説明

車両運動制御装置

【課題】横転抑制効果をより高くできるようにする。
【解決手段】車両運動制御として横転抑制制御を実行する際に、旋回外側前輪および旋回内側前輪の両方に横滑りを発生させられる制動力となるように目標W/C圧Pto、Ptiを設定し、制動力を増加させる。これにより、旋回外側前輪に加えて旋回内側前輪も横滑りさせることができる。このように、旋回外側前輪だけでなく、旋回内側前輪についても積極的に横滑りさせることで、より車体のロールを抑制することが可能となり、車両の横転を抑制することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の横方向の運動状態に基づいてホイールシリンダ(以下、W/Cという)に発生させる圧力(以下、W/C圧という)を制御し、車両の横転を抑制する車両運動制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1において、緊急回避操舵状態であると、旋回外輪前輪の目標スリップ率を通常よりも高い値に設定し、路面摩擦係数(以下、μという)が高い高μ時のスピン制御の場合よりも高い目標スリップ率に基づき、旋回外側前輪の制動力を制御することが開示されている。具体的には、車両の横方向の加速度(以下、横加速度という)に相当する慣性モーメントが大きくなるほど補正係数を大きくし、目標スリップ率が大きくなるように補正する。そして、緊急回避操舵状態における車輪制動力制御の開始後であるときには、通常よりW/C圧の増減速度が制限されたマップを用いて増圧および減圧のデューティ比を設定することで、W/C圧の変化を抑制し、ロール振動を防いでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4084248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、W/C圧の増減圧速度が制限されたマップを用いることでW/C圧の増圧もしくは減圧勾配を制限しても、荷物等を積載して積載重量が重くなった積載車両のように、横転し易い車両では、横転抑制効果が少ない。
【0005】
本発明は上記点に鑑みて、より横転抑制効果を高くできる車両運動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、旋回外側輪に対して発生させる制動力を増加させる条件、つまり、モード設定手段(105、205、305)にて横転抑制モードが設定され、かつ、旋回状態判定手段(110、210、310)にて車両が旋回状態であると判定されることを満たしたときに、旋回内側前輪に対して発生させる制動力を増加させて横滑りを発生させる横転抑制制御を行う制動力制御手段(155、250、350)を備えることを特徴としている。
【0007】
このように、車両運動制御として横転抑制制御を実行する際に、旋回外側輪および旋回内側前輪の両方に横滑りを発生させられる制動力となるように制動力を増加させている。このため、旋回外側輪に加えて旋回内側前輪も横滑りさせることができる。このように、旋回外側輪だけでなく、旋回内側前輪についても積極的に横滑りさせることで、より車体のロールを抑制することが可能となり、車両の横転を抑制することが可能となる。
【0008】
請求項2に記載の発明では、制動力制御手段にて、積載重量、舵角、ロール角および路面摩擦係数のうち少なくとも1つに応じて、旋回内側前輪に発生させる制動力を変動させることを特徴としている。
【0009】
旋回内側前輪に横滑りが発生するときの旋回内側前輪の制動力は、積載重量、舵角、ロール角および路面摩擦係数によって変化する。よって、積載重量(もしくは車両総重量)、舵角、ロール角および路面摩擦係数の少なくとも1つに応じて旋回内側前輪に発生させる制動力を変動させることで、旋回内側前輪に対して横滑りを発生させるために適した制動力を発生させることが可能となる。
【0010】
請求項3に記載の発明では、横滑り判定手段(245)にて、旋回内側前輪に横滑りが発生しているか否かを判定し、制動力制御手段にて、旋回内側前輪を横滑りさせるべく、横滑り判定手段にて旋回内側前輪に横滑りが発生していると判定されるまで旋回内側前輪に対する制動力を増加させることを特徴としている。
【0011】
このように、旋回内側前輪に横滑りが発生するまで、旋回内側前輪の制動力を増加させれば、旋回内側前輪をより確実に横滑りさせることができる。
【0012】
請求項4に記載の発明では、制動力制御手段にて、旋回外側輪に対して発生させる制動力を増加させる条件を満たしたときに、旋回外側輪に対して発生させる制動力と旋回内側前輪に対して発生させる制動力を同時に増加させることを特徴としている。
【0013】
このように、横転抑制の際に旋回内側前輪と旋回外側前輪に対して同時に制動力を付与できるため、これら両輪に対して同時に車体の沈み込みを発生させられる。このため、旋回内側のみに車体の沈み込み(ノーズダイブ)を発生させて優先的に横滑りを発生させる場合にはロール振動を発生させる可能性があるが、そのようなロール振動が発生することを抑制できる。そして、この場合にも、旋回内側前輪に早期により確実に横滑りを発生させられるため、より一層車両が横転することを抑制できる。
【0014】
請求項5に記載の発明では、制動力制御手段にて、旋回外側輪に対して発生させる制動力を増加させる条件を満たしたときに、旋回内側前輪に対して発生させる制動力を増加させることで旋回内側前輪に横滑りが発生したのち、旋回外側輪に対して発生させる制動力を増加させることを特徴としている。
【0015】
このように、旋回内側前輪の制動力を増加させてから、旋回外側前輪の制動力を増加するようにしている。このため、旋回内側前輪に対して早期に制動力付与に起因する当該車輪側の車体の沈み込みを発生させ、旋回内側前輪により高い荷重が掛かるようにして横滑りが発生させ易くなるようにすることができる。これにより、旋回内側前輪をより確実に横滑りさせられ、より一層車両が横転することを抑制できる。
【0016】
請求項6に記載の発明では、予測手段にて、旋回外側輪に対して発生させる制動力を増加させる条件を満たす状態になることを事前に予測したときに、制動力制御手段にて、旋回内側前輪に対する制動力を当該旋回内側前輪に横滑りが発生する直前の制動力まで増加させることを特徴としている。
【0017】
このようにすれば、旋回外側輪に対して発生させる制動力を増加させる条件を満たして旋回内側前輪の制動力を増加させたときに、即座に横滑りを発生させることが可能となる。これにより、より早期に旋回内側前輪に横滑りを発生させることが可能となり、より横転抑制を行うことが可能となる。
【0018】
請求項7に記載の発明では、旋回内側前輪に横滑りが発生する直前の制動力を、積載重量、舵角、ロール角および路面摩擦係数のうち少なくとも1つに応じて変動させることを特徴とするしている。
【0019】
旋回内側前輪に横滑りが発生する直前の制動力は、積載重量、舵角、ロール角および路面摩擦係数によって変化する。よって、このように、旋回外側輪に対して発生させる制動力を増加させる条件を満たすであろうことを事前に予測したときに旋回内側前輪に発生させる制動力についても、積載重量、舵角、ロール角および路面摩擦係数の少なくとも1つに応じて変動させることができる。これにより、旋回内側前輪に対して横滑りを発生させるために適した制動力を発生させることが可能となる。
【0020】
請求項8に記載の発明では、積載重量判定手段(120、220、320)にて、積載重量(LC)が所定の閾値(THI)を超えているか否かを判定し、制動力制御手段では、積載重量判定手段にて積載重量が閾値を超えているときにのみ、旋回内側前輪に対する制動力の増加を行うことを特徴としている。
【0021】
積載重量が閾値未満のときにも旋回内側前輪を横滑りさせても良いが、旋回内側前輪を横滑りさせるということは、基本的に車両をアンダーステア状態にするということである。このため、操舵性の低下を鑑みれば、横転する可能性が高いときにだけ行うのが好ましい。したがって、積載重量が閾値を超えている場合にのみ行うことで、不必要に車両をアンダーステア状態にすることを防止でき、操舵性の低下を抑制することが可能となる。
【0022】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる車両運動制御を実現する車両用のブレーキ制御システム1の全体構成を示した図である。
【図2】ブレーキECU70の信号の入出力の関係を示すブロック図である。
【図3】ブレーキECU70がプログラムに従って実行する横転抑制制御処理のフローチャートである。
【図4】車両への積載重量Wと重心位置Xとの関係を調べたものであり、(a)は、トラックなどの貨物車両への車載状態と重心位置Xとの関係を示した模式図、(b)は、その関係を示したグラフである。
【図5】積載重量検出処理のフローチャートである。
【図6】各車輪に発生させる制動力と車両状態の関係を示した特性図である。
【図7】本発明の第2実施形態で説明する横転抑制制御処理のフローチャートである。
【図8】本発明の第3実施形態で説明する横転抑制制御処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0025】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について説明する。図1は、本発明の第1実施形態にかかる車両運動制御を実現する車両用のブレーキ制御システム1の全体構成を示したものである。本実施形態では、車両の運転制御として横転抑制制御を行う場合について説明する。
【0026】
図1において、ドライバがブレーキペダル11を踏み込むと、倍力装置12にて踏力が倍力され、M/C13に配設されたマスタピストン13a、13bを押圧する。これにより、これらマスタピストン13a、13bによって区画されるプライマリ室13cとセカンダリ室13dとに同圧のM/C圧が発生する。M/C圧は、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ50を通じて各W/C14、15、34、35に伝えられる。
【0027】
ここで、M/C13は、プライマリ室13cおよびセカンダリ室13dそれぞれと連通する通路を有するマスタリザーバ13eを備える。
【0028】
ブレーキ液圧制御用アクチュエータ50は、第1配管系統50aと第2配管系統50bとを有している。第1配管系統50aは、左前輪FLと右後輪RRに加えられるブレーキ液圧を制御し、第2配管系統50bは、右前輪FRと左後輪RLに加えられるブレーキ液圧を制御する。
【0029】
第1配管系統50aと第2配管系統50bとは、同様の構成であるため、以下では第1配管系統50aについて説明し、第2配管系統50bについては説明を省略する。
【0030】
第1配管系統50aは、上述したM/C圧を左前輪FLに備えられたW/C14及び右後輪RRに備えられたW/C15に伝達し、W/C圧を発生させる主管路となる管路Aを備える。
【0031】
管路Aは、連通状態と差圧状態に制御できる第1差圧制御弁16を備えている。この第1差圧制御弁16は、ドライバがブレーキペダル11の操作を行う通常ブレーキ時(運動制御が実行されていない時)には連通状態となるように弁位置が調整されており、第1差圧制御弁16に備えられるソレノイドコイルに電流が流されると、この電流値が大きいほど大きな差圧状態となるように弁位置が調整される。
【0032】
この第1差圧制御弁16が差圧状態のときには、W/C14、15側のブレーキ液圧がM/C圧よりも所定以上高くなった際にのみ、W/C14、15側からM/C13側へのみブレーキ液の流動が許容される。このため、常時W/C14、15側がM/C13側よりも所定圧力以上高くならないように維持される。
【0033】
そして、管路Aは、この第1差圧制御弁16よりも下流になるW/C14、15側において、2つの管路A1、A2に分岐する。管路A1にはW/C14へのブレーキ液圧の増圧を制御する第1増圧制御弁17が備えられ、管路A2にはW/C15へのブレーキ液圧の増圧を制御する第2増圧制御弁18が備えられている。
【0034】
第1、第2増圧制御弁17、18は、連通・遮断状態を制御できる2位置電磁弁により構成されている。これら第1、第2増圧制御弁17、18は、第1、第2増圧制御弁17、18に備えられるソレノイドコイルへの制御電流がゼロとされる時(非通電時)には連通状態となり、ソレノイドコイルに制御電流が流される時(通電時)に遮断状態に制御されるノーマルオープン型となっている。
【0035】
管路Aにおける第1、第2増圧制御弁17、18及び各W/C14、15の間と調圧リザーバ20とを結ぶ減圧管路としての管路Bには、連通・遮断状態を制御できる2位置電磁弁により構成される第1減圧制御弁21と第2減圧制御弁22とがそれぞれ配設されている。そして、これら第1、第2減圧制御弁21、22はノーマルクローズ型となっている。
【0036】
調圧リザーバ20と主管路である管路Aとの間には還流管路となる管路Cが配設されている。この管路Cには調圧リザーバ20からM/C13側あるいはW/C14、15側に向けてブレーキ液を吸入吐出するモータ60によって駆動される自吸式のポンプ19が設けられている。モータ60はモータリレー61に備えられる半導体スイッチ61aのオンオフによってモータ60への電圧供給が制御される。
【0037】
そして、調圧リザーバ20とM/C13の間には補助管路となる管路Dが設けられている。この管路Dを通じ、ポンプ19にてM/C13からブレーキ液を吸入し、管路Aに吐出することで、横転抑制制御やトラクション(TCS)制御などの運動制御時において、W/C14、15側にブレーキ液を供給し、対象となる車輪のW/C圧を加圧する。
【0038】
また、ブレーキECU70は、ブレーキ制御システム1の制御系を司る本発明の車両運動制御装置に相当するもので、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えた周知のマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどに記憶されたプログラムに従って各種演算などの処理を実行する。図2は、ブレーキECU70の信号の入出力の関係を示すブロック図である。
【0039】
図2に示すように、ブレーキECU70は、各車輪FL〜RRに備えられた車輪速度センサ71〜74、舵角センサ75、ヨーレートセンサ76および横加速度センサ77からの検出信号を受け取り、各種物理量を求める。例えば、ブレーキECU70は、各検出信号に基づいて各車輪FL〜RRの車輪速度や車速(推定車体速度)、各車輪のスリップ率、舵角、ヨーレート、横加速度などを求めている。また、これらに基づいて横転抑制制御を実行するか否かを判定すると共に、横転抑制制御を実行する場合の制御対象輪を判別したり、制御量、すなわち制御対象輪のW/Cに発生させるW/C圧を求める。その結果に基づいて、ブレーキECU70が各制御弁16〜18、21、22、36〜38、41、42への電流供給制御およびポンプ19、39を駆動するためのモータ60の電流量制御を実行する。
【0040】
例えば、左前輪FLを制御対象輪としてW/C圧を発生させる場合には、第1差圧制御弁16を差圧状態にしてモータリレー61をオンさせてモータ60によってポンプ19を駆動する。これにより、第1差圧制御弁16の下流側(W/C側)のブレーキ液圧は第1差圧制御弁16で発生させられる差圧により高くなる。このとき、非制御対象輪となる右後輪RRに対応する第2増圧制御弁18を遮断状態とすることで、W/C15が加圧されないようにしつつ、制御対象輪となる左前輪FLに対応する第1増圧制御弁17と第1減圧制御弁21を制御することで、W/C14に所望のW/C圧を発生させる。
【0041】
具体的には、第1増圧制御弁17を遮断状態にしつつ第1減圧制御弁21の連通遮断をデューティ制御することでW/C圧の減圧を行う減圧モードと、第1増圧制御弁17および第1減圧制御弁21を共に遮断状態にしてW/C圧を保持する保持モードと、第1減圧制御得弁21を遮断状態にしつつ第1増圧制御弁17の連通遮断をデューティ制御することでW/C圧を増圧する増圧モードとを適宜切り替え、W/C圧を調整する。これにより、所望の目標W/C圧Ptoが得られるようにW/C圧が調整され、制動力が制御される。
【0042】
なお、モータ60によりポンプ39も駆動されるが、第2差圧制御弁36を差圧状態にしていなければ、ブレーキ液が循環するだけでW/C34、35は加圧されない。
【0043】
以上のようにして、本実施形態のブレーキ制御システム1が構成されている。次に、このブレーキ制御システム1の具体的な作動について説明する。なお、本ブレーキ制御システム1では、通常ブレーキだけでなく、運動制御としてアンチスキッド(ABS)制御等も実行できるが、これらの基本的な作動に関しては従来と同様であるため、ここでは本発明の特徴に関わる横転抑制制御における作動について説明する。
【0044】
図3は、ブレーキECU70がプログラムに従って実行する横転抑制制御処理の全体を示したフローチャートである。横転抑制制御処理は、車両に備えられた図示しないイグニッションスイッチがオンされたとき、もしくは車両走行中において、所定の演算周期ごとに実行される。
【0045】
まず、ステップ100では、各種センサ信号読み込みの処理を行う。具体的には、車輪速度センサ71〜74、舵角センサ75、ヨーレートセンサ76および横加速度センサ77の検出信号等、横転抑制制御に必要な各種検出信号の読み込みを行い、それらから各物理値が求められる。これにより、各車輪FL〜RRそれぞれの車輪速度、舵角Sa、ヨーレートYrおよび横加速度Gyが求められると共に、各車輪速度から周知の手法によって車速(推定車体速度)が求められ、さらに車速と車輪速度の偏差(車速−車輪速度/車速)で表される実スリップ率が求められる。なお、舵角SaやヨーレートYrおよび横加速度Gyは、例えば右方向と左方向とで正負の符号が反転することになるが、いずれの方向を正としても良い。
【0046】
続く、ステップ105では、横転抑制モードであるか否かを判定する。具体的には、横転抑制制御を実行すべき基準値を閾値THgとし、ステップ100で検出した横加速度Gyがこの閾値THg以上であるか否かを判定している。ここで、肯定判定されれば横転抑制モードを設定してステップ110に進み、否定判定されれば横転抑制を行う必要が無い通常モードを設定して処理を終了する。
【0047】
ステップ110では、旋回状態であるか否かを判定する。例えば、ステップ100で検出した舵角Saの絶対値が旋回状態を示す閾値THsを超えていれば、旋回状態であると判定している。また、旋回状態であるか否かは、ヨーレートYrの絶対値が旋回状態を示す閾値THyを超えているか否か、もしくは、横加速度Gyの絶対値が旋回状態を示す閾値THyを超えているか否かによっても判定することができる。ここで、肯定判定されればステップ115に進み、否定判定されれば横転抑制を行う必要が無いため、そのまま処理を終了する。
【0048】
ステップ115では、積載重量検出処理を行う。以下、この積載重量検出処理について説明するが、それに先立って、本実施形態での積載重量検出の考え方について説明する。
【0049】
まず、車両が旋回運動するときの挙動について検討してみると、ドライバがステアリングを操作することにより操舵が為されると、それに伴ってラックおよびピニオンを介してタイヤ角度、すなわち車両前後方向に対するタイヤの角度である舵角が調整される。このタイヤ角の調整に伴ってヨーが発生するため、ヨーレートが発生する。つまり、操舵→舵角調整→ヨーレート発生の順に挙動が生じる。
【0050】
そして、舵角が発生してからヨーレートが発生する際に、操舵が緩やかに行われたときには舵角の調整後、直ぐに追従してヨーレートが発生するが、操舵が速やかに行われたときには舵角の調整後に遅れてヨーレートが発生することになる。このため、操舵の速度を表す舵角速度と、舵角の調整からヨーレートが発生するまでの時間との間に相関関係があることになる。舵角の調整からヨーレートが発生するまでの時間は、舵角とヨーレートとの位相差にて表されるため、舵角速度に対する舵角とヨーレートとの位相差の関係をマップもしくは関数式にて設定することができる。
【0051】
さらに、操舵の速度や路面状態が同じであると仮定した場合、車両挙動は車両総重量が大きいほど位相遅れが生じる。そして、車両総重量は、一定重量である空車時の車両重量に対して変動重量である積載重量を加算した値であるため、車両挙動の位相遅れは、積載重量に依存していると言える。したがって、積載重量に応じて舵角とヨーレートとの位相差も変化し、積載重量が大きくなればなるほど舵角とヨーレートとの位相差も大きくなる関係となる。よって、舵角速度に対する舵角とヨーレートとの位相差の関係を積載重量別に予め実験などによって求めておけば、その関係と舵角センサ75やヨーレートセンサ76の検出信号から得られる舵角速度や舵角SaおよびヨーレートYrの位相差に基づいて、つまり車両が旋回運動するときの挙動に基づいて積載重量を推定することができる。
【0052】
次に、車両の重心位置について検討してみる。図4は、車両への積載重量Wと重心位置Xとの関係を調べたものであり、図4(a)は、トラックなどの貨物車両への積載重量Wと重心位置Xとの関係を示した模式図、図4(b)は、その関係を示したグラフである。
【0053】
図4(a)に示されるように、貨物車両に対して荷物を載せる場合、車室の後方に位置している荷台に載せまた、過去に載せた荷物の上方位置に載せることになるため、荷物を載せれば載せるほど、重心位置が後方へ移動する。このため、例えば、荷物の積載がない空車時の重心位置を初期の重心位置X0とすると、荷物を積載重量W1だけ載せたときの重心位置X1は、重心位置X0よりも後方に移動する。さらに、荷物を積載重量W1よりも大きい積載重量W2だけ乗せたときの重心位置X2は、さらに重心位置X1よりも後方に移動する。このため、図4(b)に示すように、重心位置Xと積載重量Wとの間には、積載重量Wが大きくなるほど重心位置Xの車両後方への移動量も大きくなるという関係が成り立つ。このため、重心位置Xを検出することで、積載重量Xを推定することができる。
【0054】
重心位置Xについては、サスペンションなどに備えられる荷重センサにて検出することもできるが、例えば、ヨーレートと横加速度との関係に基づいて検出することもできる。すなわち、重心位置Xが移動した場合、車両に発生するヨーモーメントはあまり影響を受けないため、ヨーレートに変化は無い。しかしながら、横加速度については、重心位置Xの移動に伴って影響を受ける。一般的に、横加速度センサは、空車時の重心位置X0の近傍に設置されるため、ヨーモーメントの影響を受けず、検出信号にヨー成分が含まれないが、重心位置Xが移動すると、横加速度センサが重心位置Xから離れて配置された状態になるため、ヨーモーメントの影響を受けることになり、検出信号にヨー成分が重畳される。
【0055】
このため、ヨー角加速度に対するヨーレートと横加速度との位相差の関係が重心位置Xの移動、つまり積載重量Wの変動に伴って変化する。よって、ヨー角加速度に対するヨーレートと横加速度との位相差の関係を積載重量別に予め実験などによって求めておけば、その関係とヨーレートセンサ76および横加速度センサ77の検出信号から得られるヨーレートYrやその微分値から得られるヨー角加速度および横加速度Gyとに基づいて、つまり重心位置Xに基づいて積載重量Wを推定することができる。
【0056】
以上の知見に基づいて、積載重量検出処理を行っている。図5は、制御装置1がROM等に記憶されたプログラムに従って実行する積載重量検出処理のフローチャートである。この図を参照して積載重量検出処理の詳細について説明する
【0057】
制御装置1は、例えばイグニッションスイッチがオフからオンに投入されたとき、もしくは、車両が所定時間停車して積載重量が変動した可能性がある場合に、所定の演算周期毎に図5に示す積載重量検出処理を実行する。
【0058】
まず、ステップ200では、ステップ100で演算した舵角SaやヨーレートYrを用いて舵角速度やヨー角加速度を演算する。具体的には、舵角Saを時間微分することにより舵角の微分値で表される舵角速度を演算する。また、ヨーレートYrを時間微分することによりヨーレートYrの微分値で表されるヨー角加速度を演算する。さらに、舵角SaとヨーレートYrとの位相差やヨーレートYrと横加速度Gyとの位相差を演算する。舵角SaとヨーレートYrとの位相差は、例えば舵角Saの検出波形とヨーレートYrの検出波形、例えばピーク値同士を比較し、その遅れ時間を演算することにより求められる。同様に、ヨーレートYrと横加速度Gyとの位相差は、例えばヨーレートYrの検出波形と横加速度Gyの検出波形、例えばピーク値同士を比較し、その遅れ時間を演算することにより求められる。
【0059】
次に、ステップ210に進み、車両が旋回運動するときの挙動に基づいて積載重量を推定する。具体的には、ステップ100、200で演算した舵角速度および舵角SaとヨーレートYrとの位相差と、予め実験などによって求めて記憶しておいた舵角速度に対する舵角SaとヨーレートYrとの位相差の関係に基づいて、積載重量を推定する。ここでは、図5中に示したように、予め実験などによって、舵角速度に対する舵角SaとヨーレートYrとの位相差の関係を示すマップ(MAP1)を求めて記憶してある。このため、ステップ100、200で演算した舵角速度および舵角SaとヨーレートYrとの位相差が図中に記載したマップのどの位置(舵角速度をX軸、舵角SaとヨーレートYrとの位相差をY軸と見立てたときの演算値のXY座標)に対応するかを判別することにより、積載重量を推定する。
【0060】
すなわち、図中に示したように、舵角速度に対する舵角SaとヨーレートYrとの位相差の関係を積載重量別に三本の線で示すことで、積載重量が無(空車時)、小、中、大の4つの領域に区画してある。したがって、ステップ100、200で演算した舵角速度および舵角SaとヨーレートYrとの位相差がマップのどの領域に位置しているかにより、積載が無い状態か、積載重量が小〜大のいずれであるかを判別する。このとき判別された積載重量をMAP1の積載重量として記憶する。
【0061】
なお、ここでは三本の線しか示していないが、更に複数の線を示しておくことで、より具体的な積載重量の絶対値を求めることもできる。勿論、舵角速度に対する舵角SaとヨーレートYrとの位相差の関係を示す関数式に対して、ステップ100で演算した舵角速度および舵角SaとヨーレートYrとの位相差を代入することで、積載が無い状態か、積載重量が小〜大のいずれであるかを判別することもできるし、積載重量の絶対値を求めることも可能である。
【0062】
続いて、ステップ220に進み、重心位置に基づいて積載重量を推定する。具体的には、ステップ100、200で演算したヨー角加速度およびヨーレートYrと横加速度Gyとの位相差と、予め実験などによって求めて車両の重心位置別に記憶しておいたヨー角加速度に対するヨーレートYrと横加速度Gyとの位相差の関係に基づいて、積載重量を推定する。ここでは、図5中に示したように、予め実験などによって、ヨー角加速度に対するヨーレートYrと横加速度Gyとの位相差の関係を車両の重心位置別に示すマップが作成され、前述のようにこのマップは車両の積載重量別に示したマップであるとみなされることより、ヨー角加速度に対するヨーレートと横加速度との位相差の関係を車両重量別に示すマップ(MAP2)を求めて記憶してある。このため、ステップ100、200で演算したヨー角加速度およびヨーレートYrと横加速度Gyとの位相差が図中に記載したマップのどの位置(ヨー角加速度をX軸、ヨーレートYrと横加速度Gyとの位相差をY軸と見立てたときの演算値のXY座標が積載重量別に区画されたどの範囲内)に対応するかを判別することにより、積載重量を推定する。
【0063】
すなわち、図中に示したように、ヨー角加速度に対するヨーレートYrと横加速度Gyとの位相差の関係を積載重量別に三本の線で示すことで、積載重量が無(空車時)、小、中、大の4つの領域に区画してある。したがって、ステップ100、200で演算したヨー角加速度およびヨーレートYrと横加速度Gyとの位相差がマップのどの領域に位置しているかにより、積載が無い状態か、積載重量が小〜大のいずれであるかを判別する。このとき判別された積載重量をMAP2の積載重量として記憶する。
【0064】
なお、ここでは三本の線しか示していないが、更に複数の線を示しておくことで、より具体的な積載重量の絶対値を求めることもできる。勿論、ヨー角加速度に対するヨーレートYrと横加速度Gyとの位相差の関係を示す関数式に対して、ステップ100、200で演算したヨー角加速度およびヨーレートYrと横加速度Gyとの位相差を代入することで、積載が無い状態か、積載重量が小〜大のいずれであるかを判別することもできるし、積載重量の絶対値を求めることも可能である。
【0065】
そして、ステップ230に進み、ステップ210で記憶したMAP1の積載重量とステップ220で記憶したMAP2の積載重量とを比較し、いずれか小さい方を最終的な積載重量LCとして決定する(積載重量LC=MIN(MAP1,MAP2))。このとき、MAP1とMAP2の積載重量のいずれか小さい方ではなく、それらの平均値やいずれか大きい方を採用する等のように、MAP1とMAP2の積載重量に基づく他の手法によって最終的な積載重量LCを決定することもできる。しかし、積載重量が検出されるたびに積載重量LCが更新され、最終的には、実際の積載重量に近い値に更新されていくことになるため、最初からMAP1とMAP2の積載重量いずれか大きい方の積載重量を選択するのではなく、いずれか小さい方を選択することで、ノイズ的に積載重量が大きく変化する場合などを除外できるようにしている。
【0066】
このように、車両が旋回運動するときの挙動に基づいて積載重量を検出している。すなわち、予め求めておいた舵角速度に対する舵角SaとヨーレートYrとの位相差の関係と、各センサ75〜77の検出信号から演算した舵角速度および舵角SaとヨーレートYrとの位相差に基づいて、積載重量を検出している。これら各センサ75〜77の検出信号から演算した舵角速度および舵角SaとヨーレートYrとの位相差は、制動トルクが加わったり、4輪にスリップが発生した時、さらには振動発生時や微小時間に路面変化が生じる場合などの外乱要因が発生した場合であっても、その外乱要因が加味された値となっている。このため、外乱要因が発生しても正確な積載重量を検出することができる。
【0067】
また、本実施形態の車両重量検出装置では、重心位置に基づいて積載重量を検出している。すなわち、予め求めておいたヨー角加速度に対するヨーレートYrと横加速度Gyとの位相差の関係と、各センサ75〜77の検出信号から演算した舵角速度および舵角SaとヨーレートYrとの位相差に基づいて、積載重量を検出している。この場合にも、各センサ75〜77の検出信号から演算したヨー角加速度およびヨーレートYrと横加速度Gyとの位相差は、制動トルクが加わったり、4輪にスリップが発生した時、さらには振動発生時や微小時間に路面変化が生じる場合などの外乱要因が発生した場合であっても、その外乱要因が加味された値となっている。このため、外乱要因が発生しても正確な積載重量を検出することができる。
【0068】
そして、本実施形態では、車両が旋回運動するときの挙動に基づく積載重量の検出と、重心位置に基づく積載重量の検出の双方を行っているため、より正確な積載重量を検出することが可能となる。
【0069】
このようにして、積載重量検出処理が完了するとステップ120に進み、ステップ115で検出した積載重量LCがより横転し易いと想定される閾値THIを超えているか否かを判定する。ここで否定判定されれば、ステップ125に進み、制御対象輪の1つとなる旋回外側前輪の目標W/C圧Ptoを決定する。旋回外側前輪については、車両の旋回方向を舵角Saから検出し、その旋回方向と反対側の前輪としている。目標W/C圧Ptoは、車両をアンダーステア傾向にしてロールを抑制するために、旋回外側前輪を積極的にスリップさせて横滑りが発生させられる圧力に設定される。このとき、目標W/C圧Ptoを一定値としても良いが、車両の状態等に応じて横滑りが発生させられるのに必要なW/C圧が異なる。
【0070】
このため、本実施形態では、ステップ115で検出した積載重量LC(もしくは積載重量LCに車載無しのときの重量を加算した車両総重量)に基づいて設定している。つまり、積載重量LCが多いほどよりスリップさせ易いため、スリップが発生させられる範囲内において、積載重量LCが大きいほど目標W/C圧Ptoを小さく設定するようにしている。
【0071】
また、積載重量LCの他、舵角Sa、ロール角、路面状態などを考慮して、目標W/C圧Ptoを設定すると好ましい。舵角Saやロール角については、舵角Saもしくはロール角が大きくなるほどスリップさせ易くなるため、スリップが発生させられる範囲内において、これらが大きくなるほど目標W/C圧Ptoを小さく設定することができる。路面状態については、悪路であるほどスリップさせ易くなるため、スリップが発生させられる範囲内において、路面摩擦係数μが小さくなるほど目標W/C圧Ptoを小さく設定することができる。
【0072】
なお、ロール角については、ロール角センサを備えることで検出することができる。また、路面摩擦係数μについては、舵角、車速、ヨーレート等を用いて演算すれば良い。この路面摩擦係数μの演算手法は、既に周知になっているため、ここでは詳細については説明を省略する。
【0073】
この後、ステップ130に進み、旋回外側前輪の実際のW/C圧(以下、実W/C圧という)Paoが目標W/C圧Pto未満であるか否かを判定する。旋回外側前輪の実W/C圧Paoについては、横転抑制制御のために増圧モードが設定されてW/Cが増圧されたときの増圧時間や減圧モードが設定されてW/Cが減圧されたときの減圧時間に基づいて推定することができる。このため、本ステップでは、この推定値を実W/C圧Paoとし、この推定値が目標W/C圧Pto未満であるか否かを判定している。そして、ここで肯定判定されれば増圧モードを設定して旋回外側前輪のW/Cを増圧する。また、ここで否定判定されれば既に実W/C圧Paoが目標W/C圧Ptoに達しているためそのまま処理を終了する。勿論、図示していないが、目標W/C圧Ptoを大きく超えているのであれば減圧モードを設定して旋回外側前輪のW/Cを減圧しても良い。
【0074】
一方、ステップ120で肯定判定されたときにはステップ140、145に進む。そして、旋回外側前輪の目標W/C圧Ptoに加えて旋回内側前輪の目標W/C圧Ptiを決定する。目標W/C圧Ptoは、ステップ125と同様の手法により求められる。また、目標W/C圧Ptiについても、車両をアンダーステア傾向にしてロールを抑制するために、旋回内側前輪に対して積極的にスリップさせて横滑りが発生させられる圧力に設定される。目標W/C圧Ptiを一定値としても良いが、車両の状態等に応じて横滑りが発生させられるのに必要なW/C圧が異なるため、目標W/C圧Ptoと同様に、ステップ115で検出した積載重量LCに基づいて設定している。この場合も、積載重量LCが大きいほどよりスリップさせ易いため、スリップが発生させられる範囲内において、積載重量LCが大きいほど目標W/C圧Ptiを小さく設定するようにしている。
【0075】
この目標W/C圧Ptiについても、積載重量LCの他、舵角Sa、ロール角、路面状態などを考慮して設定すると好ましい。すなわち、スリップが発生させられる範囲内において、舵角Saもしくはロール角が大きくなるほど目標W/C圧Ptiを小さく設定することができる。また、スリップが発生させられる範囲内において、路面摩擦係数μが小さくなるほど目標W/C圧Ptoを小さく設定することができる。
【0076】
なお、上述したステップ125、140、150における目標W/C圧Pto、Ptiの設定に関しては、基本的には、図6に示す特性に基づいて決めている。図6は、各車輪に発生させる制動力と車両状態の関係を示した特性図である。
【0077】
この図に示されるように、旋回外側前輪に関してはスリップし易いため、制動力が小さくても横滑りが発生してアンダーステア状態となる。これに対し、旋回内側前輪に関してはある程度制動力を発生させないとスリップせず、横滑りが発生しない。このため、旋回外側前輪に関しては、操舵性を考慮に入れた上で適切なアンダーステア状態となる制動力が得られるように目標W/C圧Ptoを設定している。一方、旋回内側前輪に関しては、制動力が小さいとアンダーステア状態にならずにオーバステア状態となるため、アンダーステア状態にできる制動力が得られるように目標W/C圧Ptiを設定している。
【0078】
なお、上述したように、積載重量LC、舵角Sa、ロール角、路面摩擦係数μが変動すると、それによって図6に示す特性が変動する。例えば、積載重量LCが積載無しのときより大きくなると、旋回内側前輪がオーバステア状態からアンダーステア状態に切り替わるときの制動力が小さくなるように、特性が全体的に左側に移動する。このため、これらの変動に応じて目標W/C圧Pto、Ptiを設定するのが好ましい。
【0079】
そして、ステップ150に進み、旋回内側前輪の実W/C圧Paiが目標W/C圧Pti未満であるか否かを判定する。旋回内側前輪の実W/C圧Paiも、横転抑制制御のために増圧モードが設定されてW/Cが増圧されたときの増圧時間や減圧モードが設定されてW/Cが減圧されたときの減圧時間に基づいて推定することができる。このため、本ステップでは、この推定値を実W/C圧Paiとし、この推定値が目標W/C圧Pti未満であるか否かを判定している。そして、ここで肯定判定されればステップ155に進んで旋回内側前輪のW/Cを増圧する。また、ここで否定判定されれば既に実W/C圧Paiが目標W/C圧Ptiに達しているためそのまま処理を終了する。勿論、図示していないが、目標W/C圧Ptiを大きく超えているのであれば減圧モードを設定して旋回内側前輪のW/Cを減圧しても良い。
【0080】
このようにして、旋回内側前輪の実W/C圧Paiが目標W/C圧Ptiまで達すると、その後はステップ150で否定判定されるため、ステップ130、135に進み、旋回外側前輪の実W/C圧Paoが目標W/C圧Ptoとなるように制御する。これにより、旋回内側前輪の実W/C圧Paiを目標W/C圧Ptiにできると共に、旋回外側前輪の実W/C圧Paoを目標W/C圧Ptoにできる。
【0081】
以上説明したように、本実施形態では、車両運動制御として横転抑制制御を実行する際に、旋回外側前輪および旋回内側前輪の両方に横滑りを発生させられる制動力となるように目標W/C圧Pto、Ptiを設定し、制動力を増加させている。このため、旋回外側前輪に加えて旋回内側前輪も横滑りさせることができる。このように、旋回外側前輪だけでなく、旋回内側前輪についても積極的に横滑りさせることで、より車体のロールを抑制することが可能となり、車両の横転を抑制することが可能となる。
【0082】
また、積載重量LC(もしくは車両総重量)、舵角Sa、ロール角および路面摩擦係数μの少なくとも1つに応じて目標W/C圧Ptiを設定し、旋回内側前輪に発生させる制動力を変動させるようにしている。これにより、旋回内側前輪に対して横滑りを発生させるために適した制動力を発生させることが可能となる。
【0083】
また、旋回内側前輪のW/Cを増圧させることで制動力を増加させてから、旋回外側前輪のW/Cを増圧させて制動力を増加させるようにしている。このため、旋回内側前輪に対して早期に制動力付与に起因する当該車輪側の車体の沈み込み(ノーズダイブ)を発生させ、旋回内側前輪により高い荷重が掛かるようにして横滑りが発生させ易くなるようにすることができる。これにより、旋回内側前輪をより確実に横滑りさせられ、より一層車両が横転することを抑制できる。
【0084】
さらに、本実施形態では、ステップ120において積載重量LCが閾値THIを超えている場合にのみ、旋回内側前輪を横滑りさせるように目標W/C圧Ptiを設定している。積載重量LCが閾値THI未満のときにも旋回内側前輪を横滑りさせても良いが、旋回内側前輪を横滑りさせるということは、基本的に車両をアンダーステア状態にするということであり、操舵性を低下させることを鑑みれば、横転する可能性が高いときにだけ行うのが好ましい。このため、積載重量LCが閾値THIを超えている場合にのみ行うことで、不必要に車両をアンダーステア状態にすることを防止でき、操舵性の低下を抑制することが可能となる。
【0085】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対して横転抑制制御の一部を変更したものであり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0086】
本実施形態の車両用のブレーキ制御システム1でも、ブレーキECU70にて第1実施形態と同様の横転抑制制御処理を実行するが、横転抑制制御処理中の旋回内側前輪に対する処理について、第1実施形態と異なっている。
【0087】
図7は、本実施形態のブレーキECU70が実行する横転抑制制御処理のフローチャートである。
【0088】
この図に示されるように、ステップ200〜240に関しては、基本的には第1実施形態に示した図3のステップ100〜140と同様の処理を行う。そして、図3のステップ145〜155に代えて、ステップ245およびステップ250に示す処理を行う。
【0089】
具体的には、ステップ240で旋回外側前輪の目標W/C圧Ptoを設定したのち、ステップ245において、旋回内側前輪の目標W/C圧Ptiを設定することなく、旋回内側前輪に横滑りが発生しているか否かを判定する。横滑りについては、ステップ200で演算した各車輪の実スリップ率のうち旋回内側前輪と対応するものが所定の閾値を超えていれば発生していると判定している。そして、横滑りが発生していなければステップ250において、旋回内側前輪のW/Cを増圧する。
【0090】
すなわち、旋回内側前輪に横滑りが発生するまで、旋回内側前輪のW/Cを増圧させ、横滑りが発生した時点で旋回外側前輪のW/Cを増圧させるようにする。このようにすれば、旋回内側前輪に対して目標W/C圧Ptiを設定する場合よりも、旋回内側前輪をより確実に横滑りさせられる。このようにしても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0091】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態も、第1実施形態に対して旋回内側前輪のW/Cの増圧と旋回外側前輪のW/Cの増圧のタイミングを変更したものであり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0092】
図8は、本実施形態のブレーキECU70が実行する横転抑制制御処理のフローチャートである。
【0093】
この図に示されるように、ステップ300〜335に関しては、基本的には第1実施形態に示した図3のステップ100〜135と同様の処理を行う。そして、図3のステップ140〜155に代えて、ステップ340〜355に示す処理を行う。
【0094】
具体的には、ステップ340で旋回内側前輪の目標W/C圧Ptiを決定する。目標W/C圧Ptiについては、図3のステップ145と同様の手法により求められる。その後、ステップ345に進んで旋回内側前輪の実W/C圧Paiが目標W/C圧Pti未満であるか否かを判定する。ここで、肯定判定されればステップ350に進んで旋回内側前輪のW/Cを増圧し、否定判定されればそのままステップ355に進む。そして、ステップ355で旋回外側前輪の目標W/C圧Ptoを決定したのち、ステップ330、355の処理を実行する。
【0095】
すなわち、本実施形態では、旋回内側前輪の実W/C圧Paiが目標W/C圧Ptiに達していなくても、旋回外側前輪のW/Cを増圧させることで、旋回内側前輪と旋回外側前輪に対して同時に制動力を発生させるようにしている。
【0096】
このようにしても、基本的には第1実施形態と同様の効果を得ることができる。ただし、第1実施形態のように、旋回内側前輪に先に制動力を発生させてから旋回外側前輪に制動力を発生させるというものではないため、旋回内側前輪に対して早期に制動力付与に起因する当該車輪側の車体の沈み込みを発生させるという効果に代えて、次のような効果を得ることができる。
【0097】
すなわち、横転抑制の際に旋回内側前輪と旋回外側前輪に対して同時に制動力を付与できるため、これら両輪に対して同時に車体の沈み込みを発生させられる。このため、旋回内側のみに車体の沈み込みを発生させて優先的に横滑りを発生させる場合にはロール振動を発生させる可能性があるが、そのようなロール振動が発生することを抑制できる。そして、この場合にも、旋回内側前輪に早期により確実に横滑りを発生させられるため、第1実施形態と同様、より一層車両が横転することを抑制できる。
【0098】
(他の実施形態)
(1)上記各実施形態では、横加速度Gyを車両の横転方向の運動量として用いているが、車両の横転方向の運動量として他の成分を用いてもかまわない。例えば、ロール角センサを用いて、ロール角を直接検出し、横方向運動量としてロール角を用いるようにしても良い。また、横転傾向についても、舵角SaやヨーレートYrおよび横加速度Gyのいずれかに基づいて、横転傾向の度合いを検出することができる。例えば、舵角Saと横加速度Gyとから周知の手法によって推定した目標ヨーレートとヨーレートセンサ76で検出される実際のヨーレートYrとの差で横転傾向の度合いを表すことができる。
【0099】
(2)上記第1〜第3実施形態では、少なくとも横転抑制モードが設定され、かつ、旋回状態であるという条件を満たしてから、初めて横転抑制のために旋回内側前輪のW/Cを増圧させるようにしている。しかしながら、このような条件を満たすであろうことを事前に予測しておき、それが予測されたときに、前以て、横滑りが発生する直前まで旋回外側前輪のW/Cを増圧させておくこともできる。例えば、横加速度Gaが横転抑制モードが設定される場合よりも小さな閾値を超え、かつ、旋回状態のときに、上記条件を満たすであろうことを予測することができる。このような場合に、図6に示した旋回内側前輪の制動力がオーバステア状態からアンダーステア状態に切り替わる直前の制動力を発生させるように、目標W/C圧Ptiを設定することができる。
【0100】
このようにすれば、上記条件を満たして旋回内側前輪のW/Cを増圧させて制動力を増加させたときに、即座に横滑りを発生させることが可能となる。これにより、より早期に旋回内側前輪に横滑りを発生させることが可能となり、より横転抑制を行うことが可能となる。
【0101】
また、このように上記条件を満たすであろうことを事前に予測した場合に、旋回内側前輪に対して発生させる目標W/C圧を積載重量LC(もしくは車両総重量)や舵角Sa、ロール角および路面摩擦係数μの少なくとも1つに応じて変動させることができる。これにより、旋回内側前輪に対して横滑りを発生させるために適した制動力を発生させることが可能となる。
【0102】
(3)上記各実施形態では、横転抑制を行うために旋回外側輪に対して制動力を掛けるときに、旋回外側前輪に対して制動力を掛けるようにしているが、旋回外側後輪であっても良いし、旋回外側前輪と後輪の両方に対してかけても良い。
【0103】
(4)上記各実施形態では、ドライバがブレーキペダル1を踏み込んでおらず、制動力が発生させられていない状態で横転抑制制御が行われた場合を例に挙げて説明した。しかしながら、制動力が発生させられているときに横転抑制制御が行われることもある。このような場合には、横転抑制制御前に旋回外側前輪や旋回内側前輪に発生させられていた制動力を更に増加させることで、横転抑制制御が行われることになる。
【0104】
(5)なお、各図中に示したステップは、各種処理を実行する手段に対応するものである。例えば、図3、図7、図8のうちステップ105、205、305の処理を実行する部分がモード設定手段、ステップ110、210、310の処理を実行する部分が旋回状態判定手段、ステップ155、250、350の処理を実行する部分が制動力制御手段、ステップ245の処理を実行する部分が横滑り判定手段、ステップ120、220、320の処理を実行する部分が積載重量判定手段に相当する。
【符号の説明】
【0105】
1…ブレーキ制御システム、13…M/C、14、15、34、35…W/C、16、36…差圧制御弁、17、18、37、38…第1〜第4増圧制御弁、19、39…ポンプ、20、40…調圧リザーバ、21、22、41、42…減圧制御弁、50…ブレーキ液圧制御用アクチュエータ、50a、50b…第1、第2配管系統、60…モータ、70…ブレーキECU、71〜74…車輪速度センサ、75…舵角センサ、76…ヨーレートセンサ、77…横加速度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の横転方向の運動状態を示す前記物理量(Gy)を取得し、該物理量が所定の運動状態閾値(THg)以上であると、前記車両の横転を抑制する横転抑制モードを設定するモード設定手段(105、205、305)と、
前記車両が旋回状態にあるか否かを判定する旋回状態判定手段(110、210、310)とを備え、
前記モード設定手段にて前記横転抑制モードが設定され、かつ、前記旋回状態判定手段にて前記車両が旋回状態であると判定されたとき、旋回外側輪に対して発生させる制動力を増加させる横転抑制制御を行う車両運動制御装置において、
前記旋回外側輪に対して発生させる制動力を増加させる条件である前記モード設定手段にて前記横転抑制モードが設定され、かつ、前記旋回状態判定手段にて前記車両が旋回状態であると判定されることを満たしたときに、旋回内側前輪に対して発生させる制動力を増加させて横滑りを発生させる横転抑制制御を行う制動力制御手段(155、250、350)を備えていることを特徴とする車両運動制御装置。
【請求項2】
前記制動力制御手段は、積載重量、舵角、ロール角および路面摩擦係数のうち少なくとも1つに応じて、前記旋回内側前輪に発生させる制動力を変動させることを特徴とする請求項1に記載の車両運動制御装置。
【請求項3】
前記旋回内側前輪に横滑りが発生しているか否かを判定する横滑り判定手段(245)を有し、
前記制動力制御手段は、前記旋回内側前輪を横滑りさせるべく、前記横滑り判定手段にて前記旋回内側前輪に横滑りが発生していると判定されるまで前記旋回内側前輪に対する制動力を増加させることを特徴とする請求項1に記載の車両運動制御装置。
【請求項4】
前記制動力制御手段は、前記旋回外側輪に対して発生させる制動力を増加させる条件を満たしたときに、前記旋回外側輪に対して発生させる制動力と前記旋回内側前輪に対して発生させる制動力を同時に増加させることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の車両運動制御装置。
【請求項5】
前記制動力制御手段は、前記旋回外側輪に対して発生させる制動力を増加させる条件を満たしたときに、前記旋回内側前輪に対して発生させる制動力を増加させることで前記旋回内側前輪に横滑りが発生したのち、前記旋回外側輪に対して発生させる制動力を増加させることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の車両運動制御装置。
【請求項6】
前記前記旋回外側輪に対して発生させる制動力を増加させる条件を満たす状態になることを事前に予測する予測手段を備え、
前記制動力制御手段は、前記予測手段にて、前記条件を満たす状態になることが事前に予測されたとき、前記旋回内側前輪に対する制動力を当該旋回内側前輪に横滑りが発生する直前の制動力まで増加させることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載の車両運動制御装置。
【請求項7】
前記旋回内側前輪に横滑りが発生する直前の制動力を、積載重量、舵角、ロール角および路面摩擦係数のうち少なくとも1つに応じて変動させることを特徴とする請求項6に記載の車両運動制御装置。
【請求項8】
積載重量(LC)が所定の閾値(THI)を超えているか否かを判定する積載重量判定手段(120、220、320)を有し、
前記制動力制御手段は、前記積載重量判定手段にて前記積載重量が前記閾値を超えているときにのみ、前記旋回内側前輪に対する制動力の増加を行うことを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1つに記載の車両運動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−11590(P2011−11590A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−155807(P2009−155807)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】