説明

車両用無段変速機

【課題】ロー位置に変速制御する際の駆動力の抜けを防止することができる車両用無段変速機を提供する。
【解決手段】ドライブフェースとドリブンフェースとの間の遊星回転部材の位置に応じた信号を出力するセンサーの出力信号に基づいて、ニュートラル領域とドライブ領域との境目に対応するロー限界位置PLを検出し、このロー限界位置PLに基づいて設定又は更新した目標ロー位置PL1よりもトップ側で変速制御するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライブフェースとドリブンフェースとの間に、軸方向に移動して両フェース間の変速比を可変可能、かつ、いずれかのフェースから離間可能な遊星回転部材を備える車両用無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車等に搭載される車両用無段変速機には、エンジン動力が伝達されるドライブフェースとして機能する駆動回転部材と、駆動輪に動力伝達するドリブンフェースとして機能する従動回転部材とを備え、ドライブフェースとドリブンフェースとの間に、軸方向に移動して両フェース間の変速比を可変可能、かつ、ドリブンフェースから離間可能な遊星回転部材として機能する変速回転部材を設けた構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−214958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の車両用無段変速機では、ドライブフェースとドリブンフェースとの回転数の比を求めることによって変速比を特定し、この変速比から遊星回転部材の位置を把握している。しかし、変速比だけでロー位置に制御しようとすると、遊星回転部材をニュートラル領域内に移動してしまう事態が生じた場合には、駆動力の抜けが発生してしまうおそれがある。
また、部品精度のばらつきや部品摩耗によって、両フェース間のロー位置が変わるため、レシオ幅を有効に使ったロー位置にすることが困難であった。
【0005】
本発明は、上述した事情を鑑みてなされたものであり、ロー位置に変速制御する際の駆動力の抜けを防止することができる車両用無段変速機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するため、本発明は、駆動力が伝達されるドライブフェース(53)と、このドライブフェース(53)と間隔を空けて配置されるドリブンフェース(54)と、両フェース間にて軸方向に移動自在に設けられ、軸方向に移動することにより前記両フェースに接触した状態を保持しながら両フェース間の変速比を可変可能、かつ、いずれかのフェースから離間可能な遊星回転部材(55)と、前記遊星回転部材(55)を軸方向に移動するアクチュエーター(101)とを備える車両用無段変速機において、前記アクチュエーター(101)を制御する制御部(111)と、前記遊星回転部材(55)の位置に応じた信号を出力するセンサー(103)とを有し、前記制御部(111)は、前記アクチュエーターを作動させて前記遊星回転部材(55)を動力伝達不能なニュートラル領域と動力伝達可能なドライブ領域との間で移動させ、前記センサー(103)の出力信号に基づいて、前記ニュートラル領域と前記ドライブ領域との境目で生じる前記遊星回転部材(55)の移動速度の変化を検出し、該境目に対応するロー限界位置を検出する検出処理を実行し、前記ロー限界位置に基づいて目標ロー位置を設定又は更新すると共に、この目標ロー位置よりもトップ側で変速制御することを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、ドライブフェースとドリブンフェースとの間の遊星回転部材の位置に応じた信号を出力するセンサーの出力信号に基づいて、ニュートラル領域とドライブ領域との境目に対応する現在のロー限界位置を検出し、このロー限界位置に基づいて設定又は更新した目標ロー位置よりもトップ側で変速制御するので、ロー位置等への制御時に遊星回転部材がニュートラル領域に移動する事態を回避でき、駆動力の抜けを防止することができる。
上記構成において、前記ドライブフェース(53)と前記ドリブンフェース(54)との回転数の差に基づいて変速比を検出する変速比検出部(102)を有し、前記制御部(111)は、前記センサー(103)によって検出される位置が、前記目標ロー位置よりもトップ側の場合には、前記変速比検出部(102)によって検出される変速比に基づいてアクチュエーター(101)を制御し、前記目標ロー位置よりもロー側の場合には、前記センサー(103)によって検出される位置に基づいて前記アクチュエーター(101)を前記目標ロー位置に制御するようにしてもよい。この構成によれば、駆動力の抜けを防止しながら、実際の変速比に基づく変速制御を優先して行うことができる。
【0008】
また、上記構成において、前記目標ロー位置は、前記ロー限界位置をトップ側にオフセットした位置であるようにしてもよい。この構成によれば、オフセットを設けた分、駆動力の抜けをより確実に防止することができる。
また、上記構成において、前記制御部(111)は、前記アクチュエーター(101)を一定速度で作動させて前記遊星回転部材(55)を前記ニュートラル領域と前記ドライブ領域との間で移動させ、前記センサー(103)の出力信号の変化量に基づいて、前記境目で生じる前記遊星回転部材(55)の移動速度の変化を検出するようにしてもよい。この構成によれば、アクチュエーターの速度を可変させる場合に比して変化を検出し易くできる。
【0009】
また、上記構成において、前記制御部(111)は、前記アクチュエーター(101)を作動させて前記遊星回転部材(55)を前記ドライブ領域から前記ニュートラル領域へ移動させ、このときに前記遊星回転部材(55)が移動限界に到達することによって生じる前記遊星回転部材(55)の移動速度の変化を前記センサー(103)で検出することにより、ニュートラル限界位置を検出し、このニュートラル限界位置に基づいて目標ニュートラル位置を設定又は更新するようにしてもよい。この構成によれば、部品精度のばらつきや部品摩耗が生じても、目標ニュートラル位置を適切に設定することができる。
【0010】
また、上記構成において、前記制御部(111)は、前記アクチュエーター(101)を作動させて前記遊星回転部材(55)を前記ドライブ領域から前記ニュートラル領域へ移動させる場合に、前記車両用無段変速機を搭載する車両が停車中か否かを判断し、停車中の場合に、前記遊星回転部材(55)を移動限界に到達させて前記ニュートラル限界位置を検出する処理を行うようにしてもよい。この構成によれば、停車中の時間を有効利用してニュートラル限界位置の検出処理を行うことができると共に、エンジンを停止した場合でも車両の押し歩きが可能になる。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、ドライブフェースとドリブンフェースとの間の遊星回転部材の位置に応じた信号を出力するセンサーの出力信号に基づいて、動力伝達不能なニュートラル領域と動力伝達可能なドライブ領域との境目に対応するロー限界位置を検出し、このロー限界位置に基づいて設定又は更新した目標ロー位置よりもトップ側で変速制御するので、ロー位置等への制御時に遊星回転部材がニュートラル領域に移動する事態を回避でき、駆動力の抜けを防止することができる。
また、ドライブフェースとドリブンフェースとの回転数の差に基づいて変速比を検出する変速比検出部を有し、制御部は、センサーによって検出される位置が、目標ロー位置よりもトップ側の場合には、変速比検出部によって検出される変速比に基づいてアクチュエーターを制御し、目標ロー位置よりもロー側の場合には、センサーによって検出される位置に基づいてアクチュエーターを目標ロー位置に制御するようにすれば、駆動力の抜けを防止しながら、実際の変速比に基づく変速制御を優先して行うことができる。
【0012】
また、目標ロー位置は、ロー限界位置をトップ側にオフセットした位置であるようにすれば、オフセットを設けた分、駆動力の抜けをより確実に防止することができる。
また、制御部は、遊星回転部材を移動するアクチュエーターを一定速度で作動させて遊星回転部材をニュートラル領域とドライブ領域との間で移動させ、センサーの出力信号の変化量に基づいて、上記境目で生じる遊星回転部材の移動速度の変化を検出するようにすれば、アクチュエーターの速度を可変させる場合に比して変化を検出し易くできる。
【0013】
また、制御部は、アクチュエーターを作動させて遊星回転部材をドライブ領域からニュートラル領域へ移動させ、このときに遊星回転部材が移動限界に到達することによって生じる遊星回転部材の移動速度の変化をセンサーで検出することにより、ニュートラル限界位置を検出し、このニュートラル限界位置に基づいて目標ニュートラル位置を設定又は更新するようにすれば、部品精度のばらつきや部品摩耗が生じても、目標ニュートラル位置を適切に設定することができる。
また、制御部は、アクチュエーターを作動させて遊星回転部材をドライブ領域からニュートラル領域へ移動させる場合に、車両用無段変速機を搭載する車両が停車中か否かを判断し、停車中の場合に、遊星回転部材を移動限界に到達させてニュートラル限界位置を検出する処理を行うようにすれば、停車中の時間を有効利用してニュートラル限界位置の検出処理を行うことができると共に、エンジンを停止した場合でも車両の押し歩きが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用無段変速機が適用されるエンジンの断面図である。
【図2】無段変速機がロー変速比にある状態を示す図である。
【図3】無段変速機がトップ変速比にある状態を示す図である。
【図4】無段変速機の制御装置の構成を示す図である。
【図5】ニュートラル領域(N)とドライブ領域(D)との間の切替制御のメインフローを示す図である。
【図6】ドライブ移行処理のフローチャートを示す図である。
【図7】センサーの出力レベルVoutと変速制御モーターの駆動デューティー比との関係を示す図である。
【図8】変速制御のフローチャートを示す図である。
【図9】ニュートラル移行処理のフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る車両用無段変速機が適用されるエンジンの断面図である。
このエンジン10は、自動二輪車に搭載されるエンジンであり、このエンジン10のクランクケース11内には、エンジン駆動軸であるクランク軸12が収容されるクランク室13、及び、無段変速機(車両用無段変速機)50が収容される変速機室14が画成されている。無段変速機50は、クランク軸12の回転を変速して最終出力軸27に伝達し、この最終出力軸27にドライブスプロケット28及び駆動チェーン29を介して連結された不図示の駆動輪(後輪)を様々な変速比で駆動させる。
クランク軸12は、クランク室13の左右の側壁23A,23Bにそれぞれ設けられたベアリング15に回転自在に支持され、車幅方向に延びている。クランク軸12の一端には発電機16が設けられ、クランク軸12の他端には発進クラッチ17が設けられている。また、クランク軸12の中央部にはクランクウェブ18が設けられ、クランクウェブ18には、クランクピン19を介してコンロッド20が連結されている。
【0016】
発進クラッチ17は、クランク軸12上でクランク軸12と一体に回転するクラッチインナ17Aと、クランク軸12上で相対回転自在に設けられるクラッチアウタ17Bと、クラッチインナ17Aの回転による遠心力でクラッチインナ17Aとクラッチアウタ17Bとを接続するクラッチシュー17Cとを有する遠心クラッチである。
クラッチアウタ17Bには、クランク軸12上で相対回転自在に支持される出力歯車17Dが一体に設けられ、この出力歯車17Dは、無段変速機50の入力軸である変速機軸51に固定された入力歯車25と噛み合う。
つまり、この発進クラッチ17は、クランク軸12と無段変速機50の変速機軸51との間に設けられ、クラッチインナ17Aと一体に回転するクランク軸12が発進回転数(アイドリング回転数以上の回転数であり、例えば、2500rpm〜3000rpm内の回転数)以上になると、クランク軸12と変速機軸51との間を接続し、発進回転数を下回ると、クランク軸12と変速機軸51との間を切断する。
【0017】
また、クラッチアウタ17Bとクランク軸12との間には、クラッチアウタ17Bを一方向(クランク軸12と同じ回転方向)に回転させるワンウェイクラッチ91が配置される。このワンウェイクラッチ91は、発進クラッチ17が切断状態のときに、自動二輪車の駆動輪からの減速トルクを無段変速機50の入力歯車25及び出力歯車17Dを介してクランク軸12に伝達させ、これによって、いわゆるエンジンブレーキを発生させる。
この場合、出力歯車17Dの回転数がクランク軸12の回転数より低くなる場合、例えば、アイドリング回転数(例えば、1500〜2000rpm)未満となる場合には、ワンウェイクラッチ91が切断状態となり、出力歯車17Dをクランク軸12に対して空回りさせ、クランク軸12の回転数をアイドリング回転数以上に維持することができる。
なお、発進クラッチ17が接続されている場合には、駆動輪からの減速トルクが発進クラッチ17を介してクランク軸12に伝達され、これによってエンジンブレーキが発生する。発進クラッチ17の側方はクラッチカバー21で覆われ、発電機16の側方は発電機カバー22で覆われる。
【0018】
変速機室14はクランク室13の後部に連なるケーシング23内に設けられている。無段変速機50は、ケーシング23の左右の側壁23A,23Bに跨ってクランク軸12と平行に延びる変速機軸(入力軸)51と、変速機軸51に設けられる変速部52とを有している。
変速機軸51は、左右の側壁23A,23Bに設けられたボールベアリング24A,24Bを介して回転自在に支持され、変速機軸51における発進クラッチ17側の端はケーシング23の外側まで延び、この端には、発進クラッチ17の出力歯車17Dに常時噛み合う入力歯車25が固定されている。
【0019】
変速機室14には、変速機軸51と前後に間隔を空けて平行に配置される減速軸26及び最終出力軸27が設けられている。減速軸26は、変速部52の出力側に噛み合う被動歯車26Aと、最終出力軸27に固定された被動歯車27Aに噛み合う駆動歯車26Bとを有している。最終出力軸27の端に形成された出力軸端部27Bは、ケーシング23の車幅方向外側に突出し、この突出端にドライブスプロケット28が固定されている。ドライブスプロケット28と駆動輪(後輪)との間には駆動チェーン29が掛け渡される。
【0020】
図2は、無段変速機50がロー変速比にある状態を示す図である。図3は、無段変速機50がトップ変速比にある状態を示す図である。
図1〜図3に示すように、無段変速機50は、変速機軸51上で変速部52が作動することによって、ロー変速比とトップ変速比との間で無段階に変速比を可変させる。
変速機軸51は、軸芯に中空部42を有し、中空部42には、オイルポンプ(不図示)から潤滑オイルが供給される。変速機軸51は、中空部42を外周面に連通させる油孔43を複数有し、油孔43を通った潤滑オイルは、無段変速機50の各部に供給される。
【0021】
変速部52は、変速機軸51と一体に回転するドライブ側伝達部材(ドライブフェース)53と、変速機軸51に相対回転自在に支承されるドリブン側伝達部材(ドリブンフェース)54と、ドライブ側伝達部材53とドリブン側伝達部材54との間に設けられ動力を伝達する複数の遊星回転部材55と、変速機軸51の軸方向に移動可能な遊星キャリアー56と、遊星キャリアー56に設けられ各遊星回転部材55を軸支する複数の遊星支持軸57とを備えて構成される。
ドライブ側伝達部材53は、単一の軸である変速機軸51に一体に設けられ、ドリブン側伝達部材54は、変速機軸51に軸支されてドライブ側伝達部材53に対して回転自在に設けられる。
【0022】
このドライブ側伝達部材53は、変速機軸51の外周面から径方向に突出する円板状受け部60と、変速機軸51に嵌合されるリング状の駆動回転部材61とを有している。円板状受け部60と駆動回転部材61とは、円板状受け部60と駆動回転部材61との間に設けられる入力側トルクカム(調圧カム)63によって連結され、一体に回転する。駆動回転部材61の外周面には、遊星回転部材55に接触するテーパー状の摩擦接触面61Aが形成されている。
このため、入力歯車25を介して変速機軸51に入力されたエンジン駆動力は、入力側トルクカム63を介して駆動回転部材61に伝達され、この駆動回転部材61と摩擦接触する遊星回転部材55に伝達される。
【0023】
ドリブン側伝達部材54は、ドライブ側伝達部材53側に開放した椀状に形成される従動回転部材64と、減速軸26の被動歯車26Aに噛み合う出力歯車部65とを有している。従動回転部材64は、変速機軸51の外周に設けられるニードルベアリング66を介して変速機軸51に対して相対回転可能に設けられ、従動回転部材64の内周面には、遊星回転部材55に接触するテーパー状の摩擦接触面71Aが形成されている。
より具体的には、従動回転部材64は、ニードルベアリング66に支持される円筒状の基部69と、基部69から径方向に拡径する円板部70と、円板部70からドライブ側伝達部材53側へ行くに従って拡径する円錐台状の筒部71とを有しており、この筒部71の内周面が、遊星回転部材55に接触するテーパー状の摩擦接触面71Aとなっている。
【0024】
出力歯車部65は、変速機軸51の外周に設けられるボールベアリング67を介して変速機軸51に対して相対回転可能に設けられている。従動回転部材64と出力歯車部65とは、従動回転部材64と出力歯車部65との間に設けられる出力側トルクカム(調圧カム)68によって連結され、一体に回転する。
このため、遊星回転部材55に伝達されたエンジン駆動力は、遊星回転部材55と摩擦接触する従動回転部材64に伝達され、出力側トルクカム68を介して出力歯車部65に伝達された後に、減速軸26に伝達される。つまり、ドリブン側伝達部材54の基部69及び出力歯車部65が、無段変速機50下流に配置された減速軸26に動力を出力する、無段変速機50の出力軸として機能する。
【0025】
出力歯車部65は円筒状に形成され、出力歯車部65の内周には、ボールベアリング67が収容されるベアリング収容部72が形成されている。ベアリング収容部72は段状に形成され、ボールベアリング67は、その外周面67A及び側面67Bがベアリング収容部72に当接した状態で配置されている。
出力歯車部65は、従動回転部材64の基部69の外周面に沿うように基部69の外側を延びる押圧片73を有している。押圧片73の先端と円板部70との間には、従動回転部材64をドライブ側伝達部材53側に付勢する弾性部材(本構成では皿ばね)74が介挿され、この弾性部材74の弾性力によって従動回転部材64はドライブ側伝達部材53側に付勢されている。
【0026】
変速機軸51上のボールベアリング24A,67間には、エンジン10の各部にオイルを送出するオイルポンプ(不図示)を駆動するポンプ駆動歯車75が固定されている。また、ポンプ駆動歯車75とボールベアリング67との間には、リング状のシム76が固定されている。シム76は、変速機軸51に嵌め込まれるコッタ(不図示)によって軸方向に固定されている。
【0027】
遊星キャリアー56は、従動回転部材64側に向かって小径になる円錐状の第1キャリア半体77と、円板状に形成され第1キャリア半体77を支持する第2キャリア半体78とを備えて構成されている。遊星キャリアー56は、第1キャリア半体77の先端側の内周面、及び、第2キャリア半体78の内周面にニードルベアリング79をそれぞれ有し、ニードルベアリング79を介して変速機軸51に対し回転可能かつ軸方向に摺動可能となっている。
【0028】
ケーシング23の右の側壁23Bには、側壁23Bを貫通して変速機軸51と略平行に延びるガイド軸30が設けられている。第2キャリア半体78は、ガイド軸30が挿通されるガイド軸挿通部78Bを有し、ガイド軸30によって変速機軸51の軸方向への移動がガイドされると共に、変速機軸51に対する相対回転が規制される。すなわち、遊星キャリアー56は、変速機軸51の軸方向に移動可能であるが、変速機軸51の軸回りには回転しない。また、遊星キャリアー56がガイド軸30に規制されて回転しないため、遊星キャリアー56に支持されている遊星支持軸57も、ケーシング23に対して変速機軸51の軸回りに回り止めされていることになる。
また、第2キャリア半体78の後面には、変速機軸51の軸方向に延びる被動ねじ部78Aが設けられている。
【0029】
第1キャリア半体77の外周面には、その周方向に等間隔を空けて複数の窓孔が形成されている。各遊星支持軸57は、変速機軸51の軸線を中心線とする円錐母線に沿って上記窓孔に重なるように配置され、遊星回転部材55は外周側の一部が上記窓孔から露出するように遊星支持軸57に支持される。すなわち、遊星回転部材55は、従動回転部材64の側に頂点を有し変速機軸51の軸線を中心線とする円錐の円錐母線に沿うように傾斜しており、ドライブ側伝達部材53側に行くほど径方向に広がるように傾斜して配置されている。
【0030】
第1キャリア半体77には、遊星支持軸57の従動回転部材64側の端を支持する止まり穴の先端側支持穴80と、遊星支持軸57のドライブ側伝達部材53側の端を支持する基端側支持孔81とが形成されている。遊星支持軸57は基端側支持孔81側から挿入され、基端側支持孔81及び先端側支持穴80の両方の嵌合部に隙間嵌合により固定される。遊星支持軸57は隙間嵌合によって所定の隙間を有して嵌合されているため、遊星支持軸57に作用する力に応じて基端側支持孔81及び先端側支持穴80内でわずかに移動することができる。ここで、一例として、遊星支持軸57の直径は6mmであり、この場合、基端側支持孔81及び先端側支持穴80の内径は、遊星支持軸57の直径よりも1μm〜16μmだけ大きく設定される。
第1キャリア半体77及び遊星支持軸57は、遊星支持軸57が隙間嵌合することで、遊星支持軸57が移動可能な調整機構を構成している。
【0031】
遊星回転部材55は、その軸方向の中央部が大径で両端部が小径となるテーパー状に形成された筒状部材であり、駆動回転部材61の摩擦接触面61Aに接触する第1テーパー面55Aと、従動回転部材64の摩擦接触面71Aに接触する第2テーパー面55Bと、遊星回転部材55中央部をその軸方向に貫通する支持孔55Cとを有している。遊星支持軸57の中心を通る側方断面視(図2参照)では、第1テーパー面55A及び第2テーパー面55Bにおいて互いに対向する辺は、平行となっている。
支持孔55Cの両端部には、一対のニードルベアリング82,82が設けられ、駆動回転部材61はニードルベアリング82,82を介して遊星支持軸57に相対回転可能かつ軸方向に摺動可能に設けられている。
【0032】
遊星キャリアー56とボールベアリング24Bとの間には、変速機軸51上で回転自在な駆動ねじ部40が設けられている。駆動ねじ部40は、ボールベアリング41を介して回転自在に設けられ、遊星キャリアー56の被動ねじ部78Aに螺合されている。駆動ねじ部40は、図1に示す変速制御モーター(アクチュエーター)101及び減速機構(図1参照)を介して回転駆動され、駆動ねじ部40が回転することで被動ねじ部78Aに軸方向へ移動する力が作用し、遊星キャリアー56が変速機軸51の軸方向に移動される。すなわち、無段変速機50では、遊星回転部材55を支持する遊星キャリアー56を、上記変速制御モーター101の駆動によって変速機軸51の軸方向に移動させることができ、これにより、変速比の変更が行われる。
【0033】
図2及び図3に示すように、駆動回転部材61の摩擦接触面61Aと遊星回転部材55の第1テーパー面55Aとの接触点から変速機軸51の軸線までの距離を距離A、摩擦接触面61Aと第1テーパー面55Aとの接触点から遊星支持軸57の軸線までの距離を距離B、従動回転部材64の摩擦接触面71Aと遊星回転部材55の第2テーパー面55Bとの接触点から遊星支持軸57の軸線までの距離を距離C、従動回転部材64の摩擦接触面71Aと遊星回転部材55の第2テーパー面55Bとの接触点から変速機軸51の軸線まで距離を距離Kとし、駆動回転部材61の回転数をNI、従動回転部材64の回転数をNOとし、変速比RをR=NI/NOとしたときに、R=NI/NO=(B/A)×(K/C)となる。
ここで、遊星回転部材55が変速機軸51の軸方向に移動したとしても距離A,Kは一定であり変化しない。従って、変速比R=B/Cで表すことができる。
【0034】
図2に示すように、遊星回転部材55が従動回転部材64に近接する方向に移動すると、距離Bが大きくなるとともに距離Cが小さくなり、変速比Rが大きくなる。すなわち、距離Bが最大かつ距離Cが最小となる図2の状態がロー変速比の限界位置(ロー限界位置)PLとなる。
また、図3に示すように、遊星キャリアー56が従動回転部材64から離れる方向に移動すると、距離Bが小さくなるとともに距離Cが大きくなり、変速比Rが小さくなる。すなわち、距離Bが最小かつ距離Cが最大となる図3の状態がトップ変速比の位置(トップ位置)PTとなる。
【0035】
このようにして、図2に示すように、遊星回転部材55がロー限界位置PLからトップ位置PTに移動する範囲が、遊星回転部材55がドライブ側伝達部材53とドリブン側伝達部材54との間を動力伝達するドライブ領域(D)となる。
遊星回転部材55がドライブ領域(D)にある場合には、変速機軸51がクランク軸12からの動力で回転すると、変速機軸51と一体に回転するドライブ側伝達部材53が各遊星回転部材55を回転させ、変速比Rに応じて変速された回転が各遊星回転部材55を介してドリブン側伝達部材54に伝達され、出力歯車部65を介して減速軸26,最終出力軸27に順に伝達される。
【0036】
一方、本構成では、図2に示すロー限界位置PLから、遊星回転部材55が更に従動回転部材64に近接する方向に移動した場合には、遊星回転部材55の内周に位置する第1テーパー面55Aと、ドライブ側伝達部材53の外周に位置する摩擦接触面61Aとの摩擦接触が解除される。つまり、遊星回転部材55がドライブ側伝達部材53から離間し、遊星回転部材55とドライブ側伝達部材53との動力伝達が遮断される。
この遊星回転部材55とドライブ側伝達部材53との動力伝達が遮断される範囲が、ドライブ側伝達部材53とドリブン側伝達部材54との間を動力伝達不能にするニュートラル領域(N)(図2参照)となっている。
【0037】
図4は、無段変速機50の制御装置100の構成を示す図である。
制御装置100は、自動二輪車の各部を電子制御する車両制御装置の一部を構成し、変速制御モーター101と、回転数から変速比を検出するための変速比検出部102と、遊星回転部材55の位置を検出するためのセンサー(位置センサー)103と、制御部111とを備えている。
変速制御モーター101は、制御部111によってデューティー制御(PWM制御)されるDCモーターであり、遊星回転部材55を軸方向に移動するアクチュエーターとして機能する。
変速比検出部102は、ドライブ側伝達部材53とドリブン側伝達部材54との各々の回転数を検出し、これらの回転数の比を求めることによって変速比を検出する。なお、変速比を検出する演算処理は、制御部111が行ってもよい。
【0038】
制御部111は、CPUと、RAMやROM等のメモリー112とを具備するコンピューターとして構成され、自動二輪車の各部を制御する。上述の変速比検出部102が変速比を検出できるのは、遊星回転部材55がドライブ領域(D)にあり、かつ、ドライブ側伝達部材53とドリブン側伝達部材54との両方が回転している、という条件を満たす場合である。
このため、制御部111は、上記条件を満たす場合には、変速比検出部102によって変速比を検出し、この変速比が、エンジン回転数,車速及び運転者のスロットル操作等に基づいて設定した目標変速比になるように、変速制御モーター101をフィードバック制御する。これにより、遊星回転部材55を目標の変速比に対応する位置に精度良く制御することができる。
【0039】
ところで、変速比検出部102によって検出される変速比だけでロー位置等に制御しようとすると、遊星回転部材55をニュートラル領域(N)内に移動してしまうおそれがある。この場合、駆動力の抜けが発生してしまう。
そこで、本実施形態では、上記センサー103として、遊星回転部材55の位置を検出するポテンショメーター(位置センサー)を備え、ニュートラル領域(N)からドライブ領域(D)への移行時(N→D切替時)には、このセンサー103の出力信号に基づいてニュートラル領域(N)とドライブ領域(D)との間の境目を検出し、この境目に対応するロー限界位置PLを検出する検出処理を実行し、このロー限界位置PLに基づいて目標ロー位置PL1を設定する。そして、この目標ロー位置PL1よりもトップ側で変速制御するようにしている。以下、この場合の制御を説明する。
【0040】
図5は、ニュートラル領域(N)とドライブ領域(D)との間の切替制御のメインフローを示している。前提として、この自動二輪車は、無段変速機50の動作モードを、ニュートラル/ドライブに切り替える操作部であるN−Dスイッチを具備しており、制御部111は、このN−Dスイッチの操作に応じてニュートラル領域(N)とドライブ領域(D)とに切替制御するようになっている。このN−Dスイッチは、運転者が手動操作するものでもよいし、制御部111が車速等の車両情報、或いは、運転者のスロットル操作等に基づいて自動切替するものであってもよい。
【0041】
図5に示すように、制御部111は、N−DスイッチがN又はDに切り替わったか否かを判断し(ステップS1)、Dに切り替わった場合はドライブモードへ移行するドライブ移行処理を行い(ステップS2)、Nに切り替わった場合はニュートラルへ移行するニュートラル移行処理を行う(ステップS3)。
図6は、ドライブ移行処理のフローチャートである。ドライブ移行処理は、ニュートラル領域(N)に位置する遊星回転部材55を、ドライブ領域(D)のロー位置に移動させる処理(N→D切替処理)である。また、図7は、このときのセンサー103の出力レベルVoutと変速制御モーター101の駆動デューティー比との関係を示している。
【0042】
まず、制御部111は、変速制御モーター101を一定のデューティー比(本実施形態では30%duty(図7参照))の駆動信号で駆動し、遊星回転部材55をドライブ領域(D)へ向けて移動させる(ステップS11)。
ここで、デューティー比が小さいときは電圧がHiレベルの時間が短くなるので、変速制御モーター101の回転時間が短く、回転速度が実質的に遅くなり、デューティー比が大きいときは電圧がHiレベルの時間が長くなるので、変速制御モーター101の回転時間が長くなり、回転速度が実質的に速くなる。制御部111は、上記ステップS11では一定のデューティー比とするので、変速制御モーター101を一定の回転速度で駆動し、遊星回転部材55を一定速度で移動させる。
【0043】
遊星回転部材55を移動させている間、制御部111は、センサー103の出力信号の変化量を計算する処理を行う(ステップS12)。そして、制御部111は、センサー103の出力信号の変化量が予め定めた閾値を下回ったか否かを監視する(ステップS13)。ここで、ポテンショメーターであるセンサー103の出力信号は、遊星回転部材55の位置に比例する信号レベルとなるため、遊星回転部材55が一定速度で移動している場合は、単位時間の信号変化量は一定である。
ところが、遊星回転部材55がドライブ側伝達部材53に非接触の状態から接触の状態へ変化する時点、つまり、ニュートラル領域(N)とドライブ領域(D)との間の境目では、遊星回転部材55の移動速度が減速することとなり、センサー103の信号変化量が小に変化する。
【0044】
上記ステップS13で用いる閾値は、上記境目での信号変化量を判別する閾値に設定されており、事前に測定された信号変化量(例えば、30%dutyの場合は変化量0.4V〜0.6V、60%dutyの場合は変化量0.8V〜1.2V)を判定する閾値(30%dutyの場合は0.6V、60%dutyの場合は1.2V)とされる。
このため、制御部111は、ステップS13の処理により、遊星回転部材55がニュートラル領域(N)とドライブ領域(D)との間の境目に位置したタイミングを検出することができる。この場合、制御部111は、変速制御モーター101の駆動を停止する(ステップS14)。これによって、制御部111は、遊星回転部材55を上記境目に対応するロー限界位置PL近傍のロー位置に停止させることができる。つまり、現在のレシオ幅を有効に使ったロー位置に制御することが可能になる。
【0045】
次に、制御部111は、センサー103により、その時点の位置(ロー限界位置PL)に対応する位置情報を取得し、ロー限界位置PLの位置情報としてメモリー112に記録する(ステップS15)。そして、制御部111は、ロー限界位置PLの位置情報に基づいて目標ロー位置PL1を算出し、この目標ロー位置PL1の情報をメモリー112に記録する(ステップS16)。この場合、制御部111は、ロー限界位置PLの位置情報に対し、予め定めたオフセット値を加算することにより、ロー限界位置PLをトップ側にオフセットさせた情報を目標ロー位置PL1として算出する。
このとき、メモリー112に目標ロー位置PL1が既に記録されていれば、その目標ロー位置PL1を、新たに算出した目標ロー位置PL1に更新し、メモリー112に未記録であった場合には、算出した目標ロー位置PL1を記録する。これにより、現在のロー限界位置PLから得た目標ロー位置PL1がメモリー112に記録される。
【0046】
図8は、変速制御のフローチャートである。
まず、制御部111は、センサー103によって検出される位置が、メモリー112に記録される目標ロー位置PL1よりもロー側(本実施形態では目標ロー位置PL1以下のロー側)か否かを判断し(ステップS21)、ロー側でない場合(ステップS21:NO)、メモリー112に予め記録された目標変速比マップ(スロットル開度や車速等から目標変速比を特定する情報)から目標変速比を検索し、変速比検出部102によって検出される変速比が目標変速比になるように、変速制御モーター101をフィードバック制御する(ステップS22)。この場合、センサー103によって検出される位置が目標ロー位置PL1よりもロー側にならない範囲で変速制御モーター101が制御される。
【0047】
一方、ステップS21において、ロー側と判断された場合(ステップS21:YES)、制御部111は、センサー103によって検出される位置が、メモリー112に記録される目標ロー位置PL1になるように、変速制御モーター101をフィードバック制御する(ステップS23)。以上が変速制御である。この変速制御によれば、目標ロー位置PL1よりもロー側に制御されないので、遊星回転部材55がニュートラル領域(N)内に移動して駆動力の抜けが発生してしまう事態を防止できる。
なお、ステップS23の処理は、上記処理に代えて、目標ロー位置PL1に対応する変速比を目標変速比に設定し、変速比検出部102によって検出される変速比が上記目標変速比になるように、変速制御モーター101をフィードバック制御するようにしてもよい。
【0048】
図9は、ニュートラル移行処理のフローチャートである。このニュートラル移行処理は、ドライブ領域(D)にある遊星回転部材55を、ニュートラル領域(N)内の目標ニュートラル位置PN1に移動させる処理(D→N切替処理)である。この目標ニュートラル位置PN1は、メモリー112に記録されている。
図9に示すように、ニュートラル領域(N)に移行する場合、制御部111は、まず、センサー103の出力信号の変化量を計算する処理を開始する(ステップS30)。次に、制御部111は、センサー103によって検出される位置が、メモリー112に記録される目標ロー位置PL1よりもロー側((本実施形態では目標ロー位置PL1以下のロー側))か否かを判断する(ステップS31)。
そして、目標ロー位置PL1よりもロー側でない場合(ステップS31:NO)、制御部111は、センサー103によって検出される位置が、メモリー112に記録される目標ニュートラル位置PN1になるように、変速制御モーター101をフィードバック制御する(ステップS32)。この場合、センサー103によって検出される位置が目標ニュートラル位置PN1よりもロー側にならない範囲で変速制御モーター101が制御される。
【0049】
一方、ステップS31において、目標ロー位置PL1よりもロー側と判断された場合(ステップS31:YES)、制御部111は、自動二輪車が具備するサイドスタンド(スタンド)が出された状態、つまり、スタンドを用いた停車状態か否かを判断し(ステップS33)、スタンドを用いた停車状態でない場合には(ステップS33:NO)、長時間停車した状態(例えば、信号待ち等で比較的長い停車状態)か否かを判断する(ステップS34)。そして、いずれの駐車状態でもない場合、制御部111は、変速制御モーター101の駆動を停止する(ステップS35)。
なお、ステップS33の処理は、例えば、制御部111がサイドスタンドの検出スイッチの状態に基づいて判断すればよく、ステップS34の処理は、例えば、制御部111が車両停止時間を計測して判断すればよい。
【0050】
駐車状態と判断した場合(ステップS33:YES、又は、ステップS34:YES)、制御部111は、目標ロー位置PL1の設定処理(ステップS36〜S40の処理)を実行する。すなわち、制御部111は、まず、変速制御モーター101を一定のデューティー比(例えば30%duty)の駆動信号で駆動し、遊星回転部材55をドライブ領域(D)からニュートラル領域(N)の方向へ移動させる(ステップS36)。
この移動の間、制御部111は、センサー103の出力信号の変化量が予め定めた閾値を下回ったか否かを監視する(ステップS37)。ここで、遊星回転部材55が、従動回転部材64の基部69に当接する際に、遊星回転部材55の移動速度が減速するので、センサー103の信号変化量が小に変化する。上記ステップS37で用いる閾値は、遊星回転部材55が従動回転部材64に当接する際の信号変化量を判別する閾値に設定されている。
【0051】
このため、制御部111は、ステップS37の処理により、遊星回転部材55が従動回転部材64に当接したタイミングを検出することができる。この場合、制御部111は、変速制御モーター101の駆動を停止し(ステップS38)、センサー103により、その時点の位置であるニュートラル限界位置PNに対応する位置情報を取得し、ニュートラル限界位置PNをメモリー112に記録する(ステップS39)。そして、制御部111は、ニュートラル限界位置PNの位置情報に基づいて目標ニュートラル位置PN1を算出し、この目標ニュートラル位置PN1の情報をメモリー112に記録する(ステップS40)。この場合、制御部111は、ニュートラル限界位置PNの位置情報に対し、予め定めたオフセット値を加算することにより、ニュートラル限界位置PNをトップ側にオフセットさせ、例えば、ニュートラル領域(N)の略中間位置を、目標ニュートラル位置PN1に設定する。
【0052】
このとき、メモリー112に目標ニュートラル位置PN1が既に記録されていれば、その目標ニュートラル位置PN1を、新たに算出した目標ニュートラル位置PN1に更新し、メモリー112に未記録であった場合には、算出した目標ニュートラル位置PN1を記録する。これにより、現在のニュートラル限界位置PNから得た目標ニュートラル位置PN1がメモリー112に記録される。
このニュートラル移行処理(ニュートラル制御)によれば、停車状態でサイドスタンドが出された場合、或いは、信号待ち等で長時間停車した場合等の走行途中の長時間停車時に、目標ニュートラル位置PN1の補正を行うと共に、ニュートラルに切り替わり、自動二輪車の押し歩きが可能になる。
【0053】
以上説明したように、本実施の形態によれば、制御部111は、ドライブ側伝達部材53とドリブン側伝達部材54との間の遊星回転部材55の位置に応じた信号を出力するセンサー103の出力信号に基づいて、ニュートラル領域(N)とドライブ領域(D)との境目で生じる遊星回転部材55の移動速度の変化を検出し、該境目に対応するロー限界位置PLを検出する検出処理を実行し、ロー限界位置PLに基づいて目標ロー位置PL1を設定又は更新すると共に、この目標ロー位置PL1よりもトップ側で変速制御するようにしたので、ロー位置等に変速制御する際に遊星回転部材55がニュートラル領域(N)に移動する事態を回避でき、駆動力の抜けを防止することができる。
しかも、実際のロー限界位置PLを検出して目標ロー位置PL1を設定するので、部品精度のばらつきや部品摩耗が生じても、適切な目標ロー位置PL1を設定することができ、駆動力の抜けを確実に防止することができる。また、レシオ幅を有効に使った目標ロー位置PL1を設定することが可能になる。
【0054】
また、制御部111は、図8に示すように、センサー103によって検出される位置が、目標ロー位置PL1よりもトップ側の場合には、変速比検出部102によって検出される変速比に基づいて変速制御モーター(アクチュエーター)101を制御し、目標ロー位置PL1よりもロー側の場合には、センサー103によって検出される位置に基づいて変速制御モーター101を目標ロー位置PL1に制御するので、駆動力の抜けを防止しながら、実際の変速比に基づく変速制御を優先して行うことができる。
また、目標ロー位置PL1をロー限界位置PLをトップ側にオフセットした位置にしているので、オフセットを設けた分、駆動力の抜けをより確実に防止することができる。
【0055】
また、制御部111は、変速制御モーター101を一定速度で作動させて遊星回転部材55をニュートラル領域(N)とドライブ領域(D)との間で移動させ、センサー103の出力信号の変化量に基づいて、上記境目で生じる遊星回転部材55の移動速度の変化を検出するので、変速制御モーター101の速度を可変させる場合に比して変化を検出し易くできる。
また、制御部111は、変速制御モーター101を作動させて遊星回転部材55をドライブ領域(D)からニュートラル領域(N)へ移動させ、このときに遊星回転部材55が移動限界に到達することによって生じる遊星回転部材55の移動速度の変化をセンサー103で検出することにより、ニュートラル限界位置PNを検出し、このニュートラル限界位置PNに基づいて目標ニュートラル位置PN1を設定又は更新するので、部品精度のばらつきや部品摩耗が生じても、目標ニュートラル位置PN1を適切に設定することができる。
しかも、制御部111は、自動二輪車が停車中か否かを判断し、停車中の場合に、ニュートラル限界位置PNを検出する上記処理を行うので、停車中の時間を有効利用して上記処理を行うことができると共に、エンジン10を停止した場合でも自動二輪車の押し歩きが可能になる。
【0056】
上述した実施形態は、あくまでも本発明の一態様を示すものであり、本発明の主旨を逸脱しない範囲で任意に変形及び応用が可能である。
例えば、上記実施形態では、遊星回転部材55を軸方向に移動するアクチュエーターとして、変速制御モーター101を使用する場合を説明したが、モーター以外のアクチュエーターを用いてもよい。
また、上記実施形態では、自動二輪車用の車両用無段変速機に本発明を適用する場合を説明したが、これに限らず、鞍乗り型車両等の車両の車両用無段変速機に本発明を広く適用することができる。なお、鞍乗り型車両とは、車体に跨って乗車する車両全般を含み、自動二輪車(原動機付き自転車も含む)のみならず、ATV(不整地走行車両)に分類される三輪車両や四輪車両を含む車両である。
【符号の説明】
【0057】
50 無段変速機(車両用無段変速機)
53 ドライブ側伝達部材(ドライブフェース)
54 ドリブン側伝達部材(ドリブンフェース)
55 遊星回転部材
100 制御装置
101 変速制御モーター(アクチュエーター)
102 変速比検出部
103 センサー(変速比検出センサー)
111 制御部
PL ロー限界位置
PL1 目標ロー位置
PN ニュートラル限界位置
PN1 目標ニュートラル位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力が伝達されるドライブフェース(53)と、このドライブフェース(53)と間隔を空けて配置されるドリブンフェース(54)と、両フェース間にて軸方向に移動自在に設けられ、軸方向に移動することにより前記両フェースに接触した状態を保持しながら両フェース間の変速比を可変可能、かつ、いずれかのフェースから離間可能な遊星回転部材(55)と、前記遊星回転部材(55)を軸方向に移動するアクチュエーター(101)とを備える車両用無段変速機において、
前記アクチュエーター(101)を制御する制御部(111)と、前記遊星回転部材(55)の位置に応じた信号を出力するセンサー(103)とを有し、
前記制御部(111)は、前記アクチュエーターを作動させて前記遊星回転部材(55)を動力伝達不能なニュートラル領域と動力伝達可能なドライブ領域との間で移動させ、前記センサー(103)の出力信号に基づいて、前記ニュートラル領域と前記ドライブ領域との境目で生じる前記遊星回転部材(55)の移動速度の変化を検出し、該境目に対応するロー限界位置を検出する検出処理を実行し、前記ロー限界位置に基づいて目標ロー位置を設定又は更新すると共に、この目標ロー位置よりもトップ側で変速制御することを特徴とする車両用無段変速機。
【請求項2】
前記ドライブフェース(53)と前記ドリブンフェース(54)との回転数の差に基づいて変速比を検出する変速比検出部(102)を有し、
前記制御部(111)は、前記センサー(103)によって検出される位置が、前記目標ロー位置よりもトップ側の場合には、前記変速比検出部(102)によって検出される変速比に基づいてアクチュエーター(101)を制御し、前記目標ロー位置よりもロー側の場合には、前記センサー(103)によって検出される位置に基づいて前記アクチュエーター(101)を前記目標ロー位置に制御することを特徴とする車両用無段変速機。
【請求項3】
前記目標ロー位置は、前記ロー限界位置をトップ側にオフセットした位置であることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用無段変速機。
【請求項4】
前記制御部(111)は、前記アクチュエーター(101)を一定速度で作動させて前記遊星回転部材(55)を前記ニュートラル領域と前記ドライブ領域との間で移動させ、前記センサー(103)の出力信号の変化量に基づいて、前記境目で生じる前記遊星回転部材(55)の移動速度の変化を検出することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の車両用無段変速機。
【請求項5】
前記制御部(111)は、前記アクチュエーター(101)を作動させて前記遊星回転部材(55)を前記ドライブ領域から前記ニュートラル領域へ移動させ、このときに前記遊星回転部材(55)が移動限界に到達することによって生じる前記遊星回転部材(55)の移動速度の変化を前記センサー(103)で検出することにより、ニュートラル限界位置を検出し、このニュートラル限界位置に基づいて目標ニュートラル位置を設定又は更新することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の車両用無段変速機。
【請求項6】
前記制御部(111)は、前記アクチュエーター(101)を作動させて前記遊星回転部材(55)を前記ドライブ領域から前記ニュートラル領域へ移動させる場合に、前記車両用無段変速機を搭載する車両が停車中か否かを判断し、停車中の場合に、前記遊星回転部材(55)を移動限界に到達させて前記ニュートラル限界位置を検出する処理を行うことを特徴とする請求項5に記載の車両用無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−211640(P2012−211640A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77315(P2011−77315)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】