車両用運転支援装置および車両用運転支援装置を備える車両
【課題】運転の不安定な状態を精度よく検出する車両用運転支援装置を提供する。
【解決手段】タイムウィンドウTw1に取得された過去の操舵角予測誤差データから長時間の操舵角予測誤差分布を算出し、タイムウィンドウTw2に取得された直近の操舵角予測誤差データから現在の操舵角予測誤差分布を算出する。これら2つの分布から相対エントロピーを算出し、算出した相対エントロピーが所定値よりも大きい場合は、現在の運転操作が不安定な状態であると判断して警報を出力する。
【解決手段】タイムウィンドウTw1に取得された過去の操舵角予測誤差データから長時間の操舵角予測誤差分布を算出し、タイムウィンドウTw2に取得された直近の操舵角予測誤差データから現在の操舵角予測誤差分布を算出する。これら2つの分布から相対エントロピーを算出し、算出した相対エントロピーが所定値よりも大きい場合は、現在の運転操作が不安定な状態であると判断して警報を出力する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者の操作を判定する車両用運転支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、運転操作の不安定な状態を検出して警報を行う車両用運転操作監視装置が知られている(例えば特許文献1参照)。この装置は、ステアリング操作の滑らかさから運転者の不安定度を算出する手法として、ステアリングエントロピー法を用いている。ステアリングエントロピー法は、運転者が運転以外の負荷により運転に集中していない有負荷状態では、操舵操作が行われない時間が通常状態(無負荷で覚醒した状態)での運転時よりも長くなって大きな舵角の誤差が蓄積され、運転に注意が戻ったときの修正操舵量が大きくなるという特性に着目したものである。特許文献1の装置は、ステアリングエントロピー法によって算出した舵角エントロピー値に基づいて運転者の不安定度を検出する。
【0003】
【特許文献1】特開平11−227491号公報
【特許文献2】特開平8−249600号公報
【特許文献1】特開2002−154345号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1に記載の装置は、個人差に対応した舵角エントロピー値を算出するために、通常状態における操舵角予測誤差の分布幅(α値)を基準状態として求める必要があった。ただし、この基準状態は特定の走行条件で一義的に決定されたものであり、走行日や時刻、場所(道路状態)などの条件による交通環境の違いによっては、運転者負荷を正確に表すエントロピー値が得られず、運転者の状態を正確に検出することが難しい場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による車両用運転支援装置は、車両挙動、車両周囲環境、および運転者の運転操作量の少なくとも一つ(以降、走行状態データと呼ぶ)を検出する走行状態検出手段と、走行状態検出手段で検出された走行状態データに基づいて複数の走行状態分布を算出する走行状態分布算出手段と、走行状態分布算出手段で算出された複数の走行状態分布の間の相違量を算出する分布相違量算出手段と、分布相違量算出手段で算出された相違量の大きさから、不安定運転状態を判定する不安定運転状態検出手段とを備える。
本発明による車両用運転支援方法は、車両挙動、車両周囲環境、および運転者の運転操作量の少なくとも一つ(以降、走行状態データと呼ぶ)を取得し、取得された走行状態データに基づいて複数の走行状態分布を算出し、算出された複数の走行状態分布の間の相違量を算出し、算出された相違量の大きさから、不安定運転状態を判定する。
本発明による車両は、車両挙動、車両周囲環境、および運転者の運転操作量の少なくとも一つ(以降、走行状態データと呼ぶ)を検出する走行状態検出手段と、走行状態検出手段で検出された走行状態データに基づいて複数の走行状態分布を算出する走行状態分布算出手段と、走行状態分布算出手段で算出された複数の走行状態分布の間の相違量を算出する分布相違量算出手段と、分布相違量算出手段で算出された相違量の大きさから、不安定運転状態を判定する不安定運転状態検出手段とを有する車両用運転支援装置を備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、交通環境の違いによらず不安定な状態を精度よく検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
《第1の実施の形態》
本発明の第1の実施の形態による車両用運転支援装置について説明する。図1に、第1の実施の形態による車両用運転支援装置1の構成を示すシステム図を示し、図2に、図1の車両用運転支援装置1を搭載した車両の構成図を示す。
【0008】
まず、車両用運転支援装置1の構成を説明する。
舵角センサ5は、例えばステアリングコラムもしくはステアリングホイール(不図示)付近に取り付けられた角度センサであり、ステアリングシャフトの回転からドライバの転舵による操舵角を検出する。検出した操舵角は、コントローラ100に出力される。
【0009】
前方カメラ15は、フロントウィンドウ上部に取り付けられた小型のCCDカメラ、またはCMOSカメラ等であり、前方道路の状況を画像として検出する。コントローラ100は、前方カメラ15からの画像信号に画像処理を施し、自車両前方領域に存在するレーンマーカ等を検出する。なお、前方カメラ15による検知領域は車両の前後方向中心線に対して水平方向に±30deg程度であり、この領域に含まれる前方道路風景が画像として取り込まれる。
【0010】
車速センサ30は、車輪の回転数や変速機の出力側の回転数を計測することにより自車両の車速を検出し、検出した自車速をコントローラ100に出力する。
【0011】
ナビゲーションシステム50は、GPS受信機、地図データベース、および表示モニタ等を備えており、経路探索および経路案内等を行うシステムである。ナビゲーションシステム50は、GPS受信機から得られる自車両の現在位置と地図データベースに格納された道路情報に基づいて、自車両が走行する道路の種別や道路幅員等の情報を取得することができる。
【0012】
コントローラ100は、CPUと、ROMおよびRAM等のCPU周辺部品とから構成される電子制御ユニットであり、車両用運転支援装置1全体の制御を行う。コントローラ100は、舵角センサ5、前方カメラ15、車速センサ30、ナビゲーションシステム50等から入力される信号に基づいて運転者の運転特性を分析し、運転者の運転操作の乱雑さ、すなわちなめらかでない度合を判定する。そして、運転操作のなめらかでない度合に応じて警報を出力して運転者の注意を喚起する。コントローラ100における具体的な制御内容は、後述する。
【0013】
警報装置150は、コントローラ100からの制御信号に応じて警報を出力する。警報装置150は、例えば、ブザー音や音声により運転者への情報提供を行うスピーカと、画像やテキストの表示により情報提供を行う表示ユニットとを備える。表示ユニットは、例えばナビゲーションシステム50の表示モニタを用いて表示を行うこともできる。
【0014】
次に、第1の実施の形態による車両用運転支援装置1の動作を説明する。まず、その概要を説明する。
車両用運転支援装置1のコントローラ100は、自車両の走行状態と運転者の運転操作に基づいて、運転者の運転操作のなめらかでない度合を判定し、その判定結果に応じて運転者への警報を行う。具体的には、運転者がステアリング操作を行う際の操舵角信号に基づいて、運転者の現在の運転操作が普段の運転操作と比べてどう違うか、すなわち普段の運転操作と比べて不安定な状態であるかを判定する。そして、普段の運転操作と比べて不安定な状態であると判定されると、警報を与えて運転者の注意を喚起する。
【0015】
第1の実施の形態では、運転操作のなめらかでない乱雑さを表す値として、相対エントロピー(Relative Entropy)を算出する。一般的に、運転者の注意が運転に集中していない状態では、操舵が行われない時間が運転に集中した正常運転時よりも長くなり、大きな操舵角の誤差が蓄積される。したがって、運転者の注意が運転に戻ったときの修正操舵量が大きくなる。そこで、この特性を利用して相対エントロピーRHpを算出する。具体的には、過去あるいは現在よりも前の長時間に蓄積された操舵誤差分布と、短時間計測された現在の運転者の操舵誤差分布をそれぞれ算出する。そして、長時間の操舵誤差分布を比較基準として用いて、長時間の操舵誤差分布と短時間の操作誤差分布とから相対エントロピーRHpを算出する。
【0016】
すなわち、相対エントロピーRHpは、2つの操舵誤差分布の相違量(距離)を表す物理量であり、2つの操舵誤差分布の違いの度合、すなわち2つの操舵誤差分布がどれくらい離れているかを表す。算出した相対エントロピーRHpの値を判定することにより、過去の長時間の走行状態に対して現在の直近の走行状態の安定性を評価する。
【0017】
第1の実施の形態による車両用運転支援装置1の動作を、図3を用いて詳細に説明する。図3は、第1の実施の形態のコントローラ100における運転支援制御処理の処理手順のフローチャートである。本処理内容は、一定間隔、例えば50msec毎に連続的に行われる。
【0018】
ステップS1010では、相対エントロピーRHpを算出可能な走行場面であるか否かを判断するために、自車両が走行している走行場面の推定(検出)を行う。ここでは、自車速Vが所定範囲(例えば40〜120km/h)内にある場合に、相対エントロピーRHpを算出可能な走行場面とする。すなわち、操舵角信号を用いた効果的な相対エントロピーRHpの算出を行うために、車速が極端に遅い場合および極端に速い場合を算出可能な走行場面から除外する。
【0019】
ステップS1020では、車速センサ30で検出される現在の自車速Vが所定範囲内にあるか否かを判定する。自車速Vが所定範囲内にあり、相対エントロピーRHpを算出可能な走行場面であると判定されると、相対エントロピーRHpの算出を行うためにステップS1030へ進む。一方、自車速Vが所定範囲内にない場合は、この処理を終了する。
【0020】
ステップS1030では、運転者の運転操作の不安定な状態を検出するための検出対象となる運転者の運転操作量として、舵角センサ5で検出される現在の操舵角信号θを読み込む。ステップS1031では、読み込んだ操舵角θの値から、操舵角予測誤差θeを算出する。
【0021】
ここで、図4に、相対エントロピーRHpを算出するために用いる特殊記号とその名称を示す。操舵角円滑値θn-tildeは、量子化ノイズの影響を低減した操舵角である。操舵角の推定値θn-hatは、ステアリングが滑らかに操作されたと仮定してサンプリング時点における操舵角を推定した値である。操舵角推定値θn-hatは、以下の(式1)に示すように、操舵角円滑値θn-tildeに対して二次のテイラー展開を施して得られる。
【数1】
(式1)において、tnは操舵角θnのサンプリング時刻である。
【0022】
操舵角円滑値θn-tildeは、量子化ノイズの影響を低減するために、3個の隣接操舵角θnの平均値として以下の(式2)から算出される。
【数2】
(式2)において、lは、操舵角円滑値θn-tildeの算出時間間隔を150msec、すなわち手動操作において人間が断続的に操作可能な最小時間間隔とした場合に、150msec内に含まれる操舵角θnのサンプル数を表す。
【0023】
操舵角θnのサンプリング間隔をTsとすると、サンプル数lは、以下の(式3)で表される。
l=round(0.15/Ts) ・・・(式3)
(式3)において、k=1,2,3の値をとり、(k*1)により150msec間隔の操舵角とそれに隣接する合計3個の操舵角θnに基づいて、円滑値θn-tildeを求めることができる。したがって、このような円滑値θn-tildeに基づいて算出される推定値θn-hatは、実質的に150msec間隔で得られた操舵角θにより算出されたことになる。
【0024】
サンプリング時点における操舵角予測誤差θeは、ステアリング操作が滑らかに行われたと仮定した場合の操舵角推定値θn-hatと実際の操舵角θnとの差として、以下の(式4)から算出できる。
【数3】
ただし、操舵角予測誤差θeは、人間が断続的に操作可能な最小時間間隔、150msecごとの操舵角θnに対してのみ算出するものとする。
【0025】
以下に、操舵角予測誤差θeの具体的な算出方法を説明する。なお、操舵角信号θのサンプリング間隔Tsは、例えば50msecとする。まず、150msec間隔の隣接する3個の操舵角θnを用いて、上記(式2)から3個の操舵角円滑値θn-tildeを算出する。3個の操舵角円滑値θn-tildeは、以下の(式5)で表される。
【数4】
【0026】
つぎに、算出した3個の操舵角円滑値θn-tildeを用いて、上記(式1)から操舵角の推定値θn-hatを算出する。推定値θn-hatは、以下の(式6)で表される。
【数5】
そして、算出した操舵角推定値θn-hatと実際の操舵角信号θnとを用いて、上記(式4)から操舵誤差θeを算出する。
【0027】
つづくステップS1040では、現時点までに算出され、コントローラ100のメモリ内に蓄積されていた所定時間T秒間の操舵角予測誤差θeのデータを、ステップS1031で算出した操舵角予測誤差θeの現在値を加えて更新する。すなわち、蓄積されている操舵角予測誤差θeのデータのうち最も古いT秒前のデータを捨てて、代わりに最新の操舵角予測誤差θeのデータとして、ステップS1031で算出した現在値を入力する。これにより、現在値からT秒前までの操舵角予測誤差θeのデータが蓄積されることになる。なお、所定時間Tは、現在の運転操作の不安定な状態を判定するための比較基準となる長時間の誤差分布を算出するために十分な長期間のデータを蓄えられるように、例えばT=3600秒(=1時間)程度に設定する。
【0028】
ステップS1050では、操舵予測誤差分布の比較基準となる、過去あるいは長時間の操舵角予測誤差分布1を算出する。ここでは、図5に示すように、例えばT秒前のデータから180秒分のデータを使って過去の操舵角予測誤差分布を算出する。具体的には、蓄積された過去の操舵角予測誤差θeを、9つの予測誤差区分b1〜b9に分類し、各区分biに含まれる操舵角予測誤差θeの度数の全度数に対する確率pi(=p1〜p9)を求める。そして、算出した過去の分布を操舵予測誤差分布の比較基準として利用する。なお、予測誤差区分biの範囲は、全区分b1〜b9で一定となるように予め設定しておく。
【0029】
長時間の操舵角予測誤差分布を算出する場合は、T秒前から現在までの3600秒分の全てのデータを用いる。具体的には、蓄積された長時間の操舵角予測誤差θeを、9つの予測誤差区分b1〜b9に分類し、各区分biに含まれる操舵角予測誤差θeの度数の全度数に対する確率pi(=p1〜p9)を求める。算出した過去の分布(または長時間の分布)を比較基準となる過去(または長時間)の操舵角予測誤差分布1とする。
【0030】
ステップS1051では、現在の操舵角予測誤差分布2を算出する。ここでは、図5に示すように現在から直近の180秒分のデータを使って現在の操舵角予測誤差分布2を算出する。具体的には、直近の180秒分の操舵角予測誤差θeのデータを、9つの予測誤差区分b1〜b9に分類し、各区分biに含まれる操舵角予測誤差θeの度数の全度数に対する確率qi(=q1〜q9)を求める。
【0031】
ステップS1070では、過去(または長時間)の操舵角予測誤差分布1および現在の操舵角予測誤差分布2を用いて、相対エントロピーRHpを求める。図6に示すように相対エントロピーRHpは、比較基準である過去(または長時間)の操舵角予測誤差分布1に対する現在の操舵角予測誤差分布2の相違量(距離)である。相対エントロピーRHpは、以下の算出式(式7)から算出することができる。
【数6】
【0032】
相対エントロピーRHpは、過去(または長時間)の操舵角予測誤差分布1の確率piと現在の操舵角予測誤差分布2の確率qiが等しい場合にRHp=0となり、これらの確率piとqiがずれるほどRHpの値が大きくなる。
【0033】
ステップS1080では、ステップS1070で算出した相対エントロピーRHpの値を、予め設定した所定値と比較する。ここで、所定値は、運転者の現在の運転操作が不安定な状態であり注意を喚起する必要があるか否かを判断するためのしきい値であり、予め適切な値を設定しておく。相対エントロピーRHpが所定値よりも大きい場合は、ステップS1090へ進み、所定値以下の場合はこの処理を終了する。
【0034】
ステップS1090では、運転者の注意を喚起するために警報を出力する。そこで、コントローラ100は、警報装置150へ制御信号を送り、警報音や表示等により運転操作が不安定な状態であることを運転者に報知する。これにより、今回の処理を終了する。
【0035】
なお、過去(または長時間)の操舵角予測誤差分布1および現在の操舵角予測誤差分布2を算出するための予測誤差区分biの範囲を、操舵誤差分布のあいまいさ(不確実性)を表すステアリングエントロピー値Hpを算出する際に用いるα値に基づいて設定することもできる。ここで、α値は、操舵角の時系列データに基づいて一定時間内の操舵誤差、すなわちステアリングが滑らかに操作されたと仮定した場合の操舵角の推定値と実際の操舵角との差を求め、操舵誤差の分布(ばらつき)を測定して90パーセントタイル値(操舵誤差の90%が含まれる分布の範囲)を算出したものである。
【0036】
そこで、過去あるいは長時間の操舵角誤差分布に基づいてα値を算出し、算出したα値から、過去(または長時間)の操舵角予測誤差分布1および現在の操舵角予測誤差分布2について同じ予測誤差区分biの範囲を設定する。図7に、α値を用いて設定される各区分biの操舵角予測誤差θeの範囲を示す。
【0037】
このように、以上説明した第1の実施の形態においては、以下のような作用効果を奏することができる。
(1)車両用運転支援装置1は、走行状態データとして、車両挙動、車両周囲環境、および運転者の運転操作量の少なくとも一つを検出し、走行状態データに基づいて複数の走行状態分布を算出する。そして、算出された複数の走行状態分布の間の相違量を算出し、相違量の大きさから不安定運転状態を判定する。これにより、交通環境の違いによらず不安定な走行状態を精度よく検出することが可能となる。すなわち、交通環境の違いによらず、個人の普段の特性に適応して、不安定な状態を精度よく検出することができる。
(2)複数の走行状態分布として、時間的範囲の異なる複数の走行状態分布を算出する。例えば、過去の走行状態データを含む走行状態分布と、直近の走行状態データからなる走行状態分布とを算出し、過去の走行状態分布を基準として直近の走行状態分布の相違量を直接算出することにより、基準となるデータも連続的に更新しつつ、直近の状態の安定性を評価することが可能となる。このように、交通環境の違いによらず不安定な走行状態を精度よく検出することが可能となる。
(3)走行状態データとして操舵角予測誤差を取得するので、運転者の操舵操作に関する不安定運転状態を判定することができる。
(4)複数の走行状態分布の間の相違量として相対エントロピーを算出することにより、複数の分布間の形状の違いを把握して、基準の走行状態分布に対して比較対象の走行状態分布がどれくらい離れているかを判断することができる。
【0038】
《第2の実施の形態》
以下に、本発明の第2の実施の形態による車両用運転支援装置について説明する。第2の実施の形態による車両用運転支援装置の基本構成は、図1に示した第1の実施の形態と同様である。ここでは、上述した第1の実施の形態との相違点を主に説明する。
【0039】
第2の実施の形態による車両用運転支援装置1では、上述した第1の実施の形態と同様に、操舵角信号θを用いて相対エントロピーRHpを算出することにより運転操作の不安定な状態を検出する。そして、運転操作が不安定な状態であると判定されると、警報を出力して運転者の注意を喚起する。
【0040】
ここで、相対エントロピーRHpを求める際には、操舵角の推定誤差が9分割された基準分布のどの区分に属するかを判定し、各区分の確率を計算する必要がある。上述した第1の実施の形態では、相対エントロピーRHpを算出するために必要な大量の操舵角θのデータをメモリに蓄積していた。第2の実施の形態では、直近の操舵角θのデータを一時的に保存する必要がある場合でも、少量のメモリで各区分の確率の計算が可能となるように、再帰的(Recursive)に各区分の確率を計算する。
【0041】
また、自車両が安定して走行している状態でも、操舵角予測誤差θeのばらつきは自車速Vが大きいほど大きくなる傾向がある。したがって、第2の実施の形態では、このばらつきの影響を補正するために、自車速Vに応じて操舵角予測誤差分布の区分biの範囲を補正する。
【0042】
さらに、運転操作の不安定な状態をより確実に判定するために、相対エントロピーRHpに加えて、過去(または長時間)の操舵角予測誤差分布1と現在の操舵角予測誤差分布2のそれぞれについて、操舵誤差分布のあいまいさ(不確実性)を表すステアリングエントロピー値Hpを算出する。ステアリングエントロピー値Hpは、ステアリング操作が滑らかで安定している場合は小さくなり、ガクガクと不安定な場合は大きくなる。以降では、ステアリングエントロピー値Hpを、相対エントロピーRHpに対して絶対エントロピーと呼ぶ。
【0043】
以下に、第2の実施の形態による車両用運転支援装置1の動作を、図8を用いて説明する。図8は、第2の実施の形態のコントローラ100における運転支援制御処理の処理手順のフローチャートである。本処理内容は、一定間隔、例えば50msec毎に連続的に行われる。ステップS2010〜S2031での処理は、図3のフローチャートのステップS1010〜S1031での処理と同様であるので、説明を省略する。
【0044】
ステップS2041では、操舵角予測誤差分布の区分biの範囲を決定するために用いる自車両の走行状態を表す物理量として、車速センサ30で検出される現在の自車速Vを読み込む。ステップS2042では、ステップS2041で読み込んだ自車速Vに応じて、操舵角予測誤差分布の区分biの幅の位置と大きさを設定する。すなわち、図9に示すように、自車両が安定して走行している状態でも、操舵角予測誤差θeのばらつきは自車速Vが大きいほど大きくなる傾向がある。そこで、車速によるばらつきの影響を補正するために、各区分biの範囲を、以下の(式8)のように変更する。
区分biの範囲: {Kbi_LEFT×V,Kbi_RIGHT×V} ・・・(式8)
【0045】
ここで、Kbi_LEFT,Kbi_RIGHTは、区分b1〜b9のそれぞれの左端と右端を定義する値である。すなわち、区分biの右端を定義するKbi_RIGHTは、区分bi+1の左端を定義するKbi+1_LEFTと等しくなる。これらのKbi_LEFT,Kbi_RIGHTは、所定値として予め適切な値を設定しておく。(式8)により、自車速Vに比例して、各区分biの範囲の大きさと位置が変化することになる。
【0046】
また、Kbi_LEFT,Kbi_RIGHTの値は、車両の特性や運転者の特性によって異なることが予想されるため、別プログラムで車速域ごとに同定された操舵角予測誤差θeのばらつき(標準偏差)の大きさの近似式を用いて補正されている。すなわち、操舵角予測誤差θeのばらつきから運転者の特性を学習し、Kbi_LEFT,Kbi_RIGHTの値を補正する。図9に、安定した走行状態における車速に対する操舵角予測誤差θeの標準偏差の一例を示す。図9に示す直線で表される近似式を用いて、Kbi_LEFT,Kbi_RIGHTの補正を行う。Kbi_LEFT,Kbi_RIGHTの補正方法について、図10のフローチャートを用いて説明する。
【0047】
まず、ステップS2401で、自車両走行中に算出される操舵角予測誤差θeのデータを、車速10km/hおき、±5km/hの範囲内で別々に、例えばコントローラ100内のメモリに蓄積する。ステップS2402では、過去に蓄えられた操舵角予測誤差θeを用いて、各範囲内の操舵角予測誤差θeの標準偏差を算出する。図9にプロットされた各点は、車速の各範囲ごとに算出された操舵角予測誤差θeの標準偏差の一例を示す。なお、図9に示す例は、20km/hおきにプロットされている。
【0048】
ステップS2403では、図9に示すような点列から、最小二乗法にて原点を通る直線を近似し、その傾きを算出する。ステップS2404では、ステップS2403で算出した車速に対する標準偏差のグラフの傾きの大きさに比例するように、Kbi_LEFT,Kbi_RIGHTの補正を行う。ここでは、予め、標準偏差の傾きの所定値に対するKbi_LEFT,Kbi_RIGHTの標準値を決めておく。そして、予め設定したKbi_LEFT,Kbi_RIGHTの標準値を車速に対する標準偏差のグラフの傾きの大きさに比例するように補正する。
【0049】
このように、自車速Vに応じた運転者の操舵角予測誤差θeのばらつきを学習して補正したKbi_LEFT,Kbi_RIGHTの値を、車速に対する操舵角予測誤差θeの依存性を考慮して自車速Vに応じて変更することにより、操舵角予測誤差分布の区分biの範囲を設定する。
【0050】
続くステップS2043では、操舵角予測誤差分布計算用の時間ウィンドウの値Tw1,Tw2を設定する。なお、ここでは比較基準として長時間の操舵角予測誤差分布を用いる(図5参照)。そこで、長時間の操舵角予測誤差1用のタイムウィンドウTw1は、運転者の普段の運転操作を表す普段の分布を算出するために、基本的にTw1=3600秒とする。ただし、操舵角予測誤差θeのデータを蓄積している途中で運転者が変わった場合等に対応するため、データ蓄積がリセットされてからの経過時間も加味して、3600秒とリセットされてからの経過時間のいずれか短いほうをタイムウィンドウTw1として設定する。
【0051】
一方、現在の操舵角予測誤差分布2用のタイムウィンドウTw2は、運転者の現在の運転操作を表す直近の分布を算出するために、基本的にTw2=180秒とする。ただし、操舵角予測誤差θeの計測開始直後の応答性を向上させるために、今回の走行についての計測開始から180秒に達しない状況では、計測開始からの経過時間を、そのままタイムウィンドウTw2として設定する。これにより、現在の操舵角予測誤差分布2の計算の応答性が向上し、計測開始から短時間で運転者の運転操作の判定が可能となる。
【0052】
ステップS2050では、操舵予測誤差分布の比較基準となる長時間の操舵角予測誤差分布1を再帰計算により算出する。ここでは、タイムウィンドウTw1をステップS2043で設定した値(例えば3600秒とリセットされてからの経過時間のいずれか短いほう)に設定し、タイムウィンドウTw1内の操舵角予測誤差θeのデータを用いて長時間の操舵角予測誤差分布1を算出する。
【0053】
具体的には、ステップS2031で算出した操舵角予測誤差θeを、ステップS2042で算出した9区分b1〜b9に分類し、各区分biに含まれる操舵角予測誤差θeの度数の全度数に対する確率pi(p1〜p9)を再帰的に求める。操舵角予測誤差θeが配分される区分の判定と、各区分biの確率piを再帰的に求める方法を、図11のフローチャートを用いて説明する。
【0054】
まず、ステップS2501では、操舵角予測誤差の区分を示すiに1を設定する。ステップS2502では、iが9よりも大きいか否かを判定する。i>9の場合は、9区分のそれぞれの確率piの算出が終了していると判断して、この処理を終了する。i≦9の場合は、各区分biにおける確率piを算出するために、ステップS2503へ進む。
【0055】
ステップS2503では、ステップS2031で算出した操舵角予測誤差θeがターゲットの区分biに該当するか否かを判定する。操舵角予測誤差θeが区分biに該当する場合は、ステップS2504へ進む。ステップS2504では、以下の(式9)から区分biに含まれる操舵角予測誤差θeの確率pi(n)を算出する。ここで、タイムウィンドウTw1内のデータ個数をNとする。
pi(n)={pi(n−1)+1/N}÷(1+1/N) ・・・(式9)
【0056】
一方、操舵角予測誤差θeが区分biに該当しない場合は、ステップS2505へ進み、その区分biに含まれる操舵角予測誤差θeの確率pi(n)を、以下の(式10)から算出する。
pi(n)={pi(n−1)}÷(1+1/N) ・・・(式10)
【0057】
ステップS2506では、iとして(i+1)をセットする。その後、ステップS2502へ戻り、全9区分の確率piを算出するまで、ステップS2503〜S2506の処理を繰り返す。
【0058】
このように、ステップS2050で各区分biに含まれる操舵角予測誤差θeの確率piを再帰的に算出した後、ステップS2051へ進む。ステップS2051では、現在の操舵角予測誤差分布2を再帰計算により算出する。ここでは、タイムウィンドウTw2をステップS2043で設定した値(例えば180秒と計測開始からの経過時間のいずれか短いほう)に設定し、タイムウィンドウTw2内の操舵角予測誤差θeのデータを用いて現在の直近の操舵角予測誤差分布2を算出する。
【0059】
具体的には、ステップS2031で算出した操舵角予測誤差θeを、ステップS2042で算出した9区分b1〜b9に分類し、各区分biに含まれる操舵角予測誤差θeの度数の全度数に対する確率qi(q1〜q9)を再帰的に求める。確率qiの再帰的に求める方法は、上述した長時間の操舵角予測誤差分布1における算出方法と同様である。
【0060】
ステップS2070では、長時間の操舵角予測誤差分布1および現在の操舵角予測誤差分布2を用いて、上述した(式7)から相対エントロピーRHpを求める。
【0061】
ステップS2071では、長時間の操舵角予測誤差分布1および現在の操舵角予測誤差分布2を用いて、それぞれの絶対エントロピーHp1,Hp2を算出する。長時間の操舵角予測誤差分布1の絶対エントロピーHp1は、ステップS2050で算出した確率piを用いて、以下の(式11)から求められる。
【数7】
【0062】
現在の操舵角予測誤差分布2の絶対エントロピーHp2は、ステップS2051で算出した確率qiを用いて、以下の(式12)から求められる。
【数8】
【0063】
絶対エントロピーHp1,Hp2は、操舵角予測誤差θeの分布の峻険度を表す。絶対エントロピーHp1,Hp2が小さいほど操舵角予測誤差θeの分布の峻険度が大きく、操舵角予測誤差θeの分布が一定の範囲に収まっている。すなわち、ステアリング操作が滑らかに行われ、運転が安定な状態にあることを示す。反対に、絶対エントロピーHp1,Hp2が大きいほど操舵角予測誤差θeの分布の峻険度が小さく、操舵角予測誤差θeの分布がばらついている。すなわち、ステアリング操作がガクガクしており、運転が不安定な状態にあることを示す。
【0064】
ステップS2080では、ステップS2070で算出した相対エントロピーRHpの値を、予め設定した所定値と比較する。ここで、所定値は、運転者の現在の運転操作が不安定な状態であり注意を喚起する必要があるか否かを判断するためのしきい値であり、予め適切な値を設定しておく。相対エントロピーRHpが所定値よりも大きい場合は、ステップS2081へ進み、所定値以下の場合はこの処理を終了する。
【0065】
ステップS2081では、ステップS2071で算出した絶対エントロピーHp1,Hp2の差(Hp2−Hp1)を予め設定した所定値と比較する。ここで、所定値は、現在の操舵角予測誤差分布2の絶対エントロピーHp2が、長時間の操舵角予測誤差分布1の絶対エントロピーHp1よりも大きいか(Hp2>Hp1であるか)、すなわち、現在のステアリング操作が普段よりも不安定になっているかを判定するためのしきい値であり、基本的にはゼロに設定できる。ただし、判定結果を安定させるため、所定値を小さい正の値(例えば0.05)に設定する。
【0066】
差(Hp2−Hp1)が所定値よりも大きいと判定されると、ステップS2090へ進み、所定値以下であると判定されると、この処理を終了する。ステップS2090では、運転者の注意を喚起するために警報を出力する。そこで、コントローラ100は、警報装置150へ制御信号を送り、警報音や表示等により運転操作が不安定な状態であることを運転者に報知する。これにより、今回の処理を終了する。
【0067】
このように、以上説明した第2の実施の形態においては、上述した第1の実施の形態による効果に加えて以下のような作用効果を奏することができる。
(1)車両用運転支援装置1は、さらに、複数の走行状態分布のそれぞれの乱雑度合を算出し、複数の走行状態分布の間の相違量の大きさに加えて、複数の走行状態分布のそれぞれの乱雑さの大小関係に基づいて、不安定運転状態を判定する。これにより、不安定な走行状態をより精度よく検出することが可能となる。
(2)所定の時間的範囲に相当する走行状態分布を再帰的に算出することにより、メモリ量を少なくし、連続計算が可能となる。また、時間的範囲の大きさによらずメモリ量が一定となり、計測対象とする時間的範囲を自由に設定できる。
(3)自車両の走行場面を推定し、推定された走行場面に応じて時間的範囲を修正する。例えば、運転者が交代するなどして判定がリセットされ、走行状態分布の算出に適した走行場面が所定の時間的範囲に満たない場合は、時間的範囲をリセットされてからの経過時間に一致させる。これにより、走行状態分布計算の応答性が向上し、走行状態データの計測開始から短時間で不安定運転状態の判定が可能となる。
(4)コントローラ100は、走行状態データを所定数の区分に分割することにより走行状態分布を算出し、検出される走行状態データに応じて、区分ごとの幅を修正する。これにより、不安定な運転状態をより精度よく検出することができる。
(5)区分ごとの幅を修正するための走行状態データとして車速を用いる。操舵角予測誤差θeのばらつきは、自車速Vが大きいほど大きくなる傾向があるため、自車速Vを用いて区分ごとの幅を修正することにより、自車速Vによるばらつきへの影響を補正することが可能となる。また、操舵角予測誤差θeのデータを自車速Vに応じて修正することも可能である。
(6)コントローラ100は、区分ごとの幅の修正量を学習し、学習された修正量に応じて区分ごとの幅を修正する。これにより、運転者個人ごとの特性に応じて区分ごとの幅を修正することが可能となる。
【0068】
《第3の実施の形態》
以下に、本発明の第3の実施の形態による車両用運転支援装置について説明する。図12に、第3の実施の形態による車両用運転支援装置3の構成を示すシステム図を示す。第3の実施の形態においては、上述した第1および第2の実施の形態と同様の機能を有する箇所には同一の符号を付して説明を省略する。ここでは、第2の実施の形態との相違点を主に説明する。
【0069】
第3の実施の形態による車両用運転支援装置3は、運転者の運転操作量の代わりに、自車両の走行状態を検出して運転者の不安定な状態を検出する。そこで、図12に示すように、舵角センサ5の代わりにヨーレートセンサ10を備えている。ヨーレートセンサ10は、車両のヨーレートを検出し、コントローラ110に出力する。コントローラ110は、操舵角予測誤差θeの代わりに自車両に発生するヨーレートを用いて相対エントロピーRHpおよび絶対エントロピーHp1,Hp2を算出することにより、運転操作の不安定な状態を検出する。そして、運転操作が不安定な状態であると判定されると、警報を出力して運転者の注意を喚起する。
【0070】
以下に、第3の実施の形態による車両用運転支援装置3の動作を、図13を用いて説明する。図13は、第3の実施の形態のコントローラ110における運転支援制御処理の処理手順のフローチャートである。本処理内容は、一定間隔、例えば50msec毎に連続的に行われる。
【0071】
ステップS3010では、相対エントロピーRHpを算出可能な走行場面であるか否かを判断するために、自車両が走行している走行場面の推定(検出)を行う。ここでは、自車速Vが所定範囲(例えば40〜120km/h)内にある場合に、相対エントロピーRHpおよび絶対エントロピーHp1,Hp2を算出可能な走行場面とする。すなわち、ヨーレートを用いた効果的なエントロピーの算出を行うために、車速が極端に遅い場合および極端に速い場合を算出可能な走行場面から除外する。
【0072】
ステップS3020では、車速センサ30で検出される現在の自車速Vが所定範囲内にあるか否かを判定する。自車速Vが所定範囲内にあり、相対エントロピーRHpおよび絶対エントロピーHp1,Hp2を算出可能な走行場面であると判定されると、ステップS3030へ進む。一方、自車速Vが所定範囲内にない場合は、この処理を終了する。
【0073】
ステップS3030では、運転者の運転操作の不安定な状態を検出するための検出対象となる自車両の走行状態として、ヨーレートセンサ10で検出される現在の自車両のヨーレートφを読み込む。ステップS3031では、読み込んだヨーレートφの値から、ヨーレート特定成分φsを算出する。
【0074】
自車両が道路に沿って走行する場合、道路曲率によって自車両が旋回すると、自車両がふらついていなくても定常的なヨーレートが生じる。そこで、各種道路形状に対応するため、ヨーレートセンサ10で検出されたヨーレートφの値から道路に沿って走行する際に生じるヨーレートの定常成分を減じた値を、自車両のふらつきを表すヨーレート特定成分φsとして算出する。
【0075】
具体的には、ナビゲーションシステム50から自車両が走行する道路の形状を検出し、道路曲率ρ(旋回半径Rの逆数)を算出する。自車速Vで曲率ρの道路を走行した場合、自車両の旋回によって生じるヨーレートの定常成分はρ×V(=V/R)で表される。ヨーレート特定成分φsは、ヨーレートセンサ10で検出される自車両に実際に発生しているヨーレートφから、定常成分を減じた値である。すなわち、自車両が道路に沿って走行する分以外の、走行中にふらつく分に相当するヨーレートの値であり、以下の(式13)から算出できる。
φs=φ−ρ×V ・・・(式13)
【0076】
ステップS3041以降の処理は、基本的には上述した第2の実施の形態と同様である。すなわち、ステップS3041では、車速センサ30で検出される現在の自車速Vを読み込む。ステップS3042では、ステップS3041で読み込んだ自車速Vに応じて、ヨーレート分布の区分biの幅の位置と大きさを設定する。ステップS3043では、ヨーレート分布計算用の時間ウィンドウの値Tw1,Tw2を設定する。タイムウィンドウTw1は、例えば3600秒、タイムウィンドウTw2は、例えば180秒とする。
【0077】
ステップS3050では、ヨーレート分布の比較基準となる長時間のヨーレート分布1を再帰計算により算出する。ステップS3051では、現在のヨーレート分布2を再帰計算により算出する。ステップS3070では、長時間のヨーレート分布1および現在のヨーレート分布2を用いて、上述した(式7)から相対エントロピーRHpを求める。ステップS3071では、長時間のヨーレート分布1および現在のヨーレート分布2を用いて、上述した(式11)(式12)からそれぞれの絶対エントロピーHp1,Hp2を算出する。
【0078】
ステップS3080では、ステップS3070で算出した相対エントロピーRHpの値を、予め設定した所定値と比較する。相対エントロピーRHpが所定値よりも大きい場合は、ステップS3081へ進み、所定値以下の場合はこの処理を終了する。ステップS3081では、ステップS3071で算出した絶対エントロピーHp1,Hp2の差(Hp2−Hp1)を予め設定した所定値と比較する。差(Hp2−Hp1)が所定値よりも大きいと判定されると、ステップS3090へ進み、所定値以下であると判定されると、この処理を終了する。ステップS3090では、運転者の注意を喚起するために警報を出力する。これにより、今回の処理を終了する。
【0079】
このように、以上説明した第3の実施の形態においては、上述した第1および第2の実施の形態による効果に加えて以下のような作用効果を奏することができる。
走行状態データとして、自車両に発生するヨーレートφを検出することにより、運転者の横方向の運転に関する不安定な状態を判定することができる。
【0080】
《第4の実施の形態》
以下に、本発明の第4の実施の形態による車両用運転支援装置について説明する。第4の実施の形態による車両用運転支援装置の基本的な構成は、図1に示した第1の実施の形態と同様である。ここでは、上述した第2の実施の形態との相違点を主に説明する。
【0081】
第4の実施の形態による車両用運転支援装置1は、運転者の運転操作量の代わりに、自車両の走行状態を検出して運転者の不安定な状態を検出する。したがって、舵角センサ5は省略することができる。第4の実施の形態においてコントローラ100は、操舵角予測誤差θeの代わりに自車両が走行する道路における自車両の車線内横位置を用いて相対エントロピーRHpおよび絶対エントロピーHp1,Hp2を算出することにより、運転操作の不安定な状態を検出する。そして、運転操作が不安定な状態であると判定されると、警報を出力して運転者の注意を喚起する。
【0082】
以下に、第4の実施の形態による車両用運転支援装置1の動作を、図14を用いて説明する。図14は、第4の実施の形態のコントローラ100における運転支援制御処理の処理手順のフローチャートである。本処理内容は、一定間隔、例えば50msec毎に連続的に行われる。
【0083】
ステップS4010では、相対エントロピーRHpを算出可能な走行場面であるか否かを判断するために、自車両が走行している走行場面の推定(検出)を行う。ここでは、自車速Vが所定範囲(例えば40〜120km/h)内にあり、前方カメラ15が自車両が走行する道路の白線を確実に検出している場合に、相対エントロピーRHpおよび絶対エントロピーHp1,Hp2を算出可能な走行場面とする。
【0084】
ステップS4020では、車速センサ30で検出される現在の自車速Vが所定範囲内にあるか否か、また、前方カメラ15により白線が確実に検出されているか否かを判定する。自車速Vが所定範囲内にあり白線がきちんと検出されている場合は、相対エントロピーRHpおよび絶対エントロピーHp1,Hp2を算出可能な走行場面であると判定して、ステップS3030へ進む。一方、ステップS4020が否定判定されると、この処理を終了する。
【0085】
ステップS4030では、運転者の運転操作の不安定な状態を検出するための検出対象となる自車両の走行状態として、前方カメラ15で検出される自車両の車線内横位置δを読み込む。例えば、コントローラ100は、前方カメラ15の撮像画像に画像処理を施して自車両が走行する道路の白線を検出し、車線中心から自車両中心までの横方向距離を車線内横位置δとして検出する。車線内横位置δは、自車両が車線中心にいるときに0となり、白線上で最大値となる。
【0086】
ステップS4041では、車速センサ30で検出される現在の自車速Vを読み込む。ステップS4042では、ステップS4041で読み込んだ自車速Vとナビゲーションシステム50から得られる道路形状に応じて、車線内横位置分布の区分biの幅の位置と大きさを設定する。具体的には、図15に示すように各区分bi(b1〜b9)の幅の大きさおよび位置を設定する。自車速Vが大きくなるほど、白線に近い区分を車線中心に近い区分に対して相対的に広くする。また、カーブ内側の区分を外側の区分に対して相対的に広くする。なお、車線内横位置δが左側の白線を越える領域を区分b1、車線内横位置δが右側の白線を越える領域を区分b9とする。
【0087】
ステップS4043では、車線内横位置分布計算用の時間ウィンドウの値Tw1,Tw2を設定する。タイムウィンドウTw1は、例えば3600秒、タイムウィンドウTw2は、例えば180秒とする。
【0088】
ステップS4050では、車線内横位置分布の比較基準となる長時間の車線内横位置分布1を再帰計算により算出する。ステップS4051では、現在の車線内横位置分布2を再帰計算により算出する。ステップS4060では、区分biごとの重みWiを設定する。区分b1〜b9の重みW1〜W9は、例えば、W1=1.0、W2=0.75、W3=0.5、W4=0.25、W5=0.0、W6=0.25、W7=0.50、W8=0.75、W9=1.0とする。
【0089】
ステップS4070では、長時間の車線内横位置分布1と現在の車線内横位置分布2、および各区分biの重みWiを用いて、以下の(式14)から相対エントロピーRHpを求める。
【数9】
【0090】
ステップS4071では、長時間の車線内横位置分布1および現在の車線内横位置分布2を用いて、以下の(式15)(式16)からそれぞれの絶対エントロピーHp1,Hp2を算出する。
【数10】
【数11】
【0091】
ステップS4080では、ステップS4070で算出した相対エントロピーRHpの値を、予め設定した所定値と比較する。相対エントロピーRHpが所定値よりも大きい場合は、ステップS4081へ進み、所定値以下の場合はこの処理を終了する。ステップS4081では、ステップS4071で算出した絶対エントロピーHp1,Hp2の差(Hp2−Hp1)を予め設定した所定値と比較する。差(Hp2−Hp1)が所定値よりも大きいと判定されると、ステップS4090へ進み、所定値以下であると判定されると、この処理を終了する。ステップS4090では、運転者の注意を喚起するために警報を出力する。これにより、今回の処理を終了する。
【0092】
このように、以上説明した第4の実施の形態においては、上述した第1から第3の実施の形態による効果に加えて以下のような作用効果を奏することができる。
(1)走行状態データを所定数の区分に分割することにより走行状態分布を算出し、区分ごとに重みをつけて複数の走行状態分布の間の相違量を算出する。これにより、走行時の不安定な運転状態をより精度よく判定することができる。例えば、
(2)走行状態データとして自車両の車線内横位置を検出することにより、運転者の横方向の運転に関する不安定な状態を判定することができる。車線内横位置のデータを用いる場合、白線に近い区分の重みを大きくすることで、より精度よい判定を行うことができる。また、高速になるほど白線付近の区分を相対的に広くしたり、カーブ内側の区分を相対的に広くなるように区分を適宜設定することで、走行状態分布を算出可能とする走行場面を限定しすぎることなく、種々の走行状況で得られた走行状態データを用いることができる。
【0093】
《第5の実施の形態》
以下に、本発明の第5の実施の形態による車両用運転支援装置について説明する。図16に、第5の実施の形態による車両用運転支援装置5の構成を示すシステム図を示す。図16において、上述した第1〜第4の実施の形態と同様の機能を有する箇所には同一の符号を付して説明を省略する。ここでは、上述した第2の実施の形態との相違点を主に説明する。
【0094】
第5の実施の形態による車両用運転支援装置5は、操舵角予測誤差θeの代わりに、運転者によるアクセルペダル操作およびブレーキペダル操作を検出して運転者の不安定な状態を検出する。そこで、図16に示すように、舵角センサ5の代わりにアクセルペダルストロークセンサ11およびブレーキペダルストロークセンサ13を備えている。アクセルペダルストロークセンサ11は、運転者がアクセルペダルを踏み込み操作する際の操作量を検出し、コントローラ120へ出力する。ブレーキペダルストロークセンサ12は、運転者がブレーキペダルを踏み込み操作する際の操作量を検出し、コントローラ120へ出力する。車両用運転支援装置5は、さらに自車両が走行する道路の勾配を検出する道路勾配センサ13を備えている。
【0095】
コントローラ120は、操舵角予測誤差θeの代わりにアクセルペダル操作量およびブレーキペダル操作量を用いて相対エントロピーRHpおよび絶対エントロピーHp1,Hp2を算出することにより、運転操作の不安定な状態を検出する。そして、運転操作が不安定な状態であると判定されると、警報を出力して運転者の注意を喚起する。
【0096】
以下に、第5の実施の形態による車両用運転支援装置5の動作を、図17を用いて説明する。図17は、第5の実施の形態のコントローラ120における運転支援制御処理の処理手順のフローチャートである。本処理内容は、一定間隔、例えば50msec毎に連続的に行われる。
【0097】
ステップS5010では、相対エントロピーRHpを算出可能な走行場面であるか否かを判断するために、自車両が走行している走行場面の推定(検出)を行う。ここでは、自車速Vが所定範囲(例えば40〜120km/h)内にある場合に、相対エントロピーRHpおよび絶対エントロピーHp1,Hp2を算出可能な走行場面とする。
【0098】
ステップS5020では、車速センサ30で検出される現在の自車速Vが所定範囲内にあるか否かを判定する。自車速Vが所定範囲内にあり、相対エントロピーRHpおよび絶対エントロピーHp1,Hp2を算出可能な走行場面であると判定されると、ステップS5030へ進む。一方、自車速Vが所定範囲内にない場合は、この処理を終了する。
【0099】
ステップS5030では、運転者の運転操作の不安定な状態を検出するための検出対象となる自車両の走行状態として、アクセルペダルストロークセンサ11で検出されるアクセルペダル操作量SAと、ブレーキペダルストロークセンサ12で検出されるブレーキペダル操作量SBを読み込む。アクセルペダルストロークセンサ11およびブレーキペダルストロークセンサ12の出力は、ペダルが解放された状態を0.0、最大限に踏み込まれた状態を1.0(100%)として、0.0〜1.0の範囲内で示される。
【0100】
ステップS5031では、読み込んだアクセルペダル操作量SAとブレーキペダル操作量SBの符号を変えて足し合わせ、以下の(式17)で表される加減速制御量αを算出する。
α=SA+(−1)・SB ・・・(式17)
加減速制御量αは、アクセルペダルが踏み込まれる加速時には正の値(0.0〜1.0)、ブレーキペダルが踏み込まれる減速時には負の値(0.0〜−1.0)を示す。
【0101】
ステップS5032では、道路勾配センサ13で検出される自車両が走行する道路の勾配を読み込み、道路勾配により加減速制御量αを補正する。上り坂を走行する場合、車速を一定に保つだけでもアクセルペダルを踏み込む必要があるため、加減速制御量αは平坦な道路を定速で走行する場合に比べて大きな値となる。したがって、上り道路勾配が大きくなるほど大きくなるような補正値を算出し、加減速制御量αから補正値を減じることで、加減速制御量αの補正を行う。
【0102】
また、下り坂を走行する場合、車速を一定に保つだけでもブレーキペダルを踏み込む必要があるため、加減速制御量αは平坦な道路を定速で走行する場合に比べて小さな値(マイナス)となる。したがって、下り道路勾配が大きくなるほど大きくなるような補正値を算出し、加減速制御量αに補正ちを加えることで、加減速制御量αの補正を行う。道路勾配に対する補正値の関係は、車両特性を考慮して、上り坂の道路勾配および下り坂の道路勾配がそれぞれ大きくなるほど補正値が大きくなるような特性とする。
【0103】
ステップS5043では、アクセルペダル/ブレーキペダル操作に基づく加減速制御量αの分布計算用の時間ウィンドウの値Tw1,Tw2を設定する。タイムウィンドウTw1は、例えば3600秒、タイムウィンドウTw2は、例えば180秒とする。
【0104】
ステップS5050では、加減速制御量α分布の比較基準となる長時間の加減速制御量α分布1を再帰計算により算出する。ステップS5051では、現在の加減速制御量α分布2を再帰計算により算出する。なお、ステップS5032で道路勾配に基づいて補正した加減速制御量αを用いて各分布1,2を算出する。ステップS5070では、長時間の加減速制御量α分布1および現在の加減速制御量α分布2を用いて、上述した(式7)から相対エントロピーRHpを求める。ステップS5071では、長時間の加減速制御量α分布1および現在の加減速制御量α分布2を用いて、上述した(式11)(式12)からそれぞれの絶対エントロピーHp1,Hp2を算出する。
【0105】
ステップS5080では、ステップS5070で算出した相対エントロピーRHpの値を、予め設定した所定値と比較する。相対エントロピーRHpが所定値よりも大きい場合は、ステップS5081へ進み、所定値以下の場合はこの処理を終了する。ステップS5081では、ステップS5071で算出した絶対エントロピーHp1,Hp2の差(Hp2−Hp1)を予め設定した所定値と比較する。差(Hp2−Hp1)が所定値よりも大きいと判定されると、ステップS5090へ進み、所定値以下であると判定されると、この処理を終了する。ステップS5090では、運転者の注意を喚起するために警報を出力する。これにより、今回の処理を終了する。
【0106】
このように、以上説明した第5の実施の形態においては、上述した第1から第4の実施の形態による効果に加えて以下のような作用効果を奏することができる。
走行状態データとしてアクセルペダル操作量SAおよびブレーキペダル操作量SBを検出することにより、運転者の前後方向の運転に関する不安定な状態を検出することができる。
【0107】
《第6の実施の形態》
以下に、本発明の第6の実施の形態による車両用運転支援装置について説明する。図18に、第6の実施の形態による車両用運転支援装置6の構成を示すシステム図を示す。図18において、上述した第1〜第6の実施の形態と同様の機能を有する箇所には同一の符号を付して説明を省略する。ここでは、上述した第2の実施の形態との相違点を主に説明する。
【0108】
第6の実施の形態による車両用運転支援装置6は、操舵角予測誤差θeの代わりに、自車両と先行車との車間時間Thを検出して運転者の不安定な状態を検出する。そこで、図18に示すように舵角センサ5の代わりにレーザレーダ14を備えている。レーザレーダ14は、車両の前方グリル部もしくはバンパ部等に取り付けられ、水平方向に赤外光パルスを照射して車両前方領域を走査する。レーザレーダ14は、前方にある複数の反射物(通常、前方車の後端)で反射された赤外光パルスの反射波を計測し、反射波の到達時間より、複数の前方車までの車間距離とその存在方向を検出する。検出した車間距離及び存在方向はコントローラ50へ出力される。レーザレーダ10によりスキャンされる前方の領域は、自車正面に対して±6deg程度であり、この範囲内に存在する前方物体が検出される。レーザレーダ14は、検出した前方物体、例えば先行車までの車間距離Dをコントローラ130へ出力する。
【0109】
コントローラ130は、自車両と先行車との車間時間Thを算出し、車間時間Thを用いて相対エントロピーRHpおよび絶対エントロピーHp1,Hp2を算出することにより、運転操作の不安定な状態を検出する。そして、運転操作が不安定な状態であると判定されると、警報を出力して運転者の注意を喚起する。
【0110】
以下に、第6の実施の形態による車両用運転支援装置1の動作を、図19を用いて説明する。図19は、第6の実施の形態のコントローラ130における運転支援制御処理の処理手順のフローチャートである。本処理内容は、一定間隔、例えば50msec毎に連続的に行われる。
【0111】
ステップS6010では、相対エントロピーRHpを算出可能な走行場面であるか否かを判断するために、自車両が走行している走行場面の推定(検出)を行う。ここでは、自車速Vが所定範囲(例えば40〜120km/h)内にあるとともに、先行車に安定して追従している場合に、相対エントロピーRHpおよび絶対エントロピーHp1,Hp2を算出可能な走行場面とする。ここでは、例えば自車両と先行車との車間時間Thが所定範囲(0〜3秒)内である状態を、安定した追従状態とする。
【0112】
ステップS6020では、車速センサ30で検出される現在の自車速Vが所定範囲内にあるか否か、また、車間時間Thが所定範囲内にあるか否かを判定する。自車速Vが所定範囲内で安定して先行車に追従している場合は、相対エントロピーRHpおよび絶対エントロピーHp1,Hp2を算出可能な走行場面であると判定して、ステップS6030へ進む。一方、ステップS6020が否定判定されると、この処理を終了する。なお、安定した追従状態を判定するための車間時間Thは、後述する(式18)を用いて算出することができる。
【0113】
ステップS6030では、運転者の運転操作の不安定な状態を検出するための検出対象となる自車両の走行状態として、自車両と先行車との車間時間Thを取得する。車間時間Thは、先行車の現在位置に自車両が到達するまでの時間を示す物理量であり、自車速Vおよび自車両と先行車との車間距離Dを用いて、以下の(式18)から算出される。
THW=D/V ・・・(式18)
【0114】
ステップS6043では、車間時間分布計算用の時間ウィンドウの値Tw1,Tw2を設定する。タイムウィンドウTw1は、例えば3600秒とリセットされてからの経過時間のいずれか短いほう、タイムウィンドウTw2は、例えば例えば180秒と計測開始からの経過時間のいずれか短いほうとする。
【0115】
ステップS6050では、タイムウィンドウTw1内の車間時間Thのデータを用いて、車間時間分布の比較基準となる長時間の車間時間分布1を再帰計算により算出する。ここでは、例えば車間時間Thを0〜3秒まで0.2秒刻みで15個の区分bi(b1〜b15)に分割し、各区分biに含まれる車間時間Thの度数の全度数に対する確率pi(p1〜p15)を再帰的に求める。
【0116】
ステップS6051では、タイムウィンドウTw2内の車間時間Thのデータを用いて、現在の車間時間分布2を再帰計算により算出する。長時間の車間時間分布1と同様に、例えば車間時間Thを0〜3秒まで0.2秒刻みで15個の区分bi(b1〜b15)に分割し、各区分biに含まれる車間時間Thの度数の全度数に対する確率pi(p1〜p15)を再帰的に求める。
【0117】
ステップS6060では、長時間の車間時間分布1から以下の(式19)を用いて累積度数分布CDFを算出する。
【数12】
【0118】
ステップS6061では、区分biごとの重みWiを設定する。具体的には、車間時間Thが小さく自車両と先行車との接近度合が高い領域を重要視して重みを大きくし、車間時間Thが大きい領域の重みを小さくする。そこで、例えば現在の車間時間Thが所定値(例えば1秒)以下の領域の区分の重みWiを1とし、中間領域(例えば1〜2秒)の区分の重みWiを0.5とし、車間時間が大きい領域(例えば2秒超)の区分の重みWiを0.25と設定する。これにより、車間時間Thの領域ごとに重要度を変更することができる。
【0119】
ステップS6070では、長時間の車間時間分布1と現在の車間時間分布2、および各区分biの重みWiを用いて、以下の(式20)から相対エントロピーRHpを求める。
【数13】
(式20)から算出される相対エントロピーRHpは、長時間の車間時間分布1から算出される累積度数分布CDFiと現在の車間時間分布2の相対エントロピーを表している。累積度数分布CDFiは、その車間時間Th以下でその運転者が走行している割合を示すものである。したがって、(式20)を用いることで、短い車間時間領域を重視した重みWiに加えて、その運転者の普段の運転状況を加味した重みを設定して相対エントロピーRHを算出することができる。
【0120】
ステップS6071では、長時間の車間時間分布1および現在の車間時間分布2を用いて、以下の(式21)(式22)からそれぞれの絶対エントロピーHp1,Hp2を算出する。
【数14】
【数15】
【0121】
ステップS6080では、ステップS6070で算出した相対エントロピーRHpの値を、予め設定した所定値と比較する。相対エントロピーRHpが所定値よりも大きい場合は、ステップS6081へ進み、所定値以下の場合はこの処理を終了する。ステップS6081では、ステップS6071で算出した絶対エントロピーHp1,Hp2の差(Hp2−Hp1)を予め設定した所定値と比較する。差(Hp2−Hp1)が所定値よりも大きいと判定されると、ステップS6090へ進み、所定値以下であると判定されると、この処理を終了する。ステップS6090では、運転者の注意を喚起するために警報を出力する。これにより、今回の処理を終了する。
【0122】
このように、以上説明した第6の実施の形態においては、上述した第1から第5の実施の形態による効果に加えて以下のような作用効果を奏することができる。
(1)算出した走行状態分布から、走行状態累積度数分布を算出し、区分ごとの重みとして走行状態累積度数分布を用いる。累積度数分布CDFiを用いると、個々の運転者の運転状態の違いにより適合することができるとともに、一つの区分のみに走行状態データが集中した場合に、その集中位置がずれた影響を受けにくくなり、ノイズに強い演算を行うことができる。
(2)走行状態データとして、自車両と前方障害物との車間時間Thを取得するので、運転者の前後方向の運転に関する不安定な状態を検出することができる。なお、車間時間Thの代わりに自車両と前方障害物との車間距離Dを用いて走行状態分布を算出することもできる。
【0123】
《第7の実施の形態》
以下に、本発明の第7の実施の形態による車両用運転支援装置について説明する。第7の実施の形態による車両用運転支援装置の基本的な構成は、図18に示した第6の実施の形態と同様である。ここでは、上述した第6の実施の形態との相違点を主に説明する。
【0124】
第7の実施の形態による車両用運転支援装置6は、車間時間Thの代わりに、自車速Vを用いて運転者の不安定な状態を検出する。第7の実施の形態においてコントローラ130は、自車速Vを用いて相対エントロピーRHpおよび絶対エントロピーHp1,Hp2を算出することにより、運転操作の不安定な状態を検出する。そして、運転操作が不安定な状態であると判定されると、警報を出力して運転者の注意を喚起する。
【0125】
以下に、第7の実施の形態による車両用運転支援装置6の動作を、図20を用いて説明する。図20は、第7の実施の形態のコントローラ130における運転支援制御処理の処理手順のフローチャートである。本処理内容は、一定間隔、例えば50msec毎に連続的に行われる。
【0126】
ステップS7010では、相対エントロピーRHpを算出可能な走行場面であるか否かを判断するために、自車両が走行している走行場面の推定(検出)を行う。ここでは、自車速Vが所定範囲(例えば40〜120km/h)内にあるとともに、自車両前方の障害物が検出されていない場合に、相対エントロピーRHpおよび絶対エントロピーHp1,Hp2を算出可能な走行場面とする。
【0127】
ステップS7020では、車速センサ30で検出される現在の自車速Vが所定範囲内にあるか否か、また、レーザレーダ14によって前方障害物が検出されていないか否かを判定する。自車速Vが所定範囲内で先行車が存在しない場合は、相対エントロピーRHpおよび絶対エントロピーHp1,Hp2を算出可能な走行場面であると判定して、ステップS7030へ進む。一方、ステップS7020が否定判定されると、この処理を終了する。
【0128】
ステップS7030では、運転者の運転操作の不安定な状態を検出するための検出対象となる自車両の走行状態として、車速センサ30で検出される自車速Vを読み込む。ステップS7031では、ナビゲーションシステム50から、自車両が現在走行中の道路の制限車速を読み込む。コントローラ130は、走行中の道路の制限車速に基づいて適切な推奨車速を設定する。
【0129】
ステップS7043では、車間時間分布計算用の時間ウィンドウの値Tw1,Tw2を設定する。タイムウィンドウTw1は、例えば3600秒とリセットされてからの経過時間のいずれか短いほう、タイムウィンドウTw2は、例えば例えば180秒と計測開始からの経過時間のいずれか短いほうとする。
【0130】
ステップS7050では、タイムウィンドウTw1内の自車速Vのデータを用いて、車速分布の比較基準となる長時間の車速分布1を再帰計算により算出する。ステップS7051では、タイムウィンドウTw2内の車速Vのデータを用いて、現在の車速分布2を再帰計算により算出する。
【0131】
ステップS7060では、区分biごとの重みWiを設定する。具体的には、ステップS7031で設定した現在走行中の制限車速に基づく推奨車速からの逸脱度合に応じて重みの大きさを設定することができる。例えば、推奨車速を60km/hとすると、自車速Vが60km/h未満の領域における重みWiを0とし、60km/h以上で大きくなるほど1に近づくように重みWiを設定する。
【0132】
ステップS7061では、長時間の車速分布1から上述した(式19)を用いて累積度数分布CDFを算出する。ステップS7070では、長時間の車速分布1、具体的には累積度数分布CDFと現在の車速分布2、および各区分biの重みWiを用いて、上述した(式20)から相対エントロピーRHpを求める。
【0133】
ステップS6071では、長時間の車間時間分布1および現在の車間時間分布2を用いて、上述した(式21)(式22)からそれぞれの絶対エントロピーHp1,Hp2を算出する。
【0134】
ステップS7080では、ステップS7070で算出した相対エントロピーRHpの値を、予め設定した所定値と比較する。相対エントロピーRHpが所定値よりも大きい場合は、ステップS7081へ進み、所定値以下の場合はこの処理を終了する。ステップS7081では、ステップS7071で算出した絶対エントロピーHp1,Hp2の差(Hp2−Hp1)を予め設定した所定値と比較する。差(Hp2−Hp1)が所定値よりも大きいと判定されると、ステップS7090へ進み、所定値以下であると判定されると、この処理を終了する。ステップS7090では、運転者の注意を喚起するために警報を出力する。これにより、今回の処理を終了する。
【0135】
このように、以上説明した第7の実施の形態においては、上述した第1から第6の実施の形態による効果に加えて以下のような作用効果を奏することができる。
走行状態データとして、自車速Vを検出することにより、運転者の前後方向の運転に関する不安定な状態を検出することができる。
【0136】
上述した第3および第4の実施の形態において、走行状態データとして検出したヨーレートφおよび車線内横位置δを、自車速Vに応じて修正することもできる。第2の実施の形態で説明した操舵角予測誤差θeと同様に、横方向の運転に関するヨーレートφおよび車線内横位置δのばらつきも車速Vに影響を受けるので、これを考慮して走行状態データを修正することにより、運転の不安定な状態をより精度よく検出することが可能となる。
【0137】
以上説明した第1から第7の実施の形態において、舵角センサ5、ヨーレートセンサ10、アクセルペダルストロークセンサ11、ブレーキペダルストロークセンサ12、道路勾配センサ13、レーザレーダ14、前方カメラ15、車速センサ30、およびナビゲーションシステム50は、走行状態検出手段として機能することができ、コントローラ100,110,120,130は、走行状態分布算出手段、分布相違量算出手段、不安定運転状態検出手段、乱雑さ算出手段、走行場面推定手段、および走行状態累積度数分布算出手段として機能することができる。走行状態検出手段は、上述した各センサやシステムには限定されず、別の手段により走行状態データを検出するように構成することもできる。なお、以上の説明はあくまで一例であり、発明を解釈する際、上記の実施形態の記載事項と特許請求の範囲の記載事項の対応関係になんら限定も拘束もされない。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】本発明の第1の実施の形態による車両用運転支援装置のシステム図。
【図2】図1に示した車両用運転支援装置を搭載した車両の構成図。
【図3】第1の実施の形態における運転支援制御プログラムの処理手順を示すフローチャート。
【図4】相対エントロピー算出に利用する記号を説明する図。
【図5】操舵角予測誤差データから過去もしくは長時間の分布および直近の分布を算出する方法を説明する図。
【図6】相対エントロピーの算出方法を説明する図。
【図7】操舵角予測誤差の区分を示す図。
【図8】第2の実施の形態における運転支援制御プログラムの処理手順を示すフローチャート。
【図9】車速と操舵角予測誤差のばらつきとの関係を示す図。
【図10】車速に応じた操舵角予測誤差の区分の範囲を設定する方法を説明するフローチャート。
【図11】操舵角予測誤差データを用いて区分の確率を再帰的に方法を説明するフローチャート。
【図12】本発明の第3の実施の形態による車両用運転支援装置のシステム図。
【図13】第3の実施の形態における運転支援制御プログラムの処理手順を示すフローチャート。
【図14】第4の実施の形態における運転支援制御プログラムの処理手順を示すフローチャート。
【図15】車線内横位置の区分の幅を走行状態に応じて変更する方法を説明する図。
【図16】本発明の第5の実施の形態による車両用運転支援装置のシステム図。
【図17】第5の実施の形態における運転支援制御プログラムの処理手順を示すフローチャート。
【図18】本発明の第6の実施の形態による車両用運転支援装置のシステム図。
【図19】第6の実施の形態における運転支援制御プログラムの処理手順を示すフローチャート。
【図20】第7の実施の形態における運転支援制御プログラムの処理手順を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0139】
5:舵角センサ、10:ヨーレートセンサ、11:アクセルペダルストロークセンサ、12:ブレーキペダルストロークセンサ、13:道路勾配センサ、14:レーザレーダ、15:前方カメラ、30:車速センサ、50:ナビゲーションシステム、100,110,120,130:コントローラ、150:警報装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者の操作を判定する車両用運転支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、運転操作の不安定な状態を検出して警報を行う車両用運転操作監視装置が知られている(例えば特許文献1参照)。この装置は、ステアリング操作の滑らかさから運転者の不安定度を算出する手法として、ステアリングエントロピー法を用いている。ステアリングエントロピー法は、運転者が運転以外の負荷により運転に集中していない有負荷状態では、操舵操作が行われない時間が通常状態(無負荷で覚醒した状態)での運転時よりも長くなって大きな舵角の誤差が蓄積され、運転に注意が戻ったときの修正操舵量が大きくなるという特性に着目したものである。特許文献1の装置は、ステアリングエントロピー法によって算出した舵角エントロピー値に基づいて運転者の不安定度を検出する。
【0003】
【特許文献1】特開平11−227491号公報
【特許文献2】特開平8−249600号公報
【特許文献1】特開2002−154345号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1に記載の装置は、個人差に対応した舵角エントロピー値を算出するために、通常状態における操舵角予測誤差の分布幅(α値)を基準状態として求める必要があった。ただし、この基準状態は特定の走行条件で一義的に決定されたものであり、走行日や時刻、場所(道路状態)などの条件による交通環境の違いによっては、運転者負荷を正確に表すエントロピー値が得られず、運転者の状態を正確に検出することが難しい場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による車両用運転支援装置は、車両挙動、車両周囲環境、および運転者の運転操作量の少なくとも一つ(以降、走行状態データと呼ぶ)を検出する走行状態検出手段と、走行状態検出手段で検出された走行状態データに基づいて複数の走行状態分布を算出する走行状態分布算出手段と、走行状態分布算出手段で算出された複数の走行状態分布の間の相違量を算出する分布相違量算出手段と、分布相違量算出手段で算出された相違量の大きさから、不安定運転状態を判定する不安定運転状態検出手段とを備える。
本発明による車両用運転支援方法は、車両挙動、車両周囲環境、および運転者の運転操作量の少なくとも一つ(以降、走行状態データと呼ぶ)を取得し、取得された走行状態データに基づいて複数の走行状態分布を算出し、算出された複数の走行状態分布の間の相違量を算出し、算出された相違量の大きさから、不安定運転状態を判定する。
本発明による車両は、車両挙動、車両周囲環境、および運転者の運転操作量の少なくとも一つ(以降、走行状態データと呼ぶ)を検出する走行状態検出手段と、走行状態検出手段で検出された走行状態データに基づいて複数の走行状態分布を算出する走行状態分布算出手段と、走行状態分布算出手段で算出された複数の走行状態分布の間の相違量を算出する分布相違量算出手段と、分布相違量算出手段で算出された相違量の大きさから、不安定運転状態を判定する不安定運転状態検出手段とを有する車両用運転支援装置を備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、交通環境の違いによらず不安定な状態を精度よく検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
《第1の実施の形態》
本発明の第1の実施の形態による車両用運転支援装置について説明する。図1に、第1の実施の形態による車両用運転支援装置1の構成を示すシステム図を示し、図2に、図1の車両用運転支援装置1を搭載した車両の構成図を示す。
【0008】
まず、車両用運転支援装置1の構成を説明する。
舵角センサ5は、例えばステアリングコラムもしくはステアリングホイール(不図示)付近に取り付けられた角度センサであり、ステアリングシャフトの回転からドライバの転舵による操舵角を検出する。検出した操舵角は、コントローラ100に出力される。
【0009】
前方カメラ15は、フロントウィンドウ上部に取り付けられた小型のCCDカメラ、またはCMOSカメラ等であり、前方道路の状況を画像として検出する。コントローラ100は、前方カメラ15からの画像信号に画像処理を施し、自車両前方領域に存在するレーンマーカ等を検出する。なお、前方カメラ15による検知領域は車両の前後方向中心線に対して水平方向に±30deg程度であり、この領域に含まれる前方道路風景が画像として取り込まれる。
【0010】
車速センサ30は、車輪の回転数や変速機の出力側の回転数を計測することにより自車両の車速を検出し、検出した自車速をコントローラ100に出力する。
【0011】
ナビゲーションシステム50は、GPS受信機、地図データベース、および表示モニタ等を備えており、経路探索および経路案内等を行うシステムである。ナビゲーションシステム50は、GPS受信機から得られる自車両の現在位置と地図データベースに格納された道路情報に基づいて、自車両が走行する道路の種別や道路幅員等の情報を取得することができる。
【0012】
コントローラ100は、CPUと、ROMおよびRAM等のCPU周辺部品とから構成される電子制御ユニットであり、車両用運転支援装置1全体の制御を行う。コントローラ100は、舵角センサ5、前方カメラ15、車速センサ30、ナビゲーションシステム50等から入力される信号に基づいて運転者の運転特性を分析し、運転者の運転操作の乱雑さ、すなわちなめらかでない度合を判定する。そして、運転操作のなめらかでない度合に応じて警報を出力して運転者の注意を喚起する。コントローラ100における具体的な制御内容は、後述する。
【0013】
警報装置150は、コントローラ100からの制御信号に応じて警報を出力する。警報装置150は、例えば、ブザー音や音声により運転者への情報提供を行うスピーカと、画像やテキストの表示により情報提供を行う表示ユニットとを備える。表示ユニットは、例えばナビゲーションシステム50の表示モニタを用いて表示を行うこともできる。
【0014】
次に、第1の実施の形態による車両用運転支援装置1の動作を説明する。まず、その概要を説明する。
車両用運転支援装置1のコントローラ100は、自車両の走行状態と運転者の運転操作に基づいて、運転者の運転操作のなめらかでない度合を判定し、その判定結果に応じて運転者への警報を行う。具体的には、運転者がステアリング操作を行う際の操舵角信号に基づいて、運転者の現在の運転操作が普段の運転操作と比べてどう違うか、すなわち普段の運転操作と比べて不安定な状態であるかを判定する。そして、普段の運転操作と比べて不安定な状態であると判定されると、警報を与えて運転者の注意を喚起する。
【0015】
第1の実施の形態では、運転操作のなめらかでない乱雑さを表す値として、相対エントロピー(Relative Entropy)を算出する。一般的に、運転者の注意が運転に集中していない状態では、操舵が行われない時間が運転に集中した正常運転時よりも長くなり、大きな操舵角の誤差が蓄積される。したがって、運転者の注意が運転に戻ったときの修正操舵量が大きくなる。そこで、この特性を利用して相対エントロピーRHpを算出する。具体的には、過去あるいは現在よりも前の長時間に蓄積された操舵誤差分布と、短時間計測された現在の運転者の操舵誤差分布をそれぞれ算出する。そして、長時間の操舵誤差分布を比較基準として用いて、長時間の操舵誤差分布と短時間の操作誤差分布とから相対エントロピーRHpを算出する。
【0016】
すなわち、相対エントロピーRHpは、2つの操舵誤差分布の相違量(距離)を表す物理量であり、2つの操舵誤差分布の違いの度合、すなわち2つの操舵誤差分布がどれくらい離れているかを表す。算出した相対エントロピーRHpの値を判定することにより、過去の長時間の走行状態に対して現在の直近の走行状態の安定性を評価する。
【0017】
第1の実施の形態による車両用運転支援装置1の動作を、図3を用いて詳細に説明する。図3は、第1の実施の形態のコントローラ100における運転支援制御処理の処理手順のフローチャートである。本処理内容は、一定間隔、例えば50msec毎に連続的に行われる。
【0018】
ステップS1010では、相対エントロピーRHpを算出可能な走行場面であるか否かを判断するために、自車両が走行している走行場面の推定(検出)を行う。ここでは、自車速Vが所定範囲(例えば40〜120km/h)内にある場合に、相対エントロピーRHpを算出可能な走行場面とする。すなわち、操舵角信号を用いた効果的な相対エントロピーRHpの算出を行うために、車速が極端に遅い場合および極端に速い場合を算出可能な走行場面から除外する。
【0019】
ステップS1020では、車速センサ30で検出される現在の自車速Vが所定範囲内にあるか否かを判定する。自車速Vが所定範囲内にあり、相対エントロピーRHpを算出可能な走行場面であると判定されると、相対エントロピーRHpの算出を行うためにステップS1030へ進む。一方、自車速Vが所定範囲内にない場合は、この処理を終了する。
【0020】
ステップS1030では、運転者の運転操作の不安定な状態を検出するための検出対象となる運転者の運転操作量として、舵角センサ5で検出される現在の操舵角信号θを読み込む。ステップS1031では、読み込んだ操舵角θの値から、操舵角予測誤差θeを算出する。
【0021】
ここで、図4に、相対エントロピーRHpを算出するために用いる特殊記号とその名称を示す。操舵角円滑値θn-tildeは、量子化ノイズの影響を低減した操舵角である。操舵角の推定値θn-hatは、ステアリングが滑らかに操作されたと仮定してサンプリング時点における操舵角を推定した値である。操舵角推定値θn-hatは、以下の(式1)に示すように、操舵角円滑値θn-tildeに対して二次のテイラー展開を施して得られる。
【数1】
(式1)において、tnは操舵角θnのサンプリング時刻である。
【0022】
操舵角円滑値θn-tildeは、量子化ノイズの影響を低減するために、3個の隣接操舵角θnの平均値として以下の(式2)から算出される。
【数2】
(式2)において、lは、操舵角円滑値θn-tildeの算出時間間隔を150msec、すなわち手動操作において人間が断続的に操作可能な最小時間間隔とした場合に、150msec内に含まれる操舵角θnのサンプル数を表す。
【0023】
操舵角θnのサンプリング間隔をTsとすると、サンプル数lは、以下の(式3)で表される。
l=round(0.15/Ts) ・・・(式3)
(式3)において、k=1,2,3の値をとり、(k*1)により150msec間隔の操舵角とそれに隣接する合計3個の操舵角θnに基づいて、円滑値θn-tildeを求めることができる。したがって、このような円滑値θn-tildeに基づいて算出される推定値θn-hatは、実質的に150msec間隔で得られた操舵角θにより算出されたことになる。
【0024】
サンプリング時点における操舵角予測誤差θeは、ステアリング操作が滑らかに行われたと仮定した場合の操舵角推定値θn-hatと実際の操舵角θnとの差として、以下の(式4)から算出できる。
【数3】
ただし、操舵角予測誤差θeは、人間が断続的に操作可能な最小時間間隔、150msecごとの操舵角θnに対してのみ算出するものとする。
【0025】
以下に、操舵角予測誤差θeの具体的な算出方法を説明する。なお、操舵角信号θのサンプリング間隔Tsは、例えば50msecとする。まず、150msec間隔の隣接する3個の操舵角θnを用いて、上記(式2)から3個の操舵角円滑値θn-tildeを算出する。3個の操舵角円滑値θn-tildeは、以下の(式5)で表される。
【数4】
【0026】
つぎに、算出した3個の操舵角円滑値θn-tildeを用いて、上記(式1)から操舵角の推定値θn-hatを算出する。推定値θn-hatは、以下の(式6)で表される。
【数5】
そして、算出した操舵角推定値θn-hatと実際の操舵角信号θnとを用いて、上記(式4)から操舵誤差θeを算出する。
【0027】
つづくステップS1040では、現時点までに算出され、コントローラ100のメモリ内に蓄積されていた所定時間T秒間の操舵角予測誤差θeのデータを、ステップS1031で算出した操舵角予測誤差θeの現在値を加えて更新する。すなわち、蓄積されている操舵角予測誤差θeのデータのうち最も古いT秒前のデータを捨てて、代わりに最新の操舵角予測誤差θeのデータとして、ステップS1031で算出した現在値を入力する。これにより、現在値からT秒前までの操舵角予測誤差θeのデータが蓄積されることになる。なお、所定時間Tは、現在の運転操作の不安定な状態を判定するための比較基準となる長時間の誤差分布を算出するために十分な長期間のデータを蓄えられるように、例えばT=3600秒(=1時間)程度に設定する。
【0028】
ステップS1050では、操舵予測誤差分布の比較基準となる、過去あるいは長時間の操舵角予測誤差分布1を算出する。ここでは、図5に示すように、例えばT秒前のデータから180秒分のデータを使って過去の操舵角予測誤差分布を算出する。具体的には、蓄積された過去の操舵角予測誤差θeを、9つの予測誤差区分b1〜b9に分類し、各区分biに含まれる操舵角予測誤差θeの度数の全度数に対する確率pi(=p1〜p9)を求める。そして、算出した過去の分布を操舵予測誤差分布の比較基準として利用する。なお、予測誤差区分biの範囲は、全区分b1〜b9で一定となるように予め設定しておく。
【0029】
長時間の操舵角予測誤差分布を算出する場合は、T秒前から現在までの3600秒分の全てのデータを用いる。具体的には、蓄積された長時間の操舵角予測誤差θeを、9つの予測誤差区分b1〜b9に分類し、各区分biに含まれる操舵角予測誤差θeの度数の全度数に対する確率pi(=p1〜p9)を求める。算出した過去の分布(または長時間の分布)を比較基準となる過去(または長時間)の操舵角予測誤差分布1とする。
【0030】
ステップS1051では、現在の操舵角予測誤差分布2を算出する。ここでは、図5に示すように現在から直近の180秒分のデータを使って現在の操舵角予測誤差分布2を算出する。具体的には、直近の180秒分の操舵角予測誤差θeのデータを、9つの予測誤差区分b1〜b9に分類し、各区分biに含まれる操舵角予測誤差θeの度数の全度数に対する確率qi(=q1〜q9)を求める。
【0031】
ステップS1070では、過去(または長時間)の操舵角予測誤差分布1および現在の操舵角予測誤差分布2を用いて、相対エントロピーRHpを求める。図6に示すように相対エントロピーRHpは、比較基準である過去(または長時間)の操舵角予測誤差分布1に対する現在の操舵角予測誤差分布2の相違量(距離)である。相対エントロピーRHpは、以下の算出式(式7)から算出することができる。
【数6】
【0032】
相対エントロピーRHpは、過去(または長時間)の操舵角予測誤差分布1の確率piと現在の操舵角予測誤差分布2の確率qiが等しい場合にRHp=0となり、これらの確率piとqiがずれるほどRHpの値が大きくなる。
【0033】
ステップS1080では、ステップS1070で算出した相対エントロピーRHpの値を、予め設定した所定値と比較する。ここで、所定値は、運転者の現在の運転操作が不安定な状態であり注意を喚起する必要があるか否かを判断するためのしきい値であり、予め適切な値を設定しておく。相対エントロピーRHpが所定値よりも大きい場合は、ステップS1090へ進み、所定値以下の場合はこの処理を終了する。
【0034】
ステップS1090では、運転者の注意を喚起するために警報を出力する。そこで、コントローラ100は、警報装置150へ制御信号を送り、警報音や表示等により運転操作が不安定な状態であることを運転者に報知する。これにより、今回の処理を終了する。
【0035】
なお、過去(または長時間)の操舵角予測誤差分布1および現在の操舵角予測誤差分布2を算出するための予測誤差区分biの範囲を、操舵誤差分布のあいまいさ(不確実性)を表すステアリングエントロピー値Hpを算出する際に用いるα値に基づいて設定することもできる。ここで、α値は、操舵角の時系列データに基づいて一定時間内の操舵誤差、すなわちステアリングが滑らかに操作されたと仮定した場合の操舵角の推定値と実際の操舵角との差を求め、操舵誤差の分布(ばらつき)を測定して90パーセントタイル値(操舵誤差の90%が含まれる分布の範囲)を算出したものである。
【0036】
そこで、過去あるいは長時間の操舵角誤差分布に基づいてα値を算出し、算出したα値から、過去(または長時間)の操舵角予測誤差分布1および現在の操舵角予測誤差分布2について同じ予測誤差区分biの範囲を設定する。図7に、α値を用いて設定される各区分biの操舵角予測誤差θeの範囲を示す。
【0037】
このように、以上説明した第1の実施の形態においては、以下のような作用効果を奏することができる。
(1)車両用運転支援装置1は、走行状態データとして、車両挙動、車両周囲環境、および運転者の運転操作量の少なくとも一つを検出し、走行状態データに基づいて複数の走行状態分布を算出する。そして、算出された複数の走行状態分布の間の相違量を算出し、相違量の大きさから不安定運転状態を判定する。これにより、交通環境の違いによらず不安定な走行状態を精度よく検出することが可能となる。すなわち、交通環境の違いによらず、個人の普段の特性に適応して、不安定な状態を精度よく検出することができる。
(2)複数の走行状態分布として、時間的範囲の異なる複数の走行状態分布を算出する。例えば、過去の走行状態データを含む走行状態分布と、直近の走行状態データからなる走行状態分布とを算出し、過去の走行状態分布を基準として直近の走行状態分布の相違量を直接算出することにより、基準となるデータも連続的に更新しつつ、直近の状態の安定性を評価することが可能となる。このように、交通環境の違いによらず不安定な走行状態を精度よく検出することが可能となる。
(3)走行状態データとして操舵角予測誤差を取得するので、運転者の操舵操作に関する不安定運転状態を判定することができる。
(4)複数の走行状態分布の間の相違量として相対エントロピーを算出することにより、複数の分布間の形状の違いを把握して、基準の走行状態分布に対して比較対象の走行状態分布がどれくらい離れているかを判断することができる。
【0038】
《第2の実施の形態》
以下に、本発明の第2の実施の形態による車両用運転支援装置について説明する。第2の実施の形態による車両用運転支援装置の基本構成は、図1に示した第1の実施の形態と同様である。ここでは、上述した第1の実施の形態との相違点を主に説明する。
【0039】
第2の実施の形態による車両用運転支援装置1では、上述した第1の実施の形態と同様に、操舵角信号θを用いて相対エントロピーRHpを算出することにより運転操作の不安定な状態を検出する。そして、運転操作が不安定な状態であると判定されると、警報を出力して運転者の注意を喚起する。
【0040】
ここで、相対エントロピーRHpを求める際には、操舵角の推定誤差が9分割された基準分布のどの区分に属するかを判定し、各区分の確率を計算する必要がある。上述した第1の実施の形態では、相対エントロピーRHpを算出するために必要な大量の操舵角θのデータをメモリに蓄積していた。第2の実施の形態では、直近の操舵角θのデータを一時的に保存する必要がある場合でも、少量のメモリで各区分の確率の計算が可能となるように、再帰的(Recursive)に各区分の確率を計算する。
【0041】
また、自車両が安定して走行している状態でも、操舵角予測誤差θeのばらつきは自車速Vが大きいほど大きくなる傾向がある。したがって、第2の実施の形態では、このばらつきの影響を補正するために、自車速Vに応じて操舵角予測誤差分布の区分biの範囲を補正する。
【0042】
さらに、運転操作の不安定な状態をより確実に判定するために、相対エントロピーRHpに加えて、過去(または長時間)の操舵角予測誤差分布1と現在の操舵角予測誤差分布2のそれぞれについて、操舵誤差分布のあいまいさ(不確実性)を表すステアリングエントロピー値Hpを算出する。ステアリングエントロピー値Hpは、ステアリング操作が滑らかで安定している場合は小さくなり、ガクガクと不安定な場合は大きくなる。以降では、ステアリングエントロピー値Hpを、相対エントロピーRHpに対して絶対エントロピーと呼ぶ。
【0043】
以下に、第2の実施の形態による車両用運転支援装置1の動作を、図8を用いて説明する。図8は、第2の実施の形態のコントローラ100における運転支援制御処理の処理手順のフローチャートである。本処理内容は、一定間隔、例えば50msec毎に連続的に行われる。ステップS2010〜S2031での処理は、図3のフローチャートのステップS1010〜S1031での処理と同様であるので、説明を省略する。
【0044】
ステップS2041では、操舵角予測誤差分布の区分biの範囲を決定するために用いる自車両の走行状態を表す物理量として、車速センサ30で検出される現在の自車速Vを読み込む。ステップS2042では、ステップS2041で読み込んだ自車速Vに応じて、操舵角予測誤差分布の区分biの幅の位置と大きさを設定する。すなわち、図9に示すように、自車両が安定して走行している状態でも、操舵角予測誤差θeのばらつきは自車速Vが大きいほど大きくなる傾向がある。そこで、車速によるばらつきの影響を補正するために、各区分biの範囲を、以下の(式8)のように変更する。
区分biの範囲: {Kbi_LEFT×V,Kbi_RIGHT×V} ・・・(式8)
【0045】
ここで、Kbi_LEFT,Kbi_RIGHTは、区分b1〜b9のそれぞれの左端と右端を定義する値である。すなわち、区分biの右端を定義するKbi_RIGHTは、区分bi+1の左端を定義するKbi+1_LEFTと等しくなる。これらのKbi_LEFT,Kbi_RIGHTは、所定値として予め適切な値を設定しておく。(式8)により、自車速Vに比例して、各区分biの範囲の大きさと位置が変化することになる。
【0046】
また、Kbi_LEFT,Kbi_RIGHTの値は、車両の特性や運転者の特性によって異なることが予想されるため、別プログラムで車速域ごとに同定された操舵角予測誤差θeのばらつき(標準偏差)の大きさの近似式を用いて補正されている。すなわち、操舵角予測誤差θeのばらつきから運転者の特性を学習し、Kbi_LEFT,Kbi_RIGHTの値を補正する。図9に、安定した走行状態における車速に対する操舵角予測誤差θeの標準偏差の一例を示す。図9に示す直線で表される近似式を用いて、Kbi_LEFT,Kbi_RIGHTの補正を行う。Kbi_LEFT,Kbi_RIGHTの補正方法について、図10のフローチャートを用いて説明する。
【0047】
まず、ステップS2401で、自車両走行中に算出される操舵角予測誤差θeのデータを、車速10km/hおき、±5km/hの範囲内で別々に、例えばコントローラ100内のメモリに蓄積する。ステップS2402では、過去に蓄えられた操舵角予測誤差θeを用いて、各範囲内の操舵角予測誤差θeの標準偏差を算出する。図9にプロットされた各点は、車速の各範囲ごとに算出された操舵角予測誤差θeの標準偏差の一例を示す。なお、図9に示す例は、20km/hおきにプロットされている。
【0048】
ステップS2403では、図9に示すような点列から、最小二乗法にて原点を通る直線を近似し、その傾きを算出する。ステップS2404では、ステップS2403で算出した車速に対する標準偏差のグラフの傾きの大きさに比例するように、Kbi_LEFT,Kbi_RIGHTの補正を行う。ここでは、予め、標準偏差の傾きの所定値に対するKbi_LEFT,Kbi_RIGHTの標準値を決めておく。そして、予め設定したKbi_LEFT,Kbi_RIGHTの標準値を車速に対する標準偏差のグラフの傾きの大きさに比例するように補正する。
【0049】
このように、自車速Vに応じた運転者の操舵角予測誤差θeのばらつきを学習して補正したKbi_LEFT,Kbi_RIGHTの値を、車速に対する操舵角予測誤差θeの依存性を考慮して自車速Vに応じて変更することにより、操舵角予測誤差分布の区分biの範囲を設定する。
【0050】
続くステップS2043では、操舵角予測誤差分布計算用の時間ウィンドウの値Tw1,Tw2を設定する。なお、ここでは比較基準として長時間の操舵角予測誤差分布を用いる(図5参照)。そこで、長時間の操舵角予測誤差1用のタイムウィンドウTw1は、運転者の普段の運転操作を表す普段の分布を算出するために、基本的にTw1=3600秒とする。ただし、操舵角予測誤差θeのデータを蓄積している途中で運転者が変わった場合等に対応するため、データ蓄積がリセットされてからの経過時間も加味して、3600秒とリセットされてからの経過時間のいずれか短いほうをタイムウィンドウTw1として設定する。
【0051】
一方、現在の操舵角予測誤差分布2用のタイムウィンドウTw2は、運転者の現在の運転操作を表す直近の分布を算出するために、基本的にTw2=180秒とする。ただし、操舵角予測誤差θeの計測開始直後の応答性を向上させるために、今回の走行についての計測開始から180秒に達しない状況では、計測開始からの経過時間を、そのままタイムウィンドウTw2として設定する。これにより、現在の操舵角予測誤差分布2の計算の応答性が向上し、計測開始から短時間で運転者の運転操作の判定が可能となる。
【0052】
ステップS2050では、操舵予測誤差分布の比較基準となる長時間の操舵角予測誤差分布1を再帰計算により算出する。ここでは、タイムウィンドウTw1をステップS2043で設定した値(例えば3600秒とリセットされてからの経過時間のいずれか短いほう)に設定し、タイムウィンドウTw1内の操舵角予測誤差θeのデータを用いて長時間の操舵角予測誤差分布1を算出する。
【0053】
具体的には、ステップS2031で算出した操舵角予測誤差θeを、ステップS2042で算出した9区分b1〜b9に分類し、各区分biに含まれる操舵角予測誤差θeの度数の全度数に対する確率pi(p1〜p9)を再帰的に求める。操舵角予測誤差θeが配分される区分の判定と、各区分biの確率piを再帰的に求める方法を、図11のフローチャートを用いて説明する。
【0054】
まず、ステップS2501では、操舵角予測誤差の区分を示すiに1を設定する。ステップS2502では、iが9よりも大きいか否かを判定する。i>9の場合は、9区分のそれぞれの確率piの算出が終了していると判断して、この処理を終了する。i≦9の場合は、各区分biにおける確率piを算出するために、ステップS2503へ進む。
【0055】
ステップS2503では、ステップS2031で算出した操舵角予測誤差θeがターゲットの区分biに該当するか否かを判定する。操舵角予測誤差θeが区分biに該当する場合は、ステップS2504へ進む。ステップS2504では、以下の(式9)から区分biに含まれる操舵角予測誤差θeの確率pi(n)を算出する。ここで、タイムウィンドウTw1内のデータ個数をNとする。
pi(n)={pi(n−1)+1/N}÷(1+1/N) ・・・(式9)
【0056】
一方、操舵角予測誤差θeが区分biに該当しない場合は、ステップS2505へ進み、その区分biに含まれる操舵角予測誤差θeの確率pi(n)を、以下の(式10)から算出する。
pi(n)={pi(n−1)}÷(1+1/N) ・・・(式10)
【0057】
ステップS2506では、iとして(i+1)をセットする。その後、ステップS2502へ戻り、全9区分の確率piを算出するまで、ステップS2503〜S2506の処理を繰り返す。
【0058】
このように、ステップS2050で各区分biに含まれる操舵角予測誤差θeの確率piを再帰的に算出した後、ステップS2051へ進む。ステップS2051では、現在の操舵角予測誤差分布2を再帰計算により算出する。ここでは、タイムウィンドウTw2をステップS2043で設定した値(例えば180秒と計測開始からの経過時間のいずれか短いほう)に設定し、タイムウィンドウTw2内の操舵角予測誤差θeのデータを用いて現在の直近の操舵角予測誤差分布2を算出する。
【0059】
具体的には、ステップS2031で算出した操舵角予測誤差θeを、ステップS2042で算出した9区分b1〜b9に分類し、各区分biに含まれる操舵角予測誤差θeの度数の全度数に対する確率qi(q1〜q9)を再帰的に求める。確率qiの再帰的に求める方法は、上述した長時間の操舵角予測誤差分布1における算出方法と同様である。
【0060】
ステップS2070では、長時間の操舵角予測誤差分布1および現在の操舵角予測誤差分布2を用いて、上述した(式7)から相対エントロピーRHpを求める。
【0061】
ステップS2071では、長時間の操舵角予測誤差分布1および現在の操舵角予測誤差分布2を用いて、それぞれの絶対エントロピーHp1,Hp2を算出する。長時間の操舵角予測誤差分布1の絶対エントロピーHp1は、ステップS2050で算出した確率piを用いて、以下の(式11)から求められる。
【数7】
【0062】
現在の操舵角予測誤差分布2の絶対エントロピーHp2は、ステップS2051で算出した確率qiを用いて、以下の(式12)から求められる。
【数8】
【0063】
絶対エントロピーHp1,Hp2は、操舵角予測誤差θeの分布の峻険度を表す。絶対エントロピーHp1,Hp2が小さいほど操舵角予測誤差θeの分布の峻険度が大きく、操舵角予測誤差θeの分布が一定の範囲に収まっている。すなわち、ステアリング操作が滑らかに行われ、運転が安定な状態にあることを示す。反対に、絶対エントロピーHp1,Hp2が大きいほど操舵角予測誤差θeの分布の峻険度が小さく、操舵角予測誤差θeの分布がばらついている。すなわち、ステアリング操作がガクガクしており、運転が不安定な状態にあることを示す。
【0064】
ステップS2080では、ステップS2070で算出した相対エントロピーRHpの値を、予め設定した所定値と比較する。ここで、所定値は、運転者の現在の運転操作が不安定な状態であり注意を喚起する必要があるか否かを判断するためのしきい値であり、予め適切な値を設定しておく。相対エントロピーRHpが所定値よりも大きい場合は、ステップS2081へ進み、所定値以下の場合はこの処理を終了する。
【0065】
ステップS2081では、ステップS2071で算出した絶対エントロピーHp1,Hp2の差(Hp2−Hp1)を予め設定した所定値と比較する。ここで、所定値は、現在の操舵角予測誤差分布2の絶対エントロピーHp2が、長時間の操舵角予測誤差分布1の絶対エントロピーHp1よりも大きいか(Hp2>Hp1であるか)、すなわち、現在のステアリング操作が普段よりも不安定になっているかを判定するためのしきい値であり、基本的にはゼロに設定できる。ただし、判定結果を安定させるため、所定値を小さい正の値(例えば0.05)に設定する。
【0066】
差(Hp2−Hp1)が所定値よりも大きいと判定されると、ステップS2090へ進み、所定値以下であると判定されると、この処理を終了する。ステップS2090では、運転者の注意を喚起するために警報を出力する。そこで、コントローラ100は、警報装置150へ制御信号を送り、警報音や表示等により運転操作が不安定な状態であることを運転者に報知する。これにより、今回の処理を終了する。
【0067】
このように、以上説明した第2の実施の形態においては、上述した第1の実施の形態による効果に加えて以下のような作用効果を奏することができる。
(1)車両用運転支援装置1は、さらに、複数の走行状態分布のそれぞれの乱雑度合を算出し、複数の走行状態分布の間の相違量の大きさに加えて、複数の走行状態分布のそれぞれの乱雑さの大小関係に基づいて、不安定運転状態を判定する。これにより、不安定な走行状態をより精度よく検出することが可能となる。
(2)所定の時間的範囲に相当する走行状態分布を再帰的に算出することにより、メモリ量を少なくし、連続計算が可能となる。また、時間的範囲の大きさによらずメモリ量が一定となり、計測対象とする時間的範囲を自由に設定できる。
(3)自車両の走行場面を推定し、推定された走行場面に応じて時間的範囲を修正する。例えば、運転者が交代するなどして判定がリセットされ、走行状態分布の算出に適した走行場面が所定の時間的範囲に満たない場合は、時間的範囲をリセットされてからの経過時間に一致させる。これにより、走行状態分布計算の応答性が向上し、走行状態データの計測開始から短時間で不安定運転状態の判定が可能となる。
(4)コントローラ100は、走行状態データを所定数の区分に分割することにより走行状態分布を算出し、検出される走行状態データに応じて、区分ごとの幅を修正する。これにより、不安定な運転状態をより精度よく検出することができる。
(5)区分ごとの幅を修正するための走行状態データとして車速を用いる。操舵角予測誤差θeのばらつきは、自車速Vが大きいほど大きくなる傾向があるため、自車速Vを用いて区分ごとの幅を修正することにより、自車速Vによるばらつきへの影響を補正することが可能となる。また、操舵角予測誤差θeのデータを自車速Vに応じて修正することも可能である。
(6)コントローラ100は、区分ごとの幅の修正量を学習し、学習された修正量に応じて区分ごとの幅を修正する。これにより、運転者個人ごとの特性に応じて区分ごとの幅を修正することが可能となる。
【0068】
《第3の実施の形態》
以下に、本発明の第3の実施の形態による車両用運転支援装置について説明する。図12に、第3の実施の形態による車両用運転支援装置3の構成を示すシステム図を示す。第3の実施の形態においては、上述した第1および第2の実施の形態と同様の機能を有する箇所には同一の符号を付して説明を省略する。ここでは、第2の実施の形態との相違点を主に説明する。
【0069】
第3の実施の形態による車両用運転支援装置3は、運転者の運転操作量の代わりに、自車両の走行状態を検出して運転者の不安定な状態を検出する。そこで、図12に示すように、舵角センサ5の代わりにヨーレートセンサ10を備えている。ヨーレートセンサ10は、車両のヨーレートを検出し、コントローラ110に出力する。コントローラ110は、操舵角予測誤差θeの代わりに自車両に発生するヨーレートを用いて相対エントロピーRHpおよび絶対エントロピーHp1,Hp2を算出することにより、運転操作の不安定な状態を検出する。そして、運転操作が不安定な状態であると判定されると、警報を出力して運転者の注意を喚起する。
【0070】
以下に、第3の実施の形態による車両用運転支援装置3の動作を、図13を用いて説明する。図13は、第3の実施の形態のコントローラ110における運転支援制御処理の処理手順のフローチャートである。本処理内容は、一定間隔、例えば50msec毎に連続的に行われる。
【0071】
ステップS3010では、相対エントロピーRHpを算出可能な走行場面であるか否かを判断するために、自車両が走行している走行場面の推定(検出)を行う。ここでは、自車速Vが所定範囲(例えば40〜120km/h)内にある場合に、相対エントロピーRHpおよび絶対エントロピーHp1,Hp2を算出可能な走行場面とする。すなわち、ヨーレートを用いた効果的なエントロピーの算出を行うために、車速が極端に遅い場合および極端に速い場合を算出可能な走行場面から除外する。
【0072】
ステップS3020では、車速センサ30で検出される現在の自車速Vが所定範囲内にあるか否かを判定する。自車速Vが所定範囲内にあり、相対エントロピーRHpおよび絶対エントロピーHp1,Hp2を算出可能な走行場面であると判定されると、ステップS3030へ進む。一方、自車速Vが所定範囲内にない場合は、この処理を終了する。
【0073】
ステップS3030では、運転者の運転操作の不安定な状態を検出するための検出対象となる自車両の走行状態として、ヨーレートセンサ10で検出される現在の自車両のヨーレートφを読み込む。ステップS3031では、読み込んだヨーレートφの値から、ヨーレート特定成分φsを算出する。
【0074】
自車両が道路に沿って走行する場合、道路曲率によって自車両が旋回すると、自車両がふらついていなくても定常的なヨーレートが生じる。そこで、各種道路形状に対応するため、ヨーレートセンサ10で検出されたヨーレートφの値から道路に沿って走行する際に生じるヨーレートの定常成分を減じた値を、自車両のふらつきを表すヨーレート特定成分φsとして算出する。
【0075】
具体的には、ナビゲーションシステム50から自車両が走行する道路の形状を検出し、道路曲率ρ(旋回半径Rの逆数)を算出する。自車速Vで曲率ρの道路を走行した場合、自車両の旋回によって生じるヨーレートの定常成分はρ×V(=V/R)で表される。ヨーレート特定成分φsは、ヨーレートセンサ10で検出される自車両に実際に発生しているヨーレートφから、定常成分を減じた値である。すなわち、自車両が道路に沿って走行する分以外の、走行中にふらつく分に相当するヨーレートの値であり、以下の(式13)から算出できる。
φs=φ−ρ×V ・・・(式13)
【0076】
ステップS3041以降の処理は、基本的には上述した第2の実施の形態と同様である。すなわち、ステップS3041では、車速センサ30で検出される現在の自車速Vを読み込む。ステップS3042では、ステップS3041で読み込んだ自車速Vに応じて、ヨーレート分布の区分biの幅の位置と大きさを設定する。ステップS3043では、ヨーレート分布計算用の時間ウィンドウの値Tw1,Tw2を設定する。タイムウィンドウTw1は、例えば3600秒、タイムウィンドウTw2は、例えば180秒とする。
【0077】
ステップS3050では、ヨーレート分布の比較基準となる長時間のヨーレート分布1を再帰計算により算出する。ステップS3051では、現在のヨーレート分布2を再帰計算により算出する。ステップS3070では、長時間のヨーレート分布1および現在のヨーレート分布2を用いて、上述した(式7)から相対エントロピーRHpを求める。ステップS3071では、長時間のヨーレート分布1および現在のヨーレート分布2を用いて、上述した(式11)(式12)からそれぞれの絶対エントロピーHp1,Hp2を算出する。
【0078】
ステップS3080では、ステップS3070で算出した相対エントロピーRHpの値を、予め設定した所定値と比較する。相対エントロピーRHpが所定値よりも大きい場合は、ステップS3081へ進み、所定値以下の場合はこの処理を終了する。ステップS3081では、ステップS3071で算出した絶対エントロピーHp1,Hp2の差(Hp2−Hp1)を予め設定した所定値と比較する。差(Hp2−Hp1)が所定値よりも大きいと判定されると、ステップS3090へ進み、所定値以下であると判定されると、この処理を終了する。ステップS3090では、運転者の注意を喚起するために警報を出力する。これにより、今回の処理を終了する。
【0079】
このように、以上説明した第3の実施の形態においては、上述した第1および第2の実施の形態による効果に加えて以下のような作用効果を奏することができる。
走行状態データとして、自車両に発生するヨーレートφを検出することにより、運転者の横方向の運転に関する不安定な状態を判定することができる。
【0080】
《第4の実施の形態》
以下に、本発明の第4の実施の形態による車両用運転支援装置について説明する。第4の実施の形態による車両用運転支援装置の基本的な構成は、図1に示した第1の実施の形態と同様である。ここでは、上述した第2の実施の形態との相違点を主に説明する。
【0081】
第4の実施の形態による車両用運転支援装置1は、運転者の運転操作量の代わりに、自車両の走行状態を検出して運転者の不安定な状態を検出する。したがって、舵角センサ5は省略することができる。第4の実施の形態においてコントローラ100は、操舵角予測誤差θeの代わりに自車両が走行する道路における自車両の車線内横位置を用いて相対エントロピーRHpおよび絶対エントロピーHp1,Hp2を算出することにより、運転操作の不安定な状態を検出する。そして、運転操作が不安定な状態であると判定されると、警報を出力して運転者の注意を喚起する。
【0082】
以下に、第4の実施の形態による車両用運転支援装置1の動作を、図14を用いて説明する。図14は、第4の実施の形態のコントローラ100における運転支援制御処理の処理手順のフローチャートである。本処理内容は、一定間隔、例えば50msec毎に連続的に行われる。
【0083】
ステップS4010では、相対エントロピーRHpを算出可能な走行場面であるか否かを判断するために、自車両が走行している走行場面の推定(検出)を行う。ここでは、自車速Vが所定範囲(例えば40〜120km/h)内にあり、前方カメラ15が自車両が走行する道路の白線を確実に検出している場合に、相対エントロピーRHpおよび絶対エントロピーHp1,Hp2を算出可能な走行場面とする。
【0084】
ステップS4020では、車速センサ30で検出される現在の自車速Vが所定範囲内にあるか否か、また、前方カメラ15により白線が確実に検出されているか否かを判定する。自車速Vが所定範囲内にあり白線がきちんと検出されている場合は、相対エントロピーRHpおよび絶対エントロピーHp1,Hp2を算出可能な走行場面であると判定して、ステップS3030へ進む。一方、ステップS4020が否定判定されると、この処理を終了する。
【0085】
ステップS4030では、運転者の運転操作の不安定な状態を検出するための検出対象となる自車両の走行状態として、前方カメラ15で検出される自車両の車線内横位置δを読み込む。例えば、コントローラ100は、前方カメラ15の撮像画像に画像処理を施して自車両が走行する道路の白線を検出し、車線中心から自車両中心までの横方向距離を車線内横位置δとして検出する。車線内横位置δは、自車両が車線中心にいるときに0となり、白線上で最大値となる。
【0086】
ステップS4041では、車速センサ30で検出される現在の自車速Vを読み込む。ステップS4042では、ステップS4041で読み込んだ自車速Vとナビゲーションシステム50から得られる道路形状に応じて、車線内横位置分布の区分biの幅の位置と大きさを設定する。具体的には、図15に示すように各区分bi(b1〜b9)の幅の大きさおよび位置を設定する。自車速Vが大きくなるほど、白線に近い区分を車線中心に近い区分に対して相対的に広くする。また、カーブ内側の区分を外側の区分に対して相対的に広くする。なお、車線内横位置δが左側の白線を越える領域を区分b1、車線内横位置δが右側の白線を越える領域を区分b9とする。
【0087】
ステップS4043では、車線内横位置分布計算用の時間ウィンドウの値Tw1,Tw2を設定する。タイムウィンドウTw1は、例えば3600秒、タイムウィンドウTw2は、例えば180秒とする。
【0088】
ステップS4050では、車線内横位置分布の比較基準となる長時間の車線内横位置分布1を再帰計算により算出する。ステップS4051では、現在の車線内横位置分布2を再帰計算により算出する。ステップS4060では、区分biごとの重みWiを設定する。区分b1〜b9の重みW1〜W9は、例えば、W1=1.0、W2=0.75、W3=0.5、W4=0.25、W5=0.0、W6=0.25、W7=0.50、W8=0.75、W9=1.0とする。
【0089】
ステップS4070では、長時間の車線内横位置分布1と現在の車線内横位置分布2、および各区分biの重みWiを用いて、以下の(式14)から相対エントロピーRHpを求める。
【数9】
【0090】
ステップS4071では、長時間の車線内横位置分布1および現在の車線内横位置分布2を用いて、以下の(式15)(式16)からそれぞれの絶対エントロピーHp1,Hp2を算出する。
【数10】
【数11】
【0091】
ステップS4080では、ステップS4070で算出した相対エントロピーRHpの値を、予め設定した所定値と比較する。相対エントロピーRHpが所定値よりも大きい場合は、ステップS4081へ進み、所定値以下の場合はこの処理を終了する。ステップS4081では、ステップS4071で算出した絶対エントロピーHp1,Hp2の差(Hp2−Hp1)を予め設定した所定値と比較する。差(Hp2−Hp1)が所定値よりも大きいと判定されると、ステップS4090へ進み、所定値以下であると判定されると、この処理を終了する。ステップS4090では、運転者の注意を喚起するために警報を出力する。これにより、今回の処理を終了する。
【0092】
このように、以上説明した第4の実施の形態においては、上述した第1から第3の実施の形態による効果に加えて以下のような作用効果を奏することができる。
(1)走行状態データを所定数の区分に分割することにより走行状態分布を算出し、区分ごとに重みをつけて複数の走行状態分布の間の相違量を算出する。これにより、走行時の不安定な運転状態をより精度よく判定することができる。例えば、
(2)走行状態データとして自車両の車線内横位置を検出することにより、運転者の横方向の運転に関する不安定な状態を判定することができる。車線内横位置のデータを用いる場合、白線に近い区分の重みを大きくすることで、より精度よい判定を行うことができる。また、高速になるほど白線付近の区分を相対的に広くしたり、カーブ内側の区分を相対的に広くなるように区分を適宜設定することで、走行状態分布を算出可能とする走行場面を限定しすぎることなく、種々の走行状況で得られた走行状態データを用いることができる。
【0093】
《第5の実施の形態》
以下に、本発明の第5の実施の形態による車両用運転支援装置について説明する。図16に、第5の実施の形態による車両用運転支援装置5の構成を示すシステム図を示す。図16において、上述した第1〜第4の実施の形態と同様の機能を有する箇所には同一の符号を付して説明を省略する。ここでは、上述した第2の実施の形態との相違点を主に説明する。
【0094】
第5の実施の形態による車両用運転支援装置5は、操舵角予測誤差θeの代わりに、運転者によるアクセルペダル操作およびブレーキペダル操作を検出して運転者の不安定な状態を検出する。そこで、図16に示すように、舵角センサ5の代わりにアクセルペダルストロークセンサ11およびブレーキペダルストロークセンサ13を備えている。アクセルペダルストロークセンサ11は、運転者がアクセルペダルを踏み込み操作する際の操作量を検出し、コントローラ120へ出力する。ブレーキペダルストロークセンサ12は、運転者がブレーキペダルを踏み込み操作する際の操作量を検出し、コントローラ120へ出力する。車両用運転支援装置5は、さらに自車両が走行する道路の勾配を検出する道路勾配センサ13を備えている。
【0095】
コントローラ120は、操舵角予測誤差θeの代わりにアクセルペダル操作量およびブレーキペダル操作量を用いて相対エントロピーRHpおよび絶対エントロピーHp1,Hp2を算出することにより、運転操作の不安定な状態を検出する。そして、運転操作が不安定な状態であると判定されると、警報を出力して運転者の注意を喚起する。
【0096】
以下に、第5の実施の形態による車両用運転支援装置5の動作を、図17を用いて説明する。図17は、第5の実施の形態のコントローラ120における運転支援制御処理の処理手順のフローチャートである。本処理内容は、一定間隔、例えば50msec毎に連続的に行われる。
【0097】
ステップS5010では、相対エントロピーRHpを算出可能な走行場面であるか否かを判断するために、自車両が走行している走行場面の推定(検出)を行う。ここでは、自車速Vが所定範囲(例えば40〜120km/h)内にある場合に、相対エントロピーRHpおよび絶対エントロピーHp1,Hp2を算出可能な走行場面とする。
【0098】
ステップS5020では、車速センサ30で検出される現在の自車速Vが所定範囲内にあるか否かを判定する。自車速Vが所定範囲内にあり、相対エントロピーRHpおよび絶対エントロピーHp1,Hp2を算出可能な走行場面であると判定されると、ステップS5030へ進む。一方、自車速Vが所定範囲内にない場合は、この処理を終了する。
【0099】
ステップS5030では、運転者の運転操作の不安定な状態を検出するための検出対象となる自車両の走行状態として、アクセルペダルストロークセンサ11で検出されるアクセルペダル操作量SAと、ブレーキペダルストロークセンサ12で検出されるブレーキペダル操作量SBを読み込む。アクセルペダルストロークセンサ11およびブレーキペダルストロークセンサ12の出力は、ペダルが解放された状態を0.0、最大限に踏み込まれた状態を1.0(100%)として、0.0〜1.0の範囲内で示される。
【0100】
ステップS5031では、読み込んだアクセルペダル操作量SAとブレーキペダル操作量SBの符号を変えて足し合わせ、以下の(式17)で表される加減速制御量αを算出する。
α=SA+(−1)・SB ・・・(式17)
加減速制御量αは、アクセルペダルが踏み込まれる加速時には正の値(0.0〜1.0)、ブレーキペダルが踏み込まれる減速時には負の値(0.0〜−1.0)を示す。
【0101】
ステップS5032では、道路勾配センサ13で検出される自車両が走行する道路の勾配を読み込み、道路勾配により加減速制御量αを補正する。上り坂を走行する場合、車速を一定に保つだけでもアクセルペダルを踏み込む必要があるため、加減速制御量αは平坦な道路を定速で走行する場合に比べて大きな値となる。したがって、上り道路勾配が大きくなるほど大きくなるような補正値を算出し、加減速制御量αから補正値を減じることで、加減速制御量αの補正を行う。
【0102】
また、下り坂を走行する場合、車速を一定に保つだけでもブレーキペダルを踏み込む必要があるため、加減速制御量αは平坦な道路を定速で走行する場合に比べて小さな値(マイナス)となる。したがって、下り道路勾配が大きくなるほど大きくなるような補正値を算出し、加減速制御量αに補正ちを加えることで、加減速制御量αの補正を行う。道路勾配に対する補正値の関係は、車両特性を考慮して、上り坂の道路勾配および下り坂の道路勾配がそれぞれ大きくなるほど補正値が大きくなるような特性とする。
【0103】
ステップS5043では、アクセルペダル/ブレーキペダル操作に基づく加減速制御量αの分布計算用の時間ウィンドウの値Tw1,Tw2を設定する。タイムウィンドウTw1は、例えば3600秒、タイムウィンドウTw2は、例えば180秒とする。
【0104】
ステップS5050では、加減速制御量α分布の比較基準となる長時間の加減速制御量α分布1を再帰計算により算出する。ステップS5051では、現在の加減速制御量α分布2を再帰計算により算出する。なお、ステップS5032で道路勾配に基づいて補正した加減速制御量αを用いて各分布1,2を算出する。ステップS5070では、長時間の加減速制御量α分布1および現在の加減速制御量α分布2を用いて、上述した(式7)から相対エントロピーRHpを求める。ステップS5071では、長時間の加減速制御量α分布1および現在の加減速制御量α分布2を用いて、上述した(式11)(式12)からそれぞれの絶対エントロピーHp1,Hp2を算出する。
【0105】
ステップS5080では、ステップS5070で算出した相対エントロピーRHpの値を、予め設定した所定値と比較する。相対エントロピーRHpが所定値よりも大きい場合は、ステップS5081へ進み、所定値以下の場合はこの処理を終了する。ステップS5081では、ステップS5071で算出した絶対エントロピーHp1,Hp2の差(Hp2−Hp1)を予め設定した所定値と比較する。差(Hp2−Hp1)が所定値よりも大きいと判定されると、ステップS5090へ進み、所定値以下であると判定されると、この処理を終了する。ステップS5090では、運転者の注意を喚起するために警報を出力する。これにより、今回の処理を終了する。
【0106】
このように、以上説明した第5の実施の形態においては、上述した第1から第4の実施の形態による効果に加えて以下のような作用効果を奏することができる。
走行状態データとしてアクセルペダル操作量SAおよびブレーキペダル操作量SBを検出することにより、運転者の前後方向の運転に関する不安定な状態を検出することができる。
【0107】
《第6の実施の形態》
以下に、本発明の第6の実施の形態による車両用運転支援装置について説明する。図18に、第6の実施の形態による車両用運転支援装置6の構成を示すシステム図を示す。図18において、上述した第1〜第6の実施の形態と同様の機能を有する箇所には同一の符号を付して説明を省略する。ここでは、上述した第2の実施の形態との相違点を主に説明する。
【0108】
第6の実施の形態による車両用運転支援装置6は、操舵角予測誤差θeの代わりに、自車両と先行車との車間時間Thを検出して運転者の不安定な状態を検出する。そこで、図18に示すように舵角センサ5の代わりにレーザレーダ14を備えている。レーザレーダ14は、車両の前方グリル部もしくはバンパ部等に取り付けられ、水平方向に赤外光パルスを照射して車両前方領域を走査する。レーザレーダ14は、前方にある複数の反射物(通常、前方車の後端)で反射された赤外光パルスの反射波を計測し、反射波の到達時間より、複数の前方車までの車間距離とその存在方向を検出する。検出した車間距離及び存在方向はコントローラ50へ出力される。レーザレーダ10によりスキャンされる前方の領域は、自車正面に対して±6deg程度であり、この範囲内に存在する前方物体が検出される。レーザレーダ14は、検出した前方物体、例えば先行車までの車間距離Dをコントローラ130へ出力する。
【0109】
コントローラ130は、自車両と先行車との車間時間Thを算出し、車間時間Thを用いて相対エントロピーRHpおよび絶対エントロピーHp1,Hp2を算出することにより、運転操作の不安定な状態を検出する。そして、運転操作が不安定な状態であると判定されると、警報を出力して運転者の注意を喚起する。
【0110】
以下に、第6の実施の形態による車両用運転支援装置1の動作を、図19を用いて説明する。図19は、第6の実施の形態のコントローラ130における運転支援制御処理の処理手順のフローチャートである。本処理内容は、一定間隔、例えば50msec毎に連続的に行われる。
【0111】
ステップS6010では、相対エントロピーRHpを算出可能な走行場面であるか否かを判断するために、自車両が走行している走行場面の推定(検出)を行う。ここでは、自車速Vが所定範囲(例えば40〜120km/h)内にあるとともに、先行車に安定して追従している場合に、相対エントロピーRHpおよび絶対エントロピーHp1,Hp2を算出可能な走行場面とする。ここでは、例えば自車両と先行車との車間時間Thが所定範囲(0〜3秒)内である状態を、安定した追従状態とする。
【0112】
ステップS6020では、車速センサ30で検出される現在の自車速Vが所定範囲内にあるか否か、また、車間時間Thが所定範囲内にあるか否かを判定する。自車速Vが所定範囲内で安定して先行車に追従している場合は、相対エントロピーRHpおよび絶対エントロピーHp1,Hp2を算出可能な走行場面であると判定して、ステップS6030へ進む。一方、ステップS6020が否定判定されると、この処理を終了する。なお、安定した追従状態を判定するための車間時間Thは、後述する(式18)を用いて算出することができる。
【0113】
ステップS6030では、運転者の運転操作の不安定な状態を検出するための検出対象となる自車両の走行状態として、自車両と先行車との車間時間Thを取得する。車間時間Thは、先行車の現在位置に自車両が到達するまでの時間を示す物理量であり、自車速Vおよび自車両と先行車との車間距離Dを用いて、以下の(式18)から算出される。
THW=D/V ・・・(式18)
【0114】
ステップS6043では、車間時間分布計算用の時間ウィンドウの値Tw1,Tw2を設定する。タイムウィンドウTw1は、例えば3600秒とリセットされてからの経過時間のいずれか短いほう、タイムウィンドウTw2は、例えば例えば180秒と計測開始からの経過時間のいずれか短いほうとする。
【0115】
ステップS6050では、タイムウィンドウTw1内の車間時間Thのデータを用いて、車間時間分布の比較基準となる長時間の車間時間分布1を再帰計算により算出する。ここでは、例えば車間時間Thを0〜3秒まで0.2秒刻みで15個の区分bi(b1〜b15)に分割し、各区分biに含まれる車間時間Thの度数の全度数に対する確率pi(p1〜p15)を再帰的に求める。
【0116】
ステップS6051では、タイムウィンドウTw2内の車間時間Thのデータを用いて、現在の車間時間分布2を再帰計算により算出する。長時間の車間時間分布1と同様に、例えば車間時間Thを0〜3秒まで0.2秒刻みで15個の区分bi(b1〜b15)に分割し、各区分biに含まれる車間時間Thの度数の全度数に対する確率pi(p1〜p15)を再帰的に求める。
【0117】
ステップS6060では、長時間の車間時間分布1から以下の(式19)を用いて累積度数分布CDFを算出する。
【数12】
【0118】
ステップS6061では、区分biごとの重みWiを設定する。具体的には、車間時間Thが小さく自車両と先行車との接近度合が高い領域を重要視して重みを大きくし、車間時間Thが大きい領域の重みを小さくする。そこで、例えば現在の車間時間Thが所定値(例えば1秒)以下の領域の区分の重みWiを1とし、中間領域(例えば1〜2秒)の区分の重みWiを0.5とし、車間時間が大きい領域(例えば2秒超)の区分の重みWiを0.25と設定する。これにより、車間時間Thの領域ごとに重要度を変更することができる。
【0119】
ステップS6070では、長時間の車間時間分布1と現在の車間時間分布2、および各区分biの重みWiを用いて、以下の(式20)から相対エントロピーRHpを求める。
【数13】
(式20)から算出される相対エントロピーRHpは、長時間の車間時間分布1から算出される累積度数分布CDFiと現在の車間時間分布2の相対エントロピーを表している。累積度数分布CDFiは、その車間時間Th以下でその運転者が走行している割合を示すものである。したがって、(式20)を用いることで、短い車間時間領域を重視した重みWiに加えて、その運転者の普段の運転状況を加味した重みを設定して相対エントロピーRHを算出することができる。
【0120】
ステップS6071では、長時間の車間時間分布1および現在の車間時間分布2を用いて、以下の(式21)(式22)からそれぞれの絶対エントロピーHp1,Hp2を算出する。
【数14】
【数15】
【0121】
ステップS6080では、ステップS6070で算出した相対エントロピーRHpの値を、予め設定した所定値と比較する。相対エントロピーRHpが所定値よりも大きい場合は、ステップS6081へ進み、所定値以下の場合はこの処理を終了する。ステップS6081では、ステップS6071で算出した絶対エントロピーHp1,Hp2の差(Hp2−Hp1)を予め設定した所定値と比較する。差(Hp2−Hp1)が所定値よりも大きいと判定されると、ステップS6090へ進み、所定値以下であると判定されると、この処理を終了する。ステップS6090では、運転者の注意を喚起するために警報を出力する。これにより、今回の処理を終了する。
【0122】
このように、以上説明した第6の実施の形態においては、上述した第1から第5の実施の形態による効果に加えて以下のような作用効果を奏することができる。
(1)算出した走行状態分布から、走行状態累積度数分布を算出し、区分ごとの重みとして走行状態累積度数分布を用いる。累積度数分布CDFiを用いると、個々の運転者の運転状態の違いにより適合することができるとともに、一つの区分のみに走行状態データが集中した場合に、その集中位置がずれた影響を受けにくくなり、ノイズに強い演算を行うことができる。
(2)走行状態データとして、自車両と前方障害物との車間時間Thを取得するので、運転者の前後方向の運転に関する不安定な状態を検出することができる。なお、車間時間Thの代わりに自車両と前方障害物との車間距離Dを用いて走行状態分布を算出することもできる。
【0123】
《第7の実施の形態》
以下に、本発明の第7の実施の形態による車両用運転支援装置について説明する。第7の実施の形態による車両用運転支援装置の基本的な構成は、図18に示した第6の実施の形態と同様である。ここでは、上述した第6の実施の形態との相違点を主に説明する。
【0124】
第7の実施の形態による車両用運転支援装置6は、車間時間Thの代わりに、自車速Vを用いて運転者の不安定な状態を検出する。第7の実施の形態においてコントローラ130は、自車速Vを用いて相対エントロピーRHpおよび絶対エントロピーHp1,Hp2を算出することにより、運転操作の不安定な状態を検出する。そして、運転操作が不安定な状態であると判定されると、警報を出力して運転者の注意を喚起する。
【0125】
以下に、第7の実施の形態による車両用運転支援装置6の動作を、図20を用いて説明する。図20は、第7の実施の形態のコントローラ130における運転支援制御処理の処理手順のフローチャートである。本処理内容は、一定間隔、例えば50msec毎に連続的に行われる。
【0126】
ステップS7010では、相対エントロピーRHpを算出可能な走行場面であるか否かを判断するために、自車両が走行している走行場面の推定(検出)を行う。ここでは、自車速Vが所定範囲(例えば40〜120km/h)内にあるとともに、自車両前方の障害物が検出されていない場合に、相対エントロピーRHpおよび絶対エントロピーHp1,Hp2を算出可能な走行場面とする。
【0127】
ステップS7020では、車速センサ30で検出される現在の自車速Vが所定範囲内にあるか否か、また、レーザレーダ14によって前方障害物が検出されていないか否かを判定する。自車速Vが所定範囲内で先行車が存在しない場合は、相対エントロピーRHpおよび絶対エントロピーHp1,Hp2を算出可能な走行場面であると判定して、ステップS7030へ進む。一方、ステップS7020が否定判定されると、この処理を終了する。
【0128】
ステップS7030では、運転者の運転操作の不安定な状態を検出するための検出対象となる自車両の走行状態として、車速センサ30で検出される自車速Vを読み込む。ステップS7031では、ナビゲーションシステム50から、自車両が現在走行中の道路の制限車速を読み込む。コントローラ130は、走行中の道路の制限車速に基づいて適切な推奨車速を設定する。
【0129】
ステップS7043では、車間時間分布計算用の時間ウィンドウの値Tw1,Tw2を設定する。タイムウィンドウTw1は、例えば3600秒とリセットされてからの経過時間のいずれか短いほう、タイムウィンドウTw2は、例えば例えば180秒と計測開始からの経過時間のいずれか短いほうとする。
【0130】
ステップS7050では、タイムウィンドウTw1内の自車速Vのデータを用いて、車速分布の比較基準となる長時間の車速分布1を再帰計算により算出する。ステップS7051では、タイムウィンドウTw2内の車速Vのデータを用いて、現在の車速分布2を再帰計算により算出する。
【0131】
ステップS7060では、区分biごとの重みWiを設定する。具体的には、ステップS7031で設定した現在走行中の制限車速に基づく推奨車速からの逸脱度合に応じて重みの大きさを設定することができる。例えば、推奨車速を60km/hとすると、自車速Vが60km/h未満の領域における重みWiを0とし、60km/h以上で大きくなるほど1に近づくように重みWiを設定する。
【0132】
ステップS7061では、長時間の車速分布1から上述した(式19)を用いて累積度数分布CDFを算出する。ステップS7070では、長時間の車速分布1、具体的には累積度数分布CDFと現在の車速分布2、および各区分biの重みWiを用いて、上述した(式20)から相対エントロピーRHpを求める。
【0133】
ステップS6071では、長時間の車間時間分布1および現在の車間時間分布2を用いて、上述した(式21)(式22)からそれぞれの絶対エントロピーHp1,Hp2を算出する。
【0134】
ステップS7080では、ステップS7070で算出した相対エントロピーRHpの値を、予め設定した所定値と比較する。相対エントロピーRHpが所定値よりも大きい場合は、ステップS7081へ進み、所定値以下の場合はこの処理を終了する。ステップS7081では、ステップS7071で算出した絶対エントロピーHp1,Hp2の差(Hp2−Hp1)を予め設定した所定値と比較する。差(Hp2−Hp1)が所定値よりも大きいと判定されると、ステップS7090へ進み、所定値以下であると判定されると、この処理を終了する。ステップS7090では、運転者の注意を喚起するために警報を出力する。これにより、今回の処理を終了する。
【0135】
このように、以上説明した第7の実施の形態においては、上述した第1から第6の実施の形態による効果に加えて以下のような作用効果を奏することができる。
走行状態データとして、自車速Vを検出することにより、運転者の前後方向の運転に関する不安定な状態を検出することができる。
【0136】
上述した第3および第4の実施の形態において、走行状態データとして検出したヨーレートφおよび車線内横位置δを、自車速Vに応じて修正することもできる。第2の実施の形態で説明した操舵角予測誤差θeと同様に、横方向の運転に関するヨーレートφおよび車線内横位置δのばらつきも車速Vに影響を受けるので、これを考慮して走行状態データを修正することにより、運転の不安定な状態をより精度よく検出することが可能となる。
【0137】
以上説明した第1から第7の実施の形態において、舵角センサ5、ヨーレートセンサ10、アクセルペダルストロークセンサ11、ブレーキペダルストロークセンサ12、道路勾配センサ13、レーザレーダ14、前方カメラ15、車速センサ30、およびナビゲーションシステム50は、走行状態検出手段として機能することができ、コントローラ100,110,120,130は、走行状態分布算出手段、分布相違量算出手段、不安定運転状態検出手段、乱雑さ算出手段、走行場面推定手段、および走行状態累積度数分布算出手段として機能することができる。走行状態検出手段は、上述した各センサやシステムには限定されず、別の手段により走行状態データを検出するように構成することもできる。なお、以上の説明はあくまで一例であり、発明を解釈する際、上記の実施形態の記載事項と特許請求の範囲の記載事項の対応関係になんら限定も拘束もされない。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】本発明の第1の実施の形態による車両用運転支援装置のシステム図。
【図2】図1に示した車両用運転支援装置を搭載した車両の構成図。
【図3】第1の実施の形態における運転支援制御プログラムの処理手順を示すフローチャート。
【図4】相対エントロピー算出に利用する記号を説明する図。
【図5】操舵角予測誤差データから過去もしくは長時間の分布および直近の分布を算出する方法を説明する図。
【図6】相対エントロピーの算出方法を説明する図。
【図7】操舵角予測誤差の区分を示す図。
【図8】第2の実施の形態における運転支援制御プログラムの処理手順を示すフローチャート。
【図9】車速と操舵角予測誤差のばらつきとの関係を示す図。
【図10】車速に応じた操舵角予測誤差の区分の範囲を設定する方法を説明するフローチャート。
【図11】操舵角予測誤差データを用いて区分の確率を再帰的に方法を説明するフローチャート。
【図12】本発明の第3の実施の形態による車両用運転支援装置のシステム図。
【図13】第3の実施の形態における運転支援制御プログラムの処理手順を示すフローチャート。
【図14】第4の実施の形態における運転支援制御プログラムの処理手順を示すフローチャート。
【図15】車線内横位置の区分の幅を走行状態に応じて変更する方法を説明する図。
【図16】本発明の第5の実施の形態による車両用運転支援装置のシステム図。
【図17】第5の実施の形態における運転支援制御プログラムの処理手順を示すフローチャート。
【図18】本発明の第6の実施の形態による車両用運転支援装置のシステム図。
【図19】第6の実施の形態における運転支援制御プログラムの処理手順を示すフローチャート。
【図20】第7の実施の形態における運転支援制御プログラムの処理手順を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0139】
5:舵角センサ、10:ヨーレートセンサ、11:アクセルペダルストロークセンサ、12:ブレーキペダルストロークセンサ、13:道路勾配センサ、14:レーザレーダ、15:前方カメラ、30:車速センサ、50:ナビゲーションシステム、100,110,120,130:コントローラ、150:警報装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両挙動、車両周囲環境、および運転者の運転操作量の少なくとも一つ(以降、走行状態データと呼ぶ)を検出する走行状態検出手段と、
前記走行状態検出手段で検出された走行状態データに基づいて複数の走行状態分布を算出する走行状態分布算出手段と、
前記走行状態分布算出手段で算出された前記複数の走行状態分布の間の相違量を算出する分布相違量算出手段と、
前記分布相違量算出手段で算出された前記相違量の大きさから、不安定運転状態を判定する不安定運転状態検出手段とを備えることを特徴とする車両用運転支援装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用運転支援装置において、
前記走行状態分布算出手段は、前記複数の走行状態分布として、時間的範囲の異なる複数の走行状態分布を算出することを特徴とする車両用運転支援装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の車両用運転支援装置において、
前記複数の走行状態分布のそれぞれの乱雑度合を算出する乱雑さ算出手段をさらに備え、
前記不安定運転状態検出手段は、前記複数の走行状態分布の間の前記相違量の大きさに加えて、前記乱雑さ算出手段で算出された前記複数の走行状態分布のそれぞれの乱雑さの大小関係に基づいて、前記不安定運転状態を判定することを特徴とする車両用運転支援装置。
【請求項4】
請求項1に記載の車両用運転支援装置において、
前記走行状態分布算出手段は、所定の時間的範囲に相当する走行状態分布を再帰的に算出することを特徴とする車両用運転支援装置。
【請求項5】
請求項4に記載の車両用運転支援装置において、
自車両の走行場面を推定する走行場面推定手段と、
前記走行場面推定手段で推定された走行場面に応じて、前記走行状態分布算出手段で用いる前記時間的範囲を修正する時間範囲修正手段とをさらに備えることを特徴とする車両用運転支援装置。
【請求項6】
請求項1に記載の車両用運転支援装置において、
前記走行状態分布算出手段は、前記走行状態データを所定数の区分に分割することにより前記走行状態分布を算出し、
前記分布相違量算出手段は、前記区分ごとに重みをつけて前記複数の走行状態分布の間の前記相違量を算出することを特徴とする車両用運転支援装置。
【請求項7】
請求項6に記載の車両用運転支援装置において、
前記走行状態分布算出手段で算出される走行状態分布から、走行状態累積度数分布を算出する走行状態累積度数分布算出手段をさらに備え、
前記分布相違量算出手段は、前記区分ごとの重みとして、前記走行状態累積度数分布算出手段で算出された前記走行状態累積度数分布を用いることを特徴とする車両用運転支援装置。
【請求項8】
請求項1に記載の車両用運転支援装置において、
前記走行状態分布算出手段は、前記走行状態データを所定数の区分に分割することにより前記走行状態分布を算出し、
前記走行状態検出手段で検出される前記走行状態データに応じて、前記区分ごとの幅を修正する区分幅修正手段をさらに備えることを特徴とする車両用運転支援装置。
【請求項9】
請求項8に記載の車両用運転支援装置において、
前記区分幅修正手段は、前記区分ごとの幅を修正するための前記走行状態データとして、車速を用いることを特徴とする車両用運転支援装置。
【請求項10】
請求項9に記載の車両用運転支援装置において、
前記区分幅修正手段における前記区分ごとの幅の修正量を学習する区分幅修正量学習手段をさらに備え、
前記区分幅修正手段は、前記区分幅修正量学習手段で学習された前記修正量に応じて前記区分ごとの幅を修正することを特徴とする車両用運転支援装置。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の車両用運転支援装置において、
前記走行状態検出手段は、前記走行状態データとして操舵角予測誤差を取得することを特徴とする車両用運転支援装置。
【請求項12】
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の車両用運転支援装置において、
前記走行状態検出手段は、前記走行状態データとしてアクセルペダル操作量およびブレーキペダル操作量を検出することを特徴とする車両用運転支援装置。
【請求項13】
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の車両用運転支援装置において、
前記走行状態検出手段は、前記走行状態データとして自車両に発生するヨーレートを検出することを特徴とする車両用運転支援装置。
【請求項14】
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の車両用運転支援装置において、
前記走行状態検出手段は、前記走行状態データとして自車両の車線内横位置を検出することを特徴とする車両用運転支援装置。
【請求項15】
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の車両用運転支援装置において、
前記走行状態検出手段は、前記走行状態データとして自車両と前方障害物との車間時間を取得することを特徴とする車両用運転支援装置。
【請求項16】
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の車両用運転支援装置において、
前記走行状態検出手段は、前記走行状態データとして自車速を検出することを特徴とする車両用運転支援装置。
【請求項17】
請求項11、請求項13、および請求項14のいずれか1項に記載の車両用運転支援装置において、
前記走行状態データを自車速に応じて修正する走行状態データ修正手段をさらに備えることを特徴とする車両用運転支援装置。
【請求項18】
請求項1から請求項17のいずれか1項に記載の車両用運転支援装置において、
前記分布相違量算出手段は、前記複数の走行状態分布の間の前記相違量として相対エントロピーを算出することを特徴とする車両用運転支援装置。
【請求項19】
車両挙動、車両周囲環境、および運転者の運転操作量の少なくとも一つ(以降、走行状態データと呼ぶ)を取得し、
取得された走行状態データに基づいて複数の走行状態分布を算出し、
算出された前記複数の走行状態分布の間の相違量を算出し、
算出された前記相違量の大きさから、不安定運転状態を判定することを特徴とする車両用運転支援方法。
【請求項20】
車両挙動、車両周囲環境、および運転者の運転操作量の少なくとも一つ(以降、走行状態データと呼ぶ)を検出する走行状態検出手段と、
前記走行状態検出手段で検出された走行状態データに基づいて複数の走行状態分布を算出する走行状態分布算出手段と、
前記走行状態分布算出手段で算出された前記複数の走行状態分布の間の相違量を算出する分布相違量算出手段と、
前記分布相違量算出手段で算出された前記相違量の大きさから、不安定運転状態を判定する不安定運転状態検出手段とを有する車両用運転支援装置を備えることを特徴とする車両。
【請求項1】
車両挙動、車両周囲環境、および運転者の運転操作量の少なくとも一つ(以降、走行状態データと呼ぶ)を検出する走行状態検出手段と、
前記走行状態検出手段で検出された走行状態データに基づいて複数の走行状態分布を算出する走行状態分布算出手段と、
前記走行状態分布算出手段で算出された前記複数の走行状態分布の間の相違量を算出する分布相違量算出手段と、
前記分布相違量算出手段で算出された前記相違量の大きさから、不安定運転状態を判定する不安定運転状態検出手段とを備えることを特徴とする車両用運転支援装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用運転支援装置において、
前記走行状態分布算出手段は、前記複数の走行状態分布として、時間的範囲の異なる複数の走行状態分布を算出することを特徴とする車両用運転支援装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の車両用運転支援装置において、
前記複数の走行状態分布のそれぞれの乱雑度合を算出する乱雑さ算出手段をさらに備え、
前記不安定運転状態検出手段は、前記複数の走行状態分布の間の前記相違量の大きさに加えて、前記乱雑さ算出手段で算出された前記複数の走行状態分布のそれぞれの乱雑さの大小関係に基づいて、前記不安定運転状態を判定することを特徴とする車両用運転支援装置。
【請求項4】
請求項1に記載の車両用運転支援装置において、
前記走行状態分布算出手段は、所定の時間的範囲に相当する走行状態分布を再帰的に算出することを特徴とする車両用運転支援装置。
【請求項5】
請求項4に記載の車両用運転支援装置において、
自車両の走行場面を推定する走行場面推定手段と、
前記走行場面推定手段で推定された走行場面に応じて、前記走行状態分布算出手段で用いる前記時間的範囲を修正する時間範囲修正手段とをさらに備えることを特徴とする車両用運転支援装置。
【請求項6】
請求項1に記載の車両用運転支援装置において、
前記走行状態分布算出手段は、前記走行状態データを所定数の区分に分割することにより前記走行状態分布を算出し、
前記分布相違量算出手段は、前記区分ごとに重みをつけて前記複数の走行状態分布の間の前記相違量を算出することを特徴とする車両用運転支援装置。
【請求項7】
請求項6に記載の車両用運転支援装置において、
前記走行状態分布算出手段で算出される走行状態分布から、走行状態累積度数分布を算出する走行状態累積度数分布算出手段をさらに備え、
前記分布相違量算出手段は、前記区分ごとの重みとして、前記走行状態累積度数分布算出手段で算出された前記走行状態累積度数分布を用いることを特徴とする車両用運転支援装置。
【請求項8】
請求項1に記載の車両用運転支援装置において、
前記走行状態分布算出手段は、前記走行状態データを所定数の区分に分割することにより前記走行状態分布を算出し、
前記走行状態検出手段で検出される前記走行状態データに応じて、前記区分ごとの幅を修正する区分幅修正手段をさらに備えることを特徴とする車両用運転支援装置。
【請求項9】
請求項8に記載の車両用運転支援装置において、
前記区分幅修正手段は、前記区分ごとの幅を修正するための前記走行状態データとして、車速を用いることを特徴とする車両用運転支援装置。
【請求項10】
請求項9に記載の車両用運転支援装置において、
前記区分幅修正手段における前記区分ごとの幅の修正量を学習する区分幅修正量学習手段をさらに備え、
前記区分幅修正手段は、前記区分幅修正量学習手段で学習された前記修正量に応じて前記区分ごとの幅を修正することを特徴とする車両用運転支援装置。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の車両用運転支援装置において、
前記走行状態検出手段は、前記走行状態データとして操舵角予測誤差を取得することを特徴とする車両用運転支援装置。
【請求項12】
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の車両用運転支援装置において、
前記走行状態検出手段は、前記走行状態データとしてアクセルペダル操作量およびブレーキペダル操作量を検出することを特徴とする車両用運転支援装置。
【請求項13】
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の車両用運転支援装置において、
前記走行状態検出手段は、前記走行状態データとして自車両に発生するヨーレートを検出することを特徴とする車両用運転支援装置。
【請求項14】
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の車両用運転支援装置において、
前記走行状態検出手段は、前記走行状態データとして自車両の車線内横位置を検出することを特徴とする車両用運転支援装置。
【請求項15】
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の車両用運転支援装置において、
前記走行状態検出手段は、前記走行状態データとして自車両と前方障害物との車間時間を取得することを特徴とする車両用運転支援装置。
【請求項16】
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の車両用運転支援装置において、
前記走行状態検出手段は、前記走行状態データとして自車速を検出することを特徴とする車両用運転支援装置。
【請求項17】
請求項11、請求項13、および請求項14のいずれか1項に記載の車両用運転支援装置において、
前記走行状態データを自車速に応じて修正する走行状態データ修正手段をさらに備えることを特徴とする車両用運転支援装置。
【請求項18】
請求項1から請求項17のいずれか1項に記載の車両用運転支援装置において、
前記分布相違量算出手段は、前記複数の走行状態分布の間の前記相違量として相対エントロピーを算出することを特徴とする車両用運転支援装置。
【請求項19】
車両挙動、車両周囲環境、および運転者の運転操作量の少なくとも一つ(以降、走行状態データと呼ぶ)を取得し、
取得された走行状態データに基づいて複数の走行状態分布を算出し、
算出された前記複数の走行状態分布の間の相違量を算出し、
算出された前記相違量の大きさから、不安定運転状態を判定することを特徴とする車両用運転支援方法。
【請求項20】
車両挙動、車両周囲環境、および運転者の運転操作量の少なくとも一つ(以降、走行状態データと呼ぶ)を検出する走行状態検出手段と、
前記走行状態検出手段で検出された走行状態データに基づいて複数の走行状態分布を算出する走行状態分布算出手段と、
前記走行状態分布算出手段で算出された前記複数の走行状態分布の間の相違量を算出する分布相違量算出手段と、
前記分布相違量算出手段で算出された前記相違量の大きさから、不安定運転状態を判定する不安定運転状態検出手段とを有する車両用運転支援装置を備えることを特徴とする車両。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2009−9495(P2009−9495A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−172298(P2007−172298)
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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