第1及び第2実施形態と同じ処理は同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
図12に示すように、まず、制御部111は、センサー103の出力信号に基づいて予め設定した演算開始用の計測点(演算処理開始位置)PA(図13参照)を通過したか否かを判定し(ステップS11C)、計測点PAを通過していない場合は(ステップS11C:No)、変速制御モーター101の駆動デューティー比を予め定めた大の値(本実施形態では100%duty(図13参照))に設定し、大の駆動デューティー比で変速制御モーター101を駆動する(ステップS12C)。つまり、制御部111は、図13に示す範囲W2では変速制御モーター101を高速駆動する。
演算開始用の計測点PAを通過した場合(ステップS11C:Yes)、制御部111は、第2実施形態と同様のステップS11A〜ステップS13Aの処理を実行する。
【0055】
本実施形態では、演算開始用の計測点PA(図13参照)を通過するまでは変速制御モーター101を高速駆動すると共にセンサー103の信号変化量の記録等の演算処理を行わないので、第2実施形態に比して、より迅速にロー位置に移動させることができると共に、演算処理を行う時間を短縮でき、制御部111の処理負担を軽減できる。
なお、ニュートラル移行処理については、第1実施形態と同じでもよいし、第2又は第3実施形態のドライブ移行処理と同様の処理を適用してもよい。
【0056】
<第4実施形態>
図14は、第4実施形態のドライブ移行処理(N→D切替処理)のフローチャートであり、図15は、ニュートラル移行処理のフローチャートであり、第4実施形態では、センサー103が不要である。
図14に示すように、N→D切替時、制御部111は、変速制御モーター101の駆動デューティー比を予め定めた大の値(本実施形態では100%duty)に設定し、予め定めた第1駆動時間が経過するまで、大の駆動デューティー比で変速制御モーター101をニュートラル領域(N)に向けて駆動する(ステップS11D,S12D)。次に、制御部111は、変速制御モーター101の駆動デューティー比を予め定めた中の値(本実施形態では50%duty)に設定し、予め定めた第2駆動時間が経過するまで、中の駆動デューティー比で変速制御モーター101を駆動する(ステップS13D,S14D)。
【0057】
次いで、制御部111は、変速制御モーター101の駆動デューティー比を予め定めた小の値(本実施形態では30%duty)に設定し、予め定めた第3駆動時間が経過するまで、小の駆動デューティー比で変速制御モーター101を駆動した後(ステップS15D,S16D)、変速制御モーター101の駆動を停止する(ステップS17D)。
すなわち、N→D切替前のニュートラル位置を基準位置として、変速制御モーター101に供給する駆動信号の駆動デューティー比及び駆動時間を予め決めたデューティー比及び駆動時間に制御することにより、予め定めた適切なロー位置に停止させる。
【0058】
一方、図15に示すように、D→N切替時、制御部111は、第2実施形態と同様のステップS21A〜ステップS26Aの処理を実行した後、変速制御モーター101の駆動を停止する(ステップS28A)。
すなわち、N→D切替時及びD→N切替時のいずれにおいても、上記ニュートラル位置やロー位置を基準位置として、変速制御モーター101に供給する駆動信号の駆動デューティー比及び駆動時間を予め決めたデューティー比及び駆動時間に制御することによって、毎回、同じロー位置と同じニュートラル位置とに遊星回転部材55を停止させることができる。従って、本実施形態では、センサー103を用いる必要がない分、部品点数を低減でき、処理を簡略化できる。
【0059】
上述した実施形態は、あくまでも本発明の一態様を示すものであり、本発明の主旨を逸脱しない範囲で任意に変形及び応用が可能である。
例えば、上記実施形態では、遊星回転部材55を軸方向に移動するアクチュエーターとして、変速制御モーター101を使用する場合を説明したが、モーター以外のアクチュエーターを用いてもよい。
また、上記実施形態では、変速制御モーター101に供給する駆動信号の駆動デューティー比及び駆動時間を予め決めた設定状態に制御することによって、正確なロー位置及びニュートラル位置に遊星回転部材55を停止させる場合を説明したが、要は所定の基準位置からアクチュエーターに供給する駆動信号及び駆動時間を予め設定しておいて、所定のロー位置及びニュートラル位置に停止させればよい。
また、上記実施形態では、自動二輪車用の動力伝達装置に本発明を適用する場合を説明したが、これに限らず、鞍乗り型車両等の車両の動力伝達装置に本発明を広く適用することができる。なお、鞍乗り型車両とは、車体に跨って乗車する車両全般を含み、自動二輪車(原動機付き自転車も含む)のみならず、ATV(不整地走行車両)に分類される三輪車両や四輪車両を含む車両である。
【符号の説明】
【0060】
50 無段変速機(車両用無段変速機)
53 ドライブ側伝達部材(ドライブフェース)
54 ドリブン側伝達部材(ドリブンフェース)
55 遊星回転部材
100 制御装置
101 変速制御モーター(アクチュエーター)
102 変速比検出部
103 センサー(変速比検出センサー)
111 制御部
P0 計測点
PA 演算開始用の計測点(演算処理開始位置)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力が伝達されるドライブフェース(53)と、このドライブフェース(53)と間隔を空けて配置されるドリブンフェース(54)と、両フェース間にて軸方向に移動自在に設けられ、軸方向に移動することにより前記両フェースに接触した状態を保持しながら両フェース間の変速比を可変可能、かつ、いずれかのフェースから離間可能な遊星回転部材(55)と、前記遊星回転部材(55)を軸方向に移動するアクチュエーター(101)とを備える車両用無段変速機において、
前記アクチュエーター(101)を制御する制御部(111)を有し、
前記制御部(111)は、前記遊星回転部材(55)の位置に応じた信号を出力するセンサー(103)の出力信号に基づいて、或いは、所定の基準位置から前記アクチュエーター(101)に供給する駆動信号及び駆動時間に基づいて、前記遊星回転部材(55)を、ロー位置に停止させることを特徴とする車両用無段変速機。
【請求項2】
前記制御部(111)は、前記センサー(103)の出力信号に基づいて、前記遊星回転部材(55)が動力伝達不能なニュートラル領域と動力伝達可能なドライブ領域との境目で生じる前記遊星回転部材(55)の移動速度の変化を検出した場合に、前記アクチュエーター(101)を停止させることを特徴とする請求項1に記載の車両用無段変速機。
【請求項3】
前記制御部(111)は、前記遊星回転部材(55)が停止位置から離れた位置では前記アクチュエーター(101)を一定速度で駆動し、停止位置に近づくと前記アクチュエーター(101)の速度をそれまでより遅くすることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用無段変速機。
【請求項4】
前記制御部(111)は、前記アクチュエーター(101)をデューティー制御し、前記遊星回転部材(55)が停止位置に近づくと、前記アクチュエーター(101)の速度を遅くするようにデューティー比を可変させることを特徴とする請求項3に記載の車両用無段変速機。
【請求項5】
前記制御部(111)は、前記アクチュエーター(101)を一定のデューティー比で駆動し、前記センサー(103)の出力信号の変化量の総和を求めると共に、前記センサー(101)によって検出される位置が予め定めた計測点(P0)を通過するまでカウンタ数を一定周期でカウントアップし、前記計測点(P0)を通過した後、前記変化量の総和を前記カウンタ数で除算した値に基づいて、前記遊星回転部材(55)が所定の移動量だけ移動したと判定した場合に、前記アクチュエーター(101)を停止させることを特徴とする請求項4に記載の車両用無段変速機。
【請求項6】
前記制御部(111)は、前記センサー(103)の出力信号に基づいて検出される位置が予め定めた演算処理開始位置(PA)を通過した後に、前記センサー(103)の出力信号の変化量の総和を求めると共に、前記カウンタ数を算出する演算処理を行うことを特徴とする請求項5に記載の車両用無段変速機。
【請求項7】
前記制御部(111)は、前記ロー位置から前記アクチュエーター(101)に供給する駆動信号及び駆動時間に基づいて、前記遊星回転部材(55)をニュートラル位置に停止させ、
前記基準位置は、前記ニュートラル位置であることを特徴とする請求項1に記載の車両用無段変速機。
【請求項8】
前記ドライブフェース(53)と前記ドリブンフェース(54)との回転数の差に基づいて変速比を検出する変速比検出部(102)を有し、
前記制御部(111)は、前記ロー位置に停止した後、前記変速比検出部(102)の検出結果に基づいて前記遊星回転部材(55)の位置を制御することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の車両用無段変速機。
【請求項9】
前記ドライブフェース(53)は、前記ドリブンフェース(54)よりも小径に構成され、
当該車両用無段変速機におけるニュートラル制御は、前記遊星回転部材(55)と前記ドライブフェース(53)とを非接触にすることによって行われることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の車両用無段変速機。
【請求項1】
駆動力が伝達されるドライブフェース(53)と、このドライブフェース(53)と間隔を空けて配置されるドリブンフェース(54)と、両フェース間にて軸方向に移動自在に設けられ、軸方向に移動することにより前記両フェースに接触した状態を保持しながら両フェース間の変速比を可変可能、かつ、いずれかのフェースから離間可能な遊星回転部材(55)と、前記遊星回転部材(55)を軸方向に移動するアクチュエーター(101)とを備える車両用無段変速機において、
前記アクチュエーター(101)を制御する制御部(111)を有し、
前記制御部(111)は、前記遊星回転部材(55)の位置に応じた信号を出力するセンサー(103)の出力信号に基づいて、或いは、所定の基準位置から前記アクチュエーター(101)に供給する駆動信号及び駆動時間に基づいて、前記遊星回転部材(55)を、ロー位置に停止させることを特徴とする車両用無段変速機。
【請求項2】
前記制御部(111)は、前記センサー(103)の出力信号に基づいて、前記遊星回転部材(55)が動力伝達不能なニュートラル領域と動力伝達可能なドライブ領域との境目で生じる前記遊星回転部材(55)の移動速度の変化を検出した場合に、前記アクチュエーター(101)を停止させることを特徴とする請求項1に記載の車両用無段変速機。
【請求項3】
前記制御部(111)は、前記遊星回転部材(55)が停止位置から離れた位置では前記アクチュエーター(101)を一定速度で駆動し、停止位置に近づくと前記アクチュエーター(101)の速度をそれまでより遅くすることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用無段変速機。
【請求項4】
前記制御部(111)は、前記アクチュエーター(101)をデューティー制御し、前記遊星回転部材(55)が停止位置に近づくと、前記アクチュエーター(101)の速度を遅くするようにデューティー比を可変させることを特徴とする請求項3に記載の車両用無段変速機。
【請求項5】
前記制御部(111)は、前記アクチュエーター(101)を一定のデューティー比で駆動し、前記センサー(103)の出力信号の変化量の総和を求めると共に、前記センサー(101)によって検出される位置が予め定めた計測点(P0)を通過するまでカウンタ数を一定周期でカウントアップし、前記計測点(P0)を通過した後、前記変化量の総和を前記カウンタ数で除算した値に基づいて、前記遊星回転部材(55)が所定の移動量だけ移動したと判定した場合に、前記アクチュエーター(101)を停止させることを特徴とする請求項4に記載の車両用無段変速機。
【請求項6】
前記制御部(111)は、前記センサー(103)の出力信号に基づいて検出される位置が予め定めた演算処理開始位置(PA)を通過した後に、前記センサー(103)の出力信号の変化量の総和を求めると共に、前記カウンタ数を算出する演算処理を行うことを特徴とする請求項5に記載の車両用無段変速機。
【請求項7】
前記制御部(111)は、前記ロー位置から前記アクチュエーター(101)に供給する駆動信号及び駆動時間に基づいて、前記遊星回転部材(55)をニュートラル位置に停止させ、
前記基準位置は、前記ニュートラル位置であることを特徴とする請求項1に記載の車両用無段変速機。
【請求項8】
前記ドライブフェース(53)と前記ドリブンフェース(54)との回転数の差に基づいて変速比を検出する変速比検出部(102)を有し、
前記制御部(111)は、前記ロー位置に停止した後、前記変速比検出部(102)の検出結果に基づいて前記遊星回転部材(55)の位置を制御することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の車両用無段変速機。
【請求項9】
前記ドライブフェース(53)は、前記ドリブンフェース(54)よりも小径に構成され、
当該車両用無段変速機におけるニュートラル制御は、前記遊星回転部材(55)と前記ドライブフェース(53)とを非接触にすることによって行われることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の車両用無段変速機。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−211638(P2012−211638A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77313(P2011−77313)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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