説明

車両運転補助方法および改良型関連装置

本発明は、対象物感知検出器を備え、以下のステップを含む車両運転補助方法に関する。これらステップは、検出対象物の運動学的パラメータのフィールドのN個のセルへの分割化に対応する占有グリッドを定義するステップと、各時間kで検出器によって生成された観測値zを取得し、その挙動をモデル化する検出器確率を決定するステップと、先行する時間でのグリッドの推定占有密度を認識し、セルXが時間kで占有状態である確率をもたらす予測占有確率を各セルXに対して計算するステップと、検出器確率および予測占有確率を用意して推定占有確率を各セルXに対して計算するステップであって、時間kで予測占有確率がグリッドの単一のセルが時間k−1で関与するセルXに先行するセルを構成すると仮定して決定されるステップと、各セルXに対して時間kでの推定確率に基づいて衝突確率を評価するステップと、対象物を回避するために信号を発信するステップとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両運転補助の分野に関する。具体的には、本発明は、車両と該車両の周囲の環境に存在する対象物との間の衝突を予想することを可能にする補助機能に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の車両は、起こり得る運転エラーを補うために利用可能な運転補助機能を持つ。例えば、ABS(アンチロックブレーキ装置)機能は、車輪スリップを制限し、したがって制動距離を減少させることを可能にする。これら補助機能の最終目的は道路の危険な状態を緩和することである。
【0003】
この理由により、2台の車両間の安全距離を維持するための機能を開発する試みが行われている。したがって、いくつかの車両はACC(「適応走行制御」)システムを備える。このシステムは、先行する車両の速度および距離を推定するためにレーザまたはカメラを装備する車両の前方の車両を検出する助けとなり、次いで、安全距離を維持するために前記レーザまたはカメラを装備した車両の速度を制御する。
【0004】
しかしながら、ACCシステムは、運転条件が単純なときに、自動車道路だけで用いることができる。
【0005】
したがって、衝突を回避することを可能にし、複雑な周囲の環境、特に都市環境で作動する補助機能についての必要性がある。実際には、後者の場合には、車両は様々な対象物と衝突する可能性があり、これら対象物は、場合によっては傷つき易く、予期できない挙動をする。具体的には、対象物が場面の別の対象物によって一時的に隠される場合がある。例えば、それは駐車車両の後に姿が隠された歩行者であることがある。
【0006】
この問題に対処するために、トラック(通った跡)のリスト(一覧表)を管理することを可能にするマルチトラッキングの方法の研究には注意が向けられており、これらトラックのそれぞれは周囲の環境に存在すると推測される対象物を表す。新しい一連の観測のそれぞれ後で、以下のステップ、新しい観測値を既存のトラックと関連付けるステップと、トラックを作成し、確認し、または削除することによってトラックのリストを修正するステップと、カルマン型フィルタを用いて各トラックの即座の状態を予測するステップと、このトラックの推定状態に到達するために観測値をトラックに関係付けるウインドウを適用するステップとが実行される。
【0007】
しかしながら、このマルチトラックの方法では、信頼性の問題、具体的には、トラックのリストを関連付け修正するステップに悩まされる。さらに、トラックのリストを用いて周囲の環境を表すとき、多量の利用可能な情報が失われる。例えば、マルチトラックの方法は、対象物によって隠されている周囲の環境の領域に関する情報を維持することを不可能にする。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、衝突を予想することを可能にする補助機能を提供することであり、この補助機能は複雑な周囲の環境の中で実行されることができる。本発明の別の目的は、上述の欠点に対処し、具体的には、対象物の隠蔽を考慮することである。本発明が車両の上に効率的に取り付けられるためには、現場の対象物が、場面の所与の場所で対象物の存在に関し可能な限り多くの誤差を制限することによって可能な限り正確に考慮される必要がある。本発明はまた、現場の早い変化を考慮にいれて、ほとんどリアルタイムで実行できなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、添付図面を参照して例示的で非制限的な実施例のために単に与えられる説明から、よりよく理解され、本発明の他の目的、詳細、特徴および利点はよりはっきりと明らかになろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
A−実施形態の概略説明
本発明の運転補助方法は、図1に概略的に示す車両1の中で実行される。
【0011】
よく知られるように、車両1は4個の車輪2a〜2dを備える。前車輪2a、2bは、例えばエンジンによって駆動される。車輪2a〜2dのそれぞれは制動手段3a〜3dを備える。例えば、前車輪2a、2bには油圧式ブレーキが取り付けられ、一方、後車輪2c、2dには電気機械式ブレーキ3c、3dが取り付けられている。
【0012】
車両1は複数の検出器を備える。速度検出器4a〜4dが各車輪2a〜2dに配置される。各速度検出器はそれが取り付けられた車輪の回転速度を測定する。車両1はまた加速度検出器5を備える。個々の検出器は通信ネットワーク(例えば、CANBusタイプ)を介して中央処理ユニット6に届けられる信号を送信する。
【0013】
処理ユニット6は、コンピュータプログラムからの命令を実行することができるプロセッサを有する。処理ユニット6はまた、前記命令および所定のパラメータの恒久的な記憶、または前記プロセッサによって実行された計算結果の一時的な記憶のための記憶手段を有する。処理ユニットはまた、その演算の時間的調節および同期のためのクロックを有する。
【0014】
さらに、処理ユニット6は、個々の検出器から発信される入力信号を受け、アクチュエータに向かって出力制御信号を送信するための入力/出力インターフェースを有する。
【0015】
処理ユニット6は、速度検出器4a〜4dによって出力された個々の信号から車両1の縦方向の速度を計算する。
【0016】
処理ユニット6は、制動管理機能、例えばABS装置(「アンチロックブレーキ装置」)を有することができる。速度を用いて、処理ユニット6は各車輪のスリップを測定する。1個の車輪のスリップが所定の閾値より大きいとき、処理ユニット6は、前記車輪のスリップを低減させるためにブレーキ作動信号を発信する。この付加的な制動は車両運転手によって制御されることがまったくなく、この車両運転手に対してはこの作動はまったく気づかれない。
【0017】
本発明によると、車両1は、対象物の存在を検出するための少なくとも1個の検出器を備える。相異なったタイプの検出器が用いられることができる。例えば、図1に示す検出器10はレーザ遠隔測定器である。この検出器は、90°の合計開き角度φを有する円錐の「視野」、または対応する検出領域において、車両前方約20mの距離pの水平面の中に存在する対象物を検出する助けとなる。この実施形態の変形形態として、この車両の上に取り付けられる検出器は、レーザまたはソナータイプの検出器、あるいは代替的にCCDカメラであってもよい。CCDカメラは、検出器ばかりでなく有用な情報を含む信号を発信する画像前処理電子機器を意味する。例えば、前処理電子機器は、同一の速度で動画化された画像ですべての点を一緒に収集することによって動く対象物の周りのフレームを生成することができる。
【0018】
図1では、車両の前方にある検出領域のための検出器が車両1の前部位置に示す。代替的には、例えば広い見えない領域を有するバス車両の場合、検出器は、バスの後進操作の間または扉を閉める間の補助を行うように配置することができ、次いで、検出領域はバスの後、または代替的にその側面である。
【0019】
別の実施形態では、対象物の存在を検出するための検出器は、横方向に固定して配置することができる。図1に、バス待合所、ガードレール、交通標識または等価物など道路の基幹設備の要素の上に固定することができるこの種の検出器10’を示す。検出器10’には、車両1への検出信号の送信を直接またはリレーを介して行う送信手段が取り付けられている。アンテナ8によって概略的に表されるように、車両1は、受信手段を有し、検出対象物をそれ自体のリファレンシャルに入れることができる。検出器10’に対してその位置および速度を測定するためには、車両1は、場合により局所測位ビーコンを有するGPSタイプの測位手段を備える。
【0020】
レーザ遠隔測定器は指向性ビームを放つソース10aを有する。整数kのインデックスが付けられた約10msのサンプリング周期を有する時間周期で、ビームは開き円錐φを走査する。放たれたビームのエネルギーの一部は車両1の前方の対象物によって反射される。受信機10bが反射されたビームを検出する。検出器10のデータ収集電子機器10cが検出された対象物の距離pおよび角度位置Φを測定する。レーザ遠隔測定器は速度測定は不可能である。そのようなわけで収集電子機器が測定された対象物の距離および角度位置の2個の連続する測定値の間で例えば最近傍アルゴリズムを用いて検出対象物の速度値の推定を可能にする前処理ステップを潜在的に実行することができる。最後に、検出器10は、時間kで測定された対象物の位置および場合により速度の測定値に対応する信号を出力する。
【0021】
車両1のリファレンシャルに対する測定値が得られる。検出器10’など横方向に取り付けられた固定の検出器の場合、対象物の測位データは車両1へ送られ、この車両1は、固定の検出器に対するその位置、速度および加速度に基づいてリファレンシャルの変更によって簡単な方法で検出された対象物の位置を測定することができ、これら動的な値は上述のようにGPS測位システムを用いて得られる。
【0022】
検出器10によって得られた測定値は、通信ラインを介して処理ユニット6の入力部に送信される。次いで、処理ユニット6は、検出器のサンプリング周期に等しい周期、すなわちΔt=10msで本発明のソフトウェア部分からの命令を実行する。
【0023】
これら命令を実行すると、各時間kで、まず対象物によって占有された空間領域の確率を計算し、次に危険度レベルをこの占有された空間領域に関連付けることが可能になる。
【0024】
衝突を回避するためには、危険度レベルに対応する情報が、対象物の存在を運転手に知らせる視覚および/または聴覚の警報の形、あるいは検出された危険を回避することを可能にする目標速度に到達するためのブレーキ作動制御の形で用いられることができる。
【0025】
本発明のソフトウェアの部分は、Δt周期の間、すなわちほぼリアルタイムで完全に実行される必要がある。その結果、制約が、目下利用可能な計算能力を前提として本発明のアルゴリズムにもたらされる。典型的には、処理ユニット6は、2GHzのPentium(登録商標)IV−タイププロセッサおよび100Goの記憶容量が取り付けられる。
【0026】
B−占有グリッドの概念
対象物の存在を決定する空間領域ξは、車両1の前方の長方形の領域に対応する。この2次元領域は、直交座標によって縦方向でXおよび横方向でXのインデックスが付けられる。
【0027】
この空間領域ξはグリッドGをもたらすために走査される。グリッドGは所定の規則的なX方向のピッチΔXおよびX方向のピッチΔXを有するセルに分けられる。したがって、それは、車両の周囲の環境の規則的で静的な、1セットのN個のセルX(X,X)としての分割化である。現在用いられている2次元グリッドは約100000セルを含む。図1の実施形態では、典型的には、そのグリッドのスパンは、X方向で20m、X方向で20mである。図1に示すように、空間領域ξは検出器10によって対象とされる検出領域と正確には重ならない。
【0028】
次いで、占有グリッドが、グリッドの各セルとこのセルが対象物によって占有される確率を表す数を関連付けることによって得られる。
【0029】
次いで、時間とともに実行される一連の観測値z...zを考慮して時間kでのセルXが占有状態E=1である確率が決定されることが望ましい。この占有確率はP(E|z...zx)によって示される。確率理論では従来通り、P(A|B)は所与のBでのAの確率を示す。「観測値z」は、直接的に検出器によって与えられるpおよびΦでの測定値ではなく、むしろセルに関連するこの測定値に対応し、測定値がpおよびφで対象物の存在を示す場合、zは座標pおよびΦに関連するセルXに対して1に等しく、そうでない場合0に等しいことに留意されたい。
【0030】
グリッドのセルの状態Eは、他のセル、具体的には、隣接したセルから独立していると仮定される。この仮定は、セル間の相関関係を減少させることを目指し、したがってグリッドGの1セットのN個のセルXにわたる占有確率の計算を簡素化することを目指す。実際には、それは、単一のセルに対する占有確率の推定を行う計算をN回繰り返すことになる。
【0031】
本発明のアルゴリズムが全体的に並列処理できるような方法でコード化されることが有利である。各プロセッサが、それが表わすグリッドのセルに対する占有確率を計算する並列に作動するN個のプロセッサを有する電気基板によって実行されることができる。
【0032】
本発明のアルゴリズムは、いくつかのモジュールに概略的に分けられることができる。
− 第1のモジュールは検出器の応答をモデル化するものである。「検出器のモデル」は、時間kでのセルXの状態Eを知る観測値Zに対する確率を示す確率の分布P(Z|EX)に基づいている。大文字が、小文字で示された1セットの起こり得る値を取ることができる変数を示すことに留意されたい。変数Aのインスタンス化によって、特定の値aが変数Aによって得られることが理解されよう。
− 第2のモジュールは予測モジュールである。それは、時間k−1でのグリッドの状態を前提として時間kでのセルXの状態Eの予測を行う。
− 第3のモジュールは、時間kでの観測値Zおよび第2のモジュールの出力で得られた予測ステップの結果に基づいて時間kでのセルXの占有確率Eの計算を行う推定モジュールである。
− 最後に、第4のモジュールは、衝突の危険を示す量を占有確率が高いグリッドのセルと関係付け、適切な信号を出力する。
【0033】
C−遠隔測定検出器のモデル化
検出器によって収集された情報は限定された精度を有する。温度、照明、対象物の色など多数の因子が測定値の精度に影響を及ぼす。可能な限り完全に測定値を活用するためには、観測量のノイズを考慮することが重要である。本発明によると、検出器の応答は、バエズ(Bayesian)のプログラムとして特定される確率論的モデルによって説明される。
【0034】
この問題に関係する変数は、観測値Z、セルX、対象物がセルXの中に存在することを示す変数EX、および対象物がセルXの中で検出されたことを示す変数Dである。
【0035】
変数Eと変数Dの論理積により、以下の4つの起こり得る状況を明らかにすることが可能になる。
− [E=1]∧[D=1]では、対象物が、実質的にセルXの中にあり、検出器によって検出されている。
− [E=0]∧[D=0]では、セルは空で、検出器は実質的にその中に何も検出しない。
− [E=1]∧[D=0]では、対象物が、セルXの中にあるが、検出器によって検出されない。それは、例えばセルXが検出器の検出領域の外にあるとき、セルXが別の対象物によって隠されているとき、または検出器が故障のときの場合である。
− [E=0]∧[D=1]では、セルは空であるが、それにもかかわらず検出器はその中に対象物を検出する。
【0036】
これら最後の2つの状況は検出器の故障に相当する。
【0037】
相異なる選択された変数の論理積を表す条件付き確率P(Z,X,E,D)が車両の周囲の環境についての演繹的知識を表すP(X)とP(E|X)に分けられることが有利である。始めに、任意の特定な状況に好都合でないように、これら分布が一様に選択される。しかしながら、以下で説明するように、P(E|X)は、現場の来歴を考慮することを可能にする。
【0038】
確率P(D|EX)は、検出器が目標物を検出できるか、またはできないか、あるいは誤った警報を生成できることを表し、
− P([D=1]|[E=1],X)=P(X)は、検出の確率を表し、
− P([D=0]|[E=1],X)=1−P(X)は、検出器が現存する目標物を検出できない確率を表し、
− P([D=1]|[E=0],X)=PFA(X)は誤った警報の確率を表し、
− P([D=0]|[E=0],X)=1−PFA(X)がある。
【0039】
これらの確率分布は、検出器によって決まり、それが用いられる状態によって決まる。P(X)およびPFA(X)は、検出器および検出される対象物の物理的特性のモデル化から推定することができる。これらはまた、第1の較正ステップの間に検出器の使用の特定の状態で実験を介して「学習」することができる。
【0040】
分布の1群P(Z|D,E,X)に関連する相異なるパラメータの形は、DおよびEの値に従って設定されたまま維持される。
【0041】
P(Z|[D=1][E=0],X)およびP(Z|[D=1][E=1],X)は、検出がセルXの中で行われたことを示す。これは検出器の尤度関数の別の形態である。ほとんどの場合1群の正規分布が用いられる。
P(Z|[D=1]EX)=N(Z,μ(X),Σ(X))
式中Xの所与の値に対して正規分布の平均値μ(X)は、検出器の予測される応答を表す。共分散行列Σ(X)により、予測される応答の周りの検出器の応答の起こり得る変差を表すことが可能になる。このように、これは検出器の精度を表す。検出器のモデルのパラメータは、ガウスの場合では平均値および共分散行列として第2の検出器の較正ステップの間に得られることができる。
【0042】
P(Z|[D=0][E=0],X)は、セルXが空で、このセルの中で何も検出されていないことを示す。これらの情報だけを考慮すると、別のセルの中の観測値Zの値が何であることができるかを言うことは難しい。一様分布が選択される。
【0043】
P(Z|[D=0][E=1],X)は、セルXが対象物によって占有され、何も検出されていないことを示す。対象物がセルXを隠し検出器によって検出されているか、セルXの中に存在する対象物が隠されず、検出されていないかのいずれかである。測定値ZがセルXによって隠された領域の中にある確率は、隠されていない領域の確率と異なることが決定される。
【0044】
モデルのパラメータが与えられると、上述説明は、検出器確率を計算するために用いられることができる。
【0045】
【数1】

【0046】
D−等価の占有グリッドおよび圧縮
本発明の本実施形態では、占有グリッドは空間的グリッドである。したがって、各速度値(2次元)に対して、2次元の占有グリッドが記憶される必要がある。したがって、多量のデータが周囲の環境の正確な表現をもたらし、すなわちその中で対象物を区別するために微細な分割化ピッチで周囲の環境の広い領域を監視するように記憶される必要がある。必要な記憶容量の疑問に加えて、データ処理速度は、リアルタイムのアプリケーションで重要なパラメータである。
【0047】
本発明によると、占有グリッドを表すが減少させられた記憶容量を有するデータ構造が用いられる。
【0048】
始めに、新しい観測値に基づいてセルの占有確率が時間kで更新される方法を説明する。Zをランダム変数と仮定し、起こり得るランダム変数のセットは、起こり得る検出器の測定値のセットに対応する。考慮されるセルxの占有状態Eが与えられると、P(Z|E)をZの条件付き確率分布と仮定する。次いで、結合した分布は、P(Z,E)=P(E)P(Z|E)であり、式中P(E)は占有されたセルxに関する演繹的な値に対応する。
【0049】
新しい測定値zおよびセルxの占有値eに対して、ベイズの公式は次式をもたらす。
【0050】
【数2】

式中、p(z)=p(e=1)p(z|e=1)+p(e=0)p(z|e=0)である。
【0051】
セルxの占有確率の更新は次式に対応する。
【0052】
【数3】

【0053】
占有グリッドを構成するとき、一連の観測値
【0054】
【数4】

がシステムによって検出され、p(e)=p(e|z,z,...,zk−1)が注目される。
【0055】
この更新の連鎖は、周囲の環境に関する情報が演繹的に利用可能でないので、一様に選択された最初の分布とともに用いられる。
【0056】
変数Eは2進数であるので、次の関係式が得られる。p(e=1)=1−p(e=0)。次いで、グリッドの各セルに対してメモリに記憶されることが等価であり、変数qは次式によって定義される。
【0057】
【数5】

【0058】
上の定義の中に数3を入れることによって再帰的関係式が得られる。
【0059】
【数6】

【0060】
変数qの対数が、合計で積を変換するために次の関係式で考慮されることができることが有利である。
【0061】
【数7】

【0062】
次いで、所与のセルに対する変数log(q)の更新、したがって、等価の占有グリッドの更新(この新しいグリッドの各セルはlog(q)の数値を有する)は、各時間のステップで簡単な加法演算である。
【0063】
次いで、変数log(q)の使用は、例えばハールのウェーブレット法を用いてウェーブレット変換を実行することおよび低い重要性の係数を消去することによって等価の占有グリッドを圧縮することが容易であるので、有利である。ウェーブレット変換の概念は、広く文献の中で記載され、科学的および大衆的な著作物の両方の多数の発刊物の主題である。ウェーブレット法で変換された信号の空間はベクトル空間であり、このベクトル空間は、したがって、スカラ量によって加算および乗算の演算によって安定していることが有利であることに留意されたい。さらに、ウェーブレット変換は、データの数に対して線形演算であり、それによって圧縮アルゴリズムの早い実行が確実である。
【0064】
以下のアルゴリズムは、等価の占有グリッドのこのウェーブレット圧縮を実行するために現在推奨されている。
− 時間kで完全な視野に対する検出器からのデータを得るステップと、
− 視野の中に対数のグリッド
【0065】
【数8】

を構成するステップと、
− 検出器の視野の中に完全に含まれる最大ハールスケール関数サポートスクエアcを探索するステップと、
− 前に探索された各スクエアへの関数log(q(x))のウェーブレット変換Wを実行するステップと、
− 各Wを広域のハール占有グリッドに加えるステップと、
− 係数の数が大きすぎる場合、そのノルムが完全な表現のノルムに対して無視できるすべての係数を消去することによって非線形圧縮を実行するステップとである。
【0066】
E−乗算器の場合
観測値の堅牢性を高めるためにいくつかの検出器を用いることが有利である。したがって、各検出器に特有の制限(例えば、レーザ検出器は雨のとき作動が不十分である)を排除すること、検出器の故障への依存を制限すること(同一のタイプのいくつかの検出器を用いることが可能である)、および、特に、情報の冗長を用いることによって周囲の環境の中で対象物の検出の正確さを向上させることが可能である。
【0067】
それぞれが時間kで測定値zを可能にするS個の検出器が用いられるとき、セルの状態が知られ、数個の検出器の観測値が独立していると仮定される。
【0068】
したがって、論理積の確率は次式のように分けられる。
【0069】
【数9】

式中、詳細に上述したように、P(Z|E,X)はi番目の検出器のモデルである。
【0070】
時間kでの一連の観測値Z...Zが与えられると、セルXが占有されている確率は次式となる。
【0071】
【数10】

【0072】
F−占有グリッドおよびベイズのフィルタ
本発明によると、時間kでの占有確率の予測および推定のモジュールは、占有グリッドに適用されるベイズのフィルタの概念を実行する。ベイズのフィルタがシステムの時間の発展の予測を可能にする。その目的は、ここでは、占有グリッドに堅牢性を与えることであり、この堅牢性により、それが危険度評価の際に検出器の故障または対象物の一時的な隠蔽を考慮することを可能にする。
【0073】
大筋では、時間kでのセルの占有確率を再帰的に推定することが望ましい。これは、その目的がセルの占有状態を演繹的に推定することである予測ステップ、およびその目的が演繹的な推定および瞬時の観測値を考慮することによって占有確率を計算することである推定ステップの2つのステップで行われる。
【0074】
考慮される変数は、
− どれが処理されたセルかを特定するX、
− 時間kでのセルXの状態を表すE、および
− 初期時間からの一連の観測値を表すz,...,z=z0:kである。
【0075】
予測ステップに関して、予測の確率は次式で表されることを示す。
【0076】
【数11】

【0077】
【数12】

式中の上記数12は時間k−1でのセルX’の推定遷移確率であり、式中
【0078】
【数13】

は、時間k−1でのシステムの任意の中間状態
【0079】
【数14】

から考慮される状態
【0080】
【数15】

への遷移確率であり、すなわち、それはシステムの動的モデルに対応し、式中合計は起こり得る中間状態のセット
【0081】
【数16】

にわたって計算される。
【0082】
推定ステップに関して、予測の確率が次式で表されることを示す。
【0083】
【数17】

式中に検出器のモデルの確率P(Z|E,X)および時間kでの予測の確率P(E,X|z0:k−1)が現れる。
【0084】
上記式11および17の2つの方程式は予測/推定ループタイプの構造を可能にする。
【0085】
G−速度の次元の非連続分割化
上述は2次元より大きい占有グリッドに容易に置き換え可能である。上述のように空間的次元XおよびXの両方を有する4次元グリッドを構成することが可能であり、この4次元グリッドに2つの速度の次元X’およびX’が加えられる。検出器が検出された対象物の速度の測定値を直接もたらさない場合、この速度は、時間間隔Δtとして対象物の位置の2個の連続した測定値間の検出器のサンプリング時間を取ることによって対象物の空間的位置の変差、例えばX’=Δx/ΔtおよびX’=Δx/Δtから計算することができる。次いで、速度の次元は、X’方向でピッチΔX’およびX’方向でピッチΔX’を有する規則的で連続的な方法で分割化される。
【0086】
速度の空間が連続的な方法で分割化されるこのアプローチは、次の問題を提起する。空間的グリッドが本明細書で「速度の面」として参照される速度の値X’(X’10およびX’20)に関連することを考慮する。時間k−1で対象物によって占有されるこの速度の面のセルを考慮する。速度X’が、時間間隔Δtによって割られた空間的分割化ピッチΔXの整数の倍数に対応しない場合、時間kで対象物は、速度の面のただ1つのセルを占有せずに、1セットのセルにまで及ぶ。ここで対象物が及ぶグリッドのセルは、占有されていると考えられる。次の時間間隔で、これらの占有されたセルは、広められ、さらに占有されたセルのボリュームを増加させる。したがって、グリッドの状態の誤差は、本質的に分割化により、予測ステップの間に増幅される。分割化の誤差は、増大し、観測段階によってのみ減少させられる。
【0087】
本発明によると、始めに、2次元の直交座標空間が連続的に分割化され、次いで、第二に、起こり得る速度の面の数が制限される。分割化ピッチΔxおよびΔxならびにサンプリング間隔Δtに応じて、pおよびqが整数のセットに属する状態で、X’=p/n(Δx/Δt)およびX’=q/n(Δx/Δt)によってその速度が表される速度の面だけが考慮される。
【0088】
したがって、認められる移動は、サンプリング間隔Δtの数nの倍数でセルを別のセルに正確に移動する移動である。速度の面が、速度を定義する三重項(p,q,n)と関連する2次元の空間的グリッドである。
【0089】
実際には、分割化され、連続的ではない速度の空間が得られる。次いで、予測占有確率の決定に介在する一連のセルにわたり積分を計算するために、一定の速度が仮定される。この仮定によると、2つの連続する時間の間で対象物の速度は一定であり、1つ速度の面から別の速度の面に遷移する確率はゼロである。すなわち、速度の面X’(p/n(Δx/Δt),q/n(Δx/Δt))のセルXk−n(X,X)が時間k−nで占有されている場合、セルX(X+p/nΔx,X+q/nΔx)が時間kで占有されている。
【0090】
反対に、セルXの予測占有確率が各起こり得る速度の面(p,q,n)に対して計算されるとき、セルXに先行するセルXk−nの時間k−nでの推定占有確率だけが計算の中に介在する。
【0091】
各観測時間で因子1/nが周波数1/nだけに対して速度の面(p,q,n)を考慮することを可能にすることが有利である。したがって、低速度の面に対して、積分計算が低周波数に対してだけ行われる。他方では、高速度の対象物がある面は、この対象物の挙動の早い展開を考慮するためにより高い周波数で観察される。
【0092】
本発明は次のように実行される。
【0093】
始めに、典型的な中央セルXの周りの空間的領域(2D)が範囲を定められる。
【0094】
時間ステップの最大数nmaxが定義される。この領域のセルのセットは、1,2,...nmax時間ステップの中で中央セルXに到達することができるセルである。
【0095】
(p/n(Δx/Δt),q/n(Δx/Δt))によって示される、この領域のセルの1個を最大限でもnmax時間ステップで中央セルXに向かって広めることを可能にする起こり得る速度Vのセットが決定される。
【0096】
次いで、セットVは、セルがn時間ステップで中央セルに到達することを可能にする速度のサブセットに分けられる。
【0097】
【数18】

式中、Vfi={υ=(p,q,n)∈V|n=i}である。
【0098】
その後、2次元空間的グリッドG(p,q)は、Vfiの1つに属する各要素(p,q,i)と関連付けられる。次いで、このグリッドのセル(l,m)に先行するのが、セル(l−p,m−q)である。
【0099】
各繰返しに対して1ユニットだけ値が増加される時間ステップインデックスが与えられると、カウンタkがゼロと2およびnmaxの最小公倍数に対応する値の間で展開する(実際には、最小公倍数は、これが1セットの相互にインターリーブされたループであるので、考慮される必要がある)。このプロセスの始めに、カウンタは、ゼロ、すなわちセルの占有確率にインスタンス化される。
【0100】
次いで、1からnmaxに進むiに対して、
kがiを法として0に等しい場合、サブセットVfiの各占有グリッドG(p,q)に対して以下のステップが実行される。
− どれが考慮されるセルに先行するセルかを決定するステップと、
− 考察されるセルに対する予測占有確率の値として前記先行するセルに対するG(p,q)によって与えられる推定占有確率を属性化するステップと(上述数2の方程式)、
− この時間ステップで観測値を考慮して予測占有確率および検出器確率から推定される占有確率を決定することによってグリッドを更新するステップと、
− 1ユニットだけkを増加させ、ループの始めに戻るステップとを含む。
【0101】
H−複数の目的物の場合
先行する説明では、車両の周囲の環境の中に存在する単一の対象物の場合だけが具体的に説明された。複雑な周囲の環境の場合には、この環境の中のいくつかの対象物の存在を考慮することが必要である。
【0102】
いくつかの対象物が検出されたとき、検出器は、時間kでO(オー)個の観測値z,z,...zを実行する。
【0103】
次いで、連関の変数として知られる変数Mが導入される。Mは0とO(オー)の間の整数である。M=0である場合、観測値はセルXの占有確率を更新するために用いられない。しかし、M=iの場合、i番目の観測値がセルXの占有確率を更新するために用いられる。
【0104】
論理積の確率は次式のように分けられる。
【0105】
【数19】

式中変数Mは、状態Eおよび考慮されるセルX、P(M|Ex X)=P(M)から独立しており、簡略化が、考慮されるセルの状態を前提として相異なった観測値zの相互条件付き独立性を仮定することによって行われている。
【0106】
観測値zに対して、Mがiに等しい場合、考慮されるべき確率分布は上で得られた検出器のモデルであるが、Mがiと異なる場合、一様分布(U)が選択される。
【0107】
本アプリケーションでは、変数Mを用いて書かれるP(E|z...z x)を決定することが望ましい。
【0108】
【数20】

【0109】
この関係式は、静的な関係式であり、初期時間0と現在時間kの間の1セットの変数にわたって上述した推定/予測ループを導入することによって動的にされる。具体的には、時間のインデックスが付いた関連の変数Mは、状態の推定とともに時間kで行われるO(オー)個の観測値の1個に連関が可能になる。
【0110】
このモデル化では、予測方程式が上述と同じままであるが、推測関係式は次式となる。
【0111】
【数21】

【0112】
対象物を回避するためには、セルPの占有確率(EX|Z)の計算が衝突危険確率P(D|EX)と結合される必要がある。この衝突危険は、時間対衝突の判断基準を用いて計算される。次いで、車両の速度の調整が可能になる。
【0113】
本発明は、特定の実施形態を参照して上述されたが、この実施形態に限定されることがなく、本発明の範囲の中にある説明した手段およびそれらの組合せのすべての技術的均等物を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明の車載の運転補助装置を有する車両の概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出区域の中で少なくとも1個の対象物の存在を示す出力信号を送信することができる少なくとも1個の検出器を備える車両の運転を補助するための方法において、前記方法が、
− 前記車両に対する前記対象物の運動学的パラメータの空間のセルへ分割化されるグリッドを定義するステップ、
および、各サンプリング時間kで:
− 前記検出器の前記出力信号から観測値zを決定するステップと;
および、前記グリッドの各セルxに対して:
− 前記観測値zから前記検出器の反応をモデル化する検出器確率P(z|EX)の値を決定するステップと、
前記観測値zが与えられると前記セルxが時間kで状態Eである確率P(EX|z0:k=z...z)に基づいて時間kで推定占有値を計算するステップであって、時間kでの前記推定占有値を、前記検出器確率P(z|EX)および時間kでの予測占有値P(EX|z0:k−1=z...zk−1)によって決めるステップと、
初期時間0から時間k−1の前記観測値を考慮することによって考慮されるセルxが時間kで状態Eである確率に基づいて時間kで前記予測占有値P(EX|z0:k−1=z...zk−1)を決定するステップであって、前記予測占有値が時間kで次式の関係式によって決定され、
【数1】

式中、任意のセルから前記考慮されるセルへの遷移の確率が前記考慮されるセルに前記先行するセルだけに対してゼロではないことを考慮して前記グリッドのセルX’のそれぞれに対して時間k−1での推定占有確率が介在するステップと、
前記グリッドの各セルに対して時間kで前記推定占有値から衝突危険確率を評価するステップと、
前記検出対象物を回避するために前記グリッドの前記セルの前記衝突危険確率に基づいてアクチュエータに制御信号を出力するステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記占有値が前記占有確率に等しいことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記占有値が圧縮変換値と互換性があることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記セルの前記占有確率によって決まる第1の量を前記グリッドの各セルと関連付ける占有グリッドが定義され、圧縮変換が前記占有グリッドの等価表現を得るために前記占有グリッドに適用され、前記占有値が前記占有グリッドの前記等価表現に関連する第2の占有値であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
時間kでの第1の推定占有値が、考慮されるセルが占有されている時間kでの前記推定占有確率と前記考慮されるセルが空である時間kでの前記推定占有確率の比の対数であることを特徴とする、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記グリッドが10000000より多いセルを備えることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記グリッドが、所定のピッチでの前記対象物の位置の空間の分割化によって得られる空間的グリッドであり、前記方法が1セットの起こり得る速度を決定する追加のステップを含み、前記起こり得る速度が前記グリッドの1個のセルから前記グリッドの別のセルに有限数nのサンプリングステップで正確に移動することを可能にすることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
空間的グリッドが前記起こり得る速度のそれぞれ1つと関連付けられ、前記方法の前記ステップが他から分離して取られた各グリッドに対して実行され、前記検出対象物の一定の速度が仮定されていることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記空間的グリッドが1000000より多いセルを備えることを特徴とする、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記サンプリング周期が10msより小さいことを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載の運転補助方法を実行することができる手段を備えることを特徴とする、車両の運転を補助するための装置。
【請求項12】
N個のプロセッサを備え、Nが前記グリッドのセルの数であり、各プロセッサが他のプロセッサと並列に作動し、各サンプリング時間kでそれが表すセルXの推定占有値を計算することを特徴とする、請求項11に記載の装置。

【図1】
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【公表番号】特表2009−508199(P2009−508199A)
【公表日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−529671(P2008−529671)
【出願日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【国際出願番号】PCT/FR2006/050860
【国際公開番号】WO2007/028932
【国際公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(508072844)
【出願人】(508073829)
【Fターム(参考)】