説明

車両運転支援装置及び車両運転支援方法

【課題】車線区分線を検出できない場合があっても、側方障害物に対する支援制御を適切に行うことが可能な車両運転支援を提供する。
【解決手段】自車両側方の障害物を検出すると、運転者の操舵入力に基づき所定時間後の自車両の将来位置を予測する。その予測した自車両の将来位置が、上記障害物に近い側の車線区分線を基準とした判定閾値に到達若しくは当該判定閾値よりも障害物側と判定すると、側方障害物に対する支援制御の開始と判定する。但し、障害物に近い側の車線区分線を検出できない場合には、上記制御開始を判定する際に基準とする車線区分線を車線幅方向外側へ変位させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自車両側方の障害物を検出すると、当該障害物への接近を防止するように運転者の運転を支援する車両運転支援装置及び車両運転支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
運転者の運転を支援する装置としては、例えば特許文献1に記載の技術がある。この技術では、車速が設定車速を越えている場合に、操舵の有無を判定する。そして、操舵方向の自車両側方に存在する障害物までの距離を検出する。その障害物までの距離が設定距離内の場合には障害物側への操舵を抑制制御する。これによって、障害物への接近を運転者に警報することが可能となる。
また、車速が設定車速以下の場合には、制御に移行することはなく、かつ操舵の抑制制御が作動中には、その抑制制御を解除する。これによって、走行路がカーブ路と推定する場合には、操舵の抑制を防止して、車両が走行路から逸脱等するのを回避する。
【特許文献1】特開平8−253160号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来技術では、自車両側方に障害物が存在していても、カーブ路やレーンチェンジと推定する場合に制御が介入する事を防止する。このとき、自車両の車速などによって、カーブ路等か否かを推定している。すなわち、実際の車線区分線を取得して制御を行うか否かを判定していないため、実際には直進路などであっても、一時的に制御が終了する状況が発生する。つまり、必要以上に制御の介入及び解除が繰り返し発生するおそれがある。
【0004】
すなわち、このような技術では、車線区分線を取得しない場合には、側方障害物に対する支援制御が必要以上に介入及び解除となるおそれがある。このようなことは、運転者の違和感に繋がる。
本発明は、上記のような点に着目してなされたもので、車線区分線を検出できない場合があっても、側方障害物に対する支援制御を適切に行うことが可能な車両運転支援を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、自車両側方の障害物を検出すると、運転者の操舵入力に基づき所定時間後の自車両の将来位置を予測し、その予測した自車両の将来位置が、上記障害物に近い側の車線区分線を基準とした所定の車線幅方向位置に到達若しくは当該所定の車線幅方向位置よりも障害物側と判定すると、側方障害物に対する支援制御の開始と判定する。但し、障害物に近い側の車線区分線を検出できない場合には、上記制御開始を判定する際に基準とする車線区分線を車線幅方向外側へ変位させる。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、走行路の車線区分線を検出して障害物に対する自車両の将来位置を判定しているので、カーブ路を走行中の操舵であっても適切に障害物側に向かっているか否かを判定可能となる。これによって、カーブ路であっても、側方障害物を回避するための支援制御を適切に行うことが可能となる。
また、走行中に車線区分線を検出出来なくなった場合には、相対的に制御開始を判断する際に基準とする車線区分線を、車幅方向外側にずらす。これによって制御開始と判断させにくくする。つまり、制御開始タイミングを遅らせる。この結果、必要以上に制御の開始・終了の発生を防止すると共に、必要な側方障害物に対する支援制御を行う。すなわち、違和感のある制御開始を抑制しつつ、運転者が障害物方向への意図的に操舵した際の制御開始を可能となる。
以上によって、車線区分線を検出できない場合があっても、側方障害物に対する支援制御を適切に行うことを可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
次に、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
本実施形態では、後輪駆動車両に対し、側方障害物支援制御装置を搭載する場合で例示する。対象とする車両は、前輪駆動であっても四輪駆動であっても良い。
図1は、本実施形態に係る装置の概要構成図である。
(構成)
この車両は、自動変速機とディファレンシャルギヤとを搭載する。そして、前後輪ともに、左右輪の制動力を独立制御可能な制動装置を搭載している。
【0008】
符号1はブレーキペダルである。ブレーキペダル1は、ブースタ2を介してマスタシリンダ3に連結する。なお、符号4はリザーバを示す。マスタシリンダ3は、流体圧回路30を介して各輪の各ホイールシリンダ6FL〜6RRに連結する。これによって、制動制御が作動しない状態では、運転者によるブレーキペダル1の踏込み量に応じて、マスタシリンダ3で制動流体圧を昇圧する。その昇圧した制動流体圧を、流体圧回路30を通じて、各車輪5FL〜5RRの各ホイールシリンダ6FL〜6RRに供給する。
制動流体圧制御部7は、流体圧回路30中のアクチュエータを制御して、各輪への制動流体圧を個別に制御する。そして、各輪への制動流体圧を、制駆動力コントロールユニット8からの指令値に応じた値に制御する。アクチュエータとしては、各ホイールシリンダ液圧を任意の制動液圧に制御可能な比例ソレノイド弁が例示出来る。
【0009】
ここで、制動流体圧制御部7及び流体圧回路30は、例えばアンチスキッド制御(ABS)、トラクション制御(TCS)又はビークルダイナミックスコントロール装置(VDC)で使用する制動流体圧制御部を利用すれば良い。制動流体圧制御部7は、単独で各ホイールシリンダ6FL〜6RRの制動流体圧を制御する構成とすることも可能である。そして、後述する制駆動力コントロールユニット8から制動流体圧指令値を入力した場合には、その制動流体圧指令値に応じて各制動流体圧を制御する。
【0010】
また、この車両に駆動トルクコントロールユニット12を設ける。
駆動トルクコントロールユニット12は、駆動輪である後輪5RL、5RRへの駆動トルクを制御する。この制御は、エンジン9の運転状態、自動変速機10の選択変速比及びスロットルバルブ11のスロットル開度を制御することで実現する。すなわち、駆動トルクコントロールユニット12は、燃料噴射量や点火時期を制御する。また同時に、スロットル開度を制御する。これによって、エンジン9の運転状態を制御する。
【0011】
また、駆動トルクコントロールユニット12は、制御の際の情報である駆動トルクTwの値を、制駆動力コントロールユニット8に出力する。
なお、この駆動トルクコントロールユニット12は、単独で後輪5RL、5RRの駆動トルクを制御することも可能である。ただし、制駆動力コントロールユニット8から駆動トルク指令値を入力したときには、その駆動トルク指令値に応じて駆動輪トルクを制御する。
【0012】
またこの車両前部に、画像処理機能付きの撮像部13を備える。撮像部13は、走行車線内の自車両の位置を検出するために使用する。この撮像部13は、例えばCCD(Charge Coupled Device)カメラからなる単眼カメラで構成する。
そして、撮像部13は、自車両前方を撮像する。そして、撮像部13は、撮像した自車両前方の撮像画像について画像処理を行い、白線(レーンマーカ)等の車線区分線を検出し、その検出した車線区分線に基づいて、走行車線を検出する。
【0013】
さらに、撮像部13は、その検出した走行車線に基づいて、自車両の走行車線と自車両の前後方向軸とのなす角(ヨー角)φfront、走行車線に対する横変位Xfront、及び走行車線曲率β等を算出する。撮像部13は、算出したヨー角φfront、横変位Xfront及び走行車線曲率β等を、制駆動力コントロールユニット8に出力する。
このとき、撮像部13は、車線区分線を検出出来なかった場合には、検出出来なかった旨の信号を制駆動力コントロールユニット8に出力する。また、撮像した画像の精度に応じ、検出の認識精度の情報についても制駆動力コントロールユニット8に出力する。
【0014】
ここで、撮像画像の画質(認識精度)が所定以上であっても、料金所付近などでは、車線区分線がないので、車線区分線を検出することは出来なくなる。
ここで、撮像部13は、走行車線をなす車線区分線を検出して、その検出した車線区分線に基づいて、ヨーφfrontを算出している。このため、ヨー角φfrontは、撮像部13の車線区分線の検出精度に大きく影響する。
【0015】
また、車両に、レーダー装置22L/Rを備える。レーダー装置22L/Rは、それぞれ左右の側面方向を走行する障害物を検出する為のセンサである。このレーダー装置22L/Rは、少なくとも側面の所定の死角エリアに存在する障害物の存在の可否を検出できるように設定してある。望ましくは、障害物との相対横位置POSXobst、相対縦位置DISTobst、相対縦速度dDISTobstの検出を左右それぞれ検出できるものとする。
【0016】
また、マスタシリンダ圧センサ17、アクセル開度センサ18、操舵角センサ19、方向指示スイッチ20、車輪速度センサ22FL〜22RRを備える。
マスタシリンダ圧センサ17は、マスタシリンダ3の出力圧、すなわちマスタシリンダ液圧Pmを検出する。アクセル開度センサ18は、アクセルペダルの踏込み量、すなわちアクセル開度θtを検出する。操舵角センサ19は、ステアリングホイール21の操舵角(ステアリング舵角)δを検出する。方向指示スイッチ20は、方向指示器による方向指示操作を検出する。車輪速度センサ22FL〜22RRは、各車輪5FL〜5RRの回転速度、所謂車輪速度Vwi(i=fl、fr、rl、rr)を検出する。そして、これらセンサ等は、検出した検出信号を、制駆動力コントロールユニット8に出力する。
【0017】
制駆動力コントロールユニット8は、図2に示すように、将来位置予測手段8A、回避制御開始検出手段8B、及び障害物回避制御手段8Cを備える。回避制御開始検出手段8Bは、車線区分線調整手段8Baを備える。
将来位置予測手段8Aは、運転者の操舵入力に基づいて、所定時間である前方注視時間Tt後の自車両MMの将来位置を予測する。
回避制御開始検出手段8Bは自車両側方の障害物を検出していると判定しているときに、上記自車両の将来位置が、上記障害物に近い側の車線区分線を基準とした障害物距離X2obstに到達したことで、制御開始を検出する。
【0018】
障害物回避制御手段8Cは、回避制御開始検出手段8Bが制御開始を検出すると、障害物への接近を防止するように自車両を制御するヨーモーメントMsを算出する。
車線区分線調整手段8Baは、検出中の車線区分線が検出できなくなったと判定すると、上記車線区分線検出手段が検出した車線区分線よりも車線幅方向外側位置に仮想車線区分線を設定する。そして、車線区分線が検出できない間、上記車線区分線を、検出出来ていたときの車線区分線を基準とした仮想車線区分線に変更する。
【0019】
次に、制駆動力コントロールユニット8の処理について、図3を参照して説明する。
制駆動力コントロールユニット8の処理は、例えば10msec毎の所定サンプリング時間ΔT毎にタイマ割込によって実行する。なお、この図3に示す処理内には通信処理を設けていないが、演算処理によって取得した情報は、随時、記憶装置に更新して記憶すると共に、必要な情報を随時、記憶装置から読み出す。
先ずステップS10において、上記各センサやコントローラ、コントロールユニットから各種データを読み込む。具体的には、各センサが検出した、各車輪速度Vwi、操舵角δ、マスタシリンダ液圧Pm及び方向スイッチ信号を取得する。
【0020】
次に、ステップS20にて、車速Vを算出する。すなわち、車速Vを、下記(1)式のように車輪速度Vwiに基づいて算出する。
V=(Vwrl+Vwrr)/2 (:前輪駆動の場合)
V=(Vwfl+Vwfr)/2 (:後輪駆動の場合)
・・・(1)
ここで、Vwfl、Vwfrは左右前輪それぞれの車輪速度である。Vwrl、Vwrrは左右後輪それぞれの車輪速度である。すなわち、上記(1)式では、車速Vを、従動輪の車輪速の平均値として算出している。なお、本実施形態では、後輪駆動の車両であるので、後者の式、すなわち前輪の車輪速度により車速Vを算出する。
【0021】
また、ABS(Anti−lock Brake System)制御などの別の自動制動制御装置が作動している場合には、その別の制動制御装置で推定している推定車体速度を取得して、上記車速Vとして用いる。
次に、ステップS30では、左右の各レーダー装置22L/Rからの信号に基づき、自車両MMの左右側方について、障害物SMの存在Lobst・Robstの有無を取得する。なお、より検出精度の高いセンサを使用する場合には、自車両MMに対する側方障害物SMの相対位置および相対速度も取得する。ここで、図4に示すように、自車両MM側方とは、自車両MMに対して斜め後方位置も含む。
【0022】
次に、ステップS35で、車線区分線の検出状況の判定を行う。
すなわち、撮像部13からの認識情報に基づき、左右の車線区分線の検出の有無を判定し、車線区分線フラグCAMLOSTright及びCAMLOSTleftを設定する。車線区分線フラグCAMLOSTright及びCAMLOSTleftは、それぞれ右側及び左側の車線区分線についての情報である。車線区分線フラグCAMLOSTright及びCAMLOSTleftは、それぞれ車線区分線を検出した場合には、「0」を設定し、車線区分線を検出できなかった場合には「1」を設定する。また、認識精度が通常よりも悪い場合には「2」を設定する。
【0023】
また、車線区分線の検出不能となってからの継続時間を、左右の車線区分線毎に個別にカウントする。この継続時間を、ロスト時間LTr、LTlと呼ぶ。対応する側の車線区分線を検出すると「0」クリアする。
次に、ステップS40では、撮像部13から、現在走行している走行路における自車両MMの横変位Xfront、及び走行車線の曲率βfrontを読み込む。
また、現在走行している走行路に対する自車両MMのヨー角φfrontを算出する。このヨー角φfrontは、レーン内の走行状況を検出するために使用する。
本実施形態では、このヨー角φfrontは、撮像部13による実測値を使用する。
【0024】
ただし、車線区分線フラグCAMLOSTright及びCAMLOSTleftに基づき、操舵側の車線区分線が検出出来ていない場合には、今まで検出していた車線区分線に基づいてヨー角φfrontを算出する。例えば、撮像部13が撮像した近傍の車線区分線に基づいて、ヨー角φfrontを算出する。この場合には、例えば、自車両MMの横変位Xfrontを用いて、下記(2)式によりヨー角φfrontを算出する。なお、車線区分線を検出している場合も、同様にして算出しても良い。
φfront=tan-1(dX′/V(=dX/dY)) ・・・(2)
ここで、
dX :横変位Xの単位時間当たりの変化量
dY :単位時間当たりの進行方向の変化量
dX′:上記変化量dXの微分値
である。
【0025】
また、近傍の車線区分線に基づいてヨー角φfrontを算出する場合、上記(2)式のように、横変位Xを用いてヨー角φfrontを算出することに限定しない。例えば、近傍で検出した車線区分線を遠方に延長して、その延長した車線区分線に基づいて、ヨー角φfrontを算出しても良い。車線区分線を検出でき無い場合は、この処理によってヨー角φfrontを算出すれば良い。
【0026】
次に、ステップS50では、中立ヨーレートφ’pathを算出する。
車線区分線フラグCAMLOSTright及びCAMLOSTleftに基づき、操舵側の車線区分線を検出出来ている場合には、下記(3)式によって、中立ヨーレートφ’pathを算出する。
φ’path=βfront×V ・・・(3)
この中立ヨーレートφ’pathは、自車両MMが走行路に沿った走行を維持するために必要なヨーレートである。中立ヨーレートφ’pathは、直進路を走行中はゼロとなる。しかし、カーブ路ではその曲率βfrontによって、中立ヨーレートφ’pathが変化する。従って、この中立ヨーレートφ’pathを算出する際に、上記走行車線の曲率βfrontを用いる。
【0027】
なお、この走行経路を維持するための中立ヨーレートφ’pathは、所定の間の時間のヨーレートφ’の平均値φ’aveを用いたり、あるいは時定数の大きいフィルタをヨーレートφ’に掛けたりした値を簡易的に算出しても良い。
一方、車線区分線フラグCAMLOSTright及びCAMLOSTleftに基づき、操舵側の車線区分線を検出していない場合には、中立ヨーレートφ’pathに「0」を設定する。
これは、車線区分線を検出していないので、中立ヨーレートφ’pathの推定精度が良くないためである。中立ヨーレートφ’path=「0」とは、直線路と推定したことになる。
【0028】
ただし、操舵側のロスト時間が所定時間以内の場合には、車線区分線の検出が出来なくなる直前の中立ヨーレートφ’pathが「0」でなく、且つ操舵方向がカーブのアウト側である場合には、上記直前の中立ヨーレートφ’pathを、今回の中立ヨーレートφ’pathとして使用しても良い。または、所定の間の時間のヨーレートφ’の平均値φ’aveを用いたり、あるいは時定数の大きいフィルタをヨーレートφ’に掛けたりした値で算出しても良い。
【0029】
次に、ステップS60において、前方注視時間Tt(=車頭距離)を設定する。
前方注視時間Ttは、運転者の将来の障害物SMとの接触状況を予測するための閾値を決定づけるための時間である。例えば、前方注視時間Ttを1秒に設定しておく。
また、目標ヨーレートΨdriver及びΨdriverhoseiを算出する。
目標ヨーレートΨdriverは、下記式のように、操舵角δと車速度Vから算出する。この目標ヨーレートΨdriverは、操舵に応じて発生させる目標のヨーレートである。Kvはゲインである。
Ψdriver = Kv・δ・V
【0030】
更に、目標ヨーレートΨdriverhoseiを、下記(4)式によって算出する。この目標ヨーレートΨdriverhoseiは、目標ヨーレートΨdriverから、走行路を走行するために必要となるヨーレートφ’pathを除いた値である。これによって、カーブ路を走行するための操舵による影響を除去する。
Ψdriverhosei= Ψdriver − φ’path ・・・(4)
【0031】
次に、ステップS70では、下記(5)式に基づき、現在の走行路位置に対する横方向の自車両予測位置ΔXbを算出をする。この自車両予測位置ΔXbは、走行路を離脱して車線変更を行うか否かの判定に使用する。すなわち、自車両予測位置ΔXbは、障害物SMに対する回避の支援制御を開始するかどうかに使用する。実際には、この自車両予測位置ΔXbも、左右個別に求める。
ΔXb =(K1φ+K2φm+K3φm’) ・・・(5)
ここで、
φ :ヨー角
φm :目標ヨー角速度
φm’:目標ヨー角加速度
である。
【0032】
また、上記目標ヨー角速度φmは、下記式となる。
φm =Ψdriverhosei×Tt
目標ヨー角加速度φm’は、下記式となる。
φm’= φm×Tt2
ここで、自車両予測位置ΔXbを、ヨー角の次元とするために、前方注視距離Lを用いると、下式で表すことができる。
ΔXb=L・(k1φ+k2φm×T+k3φm’×Tt2)
ここで、前方注視距離Lと前方注視時間Ttとは、下記式の関係にある。
前方注視距離L=前方注視時間Tt×車速V
【0033】
こうした特性をふまえると、設定ゲインK1は車速を関数とした値となる。また、設定ゲインK2は、車速と前方注視時間を関数とした値となる。設定ゲインK3は、車速と、前方注視時間の2乗を関数とした値となる。
なお、自車両MMの予測位置を、下記式のように、操舵角成分と操舵速度成分を個別に求めてセレクトハイによって算出しても良い。
ΔXb= max(K2φm、K3∫φm’)
次に、ステップS80では、制御開始のための判定閾値を設定する。この判定閾値は、側方障害物SMに対する回避制御を開始するかどうかの判定閾値となる。
【0034】
本実施形態では、自車両MMの側面方向の予め設定をした所定の障害物検出範囲内に障害物SMが存在すると検出した場合に、車線区分線位置を基準として、車線区分線から外側に変位した所定の車線幅方向位置を障害物距離X2obstとし、その障害物距離X2obstを、判定閾値として設定する(図4参照)。この障害物距離X2obstは、仮想的に障害物SMが存在するものとして設定をする値である。すなわち、車線区分線から車線幅方向外側に変位した障害物距離X2obstに、障害物SMが存在するものとして処理することとなる。なお、障害物距離X2obstを設定する車線区分線からの変位量を「0」としても良い。この場合には、車線区分線と障害物距離X2obstとが同位置となる。
【0035】
また、レーダー装置22L/Rの検出において、障害物SMとの距離を所定精度で検出可能な場合には、自車両MMと障害物SMとの横方向相対距離ΔO(=X0+X2obst)を検出する。そして、その横方向相対距離ΔOを使用して、(ΔXO−X0)を所定の車線幅方向位置であるX2obstとする。そして、そのX2obstを、図4に示すように、上記判定閾値として使用する。なお、車線区分線を考慮に入れない場合(例えば、目標ヨーレートを中立ヨーレートφ′pathで補正しない場合)には、次のようなことがある。すなわち、横方向相対距離ΔOが小さくなった場合に、自車両と障害物との相対運転が、走行路の経路維持のためのものか車線変更のためのものかの区別が付かなくなる。
【0036】
この場合には、車線区分線と障害物との横距離(ΔXO−X0)が、障害物距離X2obstとなる。もっとも、横方向相対距離ΔOが検出可能な場合であっても、横距離(ΔXO−X0)そのものを障害物距離X2obstとする必要はない。例えば、若干余裕を持って、(ΔXO−X0)−αを障害物距離X2obstとしたり、(ΔXO−X0)に対し1未満のゲインを掛けた値を障害物距離X2obstとしたりしても良い。
【0037】
ここで、走行路に沿った方向にY軸をとり、走行路と垂直方向つまり車線幅方向にX軸を取ったX−Y座標系を使用する。そして、X軸座標上で障害物SMの横位置を検出する。この横位置に基づき、上記横方向相対距離ΔOを求める。
なおここで、障害物SMを検出するかどうかとして設定する障害物検出範囲は、自車両MMの側方における、所定の縦・横位置となるように設定する。また縦位置については、障害物SMが自車両MMに対して接近する相対速度が大きければ大きいほど、障害物検出範囲が広くなるように設定しても良い。
【0038】
次に、ステップS83では、障害物距離X2obstの調整を行う。
すなわち、車線区分線の検出が出来ていない場合には、上記障害物距離X2obstの調整を行う。
車線区分線フラグCAMLOSTright、CAMLOSTleftが「0」、つまり車線区分線を検出できている場合には、判定用障害物距離X2obstvirに対し下記のように障害物距離X2obstそのものを設定する。
X2obstvir =X2obst
【0039】
一方、車線区分線フラグCAMLOSTright、CAMLOSTleftが「1」若しくは「2」の場合には、次のようにして、判定用障害物距離X2obstvirを求める。なお、「2」の場合を、「0」と同じ扱いとしても良い。
ここで、車線区分線フラグCAMLOSTright、CAMLOSTleftが「0」の場合には、つまり、各制御サイクルで車線区分線を検出する度に、走行車線の幅Hを更新して記憶しておく。これによって、車線区分線を検出できなくなる直前の走行車線の幅Hを取得出来る。
【0040】
まず、車線区分線を検出出来ていたときの走行車線の幅Hに基づき、図5に示すようなマップを使用して、最低障害物余裕距離ΔX2obstminを求める。すなわち、車線区分線が検出できなくなる直前の車線幅Hが広いほど、最低障害物余裕距離ΔX2obstminが大きくなるように算出する。
次に、下記式のように、障害物距離X2obstと最低障害物余裕距離ΔX2obstminのセレクトローを行い、小さい方を判定用障害物距離X2obstvirとする。
X2obstvir =min(X2obst、ΔX2obstmin)
【0041】
次に、ステップS86において、車線区分線の位置の調整を行う。
車線区分線フラグCAMLOSTright、CAMLOSTleftが「0」、つまり車線区分線を検出できている場合には、判定用横位置XOvirに対し下記のように障害物距離XOそのものを設定する。
XOvir = XO
一方、車線区分線フラグCAMLOSTright、CAMLOSTleftが「1」若しくは「2」の場合には、次のようにして、車線区分線を仮想車線区分線に変更して、判定用横位置XOvirを求める。なお、「2」の場合を、「0」と同じ扱いとしても良い。
車線区分線が検出できなくなる直前における車線区分線の横位置X0を、今回の基準とする車線区分線の横位置X0とする。
【0042】
まず、車線区分線からの外側へのオフセット量である位置補正量X0addを求める。位置補正量X0addは、図6のように、ロスト時間が長いほど大きな値とする。
そして、判定用横位置XOvirを、下記式によって求める。
XOvir =X0 +X0add
この式で表す判定用横位置XOvirは、仮想車線区分線の位置を定義する値であって、基準とする車線区分線を外側に位置補正量X0addだけオフセットさせた値である。すなわち、判定用横位置XOvirは、自車両と、車線区分線若しくは仮想車線区分線との間の横距離となる。
【0043】
判定用横位置XOvirの上限値XOvir_maxを、上限値車線区分線が検出できなくなる直前の車線幅Hに基づき、算出する。すなわち、上限値XOvir_maxを、図7に示すようなマップに基づき算出する。すなわち、車線幅Hが大きいほど大きい値をとする。例えば、車線幅Hの半分の値とする。
そして、下記式のように、XOvirが上限値XOvir_maxを越える場合には、上限値XOvir_maxを判定用横位置XOvirとする。
XOvir = min(XOvir、XOvir_max)
【0044】
次に、ステップS88において、前方注視点閾値の補正を行う。
下記式で表すΔOmが、前方注視点閾値となる。前方注視点閾値ΔOmは、判定用障害物距離X2obstvirと判定用横位置XOvirとの合計の値である。
ΔOm =ΔX2obstvir+ΔX0vir
ここで、判定用障害物距離X2obstvirが、車線区分線(仮想車線区分線)を基準として定めた所定の車線幅方向位置に対応した判定閾値となる。また、判定用横位置XOvirが、自車両から車線区分線若しくは仮想車線区分線までの横距離となる。
【0045】
また、車線区分線が検出が出来ない状態であり、且つ自車両に対する障害物の相対位置を検出可能な場合には、次のようにして、障害物の位置によって前方注視点閾値ΔOmを補正する。
まず、相対縦位置情報DIST_taleを取得する。相対縦位置情報DIST_taleは、自車両に対する障害物の縦位置の情報である。縦位置とは、車線に沿った方向(Y軸の方向)での相対位置である。
この相対縦位置情報DIST_taleは、次のように設定する。図8のように、自車両の走行路に沿った方向であって自車両の進方向を負とする。そして、自車両の後端位置に対する障害物の前端位置との間の距離である。すなわち、自車両の後端位置を原点として算出する。
【0046】
そして、相対縦位置情報DIST_taleに基づき、自車両の後端位置と障害物の前端位置とが所定未満となった場合、及び車線幅方向から見て、自車両と障害物とが重なる場合、更には自車両の前部よりも障害物の前部が前側に位置する場合には、前方注視点閾値ΔOmを補正する。
すなわち、相対縦位置情報DIST_taleが所定値tale1未満となると、前方注視点閾値ΔOmを補正する。すなわち、横方向相対距離ΔOに向けて前方注視点閾値ΔOmを減少補正する。
【0047】
例えば、減少補正は、次のように実施する。
すなわち、自車両と障害物との横方向相対距離ΔOを取得する。
次に、図9に示すような、DIST_tale=所定値tale1で、現在の前方注視点閾値ΔOmとなり、相対縦位置情報DIST_tale=「−L」となる位置で横方向相対距離ΔOとなるような、傾きの直線LINEを設定する。なお、Lは、前方注視点のY軸方向の距離(前方注視距離)である。
そして、上記直線LINEで定義した関数を使用して、現在の相対縦位置情報DIST_taleの値に対応する値を、前方注視点閾値ΔOm*とする。
そして、下記式によって前方注視点閾値ΔOmを補正する。
ΔOm =ΔOm*
【0048】
次に、ステップS90にて、制御開始の判定を実施する。
まず、障害物SMの存在Lobst・Robstの有無を判定する。障害物が左右共に存在しない場合には、障害物回避制御判断フラグFout_obstをOFFに設定する。そして、ステップS100に移行する。
一方、左右の少なくとも一方に障害物SMが存在する場合には、障害物が存在する車線区分線側について、下記式を満足する場合に、制御開始と判定する。すなわち、前方注視点閾値ΔOmと自車両MMの将来予測位置ΔXbとを比較して判定する。
ΔOm ≧ΔXb
【0049】
そして、上記条件を満足した場合に、障害物SM側への車線変更操作等があったとして、障害物SMに対する制御開始と判定する。障害物SMに対する制御開始と判定した場合には、障害物回避制御Fout_obstをONに設定する。上記条件を満足しない、すなわち、将来予測位置ΔXbが判定閾値未満の場合には、障害物回避制御判断フラグFout_obstをOFFに設定する。
なお、この将来予測位置ΔXbは、実施には、車両の左側及び右側のそれぞれについてΔXbL/ΔXbRとして求めて、個別に判定を行う。
【0050】
またここで対象とする障害物SMは、自車両MMの後側方向の車両に対して設定するだけでなく、隣接車線前方の対向車両に対しても制御対象としても良い。
ここで、将来予測位置ΔXbが判定閾値未満か判定する場合に、ΔOm <ΔXb−F等のようにしてF分のヒスをもたせても良い。すなわち、不感帯を設定しても良い。すなわち、制御介入閾値と制御終了閾値との間に不感帯を設けても良い。
【0051】
また、Fout_obstをONに設定可能なのは、Fout_obstがOFFとなっている場合とする。また、Fout_obstをONに設定可能とする条件として、Fout_obstをOFFと設定した後所定時間経過した後とするなど、時間的な条件を加えても良い。また、Fout_obstをONと判定してから所定時間Tcontrolが経過したら、Fout_obst=OFFとし制御を終了しても良い。
【0052】
さらに、障害物回避制御の実施中においては、将来予測位置の判定方向によって、制御の実施方向Dout_obstを判定する。将来予測位置が左になった場合には、Dout_obst=LEFTとし、右になった場合にはDout_obst=RIGHTと設定する。
ここで、アンチスキッド制御(ABS)、トラクション制御(TCS)又はビークルダイナミックスコントロール装置(VDC)が作動している場合には、障害物回避制御判断フラグFout_obstをOFFに設定する。これは、自動制動制御が作動中は、障害物回避制御を作動させないようにするためである。
【0053】
なおこうした判定方法は、障害物SM方向へのヨー角φ、操舵角δ、操舵速度δ’それぞれに対して閾値を設定し、それらの閾値を障害物SM(もしくは障害物SM)に接近すればするほど制御開始タイミングの判定がしずらくなるように設定することと同義となる。目標ヨーレートφm’は一般的に広く使用する公式のとおり操舵角(と車速)の関係によって求まるものだからである。
次に、ステップS100では、警報発生の処理を行う。
ここでは、ステップS90にて制御開始の位置に到達したと判定と判定した場合には、警報を発生する。
【0054】
なお警報は、上述の前方注視時間に基づく前方注視点が制御開始の位置に到達する前に発生するようにしても良い。例えば、ステップS90での検出に用いている前方注視時間Ttよりも長くなるように、所定のゲインKbuzz(>1)を掛ける。そして、(Tt×Kbuzz)を使用して(5)式に基づき算出した前方注視点が、ステップS90での制御開始の位置に到達したと判断した時に警報を発生する。またステップS90において障害物回避システムの作動を開始すると判定して警報を発生し、それから所定の時間経過の後に、制御を開始するようにしても良い。
【0055】
次に、ステップS110にて、目標ヨーモーメントMsを設定する。
また、障害物回避制御判断フラグFout_obstがONの場合には、下記のように目標ヨーモーメントMsを上記の式により算出する。障害物回避制御判断フラグFout_obstがOFFの場合には、目標ヨーモーメントMsを0に設定して、次のステップS120に移行する。
すなわち、障害物回避制御判断フラグFout_obstがONの場合に、目標ヨーモーメントMsを、下記式によって求める。
Ms=K1recv×K2recv×ΔXs ・・・(6)
ΔXs =(K1mon・φ+K2mom・φm)
【0056】
ここで、K1recvは車両諸元から決まる比例ゲイン(ヨー慣性モーメント)である。K2recvは車速Vに応じて変動するゲインである。ゲインK2recvの例を、図10に示す。図10に示すように、例えばゲインK2recvは、低速域で大きい値になり、車速Vがある値になると、車速Vと反比例の関係となり、その後ある車速Vに達すると小さい値で一定値となる。また設定ゲインK1momは車速を関数とした値となる。また、設定ゲインK2momは、車速と前方注視時間を関数とした値となる。
【0057】
この(6)式によれば、車線区分線とのヨー角度φや運転者が切り増しをしたステアリングによって定常的に発生するヨーレートが大きくなるほど、目標ヨーモーメントMsは大きくなる。
あるいは、目標ヨーモーメントMsを、下記(7)式から算出しても良い。この(7)式は、(6)式に対して、ゲインK3(=1/Tt2)を掛けることと同義である。このゲインK3は、前方注視時間Ttが大きくなるほど減少するゲインとなる。
Ms= K1recv×ΔXb/(L×Tt2) ・・・(7)
【0058】
どの程度の時間Tをかけてヨー角を制御するかを示す上記(7)式を使用すると、次のようになる。すなわち、制御時間Tを前方注視時間Ttと一致させて設定させておくことで、制御開始タイミングの前方注視点が短くなった際には、車両を戻すための時間Tが短くなる。この結果として制御量が強くなる。すなわち、制御開始タイミングが遅くなるようにしても、制御開始する際の制御量は大きくなる。また、制御開始タイミングが早くなるようにした際には制御量は小さくなる。この結果、運転者に対しては前方注視点の設定によらず、状況に沿った違和感の少ない制御を実施することが可能となる。
【0059】
なお、上記Fout_obstの判定は、操舵情報に基づいて将来の進路変更を予測するものである。
ここで、本制御の他に、車線逸脱防止制御を備える場合にあっては、本制御が作動開始するときと車線逸脱防止制御が作動開始する(Fout_LDP=1)ときとで、いずれかが先に制御を開始するかによって、先に制御開始した制御を優先し、その制御が終了するまで他方の制御を実施しないようにしても良い。
【0060】
次に、ステップS120では、障害物回避のための目標ヨーモーメントMsを発生させるための指令を算出して出力した後に、復帰する。
ここで、本実施形態では、障害物回避のためのヨーレートMsを発生するための手段として、制駆動力を用いてヨーモーメントを発生する場合の例を、以下に説明する。
なお、ヨーレートを発生させる手段としてステアリング反力制御装置を用いる場合には、ステアリング反力FrstrはFrstr=K×Msとして反力を発生すれば良い。
【0061】
またヨーレートを発生させる手段としてステアリング制御装置を用いる場合には、ステアリング角STRθはSTRθ=K×Ms’として求めた結果をステアリングに付与すれば良い。
またヨーレートを発生させる手段としてはステアリング制御装置を用い、その操舵力(操舵トルク)をSTRtrg=K×Msとして求めて発生しても良い。
【0062】
目標ヨーモーメントMsが0の場合、すなわちヨーモーメント制御を実施しない条件との判定結果を得た場合には、下記(8)式及び(9)式に示すように、各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl、fr、rl、rr)を制動液圧Pmf、Pmrにする。
Psfl=Psfr=Pmf ・・・(8)
Psrl=Psrr=Pmr ・・・(9)
ここで、Pmfは前輪用の制動液圧である。また、Pmrは後輪用の制動液圧であり、前後配分を考慮して前輪用の制動液圧Pmfに基づいて算出した値になる。例えば、運転者がブレーキ操作をしていれば、制動液圧Pmf、Pmrはそのブレーキ操作の操作量(マスタシリンダ液圧Pm)に応じた値になる。
【0063】
一方、目標ヨーモーメントMsの絶対値が0より大きい場合、すなわち障害物回避制御を開始するとの判定結果を得た場合には、次のような処理を行う。
すなわち、目標ヨーモーメントMsに基づいて、前輪目標制動液圧差ΔPsf及び後輪目標制動液圧差ΔPsrを算出する。具体的には、下記(10)式及び(11)式により目標制動液圧差ΔPsf、ΔPsrを算出する。
ΔPsf=2・Kbf・(Ms×FRratio)/T ・・・(10)
ΔPsr=2・Kbr・(Ms×(1−FRratio))/T ・・・(11)
ここで、
FRratio:設定用しきい値
T:トレッド
Kbf、Kbr:制動力を制動液圧に換算する場合の前輪及び後輪についての換算係数
である。
【0064】
なお、上記トレッドTは、ここでは便宜上前後同じ値として扱う。また、Kbf、Kbrは、ブレーキ諸元により定まる。
このように、目標ヨーモーメントMsの大きさに応じて車輪で発生させる制動力を配分する。つまり、各目標制動液圧差ΔPsf、ΔPsrに所定値を与え、前後それぞれの左右輪で制動力差を発生させる。そして、算出した目標制動液圧差ΔPsf、ΔPsrを用いて、最終的な各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl、fr、rl、rr)を算出する。
【0065】
具体的には、実施方向Dout_strがLEFTの場合、すなわち左側の障害物SMに対する障害物回避制御を実施する場合には、下記(12)式により各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl、fr、rl、rr)を算出する。
Psfl=Pmf
Psfr=Pmf+ΔPsf
Psrl=Pmr
Psrr=Pmr+ΔPsr
・・・(12)
【0066】
また、実施方向DoutがRIGHTの場合、すなわち右側の車線区分線に対して車線逸脱傾向がある場合、下記(13)式により各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl、fr、rl、rr)を算出する。
Psfl=Pmf+ΔPsf
Psfr=Pmf
Psrl=Pmr+ΔPsr
Psrr=Pmr
・・・(13)
【0067】
この(12)式及び(13)式によれば、車線逸脱回避側の車輪の制動力が大きくなるように、左右輪の制駆動力差が発生する。
また、ここでは、(12)式及び(13)式が示すように、運転者によるブレーキ操作、すなわち制動液圧Pmf、Pmrを考慮して各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl、fr、rl、rr)を算出している。
そして、制駆動力コントロールユニット8は、このようにして算出した各車輪の目標制動液圧Psi(i=fl、fr、rl、rr)を制動流体圧指令値として、制動流体圧制御部7に出力する。
【0068】
(動作・作用)
自車両の走行状態であるヨー角φ、ヨー角速度φm等に基づき、前方注視時間T後の自車両の将来位置として自車両予測位置ΔXbを求める。
そして、障害物SMを検出した側の自車両予測位置ΔXbが、車線区分線を基準として、車線区分線よりも外側の判定閾値である障害物距離X2obst以上となると、障害物回避のための支援制御を開始する(図4参照)。支援制御開始と判定すると、自車両予測位置ΔXbに基づき、制御量として目標ヨーモーメントMsを算出し、その目標ヨーモーメントMsを発生するように制駆動力を制御する。これによって、障害物への接近を防止する方向に自車両を制御することとなる。
【0069】
ここで、車線区分線が検出出来なくなる時間が継続するにつれて、走行経路の確からしさが低下する。これに応じて、車線区分線が検出出来なくなると、車線区分線の位置を、走行車線が検出出来なくなる直前の車線区分線よりも車線幅外方に変位させた仮想車線区分線を設定し、その仮想車線区分線を基準として、制御開始の判定を行う。
ここで、図4の状態で、車線区分線の検出が出来なかった場合に、図8のように、前方経路がカーブ路(図8中一点鎖線で示す。)の場合も想定出来る。すなわち、自車両と障害物との相対横距離が短くなっても、車線区分線が検出出来なくなると、車線変更のためか、前方がカーブ路のためか精度良く認識出来ない。
【0070】
このとき、本実施形態では、制御開始の判定のための基準とする車線区分線を仮想車線区分線に変更することで、判定閾値の位置が車線外方にオフセットする。この結果、制御が開始し難くなる方向に調整する。
これによって、車線区分線を検出出来ない場合でも、必要以上に制御の開始・終了の発生を防止する。すなわち、制御介入頻度が低下することで、側方障害物回避の制御による車両挙動の変動を抑制して、運転者への違和感を低減できる。
【0071】
また、制御開始タイミングを遅らせるだけであるので、必要な側方障害物に対する支援制御は行う。
すなわち、違和感のある制御開始を抑制しつつ、運転者が障害物SM方向への意図的に操舵した際の制御開始を可能となる。
ここで、レーダー装置22L/Rは障害物検出手段を構成する。撮像部13が車線検出手段を構成する。操舵角センサ19が操舵入力検出手段を構成する。
ステップS70が将来位置予測手段8Aを構成する。ステップS80〜S90が、回避制御開始検出手段8Bを構成する。ステップS100〜S210が障害物回避制御手段8Cを構成する。ステップS86が車線区分線調整手段8Baを構成する。判定閾値が、所定の車線幅方向位置に対応する。
【0072】
(本実施形態の効果)
(1)回避制御開始検出手段8Bが、障害物検出手段が障害物を検出している際に、自車両の将来位置と、障害物に近い側の車線区分線を基準とした判定閾値(所定の車線幅方向位置)との関係に基づき、制御開始を検出する。このとき、車線区分線を検出中に車線区分線が検出できなくなったと判定すると、車線区分線調整手段は、検出できていた車線区分線位置よりも車線幅方向外側位置に仮想車線区分線を設定し、上記基準とする車線区分線を上記仮想車線区分線に変更する。すなわち、走行中に車線区分線を検出出来なくなった場合には、制御開始を判断する際に基準とする車線区分線を、車幅方向外側にずらす。
【0073】
これによって、走行中に車線区分線を検出出来なくなった場合には、制御開始と判断させにくくする。つまり、制御開始タイミングを遅らせる。この結果、必要以上に制御の開始・終了の発生を防止すると共に、必要な側方障害物に対する支援制御を行う。すなわち、違和感のある制御開始を抑制しつつ、運転者が障害物方向への意図的に操舵した際の制御開始を可能となる。
【0074】
以上によって、車線区分線を検出できない場合があっても、側方障害物に対する支援制御を適切に行うことを可能とする。
ここで、車線区分線を検出している状態では、走行路の車線区分線を検出して障害物に対する自車両の将来位置を判定している。これによって車線区分線を基準とすることで、カーブ路を走行中の操舵であっても適切に障害物側に向かっているか否かを判定可能となる。これによって、カーブ路であっても、側方障害物を回避するための支援制御を適切に行うことが可能となる。
【0075】
(2)車線区分線調整手段は、上記車線区分線が検出できない状態の継続時間が長くなるにつれて、上記仮想車線区分線を車幅方向外方に変位させる。
ここで、車線区分線の認識状況の悪化が続くにつれて、経路情報の確からしさが低下する。また、自車両の進行方向が変わる確率も高くなる。これに鑑み、車線区分線の認識状況の悪化が続くにつれて、制御開始判定がさらに行われにくくする。これによって、運転者にとって違和感のあるタイミングで制御が実施することを、より軽減することが可能となる。
例えば、カーブなど走行路を維持するための操舵を行った際に、不要な制御が入りにくくなり違和感を低減することが可能となる。
【0076】
(3)車線区分線調整手段は、上記仮想車線区分線を車幅方向外方に変位させるオフセット量の上限を、上記車線区分線検出手段によって検出されていた車線区分線の車線幅に基づいて上記車線幅が大きいほど大きな値に制限する。すなわち、仮想車線区分線の最大変化幅を、車線区分線が検出出来なくなる前の車線幅によって推定した走行路の幅に基づいて制限をする。
この結果、車線幅に応じた、運転者にとって近い感覚となるようなタイミングにおいて制御を行うことが可能となる。すなわち、車線区分線間の間隔が広い道路で障害物との間隔が広い状態で走行する場合においても、車線区分線間の間隔が狭い状態で走行する場合においても、その車線幅に応じたタイミングで制御を開始可能となる。
【0077】
(4)車線区分線調整手段は、検出中の車線区分線が検出できなくなったときの車速が低いほど、上記仮想車線区分線を車幅方向外方に変位させる。
車速が低いほど、車両の振れが大きくなって、つまりヨーレートが大きく成りがちとなって、不必要に制御の介入、終了が繰り返される可能性がある。これに対し、制御介入子が高くすることで、不必要な制御の介入を抑えることが可能となる。
すなわち、車速が低く、より小回りな動きが起こり得るような状況においても、運転者にとって違和感のあるタイミングで制御が実施されることを軽減可能となる。
【0078】
(5)回避制御開始検出手段は、判定閾値を、上記車線区分線検出手段によって検出した車線区分線から障害物までの車線幅方向の距離に応じて、当該車線区分線から車線幅方向外側の位置に設定する。
これによって、前方注視時間Tt後に自車両が障害物と干渉があるか否かによって制御開始のタイミングを設定することが出来る。
ここで、車線区分線からの障害物までの実際の横方向距離は、走行シーンによって異なる。
【0079】
(6)車線検出手段によって車線区分線を検出中に車線区分線が検出できなくなったと判定すると、上記車線区分線検出手段によって車線区分線を検出できていたときの車線幅に基づいて、上記車線幅が大きいほど車線幅方向外側に上記判定閾値を設定する。
車線区分線と障害物との距離について、車線区分線が見えなくなった場合に、見えなくなる前の車線区分線幅に基づいて推定した現在の車線区分線幅情報に基づいて、標準的な車線区分線と障害物との距離を設定する。
これによって、障害物がたまたま車線区分線から離れていたような場合においても、標準的な走行位置を走行しているものとみなして、標準的なタイミングでの制御開始を行うことが可能となる。
【0080】
(7)車線区分線調整手段は、少なくとも車線幅方向からみて自車両と障害物とが重なるほど接近すると、自車両と上記判定閾値との間の車線幅方向距離が、自車両と障害物との間の車線幅方向の距離に近づくように補正する。
自車両に対し障害物との縦方向の接近状況が近い際には、自車両と側方障害物の連動性が強くなるような状況となる。これに鑑み、障害物が自車両に接近するような状況に応じて、実際の自車両と障害物との間の車線幅方向の距離に、自車両と上記判定閾値との間の車線幅方向距離が近づくように補正する。
この結果、制御開始タイミング実際の障害物位置に応じた値に近づく。つまり、運転者の感覚にあったタイミングで制御の開始を実施しやすくなって、違和感を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明に基づく実施形態に係る装置の概要構成図である。
【図2】本発明に基づく実施形態に係るコントロールユニットの構成を説明する図である。
【図3】本発明に基づく第1実施形態に係るコントロールユニットの処理を説明する図である。
【図4】自車両と障害物との関係を示す概念図である。
【図5】車線幅Hと最低障害物余裕距離ΔX2obstminとの関係の例を示す図である。
【図6】経過時間(ロスト時間)と位置補正量XOaddとの関係の例を示す図である。
【図7】車線幅HとXOvir_maxとの関係の例を示す図である。
【図8】車線区分線を検出出来ない場合における前方がカーブ路である場合の例を示す図である。
【図9】前方注視点閾値の補正の仕方を説明する図である。
【図10】ゲインK2を説明する図である。
【符号の説明】
【0082】
8 制駆動力コントロールユニット
8A 将来位置予測手段
8B 回避制御開始検出手段
8Ba 車線区分線調整手段
8C 障害物回避制御手段
13 撮像部
19 操舵角センサ
22L/R レーダー装置
CAMLOSTright、CAMLOSTleft 車線区分線フラグ
dDISTobst 相対縦速度
DIST 相対縦位置情報
DISTobst 相対縦位置
Fout 障害物回避制御判断フラグ
H 車線幅
L 前方注視距離
LINE 直線
LTr、LTl ロスト時間
Ms 目標ヨーモーメント
Tt 前方注視時間
X0add 位置補正量
X2obst 障害物距離(判定閾値、所定の車線幅方向位置)
X2obstvir 判定用障害物距離(判定閾値、所定の車線幅方向位置)
Xfront 横変位
XO 障害物距離
XOadd 位置補正量(オフセット量)
上限値XOvir_max 上限値
XOvir 判定用横位置
βfront 曲率
δ 操舵角
ΔO 横方向相対距離
ΔOm 前方注視点閾値
ΔX2obstmin 最低障害物余裕距離
ΔXb 将来予測位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の側方に存在する障害物を検出する障害物検出手段と、
車両周囲の情報を取得して、走行中の車線の車線区分線を検出する車線検出手段と、
運転者の操舵入力を検出する操舵入力検出手段と、
操舵入力手段が検出する操舵量に基づき、所定時間後の自車両の将来位置を予測する将来位置予測手段と、
障害物検出手段が障害物を検出している際に、将来位置予測手段が予測した自車両の将来位置と、上記車線区分線を基準として予め定められた所定の車線幅方向位置との関係に基づき、制御開始を検出する回避制御開始検出手段と、
回避制御開始検出手段が制御開始を検出すると、障害物への接近を防止するように自車両を制御する障害物回避制御手段と、を備え、
上記回避制御開始判定手段は、
上記車線検出手段によって車線区分線を検出中に車線区分線が検出できなくなったと判定すると、上記車線区分線検出手段によって検出できていた車線区分線位置よりも車線幅方向外側位置に仮想車線区分線を設定し、上記所定の車線幅方向位置の基準とする車線区分線を上記仮想車線区分線に変更する車線区分線調整手段を、備えることを特徴とする車両運転支援装置。
【請求項2】
上記車線区分線調整手段は、上記車線区分線が検出できない状態の継続時間が長くなるにつれて、上記仮想車線区分線を車幅方向外方に変位させることを特徴とする請求項1に記載した車両運転支援装置。
【請求項3】
上記車線区分線調整手段は、上記仮想車線区分線を車幅方向外方に変位させるオフセット量の上限を、上記車線区分線検出手段によって検出されていた車線区分線の車線幅に基づいて、上記車線幅が大きいほど大きな値に制限することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した車両運転支援装置。
【請求項4】
上記車線区分線調整手段は、検出中の車線区分線が検出できなくなったときの車速が低いほど、上記仮想車線区分線を車幅方向外方に変位させることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載した車両運転支援装置。
【請求項5】
上記判定閾値は、上記車線区分線検出手段によって検出した車線区分線から障害物までの車線幅方向の距離に応じて、当該車線区分線から車線幅方向外側の位置に設定することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載した車両運転支援装置。
【請求項6】
上記車線検出手段によって車線区分線を検出中に車線区分線が検出できなくなったと判定すると、上記車線区分線検出手段によって車線区分線を検出できていたときの車線幅に基づいて、上記車線幅が大きい程車線幅方向外側に上記所定の車線幅方向位置を設定することを特徴とする請求項5に記載した車両運転支援装置。
【請求項7】
上記車線区分線調整手段は、車線に沿った方向における自車両と障害物との接近状況に基づき、少なくとも車線幅方向からみて自車両と障害物とが重なるほど接近すると、自車両と上記所定の車線幅方向位置との間の車線幅方向距離が、自車両と障害物との間の車線幅方向の距離に近づくように補正することを特徴とする請求項5又は請求項6に記載した車両運転支援装置。
【請求項8】
自車両側方の障害物を検出すると、運転者の操舵入力に基づき所定時間後の自車両の将来位置を予測し、その予測した自車両の将来位置が、上記車線区分線を基準とした所定の車線幅方向位置に到達若しくは当該所定の車線幅方向位置よりも障害物側と判定すると、制御を開始して、障害物への接近を防止するように自車両を制御する際に、障害物に近い側の車線区分線を検出できない若しくは認識精度が悪い場合には、上記制御開始を判定する際に基準とする車線区分線を車線幅方向外側へ変位させることを特徴とする車両運転支援方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−30399(P2010−30399A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−193832(P2008−193832)
【出願日】平成20年7月28日(2008.7.28)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】