説明

車両用衝突制御装置

【課題】 自車両が他車両や歩行者のような障害物との衝突する際に、衝突エネルギーの吸収効果を高めて被害を最小限に抑える。
【解決手段】 他車両との正面・後面衝突(あるいは側面衝突)を回避できないと判定されたとき、バンパー高さ推定手段(あるいはサイドシル高さ推定手段)で推定した他車両のバンパー高さ(サイドシル高さ)に応じてサブバンパービーム昇降機構113で自車両のサブバンパービームを昇降させるので、自車両が他車両の上に乗り上げたり、他車両の下に潜り込んだり、自車両のバンパービームが他車両の車室内に貫入したりするのを防止して衝突エネルギーの吸収効果を高めることができ、またフロントサイドフレーム剛性可変機構114で自車両のフロントサイドフレームの変形剛性を脆弱化することで、フロントサイドフレームを効率的に圧壊して衝突エネルギーの吸収効果を高め、自車両および他車両の被害を最小限に抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、他車両との衝突を回避できないと判定されたときに衝突被害の軽減を図る車両用衝突制御装置と、歩行者との衝突を回避できないと判定されたときに衝突被害の軽減を図る車両用衝突制御装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
自車両が前方の障害物との衝突を回避できないと判定されたとき、障害物の形状、自車両の乗員数、自車両の乗員位置等に応じて自車両の車高を変化させたり衝突部位を変化させたりして、障害物と衝突したときの自車両の被害を軽減するものが、下記特許文献1により公知である。
【特許文献1】特開2000−95130号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで上記従来のものは、衝突時に自車両の被害を軽減することは可能であるが、衝突する相手方の被害の軽減については考慮されておらず、かえって相手方の被害を増大させてしまう可能性がある。また自車両の車高を増加させるには重量の大きい車体を持ち上げる必要があり、そのために大きなエネルギーが必要になるだけでなく、その作動が遅れて衝突に間に合わなくなる可能性がある。
【0004】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、自車両が他車両や歩行者のような障害物との衝突する際に、衝突エネルギーの吸収効果を高めて被害を最小限に抑えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、他車両との衝突を回避できないと判定されたときに衝突被害の軽減を図る車両用衝突制御装置において、他車両の車体サイズを判定する車体サイズ判定手段と、自車両および他車両が衝突する位置関係を判定する衝突位置関係判定手段と、前記車体サイズ判定手段で判定した車体サイズから他車両のバンパー高さを推定するバンパー高さ推定手段と、自車両のサブバンパービームを昇降させるサブバンパービーム昇降機構と、自車両のフロントサイドフレームの変形剛性を脆弱化するフロントサイドフレーム剛性可変機構とを備え、前記衝突位置関係判定手段で判定した自車両および他車両が衝突する位置関係が正面衝突あるいは後面衝突であるとき、前記バンパー高さ推定手段で推定した他車両のバンパー高さに応じて前記サブバンパービーム昇降機構で自車両のサブバンパービームを昇降させるとともに、前記フロントサイドフレーム剛性可変機構で自車両のフロントサイドフレームの変形剛性を脆弱化することを特徴とする車両用衝突制御装置が提案される。
【0006】
また請求項2に記載された発明によれば、他車両との衝突を回避できないと判定されたときに衝突被害の軽減を図る車両用衝突制御装置において、他車両の車体サイズを判定する車体サイズ判定手段と、自車両および他車両が衝突する位置関係を判定する衝突位置関係判定手段と、前記車体サイズ判定手段で判定した車体サイズから他車両のサイドシル高さを推定するサイドシル高さ推定手段と、自車両のサブバンパービームを昇降させるサブバンパービーム昇降機構と、自車両のフロントサイドフレームの変形剛性を脆弱化するフロントサイドフレーム剛性可変機構とを備え、前記衝突位置関係判定手段で判定した自車両および他車両が衝突する位置関係が側面衝突であるとき、前記サイドシル高さ推定手段で推定した他車両のサイドシル高さに応じて前記サブバンパービーム昇降機構で自車両のサブバンパービームを昇降させるとともに、前記フロントサイドフレーム剛性可変機構で自車両のフロントサイドフレームの変形剛性を脆弱化することを特徴とする車両用衝突制御装置が提案される。
【0007】
また請求項3に記載された発明によれば、歩行者との衝突を回避できないと判定されたときに衝突被害の軽減を図る車両用衝突制御装置において、自車両のサブバンパービームを昇降させるサブバンパービーム昇降機構と、自車両のフロントサイドフレームの変形剛性を脆弱化するフロントサイドフレーム剛性可変機構と、自車両のボンネットフードを後ろ上がりに傾斜させるボンネットフード傾斜機構とを備え、歩行者との衝突を回避できないと判定されたときに、前記サブバンパービーム昇降機構で自車両のサブバンパービームを歩行者の脛の高さに昇降させ、前記フロントサイドフレーム剛性可変機構で自車両のフロントサイドフレームの変形剛性を脆弱化し、かつ前記ボンネットフード傾斜機構で自車両のボンネットフードを後ろ上がりに傾斜させることを特徴とする車両用衝突制御装置が提案される。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の構成によれば、他車両との正面衝突あるいは後面衝突を回避できないと判定されたとき、バンパー高さ推定手段で推定した他車両のバンパー高さに応じてサブバンパービーム昇降機構で自車両のサブバンパービームを昇降させるので、自車両が他車両の上に乗り上げたり他車両の下に潜り込んだりするのを防止して衝突エネルギーの吸収効果を高めるとともに、フロントサイドフレーム剛性可変機構で自車両のフロントサイドフレームの変形剛性を脆弱化することで、フロントサイドフレームを効率的に圧壊して衝突エネルギーの吸収効果を高め、自車両および他車両の被害を最小限に抑えることができる。
【0009】
また請求項2の構成によれば、他車両との側面衝突を回避できないと判定されたとき、サイドシル高さ推定手段で推定した他車両のサイドシル高さに応じてサブバンパービーム昇降機構で自車両のサブバンパービームを昇降させるので、自車両のサブバンパービームを他車両のサイドシルに衝突させ、他車両のドアやセンターピラーが車室内に貫入するのを防止しながら衝突エネルギーの吸収効果を高めるとともに、フロントサイドフレーム剛性可変機構で自車両のフロントサイドフレームの変形剛性を脆弱化することで、フロントサイドフレームを効率的に圧壊して衝突エネルギーの吸収効果を高め、自車両および他車両の被害を最小限に抑えることができる。
【0010】
また請求項3の構成によれば、歩行者との衝突を回避できないと判定されたとき、サブバンパービーム昇降機構で自車両のサブバンパービームを歩行者の脛の高さに昇降させるので、歩行者の脛を払ってボンネットフード上に倒れ込ませ、その際にボンネットフード傾斜機構で後ろ上がりに傾斜させたボンネットフードで歩行者の頭部が受ける衝撃を吸収することができる。またフロントサイドフレーム剛性可変機構で自車両のフロントサイドフレームの変形剛性を脆弱化するので、フロントサイドフレームを効率的に圧壊して歩行者の膝部が受ける衝撃を吸収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を添付の図面に基づいて説明する。
【0012】
図1〜図15は本発明の実施の形態を示すもので、図1は車両用衝突制御装置の制御系を示すブロック図、図2は車両用衝突制御装置の作用を説明するフローチャートの第1分図、図3は車両用衝突制御装置の作用を説明するフローチャートの第2分図、図4はサブバンパービーム昇降機構を示す自動車の車体前部の側面図、図5は図4の5部拡大図、図6は図5の6−6線拡大断面図、図7は車体前部の分解斜視図、図8はフロントサイドフレーム剛性可変機構を示す自動車の車体前部の平面図、図9は図8の9方向拡大矢視図、図10は図9の10−10線断面図、図11はボンネットフード傾斜機構を示す自動車の車体前部の側面図、図12は図11の12部拡大図、図13はボンネットフード傾斜機構の作動時の状態を示す図、図14は衝突ラップ量の定義を示す図、図15は他車両との正面衝突時の作用説明図、図9は他車両との側面衝突時の作用説明図、図17は歩行者との衝突時の作用説明図である。
【0013】
図1に示すように、車両用衝突制御装置の電子制御ユニット101には、自車両の前方の障害物を検知するレーダー装置102と、自車両の前方の障害物を撮像するCCDカメラ103と、自車両の周囲の道路状況が記憶されたナビゲーションシステム104と、車速センサ105と、舵角センサ106と、ヨーレートセンサ107と ブレーキセンサ108と、スロットル開度センサ109とからの信号が入力され、これらに信号に基づいて電子制御ユニット101はステアリングアクチュエータ110と、ブレーキアクチュエータ111と、スロットルアクチュエータ112と、自車両のサブバンパービームを昇降させるサブバンパービーム昇降機構113と、自車両のフロントサイドフレームの変形剛性を脆弱化するフロントサイドフレーム剛性可変機構114と、自車両のボンネットフードを後ろ上がりに傾斜させるボンネットフード傾斜機構115との作動を制御する。
【0014】
即ち、電子制御ユニット101は、レーダー装置102、CCDカメラ103およびナビゲーションシステム104からの情報に基づいて自車両前方の他車両や歩行者等の障害物の方向、距離、相対速度等を検知し、車速センサ105で検出した車速、舵角センサ106で検出した舵角、ヨーレートセンサ107で検出したヨーレート、ブレーキセンサ108で検出したブレーキの操作状況およびスロットル開度センサ109で検出したスロットル開度に基づいて、自車両が前記障害物との衝突を回避できるか否かを判定する。
【0015】
その結果、衝突を回避できると判定された場合には、ステアリングアクチュエータ110、ブレーキアクチュエータ111および/またはスロットルアクチュエータ112の作動を制御し、自車両を減速、転舵、加速し、あるいはそれらの組み合わせにより障害物との衝突回避をアシストする。一方、衝突を回避できないと判定された場合には、サブバンパービーム昇降機構113、フロントサイドフレーム剛性可変機構114および/またはボンネットフード傾斜機構115との作動を制御し、衝突被害の軽減が図られる。
【0016】
次に、図4〜図7に基づいてサブバンパービーム昇降機構113の構造を説明する。
【0017】
自動車の車体前部に形成されたエンジンルーム11の左右両側に沿って車体前後方向に延びる左右のフロントサイドフレーム12,12が配置されており、これらのフロントサイドフレーム12,12の前端に、車幅方向に延びるバンパービーム14の後面に設けたブラケット15,15がボルト16…で結合される。バンパービーム14とその前面を覆うバンパーフェイス17とでバンパー18が構成される。
【0018】
前輪Wの下面とバンパー18の下端とを結び、地面に対してアプローチアングルαを成すラインは、アプローチアングルラインLとして定義される。アプローチアングルαは、車両が平坦路から登坂路に移行するとき、車両が降坂路から平坦路に移行するとき、あるいは車両が路面の突起部を乗り越えるときに、バンパー18の下端が路面と接触しないように設定される。
【0019】
フロントサイドフレーム12,12の下面に設けたブラケット19,19に、図示せぬエンジンやサスペンション装置を支持するフロトサブフレーム20がボルト21…で固定される。フロトサブフレーム20は左右の縦部材22,22を前部横部材23および後部横部材(図示せず)で枠状で結合したもので、前部横部材23に左右一対のブラケット25,25が固定される。各々のブラケット25は第1、第2固定板25a,25bと、第1、第2支持板25c,25dと備えており、第1、第2固定板25a,25bが前部横部材23を上下から挟むように溶接され、また第1支持板25cに固定した電動モータよりなるアクチュエータ26の出力軸27が第1、第2支持板25c,25dに設けたベアリング28,28に支持される。
【0020】
第1、第2支持板25c,25d間の出力軸27に揺動アーム29の基端がスプライン係合しており、左右一対の揺動アーム29,29の先端が車体左右方向に延びるサブバンパービーム30に接続される。各々の揺動アーム29の先端近傍とバンパービーム14とを接続するダンパー31は、シリンダ32の内部に充填したガスの圧力でロッド33を突出する方向に付勢するもので、サブバンパービーム30を図5に鎖線で示す格納位置から実線で示す作動位置へと付勢する。
【0021】
次に、図8〜図10に基づいてフロントサイドフレーム剛性可変機構114の構造を説明する。尚、このフロントサイドフレーム剛性可変機構114は、本出願人の出願に係る特開2005−104455号公報に詳しく開示されたものと同じであるため、ここでは簡単に説明する。
【0022】
各々のフロントサイドフレーム12は、複数のフレーム要素41…をヒンジ部で直列に連結したもので、そのヒンジ部の屈曲剛性はサーボモータ42…により制御される。即ち、一つのフレーム要素41の一端に突設した2枚の第1ヒンジアーム41a,41aと、それに隣接する他のフレーム要素41の他端に突設した2枚の第2ヒンジアーム41b,41bとがスペーサ板43,43を介して重ね合わされており、一枚の第2ヒンジアーム41bに固定されたサーボモータ42の回転軸44が、2枚の第1ヒンジアーム41a,41aにキー結合される。サーボモータ42には、その回転軸44の回転をロックする電磁ブレーキ45が設けられる。
【0023】
従って、サーボモータ42の電磁ブレーキ45を作動させた状態では,フロントサイドフレーム12を屈曲不能にロックすることとができ、また電磁ブレーキ45によるロックを解除してサーボモータ42を駆動すると、ヒンジ部に相互に任意の大きさのモーメントを発生させることができる。
【0024】
各々のフレーム要素41の相対向する内壁に設けた当接部材46,46間に形状記憶合金よりなるコイルばね47と棒状の電熱ヒータ48とが同軸に配置される。
【0025】
次に、図11〜図13に基づいてボンネットフード傾斜機構115の構造を説明する。尚、このボンネットフード傾斜機構115は、本出願人の出願に係る特開2001−18843号公報に詳しく開示されたものと同じであるため、ここでは簡単に説明する。
【0026】
エンジンルーム11を開閉するボンネットフード51の左右後部が、それぞれリンク機構52を介して車体側に設けたブラケット53に昇降可能に支持される。リンク機構52は、ブラケット53にピン54で一端を枢支された下部リンク55と、下部リンク55の他端にピン56で一端を枢支された上部リンク57とを備えており、上部リンク57の他端がボンネットフード51の後端に設けたブラケット58にピン59で枢支される。下部リンク55および上部リンク57は、合成樹脂製のリンク仮固定具60で折り畳み状態に固定される。エンジンルーム11に設けられたシリンダ61の出力ロッド62の上端が、ボンネットフード51の後部内面に当接可能に対向する。
【0027】
しかして、通常時には、折り畳み状態にある上部リンク57の他端のピン59を支点として、ボンネットフード51の前部を上下に開閉することができる。歩行者との衝突が回避できないと判定されると、シリンダ61が伸長して出力ロッド62がボンネットフード51の後部を押し上げることで、リンク仮固定具60が破断して上部リンク57および下部リンク55が起立し、ボンネットフード51の後部が持ち上がった傾斜状態に固定される。
【0028】
次に、上記構成を備えた本発明の実施の形態の作用を、図2および図3のフローチャートを参照して説明する。
【0029】
先ずステップS1でレーダー装置102、CCDカメラ103およびナビゲーションシステム104からの情報に基づいて自車両前方の他車両や歩行者等の障害物を検知し、ステップS2で前記障害物が車両であれば、ステップS3でCCDカメラ103からの情報に基づいて他車両のサイズ(即ち、軽自動車、普通乗用車、ミニバン、トラック、バス等の車種)を判定し、ステップS4で自車両および他車両の衝突位置関係(即ち、正面衝突か、後面衝突か、側面衝突か)を判定し、ステップS5で図14に示す衝突ラップ量(即ち、自車両の前面の車幅にうちの何パーセントが他車両に衝突するか)を判定する。
【0030】
続くステップS6で他車両の方向、距離、相対速度等と、自車両の車速、舵角、ヨーレート、ブレーキの操作状況、スロットル開度等とに基づいて、自車両が他車両との衝突を回避できるか否かを判定する。その結果、衝突回避が可能であると判定されれば、ステップS7でステアリングアクチュエータ110、ブレーキアクチュエータ111、スロットルアクチュエータ112等の作動を制御して他車両との衝突回避をアシストする。
【0031】
一方、前記ステップS6で衝突回避が不可能であると判定されれば、ステップS8で運転者に警報を発するとともに、衝突の態様に応じて以下のステップS9〜S15で衝突被害の軽減を図る。
【0032】
即ち、ステップS9で衝突が正面衝突あるいは後面衝突であれば、ステップS10で他車両のバンパー高さを推定する。このバンパー高さは、前記ステップS3で判定した他車両のサイズ(車種)から推定される。続くステップS11でサブバンパービーム昇降機構113を、推定された他車両のバンパー高さと、前記ステップS3で判定した他車両の車体サイズと、前記ステップS5で判定した衝突ラップ量とに応じて作動させ、サブバンパービーム30を所定の高さに下降させる。そしてステップS12でフロントサイドフレーム剛性可変機構114を作動させてフロントサイドフレーム12,12の剛性を低下させる。
【0033】
前記ステップS11でサブバンパービーム30を下降させる高さは、例えば次にように設定される。
A.衝突態様が正面衝突であって、自車両よりも他車両が小さく、衝突ラップ量が25%以上である場合、自車両のサブバンパービーム30を他車両のバンパービームよりも低くして自車両が他車両の上に乗り上げるのを防止する。
B.衝突態様が正面衝突であって、自車両よりも他車両が大きく、衝突ラップ量が50%以上である場合、自車両のサブバンパービーム30を他車両のバンパービームと同じ高さにして自車両および他車両の相互の衝突エネルギーを吸収する。
C.衝突態様が後面衝突であって、自車両よりも他車両が小さく、衝突ラップ量が50%以上である場合、自車両のサブバンパービーム30を他車両のバンパービームよりも低くして自車両が他車両の上に乗り上げるのを防止する。
D.衝突態様が後面衝突であって、自車両よりも他車両が大きく、衝突ラップ量が70%以上である場合、自車両のサブバンパービーム30を他車両のバンパービームよりも低くしてタイヤの後面に衝突させ、自車両が他車両の下に潜り込むのを防止する。
【0034】
次に、サブバンパービーム30の作用を具体的に説明する。
【0035】
車両が衝突する危険性がない通常時には、サブバンパービーム30は図5に鎖線で示す格納位置にあり、このときサブバンパービーム30はアプローチアングルラインLよりも上方に位置している。従って、車両が平坦路から登坂路に移行するときや車両が降坂路から平坦路に移行するときに、サブバンパービーム30が路面と接触することが回避される。
【0036】
電子制御ユニット35からの指令でアクチュエータ26,26が作動すると、出力軸27,27が回転して左右の揺動アーム29,29が下向きに揺動する。その結果、ダンパー31,31の弾発力で付勢されたサブバンパービーム30は速やかに下降し、図5に実線で示す作動位置に停止する。このとき、左右の揺動アーム29,29は略水平状態となる。
【0037】
この状態で、図15に示すように自車両が他車両に正面衝突すると、仮に自車両のバンパービーム14が他車両のバンパービーム71よりも高い位置にあっても、下降したサブバンパービーム30が他車両のバンパービーム71に引っ掛かることで、自車両が他車両の上に乗り上げて他車両の車室を損傷させるのを未然に回避することができる。
【0038】
そして他車両からバンパービーム14に入力された衝突エネルギーは、図5に矢印で示すようにブラケット15,15を経てフロントサイドフレーム12,12に伝達されて吸収される。
【0039】
その際に、各々のフロントサイドフレーム12に設けられたフロントサイドフレーム剛性可変機構114は、以下のように作用する。即ち、電熱ヒータ48に通電すると形状記憶合金よりなるコイルばね47が伸長し、フレーム要素41の相対向する内壁を押し広げるような荷重を発生する。そしてフレーム要素41に設けた図示せぬ荷重センサの出力によりヒンジ部に加わるモーメントがフロントサイドフレーム12の圧壊モーメント以上になったと判定されると、電磁ブレーキ45を作動解除してサーボモータ42を駆動することで、ヒンジ部に加わる曲げモーメントに対抗するモーメントを発生させる。これにより、衝突荷重は各フレーム要素41に確実に伝達され、コイルばね47が発生する荷重と相まってフロントサイドフレーム12の全体を効果的に圧壊して衝突エネルギーを効率よく吸収することができる。
【0040】
尚、左右のフロントサイドフレーム剛性可変機構114,114は、衝突の態様に応じて一方だけを作動させたり、左右を異なるタイミングで作動させたりすることが可能である。
【0041】
また他車両からサブバンパービーム30に入力された衝突エネルギーは、揺動アーム29,29を経てフロントサブフレーム20に伝達され、かつ前記フロントサイドフレーム12,12に伝達された衝突エネルギーの一部もブラケット19,19を介してフロトサブフレーム20に伝達されて吸収される。このとき、揺動アーム29,29は略水平姿勢になっているので、サブバンパービーム30に入力された衝突エネルギーをフロントサブフレーム30に効率的に伝達することができる。
【0042】
自車両が他車両に後面衝突した場合にも同様の衝突エネルギーの吸収効果を発揮することができるが、他車両の後輪が車体後端に近い位置にある場合には、下降したサブバンパービーム30を他車両の後輪の後面に衝突させて衝突エネルギーの吸収効果を発揮させることができる。
【0043】
図3のフローチャートに戻り、前記ステップS9で衝突が側面衝突であれば、ステップS13で他車両のサイドシル高さを推定する。このサイドシル高さは、前記ステップS3で判定した他車両のサイズ(車種)から推定される。続くステップS14でサブバンパービーム昇降機構113を、推定された他車両のサイドシル高さと、前記ステップS3で判定した他車両の車体サイズと、前記ステップS5で判定した衝突ラップ量とに応じて作動させ、サブバンパービーム30の所定の高さに下降させる。そしてステップS15でフロントサイドフレーム剛性可変機構114を作動させてフロントサイドフレーム12,12の剛性を低下させる。
【0044】
前記ステップS14でサブバンパービーム30を下降させる高さは、例えば次にように設定される。
A.自車両よりも他車両が小さく、衝突ラップ量が100%である場合、他車両のサイドシルが自車両のサブバンパービーム30の格納位置よりも低ければ、自車両のサブバンパービーム30を他車両のサイドシル44と同じ高さにして相互に衝突させる。
B.自車両よりも他車両が大きく、衝突ラップ量が100%である場合、他車両のサイドシル44が自車両のサブバンパービーム30の格納位置よりも高ければ、サブバンパービーム30を格納位置に保持し、他車両のサイドシル44が自車両のサブバンパービーム30の格納位置よりも低ければ、自車両のサブバンパービーム30を他車両のサイドシル44と同じ高さにして相互に衝突させる。
【0045】
しかして、図16に示すように、サブバンパービーム30を作動位置に下降させた状態では、サブバンパービーム30の前端とバンパービーム14の前端とが車体前後方向に整列しているので(図5参照)、他車両に側面衝突したときに自車両のバンパービーム14が他車両のドア72およびセンターピラー73に衝突するのとほぼ同時に、自車両のサブバンパービーム30が他車両のサイドシル74に衝突する。このとき、ドア72およびセンターピラー73に比べてサイドシル74および該サイドシル74に連なるフロアフレーム75は剛性が高いため、衝突エネルギーが自車両のサブバンパービーム30および他車両のサイドシル74に効率的に吸収され、自車両のバンパービーム14が他車両の車室内に貫入するのを防止することができる。
【0046】
この側面衝突の場合にも、フロントサイドフレーム12,12に入力された衝突エネルギーは、フロントサイドフレーム剛性可変機構114,114により、上述した正面衝突および後面衝突の場合と同様に効率的に吸収される。
【0047】
以上のように、衝突が予知されない通常時にはサブバンパービーム30をアプローチアングルラインL(図5参照)の上方の退避位置に保持して路面との接触を回避しながら、衝突が予知された緊急時にはサブバンパービーム30をアプローチアングルラインLの下方の作動位置に下降させるので、自車両が他車両に正面衝突したときには、自車両が他車両の上に乗り上げる(他車両が自車両の下に潜り込む)のを防止して衝突エネルギーを効果的に吸収することができ、また自車両が他車両に側面衝突したときには、自車両が他車両の車室内に貫入するのを防止して衝突エネルギーを効果的に吸収することができる。しかもアクチュエータ26,26は他車両との衝突が予知された場合にのみ作動するので、アクチュエータ26,26の消費電力が少なくて済むだけでなく、アクチュエータ26,26の作動に伴う騒音が問題となることはない。
【0048】
図2のフローチャートに戻り、前記ステップS2で前記障害物が歩行者であれば、続くステップS16で歩行者の方向、距離、相対速度等と、自車両の車速、舵角、ヨーレート、ブレーキの操作状況、スロットル開度等とに基づいて、自車両が歩行者との衝突を回避できるか否かを判定する。その結果、衝突回避が可能であると判定されれば、前記ステップS7でステアリングアクチュエータ110、ブレーキアクチュエータ111、スロットルアクチュエータ112等の作動を制御して歩行者との衝突回避をアシストする。一方、前記ステップS16で衝突回避が不可能であると判定されれば、ステップS17で運転者に警報を発するとともに、以下のステップS18〜S20で衝突被害の軽減を図る。
【0049】
即ち、ステップS18でサブバンパービーム昇降機構113を概ね歩行者の脛の高さに下降させ、ステップS19でフロントサイドフレーム剛性可変機構114を作動させてフロントサイドフレーム12,12の剛性を低下させ、更にステップS20でボンネットフード傾斜機構115でボンネットフード51の後端が高くなるように傾斜させる。
【0050】
その結果、下降したサブバンパービーム30に脛部を掬われた歩行者の頭部がボンネットフード51に接触しても、ボンネットフード51とエンジンルーム11内のエンジン等の機器との距離が充分に確保されているため、ボンネットフード51の変形により衝撃を吸収することができる。これと同時に、フロントサイドフレーム12,12が上述したように圧壊して歩行者の膝部に加わる衝撃を緩衝する。
【0051】
以上のように、サブバンパービーム昇降機構113、フロントサイドフレーム剛性可変機構114およびボンネットフード傾斜機構115は自車両の車体を昇降させて車高を調整するものに比べて制御の応答性が高いため、衝突が切迫した緊急時にも時間的余裕をもって作動することができる。しかもサブバンパービーム昇降機構113、フロントサイドフレーム剛性可変機構114およびボンネットフード傾斜機構115のうちの少なくとも二つを同時に作動させることで、衝突の態様に応じた最適な衝撃吸収効果を発揮させて衝突の被害を最小限に抑えることができる。
【0052】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】車両用衝突制御装置の制御系を示すブロック図
【図2】車両用衝突制御装置の作用を説明するフローチャートの第1分図
【図3】車両用衝突制御装置の作用を説明するフローチャートの第2分図
【図4】サブバンパービーム昇降機構を示す自動車の車体前部の側面図
【図5】図4の5部拡大図
【図6】図5の6−6線拡大断面図
【図7】車体前部の分解斜視図
【図8】フロントサイドフレーム剛性可変機構を示す自動車の車体前部の平面図
【図9】図8の9方向拡大矢視図
【図10】図9の10−10線断面図
【図11】ボンネットフード傾斜機構を示す自動車の車体前部の側面図
【図12】図11の12部拡大図
【図13】ボンネットフード傾斜機構の作動時の状態を示す図
【図14】衝突ラップ量の定義を示す図
【図15】他車両との正面衝突時の作用説明図
【図16】他車両との側面衝突時の作用説明図
【図17】歩行者との衝突時の作用説明図
【符号の説明】
【0054】
12 フロントサイドフレーム
30 サブバンパービーム
51 ボンネットフード
113 サブバンパービーム昇降機構
114 フロントサイドフレーム剛性可変機構
115 ボンネットフード傾斜機構
S3 車体サイズ判定手段
S4 衝突位置関係判定手段
S10 バンパー高さ推定手段
S13 サイドシル高さ推定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
他車両との衝突を回避できないと判定されたときに衝突被害の軽減を図る車両用衝突制御装置において、
他車両の車体サイズを判定する車体サイズ判定手段(S3)と、
自車両および他車両が衝突する位置関係を判定する衝突位置関係判定手段(S4)と、 前記車体サイズ判定手段(S3)で判定した車体サイズから他車両のバンパー高さを推定するバンパー高さ推定手段(S10)と、
自車両のサブバンパービーム(30)を昇降させるサブバンパービーム昇降機構(113)と、
自車両のフロントサイドフレーム(12)の変形剛性を脆弱化するフロントサイドフレーム剛性可変機構(114)と、
を備え、
前記衝突位置関係判定手段(S4)で判定した自車両および他車両が衝突する位置関係が正面衝突あるいは後面衝突であるとき、前記バンパー高さ推定手段(S10)で推定した他車両のバンパー高さに応じて前記サブバンパービーム昇降機構(113)で自車両のサブバンパービーム(30)を昇降させるとともに、前記フロントサイドフレーム剛性可変機構(114)で自車両のフロントサイドフレーム(12)の変形剛性を脆弱化することを特徴とする車両用衝突制御装置。
【請求項2】
他車両との衝突を回避できないと判定されたときに衝突被害の軽減を図る車両用衝突制御装置において、
他車両の車体サイズを判定する車体サイズ判定手段(S3)と、
自車両および他車両が衝突する位置関係を判定する衝突位置関係判定手段(S4)と、 前記車体サイズ判定手段(S3)で判定した車体サイズから他車両のサイドシル高さを推定するサイドシル高さ推定手段(S13)と、
自車両のサブバンパービーム(30)を昇降させるサブバンパービーム昇降機構(113)と、
自車両のフロントサイドフレーム(12)の変形剛性を脆弱化するフロントサイドフレーム剛性可変機構(114)と、
を備え、
前記衝突位置関係判定手段(S4)で判定した自車両および他車両が衝突する位置関係が側面衝突であるとき、前記サイドシル高さ推定手段(S13)で推定した他車両のサイドシル高さに応じて前記サブバンパービーム昇降機構(113)で自車両のサブバンパービーム(30)を昇降させるとともに、前記フロントサイドフレーム剛性可変機構(114)で自車両のフロントサイドフレーム(12)の変形剛性を脆弱化することを特徴とする車両用衝突制御装置。
【請求項3】
歩行者との衝突を回避できないと判定されたときに衝突被害の軽減を図る車両用衝突制御装置において、
自車両のサブバンパービーム(30)を昇降させるサブバンパービーム昇降機構(113)と、
自車両のフロントサイドフレームの変形剛性を脆弱化するフロントサイドフレーム剛性可変機構(114)と、
自車両のボンネットフード(51)を後ろ上がりに傾斜させるボンネットフード傾斜機構(115)と、
を備え、
歩行者との衝突を回避できないと判定されたときに、前記サブバンパービーム昇降機構(113)で自車両のサブバンパービーム(30)を歩行者の脛の高さに昇降させ、前記フロントサイドフレーム剛性可変機構(114)で自車両のフロントサイドフレーム(12)の変形剛性を脆弱化し、かつ前記ボンネットフード傾斜機構(115)で自車両のボンネットフード(51)を後ろ上がりに傾斜させることを特徴とする車両用衝突制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2007−203806(P2007−203806A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−22675(P2006−22675)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】