説明

車線逸脱防止装置

【課題】運転者の意識に応じた適切な操舵トルクを発生する車線逸脱防止装置を提供する。
【解決手段】自車両の走行車線からの逸脱を防止するよう操舵機構に操舵トルクを付与する車線逸脱防止装置を、自車両前方の環境情報を取得して自車両の走行車線を設定する車線設定手段110と、運転者の操舵操作による入力トルクを検出する入力トルク検出手段140と、走行車線からの自車両の逸脱傾向を判定する逸脱判定手段130と、逸脱判定手段が逸脱傾向を判定した場合に、逸脱を防止する方向へ入力トルクに応じた操舵トルクを前記操舵機構に付与する操舵制御手段170とを備える構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両に設けられ走行車線からの逸脱傾向に応じて操舵トルクを発生する車線逸脱防止装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車線逸脱防止装置は、ステレオカメラ等の環境認識手段により自車両の走行車線を認識し、自車両の走行車線からの逸脱傾向を判定した際に警報を発生したり、逸脱を回避するよう車両を操向するものである。
例えば、特許文献1には、自車両の走行車線端の区切り線を基準とした警報領域に車輪が入った場合に、ステアリングホイールやシートに組み込まれた振動アクチュエータを有する警報手段を作動させる車線逸脱警報装置が記載されている。
また、特許文献2には、自車両が走行車線から逸脱する傾向がある場合、路面カントに応じた制御開始タイミングで逸脱回避方向へのヨーモーメントを発生させる車線逸脱防止装置が記載されている。
【特許文献1】特開2007−249498号公報
【特許文献2】特開2005−145336号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述した車線逸脱防止装置において、例えば障害物の回避等のため、運転者が意図的に車線を逸脱する操舵操作を行った場合にも通常と同様の操舵トルクを発生させた場合、運転者の操作と干渉し、煩わしい感覚を与えることになる。
これに対し、運転者の運転に対する意識が低く、運転者が逸脱を意識していない可能性が高い場合には、より高い操舵トルクを発生させて運転者の注意を喚起することが望ましい。
本発明の課題は、運転者の意識に応じた適切な操舵トルクを発生する車線逸脱防止装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、以下のような解決手段により、上述した課題を解決する。
請求項1の発明は、自車両の走行車線からの逸脱を防止するよう操舵機構に操舵トルクを付与する車線逸脱防止装置において、自車両前方の環境情報を取得して自車両の走行車線を設定する車線設定手段と、運転者の操舵操作による入力トルクを検出する入力トルク検出手段と、前記走行車線からの自車両の逸脱傾向を判定する逸脱判定手段と、前記逸脱判定手段が前記逸脱傾向を判定した場合に、逸脱を防止する方向へ前記入力トルクに応じた前記操舵トルクを前記操舵機構に付与する操舵制御手段とを備えることを特徴とする車線逸脱防止装置である。
【0005】
請求項2の発明は、運転者の操舵による操舵角を検出する操舵角検出手段を備え、前記操舵制御手段は、前記操舵トルクを付与した際の前記操舵角の変位量に応じて該操舵トルクを補正することを特徴とする請求項1に記載の車線逸脱防止装置である。
請求項3の発明は、運転者の顔の向き、視線の向きの少なくとも一方に基づいて運転者の注目方向を検出する運転者注目方向検出手段と、自車進行路を推定する自車進行路推定手段とを備え、前記操舵制御手段は、前記注目方向の前記自車進行路からのずれ量に応じて前記操舵トルクを増加させることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車線逸脱防止装置である。
請求項4の発明は、前記操舵制御手段による前記操舵トルクはパルス状であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の車線逸脱防止装置である。
なお、ここでパルス状の操舵トルクは、単一パルス、連続パルスのどちらであってもよく、さらに、操舵トルクの波形も矩形波、正弦波、その他の波形等特に限定されない。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)逸脱傾向の判定時に付与される操舵トルクの大きさを入力トルクに応じて設定し、入力トルクが大きい場合には運転者の運転に対する意識が高く、意図的に逸脱方向への操舵を行っているものと推定して操舵トルクを小さく設定することによって、運転者の操舵操作との干渉を低減し、煩わしさを解消することができる。
これに対し、入力トルクが小さい場合には運転者の運転に対する意識が低く、運転者が逸脱傾向に気付いていない可能性が高いと推定して操舵トルクを大きく設定することによって、運転者に逸脱傾向を確実に認識させ、車線逸脱を防止することができる。
(2)操舵トルクを付与した際の操舵角の変位量が大きい場合には、運転者による保舵力が小さく運転に対する意識が低いものとして、操舵トルクを大きくして運転者に逸脱傾向をより確実に認識させることができる。
(3)運転者の注目方向の自車進行路からのずれ量に応じて操舵トルクを増加させることによって、運転者がよそ見等をしている場合に運転者に逸脱傾向をより確実に認識させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、運転者の意識に応じた適切な操舵トルクを発生する車線逸脱防止装置を提供する課題を、逸脱傾向の判定時に運転者からの入力トルクを検出するトルクセンサ出力値の増加に応じて、操舵機構に付与するパルス状の操舵トルクを低減することによって解決した。
【実施例】
【0008】
以下、本発明を適用した車線逸脱防止装置の実施例について説明する。実施例の車線逸脱防止装置は、例えば、前二輪を操舵する乗用車等の四輪自動車に備えられる。
図1は、実施例の車線逸脱防止装置を備えた車両のシステム構成を示す図である。
車線逸脱防止装置は、自車両の走行車線からの逸脱傾向が判定された場合に、運転者に逸脱を警報しかつ車両を車線中央方向へ戻すため、操舵機構10にパルス状の操舵トルク(操舵力)を付与するものである。
操舵機構10は、前輪FWを支持するハウジングHを所定の操向軸線(キングピン)回りに回転させて操舵を行うものである。
【0009】
操舵機構10は、ステアリングホイール11、ステアリングシャフト12、ステアリングギアボックス13、タイロッド14等を備えて構成されている。
ステアリングホイール11は、運転者が操舵操作を入力する環状の操作部材である。
ステアリングシャフト12は、ステアリングホイール11の回転をステアリングギアボックス13に伝達する回転軸である。
ステアリングギアボックス13は、ステアリングシャフト12の回転運動を車幅方向の直進運動に変換するラックアンドピニオン機構を備えている。
タイロッド14は、一方の端部をステアリングギアボックス13のラックに連結され、他方の端部をハウジングHのナックルアームに連結された軸状の部材である。タイロッド14は、ハウジングHのナックルアームを押し引きすることによってハウジングを回転させ、操舵を行う。
【0010】
また、車両は、電動パワーステアリング(EPS)制御ユニット20、操安制御ユニット30、エンジン制御ユニット40、トランスミッション制御ユニット50、車両統合ユニット60等を備えている。
【0011】
EPS制御ユニット20は、運転者の操舵操作に応じて操舵アシスト力を発生する電動パワーステアリング装置を統括的に制御するものである。EPS制御ユニット20には、電動アクチュエータ21、舵角センサ22、トルクセンサ23等が接続されている。
電動アクチュエータ21は、例えば、ステアリングシャフト12の途中に設けられ、減速機構を介して操舵機構10に対して操舵トルク(操舵力)を付与する電動モータである。
舵角センサ22は、ステアリングシャフト12の角度位置(ステアリングホイール11の角度位置と実質的に等しい)を検出するエンコーダを備えている。
トルクセンサ23は、電動アクチュエータ21とステアリングホイール11との間でステアリングシャフト12に挿入され、ステアリングシャフト12に作用するトルクを検出するものである。通常、トルクセンサ23が検出するトルクは、運転者がステアリングホイール11に入力する操舵トルクと実質的に等しくなる。
【0012】
操安制御ユニット30は、各車輪のブレーキの制動力を個別に制御する車両操安性制御及びABS制御を行うものである。車両操安性制御は、アンダーステア又はオーバーステアの発生時に、旋回内輪側と外輪側の制動力を異ならせて復元方向のヨーモーメントを発生させるものである。ABS制御(アンチロックブレーキ制御)は、車輪のロック傾向を検出した際に、当該車輪の制動力を低減して回復させるものである。
操安制御ユニット30には、ハイドロリックコントロールユニット(HCU)31、車速センサ32、ヨーレートセンサ33、横加速度(横G)センサ34等が接続されている。
【0013】
HCU31は、各車輪の液圧式サービスブレーキに付与されるブレーキフルード液圧を個別に制御する装置である。HCU31は、ブレーキフルードを加圧するモータポンプ、及び、各車輪のキャリパシリンダへ付与される圧力を調整するソレノイドバルブ等を備えている。
車速センサ32は、各車輪のハブベアリングハウジングを保持するハウジングに設けられ、車輪速に応じた車速パルス信号を出力する。この車速パルス信号は、所定の処理を施すことによって、車両の走行速度を求めることができる。
ヨーレートセンサ33及び横Gセンサ34は、車体の鉛直軸回りの回転速度及び横方向の加速度をそれぞれ検出するMEMSセンサを備えている。
【0014】
エンジン制御ユニット40は、車両の走行用動力源であるエンジン及びその補器類を統括的に制御するものである。
トランスミッション制御ユニット50は、エンジンの出力を変速して前後のディファレンシャルへ伝達するオートマティックトランスミッションを統括的に制御するものである。
車両統合ユニット60は、上記各ユニットに関連する以外の車両の電装品を統括的に制御するものである。
【0015】
また、実施例の車線逸脱防止装置は、以下説明する逸脱防止制御ユニット100を備えている。
逸脱防止制御ユニット100は、上述したEPS制御ユニット20、操安制御ユニット30、エンジン制御ユニット40、TM制御ユニット50、車両統合ユニット60と、例えばCAN通信システム等の車載LANを介して接続され、各種情報や信号を取得可能となっている。
また、逸脱防止制御ユニット100は、車線設定手段110、自車進行路推定推断120、逸脱判定手段130、入力トルク検出手段140、操舵角検出手段150、注目方向検出手段160、操舵制御手段170等を備えて構成されている。なお、これらの各手段は、それぞれ独立したハードウェアとして構成されてもよく、また、一部又は全部を共通したハードウェアとした構成としてもよい。
【0016】
車線設定手段110は、自車両前方を撮像した画像情報に基づいて、自車両前方の環境を認識し、自車両の走行車線を設定するものである。
図2は、自車両、走行車線、及び、自車進行路の平面的配置の一例を示す図である。実施例の車線逸脱防止装置は、一対の白線Lに挟まれた自車両の走行車線から、自車両の推定進行路が逸脱した場合に、車線中央側へ自車両を戻す方向にパルス状の操舵トルクを発生させて運転者に注意を促すものである。
図1に示すように、車線設定手段110は、ステレオカメラ111、画像処理部112等が接続されている。
【0017】
ステレオカメラ111は、例えば車両のフロントウインドウ上端部のルームミラー基部付近に設けられた一対のメインカメラ及びサブカメラを備えている。メインカメラ及びサブカメラは、それぞれCCDカメラを有して構成されている。メインカメラ及びサブカメラは、車幅方向に離間して設置されている。メインカメラ及びサブカメラは、それぞれ基準画像及び比較画像を撮像し、これらに係る画像データを画像処理部112に出力する。
画像処理部112は、ステレオカメラ111が出力した基準画像及び比較画像の画像データをA/D変換した後、所定の画像処理を施して車線設定手段110に出力するものである。この画像処理には、例えば、各カメラの取付位置誤差の補正や、ノイズ除去、階調の適切化などが含まれる。デジタル化された画像は、例えば、垂直方向及び水平方向にマトリクス状に配列された複数の画素を有する。これらの各画素は、それぞれ被写体の明るさに応じた輝度値を有する。
【0018】
車線設定手段110は、基準画像及び比較画像のデータに基づいて、基準画像上の任意の画素又は複数の画素からなるブロックである画素群の視差を検出する。この視差は、ある画素又は画素群の基準画像上の位置と比較画像上の位置とのずれ量である。この視差を用いると、三角測量の原理により、自車両から当該画素に対応する被写体までの距離を算出することができる。
【0019】
車線設定手段110は、自車両前方の車線両端部に配置された白線の形状を認識することによって、自車両の走行車線を設定する。なお、本明細書、特許請求の範囲等において、白線とは、車線の幅方向における端部に引かれた連続線又は破線を示すものとし、実際の色彩が白色以外(例えば燈色など)の線も含むものとする。
車線設定手段110は、基準画像のデータから、路面上に相当する箇所の各画素の輝度データに基づいて白線L部分を検出する。自車両に対する白線L部分の画素群の方位は、画像データ上の画素位置に基づいて検出される。具体的には、垂直方向における画素位置が路面上に相当する領域を水平方向に走査し、輝度値が急変する箇所を車線の輪郭として認識する。そして、上述した視差を用いて当該白線部分の画素群の距離を算出することによって、白線の位置を検出する。
そして、車線設定手段110は、白線位置の検出を連続的に行なって車両の進行方向に複数の車線候補点を設定し、整合のとれない車線候補点を無視するとともに、車線候補点を設定できなかった領域は所定の補完処理を行うことによって、自車両前方の車線形状を認識する。
【0020】
自車進行路推定手段120は、車線設定手段110からの情報、舵角センサ22、車速センサ32、ヨーレートセンサ33等によって検出される車両の走行状態、及び、既知の車両諸元等に基づいて、自車両の進行路を推定するものである。
自車進行路の推定は、例えば、車両前方の所定の距離である注視距離Zにおける自車両の横位置を算出する。注視距離Zは、自車両前方の所定の距離であって、例えば自車両が数秒後(例えば約2秒程度)に到達する位置に設定される。
自車両の重心位置を原点とし、車幅方向へ延びるX軸、及び、車体前方側へ延びるZ軸を有する座標系を用いて以下説明する。
注視距離Zにおける自車進行路の横位置Xeは、以下の式1によって求められる。
【数1】

【0021】
逸脱判定手段130は、自車進行路推定手段120を用いて、車線設定手段110が設定した走行車線からの自車両の逸脱傾向を判定するものである。
逸脱判定手段130は、自車進行路推定手段120が推定した注視距離Zにおける自車両の横位置Xeに基づいて求めた自車両側端部位置が、車線設定手段110が設定した車線から逸脱する場合に逸脱判定を成立させる。
【0022】
入力トルク検出手段140は、EPS制御ユニット20とCAN通信してトルクセンサ23の出力値を取得する。入力トルク検出手段140は、トルクセンサ23の出力値に基づいて、運転者がステアリングホイール11に対して入力した操舵操作の入力トルクを検出する。
【0023】
操舵角検出手段150は、EPS制御ユニット20とCAN通信して舵角センサ22の出力値を取得する。操舵角検出手段150は、舵角センサ22の出力値に基づいて、操舵機構10における操舵角(ステアリングホイール11の回転角度)を検出する。
【0024】
注目方向検出手段160は、運転者の顔を撮像し、画像処理することによって、運転者の視線の向きを注目方向として検出するものである。注目方向検出手段160は、例えばステアリングコラムの上部に設けられた運転者カメラ161を備えている。
注目方向検出手段160は、運転者カメラ161によって撮像された画像から、運転者の顔面に対する瞳孔位置の動きを抽出し、これに基づいて注目方向を検出する。
【0025】
操舵制御手段170は、車線設定手段110、自車進行路推定手段120、逸脱判定手段130、入力トルク検出手段140、操舵角検出手段150、注目方向検出手段160等を用いて、車線逸脱判定の成立時にEPS制御ユニット20を介して電動アクチュエータ21にパルス状の出力操舵トルクを発生させるものである。また、操舵制御手段170は、電動アクチュエータ21によって発生する出力操舵トルクを設定する機能を備えている。
この出力操舵トルクの設定及び発生時の動作について、以下詳しく説明する。
【0026】
図3は、車両逸脱防止制御における操舵トルクの設定及び発生時の動作を示すフローチャートである。以下、ステップ毎に順を追って説明する。
<ステップS01:逸脱判定判断>
操舵制御手段170は、逸脱判定手段130における逸脱判定が成立したか否かを判断し、逸脱判定が成立した場合はステップS02に進み、その他の場合は処理を終了(リターン)する。
【0027】
<ステップS02:入力トルク検出>
操舵制御手段170は、入力トルク検出手段140から現在の入力トルクに関する情報を取得し、ステップS03に進む。
<ステップS03:運転者注目方向検出>
操舵制御手段170は、注目方向検出手段170から現在の運転者の注目方向に関する情報を取得し、ステップS04に進む。
【0028】
<ステップS04:出力操舵トルク設定>
操舵制御手段170は、出力操舵トルクを設定する。
先ず、操舵制御手段170は、ステップS02において検出した入力トルクに基づいて、出力操舵トルクの基礎値を設定する。
図4は、入力トルクと出力操舵トルクの基礎値との相関を示すグラフである。図4において、横軸は入力トルク(トルクセンサ22の出力値)Strqを示し、縦軸は出力操舵トルクqを示している。
図4に示すように、出力操舵トルクqは、入力トルクStrqの増大に応じてほぼ反比例的に減少するように設定されている。なお、入力トルクStrqが微小な領域では、出力操舵トルクqは所定の上限値(一定値)となるようにガードされている。
また、操舵制御手段170は、上述した出力操舵トルクqの基礎値を、運転者の着目方向に基づいて補正する。具体的には、運転者の着目方向と所定の注視距離における自車進行路の方向とを比較し、このずれが所定の閾値以上である場合に、出力操舵トルクqを増大させる補正を行う。
その後、ステップS05に進む。
【0029】
<ステップS05:操舵トルク発生>
操舵制御手段170は、EPS制御ユニット20に指示を出し、電動アクチュエータ21を駆動させて操舵機構にパルス状の操舵トルクを付与する。
図5は、操舵トルクの出力波形を示すグラフである。図5(a)は入力トルクが比較的大きい場合を示し、図5(b)は入力トルクが比較的小さい場合を示している。
操舵トルクの出力波形は、例えば、出力されている時間が約100msec程度のパルス状の矩形波となっている。そして、図5(a)及び図5(b)に示すように、入力トルクの増大に応じて、操舵トルクは減少するよう設定される。
なお、図3に示すフローは繰り返し実施されることから、パルス状の操舵トルクは、逸脱判定が成立する限り、繰り返し出力される。
その後、ステップS06に進む。
【0030】
<ステップS06:操舵角変化検出>
操舵制御手段170は、ステップS05において操舵機構10に操舵トルクを付与した際の操舵角の変化に関する情報を操舵角検出手段150から取得する。このときの操舵角の変化は、運転者によるステアリングホイール11の保舵状態が良好な場合には比較的少ないが、例えば意識の低下や居眠り等により保舵状態が低下した場合には比較的大きくなると考えられる。
その後、ステップS07に進む。
【0031】
<ステップS07:出力操舵トルク設定値補正>
操舵制御手段170は、ステップS06において検出された操舵トルク付与後の操舵角変化が所定の閾値以上であった場合には、保舵状態が低く運転者の運転に対する意識が低いものとして、逸脱をより確実に認識させるため、次回の操舵トルク付与時における出力操舵トルク設定値を増加する補正を行い、処理を終了(リターン)する。
これによって、逸脱判定が成立し続けた場合には、次回のパルス状の操舵トルクの付与時には、前回よりも大きい操舵トルクが操舵機構10に付与される。
【0032】
以上説明した実施例によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)逸脱判定手段130による逸脱傾向の判定時に、操舵機構10に付与される操舵トルクの大きさを、ステアリングホイール11への入力トルクに応じて設定し、入力トルクが大きい場合には運転者の運転に対する意識が高く、意図的に逸脱方向への操舵を行っているものと推定して出力操舵トルクを小さく設定することによって、運転者の操舵操作との干渉を低減し、煩わしさを解消することができる。これに対し、入力トルクが小さい場合には運転者の運転に対する意識が低く、運転者が逸脱傾向に気付いていない可能性が高いと推定して出力操舵トルクを大きく設定することによって、運転者に逸脱傾向を確実に認識させ、車線逸脱を防止することができる。
(2)電動アクチュエータ21により操舵機構10に操舵トルクを付与した際の操舵角の変位量が大きい場合には、運転者による保舵力が小さく運転に対する意識が低いものとして、次回以降の出力操舵トルクを大きくして運転者に逸脱傾向をより確実に認識させることができる。
(3)運転者の注目方向の自車進行路からのずれ量に応じて出力操舵トルクを増加させることによって、運転者がよそ見等をしている場合に運転者に逸脱傾向をより確実に認識させることができる。
【0033】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施例に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)実施例ではステレオカメラによって環境認識を行う構成としたが、本発明はこれに限らず、例えば自車両の走行車線に関する情報を、例えばナビゲーション装置用として準備された地図データ及びGPS等の測位装置から取得する構成としてもよい。
(2)操舵機構に操舵トルクを付与するアクチュエータの構成は、実施例のようなコラムアシストタイプのものに限らず、例えば、ステアリングシャフトに接続されたピニオンと独立したピニオンを駆動するダブルピニオンタイプや、ステアリングラック自体を直進方向に駆動するラック直動タイプであってもよい。
(3)実施例の注目方向検出手段は運転者の視線の向きを検出するものであるが、これに限らず、運転者の顔の向きを検出してこれを注目方向として用いてもよい。
(4)実施例の逸脱判定手段は、自車進行路を推定し、この自車進行路が自車両の前方で車線から逸脱する場合に逸脱判定を成立させているが、これに限らず、他の手法によって逸脱判定を行ってもよい。例えば、現在の自車両の車線内横位置が所定の逸脱判定範囲に入った場合に逸脱判定を成立させるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明を適用した車線逸脱防止装置の実施例を備える車両のシステム構成を示す図である。
【図2】自車両、走行車線、及び、自車進行路の平面的配置の一例を示す図である。
【図3】図1の車線逸脱防止装置の車両逸脱防止制御における操舵トルクの設定及び発生時の動作を示すフローチャートである。
【図4】図1の車線逸脱防止装置における入力トルクと出力操舵トルクの基礎値との相関を示すグラフである。
【図5】図1の車線逸脱防止装置におけるパルス状の操舵トルクの出力波形を示すグラフである。
【符号の説明】
【0035】
10 操舵機構 11 ステアリングホイール
12 ステアリングシャフト 13 ステアリングギアボックス
14 タイロッド FW 前輪
H ハウジング
20 電動パワーステアリング(EPS)制御装置
21 電動アクチュエータ 22 舵角センサ
23 トルクセンサ 30 操安制御ユニット
31 ハイドロリックコントロールユニット(HCU)
32 車速センサ 33 ヨーレートセンサ
34 横加速度(横G)センサ 40 エンジン制御ユニット
50 トランスミッション制御ユニット
60 車両統合ユニット
100 逸脱防止制御ユニット 110 車線設定手段
120 自車進行路推定手段 130 逸脱判定手段
140 入力トルク検出手段 150 操舵角検出手段
160 注目方向検出手段 161 運転者カメラ
170 操舵制御手段
OV 自車両 L 白線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の走行車線からの逸脱を防止するよう操舵機構に操舵トルクを付与する車線逸脱防止装置において、
自車両前方の環境情報を取得して自車両の走行車線を設定する車線設定手段と、
運転者の操舵操作による入力トルクを検出する入力トルク検出手段と、
前記走行車線からの自車両の逸脱傾向を判定する逸脱判定手段と、
前記逸脱判定手段が前記逸脱傾向を判定した場合に、逸脱を防止する方向へ前記入力トルクに応じた前記操舵トルクを前記操舵機構に付与する操舵制御手段と
を備えることを特徴とする車線逸脱防止装置。
【請求項2】
運転者の操舵による操舵角を検出する操舵角検出手段を備え、
前記操舵制御手段は、前記操舵トルクを付与した際の前記操舵角の変位量に応じて該操舵トルクを補正すること
を特徴とする請求項1に記載の車線逸脱防止装置。
【請求項3】
運転者の顔の向き、視線の向きの少なくとも一方に基づいて運転者の注目方向を検出する運転者注目方向検出手段と、
自車進行路を推定する自車進行路推定手段とを備え、
前記操舵制御手段は、前記注目方向の前記自車進行路からのずれ量に応じて前記操舵トルクを増加させること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車線逸脱防止装置。
【請求項4】
前記操舵制御手段による前記操舵トルクはパルス状であること
を特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の車線逸脱防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−100120(P2010−100120A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−271987(P2008−271987)
【出願日】平成20年10月22日(2008.10.22)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】